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明細書 :ダイナミックモードAFM装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4913242号 (P4913242)
登録日 平成24年1月27日(2012.1.27)
発行日 平成24年4月11日(2012.4.11)
発明の名称または考案の名称 ダイナミックモードAFM装置
国際特許分類 G01Q  60/32        (2010.01)
FI G01Q 60/32
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2010-511923 (P2010-511923)
出願日 平成21年4月8日(2009.4.8)
国際出願番号 PCT/JP2009/057158
国際公開番号 WO2009/139238
国際公開日 平成21年11月19日(2009.11.19)
優先権出願番号 2008124891
優先日 平成20年5月12日(2008.5.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年12月8日(2010.12.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】川勝 英樹
【氏名】小林 大
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】渡▲辺▼ 純也
参考文献・文献 特開2000-28624(JP,A)
特開2002-206999(JP,A)
国際公開第2008/015916(WO,A1)
国際公開第2008/087852(WO,A1)
調査した分野 G01Q 10/00 ~ 90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)カンチレバーと試料を相対的に3次元走査するスキャナと、
(b)前記カンチレバーの撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段と、
(c)前記共振周波数で前記カンチレバーに撓み振動を励起する手段と、
(d)前記撓み振動の周波数よりも低い第2の周波数の交流信号を発生する手段と、
(e)前記第2の周波数で前記カンチレバーの探針-試料間距離を変調する手段と、
(f)前記共振周波数の変動を検出する手段と、
(g)前記カンチレバーの振動を検出する手段と、
(h)前記共振周波数の変動を検出する手段の検出信号に含まれる前記探針-試料間距離の変調信号に同期した変動成分を検出する手段を備え、
(i)前記変動成分の強度と極性から前記共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きを求めることを特徴とするダイナミックモードAFM装置。
【請求項2】
請求項1記載のダイナミックモードAFM装置において、前記共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きがゼロになるように前記探針-試料間距離を自動制御することを特徴とするダイナミックモードAFM装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のダイナミックモードAFM装置において、前記第2の周波数として前記撓み振動のあるモードとは別の、より低い次数の撓み振動モードの周波数を使用することを特徴とするダイナミックモードAFM装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のダイナミックモードAFM装置において、前記カンチレバーの撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段として、そのモードの共振周波数で発振する自励発振回路を構成し、かつ、前記共振周波数の変動を検出する手段として周波数検波を使用することを特徴とするダイナミックモードAFM装置。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載のダイナミックモードAFM装置において、前記カンチレバーの撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段として、そのモードの共振周波数で発振する自励発振回路を構成し、かつ前記共振周波数の変動を検出する手段として位相検波を使用することを特徴とするダイナミックモードAFM装置。
【請求項6】
請求項1、2又は3記載のダイナミックモードAFM装置において、前記カンチレバーの撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段として、そのモードの共振周波数付近の一定周波数または制御によりそのモードの共振周波数を緩慢に追尾する周波数の交流信号を発生する信号源を用い、かつ、その信号に対するカンチレバーの変位または速度の位相を検出することをもって前記共振周波数の変動を検出する手段とすることを特徴とするダイナミックモードAFM装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックモードAFM装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
