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明細書 :極細ナノファイバーの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5246652号 (P5246652)
公開番号 特開2009-270210 (P2009-270210A)
登録日 平成25年4月19日(2013.4.19)
発行日 平成25年7月24日(2013.7.24)
公開日 平成21年11月19日(2009.11.19)
発明の名称または考案の名称 極細ナノファイバーの製造方法
国際特許分類 D04H   1/728       (2012.01)
D04H   1/4326      (2012.01)
D01F   6/74        (2006.01)
D01D   5/11        (2006.01)
FI D04H 1/728
D04H 1/4326
D01F 6/74 A
D01D 5/11
請求項の数または発明の数 8
全頁数 19
出願番号 特願2008-120163 (P2008-120163)
出願日 平成20年5月2日(2008.5.2)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本化学会第88春季年会(2008) 講演予稿集 CD-ROM、社団法人日本化学会、平成20年3月12日発行
審査請求日 平成23年4月20日(2011.4.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
発明者または考案者 【氏名】川上 浩良
【氏名】福嶋 聡
個別代理人の代理人 【識別番号】100108350、【弁理士】、【氏名又は名称】鐘尾 宏紀
審査官 【審査官】山崎 利直
参考文献・文献 特開2008-000682(JP,A)
特開2008-069478(JP,A)
特開2006-336173(JP,A)
特開2006-283240(JP,A)
特開2006-123360(JP,A)
特開2007-154335(JP,A)
国際公開第2008/108392(WO,A1)
特開2007-056440(JP,A)
調査した分野 D04H1/00-18/04
D01D1/00-13/02
D01F1/00- 6/96
特許請求の範囲 【請求項1】
溶媒に可溶なポリイミドと溶媒とを含む紡糸溶液を用いてエレクトロスピニング法によりナノファイバーを製造する方法において、前記溶媒に可溶なポリイミドがフッ素基を含む含フッ素ポリイミドおよびスルホン酸基を含んだスルホン化ポリイミドから選ばれた少なくとも1種であり、また前記紡糸溶液に塩が含まれ、且つ該塩は前記溶媒に溶解した際の電気伝導度が1μS/cm以上であり、また前記溶媒の電気伝導度は10-8S/cm以上であることを特徴とするナノファイバーを製造する方法。
【請求項2】
溶媒に可溶なポリイミドと溶媒とを含む紡糸溶液を用いてエレクトロスピニング法によりナノファイバーを製造する方法において、前記溶媒に可溶なポリイミドが、下記一般式(I)で表される繰返し単位を含む含フッ素ポリイミドであり、また前記紡糸溶液に塩が含まれることを特徴とするナノファイバーを製造する方法。
【化1】
JP0005246652B2_000016t.gif
(式中、R1は2価の有機基を表し、nは1以上の整数である。)
【請求項3】
前記R1が下記一般式(II)で表わされる基であることを特徴とする請求項に記載のナノファイバーを製造する方法。
【化2】
JP0005246652B2_000017t.gif
(式中、R2、R3、R5およびR6は、各々独立して、置換されていてもよいフェニレン基を表し、R4は—C(CF32—または—SO2—基を表し、sおよびtは0または1である。)
【請求項4】
前記塩が、下記一般式(III)で表される有機第4級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のナノファイバーを製造する方法。
【化3】
JP0005246652B2_000018t.gif
(式中、R11~R14は、各々独立に、置換されていてもよいアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
【請求項5】
前記有機第4級アンモニウム塩の紡糸溶液中での含有量が3重量%以下であることを特徴とする請求項に記載のナノファイバーを製造する方法。
【請求項6】
前記有機第4級アンモニウム塩の紡糸溶液中での含有量が0.05~0.5重量%であることを特徴とする請求項に記載のナノファイバーを製造する方法。
【請求項7】
前記溶媒が混合溶媒からなることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のナノファイバーを製造する方法。
【請求項8】
