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明細書 :金属含有液の処理方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5822253号 (P5822253)
公開番号 特開2012-161705 (P2012-161705A)
登録日 平成27年10月16日(2015.10.16)
発行日 平成27年11月24日(2015.11.24)
公開日 平成24年8月30日(2012.8.30)
発明の名称または考案の名称 金属含有液の処理方法
国際特許分類 C02F   1/42        (2006.01)
C02F   1/28        (2006.01)
B01J  20/22        (2006.01)
B01J  45/00        (2006.01)
B01J  49/00        (2006.01)
FI C02F 1/42 H
C02F 1/28 B
B01J 20/22 C
B01J 45/00
B01J 49/00 160
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2011-021511 (P2011-021511)
出願日 平成23年2月3日(2011.2.3)
審査請求日 平成26年1月21日(2014.1.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】塚田 益裕
【氏名】森脇 洋
【氏名】前田 徹
【氏名】百瀬 淳
【氏名】関本 有莉
審査官 【審査官】金 公彦
参考文献・文献 特開平10-183470(JP,A)
特表2001-509734(JP,A)
特開2004-256853(JP,A)
特開2004-137652(JP,A)
特開平11-333227(JP,A)
特開2000-169828(JP,A)
特開2000-024425(JP,A)
国際公開第2002/060824(WO,A1)
特開平08-010763(JP,A)
特開2004-344802(JP,A)
特開昭52-124762(JP,A)
調査した分野 C02F 1/42
B01J 39/00-49/02
C02F 1/28
B01J 20/00-20/34
DWPI(Thomson Innovation)
特許請求の範囲 【請求項1】
複数種の金属イオンを含有する金属含有液から特定の金属イオンを選択的に除去する金属含有液の処理方法であって、
高分子素材をEDTA2塩基酸無水物を含む有機溶媒中で化学加工を行うことにより、金属イオンの配位基となるEDTAが前記高分子素材に化学結合して導入された高分子吸着材を、金属含有液に浸漬し、該金属含有液に含まれる特定の金属イオンを前記高分子吸着材に吸着させる吸着工程を備え
前記金属含有液は、PbとCdとZnとを含有し、
前記吸着工程において、前記高分子吸着材にPbを選択的に吸着させることを特徴とする金属含有液の処理方法。
【請求項2】
複数種の金属イオンを含有する金属含有液から特定の金属イオンを選択的に除去する金属含有液の処理方法であって、
高分子素材をEDTA2塩基酸無水物を含む有機溶媒中で化学加工を行うことにより、金属イオンの配位基となるEDTAが前記高分子素材に化学結合して導入された高分子吸着材を、金属含有液に浸漬し、該金属含有液に含まれる特定の金属イオンを前記高分子吸着材に吸着させる吸着工程を備え、
前記金属含有液は、CuとCdとZnとを含有し、
前記吸着工程において、前記高分子吸着材にCuを選択的に吸着させることを特徴とする金属含有液の処理方法。
【請求項3】
複数種の金属イオンを含有する金属含有液から特定の金属イオンを選択的に除去する金属含有液の処理方法であって、
高分子素材をEDTA2塩基酸無水物を含む有機溶媒中で化学加工を行うことにより、金属イオンの配位基となるEDTAが前記高分子素材に化学結合して導入された高分子吸着材を、金属含有液に浸漬し、該金属含有液に含まれる特定の金属イオンを前記高分子吸着材に吸着させる吸着工程を備え、
前記金属含有液は、CuとCdとPbとを含有し、
前記吸着工程において、前記高分子吸着材にCuとPbを選択的に吸着させることを特徴とすとする金属含有液の処理方法。
【請求項4】
前記吸着工程の後工程として、金属イオンを吸着した高分子吸着材を金属含有液から取り出し、高分子吸着材に硝酸、酢酸、塩酸、硫酸のいずれかを接触させて高分子吸着材に吸着された金属イオンを脱離させる脱離工程を備える請求項1~3のいずれか一項記載の金属含有液の処理方法。
【請求項5】
絹糸あるいは絹製品を高分子素材とする高分子吸着材を使用することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載の金属含有液の処理方法。
【請求項6】
羊毛あるいは羊毛製品を高分子素材とする高分子吸着材を使用することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載の金属含有液の処理方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本出願は、金属を含有する溶液から特定の金属を選択的に除去する金属含有液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業廃棄物や排水に含まれる有害金属により土壌の汚染あるいは河川の汚染が進み、人の生活を脅かし、環境を劣悪化させる事例が後を絶たない。身近な有害金属で人への深刻な問題を及ぼす代表例としては、鉛、カドミウムが例示できる。これらの有害金属を含む排水等から有害金属を除去する方法として、(1)金属イオンを水酸化物や硫化物などの難溶性塩として除去する凝集沈殿法、(2)イオン交換樹脂や活性炭などの吸着材を用いて処理する方法がある。
