TOP > 国内特許検索 > 高分子フィルム又は繊維の変形方法及び高分子アクチュエータ > 明細書

明細書 :高分子フィルム又は繊維の変形方法及び高分子アクチュエータ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4945756号 (P4945756)
登録日 平成24年3月16日(2012.3.16)
発行日 平成24年6月6日(2012.6.6)
発明の名称または考案の名称 高分子フィルム又は繊維の変形方法及び高分子アクチュエータ
国際特許分類 C08J   7/00        (2006.01)
F03G   7/06        (2006.01)
FI C08J 7/00 CEZZ
F03G 7/06 G
請求項の数または発明の数 6
全頁数 10
出願番号 特願2006-532731 (P2006-532731)
出願日 平成17年8月30日(2005.8.30)
国際出願番号 PCT/JP2005/015785
国際公開番号 WO2006/025399
国際公開日 平成18年3月9日(2006.3.9)
優先権出願番号 2004253398
優先日 平成16年8月31日(2004.8.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年5月2日(2008.5.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
発明者または考案者 【氏名】奥崎 秀典
審査官 【審査官】岩田 行剛
参考文献・文献 特許第3131180(JP,B2)
特許第3102773(JP,B2)
特許第3039994(JP,B2)
特開2000-133854(JP,A)
調査した分野 C08J 7/00
F03G 7/06
特許請求の範囲 【請求項1】
電気刺激による水分子の吸脱着によって、導電性高分子フィルム又は繊維を変形せしめる方法において、
内部応力が生じるように前記導電性高分子フィルム又は繊維を変形させた状態で前記電気刺激を与え、前記変形させた状態から、更に変形せしめることを特徴とする導電性高分子フィルム又は繊維の変形方法。
【請求項2】
電気刺激による水分子の吸脱着により、内部応力が生じるように変形させた状態にある導電性高分子フィルム又は繊維の弾性係数が変化することを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子フィルム又は繊維の変形方法。
【請求項3】
前記内部応力が生じるように変形させた状態が、紙バネ形状、板バネ形状、波形状、及びジクザグ形状からなる群から選ばれる少なくとも一種の形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性高分子フィルム又は繊維の変形方法。
【請求項4】
電気刺激による水分子の吸脱着によって変形する導電性高分子フィルム又は繊維からなる導電性高分子アクチュエータであって、前記導電性高分子アクチュエータは、内部応力が生じるように加工形成され、前記内部応力が生じた状態から前記電気刺激の有無により可逆的に変形することを特徴とする導電性高分子アクチュエータ。
【請求項5】
前記電気刺激による水分子の吸脱着により、前記導電性高分子フィルム又は繊維の弾性係数が変化することを特徴とする請求項4に記載の導電性高分子アクチュエータ。
【請求項6】
前記内部応力が生じるように加工形成された状態が、紙バネ形状、板バネ形状、波形状、及びジクザグ形状からなる群から選ばれる少なくとも一種の形状である請求項4又5に記載の導電性高分子アクチュエータ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子フィルム又は繊維の元の形状を、外力により変形させることにより内力を発生させ、かかる内力が発生した状態で、外部刺激を与え、これにより分子の吸脱着を発生させ高分子フィルム又は繊維を変形せしめる方法及びこの方法を利用した高分子アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルム又は繊維の外部刺激による変形方法は、本発明の発明者である奥崎秀典氏等により、以下の特許として開示されている。
【0003】
以下の特許においては、ピロール系高分子フィルム又は繊維を用い、電気刺激による分子の吸脱着によって、気体中でピロール系高分子フィルム又は繊維を伸縮あるいは屈曲せしめる方法が開示されている。
【0004】
以下の特許で開示されているピロール系高分子フィルム又は繊維の伸縮率は、特許文献1(特許第3131180号)の図3又は図4、あるいは特許文献2(特許第3102773号)の図4、図5から、概ね1.5%~2%程度である。即ち、これらの特許により提供されるピロール系高分子フィルム又は繊維の変形率は、最大でも数%程度である。
【0005】

【特許文献1】特許第3131180号公報
【特許文献2】特許第3102773号公報
