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明細書 :触覚制御方法および触覚制御装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4876246号 (P4876246)
公開番号 特開2007-229897 (P2007-229897A)
登録日 平成23年12月9日(2011.12.9)
発行日 平成24年2月15日(2012.2.15)
公開日 平成19年9月13日(2007.9.13)
発明の名称または考案の名称 触覚制御方法および触覚制御装置
国際特許分類 B25J   3/00        (2006.01)
B25J  13/00        (2006.01)
FI B25J 3/00 A
B25J 13/00 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 24
出願番号 特願2006-057632 (P2006-057632)
出願日 平成18年3月3日(2006.3.3)
審査請求日 平成21年2月20日(2009.2.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
発明者または考案者 【氏名】大石 潔
【氏名】桂 誠一郎
【氏名】鈴山 駿行
個別代理人の代理人 【識別番号】100080089、【弁理士】、【氏名又は名称】牛木 護
【識別番号】100119312、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 栄松
審査官 【審査官】林 茂樹
参考文献・文献 特開2002-187078(JP,A)
特開平08-215211(JP,A)
特開2003-144453(JP,A)
特開2003-275975(JP,A)
調査した分野 B25J1/00~21/02
G05B13/00~13/04
特許請求の範囲 【請求項1】
複数台のマスタと、一台以上のスレーブとを備え、
操作者によるそれぞれの前記マスタの操作に応じて動作するように、環境に接触する前記スレーブを制御する触覚制御方法において、
第1外乱オブザーバにより前記マスタおよび前記スレーブに加わるそれぞれの外力を推定し、その推定値を前記マスタおよび前記スレーブの入力にそれぞれフィードバックすることで、加速度次元で当該マスタおよび当該スレーブを個々に制御するステップを備え、
前記マスタおよび前記スレーブからの各位置応答を、実空間における第1加速度応答値としてそれぞれ取得し、その中で選択される2つの前記第1加速度応答値の差を各々算出して仮想空間に変換出力する差モード生成のステップと、
記仮想空間に設けられ、前記差モード生成のステップからの出力に基づいて、前記マスタおよび前記スレーブの位置変位をそれぞれゼロにするために、加速度次元での位置指令値を各々生成する位置制御のステップと、
記仮想空間からの前記位置指令値を、実空間における前記マスタおよび前記スレーブへの第1加速度参照値にそれぞれ変換して出力するステップと、を行ないながら、
2外乱オブザーバにより前記マスタおよび前記スレーブの各反力を推定し、実空間におけるそれぞれの力応答を第2加速度応答値として出力するステップと、
記各第2加速度応答値を加算して前記仮想空間に出力する和モード生成のステップと、
前記仮想空間に設けられ、前記和モード生成のステップからの出力に基づいて、前記マスタおよび前記スレーブが作用・反作用の法則を満たすような力応答に見合う第2加速度参照値を、当該マスタおよび当該スレーブにそれぞれ出力する力制御のステップと、を行なうことを特徴とする触覚制御方法。
【請求項2】
前記マスタからの前記実空間における第1加速度応答値に、そのマスタの反力推定値に対する全ての前記マスタの反力推定値の比を乗じたIR乗算値を、前記各マスタに対応して各々前記差モード生成のステップに出力する演算ステップをさらに行ない、
前記差モード生成のステップで、各々の前記IR乗算値と、前記スレーブからの第1加速度応答値の中で、2つの値の差を各々算出して仮想空間に変換出力すると共に、
前記マスタへの第1加速度参照値に、全ての前記マスタの反力推定値に対するそのマスタの反力推定値の比を乗じた値を、当該マスタに出力する逆演算ステップをさらに行なうことを特徴とする請求項1記載の触覚制御方法。
【請求項3】
操作者により操作される複数台のマスタと、前記操作者によるそれぞれの前記マスタの操作に応じて環境に接するように動作する一台以上のスレーブとを備えた触覚制御装置において、
前記マスタおよび前記スレーブに加わるそれぞれの外力を推定する第1外乱オブザーバと、
加速度次元で前記マスタおよび前記スレーブを個々に制御するために、前記外力の推定値を当該マスタおよび当該スレーブの入力にそれぞれフィードバックするフィードバック部と、
前記マスタおよび前記スレーブからの各位置応答を、実空間における第1加速度応答値としてそれぞれ取得し、その中で選択される2つの前記第1加速度応答値の差を各々算出して仮想空間に変換出力する差モード生成手段と、
前記マスタおよび前記スレーブの各反力を推定し、実空間におけるそれぞれの力応答を第2加速度応答値として出力する第2外乱オブザーバと、
前記各第2加速度応答値を加算して前記仮想空間に出力する和モード生成手段と、
前記仮想空間に設けられ、前記差モード生成手段からの出力に基づいて、前記マスタおよび前記スレーブの位置変位をそれぞれゼロにするために、加速度次元での位置指令値を各々生成する位置コントローラと、
前記仮想空間からの前記位置指令値を、実空間における前記マスタおよび前記スレーブへの第1加速度参照値にそれぞれ変換して出力する逆変換手段と、
前記仮想空間に設けられ、前記和モード生成手段からの出力に基づいて、前記マスタおよび前記スレーブが作用・反作用の法則を満たすような力応答に見合う第2加速度参照値を、当該マスタおよび当該スレーブにそれぞれ出力する力コントローラと、を備えたことを特徴とする触覚制御装置。
【請求項4】
前記マスタからの前記実空間における第1加速度応答値に、そのマスタの反力推定値に対する全ての前記マスタの反力推定値の比を乗じたIR乗算値を、前記各マスタに対応して各々前記差モード生成手段に出力するIR演算手段を備え、
前記差モード生成手段は、各々の前記IR乗算値と、前記スレーブからの第1加速度応答値の中で、2つの値の差を各々算出して仮想空間に変換出力するものであると共に、
前記マスタへの第1加速度参照値に、全ての前記マスタの反力推定値に対するそのマスタの反力推定値の比を乗じた値を、当該マスタに出力するIR逆演算手段を備えたことを特徴とする請求項3記載の触覚制御装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、操作端であるマスタと作業端であるスレーブとの間で、マスタからスレーブへの位置制御と、スレーブからマスタへの力制御とを共に実現可能にする触覚制御方法および触覚制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電話やテレビなどの聴覚情報や視覚情報に次ぐ情報として、触覚情報が大いに注目されている。この触覚情報は、作用と反作用の法則に従っているため、音響情報や視覚情報と比較して制御が困難である。そのため、触覚伝達技術の分野では、バイラテラル制御が代表的な方法として用いられ、この技術の急速な発展につれて、バイラテラル制御の研究が非常に広い範囲で行なわれている。
