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明細書 :オキソバナジウム触媒とその製造方法ならびに光学活性エステルの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5801137号 (P5801137)
公開番号 特開2012-106225 (P2012-106225A)
登録日 平成27年9月4日(2015.9.4)
発行日 平成27年10月28日(2015.10.28)
公開日 平成24年6月7日(2012.6.7)
発明の名称または考案の名称 オキソバナジウム触媒とその製造方法ならびに光学活性エステルの製造方法
国際特許分類 B01J  31/36        (2006.01)
C07C  67/03        (2006.01)
C07C  69/145       (2006.01)
C07C  69/157       (2006.01)
C12P  41/00        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI B01J 31/36 Z
C07C 67/03
C07C 69/145
C07C 69/157
C12P 41/00 C
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 4
全頁数 19
出願番号 特願2011-175401 (P2011-175401)
出願日 平成23年8月10日(2011.8.10)
優先権出願番号 2010233965
優先日 平成22年10月18日(2010.10.18)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年5月16日(2014.5.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】赤井 周司
【氏名】江木 正浩
【氏名】加藤 且也
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】西山 義之
参考文献・文献 特開昭52-075684(JP,A)
調査した分野 B01J 21/00-38/74
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
アリルアルコールの1,3転位反応またはアルコールのラセミ化反応用のオキソバナジウム触媒であって、オキソバナジウム部位V=Oがメソポーラスシリカ(MPS)の内部に結合して固定化されているオキソバナジウム触媒。
【請求項2】
請求項1に記載のオキソバナジウム触媒の製造方法であって、オキソバナジウム化合物とメソポーラスシリカ(MPS)とを有機溶媒中で反応させる工程を含むことを特徴とするオキソバナジウム触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のオキソバナジウム触媒およびリパーゼの存在下、有機溶媒中において次式(I-1)または(I-2)
【化1】
JP0005801137B2_000018t.gif
(式中、R1、R2、R3は水素原子、ハロゲン原子、または有機基を示し、R1とR3は結合して環を形成していてもよい。)で表される鎖状または環状ラセミ体アリルアルコールと、次式(II)
【化2】
JP0005801137B2_000019t.gif
(式中、R4は有機基を示し、R5、R6、R7は水素原子、ハロゲン原子、または有機基を示す。)で表されるビニルエステルとを反応させて次式(III)
【化3】
JP0005801137B2_000020t.gif
(式中、R1、R2、R3、R4は前記と同義である。)で表される光学活性アリルエステルを合成することを特徴とする光学活性エステルの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のオキソバナジウム触媒およびリパーゼの存在下、有機溶媒中において次式(I-3)
【化4】
JP0005801137B2_000021t.gif
(式中、R8~R14は水素原子、ハロゲン原子、または有機基を示す。)で表されるアルコールと、次式(II)
【化5】
JP0005801137B2_000022t.gif
(式中、R4は有機基を示し、R5、R6、R7は水素原子、ハロゲン原子、または有機基を示す。)で表されるビニルエステルとを反応させて次式(IV)
【化6】
JP0005801137B2_000023t.gif
(式中、R4、R8~R14は前記と同義である。)で表される光学活性ベンジルエステルを合成することを特徴とする光学活性エステルの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルアルコールの1,3-転位およびラセミ化に用いられるオキソバナジウム触媒とその製造方法ならびに光学活性エステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学活性アリルエステルは医薬品、農薬、香料等の合成中間体として極めて有用であり、汎用されている。そのため、環境に優しく、簡便、安全、安価な合成法の開発が求められている。
【0003】
本発明者は、公知のオキソバナジウム化合物O=V(OSiPh3)3と市販の加水分解酵素リパーゼを併用して、ラセミ体アリルアルコールから光学的に純粋なアリルエステルを定量的に高収率で得る方法を開発した(非特許文献1)。
【0004】
この方法は、オキソバナジウム化合物によるアリルアルコールの1,3-転位反応とラセミ化反応、リパーゼによる光学分割反応の3つの異なる反応が1つの容器内で同時進行する。そのため、反応中間物質の単離精製を必要とせず、廃棄物を削減でき、室温付近で進行する省エネルギー化が可能な合成法である。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Angew. Chem. Int. Ed., 2006年, 45巻, 2592-2595 頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この従来の方法には基質の制約があり、さらなる改善の余地があった。すなわち1,3-転位により必ずラセミ化するようにアリルアルコールとして特定の分子構造をもつもの、例えば後述の式(I-1)または(I-2)においてR1とR2が同一のものや、疑似対称な環状構造を持つ基質を選択する必要があった。
【0007】
一方、この問題点に対処するためにラセミ化を触媒するオキソバナジウム化合物の活性を高めると、同一容器内に存在するリパーゼと反応して互いに失活させてしまうという新たな問題点が生じる。
【0008】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、広範なアリルアルコールの水酸基1,3-転位反応とラセミ化を高速に進行させることができ、光学活性アリルエステルなどの光学活性エステルの合成において触媒の活性向上とリパーゼとの共存性との両方を満足することが可能な新規触媒とその製造方法ならびに光学活性エステルの製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のオキソバナジウム触媒は、アルコールを基質とする転位反応および/またはラセミ化反応用のオキソバナジウム触媒であって、オキソバナジウム部位V=Oがメソポーラスシリカ(MPS)の内部に結合して固定化されていることを特徴としている。
【0010】
本発明のオキソバナジウム触媒の製造方法は、前記のオキソバナジウム触媒の製造方法であって、オキソバナジウム化合物とメソポーラスシリカ(MPS)とを有機溶媒中で反応させる工程を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の光学活性エステルの製造方法は、前記のオキソバナジウム触媒およびリパーゼの存在下、有機溶媒中において次式(I-1)または(I-2)
【0012】
【化1】
JP0005801137B2_000002t.gif

