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明細書 :熱電変換材料の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4750349号 (P4750349)
公開番号 特開2004-253618 (P2004-253618A)
登録日 平成23年5月27日(2011.5.27)
発行日 平成23年8月17日(2011.8.17)
公開日 平成16年9月9日(2004.9.9)
発明の名称または考案の名称 熱電変換材料の製造方法
国際特許分類 H01L  35/14        (2006.01)
C22C  38/00        (2006.01)
H01L  35/34        (2006.01)
H02N  11/00        (2006.01)
FI H01L 35/14
C22C 38/00 302Z
H01L 35/34
H02N 11/00 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 23
出願番号 特願2003-042490 (P2003-042490)
出願日 平成15年2月20日(2003.2.20)
審判番号 不服 2008-003493(P2008-003493/J1)
審査請求日 平成16年6月1日(2004.6.1)
審判請求日 平成20年2月14日(2008.2.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
発明者または考案者 【氏名】西野 洋一
個別代理人の代理人 【識別番号】110001117、【氏名又は名称】特許業務法人ぱてな
参考文献・文献 国際公開第2003/019681(WO,A1)
特許請求の範囲 【請求項1】
ホイスラー合金型の結晶構造をもつFe2VAlの基本構造に対してFe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部が他の元素で置換された熱電変換材料の製造方法であって、
上記熱電変換材料を製造可能な元素と構成比率とを有する原料混合物を用意する第1工程と、該原料混合物を真空中又は不活性ガス中において溶融又は気化及び固化し、熱電変換材料を得る第2工程とを有し、
該第1工程では、n型の熱電変換材料を製造するため、Feに替えて置換する他の元素とする場合には、元素M周期表における第4~6周期の9族及び10族からなる群から選、Vに替えて置換する他の元素とする場合には、元素N周期表における第4~6周期の6族及び7族からなる群から選、Alに替えて置換する他の元素とする場合には、元素D周期表における第3~6周期の14~16族からなる群から選、さらに化学式当たりの総価電子数が24を超え、24.8以下になるように制
p型の熱電変換材料を製造するため、Vに替えて置換する他の元素とする場合には、元素N周期表における第4~6周期の4族からなる群から選、Alに替えて置換する他の元素とする場合には、元素D周期表における第3~6周期の2族からなる群から選、さらに化学式当たりの総価電子数が24未満、23.2以上になるように制し、
前記基本構造に対して該熱電変換材料の熱伝導率を低下させ、かつ該熱電変換材料が大きな性能指数を示すようにすることを特徴とする熱電変換材料の製造方法
【請求項2】
ホイスラー合金型の結晶構造をもつFe2VAlの基本構造に対してFe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部が他の元素で置換された熱電変換材料の製造方法であって、
上記熱電変換材料を製造可能な元素と構成比率とを有する原料混合物を用意する第1工程と、該原料混合物を真空中又は不活性ガス中において溶融又は気化及び固化し、熱電変換材料を得る第2工程とを有し、
該第1工程では、n型の熱電変換材料を製造するため、Feに替えて置換する他の元素とする場合には、元素M周期表における第4~6周期の9族及び10族からなる群から選、Vに替えて置換する他の元素とする場合には、元素N周期表における第4~6周期の6族及び7族からなる群から選、Alに替えて置換する他の元素とする場合には、元素D周期表における第3~6周期の14~16族からなる群から選、さらに化学式当たりの総価電子数が24を超え、24.8以下になるように制
p型の熱電変換材料を製造するため、Vに替えて置換する他の元素とする場合には、元素N周期表における第4~6周期の4族からなる群から選、Alに替えて置換する他の元素とする場合には、元素D周期表における第3~6周期の2族からなる群から選、さらに化学式当たりの総価電子数が24未満、23.2以上になるように制
該第2工程では、該熱電変換材料を焼結体として、
前記基本構造に対して該熱電変換材料の熱伝導率を低下させ、かつ該熱電変換材料が大きな性能指数を示すようにすることを特徴とする熱電変換材料の製造方法
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は熱電変換材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、熱エネルギーと電気エネルギーとの相互変換が可能な熱電変換素子が知られている。この熱電変換素子は、p型及びn型の二種類の熱電変換材料から構成されており、この二種類の熱電変換材料を電気的に直列に接続し、熱的に並列に配置した構成とされている。この熱電変換素子は、両端子間に電圧を印加すれば、正孔の移動及び電子の移動が起こり、両面間に温度差が発生する(ペルチェ効果)。また、この熱電変換素子は、両面間に温度差を与えれば、やはり正孔の移動及び電子の移動が起こり、両端子間に起電力が発生する(ゼーベック効果)。このため、熱電変換素子を冷蔵庫やカーエアコン等の冷却用の素子として用いたり、ごみ焼却炉等から生ずる廃熱を利用した発電装置用の素子として用いたりすることが検討されている。
【0003】
従来、この熱電変換素子を構成する熱電変換材料として、金属間化合物からなるものが知られている。その中でもBi2Te3を主成分とした熱電変換材料は、大きなゼーベック係数と大きな性能指数とを有しており、比較的効率よく熱電変換を行うことができることから、特によく用いられている。また、金属間化合物以外の熱電変換材料として、複合酸化物系の熱電変換材料も開発されている(特許文献1)。この熱電変換材料は、比較的高温となる温度範囲で熱電変換を行うことができるという利点を有している。
【0004】
【特許文献1】
特開平9-321346号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来の熱電変換材料のうち、Bi2Te3を主成分とした熱電変換材料は、脆くて加工し難い性質を有しており、熱間圧延等の加工法を採用することができない。このため、この熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造する場合には、Bi2Te3の多結晶のインゴットを製造した後、これを切断するという方法が行われている。このため、切断のための削り代が必要になるとともに、切断時においてインゴットが割れやすいことから、熱電変換素子を製造する場合の歩留まりが非常に悪い。また、Teは高価な元素であるため、Teを原料とする上記熱電変換材料も高価になってしまう。こうして、この熱電変換材料では、熱電変換素子の製造コストの高騰化を招来する。また、Teは毒性が極めて強く、Biも毒性が強い。このため、Bi2Te3を主成分とした熱電変換材料は、環境汚染のおそれがある。さらに、Teは希少元素であるため、Bi2Te3を熱電変換材料として大量かつ安定に市場へ供給することは困難と考えられる。
【0006】
この点、上記公報に記載された複合酸化物系の熱電変換材料は、Te等の希少元素を使用しておらず、市場へ大量かつ安定に供給することが可能である。また、この熱電変換材料は、原料として安価な汎用性金属を原料とするため、製造コストの低廉化が可能である。さらに、この熱電変換材料には毒性の強い成分は含まれておらず、環境汚染のおそれも少ない。
【0007】