【0003】
また、他の方法として、水及び土壌中に含まれる重金属をキレート樹脂により吸着除去する方法があり、キレート官能基にアミドキシム基を備えた金属イオン吸着繊維に重金属含有液を接触させて金属イオン吸着繊維に重金属を吸着させ、重金属を吸着した金属イオン吸着繊維を酸溶液と接触させ当該金属イオン吸着繊維を洗浄する方法(特許文献1参照)がある。
また、重金属を含有する水溶液とアミノ酸を固定化した高分子成型体とを接触させて重金属イオンを除去する方法があり、高分子成型体にアミノ酸を固定化する手段として放射線グラフト重合を利用する方法、高分子成型体として短繊維、長繊維、その集合体である織布、不織布、あるいはその加工品を利用する方法(特許文献2参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2004-351288号公報
【特許文献2】特開平5-111685号公報
【特許文献3】特開2000-73277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、絹繊維をEDTA2塩基酸無水物を含む有機溶媒中で化学加工を行い金属イオンの配位基となるEDTAを導入した絹繊維等の高分子素材及びその製造方法を提案した(特許文献3参照)。このEDTAを導入した高分子素材は、EDTA無水物を介して抗菌性金属を配位させることにより、病原微生物の増殖を抑制する抗菌性機能を発揮することができ、洗濯等の処理に対する耐久性に優れ、その優れた抗菌特性から細菌及び糸状菌の増殖を阻害することが可能である。
EDTAを導入した絹繊維等の高分子素材は、金属イオンを効率的に吸着する特性に着目すると、重金属イオン等を含む水溶液から有害金属を吸着して除去する素材として利用することが可能であると考えられる。
【0006】
本発明は、上述したEDTAを導入した高分子素材が金属イオンを吸着する特性を利用し、複数種の金属イオンを同時に含有する溶液から金属を回収・除去する金属含有液の処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数種の金属イオン(単に金属と略記する場合もある)を含有する金属含有液から特定の金属イオンを選択的に除去する金属含有液の処理方法であって、高分子素材をEDTA2塩基酸無水物を含む有機溶媒中で化学加工を行うことにより、金属イオンの配位基となるEDTAが前記高分子素材に化学結合して導入された高分子吸着材を、金属含有液に浸漬し、該金属含有液に含まれる特定の金属イオンを前記高分子吸着材に吸着させる吸着工程を備え、前記金属含有液は、PbとCdとZnとを含有し、前記吸着工程において、前記高分子吸着材にPbを選択的に吸着させることを特徴とする。
また、前記金属含有液は、CuとCdとZnとを含有し、前記吸着工程において、前記高分子吸着材にCuを選択的に吸着させることを特徴とする。
また、前記金属含有液は、CuとCdとPbとを含有し、前記吸着工程において、前記高分子吸着材にCuとPbを選択的に吸着させることを特徴とする。
なお、本明細書において、金属含有液とは、金属イオンを含む水溶液のみならず有機溶媒をも含む意である。
た、前記吸着工程の後工程として、金属イオンを吸着した高分子吸着材を金属含有液から取り出し、高分子吸着材に硝酸、酢酸、塩酸、硫酸のいずれかを接触させて高分子吸着材に吸着された金属イオンを脱離させる脱離工程を備えることにより、金属イオンを選択的に濃縮したり回収させたり、あるいは高分子吸着材をリサイクルして使用することができる。
【0008】
高分子吸着材に用いる高分子材料には、絹糸あるいは絹製品、羊毛あるいは羊毛製品が好適に用いられる。ここでいう絹糸とは、家蚕由来の絹糸であってもよいし野蚕由来の絹糸であっても同様に利用できる。絹糸はカイコに由来する天然のタンパク質であり、絹製品とは、タンパク質繊維を素材として膜状、多孔質状、ブロック状、粉末状、ゲル状等に作成したものを総称している。羊毛は、動物由来のケラチン繊維であり、羊毛製品とは羊毛を素材として膜状、粉末状に形成したものを総称している。
これら絹糸、羊毛からなる高分子素材をEDTA2塩基酸無水物により化学加工することによって、金属イオンの配位基となるEDTAが導入された高分子吸着材が得られる。
【0011】
本発明において使用する高分子吸着材には、絹糸、羊毛等の繊維形態の高分子素材を使用することもできるし、これらの高分子素材から作製した絹製品、羊毛製品を使用することもできる。以下では、絹製品の例として、天然タンパク質繊維に由来するタンパク質膜の製造方法について説明する。
絹タンパク質繊維から絹フィブロイン水溶液を調製するための原料としては、家蚕又は野蚕由来の繭糸もしくは生糸が用いられる。家蚕生糸を炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液で煮沸し、繭糸もしくは生糸表面にある膠状の接着物質、セリシンを除去して調製できる絹フィブロイン繊維を中性塩で溶解し、セルロース製の透析膜で十分透析することにより純粋な絹フィブロイン水溶液を調製できる。この絹フィブロイン水溶液をポリエチレン膜等の基質膜上で乾燥固化させると透明な絹フィブロイン膜ができる。更に、絹フィブロイン水溶液にメタノール、あるいはエタノールを微量に添加し、あるいは酢酸、塩酸、硫酸のいずれかを微量に添加して絹フィブロイン分子を凝集させた後、乾燥固化することで多孔質体、ブロック状あるいはゲル状物を製造できる。本願発明では、上記記載の絹フィブロイン膜、多孔質体、ブロック状物およびゲル状物も高分子吸着材として同様に利用できる。
