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明細書 :荷電粒子放出装置およびイオンエンジン

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4925132号 (P4925132)
公開番号 特開2009-085206 (P2009-085206A)
登録日 平成24年2月17日(2012.2.17)
発行日 平成24年4月25日(2012.4.25)
公開日 平成21年4月23日(2009.4.23)
発明の名称または考案の名称 荷電粒子放出装置およびイオンエンジン
国際特許分類 F03H   1/00        (2006.01)
H05H   1/46        (2006.01)
H05H   1/54        (2006.01)
H01J  37/317       (2006.01)
FI F03H 1/00 A
H05H 1/46 L
H05H 1/54
H01J 37/317 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 21
出願番号 特願2008-012224 (P2008-012224)
出願日 平成20年1月23日(2008.1.23)
優先権出願番号 2007237967
優先日 平成19年9月13日(2007.9.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年10月26日(2010.10.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
発明者または考案者 【氏名】竹ヶ原 春貴
【氏名】栗木 恭一
【氏名】青柳 潤一郎
【氏名】畠山 智行
【氏名】渡邊 裕樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100137752、【弁理士】、【氏名又は名称】亀井 岳行
審査官 【審査官】北村 亮
参考文献・文献 特開2007-242368(JP,A)
特開平4-79141(JP,A)
特開2005-251658(JP,A)
特開2000-161201(JP,A)
特開2001-248541(JP,A)
特開平11-82286(JP,A)
特開2003-301768(JP,A)
米国特許第5198718(US,A)
特開昭53-15797(JP,A)
特開昭63-248978(JP,A)
米国特許出願公開第2004/0139916(US,A1)
米国特許第4104875(US,A)
米国特許第4838021(US,A)
米国特許第3173248(US,A)
特開平7-169428(JP,A)
特開平2-109236(JP,A)
米国特許第5107170(US,A)
米国特許出願公開第2006/0075739(US,A1)
調査した分野 F03H 1/00
H01J 37/317
H05H 1/46
H05H 1/54
特許請求の範囲 【請求項1】
内部に形成されたプラズマ生成空間と、プラズマ生成空間で発生した荷電粒子を外部に放出する放出口と、を有するチェンバーと、
前記チェンバーの外周に配置され、通電時に、前記プラズマ生成空間にプラズマ生成用の誘導磁界を発生させる誘導磁界発生コイルと、
前記誘導磁界発生コイルに高周波電流を供給する高周波電源装置と、
前記チェンバー内部に、プラズマ発生用のガスを供給するガス供給源と、
前記チェンバー内部に対向して配置された一対の放電端部を有し、前記プラズマ生成空間内に配置されて、前記誘導磁界による電磁誘導で誘導電流が流れて、前記放電端部間で放電を発生させることでプラズマ生成用の電子を供給する放電電極と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子放出装置。
【請求項2】
前記チェンバー内部に配置され、前記プラズマ生成空間で発生したイオンが接触して吸収するイオンコレクタと、
荷電粒子としての電子を放出する前記放出口と、
前記イオンコレクタと一体形成された前記放電電極と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子放出装置。
【請求項3】
円筒状の前記チェンバーと、
前記円筒状のチェンバーの内周面に沿って配置され、前記円筒の軸方向から見た場合にC字形状の前記放電電極と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の荷電粒子放出装置。
【請求項4】
荷電粒子としての前記電子を放出する電子放出装置としての請求項1ないし3のいずれかに記載の荷電粒子放出装置。
【請求項5】
前記荷電粒子としてのイオン化されたガスを放出する請求項1に記載の荷電粒子放出装置により構成されたイオン放出装置と、
前記荷電粒子としての電子を放出し、前記イオン放出装置から放出されたイオン化されたガスを電気的に中和する請求項1ないし4のいずれかに記載の荷電粒子放出装置により構成された中和器と、
を備えたことを特徴とするイオンエンジン。
【請求項6】
気体状の推進剤が導入される推進剤導入部と、導入された推進剤のプラズマを生成する推進剤プラズマ生成空間と、前記推進剤プラズマ生成空間を囲む磁性材料により構成された陽極壁と、前記陽極壁に形成され且つ前記推進剤プラズマ生成空間で発生したイオン化されたガスを外部に放出するイオン放出口と、前記陽極壁に支持され且つ前記推進剤プラズマ生成空間内にプラズマを閉じこめるための磁場を発生させる磁界発生部材と、を有する陽極部と、
前記陽極部内の前記推進剤プラズマ生成空間内に、荷電粒子としてのプラズマ生成用の電子を供給する請求項1ないし4のいずれかに記載の荷電粒子放出装置により構成された陰極部と、
を備えたことを特徴とするイオンエンジン。
【請求項7】
前記荷電粒子としての電子を放出し、前記イオン放出口から放出されるイオン化されたガスを電気的に中和する請求項1ないし4のいずれかに記載の荷電粒子放出装置により構成された中和器、