【特許文献3】特許第3039994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許によるピロール系高分子フィルム変形方法は、気体中(乾式)であり、かつ電気刺激により高感度に反応することから、様々な製品への応用が考えられる。例えば、視覚障害者用の点字表示装置への応用、あるいは空調用ダンパーの開閉装置への応用等である。
【0007】
しかし、数%程度の変形率では、点字装置への応用の場合にあっては、視覚障害者がその変化を指触で十分に認識できないという問題がある。また、開閉装置への応用の場合にあっては、十分な開閉度が確保できないという問題がある。即ち、特許文献1~特許文献3で開示された技術を実際の製品に適用するには、開示されている技術では、必ずしも十分な変形率が確保できないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、従来技術の問題点である数%以下の変形率しか実現できないといった課題を解決する目的でなされたものである。即ち、本発明の一つの目的は、従来の外部刺激により空気中などの気体中(乾式)で、素早く、繰り返し伸張、収縮、変形することができる高分子フィルム又は繊維であって、その変形率が、従来の10倍以上の変形率を実現することのできる高分子フィルム又は繊維の変形方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、上記の変形率を備えた高分子フィルム又は繊維を使った高分子アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、最も原理的に表現すれば、高分子フィルム又は繊維に外力を加えて変形させ、かかる変形状態にある高分子フィルム又は繊維に外部刺激を与え、これにより分子の吸脱着を発生させ、上記高分子フィルム又は繊維を変形せしめる高分子フィルム又は繊維の変形方法を提供するものである。
【0011】
ここで高分子フィルムおよび繊維とは、中性高分子、高分子電解質、導電性高分子をいう。中性高分子としては、セルロース、セロファン、ナイロン、ポリビニルアルコール、ビニロン、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルフェノール、ポリ2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよびこれらの誘導体から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0012】
高分子電解質としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などのポリカルボン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ナフィオンなどのポリスルホン酸、ポリアリルアミン、ポリジメチルプロピルアクリルアミドなどポリアミンとその四級化塩およびこれらの誘導体から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0013】
導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリフェニレン、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリイソチアナフテン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリナフタレン、ポリアントラセン、ポリピレン、ポリアズレン、ポリフルオレン、ポリピリジン、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリエチレンジオキシチオフェンおよびこれらの誘導体から選択された少なくとも1つが挙げられる。
【0014】
これらの高分子フィルムおよび繊維は、キャスト法、バーコーティング法、スピンコーティング法、スプレー法、電解重合法、化学的酸化重合法、溶融紡糸法、湿式紡糸法、固相押出法、エレクトロスピニング法から選択された少なくとも1つの手法を用いて作製することができる。
【0015】
これら高分子の吸湿性や電導度を上げるために、ドーパントをドープすることは好適である。ドーパントとしては、例えば硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ヨウ素、臭素、フッ化ヒ素、過塩素酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、パーフルオロスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸イミド、シュウ酸、酢酸、マレイン酸、フタル酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びこれらの誘導体、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン等の炭素系添加物、鉄、銅、金、銀等の金属から選択された少なくとも1つが挙げられる。中でも、高い電導度と安定性、再現性に優れている、テトラフルオロホウ酸をドープしたポリピロールの電解重合フィルムが好適である。