【0013】
(式中、R1、R2、R3は水素原子、ハロゲン原子、または有機基を示し、R1とR3は結合して環を形成していてもよい。)で表される鎖状または環状ラセミ体アリルアルコールと、次式(II)
【0014】
【化2】
JP0005801137B2_000003t.gif

【0015】
(式中、R4は有機基を示し、R5、R6、R7は水素原子、ハロゲン原子、または有機基を示す。)で表されるビニルエステルとを反応させて次式(III)
【0016】
【化3】
JP0005801137B2_000004t.gif

【0017】
(式中、R1、R2、R3、R4は前記と同義である。)で表される光学活性アリルエステルを合成することを特徴とする。
【0018】
本発明の光学活性エステルの製造方法は、前記のオキソバナジウム触媒およびリパーゼの存在下、有機溶媒中において次式(I-3)
【0019】
【化4】
JP0005801137B2_000005t.gif

【0020】
(式中、R8~R14は水素原子、ハロゲン原子、または有機基を示す。)で表されるアルコールと、次式(II)
【0021】
【化5】
JP0005801137B2_000006t.gif

【0022】
(式中、R4は有機基を示し、R5、R6、R7は水素原子、ハロゲン原子、または有機基を示す。)で表されるビニルエステルとを反応させて次式(IV)
【0023】
【化6】
JP0005801137B2_000007t.gif

【0024】
(式中、R4、R8~R14は前記と同義である。)で表される光学活性ベンジルエステルを合成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、広範なアリルアルコールの水酸基1,3-転位反応とラセミ化を高速に進行させることができ、光学活性アリルエステル、ベンジルエステルなどの光学活性エステルの合成において触媒の活性向上とリパーゼとの共存性との両方を満足することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例3における光学活性アリルアルコールのラセミ化活性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明を詳細に説明する。

【0028】
本発明のオキソバナジウム触媒は、アルコールを基質とする転位反応および/またはラセミ化反応用のオキソバナジウム触媒であって、オキソバナジウム部位V=Oがメソポーラスシリカ(MPS)の内部に結合して固定化されている。

【0029】
このオキソバナジウム触媒は、例えば、オキソバナジウム化合物とメソポーラスシリカ(MPS)とを有機溶媒中で反応させることにより合成することができる。

【0030】
オキソバナジウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、次の3~5価のオキソバナジウム化合物を用いることができる。