を備えたことを特徴とする請求項6に記載のイオンエンジン。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化された推進剤や電子のような荷電粒子を放出する荷電粒子放出装置および前記荷電粒子放出装置を使用したイオンエンジンに関し、特に、高周波電圧による電磁誘導を利用してプラズマを発生させることにより荷電粒子を発生させて放出する荷電粒子放出装置およびイオンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間において、宇宙船や宇宙構造物には、推進や姿勢制御、軌道の制御等を行うために、推進器が搭載されている。前記推進器として、燃焼等の化学反応を利用して推力を得るもの(いわゆる化学推進ロケット)の他に、プラズマによりイオン化された推進剤を放出することで推力を得るイオンエンジンが知られている。
前記イオンエンジンは、推進剤としてのXe(キセノン)やAr(アルゴン)をプラズマ中に供給して電離させ、イオン化し、グリッド電極で所定の方向にイオン流として放出することで、イオンが得た運動量の逆向きの力が反作用として宇宙船等に作用することで推力を得ている。前記イオンエンジンでは、イオン化された推進剤を放出するだけでは、宇宙船が帯電して推力が得られなくなるため、中和器により、イオン流を電気的に中和している。
前記イオンエンジンにおいて、プラズマを生成するための技術として、下記の特許文献記載の技術が知られている。
【0003】
特許文献1(特開2000-161201号公報)には、熱電子放出が容易な材料製の陰極等で構成されるカソードインサート(13)とヒータ(21)とを有するホローカソード(9)を備えたイオンエンジンにおいて、グロー放電や熱電子放出により電子を放出させて、推進剤としてのXeガスを電離させ、発生した電離プラズマから新たな二次電子を引き出すことで、電離プラズマを生成、維持する技術が記載されている。
同様の技術は、特許文献2(特開2001-248541号公報)や特許文献3(特開平11-82286号公報)にも記載されている。
【0004】
特許文献4(特開2003-301768号公報)や特許文献5(米国特許第5198718号明細書)には、イオンエンジンの中和器(ニュートラライザー)のような電子源において、チェンバーを巻くように配置されたコイルに高周波(RF:Radio Frequency)電流を流して、高周波の交番磁界を発生させ、交番磁界によって、プラズマを維持するRF式イオンエンジンが記載されている。なお、特許文献4では、プラズマを発生(点火)させるための一次電子を得るための方法として、電極間に電源装置を接続して、高周波電界を印加して容量性高周波放電(冷アーク放電)により、電子を発生させている。なお、現在実用化されているRF式のイオンエンジンでは、電子を発生させるために、前記特許文献1~3記載の技術と同様に、ホローカソードを使用している。
非特許文献1には、放電室内に2.45GHz程度以上のマイクロ波を導入することで、生成プラズマ中をマイクロ波が伝搬し、電子を共鳴的に加速してガスをイオン化し、イオンを放出するマイクロ波放電式のイオンエンジンが記載されている。
【0005】

【特許文献1】特開2000-161201号公報(段落番号「0010」~「0011」)
【特許文献2】特開2001-248541号公報(段落番号「0015」)
【特許文献3】特開平11-82286号公報(段落番号「0020」)
【特許文献4】特開2003-301768号公報(段落番号「0007」、「0011」)
【特許文献5】米国特許第5198718号明細書(第10ページ第5行~第15行)
【非特許文献1】國中均、“「はやぶさ」小惑星探査機に搭載されたマイクロ波放電式イオンエンジン”、[online]、2006年、社団法人プラズマ・核融合学会、「平成19年8月27日検索」、インターネット<URL:www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2006_05/jspf2006_05-300.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記ホローカソードを使用する従来のイオンエンジンでは、プラズマを安定して生成することができ、大きな出力が得られるが、Ba(バリウム)やSr(ストロンチウム)等が使用されることが多いホローカソードが酸化、劣化しやすい問題がある。すなわち、例え推進剤が十分に残っていたとしても、ホローカソードが劣化して寿命になると、装置全体が寿命になるという問題がある。また、ホローカソードが酸化し易いため、宇宙空間に運ぶ前の地上において、酸化を防止するために、窒素ガスでパージされた空間で保管する必要があり、管理が面倒であるという問題がある。さらに、ホローカソードを宇宙空間で使用しようとする場合、宇宙空間において使用開始前に、ある程度の期間(例えば、1ヶ月くらい)吸蔵したガスを放出させる作業も必要になるという問題がある。
【0007】
マイクロ波放電式のイオンエンジンでは、無電極で構成することができ、ホローカソードを使用する場合に比べて寿命が飛躍的に長くなるが、放出される荷電粒子の数が少ないという問題がある。例えば、中和器で比較した場合、中和器から放出(出力)される電子が、ホローカソードの場合は、10A程度であるのに対し、マイクロ波放電式のイオンエンジンでは10mAオーダで、多くても100mA程度であるという問題がある。
RF式のイオンエンジンでは、マイクロ波放電式の場合と同様に、発生したプラズマを維持する構成としては無電極で構成することができるが、プラズマを生成するための一次電子を得るためにホローカソードを使用する場合、ホローカソードの寿命や管理の複雑さ等の問題が発生する。また、容量性高周波放電を採用する場合、アーク放電のための電極を配置したり、放電のための電源装置が必要となり、部品点数が多くなり、故障が発生しやすくなったり、構成の複雑化、コスト高になる問題がある。
【0008】
