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明細書 :セルロース原料の分解能を有する微生物、及びこれを用いたセルロース原料の分解処理方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5769187号 (P5769187)
公開番号 特開2011-200184 (P2011-200184A)
登録日 平成27年7月3日(2015.7.3)
発行日 平成27年8月26日(2015.8.26)
公開日 平成23年10月13日(2011.10.13)
発明の名称または考案の名称 セルロース原料の分解能を有する微生物、及びこれを用いたセルロース原料の分解処理方法
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
C12P   7/06        (2006.01)
FI C12N 1/20 ZNAA
C12P 7/06
請求項の数または発明の数 3
微生物の受託番号 NPMD NITE P-891
NPMD NITE P-892
全頁数 11
出願番号 特願2010-072056 (P2010-072056)
出願日 平成22年3月26日(2010.3.26)
審査請求日 平成25年1月31日(2013.1.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】山田 守
【氏名】藤元 奈保子
審査官 【審査官】鳥居 敬司
参考文献・文献 日本農芸化学会大会講演要旨集, 2010.03.05, Vol.2010, p.291
調査した分野 C12N 1/00-1/38
C12P 7/00-7/66
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の性質を有することを特徴とするバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)菌株であって、受託番号がNITE P-891で寄託されたバチルス・リケニフォルミス R8菌株、又は、受託番号がNITE P-892で寄託されたバチルス・リケニフォルミス R15菌株
(1)38-45℃の温度条件下で生存及び増殖が可能
(2)セルロースを分解して還元糖を生産可能
(3)セルロース原料を糖源としてエタノールを生成可能
【請求項2】
請求項1に記載のバチルス・リケニフォルミス菌株を用いる、セルロース原料の分解処理方法
【請求項3】
請求項1に記載のバチルス・リケニフォルミス菌株を用いる、エタノールの生産方法
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、38-45℃という高温条件下でセルロース原料(以下「セルロース系バイオマス」ともいう)の分解及びエタノール生産が可能な微生物株及びこれを用いたセルロース原料の分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油代替燃料として、微生物が様々な原料から発酵生産するバイオエタノールは化石燃料と異なり、いわゆるカーボン・ニュートラルな燃料として地球温暖化対策に寄与するものとして期待されている。しかしながら現状では、特に食糧と競合しないセルロース系バイオマスからのエタノール生産においては、コスト面での問題が大きく、産業化には到っていないのが現状である。
【0003】
セルロース系バイオマスの利用、セルロース系バイオマスからのバイオエタノール生産には、主成分であるセルロースがグルコースのグリコシド結合によって形成される直鎖状のポリマーであることから、このグリコシド結合を切断して(セルロースを分解処理して)グルコースを生じさせ、得られたグルコースを糖源としてエタノール発酵をさせるための技術が開発されている。セルロースの分解方法には主として化学的な処理方法、すなわち高温・高圧・強酸の条件下でグリコシド結合を切断する方法(特許文献1)と、生物学的な処理方法、すなわちセルラーゼなどのセルロース分解を触媒する酵素を用いる方法(特許文献2)が知られている。
【0004】
セルロースの化学的な処理が環境への負荷が高い処理方法であることから、環境への負荷が相対的に低い、生物学的にセルロースを分解するための方法の開発が試みられている。各種生物に由来するセルラーゼはその代表的な例であり、細菌(特許文献3)、糸状菌(特許文献4)、原生動物(特許文献5)等から単離されたセルラーゼが開示されている。
【0005】
