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明細書 :前輪操舵制御装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4304345号 (P4304345)
登録日 平成21年5月15日(2009.5.15)
発行日 平成21年7月29日(2009.7.29)
発明の名称または考案の名称 前輪操舵制御装置
国際特許分類 B62D   6/00        (2006.01)
B62D   5/04        (2006.01)
B62D 101/00        (2006.01)
B62D 113/00        (2006.01)
B62D 137/00        (2006.01)
FI B62D 6/00 ZYW
B62D 5/04
B62D 101:00
B62D 113:00
B62D 137:00
請求項の数または発明の数 2
全頁数 10
出願番号 特願2006-535035 (P2006-535035)
出願日 平成17年5月18日(2005.5.18)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 自動車技術会春季大会学術講演会前刷集No.33-04(平成16年5月20日)、社団法人自動車技術会発行、第17~22ページに発表
国際出願番号 PCT/JP2005/009495
国際公開番号 WO2006/027875
国際公開日 平成18年3月16日(2006.3.16)
優先権出願番号 2004230241
優先日 平成16年8月6日(2004.8.6)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年1月29日(2007.1.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
発明者または考案者 【氏名】ラクシンチャラーンサク ポンサトーン
【氏名】永井 正夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100094488、【弁理士】、【氏名又は名称】平石 利子
審査官 【審査官】佐々木 智洋
参考文献・文献 特開昭61-175180(JP,A)
特開平03-109170(JP,A)
特開平04-339009(JP,A)
特開平04-339076(JP,A)
特開平05-294173(JP,A)
特開平07-242179(JP,A)
特開2000-177616(JP,A)
特開2000-302053(JP,A)
調査した分野 B62D 6/00
B62D 5/04
特許請求の範囲 【請求項1】
車両の操縦安定性を向上させる前輪操舵制御装置において、
前記車両のハンドル角と車速とを読み込む読込手段と、
前記読込手段で読み込んだハンドル角と車速に基づいて、車体重心点横すべり角を常に0とする車両のヨーレイトを算出する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段で算出したヨーレイトを実現するための、目標前輪実舵角を算出する第2の算出手段と、
前記第2の算出手段で算出した前記目標前輪実舵角に基づき、前記車両の操舵制御を行う制御手段と
を有することを特徴とする前輪操舵制御装置。
【請求項2】
前記目標前輪実舵角は、車両のハンドル角に比例したフィードフォワード実舵角と、該ハンドル角の微分値に一次遅れ要素を付加したフィードフォワード実舵角を重ね合わせて算出することを特徴とする請求項1に記載の前輪操舵制御装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】

本発明は、車両の操縦安定性を向上させる前輪操舵制御装置に関する。
【背景技術】

従来、交通事故低減を目指す予防安全技術の一つとして、操縦安定性向上技術の開発が行われている。操縦安定性向上技術の例として、左右制駆動力配分によるヨーモーメント制御や前輪アクティブ操舵制御などが挙げられる。
これら技術のうち、車両の前輪タイヤとハンドルが機械的に連結していないものにおける、前輪アクティブ操舵系によるステアリングギヤ比制御技術は、従来より様々な提案がなされている。
このステアリングギヤ比制御は、ハンドル角とタイヤの実舵角のギヤ比(舵角比)を走行条件に応じて変化させる。よって、車両の応答をドライバの感覚に適合させることができ、結果として操縦安定性が向上する。
一般的に、低速では舵角比を小さくすることにより、操舵量が低減され、運転負荷が軽減される。また、高速では舵角比を大きくすることにより、走行安定性が確保される。
