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明細書 :植物に耐塩性を付与するABCトランスポーター遺伝子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5871222号 (P5871222)
公開番号 特開2012-187041 (P2012-187041A)
登録日 平成28年1月22日(2016.1.22)
発行日 平成28年3月1日(2016.3.1)
公開日 平成24年10月4日(2012.10.4)
発明の名称または考案の名称 植物に耐塩性を付与するABCトランスポーター遺伝子
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/04        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/04
A01H 5/00 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 22
出願番号 特願2011-053073 (P2011-053073)
出願日 平成23年3月10日(2011.3.10)
審査請求日 平成26年3月6日(2014.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
発明者または考案者 【氏名】小林 裕和
【氏名】アマド アフタブ
【氏名】丹羽 康夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】高山 敏充
参考文献・文献 J. Biol. Chem.,2001年,Vol. 276, No. 32,pp.30231-30244
Physiologia Plantarum,2010年,Vol. 139,pp.170-180
Trends in Plant Science,2008年,Vol. 13, No. 4,pp.151-159
調査した分野 C12N 15/00-15/90
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
塩耐性を有する形質転換植物体を得るための、AtWBC7タンパク質を過剰発現している形質転換植物細胞であって、前記AtWBC7タンパク質が、以下:
(A) 配列番号:2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(B) 配列番号:2のアミノ酸配列において1~9個のアミノ酸基の欠失、挿入、置換および/もしくは付加を含むアミノ酸配列であって、植物細胞の塩耐性を向上させるポリペプチド、または
(C) 配列番号:2のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるポリペプチド
を含む、形質転換植物細胞
【請求項2】
前記AtWBC7タンパク質が配列番号:2のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む、請求項1に記載の植物細胞。
【請求項3】
前記AtWBC7タンパク質が、以下の(a)~(f)のいずれかのポリヌクレオチドによってコードされる、請求項1に記載の植物細胞:
(a) 配列番号:1もしくは3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(b) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(c) 配列番号:2のアミノ酸配列において、1~9個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質と90%以上の同一性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e) 配列番号:1または3のヌクレオチド配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f) 配列番号:1または3の塩基配列からなるポリヌクレオチドと90%以上の同一性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記AtWBC7タンパク質が、以下の(g)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドによってコードされる、請求項1に記載の植物細胞:
(g) 配列番号:1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(i) 配列番号:2のアミノ酸配列において1~9個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(j) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質と90%以上の同一性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(k) 配列番号:1のヌクレオチド配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(l) 配列番号:1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと90%以上の同一性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記塩耐性に係る塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、又は硝酸カリウムを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の植物細胞。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の植物細胞より誘導されるカルス。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の植物細胞または請求項6に記載のカルスより誘導される、形質転換植物体。
【請求項8】
請求項7に記載の植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
【請求項9】
下記(a)~(f)のいずれかのポリヌクレオチドを植物細胞に導入することによって、植物細胞の塩耐性を向上させる、方法:
(a) 配列番号:1または3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(b) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(c) 配列番号:2のアミノ酸配列において、1~9個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質と90%以上の同一性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e) 配列番号:1または3のヌクレオチド配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;及び
(f) 配列番号:1または3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと90%以上の同一性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の塩ストレス耐性を向上させるポリヌクレオチド、および、このポリヌクレオチドを導入した形質転換植物細胞、カルス、植物体などに関する。
【背景技術】
【0002】
植物が受ける環境ストレスには、塩、乾燥、高温、低温、空気汚染など様々なものがあるが、農業生産の観点から最も問題となっているのが塩および乾燥である。
【0003】
地球上の不毛乾燥地域は、陸地の1/3までも占め、さらに6万km/年 (九州と四国を合わせて面積) ずつ増大していおり、一方、熱帯雨林は13万km/年 (北海道と九州を合わせた面積) ずつ減少している。また、地下水を用いた継続的な灌漑は、微量に含まれる塩分の土壌表層蓄積を招く場合が少なくない。これらを背景として、地球上農耕地の塩分集積化は進み、農作物が育たない塩分析出地帯の総計は、955万km2 (米国国土面積に匹敵) と推計されている。さらに、人類が放出する炭酸ガス (CO2) が原因と考えられる地球温暖化は、環境ストレスとして植生を変化させるため、熱帯雨林の地域がさらに不毛乾燥地帯となる懸念も指摘されている。
【0004】
植物は、その生育に水が不可欠であり、塩分析出土壌および不毛乾燥地帯においては、植物の生育は困難である。耐塩性と耐乾性は、植物にとっては共に水の有効利用系の獲得に他ならず、植物へのこれら環境ストレス耐性の向上は、社会的意義が大きい。
【0005】
従来報告されている塩耐性植物の作出や塩耐性メカニズムについての研究は、主として分化した植物体を用いて行われており、細胞レベルでの基本的生理機能に対する知見は乏しい(例えば、Tsugane, K.ら、Plant Cell., 11, 1195-1206 (1999)、国際公開WO2006/098423パンフレットなど)。この場合、形質転換植物を得るために種子を介する必要があるなど、時間的にも労力的にも効率的とはいえなかった。さらに従来の耐塩性の研究は、一方、エンハンサー配列を含むT-DNAを用いたアクティベーション・タギング法は、通常、種子の形態を介して系統を維持するため、その研究の労力は膨大となる。本発明者らは、これら両観点を考慮して、モデル実験植物シロイヌナズナの脱分化カルスとアクティべーション・タギング(後藤新悟等、蛋白質核酸酵素 Vol.50 No.14、p.1921-1922 (2005))を組合わせて用いるスクリーニング方法を開発した(特開2008-220303)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】国際公開WO2006/098423パンフレット
【特許文献2】特開2008-220303明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記状況において、耐塩性を有する植物の研究は種々行われているが、さらに新規の十分な耐塩性を有する形質転換植物体などの開発が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、上記のスクリーニング方法によって得られた塩耐性植物培養細胞を解析することで、ABCトランスポータータンパク質ファミリーに属するAtWBC7をコードするポリヌクレオチドを過剰発現する植物細胞(カルス)が塩耐性を示すことを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下のような形質転換された植物細胞、この形質転換細胞より得られるカルス、植物体などを提供する。
[1] AtWBC7タンパク質を過剰発現している形質転換植物細胞。
[2] 前記AtWBC7タンパク質が、以下:
(A) 配列番号:2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(B) 配列番号:2のアミノ酸配列において1~9個のアミノ酸基の欠失、挿入、置換および/もしくは付加を含むアミノ酸配列であって、植物細胞の塩耐性を向上させるポリペプチド、または
(C) 配列番号:2のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるポリペプチド
を含む、[1]に記載の植物細胞。
[3] 前記AtWBC7タンパク質が配列番号:2のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む、[1]に記載の植物細胞。
[4] 前記AtWBC7タンパク質が、以下の(a)~(f)のいずれかのポリヌクレオチドによってコードされる、[1]に記載の植物細胞:
(a) 配列番号:1もしくは3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(b) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(c) 配列番号:2のアミノ酸配列において、1~9個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質と80%以上の同一性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e) 配列番号:1または3のヌクレオチド配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f) 配列番号:1または3の塩基配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の相同性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
[5] 前記AtWBC7タンパク質が、以下の(g)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドによってコードされる、[1]に記載の植物細胞:
(g) 配列番号:1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(i) 配列番号:2のアミノ酸配列において1~9個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(j) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質と80%以上の相同性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(k) 配列番号:1のヌクレオチド配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(l) 配列番号:1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の相同性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[6] 上記[1]~[5]に記載の植物細胞より誘導されるカルス。
[7] 上記[1]~[5]に記載の植物細胞または[6]に記載のカルスより誘導される、形質転換植物体。
[8] 上記[7]に記載の植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
[9] 下記(a)~(f)のいずれかのポリヌクレオチドを植物細胞に導入することによって、植物細胞の塩耐性を向上させる、方法:
(a) 配列番号:1または3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(b) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(c) 配列番号:2のアミノ酸配列において、1~9個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質と80%以上の同一性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e) 配列番号:1または3のヌクレオチド配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;及び
(f) 配列番号:1または3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の相同性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
【発明の効果】
【0009】
本発明の形質転換植物細胞などを用いれば、植物細胞の塩耐性を向上させることができるので、耐塩性を有する形質転換植物細胞および形質転換植物体を得ることができる。そのようにして得られる本発明の形質転換植物体は、塩集積土壌においても育成することができるので、塩集積土壌の緑化に貢献することができる。また、本発明で用いるAtWBC7を食用植物に組み込んでなる塩耐性形質転換植物体は、塩害で通常育成しにくい場所でも育成できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、150 mM NaCl培地上での野生型(A)とstc5(B)の表現型を示す図である。
【図2】図2は、150 mM NaCl添加の有無による野生型とstc5におけるAt2g01320遺伝子の発現解析を示す図である。
【図3】図3は、MS基本培地および、NaCl(100, 125 mM)、KCl(110 mM)、LiCl(12 mM)添加培地における野生型と遺伝子破壊株の表現型を示す図である。
【図4】図4は、本発明において構築したAtWBC7過剰発現用プラスミドの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を、その実施態様に基づいて詳細に説明する。

