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明細書 :立方晶窒化ホウ素の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4827061号 (P4827061)
公開番号 特開2008-222488 (P2008-222488A)
登録日 平成23年9月22日(2011.9.22)
発行日 平成23年11月30日(2011.11.30)
公開日 平成20年9月25日(2008.9.25)
発明の名称または考案の名称 立方晶窒化ホウ素の製造方法
国際特許分類 C01B  21/064       (2006.01)
C23C  16/38        (2006.01)
C23C  16/507       (2006.01)
FI C01B 21/064 J
C23C 16/38
C23C 16/507
請求項の数または発明の数 3
全頁数 9
出願番号 特願2007-062629 (P2007-062629)
出願日 平成19年3月12日(2007.3.12)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成19年2月1日 American Institute of Physics発行の「JOURNAL OF APPLIED PHYSICS」に発表
審査請求日 平成22年2月23日(2010.2.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】堤井 君元
【氏名】松本 精一郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特開2001-302218(JP,A)
特開2005-008988(JP,A)
特開平08-208207(JP,A)
特開平03-008705(JP,A)
特開平03-174397(JP,A)
調査した分野 C01B 21/064
C23C 16/00-16/56
特許請求の範囲 【請求項1】
プラズマ装置の反応容器内において、基体上に窒化ホウ素を堆積させることにより立方晶窒化ホウ素を製造する方法であって、フッ素あるいはフッ素を含むガス種を含む気相をプラズマによって活性化し、反応容器壁あるいは反応容器内に設置した参照電極に対し、基体の時間平均電位を同電位あるいは正にバイアスすることにより、立方晶窒化ホウ素を含む窒化ホウ素を堆積させることを特徴とする立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【請求項2】
基体に印加する電圧として、直流電圧または直流+高周波を用いる請求項1に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【請求項3】
基体の時間平均電位をプラズマ電位と同電位あるいは正の電位にすることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ装置の反応容器内において、基体上に窒化ホウ素を堆積させることにより立方晶窒化ホウ素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立法晶窒化ホウ素(c-BN)はダイヤモンドに極めて類似した諸性質を持つ物質であるが、天然には存在しない。ダイヤモンドと同等の優れた電気、光学、機械的特性に加え、ダイヤモンドと比べ、鉄系金属(Fe, Co, Ni, Cr)に対する低い反応性や、高温における耐酸化性、バンド幅がより大、pn型半導体どちらの作製も容易という利点を有する。これらの特性から、c-BNは工具や耐磨耗材料、光学材料、半導体材料、短波長用光電子材料等の有用な機能材料になりうる物質である。その結晶粒は既に工業的に超高圧装置を用いて数万気圧の高圧下で合成されているが、高圧法では形状のコントロールは難しく、特に膜状につくることは非常に困難であり、上記の機能材料としての応用のためには、低圧での合成法が必要である。
【0003】
このため1気圧以下の圧力で気相から合成する試みも1970年代から行われてきた(非特許文献1,2)。それらの方法は、二種類に分類される。一つは、10Pa以下の低圧の反応容器内で、ホウ素を電子線加熱蒸着やスパッタリングで基板上に堆積させ、同時に窒素イオンおよびその他のイオンのイオン衝撃を用いる、活性化反応性蒸着法、バイアススパッタリング法、イオンビーム蒸着法等の物理蒸着法(PVD)である。
【0004】
もう一種類は、プラズマ装置の容器内で気相化学種間または気相化学種と基体間の反応を利用する化学気相析出法(CVD)で、通常気体の分子種が原料として用いられる。ホウ素源としては、ジボラン、三塩化ホウ素等を、窒素源としてはアンモニア、窒素等を、またホウ素、窒素両方を含むものとして、アミノボラン、ボラジン等が用いられる。このCVD法でも、反応室圧力が10-1~10Paの低圧で、気相をプラズマ状態にして負バイアスをかけた基体上にイオンを衝突させることにより、c-BNを得る方法である。
