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明細書 :魚類の発音を用いた化学物質の毒性評価

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5419127号 (P5419127)
登録日 平成25年11月29日(2013.11.29)
発行日 平成26年2月19日(2014.2.19)
発明の名称または考案の名称 魚類の発音を用いた化学物質の毒性評価
国際特許分類 G01N  33/18        (2006.01)
FI G01N 33/18 E
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2008-164157 (P2008-164157)
出願日 平成20年6月24日(2008.6.24)
審査請求日 平成23年6月24日(2011.6.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】姜 益俊
【氏名】諸石 淳也
【氏名】本城 凡夫
【氏名】大嶋 雄治
【氏名】山菅 美利
【氏名】井上 勝浩
【氏名】山崎 久勝
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100080137、【弁理士】、【氏名又は名称】千葉 昭男
【識別番号】100096013、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 博行
【識別番号】100113309、【弁理士】、【氏名又は名称】野▲崎▼ 久子
特許請求の範囲 【請求項1】
被検水が通過する飼育環境におかれた魚類の発するパルス音を、所定の時間観測し、そして
(1) 2回以上の連続したパルス音を含む発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔の変化;
(2) 所定の時間内のパルス音の回数の変化;又は
(3) 所定の時間内の発音セットの頻度の変化
のいずれかを算出することを含む、被検水中の農薬を含む一般有機化学物質、無機物質、重金属、病原生物から選択される有害物質の存在のモニタリング方法。
【請求項2】
2回以上の連続したパルス音を含む発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔(T)の変化を算出することを含み、そして時間間隔(T)が、予め測定しておいた通常の時間間隔(T0)よりも長くなったときに被検水が農薬を含む一般有機化学物質、無機物質、重金属、病原生物から選択される有害物質を含み有害であると判定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
魚類が、ダツ目(Beloniformes)に属する魚から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
魚類が、メダカ(Oryzais latipes)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
パルス音の観測が、500~3500Hzの周波数帯において行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
魚類の飼育環境;
被検水が飼育環境を通過するための手段;
被検水を含む飼育環境内での魚類の発音を検知して電気信号に変換する手段;
該電気信号を処理して、2回以上の連続したパルス音を含む発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔(T)を算出する手段;
時間間隔(T)が、予め測定しておいた通常の時間間隔(T0)よりも長くなったときに被検水が農薬を含む一般有機化学物質、無機物質、重金属、病原生物から選択される有害物質を含み有害であると判定する手段;及び
判定結果を提示する手段
を備えた、被検水中の農薬を含む一般有機化学物質、無機物質、重金属、病原生物から選択される有害物質の存在のモニタリング装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水生生物を用いたバイオモニタリング、より詳細には、魚類を用いて、水性環境等の水質をモニタリング(連続監視)するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人為的事故や自然災害などによる有害化学物質の河川や海への流出が多数報告されており、水質を常時監視し、水質事故を早期に発見し、水圏生態系を守ることが求められている。現在、水質を評価する方法としては、化学分析による手法や生物を用いたバイオモニタリングの手法がある。化学分析による水質評価は特定の物質を検出することは可能であるが、その検出時間と費用がかかることから、水生生物を用いたバイオモニタリングの必要性がクローズアップされている。
【0003】
水生生物を用いたバイオモニタリングにおいては、主に貝類、魚類、甲殻類、藻類等が用いられている。
例えば、貝類に関しては、二枚貝類の筋肉の活動電位の変化を測定することにより、二枚貝類に属する貝に有害な浮遊生物の検出を行う方法がある(特許文献1)。また、貝殻の開閉運動の変化を測定することにより溶存酸素の濃度の低下により生じた有害水質環境を検出する方法が開発されている(特許文献2)。
【0004】
一方、上水の水質検査においては魚類が多く利用されている。モニタリングに際しては、魚類の行動を画像解析する方法(非特許文献1)、魚類が発する活動電位を測定する方法(特許文献3~5)がある。
【特許文献1】特開2000-93038号公報
【特許文献2】特開2004-317504号公報
【特許文献3】特開2006-317228号公報
【特許文献4】特開2006-317229号公報
【特許文献5】特開2007-163162号公報
【非特許文献1】姜 益俊, 山菅 美利, 大嶋 雄治. 魚類(メダカ)の行動を用いた水質監視装置-リアルタイム3次元行動解析による水質検査-資源環境対策2月号: 81-85, 2006.
