TOP > 国内特許検索 > 骨充填材の製造方法 > 明細書

明細書 :骨充填材の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5783554号 (P5783554)
公開番号 特開2012-191981 (P2012-191981A)
登録日 平成27年7月31日(2015.7.31)
発行日 平成27年9月24日(2015.9.24)
公開日 平成24年10月11日(2012.10.11)
発明の名称または考案の名称 骨充填材の製造方法
国際特許分類 A61L  27/00        (2006.01)
B82Y   5/00        (2011.01)
B82Y  30/00        (2011.01)
FI A61L 27/00 M
B82Y 5/00
B82Y 30/00
請求項の数または発明の数 5
全頁数 12
出願番号 特願2011-056373 (P2011-056373)
出願日 平成23年3月15日(2011.3.15)
審査請求日 平成25年11月20日(2013.11.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】春日 敏宏
【氏名】山崎 秀司
【氏名】加藤 且也
【氏名】犬飼 恵一
個別代理人の代理人 【識別番号】110001036、【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
審査官 【審査官】常見 優
参考文献・文献 特開2011-015865(JP,A)
特開2009-061109(JP,A)
粘土科学討論会講演要旨集,Vol.51st Page.144-145 (2007.09.12)
歯科材料・器械,Vol.27 No.5 Page.433 (2008.09.05)
J. Ceram. Soc. Jpn., Vol.118 No.1378 Page.516-520 (2010)
Nano. Biomed., Vol.1 No.2 Page.109-120 (2009.12.30)
調査した分野 A61L15/00-33/18
A61F 2/00- 4/00
B82Y 5/00-99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ポリ乳酸の重合体及びポリ乳酸とポリグリコール酸との共重合体からなる群から選ばれる生分解性高分子からなる繊維構造体、または、炭酸カルシウムおよびケイ素含有炭酸カルシウムから選ばれる化合物を含む前記生分解性高分子の複合体からなる繊維構造体を、エレクトロスピニング法により布状または綿状に成形する成形工程と、
前記繊維構造体がマイナス側の一方の電極上に載せられた状態でイモゴライトまたはアロフェンからなるケイ酸アルミニウムナノ粒子の分散液中に浸漬され、かつ前記分散液中にプラス側の他方の電極が浸漬された状態で、両電極間に電圧をかけることにより、前記繊維構造体の表面に、静電作用により前記ケイ酸アルミニウムナノ粒子を堆積させる堆積工程と、を経ることを特徴とする骨充填材の製造方法。
【請求項2】
前記堆積工程において、前記両電極間に0.5V~10Vの電圧を、数秒~10分の間かける請求項1に記載の骨充填材の製造方法。
【請求項3】
前記成形工程において、前記繊維構造体が、前記エレクトロスピニング法により、コレクター電極の表面に形成され、
前記堆積工程において、マイナス側の一方の前記電極として、前記繊維構造体が形成された前記形成工程における前記コレクター電極を取り外して利用する請求項1または請求項2に記載の骨充填材の製造方法。
【請求項4】
前記炭酸カルシウムがバテライト相であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の骨充填材の製造方法。
【請求項5】