本発明は、前述の事情に鑑み、高性能で、安定してプラズマを発生させ且つ長寿命の荷電粒子放出装置を提供することを第1の技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の発明の荷電粒子放出装置は、
内部に形成されたプラズマ生成空間と、プラズマ生成空間で発生した荷電粒子を外部に放出する放出口と、を有するチェンバーと、
前記チェンバーの外周に配置され、通電時に、前記プラズマ生成空間にプラズマ生成用の誘導磁界を発生させる誘導磁界発生コイルと、
前記誘導磁界発生コイルに高周波電流を供給する高周波電源装置と、
前記チェンバー内部に、プラズマ発生用のガスを供給するガス供給源と、
前記チェンバー内部に対向して配置された一対の放電端部を有し、前記プラズマ生成空間内に配置されて、前記誘導磁界による電磁誘導で誘導電流が流れて、前記放電端部間で放電を発生させることでプラズマ生成用の電子を供給する放電電極と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の荷電粒子放出装置において、
前記チェンバー内部に配置され、前記プラズマ生成空間で発生したイオンが接触して吸収するイオンコレクタと、
荷電粒子としての電子を放出する前記放出口と、
前記イオンコレクタと一体形成された前記放電電極と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の荷電粒子放出装置において、
円筒状の前記チェンバーと、
前記円筒状のチェンバーの内周面に沿って配置され、前記円筒の軸方向から見た場合にC字形状の前記放電電極と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の荷電粒子放出装置において、
荷電粒子としての前記電子を放出する電子放出装置とすることを特徴とする。
【0013】
前記技術的課題を解決するために、請求項5に記載の発明のイオンエンジンは、
前記荷電粒子としてのイオン化されたガスを放出する請求項1に記載の荷電粒子放出装置により構成されたイオン放出装置と、
前記荷電粒子としての電子を放出し、前記イオン放出装置から放出されたイオン化されたガスを電気的に中和する請求項1ないし4のいずれかに記載の荷電粒子放出装置により構成された中和器と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
前記技術的課題を解決するために、請求項6に記載の発明のイオンエンジンは、
気体状の推進剤が導入される推進剤導入部と、導入された推進剤のプラズマを生成する推進剤プラズマ生成空間と、前記推進剤プラズマ生成空間を囲む磁性材料により構成された陽極壁と、前記陽極壁に形成され且つ前記推進剤プラズマ生成空間で発生したイオン化されたガスを外部に放出するイオン放出口と、前記陽極壁に支持され且つ前記推進剤プラズマ生成空間内にプラズマを閉じこめるための磁場を発生させる磁界発生部材と、を有する陽極部と、
前記陽極部内の前記推進剤プラズマ生成空間内に、荷電粒子としてのプラズマ生成用の電子を供給する請求項1ないし4のいずれかに記載の荷電粒子放出装置により構成された陰極部と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のイオンエンジンにおいて、
前記荷電粒子としての電子を放出し、前記イオン放出口から放出されるイオン化されたガスを電気的に中和する請求項1ないし4のいずれかに記載の荷電粒子放出装置により構成された中和器、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、電磁誘導により放電を発生させる放電電極を設けることで、安定してプラズマを発生させることができ、加熱が必要で寿命の短いホローカソードを使用する場合に比べて長寿命化することができる。また、マイクロ波放電式の場合に比べて、高性能化することができる。
請求項2に記載の発明によれば、放電電極がイオンコレクタと一体化されているので、部品点数を少なくすることができ、低コスト化、小型化することができる。
請求項3に記載の発明によれば、C字形状の放電電極により、電磁誘導で誘導電流が流れ、放電端部で放電することができ、放電用の電源装置等を設ける従来の場合に比べて、シンプルな構成とすることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、電子を放出する電子放出器により、イオンエンジンの中和器としたり、閉じた電気回路を構成したりすることができる。
請求項5に記載の発明によれば、電磁誘導により放電を発生させる放電電極を設けることで、安定してプラズマが発生するイオンエンジンを提供でき、加熱が必要で寿命の短いホローカソードを使用する場合に比べて、イオンエンジンを長寿命化することができる。また、マイクロ波放電式の場合に比べて、高性能化されたイオンエンジンを実現することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、推進剤プラズマ生成空間内にプラズマを閉じこめるための磁場が発生するため、効率的且つ一様なプラズマを安定して発生させるイオンエンジンを提供できると共に、加熱が必要で寿命の短いホローカソードを使用する場合に比べて、イオンエンジンを長寿命化することができる。また、マイクロ波放電式の場合に比べて、高性能化されたイオンエンジンを実現することができる。
請求項7に記載の発明によれば、中和器にホローカソードを使用する場合に比べて、イオンエンジン全体として長寿命化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明の実施例1のイオン推進システムの全体説明図である。
図1において、本発明の実施例1の宇宙推進システムの一例としてのイオン推進システムSでは、宇宙空間に配置された宇宙構造物の一例としての人工衛星1を有する。人工衛星1は、太陽電池パネル2を支持する人工衛星本体3を有する。前記人工衛星本体3には、イオンエンジン4が設けられている。
