TOP > 国内特許検索 > 波長スペクトル検出方法 > 明細書

明細書 :波長スペクトル検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5445906号 (P5445906)
公開番号 特開2010-223646 (P2010-223646A)
登録日 平成26年1月10日(2014.1.10)
発行日 平成26年3月19日(2014.3.19)
公開日 平成22年10月7日(2010.10.7)
発明の名称または考案の名称 波長スペクトル検出方法
国際特許分類 G01J   3/32        (2006.01)
H01L  31/10        (2006.01)
FI G01J 3/32
H01L 31/10 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 21
出願番号 特願2009-069347 (P2009-069347)
出願日 平成21年3月23日(2009.3.23)
審査請求日 平成24年3月21日(2012.3.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
発明者または考案者 【氏名】秋山 正弘
【氏名】澤田 和明
個別代理人の代理人 【識別番号】100100055、【弁理士】、【氏名又は名称】三枝 弘明
審査官 【審査官】▲高▼場 正光
参考文献・文献 特開2008-241578(JP,A)
特開平08-153888(JP,A)
特公昭52-043591(JP,B2)
YANG,D. 他,“Four-color discriminating sensor using amorphous silicon drift-type photodiode”,Sensors and Actuators,1988年 5月,Volume 14, Issue 1,Pages 69-77
萩原大輔 他,“APDを用いた高精度な混合割合測定を目指した分光方法の提案”,第56回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集,2009年 3月30日,Volume 3,Page 1190
調査した分野 G01J3/00-3/52
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
任意の光の波長スペクトルを検出する方法であって、フォトダイオードに予め波長λiのn種の比較用の光を入射させたときの光電流値の逆バイアス電圧に対する電圧依存性を検出し、光量と逆バイアス電圧を共に変化させたときの光電流値のデータベースを作成しておき、フォトダイオードに前記任意の光を入射させたときの光電流値の逆バイアス電圧に対する電圧依存性を検出し、上記データベース及び上記任意の光の電圧依存性に基づいて、逆バイアス電圧Vo及びVj並びにImix(V)に対応するI[λi,Vj]を特定し、以下の数式24に基づいて、Imix(Vj)と上記Imix(V)に対応するI[λi,Vj]とから、前記任意の光の各波長λiの光電流比率,・・・・,Aを検出することを特徴とするフォトダイオードを用いた波長スペクトル検出方法。
ここで、nは2以上の整数、i及びjはそれぞれ1~nの整数、Aiは前記任意の光に含まれる各波長λiの光の光電流比率、Imix(Vj)はフォトダイオードに逆バイアス電圧Vjを印加し、前記任意の光を入射させた場合の光電流値、I[λi,Vj]は、逆バイアス電圧V(VはVjより大きい電圧)を印加したときにImix(V)と同じ光電流値になる光量を有する波長λiの前記比較用の光を入射させた場合において、逆バイアス電圧Vjを印加したときの光電流値である。
【数24】
JP0005445906B2_000027t.gif