前記混合溶媒が、ジメチルホルムアミドとN,N-ジメチルアセトアミドとの混合溶媒であることを特徴とする請求項に記載のナノファイバーを製造する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスピニング法により、極細ナノファイバーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単ファイバー直径がナノオーダーのナノファイバー(ナノ繊維)を製造する方法として、エレクトロスピニング法は広く知られた方法である(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。エレクトロスピニング法による従来のナノファイバーの製造を、図1を参照しつつ簡単に説明する。先ずファイバーを構成する高分子(ポリマー)を溶媒に溶解し、この溶液を紡糸溶液1としてシリンジ2に充填する。そして、シリンジ2に装着されているニードル型電極3と、ナノファイバーを堆積させるコレクタ電極4との間に数kV~数十kVの直流高電圧を印加して、ニードル型電極3とコレクタ電極4との間に強い電界場を発生させる。この環境下で、ニードル型電極3から紡糸溶液をコレクタ電極4に向けて放出すると、高分子を溶解していた溶剤等は電界場中で瞬間的に蒸発し、高分子は凝固しながらクーロン力で延伸されナノオーダーの極細ファイバーを形成する。ナノファイバーはウィッピングモーション(旋回状の回転運動)や、バリコスモーション(先端が細かく分裂する運動)などの複雑な挙動をした後にコレクタ電極4上に堆積される。エレクトロスプレーの際のスプレー条件を変えることにより、ナノ~ミクロンスケールのファイバーが形成され、またファイバー以外にも、ナノパーティクルや薄膜の形成も可能である。さらに、紡糸溶液も高分子単体溶液に限られず、高分子/高分子や高分子/無機などのブレンド溶液も用いることができるため、マテリアルのハイブリッド化はもちろんのこと、ナノパーティクル/ナノファイバーコンポジットのように薄膜の積層構造制御も可能となる。
【0003】
ナノファイバーには、「高比表面積」、「分子配列効果」、「ナノサイズ効果」といった特徴があり、ナノ構造による特異な機能発現が期待できる。例えば、ナノファイバーは、同一体積での表面積が通常のファイバーに比べ非常に大きいことから、従来のファイバーが持つポリマー固有の性質の他に、吸着特性や接着特性などの新機能が発現し、従来にない新素材の開発が期待できる。そのほか、可視光に対して透明であること、ナノオーダーで空孔サイズを制御できること、高度な分子組織化が可能なこと、生体がナノファイバーを異物として感じず生体適合性が良いこと等が挙げられる。前記効果はナノファイバーの径に強く依存しており、ナノファイバーの径を細くすることは、上記特性の向上につながる。
【0004】
従来エレクトロスピニング法で高分子ナノファイバーを製造する際のファイバー径や形態は、用いられる高分子材料の種類、分子量、高分子材料の紡糸溶液中での濃度、粘度、使用溶剤、表面張力、導電度、ニードル型電極とコレクタ電極間の距離、電圧差、吐出量、ニードル径、環境の温度、湿度、圧力など種々の要因に影響を受けることが知られている(非特許文献1および2参照)。
【0005】
上記非特許文献1においては、ポリ(3-ヒドロキシブチラート)あるいはその共重合体をクロロホルム溶液に溶解し、エレクトロスピニング法により1.0~4.0μmのファイバーを形成したこと、その際ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどのベンジルトリアルキルアンモニウムクロライドの添加により、平均径が2.6μmから1.0μm程度に減少したことの記載があるが、この文献記載の方法では微細といえるほどのファイバーは得られていない。また、非特許文献2には、エレクトロスピニングにおいて、得られる径の細さ、形態が種々の要因により影響を受けること、また高分子材料としてポリ(L-ラクチド酸)を用いて、プロセス条件、溶液条件を変えたときのファイバー径への影響が記載されている。この文献では、溶媒としてジクロロメタンとN,N-ジメチルホルムアミドあるいはピリジンとの混合溶媒を用いた際に混合比により溶液の電気伝導度が変わり、混合溶媒の電気伝導度が高くなることにより径が細くなることが示されている。
【0006】
一方、フッ素基を含む含フッ素ポリイミドあるいはスルホン酸基を含んだスルホン化ポリイミドなど溶媒に可溶なポリイミドを用いてナノファイバーを形成することが試みられている(非特許文献3)。しかし、含フッ素ポリイミドからエレクトロスピニング法を用いて極細ナノファイバーを作製する場合、均一な径を有するファイバーを作製しようとすると一般的には200nm程度の径が限界であった。このため更なるナノファイバーの機能発現を図るために、溶媒可溶なポリイミドによるナノファイバーにおける平均径をより小さくし、かつ径分布の小さいナノファイバーの製造方法が要望されている。
【0007】
上記したように、ナノファイバーの製造において、形成されるナノファイバーの径が製造条件により影響を受けることは知られているが、一般的には使用する高分子材料が異なると製造条件は変わり、特定の高分子材料、例えば溶媒可溶なポリイミドについてエレクトロスピニング法で形成されたナノファイバー径がどのような要因に影響をうけるのかは従来知られていない。
