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明細書 :ガスセンサー及びガスセンサー製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5140493号 (P5140493)
公開番号 特開2009-098121 (P2009-098121A)
登録日 平成24年11月22日(2012.11.22)
発行日 平成25年2月6日(2013.2.6)
公開日 平成21年5月7日(2009.5.7)
発明の名称または考案の名称 ガスセンサー及びガスセンサー製造方法
国際特許分類 G01N  27/12        (2006.01)
FI G01N 27/12 C
請求項の数または発明の数 3
全頁数 16
出願番号 特願2008-138105 (P2008-138105)
出願日 平成20年5月27日(2008.5.27)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2008年2月16日 インターネットアドレス「http://www.ei.fukui-nct.ac.jp/h19gakusei/prog.php」に発表
優先権出願番号 2007248947
優先日 平成19年9月26日(2007.9.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年5月18日(2011.5.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
発明者または考案者 【氏名】川本 昂
【氏名】林 和明
【氏名】村上 吉昭
【氏名】米澤 建
【氏名】松本 尚大
個別代理人の代理人 【識別番号】100074332、【弁理士】、【氏名又は名称】藤本 昇
審査官 【審査官】柏木 一浩
参考文献・文献 特開2004-125513(JP,A)
特開2007-093294(JP,A)
特開2005-070038(JP,A)
特表2008-505044(JP,A)
特開2003-138105(JP,A)
調査した分野 G01N 27/12
特許請求の範囲 【請求項1】
水素ガスの検知に用いられ、水素ガスの接触によって電気伝導度が変化するガス検知部と、該ガス検知部の電気伝導度を測定するための電気伝導度測定手段とを有するガスセンサーであって、
前記ガス検知部が、マルチウォールカーボンナノチューブとポリマー成分とを含むポリマー組成物によりフィルム状に形成されており、前記電気伝導度測定手段には、前記フィルム状のガス検知部の表面に設けられた一対の電極が備えられていることを特徴とするガスセンサー。
【請求項2】
水素ガスの検知に用いられ、水素ガスの接触によって電気伝導度が変化するガス検知部と、該ガス検知部の電気伝導度を測定するための電気伝導度測定手段とを有し、前記ガス検知部が、マルチウォールカーボンナノチューブが用いられて形成されているガスセンサーを製造すべく、ポリマー成分を含む液体中で前記マルチウォールカーボンナノチューブに超音波振動を与えて前記液体中に前記マルチウォールカーボンナノチューブが分散された分散液を作製し、該分散液を固化させて前記マルチウォールカーボンナノチューブとポリマー成分とを含むポリマー組成物によりフィルム状に形成されている前記ガス検知部を形成させることを特徴とするガスセンサー製造方法。
【請求項3】
前記分散液で基材上に液膜を形成させ、一対の針電極で1.5~4MHzのいずれかの周波数を有する交流電圧を前記液膜に印加した後に前記液膜を固化させて前記ガス検知部を作製する請求項記載のガスセンサー製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス等の検知に用いられるガスセンサーとガスセンサー製造方法とに関し、より詳しくは、ガスの接触によって電気伝導度が変化するガス検知部と、該ガス検知部の電気伝導度を測定するための電気伝導度測定手段とを有するガスセンサーとガスセンサー製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の使用に代えて燃料電池などに代表されるクリーンエネルギーの使用が検討されている。
このように燃料電池など水素ガスの利用の機会が増大するとともに、その検知手段にかかる検討も行われるようになってきている。
水素ガスの検知手段としては、酸化物半導体を用いたものが知られており、例えば、酸化スズの表面に吸着されている酸素と水素との反応により酸化スズが電気伝導度を変化させる性質を利用したものが知られている。
