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明細書 :触覚の解析方法および触覚の解析装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5211580号 (P5211580)
公開番号 特開2009-047504 (P2009-047504A)
登録日 平成25年3月8日(2013.3.8)
発行日 平成25年6月12日(2013.6.12)
公開日 平成21年3月5日(2009.3.5)
発明の名称または考案の名称 触覚の解析方法および触覚の解析装置
国際特許分類 G01L   5/00        (2006.01)
FI G01L 5/00 101Z
請求項の数または発明の数 22
全頁数 29
出願番号 特願2007-212693 (P2007-212693)
出願日 平成19年8月17日(2007.8.17)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2007年3月6日~2007年3月7日に開催された社団法人電気学会主催の電気学会研究会
審査請求日 平成22年8月3日(2010.8.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
発明者または考案者 【氏名】大石 潔
【氏名】桂 誠一郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100080089、【弁理士】、【氏名又は名称】牛木 護
【識別番号】100137800、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 正義
【識別番号】100119312、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 栄松
審査官 【審査官】公文代 康祐
参考文献・文献 特開2003-262582(JP,A)
特開2002-159509(JP,A)
実開平04-019786(JP,U)
特開2006-220651(JP,A)
特開2005-351675(JP,A)
特開平08-005479(JP,A)
特開2004-085297(JP,A)
特開2004-163166(JP,A)
特開平06-209902(JP,A)
特開2003-345496(JP,A)
調査した分野 G01L 5/00
G01L 5/22
G01N 19/00
B25J 19/02
A61B 19/00
特許請求の範囲 【請求項1】
環境との接触動作に応じて作動するアクチュエータを備え、
前記アクチュエータは、1台以上のマスターシステムおよび2台以上のスレーブシステムをネットワークで接続してなり、前記環境との接触動作における作用力を前記マスターシステムで受けると、この作用力に伴う反作用力を、前記ネットワークを介して前記スレーブシステムで生成するようになっており、
ある時間にどのような反作用力が生じているのかを、前記環境との接触動作により生じた時系列な力の触覚情報として取得し、
前記取得した前記触覚情報を時間領域で解析処理して、前記触覚情報に含まれる時間と力との関係を、周波数と振幅との関係を示す周波数分析データに変換し、
この周波数分析データから前記環境の材質または品質を抽出することを特徴とする触覚の視覚的解析方法。
【請求項2】
前記周波数分析データから、前記抽出した環境の材質または品質を視覚的に表現させることを特徴とする請求項1記載の触覚の解析方法。
【請求項3】
前記アクチュエータから抽出した力によって、前記触覚情報を取得することを特徴とする請求項1または2記載の触覚の解析方法。
【請求項4】
前記アクチュエータが制御手段により制御されているシステムから抽出した力によって、前記触覚情報を取得することを特徴とする請求項1または2記載の触覚の解析方法。
【請求項5】
前記アクチュエータからの力が、位置センサ,速度センサ,加速度センサ,電流センサ,力センサ,トルクセンサ,または歪みゲージを用いて抽出されることを特徴とする請求項3または4記載の触覚の解析方法。
【請求項6】
前記アクチュエータからの力が、外乱オブザーバにより抽出されることを特徴とする請求項3または4記載の触覚の解析方法。
【請求項7】
前記周波数分析データと前記環境の材質または品質とを関連付けた関連付けデータを、当該環境の材質毎または品質毎に記憶手段に記憶させることを特徴とする請求項1~6の何れか一つに記載の触覚の解析方法。
【請求項8】
前記解析処理が行なわれると、この比較対象となる周波数分析データと前記記憶手段から読み出される関連付けデータの周波数分析データとを比較し、前記比較対象となる周波数分析データに一致または類似する前記環境の材質または品質を、前記関連付けデータから特定することを特徴とする請求項7記載の触覚の解析方法。
【請求項9】
前記取得した触覚情報をフーリエ変換またはウェーブレット変換またはコサイン変換により時間領域で解析処理することを特徴とする請求項1~8の何れか一つに記載の触覚の解析方法。
【請求項10】
前記周波数分析データを位置領域で解析処理し、
この位置領域の解析処理が、有限要素法により行なわれ、離散的な各位置の前記周波数分析データを連続して補間する機能を有することを特徴とする請求項1~9の何れか一つに記載の触覚の解析方法。
【請求項11】
前記記憶手段に記憶される関連付けデータから、前記周波数分析データを検索対象として前記環境の材質または品質を特定する逆引き機能を備えたことを特徴とする請求項記載の触覚の解析方法。
【請求項12】
環境との接触動作に応じて作動するアクチュエータを備え、
前記アクチュエータは、1台以上のマスターシステムおよび2台以上のスレーブシステムをネットワークで接続してなり、前記環境との接触動作における作用力を前記マスターシステムで受けると、この作用力に伴う反作用力を、前記ネットワークを介して前記スレーブシステムで生成する構成を有し、
ある時間にどのような反作用力が生じているのかを、前記環境との接触動作により生じた時系列な力の触覚情報として取得する入力手段と、
前記取得した前記触覚情報を時間領域で解析処理して、前記触覚情報に含まれる時間と力との関係を、周波数と振幅との関係を示す周波数分析データに変換する処理手段と、
この周波数分析データから前記環境の材質または品質を抽出する抽出手段と、を備えたことを特徴とする触覚の解析装置。
【請求項13】
前記処理手段は、前記周波数分析データから、前記抽出した環境の材質または品質を視覚的に表現させるものであることを特徴とする請求項12記載の触覚の解析装置。
【請求項14】
前記アクチュエータから抽出した力によって、前記触覚情報を取得する構成としたことを特徴とする請求項12または13記載の触覚の解析装置。
【請求項15】
前記アクチュエータが制御手段により制御されているシステムから抽出した力によって、前記触覚情報を取得する構成としたことを特徴とする請求項12または13記載の触覚の解析装置。
【請求項16】
前記アクチュエータからの力を、位置センサ,速度センサ,加速度センサ,電流センサ,力センサ,トルクセンサ,または歪みゲージを用いて抽出する構成としたことを特徴とする請求項14または15記載の触覚の解析装置。
【請求項17】
前記アクチュエータからの力を抽出する外乱オブザーバを備えたことを特徴とする請求項14または15記載の触覚の解析装置。
【請求項18】
前記周波数分析データと前記環境の材質または品質とを関連付けた関連付けデータを、当該環境の材質毎または品質毎に記憶手段に記憶させる構成としたことを特徴とする請求項12~17の何れか一つに触覚の解析装置。
【請求項19】
前記解析処理が行なわれると、この比較対象となる周波数分析データと前記記憶手段から読み出される関連付けデータの周波数分析データとを比較し、前記比較対象となる周波数分析データに一致または類似する前記環境の材質または品質を、前記関連付けデータから特定する判別手段をさらに備えたことを特徴とする請求項18記載の触覚の解析装置。
【請求項20】
前記処理手段は、前記取得した触覚情報をフーリエ変換またはウェーブレット変換またはコサイン変換により時間領域で解析処理するものであることを特徴とする請求項12~19の何れか一つに記載の触覚の解析装置。
【請求項21】
前記処理手段は、前記周波数分析データを位置領域で解析処理するものであり、
この位置領域の解析処理が、有限要素法により行なわれ、離散的な各位置の前記周波数分析データを連続して補間する機能を有することを特徴とする請求項12~2の何れか一つに記載の触覚の解析装置。
【請求項22】