【0003】
バイラテラル制御は、マスタとスレーブとの間で位置(姿勢)と力の状態を一致させるように制御することで、マスタからスレーブへの位置制御と、スレーブからマスタへの力制御を同時に行なう制御方法である。この制御方法を応用することで、例えば遠隔地からの爆発物処理技術や遠隔地からの手術のように、作業時の加工反力や振動などの情報を操作者が感じながら、遠隔操作による精巧な作業が可能になる。
【0004】
バイラテラル制御を実現する装置や方法の例として、例えば特許文献1には、操作者により操作されるマスタと、このマスタの操作に応じて動作するスレーブとを備えたマスタ・スレーブ装置において、スレーブが環境と接触している状態では、マスタを操作する操作者に力覚・触覚を呈示するために、スレーブにかかる力が、マスタに加えられる力と特定の関係にある力に追従するように、アクチュエータによりスレーブを力制御する一方で、スレーブが環境と接触していない状態では、スレーブの位置とマスタの位置がお互いに追従するように、モータによりマスタを位置制御し、且つ前記アクチュエータによりスレーブを位置制御するものが開示されている。
【0005】
また別な特許文献2には、スレーブが環境に接触していない状態では、マスタの位置座標により作成した位置指令値に基づき、スレーブの位置制御を行ない、スレーブが環境と接触している状態では、ハンチングなどの不安定な振動を抑制するために、環境の法線方向にほぼ一致する力制御方向に関して、力目標値と力センサで測定した反力が一致するように力制御を行なうと同時に、前記力制御方向に直交する位置制御方向に関して、マスタの位置座標により作成した位置指令値に基づき、スレーブの位置制御を行なうハイブリッド制御を行ない、さらにこのハイブリッド制御により、操作者がスレーブを力制御方向に動かせなくなることを回避するために、操作者のスイッチ操作によって、予め決められた速度でスレーブを環境から離れる方向へ動作させるように、スレーブに動作指令を行なう別な制御モード(遷移モード)を付加したものが開示されている。

【特許文献1】特開2002-307336号公報
【特許文献2】特開平8-281573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2に代表されるようなバイラテラル制御は、単独のマスタと単独のスレーブとによる1対1の制御であることから、環境のインピーダンスを感じることができるのは一人に限られる。そのため、例えばパプティック教育などに応用するために、複数人が一つの環境を同時に触れるようなシステムを構築する場合には、現状のバイラテラル制御において、マスタの台数分だけスレーブを用意するか、さもなければ環境をモデル化するなどして仮想的に環境を作らなければならない。
【0007】
マスタの数だけスレーブを用意する前者のシステムは、マルチマスタ・マルチスレーブシステムと呼ばれているが、これは各組のロボット(マスタ,スレーブ)を独立して制御できるので、ロボット間の信号干渉を完全になくすことができる。しかし、システムを無限に拡張すると、同じ環境または同じ環境の箇所を同時に触れることができない。また、触覚伝送装置としてマスタと同数のスレーブを用意することは、経済的にも効率的ではない。
【0008】
また、スレーブを1台にすると、スレーブ側の反力が干渉により簡単に影響を受けるので、これを解決するために、後者のシステムのような環境の数学的モデルを作成する必要がある。しかし、モデル化した環境では、スレーブ側環境の実際の硬さをマスタで再現するような、バイラテラル制御本来の目的を達成しているとは言い難い。また、例えば遠隔地からの爆発物処理のような環境のモデル化が、常に実現できるとは限らない。
【0009】
このように、既存のバイラテラル制御に対して単純にスレーブを増やしたり、モデル化された環境を想定するだけでは、システムの応用範囲を狭めることになる。とりわけ、マルチメディア情報技術においては、視覚や聴覚に次ぐ第3の情報として、触覚情報が強く求められているが、上述した理由からも、複数のマスタのそれぞれに独立したインピーダンスを返すようなシステムは未だに存在しない。さらに、特許文献1にも記載されているように、バイラテラル制御には対称型,力帰還型,並列型というように多くの制御方法が提案されているが、複数台のロボットによる情報共有制御や、各ロボット間での情報分離制御の観点からすれば、既存のバイラテラル制御が複数台のロボット制御にそのまま適応できるとは言い難いのが現状である。
【0010】
本発明は上記の問題点に鑑みなされたもので、その目的は、マスタと同数のスレーブを用意したり、環境をモデル化することなく、複数台のロボットによる触覚情報の共有制御を実現可能にし、さらには各マスタ間で触覚情報の分離制御を可能にする触覚制御方法および触覚制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数台のマスタと、一台以上のスレーブとを備え、操作者によるそれぞれの前記マスタの操作に応じて動作するように、環境に接触する前記スレーブを制御する触覚制御方法において、第1外乱オブザーバにより前記マスタおよび前記スレーブに加わるそれぞれの外力を推定し、その推定値を前記マスタおよび前記スレーブの入力にそれぞれフィードバックすることで、加速度次元で当該マスタおよび当該スレーブを個々に制御するステップを備え、前記マスタおよび前記スレーブからの各位置応答を、実空間における第1加速度応答値としてそれぞれ取得し、その中で選択される2つの前記第1加速度応答値の差を各々算出して仮想空間に変換出力する差モード生成のステップと、記仮想空間に設けられ、前記差モード生成のステップからの出力に基づいて、前記マスタおよび前記スレーブの位置変位をそれぞれゼロにするために、加速度次元での位置指令値を各々生成する位置制御のステップと、記仮想空間からの前記位置指令値を、実空間における前記マスタおよび前記スレーブへの第1加速度参照値にそれぞれ変換して出力するステップと、を行ないながら、第2外乱オブザーバにより前記マスタおよび前記スレーブの各反力を推定し、実空間におけるそれぞれの力応答を第2加速度応答値として出力するステップと、記各第2加速度応答値を加算して前記仮想空間に出力する和モード生成のステップと、前記仮想空間に設けられ、前記和モード生成のステップからの出力に基づいて、前記マスタおよび前記スレーブが作用・反作用の法則を満たすような力応答に見合う第2加速度参照値を、当該マスタおよび当該スレーブにそれぞれ出力する力制御のステップと、を行なうことからなる。
【0012】
この場合、前記マスタからの前記実空間における第1加速度応答値に、そのマスタの反力推定値に対する全ての前記マスタの反力推定値の比を乗じたIR乗算値を、前記各マスタに対応して各々前記差モード生成のステップに出力する演算ステップをさらに行ない、前記差モード生成のステップで、各々の前記IR乗算値と、前記スレーブからの第1加速度応答値の中で、2つの値の差を各々算出して仮想空間に変換出力すると共に、前記マスタへの第1加速度参照値に、全ての前記マスタの反力推定値に対するそのマスタの反力推定値の比を乗じた値を、当該マスタに出力する逆演算ステップをさらに行なうことが好ましい。
【0013】