【0012】
1.本発明の植物細胞
本発明で用いる「植物細胞」とは、培地で培養されている脱分化した状態の植物細胞を指す。本明細書中で使用される用語「脱分化」とは、植物体中の葉、茎、根、胚などに一旦特定された細胞(又は分化した細胞)がその性質を失い、再び葉、茎、根、胚、さらには植物体へと成長又は分化する能力を新たに獲得することを指す。

【0013】
本発明の植物細胞は、植物体中の全ての細胞から誘導して得ることができるが、好ましくは、植物体の葉、茎、根、胚など、より好ましくは、葉、茎及び根、さらに好ましくは根から誘導して得た細胞である。カルスは、植物体、例えば、葉、茎、根、胚などを細かく切り刻んだ後、これら細断片を脱分化誘導培地中で培養して得られる植物細胞を、公知の培地において増殖させることにより取得できる。このようにして得られたカルスを分化誘導することによって、植物体を再生させることができる。

【0014】
本発明において使用される植物細胞が由来する植物種としては、特に制限はなく、例えば、農作物、観賞用植物などを挙げることができる。農作物としては、例えば、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ダイズ、トマト、ミカン、リンゴ、イチゴ、ワタ、タバコ、コーヒーノキ、チャ、ナタネ、ジャガイモ、テンサイ、サトウキビ、ヒマワリ、ゴムノキなどが挙げられるが、これらに限定されない。観賞用植物としては、例えば、キク、カーネーション、バラ、シクラメン、カトレア、ペチュニア、チューリップ、ガーベラなどが挙げられるが、これらに限定されない。

【0015】
本発明の植物細胞を誘導し培養するための植物細胞誘導培地としては、基礎培地(例えばMS培地、Gamborg B5培地など)に、植物ホルモン(例えば、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、カイネチン、ナフタレン酢酸、インドール酢酸、インドール酪酸、イソペンテニルアデニン、ベンジルアミノプリンなど)の少なくとも1つを添加した培地などを使用することができる。このような植物細胞誘導培地は、使用される植物の種類により公知の技術情報を考慮して当業者により適宜選択され得る。本発明で用いる好ましい植物細胞誘導培地は、例えば、本明細書の実施例に記載のカルス細胞誘導培地(CIM)である。

【0016】
本発明の植物細胞は、以下に説明される本発明において用いるAtWBC7タンパク質、又はそれをコードするポリヌクレオチドを、野生型細胞よりも過剰発現している細胞である。このような植物細胞は、異種交配、変異原メタンスルホン酸エチル処理や紫外線などの照射処理などによる突然変異誘発、遺伝子工学的手法による変異誘発、形質転換などによって取得することができる。好ましくは、本明細書に記載の手順に従って作製された遺伝子工学的手法によって形質転換された細胞(以下、単に本発明の植物細胞ともいう)である。