【0031】
3価のオキソバナジウム化合物としては、例えば、下記式(IV)で表されるオキソバナジウム化合物を用いることができる。
O=VL (IV)
(式中、Lは置換基を示す。)
4価のオキソバナジウム化合物としては、例えば、下記式(V)で表されるオキソバナジウム化合物を用いることができる。
O=VL2 (V)
(式中、Lは置換基を示す。2つのLは同一でも異なっていてもよく、また、2つのLが結合して環を形成していてもよい。)
5価のオキソバナジウム化合物としては、例えば、次式(VI)で表されるオキソバナジウム化合物を用いることができる。
O=VL3 (VI)
(式中、Lは置換基を示す。3つのLは同一でも異なっていてもよく、また、2つないしは3つのLが結合して環を形成していてもよい)
式(IV)~(VI)において、置換基Lとしては、例えば、-OR8、-NR92、-SR10を挙げることができる。ここで、R8、R9、R10は、C1-C40の有機基を示す。

【0032】
有機基としては、例えば、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等の炭化水素基、芳香族複素環基、ヘテロ原子含有基、シリル基、およびこれらに置換基を導入したもの等が挙げられる。

【0033】
飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、sec-ペンチル基、neo-ペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等のアルキル基等が挙げられる。

【0034】
不飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、エチニル基等のアルキニル基等が挙げられる。

【0035】
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基等のシクロアルキル基、シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基等が挙げられる。

【0036】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアリールアルキル基等が挙げられる。

【0037】
芳香族複素環基としては、例えば、ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基等の単環または多環の複素環基等が挙げられる。

【0038】
ヘテロ原子含有基としては、例えば、エーテル結合含有基、チオエーテル結合含有基、カルボニル基含有基、エステル結合含有基、アミド結合含有基等のヘテロ原子含有基等が挙げられる。

【0039】
シリル基としては、例えば、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基を有するシリル基を挙げることができる。炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、イソプロピルフェニル基、t-ブチルフェニル基、メトキシフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、トリメチルシリルフェニル基等のアリール環含有基、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基等のシリル基等が挙げられる。

【0040】
以上の有機基に導入される置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、C1-C6アルキル基、C2-C6アルケニル基、C1-C6アルコキシ基、C2-C6アルコキシカルボニル基、C6-C10アリールオキシ基、C2-C8ジアルキルアミノ基、C2-C8アシル基等が挙げられる。

【0041】
なお、前記のNR92において、2つのR9は同一でも異なっていてもよく、また、これらが結合してC6-C40の2価の有機基を形成していてもよい。

【0042】
その他、置換基Lとして、通常のブレンステッド酸の共役塩基を用いることができる。例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフートイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン、水酸化物イオン、酸化物イオン、メトキシドイオン、エトキシドイオン等が挙げられる。

【0043】
なお、式(V)、(VI)において、2個以上のLが結合して1個の多座置換基を形成してもよい。多座置換基としては、例えば、-O(CH2)nO-(式中、nは2~10の整数である。)で表される飽和アルキレンジオキシ基(具体的には、-OCH2CH2O-(エチレンジオキシ)、-OCH2CH2CH2O-(プロピレンジオキシ)、-OCH2CH2CH2CH2O-(ブチレンジオキシ)等)が挙げられる。また、上記飽和アルキレン基の中に1個ないしは複数個の炭素炭素二重結合や三重結合を有する不飽和アルキレンジオキシ基が挙げられる。または、上記、飽和アルキレンジオキシ基や不飽和アルキレンジオキシ基の任意の炭素を、前述の脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、芳香族複素環、ヘテロ原子含有炭化水素環などに置き換えたものが挙げられる。さらに、上記の飽和アルキレンジオキシ基、および不飽和アルキレンジオキシ基の2つの末端酸素のうち1ないし2個が、窒素、硫黄に置き換わったものも挙げられる。さらに、前記の多座置換基に前記の種々の有機基が置換した場合も挙げられる。