前記ケイ素含有炭酸カルシウムが、ケイ素成分を含有するバテライト相であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の骨充填材の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、骨折など外傷や腫瘍の摘出、脊椎手術、人工関節などにより生じる骨欠損に対する治療や顎骨修復などに用いる骨充填剤、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢化社会における健康維持において、運動能力および咀嚼機能の維持確保は極めて重要であり、骨や顎骨(以下、これらを合わせて単に「骨」と呼ぶ)欠損には一刻も早い治癒が望まれている。
このような目的で現在使われている人工骨材料の多くは、ブロック状、顆粒状、あるいはペースト状のものである。顆粒状やペースト状の人工骨材料を欠損部に充填する場合、欠損部の状態によっては漏出の危険を伴う。また人工骨材料として既に市販されているリン酸カルシウムなどのセラミックスの場合、人間の様々な骨の形状に対応して加工するのは容易ではない。
【0003】
骨欠損に対するより良い治療のためには、骨再生を促進させる機能を持ち、かつ徐々に骨と置換し吸収される材料を綿状や布状にしたものが好適である。綿状や布状形状のように弾力のある形状とすると、大きな欠損部でも極めて短時間で簡単かつ確実に充填でき、フィッティング性もよく脱落も起こらない。また、骨が進入するのに十分なスペースも確保されると考えられる。
【0004】
従来から、生分解性高分子からなる綿状あるいは布状構造物とその製造方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1では、溶融したポリ乳酸を遠心力を利用して微細な隙間から押し出し空気で冷却することで得られる綿状加工物が提案され、特許文献2では、綿状の形態である生体吸収性有機材料およびリン酸カルシウム化合物の組み合わせからなることを特徴とする複合型骨充填材が提案されている。また、特許文献3では、生分解性高分子繊維に薬剤を含有させ、生体内にて放出することで治療することができる構造物が提案されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開平7-268751号公報
【特許文献2】特開2000-262608号公報
【特許文献3】特開2009-261448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、現状では、優れた骨形成性および生体吸収性を有した素材からなり、三次元立体構造を有し、かつ、骨組織の進入するスペースを確保できる材料は報告されていない。
【0007】
また、骨成形能を向上させるために生体吸収性材料にDNAや骨形成性タンパクを含有させる試みが多数報告されているが、非常に高価なうえに取り扱いが容易でなく、長期間効果を維持させることが難しいという問題がある。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、優れた骨形成機能を有するとともに、取り扱いが容易な骨充填材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、極微量のケイ素イオンが骨芽細胞に遺伝子的に刺激を与えて骨形成を促進すること、および、炭酸カルシウム(バテライト)とポリ乳酸(PLA)の複合体を擬似体液(SBF)に浸漬させると、短時間で骨類似アパタイトがその表面に生成することを見出した。
そこで、バテライトとPLA、または、ケイ素、バテライトおよびPLAを組み合わせた素材を、エレクトロスピニングを用いて不織布化したものについて検討した。しかしながら、PLAのような生分解性高分子を基材とする複合素材の場合、疎水性が強く現れ、体液とのなじみが悪く、骨形成性細胞が付着、増殖するまでに時間を要するという問題があった。また、上述したような骨類似アパタイトを予め生成させた不織布でさえも、十分な親水性が確保できなかった。
【0009】
さらなる検討の結果、PLAなどの生分解性高分子からなる繊維や、PLAとバテライトとを含む生分解性高分子複合体からなる繊維に、イモゴライトやアロフェンなどの親水性の高いケイ酸アルミニウムナノ粒子を化合物を被覆するだけで、繊維表面が高親水化され、骨形成性細胞の初期接着性と増殖性を向上させることができるという知見を得た。本発明はかかる新規な知見に基づくものである。