まず、AFM(原子間力顕微鏡)について説明する。
【0003】
コンタクトモードAFMは、探針の付いたカンチレバーを試料表面に近づけたときに探針と試料の間に働く力(通常は斥力)をカンチレバーの撓みから検出し、この検出した力が一定になるように、探針-試料間の距離を制御しつつ、探針を試料に対して2次元に走査することによって、試料表面の「等力面」を画像化するものである。このコンタクトモードAFMは、探針-試料間に働く力が強いので試料に対するダメージが大きく、また原子分解能は達成し難い。
【0004】
それに対して、ダイナミックモードAFMは探針のついたカンチレバーを試料表面に近づけ、探針と試料の間に働く力の探針-試料間距離による微分値(力勾配)によってカンチレバーの共振周波数が変化するのを検出し、その共振周波数変化が一定値になるように探針-試料間の距離を制御しつつ、探針を試料に対して2次元に走査することによって、試料表面の「等力勾配面」を画像化するものである。
【0005】
そこで、従来のダイナミックモードAFM装置の試料とカンチレバー付近の構成の一例を、図1に示す。
【0006】
図1において、201は試料、202はカンチレバー、202Aはカンチレバー202の探針、202Bはカンチレバーの基部、203はXYZスキャナ、204はカンチレバー励振手段、205はカンチレバー202の背面にレーザー光線206を照射してカンチレバー202の位置を検出する光位置検出器(光てこによる検出器)、207はカンチレバーの撓み振動状態を示している。
【0007】
この図1は、以後の説明の中でXYZという座標を使ったので、その方向を示している。なお、ここでは、試料201がXYZスキャナ203上に載っている例を示しているが、カンチレバー202側をXYZスキャナ203に取り付けたり、試料201をXYスキャナに、カンチレバー202をZスキャナに取り付けるといった変形例もある。また、カンチレバー励振手段204としてピエゾ素子のようなものを描いたが、光熱励振法や電磁界を利用することも可能である。また、カンチレバー202の撓みを光てこで検出するため光位置検出器205を用いているが、レーザードップラー振動計で速度検出したり、光ファイバー干渉計で変位検出したりすることも可能である。
【0008】
図2は探針-試料間距離とカンチレバーに作用する力および力勾配の関係の一例を示す図、図3は探針-試料間距離とカンチレバーの共振周波数の関係の一例を示す図である。そもそもカンチレバーの共振周波数が力勾配によって変化する原因は、距離に依存して変化する力がバネと等価なため、カンチレバーが元々持っているバネにその等価的なバネが付け加わるためである。ただし等価的なバネは力勾配の極性が正の時には負のバネ定数を持つことになる。負のバネ定数が加わると共振周波数は低下する。
【0009】
共振周波数の変化を検出するには、(1)カンチレバー自体を機械共振器に使った自励発振回路を構成し、その発振周波数の変化から検出する方法と、(2)共振周波数付近の一定の周波数でカンチレバーを強制振動させ、振動させるために使った信号と、検出された振動の位相差から共振周波数の変化を検出する方法がある。上記(1)をFM(周波数変調)法、(2)をPM(位相変調)法とそれぞれ呼ぶことにするとき、第3の方法として、(3)強制振動を使うものの、検出された位相差を利用して強制振動させる周波数が共振周波数を追従するように制御する方法がある。この方法をトラッキング他励法と呼ぶことにする。
【0010】
いずれの方法によるにしても、周波数軸に載っている情報は観測する帯域を狭めることによって高い感度で検出できるため、ダイナミックモードAFMはコンタクトモードAFMよりも探針-試料間の力が弱い領域で観察でき、その結果、試料に対するダメージが少なく原子分解能も達成しやすい。
【0011】
上記したように、ダイナミックモードAFMは「等力勾配面」をトレースする。一般には「等力勾配面」は「等高面」に近似していると考えられるが、図2の力勾配のグラフは原子種によって異なるため、「等力勾配面」が真の「等高面」と等しくなるのは試料が単一の原子で構成されており、しかも探針先端が原子の真上に位置しているか原子と原子の中間に位置しているかにかかわらず、図2の力勾配のグラフが変化しない場合だけである。そのため、複数の種類の原子で構成される試料では「等力勾配面」は真の「等高面」ではない上に、試料の構成元素や結晶構造についてある程度の予備情報がないと観察された原子種が何であるかを推定することができない。
【0012】
しかし、図3のグラフの極小点(共振周波数が最も低下する点Bすなわち図2に示す力勾配が最大の点)の位置は原子によって異なるため、この位置を求めることによって原子種の判別が可能であるという論文(下記非特許文献1参照)が発表された。
【0013】