【0012】
絹フィブロイン繊維を溶解するには、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、臭化リチウムなどの一般に知られた中性塩を利用できる。絹糸の溶解性を高め、未変性状態に近い絹フィブロインを製造するためには、溶解性の高いリチウムイオンを含む中性塩が望ましく、臭化リチウムなどが特に好ましく用いられる。
【0013】
野蚕絹フィブロイン水溶液は次のようにして調製できる。柞蚕あるいは天蚕等から得られる野蚕繭糸を繭糸重量に対して50倍量の0.1%過酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、98℃で1時間処理してセリシンを予め除去しておく必要がある。セリシンを除去した野蚕絹フィブロイン繊維をチオシアン酸リチウム等の溶解性の高い中性塩で溶解し、これをセルロース製透析膜に入れ純水と透析することで野蚕絹フィブロイン水溶液が調製できる。この野蚕絹フィブロイン水溶液をポリエチレン膜等の基質膜上で乾燥固化させると透明な絹フィブロイン膜ができる。
【0014】
こうして製造できる絹糸あるいは野蚕タンパク質膜は水溶解性であるため、EDTAを導入するには、上記タンパク質膜を水不溶性にしておくことが望まれる。そのためには、濃度20-60%のメタノールあるいはエタノール水溶液で1-10分浸漬処理して、軽く室内で乾燥するとよい。
【0015】
高分子吸着材に用いる絹タンパク質としては、家蚕、野蚕等のカイコ由来のタンパク質であれば種類を問わず利用でき、未加工・未処理のタンパク質繊維であってもよく、あるいは金属イオンを配位させる配位基としてEDTAをあらかじめ導入したタンパク質素材であってもよい。
絹タンパク質繊維は臭化リチウムの濃厚溶液で溶解できる。これをセルロース透析膜に入れて純水と置換することで絹フィブロイン水溶液が調製できる。この水溶液は、混合水溶液の蒸発速度や調製条件を変えることによって、膜状にも、多孔質体状にも、ブロック状にも、粉末状にも、ゲル状その他にも形成できる。
【0016】
本発明において使用する高分子吸着材は、高分子素材にEDTAを導入して形成したものである。以下では、EDTA2塩基酸無水物による化学加工法により高分子素材にEDTAを導入する方法について説明する。
まず、EDTA2塩基酸無水物をジメチルスルホキシドあるいは、N,.N'-ジメチルホルムアミド等の有機溶媒に溶解させ、タンパク質繊維をこの溶液系に浸漬させ、60-80℃の温度で1時間-5時間反応させるとよい。タンパク質繊維に導入できるEDTA量はEDTA2塩基酸無水物濃度、反応温度、あるいは反応時間の組み合わせで制御できる。反応温度が低い場合には反応時間を長めに設定する必要があるし、反応温度が高すぎると反応が早すぎるためEDTA導入量が制御しにくい。またEDTA2塩基酸無水物による化学加工による加工率は、吸着材のアルギニン、ヒスチジン、リジン等の塩基性アミノ酸が反応拠点であるため素材に含まれる反応拠点の量により決まる。羊毛には家蚕絹糸よりも反応拠点が多く含まれるため、EDTA2塩基酸無水物による好ましい化学加工の反応条件は、同一濃度のEDTA2塩基酸無水物を用いる場合では、家蚕絹糸では75℃、2-4時間、羊毛では75℃、1-2時間である。
【0017】
上記記載の通り、EDTA2塩基酸無水物は、絹糸や羊毛等タンパク質の分子側鎖のリジン、アルギニン、ヒスチジン等の反応性に富む塩基性アミノ酸残基とアシル化反応が起こる他、セリン、チロシン、スレオニン等のアミノ酸残基のフェノール性の水酸基とも反応する。羊毛には、反応性に富むこれらの塩基性アミノ酸残基あるいはフェノール性水酸基の総量が絹フィブロインに比べて、多量に含まれるので羊毛を加工する際の無水EDTA濃度は絹フィブロインの場合に比べて希薄でも良く反応時間は短時間でよい。反応終了後は、化学加工に用いた有機溶媒で試料を洗いサンプルに付着した未反応物を除去し、最終的には、水で洗うとよい
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る金属含有液の処理方法によれば、金属含有液から特定の金属を選択的に回収、除去することができる。また、本発明に係る高分子吸着材を用いることにより、複数種の金属イオンを含有する金属含有液から特定の金属イオンを選択的に回収・除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(Pb、Cd、Znを含む金属含有液への適用例)
3種類の金属イオン(Pb、Cd、Zn)を同時に含む精製水溶液(混合金属イオン水溶液という)に、未加工の絹糸(B-cont)と、EDTA 2塩基酸無水物を用いて化学加工した絹糸(B-EDTA)(加工率10.4%)を浸漬し、未加工の絹糸と、化学加工した絹糸に吸着される金属イオン量をICP分析により測定した。
金属イオン(Pb、Cd、Zn)のイオン濃度を3mMに調整し3種類の金属イオンを同時に含む混合金属イオン水溶液のpHを1N硝酸とアンモニア水を用いて2.5、4.0、5.5に調整した。