また、本発明は、操作者により操作される複数台のマスタと、前記操作者によるそれぞれの前記マスタの操作に応じて環境に接するように動作する一台以上のスレーブとを備えた触覚制御装置において、前記マスタおよび前記スレーブに加わるそれぞれの外力を推定する第1外乱オブザーバと、加速度次元で前記マスタおよび前記スレーブを個々に制御するために、前記外力の推定値を当該マスタおよび当該スレーブの入力にそれぞれフィードバックするフィードバック部と、前記マスタおよび前記スレーブからの各位置応答を、実空間における第1加速度応答値としてそれぞれ取得し、その中で選択される2つの前記第1加速度応答値の差を各々算出して仮想空間に変換出力する差モード生成手段と、前記マスタおよび前記スレーブの各反力を推定し、実空間におけるそれぞれの力応答を第2加速度応答値として出力する第2外乱オブザーバと、前記各第2加速度応答値を加算して前記仮想空間に出力する和モード生成手段と、前記仮想空間に設けられ、前記差モード生成手段からの出力に基づいて、前記マスタおよび前記スレーブの位置変位をそれぞれゼロにするために、加速度次元での位置指令値を各々生成する位置コントローラと、前記仮想空間からの前記位置指令値を、実空間における前記マスタおよび前記スレーブへの第1加速度参照値にそれぞれ変換して出力する逆変換手段と、前記仮想空間に設けられ、前記和モード生成手段からの出力に基づいて、前記マスタおよび前記スレーブが作用・反作用の法則を満たすような力応答に見合う第2加速度参照値を、当該マスタおよび当該スレーブにそれぞれ出力する力コントローラと、を備えている。
【0014】
この場合、前記マスタからの前記実空間における第1加速度応答値に、そのマスタの反力推定値に対する全ての前記マスタの反力推定値の比を乗じたIR乗算値を、前記各マスタに対応して各々前記差モード生成手段に出力するIR演算手段を備え、前記差モード生成手段は、各々の前記IR乗算値と、前記スレーブからの第1加速度応答値の中で、2つの値の差を各々算出して仮想空間に変換出力するものであると共に、前記マスタへの第1加速度参照値に、全ての前記マスタの反力推定値に対するそのマスタの反力推定値の比を乗じた値を、当該マスタに出力するIR逆演算手段を備えるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記方法および上記装置によれば、第1外乱オブザーバと第2外乱オブザーバによって、マスタおよびスレーブを加速度次元で制御することにより、システムのロバスト性を確保しつつ、マスタおよびスレーブの位置変位をそれぞれゼロにする位置制御と、マスタおよびスレーブが作用・反作用の法則を満たすような力制御を、仮想空間上で各々独立して行なうことが可能になる。そのため、それまでマスタとスレーブが1対1のシステムでしか実現し得なかった触角共有制御を、2台以上のマスタと1台以上のスレーブとにより実現することが可能になる。
【0016】
また、同じ力でも位置偏差の違いは触った時に違う硬さを生じることから、操作者の入力に応じた個別の位置変化を実現するために、マスタからの前記実空間における第1加速度応答値に、そのマスタの反力推定値に対する全てのマスタの反力推定値の比を乗じたIR乗算値を各マスタ毎に算出すると共に、マスタに第1加速度参照値を出力する際に、この第1加速度参照値に、全ての前記マスタの反力推定値に対するそのマスタの反力推定値の比を乗じた値を各マスタ毎に算出する。これにより、各マスタ間で触覚情報の分離制御が可能になり、通信におけるクロストークの除去が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいて、本発明における好適な実施例を詳細に説明する。図1は、本実施例で提案する触覚制御装置のブロック構成を示している。同図において、当該触覚制御装置は、操作者側のマスタロボットとして、第1マスタ1および第2マスタ2が設けられ、インピーダンスZの環境3と接触するスレーブロボットとしてスレーブ5が設けられている。つまり、ここでは操作者により操作される2台のマスタ1,2と、各マスタ1,2の動きに応じて動作する1台のスレーブ5とを備えており、二人の操作者が、各々のマスタ1,2を通して同時に1つの環境3に触れるように構成されている。なお、マスタ1,2は3台以上の複数台あってもよく、またスレーブ5も複数台あっても構わない。このように、複数台のマスタ1,2と一台以上のスレーブ5との間で触覚情報のやり取りを行なう新規な制御系を、従来知られているバイラテラル制御と区別するために、マルチラテラル制御と呼ぶ。
【0018】
前記マスタ1,2やスレーブ5は、何れも可動部であるアクチュエータや検出部である位置センサなどを備えた類似の装置で構成され、各々に独立した外乱オブザーバ11,12,15を備える。これらの外乱オブザーバ11,12,15は、周知のようにコンピュータのソフトウェアなどで構成される。
【0019】
ここで、本実施例で使用する外乱オブザーバ11,12,15について、その詳細を説明する。先ず、図2は、マスタ1,2やスレーブ5に組み込まれる駆動源としての電動モータ20を、理想電流源によって制御した場合のモデルを、ブロック図として示している。ここにあるXref・・(以下、数式や図以外では、1階の微分を「」とし、2階の微分を「・・」として便宜上あらわし、対応する記号の後に併記する。)は加速度参照値であり、Xres・・は加速度応答値を示している。また、Irefは電流参照値であり、Fdisは外乱力を示している。
【0020】
同図において、21は、加速度参照値Xref・・を電動モータ20に印加する電流参照値Irefに変換する電流-加速度変換器であり、22は、電流参照値Irefに見合う力Fを発生する電流-力変換器である。このモータ自身の力Fと外乱力Fdisとの差が、便宜的に記された減算器23によって電動モータ20より発生する全ての力となり、これが力-加速度変換器24により加速度応答値Xres・・に変換され出力される。なお、電流-力変換器22,減算器23および力-加速度変換器24は、独立した構成として設けられている訳ではなく、モータ自身に備えられている。また、添え字のnは公称値を意味する。
【0021】
前記電動モータ20により発生する全ての力は、モータの運動方程式と呼ばれており、次の数1にてあらわされる。
【0022】
【数1】
JP0004876246B2_000002t.gif

【0023】
ここで、Mはアクチュエータ質量であり、添え字のnは、その値が公称値であることを示している。また、電流-力変換器22は電動モータ20自体の特性として備えられており、電流参照値Irefと推進力定数(トルク定数)Kとの積が、モータ自身の力Fとなる(F=K・Iref)。
【0024】
こうした一般的な電動モータ20を備えたマスタ1,2やスレーブ5に対して、図1に示すような外乱オブザーバ11,12,15が各々付加される。これらの外乱オブザーバ11,12,15は、前記電流参照値(指令値)Irefと、検出されるモータ速度とに基づき、モータに加わる力(外乱力Fdis)を可能な限り迅速に推定する機構であり、加速度次元でシステムとしてのロバスト性を確保するために用いられている。ここで、モータに加わる外乱Fdisは、次の数2のようにあらわされる。
【0025】
【数2】
JP0004876246B2_000003t.gif

【0026】
上記数2において、Fは重力であり、Fintは内部干渉力であり、Fはクーロン摩擦であり、Dxは粘性摩擦であり、Fextは外部入力であり、記号の後にある添え字は公称値を意味する。また、右辺の第一項は電動モータ20自身の慣性変動であり、第二項は力の脈動を意味する。