しかしながら、複合酸化物系の熱電変換材料は、Bi2Te3を主成分とした熱電変換材料と同様、脆くて加工が困難であるという性質を有する。このため、複合酸化物系の熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、やはり切断のための削り代が必要になるとともに、切断時においてインゴットが割れやすく、歩留まりが非常に悪く、熱電変換素子の製造コストの高騰化を招来する。また、複合酸化物系の熱電変換材料は、Bi2Te3よりもゼーベック係数の絶対値が小さく、性能指数も小さく、熱電変換効率が低い。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、熱電変換効率が高く、製造コストの低廉化が可能であり、環境汚染のおそれも少ない熱電変換材料を提供することを解決すべき課題としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者は、上記課題解決のために鋭意研究を行い、以下の考察を経て本発明を完成するに至った。すなわち、発明者の試験結果によれば、ホイスラー合金型の結晶構造を有する化合物の中には、金属であるにもかかわらず半導体的性質を示すものがある。例えば、Fe2VAlは、2Kでの電気抵抗率が約30μΩmにも達しており、通常の金属と異なり、半導体的な負の温度依存性を示す。一方、高分解能光電子分光測定によれば、この化合物にはフェルミ準位に半導体型のエネルギーギャップが認められず、明瞭なフェルミ端が観測される。これらのことから、この化合物は金属的あるいは半金属的なバンド構造を有していることが判る。発明者は、このホイスラー合金型の結晶構造を有する化合物のバンド計算を行った。この結果、この化合物の化学式当たりの総価電子数が24である場合、この化合物がフェルミ準位に鋭い擬ギャップをもつ半金属になることを明らかにした。
【0010】
そして、発明者は、ホイスラー合金型の結晶構造を有する化合物であって、化学式当たりの総価電子数が24の化合物であるFe2VAl等について、ホール効果の測定も行った。この結果、この化合物はキャリア数がSbのような半金属と同程度に低いことを確認し、その擬ギャップの存在を予測した。このような擬ギャップを有する化合物は、フェルミ準位近傍の状態密度の傾きが急峻である。このため、化学式当たりの総価電子数が24であるホイスラー合金型の化合物の化学組成比を調整し、フェルミ準位を擬ギャップの中心からシフトさせれば、その化合物のゼーベック係数の絶対値及び符号を変化させることができると推測した。また、化学式当たりの総価電子数が24であるホイスラー合金型の化合物の構成元素の少なくとも一部を他の元素つまり第4元素、第5元素等で置換し、フェルミ準位を擬ギャップの中心からシフトさせれば、その化合物のゼーベック係数の絶対値及び符号を変化させることができるとも推測した。さらに、化学式当たりの総価電子数が24であるホイスラー合金型の化合物の化学組成比を調整するとともに、構成元素の少なくとも一部を他の元素で置換し、フェルミ準位を擬ギャップの中心からシフトさせれば、その化合物のゼーベック係数の絶対値及び符号を変化させることができるとも推測した。そして、そのような化合物は、その機構から、熱エネルギーの寄与が少ない低温で熱電変換効率が高いことを確認した。特に、これらの化合物は、常温付近及び常温以下で熱電変換材料としての特性に優れていることを確認した。以上の確認の下、発明者はPCT/JP02/08394のPCT出願を行った。
【0011】
今回、発明者はさらに研究を進め、置換する元素によって、熱電変換材料が電子を多数キャリアとするn型や正孔を多数キャリアとするp型に規則的になることを実証するとともに、置換する元素の原子量の大きさによって熱伝導率を低下させることが可能であり、また粉体又は結晶粒の集合体が熱電変換材料である場合の粉体又は結晶粒の粒径によって熱伝導率を低下させることが可能であり、これらによって熱電変換材料の熱電変換効率を向上できることを実証し、より実用性を向上させて本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の熱電変換材料の製造方法は、ホイスラー合金型の結晶構造をもつFe2VAlの基本構造に対してFe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部が他の元素で置換された熱電変換材料の製造方法であって、
上記熱電変換材料を製造可能な元素と構成比率とを有する原料混合物を用意する第1工程と、該原料混合物を真空中又は不活性ガス中において溶融又は気化及び固化し、熱電変換材料を得る第2工程とを有し、
該第1工程では、n型の熱電変換材料を製造するため、Feに替えて置換する他の元素とする場合には、元素M周期表における第4~6周期の9族及び10族からなる群から選、Vに替えて置換する他の元素とする場合には、元素N周期表における第4~6周期の6族及び7族からなる群から選、Alに替えて置換する他の元素とする場合には、元素D周期表における第3~6周期の14~16族からなる群から選、さらに化学式当たりの総価電子数が24を超え、24.8以下になるように制
p型の熱電変換材料を製造するため、Vに替えて置換する他の元素とする場合には、元素N周期表における第4~6周期の4族からなる群から選、Alに替えて置換する他の元素とする場合には、元素D周期表における第3~6周期の2族からなる群から選、さらに化学式当たりの総価電子数が24未満、23.2以上になるように制し、
前記基本構造に対して該熱電変換材料の熱伝導率を低下させ、かつ該熱電変換材料が大きな性能指数を示すようにすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の熱電変換材料の製造方法は、ホイスラー合金型の結晶構造をもつFe2VAlの基本構造に対してFe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部が他の元素で置換された熱電変換材料の製造方法であって、
上記熱電変換材料を製造可能な元素と構成比率とを有する原料混合物を用意する第1工程と、該原料混合物を真空中又は不活性ガス中において溶融又は気化及び固化し、熱電変換材料を得る第2工程とを有し、
該第1工程では、n型の熱電変換材料を製造するため、Feに替えて置換する他の元素とする場合には、元素M周期表における第4~6周期の9族及び10族からなる群から選、Vに替えて置換する他の元素とする場合には、元素N周期表における第4~6周期の6族及び7族からなる群から選、Alに替えて置換する他の元素とする場合には、元素D周期表における第3~6周期の14~16族からなる群から選、さらに化学式当たりの総価電子数が24を超え、24.8以下になるように制
p型の熱電変換材料を製造するため、Vに替えて置換する他の元素とする場合には、元素N周期表における第4~6周期の4族からなる群から選、Alに替えて置換する他の元素とする場合には、元素D周期表における第3~6周期の2族からなる群から選、さらに化学式当たりの総価電子数が24未満、23.2以上になるように制
該第2工程では、該熱電変換材料を焼結体として、
前記基本構造に対して該熱電変換材料の熱伝導率を低下させ、かつ該熱電変換材料が大きな性能指数を示すようにすることを特徴とする。
【0014】
発明者の試験結果によれば、本発明による元素で置換された熱電変換材料は、化学式当たりの総価電子数が24を超えるとき、ゼーベック係数の符号が負であり、その絶対値が大きくなり、n型としての挙動を示すとともに、性能指数も大きくなる。つまり、ホイスラー合金型の結晶構造をもつFe2VAlの基本構造に対してFe(鉄)の少なくとも一部を元素Mで置換する場合、元素Mが周期表における第4~6周期の9族及び10族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料は電子を多数キャリアとするn型になる。また、その基本構造に対してV(バナジウム)の少なくとも一部を元素Nで置換する場合、元素Nが周期表における第4~6周期の6族及び7族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料はn型になる。さらに、その基本構造に対してAl(アルミニウム)の少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素Dが周期表における第3~6周期の14~16族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料はn型になる。元素M、元素N又は元素Dは1種の元素でもよく、複数の元素でもよい。
【0015】
これらを表で示すと表1のようになる。
【0016】
【表1】
JP0004750349B2_000002t.gif【0017】