【0017】
本明細書において使用される語句「塩耐性を有する」とは、例えば、植物細胞または植物体を、通常の条件よりも高濃度の塩(または塩類)を含む(塩ストレス下)培地で一定期間(例えば、3週間)培養または育成した場合に、形質転換していない植物細胞または植物体と比較して、カルスまたは植物体の総重量、根の伸長、葉の総面積もしくは枚数などがより大きいか、または/および、葉(双葉、本葉など)の白色化が抑制されているなど、塩ストレス下での生育を向上させることを意味する。

【0018】
本発明において用いられる塩(塩類)、その濃度、育成期間などの塩ストレスの条件は、用いられる植物の種類などに応じて適宜設定することができる。本発明において用いる塩ストレスに用いる塩類としては、公知のアルカリ金属(例えば、Na、K、Liなど)、アルカリ土類金属(Ca、Mg、Baなど)を含む塩を用いることができ、好ましくは、アルカリ金属塩である。本発明において用いるより好ましい塩としては、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸カリウム(KNO3)などが挙げられ、さらにより好ましくは、塩化ナトリウムである。使用する塩濃度としては、例えば、0.01~2M、好ましくは0.05~1M、より好ましくは0.07~0.5M、特に好ましくは0.1~0.3Mである。塩ストレスを付す期間としては、例えば、1時間~10週間、好ましくは2時間~8週間、より好ましくは1日~4週間、特に好ましくは1週間~3週間である。これらの塩濃度、期間などの塩ストレス条件は、本発明の植物体またはカルスを種々の条件において培養することにより適宜設定できる。

【0019】
本明細書において、植物細胞について「塩耐性を向上させる」とは、形質転換された植物細胞が、通常よりも高い塩濃度を含む培地において増殖可能であること、または野生型細胞と比較してより高い塩濃度において早く増殖すること、もしくは細胞死(アポトーシス)をより生じないことをいう。例えば、本発明の形質転換植物細胞は、通常よりも高い塩濃度を含む培地において培養した場合、野生型と比較して、生細胞数について少なくとも1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍またはそれ以上の向上を有することを特徴とする。生細胞数の測定や死細胞(例えば、アポトーシスを生じた細胞)の測定については、公知の方法にしたがって行うことができる。塩濃度およびストレス付与期間としては、上記のものを用いることができる。

【0020】
あるいは、本明細書において、カルスや植物体について「塩耐性を向上させる」とは、カルスや植物体が、野生型よりもより高い塩濃度においてより早く生長(根の形成、枝葉の形成など)可能であること、または枯死しないことをいう。これら生長などを確認については、公知の手法にしたがって行うことができる。例えば、植物体の外観を観察した場合に、生長した根の長さ、芽の大きさ、などを確認することで比較できる。塩濃度およびストレス付与期間としては、上記のものを用いることができる。

【0021】
本発明において使用される語句「過剰発現する」とは、野生型のものと比較して、少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍またはそれ以上のレベルで発現していることをいう。このような発現量の比較は、タンパク質レベルであればウエスタンブロット、標識化など、遺伝子レベルであればノーザンブロット、リアルタイムPCR法など、当業者に公知の方法によって測定できる。例えば、Sambrook J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)(以下、Sambrookらと称す)、Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1~38, John Wiley and Sons (1987-1997)(以下、Ausbelらと称す)、Glover D. M. and Hames B. D., DNA Cloning 1: Core Techniques, A practical Approach, Second Edition, Oxford University Press (1995)(以下、Gloverらと称す)等の一般的な公知の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。

【0022】
2.本発明において使用されるタンパク質
本発明において使用される「AtWBC7タンパク質」は、ABCトランスポータータンパク質ファミリーに属するタンパク質をいう。このABCトランスポータータンパク質は一般に、細菌からヒトまでの様々な種において、糖、アミノ酸、ポリペプチド、疎水性物質などのトランスポーターとして機能する。植物において、このABCトランスポータータンパク質スーパーファミリーは公知の最も大きなファミリーの一つであり、このファミリーにはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)およびコメ(Oryza sativa)の両方で120種以上のものが属する。ABCトランスポータータンパク質は、一般的な分子構造として、数回膜を貫通し基質特異性を決めている疎水性ドメインを2つ、およびATP結合ドメインを2つ有する。例えば、Rea, P.A., Annu. Rev. Plant Biol. 2007. 58:347-75、Sanchez-Fernandes, R.ら、J. Biol. Chem. Vol. 276. 30231-30244, 2001などを参照のこと。

【0023】
本発明において過剰発現のために使用されるタンパク質は、対象とする植物細胞において過剰発現されることによって、宿主の植物細胞に塩耐性を向上させるものである。このようなタンパク質としては、上記文献に記載されるものが挙げられ、例えば、シロイヌナズナの公知の遺伝子断片によってコードされるAtWBC1~29に属するタンパク質、またはそれらの異種における相同体(ホモログ)などが挙げられる。本発明において使用されるタンパク質は、好ましくは、配列番号:2のアミノ酸配列を有するタンパク質(「AtWBC7タンパク質」または単に「AtWBC7」)またはその異種ホモログである。

【0024】
本発明において使用されるAtWBC7タンパク質は、宿主の植物細胞の塩耐性を向上させる機能において実質的に同等の機能を有するものを用いることもできる。このようなタンパク質としては、以下のものであってもよい:
(A) 配列番号:2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(B) 配列番号:2のアミノ酸配列において、1~9個のアミノ酸基の欠失、挿入、置換および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、を有するポリペプチド、または
(C) 配列番号:2のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ宿主の植物細胞の塩耐性を向上させるポリペプチド。

【0025】
本明細書において、あるアミノ酸配列に対して1以上の個数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列(すなわち、変異アミノ酸配列)を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、部位特異的変異導入法(例えば、Gotoh, T. et al., Gene 152, 271-275 (1995)、Zoller, M.J., and Smith, M., Methods Enzymol. 100, 468-500 (1983)、Kramer, W. et al., Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456 (1984)、Kramer W, and Fritz H.J., Methods. Enzymol. 154, 350-367 (1987)、Kunkel,T.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-492 (1985)、Kunkel, Methods Enzymol. 85, 2763-2766 (1988)、など参照)、アンバー変異を利用する方法(例えば、Gapped duplex法、Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456 (1984)、など参照)などを用いることにより得ることができる。本発明において、これら変異アミノ酸配列を含むタンパク質は、宿主細胞の塩耐性を向上させる限り、本発明の範囲内である。