前記記憶手段に記憶される関連付けデータから、前記周波数分析データを検索対象として前記環境の材質または品質を特定する逆引き手段を備えたことを特徴とする請求項18記載の触覚の解析装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、触覚情報に基づき環境の材質または品質を抽出し得る触覚の解析方法および触覚の解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の持つ感覚のなかで、機械と人間、若しくは遠隔地に存在する人間と人間との間を結ぶ重要な感覚として、視覚,聴覚,触覚が挙げられる。視覚や聴覚に対応する画像や音声の処理技術は、情報通信工学の発展とともにインターフェースとして急速に広まり、産業の基盤技術として欠かせないものとなっている。例えば、写真,テレビ,電話,蓄音機等の発明により、視覚や聴覚に関する情報の伝送や、保存や、再生が可能となり、さらにはビデオカメラやテレビにより、視覚および聴覚情報の放送も可能になった。これは、あたかも人間が持つ視覚や聴覚が、時間と空間を越えたように感じさせることと等価であるといえる。現在では、そうした視覚や聴覚情報の解析や加工を取り扱うディジタル信号処理技術の開発も、日々進歩している。
【0003】
一方、感覚情報の一つを担う触覚情報は、視覚や聴覚の情報に次ぐ新たなマルチメディア情報として、これを伝送して保存し、人工的に再現する技術の開発が求められている。そのため、マスターシステムとスレーブシステムとによるロボットシステム間の遠隔操作や、動かしている位置とその位置での各種情報を触覚を介して表示するようなハプティック(触覚)ディスプレイは、触覚情報を扱う技術として多くの研究が行なわれている。
【0004】
しかしながら、上述した視覚や聴覚に関する情報は受動的で、単方向性の感覚情報であるのに対し、触覚情報は実世界における「作用・反作用の法則」に束縛される双方向性の感覚情報であり、しかも接触対象である環境に能動的に接触することで、初めてその情報が得られるので、モデルベースやヴァーチャルリアリティを応用した触覚情報の再現は行なわれているものの、実世界における触覚情報の取得は困難である。
【0005】
こうした実世界における触覚情報の抽出や再現を行なう実世界ハプティクスとして、例えば非特許文献1には、実世界における遠隔地からのバイラテラル力覚フィードバックの制御手法が提案されている。また別な非特許文献2には、多方向のシステム間で力覚情報のやり取りを可能にするマルチラテラル触覚伝送技術が提案されている。
【0006】
一方、広帯域な実世界環境からの力覚フィードバックを実現するためには、例えば非特許文献3や非特許文献4で提案されているように、システムのロバスト性を失わずに制御剛性をゼロにするための加速度制御が不可欠であり、具体的にな非特許文献5や非特許文献6に開示される外乱オブザーバによる実現手法が広く用いられている。特に非特許文献7では、外乱オブザーバを用いることで広帯域の力覚情報を力覚センサレスで取得できることが開示されており、また外乱オブザーバの広帯域化については、非特許文献8~非特許文献10でも多くの研究提案がなされている。
【0007】
その中で本願発明者らは、非特許文献10において、アクチュエータの位置を検出する位置エンコーダの情報に加えて、アクチュエータの加速度を検出する加速度センサの情報に基づき、当該アクチュエータに加わる外力を推定する位置・加速度統合型の外乱オブザーバを提案し、またそれ以前に特願2006-57614号で出願も行なっている。そして、このような外乱オブザーバによって、1kHz以上の極めて広帯域を有するバイラテラル力覚フィードバックを実現している。
【0008】
このように、実世界における触覚情報の抽出や再現に関し、様々な研究が行なわれているが、そこで取得した触覚情報を視覚的に表現する技術は、生産工学や低侵襲性外科医療の分野で望まれてはいるものの、開発がなされてはおらず、実用化に至っていない。例えば触覚情報を視覚的に表現する一手法として、力覚センサや、非特許文献7で提案された反力推定オブザーバなどで得られたデータを、時系列順に表示することが考えられるが、この場合には接触する環境が、「つるつる」や「ざらざら」するといった定性的な表現でしか評価を行なうことができない。そのため双方向性を有する実世界における触覚情報を扱う基本概念として、触覚情報をより直感的且つ定量的に評価できる装置や方法が求められていた。

【非特許文献1】下野 誠通,桂 誠一郎,大西 公平(T.Shimono,S.Katsura,K.Ohnishi)、「環境モデルに基づく実世界力覚情報再現のための双方向モーションコントロール(Bilateral Motion Control for Reproduction of Real World Force Sensation based on the Environmental Model)」、電気学会 産業応用部門誌(IEEJ Transactions on Industry Applications)、第126-D巻第8号(Vol.126-D,No.8)、pp.1059-1068、2006年8月(August,2006)
【非特許文献2】桂 誠一郎,松本 雄一,大西 公平(S.Katsura,Y.Matsumoto,K.Ohnishi)、「マルチラテラル制御による「作用・反作用の法則」の実現(Realization of "Law of Action and Reaction" by Multilateral Control)」、米国電気電子学会 産業電子工学論文誌(IEEE Transactions on Industrial Electronics)、第52巻第5号(Vol.52,No.5)、pp.1196-1205、2005年10月(October,2005)
【非特許文献3】エイ.サバノヴィチ(A.Sabanovic)「パワーエレクトロニクスおよびモーション制御システムにおけるスライディングモード(Sliding Modes in Power Electronics and Motion Control Systems),米国電気電子学会 第29回産業電子工学学会年次会議論文(Proceedings of the 29th IEEE Annual Conference of the IEEE Industrial Electronics Society)、IECON 2003年-ロアノーク(IECON’03-ROANOKE)、pp.997-1002、2003年11月(November,2003)
【非特許文献4】富塚 誠義(M.Tomizuka)「現代メカトロニックシステム工学における各センサ(Sensors in the Engineering of Modern MechatronicSystems)」、第三回メカトロニックシステムシンポジウム論文(Proceedings of the 3rd IFAC Symposium on MechatronicSystems)、メカトロニクス2004年-シドニー(MECHATRONICS’04-SYDNEY)、pp.19-24、2004年9月(September, 2004)
【非特許文献5】大石 潔,大西 公平,宮地 邦夫(K.Ohishi,K.Ohnishi,K.Miyachi)、「負荷トルク推定に基づくDCモータのトルク-速度調整(Torque-Speed Regulation of DC Motor Based on Load Torque Estimation)」、電気学会 パワーエレクトロ二クス国際会議論文(Proceedings of the IEEJ International Power Electronics Conference,パワーエレクトロ二クス国際会議-東京(IPEC-TOKYO),第2巻(Vol.2),pp.1209-1216,1983年3月(March,1983)
【非特許文献6】大西 公平,柴田 昌明,村上 俊之(K.Ohnishi,M.Shibata,T.Murakami)、「高性能メカトロニクス用モーション制御(Motion Control for Advanced Mechatronics)」、米国電気電子学会/米国機械学会メカトロニクス論文誌(IEEE/ASME Transactions on Mechatronics)、第1巻(Vol.1)、第1号(No.1)、pp.56-67、1996年3月(March,1996)
【非特許文献7】村上 俊之,郁 方銘,大西 公平(T.Murakami,F.Yu,K.Ohnishi)、「多自由度マニピュレータにおけるトルクセンサレス制御(Torque Sensorless Control in Multidegree-of-freedom Manipulator)」,米国電気電子学会 産業電子工学論文誌(IEEE Transactions on Industrial Electronics)、第40巻第2号(Vol.40,No.2)、pp.259-265、1993年4月(April,1993)
【非特許文献8】エム.バートルッツォ,ジー.エス.ブージャ,イー.スタンパッチア(M.Bertoluzzo,G.S.Buja,E.Stampacchia)、「高帯域幅トルク外乱補償器の性能解析(Performance Analysis of a High-Bandwidth Torque Disturbance Compensator)」、米国電気電子学会/米国機械学会メカトロニクス論文誌(IEEE/ASME Transactions on Mechatronics)、第9巻(Vol.9)、第4号(No.4)、pp.653-660、2004年12月(December,2004)