基本構造に対してFeの少なくとも一部だけを元素Mで置換する場合、元素Mの置換量が一般式(Fe1-αα2VAlを満たす0<α<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。また、基本構造に対してVの少なくとも一部だけを元素Nで置換する場合、元素Nの置換量が一般式Fe2(V1-ββ)Alを満たす0<β<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。さらに、基本構造に対してAlの少なくとも一部だけを元素Dで置換する場合、元素Dの置換量が一般式Fe2V(Al1-γγ)を満たす0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。基本構造に対してFeの少なくとも一部を元素Mで置換し、かつVの少なくとも一部を元素Nで置換する場合、元素M及び元素Nの置換量が一般式(Fe1-αα2(V1-ββ)Alを満たす0<α<1及び0<β<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。また、基本構造に対してVの少なくとも一部を元素Nで置換し、かつAlの少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素N及び元素Dの置換量が一般式Fe2(V1-ββ)(Al1-γγ)を満たす0<β<1及び0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。さらに、基本構造に対してFeの少なくとも一部を元素Mで置換し、かつAlの少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素M及び元素Dの置換量が一般式(Fe1-αα2V(Al1-γγ)を満たす0<α<1及び0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。基本構造に対してFeの少なくとも一部を元素Mで置換し、Vの少なくとも一部を元素Nで置換し、かつAlの少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素M、元素N及び元素Dの置換量が一般式(Fe1-αα2(V1-ββ)(Al1-γγ)を満たす0<α<1、0<β<1及び0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。総価電子数が24を超え、24.8以下の範囲内のn型の熱電変換材料が高い熱電変換効率を示す。元素M、元素N又は元素Dは1種の元素でもよく、複数の元素でもよい。
【0018】
さらに、発明者の試験結果によれば、置換する元素が原子量の大きいもの、つまり原子半径及び質量が大きいものとされれば、熱伝導率を下げる効果が大きく、熱電変換効率のより高いn型の熱電変換材料になる。発明者は、元素MをPt(白金)としたn型の熱電変換材料が元素MをPd(パラジウム)としたn型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れることを確認した。また、元素MをCo(コバルト)やIr(イリジウム)としたn型の熱電変換材料や元素NをMo(モリブデン)やW(タングステン)としたn型の熱電変換材料も優れた熱電変換効率を発揮することを確認した。さらに、元素DをGe(ゲルマニウム)としたn型の熱電変換材料は元素DをSi(ケイ素)としたn型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れる。元素DをSn(錫)としたn型の熱電変換材料は元素DをGeとしたn型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れる。
【0019】
また、発明者の試験結果によれば、熱電変換材料が可及的に小さな粒径の粉体又は結晶粒の集合体にされれば、格子振動の散乱が大きくなるため、熱伝導率が低下し、熱電変換効率のより高いn型の熱電変換材料になる。
【0022】
ホイスラー合金型の結晶構造をもつFe2VAlの基本構造に対してFeの少なくとも一部を元素Mで置換しても、置換する元素のサイト選択性により、元素Mは周期表における第4~6周期の9族及び10族からなる群から選ばれるため、これらの元素のうち少なくとも1元素で置換すると、総価電子数が24を超えるため、熱電変換材料は正孔を多数キャリアとするp型にはならない。発明者の試験結果によれば、本発明による元素で置換された熱電変換材料は、化学式当たりの総価電子数が24未満になると、ゼーベック係数の符号が正で、その絶対値が大きくなり、p型としての挙動を示すとともに、性能指数も大きくなる。つまり、その基本構造に対してVの少なくとも一部を元素Nで置換する場合、元素Nが周期表における第4~6周期の4族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料はp型になる。また、その基本構造に対してAlの少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素Dが周期表における第3~6周期の2族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料はp型になる。元素N又は元素Dは1種の元素でもよく、複数の元素でもよい。
【0023】
これらを表で示すと表2のようになる。
【0024】
【表2】
JP0004750349B2_000003t.gif【0025】
基本構造に対してVの少なくとも一部だけを元素Nで置換する場合、元素Nの置換量が一般式Fe2(V1-ββ)Alを満たす0<β<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24未満になれば、その熱電変換材料はp型になる。また、基本構造に対してAlの少なくとも一部だけを元素Dで置換する場合、元素Dの置換量が一般式Fe2V(Al1-γγ)を満たす0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24未満になれば、その熱電変換材料はp型になる。基本構造に対してVの少なくとも一部を元素Nで置換し、かつAlの少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素N及び元素Dの置換量が一般式Fe2(V1-ββ)(Al1-γγ)を満たす0<β<1及び0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24未満になれば、その熱電変換材料はp型になる。総価電子数が24未満、23.2以上の範囲内のp型の熱電変換材料が高い熱電変換効率を示す。元素N又は元素Dは1種の元素でもよく、複数の元素でもよい。
【0026】
さらに、発明者の試験結果によれば、置換する元素が原子量の大きいもの、つまり原子半径及び質量が大きいものとされれば、熱伝導率を下げる効果が大きく、熱電変換効率のより高いp型の熱電変換材料になる。発明者は、元素NをTi(チタン)及びZr(ジルコニウム)の少なくとも一方としたp型の熱電変換材料が優れた熱電変換効率を発揮することを確認した。
【0027】
また、発明者の試験結果によれば、熱電変換材料が可及的に小さな粒径の粉体又は結晶粒の集合体にされれば、格子振動の散乱が大きくなるため、熱伝導率が低下し、熱電変換効率のより高いp型の熱電変換材料になる。
【0028】
発明者が先の出願(PCT/JP02/08394)で確認したように、ホイスラー合金型の結晶構造をもつFe2VAlの基本構造は化学式当たりの総価電子数が24である。すなわち原子当たりの平均電子濃度が24/4=6である場合、この熱電変換材料は、フェルミ準位に鋭い擬ギャップをもつ。本発明の熱電変換材料は、この基本構造に対し、化学組成比を調整することによって化学式当たりの総価電子数を制御することも可能である。これによってフェルミ準位を擬ギャップの中心からシフトさせることができ、ゼーベック係数の符号や大きさを変化させ得る。
【0029】
すなわち、基本構造のFeに替えて置換する他の元素がMである場合、化学組成比の調整量x、y及びz並びに元素Mの置換量αが一般式(Fe1-αα2+x1+yAl1+zを満たす-1<x<1、-1<y<1又は-1<z<1及び0≦α≦1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えるか、24未満になるように制御され得る。また、基本構造のVに替えて置換する他の元素がNである場合、化学組成比の調整量x、y及びz並びに元素Nの置換量βが一般式Fe2+x(V1-ββ1+yAl1+zを満たす-1<x<1、-1<y<1又は-1<z<1及び0≦β≦1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えるか、24未満になるように制御され得る。さらに、基本構造のAlに替えて置換する他の元素がDである場合、化学組成比の調整量x、y及びz並びに元素Dの置換量γが一般式Fe2+x1+y(Al1-γγ1+zを満たす-1<x<1、-1<y<1又は-1<z<1及び0≦γ≦1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えるか、24未満になるように制御され得る。
【0030】