【0026】
また目的の変異(欠失、付加、置換および/または挿入)を導入した配列をそれぞれの5’端に持つ1組のプライマーを用いたPCR(例えば、Ho S. N. et al., Gene 77, 51 (1989)、など参照)によっても、ポリヌクレオチドに変異を導入することができる。

【0027】
また欠失変異体の一種であるタンパク質の部分断片をコードするポリヌクレオチドは、そのタンパク質をコードするポリヌクレオチド中の作製したい部分断片をコードする領域の5’端の塩基配列と一致する配列を有するオリゴヌクレオチドおよび3’端の塩基配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、そのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを鋳型にしたPCRを行うことにより取得できる。

【0028】
本発明において用いるタンパク質が含み得る欠失、付加、置換および/または挿入されるアミノ酸残基の数は特に限定されず、1以上の任意の数であればよいが、上記の部位特異的変異法やPCR等の周知の方法により欠失、付加、置換および/または挿入できる程度の数であることが好ましく、一般的には1~50個程度の範囲内であり、好ましくは1~30個、より好ましくは1~20個、さらに好ましくは1~10個、特に好ましくは1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個または1個である。

【0029】
また、本発明において用いるタンパク質が植物の耐塩性を高める機能を有するには、配列番号:2のアミノ酸配列との同一性がBLAST(例えば、Altzshul S. F. et al., J. Mol. Biol. 215, 403 (1990)、など参照)やFASTA(Pearson W. R., Methods in Enzymology 183, 63 (1990)、など参照)等の解析プログラムでデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いて計算したときに、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上、99%以上であることが好ましい。

【0030】
本発明において使用されるタンパク質が上記の変異などを含むタンパク質(以下、変異タンパク質と称する)場合、その変異タンパク質を対象の植物細胞において過剰発現させることによって、宿主の植物細胞に元のタンパク質と同等の塩耐性向上を提供することもできる。本発明において用いる場合、同等の塩耐性向上とは、例えば、野生型と比較して生細胞数について少なくとも1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍またはそれ以上の向上を付与することを意味する。

【0031】
本発明において使用されるタンパク質は、必要に応じて、公知のペプチドタグ(例えば、ヒスチジンタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼタンパク質(GST)、FLAGTMなど)を付加することもできる。このようなタグとしては、公知のタグを利用することができ、またそのようなタグを有するタンパク質は、公知の遺伝子工学的手法によって作製することができる。

【0032】
3.本発明において使用されるポリヌクレオチド
本発明において使用されるポリヌクレオチド(以下、本発明のポリヌクレオチドともいう)は、好ましくはDNAであり、具体的には、cDNA、合成DNAなどが挙げられる。本発明において用いるDNAが由来する生物種としては、特に制限はないが、好ましくは植物である。植物としては、例えば、シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ダイズ、トマト、ワタ、タバコ、ナタネ、ジャガイモ、テンサイ、サトウキビ、ヒマワリ、シバ、樹木(ポプラやユーカリなど)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
本発明において使用されるポリヌクレオチドの具体例としては、例えば、以下の(a)~(f)のいずれかのポリヌクレオチドによってコードされるものであり得る:
(a) 配列番号:1もしくは3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(b) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(c) 配列番号:2のアミノ酸配列において、1~9個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質と80%以上の同一性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e) 配列番号:1または3のヌクレオチド配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f) 配列番号:1または3の塩基配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の相同性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
より具体的には、以下の(g)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドであり得る:
(g) 配列番号:1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(i) 配列番号:2のアミノ酸配列において1~9個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(j) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質と80%以上の相同性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(k) 配列番号:1のヌクレオチド配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(l) 配列番号:1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の相同性を有し、かつ植物細胞の塩耐性を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。

【0033】
本発明の植物細胞などにおいて、上記のポリヌクレオチドは宿主細胞の塩耐性を向上させるため、、野生型と比較して少なくとも1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍のレベルで発現している。

【0034】
本発明において用いるポリヌクレオチドとしては、上記(a)~(f)または(g)~(l)に示されたポリヌクレオチドのいずれか1つを含むポリヌクレオチドが好ましく、より好ましくは、配列番号:1のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドである。

【0035】
本発明において用いられる「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、配列番号:1または3のヌクレオチド配列と相補的な配列からなるポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるポリヌクレオチドであって、かつ配列番号:2のアミノ酸配列などの本発明において用いるタンパク質をコードするものを意味する。このようなポリヌクレオチドは、具体的には、植物のゲノムライブラリー又はcDNAライブラリーを含むコロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7~1.0mol/LのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍濃度のSSC(Saline-sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/L塩化ナトリウム、15mmol/Lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できる。

【0036】
上記の手順においてハイブリダイゼーションは、上記のSambrookら、Ausbelら、Gloverら等の一般的な公知の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。本発明において用いるハイブリダイゼーション反応において、さまざまな程度のストリンジェントな条件を用いることができる。一般的に、用いるストリンジェントな条件を厳しくするほど、二本鎖形成に必要とする相補性が高くなる。

【0037】
本発明において用いる「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃条件でのハイブリダイゼーション、それに続く2×SSC、0.1%SSC、室温での洗浄である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃条件でのハイブリダイゼーション、それに続く0.2×SSC、0.1%SDS、37℃での洗浄である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃条件でのハイブリダイゼーション、それに続く0.1×SSC、0.1%SDS、65℃での洗浄である。これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。

【0038】
ポリヌクレオチドが配列番号:1または3のヌクレオチド配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物の耐塩性を向上させるタンパク質(例えば、配列番号:2のアミノ酸配列を有するタンパク質など)をコードするポリヌクレオチドであるためには、BLASTやFASTA等の解析プログラムでデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いて計算したときに、配列番号:1または3のヌクレオチド配列と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドであることが望ましい。

【0039】
本発明において使用するポリヌクレオチドの核酸の種類としてはDNAまたはRNAを挙げることができる。また本発明において用いるポリヌクレオチドは1本鎖でも2本鎖でもよく、これらの両者が含まれる。