【0020】
上記混合金属イオン水溶液10mLに、未加工の絹糸(B-cont)と、化学加工によりEDTAを導入した絹糸(B-EDTA)を、各々20mg入れ、20~25℃で、2~3時間かけて浸漬し、試料に金属イオンを吸着させた。なお、未加工の絹糸では、浸漬時間が2時間以上で金属イオンの吸着量は平衡状態になり、EDTAで化学加工した絹糸では、浸漬時間が3時間以上で金属イオンの吸着量は平衡状態になることを確認している。
試料に吸着された金属イオンの含量は、金属イオンを吸着した絹糸に69%硝酸を入れ、150℃にセットしたホットプレート式加熱装置で絹糸を完全に加水分解(酸処理ともいう)した後、上澄み液に含まれる金属イオン量をICP分析により計測して算出した。

【0021】
表1は、未加工の絹糸(B-cont)と、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)を、Pb、Cd、Znを同時に含む混合金属イオン水溶液に浸漬して金属イオンを吸着させ、試料に吸着した金属イオン量を測定した結果を示す。

【0022】
【表1】
JP0005822253B2_000002t.gif

【0023】
なお、上記測定とは別に、水不溶化処理した家蚕由来のシルク膜、あるいは羊毛からなるケラチン膜をEDTA2塩基酸無水物で化学加工し、上記例と同様に、Pb、Cd、Znを同時に含む混合金属イオン水溶液に浸漬して金属イオンを吸着させ、試料膜に吸着した金属イオン量を測定したところ、表1と同様の結果が得られた。また、家蚕由来のシルク水溶液あるいは羊毛由来のケラチン水溶液を乾燥固化してなる多孔質状あるいはブロック状、または、家蚕由来のシルク水溶液や羊毛由来のケラチン水溶液にアルコールまたは硝酸を加えて試料水溶液のpHをシルクやケラチンの等電点以下に設定することで凝固させてなるゲル状物を高分子吸着材として利用した場合も上記記載の表1と同様の結果が得られた。

【0024】
表1に示す測定結果は、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)へのPb、Cd、Znの吸着量は、未加工の絹糸(B-cont)に比べていずれも高い値を示し、より効率的に金属イオンを吸着することができること、また、Pb、Cd、Znの3種の金属イオンを吸着させた際、CdあるいはZnの吸着量に比べて、Pbの吸着量がきわめて特異的に増加していることがわかる。すなわち、EDTAを導入した絹糸は、未加工の絹糸と比較して効率的に金属イオンを吸着する作用を有するとともに、Pb、Cd、Znの3種の金属イオンが同時に存在する液から、Pbを選択的にしかも多量に吸着する作用を有することを示している。

【0025】
表2は、比較例として、Pb、Cd、Znをそれぞれ単独で含む水溶液(金属イオン水溶液という)に未加工の絹糸(B-cont)とEDTAを導入した絹糸(B-EDTA)を浸漬させ、試料に吸着した金属イオン量を測定した結果を示す。未加工の絹糸とEDTAを導入した絹糸を浸漬処理する金属イオン水溶液濃度、浸漬条件等は、上述した実験と同一である。したがって、Pb、Cd、Znを同時に含む混合金属イオン水溶液に浸漬して金属イオンを吸着した場合と、Pb、Cd、Znを単独に含む金属イオン水溶液に浸漬して金属イオンを吸着させた場合とで、試料への金属イオン量の吸着量を直接的に比較対比することができる。

