TOP > 国内特許検索 > 磁場応答性リポソーム及び磁場応答性薬剤放出システム > 明細書

明細書 :磁場応答性リポソーム及び磁場応答性薬剤放出システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5515082号 (P5515082)
公開番号 特開2011-231021 (P2011-231021A)
登録日 平成26年4月11日(2014.4.11)
発行日 平成26年6月11日(2014.6.11)
公開日 平成23年11月17日(2011.11.17)
発明の名称または考案の名称 磁場応答性リポソーム及び磁場応答性薬剤放出システム
国際特許分類 A61K   9/127       (2006.01)
A61K  47/02        (2006.01)
G01R  33/28        (2006.01)
A61B   5/055       (2006.01)
FI A61K 9/127
A61K 47/02
G01N 24/02 B
A61B 5/05 383
請求項の数または発明の数 4
全頁数 18
出願番号 特願2010-100103 (P2010-100103)
出願日 平成22年4月23日(2010.4.23)
審査請求日 平成25年1月11日(2013.1.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
発明者または考案者 【氏名】河野 健司
【氏名】改田 知宏
【氏名】片桐 清文
【氏名】今井 雄治
【氏名】青島 貞人
【氏名】森田 勇人
【氏名】佐藤 充則
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
審査官 【審査官】淺野 美奈
参考文献・文献 特開2000-319165(JP,A)
国際公開第2010/029469(WO,A1)
調査した分野 A61K 9/127
A61K 47/02
A61B 5/055
G01R 33/28
特許請求の範囲 【請求項1】
温度感受性リポソームと磁性ナノ粒子とを含み、前記磁性ナノ粒子の少なくとも一部分が前記温度感受性リポソームのリポソーム膜を構成する膜脂質成分中に埋め込まれて前記磁性ナノ粒子が前記リポソーム膜に保持されてなり、
交流磁場の印加により、前記リポソーム膜で囲まれた閉鎖空間に内包された内容物の一部又は全部をリポソーム膜外に放出できることを特徴とする磁場応答性リポソーム。
【請求項2】
前記磁性ナノ粒子が、酸化鉄及びフェライトからなる群より選択される金属酸化物を含む請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリポソームと、薬剤とからなる磁場応答性薬剤放出システム。
【請求項4】
薬物が、抗癌剤である請求項3に記載の磁場応答性薬剤放出システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性ナノ粒子を含有する磁場応答性リポソーム、及び該磁場応答性リポソームを含む磁場応答性薬剤放出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉄及びフェライトなどの磁性を有する金属又は金属酸化物の粒子を含有するリポソームを、磁場を用いる造影法、例えば核磁気共鳴イメージング(MRI)のための造影剤として用いることが知られている(例えば、特開2006-335745号公報(特許文献1))。
特許文献1は、特定の膜構成成分を有するリポソームが、動脈硬化や再狭窄などの血管平滑筋の異常増殖に起因する血管疾患部位に集積する性質を利用して、特定の膜構成成分を有するリポソームに、造影剤として通常用いられる磁性粒子を保持させ、血管疾患の造影剤として用いている。
【0003】
特許文献1などに開示される技術では、磁性粒子自体が造影剤の有効成分であり、リポソーム内部にできるだけ多量の磁性粒子を内包させることを目的としているので、この技術は、リポソーム内部に造影剤ではない薬物を保持させた薬物送達システム(DDS)に用いることができない。
【0004】
一方、特開2009-242315号公報(特許文献2)は、治療用の薬物を内包し、かつリポソーム膜の構成成分として磁性粒子を有するリポソームを開示している。
このリポソームは、体内に投与された後に、体外から加えられた磁場により所望の位置に移動し、次いで回転磁場が加えられることにより磁性粒子が振動してリポソーム膜を破壊することにより、内包された薬物を放出することが、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2006-335745号公報
【特許文献2】特開2009-242315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に開示されるようなリポソーム膜に保持された磁性粒子を含むリポソームは、本発明者らの研究によると、磁場を印加しても内包された薬物がほとんど放出されないことがわかった(以下の実施例を参照)。
【0007】
そこで、本発明者らは、磁場に応答して内容物を放出できるリポソームを得ることを目的として鋭意研究を重ねた結果、温度感受性リポソームの膜部分に磁性ナノ粒子を保持させてなるリポソームが、磁場の印加に応答して内容物を放出できることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、本発明は、温度感受性リポソームと磁性ナノ粒子とを含み、前記磁性ナノ粒子を、前記温度感受性リポソームのリポソーム膜に保持してなることを特徴とする磁場応答性リポソームを提供する。
また、本発明は、上記の磁場応答性リポソームと薬剤とからなる磁場応答性薬剤放出システムも提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁場応答性リポソームは、温度感受性リポソームの膜に磁性ナノ粒子を保持してなるので、体内に投与された後に交流磁場を印加すると、磁性ナノ粒子が発熱し、温度感受性リポソームの崩壊温度に到達して、内容物である薬剤などを放出することができる。
本発明の磁場応答性リポソームは、磁性ナノ粒子の発熱によりリポソーム自体の温度を上昇させることによりリポソームから内容物を放出させるものであり、リポソーム周囲の温度はあまり上昇させないので、体内に投与したときに、温度上昇による意図しない体組織の損傷を防いで、リポソームから内容物を放出させることができる。また、磁場は体の深部まで到達できるので、レーザ照射などの直接加熱により温度感受性リポソームの温度を上昇させることが困難な体の深部にリポソームにより薬物を送達しようとする場合に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の本発明の磁場応答性リポソームの透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。
【図2】実施例1及び並びに比較例1のリポソームからの温度変化とパイラニンの放出割合との関係を示すグラフである。
【図3】10℃、30℃及び45℃における実施例2及び比較例1のリポソームからのパイラニン放出の経時変化を示すグラフである。
【図4】比較例2~4のリポソームについての、温度変化とパイラニンの放出割合との関係を示すグラフである。
【図5】実施例1及び2並びに比較例1のリポソームに磁場を印加した時間とパイラニンの放出割合との関係を示すグラフである。
【図6】実施例1及び2並びに比較例1のリポソームに磁場を印加せずに経過した時間とパイラニンの放出割合との関係を示すグラフである。
【図7】図5及び図6のようにしてパイラニンの放出割合を測定したときの、リポソーム分散液の温度変化を示すグラフである。
【図8】比較例2~4のリポソームに磁場を印加した時間とパイラニンの放出割合との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「磁場応答性リポソーム」とは、交流磁場の印加により、リポソーム膜で囲まれた閉鎖空間に内包された内容物の一部又は全部をリポソーム膜外に放出できるリポソームのことをいう。