【0016】
外部刺激による高分子フィルム又は繊維の分子吸脱着法としては、ニクロム線やトーチ、バーナー、赤外線照射やレーザー照射、マイクロ波照射による加熱、真空ポンプやアスピレーターによる減圧、直流波や交流波、三角波、矩形波およびパルス波などの電圧印加によるジュール加熱から選択される少なくとも1つが挙げられる。中でも、簡便であり制御性に優れた直流電圧が好ましい。
【0017】
外部刺激は高分子フィルム又は繊維に内力、例えば内部応力が発生している状態で加えることが好ましい。例えば、弾性変形領域にある状態で加えることであるが、弾性変形と塑性変形が混在する状態で、外部刺激を加えてもよい。
【0018】
高分子フィルム又は繊維導電性高分子に一定の内力、例えば内部応力(σ)が存在する場合、外部刺激で弾性率(E)が増加すると、加えられている歪(ε)はそれに反比例して減少する(数1参照)。その際の変形量(ε-ε’)は、(4)に示すように内部応力(σ)と弾性率の差(E’-E)に比例して大きくなる。すなわち、より大きな内部応力をかけることで、アクチュエータはより大きく変形する。
【0019】
【数1】
JP0004945756B2_000002t.gif

【0020】
即ち、高分子フィルム又は繊維に外力を加え、内部応力が発生している変形状態とし、かかる変形状態(内部応力が発生している状態)にある高分子フィルム又は繊維に外部刺激による分子の吸脱着を発生せしめることにより、高分子フィルム又は繊維の弾性率が変化することにより、従来にない大きな変形を起こさせることができる。
【0021】
高分子フィルム又は繊維に外力を加え、内力が発生している変形状態としては、紙バネ形状、板バネ形状、波形、及びジクザグ形状からなる群から選ばれる少なくとも一種の形状が好適である。特にバネ形状に折り曲げ、外部刺激として、両端部に電圧を印加することは好ましい。
【0022】
外部刺激による分子の吸脱着において、分子が空気中の水分子であることは空気中で高分子フィルム又は繊維を変形させる上で好適である。
【0023】
本発明は、外部刺激による分子の吸脱着によって変形する高分子フィルム又は繊維からなるアクチュエータであって、前記高分子フィルム又は繊維に内力が生じるように加工した状態で前記外部刺激を与えることにより作動することを特徴とする。
【0024】
高分子フィルム又は繊維の加工した形状として、紙バネ形状、板バネ形状、波形状、及びジクザグ形状からなる群から選ばれる少なくとも一種であることは好適である。
【0025】
前記外部からの刺激として電圧を、紙バネ形状等に折り曲げた両端部に加えることは好適である。電圧を加えることにより、紙バネ形状等に折り曲げられた高分子フィルム又は繊維の表面から、水蒸気等の分子が吸脱着され、これにより弾性率が変化し、弾性率の変化と内力との関係で高分子アクチュエータが大きく作動する。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、従来の外部刺激による分子の吸脱着によってピロール系高分子フィルム又は繊維の変形方法と比較して、10倍以上大きく変形する高分子フィルム又繊維の変形方法を提供することができる。かかる高分子フィルム又は繊維の変形方法を用いたアクチュエータによれば、従来にない大きな変位を確保できるアクチュエータを作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例による1枚のポリピロールフィルムを折り曲げて作製したバネ形状アクチュエータに2Vの直流電圧を印加したときの変形の様子を示したものである。
【図2】比較例によるジグザグ形状の電極上に電解重合したポリピロールフィルムに2Vの直流電圧を印加したときの様子を示したものである。
【図3】実施例によるポリピロールフィルムに種々の歪を加えたときの電気収縮応力を示したものである。
【図4】実施例による種々の直流電圧を印加したときのポリピロールフィルムの応力歪曲線を示したものである。
【図5】実施例による2枚のポリピロールフィルムを用いた紙バネ形状アクチュエータの作製法と電圧応答の模式図である。
【図6】2枚のポリピロールフィルムを折り曲げて作製した紙バネ形状アクチュエータに2Vの直流電圧を印加したときの変形の様子を示したものである。