【0040】
本発明において使用するポリヌクレオチドは、例えば、本発明において使用するタンパク質(例えば、配列番号:2のアミノ酸配列を有するタンパク質など)をコードするDNAを有する適当な細胞または組織から調製したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAPなどのベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、本発明において用いるポリヌクレオチドを基にして調製したプローブを用いてスクリーニングを行うことにより取得することができる。また、本発明において用いるタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号:1のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドなど)に特異的にハイブリダイズするプライマー(またはプライマー対)を作製し、これを利用したPCRを行うことにより取得することもできる。

【0041】
また、本発明において使用するポリヌクレオチドは、配列情報を利用したPCR(M. J. McPherson et al., PCR, A practical Approach, Oxford University Press (1991))を利用してcDNAをクローニングすることによって取得することもできる。このようなcDNAのクローニング方法として、例えば、RACE(Rapid Amplification of cDNA ends)法を用いることができる。

【0042】
得られたcDNAの塩基配列は、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社やアマシャム・ファルマシア・バイオテク社、ライコア(LI-COR)社製のDNAシークエンサー(アプライドバイオシステムズ社製377など)やジデオキシ法(Sanger F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74, 5463 (1977))を利用した種々の市販のキットを用いて確認できる。

【0043】
4.本発明において使用される組換えベクター
本発明において使用される組換えベクターは、野生型と比較して、本発明において用いられる上記のポリヌクレオチドを過剰発現させて、宿主細胞の塩耐性を向上させるものである。この目的のために本発明において使用される組換えベクターは、植物細胞の形質転換のために使用される当業者に公知の適当なベクター(又はベクター系)に上記のポリヌクレオチドを挿入することによって作製できる。このようなベクターとしては、pBluescript系のベクター、pBI系のベクター、pUC系のベクターなどが使用できる。

【0044】
本発明において、pBluescript系のベクター、pBI系のベクターなどのバイナリーベクターは、アグロバクテリウムを介して植物に目的のDNAを導入できるという点で好ましい。pBluescript系のベクターとしては、例えば、pBluescript SK(+)、pBluescript SK(-)、pBluescript II KS(+)、pBluescript II KS(-)、pBluescript II SK(+)、pBluescript II SK(-)などがあげられる。pBI系のベクターとしては、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3、pBI221などが挙げられる。pUC系のベクターは、植物にDNAを直接導入することができるという点で好ましい。

【0045】
本発明おいてアグロバクテリウム用バイナリープラスミドを用いることもできる。アグロバクテリウム用バイナリープラスミドは、大腸菌(Escherichia coli)とアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)の両方を宿主とし、それら両細胞において自己増幅が可能であり、さらにアグロバクテリウムを介する植物の形質転換法に用いられる。ここで、アグロバクテリウムを介する植物の形質転換法とは、アグロバクテリウムを植物に感染させた時、アグロバクテリウムが自己の遺伝子の一部(T-DNAと呼ばれるDNA配列)を切り離し、T-DNA内、すなわちT-DNAのライトボーダーとレフトボーダーの間に存在する遺伝子をT-DNAとともに植物の染色体中に組み込み、組み込んだ当該遺伝子を染色体から転写および翻訳させることで植物の形質を変化させる方法を意味する。アグロバクテリウム用バイナリープラスミドとして、pBI101、pBI121などが市販されている。また、市場より入手可能なアグロバクテリウム用バイナリープラスミドを、より適当なプロモータなどの配列と組み合わせることによって適宜改良してもよい。

【0046】
本発明において用いられる上記のベクターは、植物細胞内での恒常的かつ強力な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子プロモーターなど)を有するベクターや、外的な刺激(例えば、乾燥、紫外線の照射、塩ストレス)により誘導的に活性化されるプロモーターを有していてもよい。このようなプロモーターとしては、例えば、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナのrab16遺伝子のプロモーター(Nundy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 1406 (1990))、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター(Schulze-Lefertら、EMBO J. 8, 651 (1989))、塩ストレスによって誘導されるプロモーター(Shinozaki, K.ら、Curr. Opin. Plant Biol. 3, 217-223(2000))などが挙げられる。

【0047】
さらに、本発明において用いられるベクターには、必要に応じて、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、ポリA付加シグナル、T-DNAなど当業者に公知の配列を連結してもよい。

【0048】
本発明において用いられるプロモーター配列としては、植物細胞において機能することができれば植物由来のものでなくてもよい。具体的には、CaMV35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来のユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来のPRタンパク質プロモーターなどの配列が挙げられる。さらに、前述の外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターも挙げられる。

【0049】
本発明において用いられるエンハンサー配列としては、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域の配列など、当業者に公知のものが挙げられる。

【0050】
本発明において用いられるターミネーター配列としては、前述のプロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列である限り任意のものを使用することができる。具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、CaMVポリAターミネーターなど、当業者に公知のものが挙げられる。

【0051】
これら本発明において用いるプロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどが機能する結果、本発明において用いる塩耐性を向上させるポリヌクレオチドは、好ましくは野生型のものと比較して少なくとも1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍またはそれ以上のレベルで発現され得る。このような発現レベルの測定には、公知の方法(例えば、ノーザンブロット、リアルタイムPCRなど)を用いることができる。

【0052】
これら本発明において用いるプロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどによって本発明において用いられるポリヌクレオチドが過剰発現する結果、本発明において用いる植物細胞に塩耐性を向上させるポリペプチドは、好ましくは野生型のものと比較して少なくとも1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍またはそれ以上のレベルで発現され得る。このような発現レベルの測定には、公知の方法(例えば、ウエスタンブロットなど)を用いることができる。このようにして本発明において用いられるポリペプチドが過剰発現する結果、宿主細胞の塩耐性を向上させることができる。

【0053】
本発明で用いるベクターは、植物細胞用の選択マーカーとして、例えばハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ビアラフォス耐性遺伝子などを含むことができる。好ましくは、本発明において用いるベクターはハイグロマイシン耐性遺伝子を含んでもよい。これらの選択マーカーには、プラスミドなどに組み込まれて市販されているものもある。