更に、セルロース分解能力を持つ微生物自体に着目し、いわゆる発酵によって生きた微生物にセルロースを分解させる方法が、再利用可能という点からも期待されているが、工業的な実用レベルには至っていないのが現状である。セルロースを微生物に分解させる方法としては、遺伝子組換えにより、通常発酵に用いられる微生物に他種生物由来のセルロース分解酵素を組み込んで発現させる方法(特許文献6)があげられるが、組み換え生物の環境への放出の観点等から実現していない。
【0006】
一方、セルロース分解能/セルロース分解酵素産生能を有する微生物株の利用としては、バチルス属微生物(Bacillus sp.)KSM-N257株(FERM P-17473;特許文献7)、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P-18508;特許文献8)、セルロモナス属微生物K32A株(特許文献9)、バチルス属微生物KSM-330(微工研菌寄第11223号;特許文献10)などが開示されている。それぞれ所定の有用性を示すものの、産業的にセルロースを微生物発酵により分解しグルコースを産生するか、またはセルロースそのものから微生物発酵工程でエタノールを生産するには至っていないのが現状であった。
【0007】
加えて、微生物を用いた有用物質の発酵生産においては、微生物が原料を代謝する過程で生じる発酵熱が発酵微生物自身の活性を大幅に低下させることが問題となっている。現状ではほとんどの場合、発酵槽に冷却装置を併設し、発酵槽内の温度を一定範囲に保つという形でこの問題を解決しているが、コストダウン、省エネルギーの観点から、幾つかの系では、それぞれの菌種・菌株で通常適用されている温度条件よりも高い温度条件下でも生理活性を保つという形質(本発明においてはこの形質を「耐熱性」と定義する)を有する微生物株を用いる試みがなされている。しかしながら、微生物を用いたセルロース系バイオマスの発酵分解に関する技術では、この様なアプローチはなされていない。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特許第4330839号 グルコース及び/又は水溶性セロオリゴ糖の製造方法
【特許文献2】特許第3075609号 セロオリゴ糖の製造方法
【特許文献3】特許第4392778号 新規なセルラーゼを産生する放線菌、その放線菌が産生するセルラーゼ、およびそのセルラーゼを作成する方法
【特許文献4】特許第3962805号 セルラーゼ活性を有するタンパク質およびその製造法
【特許文献5】特許第4224601号 シロアリ共生原生動物由来のセルラーゼ遺伝子
【特許文献6】特許第4017824号 エンドグルカナーゼ酵素およびそれを含んでなるセルラーゼ調製物
【特許文献7】特許第4382994号 新規アルカリセルラーゼ
【特許文献8】特許第4025848号 セルロース原料の分解方法
【特許文献9】特許第3710997号 新規微生物、同微生物産生酵素および同酵素を用いる植物繊維分解方法
【特許文献10】特許第2929023号 セルラーゼ及びこれを産生する微生物及びセルラーゼの製造法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の現状に鑑み、本発明は、セルロース原料を発酵により分解可能で、かつ発酵による温度上昇に耐えうる微生物株、及びこれを用いたセルロース原料の分解処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決のため、本発明者らは、セルロース分解能力を有する微生物叢(Microbial flora)としてウシルーメン内の微生物群集に着目し、ここに存在する微生物から(1)セルロースのみを糖源とする (2)40℃近辺という高い温度域で培養 という2つのスクリーニング過程を経て培養可能な微生物株の探索を行った。この結果、通性好気性のグラム陽性桿菌の一種バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)の特定の菌株が、セルロース分解能、40℃近辺での高い生理活性という形質を有することを見いだし、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明の第1の態様は、以下の性質を有することを特徴とするバチルス・リケニフォルミス(Bacillus
licheniformis)菌株であって、受託番号がNITE P-891で寄託されたバチルス・リケニフォルミス R8菌株、又は、受託番号がNITE P-892で寄託されたバチルス・リケニフォルミス R15菌株を提供する。
(1)38-45℃の温度条件下で生存及び増殖が可能