【請求項2】
任意の光の波長スペクトルを検出する方法であって、フォトダイオードに予め波長λiのn種の比較用の光を入射させたときの光電流値の逆バイアス電圧に対する電圧依存性を検出し、光量と逆バイアス電圧を共に変化させたときの光電流値のデータベースを作成しておき、フォトダイオードに前記任意の光を入射させたときの光電流値の逆バイアス電圧に対する電圧依存性を検出し、上記データベース及び上記任意の光の電圧依存性に基づいて、逆バイアス電圧Vo及びVj並びにImix(V)に対応するI[λi,Vj]を特定し、以下の数式25に基づいて、Imix(Vj)と上記Imix(V)に対応するI[λi,Vj]とから、前記任意の光の各波長λi毎の光電流比率,・・・・,Aを検出することを特徴とするフォトダイオードを用いた波長スペクトル検出方法。
ここで、nは2以上の整数、iは1~nの整数、jは1~n-1の整数、Aiは各波長光の光電流の混合割合の和が1になると仮定したときの前記任意の光に含まれる各波長λiの光の光電流比率、Imix(Vj)はフォトダイオードに逆バイアス電圧Vjを印加し、前記任意の光を入れた場合の光電流値、I[λi,Vj]は逆バイアス電圧V(VはVjより大きい電圧)を印加したときにImix(V)と同じ光電流値になる光量を有する波長λiの前記比較用の光を入射させた場合において、逆バイアス電圧Vjを印加したときの光電流値である。
【数25】
JP0005445906B2_000028t.gif
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、波長スペクトルを検出する方法に関し、より詳細には、フォトダイオードの光電流値に基づいて波長スペクトルを検出するフォトダイオードを用いた波長スペクトル検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、波長スペクトル測定をするための方法として「アバランシェフォトダイオードを用いた波長スペクトル検出方法」がある(特許文献1参照)。
【0003】
上記の「アバランシェフォトダイオードを用いた波長スペクトル検出方法」は任意の光の波長スペクトルを検出する方法であって、アバランシェフォトダイオードの増倍率を検出する増倍率検出回路を用いて、アバランシェフォトダイオードに、予め波長が判明している比較用の光を入射させたときの増倍率を検出し、アバランシェフォトダイオードに前記任意の光を入射させたときの増倍率を、増倍率検出回路を用いて検出し、数式1に基づいて、前記任意の光の波長スペクトルを検出することを特徴とするアバランシェフォトダイオードを用いた波長スペクトル検出方法である。なお、Anは波長λnの光比率(含有率)。nは、1以上の整数。X[λn,Vn]はアバランシェフォトダイオード(APD)に「逆バイアス電圧Vnを印加し、波長λnの光を入れた場合」の増倍率。M(n)はAPDに「逆バイアス電圧Vnを印加し、任意の光(波長スペクトルを求めたい光)を入れた場合」の増倍率である。
【数1】
JP0005445906B2_000002t.gif

【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2008-241578(第3頁、従来の技術)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した光スペクトル検出方法は大きな印加電圧を必要とするため、消費電力が大きくなることに問題があった。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされ、その目的とするところは、低電圧動作が可能となる、フォトダイオードを用いた波長スペクトル検出方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1発明は、任意の光の波長スペクトルを検出する方法であって、フォトダイオードに予め波長λiのn種の比較用の光を入射させたときの光電流値の逆バイアス電圧に対する電圧依存性を検出し、光量と逆バイアス電圧を共に変化させたときの光電流値のデータベースを作成しておき、フォトダイオードに前記任意の光を入射させたときの光電流値の逆バイアス電圧に対する電圧依存性を検出し、上記データベース及び上記任意の光の電圧依存性に基づいて、逆バイアス電圧Vo及びVj並びにImix(V)に対応するI[λi,Vj]を特定し、数式2に基づいて、Imix(Vj)と上記Imix(V)に対応するI[λi,Vj]とから、前記任意の光の各波長λiの光毎の光電流比率,・・・・,Aを検出することを特徴とするフォトダイオードを用いた波長スペクトル検出方法である。ここで、nは2以上の整数、i及びjは1~nの整数、Aiは前記任意の光に含まれる各波長λiの光の光電流比率、Imix(Vj)はフォトダイオードに逆バイアス電圧Vjを印加し、前記任意の光を入射させた場合の光電流値、I[λi,Vj]は、逆バイアス電圧V(VはVjより大きい電圧)を印加したときにImix(V)と同じ光電流値になる光量を有する波長λiの前記比較用の光を入射させた場合において、逆バイアス電圧Vjを印加したときの光電流値である。
【数2】
JP0005445906B2_000003t.gif

