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明細書 :フラーレン二量体およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5633873号 (P5633873)
公開番号 特開2011-184326 (P2011-184326A)
登録日 平成26年10月24日(2014.10.24)
発行日 平成26年12月3日(2014.12.3)
公開日 平成23年9月22日(2011.9.22)
発明の名称または考案の名称 フラーレン二量体およびその製造方法
国際特許分類 C07F   7/08        (2006.01)
C07F   7/18        (2006.01)
FI C07F 7/08 CSPW
C07F 7/18 W
請求項の数または発明の数 5
全頁数 20
出願番号 特願2010-049276 (P2010-049276)
出願日 平成22年3月5日(2010.3.5)
審査請求日 平成24年12月20日(2012.12.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
発明者または考案者 【氏名】中村 栄一
【氏名】松尾 豊
【氏名】肖 作
【氏名】安部 陽子
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100114409、【弁理士】、【氏名又は名称】古橋 伸茂
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】小久保 敦規
参考文献・文献 特開平09-031081(JP,A)
特表平07-508505(JP,A)
特開平07-089972(JP,A)
Journal of Organometallic Chemistry,Vol.561, No.1-2,p.109-120 (1998).
日本化学会講演予稿集,Vol.81st, No.2,p.1318 (2002).
調査した分野 C07F 7/08
C07F 7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式(1)
【化1】
JP0005633873B2_000011t.gif
[式中、Fはフラーレンを表し;
はそれぞれ独立して有機基であり;
mはそれぞれ独立して0~2の整数であり;
Xは、単結合であり;
nはそれぞれ独立して1~3の整数であり;
pはそれぞれ独立して1~3の整数であり;
21~R23はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30炭化水素基、置換基を有してもよいC~C30アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C30アリールオキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルキルチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)である]
で表されるシリルアルキル基を有する、フラーレン二量体。
【請求項2】
式(1)中、
FがフラーレンC60であり;
Xが単結合であり;
nがそれぞれ独立して1~3の整数であり;
pがそれぞれ独立して1または3であり;
mが0であり、
21~R23はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30アルキル基、置換基を有してもよいC~C30アルケニル基、置換基を有してもよいC~C30アルキニル基、置換基を有してもよいC~C30アリール基、置換基を有してもよいC~C30アリール基、置換基を有してもよいC~C30アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C30アリールオキシ基である、請求項に記載のフラーレン二量体。
【請求項3】
下記式(2)
【化2】
JP0005633873B2_000012t.gif
[式中、nは1~3の整数であり;
21~R23は、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30炭化水素基、置換基を有してもよいC~C30アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C30アリールオキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルキルチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)である]
で表されるシリルアルキル基を有するフラーレン誘導体に、少なくとも塩基性化合物の存在下で酸化剤を反応させる第2工程を含む、
上記式(2)で表されるシリルアルキル基を有する、フラーレン二量体の製造方法であって、
前記フラーレン二量体が、下記式(1)
【化3】
JP0005633873B2_000013t.gif
[式中、Fはフラーレンを表し;
はそれぞれ独立して有機基であり;
mはそれぞれ独立して0~2の整数であり;
Xは、単結合であり;
nはそれぞれ独立して1~3の整数であり;
pはそれぞれ独立して1~3の整数であり;
21~R23はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30炭化水素基、置換基を有してもよいC~C30アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C30アリールオキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルキルチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)である]
で表されるシリルアルキル基を有する化合物である、フラーレン二量体の製造方法。
【請求項4】
第2工程において、塩基性化合物がカリウムターシャリーブトキシドおよびポタジウムハイドライドからなる群から選ばれる1以上であり、酸化剤がN-クロロスクシンイミド、N-ブロモスクシンイミド、ヨウ素および酸素からなる群から選ばれる1以上である、請求項に記載のフラーレン二量体の製造方法。
【請求項5】
フラーレンまたはフラーレン誘導体に、少なくともグリニャール試薬と極性物質とを反応させてシリルアルキル基を付加する第1工程であって、シリルアルキル基が付加されるフラーレンまたはフラーレン誘導体に対して極性物質を3~100当量用いる第1工程を経て、前記シリルアルキル基を有するフラーレン誘導体が製造される、請求項3または4に記載のフラーレン二量体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルシリル基を有するフラーレン二量体およびその製造方法に関する。具体的には、アルキルシリル基を有するフラーレン二量体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素原子が球状またはラグビーボール状に配置して形成される炭素クラスター(以下、「フラーレン」ともいう)の合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が精力的に展開されている。その結果、数多くのフラーレン誘導体が合成されてきた。
【0003】
1990年にフラーレンC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が精力的に展開されている。その結果、数多くのフラーレン誘導体が合成され、その多様な機能が明らかにされてきた。これまでに、フラーレン誘導体を用いた電子伝導材料、半導体、医薬や生理活性物質等の各種用途開発が進められている(本明細書において、C60などの炭素クラスターを「フラーレン」と総称している。「フラーレン」についての総説は、現代化学2000年6月号、p.46、およびChemical Reviews, 98, 2527 (1998)等を参照のこと)。
【0004】
1992年には、2個のフラーレン骨格が直接結合したフラーレン二量体 RC60-C60Rが報告されている(J. Chem. Soc. Perkin Trans.2, 1425 (1992) (非特許文献1))。フラーレン二量体はフラーレンモノラジカルRC60・が二量化して1本の単結合で結ばれたものである。フラーレン間の結合の強さは側鎖の立体障害の大きさによって決まり、ダイマーとモノマーラジカルとの間で解離平衡の関係にあることが示されている(J. Am. Chem. Soc., 114, 5454 (1992)(非特許文献2))。フラーレン二量体はフラーレンポリマーの最も基本的な構造要素であること、またフラーレンモノラジカルRC60・へ解離することなどから、ナノマテリアル、有機電子材料等への応用が期待され、注目を集めている。
【0005】
また、フラーレン二量体を合成する方法として、フラーレンC60にアルキルラジカルを付加させて得たフラーレンモノラジカルの二量化による手法(J. Am. Chem. Soc., 114, 5454 (1992)、 J. Org. Chem., 61, 257 (1996)(非特許文献3)等)、フラーレンモノアニオンRC60- の酸化により得たフラーレンモノラジカルの二量化による手法 (Tetrahedron, 52, 5077 (1996)(非特許文献4)等)等が知られている。
【0006】
しかしながら、従来のフラーレン二量体は一般の有機溶媒にきわめて難溶であるものが多く、電子材料等への応用が困難であった。
【0007】
また、従来のフラーレン二量体の合成方法である、フラーレンC60にアルキルラジカルを付加させる手法においては、望ましくない多重付加反応が進行するために目的のフラーレン二量体の収率が低下するという欠点があった。
また、フラーレンモノアニオンRC60-を経由する手法においては、既知の方法(例えば、フラーレンジアニオンC60-にアルキル化剤を作用させてフラーレンモノアニオンRC60-を発生させる手法 (Org. Lett. 15, 2541 (2002)(非特許文献5))では、フラーレンモノアニオンRC60-を効率よく得ることができず、結果として目的のフラーレン二量体の収率が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】J. Chem. Soc. Perkin Trans.2, 1425 (1992)
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 114, 5454 (1992)
【非特許文献3】J. Org. Chem., 61, 257 (1996)
【非特許文献4】Tetrahedron, 52, 5077 (1996)
【非特許文献5】Org. Lett. 15, 2541 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の状況の下、有機溶媒に対する溶解性の高いフラーレン二量体が求められている。また、収率の高いフラーレン二量体の製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、アルキルシリル基を付加したフラーレン誘導体を用いて、アルキルシリル基を有するフラーレン二量体を得られることを見いだした。
本発明は以下のようなフラーレン二量体、および、その製造方法を提供する。
【0011】
[1]
下記式(2)
【化1】
JP0005633873B2_000002t.gif