【0021】
図2は本発明の実施例1のイオンエンジンの要部説明図であり、図2Aは全体説明図、図2Bは図2AのIIB部分の拡大説明図である。
図2Aにおいて、前記イオンエンジン4は、エンジン部(イオン放出装置、荷電粒子放出装置)4aと、中和器(電子放出装置、荷電粒子放出装置)4bとを有する。エンジン部4aは、推進剤の一例としてのキセノンが収容された推進用キセノンタンク(ガス供給源)11と、キセノンタンク11に接続された推進用チェンバー12とを有する。実施例1の推進用チェンバー12は、円筒状の絶縁材料(例えば、ガラスやアルミナ等)により構成されており、内部にプラズマ生成空間12aが形成されている。前記推進用チェンバー12は、一端側にはキセノンタンク11からキセノンが供給される供給路12bが形成され、他端側には荷電粒子の一例としてのイオンが放出される放出口12cが形成されている。
前記放出口12cには、網状(グリッド状)の電極により構成されたスクリーン電極13が配置されており、スクリーン電極13の外側には、グリッド状の電極により構成された加速電極14が配置されている。実施例1では、前記スクリーン電極13には、スクリーン電源装置13aにより+1000V程度の高電圧(スクリーン電圧)が印加されている。前記加速電極14には、加速電源装置14aにより-500V程度の高電圧(加速電圧)が印加されている。
前記推進用チェンバー12の外周には、推進用チェンバー12に巻付くように配置された誘導磁界発生コイル16が配置されており、前記誘導磁界発生コイル16には推進用高周波電源装置17により、高周波(RF)の交流電流が供給される。
【0022】
図3は本発明の実施例1の中和器の要部説明図であり、図3Aは全体説明図、図3Bは図3AのIIIB-IIIB線端面図、図3Cは放電電極の展開説明図である。
図2、図3において、前記中和器4bは、プラズマ発生剤の一例としてのキセノンが収容された中和用キセノンタンク(ガス供給源)21と、前記中和用キセノンタンク21に接続された中和用チェンバー22とを有する。実施例1の中和用チェンバー22は、円筒状の絶縁材料(例えば、ガラスやアルミナ等)により構成されており、内部に中和用のプラズマ生成空間22aが形成されている。前記中和用チェンバー22は、一端側には中和用キセノンタンク21からキセノンが供給される供給路22bが形成されている。
前記中和用チェンバー22の他端側には、中央部に小径の電子放出口23aが形成されたオリフィス板23が支持されている。実施例1のオリフィス板23は、mica(雲母)により構成されている。
【0023】
図2、図3A、図3Bにおいて、前記中和用チェンバー22の内部には、断面円形の中和用チェンバー22の内壁面に沿うように、C字形状の放電電極24(図3B参照)が支持されている。図3B、図3Cにおいて、実施例1の放電電極24は、板状のSUS(Stainless Used Steel)をC字形に湾曲させて構成されており、板状の放電電極24の両端に形成された尖端部(放電端部)24a、24bが、C字形に湾曲された状態で対向して配置されている。図2において、実施例1の放電電極24は、プラズマ生成空間22aで発生したイオンを吸収するためのイオンコレクタを兼ねている。なお、前記放電電極24は、基準電位(地上でのアースに相当)として、衛星1の機体に接続されており、前記スクリーン電源装置13aおよび加速電源装置14aも、基準電位としての衛星1の機体に電気的に接続されている。このように衛星1の機体に接続することにより、イオンエンジン4全体の電位や内部のプラズマの電位ができる限りふらつかないようにすることができる。
前記中和用チェンバー22の外周には、中和用チェンバー22に巻付くように配置された誘導磁界発生コイル26が配置されており、前記誘導磁界発生コイル26には中和用高周波電源装置27により、高周波(RF)の交流電流が供給される。
【0024】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のイオン推進システムSでは、推進を行う場合、キセノンタンク11,21からキセノンが供給された状態で、高周波電源装置17,27に高周波電流が供給される。前記高周波電源装置17,27からの電流供給に伴って、電磁誘導により、チェンバー12,22内に高周波の交番磁界が発生する。
図3において、中和器4bでは、高周波の交番磁界による電磁誘導により、放電電極24に誘導電流(いわゆる渦電流)が流れる。前記誘導電流により、放電電極24の尖端部24a,24b間には、電位差が発生し、放電が発生する。放電により供給された電子により、チェンバー22のキセノンが励起/電離され、プラズマ状態となり、キセノンイオン(荷電粒子)と二次電子(荷電粒子)とが発生する(Xe+e→Xe+2e)。発生したイオンや電子は高周波の交番磁界によりチェンバー22内で加速されて、連鎖的に衝突を繰り返し、雪崩的に二次電子を発生させ、プラズマが維持される。中和器4bでは、チェンバー22内で発生したイオンがイオンコレクタとしての放電電極24に吸収されると共に、電子が電子放出口23aから放出される。
【0025】
放出された電子は、その一部がエンジン部4aのチェンバー12に導入されるように構成されており、導入された電子によりチェンバー12内でもプラズマが発生し、交番磁界により維持される。チェンバー12内で発生したキセノンイオンや電子は、スクリーン電極13に印加されたスクリーン電圧より、電子は回収されて流れ、イオンは通過する。スクリーン電極13を通過したイオンは、加速電極14の加速電極により加速されて、高速のイオン流となってエンジン部4aから放出される(引き出される)。前記イオン流には、引き出されたイオンの量と同等の電子が、イオンの正電荷が作る電界に引張られて自動的に中和器4bから供給されることで電気的に中和される。電気的に中和されたイオン/電子流は、外部に放出され、人工衛星1は推力を得る。
【0026】
(第1実験例)
(実験例1)