(2)セルロースを分解して還元糖を生産可能
(3)セルロース原料を糖源としてエタノールを生成可能

【0014】
本発明の第の態様は、第1の態様に記載のバチルス・リケニフォルミス菌株を用いる、セルロース原料の分解処理方法を提供する。

【0015】
本発明の第の態様は、第1の態様に記載のバチルス・リケニフォルミス菌株を用いる、エタノールの生産方法を提供する。
【0016】
なおバチルス属細菌に関しては、耐熱性を有する酵素が幾つかの事例で単離されており(特開2006-149374、特開2001-057852、特表2002-529610)、またバチルス属細菌ではないが耐熱性のセルラーゼ及びこれを生産する微生物株(特許第3512981号、特公平7-2113)も提示されているが、これらの発明における『耐熱性』とは、バチルス属細菌が休眠状態に入る際に芽胞を形成しこの芽胞が60℃以上の高温にも耐えうるという観察結果より導かれたもので、主として60℃以上の温度域において酵素自身が活性を失わないという意味での耐熱性であり、本発明における、微生物自身が高い温度条件下で生理活性を失わないという意味での「耐熱性」とは異なる技術思想に基づく発明である。更にバチルス・リケニフォルミス種に関しては、下記実施例にも示すとおり、その標準的な菌株ではセルロース原料を糖源とした生育も38℃以上の増殖もエタノール生産能も認められないため、上記の『耐熱性』やセルロース分解能、エタノール生産能についてもバチルス属細菌に一般的に認められるものではなく、本発明の菌株がバチルス・リケニフォルミス種の中でも際だった性質を有することを示している。
【発明の効果】
【0017】
本発明を利用することにより、セルロース系バイオマスの分解処理、セルロース系バイオマスからのエタノール生産を40℃近辺という高い温度条件下で効率的に行うことが可能となる。有用物質の発酵生産におけるコストの大きな部分が発酵熱の冷却コストに起因することから、本発明は特に冷却コストを抑えたセルロース原料からのバイオエタノール生産を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】耐熱性セルロース分解菌のスクリーニング結果を示す。
【図2】耐熱性セルロース分解菌のセルロース分解能を菌株ごとに比較して示す。
【図3】静置・撹拌条件下におけるセルロース分解能を菌株ごとに比較して示す。
【図4】セルロース分解能を持つ既存の微生物株、及びバチルス・リケニフォルミス標準株と本発明の菌株におけるセルロース分解能を比較して示す。
【図5】バチルス・リケニフォルミス標準株と本発明の菌株における42℃における生育とセルロース分解の経時変化を比較して示す。
【図6】バチルス・リケニフォルミス標準株と本発明の菌株における42℃における生育とエタノール生産の経時変化を比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を実施するための形態を示す。本発明は、38-45℃、より好ましくは40-45℃という高い温度条件下で生存及び増殖が可能、セルロース原料の分解処理(セルロースを分解して還元糖を生産可能)が可能という2つの形質を有するバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)菌株を提供し、好ましい態様として具体的な菌株としては、下記実施例に記載のR1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16菌株のうちいずれかより選択される菌株、より好ましい態様としては受託番号がNITE P-891で寄託された、バチルス・リケニフォルミス R8菌株、または受託番号がNITE P-892で寄託された、バチルス・リケニフォルミス R15菌株を提供する。

【0020】
バチルス・リケニフォルミスはグラム陽性の桿菌の一種で、土壌中や鳥類の羽毛中に普遍的に観察される菌種であり、また食品の腐敗の原因菌としても知られる。培養条件下における生育の至適温度は30℃近辺(バチルス・リケニフォルミス)であり、セルロース分解との関連性、バイオエタノール生産との関連性などには着目されていなかった。下記実施例に示すとおり、セルロース分解能を有する糸状菌の一種トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)との比較において、30℃という通常用いられる温度ではトリコデルマの方がR8,R15菌株よりも高いセルロース分解能を示すが、40℃ではこれが逆転し、41-42℃ではトリコデルマのセルロース分解能がほぼ0になるのに対しR8,R15菌株はこの温度でも旺盛なセルロース分解能を示すことが本発明者らにより明らかにされ、更に、下記実施例に示すとおり本発明の提供する菌株のセルロース分解能に関しては、静置条件の方が通常用いられる撹拌条件よりも約4-12倍も高いセルロース分解能を示すため、これまでの着眼点ではバチルス・リケニフォルミスの特定の菌株におけるセルロース分解と耐熱性に関する潜在能力が見逃されてきた可能性がある。

