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明細書 :酸化物膜及びその製造方法、並びにターゲット及び酸化物焼結体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5641402号 (P5641402)
公開番号 特開2011-174167 (P2011-174167A)
登録日 平成26年11月7日(2014.11.7)
発行日 平成26年12月17日(2014.12.17)
公開日 平成23年9月8日(2011.9.8)
発明の名称または考案の名称 酸化物膜及びその製造方法、並びにターゲット及び酸化物焼結体の製造方法
国際特許分類 C23C  14/08        (2006.01)
C04B  35/00        (2006.01)
C23C  14/34        (2006.01)
C23C  14/24        (2006.01)
H01B   5/14        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
FI C23C 14/08 K
C04B 35/00 J
C23C 14/34 A
C23C 14/24 E
H01B 5/14 A
H01B 13/00 503B
請求項の数または発明の数 17
全頁数 31
出願番号 特願2010-170331 (P2010-170331)
出願日 平成22年7月29日(2010.7.29)
優先権出願番号 2010020343
優先日 平成22年2月1日(2010.2.1)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年7月5日(2013.7.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
発明者または考案者 【氏名】山添 誠司
【氏名】和田 隆博
個別代理人の代理人 【識別番号】100125450、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 広明
審査官 【審査官】植前 充司
参考文献・文献 特開2009-246085(JP,A)
Andreas Heinrich, et al.,Influence of oxygen pressure, temperature and substrate/target distance on Cu2Ta4O12 thin films prepared by pulsed-laser deposition,Thin Solid Films,ELSEVIER,2004年12月 7日,Vol.479,pp.12-16
調査した分野 C23C 14/08
C04B 35/00
C23C 14/24
C23C 14/34
H01B 5/14
H01B 13/00
特許請求の範囲 【請求項1】
ニオブ(Nb)と銅(Cu)とを含む酸化物の膜(不可避不純物を含み得る)であって、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるとともに、p型の導電性を有する、
酸化物膜。
【請求項2】
前記銅(Cu)に対する前記ニオブ(Nb)の原子数比が、前記銅(Cu)の原子数を1とした場合に前記ニオブ(Nb)の原子数が0.5以上3未満である、
請求項1に記載の酸化物膜。
【請求項3】
前記酸化物膜が、微結晶の集合体又は微結晶を含むアモルファス状であって、1S/cm以上の導電率を有する、
請求項1又は請求項2に記載の酸化物膜。
【請求項4】
400nm以上800nm以下の波長の光線の透過率が、40%以上である、
請求項1又は請求項2に記載の酸化物膜。
【請求項5】
表面の二乗平均平方根粗さ(RMS)が1nm以上50nm以下である、
請求項1又は請求項2に記載の酸化物膜。
【請求項6】
前記銅(Cu)の価数が1である、
請求項1又は請求項2に記載の酸化物膜。
【請求項7】
ニオブ(Nb)と銅(Cu)とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)のターゲットの構成原子を飛散させることにより、基板上に微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であってp型の導電性を有する第1酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を形成する工程を含む、
酸化物膜の製造方法。
【請求項8】
前記銅(Cu)に対する前記ニオブ(Nb)の原子数比が、前記銅(Cu)の原子数を1とした場合に前記ニオブ(Nb)の原子数が0.5以上3未満となる、
請求項7に記載の酸化物膜の製造方法。
【請求項9】
前記第1酸化物膜を、酸素濃度が1%未満の環境下において200℃以上500℃以下で加熱することにより第2酸化物膜を形成する工程をさらに含む、
請求項7又は請求項8に記載の酸化物膜の製造方法。
【請求項10】
前記第1酸化物膜を、酸素濃度が1%未満の環境下において200℃以上400℃未満で加熱することにより第2酸化物膜を形成する工程をさらに含む、
請求項7又は請求項8に記載の酸化物膜の製造方法。
【請求項11】
第1酸化物膜を形成するときの前記基板の温度が0℃以上500℃以下である、
請求項7又は請求項8に記載の酸化物膜の製造方法。
【請求項12】
前記ターゲットの構成原子を、スパッタリング又はパルスレーザーの照射により飛散させることによって前記第1酸化物膜を形成する、
請求項7又は請求項8に記載の酸化物膜の製造方法。
【請求項13】
ニオブ(Nb)と銅(Cu)とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)であって、
前記銅(Cu)に対する前記ニオブ(Nb)の原子数比が、前記銅(Cu)の原子数を1とした場合に前記ニオブ(Nb)の原子数が0.25以上4以下である、
ターゲット。
【請求項14】
前記銅(Cu)に対する前記ニオブ(Nb)の原子数比が、前記銅(Cu)の原子数を1とした場合に前記ニオブ(Nb)の原子数が0.66以上1.5以下である、
請求項13に記載のターゲット。
【請求項15】
前記ターゲットが、焼結されたものであって、相対密度が55%以上である、
請求項13又は請求項14に記載のターゲット。
【請求項16】
ニオブ(Nb)の酸化物(不可避不純物を含み得る)と銅(Cu)の酸化物(不可避不純物を含み得る)とを、前記銅(Cu)に対する前記ニオブ(Nb)の原子数比が、前記銅(Cu)の原子数を1とした場合に前記ニオブ(Nb)の原子数が0.25以上4以下となる割合で混合することにより混合物を得る混合工程と、
前記混合物を圧縮成形することにより成形体を得る成形工程と、
前記成形体を加熱することによって焼結させる焼結工程とを含む、
酸化物焼結体の製造方法。
【請求項17】
前記銅(Cu)に対する前記ニオブ(Nb)の原子数比が、前記銅(Cu)の原子数を1とした場合に前記ニオブ(Nb)の原子数が0.66以上1.5以下である、
請求項16に記載の酸化物焼結体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物膜及びその製造方法、並びにターゲット及び酸化物焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透明性又は導電性を備えた種々の酸化物膜が研究されている。特に、透明性と導電性を兼ね備えた膜は透明導電膜と呼ばれ、フラットパネルディスプレーや太陽電池などのデバイスにおける重要な要素材料として広く用いられている。
【0003】
これまでに採用されてきた代表的な透明導電膜の材料は、ITO(酸化インジウム錫)とZnO(酸化亜鉛)である。ITO(酸化インジウム錫)は、特に透明性や導電性が高いことで知られており、材料としても安定していることから、各種のデバイスにおいて長年用いられてきた。しかし、その導電性はn型しか示さないため、適用範囲が限定される。他方、昨今、高性能化に向けた研究開発の対象として注目されているZnO(酸化亜鉛)については、純酸化亜鉛のみならず、アルミニウム(Al)とクロム(Cr)を添加した酸化亜鉛などが開発されている(特許文献1を参照)。しかし、そもそも酸化亜鉛は水分や熱に対する安定性がITOに比べて低いため、その取扱いは難しい。
【0004】
ところで、n型の導電性を示す透明導電膜については、上述のITOをはじめ、AlをドープしたZnOやフッ素をドープしたSnOなど、数多くの種類が存在する。しかしながら、p型の導電性を示す透明導電膜の高性能化に向けた研究開発は依然として道半ばであるといえる。例えば、銅(Cu)とアルミニウム(Al)の複合酸化物であるCuAlOの膜、又は銅(Cu)とストロンチウム(Sr)の複合酸化物であるSrCuの膜がp型の導電性を示すことが開示されている(非特許文献1を参照)。しかしながら、それらの導電率は非常に低い。また、以下に示す特許文献2や特許文献3では、幾つかの元素が添加された酸化物が透明導電膜としての性質を有していることが開示されているが、いずれの文献も、開示された全ての元素に対する導電性や可視光透過率に関する具体的な開示が無いため、透明導電膜の技術資料として採用することが困難である。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2002-75061号公報
【特許文献2】特開2007-142028号公報
【特許文献3】特表2008-507842号公報
【0006】