図4は本発明の実施例1のイオン推進システムにおける実験例1の実験条件の説明図である。
次に、実施例1のイオン推進システムSにおける効果を検証するために実験を行った。
図4において、実験例1では、中和器4bの放電電極24の尖端部24a,24bの両端に発生する電圧(電位差)を測定するために、尖端部24aの近傍に1MΩの第1抵抗31の一端側を直列に接続し、尖端部24bに1kΩの第2抵抗32の一端側を直列に接続した。そして、前記第1抵抗31の他端側と第2抵抗32の他端側とを直列に接続し、第2抵抗32の両端部に電圧計33を並列に接続した。
この状態で、前記中和用高周波電源装置27に周波数13.56MHzの高周波電流を印加した時に電圧計33で計測される周波数成分を測定した。実験結果を図5に示す。
【0027】
図5は実験例1の実験結果の説明図であり、横軸に周波数成分をとり、縦軸に振幅を取ったグラフである。
図5において、電圧計33では、入力電流の周波数13.56MHzと同様の約13.7MHzに周波数成分のピークを有する電圧が測定され、中和用高周波電源装置27により入力された電圧による電磁誘導で発生した電流が流れることが確認された。
【0028】
(実験例2)
図6は実験例で使用した放電電極の説明図であり、図6Aは電極形状の第1例の説明図、図6Bは電極形状の第2例の説明図、図6Cは電極形状の第3例の説明図である。
実験例2では、実験例1と同様の構成を使用して、高周波電源装置27による入力電力を変化させた場合に、出力電圧がどのように変化するかを検証した。なお、実験例2では、実施例1と異なり、図6Aに示すように、平行に配置された複数の帯状のイオンコレクタ部41と、前記イオンコレクタ部41に直交する方向に延びてイオンコレクタ部41どうしを一体的に連結する放電電流誘導部42とを有する放電電極40を使用し、放電電流誘導部42の両端部に尖端部42a,42bが形成されている。
入力電力を10W、20W、30W、40Wとした時の電圧計33で計測された電圧を図7に示す。
【0029】
図7は実験例2の実験結果の説明図であり、横軸に時間をとり、縦軸に電極の尖端部間の電圧(相対値)をとったグラフである。
図7において、実験例2では、入力電圧を大きくすると、尖端部42a,42b間に発生する電圧が大きくなっていくことがわかった。すなわち、入力電圧の制御により、尖端部42a,42bに発生する電圧を制御でき、放電を制御できる。
【0030】
(実験例3)
実験例3では、実験例1と同様の構成を使用して、電極形状を変化させた場合に、発生する出力電圧がどのように変化するかを検証した。実験例3-1では、実験例2と同一形状の電極40を使用した。
実験例3-2では、実施例1と同一形状で且つ電極の幅が40mmの電極24を使用した。
実験例3-3では、図6Cに示すように、平板状のイオンコレクタ部46と、イオンコレクタ部46の一端側および他端側から外方に突出する尖端部47a,47bとを有する電極45を使用した。なお、実験例3-1および3-3では、実験例3-2の電極の幅に対応する幅は、共に40mmに設定されている。
実験例3-4では、実験例3-2において幅を10mmにしたものを使用し、実験例3-5では実験例3-2において幅を16mmにしたものを使用した。
入力電力を20Wとした場合の実験結果を図8に示す。
【0031】
図8は実験例3の実験結果の説明図であり,横軸に時間をとり、縦軸に電極の尖端部間の電圧(相対値)をとったグラフである。
図8において、実験例3では、形状により放電電圧が変化することが確認され、実験例3-3の形状の場合が最も放電電圧が大きくなることが確認された。
【0032】
(実験例4)
実験例4では、放電電極によるプラズマの生成性能(点火性能)について検証を行った。実験は、実験例3で最も結果の良かった実験例3-3の形状のものを使用し、尖端部47a,47bの間の間隔を1.0mmとし、電子放出口23aを半径1.0mmの丸孔形状とした。そして、入力電力を10W、15W、20W、25W、30W、40W、60Wとし、各入力電力において、キセノンガスの流量を0.1sccm(Standard CC/Min:Standard Cubic Centimeter per Minute)刻みであげていき、点火(放電)が発生したときの流量を測定した。なお、実験例4では、各入力電力における実験を3回ずつ行った。
実験結果を図9に示す。
【0033】
図9は実験例4の実験結果の説明図であり、横軸にガスの流量をとり、縦軸に入力電力を取ったグラフである。
図9において、30W~60Wでは、ガスの流量が1.0sccm程度で点火し、20Wでは1.5sccm程度で点火することがわかった。そして、15Wでは2.0~2.5sccm、10Wでは3.5sccm程度であり、入力電力が小さいと点火性能が悪く、ある程度の入力電力(20W以上)になると点火性能が変化しない(安定する)ことがわかった。
【0034】
(実験例5)
図10は実験例5の実験条件の説明図である。
実験例5では、放出される電子の量、すなわち、中和器の定常性能を検証する実験を行った。図10において、実験例5では、実験例4の構成の中和器を使用して、中和器4bの電子放出口23aに対向する位置に50mmの間隔をあけて平板状のターゲット電極51を配置した。前記ターゲット電極51には、電子を電気的に吸引するために直流電源52により直流の引き出し電圧が印加されており、電流計53によりターゲット電極51に流れるターゲット電流Iを測定する。また、前記イオンコレクタには、電流計54が接続されており、イオンコレクタ電流II/Cを測定する。なお、実験例5は、真空環境下で行った。
前記実験装置において、入力電力を10W、20W、40W、80Wとし、引き出し電圧を20V、40V、60V、80V、100Vとして、実験を行った。実験結果を図11に示す。
【0035】
図11は実験例5の実験結果の説明図であり、横軸にターゲット電極の引き出し電圧をとり、縦軸に電流値を取ったグラフである。