【0044】
本発明において、メソポーラスシリカとは、二酸化ケイ素(シリカ)を材質として、均一で規則的な細孔(メソ孔:細孔径2~50 nm、主に2~10 nm)を持つ物質のことである。

【0045】
一例として、細孔径2.6~3.5nm、比表面積0.82~1.15m2/g、細孔体積1.2~1.6cm3/gの粉末状のものを用いることができる。

【0046】
メソポーラスシリカは、例えば、界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法により合成することができる。水溶液中に臨界ミセル濃度以上の濃度で界面活性剤を溶解させると、界面活性剤の種類に応じて一定の大きさと構造をもつミセル粒子が形成される。しばらく静置するとミセル粒子が充填構造をとり、コロイド結晶となる。ここで溶液中にシリカ源となるテトラエトキシシラン等を加え、微量の酸または塩基を触媒として加えると、コロイド粒子の隙間でゾルゲル反応が進行しシリカゲル骨格が形成される。最後に高温で焼成すると、鋳型とした界面活性剤が分解・除去されて純粋なメソポーラスシリカが得られる。

【0047】
界面活性剤の種類を変更することで、細孔の大きさや形、充填構造を制御することができる。代表的なものとして、小分子系カチオン性界面活性剤を用いるMCMシリーズ、ブロックコポリマーを用いるSBAシリーズ等が知られている。

【0048】
上述のようなメソポーラスシリカは、分子量数万ダルトンの酵素を排除して高分子リパーゼとの接触を防ぎ、かつ分子量約1000以下の基質であるアリルアルコールのみを取りこむことができると考えられる。

【0049】
そしてオキソバナジウム化合物をメソポーラスシリカに固定化する際には、ベンゼン等の有機溶媒中において適宜に加熱しながら混合して行うことができる。ここで、固定化は、オキソバナジウム化合物の1~2個の置換基がメソポーラスシリカ表面の水酸基に置き換えられて結合するものと考えられる。

【0050】
このようにして得られるオキソバナジウム触媒は、バナジウム金属の含有量が、好ましくは0.05mmol/g以上、より好ましくは0.1mmol/g以上である。

【0051】
そして、このオキソバナジウム触媒およびリパーゼの存在下、有機溶媒中において前記の式(I-1)または(I-2)で表される鎖状または環状ラセミ体アリルアルコールと、前記の式(II)で表されるビニルエステルとを反応させることで、前記の式(III)で表される光学活性アリルエステルを合成することができる。

【0052】
式(I-1)または(I-2)において、R1、R2、R3は、水素原子、ハロゲン原子、または、好ましくはC1-C40、より好ましくはC1-C20の有機基を示す。有機基としては、例えば、上述のものを挙げることができる。なお、R1とR3は結合して環を形成していてもよい。この場合、例えば、R1とR3が全体として好ましくはC3-C40、より好ましくはC3-C20の2価の基を形成する。

【0053】
式(II)において、R4は有機基を示し、R5、R6、R7は水素原子、ハロゲン原子、または、好ましくはC1-C40、より好ましくはC1-C20の有機基を示す。有機基としては、例えば、上述のものを挙げることができる。

【0054】
反応は、有機溶媒の存在下に行うのが好ましい。有機溶媒としては、基質等の種類に応じてアセトニトリル、アセトン等の極性溶媒、各種エーテル類、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の低極性溶媒、クロロホルム、ジクロロメタンなど含ハロゲン溶媒等を用いることができる。反応の温度、時間、モル比等は、非特許文献1等の従来技術も考慮して適宜に設定することができる。

【0055】
この光学活性アリルエステルの合成反応は、次の機構により進行する。すなわち、アリルアルコールの1,3-転位およびラセミ化がオキソバナジウム触媒により進行し、同時に、リパーゼがR体アリルアルコールのエステル化を選択的に触媒してアリルエステルを生成する。