【0008】

【特許文献1】特開2002-249966
【特許文献2】特開2004-68161
【非特許文献1】インターナショナル ジャーナル オブ バイオロジカル マクロモレキュールズ(International Journal of Biological Macromolecules),34(2004),pp.249-256
【非特許文献2】ポリマー(Polymer),46(2005),pp.6128-6134
【非特許文献3】シンセティック メタルズ(Synthetic Metals),154(2005),pp.209-212
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、溶媒に可溶なポリイミド、例えばフッ素基を含む含フッ素ポリイミドおよびスルホン酸基を含んだスルホン化ポリイミドを用いてエレクトロスピニング法により極細ナノファイバーを形成する際に、従来の方法に比べより微細な径を有するとともに、得られるファイバーの径の均一性に優れた極細の溶媒可溶なポリイミドナノファイバーの製造方法を提供することを目的とするものである。

【0010】
本発明者らは、これらの課題を解決するため鋭意検討を行ったところ、上記溶媒可溶なポリイミドを用いてエレクトロスピニング法によりナノファイバーを形成する際に、第4級アンモニウム塩などの塩を添加するあるいはポリイミドを溶解する溶媒の組み合わせにより、上記課題が解決できることを見出して、本発明を成したものである。

【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、溶媒に可溶なポリイミドと溶媒とを含む紡糸溶液を用いてエレクトロスピニング法によりナノファイバーを製造する方法において、前記溶媒に可溶なポリイミドがフッ素基を含む含フッ素ポリイミドおよびスルホン酸基を含んだスルホン化ポリイミドから選ばれた少なくとも1種であり、また前記紡糸溶液に塩が含まれ、且つ該塩は前記溶媒に溶解した際の電気伝導度が1μS/cm以上であり、また前記溶媒の電気伝導度は10-8S/cm以上であることを特徴とするナノファイバーを製造する方法に関する。

【0013】
また、本発明は、溶媒に可溶なポリイミドと溶媒とを含む紡糸溶液を用いてエレクトロスピニング法によりナノファイバーを製造する方法において、前記溶媒に可溶なポリイミドが、下記一般式(I)で表される繰返し単位を含む含フッ素ポリイミドであり、また前記紡糸溶液に塩が含まれることを特徴とするナノファイバーを製造する方法に関する。

【0014】
【化1】
JP0005246652B2_000002t.gif

【0015】
(式中、R1は2価の有機基を表し、nは1以上の整数である。)
【0016】
また、本発明は、前記R1が下記一般式(II)で表わされる基であることを特徴とするナノファイバーを製造する方法に関する。
【0017】
【化2】
JP0005246652B2_000003t.gif

【0018】
(式中、R2、R3、R5およびR6は、各々独立して、置換されていてもよいフェニレン基を表し、R4は—C(CF32—または—SO2—基を表し、sおよびtは0または1である。)
【0019】
また、本発明は、前記塩が、下記一般式(III)で表される有機第4級アンモニウム塩であることを特徴とするナノファイバーを製造する方法。
【0020】
【化3】
JP0005246652B2_000004t.gif

【0021】
(式中、R11~R14は各々独立に、置換されていてもよいアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
【0022】
また、本発明は、前記有機第4級アンモニウム塩の紡糸溶液中での含有量が3重量%以下であることを特徴とするナノファイバーを製造する方法に関する。
【0023】
また、本発明は、前記有機第4級アンモニウム塩の紡糸溶液中での含有量が0.05~0.5重量%であることを特徴とするナノファイバーを製造する方法に関する。
【0024】
また、本発明は、前記溶媒が混合溶媒からなることを特徴とするナノファイバーを製造する方法に関する。
【0025】
また、本発明は、前記混合溶媒が、ジメチルホルムアミド(DMF)とN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)との混合溶媒であることを特徴とするナノファイバーを製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、前記溶媒に可溶なポリイミドを用いてエレクトロスピニング法により極細ナノファイバーを形成する方法において、従来達成できないような100nm程度の平均径を有するナノファイバーを、10%程度の粒径分布幅で形成することができる。これにより、「高比表面積」、「分子配列効果」、「ナノサイズ効果」によるより高い機能発現を期待することができ、本発明の製造方法により得られた極細ナノファイバーを集積した集積体は、リチウム電池など各種電池のセパレータや電解質膜、フィルタ、医療用絆創膏、医療用バリヤウエブ、医療用組織培養支持体、センサなどの広範囲の材料として使用することができる。