[式中、nは1~3の整数であり;
21~R23は、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30炭化水素基、置換基を有してもよいC~C30アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C30アリールオキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルキルチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)である]
で表されるシリルアルキル基を有する、フラーレン二量体。
[2]
下記式(1)
【化2】
JP0005633873B2_000003t.gif


[式中、Fはフラーレンを表し;
はそれぞれ独立して有機基であり;
mはそれぞれ独立して0~2の整数であり;
Xは、単結合であり;
nはそれぞれ独立して1~3の整数であり;
pはそれぞれ独立して1~3の整数であり;
21~R23はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30炭化水素基、置換基を有してもよいC~C30アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C30アリールオキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルキルチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)である]
で表されるシリルアルキル基を有する、フラーレン二量体。
[3]
式(1)中、
FがフラーレンC60であり;
Xが単結合であり;
nがそれぞれ独立して1~3の整数であり;
pがそれぞれ独立して1または3であり;
mが0であり、
21~R23はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30アルキル基、置換基を有してもよいC~C30アルケニル基、置換基を有してもよいC~C30アルキニル基、置換基を有してもよいC~C30アリール基、置換基を有してもよいC~C30アリール基、置換基を有してもよいC~C30アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C30アリールオキシ基である、[2]に記載のフラーレン二量体。
[4]
下記式(2)
【化3】
JP0005633873B2_000004t.gif

[式中、nは1~3の整数であり;
21~R23は、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30炭化水素基、置換基を有してもよいC~C30アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C30アリールオキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルキルチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)である]
で表されるシリルアルキル基を有するフラーレン誘導体に、少なくとも塩基性化合物の存在下で酸化剤を反応させる第2工程を含む、
上記式(2)で表されるシリルアルキル基を有する、フラーレン二量体の製造方法。
[5]
第2工程において、塩基性化合物がカリウムターシャリーブトキシドおよびポタジウムハイドライドからなる群から選ばれる1以上であり、酸化剤がN-クロロスクシンイミド、N-ブロモスクシンイミド、ヨウ素および酸素からなる群から選ばれる1以上である、[4]に記載のフラーレン二量体の製造方法。
[6]
フラーレンまたはフラーレン誘導体に、少なくともグリニャール試薬と極性物質とを反応させてシリルアルキル基を付加する第1工程であって、シリルアルキル基が付加されるフラーレンまたはフラーレン誘導体に対して極性物質を3~100当量用いる第1工程を経て、前記シリルアルキル基を有するフラーレン誘導体が製造される、[4]または[5]に記載のフラーレン二量体の製造方法。
[7]
フラーレン二量体が、下記式(1)
【化4】
JP0005633873B2_000005t.gif


[式中、Fはフラーレンを表し;
はそれぞれ独立して有機基であり;
mはそれぞれ独立して0~2の整数であり;
Xは、単結合であり;
nはそれぞれ独立して1~3の整数であり;
pはそれぞれ独立して1~3の整数であり;
21~R23はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30炭化水素基、置換基を有してもよいC~C30アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C30アリールオキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルキルチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)である]
で表されるシリルアルキル基を有する化合物である、[4]~[6]のいずれかに記載のフラーレン二量体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の好ましい態様のフラーレン二量体は、有機溶媒に対する溶解性が高い。本発明の好ましい態様のフラーレン二量体は、電子材料等への応用が比較的容易となった。また、本発明の好ましい態様のフラーレン二量体の製造方法は、フラーレン二量体の収率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例2で製造された[C60(CH2Si(C6H4-4-EHO)Me2)]2の単結晶についてのX線結晶構造解析を示す。
【図2】実施例2で製造された[C60(CH2Si(C6H4-4-EHO)Me2)]2 の結晶パッキングについてのX線結晶構造解析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のフラーレン二量体等について詳細に説明する。