図11において、引き出し電圧を上昇させることで、放出され、引き出し電圧に吸引される電子の量に比例するターゲット電流Iが上昇すると共に、放出された電子の総電荷量に相当する電荷のイオンが回収されることに連動するイオンコレクタ電流II/Cも同様に上昇することがわかる。また、図11において、入力電圧が20Vから40Vに変化すると、ターゲット電流Iが著しく上昇し、抽出された電子による電流が急激に増大する遷移点が存在すること(言い換えると、大電流モードと小電流モードが存在するということ)、および引き出し電圧増加時と減少時でヒステリシスが存在することが確認された。なお、このヒステリシスの原因は現時点では不明であるが、ヒステリシス内の面積は電圧×電流で電力(エネルギ)に対応するため、引き出し電圧の増加/減少に伴う電子電流の持つエネルギが関係しているのではないかと推測される。
【0036】
(実験例6)
実験例6は、実験例5と同様の構成を使用して、放出される電子の量について検証する実験を行った。実験例6では、引き出し電圧を40Vに固定し、入力電力を実験例5と同様に変化させた。そして、使用するキセノンガスの流量を0.3sccm、0.5sccm、1sccm、2sccm、3sccmとし、放出される電子の量に対応するターゲット電流Iを測定した。
実験結果を図12に示す。
【0037】
図12は実験例6の実験結果の説明図であり、横軸に入力電力をとり、縦軸にターゲット電流を取ったグラフである。
図12において、入力電力が大きくなるにつれてターゲット電流Iが大きくなると共に、流量が多くなるにつれてターゲット電流が大きくなることが確認された。特に、2sccmや3sccmでは、1000mAを越える電流も検出されており、エンジン部4aから放出されるイオン流を中和する性能が高いことがわかる。すなわち、全体としての推力を大きくすることができる。
【0038】
したがって、前記構成を備えた実施例1のイオン推進システムSでは、寿命の短いホローカソードのような部材を使用せず、無電極でプラズマの発生および維持ができ、キセノンガスが無くなるまでイオン推進可能とすることができる。また、10mA~100mA程度のターゲット電流しか得られなかった従来のマイクロ波放電式のイオンエンジンに比べて、大きなターゲット電流すなわち、電子を放出することができ、高推力、高性能のイオンエンジンを実現することができる。さらに、電磁誘導により放電する放電電極を設けるというシンプルな構成で放電を発生させることができるため、放電のためのホローカソードや別個の電源を設ける必要が無く、管理が容易で、故障が少ないイオンエンジンを提供することができる。すなわち、従来実現されていなかった、すべてがRF型のイオンエンジンを実現することができる。さらに、放電電極をイオンコレクタと兼用、一体化、共通化することができ、部品点数を減らすことができ、コストや重量増加も防止すれることができる。
【実施例2】
【0039】
図13は実施例2の宇宙推進システムの説明図である。
次に、本発明の実施例2の説明を行うが、実施例1と同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。本発明の実施例2は、以下の点で実施例1と相違するが、その他の点では同様に構成されている。
図13において、本発明の実施例2の宇宙推進システムの一例としてのテザー推進システムS′では、宇宙構造物としての人工衛星61を有する。前記人工衛星61は、人工衛星本体62と人工衛星本体に支持された太陽電池パネル63とを有する。前記人工衛星本体62には、実施例1の中和器4bと同様に構成され、電子を電子放出口64から放出する図示しない電子放出装置が内蔵されている。
前記人工衛星本体62の下方には、宇宙空間の電子を吸収可能なコレクタ電極66が配置されており、前記コレクタ電極66は導電性のテザー67により人工衛星本体62に機械的且つ電気的に接続されている。
【0040】
(実施例2の作用)
前記構成を備えた実施例2のテザー推進システムS′では、人工衛星61において、コレクタ電極66で宇宙空間の電子を吸収し、テザー67を電流が流れて、電子放出装置により電子放出口64から宇宙空間へ電子が放出されることにより、全体として閉じた電気回路が構成される。したがって、地球の地磁気を横切る様に移動する人工衛星61では、地磁気(磁界)と、テザー67に流れる電流とにより、人工衛星61には力(電磁力、ローレンツ力)が作用し、推進力が得られ、軌道の変更等が可能となる。
【実施例3】
【0041】
図14は実施例3のイオンエンジンの説明図である。
次に、本発明の実施例3の説明を行うが、実施例1と同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。本発明の実施例3は、以下の点で実施例1と相違するが、その他の点では同様に構成されている。
図14において、本発明の実施例3の宇宙推進システムの一例としてのイオン推進システムSでは、人工衛星1で使用されるイオンエンジン4′は、実施例1のRF型のエンジン部4aに替えて、カスプ磁場型のエンジン部4a′を有する。実施例3のエンジン部4a′は、陽極部の一例としての推進チェンバー71と、推進チェンバー71の後端部に支持された陰極部の一例としてのプラズマ発生用電子源72とを有する。
【0042】
なお、実施例3では、前記陰極部72は、実施例1の中和器4bと同様に、荷電粒子の一例としての電子を発生させる荷電粒子放出装置の一例としての電子放出装置により構成されている。なお、実施例3の陰極部72には、ガス供給源の一例としてのキセノンタンク73からキセノンが供給され、高周波電源装置27′により発生する誘導電界により放電電極24′で放電が発生し、キセノンがプラズマ化されて、発生した電子が推進チェンバー71に放出される。
【0043】
前記推進チェンバー71は、円筒状の円筒壁71aと、前記円筒壁71aの後部に一体的に形成された円板状の後端壁71bと、前記円筒壁71aの前側に形成されたイオン放出口71cとを有する。前記後端壁71bには、前記陰極部72からの電子が導入される電子導入口71dと、前記電子導入口71dの近傍に形成されて、キセノンタンク73から推進剤としてのXeガスが導入される推進剤導入口71eと、が形成されている。