このような性質を利用した検知方法としては、例えば、水素の接触によって電気伝導度が変化する水素検知部を酸化スズで形成するとともに該酸化スズの電気伝導度を測定するための電気伝導度測定手段を設け、該電気伝導度測定手段により読み取られた電気伝導度をもとに水素ガス濃度を算出する方法が広く知られている。
【0003】
この酸化物半導体を水素検知部に用いる方法においては、常時、水素検知部を400℃程度の高温に加熱する必要がある。そのため、このような水素センサーは、構成する部材に耐熱性が必要であり、しかも、水素検知部を高温に維持させて測定する必要があることから簡便な測定が困難であるという問題を有する。
同様の問題は白金線コイル表面での水素ガスの接触燃焼による温度上昇を利用し、電気抵抗値の変化を検出する接触燃焼方式の水素ガスセンサーにも生じている。
【0004】
このようなことから、上記のような電気伝導度を測定する方法に代えて、カーボンナノチューブなどの炭素原子を主成分とするクラスターにプロトン解離性の基を導入して得られたクラスター誘導体により形成されたプロトン伝導体を用いる方法が検討されている(特許文献1参照)。
このプロトン伝導体を用いる方法においては、白金など水素分子をプロトンに分解可能な触媒作用を有する金属で電極を形成して該電極でプロトン伝導体を挟み、水素分子が白金触媒で分解される際に触媒間に発生される起電力が測定されて水素ガス濃度が算定されている。
したがって、この特許文献1に記載されている水素ガスセンサーは、酸化物半導体が用いられている水素ガスセンサーのように水素検知部を400℃程度の高温に加熱する必要がなく簡便に水素ガスの測定が実施できる。
しかし、触媒作用を利用していることから電極材が白金などのような特殊な金属に制限されてしまうという問題を有する。
【0005】
すなわち、従来、電極部などの形成材料が特殊なものに限定されることを抑制しつつ簡便に使用し得る水素ガスセンサーを得ることが困難であるという問題を有している。
なお、このような問題は、水素ガスセンサーのみならず、ガスセンサーに広く共通する問題である。
【0006】

【特許文献1】特開2003-270200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、電極部など、形成材料が特殊なものに限定されることを抑制しつつ簡便に使用し得るガスセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、カーボンナノチューブは、水素分子など気体分子の吸着、脱離によって電気伝導度が変化することを見出し本発明の完成に至ったのである。
また、本発明者らは、カーボンナノチューブを所定の方法でポリマー中に分散させることで高感度なガス検知部を形成させ得ることを見出し本発明の完成に至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、水素ガスの検知に用いられ、水素ガスの接触によって電気伝導度が変化するガス検知部と、該ガス検知部の電気伝導度を測定するための電気伝導度測定手段とを有するガスセンサーであって、前記ガス検知部が、マルチウォールカーボンナノチューブとポリマー成分とを含むポリマー組成物によりフィルム状に形成されており、前記電気伝導度測定手段には、前記フィルム状のガス検知部の表面に設けられた一対の電極が備えられていることを特徴とするガスセンサーを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガスセンサーは、ガスの検知のためにガス検知部を高温に加熱する必要がなく、しかも、感度に優れている。
さらには、電極部を特殊な材料で構成する必要もない。
すなわち、本発明によれば、電極部の形成材料などが特殊なものに限定されることを抑制しつつ簡便に使用し得るガスセンサーを提供し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について、本発明のガスセンサーが、水素ガスの検知に用いられる水素ガスセンサーである場合を例に説明する。
本実施形態における水素ガスセンサーは、水素ガスの接触によって電気伝導度が変化するガス検知部(以下「水素検知部」ともいう)と、該水素検知部の電気伝導度を測定するための電気伝導度測定手段とを有している。
【0012】
前記水素検知部は、ポリマー組成物により矩形フィルム状に形成されており、前記電気伝導度測定手段には、水素検知部の前記矩形形状をなす四辺の内の一辺と、該一辺に対向する辺との二辺に相当する箇所に位置し前記水素検知部の端部表面を覆うように設けられた一対の電極と該電極間に電圧を印加して電極間に流れる電流値を測定する電流値測定機構とが備えられている。