【0008】
本発明において、上記任意の光がn種の波長の光の混合光である場合に確実にスペクトルを検出することができるが、必ずしもn種の波長の光の混合光でなくとも、上記任意の光がn種の波長の比較用の光の混合光であると仮定して各比較用の光の光電流比率を得ることで、概略のスペクトルを把握することが可能である。また、上記のI[λiVj]については、事前に波長λiに対する電圧依存特性を測定してデータベース化しておくことが好ましい。このようにすると、Imixの電圧依存性を測定したとき、当該電圧依存性に合わせて上記電圧を選択でき、しかも、これより小さい上記電圧Vjの値を選択することが可能になる。
【0009】
次に、本願の第2発明は、任意の光の波長スペクトルを検出する方法であって、フォトダイオードに予め波長λiのn種の比較用の光を入射させたときの光電流値の逆バイアス電圧に対する電圧依存性を検出し、光量と逆バイアス電圧を共に変化させたときの光電流値のデータベースを作成しておき、フォトダイオードに前記任意の光を入射させたときの光電流値の逆バイアス電圧に対する電圧依存性を検出し、上記データベース及び上記任意の光の電圧依存性に基づいて、逆バイアス電圧Vo及びVj並びにImix(V)に対応するI[λi,Vj]を特定し、数式3に基づいて、Imix(Vj)と上記Imix(V)に対応するI[λi,Vj]とから、前記任意の光の各波長λi毎の光電流比率,・・・・,Aを検出することを特徴とするフォトダイオードを用いた波長スペクトル検出方法である。ここで、nは2以上の整数、iは1~nの整数、jは1~n-1の整数、Aiは各波長光の光電流の混合割合の和が1になると仮定したときの前記任意の光に含まれる各波長λiの光の光電流比率、Imix(Vj)はフォトダイオードに逆バイアス電圧Vjを印加し、前記任意の光を入れた場合の光電流値、I[λi,Vj]は、逆バイアス電圧V(VはVjより大きい電圧)を印加したときにImix(V)と同じ光電流値になる光量を有する波長λiの前記比較用の光を入射させた場合において、逆バイアス電圧Vjを印加したときの光電流値である。
【数3】
JP0005445906B2_000004t.gif

【0010】
また、上記第2の発明において、前記光電流比率Aiから数式4に基づいて前記任意の光の波長スペクトルを検出することが好ましい。ここで、Xiは波長λiの光により発生した補正後の光電流の比率(含有率)、Fiは各波長光の光電流の混合割合の和が1になると定義して計算を行った際に生じる誤差を補正する係数である。
【数4】
JP0005445906B2_000005t.gif

【0011】
ここで、上記の補正係数Fiは通常1である。しかし、光量と共に光電変換効率が変化するデバイスを用いる場合(各波長光の光電流の割合の和は1にならない場合)は、あらかじめFiを求めておく必要がある。補正係数の求め方は2つある。1つ目は、各光量、各光電流の比率に対するFiの値を光電変換効率より計算する方法である。2つ目は、各光量、各光電流の比率に対するFiの値を実験より求める方法、すなわち、予め上記電圧Vj毎に理論値と実測値との差に基づいて求めたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかるフォトダイオードを用いた波長スペクトル検出方法によれば、低電圧動作の検出装置が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】フォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)の入射光の波長と光電流値の依存特性を示すグラフである。
【図2】フォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)の構造を示す断面図である。
【図3】フォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)への印加電圧を変化させた場合の入射光の波長と光電流値の依存特性を示すグラフである。
【図4】波長a[nm]とb[nm]の光を入射した場合のI(光電流)-V(印加電圧)特性のイメージを示すグラフである。
【図5】波長a[nm]とb[nm]の光と混合光を入射した場合のI(光電流)-V(印加電圧)特性のイメージを示すグラフである。
【図6】自作したa-Si:H PDの暗電流特性を示すグラフである。
【図7】自作したa-Si:H PDの波長依存特性(波長[nm]-光電流[A]特性)を示すグラフである。
【図8】測定系(等価回路)を示す回路図である。
【図9】測定冶具の概観を示す写真である。
【図10】本実験の条件を対応させたI-V特性を示すグラフである。
【図11】測定より得られた各波長光のI-V特性を示すグラフである。
【図12】測定より得られた混合光のI-V特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
フォトダイオード(例えば、アモルファスシリコンフォトダイオード)(以下、単にa-Si PDと称する場合がある)は入射光の波長により光電流値が変化する特徴を持っている。

【0015】
図1にフォトダイオード(実際にはアモルファスシリコンフォトダイオード)の入射光の波長と光電流値の依存特性を示す。このときのバイアス電圧は3Vである。

【0016】
フォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)にはpin構造を用いる。この構造により、光電流に波長依存特性を持ったフォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)となる。

【0017】
図2にフォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)の具体例を示す。
(詳細は「特開平11-103089」を参照。)

【0018】
フォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)1の構造は、基板用電極2、正孔注入阻止層3、光吸収層4、電子注入阻止層5および透明電極6をこの順序に積層した光電変換素子となる。図2で光入射側は透明電極6側で、この実施例では印加電界は透明電極6側が負で基板用電極2側が正である。