【0015】
I 第1工程
本発明の第1工程は、フラーレンまたはフラーレン誘導体に、少なくともグリニャール試薬と極性物質とを反応させてフラーレン骨格にシリルアルキル基を付加する工程である。

【0016】
1 第1工程で出発物質として用いられるフラーレンまたはフラーレン誘導体
1.1 第1工程で出発物質として用いられるフラーレン
本発明の第1工程で出発物質として用いられるフラーレン(シリルアルキル基が付加されるフラーレン)は特に限定されないが、例えば、フラーレンC60(いわゆるバックミンスター・フラーレン)、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC82、フラーレンC84、フラーレンC90、フラーレンC94、フラーレンC96等が挙げられる。これらの中でも、フラーレン骨格を構成する炭素に何も付加されていないフラーレンが特に好ましい。
フラーレンの製造方法は特に限定されず、公知の方法によって製造されたフラーレンを本発明の製造方法の出発物質として用いることができる。1種のフラーレンであっても、2種類以上のフラーレン混合物であっても好適に用いることができる。

【0017】
本明細書において、「フラーレン」とは炭素原子が球状またはラグビーボール状に配置して形成される炭素クラスターの総称であり(現代化学2000年6月号46頁,Chemical Reviews, 98, 2527(1998)参照)、例えば、フラーレンC60(いわゆるバックミンスター・フラーレン)、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC82、フラーレンC84、フラーレンC90、フラーレンC94、フラーレンC96等が挙げられる。

【0018】
1.2 第1工程で出発物質として用いられるフラーレン誘導体
本発明の第1工程で出発物質として用いられるフラーレン誘導体(シリルアルキル基が付加されるフラーレン誘導体)は特に限定されないが、フラーレンに有機基が付加されたものである。そして、当該フラーレン誘導体の基本骨格となるフラーレンは、本発明の製造方法において出発物質となるフラーレンと同様である。

【0019】
第1工程でシリルアルキル基が付加されるフラーレン誘導体は、有機基が1つ付加されているモノ付加体または、有機基が2つ付加されている二重付加体が好ましいが、これらに限定されない。

【0020】
本発明の第1工程でシリルアルキル基が付加されるフラーレン誘導体において、フラーレン骨格に付加されるシリルアルキル基は特に限定されないが、上記式(2)で表される基であることが好ましい。

【0021】
また、第1工程においてシリルアルキル基が付加されるフラーレン誘導体が有する有機基は特に限定されないが、例えば、水素原子、置換基を有してもよいC~C30炭化水素基、置換基を有してもよいC~C20アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C20アリールオキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルキルチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基等が挙げられる。

【0022】
本明細書において、「C~C30炭化水素基」の炭化水素基は、飽和若しくは不飽和の非環式であってもよいし、飽和若しくは不飽和の環式であってもよい。C~C30炭化水素基が非環式の場合には、線状でもよいし、枝分かれでもよい。「C~C30炭化水素基」には、C~C30アルキル基、C~C30アルケニル基、C~C30アルキニル基、C~C30アルキルジエニル基、C~C28アリール基、C~C30アルキルアリール基、C~C30アリールアルキル基、C~C30シクロアルキル基、C~C30シクロアルケニル基、(C~C15シクロアルキル)C~C15アルキル基などが含まれる。

【0023】
本明細書において、「C~C30アルキル基」は、C~C20アルキル基であることが好ましく、C~C10アルキル基であることが更に好ましい。アルキル基の例としては、制限するわけではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ドデカニル等を挙げることができる。

【0024】
本明細書において、「C~C30アルケニル基」は、C~C20アルケニル基であることが好ましく、C~C10アルケニル基であることが更に好ましい。アルケニル基の例としては、制限するわけではないが、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、2-メチル-1-プロペニル、2-メチルアリル、2-ブテニル等を挙げることができる。

【0025】
本明細書において、「C2~C30アルキニル基」は、C~C20アルキニル基であることが好ましく、C~C10アルキニル基であることが更に好ましい。アルキニル基の例としては、制限するわけではないが、エチニル、プロピニル、ブチニル等を挙げることができる。

【0026】
本明細書において、「C~C30アルキルジエニル基」は、C~C20アルキルジエニル基であることが好ましく、C~C10アルキルジエニル基であることが更に好ましい。アルキルジエニル基の例としては、制限するわけではないが、1,3-ブタジエニル等を挙げることができる。

【0027】
本明細書において、「C~C28アリール基」は、C~C15アリール基であることが好ましい。アリール基の例としては、制限するわけではないが、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、インデニル、ビフェニリル、アントリル、フェナントリル等を挙げることができる。

【0028】
本明細書において、「C~C30アルキルアリール基」は、C~C15アルキルアリール基であることが好ましい。アルキルアリール基の例としては、制限するわけではないが、o-トリル、m-トリル、p-トリル、2,3-キシリル、2,4-キシリル、2,5-キシリル、o-クメニル、m-クメニル、p-クメニル、メシチル等を挙げることができる。

【0029】
本明細書において、「C~C30アリールアルキル基」は、C~C12アリールアルキル基であることが好ましい。アリールアルキル基の例としては、制限するわけではないが、ベンジル、フェネチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、1-ナフチルメチル、2-ナフチルメチル、2,2-ジフェニルエチル、3-フェニルプロピル、4-フェニルブチル、5-フェニルペンチル等を挙げることができる。

【0030】
本明細書において、「C~C30シクロアルキル基」は、C~C10シクロアルキル基であることが好ましい。シクロアルキル基の例としては、制限するわけではないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等を挙げることができる。

【0031】
本明細書において、「C~C30シクロアルケニル基」は、C~C10シクロアルケニル基であることが好ましい。シクロアルケニル基の例としては、制限するわけではないが、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル等を挙げることができる。