【0010】
すなわち、本発明は、生分解性高分子からなる繊維、または、炭酸カルシウムおよびケイ素含有炭酸カルシウムから選ばれる化合物を含む生分解性高分子複合体からなる繊維の表面に、親水性のケイ酸アルミニウムナノ粒子を堆積させてなる布状または綿状の骨充填材である。
【0011】
また、本発明は、生分解性高分子からなる繊維構造体、または、炭酸カルシウムおよびケイ素含有炭酸カルシウムから選ばれる化合物を含む生分解性高分子複合体からなる繊維構造体を、エレクトロスピニング法により布状または綿状に成形する成形工程と、前記繊維構造体の表面に、静電作用によりケイ酸アルミニウムナノ粒子を堆積させる堆積工程と、を経ることを特徴とする骨充填材の製造方法である。
【0012】
本発明においては、生分解性高分子からなる繊維の表面、または生分解性高分子複合体からなる繊維の表面に、親水性のケイ酸アルミニウムナノ粒子が堆積して繊維の表面を被覆している。しかしながら、ケイ酸アルミニウムナノ粒子の被覆層には、ナノ粒子により被覆されていることに起因して不可避的に空隙が存在する。被覆層に存在する空隙により、骨形成に必要なカルシウムイオンや骨形成促進に有利なケイ酸イオン(HSiO)等のケイ素を含むイオン(以下「ケイ素種イオン」と称す)の供給が行われるとともに、ケイ酸アルミニウムナノ粒子の親水性に起因して、細胞の初期接着性も確保することができる。つまり、本発明の骨充填材および本発明により得られる骨充填材においては、ケイ酸アルミニウムナノ粒子の高い親水性により繊維表面が高親水化されて骨形成性細胞の初期接着性と増殖性が高められる。そして、カルシウムイオンやケイ素種イオンの徐放作用により高い骨形成効果を安定的に持続することができる。
【0013】
また、本発明の骨充填材および本発明の方法により得られる骨充填材は、弾力性のある形状(布状あるいは綿状)をなしているので、様々な形状の骨欠損部に容易に充填できるうえに、脱落しにくい生体吸収性骨充填材として利用できるので取り扱いが容易である。その結果、本発明によれば、優れた骨形成機能を有するとともに、取り扱いが容易な骨充填材を提供することができる。
なお、本発明の骨充填材は、エレクトロスピニング法により布状または綿状に成形する成形工程を経た繊維構造体の表面に、静電作用によりケイ酸アルミニウムナノ粒子を堆積させる堆積工程を経ることで得られるので、簡易な方法により作製可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた骨形成機能を有するとともに、取り扱いが容易な骨充填材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した試料1の写真である。
【図2】図2は、SEMで撮影した試料1の拡大写真である。
【図3】図3は、SEMで撮影した試料2の写真である。
【図4】図4は、SEMで撮影した試料2の拡大写真である。
【図5】図5は、SEMで撮影した試料2の断面の写真である。
【図6】図6は、SEMで撮影した試料3の写真である。
【図7】図7は、試料1、2、3上での細胞数と培養期間との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、SEMで撮影した3日間培養後の試料1の写真である。○で囲まれた部分は細胞を示す。
【図9】図9は、SEMで撮影した3日間培養後の試料2の写真である。○で囲まれた部分は細胞を示す。
【図10】図10は、SEMで撮影した3日間培養後の試料3の写真である。○で囲まれた部分は細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の骨充填材は、生分解性高分子からなる繊維、または、炭酸カルシウムおよびケイ素含有炭酸カルシウムから選ばれる化合物を含む生分解性高分子複合体からなる繊維の表面に、親水性のケイ酸アルミニウムナノ粒子を堆積させてなり、布状または綿状をなしている。