【0013】
前記水素検知部に用いるポリマー組成物には、カーボンナノチューブとポリマー成分とが含有されている。
前記カーボンナノチューブは、黒鉛電極をHeやArガス中でアーク放電で蒸発させるアーク法、Ni-Co、Pd-Rdなどの金属触媒を含む黒鉛にYAGレーザーを照射して蒸発させ、Arの気流に同伴させて1200℃程度に加熱された電気炉中に導入させるレーザーアブレーション法、触媒金属のナノ粒子とメタンやアセチレン などの炭化水素を500~1000℃の温度で熱分解させる化学気相成長法(CVD)法、触媒にペンタカルボニル鉄を用い一酸化炭素を高圧で熱分解するHigh Pressure Carbon Monooxide(HiPCO)法など種々の方法により得られたものを用いることができる。
【0014】
また、前記水素検知部に用いるカーボンナノチューブは、通常、直径1nm~140nm、長さ0.5μm~7μmのものを用いることができる。
さらに、カーボンナノチューブは、シングルウォールカーボンナノチューブ、マルチウォールカーボンナノチューブのいずれも採用可能であるが、水素ガス(水素分子)の検知感度をより向上させ得る点においてマルチウォールカーボンナノチューブが用いられることが好ましい。
なお、本明細書中における“カーボンナノチューブ”との用語は、“カーボンナノホーン”などと呼ばれる一方に向けて径の広がりを有するものをも含む意図で用いている。
【0015】
また、前記ポリマー成分としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂などを例示することができる。
【0016】
ポリマー組成物全体に占めるカーボンナノチューブの割合については、特に限定されるものではないが、水素検知部の感度をより向上させ得る点において20重量%~32重量%とされることが好ましい。
【0017】
なお、水素検知部の検知感度をより向上させ得る点において、水素検知部を形成するフィルムは、カーボンナノチューブを高振幅の超音波振動により切断し、カーボンナノチューブ粒子相互の重なりが多数形成させるようにしてポリマー成分にカーボンナノチューブが分散されて形成されていることが好ましい。
【0018】
前記電気伝導度測定手段の電極は、その形成材料が特に限定されるものではなく、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、ITO(Indium Tin Oxide)など一般的な電極の形成に用いられる材料で形成され得る。
前記電流値測定機構は、例えば、前記電極間に数Vから十数Vの直流電圧を印加するための電源と前記電極間に流れる電流値を測定するための電流計とにより構成し得る。
【0019】
次いで、このような水素ガスセンサーの形成方法ならびに使用方法について説明する。
【0020】
まず、前記カーボンナノチューブと前記ポリマー成分とを所定配合量で混合してポリマー組成物を作製する。
このとき、単にカーボンナノチューブとポリマー成分とを混練するようなポリマー組成物作製方法を採用することも可能であるが、カーボンナノチューブの分散状態を調整し易い点、ならびに、水素検知部をフィルム状に形成させることが容易となる点などにおいて前記ポリマー成分を溶解可能な溶媒にポリマー成分とカーボンナノチューブとを混合して液体状のポリマー組成物を作製する方法を採用することが好ましい。
【0021】
この溶媒中にポリマー成分を溶解させたり、カーボンナノチューブを分散させたりする方法については、一般的なポリマー溶解手段、一般的な粉体分散手段をそれぞれ採用することができる。
例えば、超音波振動を利用して液状ポリマー中にカーボンナノチューブを分散させて分散液を作製する方法や、二酸化炭素などを超臨界流体として用いてカーボンナノチューブをポリマー中に分散させたりする方法などを採用可能である。
特に、超音波振動を利用して液状ポリマー中にカーボンナノチューブを分散させる方法によれば、カーボンナノチューブを超音波振動により切断して、カーボンナノチューブ相互の重なりを分散液中に多数形成させることができる。
したがって、この分散液を用いて形成される水素検知部を、超臨界流体を用いる方法などに比べてより高感度なものとさせ得る。
【0022】
ポリマー成分とカーボンナノチューブとを含む溶液(分散液)は、例えば、ガラス板上にコーティングした後に乾燥させるなどしてガラス板に被覆させた状態で固化し、フィルム状の水素検知部を形成させることができる。
【0023】