【0032】
本明細書において、「C~C30アルコキシ基」は、C~C10アルコキシ基であることが好ましく、C~Cアルコキシ基であることが更に好ましい。アルコキシ基の例としては、制限するわけではないが、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ等がある。

【0033】
本明細書において、「C~C30アリールオキシ基」は、C~C10アリールオキシ基であることが好ましい。アリールオキシ基の例としては、制限するわけではないが、フェニルオキシ、ナフチルオキシ、ビフェニルオキシ等を挙げることができる。

【0034】
本明細書において、「アルキルチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)」及び「アルキルスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)」において、Y及びYは、C~C10アルキル基であることが好ましく、C~Cアルキル基であることが更に好ましい。アルキル基の例としては、制限するわけではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ドデカニル等を挙げることができる。

【0035】
本明細書において、「アリールチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)」及び「アリールスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)」において、Y及びYは、C~C10アリール基であることが好ましい。アリール基の例としては、制限するわけではないが、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、インデニル、ビフェニリル、アントリル、フェナントリル等を挙げることができる。

【0036】
「C~C30炭化水素基」、「C~C30アルコキシ基」、「C~C30アリールオキシ基」、「アミノ基」、「シリル基」、「アルキルチオ基」、「アリールチオ基」、「アルキルスルホニル基」、「アリールスルホニル基」には、置換基が導入されていてもよい。
この置換基としては、例えば、エステル基、カルボキシル基、アミド基、アルキン基、トリメチルシリル基、アミノ基、ホスホニル基、チオ基、カルボニル基、ニトロ基、スルホ基、イミノ基、ハロゲノ基、アルコキシ基などを挙げることができる。この場合、置換基は、置換可能な位置に1個以上、置換可能な最大数まで導入されていてもよく、好ましくは1個~4個導入されていてもよい。置換基数が2個以上である場合、各置換基は同一であっても異なっていてもよい。

【0037】
本明細書において、「置換基を有してもよいアミノ基」の例としては、制限するわけではないが、アミノ、ジメチルアミノ、メチルアミノ、メチルフェニルアミノ、フェニルアミノ等がある。

【0038】
本明細書において、「置換基を有していてもよいシリル基」の例としては、制限するわけではないが、ジメチルシリル、ジエチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル、ジフェニルメチルシリル、トリフェニルシリル、トリフェノキシシリル、ジメチルメトキシシリル、ジメチルフェノキシシリル、メチルメトキシフェニル等がある。

【0039】
本明細書において、「芳香族基」の例としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基等がある。
本明細書において、「複素環基」の例としては、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ビピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ターチエニル基等がある。
本明細書において、「縮合多環芳香族基」の例としては、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基等がある。
本明細書において、「縮合多環複素環基」の例としては、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントロリル基等がある。

【0040】
また、これらの、「芳香族基」、「複素環基」、「縮合多環芳香族基」および「縮合多環複素環基」が有してもよい置換基の例としては、制限するわけではないが、C~C10炭化水素基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、フェニル、ナフチル、インデニル、トリル、キシリル、ベンジル等)、C~C10アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等)、C~C10アリールオキシ基(例えば、フェニルオキシ、ナフチルオキシ、ビフェニルオキシ等)、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)又はシリル基などを挙げることができる。この場合、置換基は、置換可能な位置に1個以上導入されていてもよく、好ましくは1個~4個導入されていてもよい。置換基数が2個以上である場合、各置換基は同一であっても異なっていてもよい。

【0041】
2 第1工程で用いられるグリニャール試薬
本発明の製造方法の第1工程で用いられるグリニャール試薬は上記式(3)で表される。
(3)式中、R21~R23は、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30炭化水素基、置換基を有してもよいC~C30アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C30アリールオキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルキルチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールチオ基(-SY、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C20アルキル基を示す。)、置換基を有してもよいアリールスルホニル基(-SO、式中、Yは置換基を有してもよいC~C18アリール基を示す。)であり、nが1である]
で表される基であることが好ましい。

【0042】
式(3)中の下記式(31)で表される基は
【化5】
JP0005633873B2_000006t.gif

トリメチルシリルメチル基、(ヘキシル)ジメチルシリルメチル基、(ドデカ)ジメチルシリルメチル基等の(アルキル)ジメチルシリルメチル基、(イソプロポキシ)ジメチルシリルメチル基、(フェニル)ジメチルシリル基、(4-メトキシフェニル)ジメチルシリルメチル基、(4-ビフェニル)ジメチルシリルメチル基、(1-ナフチル)ジメチルシリルメチル基、(ピレノキシフェニル)ジメチルシリルメチル基、((アルキロキシ)ベンゾイロキシフェニル)ジメチルシリルメチル基、(ジ(アルキロキシ)ベンゾイロキシフェニル)ジメチルシリルメチル基、(テルピリジニル)ジメチルシリルメチル基、(カルバゾリルフェニル)ジメチルシリルメチル基および(ピレニルフェニル)ジメチルシリルメチル基が好ましい。

【0043】
第1工程において、グリニャール試薬は、第1工程でシリルアルキル基が付加されるフラーレンまたはフラーレン誘導体に対して1~20当量を用いることが好ましく、1~10当量を用いるとさらに好ましい。

【0044】
本件発明の好ましい態様によれば、グリニャール試薬中の上記式(31)で表される基が、第1工程の出発物質であるフラーレンまたはフラーレン誘導体のフラーレン骨格に付加される。

【0045】
3 第1工程で用いられる極性物質
本発明の製造方法の第1工程で用いられる極性物質は、そのような性質を有していれば特に限定されないが、ドナー数(DN)が25以上であることが好ましい。
本発明の製造方法で用いられる極性物質としては、非プロトン性溶媒が好ましく、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジン等を用いることがさらに好ましい。これらの中でもN,N-ジメチルホルムアミドを用いると得られるフラーレン誘導体の収率が高くなるので特に好ましい。
第1工程において、第1工程でシリルアルキル基が付加されるフラーレンまたはフラーレン誘導体に対して極性物質が3当量よりも少ないとシリルアルキル基の付加反応の効率が低下、また100当量以下でも充分に収率が確保できる。って、極性物質はフラーレンまたはフラーレン誘導体に対して3~100当量を用いることが好ましく、3~60当量を用いるとさらに好ましい。