【0021】
本発明においては、ウシのルーメン内に存在する微生物群集を採取し、セルロースのみを糖源とし40℃近辺の温度条件下で培養するというスクリーニングにより、R8及びR15菌株を単離したが、ウシルーメン内に常在する微生物とセルロースに関する先行研究(半田ら、日本微生物生態学会講演要旨集20 pp39)においては、ブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens)、プレボテラ属(Prevotella)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)、ルミノバクター・アミロフィルス(Ruminobacter amylophilus)、コリネバクテリウム・ビタルーメン(Corynebacterium vitarumen)及び系統不明の細菌が報告されているが、バチルス・リケニフォルミスとルーメン、及びセルロース分解とを結びつけるような報告は無く、本発明の着眼点がこれまでの着眼点とは異なっていたことを示している。

【0022】
本発明の提供するバチルス・リケニフォルミスR8菌株は、16s rDNAの塩基配列において配列番号1に記載の塩基配列を有し、45℃で生存可能、カルボキシメチルセルロース(CMC)を唯一の糖源として培養したとき、48時間で約0.4mg/mlの還元糖を、72時間で約0.85mg/mlの還元糖をそれぞれ生成可能で、かつセルロース原料を糖源として48時間で約0.0055%のエタノールを、72時間で約0.0065%のエタノールをそれぞれ生成可能という特徴を持つ菌株である。

【0023】
本発明の態様におけるR15菌株(寄託番号:NITE P-892)についても、上記態様におけるR8菌株と同じスクリーニングにより単離された菌株であり、16s rDNAの塩基配列において配列番号2に記載の塩基配列を有し、45℃で生存可能、CMCを唯一の糖源として培養したとき、48時間で約0.3mg/mlの還元糖を、72時間で0.7mg/mlの還元糖をそれぞれ生成可能で、かつセルロース原料を糖源として48時間で約0.0035%のエタノールを、72時間で約0.005%のエタノールをそれぞれ生成可能という特徴を持つ菌株である。

【0024】
本発明の提供する菌株が利用可能なセルロース原料とは、植物が合成するセルロースを主成分とする繊維質の原料であればどのようなものであっても良く、セルロース以外の植物細胞壁成分、例えばヘミセルロースやリグニン等を含んでいても良い。また形態も、刈り取った植物体を物理的に細かく破砕したもの、パルプかす、加工野菜残渣、パガス、廃材チップ、稲わら、古紙等、セルロースを主成分とするものであればどのようなものであっても良い。

【0025】
本発明の提供する菌株を用いたセルロース原料の分解処理方法とは、直接・間接を問わずセルロース原料を本発明の提供する菌株を用いて発酵的に分解する方法を指し、その形態は問わない。また本菌株を用いたセルロース原料の分解処理方法とは、セルロース原料からの糖類(好ましくは単糖類、より好ましくは還元糖である単糖類)の生成方法も含むものである。この中でも特に、反応液を撹拌しない、静置条件下でのセルロース原料の分解処理方法に本発明の提供する菌株は適している。
上記態様で得られたセルロース原料に由来する糖類は、他の発酵工程と組み合わせるための原料とすることができる。

【0026】
本発明の提供する菌株はまた、エタノールの生産方法、より好ましくはセルロース原料からのエタノールの生産方法にも適用可能である。ここでいうエタノール生産方法とは、原料の糖化からエタノール発酵までのプロセスを包含するものであり、いずれのプロセスであっても本発明の提供する菌株を用いるエタノールの生産方法であれば、それは本発明に含まれるべきものである。このとき、利用可能な態様は大別して(A)セルロース原料を分解して糖類を生成し、得られた糖類を他種のエタノール発酵微生物、好ましくはサッカロマイセス、クリベロマイセス属等の酵母やザイモモナス属細菌、ザイモバクター属細菌によるエタノール生産の基質とする (B)セルロース原料から本発明の提供する菌株のうち好適なものを用いてエタノールを生産する の2つの態様が利用可能である。(A)の態様においては、セルロース原料を本発明の菌株を用いて発酵分解する工程と、セルロース原料から得られた糖類を原料に上記他種のエタノール発酵微生物を用いてエタノール発酵を行う工程が考えられるが、これは同一の発酵槽内であっても別々の発酵槽内であっても良い。一方(B)では、同一の発酵槽内でセルロース原料から本発明の提供する菌株のうち好適なものを用いて直接エタノール発酵を行うことが可能である。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