【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を、図を参照しつつ更に詳細に説明する。
本発明のナノファイバーの製造方法においては、ナノファイバーは、例えば図1に示されるような従来と同様のエレクトロスピニング装置を用いて形成することができる。図1において、1は紡糸溶液、2はシリンジ、3はニードル型電極、4はコレクタ電極である。コレクタ電極は図1のように平板であってもよいし、円筒状など他の形態であってもよい。ニードル型電極とコレクタ電極の間に高電圧、例えば数kVから数十kV程度の電圧が付与され、シリンジから紡糸溶液の一定量が放出される。この一定量の放出は、シリンジ内のプランジャー(図示せず)を一定速度で押動することにより行うことができる。
【0028】
このときエレクトロスピニングは次のようにして起こる。ニードル型電極に例えば上記のごとき高電圧が印加されると、シリンジ、ニードル型電極などを有するキャピラリー先端の液滴表面に基板電極と反対符号の電荷をもつ帯電粒子が集まる。液体表面に蓄積された電荷と電場の相互作用によって、キャピラリー先端ではメニスカスが半円球状に盛り上がる。より高い電場の下では、キャピラリー先端で電界集中の効果により強力な電界が発生し、液体表面に荷電を持つイオンが集まりテイラーコーンと呼ばれる円錐状のメニスカスが形成される。電場をさらに大きくし、重力と電気的反発力の和が表面張力を上回ると、液体の一部がテイラーコーンから飛び出し、液滴あるいはジェットとして噴出を始める。噴出された液滴あるいはジェットは、強く帯電しており、電場により導電性基板へ引き寄せられる。その時、ジェットは静電気力の反発によりスプレーとなる(クーロン爆発)。場合によっては液滴内部での静電気力反発によってさらに分解して細かい液滴あるいはジェットを形成する。形成された液滴のサイズは極めて小さく、表面積が体積よりも非常に小さいため、極めて短時間のうちに溶媒が蒸発する。通常、溶媒は噴出中に蒸発するので、コレクタ上には乾燥した溶質分子がデポジットされる。本発明においては、ナノファイバーは正に帯電しており、2枚のコレクタ電極に直行する方向に一軸方向に配向した状態で堆積する。エレクトロスピニング法により形成されるファイバーの直径は、溶液の粘度、使用される高分子の種類、その重合度、溶液の組成、印加電圧、流量などによって異なり、溶液の粘度が高い場合、高分子の重合度が大きい場合、印加電圧が低い場合、流量が多い場合は、通常ファイバー径が太くなる。
【0029】
エレクトロスピニングにおいては、溶媒の蒸発が必要とされることから、エレクトロスピニングが行われる周囲雰囲気は一般的には湿度が低い方が好ましく、通常50%RH以下で行うことが好ましい。しかし、本発明のナノファイバーの製造方法がこれに限定されるものではない。また温度も特に限定されるものではないが、溶媒の蒸発は常温でも速やかに起こることから、一般的には、紡糸雰囲気を昇温あるいは冷やす必要はないが、紡糸条件によっては室温より低温で、あるいは室温より高温で行ってもよい。
【0030】
本発明において、紡糸に使用される高分子は、溶媒に可溶なポリイミドである。本発明においてポリイミドとは、繰返し単位にイミド基を含むポリマーを意味し、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどを含むものである。溶媒に可溶なポリイミドとしては、例えばフッ素基を含む含フッ素ポリイミド、スルホン酸基を含んだスルホン化ポリイミドなどが挙げられる。前記フッ素基を含む含フッ素ポリイミドとしては、上記一般式(I)で表わされるような繰返し単位を有する含フッ素ポリイミドが好ましいものとして挙げられる。一般式(I)の繰り返し単位を構成するR1の好ましい態様である一般式(II)の繰返し単位中のフェニレン基の置換基としては、メチル基などの炭素数1~3の低級アルキル基などが挙げられる。このような一般式(I)で表わされる繰返し単位を有する含フッ素ポリイミドは、一般式(I)の繰り返し単位1種のみからなっていてもよいし、一般式(I)の繰り返し単位2種以上からなっていてもよいし、一般式(I)の繰り返し単位とイミド基を含む他の繰り返し単位からなるものであってもよい。一般式(I)におけるR1としては、上記一般式(II)で表わされる2価の基が好ましいものであるが、これ以外にも下記一般式(IV)で表される基が挙げられる。
【0031】
【化4】
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【0032】
(式中、R7はメチル基などの炭素数1~3の低級アルキル基を表し、aは0~4の整数である。)
【0033】