【0019】
以下各層の構成作用を順次に説明するが、基板用電極2は、その上の正孔注入阻止層3と電気的に良好な接触(オーミックコンタクト)をする金属電極である。

【0020】
正孔注入阻止層3は、基板用電極からの光吸収層への正孔の注入を阻止し、この変換装置の暗電流の低減化をはかり、光吸収層に加わる電界を高める作用を有し、具体的にはn型の単結晶シリコン層を使用し、さらに特別にはその不純物濃度を1016~1017cm-3として光吸収層への基板用電極側からの正孔の注入を抑え、低暗電流で波長依存特性のある構造となっている。

【0021】
また、光吸収層4は、効率良く光を電荷に変換させるため、膜内の欠陥密度が低く抵抗が高いノンドープ(不純物 が添加されていない)または微量に不純物を導入した水素化非晶質シリコン(a‐Si:H)層で構成されている。

【0022】
さらにまた、電子注入阻止層5は、透明電極からの光吸収層への電子の注入を阻止し、この変換装置の暗電流の低減化をはかり、光吸収層に加わる電界を高める 作用を有し、具体的にはp型の水素化非結晶材料層(a‐SiC:H)を用いている。

【0023】
さらにまた、透明電極6は光を透過させる必要があるため、酸化インジウム・錫(ITO),ZnO,SnOや半透明金属電極を用いる。またさらに暗電流を低減させるために電子注入阻止層に対してショットキ接触となる材料が選択して使用される。

【0024】
ここで、任意の光(波長スペクトルを求めたい光)がフォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)に入射した場合の電流値は、光の波長λi(iは1~nの整数)として、数式5のように定義される。
【数5】
JP0005445906B2_000006t.gif

【0025】
また、フォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)は印加電圧によっても電流値が変化する特徴を持っている。図3にフォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)への印加電圧を変化させた場合の入射光の波長と電流値の依存特性を示す。

【0026】
ここで、印加電圧をVj(jは1~nの整数)のVからVに変化させた場合において、任意の光(波長スペクトルを求めたい光)がフォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)に入射した場合の光電流値は、数式6のように表される。
【数6】
JP0005445906B2_000007t.gif

【0027】
数式6を行列に書き換えると数式7のようになる。
【数7】
JP0005445906B2_000008t.gif

【0028】
ここで、Ai(iは1~nの整数)は各波長光の光電流の割合の和が1に成るとした定義しているので数式8が成り立つ。
【数8】
JP0005445906B2_000009t.gif

【0029】
数式7のn列目の式を数式8と置き換え整理すると数式9となる。
【数9】
JP0005445906B2_000010t.gif

【0030】
数式9を波長スペクトルAiを求める形に変形すると数式10(数式3)のようになる。なお、数式7についても数式10と同様の形式に変換すると、上記の数式2となる。
【数10】
JP0005445906B2_000011t.gif

【0031】
このように、各波長の光による光電流の割合は、数式2若しくは数式10より求めることができる。ここで、Aiは波長λiの光による光電流値の比率(含有率)を示している。また、I[λiVj]はフォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)に逆バイアス電圧Vjを印加し、波長λiの光を入れた場合の電流値を表している。またImix(Vj)はフォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)に逆バイアス電圧Vjを印加し、任意の光(波長スペクトルを求めたい光)を入れた場合の電流値を表している。この式より、I[λiVj]を予め測定して置けば、「任意の光」の電流値Imix(Vj)(Imix()からImix(を求めることで、数式2又は数式10により光電流の混合比AiからA)が求められる。この混合比は上記任意の光の波長スペクトルに対応している。ただし、数式10を用いる場合において光電流比率の誤差を直すには後述する補正係数が必要となる。

【0032】
数式2および数式10が正しいことを確認した実験を報告する。実験ではアモルファスシリコンフォトダイオードを用いた。アモルファスシリコンフォトダイオードは豊橋技術科学大学の成膜装置により作製した素子である。ここでは、2つの波長に限定して実験を行う。

【0033】
[実験]
[a-Si PDを用いた分光方法]
アモルファスシリコンフォトダイオード(a-Si PD)は波長依存特性を有しているため、任意の印加電圧値における入射光の光電流への変換率は波長毎に異なる。即ち、a-Si PDから得られる光電流特性から分光が可能であると考えられる。