【0005】
これらの従来のc-BN膜の作成法は、どの作製過程(物理的気相合成法(PVD)、化学的気相合成法(CVD))においても、放電プラズマ中での基体への負バイアス電圧印加、あるいはイオンビーム照射によって、およそ50~1000eVの強いイオン衝撃を基体表面に加えることにより形成される。
【0006】
本発明者の一人は1999年に、CVD法において、気相中にフッ素あるいはフッ素を含むガス種を導入することにより、従来の方法に比べ、格段に結晶性がよく、残留応力の少ない窒化ホウ素を合成する方法を開発した(特許文献1、非特許文献3)。この方法では、反応室圧力は10-1Pa~10Paの広い圧力範囲を用いることができるが、この方法においても立方晶窒化ホウ素を作るためには、基板に75V~450Vの負バイアスを用いることが必要であった。さらにフッ素を含むECRプラズマを用いてc-BNを作成した報告があるが(非特許文献4)、この場合も45~80Vのイオン衝撃を用いている。

【特許文献1】特開2001-302218(特願2000-348883)
【特許文献2】特開平4-228572
【非特許文献1】P.B.Mirkarimi et al, Mater. Sci. Eng. R21(1997) 45:cBNについてのレビュー
【非特許文献2】T. Yoshida, Diamond Relat. Mater. 5(1996) 501:cBN作成法についてのレビュー
【非特許文献3】S. Matsumoto and W.J. Zhang, Jpn.J.Appl.Phys. 39(2000) L442:フッ素を使ってc-BNを作った最初の論文、-70~-85Vのバイアスを使用
【非特許文献4】C.Y. Chan, W.J. Zhang et al, Diamond Relat.Mater. 12(2003) 1162:ECRプラズマでプラズマ電位を考慮すると-45~-80Vのイオン衝撃
【非特許文献5】K. Teii, R. Yamao, T. Yamamura, S. Matsumoto, J.Appl.Phys. 101(2007) 033301:本発明の方法の一部
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来法では、イオン衝撃による運動量転化の影響等のため、得られたc-BN膜は、基体との密着性が悪い、結晶性が悪い、結晶サイズが小さい等の問題があり、cBN本来の特性が発揮できず、ハードコーティングや光電子デバイスへの応用が難しかった。
本発明は、このような問題を解決することができる立方晶窒化ホウ素の製造方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を採用した。
【0009】
発明1の立方晶窒化ホウ素の製造方法は、フッ素あるいはフッ素を含むガス種を含む気相をプラズマによって活性化し、導電性の反応容器壁あるいは反応容器内に設置した参照電極に対し、基体の時間平均電位を同電位あるいは正にバイアスすることにより、立方晶窒化ホウ素を含む窒化ホウ素を堆積させることを特徴とする。この参照電極はアース電位に接地してもよ
【0010】
発明2は、発明1の立方晶窒化ホウ素の製造方法において、基体に印加する電圧として、直流電圧または直流+高周波を用いることを特徴とする。
【0011】
発明3は、発明1又は2の立方晶窒化ホウ素の製造方法において、基体の時間平均電位をプラズマ電位と同電位あるいは正の電位にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、上記の問題点を、極めて弱いイオン衝撃、あるいはイオン衝撃を全く用いない環境下でのc-BN膜作製法(本発明)を利用することにより解決できる。すなわち本発明では、フッ素を含む原料ガスと、高密度プラズマを用い、参照電極の電位に対して、基板に零あるいは正のバイアス電圧を印加すること、あるいは基体をフロート電位にすることにより、45eV以下の従来より低いイオン衝撃エネルギーにて、さらに0から3eV程度の極めて低いイオン衝撃エネルギーにおいても、c-BN膜の作製を可能とした。
【0013】
基体に入射するイオンの衝撃エネルギーはプラズマ電位(通常参照電極電位に対し正)-基体バイアス電位に依存するため、通常の基体負バイアスではイオン衝撃エネルギーは両者の和となり大であるが、基体に0から正のバイアスを印加した場合は、イオン衝撃エネルギーはプラズマ電位による正の値から減少し0に近づく。これらの条件下でも、フッ素を含む気相種を用いる本発明の方法によればc-BNを作成できる(発明1)。