このガラスなどの基材上にポリマー成分とカーボンナノチューブとを含む溶液をコーティングして液膜を形成させた後に乾燥固化させフィルム状の水素検知部を形成させる場合には、前記液膜が乾燥固化する前に、下記のような電気的処理を施すことにより、水素ガスの検知感度を向上させることができる。
【0024】
この電気的処理は、カーボンナノチューブが連結されたクラスターを前記電気伝導度測定手段の電極間に形成させることにより水素ガスの検知感度を向上させるものである。
前記クラスターは、例えば、乾燥前の液膜の表面に一対の針電極を接触させて、この針電極間に高周波の交流電界を発生させることにより、カーボンナノチューブを連結させて形成させることができる。
そして、その後、この液膜を固化させることでクラスターが形成されている状態を維持しつつ水素検知部を作製することができる。
なお、この液膜の固化は、交流電界の印加がなされた後であれば、交流電界の印加を終了した後に液膜を乾燥させて実施してもよく、交流電界を印加しつつ液膜を乾燥させて実施してもよい。
【0025】
このクラスター形成に用いた針電極は、要すれば、前記電極に代えて利用することができる。
あるいは、この針電極を取り除いて後述するような方法によって該クラスターを挟んで対向する電極を別途作製することもできる。
【0026】
前記クラスターの形成は、交流電界によってカーボンナノチューブを振動させてクラスターが形成されるとともにカーボンナノチューブの表面のポリマーが除去されて、塗膜表面にクラスターを露出させる効果を奏する。
したがって、ガス検知時における水素分子とカボンナノチューブ(クラスター)との接触が促進され検知感度が向上されることとなる。
【0027】
このようなクラスターを塗膜に形成させるためには、前記交流電界の周波数は、通常、1.5MHz~4.0MHzの範囲の内のいずれかとされ得る。
前記交流電界がこのような周波数とされるのは、前記周波数帯から外れる周波数では、カーボンナノチューブの振動が不十分になって、クラスターが形成されないおそれを有するためである。
このような点において、前記周波数は、1.5MHz~3.0MHzの範囲の内のいずれかとされることが好ましい。
【0028】
また、クラスターの形成に十分な電界強度を形成させるべく、針電極間の距離及び電極間電圧の少なくとも一方を調整して前記電気的処理を実施することが好ましい。
この電界強度については、分散液に含まれるポリマー成分の種類や、カーボンナノチューブの含有量などにもよるが、通常、針電極間の距離を大きくすると、電極間に高電圧を印加させなければならず、水素検知部の作製に要する手間を増大させるおそれがある。
この針電極間に印加する交流電圧の値を数V程度にさせて水素検知部を作製容易なものとさせうる点において、前記針電極の電極間距離は、10~500μmの範囲とされることが好ましく、20~100μmであることがさらに好ましい。
例えば、電極間距離50μmであれば、3~5Vの電圧によってクラスターを形成させることができる。
【0029】
なお、クラスターの形成状況については、針電極間に流れる電流値を観測することで確認することができる。
すなわち、交流電圧印加直後の電流値に比べてクラスターの形成後の針電極間の電流値は、通常、数倍の値となる。
したがって、交流電圧印加直後の電流値に対して、例えば、2倍以上の電流値が観察されることをもってクラスターが形成されたことを確認することができ、この電流値が観察された時点をもって電気的処理を終了させ、このクラスターの形成された液膜の乾燥固化を実施することで水素検知感度に優れる水素検知部を作製することができる。
より好ましくは、交流電圧印加直後の電流値に対して、3倍以上の電流値が観察されるまで電気的処理を実施して水素検知部を作製することが望ましい。
【0030】
この水素検知部の電気伝導度を測定する電気伝導度測定手段における前記電極(前記針電極を利用しない場合)は、以下のような方法で形成されうる。
例えば、あらかじめ金属をめっきした電極材(直方体のピン電極)を水素検知部が完全に乾燥する前に接着・固定して電極を形成させることができる。
また、水素検知部の中央部分をマスクし両端部のみを露出させた状態で真空蒸着装置などに導入して、電極となるITOや銅を真空蒸着させることで水素検知部の両端部に電極を形成させることができる。
したがって、水素ガスの検知においては、水素検知部の内、電極間に露出した箇所の、主として、表面抵抗値が測定されることとなる。
このとき電極間の距離(マスク幅)については、特に限定されるものではなく、短く形成するほど水素検知の感度が向上する一方で異物の付着などといった外乱による影響を受けやすくなる。
このような点において、電極間の距離は、数mm以下とされることが好ましい。
【0031】