【0034】
2波長(a[nm]とb[nm])光から成る混合光における各波長光の光電流の割合をそれぞれXa,Xbとする。ここで、a-Si PDを用いた場合、混合光から得られる光電流の値は、2つの波長光を単波長で用いた場合に得られる光電流値の和と等しくならない(即ち、各波長光の光電流の割合の和は1にならない)。本分光方法では、数式10において各波長光の光電流の割合の和が1に成ると定義して計算から分光結果を求める。故に、各波長光の光電流の混合割合の和が1になると定義された各波長光の光電流の割合をそれぞれAa,Abとすると、次式が成り立つ。
【数11】
JP0005445906B2_000012t.gif

【0035】
数式11においてF,Fは各波長光の光電流の混合割合の和が1になると定義して計算を行った際に生じると考えられる誤差を補正するための係数である。即ち、F,Fを用いて計算を行うことで、混合光における各波長光の光電流値を割合として表現することが可能となる。補正係数の値については[実験結果]にて述べる。以下ではAa,Abの求め方について説明する。

【0036】
Aa,Abを求める方法には、大きく分けて3つの工程(Step1~3)がある。

【0037】
Step1:図4に示すように、適当な印加電圧値V1(上記のに相当する。以下同様。)において(波長a[nm]とb[nm]の光から得られる)光電流Ia,Ibの値が一致するI-V特性をあらかじめ測定する。この時に、もう一つの任意の印加電圧値V2(上記のVjに相当する。以下同様。)における光電流Ia(V2)とIb(V2)の値を保管する。

【0038】
Step2:図5に示すように、混合光のI-V特性は、Ia,IbのI-V特性の間に収束することが分かっている。そこで、V1における混合光の光電流Imix(V1)の値から、Ia(V2)とIb(V2)の値を(保管してあるデータから)参照する。

【0039】
Step3:ここで、数式12を定義する。
【数12】
JP0005445906B2_000013t.gif

【0040】
Imix(V2),Ia(V2),Ib(V2)の値を用いて、数式12より次の方程式が成り立つ。
【数13】
JP0005445906B2_000014t.gif

【0041】
また、先に述べたように、数式10を用いる本分光方法では各波長光の光電流の割合の和が1に成ると定義して計算をする。よって次式が成り立つ。
【数14】
JP0005445906B2_000015t.gif

【0042】
よって、数式13と数式14よりAaとAbを算出できる。

【0043】
[a-Si PDを用いた2波長光の分光実験]
2波長光の分光実験を行った。実験は主に以下の2項目を行った。
・I-V特性の測定(Imix(V2),Ia(V2),Ib(V2)の測定)
・(Imix(V2),Ia(V2),Ib(V2)の測定結果より)混合割合Aa,Abの算出
以下に実験の方法について述べる。

【0044】
本実験では、自作の(PIN構造)水素化アモルファスシリコンPD(以降a-Si:H PD)を用いて実験を行っているため、まず、実験に使用したa-Si:H PDの構造及び構成作用について述べる。a-Si:H PDの構造は、基板用電極、正孔注入阻止層、光吸収層、電子注入阻止層、及び透明電極をこの順序に積層した構造となる。次に各層の構成作用を順次に述べる。

【0045】
基板用電極は、その上の正孔注入阻止層と電気的に良好な接触をする金属電極である。正孔注入阻止層は、基板用電極からの光吸収層への正孔の注入を阻止し、暗電流の低減を図っている。具体的には、n型の単結晶シリコン層を使用し、さらに不純物濃度を1016~1017[cm-3]として光吸収層への基板用電極側からの正孔の注入を抑え、低暗電流で波長依存特性のある構造となっている。光吸収層は、効率良く光を電荷に変換させるために、薄膜内の欠陥密度が低く、抵抗が高いほとんど不純物がドープされていない水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)層で構成されている。電子注入阻止層は、透明電極からの光吸収層への電子の注入を阻止し、暗電流の低減を図っている。具体的には、p型の水素化アモルファス材料層(a-SiC:H)を用いている。透明電極は、光を透過させる必要があるため、酸化インジウム・錫や半透明金属電極を用いる。また、暗電流を低減させるために、電子注入阻止層に対して、ショットキ接触となる材料が使用されている。