【0012】
本明細書において、「温度感受性リポソーム」とは、ある特定の温度において、リポソーム膜で囲まれた閉鎖空間に内包された内容物の一部又は全部をリポソーム膜外に放出できるリポソームのことをいう。このような温度感受性リポソームは、当該技術分野において公知である。

【0013】
本明細書において、「磁性ナノ粒子」とは、ナノメートルのオーダーの直径、好ましくは0.5~200nm、より好ましくは1~30nmの直径を有する磁性を有する金属又は金属酸化物の粒子のことをいう。
なお、本明細書において、粒子及びリポソームの粒径は、以下の実施例に記載の方法により測定される。

【0014】
本明細書において、「リポソーム膜に保持する」とは、保持される成分の少なくとも一部分がリポソーム膜を構成する膜脂質成分中に疎水性相互作用などにより埋め込まれている状態のことをいう。

【0015】
<温度感受性リポソーム>
本発明の磁場応答性リポソームに用いることができる温度感受性リポソームは、当該技術分野において知られる温度感受性リポソームであれば特に限定されない。このような温度感受性リポソームとしては、例えば膜構成脂質の組成により温度感受性を有するリポソーム(M.B. Yatvinら、Science 202、1290-1292 (1978);J.N. Westeinら、Science 204 188-191 (1979); D. Needhamら、Cancer Research 60, 197-1201 (2000)に記載されたもの等)を挙げることができる。

【0016】
なかでも、温度感受性リポソームは、感熱応答性部分と疎水性部分とを少なくとも有する高分子化合物(以下、温度感受性高分子化合物ともいう)を、少なくともその疎水性部分を介してリポソーム膜に保持してなるものが好ましい。
このような温度感受性リポソームは公知であり、例えば特許第4247361号公報、特開2006-306794号公報、特開2009-269846号公報などに記載されるものを用いることができる。

【0017】
上記の感熱応答性部分は、好ましくは、水和可能なヘテロ原子を1個以上含む感熱応答性ビニル系モノマーに由来する。
上記の感熱応答性ビニル系モノマーが有する水和可能なヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子などが挙げられる。水和可能なヘテロ原子の数の上限は、重合を行える範囲であれば特に限定されない。水和可能なヘテロ原子を含む基としては、-CH2-CH2-O-、-CO-、-COO-、-CONH-、-NHCOO-などが挙げられる。

【0018】
上記の疎水性部分は、好ましくは、疎水性ビニル系モノマーに由来する。
疎水性ビニル系モノマーとしては、炭素数3~40個程度、特に炭素数4~30個程度の各種の脂肪族、脂環族又は芳香族の炭化水素基を有するビニル系モノマーを使用できる。

【0019】
より具体的には、上記の高分子化合物は、以下の式:
1-(A)m-(B)n-R4 (I)
(式中、R1は重合開始剤に由来する基であり、Aは水和可能なヘテロ原子を1個以上含む感熱応答性ビニル系モノマーに由来する基であり、Bは疎水性ビニル系モノマーに由来する基であり、R4は水素原子及び炭素数1~10のアルコキシ基から選択される重合停止剤に由来する基であり、mは5~500、nは1~10である)で表されるブロック共重合体が好ましい。

【0020】
式(I)中、R1基は重合開始剤に由来する基である。重合開始剤としては、従来公知の化合物を用いることができ、特許第4247361号公報に記載されるものなどを挙げることができる。
また、重合開始剤は、特開2009-269846号公報に記載されるような、ポリオキシエチレン基を含む基を側鎖に有する重合可能な単量体とトリフルオロ酢酸などのプロトン酸とを混合して調製される重合開始種であってもよい。
1基としての重合開始剤に由来する基の好ましい例は、以下の一般式:

【0021】
【化1】
JP0005515082B2_000002t.gif
(式中、Xは同一又は異なって、水素原子、又はフッ素原子、塩素原子、臭素原子及び要素原子から選択されるハロゲン原子であり、R11は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基又はアリール基であるか、又は-OR11基がポリオキシエチレン基を含むポリエチレングリコール(PEG)に由来する基を表す)で表される基である。
11のPEGに由来する基は、120~12000、より好ましくは350~12000、さらに好ましくは350~5000の分子量を有するPEGに由来する基が好ましい。

【0022】
式(I)のR4は、水素原子及び炭素数1~10のアルコキシ基から選択される重合停止剤に由来する基であり、水素原子又はメトキシ基が好ましい。

【0023】
上記の高分子化合物において、ヘテロ原子を1個以上含む感熱応答性ビニル系モノマーと疎水性ビニル系モノマーとの共重合比率は、各モノマーの種類によっても異なるが、通常300:1~3:1程度、特に200:1~10:1程度が好ましい。この範囲内であれば、高分子化合物をリポソーム膜に安定に保持できる。