上記一般式(I)で表わされる繰返し単位を有する含フッ素ポリイミドとしては、2、2-ビス(3、4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを合成原料として用いた6FDA系ポリイミドが好ましいものである。以下に、本発明において好ましく用いることのできる6FDA系ポリイミドの具体例を例示する。しかし、本発明において用いられる含フッ素ポリイミドが以下のものに限定されるものではない。なお、上記一般式(I)で示される下記含フッ素ポリイミドを初めとし、本発明で用いられるポリイミドは従来公知あるいは周知方法に従って合成することができる。
【0034】
【化5】
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【0035】
(式中、m、n、xは各々独立に1以上の整数である。)
【0036】
また、溶媒に可溶であるポリイミドの他の例としては、スルホン酸基を含んだスルホン化ポリイミドが挙げられる。このスルホン酸基を含んだスルホン化ポリイミドとしては、合成原料として1,4,5,8-ナフトテトラカルボン酸を用いた、例えば一般式(V)で表される繰返し単位と一般式(VI)で表される繰返し単位とを有するNTDA系ポリイミドが挙げられる。
【0037】
【化6】
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【0038】
【化7】
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(式中、R1は上記で定義したもの、好ましくは一般式(II)として定義したものを表し、x、yは1以上の整数である。)
【0039】
以下に、本発明において好ましく用いることのできるNTDA系ポリイミドの具体例を例示する。しかし、本発明において用いられるスルホン酸基を含んだスルホン化ポリイミドが以下のものに限定されるものではない。
【0040】
【化8】
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【0041】
なお、これら以外に、従来エレクトロスピニング法により紡糸可能であることが知られた高分子材料を必要であれば本発明の効果が奏される範囲で用いられてもよい。このような高分子材料としては、例えば、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレンエーテルスルホン(PAES)、ポリ(オルガノ)フォスファゼン(POP)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリアリレート(PAR)、ポリアリレンエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT))、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン(アイソタクチック、アタクチック)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリベンゾニトリル(PBI)、ポリカプロラクタム(PCL)、ポリε-カプロラクタム、l-ラクチド-ε-カプロラクタム共重合体、ポリ(D,L-乳酸)ポリ(L-乳酸)、ナイロン6、PA-66、エチレン-ビニルアルコール共重合体、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアセテート(PVAc)、エチレン-ビニルアセテート共重合体(PEVA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリレート(PMMA)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリアクリルアミド(PAAm)、PLGA、ポリ2-ヒドロキシエテル-メタクリレート(HEME)、コラーゲン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフェロセンジメチルシラン(PFDMS)など溶剤に溶解する種々の高分子が挙げられる。
【0042】
本発明においては、紡糸溶液に塩が含まれるが、使用される塩は紡糸溶液に用いられている溶媒に溶解することが必要とされる。塩が溶媒に溶解してイオン解離することで、電気伝導度の増加が促される。また、紡糸溶液に溶解した際、電気伝導度が1μS/cm以上であることが必要である。このような電気伝導度を有することにより、エレクトロスピニング中のポリマージェットの分裂と伸長が促され、径の細いナノファイバーを作成できる。このような特性を有する限り無機塩でも有機塩でもよいが、特に上記一般式(III)で表される有機第4級アンモニウム塩が好ましい。