【0046】
実験に使用した、自作a-Si:H PDの暗電流特性を図6に示す。また、波長依存特性(波長[nm]-光電流[A]特性)を図7に示す。図7に示すように、a-Si:H PDには、印加電圧値毎に波長依存特性が変化する(光電流への変換効率が変化する)性質がある。この性質は、a-Si:H PD特有の性質であり、結晶Si PDには無い性質である。この性質は、波長依存特性と同様に、本分光方法における重要な要素である。即ち、各波長光から得られる光電流値が印加電圧値毎にどの様に変化するのかがあらかじめ分かっていれば、計算に用いる印加電圧値を複数設ける(3波長光の分光であれば、数式13に加え、もう一つの印加電圧値V3における光電流値から新たに式が成り立つ)ことで、複数波長光の分光に対応することが可能となる。

【0047】
ただし、この性質は印加電圧値毎に光電流への変換効率が変化することを表すため、光量一定下でも計算に扱う各印加電圧値の光電流値毎に混合割合の計算結果が異なってしまうことになる。故に、印加電圧値毎に補正係数Fの値を変えて計算することで、計算結果が変化しないようにする必要がある。次に、光源及び測定冶具を含む測定系について述べる。

【0048】
図8に測定系(等価回路)を、図9に測定冶具の概観を示す。

【0049】
本実験では、光源には473[nm]の単色光を照射するレイザーダイオード(以下LD)と532[nm]の単色光を照射するLDを用いた。これらのLDはそれぞれ出力が調節可能である。

【0050】
2つのLDから出力された光をフィルタ等の光学機器を用いて集光し、a-Si PDに照射する。
・I-V特性の測定(Imix(V2),Ia(V2),Ib(V2)の測定)

【0051】
a-Si PDにLDの光を照射した状態で、逆方向電圧を印加し、光電流値を測定した。ただし、光電流値の測定中は、LDの光量を一定とした。印加電圧値及び光電流値はケースレイ社製の半導体パラメータアナライザ4200SCSを用いて測定した。
・(Imix(V2),Ia(V2),Ib(V2)の測定結果より)混合割合Aa,Abの算出I-V特性の測定より得られた値(Imix(V2),Ia(V2),Ib(V2)を用いて、数式13と数式14より混合割合Aa,Abを算出した。

【0052】
ここで、以降では473[nm]光から得られる光電流をI473,532[nm]光から得られる光電流をI532とする。同様に、混合光中の各波長光から得られる光電流の混合割合をそれぞれA473,A532とする。

【0053】
[実験条件]
表1に本実験の条件を示す。
【表1】
JP0005445906B2_000016t.gif

【0054】
ここで、V1,V2,Imix(V1)は、図4及び図5において示した印加電圧値及び光電流値に対応している。

【0055】
図4及び図5に基づいて本実験の条件を対応させた図(I-V特性)を図10に示す。

【0056】
本実験では、印加電圧値11[V]において、二種の光が入射したときの光電流I473とI532の値が一致するI-V特性をあらかじめ測定し、この二種の光が入射した時の印加電圧値6[V]における光電流I473(6V)とI532(6V)の値を予め(データベースとして)保管する。

【0057】
また、印加電圧値11[V]においてI473とI532の値が一致したときにとりうる光電流値は上記二種の光の光量によって上記の例に限らずいくつか存在するが、本実験では6.0×10-9[A]であった場合について検討する。

【0058】
[実験結果]
次に、[a-Si PDを用いた分光方法]で説明した分光方法を用いて行った2波長光の分光実験の実験結果について述べる。また、最後に補正係数の算出についても述べる。
・I-V特性の測定(Imix(V2),I473(V2),I532(V2)の測定)

【0059】
本実験項目では,具体的に2つのI-V特性を測定している。

【0060】
1つ目は表1に示した条件の下に得られる、保管(データベース)用のI-V特性の測定である。このI-V特性の測定では、あらかじめ2つのLDをそれぞれ単体で用いて、印加電圧値11[V]において光電流値が6.0×10-9[A]となるようにLDの出力を調節の上、印加電圧値6[V]における光電流I473(6V),I532(6V)の値を測定するという方法により行った。

【0061】
この測定より得られた各波長光のI-V特性を図11に示す。図11に示すI-V特性より、I473(6V)=3.06×10-9[A],I532(6V)=4.94×10-9[A]という結果を得た。また、これらの値を(データベースとして)保管した。