【0017】
本発明において生分解性高分子としては、ポリ乳酸の重合体及びポリ乳酸とポリグリコール酸との共重合体からなる群から選ばれる高分子が好ましい。生分解性高分子としては分子量が15万ないし30万のものが好ましい。
本発明において、炭酸カルシウムとしてはバテライト(以下「V」と称す)があげられる。ケイ素含有炭酸カルシウムとしては、例えば特開2008-100878号公報に記載された方法で調製可能なケイ素成分を含有するバテライト(以下「SiV」)があげられる。なお、SiVとしては、Si量が0.7質量%~6質量%のものが好ましい。

【0018】
炭酸カルシウムおよびケイ素含有炭酸カルシウムから選ばれる化合物を含む生分解性高分子複合体としては、SiVまたはVと、ポリ乳酸とを、例えば加熱ニーダーで加熱混練することにより作製されるものがあげられる。生分解性高分子複合体中のSiVまたはVの含有量は不織布化したときの弾力性を考慮すると30質量%~40質量%であるのが好ましい。
本発明においては繊維を構成する高分子材料として、ケイ素含有炭酸カルシウムとポリ乳酸とを含む高分子複合体が好ましい。

【0019】
本発明において、生分解性高分子からなる繊維または生分解性高分子複合体からなる繊維の表面に堆積されるケイ酸アルミニウムナノ粒子としては、イモゴライト(Al・SiO・HO)やアロフェン(Al・nSiO・mHO、nは1~2、mは2~3)などが好ましい。これらのうち、イモゴライトは、ナノチューブ構造という一次元的な構造を有しており、堆積することで多数の空隙が生まれ、多量の水分を吸着できるとともに、細胞の親和性も優れている点で特に好ましい。

【0020】
次に、本発明の骨充填材の製造方法を説明する。生分解性高分子または生分解性高分子複合体を溶媒[例えばクロロホルム(CHCl)など]とさらに混合し、得られた紡糸溶液をエレクトロスピニング法により布状あるいは綿状物に成形する(成形工程)。すなわち、紡糸溶液にプラス高電圧を印加すると、電界中、溶媒を揮発させながら繊維となってアースされた極に向かい、その極が平板であれば100μm~200μmの厚さの布状に成形され、極がエタノール等に埋没した状態であれば、エタノール中で綿状に成形される。この際、紡糸条件(紡糸溶液の濃度や溶媒の種類や供給速度、紡糸時間、印加電圧、ノズルと極の距離など)を変えることによって繊維構造体を所望の布状あるいは綿状物にすることが可能である。このようにして得られた布状または綿状の不織布型素材を採取し、乾燥する。

【0021】
成形工程と同時あるいは前後して、堆積工程で用いるケイ酸アルミニウムナノ粒子の分散液を調製する。以下の説明においては、ケイ酸アルミニウムナノ粒子として好適に使用されるイモゴライトを一例として説明する。イモゴライトが分散した水溶液(イモゴライトの分散液)は、たとえば、オルトケイ酸ナトリウムおよび塩化アルミニウムの混合水溶液作製した後、水酸化ナトリウムおよび塩酸によるpH調整を行い、90℃~100℃にて加熱することにより作製することができる。
ここで、金属アルコキシドを原料に用いた合成方法を適用すれば、塩素イオンや未反応のアルミニウムイオンなどを含有しない高純度のイモゴライトを利用できるので特に好ましい。具体的には、たとえば、溶媒にイソプロパノールを用いて作製した薄いアルミニウムトリ-sec-ブトキシド溶液(たとえば、5質量%程度)と、オルトケイ酸テトラエチルをSi/Alモル比が0.4~1.0となるように多量の水(たとえば、全容量の85質量%~99質量%)とともに混合・撹拌した後、薄い酢酸水溶液(たとえば、0.5mol/L~2mol/L程度)を適量加えて沈殿物を溶解させ、さらに加熱する(たとえば、30℃~100℃)ことで、イモゴライトの分散液を作製することができる。

【0022】
次に、成形工程を経た布状または綿状の生分解性高分子の繊維構造体または生分解性高分子の複合体の繊維構造体に、ケイ酸アルミニウムナノ粒子を堆積させる堆積工程を実行する。
例えば、エレクトロスピニング法により板状の電極上に形成された布状の生分解性高分子複合体繊維構造体の場合、当該繊維構造体が付着した極ごと上述したイモゴライトの分散液に浸漬するとともに、別の金属板も浸漬して、前者をマイナス側に、後者をプラス側に結線して0.5V~10V程度の電圧をかけると、数秒~10分で骨格繊維表面に10nm~5μmの厚さで繊維構造体の表面にイモゴライトを堆積させることができる。ここで、イモゴライトの分散液中のイモゴライトの濃度、電圧、および処理時間を調整することによりナノ粒子の堆積厚さを変化させることができる。