【非特許文献9】水落 麻里子,辻 俊明,大西 公平(M.Mizuochi,T.Tsuji,K.Ohnishi)「加速度制御システムに対するマルチレートサンプリング方法(Multirate Sampling Method for Acceleration Control System)」、米国電気電子学会 産業電子工学論文誌(IEEE Transactions on Industrial Electronics、第54巻(Vol.54)、第3号(No.3)、pp.1462-1471、2007年6月(June,2007)
【非特許文献10】入江 航平,桂 誠一郎,大石 潔(K. Irie, S. Katsura, K. Ohishi)、「複数センサに基づいた外乱オブザーバによる高度モーションコントロール(Advanced Motion Control by Multi-Sensor based Disturbance Observer)、電気学会 電気電子工学論文誌(IEEJ Transactions on Electrical and Electronic Engineering)、第1巻(Vol.1)、第1号(No.1)、pp.112-115、2006年5月(May,2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来は接触動作における反作用力の経時変化を、単に時系列なデータとして表示させていただけなので、この時系列データから接触対象となる環境の材質や品質が、どのような特徴を有するものなのかを定量的に直ちに判断できなかった。
【0010】
また、従来はこうした触覚情報に関する定量的なデータを保存し、必要なときにそのデータを読み出して活用するデータベース化の技術が確立されておらず、例えば未知の環境に対する接触時の反作用力から、その環境がどのような材質や品質に一致または類似するのかを、比較判断することができなかった。
【0011】
本発明は上記の問題点に鑑みなされたもので、その目的は、環境との接触動作により生じた力の情報から、接触環境の材質的または品質的な特徴を直感的且つ定量的に把握して、これを抽出すると共に、各材質毎または品質毎にデータベース化することが可能な触覚の解析方法および触覚の解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明における触覚の解析方法は、環境との接触動作に応じて作動するアクチュエータを備え、前記アクチュエータは、1台以上のマスターシステムおよび2台以上のスレーブシステムをネットワークで接続してなり、前記環境との接触動作における作用力を前記マスターシステムで受けると、この作用力に伴う反作用力を、前記ネットワークを介して前記スレーブシステムで生成するようになっており、ある時間にどのような反作用力が生じているのかを、前記環境との接触動作により生じた時系列な力の触覚情報として取得し、前記取得した前記触覚情報を時間領域で解析処理して、前記触覚情報に含まれる時間と力との関係を、周波数と振幅との関係を示す周波数分析データに変換し、この周波数分析データから前記環境の材質または品質を抽出することを特徴とする。
【0013】
この場合、前記周波数分析データから、前記抽出した環境の材質または品質を視覚的に表現させるのが好ましい。
【0014】
上記各方法においては、前記アクチュエータから抽出した力によって、前記触覚情報を取得するのが好ましい。
【0015】
代わりに、前記アクチュエータが制御手段により制御されているシステムから抽出した力によって、前記触覚情報を取得してもよい
【0016】
また、前記アクチュエータからの力が、位置センサ,速度センサ,加速度センサ,電流センサ,力センサ,トルクセンサ,または歪みゲージを用いて抽出されるのが好ましい。
【0017】
また、前記アクチュエータからの力が、外乱オブザーバにより抽出されてもよい。
【0018】
上記各方法において、前記周波数分析データと前記環境の材質または品質とを関連付けた関連付けデータを、当該環境の材質毎または品質毎に記憶手段に記憶させるのが好ましい。
【0019】
この場合、前記解析処理が行なわれると、この比較対象となる周波数分析データと前記記憶手段から読み出される関連付けデータの周波数分析データとを比較し、前記比較対象となる周波数分析データに一致または類似する前記環境の材質または品質を、前記関連付けデータから特定するのが好ましい。
【0020】
また、前記取得した触覚情報をフーリエ変換またはウェーブレット変換またはコサイン変換により時間領域で解析処理するのが好ましい。
【0021】
さらに、前記周波数分析データを位置領域で解析処理し、この位置領域の解析処理が、有限要素法により行なわれ、離散的な各位置の前記周波数分析データを連続して補間する機能を有するのが好ましい
【0022】
さらに、前記記憶手段に記憶される関連付けデータから、前記周波数分析データを検索対象として前記環境の材質または品質を特定する逆引き機能を備えるのが好ましい。
【0023】
上記方法に対応するように、本発明における触覚の解析装置は、環境との接触動作に応じて作動するアクチュエータを備え、前記アクチュエータは、1台以上のマスターシステムおよび2台以上のスレーブシステムをネットワークで接続してなり、前記環境との接触動作における作用力を前記マスターシステムで受けると、この作用力に伴う反作用力を、前記ネットワークを介して前記スレーブシステムで生成する構成を有し、ある時間にどのような反作用力が生じているのかを、前記環境との接触動作により生じた時系列な力の触覚情報として取得する入力手段と、前記取得した前記触覚情報を時間領域で解析処理して、前記触覚情報に含まれる時間と力との関係を、周波数と振幅との関係を示す周波数分析データに変換する処理手段とこの周波数分析データから前記環境の材質または品質を抽出する抽出手段と、を備えている。
【0024】
この場合、前記処理手段は、前記周波数分析データから、前記抽出した環境の材質または品質を視覚的に表現させるものであることが好ましい。
【0025】
上記各装置においては、前記アクチュエータから抽出した力によって、前記触覚情報を取得する構成とするのが好ましい。
【0026】
代わりに、前記アクチュエータが制御手段により制御されているシステムから抽出した力によって、前記触覚情報を取得する構成としてもよい
【0027】
また、前記アクチュエータからの力を、位置センサ,速度センサ,加速度センサ,電流センサ,力センサ,トルクセンサ,または歪みゲージを用いて抽出する構成とするのが好ましい。
【0028】
また、前記アクチュエータからの力を抽出する外乱オブザーバを備えてもよい。
【0029】
上記各装置において、前記周波数分析データと前記環境の材質または品質とを関連付けた関連付けデータを、当該環境の材質毎または品質毎に記憶手段に記憶させる構成とするのが好ましい。
【0030】
この場合、前記解析処理が行なわれると、この比較対象となる周波数分析データと前記記憶手段から読み出される関連付けデータの周波数分析データとを比較し、前記比較対象となる周波数分析データに一致または類似する前記環境の材質または品質を、前記関連付けデータから特定する判別手段をさらに備えるのが好ましい。
【0031】
また、前記処理手段は、前記取得した触覚情報をフーリエ変換またはウェーブレット変換またはコサイン変換により時間領域で解析処理するものであることが好ましい。
【0032】
さらに前記処理手段は、前記周波数分析データを位置領域で解析処理するものであり、この位置領域の解析処理が、有限要素法により行なわれ、離散的な各位置の前記周波数分析データを連続して補間する機能を有するものであることが好ましい
【0033】
さらに、前記記憶手段に記憶される関連付けデータから、前記周波数分析データを検索対象として前記環境の材質または品質を特定する逆引き手段を備えるのが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
上記請求項1の方法および請求項1の装置によれば、触覚情報をそのまま単に時系列的に並べるのではなく、取得した触覚情報に時間領域で可視化できるように解析処理を施し、その解析処理結果である周波数分析データから環境の材質または品質を抽出するようにしている。そのため、環境との接触動作により生じた力から、接触する環境の材質的または品質的な特徴を直感的且つ定量的に把握して、これを抽出することが可能になる。
【0035】
また、マスターシステムに加わる作用力と、この作用力を受けてスレーブシステムで発生する反作用力とを別々に分離でき、そこから抽出される力に基づき、ある時間にどのような反作用力が生じているのかを、触覚情報として取得することが可能になる。
【0036】
さらに、一乃至複数のマスターシステムに作用力が加わると、ネットワークを介して複数のスレーブシステムに反作用力を発生させることができ、遠隔地における力伝送を可能にできる
【0037】