【0046】
4 第1工程を用いたフラーレン誘導体の製造
第1工程でシリルアルキル基が付加されるフラーレンまたはフラーレン誘導体に、少なくとも前述のグリニャール試薬と前述の極性物質とを反応させて、グリニャール試薬を構成するシリルアルキル基をフラーレン骨格に付加して、フラーレン誘導体が製造される。

【0047】
第1工程の反応は、溶媒を用いて行われることが好ましい。溶媒としては、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン、ジクロロベンゼンまたはそれらの混合溶媒等が用いられるが、これらの中でもジクロロベンゼンを溶媒として用いることが好ましい。

【0048】
第1工程の反応を促進するために、種々の目的に応じた各種の添加剤を使用してもよい。触媒や添加剤の種類は特に限定されず、出発物質や製造するフラーレン誘導体の種類(付加基の種類)に応じて適宜選択すればよい。

【0049】
フラーレンまたはフラーレン誘導体とグリニャール試薬と極性物質との反応系は任意であり、密閉系,開放系,ガス流通系の何れでもよい。また、反応方式も特に限定されず、使用するフラーレン、フラーレン誘導体、グリニャール試薬および極性物質の種類、ならびにそれらの量等を勘案して、適切に選択することが可能である。

【0050】
フラーレンもしくはフラーレン誘導体、グリニャール試薬ならびに極性物質の反応槽への添加順序および添加方法は任意であるが、フラーレンもまたはフラーレン誘導体が溶解した溶媒に極性物質を添加し、その後にグリニャール試薬を添加することが好ましい。

【0051】
反応温度は、通常-70~70℃、好ましくは-50~50℃の範囲である。反応温度が低すぎると反応速度が充分でなく、高すぎると副反応が優先して起こる傾向にある。反応圧力は特に制限されず、常圧でも高圧でもよいが、常圧が好ましい。反応時間は、使用するフラーレンおよび有機金属化合物の種類や、溶媒の種類、酸化剤の種類、反応方式等によって適切な範囲を適宜選択すればよいが、通常、2分~2時間、好ましくは5分~1時間で行われる。

【0052】
反応の停止は、例えば、塩化アンモニウム水溶液などを反応系中に添加することにより行われる。

【0053】
本発明の第1工程では、フラーレンまたはフラーレン誘導体とグリニャール試薬と極性物質とを反応させることにより、フラーレンのモノ付加体や2重付加体、3重付加体、4重付加体等の付加体を選択的に製造できる。

【0054】
本発明の第1工程により製造されたシリルアルキル基を有するフラーレン誘導体は、その選択生成率が高い場合には精製する必要はない。しかし、原料フラーレンや微量のヒドロアルキル化体や酸化物等の副生成物と混在する粗生成物として得られる場合があるので、粗生成物から所定のシリルアルキル基が付加されたフラーレン誘導体を単離・精製することが好ましい。製造されたフラーレン誘導体を単離・精製する手法としては、HPLCやカラムクロマトグラフィー等のクロマトグラフィーによる手法、有機溶媒等を用いて溶媒抽出する手法などが挙げられる。

【0055】
5 第1工程によって製造されるフラーレン誘導体
第1工程によって製造されるフラーレン誘導体は、フラーレンを構成する炭素に上記式(2)で表されるシリルアルキル基が付加されていれば特に限定されないが、本発明の好ましい態様によれば、フラーレン骨格に上記式(2)で表される基と水素が付加されているフラーレン誘導体である。

【0056】
また、第1工程によって製造されるシリルアルキル基が付加されたフラーレン誘導体において、上記(2)式で表される基の中でも、トリメチルシリルメチル基、(ヘキシル)ジメチルシリルメチル基、(ドデカ)ジメチルシリルメチル基等の(アルキル)ジメチルシリルメチル基、(イソプロポキシ)ジメチルシリルメチル基、(フェニル)ジメチルシリル基、(4-メトキシフェニル)ジメチルシリルメチル基、(4-ビフェニル)ジメチルシリルメチル基、(1-ナフチル)ジメチルシリルメチル基、(ピレノキシフェニル)ジメチルシリルメチル基、((アルキロキシ)ベンゾイロキシフェニル)ジメチルシリルメチル基、(ジ(アルキロキシ)ベンゾイロキシフェニル)ジメチルシリルメチル基、(テルピリジニル)ジメチルシリルメチル基、(カルバゾリルフェニル)ジメチルシリルメチル基または(ピレニルフェニル)ジメチルシリルメチル基が付加されていることが好ましい。

【0057】
II 第2工程
本発明の第2工程は、シリルアルキル基を有するフラーレン誘導体に、さらに、少なくとも塩基性化合物の存在下で酸化剤を反応させてフラーレン二量体を製造する工程である。シリルアルキル基を有するフラーレン誘導体として、第1工程で得られたフラーレン誘導体を用いることができる。

【0058】
1 第2工程で用いられる塩基性化合物
第2工程で用いられる塩基性化合物としては、カリウムターシャリーブトキシド(tBuOK)、ポタジウムハイドライド(KH) などを好適に用いることができ、添加量としては、出発物質であるシリルアルキル基を有するフラーレン誘導体に対して、1~10当量の範囲が好ましい。

【0059】
2 第2工程で用いられる酸化剤
第2工程で用いられる酸化剤としては、N-クロロスクシンイミド (NCS) 、N-ブロモスクシンイミド (NBS) 、ヨウ素 (I2) 、酸素 (O2) などを好適に用いることができ、添加量としてはシリルアルキル基を有するフラーレン誘導体に対して、1~10当量の範囲が好ましい。