化学組成比を調整量x、y及びzで調整しつつ、基本構造のFeに替えて元素Mで置換するとともに、基本構造のVに替えて元素Nで置換すれば、一般式は(Fe1-αα2+x(V1-ββ1+yAl1+zとなる。また、化学組成比を調整量x、y及びzで調整しつつ、基本構造のFeに替えて元素Mで置換するとともに、基本構造のAlに替えて元素Dで置換すれば、一般式は(Fe1-αα2+x1+y(Al1-γγ1+zとなる。さらに、化学組成比を調整量x、y及びzで調整しつつ、基本構造のVに替えて元素Nで置換するとともに、基本構造のAlに替えて元素Dで置換すれば、一般式はFe2+x(V1-ββ1+y(Al1-γγ1+zとなる。化学組成比を調整量x、y及びzで調整しつつ、基本構造のFeに替えて元素Mで置換し、基本構造のVに替えて元素Nで置換し、かつ基本構造のAlに替えて元素Dで置換すれば、一般式は(Fe1-αα2+x(V1-ββ1+y(Al1-γγ1+zとなる。
【0031】
本発明の熱電変換材料は、金属的性質として、電気抵抗率が小さいという特徴がある。また、この熱電変換材料では、Fe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部を他の元素で置換すれば、格子振動の散乱が大きくなるため、熱伝導率が低下する。このため、この熱電変換材料を用いて、熱電変換効率の高い熱電変換素子を製造することができる。
【0032】
本発明の熱電変換材料は、従来の熱電変換材料と異なり、金属的性質として、750°C以上かつ融点以下の温度で熱間加工等を行うことができる。このため、熱電変換素子を製造する場合の歩留まりを高くすることができるとともに、製造工程数も少なくなり、ひいては熱電変換素子の製造コストの低廉化も実現できる。また、この熱電変換材料は、Fe、V及びAlが主成分であり、これらはいずれも毒性がほとんどないため、環境汚染の問題を生ずるおそれが小さい。また、Fe及びAlは安価であるので、製造コストの低廉化が可能になる。さらに、本発明の熱電変換材料は、置換する元素によってn型やp型に規則的になり、かつ置換する元素の原子量や粉体又は結晶粒の粒径によって熱伝導率を低下させることが可能であるため、優れた熱電変換効率を発揮する実用性を有するものである。
【0033】
本発明の熱電変換材料は以下の製造方法により製造され得る。この製造方法は、上記熱電変換材料を製造可能な元素と構成比率とを有する原料混合物を用意する第1工程と、該原料混合物を真空中又は不活性ガス中において溶融又は気化及び固化し、熱電変換材料を得る第2工程とを有することを特徴とする。この製造方法で上記熱電変換材料を製造すれば、熱電変換効率が高く、環境汚染のおそれも少ない熱電変換材料を低廉に製造することが可能である。
【0034】
第2工程としては、例えば、原料混合物を真空中や不活性ガス中において溶解させた後で冷却する方法を採用することができる。n型の熱電変換材料又はp型の熱電変換材料を可及的に小さな粒径の粉体の集合体とするためには、まず、原料混合物をアーク溶解等により溶解した後に固化することによりインゴットを作製し、これを不活性ガス又は窒素ガス雰囲気中で機械的に粉砕してほぼ均粒の粉体を得る方法、溶湯粉化(アトマイズ)やガスアトマイズ法によってほぼ均粒の粉体を得る方法、メカニカルアロイング法により不活性ガス又は窒素ガス雰囲気中で原料混合物の圧着と破断を繰り返すことによってほぼ均粒の粉体を得る方法等を採用することができる。そして、こうして得られた粉体を真空中のホットプレス法、HIP(熱間等方圧成形)法、放電プラズマ焼結法、パルス通電法等により焼結することが可能である。HIP(熱間等方圧成形)法により粉体を焼結する場合、例えば800°Cで高圧(150MPa)のアルゴンガスにより圧縮成形と焼結とを同時に進行させ、真密度で固化を行うことができる。また、擬HIP法によれば成形プレスを利用して安価に真密度固化を行うことができる。また、n型の熱電変換材料又はp型の熱電変換材料を可及的に小さな粒径の結晶粒の集合体とするためには、熱間圧延等の歪加工を行ったり、溶融した原料を急冷したりすること等により結晶粒を小さくする方法を採用することができる。
【0035】
本発明の熱電変換材料により熱電変換素子を製造することが可能である。こうして得られる熱電変換素子は、ゼーベック係数の符号が正の上記熱電変換材料がp型としての挙動を示し、ゼーベック係数の符号が負の上記熱電変換材料がn型としての挙動を示す。これらの熱電変換素子は、熱電変換効率が高く、製造コストの低廉化が可能であり、環境汚染のおそれが少ない。
【0036】
【発明の実施の形態】
【試験例1】
試験例1の熱電変換材料は、構成する元素がFe、V及びAlであり、Fe、V及びAlがホイスラー合金型の結晶構造になるような化学量論組成(Fe2VAl)をなす基本構造に対し、Alの少なくとも一部を周期表の14族元素であるSi、Ge又はSnで置換したものである。
【0037】
Fe2VAlの基本構造の化学式当たりの総価電子数は、以下の計算により24である。つまり、Feの価電子数は4s軌道の2と3d軌道の6との合計8に係数2を乗じた16である。また、Vの価電子数は4s軌道の2と3d軌道の3との合計5である。また、Alの価電子数は3s軌道の2と3p軌道の1との合計3である。これらFe、V及びAlの価電子数の合計24が基本構造の化学式あたりの総価電子数である。
【0038】
この基本構造に対し、Alの少なくとも一部をSi、Ge又はSnで置換する置換量γは0≦γ≦0.2の範囲内で選択されている。こうして得られる熱電変換材料は、一般式Fe2V(Al1-γSiγ)、Fe2V(Al1-γGeγ)及びFe2V(Al1-γSnγ)で表される化合物である。この熱電変換材料は以下のように製造される。
【0039】
まず、図1に示すように、第1工程S1として、99.99質量%のFeと、99.99質量%のAlと、99.9質量%のVと、99.999質量%のSi、99.99質量%のGe及び99.99質量%のSnを用意する。そして、これらを上記一般式を満足するように計量して混合し、原料混合物を得る。
【0040】
次に、第2工程S2として、この原料混合物をアルゴン雰囲気下でアーク溶解した。アーク溶解により得られる合金物質の組成が均一となるように、必要回数の再溶解を繰り返した後、これを冷却することによりインゴットを得る。この場合の質量損失は0.2%以下であった。
【0041】
さらに、第3工程S3として、そのインゴットを5×10-3Paの真空度において、1273Kで48時間の焼鈍を行った後、さらに673Kで4時間の規則化焼鈍を行い、炉冷する。こうして、均質化された各熱電変換材料を得る。
【0042】
<評価>
(1)X線回折測定
得られた試験例1の各熱電変換材料を粉末とし、粉末X線回折法によってX線回折測定を行う。この結果、試験例1の各熱電変換材料は、D03(L21)単相により構成されており、ホイスラー合金型の結晶構造を有していた。
【0043】
(2)電気抵抗率の測定
試験例1の各熱電変換材料を炭化ケイ素の切断刃によって切断して1×1×15(mm3)の角柱形状の試験片とする。そして、4×10-4Paの真空中において、直流四端子法により各試験片に100mAの電流を通電して電気抵抗率を測定する。この際、4.2Kから室温までは自然昇温させ、室温から1273Kまでは各試験片を真空加熱炉内で加熱することにより昇温速度0.05K/秒で昇温する。このようにして、各試験片による電気抵抗率(μΩm)と温度(K)との関係を求める。基本構造(γ=0)である試験例1の熱電変換材料は、4.2Kでの電気抵抗率が25μΩmにも達しており、全測定温度範囲にわたって半導体的な負の温度依存性を示す。これに対し、Alの少なくとも一部をSi又はGeで置換した試験例1の熱電変換材料では、低温における電気抵抗率の減少が顕著であった。例えば、置換量γ=0.2の試験例1の熱電変換材料では、4.2Kでの電気抵抗率が3.5μΩmまで低下しており、600K以下の温度では金属的な正の温度依存性を示した。
【0044】
各試験片による300Kにおける電気抵抗率(μΩm)と置換量γとの関係を図2に示す。図2に示すように、基本構造(置換量γ=0)である試験例1の熱電変換材料は、300Kにおいて7.5μΩmという大きな値になっている。ところが、Si又はGeで置換すると、γ=0.05の置換量で約4μΩm、γ=0.2の置換量で約2μΩmまで低下しており、このような電気抵抗率の変化は、SiとGeのいずれの置換においても同様であることがわかる。このため、試験例1の熱電変換材料を用いれば、電気抵抗率の低い、つまり電気伝導率の高い熱電変換素子を得られることがわかる。
【0045】
また、Geで置換した合金のインゴットをアルゴン雰囲気中で遊星型ボールミルを用いて機械的に粉砕して、90μm以下の範囲で均一となる粒径にそろえた粉体をカーボンダイスに充填する。そして、真空中において、25MPaの圧力を印加し、950°Cでホットプレスして焼結体の試験片を作製した。置換量γ=0.1の試験片について電気抵抗率を測定した結果も図2に示す。図2より、密度が高い焼結体ではアルゴン溶解したままのインゴットと同程度の電気抵抗率であることがわかる。このため、試験例1の熱電変換材料を用いれば、焼結体として作製した場合も、電気抵抗率の低い、つまり電気伝導率の高い熱電変換素子を得られることがわかる。