【0026】
【表2】
JP0005822253B2_000003t.gif

【0027】
表2に示す測定結果は、同一pHの金属イオン水溶液において、未加工の絹糸とEDTAを導入した絹糸を比較すると、EDTAを導入した絹糸を使用した場合に、Pb、Cd、Znのいずれについても吸着量が顕著に増大することを示している。
表1と表2の測定結果を比較して特徴的な点は、Pb、Cd、Znが単独で存在する金属イオン水溶液ではEDTAを導入した絹糸は、いずれもB-contと比較して金属イオンを吸着する作用が増大するのに対して、Pb、Cd、Znを同時に含む混合金属イオン水溶液の場合は、CdとZnの吸着量が、これらを単独で含む金属イオン水溶液にくらべて大きく抑制され減少する一方、Pbについては効率的な吸着が維持されていること、いいかえればPbが他の金属イオンの吸着を阻害しながらPbが選択的に吸着されている点である。

【0028】
(Cu、Cd、Znを含む金属含有液への適用)
3種の金属イオン(Cu、Cd、Zn)を同時に各3mM含む混合金属イオン水溶液に、未加工の絹糸(B-cont)と、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)を浸漬して試料に吸着された金属イオン量を測定した。なお、混合金属イオン水溶液のpHは5.5であった。以降の実施例で金属イオン水溶液あるいは混合金属イオン水溶液のpH表示が無い場合はpH5.5で吸着実験を行ったことを意味する。
10mLの混合金属イオン水溶液に、20mgの絹糸を浸漬させ、室温で振とうして試料に金属イオンを吸着させた。混合金属イオン水溶液から試料を取り出し、脱液率(pick up ratio) が約220 %になるように脱液した後、ホットプレート式加熱装置を用いて69%硝酸を約6ml添加し、150℃で約5時間、試料を完全に酸分解した。その後、試料液を適宜希釈して、ICP分析で定量し、吸着量を算出した。表3は混合金属イオン水溶液のpHが5.5の測定結果である。表3の上段は、金属イオンの吸着量を(mg/g)単位で表したもの、下段は(mmol/g)で表示したものである。

【0029】
【表3】
JP0005822253B2_000004t.gif

【0030】
表3に示す測定結果において特徴的な点は、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)へのCuの吸着量が、Cd、Znにくらべて顕著に増大している点である。
表3と表2とを比較すると、Cu、Cd、Znを同時に含む混合金属イオン水溶液の場合(表3)は、Cd、Znの吸着量が、これらを単独で含む金属イオン水溶液の場合(表2)と比較して抑制される一方、Cuについては、Cuを単独で含む金属イオン水溶液の場合と同程度の吸着量が得られ、Cuの吸着が抑制されずに、Cuが選択的に吸着されていることがわかる。

【0031】
(Cu、Cd、Pbを同時に含む金属含有液への適用)
3種の金属イオン(Cu、Cd、Pb)を同時に各3mM含む混合金属イオン水溶液に、未加工の絹糸(B-cont)と、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)を浸漬してそれぞれの試料に吸着された金属イオン量を測定した。測定方法及び測定条件は上述した例と同様である。
表4に、混合金属イオン水溶液のpHを5.5とした場合の金属イオンの吸着量を示す。表4の上段は、金属イオンの吸着量を(mg/g)単位で表し、下段は(mmol/g)で表している。

【0032】
【表4】
JP0005822253B2_000005t.gif

【0033】
表4から、B-EDTAはB-contにくらべて金属イオンをより強く吸着する作用を有すること、B-EDTA試料への金属イオンの吸着量を重さで比較すると、Pb>Cu>Cdの順となり、モル数で比較するとCu>Pb>Cdの順になることがわかる。また、前述した例では、PbあるいはCuが他の金属と比較して突出して吸着量が増大したが、本実験においては、Cdの吸着が顕著に抑制される一方、CuとPbはさほど吸着が抑制されず、3種の金属イオンのうちで、この2種の金属イオンが選択的に吸着されていることを示す。
なお、CuとPbの吸着量をモル数で比較すると、CuはPbの約2倍吸着しており、CuがPbよりも効率的に吸着される傾向がみられる。

【0034】
(EDTAを導入した絹糸の使用実例)
上述した複数種の金属イオンを同時に含む混合金属イオン水溶液に未加工の絹糸(B-cont)と、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)を浸漬して金属イオンの吸着量を測定した実験から、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)は未加工の絹糸(B-cont)にくらべて金属イオンを吸着する作用に優れていること、また、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)は、混合金属イオン水溶液に含まれている金属イオンのうち特定の金属イオンを選択的に吸着する作用を有することがわかる。たとえば、Pb、Cd、Znを含む溶液ではPbが選択的に吸着され、Cu、Cd、Znを含む溶液ではCuが選択的に吸着され、Cu、Cd、Pbを含む溶液ではCuとPbとが選択的に吸着される。EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)が特定の金属イオンを選択的に吸着する作用は、後述の羊毛の実施例でも明らかなようにEDTAを導入した羊毛(W-EDTA)でも同様に適用可能であり、かつ上記実施例で用いた金属に限らず、他の金属についても適用可能である。