この方法によれば、従来通りのダイナミックモードAFMによって観察した試料の凹凸像(「等力勾配面」の3次元グラフィック表示)を極小点位置から求めた原子種によって色付けし、あたかも原子種ごとの異なる色がついているように表示することが可能になる。

【非特許文献1】Yoshiaki Sugimoto et al.,“Chemical identification of individual surface atoms by atomic force microscopy”,Nature,Vol.446,2007,pp.64-67
【発明の開示】
【0014】
しかしながら、上記非特許文献1の方法によれば、探針を試料の原子上でドリフトなく位置決めし、フォースカーブの平均化を数100回行う必要があった。つまり、図3のグラフを各原子について取得し、それらの極小点の位置を人手で求め、各原子の色を決定するという工程が必要になる。この工程は、従来のダイナミックAFM並みのリアルタイムでの撮像に比べると、大変時間を要することになる。
【0015】
本発明は、上記状況に鑑みて、探針-試料間距離を自動的に求めることができる自動制御系を構成し、高速に試料表面の原子を同定することができるダイナミックモードAFM装置を提供することを目的とする。
【0016】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕ダイナミックモードAFM装置において、カンチレバーと試料を相対的に3次元走査するスキャナと、前記カンチレバーの撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段と、前記共振周波数で前記カンチレバーに撓み振動を励起する手段と、前記撓み振動の周波数よりも低い第2の周波数の交流信号を発生する手段と、前記第2の周波数で前記カンチレバーの探針-試料間距離を変調する手段と、前記共振周波数の変動を検出する手段と、前記カンチレバーの振動を検出する手段と、前記共振周波数の変動を検出する手段の検出信号に含まれる前記探針-試料間距離の変調信号に同期した変動成分を検出する手段を備え、前記変動成分の強度と極性から前記共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きを求めることを特徴とする。
【0017】
〔2〕上記〔1〕記載のダイナミックモードAFM装置において、前記共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きがゼロになるように前記探針-試料間距離を自動制御することを特徴とする。
【0018】
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載のダイナミックモードAFM装置において、前記第2の周波数として前記撓み振動のあるモードとは別の、より低い次数の撓み振動モードの周波数を使用することを特徴とする。
【0019】
〔4〕上記〔1〕、〔2〕又は〔3〕記載のダイナミックモードAFM装置において、前記カンチレバーの撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段として、そのモードの共振周波数で発振する自励発振回路を構成し、かつ、前記共振周波数の変動を検出する手段として周波数検波を使用することを特徴とする。
【0020】
〔5〕上記〔1〕、〔2〕又は〔3〕記載のダイナミックモードAFM装置において、前記カンチレバーの撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段として、そのモードの共振周波数で発振する自励発振回路を構成し、かつ前記共振周波数の変動を検出する手段として位相検波を使用することを特徴とする。
【0021】
〔6〕上記〔1〕、〔2〕又は〔3〕記載のダイナミックモードAFM装置において、前記カンチレバーの撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段として、そのモードの共振周波数付近の一定周波数または制御によりそのモードの共振周波数を緩慢に追尾する周波数の交流信号を発生する信号源を用い、かつ、その信号に対するカンチレバーの変位または速度の位相を検出することをもって前記共振周波数の変動を検出する手段とすることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来のダイナミックモードAFM装置の試料とカンチレバー付近の構成の一例を示す図である。
【図2】探針-試料間距離とカンチレバーに作用する力および力勾配の関係の一例を示す図である。
【図3】探針-試料間距離とカンチレバーの共振周波数の関係の一例を示す図である。
【図4】本発明の基本的なダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【図5】本発明のダイナミックモードAFM装置の共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きが正の場合(C)、負の場合(A)または零の場合(B)の各位置におけるディザ信号と共振周波数変化の波形図である。