上記請求項2の方法および請求項1の装置によれば、周波数分析データから、単に環境の材質または品質を抽出するだけでなく、これらを視覚的に表現させて、例えば表示手段などにより提示することが可能になる。
【0038】
上記請求項3の方法および請求項1の装置によれば、アクチュエータを利用して、そこから抽出される力に基づき、触覚情報を取得することが可能になる。
【0039】
上記請求項4の方法および請求項1の装置によれば、制御手段によりアクチュエータの例えば位置,速度,加速度,トルク,または力を制御しつつ、これらの制御手段とアクチュエータとを組み合わせたシステムから抽出される力に基づき、触覚情報を取得することが可能になる
【0040】
上記請求項の方法および請求項16の装置によれば、位置センサ,速度センサ,加速度センサ,電流センサ,力センサ,トルクセンサ,または歪みゲージの検知出力を利用して、アクチュエータからの力を抽出できる。
【0041】
上記請求項の方法および請求項17の装置によれば、外乱オブザーバによってアクチュエータからの力を抽出することで、環境との接触動作により生じた時系列な力の触覚情報を取得できるので、力覚センサを用いることなく触覚情報の取得が可能になる。
【0042】
上記請求項の方法および請求項18の装置によれば、前記周波数分析データが環境の材質または品質と関連付けられて、記憶手段に関連付けデータとして記憶されるので、環境との接触動作により生じた力から、接触する環境の材質的または品質的な特徴を直感的且つ定量的に評価できるような周波数分析データを、触覚ベースで各材質毎または各品質毎にデータベース化することが可能になる。
【0043】
上記請求項の方法および請求項19の装置によれば、単に時系列な力のデータからでは判別が困難な触覚情報の定量的な比較が可能となり、周波数分析データから未知の材質または品質を正しく特定することが可能になる。
【0044】
上記請求項の方法および請求項20の装置によれば、画像や音声信号処理などの分野で研究開発が進んでいるフーリエ変換またはウェーブレット変換またはコサイン変換を採用することで、触覚情報の時間領域における解析処理を容易に行なうことが可能になる。
【0045】
上記請求項10の方法および請求項21の装置によれば、接触する環境の材質的または品質的な特徴を、位置情報と共に直感的且つ定量的に把握することが可能になる。
【0046】
また、広く知られている有限要素法を用いることで、触覚情報の位置領域における解析処理を容易に行なうことが可能になる。
【0047】
さらに、離散的な各位置の触覚情報から、連続した位置での接触環境の材質的または品質的な特徴を取得することが可能になる。
【0048】
上記請求項11の方法および請求項22の装置によれば、関連付けデータに含まれる周波数分析データを検索対象として、環境の材質または品質を正しく特定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
【0050】
図1は、本発明の好適な一実施例を示す装置の機能的構成を示している。同図において、1は外部から取得した触覚情報を視覚情報化する装置本体であって、これは演算処理機能を有する例えばコンピュータなどにより構成される。装置本体1は、ある時間における力と位置の触覚情報を取得する手段である入力手段2と、入力手段2で取得した触覚情報を時間領域と位置領域すなわち空間領域でそれぞれ解析処理する処理手段3と、処理手段3で得られた空間位置毎の周波数分析データを記憶する記憶手段4と、画面(ディスプレイ)やプリンタなどの視覚的な表示手段5と、後述するリニアモータ12の駆動を制御するモータ制御手段6と、を備えて構成される。
【0051】
また、ここでは環境Eへの接触動作により生じた反作用力情報を抽出するために、環境Eに接触する可動体としての軸体11と、この軸体11を一方向に動かすリニアモータ12とによるアクチュエータ13を構成すると共に、リニアモータ12ひいては軸体11の位置と加速度をそれぞれ監視する検知手段14が、エネルギーを動力に変換するアクチュエータ13に取付けられ、この検知手段14で得られた位置検知信号と加速度検知信号を、前記モータ制御手段6に組み込まれた位置・加速度統合型の外乱オブザーバ(PAIDO)15と、反力(推定)オブザーバ16にそれぞれ送出することにより、リニアモータ12が受ける外乱力と反作用力を、力覚センサを用いずに、外乱オブザーバ15と反力オブザーバ16で各々推定するように構成している。これによりモータ制御手段6は、外乱オブザーバ15で得られた推定外乱力と、反力オブザーバ16で得られた推定反作用力とを加味した電流指令信号を生成し、これをリニアモータ12に送出するようになっている。
【0052】
前記入力手段2は、ある時間において、どのような反作用力が生じているのかという触覚情報を最終的に取得し、後段の処理手段3に出力できれば、どのような構成であってもよい。上述したモータ制御手段6による力制御系では、駆動源であるリニアモータ12により可動する可動体としての軸体11が、接触対象である環境Eに接触したときに受ける力(反力)を、反力オブザーバ16からの反力推定値として取り込むと共に、その力を環境Eのどの位置で受けたのかという情報を、図示しない位置検知手段から入力手段2が取り込んでもよい。この場合、入力手段2に備えた計時手段2Aの時間カウントを利用して、ある時間における力と位置を特定する触覚情報を取得する構成であってもよい。また、反力オブザーバ16からの反力推定値に代わって、アクチュエータ13に取付けられた力覚センサからの検知出力により、反力を取り込んでもよい。入力手段2は、アクチュエータ13における位置,速度,加速度,電流,力,トルクを検知する各種センサや、歪みを検知する歪みゲージからの検知出力を用いて、アクチュエータ13からの力を抽出する構成であってもよい。
【0053】
また、前記アクチュエータ13を2台用意し、一方を環境との接触動作における作用力を受けるマスターシステム13Aとし、他方をこの作用力に伴う反作用力を生成するスレーブシステム13Bとして構成してもよい。この場合、モータ制御手段6には、マスターシステム13Aとスレーブシステム13Bの間でこれらをバイラテラルに力覚フィードバック制御するためのフィードバック制御部が設けられる。このフィードバック制御部には、力覚センサを用いずにマスターシステム13Aとスレーブシステム13Bを加速度制御するために、マスターシステム13Aとスレーブシステム13Bのそれぞれに,位置・加速度統合型の外乱オブザーバ(PAIDO)15A,15Bが組み込まれる。外乱オブザーバ15Aは、マスターシステム13Aの検知手段14で得られた位置検知信号と加速度検知信号により、マスターシステム13Aにおける外乱力ひいては環境Eとの接触動作による作用力を推定するもので、また別な外乱オブザーバ15Bは、スレーブシステム13Bの検知手段14で得られた位置検知信号と加速度検知信号により、スレーブシステム13Bにおける外乱力ひいては前記作用力に伴い発生する反作用力を推定するものである。そしてモータ制御手段6は、これらの外乱オブザーバ15A,15Bで得られた作用力や反作用力の推定値と、各検知手段14で得られた加速度(または位置)検知信号から、上記マスターシステム13Aにおける作用力とスレーブシステム13Bにおける反作用力の和が0になり、且つマスターシステム13Aの位置とスレーブシステム13Bの位置との偏差が0になるように、マスターシステム13Aのリニアモータ12と、スレーブシステム13Bのリニアモータ12をバイラテラルに力覚フィードバック制御する構成になっている。ここでは、モータ制御手段6によってアクチュエータ13を力制御するのではなく、アクチュエータシステム13を位置制御,速度制御,加速度制御,またはトルク制御する構成であってもよい。
【0054】
なお、ここではマスターシステム13Aやスレーブシステム13Bの駆動源としてリニアモータ21を採用しているが、他の駆動源を用いてもよい。また、アクチュエータ13として、スレーブシステム13Bを2台以上備えた構成とし、合計で3台以上のマスターシステム13Aやスレーブシステム13Bをネットワーク(図示せず)で接続することで、フィードバック制御部によりマルチラテラルに力覚フィードバック制御する構成としてもよい。こうした概念は、本願発明者らが特願2006-57632号で既に提案している。何れにせよ、環境との接触動作に伴う作用力と反作用力を分離して抽出できれば、アクチュエータ13はどのようなデバイス構成であっても構わない。
【0055】
また、別な例として、キーボードやマウスなどの操作手段17を入力手段2に接続し、この操作手段17から操作入力された任意の環境Eに接触したときの時系列な反作用力のデータと、場合によっては位置のデータを、そのまま触覚情報として入力手段2が取り込んでもよく、さらに別な例として、時系列な少なくとも反作用力と、場合によっては位置の触覚情報を記憶した外部媒体18を入力手段2に接続し、外部媒体18から読み出した触覚情報を入力手段2が取り込む構成であってもよい。この場合、上述した計時手段2Aを入力手段2に組み込む必要はない。
【0056】