【0056】
【化7】
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【0057】
また、このオキソバナジウム触媒およびリパーゼの存在下、有機溶媒中において前記の式(I-3)で表されるアルコールと、前記の式(II)で表されるビニルエステルとを反応させることで、前記の式(IV)で表される光学活性ベンジルエステルを合成することができる。

【0058】
式(I-3)において、R8~R14は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、好ましくはC1-C40、より好ましくはC1-C20の有機基を示す。有機基としては、例えば、上述のものを挙げることができる。

【0059】
反応は、有機溶媒の存在下に行うのが好ましい。有機溶媒としては、基質等の種類に応じてアセトニトリル、アセトン等の極性溶媒、各種エーテル類、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の低極性溶媒、クロロホルム、ジクロロメタンなど含ハロゲン溶媒等を用いることができる。反応の温度、時間、モル比等は、非特許文献1等の従来技術も考慮して適宜に設定することができる。

【0060】
オキソバナジウムがメソポーラスシリカに固定化された本発明のオキソバナジウム触媒を用いることで、従来のオキソバナジウム触媒よりも活性が高くなり、動的光学分割における生成物の収率と光学純度がともに向上する。これは、メソポーラスシリカが高分子リパーゼとの物理的な接触を防ぎ、一つの反応容器中で両触媒の共存性が向上したためと考えられる。さらに、本発明のオキソバナジウム触媒は、反応後に回収し再利用できるために、コスト面でも大きな利点がある。