【0035】
したがって、廃液等の複数種の金属を含む液(金属含有液)から特定の金属を回収あるいは特定の金属を除去する方法として、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)を金属含有液に浸漬させ、特定の金属イオンをB-EDTAに吸着させることにより、金属含有液から特定の金属を効率的に回収し、除去することが可能である。
このように、金属含有液から特定の金属イオンを吸着して取り出すことができれば、金属含有液から有害金属を除去して無害化する処理や、特定の金属を回収して再利用するといった処理を効率的に行うことができ、廃液の処理等に有効に利用することができる。

【0036】
廃液から、たとえばPbを除去するといった操作においては、ひとたび金属イオンを吸着したB-EDTAから金属イオンを脱離させ、再度B-EDTAに金属イオンを吸着させる繰り返し使用が可能かどうかを検討する必要がある。すなわち、B-EDTAにいったん吸着された金属イオンをB-EDTAから脱離させ、B-EDTAが金属イオンを吸着する作用を回復させてB-EDTAを再利用できるようにすることができれば、再生したB-EDTAを繰り返し廃液に浸漬させることによって効率的に高分子吸着材を利用することが可能になる。

【0037】
B-EDTAに吸着された金属イオンをB-EDTAから脱離させる方法としては、金属イオンを吸着したB-EDTAに硝酸、酢酸、塩酸、硫酸のいずれかを接触させて処理する方法が利用できる。和光純薬工業株式会社製、商品の硝酸濃度は69%である。これを100% 硝酸で換算した場合の硝酸濃度が0.07M以下だと、高分子素材に導入された金属イオンの配位基となるEDTAと金属イオンとの配位結合を断ち切って金属イオンを脱離させることができず、その結果、高分子吸着材をに長時間浸漬してもいったん吸着した金属イオンは脱離しないため、当該目的に硝酸を使用することは効率的、経済的に不利である。逆に、硝酸濃度が0.35M以上では、高分子吸着材が強酸である硝酸の作用により劣化してしまい、再利用ができないという問題が生ずる。本実施例においては、硝酸を使用しているが、硝酸以外、塩酸等の強酸であれば、上記記載の濃度範囲は適用できる。硝酸及び塩酸以外の、を使用すると、たとえば酸とPbとが反応するため、金属イオンと酸が結合して沈殿が起こり、正確な金属定量ができ難いという問題が生ずる。金属の脱離に使用できるは硝酸、塩酸が好ましく用いられる。

【0038】
表5は、Pb、Cd、Znを同時に含む混合金属イオン水溶液に未加工の絹糸(B-cont)とEDTAを導入した絹糸(B-EDTA)を浸漬させてPb、Cd、Znの各イオンを吸着した試料(表1の実験と同一条件で作成したもの)をに接触させ、Pb、Cd、Znがどの程度脱離されるかを実験した結果を示す。に接触させる処理には、金属イオンを吸着した試料を水洗いした後、pH 0.654に調整した0.5M 硝酸10mLに1時間浸漬する方法を採用した。

【0039】
【表5】
JP0005822253B2_000006t.gif

【0040】
表5に示すように、未加工の絹糸(B-cont)についても、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)についても、上述したに接触させる処理を行うことにより吸着金属イオン量のほぼ100%を脱離させることができた。に1時間浸漬する実験の他に、振とうしながら18時間、に浸漬する処理する実験を行ったが、金属イオンの脱離率について有意差は見られなかった。硝酸を用いて試料から金属イオンを脱離させる方法は、短時間で処理ができ、操作が簡単である点で効率的であり経済的である。

【0041】
上記例はPb、Cd、Znを吸着した試料をに接触させて試料に吸着された金属イオンを脱離させた例であるが、吸着させる金属イオンがこれらの金属イオンに限定されるものではなく、一般的な金属イオンを吸着した試料についても同様にに接触させる処理が有効であることを確かめている。
金属イオンを吸着したB-EDTAから金属イオンを脱離させる処理には、上記記載のとおり硝酸、塩酸、酢酸等のが用いられる。0.07M の硝酸と塩酸水溶液のpHは、それぞれ1.03, 1.53であり、0.8 Mの硝酸と塩酸水溶液のpHは、それぞれ0.19, 0.53であることが新たに検証されている。として使用できる硝酸あるいは塩酸水溶液のpHは0.1~2.0であり、好ましくは0.19~1.5である。水溶液のpHが0.1以下であると繊維が加水分解して脆弱化するおそれがある。したがって、のpHおよびが繊維に接触する時間、の濃度を適宜調節することにより、金属イオンを吸着したB-EDTAから脱離する金属イオン量を制御でき、その結果、B-EDTAを繰り返して使用することが可能となる。
このように、EDTAを導入した絹糸は、廃液等の金属含有液から金属を除去する方法に有効に利用することができる。