【0024】
高分子化合物の数平均分子量のうち感熱応答性部分に該当する量は、特に制限されないが、通常、数百~数十万程度である。より好ましくは1,000~30,000程度、さらにより好ましくは10,000~20,000程度であり得る。

【0025】
上記の高分子化合物全体の分子量は、特に制限されないが、通常、数平均分子量で数百~数十万程度とすればよい。この範囲内であれば、リポソーム膜に安定に保持される。より好ましくは、数平均分子量は2,000~50,000程度、さらに好ましくは10,0
00~25,000程度、特に好ましくは11,000~22,000程度である。この範囲の数平均分子量であることにより、リポソーム膜構造の崩壊温度をより狭い温度範囲とすることができる。

【0026】
上記の高分子化合物の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、通常1~2程度、特に1.0~1.3程度が好ましい。
本発明に用いられる高分子化合物の数平均分子量及び重量平均分子量は、それぞれ以下の実施例に記載の方法により測定した値である。
上記の高分子化合物の好適な具体例としては、以下の式(II):

【0027】
【化2】
JP0005515082B2_000003t.gif

【0028】
(式中、R1、R4、m及びnは、上記で定義されるとおりであり、
2は炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のハロゲン化アルキル基、アルデヒド基、フェニル基、ビフェニル基又は炭素数7~14のアラルキル基であり、
3は炭素数4~30の炭化水素基であり、
yは0~4である。)
で表される化合物が挙げられる。

【0029】
上記の式(II)におけるR2は、上記列挙した基のうち、特に炭素数1~4個程度のアルキル基が好ましい。

【0030】
上記の式(II)におけるR3は、炭素数4~30個程度の炭化水素基であるが、このような基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。特に、炭素数8~30個程度の直鎖アルキル基が好ましい。

【0031】
上記のように、yは0~4程度であり、y=0の場合にはオキシエチレンは存在しない。オキシエチレン鎖が長いと、リポソーム膜構造の崩壊温度が比較的高くなり得る。

【0032】
上記の高分子化合物の好ましい例は、次に挙げるものである。

【0033】
【化3】
JP0005515082B2_000004t.gif

【0034】
(上記の各式中、R1及びR4は上記で定義されるとおりであり、R2はCH3、C2H5、n-若しくはイソ-C3H7又はn-若しくはイソ-C4H9であり、m及びnは、高分子化合物の数平均分子量(Mn)が11,000~50,000程度であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.0~1.3程度となるような値である。)
なお、上記の式(III)~(V)の化合物は、式(III)~(V)における側鎖としてのオクタデシルオキシ基がドデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基又はヘキサデシルオキシ基で置換された化合物が少量混合していてもよい。

【0035】
また、上記の式(III)~(V)の化合物において、式(III)~(V)における側鎖としてのオクタデシルオキシ基がドデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基又はヘキサデシルオキシ基で置換された化合物も好ましい例として挙げることができる。

【0036】
上記の温度感受性リポソームは、上記の温度感受性高分子化合物とともに、ポリエチレングリコールをリポソーム膜に保持していてもよい。このような温度感受性リポソームは、例えば特開2006-306794号公報に記載されている。

【0037】
上記の高分子化合物は、特許第4247361号公報、特開2006-306794号公報、特開2009-269846号公報などに記載されるように、適切な重合開始種を用いて、適切な溶媒中で水和可能なヘテロ原子を1つ以上含む感熱応答性ビニル系モノマーと疎水性ビニル系モノマーとを重合させることにより得ることができる。
重合において用いられる各モノマーの量は、特許第4247361号公報、特開2006-306794号公報、特開2009-269846号公報などに記載されることと同様である。

【0038】
上記の温度感受性リポソームを構成するリポソーム膜構成脂質は、リポソームに通常用いられる両親媒性の脂質を用いることができる。このような脂質としては、例えばホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリンなどのリン脂質が挙げられる。これらのリン脂質の構成脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。特に、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンが好ましい。

【0039】
また、リポソームが遺伝子を内包する場合には、上記のリン脂質の他に、公知のカチオン性の合成脂質を用いることができる。このようなカチオン性の合成脂質としては、例えばN-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジドデシルグルタメート、N-〔1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル〕-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド
及び1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパンなどの第4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの脂質は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。

【0040】
リポソーム膜構成脂質には、コレステロール、ラノステロール、エルゴステロールなどのステロールが含まれていてもよい。

【0041】
上記の温度感受性高分子化合物を用いる場合、温度感受性高分子化合物の量は、リポソーム膜構成脂質及び高分子化合物の合計モル数に対して0.01~30モル%、より好ましくは0.05~6モル%であることが好ましい。

【0042】
<磁性ナノ粒子>
本発明の磁場応答性リポソームの構成成分である磁性ナノ粒子は、上記の直径を有する磁性金属又は金属酸化物粒子であれば、特に限定されず、従来公知の磁性金属又は金属酸化物ナノ粒子を用いることができる。磁性金属又は金属酸化物ナノ粒子としては、酸化鉄(マグネタイト、マグヘマイトなど)、フェライト(MIIO・Fe2O3 (MIIはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Cdなどの2価の金属を表す);例えばFe3O4、CoFe2O4、MnFe2O4、NiFe2O4、MgFe2O4、CuFe2O4、ZnFe2O4など)、磁性合金(FePtなど)からなるものが知られている。なかでも、磁性ナノ粒子は、酸化鉄及びフェライトからなる群より選択される金属酸化物を含むことが好ましい。磁性ナノ粒子は、上記の金属又は金属酸化物の1種又は2種以上を含むことができる。