【0061】
このように、本発明のオキソバナジウム触媒は、多様な酵素と共存できるため、広範囲の基質の動的光学分割を可能にする。また、原料合成の柔軟性、全工程数の短縮、触媒の回収再利用など、工業プロセス化に際し、実用面での利点が大きい。すなわち、医薬、農薬、香料等の合成中間体として重要な光学活性アリルエステルを入手容易な原料から短工程、高収率で合成することを可能とし、工業プロセス化に適している。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1> メソポーラスシリカ(MPS)の合成
n-ヘキサデシル(トリメチル)アンモニウムブロミド10.4 g(1.0eq)をpH0.5の蒸留水120 mLに室温で溶解し、2時間撹拌後テトラエトキシシラン15.4 mL(2.4eq)を室温で滴下し5時間撹拌した。次いで、28%アンモニア水12 mL(6.2eq)を室温で滴下した。24時間撹拌後、反応液をろ過し、得られた固体をエタノール(40 mL)とアセトン (40 mL) で洗浄・ろ過した。得られた固体を50 ℃で16時間乾燥した後、500 ℃で4時間焼結し、室温まで冷却後、減圧乾燥してメソポーラスシリカ(MPS)5.03 gを得た。
【実施例】
【0063】
数回作成したMPSの構造についてBET比表面積分析装置を用いて解析をした結果、細孔径2.6~3.5nm、比表面積0.82~1.15m2/g、細孔体積1.2~1.8cm3/gであった。
<実施例2> メソポーラスシリカ固定化バナジウム触媒(MPS-V)の合成とその構造解析
前記において得られたMPS 0.50 gとO=V(OSiPh3)3 (0.53 g, 0.60 mmol)をベンゼン40mL中で24時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却し、濃縮した。その後、無水塩化メチレン(10 mL)、無水ヘキサン(5 mL)を加え、1分間超音波を照射した後に遠心分離し、上澄み液をデカンテーションした。沈殿物に無水塩化メチレン(5 mL) 、無水ヘキサン(5 mL)を加え、同様の超音波照射、デカンテーションの操作を6回繰り返した。得られた沈殿物を真空ポンプで3時間減圧乾燥し、MPS-V (0.52 g) を白色結晶として得た。また、上澄み液を合わせて濃縮し、さらに真空ポンプで減圧乾燥して未反応バナジウム化合物(0.48 g)を回収した。前記の回収バナジウム化合物(0.48 g)のうち50.8 mgをMeOH(2 mL)に溶かし、K2CO3(8.4 mg, 61 μmol)とH2O(20 mg, 1.1 mmol)を加え2時間撹拌した。この反応溶液を減圧濃縮し、さらに1時間減圧乾燥して得た白色結晶について高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いてバナジウムの定量を行った。その結果、0.137mmolのバナジウムが固定化され、0.463 mmolのバナジウムが固定化されずに回収されたことがわかった。このことから、MPS-Vのバナジウム含量は、0.26 mmol/gと見積られた。さらに、MPS-Vの元素分析より、炭素が8.81%含まれていることが分かった。
【実施例】
【0064】
これらの結果を総合すると、得られたMPS-Vにおいて、バナジウムには平均して1.5個のOSiPh3基が結合しており、用いたO=V(OSiPh3)3 の1つ乃至は2つのOSiPh3がMPS表面の水酸基と置き換わったと考えられる。
<実施例3> MPS-Vのラセミ化触媒活性試験、並びに既知触媒との比較
実施例2で得た固定化バナジウム触媒MPS-V (B)を用いて光学活性アリルアルコールのラセミ化活性を評価し、その触媒活性を従来の触媒(A)と比較した。次のスキームに従って、別々の反応容器にバナジウム触媒(A又はB)(各10 mg)と光学活性アリルアルコール(R)-2aをアセトニトリルに溶解し、35 ℃で撹拌した。時間ごとに(R)-2aの光学純度を測定した。
【実施例】
【0065】
【化8】
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【実施例】
【0066】
その結果を図1に示す。従来の触媒O=V(OSiPh3)3 Aではラセミ化に8時間を要したのに比べて、固定化オキソバナジウム触媒MPS-V (B) は2.5時間でラセミ化した。このようにメソポーラスシリカ(MPS)への固定化により触媒活性は大幅に向上した。
<実施例4> MPS-Vを用いるリパーゼ触媒動的光学分割(その1)
実施例1で得られた固定化オキソバナジウム触媒 (B) を用い、次のスキームに従って、ラセミ体アリルアルコール (±)-1aのリパーゼ触媒動的光学分割を検討した。また、従来の触媒(A)を用いる動的光学分割と比較した。
【実施例】
【0067】
【化9】
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【実施例】
【0068】
ラセミ体アリルアルコール(±)-1a 65 mg(0.44 mmol)、固定化リパーゼC. antarctica lipase, B (195 mg)、酢酸ビニル81 μl(2.0eq)、MPS-V (B)(32 mg, バナジウム換算で6.9 μmol, 約0.02 eq)をアセトニトリル5.5 mLに加え、窒素雰囲気下、35 ℃で24時間撹拌した。この反応溶液をセライト濾過後、減圧濃縮し、収率90%、光学純度99% eeの(R)-3aを得た。(R)-3aの光学純度は、キラルカラムOD-H (Hexane, flow rate = 1.0 mL/min, 20 ℃, UV=254 nm)を用いるHPLC分析により決定した。