【0023】
綿状に形成された生分解性高分子複合体繊維構造物の場合、たとえばコロナ放電を利用した帯電器を用いてマイナスに帯電させておき、これに上記のイモゴライトの分散液を滴下すると、静電作用により繊維構造体の表面に10nm~5μm厚さでイモゴライトを堆積させることができる。イモゴライトの分散液の濃度、帯電量を変化させることで堆積厚さを変化させることができる。このようにして繊維構造体の表面にイモゴライトを堆積させると、堆積したイモゴライト間には多数の微細な空隙が存在するため、多量の親水基を有することになり、ポリマー(生分解性高分子、生分解性高分子複合体)の疎水性を抑えることができる。

【0024】
<実施例>
以下、本発明に係る骨充填材の実施例について説明する。以下の実施例についての説明は本発明をより深く理解するためのものであって、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。

【0025】
(実施例1)
実施例では以下に示す原料、薬品を使用した。
ケイ素含有バテライト(SiV):消石灰(純度96%以上、矢橋工業株式会社製)、メタノール(特級試薬、純度99.8%以上、キシダ化学株式会社製)、γ‐アミノプロピルトリエトキシシラン(TSL8331、純度98%以上、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、炭酸ガス(高純度液化炭酸ガス、純度99.9%、大洋化学工業株式会社製)を用いて調製したSi含量が2質量%のバテライト
ポリ乳酸(PLA):Poly(L-lactic acid)、分子量20万~30万、PURAC biochem製
クロロホルム(CHCl):特級試薬、純度99.90%以上、キシダ化学株式会社製
オルトケイ酸ナトリウム:化学用、和光純薬工業(株)製
塩化アルミニウム(III)六水和物:特級試薬、純度99.8%、和光純薬工業(株)製
水酸化ナトリウム:特級試薬、純度96.0%、キシダ化学株式会社製

【0026】
エレクトロスピニング装置としては、高電圧電源(High Voltage Power Supplier HARb-40P0.75、Matsusada Precision Inc.製)と、シリンジポンプ[インフュージョンポンプFP-W-100型、メルクエスト(有)製]とを用いて作製したものを用いた。
試料の形態の観察には走査型電子顕微鏡(SEM)[JSM-6301F(日本電子製)]を用いた。また、当該SEMに付属のエネルギー分散型微小部分析(EDS)により組成の分析も行った。

【0027】
(1)成形工程
42gのPLAおよび18gのSiVを、加熱ニーダーで200℃、45分間混練してSiVを30質量%含有する生分解性高分子複合体を調製した。
生分解性高分子複合体1gに対しCHClを6g混合して紡糸溶液を作製した。
上記紡糸溶液と上記エレクトロスピニング装置とを用いて、以下の条件によりエレクトロスピニングを行った。
エレクトロスピニングの条件は以下のとおりである。
紡糸溶液供給速度:0.235mL/分、印加電圧:15kV、ノズルとコレクター極の距離:120mm、ノズル:注射針22G、コレクター表面にはアルミニウム箔を貼り付けておいた。
エレクトロスピニングの実行により得られた繊維構造体の布状物を試料1とする。

【0028】
(2)堆積工程
(a)イモゴライト分散液の作製
0.07mol/Lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液および0.17mol/Lの塩化アルミニウム水溶液を調製して、これらの水溶液を、シリカ/アルミナ比0.41となるように混合して混合溶液を作製した。
次に、この混合溶液に1mol/Lの水酸化ナトリウムを1.0mL/分 の速さで添加し、pHが約6.8となったところを終点として、前駆体懸濁液を得た。この前駆体懸濁液について、純水による洗浄と遠心分離(3000rpm、15分)を3回行うことで脱塩処理を行った。脱塩処理後、前駆体を純水に分散させ前駆体分散溶液を調製し、pHが3.8となるように1.0Nの塩酸を加え、攪拌した。次に、前駆体分散溶液を98℃に加熱してイモゴライトを生成し、イモゴライトが生成した水溶液を得た。
イモゴライトが生成した水溶液(0.087質量%)に水酸化ナトリウム水溶液(0.1mol/L)を5.5質量%添加し、pH7.9のイモゴライト分散液を作製した。