ここで、処理手段3が必要とする触覚情報は、同じ時間における力と位置の各情報を含んでいて、時間的に同期しているものであってもよいし、違う時間における力と位置の各情報を含んでいて、時間的に非同期なものであってもよい。
【0057】
処理手段3は、入力手段2で取得した触覚情報を時間領域で解析する時間領域解析部21と、当該触覚情報を空間領域で解析する空間領域解析部22と、を備えて構成される。時間領域解析部21は、入力手段2で取得した触覚情報を時間領域で周波数解析して、触覚情報に含まれる時間と力との関係を、周波数と振幅(振動レベル)との関係を示す周波数分析データに変換できれば、どのような構成であってもよい。こうした周波数解析は、画像や音声信号処理などの分野で研究開発が進んでおり、高速フーリエ変換(FFT)やウェーブレット変換を用いた手法が例として挙げられる。そこで、本実施例における時間領域解析部21は、内蔵するFFTやウェーブレット変換による変換機能を用いて、触覚情報の時間領域としての解析を行ない、特徴的な周波数成分を抽出した周波数分析データを取得できるようになっている。
【0058】
一方、空間領域解析部22は、空間領域を小空間に分割して数値解析を行なうもので、これを実現する手法としては、有限要素法がよく知られている。そこで本実施例の空間領域解析部22は、内蔵する有限要素法の変換機能によって、実世界空間を小空間に分割して抽出された触覚情報を時間領域で解析し、その結果を2次元空間に投影できるように、実世界空間上の位置と関連付けできるようになっている。なお、固定した一乃至複数の点の位置に関係する触覚情報の場合は、この空間領域解析部22による解析を省略してもよい。
【0059】
処理手段3は、時間領域解析部21による解析結果と、接触位置が複数ある場合には、空間領域解析部22による解析結果とを統合することで、小空間の各接触位置に対応した周波数分析データを取得し、これを環境Eの材質を特徴付ける材質データと関連付けて、記憶手段4に記憶させる。この場合、時間領域解析部21による周波数解析に続いて、空間領域解析部22による空間解析を行なう構成としてもよいし、逆に空間解析に続いて周波数解析を行なう構成としてもよい。さらには、周波数解析と空間解析を並行して行なう構成としてもよいし、接触位置が固定していて空間解析が不要な場合は、空間領域解析部22の構成を省略してもよい。また、材質データの代わり若しくは材質データに加えて、環境Eの品質を特徴付ける品質データとの関連付けを行なってもよい。よって、以後の説明では、「材質」を「品質」に置き換えることも可能である。
【0060】
なお、ここに提示され、またはここに提示されていない周知の各種変換機能を単独または複数組み合わせて、同様の処理手段3を実現してもよい。例えば時間領域解析部21に内蔵する変換機能として、例えばFFT以外のフーリエ変換や、ウェーブレット変換や、コサイン変換を採用してもよい。ここでいうフーリエ変換とは、離散フーリエ変換や、短時間フーリエ変換などを含み、コサイン変換は、特殊な離散フーリエ変換である離散コサイン変換や、離散コサイン変換の一手法である変形離散コサイン変換などを含む。また、ウェーブレット変換とは、連続ウェーブレット変換や、離散ウェーブレット変換などを含む。
【0061】
また処理手段3は、触覚情報の解析処理結果である周波数分析データから、環境の材質または品質を抽出する抽出手段24を備えている。この抽出手段24により、環境Eの材質または品質に関わる特徴的な周波数の情報を抽出することができ、こうした抽出情報を基に、例えば後述する表示制御手段によって、表示手段5に色や濃淡による可視化表現を任意に行なわせたり、判別手段25による環境Eの材質または品質の特定を行なわせたりすることが可能になる。
【0062】
前述のように、記憶手段4には、環境Eにアクチュエータ13を接触させた時の反作用力から得られた周波数分析データが、その環境Eの材質に関係する材質データ毎に、データベース化されて保存される。図2は、記憶手段4に記憶されるデータの保存形態を模式的に示しているが、ここでは例えば環境Eの材料(「鉄」,「二トリルゴム」など)や、環境Eの形状や、硬度などの情報を記憶した材質データ31と、その同じ環境Eに対する触覚情報から得られた周波数とスペクトル強度の可視化情報を記憶した周波数分析データ32が、一つの関連付けデータ33として記憶手段4に記憶保存される。材質データ31の入力は、例えば装置本体1に接続する操作手段17から行なえるようにすればよい。
【0063】
ここでは同じ材料であっても、構造的に相違する場合には、別な「材質」として関連付けデータ33にそれぞれ保存される。一つの例として、生体の同じ細胞部位において、正常組織と癌組織とでは、それぞれの触覚情報から得られる周波数分析データ32が異なるため、別な「材質」として関連付けデータ33に保存することで、生体組織に対応した触覚情報のデータベース化が可能になる。このように、ここでは記憶手段4に記憶される周波数分析データ32が類似するか否かによって、同一の「材質」か否かの判断がなされるようにすれば、触覚情報の最適なデータベース化が可能になる。
【0064】
また、図2に示すように、空間領域解析部22による空間解析によって、同じ材質で複数の位置の周波数分析データ32が存在する場合には、それらを纏めて同じ関連付けデータ33内に保存するのが好ましい。これにより、同じ材質から受ける触覚情報に関し、空間配置上における周波数分析データ32の特徴を直ちに把握することができる。
【0065】
処理手段3は、入力手段2からの触覚情報を解析して、周波数分析データを取得する毎に、この比較対象となる周波数分析データと、記憶手段4から読み出される各関連付けデータ33内の周波数分析データ32とを比較し、前記比較対象となる周波数分析データと同一または類似している周波数分析データ32が検索されれば、その周波数分析データ32に関連付けられた材質データ31を特定して、当該材質データ31の内容を表示手段5に出力する判別手段25を備えている。この判別手段25は、操作手段17からの入力によって、必要なときに起動できる構成となっており、判別手段25が起動しない場合、処理手段3からの周波数分析データは、操作手段17から入力される材質データと共に、共通する関連付けデータ33として記憶手段4に保存されるが、判別手段25が起動しているときには、記憶手段4に記憶される周波数分析データ32との比較判定により、同一または類似するものが検索されない場合にのみ、表示手段5により材質データの入力を促し、操作手段17から材質データが入力されると、この材質データと処理手段3からの周波数分析データとを、共通する関連付けデータ33として記憶手段4に保存する。こうすることで、処理手段3からの周波数分析データを、効率よく記憶手段4に記憶できる。
【0066】
また、上記処理手段3は、記憶手段4に保存される各位置に対応した周波数分析データを読み出して、触覚情報を写真のように可視化して表示手段5で表示できるように、当該表示手段5を制御する表示制御手段としての機能を備えている。このような触覚情報を可視化する新たな表現技術を、ここでは「ハプトグラフ(Haptograph)」と表現して以後説明する。表示手段5により表示される「ハプトグラフ」は、入力手段2で取得した触覚情報に対し、処理手段3で高速フーリエ変換やウェーブレット変換のような周波数解析を施し、これを例えば軸体11に接触する環境Eの表面形状に基づき空間的に配置することで、どの位置にどのような周波数成分の振幅レベル(スペクトル)が存在するのかを、振幅レベルの強弱に応じた異なる色や濃淡(グラデーション)で、表示手段5に可視化表現させることが可能になる。
【0067】
因みに「Hapto」とは、ギリシャ語で「触れる」の意味であり、触覚を写真のように視覚化することから「Haptograph」と命名している。本実施例でのハプトグラフは、接触する環境Eの表面から受ける触覚情報を、2次元空間上に配置したものとして定義する。勿論この配置は、1次元または3次元以上であっても構わない。ハプトグラフを用いることで、触覚情報を写真や図のように視覚的に捉えることが可能になるので、より直感的に触覚を認識できるようになる。また、触覚情報を時間領域解析部21で周波数解析し、それによりスペクトルの大きさを例えば色の違いや濃淡で可視化するため、触覚の定量的な評価や比較を行なうことも可能である。
【0068】
前記空間領域解析部22で分割した空間の数は、画像でいえばピクセル(画素)に相当し、分割数は触覚情報の分解能となる。当然、分割数が多ければ詳細な触覚情報を埋め込むことができるが、後述する記憶手段4で保存すべきデータ量も増加する。一つの指標としては、人間が最も触覚を必要とする指先の分解能にあわせて、空間領域解析部22で分割する空間の数を設定するのが好ましい。人間が皮膚に2つの触刺激を受けた時に、その刺激がそれぞれ別の点であると識別できるもっとも短い距離が、成人の人差し指の先端では約2.5mm程度であるといわれている。空間の分割方法や分割数は任意であるが、人間の持つ触覚に対する分解能よりも細かい小空間で、表示手段5による「ハプトグラフ」を表現することが、人間支援の観点から理想的である。さらに、空間領域解析部22で分割した小空間を、離散的な点列で構成したハプトグラフだけでなく、小空間を連続的な線と捉えることで、なで動作によるハプトグラフの作成も可能である。