この電極間に電圧を印加する手段ならびに電極間に流れる電流値を測定する手段については、電流値測定機能を有した市販の定電圧電源などを採用することができる。
すなわち、定電圧電源の端子を電極に接続することで定電圧電源を電流値測定機構として機能させ得る。
【0032】
このように形成された水素ガスセンサーは、測定対象となる気体が流通する箇所に該気体に曝露される状態にして前記水素検知部を配置し、前記定電圧電源で例えば5~10V程度の直流電圧を印加しつつ、この定電圧電源で電流値を測定することで水素ガスの検知を実施することができる。
【0033】
このときの機構について説明すると、気体中に水素ガス(水素分子)が含まれている場合には、この水素分子が水素検知部のカーボンナノチューブに吸着されカーボンナノチューブの電気伝導度に変化を与える。
このとき窒素分子や酸素分子などはカーボンナノチューブの電気伝導度に大きな変化を与えないことからこの水素検知部の電気伝導度を測定することで水素ガスの存在を精度良く検知することができる。
しかも、本発明によれば、白金触媒などを用いて水素分子をプロトンに分解させる必要もないことから電極部の形成材料が特殊なものに限定されることを抑制しつつ簡便に使用し得る水素ガスセンサーを提供することができる。
また、本発明の水素ガスセンサーは、酸化物半導体を水素検知部に用いる場合のごとく、水素検知部を常時400℃程度の高温に加熱する必要もない。
【0034】
なお、水素検知部にカーボンナノチューブのバンドル構造が形成されている場合には、バンドル構造におけるカーボンナノチューブとカーボンナノチューブとの間に水素分子が入り込んで水素検知部の電気伝導度をより大きく変化させる。
また、水素検知部にマルチウォールカーボンナノチューブが用いられている場合には、カーボンナノチューブの層の間に水素分子が入り込んで水素検知部の電気伝導度をより大きく変化させる。
【0035】
このような効果が発揮されて、水素ガスの検知感度をより向上させ得る点において水素検知部には、系全体に炭素クラスターどうしの積層構造がより多く形成されていることが好ましく、カーボンナノチューブのバンドル構造がより多く形成されていることが好ましい。
また、用いるカーボンナノチューブとしてマルチウォールカーボンナノチューブが好ましい。
【0036】
この水素検知の機構を、より具体的に説明すると、水素検知部の電気伝導度を測定すべく前記電極間に電圧が印加されると、電極間に電流が流れ、ジュール熱による発熱が生じる。
そして、水素検知部表面からの放熱と発生するジュール熱とが等しくなる温度で平衡することとなる。
カーボンナノチューブは、熱伝導率が一般的な金属の数十倍以上と高く、その電気伝導度が温度によって大きく変化する。
したがって、このときすばやく平衡温度に達するとともに、この温度に特有の電流値が電極間に流れることとなる。
そして、水素ガスを水素検知部に接触させると、水素分子がカーボンナノチューブに吸着され且つカーボンナノチューブから水素分子が脱離されることとなる。
この水素ガスは、空気の主たる成分である窒素ガスや酸素ガスに比べて、熱伝導率が高く、この水素ガスの吸着、脱離によって水素検知部表面からの放熱量が増大され平衡温度が低下する。
このことによって電極間を流れる電流量が変化し水素の検知がなされる。
【0037】
なお、カーボンナノチューブ自体は、電気抵抗値が低く、水素検知部における電極間の抵抗値は、カーボンナノチューブどうしの接触抵抗や、カーボンナノチューブ間に介在するポリマーの抵抗値に大きく影響される。
このことから前記クラスターを形成させることによりカーボンナノチューブどうしの接触抵抗を低下させることができるとともにカーボンナノチューブ間のポリマーを除去させることができ、カーボンナノチューブの抵抗値の変化がより感度よく検出されることとなる。
【0038】
なお、本実施形態においては、熱伝導率が高く、感度良く検知可能である点において、ガスセンサーを水素ガスセンサーとして水素ガスの検知に用いる場合を例示しているが、ヘリウムガスも水素と同様に他のガスに比べて高い熱伝導率を有し、上記例示のガスセンサーをヘリウムガスセンサーとして用いる場合も感度の良い検知が可能になる。
【0039】
また、ガスは、通常その種類によって熱伝導率を異ならせることから、この水素ガス、ヘリウムガスのみならず種々のガスの検知に本実施形態のガスセンサーを利用することができる。
前記ガスとしては、例えば、二酸化炭素ガス、アルゴンガス、メタンガスなどが挙げられる。
例えば、空気中にこれらのガスが混入されるとその混合気ガスの見かけの熱伝導率は空気の熱伝導率と異なる状態になる。このことを利用して空気中に異種のガスが混入されたことを本実施形態のガスセンサーで感度良く検知することができる。