【0046】
(3)ゼーベック係数の測定
試験例1の各熱電変換材料を炭化ケイ素の切断刃によって切断して0.5×0.5×5(mm3)角柱形状の試験片とする。そして、MMR-Technologies社製「SB-100」を用い、各試験片のゼーベック係数を90K~400Kの温度範囲で測定する。
【0047】
各試験片による300Kにおけるゼーベック係数(μV/K)と置換量γとの関係を図3に示す。図3に示すように、基本構造(置換量γ=0)である試験例1の熱電変換材料では、ゼーベック係数の符号は正で、その値は25μV/K程度である。これに対し、Alの少なくとも一部をSi、Ge又はSnで置換した熱電変換材料では、ゼーベック係数の符号が負に変化し、その絶対値が著しく増加している。このようなゼーベック係数の変化は、Si、Ge及びSnのいずれの元素で置換しても同様であることがわかる。置換量γ=0.05の熱電変換材料では、ゼーベック係数の絶対値が110~130μV/Kという大きな値になっている。Si、Ge及びSnはすべて周期表の14族の元素であり、Alに替えて置換する元素が第3~6周期の14~16族からなる群から選ばれた試験例1の熱電変換材料において、電子を多数キャリアとするn型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
【0048】
また、Geで置換した熱電変換材料について焼結体の試験片を作製してゼーベック係数を測定した結果も図3に示す。図3より、置換量γ=0.1において、密度が高い焼結体ではアルゴン溶解したままのインゴットと同程度のゼーベック係数を示すことがわかる。このため、試験例1の熱電変換材料を用いれば、焼結体として作製した場合も、電子を多数キャリアとするn型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
【0049】
試験例1の熱電変換材料の化学式当たりの総価電子数は、置換量γが0~0.2であるため、2×8+5+3(1-γ)+4γ=24+γ=24~24.2であり、この範囲内でゼーベック係数と電気抵抗率が大きく変化していることがわかる。図2及び図3より、特に、総価電子数が24を超え、24.8以下の範囲内である試験例1の熱電変換材料において、ゼーベック係数、電気抵抗率が大きく変化していることがわかる。
【0050】
(4)バンド計算
試験例1の熱電変換材料について、バンド計算の結果を用いて検討する。図4に示すように、Fe2VAlのフェルミ準位付近のバンド構造は、フェルミ準位において、Γ点に正孔ポケットが存在し、X点に電子ポケットが存在する。また、正孔ポケットは主としてFe-3dバンドからなり、電子ポケットはV-3dバンドからなる。
【0051】
これらの正孔及び電子ポケットは非常に小さく、Fe2VAlにおけるキャリア密度が著しく低いことの原因になっている。擬ギャップ系では、フェルミ準位での状態密度が非常に小さいので、Fe2VAlの基本構造に対してFe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部を他の元素で置換することによって価電子濃度が変化すると、フェルミ準位が大きくシフトする。このため、Alの少なくとも一部をSi、Ge又はSnで置換することによって、化学式当たりの総価電子数が増加するので、フェルミ準位は高エネルギ側のEF-にシフトする。また、剛体バンドモデルを仮定した場合、Si、Ge及びSnはすべて周期表の14族の元素であるため、置換量が同じであるならば総価電子数が同じように増加するため、フェルミ準位のシフト量も同じであると考えられる。このため、キャリアに占める電子の割合が増加し、ゼーベック係数は符号が負の値を示す。以上のバンド計算からの考察によっても、試験例1の熱電変換材料は、Alの少なくとも一部をSi、Ge又はSnで置換することによって、ゼーベック係数の符号を負に変化させることができ、電子を多数キャリアとするn型に制御し得ることがわかる。
【0052】
(5)熱伝導率の測定
試験例1の各熱電変換材料を炭化ケイ素の切断刃によって切断して3.5×3.5×4mm3の角柱状の試験片とする。そして、4×10-4Paの真空中において、熱流法による定常比較測定法を用いて各試験片の熱伝導率を測定する。
【0053】
各試験片による300Kにおける熱伝導率(W/mK)と置換量γとの関係を図5に示す。基本構造(置換量γ=0)である試験例1の熱電変換材料は、300Kにおいて26W/mKという大きな値になっている。ところが、Si、Ge又はSnで置換すると、いずれの試験片についても熱伝導率は著しく減少している。特に、γ=0.1の置換量において比較すると、Si置換では18W/mK、Ge置換では14W/mK、Sn置換では12W/mKまで減少している。Si、Ge及びSnはすべて周期表の14族の元素であるが、置換量が同じであるならば原子量の大きい元素で置換することにより、熱伝導率の減少は顕著になることがわかる。
【0054】
また、熱伝導率はキャリアによる成分と格子振動による成分の和であることが知られている。Wiedemann-Franz則を用いて図2の電気抵抗率からキャリアによる熱伝導率を見積もると、図5に示した全体の熱伝導率の10分の1程度と小さいことがわかる。したがって、試験例1の各熱電変換材料においては格子振動による熱伝導率の寄与が大部分であり、原子量の大きい元素による置換は、格子振動による熱伝導率を大幅に低減するうえで有効である。このため、試験例1の熱電変換材料を用いれば、熱伝導率が小さく、ひいては熱電変換の性能に優れた熱電変換素子を得られることがわかる。
【0055】
また、Geで置換した熱電変換材料について焼結体の試験片を作製して熱伝導率を測定した結果も図5に示す。図5より、置換量γ=0.1の焼結体において熱伝導率は6.5W/mKまで減少しており、アルゴン溶解したままのインゴットと比べて格段に減少していることがわかる。このため、試験例1の熱電変換材料を焼結体として作製することにより、熱伝導率がきわめて低い熱電変換素子が得られることがわかる。
【0056】
(6)性能指数の評価
熱電変換材料としては、ゼーベック係数が大きいだけでなく、電気抵抗率が小さいと同時に熱伝導率も小さいことが要求される。そのため、一般に性能指数Z=S2/ρκを用いて性能を評価する。但し、Sはゼーベック係数、ρは電気伝導率、κは熱伝導率である。
【0057】
試験例1の各熱電変換材料について、性能指数(/K)と置換量γとの関係を図6に示す。図6に示すように、基本構造(置換量γ=0)である試験例1の熱電変換材料は、300Kの性能指数は0.004×10-3/Kという小さな値になっている。Alの少なくとも一部をSi又はGeで置換した試験例1の熱電変換材料では、電気抵抗率が格段に減少すると同時にゼーベック係数が大幅に増大し、さらに熱伝導率が減少するため、性能指数が急激に大きくなる。特に、置換量γ=0.1の試験例1の熱電変換材料では、300Kでの性能指数がSiによる置換では0.25×10-3/K、Geによる置換では0.3×10-3/Kに達している。SiとGeはともに14族の元素であるにもかかわらず、Geによる置換の性能指数の方が大きくなっており、原子量の大きい元素で置換した熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
【0058】
また、Geで置換した熱電変換材料について焼結体の試験片を作製して性能指数を評価した結果も図6に示す。図6より、置換量γ=0.1において、密度が高い焼結体の性能指数は0.55×10-3/Kにも達しており、アルゴン溶解したままのインゴットで同じ置換量の試験片と比べて格段の向上があることがわかる。このため、試験例1の熱電変換材料を用いれば、焼結体として作製することにより、大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
【0059】
(7)加工性
試験例1の熱電変換材料は、金属的性質として、750°C以上かつ融点以下の温度で熱間加工を行うことができる。例えば、試験例1の熱電変換材料を熱間圧延によって帯材とし、この帯材を切断して直方体形状のチップとし、このチップをモジュール化する等の方法により熱電変換素子を製造することも可能である。このため、熱電変換素子を製造する場合の歩留まりを高くすることができるとともに、製造工程数も少なくなり、ひいては熱電変換素子の製造コストの低廉化も実現できる。
【0060】
(8)原料費
試験例1の熱電変換材料は、Fe、V及びAlという安価な金属を主成分としているため、原料費が低廉であり、製造コストの低廉化が可能である。また、これらの元素は汎用性の金属であるため、大量かつ安定に原料を確保することができる。