【0027】
図3は、上記数2に示すような外乱の推定値^Fdis(以下、数式や図以外では、この推定値をあらわす「^」を、対応する記号の前に併記する。)を出力する外乱オブザーバ11,12,15のブロック線図を示している。当該外乱オブザーバ11,12,15は、電動モータ20への電流参照値Irefを力(トルク)単位の第1信号に変換し、この変換した信号と電動モータ20の速度応答値Xとに基づいて、外乱の推定値^Fdisを算出し出力するものである。また、実際の電動モータ20は、前記加速度応答値Xres・・に見合う位置xを出力するものなので、ここでは便宜上、1/sの積分器26,27を2段組み込んでいる。前記速度応答値Xは、位置検出手段(例えばリニアエンコーダやロータリエンコーダ)により得られる電動モータの位置xを、1階微分することで得ているので、この位置検出手段により発生する高域ノイズを低減させるために、外乱オブザーバ11,12,15には、ローパスフィルタ29が組み込まれる。すなわち、電動モータ20への外乱Fdisは、次の数3のような一次のローパスフィルタ29を介して推定される。
【0028】
【数3】
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【0029】
上記数3において、gdisはローパスフィルタ29のカットオフ周波数を意味する。この数3における外乱推定値^Fdisを、補償電流として電動モータ20の入力にフィードバックすれば、図3に示す外乱オブザーバ11,12,15によって、加速度次元でロバスト性を確保することが可能になる。
【0030】
図4は、図3と等価なロバスト加速度制御システムを示したものである。この制御システムは、外乱Fdisを推定する推定手段30を有し、数4に示す感度関数Gによる影響を受ける。
【0031】
【数4】
JP0004876246B2_000005t.gif

【0032】
この感度関数Gは、外乱Fdisがどのように制御システムに影響を与えるのかを示す感度に相当するもので、外乱Fdisの角周波数が数4に示すカットオフ周波数gdisを超えると、制御システムが外乱力の影響を受けるようになる。こうした外乱オブザーバ11,12,15を用いることで、マスタ1,2やスレーブ5に加わる外力(外乱Fdis)のみを推定することが可能になる。
【0033】
図1に戻り説明すると、31は、マスタ1,2とスレーブ5との間の作用・反作用を制御する力サーボであり、41~43は、マスタ1,2とスレーブ5との間の位置偏差を吸収調整する第1~第3の位置レギュレータである。また、マスタ1,2およびスレーブ5のそれぞれには、自身に加えられる反力トルクを観測する第1~第3の反力トルクオブザーバ51~53が個々に設けられる。これらの力サーボ31と位置レギュレータ41~43は、マスタ1,2およびスレーブ5を制御するために、マスタ1,2やスレーブ5が置かれる実空間とは区別された仮想空間に設計される。
【0034】
第1反力トルクオブザーバ51は、第1マスタ1に対する操作者入力を反力トルクとして推定するもので、この推定した操作者入力は力-加速度変換器55によって加速度値Xm1F・・に変換され、加算器59に出力される。また、第2反力トルクオブザーバ52は、第2マスタ2に対する操作者入力を推定するもので、この推定した操作者入力は別な力-加速度変換器56によって加速度値Xm2F・・に変換され、加算器59に出力される。さらに、第3反力トルクオブザーバ52は、環境3の反力を推定して、この推定した反力はさらに別な力-加速度変換器57によって加速度値XF・・に変換され、加算器59に出力される。加算器59は、各加速度値Xm1F・・,Xm2F・・,XF・・の加算値を、仮想空間にある前記力サーボ31に出力する。すなわち、ここでの加算器59は、加速度次元情報の加算値を和モードの加速度応答値Xcmd・・として生成する和モード生成手段としての機能を果たす。
【0035】
力サーボ31は、前記加算器59からの和モードの加速度応答値Xcmd・・に基づき、マスタ1,2およびスレーブ5が作用・反作用の法則を満たすような加速度参照値Xm1refF・・,Xm2refF・・,XrefF・・を、マスタ1,2およびスレーブ5に対応した加算器61~63にそれぞれ出力するものである。この力サーボ31は、仮想空間での加速度応答値Xcmd・・と参照値Xref・・との差を減算器35で算出し、これにより得られた算出結果と、ゲイン調整器36による力ゲインCfとの積算を、仮想空間から第1マスタ1,第2マスタ2およびスレーブ5のそれぞれに対する実空間の力指令値が、加速度参照値Xm1refF・・,Xm2refF・・,XrefF・・として出力するように構成されている。
【0036】
一方、71は、前記マスタ1,2およびスレーブ5からの実信号の位置応答値として、加速度応答値Xm1P・・,Xm2P・・,XP・・を入力とし、2つの加速度応答値Xm1P・・,Xm2P・・,XP・・の間の差を、内蔵する変換行列Tによりそれぞれ算出して、これを差モードの加速度応答値Xd(1-2)・・,Xd(2-3)・・,Xd(3-1)・・として仮想空間に出力する差モード生成手段としての行列変換器である。前記第1~第3の位置レギュレータ41~43は、行列変換器71からの各加速度応答値Xd(1-2)・・,Xd(2-3)・・,Xd(3-1)・・に基づき、第1マスタ1,第2マスタ2およびスレーブ5のそれぞれにおける位置変位をゼロにするために、仮想空間からの加速度次元での位置指令値を生成するもので、マスタ1,2による差モードの加速度応答値Xd(1-2)・・と、第1位置レギュレータ41のゲイン調整器46による位置ゲインCpとの積により、第1位置指令値が生成され、マスタ2とスレーブ5による差モードの加速度応答値Xd(2-3)・・と、第2位置レギュレータ42のゲイン調整器47による位置ゲインCpとの積により、第2位置指令値が生成され、スレーブ5とマスタ1による差モードの加速度応答値Xd(3-1)・・と、第3位置レギュレータ43のゲイン調整器48による位置ゲインCpとの積により、第3位置指令値が生成されるようになっている。
【0037】
72は、前記仮想空間からの第1~第3の位置指令値を、前記変換行列Tの逆行列Tinvを利用して、第1マスタ1,第2マスタ2およびスレーブ5に対する実空間の位置指令値に、加速度参照値Xm1refP・・,Xm2refP・・,XrefP・・として変換し、前記加算器61~63に出力する逆変換手段としての逆行列変換器である。そして、第1加算器61は、第1位置指令値である加速度参照値Xm1refP・・と、第1力指令値である加速度参照値Xm1refF・・との和を、第1マスタ1への目標値として当該第1マスタ1に出力し、第2加算器62は、第2位置指令値である加速度参照値Xm2refP・・と、第2力指令値である加速度参照値Xm2refF・・との和を、第2マスタ2への目標値として当該第2マスタ2に出力し、第3加算器63は、第3位置指令値である加速度参照値Xm3refP・・と、第1力指令値である加速度参照値Xm1refF・・との和を、スレーブ5への目標値として当該スレーブ5に出力する。つまりここでは、逆行列変換器72および第1~第3の加算器61~63が、仮想空間で生成された力サーボ31からの加速度次元での力指令値と、第1~第3の位置レギュレータ41~43からの加速度次元での位置指令値とを統合し、実空間にあるマスタ1,2およびスレーブ5に、加速度次元での目標値に変換出力する統合変換手段75を構成している。