【0069】
次に、上記構成に基づき、本実施例における触覚の視覚的表現方法の各手順を、図3のフローチャートを参照して説明する。装置本体1を起動させ、処理動作を開始させると、入力手段2はステップS2において、後段の処理手段3に送出するための触覚情報を取得する。この触覚情報の取得には、必要に応じてステップS1の接触動作が先に行なわれる。
【0070】
具体的には、例えば図1において、モータ制御手段6によりアクチュエータ13を力制御する構成では、モータ制御手段6からの電流指令信号によりリニアモータ12を駆動させ、このリニアモータ12に取付けられた軸体11を環境Eに接触させることで、ステップS1の接触動作が行なわれる。また、ここではリニアモータ12が受ける外乱力と反作用力(外力)の各値が、モータ制御手段6に備えた好ましくは位置・加速度統合型の外乱オブザーバ15と、反力オブザーバ16とによりそれぞれ推定され、これらの推定値によってリニアモータ12が力制御されると共に、軸体11が受ける反作用力の推定値が、力の情報として反力オブザーバ16から入力手段2に出力される。
【0071】
また、上記ステップS1の接触動作に伴う環境Eと軸体11との接触位置は、これを図示しない位置センサで検知して、入力手段2に出力してもよいし、予め接触位置が判っている場合には、その位置情報を入力手段2が取り込んでもよい。例えば環境Eや軸体11が不規則に動いていて、接触位置が定まらない場合には、位置センサの検知出力を入力手段2が位置の情報として取り込むのが好ましい。逆に、例えば環境Eまたはアクチュエータ13をX-Yテーブルなどに取付けて、モータ制御手段6からX-Yテーブルに出力される制御信号により、決められた位置で軸体11を環境Eに接触させる場合、このモータ制御手段6からの前記制御信号を利用して、入力手段2が位置の情報を取り込めば、上記位置センサを不要にすることができる。
【0072】
ステップS2において、入力手段2は取り込まれた力と位置の情報の経時的な変化を触覚情報として取得するために、内蔵する計時手段2Aの時計カウントを用いて、時間と力および時間と位置とを関連付ける。因みに、入力手段2に取り込まれる力や位置の情報に、予め時間情報が関連付けられている場合は、これをそのまま触覚情報として取得することができる。また、検知手段14に代わり操作手段17や外部媒体18から直接触覚情報を取得する場合には、ステップS1の手順を省略することも可能である。
【0073】
こうして、ステップS2において触覚情報が得られると、処理手段3の時間領域解析部21は、触覚情報に含まれる時間と力との関係から、これをFFTやウェーブレット変換などの周波数解析手法を用いて、触覚情報の時間領域としての解析を行なう(ステップS3)。こうした周波数解析を施すと、ある期間に生じる反作用力の情報から、それがどのような周波数特性を有するのかという周波数析データを得ることができる。
【0074】
次のステップS4において、処理手段3の空間領域解析部22は、時間領域解析部21により求められた周波数析データを、軸体11が接触する環境Eの表面形状に基づき、空間上に配置する空間解析を行なう。具体的には、環境Eと軸体11との接触位置が刻々と変化する場合、単に時間領域解析部21により周波数解析を行なうだけでは、その変化する接触位置上での周波数析データしか取得することができない。そこで、ステップS3で求めた周波数析データに対し、さらに空間領域解析部22で例えば有限要素法による空間解析を施すことにより、固定した位置での周波数析データを得ることができる。
【0075】
なお、処理手段3からの前記制御信号により、環境Eと軸体11との接触位置を固定して、検知手段14から力の情報を取り込む場合は、その力の情報に対応する接触位置の情報が、入力手段2から処理手段3に与えられることで、ステップS3で求めた周波数析データと接触位置とを、空間領域解析部22による空間解析を行なわずに、時間領域処理部21だけで関連付けることができる。そしてこの場合は、ステップS1~ステップS3の各手順が終了した時点で、軸体11を環境Eの別な位置に接触動作させるために、ステップS1の手順に戻すことにより、様々な固定した接触位置での周波数析データを得ることができる。また、一点の位置だけの周波数析データを得る場合には、ステップS1の手順に戻ることなく、次のステップS5の手順が行なわれる。
【0076】
こうして空間領域解析部22が、実空間の位置に対応した周波数析データを処理手段3の解析処理結果として生成すると、次のステップS5で解析処理結果を記憶手段4に保存し、さらにはこの記憶手段4から解析処理結果を読み出して、処理手段3に備えた表示制御手段が、前述した「ハプトグラフ」を表示手段5に表示させ、一連の処理を終了する。
【0077】
ここで、表示手段5の表示形態は、「ハプトグラフ」の概念を逸脱しない限り、どのようなものであっても構わない。例えば、環境Eの表面形状に応じた一乃至複数の位置上に、所定範囲の周波数におけるスペクトルの度合を、線,色,濃淡などで可視化させてもよい。また、点在する固定した位置の周波数析データ間を直線などで補間し、メッシュ状に繋いで連続的に表示させてもよい。さらに、一つの決められた位置において、どのような周波数成分でどのような強さのスペクトルが存在するのかを、表示手段5により色などで可視化表示させてもよい。
【0078】
また処理手段3は、ステップS4で得られた周波数分析データを、その環境Eの材質に関係する材質データと関連付けて、これを関連付けデータ33として記憶手段4に記憶させる。これにより記憶手段4には、環境Eの材質毎に可視化可能な周波数分析データ32が蓄積保存されてゆく。つまり、記憶手段4によって、環境Eの材質に応じた触覚情報の周波数解析結果が、データベース化されることになる。記憶手段4の関連付けデータ33は、例えば操作手段17からの入力操作により、その中の一部若しくは全てが読み出され、表示手段5に周波数分析データ32が可視化表示されたり、或いは図示しない通信手段を介して、外部に転送することができる。こうした処理手段3の機能によって、「ハプトグラフ」を用いた新規な実世界触覚情報の可視化表現と、そうした触覚情報の可視化共有が可能となる。
【0079】
また別な変形例として、処理手段3に備えた判別手段25の起動時には、ステップS4で周波数分析データが得られると、この判別手段25が記憶手段4から関連付けデータ33を一つずつ読み出して、その中に含まれる周波数分析データ32との比較を行なう。そして判別手段25は、記憶手段4から読み出された周波数分析データ32が、処理手段3で得られた周波数分析データと同一または類似していると判断すると、その読み出した周波数分析データ32に関連付けられた材質データ31の内容を、表示手段5に表示させる。これにより、未知の環境Eであっても、その環境Eがどのような材質であり、若しくはどのような材質に類似するのかを、触覚情報に関する周波数解析の観点から定量的に比較し、且つ評価判定することが可能になる。
【0080】
逆に判別手段25は、記憶手段4から読み出された周波数分析データ32が、処理手段3で解析された周波数分析データと同一または類似していないと判断すると、その旨を表示手段5に表示させると共に、新たな材質のデータベース化のために、材質データの入力を表示手段5から促す。これを受けて、入力手段17から必要な材質データを入力すると、この材質データと処理手段3で解析された周波数分析データが、共通する関連付けデータ33として記憶手段4に保存される。
【0081】
続いて、上記図1の装置本体1を利用した実験例について、その装置構成と実験結果を説明する。
【0082】
図4は、実験例で採用した実験システムであり、ここには前記図1のアクチュエータ13と検知手段14に相当する構成が示されている。同図において、アクチュエータ13の設置用固定板としての土台41は、平面が矩形の金属製板材からなり、その土台41の上面における長手方向の一側に、被接触物である環境Eの背面に当接する背面固定板体43が立設している。また、背面固定板体43の正面に先端11Aが直交するように、丸棒状の金属製軸体11が土台41の上面上に前後方向に移動自在に設けられている。なお、軸体11の先端11Aにより剛性のある接触手段が形成されるものであって、この先端11A寄りには、土台41の上面上に立設した軸体11の直線移動案内用部材45が設けられている。さらに、前記背面固定板体43の正面側には、環境Eを土台41の上面に載置して固定するための固定用位置決め手段たる位置決めピン46が左右に立設している。
【0083】
一方、軸体11の長手方向のほぼ中央箇所に位置して、土台41の上面上に固定したリニアモータ12を装着する。このリニアモータ12によって、軸体11をその長手方向に移動できるようになっている。さらに、軸体11の長手方向の他端に加速度センサ48を装着する。この加速度センサ48によって、軸体11の加速度を測定することができる。その他、リニアモータ12には図示しない位置エンコーダが取付けられ、この位置エンコーダと加速度センサ48により前述した検知手段14を構成している。