【0060】
3 第2工程を用いたフラーレン二量体の製造
第2工程の反応は、溶媒を用いて行われることが好ましい。溶媒としては、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン、ジクロロベンゼンまたはそれらの混合溶媒等が用いられるが、これらの中でもジクロロベンゼンを溶媒として用いることが好ましい。

【0061】
第2工程の反応を促進するために、種々の目的に応じた各種の添加剤を使用してもよい。触媒や添加剤の種類は特に限定されず、出発物質や製造するフラーレン誘導体の種類(付加基の種類)に応じて適宜選択すればよい。

【0062】
第2工程の反応は、密閉系,開放系,ガス流通系の何れでもよい。また、反応方式も特に限定されず、使用するフラーレン、フラーレン誘導体、塩基性化合物および酸化剤の種類、ならびにそれらの量等を勘案して、適切に選択することが可能である。

【0063】
第2工程の出発物質であるシクロアルキル基を有するフラーレン誘導体、塩基性化合物ならびに酸化剤の反応槽への添加順序および添加方法は任意であるが、前記フラーレン誘導体が溶解した溶媒に極性物質を添加し、その後にグリニャール試薬を添加することが好ましい。具体的には、シリルアルキル基を有するフラーレン誘導体を溶媒に溶解した後に、塩基性化合物を用いることにより脱プロトンしてアニオンを発生させた後、酸化剤を添加することによりフラーレン二量体を製造することが好ましい。

【0064】
第2工程中の塩基性化合物を用いた脱プロトン反応は、一般的には、トルエン、ジクロロベンゼン、またはそれらの混合溶媒などの不活性溶媒中で行われるが、溶解能の高いジクロロベンゼンが溶媒として好適に用いられる。通常、-70℃~70℃、好ましくは-50℃~50℃の温度下で、数分~2時間、好ましくは、5分~1時間程度行われる。

【0065】
また、第2工程中の酸化剤を用いた酸化反応は、脱プロトンを行った系内に直接酸化剤を添加することによって行うことができる。通常、-70℃~70℃、好ましくは-50℃~50℃の温度下で、数分~4時間、好ましくは、5分~2時間程度行われる。

【0066】
反応により製造されたフラーレン二量体は、その選択生成率が高い場合には精製する必要はない。しかし、第1工程と同様の方法によって、フラーレン二量体を任意に単離・精製することができる。

【0067】
5 第2工程によって製造されるフラーレン二量体
第2工程によって製造されるフラーレン二量体は、シリルアルキル基を有するフラーレン二量体であり、好ましくは、上記式(1)で表されるフラーレン二量体である。
さらに好ましくは、上記式(1)中、
FがフラーレンC60であり;Xが単結合であり;nがそれぞれ独立して1または2であり;pが1であり;mが0であることが好ましい。
また、R21~R23はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30アルキル基、置換基を有してもよいC~C30アルケニル基、置換基を有してもよいC~C30アルキニル基、置換基を有してもよいC~C30アリール基、置換基を有してもよいC~C30アルコキシ基、置換基を有してもよいC~C30アリールオキシ基であることが好ましい。これらの中でも、R21~R23はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいC~C30アルキル基、置換基を有してもよいC~C30アリール基、置換基を有してもよいアルコキシ基であることが好ましく、これらの基が有してもよい置換基としては、C~C10アルコキシ基が好ましい。
【実施例】
【0068】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
[実施例1] [C60(CH2Si(i-PrO)Me2)]2の製造
Scheme 1 (C60[CH2Si(i-PrO)Me2]Hの製造)
【化6】
JP0005633873B2_000007t.gif