【0038】
次に、上述したシステム構成のマルチラテラル制御系を理解するために、マルチラテラルシステムの最小単位であるバイラテラルシステムを基にして、本実施例独自の設計手法を説明する。
【0039】
図5は、マスタが1台の場合のシステム概念図を示している。本実施例では、上述したような和モードや差モードのモード分解によって、バイラテラル制御を実現しており、力帰還型や並列型などといった従来の設計法とは異なる。同図において、操作者ロボットをマスタ1とし、環境と接触するロボットをスレーブ5とする時、環境のインピーダンスZを正確に再現するためには、マスタ1およびスレーブ5の位置および力の各情報を一致させる必要がある。マスタ1の位置をxとし、スレーブの位置をxとし、マスタ1に生じる操作者の入力すなわち作用力と、それを受けて環境3から発生する反力とを、それぞれF,Fと定義すると、バイラテラル制御の最終的な目標は、次の数5および数6であらわせる。
【0040】
【数5】
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【0041】
【数6】
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【0042】
上記数5は、操作者の入力と環境からの反力が一致すべきであることを意味し、また数6はマスタ1およびスレーブ5の位置偏差が0であることを意味する。バイラテラル制御においては、この二つの目標を同時に満たす必要があり、本実施例では、それぞれの式を加速度次元で統合している。数7および数8は、上記数4および数5の2つの式を加速度次元に直したものであり、数7のx・・とx・・は、それぞれ操作者入力と環境3からの反力を意味し、数8のx・・とx・・は、マスタ1の位置とスレーブ5の位置を意味している。また、数8の「→」は、矢印に向けた値に近づくという意味である。
【0043】
【数7】
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【0044】
【数8】
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【0045】
ここで、数7および数8は、加速度次元情報の和,差で計算されており、それぞれ和のモード,差のモードとして表現される。それぞれの仮想空間において、和のモードの制御器(図1に示す加算器59)と、差のモードの制御器(図1に示す行列変換器71)を設計することができ、数9に示すような2次のアダマール行列Hを有する変換式を利用することで、実空間から仮想空間への変換が可能になる。
【0046】
【数9】
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【0047】
ここで、x・・とx・・は、それぞれ和のモードの加速度応答と、差のモードの加速度応答を意味する。数7に示す和のモードは、作用・反作用の法則を満たす力サーボにより構成されている。力サーボにおける和のモードのブロック線図を、図6に示す。システムへの入力は外乱として入力されるため、外乱オブザーバ(図1に示す反力トルクオブザーバ51~53)によって、推定された反力情報を用いる。数8に示す差のモードは、位置変位(偏差)をゼロにするための位置レギュレータによって構成されている。バイラテラル制御の場合、1台のマスタ1と1台のスレーブ5だけで構成されるので、差のモードは1つだけとなり、位置レギュレータも1台あればよい。図7は、バイラテラル制御における位置レギュレータのブロック線図を示したものである。
【0048】
本実施例では、力サーボおよび位置レギュレータを加速度次元で統合してバイラテラル制御を構成しており、上記数8に示す変換のためのアダマール行列Hを通して、力および位置に関する仮想空間での加速度参照値xref・・,xdref・・が得られる。
【0049】
【数10】
JP0004876246B2_000011t.gif

【0050】
【数11】
JP0004876246B2_000012t.gif

【0051】
数10は和のモードの制御器すなわち力サーボ機構を示しており、ここにあるCは力サーボのゲインである。また、数11は差のモードの制御器すなわち位置レギュレータを示しており、Cは位置レギュレータのゲインである。各ロボット(マスタ1およびスレーブ5)に対する加速度参照値を生成するために、力サーボと位置レギュレータは加速度次元で統合されるが、和のモードと差のモードはお互いに線形独立を保っているので、その応答が相互に干渉することはなく、それぞれの制御器を独立に設計することができる。それぞれの仮想空間で得られた力と位置に関する各加速度参照値は、アダマール逆行列H-1によって実空間のマスタ1およびスレーブ5への各加速度参照値として再び統合される。マスタ1の加速度参照値xref・・と、スレーブ5の加速度参照値xref・・は、次の数12のように算出される。
【0052】
【数12】
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【0053】
次に、上記バイラテラル制御を拡張したマルチラテラル制御の設計手法について説明する。図1に示す実施例では、マルチラテラル制御法を検証するために、マスタ1,2とスレーブ5からなる3台のロボットを考慮している。マルチラテラル制御の概念図は図8のように表せる。これは、個々のロボットが位置の応答(位置応答値xcmd)および(力応答値Fcmd)に関して互いに影響しあっていることを示している。マルチラテラル制御は、ロボットの数が増える程その構造がより複雑になるが、加速度制御に基づくモード分解によって、前述したバイラテラル制御と同様に、和のモードおよび差のモードの2つに分解できる。和のモードは合計値であるため、ロボットの数が増えても1つだけ存在するが、差のモードはマルチラテラル制御系の場合、ロボットの数だけ存在するので、ここでは3つ存在することになる。マルチラテラル制御の理想的な応答目標は、バイラテラル制御の場合と同様で、以下の数13および数14のようにあらわすことができる。
【0054】
【数13】
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【0055】
【数14】
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【0056】
ここで、数13はマルチラテラル制御における和のモード(図1に示す力サーボ31)の目標応答であり、数14は差のモード(図1に示す位置レギュレータ41~43)の目標応答である。マルチラテラル制御法においても、これらの2つのモードの各式を同時に満たすために、それぞれの式を加速度次元に変換する。この数13と数14の式は、和のモードの加速度参照値xref・・と、差のモードの加速度参照値xdref・・として、次の数15および数16のようにそれぞれ記述することができる。
【0057】
【数15】
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【0058】
【数16】
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【0059】