【0042】
(羊毛への金属吸着)
3種類の金属イオン(Pb、Cd、Zn)を同時に含む混合金属イオン水溶液、すなわち各金属イオンを3mMずつ含む10mLの混合溶液を作製し、その混合金属イオン水溶液のpHを2.5、4.0、5.5に調整した混合金属イオン水溶液に、20mgの羊毛(W-cont)、及び20mgのEDTAを導入した加工率31.4%の羊毛(W-EDTA)を、20~25℃で浸漬させ、羊毛(W-EDTA)に金属イオンを吸着させた。金属イオンを吸着させた羊毛試料を69%硝酸に入れ、150℃にセットしたホットプレート式加熱装置で試料を完全に加水分解した後、上澄みに含まれる金属イオン量をICP分析により計測して試料に吸着された金属イオン量を算出した。得られた結果が表6である。

【0043】
【表6】
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【0044】
表6にW-contとW-EDTAに吸着された金属イオン量を示す。前述した未加工の絹糸(B-cont)と、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)を使用した場合と同様に、同一pHの金属イオン水溶液において、EDTAを導入した羊毛は、Cd、ZnにくらべてPbをより多く吸着している。また、W-EDTAは、W-contに比べて金属イオンの吸着量が増大しており、金属イオン水溶液のpHの影響を受け難い。

【0045】
【表7】
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【0046】
表7は、比較例として、Pb、Cd、Znを単独で含む金属イオン水溶液にW-contとW-EDTAを浸漬して金属イオンを吸着させた際の金属イオンの吸着量を示す。金属イオンの濃度は、表6における場合と同様である。
表6と表7とを比較すると、Pb、Cd、Znを同時に含む混合金属イオン水溶液に羊毛(W-EDTA)を浸漬させると、同一pHの金属イオン水溶液において、金属イオンを単独で含む金属イオン水溶液に浸漬させた場合に比べて、羊毛(W-EDTA)には、CdとZnが吸着し難くなり、吸着量が低く抑えられ、一方、Pbが選択的に多量に吸着される機能が付与されていることがわかる。この作用は、前述したEDTAを導入した絹糸(B-EDTA)を使用した場合とまったく同様である。

【0047】
なお、金属イオンを吸着させたEDTAを導入した羊毛試料(W-EDTA)に0.4Mあるいは0.8Mの硝酸を接触させ、試料に吸着された金属イオンを脱離させる実験を行い金属イオンの脱離率を調べた。金属イオンの脱離率は、試料をに接触させる処理をする前に試料に吸着されている金属イオン量と処理後に試料に付着している金属イオン量をICP分析によって求めることで算出した。
その結果、Pb、Cd、Znの混合金属イオン水溶液に使用したW-EDTAの金属イオンの脱離率は、Pb:50.2[94.9]%、Cd:41.6[82.0]%、Zn:59.4[92.6]%([ ]は0.8M硝酸使用)、Pb、Cd、Znを単独で含む金属イオン水溶液に使用したW-EDTAの金属イオンの脱離率は、Pb:59.3[90.0]%、Cd:52.9[86.2]%、Zn:52.3[91.5]%であった。
り導入されたものであり、金属含有液に浸漬して該金属含有液に含まれる特定の金属イオンを選択的に吸着する作用を有する。

【0048】
表8は、Pb、Cd、Znを単独で含む金属イオン水溶液に、B-contとB-EDTAを浸漬して金属イオンを吸着させた後、0.07~0.1 Mの硝酸を接触させ、試料に吸着された金属イオンを脱離させる実験を行った結果を示す。金属イオンの脱離率は、試料をに接触させる前に試料に吸着されている金属イオン量とに接触させた後に試料に付着している金属イオン量をICP分析によって求めることで算出した。

【0049】
【表8】
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【0050】
表8において、濃度とは硝酸の濃度(M)、時間とは試料と硝酸との接触時間(分)、[Zn]、[Cd]、[Pb]は処理試料からの亜鉛、カドミウム、鉛の脱離率(%)を意味する。
B-EDTAからの金属イオンの脱離率は、硝酸濃度が0.28M、浸漬時間30分でほぼ100%程度となり、試料にいったん吸着した金属イオンはすべて脱離する。硝酸濃度が低濃度の0.07Mであると、B-EDTAからの金属イオン脱離率はB-Contより低い値となり、脱離しない金属イオンが繊維に残ることが示唆された。低濃度の硝酸(0.07M)を処理試料に接触する際、接触時間が15分では金属イオンの脱離率は70%程度であるが、60分となると90%の金属イオンが脱離する。
硝酸(0.1M)を接触する際、接触時間が15分以上では、金属イオンの脱離率は80%以上となる。上記実験結果は、いったん吸着した金属イオンの脱離率は、硝酸の濃度、硝酸との接触時間を調整することで変化させることが可能であることを意味する。