スキーム1に示すように、窒素雰囲気下室温にてC60 (400 mg, 0.555 mmol)をo-ジクロロベンゼン(100 mL)に溶かし、ジメチルホルムアミド(1.29 mL, 16.7 mmol)を加えた。得られた紫色の溶液に Me2(i-PrO)SiCH2MgCl のTHF溶液(2.81 mL, 0.592 M, 1.67 mmol)をシリンジで滴下した。10分攪拌した後得られた黒褐色の溶液へ飽和塩化アンモニウム水溶液(0.2 mL)を加え反応を停止させた。展開溶媒をトルエンとしたシリカゲルショートパスカラムに得られた反応混合物を通して、副生するマグネシウム塩等を除去した後、HPLC(カラム:Nakalai Tesque社製 Buckyprep, 20 mm x 250 mm,溶離液:トルエン/2-プロパノール = 7/3)で精製を行った。表題化合物のフラクションを集めて濃縮した後、メタノールを加えて目的物を析出させ、濾過、乾燥により表題化合物を得た(単離収率 89%)。得られた生成物について、1H NMR、13C NMR、およびAPCI-TOF-MSの測定を行った。結果を以下に示す。
【実施例】
【0070】
1H NMR (500 MHz, CDCl3): d 0.664 (s, 6H, CH2SiCH3), 1.36 (d, J= 6.10 Hz, 6H, CHCH3), 2.95 (s, 2H, CH2), 4.38 (m, J = 6.10, 1H, CHCH3), 6.82 (s, 1H, C60H); 13C NMR (125 MHz, THF-d8): d 1.023 (2C, SiMe2), 26.38 (2C, CHCH3), 38.49 (1C, CH2), 62.36 (1C, C60H), 63.04 (1C, CCH2), 66.72 (1C, CHCH3), 136.10 (2C, C60), 137.55 (2C, C60), 140.88 (2C, C60), 141.03 (2C, C60), 142.45 (2C, C60), 142.48 (2C, C60), 142.83 (2C, C60), 142.91 (2C, C60), 142.99 (2C, C60), 143.14 (2C, C60), 143.38 (2C+2C, C60), 144.14 (2C, C60), 145.58 (2C, C60), 145.67 (2C, C60), 146.12 (2C, C60), 146.17 (2C, C60), 146.22 (2C, C60), 146.23 (2C, C60), 146.90 (2C, C60), 147.03 (2C+2C, C60), 147.04 (2C, C60), 147.07 (1C, C60), 147.16 (2C, C60), 147.24 (2C, C60), 148.20 (2C, C60), 148.39 (1C, C60), 156.49 (2C, C60), 159.93 (2C, C60); APCI-HRMS (-): calcd for C66H15OSi (M-H+), 851.08922; found, 851.08765.
【実施例】
【0071】
上記スキーム1で得られた生成物から下記スキーム2に示すようにして、フラーレン二量体である[C60(CH2Si(i-PrO)Me2)]2を製造した。
【実施例】
【0072】
Scheme 2 ([C60(CH2Si(i-PrO)Me2)]2の製造)
【化7】
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窒素雰囲気下、100-mL四口ナスフラスコにスキーム1で得られたC60[CH2Si(i-PrO)Me2]H (117 mg, 0.137 mmol) およびo-ジクロロベンゼン (10 mL) を入れ、減圧脱気後、窒素で復圧した。カリウムt-ブトキシドの1M THF溶液 (0.210 mL, 0.210 mml) を加え、約10分間攪拌した。ヨウ素 (38 mg, 0.150 mmol) を加え、さらに約2分間攪拌した。反応溶液をショートシリカゲルカラム(二硫化炭素)に供し、濃縮後、残さを二硫化炭素—メタノールで再沈殿させた。ろ取し、減圧乾燥することにより、目的とするダイマー [C60(CH2Si(i-PrO)Me2)]2 を黒茶色固体として収率99% (115 mg, 0.0675 mmol) で得た。
HPLC純度:99.7%(Buckyprep, 350nm)
得られた生成物について,1H NMR、13C NMR の測定を行った。結果を以下に示す。
【実施例】
【0073】
1H NMR (500 MHz, CDCl3/CS2 = 1/2) d 4.05-4.00 (m, OCHMe2), 2.76 (d, J = 14.9 Hz, SiCH2), 2.63 (d, J= 14.3 Hz, SiCH2), 2.52 (d, J = 14.3 Hz, SiCH2), 2.51 (d, J= 14.3 Hz, SiCH2), 1.08 (s, OCH(CH3)2), 1.07 (s, OCH(CH3)2), 1.06 (s, OCH(CH3)2), 1.05 (s, OCH(CH3)2), 0.34 (s, SiCH3). 13C NMR (125 MHz, CDCl3/CS2 = 1/2) all signals represent C (C60, sp2) except as being noted. d 0.99-1.12 (SiCH3), 25.66-25.71 (OCH(CH3)2), 33.53-33.72 (SiCH2), 56.06 (C60, sp3), 65.40 (OCH(CH3)2), 66.58 (C60, pivot), 66.51 (C60, pivot), 137.32, 137.42, 138.65, 138.67, 138.25, 139.50, 139.69, 140.82, 140.88, 141.60, 141.74, 141.90, 141.96, 142.22, 142.28, 142.49, 142.51, 142.55, 142.61, 142.97, 143.01, 143.06, 143.12, 143.15, 143.22, 143.27, 143.56, 143.64, 143.72, 143.84, 144.04, 144.14, 144.19, 144.22, 144.25, 144.43, 144.47, 144.50, 144.52, 144.85, 145.24, 145.40, 145.44, 145.51, 145.55, 146.67, 146.70, 146.73, 146.82, 147.03, 147.14, 147.42, 147.60, 147.81, 147.89, 147.91, 147.99, 148.34, 148.36, 148.63, 149.25, 149.55, 151.41, 151.48, 153.75, 153.90, 155.74, 155.81, 158.52, 158.60. The ratio of the two dimer isomers (racemic and meso) is 1 : 2.2, which is determined by the integration ratio of the methylene signals at 2.76 and 2.63 ppm on 1H NMR.
【実施例】
【0074】
[実施例2] [C60(CH2Si(C6H4-4-EHO)Me2)]2の製造
Scheme 3 (C60[CH2Si(C6H4-4-EHO)Me2]Hの製造)
【化8】
JP0005633873B2_000009t.gif