【非特許文献1】Jaroslaw Domaradzki 他3名、「Transparent oxide semiconductors based on TiO2 doped with V, Co and Pd elements」、Journal of Non-Crystalline Solids、2006年、第352巻、p2324-2327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、p型の導電性を示す導電膜、特に、透明導電膜としての酸化物膜の高性能化は、n型のそれと比べて大きく立ち遅れているのが現状である。すなわち、現在開発されているp型の透明導電膜は、主として透明性又は導電性が低いといった問題を抱えている。
【0008】
他方、結晶性の酸化物膜については、その物性を決定する結晶の配向制御の問題が生じうる。その意味で、特定の結晶方位を有しなければその性能を十分に発揮しないような結晶性の酸化物膜の採用は、工業化を念頭に置いたときに量産化や基板の大型化にとっての技術的な障壁となる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の技術課題の少なくとも1つを解決することにより、p型の導電膜、特にp型の透明導電膜としての酸化物膜の高性能化に大きく貢献するものである。発明者らは、導電膜の適用範囲を広げるためにはp型の導電性を有する酸化物膜の高性能化が不可欠であると考え、その導電性又は透明性を高めるべく、古くから研究されている対象の元素のみならず、これまで本格的な研究対象となっていなかった新しい元素の採用を試みた。数多くの試行錯誤を行った結果、発明者らは、いわゆる薄膜化を行うことによって塊状の物性とは全く異なる物性を示す材料が存在し、その膜の特性が上述の幾つかの問題の解決に寄与し得ることを知見した。さらに発明者らが研究を重ねた結果、その材料は、望まれる特性を得るための製造条件が比較的緩やかであって、製造上の自由度が非常に高くなる可能性があることも併せて知見した。本発明は、そのような知見と経緯によって創出された。
【0010】
本発明の1つの酸化物膜は、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)からなる群から選択される1種類の遷移元素と、銅(Cu)とを含む酸化物の膜(不可避不純物を含み得る)であって、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるとともに、p型の導電性を有する。
【0011】
この酸化物膜によれば、従来と比してp型の高い導電性が得られる。また、この酸化物は、通常、塊状においては結晶性を示すが、膜状になると微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状となって、そのp型としての導電性が飛躍的に向上する。また、この酸化物膜は微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるため、大型基板上への膜の形成が容易になることから、工業生産にも適している。
【0012】
また、本発明のもう1つの酸化物膜は、銅(Cu)と遷移元素(ニオブ(Nb)又はタンタル(Ta))からなる酸化物の膜(不可避不純物を含み得る)であって、前述の銅(Cu)に対する前述の遷移元素の原子数比が、その銅(Cu)の原子数を1とした場合にその遷移元素の原子数が0.5以上3未満であり、かつ微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるとともに、p型の導電性を有する。
【0013】
この酸化物膜によれば、従来と比してp型の高い導電性が得られる。また、この酸化物は、通常、塊状においては結晶性を示すが、膜状になると微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状となって、そのp型としての導電性が飛躍的に向上する。また、上述の特定の元素を採用し、上述の特定の範囲の原子数比を満足することにより、酸化物膜の透明性が大きく向上する。加えて、この酸化物膜は微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるため、大型基板上への膜の形成が容易になることから、工業生産にも適している。
【0014】
また、本発明の1つの酸化物膜の製造方法は、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)からなる群から選択される1種類の遷移元素と、銅(Cu)とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)のターゲットの構成原子を飛散させることにより、基板上に微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であってp型の導電性を有する第1酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を形成する工程を含む。
【0015】
この酸化物膜の製造方法によれば、従来と比較してp型の高い導電性を備えた酸化物膜が得られる。また、この酸化物は、通常、塊状においては結晶性を示すが、膜状になると微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状となって、そのp型としての導電性が飛躍的に向上する。加えて、この酸化物膜の製造方法によれば、その酸化物膜が微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるため、大型基板上に容易に形成され得ることから、工業生産にも適した酸化物膜が得られる。
【0016】
また、本発明のもう1つの酸化物膜の製造方法は、銅(Cu)と遷移元素(ニオブ(Nb)又はタンタル(Ta))とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)のターゲットの構成原子を飛散させることにより、前述の銅(Cu)に対する前述の遷移元素の原子数比が、その銅(Cu)の原子数を1とした場合にその遷移元素の原子数が0.5以上3未満となり、かつ微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であってp型の導電性を有する第1酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を基板上に形成する工程を含む。
【0017】
この酸化物膜の製造方法によれば、従来と比してp型の高い導電性を備えた酸化物膜が得られる。また、この酸化物は、通常、塊状においては結晶性を示すが、膜状になると微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状となって、そのp型としての導電性が飛躍的に向上する。さらに、上述の特定の元素を採用し、上述の特定の範囲の原子数比を満足することにより、酸化物膜の透明性が大きく向上する。加えて、この酸化物膜の製造方法によれば、その酸化物膜が微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるため、大型基板上に容易に形成され得ることから、工業生産にも適した酸化物膜が得られる。
【0018】
また、本発明の1つのターゲットは、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)からなる群から選択される1種類の遷移元素と、銅(Cu)とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)であって、前述の銅(Cu)に対する前述の遷移元素の原子数比が、その銅(Cu)の原子数を1とした場合にその遷移元素の原子数が0.25以上4以下である。
【0019】
このターゲットによれば、例えば、スパッタリング又はパルスレーザーの照射によりこのターゲットの構成材料を飛散させることによって、従来と比べてp型の高い導電性を備えた酸化物膜を形成することができる。
【0020】
また、本発明の1つの酸化物焼結体の製造方法は、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)からなる群から選択される1種類の遷移元素の酸化物(不可避不純物を含み得る)と銅(Cu)の酸化物(不可避不純物を含み得る)とを、前述の銅(Cu)に対する前述の遷移元素の原子数比が、その銅(Cu)の原子数を1とした場合にその遷移元素の原子数が0.25以上4以下となる割合で混合することにより混合物を得る混合工程と、その混合物を圧縮成形することにより成形体を得る成形工程と、その成形体を加熱することによって焼結させる焼結工程とを含む。
【0021】
この酸化物焼結体の製造方法によれば、この製造方法によって形成された酸化物焼結体を、例えば、スパッタリング又はパルスレーザーの照射の対象となるターゲットとして活用することにより、従来と比してp型の高い導電性を備えた酸化物膜が形成され得る。また、焼結体であれば市場における取扱いが容易になるため、流通性及び産業適用性に富む製造物が得られる。
【0022】
なお、本出願においては、「基板」とは、代表的にはガラス基板、半導体基板、金属基板、及びプラスチック基板を意味するが、これに限定されない。また、本出願における「基板」には、平板状に限らず、曲面状の構造体も含まれ得る。さらに、本願において、「基板の温度」とは、特に言及がない限り、その基板を支持、保持、又は収容する台や器具を加熱するヒーターの設定温度を意味する。また、本出願において、「酸化物」及び「酸化物膜」には、製造上、混入を避けることができない不純物が含まれ得る。なお、この不純物の代表的なものは、例えば、ターゲットを製造する際に混入しうる不純物や、各種の基板の含まれる不純物、あるいは各種のデバイスの製造工程において利用される水の中に含まれる不純物である。従って、本願出願時の最新の分析機器によって必ずしも検出できるとは言えないが、例えば、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、及びマグネシウム(Mg)が代表的な不純物として考えられる。また、本出願において、「ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)からなる群から選択される1種類の遷移元素と、銅(Cu)とを含む酸化物の膜」には、ニオブ(Nb)又はタンタル(Ta)と銅(Cu)との複合酸化物(例えば、CuNbやCuTa、但し、X,Y,Zは、それぞれの原子の存在比率を表す。以下、同じ)の膜のみならず、酸化銅(Cu)と酸化ニオブ(Nb)又は酸化タンタル(Ta)との混合物の膜も含まれる。同様に、本出願において、「銅(Cu)とニオブ(Nb)からなる酸化物の膜」には、ニオブ(Nb)と銅(Cu)との複合酸化物(CuNb)の膜のみならず、酸化銅(Cu)と酸化ニオブ(Nb)との混合物の膜も含まれる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の1つの酸化物膜によれば、従来と比べてp型の高い導電性が得られる。加えて、この酸化物膜はある特定の結晶構造を備える必要がないため、大型基板上への膜の形成が容易になることから、工業生産にも適している。
【0024】
また、本発明の1つの酸化物膜の製造方法によれば、従来と比してp型の高い導電性を備えた酸化物膜が得られる。また、この酸化物は、通常、塊状においては結晶性を示すが、膜状になると微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状となって、そのp型としての導電性が飛躍的に向上する。加えて、この酸化物膜の製造方法によれば、その酸化物膜が微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるため、大型基板上に容易に形成され得ることから、工業生産にも適した酸化物膜が得られる。
【0025】
また、本発明の1つのターゲットによれば、例えば、スパッタリング又はパルスレーザーの照射によりこのターゲットの構成材料を飛散させることによって、従来と比してp型の高い導電性を備えた酸化物膜を形成することができる。
【0026】
さらに、本発明の1つの酸化物焼結体の製造方法によれば、この製造方法によって形成された酸化物焼結体を、例えば、スパッタリング又はパルスレーザーの照射の対象となるターゲットとして活用することにより、従来と比してp型の高い導電性を備えた酸化物膜が形成され得る。また、焼結体であれば市場における取扱いが容易になるため、流通性及び産業適用性に富む製造物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態における第1酸化物膜の製造装置の説明図である。
【図2A】本発明の第1の実施形態における第2酸化物膜の形成過程の1つを示す説明図である。
【図2B】本発明の第1の実施形態における第2酸化物膜の形成過程の1つを示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における第1酸化物膜の表面の原子間力顕微鏡(AFM)による観察結果を示す写真である。
【図4】本発明の第1の実施形態における第2酸化物膜の表面の原子間力顕微鏡(AFM)による観察結果を示す写真である。
【図5】本発明の第1の実施形態における第1酸化物膜及び第2酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。
【図6】本発明の第1の実施形態における第1酸化物膜及び第2酸化物膜の主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。
【図7A】本発明の第1の実施形態における第2酸化物膜のTEM(透過電子顕微鏡)像を示す写真である。
【図7B】図7Aの一部(X部)を拡大した写真である。
【図7C】図7Bの一部(Y部)を拡大した写真である。
【図8A】本発明の第1の実施形態における第1酸化物膜のTEM(透過電子顕微鏡)像を示す写真である。
【図8B】図8Aの一部(1-1)の電子線回折分析による結果である。
【図8C】図8Aの一部(1-2)の電子線回折分析による結果である。
【図8D】図8Aの一部(2)の電子線回折分析による結果である。
【図8E】図8Aの一部(3-1)の電子線回折分析による結果である。
【図8F】図8Aの一部(3-2)の電子線回折分析による結果である。
【図9A】本発明の第1の実施形態における他の第2酸化物膜のTEM(透過電子顕微鏡)像を示す写真である。
【図9B】図9Aの一部(1)の電子線回折分析による結果である。
【図9C】図9Aの一部(2)の電子線回折分析による結果である。
【図9D】図9Aの一部(3)の電子線回折分析による結果である。
【図9E】図9Aの一部(4)の電子線回折分析による結果である。
【図9F】図9Aの一部(5)の電子線回折分析による結果である。
【図9G】図9Aの一部(6)の電子線回折分析による結果である。
【図10A】本発明の第1の実施形態における他の第2酸化物膜のTEM(透過電子顕微鏡)像を示す写真である。
【図10B】図10Aの一部(1-1)の電子線回折分析による結果である。
【図10C】図10Aの一部(1-2)の電子線回折分析による結果である。
【図10D】図10Aの一部(2)の電子線回折分析による結果である。
【図10E】図10Aの一部(3-1)の電子線回折分析による結果である。
【図10F】図10Aの一部(3-2)の電子線回折分析による結果である。
【図11A】本発明の第1の実施形態における第2酸化物膜の温度変化に対する抵抗率の変化を示すグラフである。
【図11B】本発明の第1の実施形態における第2酸化物膜の温度変化に対するキャリア密度の変化を示すグラフである。
【図12】本発明の第1の実施形態の変形例(1)における第1酸化物膜及び第2酸化物膜の主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。
【図13】本発明の第2の実施形態における第1酸化物膜及び第2酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。
【図14】本発明の第2の実施形態の変形例(1)における第2酸化物膜についての、主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。
【図15】本発明の第3の実施形態における第1酸化物膜及び第2酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。
【図16】本発明の第3の実施形態における第1酸化物膜及び第2酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。
【図17】本発明の他の実施形態の第1酸化物膜の主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。
【図18】本発明の他の実施形態の第1酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。