(菌株のスクリーニング)山口大学附属農場で飼育しているウシ(肉牛、メス)よりルーメン液を採取し、0.2%カルボキシメチルセルロース(CMC)、0.67%イーストニトロゲンベースw/oアミノ酸・硫酸アンモニウム、0.02%ペプトン、1.7%寒天を含むCMC寒天培地プレートに10μlを塗り広げ、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、45℃で一晩生育させた。それぞれのプレートに生じたコロニーをカウントしたところ、図1Aの通りの結果が得られた。これらのコロニーのうち、より耐熱性が高い菌株として、42℃で生育したコロニーをR1~R8、45℃で生育したコロニーをR9~R16とそれぞれ命名した。これらのコロニーを再度上記のCMC寒天培地プレートにスポットし、45℃で一晩培養した結果が図1Cで、どの菌株もこの温度条件下でよく生育した。またこのプレートをヨウ素カリウム2g、ヨウ素1gを蒸留水300mlに溶かした染色液で染色した結果が図1Bである。この染色によりセルロース成分が暗色に染まるが、コロニーが生じた部分ではセルロース成分が分解されているため染色が起こらない。
【実施例1】
【0028】
(耐熱性セルロース分解菌のカルボキシメチルセルロース分解能)上記で得られた各菌株を、2%カルボキシメチルセルロース、0.67%イーストニトロゲンベースw/oアミノ酸・硫酸アンモニウム、0.02%ペプトンを含む液体培地5mlに植菌し、42℃の静置条件で72時間生育させた。培養開始から48時間後、72時間後の培地を採取し遠心分離機で培地上清を得た。これらの培地上清の還元糖をジニトロサリチル酸法(DNSA法;Miller 1959.Anal.Chem 31 以下同じ)によって測定した。
図2に、スクリーニングで得られた各菌株のCMC分解能を比較して示す。図中R1,R2…は各菌株を表し、縦軸は培養液中の還元糖量(mg/ml)を示し、これがCMC分解能の指標である。白い棒グラフは培養開始後48時間の結果を、黒い棒グラフは72時間の結果をそれぞれ表している。グラフが示す通り、特に72時間後の還元糖量に着目すると、R8株が0.8mg/mlと最も多く、次いでR15株が約0.75mg/mlという結果となった。
【実施例1】
【0029】
(静置・撹拌条件での比較)上記の各菌株を、2%カルボキシメチルセルロース、0.67%イーストニトロゲンベースw/oアミノ酸・硫酸アンモニウム、0.02%ペプトンを含む液体培地5mlに植菌し、42℃において、静置、撹拌それぞれの条件で48時間生育させた。48時間後の培地を採取し遠心分離機で培地上清を得た。これらの培地上清の還元糖をジニトロサリチル酸法によって測定した。
図3に、静置・撹拌条件での各菌株のCMC分解能を比較して示す。図中R1,R2…は各菌株を、縦軸は培養液中の還元糖量(mg/ml)を示し、薄い灰色の棒グラフは静置条件下での結果を、濃い灰色の棒グラフは撹拌条件下での結果をそれぞれ表している。グラフが示す通り、全ての菌株で静置条件の方が撹拌条件よりもよくCMCを分解し、特にR7菌株(約0.43mg/ml)、R8菌株(約0.4mg/ml)、R15菌株(0.3mg/ml)でその活性が高かった。
【実施例1】
【0030】
図2と図3での結果を総合し、R7株が72時間後の還元糖量が少ないことから、以後、セルロース分解能が高い菌株として、R8菌株とR15菌株の2つを検証に用いた。また定法に従い、これらの菌株からゲノムDNAを抽出し、16s rDNAの塩基配列を決定したところ、R8株が配列番号1の塩基配列を、R15株が配列番号2の塩基配列を、それぞれ有することが明らかとなった。これらの塩基配列をBLAST用い、既存のものと比較したところ、バチルス・リケニフォルミス種の細菌とほぼ一致(99%以上)したため、本菌株をバチルス・リケニフォルミス種と同定した。
【実施例1】
【0031】