【図7】2枚のポリピロールフィルムを折り曲げて作製した紙バネ形状アクチュエータの繰り返し電圧応答特性を示したものである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、実施例について詳細に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。以下の実施例で使用した高分子フィルムはポリピロールフィルムであり、このフィルムはピロール2.01gおよびテトラエチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸5.43gを、1%の純水を含む炭酸プロピレンに溶かして500mlの溶液とし、正極に白金板(長さ100mm、幅50mm、厚さ0.18mm)、負極にアルミ板(長さ300mm、幅100mm、厚さ0.05mm)を用いた電解重合セルに上記溶液を入れ、ポテンショスタット(HA-301,北斗電工)から一定電流11mA(電流密度0.125mA/cm2)を12時間印加し、電解重合により製作した。電界重合温度は-20℃であった。得られたポリピロールフィルムを白金電極上からはがし、炭酸プロピレン中で約5分間洗浄した後、真空乾燥し作製したものである。
【実施例1】
【0029】
図1は、上述した方法で作製したポリピロールフィルムを、長さ36mm、幅3mm、厚さ20μmに切り出し、1枚のポリピロールフィルムをジクザグ形状に折り曲げて作製したバネ形状アクチュエータに2Vの直流電圧を印加したときの変形の様子を示したものである。
【0030】
本実施例はポリピロールフィルムを12回折り曲げてジグザグ形状としたものであるが、この両端に直径25μmの銅線を銀ペーストで固定し、ポテンショスタット(HA-301,北斗電工)から2Vの直流電圧を印加し、そのときの伸縮の様子をビデオカメラ(DCR-PC300K,ソニー)で撮影した。
【0031】
2V印加により38mAの電流が流れ、ジグザグ形状のバネ形状アクチュエータは縦方向に約22%伸長した。このとき、空気中において、電圧印加前の屈曲部分の角度は19~31°(平均25.1°)であるのに対し、2V印加することにより25~35°(平均31.1°)に増大し、屈曲部分の角度が電圧印加により約24%増大することがわかった。また、電圧を切ることでポリピロールフィルムはほぼ元の形状に回復した。
【0032】
電圧印加によりポリピロールフィルムは水分子を脱着しながら収縮し、収縮率は1~2%程度であった。このバネ形状アクチュエータの変形率(22%)は、従来技術の10倍以上に相当するものである。これは、(1)従来ポリピロールフィルムの伸縮を測定していたのに対し、本発明におけるこの実施例では、ポリピロールフィルムの屈曲に伴うバネ形状アクチュエータの変位を測定していること、(2)ポリピロールフィルムを紙バネ状に繰り返し折り曲げることで屈曲部分を含むユニットが直列に結合した配置となり、電圧印加したときの角度変化に伴う微小な変形を一次元的に集積し、結果として一方向への大きな伸長を可能にしたためと考えられる。
【0033】
(比較例)
上述したジグザグ形状のポリピロールフィルムの比較として、長さ100mm、幅50mm、厚さ50μmのチタン板を、50~60°の角度になるように3mm間隔に折り曲げ、これを電極に用いて同様の条件下で電解重合を行った。得られたポリピロールフィルムを洗浄、乾燥後、幅3mmに切り出すことで、図2に示すような最初から折れ曲がって合成されたバネ形状アクチュエータを作製した。両端に直径25μmの銅線を銀ペーストで固定し、ポテンショスタット(HA-301,北斗電工)から2Vの直流電圧を印加したときの伸縮の様子をビデオカメラ(DCR-PC300K,ソニー)で撮影した。
【0034】
空気中で2V印加することにより19mAの電流が流れたが、ポリピロールフィルムの形状はほとんど変化しなかった。このポリピロールフィルムはジグザグ形状に折り曲げられた電極上で合成されていることから、屈曲部分には弾性変形などの変形や歪、外部からの応力は与えられていない。このことから、電圧印加によりバネ形状アクチュエータを変形させるためには、ポリピロールフィルムにあらかじめ内部応力(内力)を発生させることが重要であることがわかった。これは上述したとおり、変形量(ε-ε’)は内部応力(σ)と弾性率の差分(E’-E)の積となるからである。
【0035】
発明者は上述した現象を裏付けるものとして、ポリピロールフィルムに引張り歪を加えた状態で電圧を印加することにより収縮応力が変化する現象を見出している。図3は、ポリピロールフィルムに種々の歪を加えた状態で電圧を印加することによる収縮応力の変化(以下、電気収縮応力)を示したものである。長さ35mm、幅5mm、厚さ約30μmのポリピロールフィルムを引張試験機(Tensilon II, オリエンテック)のチャックに固定する。ポリピロールフィルムの両端に銅線を銀ペーストで固定し、ポテンショスタット(HA-301,北斗電工)を用いて直流電圧を印加したときの収縮応力を求めた。2V印加により6.1MPaの収縮応力を発生する。ポリピロールフィルムを伸長することにより応力は増大し、電圧印加によりさらに大きな収縮応力を発生する。
【0036】
興味深いことに、ポリピロールフィルムに種々の歪を加えたときの電気収縮応力は、ポリピロールフィルムを1%伸長することで9MPa(1.5倍)に増加する。電流値、赤外放射温度計(THI-500S,Tasco)により測定したポリピロールフィルムの表面温度および、ポリピロールフィルム表面近傍の相対湿度変化(MC-P,パナメトリクス)は加えた歪によらず一定であったことから、収縮応力の増加はポリピロールフィルムの弾性率変化に起因すると考えられる。