上記数16のTは、行列変換器71に適用される変換行列を示している。ここでは最も一般的な変換行列Tを適用しているが、この変換行列Tの要素は容易に設定変更することが可能で、3台のロボットのスケーリングを決めることが可能になる。数13を和のモードの参照値として考えた場合、和のモードの制御器は次の数17のようにあらわせる。従って、マルチラテラル制御における和のモードのブロック線図は、図9のように表現できる。差のモードも同様にコントローラは次の数18のようにあらわされ、ブロック線図は図10のように表現できる。
【0060】
【数17】
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【0061】
【数18】
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【0062】
こうして、複数台のマスタおよび1台乃至複数台のスレーブから、外乱オブザーバを通して得られる力や位置の情報を、仮想空間で設計した力サーボや位置レギュレータにより加速度次元で統合することにより、システムのロバスト性を確保しつつ、力と位置に関する触覚情報を、これらのマスタやスレーブで共有することが可能になる。
【0063】
ところで、上記マルチラテラル制御では、3台のロボットからそれぞれ違う入力があったとしても、制御系の構成上全てのロボットは全く同じ動作をする。しかし,2Nの力で4mmの位置変位と、4Nの力で4mmの位置変位では、感じる硬さが若干異なる。つまり、触覚情報分離の観点からすれば、2人の操作者が1台のスレーブロボットを動かして環境を触る際に、全てのロボットが全く同じ位置変位をするので、操作者の入力に対する反力が得られない。
【0064】
このような点を考慮して、本実施例では、操作者の入力に応じた個別の位置変位を実現するために、IR(Identity Ratio:アイデンティティー比)を導入する。このIRは、マスタ全体の入力に対する自身の入力の比率を示す指数(貢献度)であり、図1に示すシステムでは、α,β(または1/α,1/β)がIRに対応する。IRは、1つのマスタに着目した場合に、全てのマスタに加わる反力の合計値と、そのマスタの反力との比を表しており、具体的に図1に示す例では、自身の反力トルクオブザーバ51で推定されるマスタ1の反力Fm1reacと、反力トルクオブザーバ52で推定されるマスタ2の反力Fm2reacとに基づき、次の数19にて算出され、本実施例では、操作者からの各入力が所定値以上(例えば1N)の場合に有効となるように構成される。
【0065】
【数19】
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【0066】
上記数19におけるαやβの値は、推定された反力Fm1reac,Fm2reacがいわば変数の一種であることから、IRは時々刻々リアルタイムに更新される。また、次の数20,数21は実空間と仮想空間とを変換するための変換行列であり、これらの行列は、実空間から仮想空間(数20)、または仮想空間から実空間(数21)への変換を簡素化する。
【0067】
【数20】
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【0068】
【数21】
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【0069】
そして、図1に示すように、第1マスタ1の位置指令値に相当する加速度応答値Xm1P・・と、第1マスタ1の反力(Fm1reac)に対する全てのマスタ1,2に加わる全反力(Fm1reac+Fm2reac)の比であるαとを乗じて、行列変換器71に出力するIR積算器83を設けると共に、第2マスタ2の位置指令値に相当する加速度応答値Xm2P・・と、第2マスタ2の反力(Fm2reac)に対する全てのマスタ1,2に加わる全反力(Fm1reac+Fm2reac)の比であるβとを乗じて、行列変換器71に出力する別のIR積算器84を設けることで、マスタ1,2におけるそれぞれの反力に応じた実空間からの位置指令値が、行列変換器71で仮想空間に変換される。また、逆行列変換器72により仮想空間から実空間への加速度参照値に変換する際にも、特に第1マスタ1に対する加速度参照値Xm1refP・・を前記αで除算した値が、IR除算器81によって加算器61に出力され、同様に第2マスタ2に対する加速度参照値Xm2refP・・を前記βで除算した値が、IR除算器82によって加算器62に出力されるようになっている。これにより、操作者からの各入力に対するそれぞれの位置応答が実現でき、通信におけるクロストークを除去して、各マスタ1,2毎の触覚情報の分離が可能になる。
【0070】
図11は、前記IRによる計算処理過程をあらわすブロック図である。同図において、実空間で各マスタ1,2の加速度応答値Xm1P・・,Xm2P・・が、IR積算器83,84によって各々α,βと積算され、この積算値が実空間からの位置指令値として行列変換器71に出力される。各マスタ1,2からの位置応答にIRを積算すると、マスタ1,2への各々の入力に従った位置変位量を生成できる。行列変換器71は、実空間から仮想空間への差モードを生成し、それぞれの差モードにおいて、位置レギュレータ41~43による位置偏差を吸収調整する制御が行なわれる。
【0071】
また、位置レギュレータ41~43で調整された仮想空間からの位置応答値は、逆行列変換器72によって実空間の加速度参照値Xm1refP・・,Xm2refP・・に変換され、これらの加速度参照値Xm1refP・・,Xm2refP・・を前記α,βでそれぞれ除算した値が、IR除算器81,82によって各マスタ1,2にフィードバックされる。すなわち、前記差モードを使用する場合に、IRを位置参照値に導入するだけでは、各位置レギュレータ41~43において、位置偏差=0の条件を満足できない。そこで、IRの逆数と仮想空間からの位置応答値との積をIR除算器81,82で計算すると、仮想空間における条件を満足できる。こうした一連の制御により、触覚情報の共有と分離が実現可能になる。
【0072】
以上のように、本実施例では、操作者により操作される複数台のマスタ1,2と、この操作者によるそれぞれのマスタ1,2の操作に応じて動作する一台以上のスレーブ5とを備えた触覚制御装置において、マスタ1,2およびスレーブ5に加わるそれぞれの外力を推定する第1外乱オブザーバ11,12,15と、加速度次元で当該マスタ1,2および当該スレーブ5を個々に制御するために、前記外力の推定値をマスタ1,2およびスレーブ5の入力にそれぞれフィードバックするフィードバック部と、マスタ1,2およびスレーブ5からの各位置応答を、実空間における第1加速度応答値Xm1P・・,Xm2P・・,XP・・としてそれぞれ取得し、その中で選択される2つの第1加速度応答値Xm1P・・,Xm2P・・,XP・・の差を各々算出して、仮想空間に変換出力する差モード生成手段としての行列変換器71と、マスタ1,2およびスレーブ5の各反力を推定し、実空間におけるそれぞれの力応答を第2加速度応答値Xm1F・・,Xm2F・・,XF・・として出力する第2外乱オブザーバ51,52,53と、各々の第2加速度応答値Xm1F・・,Xm2F・・,XF・・を加算して仮想空間に出力する和モード生成手段としての加算器59と、仮想空間に設けられ、行列変換器71からの出力に基づいて、マスタ1,2およびスレーブ5の位置変位をそれぞれゼロにするために、加速度次元での位置指令値を各々生成する位置コントローラとしての位置レギュレータ41~43と、仮想空間からの前記位置指令値を、実空間におけるマスタ1,2およびスレーブ5への第1加速度参照値Xm1refP・・,Xm2refP・・,XrefP・・にそれぞれ変換して出力する逆変換手段としての逆行列変換器72と、仮想空間に設けられ、加算器59からの出力に基づいて、マスタ1,2およびスレーブ5が作用・反作用の法則を満たすような力応答に見合う第2加速度参照値Xm1refF・・,Xm2refF・・,XrefF・・を、マスタ1,2およびスレーブ5にそれぞれ出力する力コントローラとしての力サーボ31と、を備えている。