例えば、ラックアンドピニオン(Rack and Pinion)のラック歯中央から終端に向けてかみ合いピッチを大きくし、ハンドル角に応じてギヤ比を変化させるVGR(Variable Gear Ratio)という技術がある(特開平7-323852号公報参照)。
また、車速とハンドル角でギヤ比を変化させるVGS(Variable Gear-Ratio Steering)もある(特開平11-78937号公報参照)。
また、車速と路面摩擦係数でギヤ比を変化させ、加えて操舵の微分動作を加えるVGRS(Variable Gear Ratio Steering)もある(特開平11-301507号公報参照)。
【図面の簡単な説明】

【図1】本発明の一実施形態における車両100の概略構成を示すブロック図である。
【図2】同上の実施形態における前輪アクティブ操舵制御器9の動作を示すフローチャートである。
【図3】自動車平面運動の等価2輪モデルを示す図である。
【図4】前輪アクティブ操舵制御器9で算出する、車速の変化に対する前輪実舵角とハンドル角との舵角比を示す図である。
【図5】車速50km/hのときのハンドル角に対する前輪実舵角の舵角比の周波数特性を示す図である。
【図6】Uターン試験の設定コースを示す図である。
【図7】Uターン試験におけるハンドル角の時系列応答の比較を示す図である。
【図8】車線変更試験の設定コースを示す図である。
【図9】非制御時の場合の車線変更試験におけるハンドル角、前輪操舵モータ角度、車両のヨーレイトの時系列応答を示す図である。
【図10】前輪操舵制御を適用したときの車線変更試験におけるハンドル角、前輪操舵モータ角度、車両のヨーレイトの時系列応答を示す図である。
【図11】ハンドル角に対する車両のヨーレイトのリサージュ曲線を示す図である。
【発明の開示】

ステアリングギヤ比制御は、自動車の操縦安定性向上を目的としている。しかし、その設計は運転者の感応評価などによる試行錯誤的設計が多く、本質的に自動車の操縦安定性理論に基づくステアリングギヤ比の設計がほとんど見られない。
また、急なハンドル操作を行った場合などに、ハンドル角の微分値に応じて前輪タイヤ実舵角を決定するが、その最適設計も理論に基づいたものがほとんど見られない。
また、運転者の制御しやすさの観点から好ましいステアリングギヤ比特性を探る試みもなされているが、明確で定量的なギヤ特性の算出はまだ十分とはいえない。
この発明はこのような点に鑑みてなされたもので、車両の操縦安定性理論に基づいた、ハンドル角に対する車両の操縦安定性を向上させる前輪操舵制御装置を提供することを目的としている。
上記した目的を達成するために、本発明は、車両の操縦安定性を向上させる前輪操舵制御装置において、
前記車両のハンドル角と車速とを読み込む読込手段と、
前記読込手段で読み込んだハンドル角と車速に基づいて、車体重心点横すべり角を常に0とする車両のヨーレイトを算出する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段で算出したヨーレイトを実現するための、目標前輪実舵角を算出する第2の算出手段と、
前記第2の算出手段で算出した前記目標前輪実舵角に基づき、前記車両の操舵制御を行う制御手段と、
を有することを特徴とする。
本発明では、前記目標前輪実舵角は、車両のハンドル角に比例したフィードフォワード実舵角と、該ハンドル角の微分値に一次遅れ要素を付加したフィードフォワード実舵角を重ね合わせて算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】

以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両100の概略構成を示すブロック図である。1はステアリングセンサ、2はハンドル、3はステアリングシャフト、4は前輪操舵モータ、5、6はプーリ、7はベルト、8は電磁クラッチ機構、9は前輪アクティブ操舵制御器(読込手段、第1の算出手段、第2の算出手段、制御手段、第3の算出手段、出力手段)、10は車速センサ、11はピニオン、12はラック、13、14は前輪タイヤ、20は前輪操舵器である。
ステアリングセンサ1は、図示しない可変抵抗器の出力電圧から換算しており、ハンドル2の回転角からハンドル角δswを検出して前輪アクティブ操舵制御器9に出力する。
車速センサ10は、図示しない光学式速度計を用いて非駆動輪の回転速度から換算しており、この車速センサ10で検出された車速Vを前輪アクティブ操舵制御器9に出力する。