【0043】
磁性ナノ粒子の製造方法としては、当該技術において公知の方法を用いることができる。フェライトを含む磁性ナノ粒子は、第一鉄(II)化合物と金属(II)化合物を含有する水溶液を酸化条件下にし、溶液のpHを7以上に維持することにより製造できる。また、マグネタイト(Fe3O4)を含む磁性ナノ粒子は、第一鉄(II)化合物と第二鉄(III)化合物を含有する水溶液を酸化条件下にし、溶液のpHを7以上に維持することにより製造できる。このような磁性ナノ粒子の製造方法は、N. Matsushitaら、J. Appl. Phys. 103, 07A317 (2008)、T. Taniguchiら、J. Phys. Chem. C, 113, 839-843 (2009)に記載されたものなどを用いることができる。

【0044】
上記の磁性ナノ粒子の表面は一般的に疎水性であるので、磁性ナノ粒子はリポソーム膜に疎水性相互作用により保持されることとなる。

【0045】
より好ましくは、上記の磁性ナノ粒子は、疎水性の物質などで被覆されたものである。疎水性の物質としては、例えば、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などの飽和脂肪酸類、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸等の不飽和脂肪酸などが挙げられる。中でも、炭素数6~20の炭化水素鎖を持つ飽和脂肪酸であるカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、炭素数6~20の炭化水素鎖を持つ不飽和脂肪酸であるオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸などが好適に使用される。さらに、磁性粒子表面における被覆率が高く、有機溶媒に高分散するため、リポソームの脂質膜疎水部への磁性粒子の固定化が容易になる効果が特に高く、生体為害性も少ないことからオレイン酸が最も好ましい。

【0046】
<磁場応答性リポソーム>
本発明の磁場応答性リポソームは、温度感受性リポソームと磁性ナノ粒子とを構成成分として、磁性ナノ粒子が温度感受性リポソームの膜に保持されてなるものである。
本発明の磁場応答性リポソームは、粒径が0.05~10μm程度であればよく、目的に応じて種々の粒径とすることができる。例えば、薬剤として抗癌剤を磁場応答性リポソームに内包して、癌細胞に抗癌剤を送達しようとする場合、磁場応答性リポソームの粒径は、通常、0.05~0.2μm程度、特に0.05~0.15μm程度であることが好ましい。このような粒径であれば、癌細胞周辺の微小血管に存在する0.2μm程度の穴からリポソームが漏れ出して、目的の癌細胞に到達することができる。

【0047】
上記の磁場応答性リポソームは、上記の範囲の粒径を有していれば、一層の脂質二重膜からなる単層リポソーム、又は複数の脂質二重層からなる多重層リポソームのいずれであってもよい。

【0048】
上記の磁場応答性リポソームは、リポソーム膜構成脂質の重量に対して1~70重量%、より好ましくは5~50重量%、さらにより好ましくは5~35重量%の上記の磁性ナノ粒子を含有することが好ましい。このような量で磁性ナノ粒子を含有することにより、リポソーム膜に磁性ナノ粒子が安定して保持され、また、磁場を印加した場合にリポソームの内容物が速やかに放出されやすい。

【0049】
本発明の磁場応答性リポソームは、上記の温度感受性リポソームの材料と、磁性ナノ粒子とを、それ自体公知のリポソームの製造方法により混合することにより得ることができる。
それ自体公知のリポソームの製造方法としては、エクストルーダー法、超音波法、フレンチプレス法などが挙げられる。これらの方法の詳細は、「リポソーム」(野島庄七、砂本順三、井上圭三編、南江堂)及び「ライフサイエンスにおけるリポソーム」(寺田弘、吉村哲郎編、シュプリンガー・フェアラーク東京)に記載されている。

【0050】
例えば、エクストルーダー法により本発明の磁場応答性リポソームを製造する方法について説明する。所定量のリポソーム膜構成成分(膜構成脂質と、任意に温度感受性高分子化合物)、及び磁性ナノ粒子を、メタノール、ヘキサンなどの適当な有機溶媒に溶解させた溶液をそれぞれ調製し、容器内に入れて混合する。次いで、エバポレーターを用いて溶媒を除去し、容器壁にリポソーム膜構成成分と磁性ナノ粒子とからなる薄膜を形成させる。この膜は、さらに3~12時間程度真空乾燥させることが好ましい。次いで、この容器内に緩衝液などの適当な溶液を投入し、超音波処理又はボルテックスミキサーなどを用いて強く攪拌することによりリポソームを形成させることができる。得られたリポソーム分散液をエクストルーダーに通し、そのフィルタ孔径を適宜設定することにより、リポソームの粒径を調節することができる。

【0051】
上記のようにして得られたリポソーム分散液から、担持されなかったリポソーム膜構成成分などを、ゲルろ過法、超遠心法、透析法などにより除去することができる。除去したい物質が電荷を有する場合には、イオン交換クロマトグラフィーを用いることもできる。

【0052】
上記の製造方法において、リポソーム膜構成成分を用いて上記のようなエクストルーダー法などにより予めリポソームを形成させた後に、磁性ナノ粒子を加えて、磁性ナノ粒子をリポソーム膜に担持させることもできる。

【0053】
<磁場応答性薬剤放出システム>
上記の磁場応答性リポソームと薬剤とからなる磁場応答性薬剤放出システムも、本発明の一つである。
上記の薬剤は、親水性物質及び疎水性物質のいずれであってもよい。親水性物質である場合は、薬剤は、磁場応答性リポソームの内部の閉鎖空間の親水性領域に内包され、疎水性物質である場合は、磁場応答性リポソーム膜に保持されることとなる。