【0029】
<第1の実施形態>
本実施形態では、銅(Cu)及びニオブ(Nb)とからなる酸化物膜及びその製造方法について説明する。図1は、本実施形態における第1酸化物膜の製造装置の説明図である。図2A及び図2Bは、本実施形態における第2酸化物膜の形成過程の1つを示す説明図である。

【0030】
本実施形態では、最終目的物となる酸化物膜の製造に先立ち、その酸化物膜を形成するための原料となる酸化物焼結体の製造が行われた。まず、1価の銅(Cu)の酸化物である酸化銅(CuO)と、5価のニオブ(Nb)の酸化物であるNbとが物理的に混合された。本実施形態では、公知のライカイ機(株式会社石川工場製、型式AGA、以下同じ)を用いて混合された。また、上述の2種類の酸化物は、化学量論比においてCuが1に対して、Nbがほぼ1となるように混合された。なお、本実施形態の酸化銅(CuO)については、株式会社高純度化学研究所社製の公称純度が99.9%のものが採用された。また、本実施形態のNbについては、株式会社高純度化学研究所社製の公称純度が99.9%のものが採用された。

【0031】
次に、本実施形態では、上述の酸化物の混合物の粉末を市販の錠剤成形機(エヌピーエーシステム株式会社製、型式TB-5H)を用いて圧縮成形することにより、上述の酸化物の成形物が得られた。このときに加えられた圧力は、35MPaであった。さらに、アルミナ板上に載せた上述の粉末状の混合物の上にこの成形体を置いた状態で、950℃に加熱した市販のマッフル炉(株式会社モトヤマ製、型式MS-2520)を用いて4時間の焼成工程が行われた。

【0032】
上述の焼成工程を経て得られた酸化物焼結体の相対密度は約90%であった。この酸化物焼結体の結晶構造については、X線回折(XRD)分析装置(株式会社リガク製、製品名「自動X線回折装置 RINT(登録商標)2400」)を用いた測定及び分析が行われた。その結果、上述の酸化物焼結体がCuNbOの結晶構造を有していることが分かった。ところで、このXRD測定では、θ/2θ法が採用された。また、X線照射の際の電圧は40kVであり、管電流は100mAであった。また、X線発生部のターゲットは銅であった。なお、以下のいずれのXRD分析も、前述のXRD分析装置を用いて行われた。