前輪アクティブ操舵制御器9は、図示しないコンピュータ等の離散化されたディジタルシステムで構成され、ステアリングセンサ1から入力されたハンドル角δswと、車速センサ10で検出された車速Vに基づいて、目標前輪操舵モータ角度δm*を算出する。
前輪操舵器20は、ステアリングシャフト3におけるピニオン11の上部位置に設けられている。前輪操舵器20は、ステアリングシャフト3と同軸に取り付けられたプーリ6と、プーリ6と噛合いするベルト7と、ベルト7と噛合いするプーリ5と、プーリ5を回転駆動する前輪操舵モータ4とから成り、前輪タイヤ13、14をアクティブに操舵するための操舵アクチュエータを構成している。
前輪タイヤ13,14には、一般的なラックアンドピニオン式の操舵機構が設けられている。この操舵機構は、前輪タイヤ13、14の操舵軸(タイロッド)に接続されるラック12と、これに噛合するピニオン11と、このピニオン11をハンドル2に与えられる操舵力で回転させるステアリングシャフト3とを備えている。
本発明で取り扱う操舵機構は、ドライバからの操舵入力とモータからの制御入力の干渉を防ぐため、ハンドル2と前輪タイヤ13、14が機械的に直結していない。そのため、ステアリングシャフト3の上部を切断している。なお、プーリ6の上部位置には、電磁クラッチ機構8が設けられており、前輪操舵モータ4が故障した際には、電磁クラッチ機構8が締結され、ハンドル2に与えられた操舵力がそのままステアリングシャフト3、ピニオン11、ラック12を介して前輪タイヤ13、14に入力される。
次に、上記構成の前輪アクティブ操舵制御器9の動作について図2を参照して説明する。この動作は、0.1msec毎のサンプリングタイムで実行される。
まず、運転手が運転中にハンドル2を回転させると、ステアリングセンサ1がハンドル角δswを検出し、車速センサ10が車速Vを検出する。前輪アクティブ操舵制御器9は、検出したハンドル角δswと車速Vを読み込む(ステップS1)。
次に前輪アクティブ操舵制御器9は、検出したハンドル角δsw、車速センサVに基づいて目標ヨーレイトγdを下記の式により算出する(ステップS2)。
JP0004304345B2_000002t.gif ただし、kγd、τγdはそれぞれ目標ヨーレイトの定常ゲインと時定数であり、後述の式(2)、(3)に示すように設定している。sはラプラス変換の演算子である。なお、本発明では、高速安定性を向上させるため、ハンドル角に対するヨーレイトの応答を1次遅れ特性とする。
ステップS2で算出される目標ヨーレイトγdの定常ゲインkγdおよび時定数τγdは、操縦安定性の優れる車体横滑り角零化四輪操舵方式のヨーレイト特性と同じとなるように設定する。よって、定常ゲインkγdおよび時定数τγdは下記の式のように表せる。
JP0004304345B2_000003t.gif ただし、Vは車速、lは前輪軸重心点間距離、lはホイールベース、Nはラックアンドピニオンのギヤ比、mは車両質量、lは後輪軸重心点間距離、Cは前輪タイヤのコーナリングパワ、lzはヨー慣性モーメントである。
次に前輪アクティブ操舵制御器9は、ステップS2で算出された目標ヨーレイトγdを達成するために、必要な目標前輪実舵角δfを、式(4)により算出する(ステップS3)。
JP0004304345B2_000004t.gif ただし、フィードフォワードコントローラGff(s)は、後述する式(11)で与えられる。
ここで、フィードフォワードコントローラGff(s)の算出方法を以下に示す。図3は自動車の平面運動等価2輪モデルである。この運動方程式は、下記の式(5)(6)のように表される。
JP0004304345B2_000005t.gif ただし、Crは後輪タイヤのコーナリングパワ、βは車体横すべり角である。また、ステアリングシャフト3の回転角度δswと前輪タイヤ13、14の実舵角δfは比例関係で、まったく遅れがないものとすると、以下の関係式が成り立つ。
JP0004304345B2_000006t.gif 式(1)~(2)をラプラス変換して整理すると、ハンドル角に対するヨーレイト応答は以下の式のようになる。
JP0004304345B2_000007t.gif ただし、ヨーレイトの定常ゲインおよび時定数は下記の式のように求まる。
JP0004304345B2_000008t.gifJP0004304345B2_000009t.gif 前輪アクティブ操舵制御器9を適用したとき、車体ヨーレイトが目標ヨーレイトと完全に一致するとすれば、式(1)と式(8)より、フィードフォワード制御器の伝達関数Gff(s)は下記の式として算出できる。
JP0004304345B2_000010t.gif 式(11)をさらに整理すると、下記のように記述できる。