【図6】本発明の第1実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【図7】本発明のダイナミックモードAFM装置における探針-試料間距離の時間変化を示す図である。
【図8】本発明の第2実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【図9】本発明のダイナミックモードAFM装置の共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きが正の場合(C)、負の場合(A)または零の場合(B)の各位置における振動の波形と共振周波数の傾きを表す信号の波形図である。
【図10】本発明の第3実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【図11】本発明の第4実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【図12】本発明の第5実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【図13】本発明の第6実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【図14】本発明のダイナミックモードAFM装置の探針-試料間距離と共振周波数の関係を示す図である。
【図15】本発明のダイナミックモードAFM装置の探針-試料間距離と位相の関係を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
ダイナミックモードAFM装置において、カンチレバーと試料を相対的に3次元走査するスキャナと、前記カンチレバーの撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段と、前記共振周波数で前記カンチレバーに撓み振動を励起する手段と、前記撓み振動の周波数よりも低い第2の周波数の交流信号を発生する手段と、前記第2の周波数で前記カンチレバーの探針-試料間距離を変調する手段と、前記共振周波数の変動を検出する手段と、前記カンチレバーの振動を検出する手段と、前記共振周波数の変動を検出する手段の検出信号に含まれる前記探針-試料間距離の変調信号に同期した変動成分を検出する手段を備え、前記変動成分の強度と極性から前記共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きを求める。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
図4は本発明の基本的なダイナミックモードAFM装置のブロック図である。 この図において、1は試料、2はカンチレバー、2Aはカンチレバー2の探針、2Bはカンチレバー2の基部、3はカンチレバー2と試料1を相対的に3次元走査できるスキャナ、4はカンチレバー2の振動検出器であり、ここでは振動を検出するようにしているが、検出するのは速度や変位でもよく、また、光てこ機構、レーザードップラー計などを用いてもよい。5は共振周波数の変動を検出する手段、6は共振周波数の変動を検出する手段5の検出信号に含まれるカンチレバー2の探針2A-試料1間距離の変調信号に同期した変動成分を検出する手段であり、共振周波数のカンチレバー2の探針2A-試料1間距離に対する傾き信号7を得ることができる。8はカンチレバー2の撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段、9はこの手段8からの信号を受けてカンチレバー2に撓み振動を励起する手段、10は第2の周波数の交流信号を発生する手段、11は第2の周波数の交流信号を発生する手段10に接続され、第2の周波数でカンチレバー2の探針2A-試料1間距離を変調する手段であり、第2の周波数の交流信号を発生する手段10からの出力信号は、最終的には変調信号に同期した変動成分を検出する手段6に入力される。
【0026】
なお、図4においては、ダイナミックモードAFMとして必要なコンピュータやスキャナ3のZ軸の制御回路などは省略している。
【0027】
また、カンチレバー2の撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段8としては、一定周波数の信号源や、カンチレバー2の共振周波数を緩慢に追尾する信号源や、カンチレバー2を機械共振器として使用した自励発振回路などを用いることができる。
【0028】
また、カンチレバー2に撓み振動を励起する手段9としては、ピエゾアクチュエータ、光熱励振、磁気励振、電界励振などを用いることができる。
【0029】
また、第2の周波数としては、カンチレバーの共振周波数と無関係な周波数を用いる場合と、上記撓み振動のモードより低い別の撓み振動のモードの周波数を用いる場合がある。
【0030】
また、第2の周波数で探針-試料間距離を変調する手段11としては、スキャナ3を使用する場合や、カンチレバー2に撓み振動を励起する手段9を用いる場合や、第2の周波数専用の手段(ピエゾアクチュエータ、光熱励振、磁気励振、電界励振など)を使用する場合がある。