【0033】
その後、図1に示すように、パルスレーザー蒸着装置20を用いて酸化物膜が基板10上に製造される。なお、パルスレーザー蒸着装置20のレーザー源は、Lambda Physik社製の、型式Compex201であり、そのチャンバーは、ネオセラ社製のパルスレーザー蒸着装置であった。また、本実施形態では、基板10はホウケイ酸ガラス基板である。また、上述の酸化物焼結体がターゲット30として採用された。大気開放されたチャンバー21内のステージ(又は、基板ホルダー。以下、統一的にステージという。)27上に、液体状のインジウムを介して基板10を貼り付けて載置した後、公知の真空ポンプ29を用いて排気口28からチャンバー21内の空気が排気された。チャンバー21内の圧力が10-4Paのオーダーになるまで排気された後、ステージ27内部の図示しないヒーターの温度が500℃に設定された。

【0034】
しばらくして、酸素ガスボンベ25a及び窒素ガスボンベ25bから導入口26を介して酸素(O)及び窒素(N)がチャンバー21内に供給された。なお、本実施形態における酸化物膜の蒸着工程では、チャンバー21内の酸素の平衡圧力が0.027Paとなるように真空ポンプ29による排気が調整された。なお、本実施形態では、酸素ガスのみが導入されたが、これに限定されない。例えば、窒素(N)ガスに代えて、ヘリウム(He)ガス、又はアルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスが酸素ガスとともに導入されてもよい。また、酸素ガスが単体で導入されてもよい。また、本実施形態のチャンバー21内の酸素の平衡圧力0.027Paであったが、それ以外の圧力(例えば、0.005Pa以上100Pa以下)に設定されても、本実施形態の酸化物膜と同様の酸化物膜が形成され得る。

【0035】
その後、パルス状のフッ化クリプトン(KrF)エキシマレーザー(波長248nm)22が、レンズ23によって集光された後、ホルダー24に保持されたターゲット30に向けて照射される。上述の酸化物焼結体からなるターゲット30の構成原子を前述のエキシマレーザー照射によって飛散させることにより、図2Aに示すように、基板10上に第1酸化物膜11が形成される。ここで、本実施形態の第1酸化物膜11の組成比は、ターゲット30である酸化物焼結体のそれとほぼ一致する。従って、その組成比は、Cuが1に対して、Nbがほぼ1である。なお、本実施形態のエキシマレーザーの発振周波数は、10Hzであり、単位パルスの単位面積当たりのエネルギーは、1パルスあたり200mJであり、また、照射回数は、10万回であった。

【0036】
さらに、酸化物膜11の形成後、基板10が大気開放されたチャンバー21から取り出された。基板10の裏面に付着したインジウムを塩酸で除去した後、窒素(N)ガスが供給されることにより酸素濃度が1%未満の雰囲気となっているチャンバー内において、基板10上の第1酸化物膜11が、300℃の条件下で2時間加熱処理(アニール処理)された。その結果、図2Bに示すように、基板10上に第2酸化物膜12が得られた。

【0037】
ここで、発明者らは、本実施形態において得られた第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の表面を原子間力顕微鏡(AFM)(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、型式SPI-3700/SPA-300」)を用いて観察した。その結果、第1酸化物膜11については、特に起伏や粒状と思われる模様は見られなかった。一方、第2酸化物膜12については、粒状と思われる模様が幾つか視認された。また、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、製品名「カラー3Dレーザ顕微鏡 VK-850」)を用いて第2酸化物膜12の膜厚を測定した結果、その膜厚は、約150nmであった。なお、以下のいずれの表面観察は、前述の原子間力顕微鏡を用いて行われた。また、以下のいずれの膜厚の測定も、前述のレーザー顕微鏡とキーエンス社製走査型電子顕微鏡(VE-9800)を用いて行われた。

【0038】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の結晶状態をXRD(X線回折)により分析した。その結果、図5に示すように、第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、いずれも2θが20°乃至30°において、アモルファスに由来すると考えられる広範なハローピーク以外のピークは明確に観察されなかった。従って、上述のXRD分析の結果を踏まえると、本実施形態の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、いずれもXRD分析では明確な回折ピークを示さない微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。ここで、発明者らは、本実施形態に加えて、第1酸化物膜11が、200℃、400℃、及び500℃の条件下で2時間加熱処理された場合の第2酸化物膜のXRD分析も行った。その結果、200℃、400℃、及び500℃のいずれについても、本実施形態の結果と同様に、XRD分析では明確な回折ピークを示さない微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。

【0039】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の表面粗さを原子間力顕微鏡により分析した。その結果、図3に示すように、本実施形態における第1酸化物膜11の表面の二乗平均平方根粗さ(RMS)(以下、単に「表面粗さ」ともいう。)は、約24nmであり、第2酸化物膜12の表面粗さは、図4に示すように、約35nmであることが分かった。ここで、発明者らは、本実施形態に加えて、第1酸化物膜11が、200℃及び500℃の条件下で2時間加熱処理された場合の第2酸化物膜の表面粗さも分析した。その結果、200℃の条件では、本実施形態の結果と同様に非常に平坦性の高い膜が形成されたが、500℃の条件では、それらの表面粗さは、本実施形態のそれと比較してかなり大きく(例えば、RMSが約50nmを超える)なった。

【0040】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の電気特性及び導電率を、ホール効果測定装置(ECOPIA社製、製品名「Hall Effect Measurement System HMS-3000 Ver.3.5」)を用いて分析した。その結果、本実施形態の第1酸化物膜11はp型の導電性を有するとともに、その導電率は、約0.011S/cmであった。他方、本実施形態の第2酸化物膜12については、p型の導電性を有するとともに、その導電率は、約21.2S/cmであった。従って、第2酸化物膜12の導電率は、上述の加熱処理により、第1酸化物膜11のそれに対して約2000倍にまでに向上し得ることが分かった。この第2酸化物膜12の導電率は、発明者らが把握している限り、p型の導電率としては他に例を見ないほどの極めて高い数値である。なお、この第2酸化物膜12のバンドギャップは約2.6eVであることが分かった。従って、本実施形態の第2酸化物膜12は、比較的広い禁制帯幅を有していることが明らかとなった。さらに、発明者らは、本実施形態に加えて、第1酸化物膜11が、200℃の条件下で2時間加熱処理された場合の第2酸化物膜の電気特性及び導電率の分析も行った。その結果、この第2酸化物膜はp型の導電性を有するとともに、その導電率は、約0.68S/cmであった。この値であっても、従来と比較してかなり高い導電率であるといえる。

【0041】
従って、電気特性及び導電率の分析により、200℃以上400℃未満の範囲で第1酸化物膜11を加熱処理することが、p型としての電導性の飛躍的な向上に貢献することが明らかとなった。特に、200℃以上300℃以下の範囲で第1酸化物膜11を加熱処理することが、前述の観点で好ましい。なお、少なくともこの知見は、ニオブ(Nb)と銅(Cu)とを含む酸化物の膜(不可避不純物を含み得る)であって、銅(Cu)に対するニオブ(Nb)の原子数比が、その銅(Cu)の原子数を1とした場合にそのニオブ(Nb)の原子数が0.5以上4以下である酸化物膜においても、少なくともp型の導電性を有するという点で当て嵌まる。また、以下のいずれの電気特性の及び導電率の測定も、上述のホール効果測定装置を用いて行われた。

【0042】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の可視光透過率(以下、単に「可視光透過率」又は「透過率」という。)を、マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス株式会社製、製品名「マルチチャンネル分光器 PMA-12」)を用いて分析した。なお、光検出素子は、感度波長範囲が300nm~1100nmのCCDリニアイメージセンサー「C1027—02」が用いられた。

【0043】
図6は、本実施形態における第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。図6に示すように、第1酸化物膜11の400nm以上800nm以下の波長の光線の透過率は、40%以下であるが、第2酸化物膜12については、その範囲の透過率は飛躍的に向上し、特に、約470nm以上1000nm以下の波長の光線の透過率は、60%以上であることが分かった。特に、500nm以上800nm以下の範囲では、その透過率は70%以上であった。