スキーム3に示すように、窒素雰囲気下室温にてC60 (509 mg, 0.706 mmol)をo-ジクロロベンゼン(50 mL)に溶かし、ジメチルホルムアミド(1.60 mL, 20.8 mmol)を加えた。得られた紫色の溶液に Me2(C6H4-o-EHO)SiCH2MgCl のTHF溶液(2.10 mL, 1.0 M, 2.10 mmol)をシリンジで滴下した。60分攪拌した後得られた黒緑色の溶液へ飽和塩化アンモニウム水溶液(2.0 mL)を加え反応を停止させた。展開溶媒をトルエンとしたシリカゲルショートパスカラムに得られた反応混合物を通して、副生するマグネシウム塩等を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:二硫化炭素/n-ヘキサン = 1/1)で精製を行った。表題化合物のフラクションを集めて濃縮した後、メタノールを加えて目的物を析出させ、濾過、乾燥により表題化合物を得た(単離収率 65%)。得られた生成物について、1H NMR、13C NMR の測定を行った。結果を以下に示す。
【実施例】
【0075】
1H NMR (500 MHz, CDCl3): d 0.832 (s, 6H, CH2SiCH3), 0.906 (t, J= 7.2 Hz, 3H, EHO), 1.01 (t, J = 7.5 Hz, 3H, EHO), 1.36 - 1.42 (m, 4H, EHO), 1.53 (m, 2H, EHO), 1.66 - 1.74 (m, 2H, EHO), 1.96 (q, 1H, EHO), 3.25 (s, 2H, CH2), 3.97 (d, J = 5.7 Hz, 2H, OCH2), 6.52 (s, 1H, C60H), 6.86 (d, J = 8.1 Hz, 1H, C6H4), 6.99 (t, J = 7.4 Hz, 1H, C6H4), 7.34 - 7.37 (m, 1H, C6H4), 7.67 (d, J = 7.2 Hz, 1H, C6H4); 13C NMR (125 MHz, CDCl3) all signals represent C (C60, sp2) except as being noted. d -0.2223 (1C, SiCH3), -0.2080 (1C, SiCH3), 11.31 (1C, EHO), 14.26 (1C, EHO), 23.21 (1C, EHO), 24.33 (1C, EHO), 29.33 (1C, EHO), 31.10 (1C, EHO), 36.78 (SiCH2), 40.41 (1C, EHO), 61.43 (1C, C60H), 62.50 (1C, CCH2), 70.01 (1C, OCH2), 110.08 (1C, C6H4), 120.69 (1C, C6H4), 125.21 (1C, C6H4), 131.91 (1C, C6H4), 134.88 (1C, C6H4), 136.26, 136.56, 139.88, 139.96, 141.55, 141.57, 141.86, 141.96, 141.98, 142.02, 142.49, 143.22, 144.66, 144.67, 145.14, 145.29, 145.35, 145.81, 145.90, 146.12, 146.16, 146.23, 146.36, 146.97, 147.28, 154.19, 157.98, 164.17 (1C, C6H4).
【実施例】
【0076】
上記スキーム3で得られた生成物から下記スキーム2に示すようにして、フラーレン二量体である[C60(CH2Si(i-PrO)Me2)]2を製造した。
【実施例】
【0077】
Scheme 4 ([C60(CH2Si(C6H4-4-EHO)Me2)]2の製造)
【化9】
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窒素雰囲気下、100-mLシュレンク管にスキーム3でスキーム3で得られたC60[CH2Si(C6H4-4-EHO)Me2]H (301 mg, 0.300 mmol) およびo-ジクロロベンゼン (30 mL) を入れ、5分間撹拌後、カリウムt-ブトキシドの1M THF溶液 (0.360 mL, 0.360 mml) を加え、45分間攪拌した。N-ブロモスクシンイミド (165 mg, 0.926 mmol) を加え、さらに2時間攪拌した後反応溶液をトルエンを用いたシリカゲルショートパスに供し、濃縮後、残さをトルエン—メタノールで再沈殿させた。ろ取し、減圧乾燥することにより、 目的とするダイマー [C60(CH2Si(C6H4-4-EHO)Me2)]2 (288.8mg, 98% yield) を得た。
HPLC純度:96.0%(Buckyprep, 350nm)
得られた生成物について、1H NMR、13C NMR の測定を行った。結果を以下に示す。
【実施例】
【0078】
1H NMR (500 MHz, CDCl3): d 0.500 (d, 6H, CH2SiCH3, racemic), 0.536 - 0.546 (dd, 6H, CH2SiCH3, meso), 0.606 - 0.628 (dd, 6H, CH2SiCH3, meso), 0.652 - 0.673 (dd, 6H, CH2SiCH3, racemic), 0.845 - 0.933 (m, 12H, EHO), 1.26 - 1.29 (m, 8H, EHO), 1.43 - 1.61 (m, 8H, EHO), 1.81 - 1.83 (m, 2H, EHO), 2.85 - 3.07 (m, 4H, CH2), 3.63 - 3.77 (m, 4H, OCH2), 6.62 (d, J= 8.3Hz, 2H, C6H4), 6.81 - 6.84 (m, 2H, C6H4), 7.20 - 7.25 (m, 2H, C6H4), 7.39 - 7.43 (m, 2H, C6H4); 13C NMR (125 MHz, CDCl3): 13C NMR (125 MHz, CDCl3) all signals represent C (C60, sp2) except as being noted. d -0.33 (SiCH3), 11.01 - 11.12 (EHO), 14.22 - 14.24 (EHO), 23.11 - 23.16 (EHO), 24.14 - 24.18 (EHO), 29.16 - 29.24 (EHO), 29.70 - 29.80 (EHO), 30.77 - 30.89 (EHO), 39.53 - 39.78 (SiCH2), 57.31 (C60, sp3), 66.85 (C60, pivot), 69.77 (OCH2), 109.62 (C6H4), 120.25 (C6H4), 125.05, 127.70 (C6H4), 130.53 (C6H4), 131.72 (C6H4), 136.06, 136.10, 138.80, 139.89, 140.11, 142.14, 142.21, 142.23, 142.30, 143.22, 143.27, 143.31, 143.35, 143.37, 143.52, 143.65, 143.73, 143.86, 144.30, 144.34, 144.43, 144.52, 144.66, 144.74, 145.60, 145.64, 145.72, 145.75, 146.66, 146.86, 146.98, 147.03, 147.10, 147.16, 147.83, 147.97, 148.49, 148.88, 151.87, 151.96, 154.43, 159.54, 164.17 (C6H4).
【実施例】
【0079】
クロロホルム溶液から溶媒を徐々に蒸発させて得られた生成物([C60(CH2Si(C6H4-4-EHO)Me2)]2)の単結晶について、X線結晶構造解析により結晶構造解析を行った。結果は図1に示すとおりであった。
【実施例】
【0080】
実施例2で得られた[C60(CH2Si(C6H4-4-EHO)Me2)]2 の結晶パッキングは図2のとおりであった。
【実施例】
【0081】
また、当該結晶のデータは以下のとおりであった。
晶系:単斜、空間格子:P1、格子定数: a = 10.014A, b = 15.869A, c = 17.702A, α = 112.97o, β = 92.59o, γ = 105.99o, V = 2452.48 A3.
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のフラーレン誘導体は有機電子材料、分子機能デバイス等に用いることができる。本発明の活用法として、例えば、光スイッチング装置、センサなどの各種の情報変換装置を挙げることができる。
図面
【図1】
0
【図2】
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