TOP > 国内特許検索 > 標的結合部を有する薬剤運搬体 > 明細書

明細書 :標的結合部を有する薬剤運搬体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5529609号 (P5529609)
公開番号 特開2011-207830 (P2011-207830A)
登録日 平成26年4月25日(2014.4.25)
発行日 平成26年6月25日(2014.6.25)
公開日 平成23年10月20日(2011.10.20)
発明の名称または考案の名称 標的結合部を有する薬剤運搬体
国際特許分類 A61K  47/42        (2006.01)
A61K  31/4745      (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
FI A61K 47/42
A61K 31/4745
A61P 35/00
請求項の数または発明の数 1
全頁数 10
出願番号 特願2010-078300 (P2010-078300)
出願日 平成22年3月30日(2010.3.30)
審査請求日 平成25年2月7日(2013.2.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
発明者または考案者 【氏名】乾 隆
個別代理人の代理人 【識別番号】100118924、【弁理士】、【氏名又は名称】廣幸 正樹
審査官 【審査官】平井 裕彰
参考文献・文献 特表2004-506439(JP,A)
特開2008-120793(JP,A)
特表2006-528954(JP,A)
特表2000-507210(JP,A)
調査した分野 A61K 9/00~ 9/72
47/00~47/48
31/00~31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
Asp-Gly-Argであるペプチド配列を、リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素のN末端に付与した合成物で、SN-38を溶解した薬剤運搬体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性の薬剤を、目的となる生体内の場所や部位、細胞に選択的に運搬する薬剤運搬体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム創薬研究により発見された標的受容体へ作用する医薬候補化合物は、総じて分子量が大きく、水に対する溶解度が低い。また、現在使用されている薬剤の中にも疎水性が高く、難水溶性であるものが少なくない。化学修飾法により水溶性は高められるが、薬剤活性が減じられる場合が多い。薬剤活性の高い難水溶性薬剤を効率的に疾患部に輸送できれば、難水溶性薬剤の臨床応用例を拡大し、製薬企業で困難を極めていた薬剤溶解度に対する問題を解決することができる。
【0003】
この課題に対して技術面で鍵を握っているのが、難水溶性薬剤を可溶化し標的まで輸送するとともに、その薬剤を細胞内で効率的に機能発現させることのできるドラッグ・デリバリー・システム(DDS)の開発である。
【0004】
このようなDDSのアイデアはすでに開示されているものがある。特許文献1では、標的結合成分と腔形成成分と薬理学的化合物を含む複合体であって、薬理学的化合物が腔形成成分の腔中に存在する複合体が開示されている。ここで開示されている複合体の使い方は、対象が発現するレセプター等の標的に対して、特異的に結合する腔を有するたんぱく質(特にNGFファミリーやインターロイキン、GM-CSF、EGF、FGF、バルナーゼ、T4リゾチーム、TGFb、IgG等)を選定し、その腔中に対象に対して薬剤効果を有する薬剤の中から実際に吸蔵させることのできる薬剤を選択する。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2000-507210号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、神経芽細胞腫を対象とし、対象が過剰に発現する標的をtrkAレセプターとし、標的結合成分と腔形成成分を有するたんぱく質としてNGFを示してあるものの、それ以上の具体的な開示がなく、NGFに何をどのように吸蔵させるのかという点については、概念が示されているに過ぎない。
【0007】
従って、難水溶性の薬剤を可溶化し、疾患部に郵送し薬剤の効力を発揮させるDDSシステムについては、依然として提供されたものとは言えない。本発明は、このような状況に鑑み、より具体的に難水溶性の薬剤を可溶化して疾患部に郵送するDDSシステムを開発する目的で想到されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、難水溶性薬剤運搬機能、及びがん細胞認識機能を併せ持つ薬剤運搬体(インテリジェント人工蛋白質(iAP)とも呼ぶ)を創製し、臨床応用化を提案するものである。そして、薬剤運搬体の本体部の鋳型蛋白質として、生体内輸送蛋白質であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)を用いる。すなわち、リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素のN末端若しくはC末端に、標的への結合部分を連結した蛋白質を提供する。
【0009】
リポカリン蛋白質は、レチノイド、甲状腺ホルモン、性ホルモンやヘム代謝産物などの疎水性生理活性物質を結合し運搬する輸送蛋白質であり、疎水性低分子に対する結合親和性が高く、薬剤等の人工的な難水溶性低分子の輸送体となり得る。
【0010】
薬剤の運搬性としては、L-PGDSの疎水性ポケット内のアミノ酸に変異を導入することにより、使用する薬剤に対するテーラメード化を行い、結合親和性の差を利用し、薬剤毎にポケット内への保持特性を調整することができる。
【0011】
一方、結合部については、癌などの細胞をターゲットとする場合は、新生血管内皮細胞に発現する膜蛋白質(CD13)に対して、特異的に結合するペプチド配列(Asp-Gly-Arg (NGR)-motif)をL-PGDSのN末端に導入し、がん組織に対する標的化を行う。
【発明の効果】
【0012】
リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素は、体内産生物であり、拒絶反応や毒性といった一般的にDDSが有する課題を容易に乗り越えることができる。また、すでにアミノ酸配列も解析されており、ターゲットに対する標的結合部を含めて組み換え合成を行うことで、容易に産生することができる。このように本発明の薬剤運搬体は、分子選択的認識機能を持ち、がん組織を狙い撃つ「ナノキャリア蛋白質」の創製が可能となり、医薬品開発分野における新しい方向性を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の薬剤運搬体を示す概念図である。
【図2】リポカリンファミリーの例示である。
【図3】リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の詳細構造を示す図である。
【図4】SN-38をL-PGDSに溶解させて抗がん活性を調べたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1には、本発明の薬剤運搬体(インテリジェント人口蛋白質)の概念図を示す。薬剤運搬体1は、本体となるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素部分2と、標的結合部4を含む。本体であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素部分2は、リポカリンファミリーとして知られるリポカリン蛋白質を利用することができる。