【0044】
ここで、発明者らは、本実施形態に加えて、第1酸化物膜11が、200℃、400℃、及び500℃の条件下で2時間加熱処理された場合の第2酸化物膜の可視光透過率の分析も行った。その結果、200℃、400℃、及び500℃のいずれの場合も、本実施形態と同様の高い可視光透過率が得られることが明らかとなった。特に、500℃の条件の第2酸化物膜では、約470nm以上1000nm以下の範囲において、光の透過率が75%以上であることが分かった。従って、第1酸化物膜11を少なくも、200℃以上500℃以下に加熱処理することが、可視光透過率の飛躍的な向上に貢献することが明らかとなった。これらの知見は、基本的に、本実施形態以外の各実施形態においても当て嵌まる。また、ニオブ(Nb)と銅(Cu)とを含む酸化物の膜(不可避不純物を含み得る)であって、銅(Cu)に対するニオブ(Nb)の原子数比が、その銅(Cu)の原子数を1とした場合にそのニオブ(Nb)の原子数が0.5以上3未満である酸化物膜を製造することによって、高い可視光透過率が達成され得る。この範囲に関しては、基本的に、ニオブ(Nb)をタンタル(Ta)に代えた場合についても当て嵌まる。なお、以下のいずれの可視光透過率の分析も、前述のマルチチャンネル分光器を用いて行われた。

【0045】
従って、これまでの分析結果によれば、高度に平坦性を維持した状態で高い透過率を有し、p型の導電性を示すとともにその導電率が高い酸化物膜を得るためには、第1酸化物膜11を200℃以上400℃未満で加熱処理することが好ましい。加えて、特に、200℃以上300℃以下の範囲で第1酸化物膜11を加熱処理することがさらに好ましい。

【0046】
また、発明者らは、上述の第2酸化物膜12の電界放射型透過電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社社製、型式JEM-2010F)による分析を行った。図7Aは、第2酸化物膜12に関する3つの分析結果のうち、最も広範囲の領域を観察した写真である。また、図7Bは図7Aの一部(X部)を、図7Cは図7Bの一部(Y部)をそれぞれ拡大した写真が示されている。その結果、図7A乃至図7Cに示すように、本実施形態の第2酸化物膜12は、主として、長径が200nm以下の粒状の微結晶の集合体により構成されていることが観察された。この結果から、本実施形態の第2酸化物膜12は、微結晶の集合体又は微結晶を含むアモルファス状であると考えられる。また、このTEMによる分析からも、第2酸化物膜12の膜厚が約150nmであることが確認された。さらに、このTEMによる分析とともに実施されたエネルギー分散型蛍光X線(EDX)分析装置(NORAN Instruments社製、Vantage(TM))によれば、この第2酸化物膜12の銅(Cu)とニオブ(Nb)の原子数比が、局所的には異なる数値になるが、全体としてはほぼ1:1であることが確認された。

【0047】
なお、上述のTEMによる分析条件は、次のとおりである。まず、分析対象となるサンプルについては、そのサンプルの最表面を保護するために、公知の高真空蒸着装置を用いてカーボン膜が形成され、さらに集束イオンビーム(FIB)加工装置内でタングステン膜が形成された。そして、測定領域がマイクロサンプリング法で摘出された後、FIB加工により薄片化された。その後、イオンミリング装置(GATAN社製、型式PIPS Model-691)により、FIBダメージ層が除去された。また、TEMによる観察条件については、加速電圧は200kVであった。また、サンプルはCCDカメラ(Gatan社製、ULTRASCAN(TM))によって観察された。

【0048】
また、上述のEDXによる分析条件は、次のとおりである。まず、定量方法は、スタンダードレス法であり、補正方法は、MBTS(Metallurgical biological thin section)法であった。また、バックグランドFit方法は、Filter-Fit法であった。また、加速電圧は200kVであり、ビーム径は約1nmであった。また、計数時間は1点あたり30秒であった。

【0049】
なお、本実施形態とは別に、発明者らが相対密度の低い(例えば、50%)酸化物焼結体を用いて上述と同様の手法で第1酸化物膜及び第2酸化物膜を作製したところ、それらのいずれも表面粗さが大きくなることが分かった。従って、相対密度の低い酸化物焼結体を用いることで、表面の粗い膜となることが分かる。

【0050】
第1酸化物膜11が形成された後、さらに追加的に、第1酸化物膜11の上述のTEMによる分析、及び電子線回折分析装置(日立ハイテクノロジーズ社製、型式HF-2000)による分析が行われた。図8Aは、第1酸化物膜11のTEM写真であり、図8B乃至図8Fは、それぞれ図8Aにおける特定の箇所の電子線回折分析結果である。具体的には、図8Bは、図8Aにおける「1-1」の箇所の結果であり、図8Cは、図8Aにおける「1-2」の箇所の結果である。また、図8Dは、図8Aにおける「2」の箇所の結果である。また、図8Eは、図8Aにおける「3-1」の箇所の結果であり、図8Fは、図8Aにおける「3-2」の箇所の結果である。各分析の結果、興味深いことに、上述のとおり、第1酸化物膜11のXRDにより分析では、アモルファスに由来すると考えられる広範なハローピーク以外のピークは明確に観察されなかったが、電子線回折によれば、図8B及び図8Cの箇所においては、CuNbの結晶構造が確認された。また、図8D及び図Eの箇所においては、NbOの結晶構造が確認された。さらに、図8Fの箇所においては、CuNbの結晶構造が確認された。このように、この第1酸化物膜11は、少なくともニオブ(Nb)と銅(Cu)との複合酸化物(CuNb)の微結晶のみならず、酸化ニオブ(Nb)の微結晶も含む膜であることが確認された。

【0051】
同様に、第2酸化物膜12が形成された後、第2酸化物膜12の上述のTEMによる分析、及び電子線回折による分析が行われた。図9Aは、第1酸化物膜11を300℃に加熱処理して形成した第2酸化物膜12のTEM写真であり、図9B乃至図9Gは、それぞれ図9Aにおける特定の箇所の電子線回折分析結果である。具体的には、図9Bは、図9Aにおける「1」の箇所の結果であり、図9Cは、図9Aにおける「2」の箇所の結果であり、図9Dは、図9Aにおける「3」の箇所の結果である。また、図9Eは、図9Aにおける「4」の箇所の結果であり、図9Fは、図9Aにおける「5」の箇所の結果であり、図9Gは、図9Aにおける「6」の箇所の結果である。各分析の結果、興味深いことに、上述のとおり、第2酸化物膜12のXRDにより分析では、アモルファスに由来すると考えられる広範なハローピーク以外のピークは明確に観察されなかったが、電子線回折によれば、図9B乃至図9Dの箇所においては、CuOの結晶構造が確認された。また、図9E乃至図Gの箇所においては、NbOの結晶構造が確認された。このように、この第2酸化物膜12は、少なくとも酸化ニオブ(Nb)の微結晶と酸化銅(Cu)の微結晶とを含む膜であることが確認された。

【0052】
また、図10Aは、第1酸化物膜11を500℃に加熱処理して形成した第2酸化物膜12のTEM写真であり、図10B乃至図10Fは、それぞれ図10Aにおける特定の箇所の電子線回折分析結果である。具体的には、図10Bは、図10Aにおける「1-1」の箇所の結果であり、図10Cは、図10Aにおける「1-2」の箇所の結果である。また、図10Dは、図10Aにおける「2」の箇所の結果である。また、図10Eは、図10Aにおける「3-1」の箇所の結果であり、図10Fは、図10Aにおける「3-2」の箇所の結果である。各分析の結果、興味深いことに、上述のとおり、第1酸化物膜11のXRDにより分析では、アモルファスに由来すると考えられる広範なハローピーク以外のピークは明確に観察されなかったが、電子線回折によれば、図10Bの箇所においては、NbOの結晶構造が確認された。また、図10Cの箇所においては、CuNbの結晶構造が確認された。また、図10D乃至図10Fの箇所においては、いずれもCuNbOの結晶構造が確認された。このように、この第2酸化物膜12は、少なくともニオブ(Nb)と銅(Cu)との複合酸化物(CuNb)の微結晶のみならず、酸化ニオブ(Nb)の微結晶も含む膜であることが確認された。