前記イオン放出口71cには、実施例1と同様に、網目状のスクリーン電極74および加速電極76とからなる電極部材74+76が配置されており、各電極74、76には、それぞれスクリーン電源装置13aおよび加速電源装置14aにより電圧が印加されている。
前記円筒壁71a、後端壁71bおよび電極部材74+76により囲まれた円筒状の空間により、推進剤プラズマ生成空間77が構成されている。
【0044】
実施例3では、前記円筒壁71aおよび後端壁71bにより、陽極壁71a+71bが構成されており、前記陽極壁71a+71bは、例えば鉄(Fe)のような磁性材料により構成されている。
前記陽極壁71a+71bの内壁には、磁場発生部材の一例としての永久磁石78が複数配置されていると共に、前記永久磁石78は隣り合う永久磁石78の磁極とは逆極性の磁極になるように配置されている。したがって、前記複数の永久磁石78により、図14に二点鎖線で示すように従来公知のカスプ型の磁場が推進剤プラズマ生成空間77内部に形成される。
図14において、前記陽極壁71a+71bと、陰極部72の放電電極24′との間には、放電電源81が電気的に接続されている。
【0045】
(実施例3の作用)
前記構成を備えた実施例3のイオンエンジン4′では、エンジン部4a′の内部にカスプ型の磁場が形成され、推進剤プラズマ生成空間77に、陰極部72からの電子と、推進剤導入口71eからのキセノンとが供給される。前記陰極部72からの電子は、カスプ磁場により電磁力(ローレンツ力)を受けて、陽極壁71a+71bに近づくことが困難となり、推進剤プラズマ生成空間77の内部に閉じこめられると共に、推進剤プラズマ生成空間77の広い領域に一様に存在する。したがって、推進剤プラズマ生成空間77で、電子とキセノンが効率的に衝突し、プラズマを効率的且つ一様に安定して発生させることができる。
【0046】
(実験例7)
図15は実験例7の実験結果の説明図である。
図15において、実施例3のイオンエンジン4′と、陽極部は実施例3と同様のカスプ型磁場の陽極部を使用し且つ陰極部(電子源)として従来公知のホローカソードを使用した比較例との性能の比較を行った。
実験条件は、放電電源81の放電電圧(Discharge Voltage)を共に32.0[V]、スクリーン電極74のスクリーン電圧(Screen Voltage)を共に1000[V]、加速電極76の加速電圧(Accel Voltage)を共に-500[V]とした。また、放電電流(Discharge Current)を実施例3のイオンエンジンでは2.2[A]、ホローカソードの場合は5.7[A]とした。さらに、Mmpf:Mmcを共に、6.0[sccm]:2.0[sccm]とした。なお、Mmpfは、Main Propellant Feed Mass Flow Rate:主推進剤供給流量率であり、陽極部に供給される推進剤の単位時間当りの流量である。また、Mmcは、Main Cathode Mass Flow Rate:主陰極供給流量率であり、陰極部に供給される電子発生用のプラズマを生成するためのキセノンの単位時間当りの流量である。
【0047】
図15において、前記実験条件で実験を行って、イオンエンジン4′から外部に放出されたイオンビームの電流値(Beam Current)は、実施例3では253[mA]であり、比較例では397[mA]であった。
また、推力(Thrust)は、実施例3では13.2[mN]であり、比較例では20.8[mN]であった。
さらに、比推力(Specific impulse)は、実施例3では1720[s]であり、比較例では2703[s]であった。
【0048】
また、推進剤使用効率(Propellant utilization efficiency)は、実施例3では44.0[%]であり、比較例では69.1[%]であった。
さらに、イオン生成コスト(Ion production cost)は、実施例3では732[W/A]であり、比較例では465[W/A]であった。
また、総電力消費(Total power consumption)は、実施例3では0.44[kW]であり、比較例では0.59[kW]であった。
さらに、推力対電力比(Thrust to power ratio)は、実施例3では29.9[mN/kW]であり、比較例では35.3[mN/kW]であった。
【0049】
よって、実験例7より、実施例3に記載のイオンエンジン4′は、従来使用されているホローカソードを使用した場合に比べて、性能で若干及ばないところがあるが、各数値はマイクロ波式の場合のように10倍以上(1オーダー以上)異なるといった差はなく、同オーダー程度の性能があることが確認された。すなわち、現時点でも使用するのに十分な推力が得られ、従来のホローカソードのものに対して代替使用可能であることが確認された。特に、実施例3のイオンエンジン4′は、ホローカソードのものに比べて寿命や取り扱いやすさの面においては大きなメリットがあり、実施例3のイオンエンジン4′の性能を最適化することで、ホローカソードを使用したイオンエンジンの性能と同等以上とすることができる可能性も確認された。
【0050】
図16はイオンエンジンのエンジン部の等価回路の説明図であり、図16Aは実験例7の比較例の等価回路の説明図、図16Bは実施例3のエンジン部の等価回路の説明図である。
図16Aにおいて、比較例のホローカソードを使用するイオンエンジンでは、必要な電源は、スクリーン電源装置13a、加速電源装置13b、陽極壁への電圧印加用の電源01、ホローカソードHCの熱電子放出用のヒータ加熱用電源02、ホローカソードHCの放電用陽極電源03、中和器用の電源(中和器がホローカソード型の場合、電源は2個以上)となっている。よって、必要な電源は6個以上となっていた。