【0061】
(9)毒性
試験例1の熱電変換材料はFe、V及びAlから構成されているため、毒性が弱く、環境汚染のおそれは小さい。
【0062】
【試験例2】
試験例2の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、Fe、V及びAlのうちのFeの少なくとも一部を周期表の10族の元素であるPt又はPdで置換したものである。Pt及びPdの置換量αは0≦α≦0.05の範囲内で選択されている。製法は試験例1と同様である。こうして得られる試験例2の熱電変換材料は、一般式(Fe1-αPtα2VAl及び(Fe1-αPdα2VAlで表される化合物である。
【0063】
試験例2の各熱電変換材料について、試験例1と同様のX線回折測定を行う。この結果、試験例2の各熱電変換材料もホイスラー合金型の結晶構造を有していた。
【0064】
試験例2の各熱電変換材料について、試験例1と同様に、電気抵抗率(μΩm)と温度(K)との関係を求める。基本構造(置換量α=0)である試験例2の熱電変換材料は、4.2Kでの電気抵抗率が25μΩmにも達しており、全測定温度範囲にわたって半導体的な負の温度依存性を示す。これに対し、Feの少なくとも一部をPt又はPdで置換した試験例2の熱電変換材料では、低温における電気抵抗率の減少が顕著であった。例えば、置換量α=0.02の試験例2の熱電変換材料では、4.2Kでの電気抵抗率が2μΩmまで低下しており、400K以下の温度では金属的な正の温度依存性を示した。さらに、Feの少なくとも一部をPtで置換した熱電変換材料では、Pdで置換したものより置換量に対する電気抵抗率の減少が若干大きいことがわかった。
【0065】
試験例2の各熱電変換材料について、各試験片による300Kにおける電気抵抗率(μΩm)と置換量αとの関係を求める。一般式(Fe1-αPtα2VAlで表される熱電変換材料の結果を図7に示す。図7に示すように、基本構造(置換量α=0)である試験例2の熱電変換材料は、300Kにおいて7.5μΩmという大きな値になっている。ところが、Feの少なくとも一部をPtで置換すると、置換量α=0.02で約3.5μΩm、置換量α=0.05で約2μΩmまで低下している。このような電気抵抗率の変化は、Pdで置換したときも同様である。このため、試験例2の熱電変換材料を用いれば、電気抵抗率の低い、つまり電気伝導率の高い熱電変換素子を得られることがわかる。
【0066】
また、Ptで置換した熱電変換材料について焼結体の試験片を作製して電気抵抗率を測定した結果も図7に示す。図7より、置換量α=0.04の試験片について電気抵抗率を測定した結果、密度が高い焼結体ではアルゴン溶解したままのインゴットと同程度の電気抵抗率であることがわかる。このため、試験例2の熱電変換材料を用いれば、焼結体として作製した場合も、電気抵抗率の低い、つまり電気伝導率の高い熱電変換素子を得られることがわかる。
【0067】
さらに、試験例2の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおけるゼーベック係数(μV/K)と置換量αとの関係を求める。一般式(Fe1-αPtα2VAl及び(Fe1-αPdα2VAlで表される熱電変換材料の結果を図8に示す。図8に示すように、基本構造(置換量α=0)である試験例2の熱電変換材料では、ゼーベック係数は正の値で25μV/K程度である。これに対し、Feの少なくとも一部をPtで置換した熱電変換材料では、ゼーベック係数の符号が負に変化し、その絶対値が著しく増加している。特に、置換量α=0.01の熱電変換材料では、ゼーベック係数の絶対値が125μV/Kという大きな値になっている。また、Feの少なくとも一部をPdで置換した熱電変換材料でも、ゼーベック係数の符号は負を示しており、置換量α=0.05の熱電変換材料では、ゼーベック係数の絶対値が92μV/Kという大きな値である。Pt及びPdはいずれも周期表の10族の元素であり、Feに替えて置換する元素が第4~6周期の9族及び10族からなる群から選ばれた試験例2の熱電変換材料において、電子を多数キャリアとするn型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
【0068】
また、Ptで置換した熱電変換材料について焼結体の試験片を作製してゼーベック係数を測定した結果も図8に示す。図8より、置換量α=0.04において、密度が高い焼結体ではアルゴン溶解したままのインゴットと同程度のゼーベック係数を示すことがわかる。このため、試験例2の熱電変換材料を用いれば、焼結体として作製した場合も、電子を多数キャリアとするn型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
【0069】
また、試験例2の熱電変換材料の化学式当たりの総価電子数は、置換量αが0~0.05であるため、2{8(1-α)+10α}+5+3=24+4α=24~24.2であり、この範囲内でゼーベック係数が大きく変化していることがわかる。図7及び図8より、特に、総価電子数が24を超え、24.8以下の範囲内である試験例2の熱電変換材料において、ゼーベック係数、電気抵抗率が大きく変化していることがわかる。
【0070】
さらに、バンド計算の結果、基本構造(置換量α=0)である試験例2の熱電変換材料においても、正孔及び電子ポケットが非常に小さく、これはキャリア密度が著しく低いことの原因になっている。このため、Feの少なくとも一部をPt又はPdで置換することによって総価電子数が増加すると、図4においてフェルミ準位が大きく高エネルギー側のEF-にシフトする。このため、キャリアに占める電子の割合が増加し、ゼーベック係数は符号が負の値を示す。以上のバンド計算からの考察により、試験例2の熱電変換材料は、Feの少なくとも一部をPt及びPdにより置換することによって、ゼーベック係数の符号を負に変化させることで、電子を多数キャリアとするn型に制御し得ることがわかる。
【0071】
また、試験例2の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおける熱伝導率(W/mK)と置換量αとの関係を求める。一般式(Fe1-αPtα2VAl及び(Fe1-αPdα2VAlで表される熱電変換材料の結果を図9に示す。基本構造(置換量α=0)である試験例2の熱電変換材料は、300Kにおいて26W/mKという大きな値になっている。ところが、Feの少なくとも一部をPt又はPdで置換すると、いずれの試験片についても熱伝導率は著しく減少している。特に、置換量α=0.025において比較すると、Pdによる置換では14W/mK、Ptによる置換では9W/mKまで減少している。さらに、置換量α=0.05のPtによる置換では7.5W/mKという低い値を示している。Pt及びPdはいずれも周期表の10族の元素であるが、置換量が同じであるならば原子量の大きい元素(Pt)で置換することにより、熱伝導率の減少は顕著になることがわかる。
【0072】
また、熱伝導率はキャリアによる成分と格子振動による成分の和であることが知られている。Wiedemann-Franz則を用いて図7の電気抵抗率からキャリアによる熱伝導率を見積もると、図9に示した全体の熱伝導率の10分の1程度と小さいことがわかる。したがって、試験例2の各熱電変換材料においては格子振動による熱伝導率の寄与が大部分であり、原子量の大きい元素による置換は、格子振動による熱伝導率を大幅に低減するうえで有効である。このため、試験例2の熱電変換材料を用いれば、熱伝導率が小さく、ひいては熱電変換の性能に優れた熱電変換素子を得られることがわかる。
【0073】
また、Ptで置換した熱電変換材料について焼結体の試験片を作製して熱伝導率を測定した結果も図9に示す。図9より、置換量α=0.04の焼結体において熱伝導率は6W/mKまで減少しており、アルゴン溶解したままのインゴットと比べて格段に減少していることがわかる。このため、試験例2の熱電変換材料を焼結体として作製することにより、熱伝導率がきわめて低い熱電変換素子が得られることがわかる。
【0074】
試験例2の一般式(Fe1-αPtα2VAlで表される熱電変換材料について、性能指数(/K)と置換量αとの関係を図10に示す。図10に示すように、基本構造(置換量α=0)である試験例2の熱電変換材料は、300Kの性能指数は0.004×10-3/Kという小さな値になっている。Feの少なくとも一部をPtで置換した試験例2の熱電変換材料では、電気抵抗率が格段に減少すると同時にゼーベック係数が大幅に増大し、さらに熱伝導率が減少するため、性能指数が急激に大きくなる。試験例2の熱電変換材料では、置換量α=0.01の300Kでの性能指数は0.2×10-3/Kであるが、置換量α=0.025では0.4×10-3/Kに達しており、それ以上に置換量が増加しても性能指数は増加しないことがわかる。このように、原子量の大きい元素で置換した熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、熱伝導率の大幅な減少の結果として大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