【0054】
本発明において用いるポリヌクレオチド(例えば、DNA)を上記のベクターに挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入する方法などが用いられる。これら一般的な遺伝子組み換え手法については、上記のSambrookら、Ausbelら、Gloverら等に記載されている方法を利用できる。

【0055】
5.本発明の形質転換植物細胞および形質転換植物体の作製
本発明の形質転換植物細胞は、本発明において使用される組換えベクターを植物細胞に導入することによって取得できる。組換えベクターの植物細胞への導入は、公知の方法、例えば、植物に感染するウイルスや細菌を介して導入する方法(I. Potrylkus, Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 42, 205 (1991))、外来DNAを直接導入する方法などが挙げられる。具体的には、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法、エレクトロポレーション法などを用いることができる。これらの方法は、例えば、形質転換する宿主植物の種類などに応じて適宜決定できる。

【0056】
遺伝子組み換え植物を得るために一般に利用される、植物細胞に感染するウイルスとしては、カリフラワーモザイクウイルス、ジェミニウイルス、タバコモザイクウイルス、プロムモザイクウイルスなどが使用できる。細菌としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、アグロバクテリウム・リゾジェネスなどが使用できる。

【0057】
アグロバクテリウムへのベクターの移入は、例えば、エレクトロポレーション法や凍結融解法など、当業者に公知の方法によって行うことができる。

【0058】
植物細胞に外来DNAを直接導入する一般的な方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、融合法、高速バリスティックペネトレーション法等の従来公知の方法があげられる(I. Potrykus, Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 42, 205 (1991)参照)。エレクトロポレーション法は、例えば、プロトプラストの培養が安定かつ容易であり、再生が容易な植物細胞に適用することが好ましい。また、パーティクルガン法は、宿主の限定を受けないため、例えば、アグロバクテリウムに感染し難い植物細胞や、プロトプラストの調製が困難な植物細胞に適用することが好ましい。なお、このようにエレクトロポレーション法を行う場合、前記組換えベクターを構成するベクターとしては、例えば、pUC18、pUC19、pBR322、pBR325、pBluescript 等が好ましい。単子葉植物の多くやアグロバクテリウムの感染しにくい双子葉植物に対しては、DNA導入法として汎用されているアグロバクテリウムを用いた間接導入法が使用できないため、これらの直接導入法が有効である。

【0059】
次いで、本発明において用いるベククーを導入したアグロバクテリウム等から植物へT-DNAを導入して、植物の形質転換を行う。例えば、上述のようにしてベクターを導入したアグロバクテリウム株を植物細胞のカルスまたは組織片と数分間程度共存させた後、2N6-ASまたはN6COなどの培地中で、25~28℃で3日間程度共存培養する。ここで共存培養する植物としては、共存培養の難易度に差があるものの種子植物が用いられる。特に、これまで形質転換の困難であった単子葉作物、すなわち、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、シバなど、さらに樹木(ポプラやユーカリなど)なども対象となり得る。

【0060】
上記のアグロバクテリウムとの共存培養の後、カルスまたは組織片は、適当な抗生物質を含む培地で選択培養を行う。例えば、ベクターに選択マーカーとしてハイグロマイシン耐性遺伝子を導入した場合には、ハイグロマイシン(10~100μg/mL)とアグロバクテリクム除去のためのセフォタキシム(25μg/mL)またはカルベニシリン(500μg/mL)とを含む2N6-CHまたはN6Se培地を用いて、1~3週間選択培養を行うことにより、形質転換したカルス体を選択的に得ることができる。選択的に得たカルス体を、N6S3-CH、MSreなどの適当な再分化培地を用いて再分化を誘導し、再分化個体を得る。以上のようにして、本発明において用いるベクターを用いてDNA断片を植物に導入し形質転換することができる。

【0061】
組換え個体の選抜は、マーカー遺伝子で抗生物質耐性遺伝子(例えば、ハイグロマイシン遺伝子)を利用することによって行うことができる。また、得られた形質転換植物細胞および形質転換植物体の染色体DNAをそれぞれ調製し、例えば、目的DNA配列に特異的なプライマーやプローブを用いたPCRやサザンブロッティング法等により、前記目的DNAの発現が確認されれば、所望の形質転換植物細胞および形質転換植物体が得られたこととなる。

【0062】
形質転換植物体が得られれば、その植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることができ、公知の方法によりクローンを得ることもできる。また、その植物体、その子孫もしくはクローンから、さらに子孫もしくはクローンを得ることもできる。

【0063】
本発明において用いるベクターまたはポリヌクレオチドが導入されることで形質転換される植物としては、特に制限はなく、例えば、農作物、観賞用植物などを挙げることができる。農作物としては、例えば、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ダイズ、トマト、ミカン、リンゴ、イチゴ、ワタ、タバコ、コーヒーノキ、チャ、ナタネ、ジャガイモ、テンサイ、サトウキビ、ヒマワリ、ゴムノキなどが挙げられる。観賞用植物としては、例えば、キク、カーネーション、バラ、シクラメン、カトレア、ペチュニア、チューリップ、ガーベラなどが挙げられる。