また、空気の主たる成分である窒素ガスや酸素ガスが空気に混合されても熱伝導率が大きく変化されるものではないが、電極間に高い電圧を印加したり、前記クラスターが形成されたガス検知部を用いることによってこれら窒素ガスや酸素ガスの検知も可能である。
【0040】
なお、これらのガスを、外乱を抑制しての感度良く検知させるために、ガス検知部には、一定状態で測定ガスを接触させることが好ましい。
例えば、測定対象となるガスの速度や温度を一定にして、ガス検知部に接触させることが好ましい。
【0041】
要すれば、ガスの速度(ガス流量)やガスの温度を測定する手段のみを設けて、これらを一定化する手段を設けずにガス検知を行うことも可能である。
例えば、空気中に水素が混入したことを検知させるにあたり、ガス流入口とガス排出口が設けられた筐体内にガス検知部を設け、ガス流量と筐体内の温度とを測定する手段とを設けて、予め、空気の流量と温度とを変化させてガス検知部の電気伝導度に関する基準データを採取しておいて、実測においてガス流量と温度との測定値に基づく基準データと実測データ(ガス検知部の実際の電気伝導度)との対比を行うことにより水素ガスの混入を検知させることも可能である。
この場合、基準データと実測データとの対比を行うためのソフトウェアが必要になる反面、ガスの速度や温度を一定に制御する必要がなくガス検知のための装置構成を簡略化させうる。
【0042】
なお、特定のガスが流通される配管からのガスの漏洩などといった、ガス種を特定することが可能である場合においては、ガス濃度を変化させたデータを予め採取しておくことで、ガス流量と温度とをガス検知部の電気伝導度とともに測定することでガス濃度を把握させることが可能となる。
【0043】
本実施形態においては、構造が簡単で、しかも、体積の割に大きな表面積を有し、用いるカーボンナノチューブの量を削減させて検知感度に優れたガスセンサーを形成させ得る点において、ガス検知部が、カーボンナノチューブとポリマー成分とを含むポリマー組成物によりフィルム状に形成されており、このフィルム状のガス検知部の表面に設けられた一対の電極が電気伝導度測定手段に備えられているガスセンサーを例示しているが、本発明においては、ガスセンサーをこのような構造のものに限定するものではない。
【0044】
また、本発明においては、ガスセンサーを上記のような製造方法により形成されるものに限定するものではない。
さらに、本発明においては、ガスセンサーの使用方法を上記のような使用方法に限定するものではない。
【実施例】
【0045】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、ガスセンサーを水素ガスの検知に用いた具体的事例を示す。
【0046】
(カーボンナノチューブの分散)
まず、マルチウォールカーボンナノチューブ(直径約140nm、長さ約7μm)を、ポリメタクリル酸メチル樹脂溶液中に超音波振動(ホモジナイザのチップ:直径36mm、超音波強度:600W)により分散させた場合と、二酸化炭素による超臨界流体で分散させた場合との比較を実施した。
初期(粉体状態)でのマルチウォールカーボンナノチューブの粒度分布と、各分散方法による分散後のマルチウォールカーボンナノチューブの粒度分布とを下記表1に示す。
【0047】


【表1】
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【0048】
この表1からは、超音波振動させるとマルチウォールカーボンナノチューブの粉体長さに対応する粒径は、初期状態の7.87μmから約9.70μmへと大きくなることがわかる。
一方で直径に対応する分布(体積%)は2%(570nm)から1%(536nm)に減少する。
これらの現象からは、超音波振動によりマルチウォールカーボンナノチューブが切断され、切断されたカーボンナノチューブが複数集合して積層状態が形成されていると認められる。
【0049】
このことについて、ポリマー表面におけるカーボンナノチューブの様子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
超音波振動による分散の様子を図1aに、二酸化炭素による超臨界流体での分散の様子を図1bに示す。
これらのSEM像の比較からもわかるように、超音波振動によって分散させた方が超臨界流体で分散させたものよりもマルチウォールカーボンナノチューブの密集度が大きい。
このことを確認すべく、形成されたフィルム状の水素(ガス)検知部に電極間距離約5mmで一対の電極を設け、該電極間に電圧を印加して電気伝導度を測定した。