これに対して、図16Bにおいて、実施例3のエンジン部4a′では、必要な電源装置が、スクリーン電源装置13a、加速電源装置14a、放電電源装置81、陰極部72の高周波電源装置27′と、中和器4bの中和用高周波電源装置27となっており、構成上、陰極部72の高周波電源装置27′と中和器4bの中和用高周波電源装置27とは共通化できる。すなわち、実施例3の構成では、必要な電源は4個に減らすことができ、構成の簡素化、低コスト化ができる。
【0051】
したがって、実施例3のイオンエンジン4′は、カスプ型の磁場により効率的且つ一様なプラズマを安定して生成することができると共に、ホローカソードを使用しないため、管理が容易で、寿命を長くすることができる。
なお、実施例3のイオンエンジン4′では、高周波電源装置27′による誘導磁場が磁性材料製の陽極壁71a+71bに漏れ、カスプ型の磁場が乱される恐れがあったが、実験の結果、十分な性能が発揮されており、磁場の乱れは少なかったものと推察される。よって、陰極部72と陽極部71との間に、例えば、磁気シールドを配置することで、磁場の漏れを少なくすることが期待でき、イオンエンジン4′の性能が向上することが期待される。
【0052】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H06)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、放電電極に、イオンコレクタとしての機能を兼用する場合を例示したが、これに限定されず、イオンコレクタを別体に構成することも可能である。
【0053】
(H02)前記実施例において、荷電粒子放出器の一例としての電子を放出する中和器を例示したが、これに限定されず、荷電粒子としてのイオンを放出するエンジン部にも適用することも可能である。すなわち、エンジン部のチェンバー内に放電電極を配置して、プラズマを点火する放電を発生させることも可能である。したがって、エンジン部4aのプラズマの点火を行うために中和器4bの電子を使用したが、中和器4bの電子は、電気的な中和のみに使用することも可能である。
(H03)前記実施例において、プラズマ発生用のガスとして、推進剤としてのキセノンを例示したが、これに限定されず、アルゴン等の従来公知の任意のプラズマ発生用のガスを使用可能である。
(H04)前記実施例において、宇宙構造物としての人工衛星を例示したが、このようなイオン推進システムに限定されず、荷電粒子放出器をホールスラスタ(Hall thruster)の電子源に適用可能で、宇宙船や宇宙ステーション等の推進や、姿勢制御、軌道変更、高度変更等に使用できる。また、人工衛星等の宇宙構造物の帯電の緩和や制御用プラズマ源等としても使用できる。
【0054】
(H05)前記実施例3において、磁場発生部材の一例としての永久磁石を例示したが、電磁石を使用することも可能である。また、カスプ型の磁場は、実施例3の図14に例示した磁場に限定されず、従来公知の任意の磁場形状のカスプ型磁場を採用可能である。また、カスプ型の磁場であることが望ましいが、他の磁場、例えば、従来公知の電子衝突型(カウフマン型)の磁場を採用することも可能である。
(H06)前記実施例において、スクリーン電極と加速電極とを有する電極部材を例示したが、この構成に限定されず、加速電極のさらに外側に減速電極(印加電圧は、例えば、アース(0V))を配置することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は本発明の実施例1のイオン推進システムの全体説明図である。
【図2】図2は本発明の実施例1のイオンエンジンの要部説明図であり、図2Aは全体説明図、図2Bは図2AのIIB部分の拡大説明図である。
【図3】図3は本発明の実施例1の中和器の要部説明図であり、図3Aは全体説明図、図3Bは図3AのIIIB-IIIB線端面図、図3Cは放電電極の展開説明図である。
【図4】図4は本発明の実施例1のイオン推進システムにおける実験例1の実験条件の説明図である。
【図5】図5は実験例1の実験結果の説明図であり、横軸に周波数成分をとり、縦軸に振幅を取ったグラフである。
【図6】図6は実験例で使用した放電電極の説明図であり、図6Aは電極形状の第1例の説明図、図6Bは電極形状の第2例の説明図、図6Cは電極形状の第3例の説明図である。
【図7】図7は実験例2の実験結果の説明図であり、横軸に時間をとり、縦軸に電極の尖端部間の電圧(相対値)をとったグラフである。
【図8】図8は実験例3の実験結果の説明図であり,横軸に時間をとり、縦軸に電極の尖端部間の電圧(相対値)をとったグラフである。
【図9】図9は実験例4の実験結果の説明図であり、横軸にガスの流量をとり、縦軸に入力電力を取ったグラフである。
【図10】図10は実験例5の実験条件の説明図である。
【図11】図11は実験例5の実験結果の説明図であり、横軸にターゲット電極の引き出し電圧をとり、縦軸に電流値を取ったグラフである。
【図12】図12は実験例6の実験結果の説明図であり、横軸に入力電力をとり、縦軸にターゲット電流を取ったグラフである。
【図13】図13は実施例2の宇宙推進システムの説明図である。
【図14】図14は実施例3のイオンエンジンの説明図である。
【図15】図15は実験例7の実験結果の説明図である。
【図16】図16はイオンエンジンのエンジン部の等価回路の説明図であり、図16Aは実験例7の比較例の等価回路の説明図、図16Bは実施例3のエンジン部の等価回路の説明図である。
【符号の説明】
【0056】
4a,4a′…イオン放出装置、
4b…荷電粒子放出装置,電子放出装置,中和器、
21,73…ガス供給源、
22,71…チェンバー、
22a,77…プラズマ生成空間、
23a,64,71c…放出口、
24,24′…放電電極,イオンコレクタ、
24a,24b…放電端部、
26…誘導磁界発生コイル、
27,27′…高周波電源装置。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図9】
6
【図10】
7
【図11】
8
【図12】
9
【図13】
10
【図15】
11
【図16】
12
【図1】
13
【図5】
14
【図14】
15