本発明において好ましく用いられる第4級アンモニウム塩の具体例としては、例えば、テトラメチルアンモニウムブロマイド(TMAB)、テトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)、テトラエチルアンモニウムブロマイド(TEAB)、テトラエチルアンモニウムクロライド(TEAC)、テトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)、テトラブチルアンモニウムクロライド(TBAC)、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド(BTMAB)、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(BTMAC)、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド(BTEAB)、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(BTEAC)、ベンジルトリブチルアンモニウムブロマイド(BTBAB)、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド(BTBAC)などが挙げられる。本発明においては、紡糸溶液中に前記塩を添加すればナノファイバーの径の減少効果を得ることができるが、0.5重量%以下添加することが好ましく、0.05~0.2重量%であることがより好ましい。その理由は、このような微量の塩の添加により、ナノファイバーの平均径の減少効果が最も大きいからである。0.5重量%を超えた量を添加しても塩を添加しないときに比べ径は大きく減少するが、前記範囲で奏される減少効果に比べ劣ったものとなる。また、0.5重量%を超えると、添加量が増えたからといってナノファイバーの径の減少量が増大するわけでもない。
【0043】
上記高分子(溶質)を溶解して紡糸溶液を形成するために用いられる溶媒としては、アセトン、クロロホルム、エタノール、イソプロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、水、ベンゼン、トルエン、キシレン、ベンジルアルコール、1,4-ジオキサン、プロパノール、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、塩化メチレン、フェノール、ピリジン、1,1,2-トリクロロエタン、酢酸などの揮発性の比較的高いもの、またN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジクロロメタン(DCM)、N-メチルピロリドン(NMP)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、アセトニトリル(AN)、N-メチルモルホリン-N-オキシド、ブチレンカーボネート(BC)、1,4-ブチロラクトン(BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジエチルエーテル(DEE)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、1,3-ジオキソラン(DOL)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルホルマート(MF)、3-メチルオキサゾリジン-2-オン(MO)、メチルプロピオネート(MP)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(MeTHF)、スルホラン(SL)などの揮発性が相対的に低いものが挙げられる。
【0044】
しかし、径の小さいナノファイバーを形成するためには、沸点が150℃以上のものが好ましい。また、電気伝導度が10-8S/cm以上であることが好ましい。その理由は、紡糸溶液がノズル先端から吐出された後、できるだけ溶液の状態を保ち、紡糸用ポリマー溶液の分裂を促すためである。また、電気伝導度が溶媒自体で高いことも細いファイバーを形成するために必要とされるからである。本発明の紡糸用高分子が含フッ素ポリイミドあるいはスルホン酸基を含んだスルホン化ポリイミドである場合には、溶媒には当然にこれらポリイミドを溶解することも必要とされる。このような条件を満たす溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ピリジン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)などが代表的なものとして挙げられる。本発明においては、溶媒として、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)が好ましいものであり、特にこれら2種の溶媒を混合して用いる場合、形成されるナノファイバーの平均径が細く、且つ径分布も約10%程度に抑えることができるという極めて優れた効果を得ることができる。
【0045】
本発明のナノファイバーの製造方法においては、従来ナノファイバーを製造する際に用いられている紡糸溶液に、他の添加剤を本発明の効果が奏される範囲で添加してもよい。
【実施例】
【0046】
以下、合成例、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
なお、合成例における化合物の物性は、次の装置を用いて測定した。
【0047】
〔核磁気共鳴(NMR)測定〕