【0037】
いま、ポリピロールフィルムをεだけ伸ばしたときに生じる収縮応力は、電圧を印加しないとき(σ0)と印加したとき(σe)でそれぞれ、

σ0= E0ε、σe = Ee(ε+εe)/(1-εe)

と表される。ここでE0、Eeはそれぞれ電場印加しないときとしたときのポリピロールフィルムの弾性率であり、εeは無張力下においてポリピロールフィルムに電圧を印加したときの収縮率である。εe<<1のとき,電気収縮応力(Δσ= σe - σ0)は、

Δσe = Eeεe+(Ee-E)ε

で表され、電気収縮応力が歪により変化することを示している。
【0038】
すなわち、電圧印加によりポリピロールフィルムの弾性率が増大する場合(Ee>E0)、歪を加えることにより電気収縮応力は増加する。これに対し、電圧印加により逆に弾性率が低下する場合(Ee<E)、電気収縮応力は減少する。
【0039】
種々の電圧を印加した場合のポリピロールフィルムの応力歪特性を図4に示す。無張力下で電圧印加するとポリピロールフィルムは収縮し、収縮率は印加電圧とともに大きくなる。次にポリピロールフィルムを徐々に伸ばしていくと、応力は直線的に増加する。直線の勾配より算出したポリピロールフィルムの縦弾性率(ヤング率)は印加電圧とともに増加し、2V印加することで約60%増加した。これは、電気収縮によりポリピロールフィルムがより変形しにくくなったことを意味する。
【0040】
これらの数値を用いて計算した電気収縮応力を図3中に破線で示す。電圧印加によりポリピロールフィルムの縦弾性率は増加することから、歪とともに電気収縮応力は大きくなる。ここで、歪が1%以下では実験値と計算値はほぼ一致するが、1%以上で大きくずれてくる。これはポリピロールフィルムの塑性変形が起こったためと考えられ、実際に2%伸ばした後に歪を取り去ってもポリピロールフィルムは完全に元の長さには回復しなかった。このことから、電気収縮応力の増加はポリピロールフィルムの弾性変形領域でのみ発現すると考えられる。
【0041】
これと同様の機構で、図1に示したバネ形状アクチュエータの変形を説明することが可能である。すなわち、ポリピロールフィルムを折り曲げることで作製したバネ形状アクチュエータの屈曲部分には、折り目を形づくる塑性変形と、バネ特性を発現する弾性変形が存在する。
【0042】
電圧印加により水分子の脱着が起こりポリピロールフィルムが収縮するために弾性率が増大し、ポリピロールフィルムはより変形しにくくなる。そのため、屈曲部分に与えられている弾性変形を減少させる方向(歪みが少なくなる方向)、すなわち、折り曲げる前の真っ直ぐな形状へ回復する力が作用することで、屈曲部分が開いて角度が大きくなる。これによりバネ形状アクチュエータが伸長すると考えられる。
【実施例2】
【0043】
図1に示したバネ形状アクチュエータは横方向の自由度も高く、変形途中で横に倒れてしまうという問題があった。そこで、図5の様に2枚のポリピロールフィルム(長さ36mm,幅3mm,厚さ20μm)を交互に折り曲げることで2枚バネ形状アクチュエータ(紙バネ形状アクチュエータともいう。)を作製した。
【0044】
図1と同じサイズのポリピロールフィルム(長さ36mm,幅3mm,厚さ20μm)を用いているにもかかわらず、図6に示す2枚バネ形状アクチュエータの初長(5mm)は図1のバネ形状アクチュエータ(9.5mm)の約半分である。これは、2枚バネ形状アクチュエータでは2枚のポリピロールフィルムが交互に折り込まれており、バネの自由な伸びが制限されているためである。
【0045】
図7に示すとおり、2V印加によりアクチュエータは可逆的に伸長し、伸長率は最大40%に達することが明らかになった。これは、ポリピロールフィルムがよりコンパクトに折り曲げられることで内部応力(弾性変形の効果)が大きくなったためと考えられる。電圧印加によるアクチュエータの伸長は繰り返しにより減少するが、3回以上でほぼ一定(25%)になることかわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、分子の吸脱着と高分子フィルム又は繊維の変形との関係を利用したセンサーや高分子フィルム又は繊維の可逆的な変形を利用して水蒸気、ガス、及び液体についてその流量や方向を制御する人工弁、ケミカルバルブ、スイッチ等の電子工学素子として応用することができる。
【0047】
また、直接高分子フィルム又は繊維の変形を利用して仕事をさせるアクチュエータや人工筋肉材料など幅広く産業状の分野で利用できる。さらに、高分子フィルム又は繊維を二次元、三次元的に折り曲げた平面又は立体構造を直列および並列に配置することにより、より大きな変形や応力を取り出すことも可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6