【0084】
図4に示す実験システムでは、アクチュエータ13の土台41を固定し、機台振動などアクチュエータ13側の影響が極力発生しないようにしている。また、環境Eは背面固定板体43と位置決めピン46とで挟むようにして固定してあり、アクチュエータ13が接触する時にも動かないようになっている。実験では、前記環境Eとして、鉄(JIS-G3101)とニトリルゴム(ショアA70°)による2種類の材料を用意し、何れもその形状は5×5×5[cm]の立方体としている。
【0085】
図5は接触環境Eの形状と接触点を示したものであり、図中の×印は、軸体11の先端11Aの接触箇所を示しており、これは触覚情報を収集した位置となる。なお、後述する実験においては、接触する環境Eの一側面において、10[mm]間隔で左右上下の接触実験を試み、ハプトグラフの作成を行なっている。図5では接触点は左右に5箇所、上下に5箇所の合計25箇所である。これらの位置情報は、その都度入力手段2に取り込まれるようになっている。
【0086】
上記実験システムの詳細を表1に示す。前記装置本体1の各部を制御するプログラムは、サンプリングタイムを100μsに設定している。
【0087】
【表1】
JP0005211580B2_000002t.gif

【0088】
上記実験システムを用いて、環境Eと接触した際の反作用力から、装置本体1の入力手段2と処理手段3により、「ハプトグラフ」による可視化を行なう。図6~図17は、ここで提案するハプトグラフの作成例を示しており、図6~図8は、環境Eが鉄である場合に、この環境Eにアクチュエータ13を接触動作させた際の反作用力のステップ応答を、処理手段3の時間領域解析部21でFFT解析させ、その結果をハプトグラフとして表示手段5で表示させたものである。また図9~図11は、環境Eがニトリルゴムである場合に、この環境Eにアクチュエータ13を接触動作させた際の反作用力のステップ応答を、処理手段3の時間領域解析部21でFFT解析させ、その結果をハプトグラフとして表示手段5で表示させたものである。
【0089】
図6および図9は、前記時間領域解析部21によるFFTの解析結果を、接触動作を行った位置に配置して並べ、x軸を環境Eの横方向の位置とし、y軸を周波数とし、z軸をスペクトルの大きさとして表示している。また、環境Eの縦方向に関しては5点を離散的に配置している。したがって、これらの図は、図5に示す各接触位置ごとに、FFTの解析結果を並べて示していることが分かる。また、図7および図10は、前記図6および図9に示すFFTの解析結果を、処理手段3の表示制御手段がx軸に関して直線補間し、連続的に触覚を視覚化表示したものを表している。さらに、図8および図11は、FFTの解析結果により得られたスペクトルの大きさを、色の濃淡で表現することで、情報を2次元空間に圧縮したものを示している。図6~図8と図9~図11を比較すると、ニトリルゴムは鉄よりもFFTの解析結果に低周波成分が多く含まれていることが分かる。また、両材料とも環境Eの中心付近に高周波のスペクトルが強く表れる傾向が見られる。これは、環境Eの中心部分は他よりも剛性が大きく、周囲の点より堅いということが示されている。
【0090】
図12~図14は、環境Eが鉄である場合に、この環境Eにアクチュエータ13を接触動作させた際の、反作用力が落ち着いた状態での定常応答を、処理手段3の時間領域解析部21でFFT解析させ、その結果をハプトグラフとして表示手段5で表示させたものである。また図15~図17は、環境Eがニトリルゴムである場合に、この環境Eにアクチュエータ13を接触動作させた際の、反作用力が落ち着いた状態での反作用力の定常応答を、処理手段3の時間領域解析部21でFFT解析させ、その結果をハプトグラフとして表示手段5で表示させたものである。前述した反作用力のステップ応答のハプトグラフとは異なり、スペクトルの小さな高周波の信号が確認できる。ニトリルゴムに比べて鉄は高周波成分が強く表れており、環境Eの持つ粘性が小さいことが分かる。また、図12~図17の全てにおいて、周波数が700Hz付近に強いスペクトルが表れているが、これは実験システム固有の共振周波数であると思われる。
【0091】
このように、接触動作における反作用力の時系列データからでは判別が困難な触覚情報を、ハプトグラフ表現を用いることによって、表示手段5から視覚的に提示することが可能である。特にこうした反作用力には、軸体11が接触する環境Eの剛性や、粘性や、質量などの諸情報が含まれていることから、当該反作用力を時間領域で解析処理すれば、接触する環境Eの違いや触覚情報の特徴を表示手段5に可視化して表現させることが可能になる。また、こうした周波数析データを材質データと関連付けて記憶手段4に記憶させ、処理手段3に組み込まれた判別手段25を利用して、記憶手段4から必要なデータを読み出すことにより、定量的な比較も可能となる。したがって、環境Eの剛性や粘性の同定とは異なり、周波数解析の観点から接触する環境Eの材質の違いを標本化することも可能である。
【0092】
本実施例では、軸体11から環境Eへの一方向の押し動作を繰り返し行なうことで、FFTによる周波数解析結果をデータベース化して記憶し、またそれに基づくハプトグラフを作成する方法と装置を提案したが、環境Eの表面になで動作を行ない、連続的に反作用力を抽出したものをウェーブレット変換などを用いてハプトグラフを作成することも可能である。これにより、環境Eの材質が均一でない場合にもその変化を把握し、可視化表示することが可能である。このように、ハプトグラフを用いた新しい実世界触覚情報の可視化技術の開発に成功した。
【0093】
なお、本実施例で提案する「ハプトグラフ」は、人間の動作を含めた環境Eとの接触によって生じる反作用力情報を、フーリエ変換やウェーブレット変換を用いて周波数解析し、空間情報として統合することで生成される。この「ハプトグラフ」の作成に際しては、入力手段2による広帯域な触覚センシングが必要であり、図1に示すような位置・加速度統合型(PAIDO)の外乱オブザーバ15を用いて、人間の感じる触覚帯域すべてをカバーすることが望まれる。さらに、ここでは詳しく説明しないが、力制御系の安定性解析により、外乱オブザーバ15の広帯域化が、未知の環境Eに対する安定的な接触動作に不可欠であることを極の移動より確認している。なお、PAIDO外乱オブザーバ15については、本願発明者らが先に出願した特願2006-57614号で詳しく説明しているので、ここでの説明は省略する。
【0094】
このように上記実施例では、環境Eとの接触動作によって生じる反作用力を「ハプトグラフ」で表現し、時系列データからでは判別が困難な触覚情報の定量的な比較を可能にしている。具体的には、実験例で示したように、鉄とニトリルゴムの接触動作によって生じる触覚の違いや、接触位置による違いを、「ハプトグラフ」により表現している。本実施例では、受動的な情報を用いてハプトグラフの作成を行ったが、動的環境Eなどの能動的な情報を用いても、同様に作成を行なうことが可能である。特に人間の動作に応用した場合、動作の抽出だけでなく、個人の持つ癖や個性をハプトグラフに表現することが可能であるため、熟練技能者の有するスキルの定量評価や触覚ベースでの個人認証といった技術の開発に適用でき、将来の人間支援技術に広く応用が可能である。
【0095】
以上のように本実施例では、環境Eとの接触の動作に応じて作動するアクチュエータ13を備え、アクチュエータ13は、1台以上のマスターシステム13Aおよび2台以上のスレーブシステム13Bをネットワークで接続してなり、前記環境との接触動作における作用力をマスターシステム13Aで受けると、この作用力に伴う反作用力を、ネットワークを介してスレーブシステム13Bで生成するようになっており、ある時間にどのような反作用力が生じているのかを、環境Eとの接触動作により生じた時系列な力の触覚情報として入力手段2により取得し、この入力手段2で取得した触覚情報を、処理手段3により時間領域で可視化できるように解析処理して、前記触覚情報に含まれる時間と力との関係を、周波数と振幅との関係を示す周波数分析データに変換し、この周波数分析データから抽出手段24が環境Eの材質または品質を抽出するようになっている。
【0096】
こうすると、触覚情報をそのまま単に時系列的に並べるのではなく、取得した触覚情報に時間領域で可視化できるように解析処理を施し、その解析処理結果である周波数分析データから環境Eの材質または品質を抽出することができる。そのため、環境Eとの接触動作により生じた力から、接触する環境Eの材質的または品質的な特徴を直感的且つ定量的に把握して、これを抽出することが可能になる。
【0097】
また、マスターシステム13Aに加わる作用力と、この作用力を受けてスレーブシステム13Bで発生する反作用力とを別々に分離でき、そこから抽出される力に基づき、ある時間にどのような反作用力が生じているのかを、触覚情報として取得することが可能になる。
【0098】