結果を図2に示す。
【0050】
この図2に示される結果からも、この水素(ガス)センサーは、超音波振動処理により水素ガスの検知感度が高められていることがわかる。
したがって、バンドルを形成するカーボンナノチューブにガス検知機能を発揮させる上で、超音波振動を与える処理が有効であることがわかる。
【0051】
(実施例1)
(ポリマー組成物の調整)
ポリマー成分としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂を用いた。
カーボンナノチューブとしては、先述のマルチウォールカーボンナノチューブ(直径約140nm、長さ約7μm)を用いた。
溶剤のメチルエチルケトン(MEK)10gに、前記ポリマー成分0.87gを溶解させてポリマー溶液を作製し、該ポリマー溶液にカーボンナノチューブ0.25g加えて超音波振動を与えて均一分散させ液状のポリマー組成物(分散液)を作製した。
【0052】
(水素検知部の形成)
ガラス基板上に、分散液をコーティングした後、乾燥固化させ、厚み:約0.1mm、幅:約5mm、長さ:約5mmのフィルム状の水素検知部を作製した。
【0053】
(水素ガスセンサーの作製)
この水素検知部の両端にそれぞれ縦:0.45mm、横:0.9mmの電極材(金)を接着・固定し、電極間距離(水素検知部露出部長さ)が2.3mmとなるようにし、この電極に直流電源を接続するとともに電極間の電流値を測定するための電流計を接続して水素ガスセンサーを作製した(図3参照)。
【0054】
(評価1)
実施例において作製された水素ガスセンサーの水素検知部をチャンバー内に配置し、該チャンバーに水素ガスならびに空気(乾燥空気)を流通させて、電極間の印加電圧値と電流値とを観測した。
結果を、図4に示す。
【0055】
(評価2)
実施例において作製された水素ガスセンサーの水素検知部をチャンバー内に配置し、該チャンバーに水素ガス、窒素ガス、空気(乾燥空気)を流通させて、電極間の印加電圧値と電流値とを観測した。
結果を、図5に示す。
【0056】
(評価3)
実施例において作製された水素ガスセンサーの水素検知部をチャンバー内に配置し、該チャンバーに水素ガス、メタンガス、空気(乾燥空気)を流通させて、電極間の印加電圧値と電流値とを観測した。
結果を、図6に示す。
【0057】
(評価4)
実施例において作製された水素ガスセンサーの水素検知部をチャンバー内に配置し、電極間に8Vの電圧をかけた状態で、前記チャンバーに水素ガスと空気(乾燥空気)とを交互に流入させて電極間に流れる電流値を観測した。
結果を、図7に示す。
【0058】
この図4~7に示す結果からもわかるように、実施例において作製された水素ガスセンサーは、水素ガスを選択的に検知することができ、しかも、良好な応答特性を有していることがわかる。
また、実施例において作製された水素ガスセンサーは、特殊な電極材を必要とせず、簡便に取り扱い得るものである事もわかる。
【0059】
(評価5:各種ガスの検知)
次に上記実施例1のガス(水素ガス)センサーを、各種ガスの検知に用いる事例を示す。
図8は、実施例において作製されたガスセンサーのガス検知部をチャンバー内に配置し、該チャンバーに水素ガス、メタンガス、空気(乾燥空気)、アルゴンガス、窒素ガス、炭酸ガスを流通させて、電極間の印加電圧値と電流値とを観測した結果を示すグラフである。
この図8にも示されているように、ガスによって電流値が異なることがわかる。
【0060】
(ガスの熱伝導率とガス検知部の電気伝導度との関係について)
この各種ガスによる測定結果の内、各ガスの7V印加時における電流値を表2に示す。
【0061】
【表2】
JP0005140493B2_000003t.gif

【0062】
また、各種ガスの50℃及び100℃における熱伝導率を表3に示す。
【0063】
【表3】
JP0005140493B2_000004t.gif

【0064】
この各種ガスをガス検知部に接触させ、電極間に7Vの電圧を印加した際における電流値と各種ガスの熱伝導率との関係を電流値を横軸に、熱伝導率を縦軸(対数表示)にとって関係を整理すると図9のようになる。
この図9から、ガス検知部に接触されるガスの熱伝導率と電流値との間に強い相関関係があることがわかる。
【0065】
(評価6:ヘリウムガスセンサーとしての応用)
上記に示したガスの熱伝導率と電極間に流れる電流値との相関関係については、水素ガスと同様に他のガスに比べて高い熱伝導率を有するヘリウムガス(100℃における熱伝導率が、0.18W/mK)をチャンバー内に流通させ、電極間の印加電圧値と電流値とを観測することによって得られたグラフ(図10)からも確認することができる。