【0029】
(b)堆積工程
試料1をアルミニウム箔上から剥離せずに15mm×15mmに切断し、そのまま(a)で作製したイモゴライト分散液に沈めた。これとは別のアルミニウム板(15mm×15mm)も同分散液に沈めてプラス極とし、10mmの間隔を開け、試料1側をマイナス極として電圧1Vを2分かけた。その後、取り出し水洗して、80℃で1日空気中で乾燥したものを試料2とした。

【0030】
(3)SEM観察
試料1および試料2のSEMによる観察を行った。
図1はSEMで撮影した試料1の写真である。試料1は直径10μm程度の繊維からなる不織布であり、通常10μm程度である骨形成性細胞が進入するのに十分なスペースが確保されていた。図2は、SEMで撮影した試料1の骨格繊維表面を拡大した写真である。繊維表面には紡糸中にクロロホルムが揮発したことにより形成された多数の気孔が見られた。
図3はSEMで撮影した試料2の写真である。図1と比べると、繊維が交差する部分に水掻き状となった堆積物がみられるものの、骨形成性細胞が進入できる大きさのスペースは十分に確保されていた。図4はSEMで撮影した試料2の骨格繊維表面を拡大した写真である。図2に見られた繊維表面の多数の気孔は全く見られず、なめらかな表面をしていた。試料2の表面のEDS分析の結果、生分解性高分子複合体の繊維には含まれないケイ素とアルミニウムが検出され、ケイ酸アルミニウムであるイモゴライトが繊維表面に密に堆積していることがわかった。
図5はSEMで撮影した試料2の断面の写真である。繊維の表面を約400μmの厚さでイモゴライトが被覆していることがわかった。試料2を細胞培養液に浸漬しても堆積物の剥離は見られなかった。
(4)接触角の測定
試料1および試料2に、シリンジより蒸留水を1μL滴下し、自動接触角計(DM300、 協和界面科学製)を用いて各試料表面の接触角を測定した。
試料1の接触角は121°であり、高い疎水性を示し、この値は測定位置によってばらつくことはほとんどなかった。一方、試料2では、測定位置によりばらつきがみられたが、最大でも82°であり試料1よりも親水性が向上した。試料2の大部分において接触角40°以下であり、水滴が全て浸透する(すなわち接触角0°)箇所も多く見られた。これは親水性が非常に向上して、不織布の繊維間隙の大きさに影響を受けやすくなったためであると考えられる。

【0031】
(比較例1)
(1)比較の試料3の作製
(a)アパタイトコーティング溶液の作製
本比較例では以下に示す原料、薬品を使用して、アパタイトコーティング用溶液を作製した。
塩化ナトリウム(NaCl)特級99.5% キシダ化学株式会社製
炭酸水素ナトリウム(NaHCO)特級99.5% キシダ化学株式会社製
塩化カリウム(KCl)特級99.5% キシダ化学株式会社製
リン酸水素二カリウム三水和物(KHPO・3HO)特級99.0% キシダ化学株式会社製
塩化マグネシウム六水和物(MgCl・6HO)特級98.0% キシダ化学株式会社製
塩化カルシウム(CaCl)特級95.0% キシダ化学株式会社製
硫酸ナトリウム(NaSO)特級99.0% キシダ化学株式会社製
トリスヒドロキシメチルアミノメタン((CHOH)CNH)特級99.0% キシダ化学株式会社製
塩酸(HCl)精密分析用35.0% 和光純薬工業株式会社製