【0031】
また、共振周波数の変動を検出する手段5としてはFM検波、PM検波などがあるが、カンチレバー2の撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する手段8との組み合わせによって成立する場合と成立しない場合がある。
【0032】
変調信号に同期した変動成分を検出する手段6としては、乗算器とローパスフィルタ、ロックインアンプ、デジタル回路による位相比較器などがある。また、アナログ回路で構成する場合もあるし、デジタル信号処理による場合もある。
【0033】
本発明の基本的な原理を説明する。
【0034】
図5は本発明のダイナミックモードAFM装置の共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きが正の場合(C)、負の場合(A)または零の場合(B)の各位置におけるディザ信号z(t)と共振周波数変化f(t)の波形図である。
【0035】
従来技術の説明で述べたFM法、PM法またはトラッキング他励法等を使って、カンチレバーの共振周波数を知るための撓み振動とは別に、もっと低い第2の周波数のディザ信号で探針-試料間距離を微小に変化させる。探針-試料間距離は、上記の撓み振動による変化とディザ信号による変化の両方を同時に受けることになる。そして、ディザ信号による探針-試料間距離変化に伴い、撓み振動から検出される共振周波数も変動するが、その変化のディザ信号と同一周波数成分の極性と振幅から、図5に示すグラフの傾きを知ることができる。
【0036】
ここで、図5に示すグラフの傾きを知ることの意義について説明する。
【0037】
従来のダイナミックモードAFM装置の制御系は、共振周波数の傾きが正または負のどちらか一方で安定するように作られるので、極小点付近では制御の極性が反転する危険があって使用できない。一方、液体中の試料や水又は溶媒の蒸気にさらされている試料では、水や溶媒が試料表面に層を成しているため、力の勾配が、図2に示したように単純でなく、正負を繰り返す場合がある。このような場合、例えば試料に近い方から2回目の正の傾きの領域を観察したいというような時に、従来のダイナミックモードAFMでは確実にその点に到達する手段がない。そこで、本発明のような方法を用いて傾きを検出し、正負いずれの傾きの場合でも制御が安定化するように制御系の極性を変化させることによって上述した従来困難であった課題を解決できることになる。
【0038】
共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きをリアルタイムに出力するには、ディザ信号と共振周波数検出手段から出てくる信号〔図5におけるz(t)とf(t)の波形〕を乗算してローパスフィルタに通せば良い。
【0039】
更に、このようして得た傾きを示す信号が常にゼロになるようにXYZスキャナ3のZ軸に制御をかけながらXYスキャンすれば、得られる像は「最小共振周波数面」を表すので、その深さによって原子種が同定できる。この方法によれば、従来のダイナミックモードAFMよりは遅いかもしれないが、相当高速に原子種が同定できるAFM装置が実現できる。
【0040】
以下、これについて説明する。
【0041】
図6は本発明の第1実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【0042】
この第1実施例では、図4に示したシステムの変調信号に同期した変動成分を検出する手段6に制御器21を付け加えて、この制御器21によりZ軸制御信号22を出力し、共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きがゼロになるように、カンチレバー2と試料1を相対的に3次元走査できるスキャナ3のZ軸を制御する。なお、図6においても、ダイナミックモードAFM装置として必要なコンピュータは省略されている。
【0043】
図7は本発明のダイナミックAFM装置における探針-試料間距離の時間変化を示す図である。
【0044】
ここでは、撓み振動のあるモードの周波数として2次の撓み振動モードの周波数を、第2の周波数として1次の撓み振動モードの周波数を使用した場合の探針-試料間距離の時間変化を示している。少なくとも2次の振動は自励振動によって発生させた場合を例として示している。
【0045】
図7(a)は、1次と2次の撓み振動モードの周波数をカンチレバーに同時に励起した場合の探針-試料間距離の時間変化を、図7(b)は、図7(a)の1次の撓み振動モード成分と1次の撓みモード形状を、図7(c)は、図7(a)の2次の撓みモード振動成分と2次の撓みモード形状を示している。
【0046】
ここで、図7(c)の2次の振動モードの振動周波数が時間変化しているのは、図7(b)に示した1次の振動モード成分によって距離が変調されるためである。
【0047】