【0054】
上記の薬剤としては、特に限定されないが、例えば抗癌剤、抗炎症剤などが挙げられる。抗癌剤としては、シスプラチン、カルボプラチン、テトラプラチン、イプロプラチンなどの金属錯体;アドリアマイシン(ADR)、マイトマイシン、アクチノマイシン、アンサマイトシン、ブレオマイシン、Ara-C、ダウノマイシンなどの制癌抗生物質;5-FU、メトトレキセート、TAC-788などの代謝拮抗剤;BCNU、CCNUなどのアルキル化剤;インターフェロン(α、β、γ)、各種インターロイキンなどのリンホカインなどが挙げられる。また、抗炎症剤としては、プレドニン、リンデロン、セレスタミンなどが挙げられる。

【0055】
上記の磁場応答性薬物放出システムのリポソームは、上記の薬剤の代わりに疾患の治療のための遺伝子も含み得る。このような遺伝子としては、特に限定されないが、例えば、重症複合型免疫不全症の治療のためのアデノシンデアミナーゼ遺伝子、家族性高コレステロール血症の治療のためのLDL受容体遺伝子、癌治療のためのインターフェロン(IFN)-α、β又はγ遺伝子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)遺伝子、各種インターロイキン(IL)遺伝子、腫瘍壊死因子(TNF)-α遺伝子、リンホトキシン(LT)-β遺伝子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)遺伝子、T細胞活性化共刺激因子遺伝子などが挙げられる。その他、アルツハイマー病、脊椎損傷、パーキンソン病、動脈硬化症、糖尿病、高血圧症などの治療のための遺伝子も挙げられる。
上記の薬剤の量は特に限定されず、薬剤の種類などにより適宜選択することができる。

【0056】
上記の磁場応答性薬剤放出システムの製造において、磁場応答性リポソームに薬剤を含有させる方法としては、薬剤の種類に応じて公知の方法を用いることができる。該方法としては限定されないが、例えば上記の磁場応答性リポソームの製造方法に従って磁場応答性リポソームを形成させた後に、薬剤を含む溶液に該リポソームを浸漬させて薬剤をリポソームの内部に取り込ませる方法、上記の磁場応答性リポソームの製造方法において薄膜が形成された容器内に、薬剤を含む溶液を投入した後にリポソーム膜構造を形成させて薬剤を封入する方法などが挙げられる。

【0057】
本発明の磁場応答性薬剤放出システムは、さらに少なくとも1種の医薬添加剤を含むのが好ましい。該磁場応答性薬剤放出システムは、錠剤、粉末、カプセルなどの固形製剤の形態であってもよいが、注射製剤のような液体製剤の形態が好ましい。該液体製剤は、用時に水又は他の適切な賦形剤で再生する乾燥製品として提供してもよい。
上記の錠剤及びカプセルは、通常の方法により腸溶コーティングを施すことが望ましい。腸溶コーティングとしては、当該分野において通常用いられるものを利用できる。また、カプセルは粉末又は液体のいずれを含有することもできる。

【0058】
上記の温度感受性薬剤放出システムが液体製剤である場合、医薬添加剤は、担体(例えば生理食塩水、滅菌水、緩衝液など)、膜安定剤(例えばコレステロールなど)、等張化剤(例えば塩化ナトリウム、グルコース、グリセリンなど)、抗酸化剤(例えばトコフェロール、アスコルビン酸、グルタチオンなど)、防腐剤(例えばクロルブタノール、パラベンなど)などを含み得る。上記の担体は、磁場応答性リポソームを製造する際に用いる溶媒であり得る。

【0059】
上記の磁場応答性薬剤放出システムが固形製剤である場合、医薬添加剤は、賦形剤(例えば乳糖、ショ糖のような糖類、トウモロコシデンプンのようなデンプン類、結晶セルロースのようなセルロース類、アラビアゴム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸カルシウムなど)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコールなど)、結合剤(例えばマンニトール、ショ糖のような糖類、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉のようなデンプン類、カルボキシメチルセルロースのようなセルロース類、架橋ポリビニルピロリドンなど)、着色剤、矯味矯臭剤などを含み得る。

【0060】
上記の磁場応答性薬剤放出システムは、上記の薬剤を含む磁場応答性リポソームをそのまま、又は凍結乾燥させて、上記の医薬添加剤と混合することにより製造することができる。薬剤を含む温度感受性リポソームを凍結乾燥する場合、凍結乾燥する前に適当な賦形剤を添加しておくのがよい。

【0061】
上記の磁場応答性薬剤放出システムを対象者に投与した後に、対象者に磁場を印加することにより、磁場応答性リポソームの膜構造を変化させて薬剤を患部で放出させることができる。このような方法により、患部に到達したリポソームから薬剤を効率よく放出させることが可能になる。
よって、本発明は、治療又は予防を必要とする対象者に、上記の磁場応答性薬剤放出システムの有効量を経口又は非経口的に投与し、一定期間経過後に対象者に磁場を印加することを含む、疾患の治療又は予防方法も提供する。

【0062】
上記の対象者は、哺乳動物が好ましく、特に好ましくはヒトである。
上記の一定期間は、磁場応答性薬剤放出システムの投与後少なくとも3時間が好ましく、より好ましくは3~48時間、さらに好ましくは6~24時間、さらにより好ましくは6~12時間である。

【0063】
上記の治療方法では、磁場応答性薬剤放出システムを対象者に投与した後に、適切な量の磁場を印加する。磁場の印加の条件は、癌の温熱療法に通常用いられるものと同様の条件であってよく、100~900kHz程度の周波数で、100~900Oe程度の強度が好ましい。より好ましくは、100~500kHz、100~500Oeである。
磁場の印加は、当該分野で通常用いられる磁場照射装置を用いて行うことができる。磁場照射装置は市販されており、例えば高周波磁場印加装置(HI-HEATER 5010、第一高周波工業株式会社製)などを用いることができる。
磁場の印加は、対象者への悪影響が可能な限り低いことを条件として、1回又は2回以上行うことができる。