【0005】
しかしながら、魚類を利用したこれらの方法では、水の濁度や色度が高い場合には解析することができない。水質の常時監視のためには、さらなる改良や新たな手法の開発が必要となってきている。
【0006】
そこで本研究では、これらの水質要因に影響を受けにくい新たなバイオモニタリングの手法として、魚類が発する音に着目し、その発音の変化を用いて水中の化学物質の毒性を評価できるか否かを検討した。その結果、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、以下の方法及び装置を提供する:
1.被検水が通過する飼育環境におかれた魚類の発するパルス音を、所定の時間観測し、そして
(1) 2回以上の連続したパルス音を含む発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔の変化;
(2) 所定の時間内のパルス音の回数の変化;又は
(3) 所定の時間内の発音セットの頻度の変化
のいずれかを算出することを含む、被検水の水質のモニタリング方法。
2.2回以上の連続したパルス音を含む発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔(T)の変化を算出することを含み、そして時間間隔(T)が、予め測定しておいた通常の時間間隔(T0)よりも長くなったときに被検水が有害であると判定することを含む、上記1.に記載の方法。
3.魚類が、ダツ目(Beloniformes)に属する魚から選択される、上記2.に記載の方法。
4.魚類が、メダカ(Oryzais latipes)である、上記3.に記載の方法。
5.パルス音の観測が、500~3500Hzの周波数帯において行われる、上記4.に記載の方法。
6.魚類の飼育環境;
被検水が飼育環境を通過するための手段;
被検水を含む飼育環境内での魚類の発音を検知して電気信号に変換する手段;
該電気信号を処理して、2回以上の連続したパルス音を含む発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔(T)を算出する手段;
時間間隔(T)が、予め測定しておいた通常の時間間隔(T0)よりも長くなったときに被検水が有害であると判定する手段;及び
判定結果を提示する手段
を備えた、被検水の水質のモニタリング装置。
【0008】
本発明においては、魚類を用いる。現在まで水質モニタリングに用いられている主な水生生物には、魚類以外に、ミジンコ類、藻類や二枚貝類等がある。魚類は水圏に生息する生物の中で、人間に一番近い脊椎動物として様々な研究分野で利用されてきており、その毒性学的背景が明確である。また、繁殖、飼育管理や入手が比較的簡単である。
【0009】
本発明に用いることのできる魚類は、河川や湖沼など内陸の淡水で生活する淡水魚であっても、海で生活する海水魚であってもよい。
本明細書でいう「魚類」は、特別な場合を除き、真骨類(Teleostei)に分類される水棲生物を指す。真骨類には、ダツ目(Beloniformes;例えば、メダカ、サンマ、トビウオ)、キュウリウオ目(Osmeriformes;例えばアユ)、サケ目(Salmoniformes;例えばサケ類、カダヤシ目(Cyprinodontiformes;例えばグッピー、ヨツメウオ)ギンメダイ目(Polymixiiformes;例えば、ギンメダイ)、タラ目(Gadiformes;例えばマダラ、スケトウダラ)、ニシン目(Clupeiformes;例えば、マイワシ、ニシン、コノシロ)、カライワシ目(Elopiformes;例えば、カライワシ)、ソトイワシ目(Albuliformes;例えばソトイワシ)、ハダカイワシ目(Myctophiformes;例えば、ハダカイワシ)、ウナギ目(Anguilliformes;例えば、ウナギ、マアナゴ、ウツボ)、アロワナ目(オステオグロッスム目)(Osteoglossiformes;例えば、アロワナ、ピラルクー)、フウセンウナギ目(Saccopharyngiformes)、ネズミギス目(例えば、Gonorynchiformes;例えば、ネズミギス、サバヒー)、コイ目(Cypriniformes)、カラシン目(Characiformes;例えば、ピラニア、テトラ)