【0053】
また、発明者らは、第1酸化物膜11を300℃に加熱処理して形成した第2酸化物膜12について、温度変化に対する電気的な特性の変化を測定した。なお、この電気的特性の測定は、東陽テクニカ社製「ResiTest8300」を用いて行われた。また、薄膜の抵抗率は、ファン・デル・パウ法により測定された。加えて、キャリア濃度は、ファン・デル・パウ法によるホール測定により測定された。図11Aは、温度変化に対する抵抗率の変化を示すグラフであり、図11Bは、温度変化に対するキャリア密度の変化を示すグラフである。

【0054】
この測定の結果、抵抗率及びキャリア密度については、温度変化に対してほとんど変動しなかった。従って、この第2酸化物膜12は、電気的な特性において縮退半導体に似た挙動を示すことが分かった。

【0055】
<第1の実施形態の変形例(1)>
第1の実施形態におけるパルスレーザー蒸着装置20の条件のうち、ステージ27の温度が20℃乃至25℃(所謂、室温)である点以外は、第1の実施形態と同じ条件で第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12が形成された。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。

【0056】
AFMによる分析の結果、この実施形態における第1酸化物膜11の表面粗さは約1nmであり、第2酸化物膜12の表面粗さは、1.7nm乃至2.3nm以下であることが明らかとなった。また、XRD分析によれば、この実施形態の第2酸化物膜12も、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。なお、本実施形態とは別に調査及び分析した結果を併せれば、前述のような極めて高い平坦性を得るためには、第1酸化物膜11を製造する際のステージ27の温度(設定温度)が、特に0℃以上100℃以下であることが好ましい。

【0057】
また、この実施形態における第1酸化物膜11は、n型の導電性を有するとともに、その導電率が約0.061S/cmであった。しかし、第2酸化物膜12は、p型の導電性を有するとともに、その導電率が約4.22S/cmであった。さらに、この実施形態における第1酸化物膜11の500nm以上800nm以下の波長の可視光透過率は、約40%以下であった。他方、この実施形態における第2酸化物膜12の約580nm以上1000nm以下の波長の可視光透過率は、60%以上が得られた。

【0058】
上述のとおり、p型としての導電性及び可視光透過性を高めるためには、第1酸化物膜11を加熱することが大きく貢献することが明らかとなった。なお、第1の実施形態において形成された第1酸化物膜11を、酸素が1%以上存在する雰囲気中で加熱された以外は第1の実施形態と同じ条件で加熱処理された結果についても調べられた。その結果、図12に示すように、第1の実施形態の変形例(1)の条件下での加熱処理後の酸化物膜の可視光透過率は、第1の実施形態における第2酸化物膜12の500nm以上1000nm以下の波長の光線の透過率と比較して、一部の領域を除いてかなり低下していることが分かった。この傾向は、第1の実施形態、及び後述する第2の実施形態においても確認されている。従って、酸素(O)が所定量以上存在する雰囲気下での第1酸化物膜11の加熱処理は、可視光透過性の観点で好ましくないといえる。これは、加熱処理における雰囲気中の酸素によって、第1酸化物膜11中の銅の価数が、1から2に変化したことによる膜の着色化が原因であると発明者らは推測している。

【0059】
<第1の実施形態の比較例>
また、比較例として、第1の実施形態において形成された第1酸化物膜11が、500℃の大気中で加熱処理された。便宜上、この加熱処理後の酸化物膜を第3酸化物膜という。なお、前述の条件以外は、第1の実施形態の各プロセスと同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。

【0060】
発明者らによる可視光透過率の分析によれば、この実施形態の第3酸化物膜は、2価の銅(Cu)を含む薄膜であると考えられることが分かった。従って、大気中で加熱することにより、1価の銅(Cu)が空気中の酸素によって酸化されたため、2価の銅(Cu)になると考えられる。なお、XRD分析の結果、この第3酸化物膜は、XRD分析では明確な回折ピークを示さない微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。

【0061】
<第2の実施形態>
本実施形態では、第1の実施形態の第1酸化物膜11を形成するための酸化物焼結体の出発材としての、1価の銅の酸化物である酸化銅と5価のニオブの酸化物とが、化学量論比においてCuが1に対して、Nbがほぼ3となるように混合された。それ以外は、第1の実施形態の各プロセスと同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。

【0062】
その後、第1の実施形態と同様に、錠剤成形機による圧縮成形工程、及び焼成工程を経て酸化物焼結体が製造される。本実施形態の酸化物焼結体の相対密度は約86%である。また、その酸化物焼結体のXRD分析の結果、上述の酸化物焼結体がCuNbの結晶構造を有していることが分かった。

【0063】
その後、第1の実施形態と同様に、図1に示すパルスレーザー蒸着装置20を用いて第1酸化物膜が基板10上に製造された。また、上述のCuNbの結晶構造を有する酸化物焼結体がターゲット30として採用された。

【0064】
また、本実施形態では、ステージ27内部の図示しないヒーターの温度が20℃乃至25℃(所謂、室温)に設定された。加えて、酸素(O)がチャンバー21内に供給された後、チャンバー21内の酸素の平衡圧力が0.027Paとなるように真空ポンプ29による排気が調整された。その後、第1の実施形態と同様に、パルス状のフッ化クリプトン(KrF)エキシマレーザー(波長248nm)22により、図2Aに示すように、基板10上に第1酸化物膜11が形成される。

【0065】
さらに、第1酸化物膜11の形成後、第1の実施形態と同様に、窒素(N)ガスが供給されることにより酸素濃度が1%未満の雰囲気となっているチャンバー内において、基板10上の第1酸化物膜11が、300℃の条件下で2時間加熱処理(アニール処理)された。その結果、図2Bに示すように、基板10上に第2酸化物膜12が得られた。

【0066】
発明者らは、本実施形態において得られた第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の表面を原子間力顕微鏡により観察した。その結果、第1酸化物膜11については、非常に平坦な膜であった。一方、第2酸化物膜12については、粒状と思われる模様が幾つか視認された。また、上記レーザー顕微鏡を用いて第2酸化物膜12の膜厚を測定した結果、その膜厚は、約350nmであった。

【0067】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の結晶状態をXRD(X線回折)により分析した。その結果、図13に示すように、第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、いずれも2θが20°乃至30°において、アモルファスに由来すると考えられるハローピーク以外のピークは観察されなかった。従って、上述のXRD分析の結果を踏まえると、本実施形態の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、いずれもXRD分析では明確な回折ピークを示さない微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。

【0068】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の電気特性及び導電率を分析した結果、本実施形態の第1酸化物膜11はp型の導電性を有するとともに、その導電率は、約0.286S/cmであった。しかしながら、本実施形態の第2酸化物膜12については、p型の導電性を有しているが、その導電率は、約0.0006S/cmであった。従って、本実施形態の場合は、上述の加熱処理によって導電性が低下するという現象が確認された。

【0069】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の可視光透過率を分析した。その結果、本実施形態の場合も、上述の加熱処理によって透過率が向上することが確認された。

【0070】
<第2の実施形態の変形例(1)>
第1又は第2の実施形態におけるパルスレーザー蒸着装置20の条件のうち、チャンバー21内の酸素の平衡圧力が0.0027Paである点、及び第2の実施形態における酸化物焼結体がターゲット30中の銅(Cu)とニオブ(Nb)の化学量論比以外は、後述する一部(表1中の1.11(3回目))の結果を除いて第1の実施形態と同じ条件で第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12が形成された。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。