【0062】
2つ目は、Imix(11V)=6.0×10-9[A]となる混合光のI-V特性の測定である。2つのLDから得られる混合光は、印加電圧値11[V]において光電流値が6.0×10-9[A]となるように出力を調節して用いた。なお、この例では混合光の光量を印加電圧値11[V]において上記光電流値となるように調節しているが、これはあくまでも本方式が実現可能であることを示すためのものにすぎない。一般的には、任意の混合光に対応できるように、例えば、予め二種の光の光量と印加電圧を共に変化させたときの光電流値のデータベースを作成しておく。そして、当該データベースのうち、その場で測定された混合光の印加電圧値と光電流値の依存性に応じて、上記二種の光の光電流値が一致する印加電圧のうち、さらに混合光の光電流値とも一致する印加電圧を選択して上記の電圧V1とし、このときの光量を有する上記二種の光に対応する上記電圧V2(V2<V1)のときの光電流値を上記データベース中から参照する。また、以下のように混合光の上記電圧V2のときの光電流値はその場で測定する。

【0063】
この測定より得られた混合光のI-V特性を図12に示す。図12に示すI-V特性より、印加電圧値6[V]における光電流Imix(6V)の値が、3.19×10-9[A]となることが分かった。

【0064】
上記の2つのI-V特性の測定より、混合割合A473,A532の算出に必要となる光電流I473(6V),I532(6V),Imix(6V)の値として、I473(6V)=3.06×10-9[A],I532(6V)=4.94×10-9[A],Imix(6V)=3.19×10-9[A]が得られた。
・(Imix(V2),I473(V2),I532(V2)の測定結果より)混合割合A473,A532の算出

【0065】
次に、測定より得られたI473(6V),I532(6V),Imix(6V)の値を数式3に代入し、混合割合A473,A532を算出した。

【0066】
数式13、数式14より、次式が成り立つ。
【数15】
JP0005445906B2_000017t.gif

【0067】
この数式15より逆行列を求めると数式16が得られる。
【数16】
JP0005445906B2_000018t.gif

【0068】
ここで、数式16に実測値I473(V2)=I473(6V)=3.06×10-9[A],I532(V2)=I532(6V)=4.94×10-9[A],Imix(V2)=Imix(6V)=3.19×10-9[A]を代入すると数式17が得られる。
【数17】
JP0005445906B2_000019t.gif

【0069】
数式17を計算した結果、次の解が得られた。
【数18】
JP0005445906B2_000020t.gif

【0070】
次に、補正係数の値について検討する。数式11の説明で述べたように、a-Si:H PDの性質上、混合光から得られる光電流値は、(混合光の生成に用いた)2つの波長光を単波長で用いた場合に得られる光電流値の和と等しくならない(即ち、各波長光の光電流の割合の和は1にならない)。故に、数式14に示す定義の下に計算を行っている。しかし、数式14を用いて計算した場合、a-Si:H PDの性質を無視した計算結果が得られるため、理論値(実際の光電流の割合)に対し誤差が計算結果に生じると考えられる。そこで、補正係数を用いて誤差を補正(混合割合の和が1になるという計算を実現)する。この補正係数は各波長の光電流の割合の和が1になるのであれば1である。しかし、光量と共に光電変換効率が変化するデバイスを用いる場合(各波長光の光電流の割合の和は1にならない場合)は、あらかじめFi(iは1~nの整数)を求めておく必要がある。求め方は2つある。1つ目は、各光量、各光電流の比率に対するFiの値を光電変換効率より計算する方法である。2つ目は、各光量、各光電流の比率に対するFiの値を実験より求める方法である。

【0071】
補正関数の値は、数式18に示す解と、理論値(実際の光電流の割合)との関係から得る方法が最も信頼できる値を得る方法だと考えられる。ここで、理論値は、混合光の生成に用いた各LDの出力がそれぞれ分かっていることから、次式(数式19)より得ることができる。
【数19】
JP0005445906B2_000021t.gif

【0072】
数式19において、Imix'473(6V),Imix'532(6V)は,それぞれImix(11V)=6.0×10-9[A]となる混合光を生成する際に用いた、各LDの出力と同じ出力の光を単波長で用いた場合の印加電圧値6[V]における光電流値である(注意:Imix'473(6V),Imix'532(6V)はI473(6V),I532(6V)と同一の光電流ではない)。また、Imix'(6V)は,Imix'473(6V)とImix'532(6V)の和である。

【0073】
ここで、Imix'473(6V)=2.54×10-9[A],Imix'532(6V)=1.21×10-9[A]であることが分かっているため,数式19より、X473=0.677,X532=0.323が得られた。