【0015】
リポカリンファミリーは後述するようにバレル構造によってポケットを有しており、いわばコップのような形状をしている。ここに、難水溶性の薬剤6を収納することができる。またリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素部分2には標的結合部4を有しており、この部分が標的と結合することで薬剤6を目的とする部位に運搬する。

【0016】
リポカリンファミリーに属するリポカリン蛋白質は、アミノ酸残基が160~200個からなり、分子量が約2万程度の蛋白質である。また、アミノ酸配列の相同性が、20%程度であるにもかかわらず、その構造上の類似性は非常に高いことが知られている。

【0017】
図2には、リポカリンファミリーの一部を示す。レチノール結合蛋白質、主要尿蛋白質、ビリン結合蛋白質、β-ラクトグロブリン、ロブスタークラストシアニン、臭物質結合蛋白質などがリポカリンファミリーのメンバーである。

【0018】
これら、リポカリン蛋白質の折りたたみ構造は、連続的に水素結合した8本の逆平行のβシートからなり、疎水性低分子(リガンド)結合部を囲むようなバレル(樽)型になっている。8本のβシートをつなぐ7箇所のループは、6箇所が短いヘヤピンで、1箇所がオメガループであり、このオメガループがリガンド結合部の蓋の役割をすると考えられている。また、1つのαヘリックスを有する。すなわち、8本のバレル構造と1本のオメガループと、1つのαヘリックスを有する点がこれらリポカリンファミリーの構造上の類似点である。

【0019】
図3にこの構造をより詳細に示す。図3は、リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)の結晶構造の模式図である。8本のバレル構造(11乃至18)と1つのαへリックス(19)と1本のオメガループ(H2へリックス)(20)を有している。

【0020】
そもそも、L-PGDSは、シクロオキシゲナーゼの働きによりアラキドン酸から合成されたPGHを基質として、PGDを合成する酵素である。PGDは、中枢神経系において、睡眠誘発、体温低下、黄体ホルモン分泌の抑制、痛みや匂いの応答調節などの作用を示し、末梢神経では、肥満細胞からアレルギーのメディエーターとして放出され、血管拡張、気管支収縮、血小板凝集阻害などの作用を示す物質である。

【0021】
そして、L-PGDSはリポカリンファミリーにも属しており、8本のバレル構造によって形成されるポケット部分は内側には疎水基が配置された構成になっているので、難水溶性の薬物をこのポケットに収容することで、水に溶解することができる。

【0022】
難水溶性の薬剤の水溶可能性については、ポケットの内側のアミノ酸に変異を導入して薬剤毎にポケット内への薬剤の保持特性を調整してもよい。なお、L-PGDSはそもそも酵素であるため、DDSとして使用する際には、酵素活性を失活させる必要がある。そのためには、N末端から43番目のシステイン(活性中心)を、アラニンに置換し、酵素活性を失活させる。

【0023】
標的結合部については、ターゲットに合わせて設計することができる。例えば、癌細胞の場合は、新生血管内皮細胞に発現する膜蛋白質(CD13)に対して特異的に結合するペプチド配列NGRを選択することができる。また、αvβ3インテグリンを認識するisoAsp-Gly-Arg (isoDGR)モチーフを遺伝子組換えによりL-PGDSのN末端、あるいはC末端に導入してもよい。

【0024】
また、胃がんの腹膜腫瘍を認識するLys-Leu-Pro(KLP)-モチーフ(Cancer Res, 97, 1075-81, 2006)、転移性がん細胞を認識するAsn-Val-Val-Arg-Gln (NVVRQ)モチーフ(Clin Cancer Res, 14, 5494-502, 2008)、肝がん細胞を認識するPhe-Gln-His-Pro-Ser-Phe-Ile(FQHPSFI)モチーフ(Mol Med, 13, 246-54, 2007)等も好適に利用できる。