【0073】
これにより、第1外乱オブザーバ11,12,15と第2外乱オブザーバ51,52,53によって、マスタ1,2およびスレーブ5を加速度次元で制御することにより、システムのロバスト性を確保しつつ、マスタ1,2およびスレーブ5の位置変位をそれぞれゼロにする位置制御と、マスタ1,2およびスレーブ5が作用・反作用の法則を満たすような力制御を、仮想空間上で各々独立して行なうことが可能になる。そのため、それまでマスタとスレーブが1対1のシステムでしか実現し得なかった触角共有制御を、2台以上のマスタ1,2と1台以上のスレーブ5とにより実現することが可能になる。
【0074】
なお、この場合は第1~第3の反力トルクオブザーバ51~53と、外乱オブザーバ11,12,15は、図1に示すように別体に構成するのが好ましいが、一体に構成してもよい。
【0075】
そしてこれは、複数台のマスタ1,2と、一台以上のスレーブ5とを備え、操作者によるそれぞれのマスタ1,2の操作に応じて動作するように、環境3に接触するスレーブ5を制御する触覚制御方法において、第1外乱オブザーバ11,12,15によりマスタ1,2およびスレーブ5に加わるそれぞれの外力を推定し、その推定値をマスタ1,2およびスレーブ5の入力にそれぞれフィードバックすることで、加速度次元でマスタ1,2およびスレーブ5を個々に制御するステップを備え、マスタ1,2およびスレーブ5からの各位置応答を、実空間における第1加速度応答値Xm1P・・,Xm2P・・,XP・・としてそれぞれ取得し、その中で選択される2つの第1加速度応答値Xm1P・・,Xm2P・・,XP・・の差を各々算出して、仮想空間に変換出力する差モード生成のステップと、仮想空間に設けられ、差モード生成のステップからの出力に基づいて、マスタ1,2およびスレーブ5の位置変位をそれぞれゼロにするために、加速度次元での位置指令値を各々生成する位置制御のステップと、仮想空間からの位置指令値を、実空間におけるマスタ1,2およびスレーブ5への第1加速度参照値Xm1refP・・,Xm2refP・・,XrefP・・にそれぞれ変換して出力するステップと、を行ないながら、第2外乱オブザーバ51,52,53によりマスタ1,2およびスレーブ5の各反力を推定し、実空間におけるそれぞれの力応答を第2加速度応答値Xm1F・・,Xm2F・・,XF・・として出力するステップと、各々の第2加速度応答値Xm1F・・,Xm2F・・,XF・・を加算して仮想空間に出力する和モード生成のステップと、仮想空間に設けられ、和モード生成のステップからの出力に基づいて、マスタ1,2およびスレーブ5が作用・反作用の法則を満たすような力応答に見合う第2加速度参照値Xm1refF・・,Xm2refF・・,XrefF・・を、マスタ1,2およびスレーブ5にそれぞれ出力する力制御のステップと、を行なう方法でも、同様に実現可能である。
【0076】
また本実施例は、マスタ1,2からの前記実空間における第1加速度応答値Xm1P・・,Xm2P・・,XP・・に、そのマスタ1,2の反力推定値に対する全てのマスタ1,2の反力推定値の比(α,β)を乗じたIR乗算値を、各マスタ1,2に対応して各々行列変換器71に出力するIR演算手段としてのIR積算器83,84を備え、行列変換器71は、IR積算器83,84からの各々のIR乗算値と、スレーブ5からの第1加速度応答値XP・・の中で、2つの値の差を各々算出して仮想空間に変換出力するものであると共に、マスタ1,2への第1加速度参照値Xm1refP・・,Xm2refP・・,XrefP・・に、全てのマスタ1,2の反力推定値に対するそのマスタ1,2の反力推定値の比(1/α,1/β)を乗じた値を、当該マスタ1,2に出力するIR逆演算手段としてのIR除算器81,82を備えている。
【0077】
この場合、同じ力でも位置偏差の違いは触った時に違う硬さを生じることから、操作者の入力に応じた個別の位置変化を実現するために、マスタ1,2からの実空間における第1加速度応答値Xm1P・・,Xm2P・・,XP・・に、そのマスタ1,2の反力推定値に対する全てのマスタ1,2の反力推定値の比(α,β)を乗じたIR乗算値を各マスタ1,2毎に算出すると共に、マスタ1,2に第1加速度参照値Xm1refP・・,Xm2refP・・,XrefP・・を出力する際に、この第1加速度参照値Xm1refP・・,Xm2refP・・,XrefP・・に、全てのマスタ1,2の反力推定値に対するそのマスタ1,2の反力推定値の比(α,β)を乗じた値を各マスタ毎に算出する。これにより、各マスタ間で触覚情報の分離制御が可能になり、通信におけるクロストークの除去が可能になる。
【0078】
そしてこれは、マスタ1,2からの前記実空間における第1加速度応答値Xm1P・・,Xm2P・・,XP・・に、そのマスタ1,2の反力推定値に対する全てのマスタ1,2の反力推定値の比(α,β)を乗じたIR乗算値を、各マスタ1,2に対応して各々行列変換器71に出力する演算ステップをさらに行ない、前記差モード生成のステップで、IR積算器83,84からの各々のIR乗算値と、スレーブ5からの第1加速度応答値XP・・の中で、2つの値の差を各々算出して仮想空間に変換出力すると共に、マスタ1,2への第1加速度参照値Xm1refP・・,Xm2refP・・,XrefP・・に、全てのマスタ1,2の反力推定値に対するそのマスタ1,2の反力推定値の比(1/α,1/β)を乗じた値を、当該マスタ1,2に出力する逆演算ステップをさらに行なう方法でも実現可能である。
【0079】
次に、上記手法の有効性を検討するために、シミュレーションを行なった結果を説明する。このシミュレーションでは、2人の操作者が、各々のマスタ1,2から同時にスレーブ5を操作して、環境3に接触させる実験を行なった。環境3には仮想の壁を想定しており、壁モデルのパラメータを含むシミュレーションのパラメータは、次の表1に示すとおりである。
【0080】
【表1】
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【0081】
上記表1において、推進力定数Kの単位はN/A,モータ質量の単位はKg,粘性Dの単位はN/m/s,剛性Kの単位はN/mである。
【0082】
図12は、シミュレーション結果を示すグラフで、図12(a)は時間経過に伴う力応答を示し、図12(b)はその力応答に対する位置応答を示している。この図12(b)は、上記IRを用いていない場合の位置応答を示しており、各マスタ1,2およびスレーブ5において、全ての位置応答が一致しているのが確認できる。そのため、この場合は、操作者に応じた個別の位置変位を実現できていない。一方、図12(d)は、図12(c)の力応答に対する位置応答であり、マスタ1,2からの各入力に対する位置応答が実現できている。
【0083】