【0074】
先に述べたように、補正係数の値は、実測値であるA473,A532の値と,理論値であるX473,X532の値との関係より算出する方法が適当だと考えられる。故に、次式より、A473,A532に対する補正係数F473,F532の値を算出した。
【数20】
JP0005445906B2_000022t.gif

【0075】
数式20より、F473=0.73,F532=4.67が得られた。よって補正係数の値F473=0.73,F532=4.67を保管しておくことにより、数式11を用いてX473,X532の値を本分光方法から得ることができる。ただし、ここで算出した補正係数の値は、基準電圧V2=6[V]における光電流値から算出した混合割合A473,A532に対する補正係数である。故に、基準電圧V2を他の電圧値にした場合には用いることができない。これは、先に述べたように、a-Si:H PDの波長依存特性が印加電圧値毎に異なる(波長及び光量一定の下でも印加電圧値毎に光電流への変換効率が異なる)ためである。したがって、補正係数を上記電圧V2ごとに予めデータベースとして保管しておく必要がある。また、上記電圧V1を上述のように選択可能とするためには、補正係数を上記電圧V1ごとに予めデータベースとして保管しておく必要がある。

【0076】
[実験結果の考察]
以上の実験結果をまとめると、以下のようになる。
【表2】
JP0005445906B2_000023t.gif

【0077】
上記表2において、光量の混合割合とは、光量計を用いて測定した実際のLDからの各波長光の光量の混合割合(理論値)と、本実験より得られた光電流の混合割合を用いて算出した光量の混合割合(実測値)との比較である。

【0078】
ここでは、分光の結果として光量の混合割合を得ることが最終的な目的ではないが、本分光方法を用いることで得られた実験結果の妥当性を確認するために光量の混合割合についても理論値と実測値を比較検討した。

【0079】
光量の混合割合について実測値の算出方法を以下に示す。

【0080】
光量の割合は以下の3つの式より算出できる。

【0081】
混合光の光量[W]をWmix,またa[nm]とb[nm]の波長光の光量をそれぞれWa,Wbとすると、数式21が成り立つ。
【数21】
JP0005445906B2_000024t.gif

【0082】
ここで、a[nm]とb[nm]の波長光の光量の混合割合をそれぞれW'a,W'bとすると、数式22が成り立つ。
【数22】
JP0005445906B2_000025t.gif

【0083】
ただし、Wa,Wbは数式23より算出される。ここで、ηは各波長光に対するPDの光電変換効率である。
【数23】
JP0005445906B2_000026t.gif

【0084】
表2に示すように、光量の混合割合について実測値と理論値が非常に近似した値であることが分かる。故に、本分光方法にて2波長光の分光が実現可能であると考えられる。

【0085】
以上述べた本実施形態における従来の技術(特開2008-241578)との大きな違いは以下の4点である。

【0086】
1.材料:従来技術ではAPD(アバランシェフォトダイオード)に用いられる材料(Si結晶など)が対象であったが、本技術ではPD(フォトダイオード)に用いられる材料(Si結晶だけでなくアモルファスシリコン(a-Si))までが対象となる。そのため、a-Siの特徴である低温での成膜が可能となり、さまざまなデバイスへの積層化が実現できる。

【0087】
2.動作電圧:従来技術ではAPDを動作させるために高電圧(100V程度)を印加させる必要があったが、PD動作電圧(5[V]程度)の低電圧で動作可能となる。

【0088】
3.光電流比率Aiの合計が1となる式(数式10)を利用する場合には、従来技術と違い、「比率の合計が1と定義する」ことにより、測定回数を減らすことが出来、測定による測定誤差を少なくすることが出来る。また同時に、測定回数を減らすことが出来、高速化が実現できる。

【0089】
4.計算方法2(増倍率でなく電流値で計算):従来技術では光電流値を測定し、その値を元に増倍率を求めなければ比率計算することができなかったが、本技術では電流値を測定すれば、その値を用いて、比率計算をすることができるため、計算にかかる時間が早くなる。また、増倍率を求めるために余分な回路機構も必要なくなる。

【0090】
以上本発明につき、好適な実施例を挙げて種々説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのはもちろんである。
【符号の説明】
【0091】
1 フォトダイオード(アモルファスシリコンフォトダイオード)
2 基板用電極
3 正孔注入素子層
4 光吸収層
5 電子注入阻止層
6 透明電極
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11