【0071】
発明者らは、銅(Cu)に対するニオブ(Nb)の比率を変えたターゲット30を用いて形成した第1酸化物膜11を、幾つかの温度条件で加熱処理して形成した第2酸化物膜12について、電気的及び光学的特性を測定した。表1は、その測定結果を示している。また、図14は、表1に示す結果のうち、銅(Cu)の原子数を1とした場合にニオブ(Nb)の原子数が1.11となるターゲッ30を用いた場合であって、第1酸化物膜11を300℃で加熱処理して形成した第2酸化物膜12の一部についての、主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。なお、表1における銅(Cu)に対するニオブ(Nb)の比が1.11(1回目)及び1.11(2回目)のチャートは、それぞれ図14のチャート内に「1回目」、「2回目」と表示されている。また、参考のため、図14には、加熱処理される前の第1酸化物膜11の透過率のチャートも描かれている。また、1.11(3回目)についてのみ、上述の相違点に加え、第1の実施形態におけるエキシマレーザーの照射回数が5万回に設定された。

【0072】
【表1】
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【0073】
上述の第1又は第2の各実施形態では、最終目的物となる酸化物膜を形成するための原料となる酸化物焼結体の製造の際、ある特定の比率で原料(例えば、CuOとNb)が混合されているが、表1及び図14に示すように、その比率はそれらの実施形態のそれらに限定されないことが分かる。すなわち、第1酸化物膜11を300℃で加熱処理して形成した第2酸化物膜については、銅(Cu)の原子数を1とした場合にニオブ(Nb)の原子数が1又は1.1の場合、透過率とp型の導電率とが共に顕著に高められることが分かる。特に、銅(Cu)の原子数を1とした場合にニオブ(Nb)の原子数が1.5とした結果、及び銅(Cu)の原子数を1とした場合にニオブ(Nb)の原子数が1.1とした2回目及び3回目の結果は、際立って優れた導電率の高さを示している。また、前述の比率以外の場合であっても、銅(Cu)の原子数を1とした場合にニオブ(Nb)の原子数が0.66又は0.25においては、高いp型の導電率(少なくとも1S/cm、さらに範囲を絞るのであれば、5S/cm以上)が得られることが明らかとなった。なお、表1における「透過率」は、波長400nm以上800nm以下の範囲における平均の透過率として得られる値として記載されている。

【0074】
なお、発明者らの追加的な調査によれば、上述の酸化物焼結体における原料の比率について、銅(Cu)の原子数を1とした場合にニオブ(Nb)の原子数が0.25以上4以下であれば、上述の表1の少なくとも1部に示す特性に準じる特性を備えた酸化物膜を製造することができる。この知見は、銅(Cu)に対するタンタル(Ta)の原子数比についても当てはまる。同様に、発明者らの追加的な調査によれば、電気的な特性を高める観点から、ターゲット30における銅(Cu)とニオブ(Nb)の化学量論比の好ましい範囲は、銅(Cu)の原子数を1とした場合にニオブ(Nb)の原子数が0.66以上1.5以下である。また、透過率及び電気的な特性を高める観点から、より好ましい前述の範囲は、銅(Cu)の原子数を1とした場合にニオブ(Nb)の原子数が0.66以上1.25以下である。また、前述の2つの観点からさらに好ましい前述の範囲は、銅(Cu)の原子数を1とした場合にニオブ(Nb)の原子数が0.66以上1.11以下である。加えて、その最も好ましい範囲は、銅(Cu)の原子数を1とした場合にニオブ(Nb)の原子数が1以上1.11以下である。

【0075】
<第3の実施形態>
本実施形態では、最終目的物となる酸化物膜の製造に先立ち、その酸化物膜を形成するための原料となる酸化物焼結体の製造が行われた。まず、1価の銅(Cu)の酸化物である酸化銅(CuO)と、5価のタンタル(Ta)の酸化物である(Ta)とが物理的に混合された。本実施形態では、上述のライカイ機を用いて混合された。また、上述の2種類の酸化物は、化学量論比においてCuが1に対して、Taがほぼ1となるように混合された。それ以外は、第1の実施形態の各プロセスと同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。なお、本実施形態の酸化銅(CuO)については、株式会社高純度化学研究所社製の公称純度が99.9%のものが採用された。また、本実施形態のTaについては、株式会社高純度化学研究所社製の公称純度が99.9%のものが採用された。

【0076】
その後、第1の実施形態と同様に、錠剤成形機による圧縮成形工程、及び焼成工程を経て酸化物焼結体が製造される。本実施形態の酸化物焼結体の相対密度は約88%である。また、その酸化物焼結体のXRD分析の結果、上述の酸化物焼結体がCuTaOの結晶構造を有していることが分かった。

【0077】
その後、第1の実施形態と同様に、図1に示すパルスレーザー蒸着装置20を用いて第1酸化物膜が基板10上に製造される。また、上述のCuTaOの結晶構造を有する酸化物焼結体がターゲット30として採用された。

【0078】
また、本実施形態では、ステージ27内部の図示しないヒーターの温度が20℃乃至25℃(所謂、室温)に設定された。加えて、酸素(O)がチャンバー21内に供給された後、チャンバー21内の酸素の平衡圧力が0.13Paとなるように真空ポンプ29による排気が調整された。その後、第1の実施形態と同様に、パルス状のフッ化クリプトン(KrF)エキシマレーザー(波長248nm)22により、図2Aに示すように、基板10上に第1酸化物膜11が形成される。

【0079】
さらに、酸化物膜11の形成後、第1の実施形態と同様に、窒素(N)ガスが供給されることにより酸素濃度が1%未満の雰囲気となっているチャンバー内において、基板10上の第1酸化物膜11が、300℃の条件下で2時間加熱処理(アニール処理)された。その結果、図2Bに示すように、基板10上に第2酸化物膜12が得られた。

【0080】
発明者らは、本実施形態において得られた第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の表面を原子間力顕微鏡により観察した。その結果、第1酸化物膜11は、非常に平坦な膜であった。一方、第2酸化物膜12については、粒状と思われる模様が幾つか視認された。また、レーザー顕微鏡を用いて第2酸化物膜12の膜厚を測定した結果、その膜厚は、約280nmであった。

【0081】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の結晶状態をXRD(X線回折)により分析した。その結果、図15に示すように、第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、いずれも2θが20°乃至30°において、アモルファスに由来すると考えられるハローピーク以外のピークは観察されなかった。さらに、本実施形態とは別に、第1酸化物膜11が、500℃の条件下で2時間加熱処理された場合も、アモルファスに由来すると考えられるハローピーク以外のピークは観察されなかった。従って、上述のXRD分析の結果を踏まえると、本実施形態の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、いずれもXRD分析では明確な回折ピークを示さない微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。

【0082】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の電気特性及び導電率を分析した結果、本実施形態の第1酸化物膜11はp型の導電性を有するとともに、その導電率は、約2.40S/cmであった。しかしながら、本実施形態の第2酸化物膜12については、p型の導電性を有しているが、その導電率は、約0.0086S/cmであった。従って、本実施形態の場合は、上述の加熱処理によって導電性が低下するという現象が確認された。

【0083】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の可視光透過率を分析した。その結果、第1酸化物膜11の400nm以上800nm以下の波長の光線の透過率は、30%以下であるが、第2酸化物膜12については、その範囲の透過率は向上した。他方、本実施形態とは別に、第1酸化物膜11が、500℃の条件下で2時間加熱処理された結果、少なくとも500nm以上800nm以下の波長の光線の透過率が60%以上にまで向上した。特に、約550nm以上800nm以下の波長の光線の透過率は、70%以上であった。従って、本実施形態の場合も、上述の加熱処理によって透過率が向上することが確認された。