すなわち、水素ガスと同様に他のガスに比べて高い熱伝導率を有するヘリウムガスは、ガス検知部への印加電圧値と電流値との関係において、水素ガスに近い結果が得られたことからも、検知するガスの熱伝導率と電極間に流れる電流値との間に強い相関関係があることがわかる。
【0066】
(実施例2)
(ガスセンサーの製造:クラスター形成)
実施例1と同様に、カーボンナノチューブが分散された液状のポリマー組成物(分散液)を作製し、ガラス基板上に先端部を50μm離した状態で設けられた針電極の間に前記分散液を滴下してガラス基板上に液膜を形成させ、その状態で針電極に高周波の交流電圧を印加してクラスター形成を行った。
このクラスター形成がされた液膜を乾燥固化してガス検知部を作製すると共に、この針電極を電気伝導度測定手段の電極としてそのまま用いガスセンサーを作製した。
【0067】
このとき周波数及び電圧を変化させることでクラスターの形成がどのように変化するかを確認した。
なお、電圧印加直後から、針電極間の電流値が約3倍程度に増大し、SEMによる観察でもクラスターが確認されたものを“○”として判定した。
また、クラスターが確認されなかったものを“×”として判定し、一部クラスター形成がされているものを“△”として判定した。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
JP0005140493B2_000005t.gif

【0069】
この表から周波数を1.5MHz~4.0MHzの範囲の内のいずれかとすることで3~5Vの低い電圧でクラスターを形成させうることがわかる。
また、1.5MHz~3.0MHzの範囲の内のいずれかとされることでより確実にクラスターの形成がなされることがわかる。
【0070】
(評価7)
上記表4に示す条件の内、(3V/2MHz)、(3V/3MHz)、(4V/2MHz)、(4V/3MHz)の4条件にて作製されたガスセンサーを、チャンバー内に配置し、該チャンバーに水素ガスを流通させて、電極間の印加電圧値と電流値とを観測した。
結果を、図11に示す。
この図11からは、周波数を3MHz以上とし、且つ、電圧を4V以上にすることで特に感度の優れたガスセンサー(ガス検知部)が得られることがわかる。
【0071】
(評価8)
また、(3V/2.75MHz)なる条件にて作製されたものを用いて、チャンバー内に水素ガスと空気とを流通させて、電極間の印加電圧値と電流値とを観測した。
結果を、図12に示す。
この図12からは、水素と空気との区別が2~3Vの低い電圧で実施でき、図4~図6に示した結果に比べて検知感度が向上されていることがわかる。
【0072】
以上のように本発明によれば、優れたガスセンサーが得られることがわかる。
また、水素をプロトン化する必要も無く電極部の形成材料が特殊なものに限定されないこともわかる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1a】超音波振動によってカーボンナノチューブが分散されたフィルム状水素検知部の表面写真(SEM像)。
【図1b】超臨界流体によってカーボンナノチューブが分散されたフィルム状水素検知部の表面写真(SEM像)。
【図2】水素検知部の形成方法の違いによる電気伝導度の違いを示すグラフ。
【図3】評価に用いた水素ガスセンサーの要部を示す概略斜視図。
【図4】水素ガスセンサーの水素検知性能(電圧—電流特性)を示すグラフ。
【図5】水素ガスセンサーの水素検知性能(電圧—電流特性)を示すグラフ。
【図6】水素ガスセンサーの水素検知性能(電圧—電流特性)を示すグラフ。
【図7】水素ガスセンサーの応答特性を示すグラフ。
【図8】各種ガスの検知性能(電圧—電流特性)を示すグラフ。
【図9】ガスの熱伝導率と電流値との関係を示すグラフ。
【図10】水素ガス、ヘリウムガスの検知性能(電圧—電流特性)対比グラフ。
【図11】クラスター形成によるガス検知性能(電圧—電流特性)比較グラフ。
【図12】ガス検知部にクラスター形成されているガスセンサーによるガス検知性能(電圧—電流特性)を示すグラフ。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10】
8
【図11】
9
【図12】
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【図1a】
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【図1b】
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