さらに、一乃至複数のマスターシステム13Aに作用力が加わると、ネットワークを介して複数のスレーブシステム13Bに反作用力を発生させることができ、遠隔地における力伝送を可能にできる
【0099】
また、ここでは処理手段3によって、周波数分析データから、環境Eの材質または品質を視覚的に表現させるようになっている。つまり、周波数分析データから、単に環境Eの材質または品質を抽出するだけでなく、これらを視覚的に表現させて、例えば表示手段5などにより提示することが可能になる。
【0100】
この場合、アクチュエータ13から抽出した力によって、触覚情報を取得する。こうすれば、アクチュエータ13を利用して、そこから抽出される力に基づき、触覚情報を取得することが可能になる。
【0101】
また代わりに、アクチュエータ13が制御手段であるモータ制御手段6により制御されているシステムから抽出した力によって、触覚情報を取得してもよい。当該モータ制御手段6によりアクチュエータ13の例えば位置,速度,加速度,トルク,または力を制御しつつ、これらのモータ制御手段6とアクチュエータ13とを組み合わせたシステムから抽出される力に基づき、触覚情報を取得することが可能になる
【0102】
上記アクチュエータ13からの力が、位置センサ,速度センサ,加速度センサ,電流センサ,力センサ,トルクセンサ,または歪みゲージを用いて抽出される場合、これらのセンサやゲージの検知出力を利用して、アクチュエータ13からの力を抽出できる。
【0103】
また、アクチュエータ13からの力を、外乱オブザーバ15A,15Bにより抽出する構成であってもよい。外乱オブザーバ15A,15Bによってアクチュエータ13からの力を抽出することで、環境Eとの接触動作により生じた時系列な反作用力の触覚情報を取得できるので、力覚センサを用いることなく触覚情報の取得が可能になる。
【0104】
本実施例では、前記周波数分析データと環境Eの材質または品質とを関連付けた関連付けデータ33を、環境Eの材質毎または品質毎に記憶手段4に記憶させる方法と装置を提供している。
【0105】
この場合、周波数分析データが環境Eの材質または品質と関連付けられて、記憶手段4に関連付けデータ33として記憶されるので、環境Eとの接触動作により生じた力から、接触する環境Eの材質的または品質的な特徴を直感的且つ定量的に評価できるような周波数分析データを、触覚ベースで各材質毎または各品質毎にデータベース化することが可能になる。
【0106】
また本実施例では、前記処理手段3による解析処理が行なわれると、この比較対象となる周波数分析データと、記憶手段4から読み出される関連付けデータ33の解析処理結果(周波数分析データ32)とを比較し、前記比較対象となる周波数分析データに一致または類似する環境Eの材質データ31または品質データを、関連付けデータ33から特定できるように、処理手段3に判別手段25を備えている。
【0107】
このようにすれば、単に時系列な力のデータからでは判別が困難な触覚情報の定量的な比較が可能となり、力の時間領域における周波数分析データから、未知の材質または品質を正しく特定することが可能になる。
【0108】
また処理手段3は、前記取得した前記触覚情報を時間領域に加え位置領域で解析処理するものであってもよい。こうすれば、接触する環境Eの材質的または品質的な特徴を、位置情報と共に直感的且つ定量的に把握することが可能になる。
【0109】
さらに本実施例の処理手段3は、入力手段2で取得した触覚情報をフーリエ変換またはウェーブレット変換またはコサイン変換により時間領域または空間領域で解析処理し、また有限要素法を用いた変換により空間領域で解析処理している。つまり、画像や音声信号処理などの分野で研究開発が進んでいるフーリエ変換またはウェーブレット変換またはコサイン変換や、空間領域を小空間に分割して数値解析を行なう手法としてよく知られている有限要素法を採用することで、触覚情報の時間領域や空間領域における解析処理を容易に行なうことが可能になる。
【0110】
また、位置領域の解析処理が、離散的な各位置の周波数分析データを連続して補間する機能を有する場合、この離散的な各位置の周波数分析データから、連続した位置での接触環境Eの材質的または品質的な特徴を取得することが可能になる。
【0111】
さらに、前記判別手段25として、記憶手段4に記憶される関連付けデータ33から、この関連付けデータ33に含まれる周波数分析データを検索対象として、環境Eの材質または品質を特定する逆引き手段を備えるのが好ましい。こうした逆引き機能によって、関連付けデータ33に含まれる周波数分析データを検索対象として、環境Eの材質または品質を正しく特定することが可能になる。
【0112】
また、この場合の前記処理手段3からの解析処理結果は、触覚情報を周波数解析して得た周波数析データを生成することで得られ、この周波数析データは、触覚情報がどのような周波数特性を有しているのかを示している。
【0113】
こうすると、入力手段2で取得した触覚情報から、この触覚情報を周波数解析した周波数析データを生成することで、そこから触覚情報がどのような周波数特性を有するのかを可視化して提示することができ、振幅レベルの程度を例えば色や濃淡で可視化することで、触覚情報をより定量的に表現することが可能になる。
【0114】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲において種々の変形実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0115】
上記実施例で提示した「ハプトグラフ」により、触覚情報を可視化することが可能になったため、実世界における触覚をより直感的且つ定量的に表現することができる。とりわけ本発明では、接触環境の違いによる触覚情報の違いを周波数解析により可視化し、これを材質毎に記憶して、「材質辞典」としてデータベース化を行なうことができるので、材質固有の共振周波数やスペクトルの大きさといった情報を抽出し、必要に応じて定量比較を行なうことが可能になる。そのため、それまで「つるつる」や「ざらざら」といった定性的な表現しかできなかった触覚情報の、より直感的且つ定量的な評価が可能になる。さらに、データベース化された「材質辞典」から、接触環境の材質または品質を逆引きで特定することもでき、例えば癌の診断技術などのように、将来の人間支援技術においても広く応用が可能となる。したがって、その産業上の応用は計り知れないものとなり得る。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の一実施例における触覚の解析装置に関し、その全体構成を示すブロック図である。
【図2】同上、記憶手段に記憶されるデータの保存形態を模式的に示した概略説明図である。
【図3】同上、図1における触覚の解析装置が実行する処理手順をあらわしたフローチャートである。
【図4】同上、図1の装置本体を利用した実験システムの斜視図である。
【図5】同上、接触する環境の形状と接触点を示す斜視図である。
【図6】同上、FFT解析による鉄のハプトグラフ(ステップ応答)を示すラインタイプのグラフである。
【図7】同上、FFT解析による鉄のハプトグラフ(ステップ応答)を示すメッシュタイプのグラフである。
【図8】同上、FFT解析による鉄のハプトグラフ(ステップ応答)を示すカラータイプのグラフである。
【図9】同上、FFT解析によるニトリルゴムのハプトグラフ(ステップ応答)を示すラインタイプのグラフである。
【図10】同上、FFT解析によるニトリルゴムのハプトグラフ(ステップ応答)を示すメッシュタイプのグラフである。
【図11】同上、FFT解析によるニトリルゴムのハプトグラフ(ステップ応答)を示すカラータイプのグラフである。
【図12】同上、FFT解析による鉄のハプトグラフ(定常応答)を示すラインタイプのグラフである。
【図13】同上、FFT解析による鉄のハプトグラフ(定常応答)を示すメッシュタイプのグラフである。
【図14】同上、FFT解析による鉄のハプトグラフ(定常応答)を示すカラータイプのグラフである。
【図15】同上、FFT解析によるニトリルゴムのハプトグラフ(定常応答)を示すラインタイプのグラフである。
【図16】同上、FFT解析によるニトリルゴムのハプトグラフ(定常応答)を示すメッシュタイプのグラフである。
【図17】同上、FFT解析によるニトリルゴムのハプトグラフ(定常応答)を示すカラータイプのグラフである。
【符号の説明】
【0117】
2 入力手段
3 処理手段
4 記憶手段
5 表示手段
6 モータ制御手段(制御手段、システム)
13 アクチュエータ
13A マスターシステム
13B スレーブシステム
15,15A,15B 外乱オブザーバ
24 抽出手段
25 判別手段(逆引き手段)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図5】
3
【図4】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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