次に、図13に示すマルチラテラル制御システムを用いた実験について、説明する。このシステムは、マスタ1,2とスレーブ5からなる3台のロボットにより構成され、これらのロボットは、何れも直線運動を行なうリニアアクチュエータ91を備えている。当該リニアアクチュエータ91は基台92に対して可動可能な可動部93を備えたリニアモータ94を有する。また、各リニアアクチュエータ91の位置偏差を、位置検出手段であるリニアエンコーダ95により検出する。リニアエンコーダ95の分解能は0.1μmであり、またそのサンプリング周波数は100μsecである。リニアモータ94の定格推力,モータ質量,推進力定数は、それぞれ2.7N,0.27kg,3.33である。
【0084】
実験は、最初に第2マスタ2を動かして、スレーブ5を環境3に接触させる。次に第1マスタ1の入力を加え、第1マスタ1および第2マスタ2により環境3に接するスレーブ5を動作させる。実験結果を図14~図18に示す。これらの各図に示すように、実験は、I,II,IIIからなる3つの領域に分けられる。第1領域Iは、マスタ1,2からの入力がないゼロ入力領域であり、第2領域IIは、1台の第2マスタ2による環境3への接触領域であり、第3領域IIIは、2台のマスタ1,2による環境3への接触領域である。図14は力応答の特性を示し、図15は入力に対するIRの応答特性を示している。第2領域IIにおいては、第1マスタ1の入力は0であり、第2マスタ2の入力の大きさに関係なく、当該第2マスタ2のIR(1/β)は1となる。また、第3領域IIIにおいては、第1マスタ1および第2マスタ2の入力が1Nを超えるため、各入力に応じて、IRが変動している。1/α,1/βの各値は、入力の総和を分母として計算するので、IRが有効な領域であれば、その和は1になる。また、IRは数19に示すように、マスタ1,2への入力に対する比率で計算されるため、スレーブ5には適用しない。IRはゼロ入力領域(第1領域I)において無効になるので、情報分離が行われるのは少なくとも一つのマスタ1から入力が行なわれた第2領域II及び第3領域IIIになる。図16は実空間での位置応答を示しており、また図17は仮想空間での位置応答を示している。実空間ではそれぞれの入力に応じた位置応答を示しており、IRによる情報の分離機能が確認できる。しかし、図17に示すように仮想空間においては全ての位置応答は一致しており、モード制御理論が破綻していない事を示している。図18(a)は和のモードにおける力応答を示しており、また図18(b)~(d)は、スレーブ5と第1マスタ1間,第1マスタ1と第2マスタ2間,および第2マスタ2とスレーブ5間の各差のモードにおける位置応答を示している。それぞれの位置応答はほぼゼロを示し、2つのコントローラ(力サーボ31および位置レギュレータ41~43)が正確に動作していることを示している。
【0085】
このように、本実施例で提案したマルチラテラル制御による触覚制御方法とその装置において、システムを設計する際に外乱オブザーバに基づく加速度制御を行うことにより、力サーボ31と位置レギュレータ41~43の独立制御が可能になる。また、複数マスタ1,2による1台のスレーブ5の接触動作シミュレーション及び実験を行った結果、提案したアイデンティティー比(Identity Ratio,:IR)を新たに導入することで、マスタ1,2への入力に応じた環境3の硬さを各マスタ1,2で再現する事が可能になった。また、スレーブ5の台数は無限に拡張可能であり、触覚メディアを念頭に置いた本発明の有効性を確認することができた。
【0086】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲において種々の変形実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本実施例で提案するマルチラテラル制御による触覚制御方法と触覚制御装置は、加速度制御に基づいて作用・反作用の法則を遠隔地で複数のシステム間において人工的に再現するもので、その新規性は高い。これまで1対1でのバイラテラル制御システムでしか実現し得なかった触覚共有制御を、複数台で実現が可能になることにより、新たなマルチメディア情報として力覚・触覚情報を扱うことが可能になる。そのため、産業的にもロボットの感覚機能の拡張や工作機械,自動車,遠隔操作といったマン・マシンインターフェイスに画期的な性能改善が予想されるだけでなく、スキル獲得やスキル教育,eビジネスへの展開,新しいハプティックディスプレイによるハプティック放送やハプティック通信等の巨大な産業が立ち上がる可能性も予想できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の好ましい実施例を示す触覚制御装置の制御モデルをあらわしたブロック線図である。
【図2】一般的な電動モータの制御モデルを示すブロック線図である。
【図3】図1に組み込まれる外乱オブザーバの制御ブロック線図である。
【図4】図3と等価なロバスト加速度制御システムのブロック線図である。
【図5】バイラテラル制御におけるシステムの概念図である。
【図6】本実施例で適用するバイラテラル制御における力サーボのブロック線図である。
【図7】本実施例で適用するバイラテラル制御における位置レギュレータのブロック線図である。
【図8】マルチラテラル制御におけるシステムの概念図である。
【図9】マルチラテラル制御における和のモードをあらわすブロック線図である。
【図10】マルチラテラル制御における差のモードをあらわすブロック線図である。
【図11】本実施例におけるマルチラテラル制御の触覚情報分離過程をあらわすブロック図である。
【図12】シミュレーションにより得られた力応答と位置応答の比較結果を示すグラフである。
【図13】本実施例におけるマルチラテラル制御システムを用いた実験装置の一例を示す斜視図である。
【図14】本実施例に基づく実験装置による時間と力応答の特性を示すグラフである。
【図15】本実施例に基づく実験装置による時間とIRの特性を示すグラフである。
【図16】本実施例に基づく実験装置による実空間での時間と位置の特性を示すグラフである。
【図17】本実施例に基づく実験装置による仮想空間での時間と位置の特性を示すグラフである。
【図18】本実施例に基づく実験装置による和のモードと差のモードの各特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0089】
1 第1マスタ(マスタ)
2 第2マスタ(マスタ)
3 環境
5 スレーブ
11,12,15 第1外乱オブザーバ
31 力サーボ(力コントローラ)
41~43 位置レギュレータ(位置コントローラ)
51,52,53 反力トルクオブザーバ(第2外乱オブザーバ)
59 加算器(和モード生成手段)
71 行列変換器(差モード生成手段)
81,82 IR除算器(IR逆演算手段)
83,84 IR積算器(IR演算手段)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
14
【図16】
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【図17】
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【図18】
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