【0084】
<第4の実施形態>
本実施形態では、第3の実施形態の第1酸化物膜11を形成するための酸化物焼結体の出発材としての、1価の銅の酸化物である酸化銅と5価のタンタルの酸化物とが、化学量論比においてCuが1に対して、Taがほぼ3となるように混合された。それ以外は、第1の実施形態の各プロセスと同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。

【0085】
その後、第1の実施形態と同様に、錠剤成形機による圧縮成形工程、及び焼成工程を経て酸化物焼結体が製造される。本実施形態の酸化物焼結体の相対密度は約55%である。また、その酸化物焼結体は、現段階で未知の複合酸化物とTaとの混晶であると考えられる。

【0086】
その後、第1の実施形態と同様に、図1に示すパルスレーザー蒸着装置20を用いて第1酸化物膜が基板10上に製造される。また、上述の結晶構造を有するCuTaの酸化物焼結体がターゲット30として採用された。

【0087】
また、本実施形態では、ステージ27内部の図示しないヒーターの温度が20℃乃至25℃(所謂、室温)に設定された。加えて、酸素(O)がチャンバー21内に供給された後、チャンバー21内の酸素の平衡圧力が0.13Paとなるように真空ポンプ29による排気が調整された。その後、第1の実施形態と同様に、パルス状のフッ化クリプトン(KrF)エキシマレーザー(波長248nm)22により、図2Aに示すように、基板10上に第1酸化物膜11が形成される。ここで、レーザー顕微鏡を用いて観察した結果、第1酸化物膜11は、平坦な膜であった。

【0088】
さらに、酸化物膜11の形成後、第1の実施形態と同様に、窒素(N)ガスが供給されることにより酸素濃度が1%未満の雰囲気となっているチャンバー内において、基板10上の第1酸化物膜11が、300℃の条件下で2時間加熱処理(アニール処理)された。その結果、図2Bに示すように、基板10上に第2酸化物膜12が得られた。

【0089】
また、レーザー顕微鏡を用いて第2酸化物膜12の膜厚が測定された結果、その膜厚は、約190nmであった。

【0090】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の結晶状態をXRD(X線回折)により分析した。その結果、図16に示すように、第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、いずれも2θが20°乃至30°において、アモルファスに由来すると考えられるハローピーク以外のピークは観察されなかった。さらに、本実施形態とは別に、第1酸化物膜11が、500℃の条件下で2時間加熱処理された場合も、アモルファスに由来すると考えられるハローピーク以外のピークは観察されなかった。従って、このXRD分析の結果を踏まえると、本実施形態の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、いずれもXRD分析では明確な回折ピークを示さない微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。

【0091】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の可視光透過率を分析した。その結果、本実施形態の場合も、上述の加熱処理によって透過率が向上することが確認された。

【0092】
なお、上述の各実施形態では、パルスレーザー蒸着装置20を用いて第1酸化物膜11が製造されているが、第1酸化物膜11の製造方法はこれに限定されない。例えば、RFスパッタ法、マグネトロンスパッタ法に代表される物理的気相成長法(PVD法)が適用され得る。

【0093】
例えば、RFスパッタ法を用いた場合は以下の結果が得られている。

【0094】
<その他の実施形態>
公知の構造を備える高周波スパッタリング装置(RFスパッタリング装置)(エイコーエンジニアリング社製)を用いて第1酸化物膜11が形成された。このとき、高周波電力が90Wに設定された。また、ターゲット30に対するスパッタリングガスは、アルゴン(Ar)が95に対して酸素(O)が5の割合で混合された混合ガスであり、成膜中の圧力は5.0Paであった。また、第1酸化物膜11が形成された基板はホウケイ酸ガラス基板であり、その基板が載置されたステージの温度は室温(20℃~25℃)であった。但し、スパッタリング法による成膜工程中に、特に基板の表面温度が上昇(おそらく、100℃以下と考えられる)してしまうことは避けられない。また、ターゲットから基板までの距離は、150mmであった。なお、この実施形態で用いられたターゲットは、銅(Cu)の原子数を3とした場合にニオブ(Nb)の原子数が1となる以外は第1の実施形態と同じターゲッ30であった。これらの条件下において、60分間の成膜処理が行われた。

【0095】
図17は、上述のRFスパッタ法により得られた第1酸化物膜11の主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。図17に示すように、第1酸化物膜11の透過率は、波長が約600nm以上の可視光領域において80%以上の透過率が得られることが明らかとなった。また、波長が約400nm以上600nm以下の領域であっても、透過率は60%以上の高い値が得られた。さらに、この第1酸化物膜11について電気的な特性が測定された結果、p型であるとともに、導電率が0.106S/cmとなることが分かった。また、抵抗率が94.3Ωcmであったことから、この第1酸化物膜が比較的に抵抗の低い膜であることも明らかとなった。なお、この第1酸化物膜11のキャリア濃度は1.91×1017(1/cm)であり、その移動度は、0.348(cm/Vs)であった。

【0096】
さらに、発明者らは、上述の第1酸化物膜11の結晶状態をXRD(X線回折)により分析した。その結果、図18に示すように、第1酸化物膜11は、いずれも2θが20°乃至30°において、アモルファスに由来すると考えられる広範なハローピーク以外のピークは明確に観察されなかった。

【0097】
ところで、上述の第1の実施形態では、第2酸化物膜12に含まれる銅(Cu)に対するニオブ(Nb)の原子数比が、その銅(Cu)の原子数を1とした場合にそのニオブ(Nb)の原子数が1であったが、その数値に限定されない。例えば、第2酸化物膜12に含まれる銅(Cu)に対するニオブ(Nb)の原子数比が、その銅(Cu)の原子数を1とした場合にそのニオブ(Nb)の原子数が0.5以上4以下であれば、第1の実施形態と同様の効果が奏され得る。特に、この原子数比の範囲の第2酸化物膜は、500nm以上800nm以下の波長の可視光透過率が高くなる(例えば、60%以上となる)。なお、前述の原子数比の範囲の第2酸化物膜は、XRD分析では明確な回折ピークを示さない微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられるが、電子線回折分析によれば、微結晶の存在が確認されている。従って、その測定方法によって第2酸化物膜の状態が、少なくとも見かけ上、異なる結果となる点は興味深い。

【0098】
また、上述の各実施形態では、第1酸化物膜11又は第2酸化物膜12を製造するためのターゲット30として、酸化物焼結体が酸化物から製造されているが、水酸化物(例えば、水酸化銅)や、硝酸塩(例えば、硝酸銅)や、炭酸塩や、シュウ酸塩から酸化物焼結体が製造されてもよい。

【0099】
以上、述べたとおり、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、p型の導電性を有する酸化物膜、あるいはp型の導電性を有する透明導電膜として広範に利用され得る。
【符号の説明】
【0101】
10 基板
11 第1酸化物膜
12 第2酸化物膜
20 パルスレーザー蒸着装置
21 チャンバー
22 エキシマレーザー
23 レンズ
24 ホルダー
25a 酸素ガスボンベ
25b 窒素ガスボンベ
26 導入口
27 ステージ
28 排気口
29 真空ポンプ
30 ターゲット
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図11A】
5
【図11B】
6
【図12】
7
【図13】
8
【図14】
9
【図15】
10
【図16】
11
【図17】
12
【図18】
13
【図3】
14
【図4】
15
【図7A】
16
【図7B】
17
【図7C】
18
【図8A】
19
【図8B】
20
【図8C】
21
【図8D】
22
【図8E】
23
【図8F】
24
【図9A】
25
【図9B】
26
【図9C】
27
【図9D】
28
【図9E】
29
【図9F】
30
【図9G】
31
【図10A】
32
【図10B】
33
【図10C】
34
【図10D】
35
【図10E】
36
【図10F】
37