イミド化反応が確実に進行したことを確認するために、得られたポリイミドをd-DMSOに溶解させ、H-NMRにより測定を行った。積算は32回とした。測定に使用した装置は、日本電子(株)製AL400である。
【0048】
〔ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)測定〕
ポリマーの重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を求めるために、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いた。標準物質としてはポリスチレンを用いた。測定装置は、Shodex製RI-101であり、カラムはSchodex製KF-805Lである。
【0049】
[合成例1]
(含フッ素ポリイミドの合成)
<ポリアミック酸の合成>
1000mL三口フラスコに、2、2-ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン(6FAP)35.00064g(0.10472モル)を入れ、230ccの蒸留N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を入れて完全に溶解させた。この後、2、2-ビス(3、4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FDA)46.5190g(0.10472モル)、およびDMAc405ccを更に加え、溶解させて溶液とした。この溶液を室温で1晩以上攪拌して、ポリアミック酸を得た。
【0050】
<イミド化>
上記で得られたポリアミック酸溶液に、54.10g(0.5299モル)の無水酢酸を滴下し、次いでトリエチルアミンを滴下し、24時間攪拌を行った。得られたポリマー溶液をメタノールにゆっくり滴下し、下記式で示される繰返し単位を有する粒状のポリイミド(6FDA-p-6FAP)を得た。得られたポリイミドの1H-NMRスペクトル図を図2に示す。また重量平均分子量(Mw)は、5.5×105であり、Mw/Mnは1.8であった。
【0051】
【化9】
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【0052】
[実施例1]
図1の装置を用い、合成例1で製造された重量平均分子量(Mw)55万のポリイミド(6FDA-p-6FAP)を用いてナノファイバーを製造した。ニードル型電極とコレクタ電極との距離は10cm、印加電圧15kV、紡糸溶液の流量0.12mL/hとして、エレクトロスピニングを行った。紡糸溶液としては、合成例1で得られたポリイミド(6FDA-p-6FAP)のジメチルホルムアミド(DMF)の10重量%溶液を用いた。また、溶液には、テトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)を溶液重量に対し0.1重量%添加した。
【0053】
実施例1で作製したナノファイバーを150℃で10時間真空乾燥した後、サンプルを白金コーティングし、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。SEM写真を図3に示す。得られた極細ナノファイバーの平均径は93nm、最大径は104nm、最小径は82nmであり、ほぼ均一な径の極細ナノファイバーが得られた。
【0054】
[実施例2~8]
紡糸溶液に添加するTBABの量を0.2重量%(実施例2)、0.3重量%(実施例3)、0.4重量%(実施例4)、0.5重量%(実施例5)、1.0重量%(実施例6)、2.0重量%(実施例7)、3.0重量%(実施例8)とすることを除き、実施例1と同様にして、6FDA-p-6FAPの極細ナノファイバーの堆積を行った。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
JP0005246652B2_000013t.gif

【0056】
[比較例1]
紡糸溶液にTBABを添加しないことを除き、実施例1と同様にして、6FDA-p-6FAPの極細ナノファイバーの堆積を行った。平均径は200nmであり、最大径は216nmであり、最小径は184nmであった。
【0057】
実施例1~8および比較例1の結果をまとめて図4に示す。図4から、TBABの添加により平均径が大幅に減少し、特に0.5重量%以下の添加により、顕著な効果が奏されることが分かる。
【0058】
[参考例1]
形成された極細ナノファイバーにおけるTBABの含有量を測定するため、実施例6(TBABの含有量1.0重量%)で用いられた紡糸溶液と、得られたナノファイバーの1H-NMRスペクトルを測定した。結果を図5に示す。図5の上側に溶液の1H-NMRスペクトルを、下側にナノファイバーの1H-NMRスペクトルが示されている。上側の1H-NMRスペクトルには、TBABに基づくピークが見られるが、下側のナノファイバーの1H-NMRスペクトルにはTBABに基づく吸収スペクトルは存在しない。このことから、ナノファイバーには、TBABは含有されていないことが分かる。