【0064】
上記の温度感受性薬剤放出システムは、非経口及び経口経路のいずれによっても投与することができる。例えば薬剤として抗癌剤を用いる場合は、非経口経路、特に静脈注射による投与が好ましい。

【0065】
上記の温度感受性薬剤放出システムの投与量は、対象の重篤度及びリポソームに含有される薬剤の量に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0066】
本発明を、以下の実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
以下の実施例で製造した物質は、次の測定方法により特性を決定した。
<分子量の測定方法>
高分子化合物の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、それぞれゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)の結果から算出した。GPCは、高速液体クロマトグラフ(TSKgelカラムG-200HXL+G-3000 HXL+G-4000HXL(東ソー社製)、溶離液:クロロホルム)を用いて行い、そのクロマトグラフィーの結果から、被験化合物の分子量をポリスチレンを標準物質として算出することにより、ポリスチレン換算Mw及びMnとして求めた。
【実施例】
【0067】
<脂質濃度の測定>
リン脂質の定量は、リン脂質Cテストワコー(和光純薬(株))を用いて行った。試料溶液(リポソーム分散液)及び標準溶液をそれぞれ発光溶液とよく混合し、37℃で5分間加温した。波長600nmで試料溶液の吸光度を、日本分光(株)製V-520型紫外・可視分光光度計を用いて測定し、得られた吸光度より試料溶液の脂質濃度を決定した。
【実施例】
【0068】
<リポソーム粒径の測定>
リポソームの粒径は動的光散乱法によって求めた。内水相としてPBS(10mMリン酸、140mM NaCl、pH 7.4)を有するリポソームを作製し、その平均粒径と粒径分布を、リポソーム分散液とPBSを3mlになるようにセルに加えて、動的光散乱(DLS-600、大塚電子(株)製)を用いて25℃又は45℃において測定した。
【実施例】
【0069】
<磁性ナノ粒子の粒径の測定>
磁性ナノ粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察によって求めた。磁性ナノ粒子のヘキサン分散液を、エラスチックカーボン支持膜付銅製グリッドに5μl滴下し、一晩乾燥させたものを、TEM (透過型電子顕微鏡(TEM;H-800、日立ハイテク製)により観察した。TEM観察は、加速電圧200 kVで行った。得られたTEM像から粒子の平均粒径を算出した。
【実施例】
【0070】
製造例1 マグネタイト磁性ナノ粒子の製造
1.FeCl3・6H2O(キシダ化学製)2.33 mmolとFeCl2・4H2O(キシダ化学製)1.17 mmolとを超純水15 mlに溶解した。
2.オレイン酸ナトリウム(東京化成製)0.300 mmolをミリQ水15 mlに溶解した。
3.工程1及び2で得られた溶液を混合し、25%のアンモニア水(キシダ化学製)5 mlを加えた。
4.テフロン(登録商標)容器(容積50 ml)に工程3の混合液を入れ、ステンレス製オートクレーブ(四国理化製)に密封して、200℃にて3時間水熱反応させた。
5.その後、反応液を室温で冷却し、遠心分離して上澄み液を除去した。
6.沈殿物にヘキサン(キシダ化学製)40 mlを加え、遠心分離して上澄み液を回収した。
7.上澄み液にエタノール(ナカライテスク製)約40 mlを加えて粒子を凝集させ、遠心分離した。
8.上澄み液を捨てて、沈殿物を回収した。
9.工程6、7及び8をさらに2回繰り返した。
10.得られたマグネタイト磁性ナノ粒子(Fe3O4)を、ヘキサン(キシダ化学製)に分散させた。
【実施例】
【0071】
上記の手法で得られた磁性ナノ粒子の平均粒径は、上記の測定方法により測定して、約5nmであった。
【実施例】
【0072】
製造例2 温度感受性高分子化合物の製造
特開2006-306794号公報に記載される手順に従って、温度感受性高分子化合物を製造した。製造した温度感受性高分子化合物は、感熱応答性ビニル系モノマーとしての2-(2-エトキシ)エトキシエチルビニルエーテル(EOEOVE)と、疎水性ビニル系モノマーとしてのオクタデシルビニルエーテル(ODVE)とを共重合させたものであった。得られた高分子化合物のNMRにより測定した組成比は、EOEOVE:ODVE=87/4.5であり、GPCにより測定した分子量分布(Mw/Mn)及びMnは、それぞれMw/Mn=1.04、Mn=1.4×104であった。
【実施例】
【0073】
温度感受性高分子化合物の具体的な製造方法は、次のとおりである。
合成は、工業用ドライヤーでベーキングした後に室温まで冷ました三方活栓付きシュレンク内、乾燥窒素下で行った。トルエン、1,4-ジオキサン(1.2 mol/L)、開始種の1-イソブトキシエチルアセテート[CH3CH(OiBu)OCOCH3](4 mmol/L)、モノマーの2-(2-エトキシ)エトキシエチルビニルエーテル (0.35 mol/L)を、それぞれガラス製注射器を用いて順にシュレンクに入れて撹拌し、0℃に冷やした。そこへ、市販のエチルアルミニウムセスキクロリドのトルエン溶液(1.0 mol/L)を20 mmol/Lになるように加えることで重合を開始した。23分後、第1モノマーがほぼ消費された重合溶液に、第2モノマーのオクタデシルビニルエーテルを開始種に対して5当量加えた。さらに12分後に開始種量に対して大過剰の0.1 vol%アンモニア水含有のメタノールを加えて重合を停止した。重合溶液はジクロロメタンで希釈後、イオン交換水で10回分液して触媒残渣を取り除き、溶媒をエバポレートして目的のポリマーを得た。