【0075】
また、Ptで置換した熱電変換材料について焼結体の試験片を作製して性能指数を評価した結果も図10に示す。図10より、置換量α=0.04において、密度が高い焼結体の性能指数は0.45×10-3/Kに達しており、アルゴン溶解したままのインゴットで同じ置換量の試験片と比べて性能指数が向上していることがわかる。このため、試験例2の熱電変換材料を用いれば、焼結体として作製することにより、熱伝導率の大幅な減少の結果として大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
【0076】
加工性、原料費及び毒性については、試験例1と同様の効果を有している。
【0077】
【試験例3】
試験例3の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、Fe、V及びAlのうちのFeの少なくとも一部を周期表の9族元素であるCo又はIrで置換したものである。Co及びIrの置換量αは0≦α≦0.2の範囲内で選択されている。製法は試験例1と同様である。こうして得られる試験例3の熱電変換材料は、一般式(Fe1-αCoα2VAl及び(Fe1-αIrα2VAlで表される化合物である。
【0078】
試験例3の各熱電変換材料について、試験例1と同様のX線回折測定を行う。この結果、試験例3の各熱電変換材料もホイスラー合金型の結晶構造を有していた。
【0079】
試験例3の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおけるゼーベック係数(μV/K)と置換量αとの関係を求める。一般式(Fe1-αCoα2VAl及び(Fe1-αIrα2VAlで表される熱電変換材料の結果を図11に示す。図11に示すように、基本構造(置換量α=0)である試験例3の熱電変換材料では、ゼーベック係数は正の値で25μV/K程度である。これに対し、Feの少なくとも一部をCoで置換した熱電変換材料では、Alの少なくとも一部をSi、Ge又はSnで置換したり、Feの少なくとも一部をPt又はPdで置換したりした試験例1、2の熱電変換材料と同様、ゼーベック係数の符号が負に変化し、その絶対値が著しく増加している。特に、置換量α=0.05の熱電変換材料では、ゼーベック係数の絶対値が100μV/K以上の大きな値になっている。また、Feの少なくとも一部をIrで置換した熱電変換材料でも、ゼーベック係数の符号は負を示しており、置換量α=0.05の熱電変換材料では、ゼーベック係数の絶対値が86μV/Kという大きな値である。Co及びIrはいずれも周期表の9族の元素であり、Feに替えて置換する元素が第4~6周期の9族及び10族からなる群から選ばれた試験例3の熱電変換材料において、電子を多数キャリアとするn型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
【0080】
また、試験例3の熱電変換材料の化学式当たりの総価電子数は、置換量αが0~0.2であるため、2{8(1-α)+9α}+5+3=24+2α=24~24.4であり、この範囲内でゼーベック係数が大きく変化していることがわかる。図11より、特に、総価電子数が24を超え、24.8以下の範囲内である試験例3の熱電変換材料において、ゼーベック係数が大きく変化していることがわかる。
【0081】
また、バンド計算の結果、基本構造(置換量α=0)である試験例3の熱電変換材料においても、正孔及び電子ポケットが非常に小さく、これはキャリア密度が著しく低いことの原因になっている。このため、Feの少なくとも一部をCo又はIrで置換することによって総価電子数が増加すると、図4においてフェルミ準位が大きく高エネルギー側のEF-にシフトする。このため、キャリアに占める電子の割合が増加し、ゼーベック係数は符号が負の値を示す。以上のバンド計算からの考察により、試験例3の熱電変換材料は、Feの少なくとも一部をCo又はIrで置換することによって、ゼーベック係数の符号を負に変化させることで、電子を多数キャリアとするn型に制御し得ることがわかる。
【0082】
加工性、原料費及び毒性については、試験例1、2と同様の効果を有している。
【0083】
【試験例4】
試験例4の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、Fe、V及びAlのうちのVの少なくとも一部を周期表の6族元素であるMo又はWで置換したものである。Mo及びWの置換量βは0≦β≦0.2の範囲内で選択されている。製法は試験例1と同様である。こうして得られる試験例4の熱電変換材料は、一般式Fe2(V1-βMoβ)Al及びFe2(V1-ββ)Alで表される化合物である。
【0084】
試験例4の各熱電変換材料について、試験例1と同様のX線回折測定を行う。この結果、試験例4の各熱電変換材料もホイスラー合金型の結晶構造を有していた。
【0085】
試験例4の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおけるゼーベック係数(μV/K)と置換量βとの関係を求める。一般式Fe2(V1-βMoβ)Al及びFe2(V1-ββ)Alで表される熱電変換材料の結果を図12に示す。図12に示すように、基本構造(置換量β=0)である試験例4の熱電変換材料では、ゼーベック係数は正の値で25μV/K程度である。これに対し、Feの少なくとも一部をMoで置換した熱電変換材料は、Alの少なくとも一部をSi、Ge又はSnで置換したり、Feの少なくとも一部をPt、Pd、Co又はIrで置換したりした試験例1、2及び3の熱電変換材料と同様、ゼーベック係数の符号が負に変化し、その絶対値が著しく増加した。特に、置換量β=0.05の熱電変換材料では、ゼーベック係数の絶対値が100μV/K以上の大きな値になっており、置換量β=0.1では106μV/Kまで増大した。また、Feの少なくとも一部をWで置換した熱電変換材料でも、ゼーベック係数の符号は負を示しており、置換量β=0.03の熱電変換材料では、ゼーベック係数の絶対値が72μV/Kという大きな値である。Mo及びWはいずれも周期表の6族の元素であり、Feに替えて置換する元素が第4~6周期の6族及び7族からなる群から選ばれた試験例4の熱電変換材料において、電子を多数キャリアとするn型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
【0086】
また、試験例4の熱電変換材料の化学式当たりの総価電子数は、置換量βが0~0.2であるため、2×8+5(1-β)+6β+3=24+β=24~24.2であり、この範囲内でゼーベック係数が大きく変化していることがわかる。図12より、特に、総価電子数が24を超え、24.8以下の範囲内である試験例4の熱電変換材料において、ゼーベック係数が大きく変化していることがわかる。
【0087】
また、バンド計算の結果、基本構造(置換量β=0)である試験例4の熱電変換材料においても、正孔及び電子ポケットが非常に小さく、これはキャリア密度が著しく低いことの原因になっている。このため、Vの少なくとも一部をMo又はWで置換することによって総価電子数が増加すると、図4においてフェルミ準位が大きく高エネルギー側のEF-にシフトする。このため、キャリアに占める電子の割合が増加し、ゼーベック係数は符号が負の値を示す。以上のバンド計算からの考察により、試験例4の熱電変換材料は、Vの少なくとも一部をMo又はWで置換することによって、ゼーベック係数の符号を負に変化させることで、電子を多数キャリアとするn型に制御し得ることがわかる。
【0088】
加工性、原料費及び毒性については、試験例1~3と同様の効果を有している。
【0089】
【試験例5】
試験例5の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、Fe、V及びAlのうちのVの少なくとも一部をTi又はZrで置換したものである。Ti及びZrの置換量βは0≦β≦0.25の範囲内で選択されている。製法は試験例1と同様である。こうして得られる試験例5の熱電変換材料は、一般式Fe2(V1-βTiβ)Al及びFe2(V1-βZrβ)Alで表される化合物である。
【0090】
試験例5の各熱電変換材料について、試験例1と同様のX線回折測定を行う。この結果、試験例5の各熱電変換材料もホイスラー合金型の結晶構造を有していた。
【0091】