図8は本発明の第2実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図、図9は本発明のダイナミックモードAFM装置の共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きが正の場合(C)、負の場合(A)または零の場合(B)の各位置における振動の波形と共振周波数の傾きを表す信号の波形図である。
【0048】
図8において、101は試料、102はカンチレバー、102Aはカンチレバー102の探針、102Bはカンチレバー102の基部、103はカンチレバー102と試料101を相対的に3次元走査できるスキャナ、104はカンチレバー102の振動検出器であり、ここでは振動を検出するようにしているが、検出するのは速度や変位でもよく、また、光てこ機構、レーザードップラー計などを用いてもよい。105はカンチレバー102の撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する自励発振回路であり、この自励発振回路105はBPF(バンドパスフィルタ)105Aと波形整形回路105Bからなる。この自励発振回路105は、カンチレバー102に撓み振動を励起する手段106に接続され、そのカンチレバー102に撓み振動を励起する手段106からの出力は、カンチレバー102に付与される。この自励発振回路105は第1の位相比較器107にも接続される。この第1の位相比較器107はループフィルタ108に接続され、そのループフィルタ108の出力はVCO(電圧制御発振器)109を介して第1の位相比較器107へ入力される。つまり、FM検波用PLLとして機能する。110はXY走査信号発生装置である。
【0049】
また、第2の周波数発生手段111が設けられており、この第2の周波数発生手段111の出力信号は第2の周波数でカンチレバー102の探針102A-試料101間距離を変調する手段112に入力され、この第2の周波数でカンチレバー102の探針102A-試料101間距離を変調する手段112の出力はカンチレバー102に付与される。
【0050】
更に、第2の周波数発生手段111の出力信号は、ループフィルタ108の出力信号とともに第2の位相比較器113に入力されて位相差が検出される。この第2の位相比較器113の出力信号がLPF(ローパスフィルタ)114に入力される。このLPF114の出力信号は制御器115に入力されて、この制御器115の出力信号はZ軸制御信号116としてスキャナ103のZ軸の制御を行う。なお、図8において、ループフィルタ108の出力を117、第2の周波数成分を118、第2の位相比較器113の出力119としてそれぞれ表している。
【0051】
ここで、出力信号の例を示すと、探針-試料間距離(z)に対する共振周波数(fr)の3点A,B,Cでは、図9に示すようになる。ここで、a線は振動検出器104の出力信号である振動の波形、b線はLPF114の出力である「共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きを示す信号」である。
【0052】
制御器115はスキャナ103のZ軸を制御することで図9のBの状態になるように探針-試料間距離を調節する。したがって、制御器115による制御が成立している状態ではループフィルタ108の出力117は共振周波数の最小値を示している。XY走査信号発生装置110はスキャナ103のXY軸に走査信号を与え、また各XY座標におけるループフィルタ108の出力値を記録し画像化することにより、共振周波数の最小値のXY分布の画像を表示する。この画像は、前記非特許文献1が示すように原子種の分布を表す。
【0053】
また、第2実施例では、第2の周波数として撓み振動のあるモードの周波数とは別の、より低い次数の撓み振動モードの周波数を使用するようにしている。
【0054】
FM検波方式には、遅延検波、直交検波、PLLなど種々の方式があるが、ここではPLL検波の例を示している。ここでは制御器115からのZ軸制御信号116によるZ軸制御によって共振周波数の極小値を維持する制御ループがある。
【0055】
このように構成することにより、カンチレバー102の振動モードを利用することで、振幅の増幅効果によって効率よく振動させることができる。
【0056】
図10は本発明の第3実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【0057】
この第3実施例では、第2の周波数の発生手段にもBPF111Aと波形整形回路111Bからなる自励発振回路111′を使うようにしている。なお、検波回路の方式との組み合わせも考えると、非常に多くのバリエーションが考えられるがその一例を示している。
【0058】
図11は本発明の第4実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【0059】
この第4実施例では、第1の位相比較器107の出力であるPM検波出力120を第2の位相比較器113に入力するようにしている。
【0060】
この第4実施例は、PLLによるPM検波を用いる例である。FM信号は本質的にPM信号でもある。特にPLL検波はFM変調の周波数があまり高いと検波できない。このような場合、PLLの位相比較器107の出力に含まれるPM検波信号を、FM検波信号の代わりに使うことができる。