【実施例】
【0069】
これに対して従来の触媒O=V(OSiPh3)3Aを0.20eq用い、(±)-1a (65 mg)、固定化リパーゼC. antarctica lipase, B (195 mg)、酢酸ビニル81 μl(2.0eq)とともに50 ℃で3日間の反応を行った。得られた光学活性アリルエステル(R)-3aの収率は64%、光学純度は93%eeであった。このようにメソポーラスシリカ(MPS)への固定化により光学分割への適性は大幅に向上した。
【実施例】
【0070】
【表1】
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【実施例】
【0071】
<実施例5> MPS-Vを用いるリパーゼ触媒動的光学分割(その2)
【実施例】
【0072】
【化10】
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【実施例】
【0073】
ラセミ体アリルアルコール(±)-1b 68 mg(0.41 mmol)、固定化リパーゼC. antarctica lipase, B (200 mg)、酢酸ビニル77 μl(2.0 eq)、MPS-V (B)(35 mg, バナジウム換算で7.6 μmol, 約0.02 eq)をアセトニトリル5 mLに加え、窒素雰囲気下、35 ℃で24時間反応撹拌した。上記と同様の後処理を行い、収率80%、光学純度99 %eeの光学活性アリルエステル(R)-3bを得た。(R)-3bの光学純度は、キラルカラムOD-H (Hexane, flow rate = 0.8 ml/min, 20 ℃, UV=254 nm)を用いるHPLC分析により決定した。
【実施例】
【0074】
これに対して従来の触媒O=V(OSiPh3)3Aを0.20eq用いて同様に50 ℃で3日間の反応を行った。得られた光学活性アリルエステル(R)-3bの収率は56%、光学純度は94%eeであった。このようにメソポーラスシリカ(MPS)への固定化により光学分割への適性は大幅に向上した。
【実施例】
【0075】
【表2】
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【実施例】
【0076】
<実施例6> MPS-Vを用いる、ラセミ体アルコール(±)-1の動的光学分割による光学活性エステル体の合成
一般操作法 (表3,エントリー 1)
アルゴン下、アルコール(±)-1c (40.0 mg, 0.26 mmol)の無水CH3CN (3.2 ml, 0.08 M)溶液にリパーゼCAL-B(120 mg, 3 w/w)、MPS-V (15.7 mg, 0.005mmol)、酢酸ビニル (48 μl, 0.52 mmol)を室温で加えて密栓し、35 ℃で1日撹拌した。反応液をセライトろ過後、ろ液を減圧濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(hexanes/EtOAc = 20: 1)で精製し、(R)-3c (46 mg, 90%収率, 光学純度96% ee)を得た。(R)-3c の光学純度は、本品をアルカリ加水分解して得られるアルコールをDaicel CHIRALCEL AD-3を用いるHPLC分析を行い決定した。
【実施例】
【0077】
その他のアルコール(±)-1c~1f, (±)-2g, (±)-2h (40.0または50.0 mg)の無水CH3CN溶液に、リパーゼCAL-B、MPS-V、酢酸ビニルを(±)-1cの場合と同じモル(リパーゼは重量)比で加え、35 ℃で1日撹拌し、同じ後処理と精製を行った。光学活性エステル(R)-3c~3h の収率、光学純度は表3に纏めた。
HPLCの条件
(R)-3cは対応するアルコールで分析: CHIRAL AD-3, hexanes/2-propanol = 99:1, 1.0 ml/min, 20 ℃, retention times 21.2 (S), 19.3 min (R)).
(R)-3dは対応するアルコールで分析: CHIRAL AD-3, hexanes/2-propanol = 99:1, 1.0 ml/min, 20 ℃, retention times 12.1 (S), 11.7 min (R)).
(R)-3eは対応するアルコールで分析: CHIRAL AD-3, hexanes/2-propanol = 90:10, 1.0 ml/min, 20 ℃, retention times 10.1 (S), 11.2 min (R)).
(R)-3f: CHIRAL AD-3, hexanes, 1.0 ml/min, 20 ℃, retention times53.9 (S), 62.9 min (R)).
(R)-3g: CHIRAL AD-3, hexanes/2-propanol = 99:1, 1.0 ml/min, 20 ℃, retention times 7.1 (S), 5.8 min (R)).
【実施例】
【0078】
【表3】
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【実施例】
【0079】
<実施例7> MPS-Vを用いる、ラセミ体クロルヒドリン(±)-4の動的光学分割による光学活性エステル(S)-5の合成
一般操作法 (表4,エントリー 1)