試験例5の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおけるゼーベック係数(μV/K)と置換量βとの関係を求める。一般式Fe2(V1-βTiβ)Al及びFe2(V1-βZrβ)Alで表される熱電変換材料の結果も図12に示す。図12に示すように、基本構造(置換量β=0)である試験例4及び5の熱電変換材料では、ゼーベック係数は正の値で25μV/K程度である。これに対し、Feの少なくとも一部をTiで置換した熱電変換材料は、Vの少なくとも一部をMo又はWで置換した試験例4の熱電変換材料とは逆にゼーベック係数の符号が正のままで、その絶対値が増加した。特に、置換量β=0.03の熱電変換材料では、ゼーベック係数の絶対値が74μV/Kという大きな値になっている。また、Feの少なくとも一部をZrで置換した熱電変換材料でも、ゼーベック係数の符号は正を示しており、わずかな置換量であるβ=0.01の熱電変換材料では、ゼーベック係数の絶対値が63μV/Kという大きな値である。Ti及びZrはいずれも周期表の4族の元素であり、Feに替えて置換する元素が第4~6周期の4族からなる群から選ばれた試験例5の熱電変換材料において、正孔を多数キャリアとするp型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
【0092】
また、試験例5の熱電変換材料の化学式当たりの総価電子数は、置換量βが0~0.25であるため、2×8+5(1-β)+5β+3=24-β=24~23.75であり、この範囲内でゼーベック係数が大きく変化していることがわかる。図12より、特に、総価電子数が24未満、23.2以上の範囲内である試験例5の熱電変換材料において、ゼーベック係数が大きく変化していることがわかる。
【0093】
また、バンド計算の結果、基本構造(置換量β=0)である試験例5の熱電変換材料においても、正孔及び電子ポケットが非常に小さく、これはキャリア密度が著しく低いことの原因になっている。このため、Vの少なくとも一部をTi又はZrで置換することによって総価電子数が減少すると、図4においてフェルミ準位が大きく低エネルギー側のEF+にシフトする。このため、キャリアに占める正孔の割合が増加し、ゼーベック係数は符号が正の値を示す。以上のバンド計算からの考察により、試験例5の熱電変換材料は、Vの少なくとも一部をTi又はZrで置換することによって、ゼーベック係数の符号を正に変化させることで、正孔を多数キャリアとするp型に制御し得ることがわかる。
【0094】
加工性、原料費及び毒性については、試験例1~4と同様の効果を有している。
【0095】
【比較試験】
本発明の熱電変換材料の基本構造であるFe2VAlと、試験例1の一般式Fe2V(Al1-γSiγ)、Fe2V(Al1-γGeγ)及びFe2V(Al1-γSnγ)で表される熱電変換材料(n型)と、試験例2の一般式(Fe1-αPtα2VAl及び(Fe1-αPdα2VAlで表される熱電変換材料(n型)と、試験例3の一般式(Fe1-αCoα2VAl及び(Fe1-αIrα2VAlで表される熱電変換材料(n型)と、試験例4の一般式Fe2(V1-βMoβ)Al及びFe2(V1-ββ)Alで表される熱電変換材料(n型)と、試験例5の一般式Fe2(V1-βTiβ)Al及びFe2(V1-βZrβ)Alで表される熱電変換材料(p型)とについて、300Kにおけるゼーベック係数(μV/K)と総価電子数との関係を求める。結果を図13に示す。
【0096】
図13より、基本構造のFe2VAlの総価電子数は24であり、元素置換によって総価電子数が24未満になる場合も、総価電子数が24を超える場合も、ゼーベック係数の絶対値は大幅に増大している。このようなゼーベック係数の変化は総価電子数が24となる近傍において特に顕著である。また、試験例1~4の熱電変換材料は、総価電子数が24を超えており、ゼーベック係数はすべて負の値になることから、n型の熱電変換材料として優れた熱電特性を発揮できることがわかる。一方、試験例5の熱電変換材料では、総価電子数が24未満となっており、ゼーベック係数はすべて正の値になることから、p型の熱電変換材料として優れた熱電特性を発揮できることがわかる。
【0097】
試験例1~5の熱電変換材料のゼーベック係数と置換量との関係は、それぞれ図3、図8、図11及び図12に示したが、置換する元素の種類によって、置換量に対する変化の仕方は異なっていることが分かる。ところが、図13のように総価電子数で整理したとき、ゼーベック係数は置換する元素の種類によらず、1本のマスターカーブで記述できるような変化の仕方になっている。このため、本発明で明らかにしたように、置換する元素の種類を選択することにより、擬ギャップ内のフェルミ準位のエネルギー位置を最適化することが可能であり、ひいてはゼーベック係数の符号を制御することができるために、基本構造のFe2VAlをベースとしてp型とn型の熱電変換材料を作製することが可能になるだけでなく、ゼーベック係数の絶対値を大幅に増大することによって、優れた熱電特性を発揮できる熱電変換材料を製造することが可能となる。
【0098】
また、試験例1~5の熱電変換材料からp型とn型を選択した1組又は試験例1~5の熱電変換材料と公知の他の熱電変換材料との組み合わせによって、熱電変換素子を製造することができる。試験例1~5の熱電変換材料は汎用の金属を用いて安価に製造可能であるため、これらの熱電変換素子の製造コストも低廉である。さらに、試験例1~5の熱電変換材料が毒性の極めて弱い成分のみで構成されるため、これらの熱電変換素子は環境汚染の原因となる恐れも少ない。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態の熱電変換材料の製造方法を示す工程図である。
【図2】試験例1の一般式Fe2V(Al1-γSiγ)及びFe2V(Al1-γGeγ)で表される熱電変換材料に係り、電気抵抗率と置換量との関係を示すグラフである。
【図3】試験例1の一般式Fe2V(Al1-γSiγ)、Fe2V(Al1-γGeγ)及びFe2V(Al1-γSnγ)で表される熱電変換材料に係り、ゼーベック係数と置換量との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の熱電変換材料に係り、バンド構造を示す模式図である。
【図5】試験例1の一般式Fe2V(Al1-γSiγ)、Fe2V(Al1-γGeγ)及びFe2V(Al1-γSnγ)で表される熱電変換材料に係り、熱伝導率と置換量との関係を示すグラフである。
【図6】試験例1の一般式Fe2V(Al1-γSiγ)及びFe2V(Al1-γGeγ)で表される熱電変換材料に係り、性能指数と置換量との関係を示すグラフである。
【図7】試験例2の一般式(Fe1-αPtα2VAlで表される熱電変換材料に係り、電気抵抗率と置換量との関係を示すグラフである。
【図8】試験例2の一般式(Fe1-αPtα2VAl及び(Fe1-αPdα2VAlで表される熱電変換材料に係り、ゼーベック係数と置換量との関係を示すグラフである。
【図9】試験例2の一般式(Fe1-αPtα2VAl及び(Fe1-αPdα2VAlで表される熱電変換材料に係り、熱伝導率と置換量との関係を示すグラフである。
【図10】試験例2の一般式(Fe1-αPtα2VAlで表される熱電変換材料に係り、性能指数と置換量との関係を示すグラフである。
【図11】試験例3の一般式(Fe1-αCoα2VAl及び(Fe1-αIrα2VAlで表される熱電変換材料に係り、ゼーベック係数と置換量との関係を示すグラフである。
【図12】試験例4の一般式Fe2(V1-βMoβ)Al及びFe2(V1-ββ)Alで表される熱電変換材料並びに試験例5の一般式Fe2(V1-βTiβ)Al及びFe2(V1-βZrβ)Alで表される熱電変換材料に係り、ゼーベック係数と置換量との関係を示すグラフである。
【図13】基本構造であるFe2VAlと、試験例1の一般式Fe2V(Al1-γSiγ)、Fe2V(Al1-γGeγ)及びFe2V(Al1-γSnγ)で表される熱電変換材料(n型)と、試験例2の一般式(Fe1-αPtα2VAl及び(Fe1-αPdα2VAlで表される熱電変換材料(n型)と、試験例3の一般式(Fe1-αCoα2VAl及び(Fe1-αIrα2VAlで表される熱電変換材料(n型)と、試験例4の一般式Fe2(V1-βMoβ)Al及びFe2(V1-ββ)Alで表される熱電変換材料(n型)と、試験例5の一般式Fe2(V1-βTiβ)Al及びFe2(V1-βZrβ)Alで表される熱電変換材料(p型)に係り、ゼーベック係数と総価電子数との関係を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
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