【0059】
[実施例9]
TBABの添加量を1.0重量%とし、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の5:5混合溶媒を用いることを除き、実施例1と同様にして、6FDA-p-6FAPの極細ナノファイバーの堆積を行った。平均径は98nmであり、最大径は112nmであり、最小径は84nmであった。
【0060】
[実施例10~19]
DMFとDMAcの混合割合を10:0、9:1、8:2、7:3、6:4、4:6、3:7、2:8、1:9、0:10とすることを除き実施例9と同様にして、6FDA-p-6FAPの極細ナノファイバーの堆積を行った。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
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【0062】
実施例9~19の結果をまとめて図6に示す。図6から、DMFとDMAcの混合溶媒とすることによりナノファイバーの平均径が大幅に減少し、特に3:7~8:4において優れた効果が奏されることが分かる。
【0063】
[実施例20~27および比較例2]
紡糸溶液に添加する塩をTBABからベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド(BTEAC)と変えたことを除き実施例1~8および比較例1と同様にして、6FDA-p-6FAPの極細ナノファイバーの堆積を行った。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
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【0065】
実施例20~27および比較例2の結果を図7に示す。図7から、塩としてBTEACを用いた場合にも、TBABと同様ナノファイバー平均径が大幅に減少し、特に0.5重量%以下の添加により、顕著な効果が奏されることが分かる。
【0066】
[実施例28~38]
防止溶液の溶媒として、ピリジンおよび/またはDMAcを用いることおよび塩としてBTEACを用いることを除いて、実施例9~19と同様にして、実施例28~38のナノファイバーを得た。結果を図8に示す。
【0067】
[実施例39~49]
防止溶液の溶媒として、ピリジンおよび/またはDMFを用いることおよび塩としてBTEACを用いることを除いて、実施例9~19と同様にして、実施例28~38のナノファイバーを得た。結果を図9に示す。
【0068】
図8および9から、溶媒としてピリジンとDMAcあるいはピリジンとDMFの混合溶媒を用いる場合、平均径の減少が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明により得られた極細ナノファイバーを集積した集積体は、リチウム電池など各種電池のセパレータや電解質膜、フィルタ、医療用絆創膏、医療用バリヤウエブ、医療用組織培養支持体、センサ、さらには得られた集積体を炭化することにより電極材などの広範囲の材料として使用することができ、特にフィルタとして好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】エレクトロスピニング装置の概略図である。
【図2】6FDA-p-6FAPの1H-NMRスペクトル図である。
【図3】図面代用写真であり、本発明の実施例1で得られたナノファイバー集積体のSEM写真である。
【図4】塩としてテトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)を用いた際のナノファイバーの径の減少効果を示す図である。
【図5】実施例6のナノファイバーを製造するための原料である6FDA-p-6FAP溶液および製造されたナノファイバーの1H-NMRスペクトルである。
【図6】溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)とN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の混合溶媒を用いた際の、ナノファイバーの径の減少効果を示す図である。
【図7】塩としてベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(BTEAC)を用いた際のナノファイバーの径の減少効果を示す図である。
【図8】溶媒としてピリジンとDMAcの混合溶媒を用いたときのナノファイバーの平均径の減少を示す図である。
【図9】溶媒としてピリジンとDMFの混合溶媒を用いたときのナノファイバーの平均径の減少を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 紡糸溶液
2 シリンジ
3 ニードル型電極
4 コレクタ電極
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図3】
8