(他種菌株との比較) R8,R15菌株が示したセルロース分解能を、同種の他菌株、及び他種のセルロース分解菌と比較した。同種の比較対象としては、バチルス・リケニフォルミス NBRC12220菌株(同種の標準菌株)を、他種の比較対象としては、糸状菌類の一種トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)NBRC31329菌株を選択した。
2%カルボキシメチルセルロース、0.67%イーストニトロゲンベースw/oアミノ酸・硫酸アンモニウム、0.02%ペプトンを含む液体培地5mlに各菌株を植菌し、30℃、37℃、39℃、40℃、41℃、42℃の静置条件で72時間生育させた。72時間後の培地を採取し、遠心分離機で培地上清を得た。これらの培地上清の還元糖量を、ジニトロサリチル酸法により測定した。
【実施例1】
【0032】
図4に、本発明の菌株及び他菌株との比較結果を示す。グラフ横軸は各温度条件(staは静置条件を示す)を、縦軸は培養液中の還元糖量(mg/ml)を示し、白い棒グラフはR8菌株、黒い棒グラフはR15菌株、薄い灰色のグラフはトリコデルマ・リーセイNBRC31329菌株、濃い灰色のグラフはバチルス・リケニフォルミスNBRC12200菌株の結果をそれぞれ表している。グラフ左寄り、30℃と37℃においては、トリコデルマが最も高いセルロース分解能を示し、反対にバチルス・リケニフォルミスの標準菌株ではセルロース分解能を全く示さなかった。一方、39℃では本発明の2菌株とトリコデルマのセルロース分解能がほぼ同程度になり、40℃以上では逆転した。特に41℃、42℃においては、トリコデルマがほとんどセルロースを分解できないのに対し、本発明の菌株は旺盛なセルロース分解能を維持しており、高温条件下における本発明の菌株の高いセルロース分解能が示された。
【実施例1】
【0033】
(R8,R15菌株の生育とセルロース分解、及びエタノール生産の経時変化)本発明の菌株の生育とセルロース分解、及び生育とエタノール生産の経時変化を、バチルス・リケニフォルミス標準菌株(NBRC12200菌株)との間で比較した。2%カルボキシメチルセルロース、0.67%イーストニトロゲンベースw/oアミノ酸・硫酸アンモニウム、0.02%ペプトンを含む液体培地30mlに各菌株を植菌し、42℃の静置条件で72時間生育させた。0,24,48,72時間後の培地を採取し、遠心分離機で培地上清を得た。これらの培地上清に含まれる還元糖量をジニトロサリチル酸法によって、エタノール量を酢酸菌由来の精製アルコールデヒドロゲナーゼを用いた方法(Adachi et al.1978.Agric.Biol.Chem.42)によってそれぞれ測定した。
【実施例1】
【0034】
図5に、生育とセルロース分解の経時変化を示す。グラフ横軸は培養開始からの時間を、左縦軸は生育の指標としてのOD600値(棒グラフに対応)を、右縦軸は培養液中の還元糖量(mg/ml 折れ線グラフに対応)を表し、白い棒グラフはR8菌株の生育、黒い棒グラフはR15菌株の生育、薄い灰色の棒グラフは標準菌株の生育を表し、折れ線—○—はR8菌株のセルロース分解、折れ線—●—はR15菌株のセルロース分解、折れ線—△—は標準菌株のセルロース分解をそれぞれ表す。グラフが示す通り、この温度(42℃)においては、標準菌株が24時間までに幾らかの増殖は示すものの48-72時間では減少するのに対し、本発明の2菌株、特にR8菌株は高い増殖能を示した。R15菌株ではR8菌株に比べ若干増殖能は劣るものの、72時間後には培養液中の還元糖量がR8菌株とほぼ同程度にまでなり、菌体あたりのセルロース分解能という観点では優れた性質を示した。この系では標準菌株はまったくセルロースを分解せず、本発明の菌株の特殊性が裏付けられた。
【実施例1】
【0035】
図6に、生育とエタノール生産の経時変化を示す。グラフ横軸は培養開始からの時間を、左縦軸は生育の指標としてのOD600値(棒グラフに対応)を、右縦軸は培養液中のエタノール濃度(% 折れ線グラフに対応)を表し、白い棒グラフはR8菌株の生育、黒い棒グラフはR15菌株の生育、薄い灰色の棒グラフは標準菌株の生育を表し、折れ線—○—はR8菌株のエタノール生産、折れ線—●—はR15菌株のエタノール生産、折れ線—△—は標準菌株のエタノール生産をそれぞれ表す。グラフが示す通り、この温度においてR8菌株は、セルロースのみを糖源とした高いエタノール生産能を示し、24時間で約0.002%、48時間で約0.0055%、72時間で約0.0065%であった。一方R15株も、立ち上がりは若干遅いもののエタノール生産能を示し、48時間で約0.003%、72時間で約0.005%であった。

図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図1】
5