【0061】
例えば、カンチレバーの撓み振動のあるモードの共振周波数の交流信号を発生する自励発振回路105の周波数をカンチレバー102の撓みの2次モード周波数、撓み振動の周波数よりも低い第2の周波数の交流信号を発生する第2の周波数発生手段111の周波数をカンチレバー102の撓みの1次モード周波数とした場合、検波すべきFM信号の変調周波数は、キャリア周波数の1/6から1/7程度になり、PLLによるFM検波は難しくなる。
【0062】
なお、低速FM検波出力117′は共振周波数の極小点の周波数が出力される。
【0063】
図12は本発明の第5実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【0064】
この第5実施例では、図11における第2の周波数発生手段111による「第2の周波数」もBPF111Aと波形整形回路111Bからなる自励発振回路111′で発生させるように構成している。この実施例は、第4実施例に示したように、カンチレバー102の2つのモードを利用する場合の具体的な構成を示している。
【0065】
図13は本発明の第6実施例を示すダイナミックモードAFM装置のブロック図である。
【0066】
この図において、カンチレバー102の振動検出器104からの出力は、第3の位相比較器122とループフィルタ123とVCO124からなる交流信号発生源121において、共振周波数に緩慢に追従するように制御される。ここで、緩慢にとは、第2の周波数発生手段111からの第2の周波数による距離の変調によって共振周波数が変動するが、その変動には反応しない程度に遅いという意味である。
【0067】
この第6実施例ではZ軸制御が行われるが、図4に示すように、Z軸制御が無いようにする場合もある。
【0068】
図14は本発明のダイナミックモードAFM装置の探針-試料間距離と共振周波数の関係を示す図、図15は本発明のダイナミックモードAFM装置の探針-試料間距離と位相の関係を示す図である。
【0069】
上記第6実施例では、位相を使って共振周波数の変化が検出できるようにしている。カンチレバーを固定周波数(図14の周波数1~3)で駆動したとき、励振するための力入力から速度出力までの位相が図15に示されている。このように、探針-試料間距離が変わると位相が変化する。位相のグラフは共振周波数のグラフよりもゆがんでいるが、傾きの方向は一致している。また、共振周波数が極小になる距離において、位相も極小になるので、位相を使って共振周波数の変動を検出することができる。
【0070】
ただし、共振周波数と駆動周波数があまり離れるとカンチレバーの振幅が小さくなってSN比が悪化してくるため、共振周波数に緩慢に追従するように制御をかける方が良好である。
【0071】
位相を使う利点はカンチレバーのQ値が低い場合にある。水中ではカンチレバーの機械的Q値は10とかそれ以下に下がることもあり、自励振動だと止まってしまうこともあるが、この実施例の方法では強制振動なので、カンチレバーの振動が止まることはない。また、Q値が低いため多少共振周波数とずれた周波数で駆動しても極端に振幅が下がることはない。
【0072】
本発明によれば、走査型電子顕微鏡で、形状像と組成像やXPS像が得られているのと同じような簡便さで、原子分解能の元素同定を可能とする。それにより、走査型力顕微鏡で得られる試料の情報を各段に増やすことが可能となる。
【0073】
また、本発明は、真空のみならず、気体や液体中でも適応可能であり、例えば、液中の固体表面の動的な変化を、関与している元素を高分解能で認識しつつ撮像することが可能となる。また、表面科学、表面工学に限られず、ナノ加工、バイオ高分解能イメージング等への高い波及性を有する画期的発明と言える。
【0074】
また、ダイナミックモードAFM装置を構成する要素のいくつかは、複数の実現方法があり、上記実施例においてはその代表的なものを開示しているに過ぎない。
【0075】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0076】
本発明によれば、探針-試料間距離を自動的に求めることができる自動制御系を構成し、高速に試料表面の原子を同定することができる。特に、共振周波数の探針-試料間距離に対する傾きを求めることができる。更に、共振周波数の探針-試料距離に関する傾きがゼロになるように探針-試料距離を自動制御して、原子種の同定を迅速に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のダイナミックモードAFM装置は、原子間力顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡、表面分析、表面科学、表面工学、ナノ加工、ナノプロセッシング、バイオ高分解能イメージングなどの分野に利用可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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