【0064】
なお、本発明において、詳細な実験操作は、特に述べる場合を除き、上記のSambrookら、Ausbelら、Gloverら等の一般的な実験書に記載されている方法などの公知の方法により、または市販のキットの取扱い説明書に記載の方法にしたがって行うことができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実験において、形質転換株の作製及び選択の方法として、本発明者らによる先の出願(特開2008-220303)に記載の手順、または下記に記載の「参考文献」に記載の手順に従った。
【実施例】
【0066】
形質転換と突然変異体の選抜:
第4および第5染色体上に1コピーのpGA-cab-luc-rbcS-gusとpGA-cab-bar-rbcS-hphレポーター遺伝子をもつシロイヌナズナ2-1-6株(エコタイプcol-0)をアクティベーションタギング用の親株とした。種子は表面を滅菌後、4℃で処理し、0.2 % ゲランガム (San-Ei Gen F.F.I., Inc., Toyonaka, Japan) (Tsugane et al., 1999)で固化したMurashige-Skoog (MS)培地上に播いた。
20℃、24時間連続光照射下で7日間培養後、15-25本の芽生えをMS液体培地を入れた三角フラスコに移し、80 rpmで2週間旋回培養を行った。
生長した根を地上部より切り離した後、3-6 mmの大きさに切り刻んだ。切り刻んだ根の断片を、MS培地に0.5 μg mL-1 2,4-Dと50 ηg mL -1 カイネチンを添加したカルス誘導培地(callus inducing medium (CIM);Valvekens, 1998)に移した後、人工気象器 (Biotron NC220、Nksystem)で5日間培養した。
得られた根に、アクティベーションタギング用のpRi35ADEn4 (Niwa et al., 2006)バイナリーベクターを保有するアグロバクテリウムGV3101を感染させた。1週間の共存培養後、根は、0.1 mg mL-1 セフォタキシム(cefotaxime)を含むCIM液体培地で洗浄した。続いて、形質転換体の選抜のための0.1 μg mL-1 クロロスルフロン(chlorsulfuron:1-[(o-クロロフェニル)スルホニル]-3-(4-メトキシ-6-メチル-1,3,5-トリアジン-2-イル)尿素)に加えて、アグロバクテリウムの増殖を防ぐ目的で、0.2 mg mL-1 バンコマイシン(vancomycin)と0.1 mg mL-1 セフォタキシムを含むCIM培地上で3週間以上培養した。最後に、形質転換カルスは、0.2 mg mL-1 バンコマイシン、0.1 mg mL-1 セフォタキシム、0.1 μg mL-1 クロロスルフロン、150 mM NaClを含むCIM培地に移した。突然変異体候補は、選抜培地上で選抜を繰り返した。最初の150 mM NaClでの選抜後、250 mM NaClで2次選抜を行った。
上記のアクティベーションタギング法により、異なる濃度のNaC1培地上で62,000系統から突然変異体を選抜した。
【実施例】
【0067】
カルスに対する塩ストレス処理:
上記の手順によって選抜した66個のカルスは18系統に分類できた。これらの18系統の塩耐性突然変異体および同じ大きさの野生型(2-1-6)について、0.1 μg mL-1 chlorsulfuron と 150 mM NaCl もしくは250 mM NaClを添加したCIM培地上で培養を行った。
18系統の塩耐性突然変異体の中のsalt tolerant callus 5 (以下、「stc5」)と名付けた系統は、150mMおよび200mM NaC1を含む培地において顕著な塩耐性を示した(図1)。
【実施例】
【0068】
PCRによるT-DNA挿入の同定:
Isoplant (NipponGene, Toyama, Japan)もしくは、(Weigel et al., 2002)に記載の方法により、0.1 μg mL-1 クロロスルフロンを含むCIM培地上で生育させたカルスよりゲノムDNAを単離した。単離したDNAは、35SminiL-fd (Niwa et al., 1999) と ALS22-rv (Niwa et al., 2006)プライマーによって増幅される約200 bpのP35S-ALS-Sur部分の確認に用いた。PCRによる増副産物は、agarose21 (NipponGene)を用いた3% (w/v)のアガロースゲル電気泳動により確認した。
【実施例】
【0069】
サザン解析:
T-DNAのコピー数を調べるために、カルスからDNAを単離し (NipponGene, Toyama, Japan)、 HindIII、PstI、SphIAで制限酵素処理した後、0.8% アガロースゲル電気泳動し、Hybond-N フィルター膜に転写後、UV 照射して膜に固定した。P32で標識した 2.6 kbのpUC18 をプローブとして65oCにてハイブリダイゼーションを (Sambrook and Russel, 2001)の方法により行った。その結果、stc5変異体におけるコピー数は少なくとも2コピーであることを確認した。
【実施例】
【0070】
挿入位置を決定するためのTAIL-PCR法:
候補のカルスよりゲノムDNA を単離後、AD と T-DNA end プライマー (Liu et al 1995; Niwa et al., 2006)を用いて、TAIL-PCRを行った。3度目のPCRにより増幅されたDNA断片を精製後、ダイレクトシークエンシングにより得られた塩基配列についてArabidopsis Information Resource (TAIR) ウェブサイト(http://www.Arabidopsis.org)を利用してBLAST検索を行いT-DNA挿入箇所の同定を行った。最終的に、遺伝子特異的な順、逆向きのプライマーをデザインしたプライマー、およびT-DNA end プライマーとの組み合わせを用い、上記参考文献に記載の条件を使用することで特異的な配列を増幅し、その塩基配列を決定することで確認を行った。
stc5変異体の解析の結果、第1染色体上に1箇所、第2染色体上に1箇所の挿入を確認した。
【実施例】
【0071】
Real-time PCR解析:
Isogen (NipponGene)を利用して、トータルRNAを抽出後、RNase-free DNaseI (Takara, Otsu, Japan)処理を行った。First Strand cDNA Synthesis Kit (Roche, Indianapolis)を用い、cDNA合成を行った後、LightCycler Quick System 330 (Roche)を用いてReal-time PCRを行った。各反応液として、2 μLの希釈したcDNA (200 pgのトータルRNAに相当)は、10 μLのSYBR green PCR master mix (TKARA) と各10 pmol のforward、reverse プライマー (それぞれ、配列番号:4および5に示される)と混合後、最終20 μLの液量とした。PCRの反応条件は、95 oCを5秒、 60oCを20秒で 45サイクルとした。増幅の特異性は、増幅後のthermal denaturing stepによる解離曲線により確認した。内部標準としてアクチン2(Isono et al., 1997 a&b)を利用して転写量の標準化を行った。
リアルタイムPCR解析の結果、その中のABCトランスポータータンパク質(AtWBC7)のみが、NaC1添加の有無にかかわらず、転写活性化されていることが明らかとなった。野生型と比較して、通常のCIM培地で2倍、150 mM NaCl添加培地では4倍、AtWBC7をコードするポリヌクレオチドの発現レベルが上昇していた(図2)。
【実施例】
【0072】
Knock-out(KO、遺伝子破壊)株の解析
AtWBC7をコードする遺伝子の破壊株(ABC-KO)では、100 mM NaC1 だけでなく、KC1,KN03、LiC1ストレスにも感受性を示した(図3)。なお、「ABC-KO」は、SALK_110674 (http://signal.salk.edu/cgi-bin/tdnaexpress) のホモ接合系統である。このABC-KO株と野生型株(WT)との植物体の生長について目視にて確認すると、ABC-KOにおいて根の長さおよび植物体の大きさが野生型と比較して有意に低下していた。これらの結果から、AtWBC7をコードする遺伝子が塩耐性に有効であることが示される。