アルゴン下、アルコール(±)-4a (50.0 mg, 0.24 mmol)の無水ヘプタン (2.9 ml, 0.08 M)溶液にリパーゼPS-D(150 mg, 3 w/w)、MPS-V (14.2 mg, 0.005mmol)、酢酸ビニル (44 μl, 0.47 mmol)を室温で加えて密栓し、35 ℃で1日撹拌した。セライトろ過後、ろ液を減圧濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(hexanes/ EtOAc = 5: 1)で精製し、(S)-5a(57 mg, 95%収率, 光学純度97% ee)を得た。(S)-5aの光学純度は、Daicel CHIRALCEL OJ-Hを用いるHPLC分析を行い決定した。
【実施例】
【0080】
その他のアルコール(±)-3b~3d (40.0または50.0 mg)の無水ヘプタン溶液に、リパーゼPS-D、MPS-V、酢酸ビニルを(±)-3aの場合と同じモル(リパーゼは重量)比で加え、35 ℃で1日撹拌し、同じ後処理と精製を行った。光学活性エステル(S)-4b~4dの収率、光学純度は表4に纏めた。
HPLCの条件
(S)-5a: CHIRAL OJ-H, hexanes/2-propanol = 80:20, 1.0 ml/min, 20 ℃, retention times 16.2 (S), 15.1 min (R)).
(S)-5b: CHIRAL OJ-H, hexanes/2-propanol = 70:30, 1.0 ml/min, 20 ℃, retention times 20.3 (S), 18.8 min (R)).
(S)-5c: CHIRAL AD-3, hexanes/2-propanol = 60:40, 1.0 ml/min, 20 ℃, retention times 14.1 (S), 22.5 min (R)).
(S)-5d: CHIRAL OJ-H, hexanes/2-propanol = 92.5:7.5, 1.0 ml/min, 20 ℃, retention times 10.7 (S), 12.9 min (R)).
【実施例】
【0081】
【表4】
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【実施例】
【0082】
<実施例8>
リパーゼとMPS-Vの繰り返し利用
アルゴン下、リパーゼCAL-B(150 mg, 3 w/w)、MPS-V (20.4 mg, 0.007 mmol)の混合物にアルコール (±)-1a (50.0 mg, 0.34 mmol)の無水CH3CN (4.0 ml, 0.08 M)溶液、酢酸ビニル (62 μl, 0.67 mmol)を室温で加え、35 ℃で1日撹拌した。反応液を遠心分離後、上澄み液をキャニュレーションで分離した。上記反応容器に無水CH3CN (5.0 ml)を加え、5分間攪拌し、遠心分離後、上澄み液をキャニュレーションで分離した。2回の上澄み液を合わせて減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(hexanes/ EtOAc = 10: 1)で精製し、(R)-3a(64 mg, 100%, 98% ee)を得た。(R)-3aの光学純度はDaicel CHIRALCEL OD-H [hexanes, 1.0 ml/min, 20 ℃, retention times 41.0 (S), 31.7 min (R)] を用いるHPLC分析により決定した。
【実施例】
【0083】
リパーゼとMPS-Vが残った上記反応容器を減圧乾燥後、アルゴン置換した。そこにアルコール (±)-1a(50.0 mg, 0.34 mmol)の無水CH3CN (4.0 ml, 0.08 M)溶液、酢酸ビニル (62 μl, 0.67 mmol)を室温で加え、35 ℃で1日撹拌した。同様の後処理を行い、2回目の(R)-3a (95%収率, 光学純度98% ee)を得た。同様にして合計5回、繰り返して反応を行い、(R)-3aの収率と光学純度を表5に纏めた。
【実施例】
【0084】
【表5】
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【実施例】
【0085】
<実施例9>
ベンジルアルコール誘導体(±)-6の動的光学分割
アルゴン下、アルコール(±)-6 (50.0 mg, 0.33 mmol)の無水CH3CN (4.1 ml, 0.08 M) 溶液にリパーゼCAL-B(150 mg, 3 w/w)、MPS-V (20 mg, 0.0066 mmol)、酢酸ビニル (61 μl, 0.66 mmol)を室温で加えて密栓し、35 ℃で1日撹拌した。反応液をセライトろ過後、ろ液を減圧濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(hexanes/EtOAc = 10: 1)で精製し、(R)-7 (60 mg, 94%収率, 光学純度96% ee) を得た。(R)-7 の光学純度はDaicel CHIRAL AD-3 (hexanes/2-propanol = 90:10, 1.0 ml/min, 20 ℃, retention times 9.0(S), 8.5 min (R)] を用いるHPLC分析で決定した。
【実施例】
【0086】
これに対して、従来の触媒O=C(OSiPh3)3 A (0.10 eq)を用いて同様に35 ℃で1日間の反応を行った。得られた(R)-7 の収率は54%, 光学純度97% eeであった。
【実施例】
【0087】
【化11】
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図面
【図1】
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