【0025】
この標的結合部は本体であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素部分の末端に導入するのが好ましい。また、N末端であれば、組み換え体を作製する際により簡単であるので、より好ましい。

【0026】
本発明の薬剤運搬体に運搬させることのできる薬剤は、市販されている難水溶性抗がん剤が好適に利用できる。例えば、プロカルバジン(脳腫瘍)、ロムスチン(脳腫瘍)、 イリノテカン(大腸がん)、クロラムブシル(卵巣がん)、パクリタキセル(乳がん)、タモキシフェン(乳がん)等が挙げられる。

【0027】
本発明の薬剤運搬体は、標的結合部とともに組み換え体として得ることができる。組み換え体の作り方は、通常の方法に従ってよい。すなわち、L-PGDSをコードするcDNAをクローニングで得て、それを増幅し、インサートを調製する。このインサートと別途調製したベクターとをライゲーションする。

【0028】
こうして得たベクターを大腸菌に形質転換し、大腸菌を形質転換する。この大腸菌を培養して、本発明の薬剤運搬体を得ることができる。
【実施例】
【0029】
難溶性薬剤に対するL-PGDSの効果を確認した。7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシン(7-Ethyl-10-hidroxy-camptothecin:以後「SN-38」という。)は、中国原産のカンレンボクの樹皮と幹から単離されたキノリンアルカロイドであり、DNAトポイソメラーゼI阻害剤として知られている。トポイソメラーゼIが阻害されると、DNAの再結合反応が妨げられ、細胞はアポトーシスに至る。このため、SN-38は抗がん活性を有する。ところが、SN-38は、難溶性であるため、その類似物質であるイリノテカン塩酸塩(CPT-11)が、臨床的に用いられている。イリノテカンは、加水分解されることでSN-38となり活性する、いわゆるプロドラッグである。
【実施例】
【0030】
しかし、イリノテカンの代謝変換効率は投与された量の10%以下であり効率は低い。SN-38が直接溶解でき、患部に投与することができれば、癌治療を大いに促進する有用な手段であると考えられる。そこで、SN-38をL-PGDSを用いて可溶化し、その抗腫瘍効果を調べた。
【実施例】
【0031】
<薬液の調製>
2mMのL-PGDSを含むPBSに大過剰のSN-38を充分に懸濁し、0.2μmフィルターに通して不溶性粒子を除去したものをSN-38/L-PGDS溶液(490μM SN-38)とした。なお、L-PGDSは、酵素活性を消滅させた。
【実施例】
【0032】
<抗腫瘍活性測定>
7週齢のメスのBALB/cヌードマウスの脇腹に、ヒト大腸癌の細胞株DLD-1を5×10cells皮下投与した。腫瘍体積は、腫瘍体積=(長径×短径)/2の式から計算した。腫瘍体積が200mmに達したとき、SN-38/L-PGDS溶液(2匹)、または対照としてL-PGDS溶液(1匹、1回につき150μl)を0、3、6、9日目に腫瘍に直接投与した。
【実施例】
【0033】
図4に結果を示す。横軸は投与を開始してからの日数(日)であり、縦軸は上記の計算式から求めた腫瘍体積(mm)である。縦長の三角印は、SN-38/L-PGDS溶液、またはL-PGDS溶液を投与した日である。また、SN-38/L-PGDSを投与したマウスの腫瘍体積は黒三角と黒四角で示し、L-PGDSだけを投与したマウスは黒丸で示した。
【実施例】
【0034】
同じ腫瘍体積から始めて、投与後1日目ですでに、SN-38/L-PGDSを投与したマウスの腫瘍体積はL-PGDSだけを投与したマウスの腫瘍体積より小さかった。その後も、N-38/L-PGDSを投与したマウスの腫瘍体積はほとんど増加せず、9日目まで2匹の腫瘍体積は同程度の低い増加であった。一方、L-PGDSだけを投与したマウスは、2日目から4日目まではわずかな増加しかしなかったものの、その後日増しに腫瘍体積は増加した。
【実施例】
【0035】
以上のように、L-PGDS溶液を投与したマウス(黒丸)と比較して、SN-38/L-PGDS溶液を投与したマウス(黒三角、黒四角)は腫瘍体積の成長が抑制された。この結果から、L-PGDSがSN-38を可溶化すること、in vivoにおいて、L-PGDSによって可溶化したSN-38が抗腫瘍効果を発揮することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の薬剤運搬体は、生体内で薬剤を標的細胞へ運搬するという利用だけでなく、in vitroでの利用も可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 薬剤運搬体
2 本体
4 標的結合部
6 薬剤
11~18 バレル
19 αヘリオックス
20 オメガループ(H2へリックス)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3