【0032】
36.5℃の蒸留水1000mLに、塩化ナトリウム(NaCl)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、塩化カリウム(KCl)、リン酸水素二カリウム三水和物(KHPO・3HO)塩化マグネシウム六水和物(MgCl・6HO)、1mol/Lの塩酸(HCl)の順で溶かした。
次に、塩化カルシウム(CaCl)、硫酸ナトリウム(NaSO)を溶かした後、トリスヒドロキシメチルアミノメタン((CHOH)CNH)を徐々に溶かし、1mol/Lの塩酸を用いてpHを7.4に調整した。

【0033】
(b)アパタイトをコーティングした繊維の作製
実施例1で作製した試料1を、(a)で作製したアパタイトコーティング用溶液(Na213.0mmol/L、K7.5mmol/L、Mg2+2.25mmol/L、Ca2+3.75mmol/L、Cl222.45mmol/L、HCO6.3mmol/L、HPO2-1.5mmol/L、SO2-0.75mmol/Lのイオンを含む)30mLに浸漬し、36.5℃で1日保持した後、試料を取り出し、超純水にて洗浄した。その後、室温にて乾燥して、繊維表面にアパタイトをコーティングした試料3を作製した。

【0034】
(2)SEM観察および接触角の測定
図6はSEMで撮影した試料3の写真である。繊維表面に鱗片状の生成物が見られる。この生成物をX線回折により分析した結果、アパタイトであることが確認された。繊維表面には均質にアパタイトがコーティングされていた。
試料3に、シリンジより蒸留水を1μL滴下し、試料1および試料2と同様に、試料表面の接触角を測定したところ、101°であり、試料1よりは低下したものの、試料2には遥か及ばず高い疎水性を示した。試料3においても、試料1と同様に接触角の測定値は測定位置によってばらつくことはほとんどなかった。このことから、アパタイトを繊維表面にコーティングしても十分な親水性は得られないことがわかり、イモゴライトをコーティングした場合のみ、親水化効果が顕著に現れることを確認することができた。

【0035】
(評価試験)
(1)培養方法
24wellプレート使用
細胞種;マウス骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1細胞:理研)
細胞播種数;3×10cell/well
培地;α-MEM(10%ウシ胎仔血清含有)
培地交換;播種翌日

【0036】
(2)細胞カウント方法
Cell Counting Kit-8(細胞増殖/胞毒性測定試薬、株式会社同仁化学研究所製)を使用。試薬添付のプロトコルに沿って処理。
(3)細胞親和性の評価
試料1、2、3を直径15mmの円状に切り取り、ガス滅菌器にて滅菌処理を行った。滅菌後、各試料を特級エタノール(99%)に浸漬した。これは試料1と3の親水性を向上させる操作である。各試料をエタノール中に10分浸漬後、50℃にて、3分保持し、続いて24wellプレートに入れた。
次に、マウス骨芽細胞様細胞の懸濁液を試料上に滴下し、1日間培養を行ったものおよび3日間培養したものについて細胞数をカウントした。基準試料としてThermanoxを用いた。
さらに、3日間培養後の各試料のSEM観察を行った。

【0037】
(4)評価結果
各試料上における細胞数を図7に示した。播種数と比較して、全ての試料上において、日数の経過に伴う増殖が確認できた。3日間培養後では、繊維表面にイモゴライトコーティングした試料2においては、試料1および試料3と比較して細胞増殖性が有意に優れていた。
図8ないし図10は3日間培養後の試料1~3をSEMで撮影した写真である。図8に示すように、試料1においては、図8に示すように、繊維同士が重なったクロスリンクポイント付近に細胞が架橋していた。試料2においては、図9に示すように、クロスリンクポイントに架橋している細胞が多くみられ、また、細胞が広く進展していた。試料3では、図10に示すように、細長く進展した細胞が繊維表面にまとわりついていたが、広く進展している部分はみられなかった。細胞増殖性と細胞の進展性から、試料2が最も親和性に優れることがわかった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9