【実施例】
【0074】
実施例1 磁場応答性リポソームの製造
以下の手順により、リポソーム膜脂質としての卵黄ホスファチジルコリン(EYPC)、上記の温度感受性高分子化合物、及び上記の磁性ナノ粒子で構成される磁場応答性リポソームを製造した。この磁場応答性リポソームは、脂質EYPCの重量に対して10重量%の磁性ナノ粒子を含有する。
なお、このリポソームには、内包物として蛍光色素パイラニンを含有させて、内包物の放出について試験できるようにした。
【実施例】
【0075】
1)リポソーム膜構成脂質として、4.75mg/mlのEYPC(日本油脂株式会社製)のメタノール(和光純薬株式会社製)溶液1.04mlを、5.0mg/mlの製造例2で製造した温度感受性高分子化合物のメタノール溶液0.62ml、5.0mg/mlのPEG-5000PE(PEG:ポリエチレングリコール、PE:ホスファチジルエタノールアミン)(Avanti Polar Lipids社製)メタノール溶液0.60ml及び10mg/mlの製造例1で製造した磁性ナノ粒子のヘキサン分散液0.050mlとともにナスフラスコに入れ、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去して、フラスコ内壁に薄膜を形成させた。さらに、真空乾燥により薄膜を乾燥させた。
【実施例】
【0076】
2)乾燥薄膜に、パイラニン水溶液(パイラニン(東京化成工業株式会社製)40.8 mM、DPX(消光剤;p-キシレン-ビス-プラスミドピリジニウムブロミド(SIGMA-ALDRICH社製))58.5 mM及びNa2PO4(キシダ化学株式会社製) 10 mMを含有)1.0mlを加えて、バス型超音波洗浄機(アズワン株式会社製、US-3R)で10分間、超音波を照射することにより(40kHz)、薄膜をはがしてリポソームを分散させた。
3)得られたリポソームの凍結/融解を5回繰り返した。
4)孔径100nmのフィルタを装着したエクストルーダー(HAMILTON社製、GASTIGHT#1001)を用いて、リポソームの粒径を調節した。
5)分子量カットオフ12,000~16,000の透析膜(三光純薬株式会社製)を用いて、PBSに対して透析を行うことにより、リポソームに内包されなかったパイラニンを除去した。
6)4℃、55,000 rpmにて超遠心して、リポソームを精製した。
【実施例】
【0077】
実施例2 磁場応答性リポソームの製造
磁性ナノ粒子が、脂質EYPCの重量に対して30重量%含まれるようにした以外は、実施例1と同様にして磁場応答性リポソームを作製した。
【実施例】
【0078】
比較例1(温度感受性高分子化合物○、磁性ナノ粒子:0%)
磁性ナノ粒子を含まない以外は実施例1と同様にして、温度感受性リポソームを作製した。
【実施例】
【0079】
比較例2(温度感受性高分子化合物×、磁性ナノ粒子:10%)
温度感受性高分子化合物を含まない以外は実施例1と同様にして、磁性ナノ粒子と非温度感受性リポソームとからなるリポソームを作製した。
【実施例】
【0080】
比較例3(温度感受性高分子化合物×、磁性ナノ粒子:30%)
温度感受性高分子化合物を含まない以外は実施例2と同様にして、磁性ナノ粒子と非温度感受性リポソームとからなるリポソームを作製した。
【実施例】
【0081】
比較例4(温度感受性高分子化合物×、磁性ナノ粒子:0%)
温度感受性高分子化合物も磁性ナノ粒子も含まないこと以外は実施例1と同様にして、リポソームを作製した。
【実施例】
【0082】
リポソームの特性決定
A)平均粒径
実施例1及び2並びに比較例1及び2で得られたリポソームの平均粒径(nm)を、25℃において、動的光散乱(DLS)により測定した。結果を以下の表1に示す。
【実施例】
【0083】
【表1】
JP0005515082B2_000005t.gif
【実施例】
【0084】
B)磁場応答性リポソームの電子顕微鏡観察
実施例1の磁場応答性リポソームを、透過型電子顕微鏡(TEM;H-800、日立ハイテク製)により観察した。
リポソーム分散液5μlを、ポリビニルホルマール膜付銅製グリッドに滴下し、一晩乾燥させた後に観察を行った。観察の際に、重金属塩を用いたネガティブ染色は行っていない。TEM観察は、加速電圧200 kVで行った。
【実施例】
【0085】
図1は、実施例1の磁場応答性リポソームのTEM写真を示す。
図1の左側の写真で見られる小さい粒子は、粒径約5nmの磁性ナノ粒子であり、これが約140nmの凝集体を形成していることがわかる。この凝集体のサイズは、DLSにより求められた実施例1のリポソームの粒径とほぼ一致することから、実施例1のリポソームが磁性ナノ粒子を含有することが確認できる。また、磁性ナノ粒子は疎水性の表面を有するので、磁性粒子がリポソーム膜に疎水性相互作用により保持されていると考えられる。
【実施例】
【0086】
C)温度変化によるリポソームからのパイラニン放出試験
リポソームの温度を変化させることによるリポソームからのパイラニン放出の変化をモニターした。以下の実験では、パイラニン(励起:416nm;蛍光:512nm)の蛍光強度を、蛍光分光光度計(FP-6200ST、日本分光株式会社製)を用いて測定した。
1)蛍光セルにPBS(pH 7.4)を2995μl入れ、所定の温度に設定した。
2)脂質濃度が1.0μMとなるように、リポソームをそれぞれ加えた。パイラニンの蛍光強度の測定を開始した。
3)30分後、界面活性剤であるTriton X-100(キシダ化学株式会社製)10μlを加えて、リポソームを破壊した。