【0014】
基体に正バイアスしても、一般的にはプラズマ電位も上昇するため、基体の電位はプラズマ電位に対しは負であるが、これを0または正にすることができイオン衝撃エネルギーをさらに減少できる。それは基体の表面積を参照電極の面積に比し小とすること、あるいは二次電子放出能が大きい基体を用いること、あるいは基体表面に正イオンが集積しやすい条件を選ぶことで達成される。面積比の場合は、バイアス電流値等プラズマの条件により異なるが、例えば7分の1以下、望ましくは100分の1以下を選ぶことで達成される。これらの場合も、フッ素を含む気相種を用いる本発明の方法によればc-BNを作成できる(発明3)。
【0015】
本発明は従来のc-BN低圧合成法では必須条件であった基板負バイアス印加あるいはイオンビーム照射が不要で、イオン衝撃が極端に下がったという点で画期的である。基体へのイオン衝撃が非常に小さい条件でc-BN膜の作成が可能であるため、結晶欠陥の発生の減少、二次核発生の減少、残留応力の低下し、従来技術よりも、基体との密着性、結晶性、結晶サイズ等の向上ができる。
c-BN膜の作成、応用の障害となっていた、イオン衝撃による悪影響が除かれ、c-BN膜の研究の発展、実用化の可能性の増大に大きく寄与すると思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(プラズマの種類)
本発明の合成法において、用いるプラズマは非平衡プラズマでも、平衡(熱)プラズマでもいずれでもよく、また、プラズマ発生用電源は、直流、低周波交流、高周波、マイクロ波いずれでもよい。また、反応器への結合方法も容量結合、誘導結合、アンテナによる結合、共振器による結合、表面波励起等のいずれでもよい。ただし、プラズマ密度1010cm-3以上の高密度プラズマが望ましく、プラズマ密度1012cm-3以上の高密度プラズマがさらに望ましい。
【0017】
(原料)
本発明の合成法において、原料となるホウ素はホウ素を含むガス種からでも、あるいはホウ素を含む固体から蒸発、スパッター、あるいはガスによるエッチングで気相中にもたらしてもよい。ホウ素を含むガス種としては、ジボラン,デカボラン等のホウ素の水素化物、三塩化ホウ素,三フッ化ホウ素等のホウ素のハロゲン化物等のうちの一種または数種を同時に用いる。ホウ素を含む固体としては、固体ホウ素、B4C、窒化ホウ素焼結体、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素化合物、ホウフッ化アンモニウム等のホウフッ化物、トリエトキシボロン等の有機ホウ素化合物等が用いられる。
【0018】
窒素源として窒素ガス、アンモニア, ヒドラジン等の窒素の水素化合物、三フッ化窒素等の窒素のフッ化物、等の窒素を含む化合物の一種または数種を同時に用いる。窒素とボロンを別々の化学種で与える代わりにアミンボラン,ボラジン, アミノボラン,ジメチルアミノボラン等の単一化学種で供給することもできる。
【0019】
ホウ素源および窒素源のガスの間の反応を行わせ、窒化ホウ素を析出させるが、フッ素が必ず含まれるように選定する。上記原料ガス或いは固体原料中にフッ素が含まれない場合は、上記化合物以外に、フッ素ガス、フッ化水素、フッ化ハロゲン、希ガスのフッ化物等を加えるか、四フッ化メタン等の有機フッ素化合物、フッ化硫黄、フッ化ケイ素、フッ化隣、またはフッ化タングステン等のフッ素化合物または金属フッ化物の分解により得られるフッ素を加えることにより行うことができる。
【0020】
さらに、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、水素ガスをプラズマの制御、またはフッ素ガスの作用を制御する等の目的で、適宜加えることができる。これらの原料および添加ガスの最適流量はプラズマの種類、プラズマの発生方法、合成装置の大きさ、合成圧力等により大きく異なり、またその範囲はかなり広い。
【0021】
(反応圧力)
本発明の合成法において、用いる気相の圧力は、10-6~102気圧が用いられるが、反応速度、取り扱いの点で10-5~1気圧が望ましい。
【0022】
(基板、基盤、基体)
本発明の合成法において、窒化ホウ素を析出させる基体は、シリコン等の半導体、石英等の絶縁体、炭化タングステン等の半金属、モリブデン等の金属あるいは合金のいずれでも用いることができ、特に制限はない。
【0023】
(基体温度)
本発明の合成法においては、プラズマによる活性化を用いているため、室温から1400℃の広い範囲の基体温度を用いることができるが、特に結晶性の良いc-BNの合成のためには500~1300℃の基板温度が望ましい。
【実施例1】
【0024】