【0051】
これらの実験結果と、前述したW-EDTAの金属イオンの脱離率とを比較すると、W-EDTAと金属イオンとが吸着する際の親和性はB-EDTAと金属イオンとの吸着時の親和性より強く、いったん羊毛に吸着した金属イオンは絹糸より強固に結合するため、羊毛(W-EDTA)から金属が脱離し難い、いいかえれば、W-EDTAにはB-EDTAに比べて金属イオンがより強固に吸着される傾向があることがわかる。

【0052】
これらの実験結果は、B-EDTAと比較してW-EDTAからはいったん吸着した金属イオンが脱離し難い、いいかえれば、W-EDTAにはB-EDTAと比較して金属イオンがより強固に吸着される傾向があることを示している。ただし、このW-EDTAを使用する場合も、に接触させる際の酸の濃度、酸との接触時間、酸のpHを調節する等によりW-EDTAを損傷させずに金属イオンを脱離させることが可能であり、W-EDTAもB-EDTAと同様に金属イオンを含有する廃液等から金属を除去する目的で使用することができる。



【0053】
(人工海水溶液への適用例)
上述した測定において使用した金属イオン水溶液は、精製水を溶媒として金属イオンを溶解したものである。本発明に係る高分子吸着材を、河川水中などにおける実際の場面において、金属イオンの吸着に応用するには、河川水などはKCl, NaF, LiCl, NaCl等の多種類の塩類ならびにMg, Na, Sr,
Li, Al, Fe, Mn 等の多種類の塩を含むから、多種類の金属イオンが同時に含まれる条件下における吸着挙動を考慮する必要がある。そこで、以下に、精製水を溶媒とした場合と人工海水(和光純薬工業株式会社製、商品名 ダイゴ人工海水 SP、カタログ番号395-01343)を溶媒とした場合について、未加工の絹糸(B-cont)と、EDTAを導入した絹糸(B-EDTA)による金属イオンの吸着挙動がどのようになるかを実験した結果について説明する。

【0054】
表9は、Pb、Cd、Znをそれぞれ単独で含む金属イオン水溶液について、精製水(Water)を使用した場合と人工海水(Sea Water)を使用した場合に、未加工の絹糸(B-cont)とEDTAを導入した絹糸(B-EDTA)への金属イオンの吸着がどのようになるかを測定した結果を示す。

【0055】
【表9】
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【0056】
表9から、B-contを使用した場合は精製水にかえて人工海水を使用すると、金属イオンの吸着量が減少する傾向がみられるのに対して、B-EDTAを使用した場合は、精製水を使用した場合と人工海水を使用した場合とで金属イオンの吸着量の差に大きな差があらわれないことがわかる。
人工海水は多種の微量な無機物や塩類や金属イオンを含むから、この実験結果は、多種の金属イオンが同時に存在する場合に、B-contはそれらの金属イオンの存在によってPb、Cd、Znの吸着量が左右され本来吸着すべき金属イオンの吸着が妨げられるのに対して、B-EDTAはPb、Cd、Znの吸着作用が大きく抑制されることはないことを示している。このことは、本願発明の高分子吸着材が、多くの塩類や金属イオンを同時に含む工業廃水、河川水に適応する上で極めて有用であることを示唆する。

【0057】
【表10】
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【0058】
表10は、Pb、Cd、Znを同時に含む混合金属イオン水溶液について、水溶液として精製水を使用した場合と人工海水を使用した場合について、金属イオンの吸着量を測定した結果を示す。表10の結果は次のように集約できる。前述のとおり、B-EDTAは、PbとCdとZnを同時に含む混合金属イオン精製水溶液に浸漬させることにより、Pbを選択的にかつ多量に吸着する作用を有している。表10に示す実験結果は、精製水の代わりに人工海水を使用した場合もB-EDTAは、Pbを選択的に多量に吸着する作用を維持していることを示す。すなわち、金属イオンの水溶液に多種の微量な無機物や金属イオンが同時に含有されている人工海水を使用した場合にも、B-EDTAはPbを選択的に吸着する作用を保持することがわかる。
このように、本発明に係る高分子吸着材は、実験室レベルでも、また河川や工業廃水に含まれる金属イオンの吸着においても簡便にかつ効率よく利用できるという特徴がある。

【0059】
上述した方法と同様の方法により、B-contの代わりにW-contおよびW-EDTAを、精製水を使用した混合金属イオン水溶液と人工海水を使用した混合金属イオン水溶液に浸漬して羊毛試料への金属イオンの吸着量を測定した。人工海水を使用した場合も、B-EDTAと同様な選択的吸着作用が認められた。
また、上記測定とは別に、家蚕由来のシルク膜、あるいは羊毛からなるケラチン膜を水不溶化処理した後、EDTA2塩基酸無水物で化学加工した2種類の試料膜を、上記例と同様に精製水と人工海水を用いたPb、Cd、Znを同時に含む混合金属イオン水溶液にそれぞれ浸漬して金属イオンを吸着させ、試料膜に吸着した金属イオン量を測定したところ、表10と同様の結果が得られた。