【実施例】
【0087】
4)測定開始時の蛍光強度をF0、t秒後の蛍光強度をFt、界面活性剤添加後の蛍光強度をF100として、t秒後にリポソームから放出されたパイラニンの割合R(%)を、次の式により算出した。
R(%)=(Ft-F0)/(F100-F0)×100
【実施例】
【0088】
図2は、温度変化とパイラニンの放出割合R(%)との関係を示すグラフである。図2では、実施例1:◆、実施例2:■及び比較例1:○の結果を表す。
また、図3は、10℃(丸)、30℃(ひし形)及び45℃(方形)における実施例2及び比較例1のリポソームからのパイラニン放出の経時変化を示すグラフである。図3では、実施例2:白抜きの記号、比較例1:塗りつぶした記号で表す。
【実施例】
【0089】
図2及び3の結果から、磁性ナノ粒子の有無に関わらず、リポソームは35℃付近でパイラニンの放出が促進されたことがわかる。この温度は、温度感受性高分子化合物の転移温度と一致する。よって、35℃付近で、温度感受性高分子化合物が疎水性に転移し、リポソーム膜構造を不安定化したので、内包されたパイラニンが放出されたと考えられる。
【実施例】
【0090】
図4は、比較例2~4のリポソームについての、温度変化とパイラニンの放出割合との関係を示すグラフである。図4では、比較例2:◇、比較例3:△及び比較例4:○の結果を表す。
図4の結果から、いずれの温度においてもパイラニンの放出が起こらず、図2及び3で示されたリポソームからのパイラニンの放出が、温度感受性高分子化合物の存在により引き起こされたものであることが確認できた。
【実施例】
【0091】
D)磁場印加によるリポソームからのパイラニン放出試験
C)の試験と同様に、蛍光分光高度計を用いて、磁場印加によるリポソームからのパイラニンの放出の変化について調べた。
【実施例】
【0092】
1)リポソーム分散液100μlを1.5 mlエッペンドルフチューブに入れ、高周波磁場印加装置(HI-HEATER 5010、第一高周波工業株式会社製)により交流磁場を所定の時間印加した。交流磁場の周波数と強度は、それぞれ360 kHZ及び236 Oeに固定した。
2)蛍光セルに、工程1)で磁場を所定時間印加したリポソーム分散液4μlとPBS2995μlとを入れ、蛍光強度の測定を開始した。
3)30分後、界面活性剤であるTriton X-100 25μlを加えて、リポソームを破壊した。
4)上記のC)工程4)と同様にしてパイラニンの放出割合R(%)を求めた。
【実施例】
【0093】
図5は、磁場を印加した時間とパイラニンの放出割合R(%)との関係を示すグラフである。図5では、実施例1:●、実施例2:▲及び比較例1:○の結果を表す。
図6は、磁場を印加せずに経過した時間とパイラニンの放出割合R(%)との関係を示すグラフである。図6では、実施例1:●、実施例2:▲及び比較例1:○の結果を表す。
図7は、図5及び図6のようにしてパイラニンの放出割合を測定したときの、リポソーム分散液の温度変化を示すグラフである。図7では、実施例1:●、実施例2:▲及び比較例1:○の結果を表す。
図8は、比較例2~4のリポソーム、すなわち温度感受性高分子化合物を含まずに磁性ナノ粒子を含むか又は含まないリポソームに対して磁場を印加した時間と、パイラニンの放出割合との関係を示すグラフである。図8では、比較例2:●、比較例3:▲及び比較例4:○の結果を表す。
【実施例】
【0094】
磁性ナノ粒子を含有しないリポソームからは、磁場を印加してもパイラニンが放出されなかったのに対して、本発明の磁場応答性リポソームからはパイラニンが放出されたことがわかる(図5)。また、磁性ナノ粒子の含有量が多いほど、パイラニンの放出がより強く引き起こされたことがわかる(図5)。
一方、磁場を印加しない場合、これらのリポソームからのパイラニンの放出は観察されなかった(図6)。よって、本発明の磁場応答性リポソームからの内容物の放出のためには、磁場の印加が必要であることがわかる。
また、温度感受性高分子化合物を含有しない非温度感受性リポソームに磁性ナノ粒子を含有させたリポソームからは、磁場を印加してもパイラニンが全く放出されなかった(図8)。この結果から、磁場応答性リポソームが磁場に応答して内容物を放出するためには、温度感受性リポソームを用いることが必要であることがわかる。
【実施例】
【0095】
図7の結果から、リポソーム分散液の温度は、磁場の印加により上昇したことがわかる。しかし、1時間の磁場の照射によっても、リポソーム分散液の温度は35℃以下であった(図7)。
一方、図5の結果からわかるように、1時間の磁場照射後のパイラニンの放出割合は、実施例1及び2でそれぞれ約55%及び約80%であった。これを、図2の35℃付近でのパイラニン放出割合(実施例1及び2:それぞれ約50%及び65%)と比較すると、図5においてより高い放出割合が得られたことがわかる。
この結果から、磁性ナノ粒子が存在するリポソーム膜の近傍の温度は、リポソーム分散液の水温に比較して高く、そのために、リポソーム膜に保持されている温度感受性高分子化合物がリポソーム膜をより強く不安定化させていることが示唆される。つまり、磁場の照射により、リポソーム自体の温度が、その周囲の温度と比較して、より上昇していると考えられる。
【実施例】
【0096】
以上のことから、本発明の磁場応答性リポソームは、磁場の印加により磁性ナノ粒子が発熱して、温度感受性リポソームのリポソーム膜を不安定化させることにより、内容物を放出できることが示された。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図1】
7