JP0004304345B2_000011t.gif 上記の式において、右辺の第1項は定常的なハンドル角入力の場合のハンドル角と前輪タイヤ実舵角の舵角比に相当する。
ハンドル角の微分動作を考慮しない場合、前輪実舵角に対するハンドル角の舵角比は下記の式で表される。
JP0004304345B2_000012t.gif 式(13)において、当該車両の諸元を用い、車速の変化に対する舵角比を図4に示す。図4より、車速25km/h以下では、舵角比がラックアンドピニオンのギヤ比より小さく、車速25km/h以上では、その舵角比が大きくなることを示す。
また、式(12)の右辺の第2項は動的なハンドル角入力の場合の舵角比に相当する。この第2項はハンドル角の微分動作が含まれているため、本発明では微分操舵と呼ぶ。一例として、車速50km/hの場合、ハンドル角に対する前輪実舵角の舵角比の周波数特性を図5に示す。これは、車両応答性の遅れを補償するために、高周波数のハンドル角に対して、舵角比を増す役割を持つことを示す。
次に前輪アクティブ操舵制御器9は、前記目標前輪実舵角δfを達成するために、目標前輪操舵モータ角度δm*を下記の式により算出する(図2のステップS4)。
JP0004304345B2_000013t.gif 次に前輪アクティブ操舵制御器9は、前輪操舵モータ4内の回転角検出器で検出している実角度を、ステップS4で算出した目標モータ角度δm*に一致させるように、目標モータ角度δm*をパルス電圧に変換して前輪操舵モータ4に出力し(ステップS5)、処理を終了する。
低速域の取り回し性向上を確認するために、図6に示すUターン試験を行った。車速は一定3km/hとした。図6に示すコースを通過できるために必要なハンドル角を計測した。図7より、非制御時の場合は、ドライバが650度以上も操舵していることを示す。一方、図4に示すような舵角比を制御した場合、約1回転(360度)でUターンできていることから、ドライバの操作性が大幅に向上していることがわかった。
また、高速域での動的操舵入力における前輪アクティブ操舵制御器の効果を確認するため、図8に示す車線変更試験を行った。実験は車速一定30km/hで行った。非制御時と前輪アクティブ操舵制御器を適用した場合のドライバのハンドル角、前輪操舵モータ角度、ヨーレイトの時系列応答を図9、図10にそれぞれ示す。ハンドル角の時系列応答から、制御時の場合、図10に示すように、ドライバのハンドル角より前輪モータの方が早めに操舵していることが確認できる。これは微分操舵の効果である。また、車線変更時のハンドル角とヨーレイトのリサージュ曲線を図11に示す。リサージュ曲線より、非制御時に比べ、ハンドル角とヨーレイトが線形に近い関係を示している。これはハンドル角に対するヨーレイトの位相遅れが改善されることを意味する。また、提案した制御器により、ドライバがより少ないハンドル角でコースを通過することが可能となる。
このように、ドライバのハンドル角と車両の走行速度を検出し、その情報に基づいて前輪タイヤの実舵角とハンドル角との舵角比をモータ制御で可変にすることにより、全車速領域において優れた操縦安定性を持つ車両を実現できる。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、前記目標前輪実舵角の算出手段では、フィードフォワード制御の設計手法を示したが、本発明はこれに限定される者ではなく、フィードバック制御等、他の制御手法であってもよい。
【産業上の利用可能性】

以上の説明で明らかなように、本発明によれば、車両のよりよい操縦安定性を図ることができる。
本発明では、車両のハンドル角と車速に基づき、目標ヨーレイト(読込手段で読み込んだハンドル角と車速に基づいて、車体重心点横すべり角を常に0とするヨーレイト)を算出し、目標ヨーレイトを実現するための目標前輪実舵角を算出し、目標前輪実舵角に基づいて車両の操舵制御を行う。これにより、車両の操縦安定性理論に基づいた操舵制御の設計を行うことができ、低速域においてはハンドル角と前輪実舵角の舵角比を小さくすることができ、優れた操縦安定性を有する車両のヨーレイト特性を目標ヨーレイトとするので、低速域においては取り回し性が大幅に向上でき、高速域においては走行安定性が確保される。
また、前輪実舵角をハンドル角と該ハンドル角の微分値により算出する。これにより、前輪実舵角を理論的に算出するため、動的ハンドル角入力の場合にハンドル角に対する車両応答の遅れが補償され、ふらつきがなく、かつ、運転者の操作意図に忠実に動く車両の操舵制御装置を構成できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10