【実施例】
【0073】
AtWBC7過剰発現する形質転換体の作製
1. AtWBC7強制発現ベクター
シロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) Col-0から調製したDNAを鋳型として、KOD-Plus (東洋紡) を用い、AtWBC7タンパク質コード領域をPCRにより増幅後、塩基配列を決定し、ゲノムプロジェクトで登録されている塩基配列と同一であることを確認した。これをバイナリーベクターpBCH1 (Ito et al., 2001) のKpnI-SmaIに挿入し、pBCH1:AtWBC7を作製した(図4)。
【実施例】
【0074】
2. 植物への導入
pBCH1:AtWBC7を含有するアグロバクテリウムGV3101を、14-mLファルコンチューブを用いて2 mLのLB (100 mg/Lリファンピシリン、50 mg/Lカナマイシンを含む) 培地に植菌した。28℃で20時間震盪培養後、3.000 rpm で10分間遠心分離し、得られた菌体ペレットを懸濁培地2 mLに懸濁し、 OD 1.0にした。この懸濁液1 mLに、0.5 μLのSilwet77と0.02 μLのBAP (ベンジルアミノプリン) 1 mg/mL溶液を加え、感染液とした。
懸濁培地
1/2 Murashige & Skoog (MS) Basal Salt Mixture(Sigma)
10% ショ糖
0.5 g/L MES-KOH (pH5.7)
オートクレーブ (120℃、20分間) 処理
【実施例】
【0075】
シロイヌナズナ種子をMS培地プレートに播種し、3週間後、土に植え替えた。10 cm程度に生長した植物体は、花芽が付いた茎を根元から切って複数の側枝を伸長させた。約1週間後、側枝の花が開花し始めたら感染時期とした。すでに開花した花と結実した鞘は切り落とした。つぎに、未だ開いていない花に、ピペットで感染液をつけた。乾燥を防ぎ、アグロバクテリウムが浸潤しやすいよう、バットに水を入れて蓋をかぶせ、ラップで覆って一晩おいた。さらに、形質転換処理をした植物から採取した種を乾燥後、消毒し、20 mg/Lハイグロマイシンを含むMS培地に播種した。
【実施例】
【0076】
参考文献:
Isono, K., Niwa, Y., Satoh, K. and Kobayashi, H. (1997a) Evidence for transcriptional regulation of plastid photosynthesis genes in Arabidopsis thaliana roots. Plant Physiol. 114: 623-630.
Isono, K., Shimizu, M., Yoshimoto, K., Niwa, Y., Satoh, K., Yokota, A. and Kobayashi, H. (1997b) Leaf-specifically expressed genes for polypeptides destined for chloroplasts with domains of σ70 factors of bacterial RNA polymerases in Arabidopsis thaliana. Proc. Natl Acad. Sci. USA 94: 14948-14953.
Liu, Y.G., Mitsukawa, N., Oosumi, T. and Whittier, R.F. (1995) Efficient isolation and mapping of Arabidopsis thaliana T-DNA insert junctions by thermal asymmetric interlaced PCR. Plant J. 8: 457-463.
Liu, Y.G., Chen, Y. and Zhang, Q. (2005) Amplification of genomic sequences flanking T-DNA insertions by thermal asymmetric interlaced polymerase chain reaction. Methods Mol. Biol. 286: 341-348.
Niwa, Y, S. Goto, T. Nakano, M. Sakaiya, T. Hirano, H. Tsukaya, Y. Komeda, and H. Kobayashi. 2006. Arabidopsis mutants by activation tagging in which photosynthesis genes are expressed in dedifferentiated calli. Plant Cell Physiol., 47, 319-331.
Niwa, Y., Hirano, T., Yoshimoto, K., Shimizu, M. and Kobayashi, H. (1999). Non-invasive quantitative detection and applications of nontoxic-, S65T-type green fluorescent protein in living plants. Plant J. 18: 455-463.
Sambrook J and Russell DW (2001). Molecular Cloning. 3rd ed. Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York.
Tsugane, K., Kobayashi, K., Niwa, Y., Ohba, Y., Wada, K. and Kobayashi, H. (1999) A recessive Arabidopsis mutant that grows photoautotrophically under salt stress shows enhanced active oxygen detoxification. Plant Cell 11: 1195-1206.
Valvekens, D., Montagu, M.V. and Lijsebettens, M.V. (1988) Agrobacteriumumefaciens-mediated transformation of Arabidopsis thaliana root explants by using kanamycin selection. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5536-5540.
Weigel, D. and Glazebrook, J. (2002) Arabidopsis: A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY.
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の耐塩性を有する形質転換植物細胞および形質転換植物体は、塩害を受けている地域における緑化が期待できる。また、塩耐性、水分枯渇耐性(乾燥耐性)を含む他の環境ストレスに対する耐性を伴っていることが多いので、地域不毛乾燥地帯の緑化およびこれらの地域における農耕への寄与が期待される。さらに、果物の栽培においては、糖度を上げるために灌漑を制限するが、これに伴う収量の減少の緩和への貢献が期待される。加えて、ビルの屋上緑化や道路のり面などにおける灌漑コストの低減も期待される。さらに、強光、低温、高温等の環境ストレスに対しても耐性の向上が期待される。
【配列表フリ-テキスト】
【0078】
配列番号1:AtWBC7をコードするヌクレオチド配列
配列番号2:AtWBC7のアミノ酸配列
配列番号3:At2g01320の遺伝子断片
配列番号4:RT-PCRにて使用したプライマー1
配列番号5:RT-PCRにおいて使用したプライマー2
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
3