図1に示す13.56MHzの高周波を用いる高周波誘導プラズマ装置において、シリコン基板1を基板ホルダー2上におき、反応室3を排気ポンプ5により10-4 Paまで排気後、ガス供給器7より、バルブ8を通して、He 20 sccm, N 1 sccm, H 5sccmを流し、高周波電源9からの1.5 kWの高周波をワークコイル10に供給し、プラズマを発生させる。バルブ8'を通して10%BF/He 30 sccmを流し、直流バイアス電源11により+30 Vの直流バイアスを基板ホルダー2を通して基板1にかけ、基板温度1000℃にて、20 Pa下の30分間の合成により、基板1上に窒化ホウ素膜が得られた。
この方法により得られた窒化ホウ素のX線回折図を図2に示す。図2においてc-BNの111,200,220,311反射が現れている。また、六方晶窒化ホウ素の002,乱層構造窒化ホウ素の001反射もみられるが、六方晶窒化ホウ素の100,101,004等の反射は強くない。
赤外吸収スペクトルを図3に示す。図3より1100 cm-1近傍にc-BNの残留線の吸収が強く現れており、また1360~1400 cm-1近傍と800 cm-1近傍に六方晶窒化ホウ素および乱層構造窒化ホウ素および非晶質窒化ホウ素(3者を合わせてsp-BNと表現)による吸収が現れているが、c-BNの吸収ほど強くはない。これらより、得られた窒化ホウ素膜は、c-BNの優勢な窒化ホウ素膜であることがわかる。
【実施例2】
【0025】
図1に示す装置において、He 80 sccm, N 10 sccm, H2 9 sccmを流し、高周波電源9からの1kWの高周波をワークコイル10に供給し、プラズマを発生させる。バルブ8’を通して10%BF/He16 sccmを流し、反応容器と参照電極と基板をアース電位にして、基板温度700℃にて、20Pa下の30分間の合成により、シリコン基板1上に窒化ホウ素膜が得られた。
図4はこの膜の赤外吸収スペクトルである。図4よりc-BNが含まれた窒化ホウ素が生成していることがわかる。
【実施例3】
【0026】
図1に示す装置において、He 80 sccm, N 10 sccm, H2 10 sccmを流し、高周波電源9からの1kWの高周波をワークコイル10に供給し、プラズマを発生させる。バルブ8’を通して10%BF/He18 sccmを流し、直流バイアス電源11により+100 Vの直流バイアスを基板ホルダー2を通して基板1にかけ、基板温度1000℃にて、40Pa下の20分間の合成により、シリコン基板1上に窒化ホウ素膜が得られた。
図5はこの膜の赤外吸収スペクトルである。図5よりc-BNが含まれた窒化ホウ素が生成していることがわかる。
この作成条件と同じ条件下でのプラズマのプラズマ電位をエミッシブプローブで測定したところ、+100Vと基板印加電圧と同じ値となり、基板入射イオンエネルギーはほぼ0eVであると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
イオン衝撃の少ない状態においてc-BNを作成することができるので、残留応力の減少と、基体との密着性の向上の可能性により、鉄族金属との低反応性を用いた、切削工具等への耐熱耐磨耗コーティングへの応用の可能性が大となった。機械加工の分野では鉄系材料がほとんどのため、広い領域での高精度加工と省力化が可能となる。また、c-BNの耐磨耗性、低摩擦性、耐熱性、耐酸化性、耐薬品性、他物質への低濡れ性等を利用した金型等への幅広いコーティングへ応用できる。さらに、結晶性の向上により、c-BNの広バンド幅、高キャリヤー移動度、高熱伝導度、耐熱性を利用した、高温高周波高パワー用半導体、短波長用光電デバイス、光学材料、電界電子放射用電極等への幅広い応用が期待され、電子機器、光学機器の固体素子化を通して、生活の利便性の向上と省エネルギー化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明のc-BNを含む膜の合成法において、高周波誘導プラズマを使用する装置の概略側面図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1で得られた窒化ホウ素膜のCuKα線によるX線回折図である。
【図3】図3は、本発明の実施例1で得られた窒化ホウ素膜の赤外吸収スペクトル図である。
【図4】図4は、本発明の実施例2で得られた窒化ホウ素膜の赤外吸収スペクトル図である。
【図5】図5は、本発明の実施例3で得られた窒化ホウ素膜の赤外吸収スペクトル図である。
【符号の説明】
【0029】
1 基体
2 基体ホルダー
3 反応室
4 反応官
5 真空ポンプ
6 覗き窓
7 ガス供給器
8,8’バルブ
9 高周波電源
10 ワークコイル
11 バイアス電源
12 参照電極
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4