、ナマズ目(Siluriformes;例えば、ナマズ)、デンキウナギ目(Gymnotiformes;例えば、デンキウナギ)、スズキ目(Perciformes)、スズキ亜目(Percoidei;例えば、スズキ、マダイ)、ニギス目(Argentiniformes;例えば、ニギス)、カワカマス目(Esociformes;例えば、カワカマス(パイク))、ワニトカゲギス目(Stomiiformes)、シャチブリ目(Ateleopodiformes)、ヒメ目(Aulopiformes;例えば、エソ)、アカマンボウ目(Lampriformes;例えば、アカマンボウ、リュウグウノツカイ)、
サケスズキ目(Percopsiformes;例えば、サケスズキ)、アシロ目(Ophidiiformes;例えば、イタチウオ)、ガマアンコウ目(Batrachoidiformes)、アンコウ目(Lophiiformes;例えば、アンコウ、チョウチンアンコウ)、ボラ目(Mugiliformes;例えば、ボラ)、トウゴロウイワシ目(Atheriniformes;例えば、トウゴロウイワシ)、クジラウオ目(Stephanoberyciformes;例えば、クジラウオ)、キンメダイ目(Beryciformes;例えば、キンメダイ)、マトウダイ目(Zeiformes;例えば、マトウダイ)、トゲウオ目(Gasterosteiformes;例えば、イトヨ、タツノオトシゴ、ヨウジウオ)、タウナギ目(Synbranchiformes;例えば、タウナギ)、カサゴ目(Scorpaeniformes)、セミホウボウ亜目(Dactylopteroidei;例えば、セミホウボウ)、カサゴ亜目(Scorpaenoidei;例えば、カサゴ、メバル、オコゼ)、コチ亜目(Platycephaloidei;例えば、マゴチ)、ギンダラ亜目(Anoplopomatoidei;例えば、ギンダラ)、アイナメ亜目(Hexagrammoidei;例えば、アイナメ、ホッケ)、カジカ亜目(Cottoidei;例えば、カジカ)、アジ亜目(Carangoidei;例えば、マアジ、ブリ)、ベラ亜目(Labroidei;例えば、ベラ、スズメダイ、クマノミ)、ゲンゲ亜目(Zoarcoidei)、ワニギス亜目(Trachinoidei;例えば、ハタハタ)、ギンポ亜目(Blennioidei;例えば、ギンポ、ナベカ、ヘビギンポ)、ウバウオ亜目(Gobiesocoidei)、ネズッポ亜目(Callionymoidei;例えば、コチ、ネズミゴチ)、ハゼ亜目(Gobioidei;例えば、ハゼ)、ニザダイ亜目(Acanthuroidei;例えば、アイゴ、ニザダイ)、サバ亜目(Scombroidei;例えば、サバ、カツオ、マグロ)、イボダイ亜目(Stromateoidei;例えば、イボダイ、マナガツオ)、キノボリウオ亜目(Anabantoidei;例えば、ベタ、キノボリウオ)、タイワンドジョウ亜目(Channoidei;例えば、ライギョ)、カレイ目(Pleuronectiformes)、ボウズガレイ亜目(Psettodoidei;例えば、ボウズガレイ)、ウシノシタ亜目(Soleoidei;例えば、ササウシノシタ)、カレイ亜目(Pleuronectoidei;例えば、ヒラメ、マコガレイ)、モンガラカワハギ亜目(Balistoidei;例えば、カワハギ、ハコフグ)、フグ目(Tetraodontiformes)、フグ亜目(Tetraodontoidei;例えば、トラフグ、マンボウ)が含まれる。
【0010】
本発明には、これらの魚類のうち、パルス音を発する魚類を用いることができる。声を出す魚は、現在では百種類以上知られている。
特に、ダツ目のほか、以下の16目の魚類において発音魚が報告されている:
1)オステオグロッスム目(Osteoglossiformes)のモルミルスの一種Pollimyrusisodori;
2)コイ目(Cypriniformes)コイ科の仲間であるCyprinellaanalostana;
3)カラシン目(Characiformes)のピラニア(CharacidaePygocentrus nattereri);
4)ナマズ目(Siluriformes)のピロメドゥス科の一種Pimelodusblochii;
5)アシロ目(Ophidiiformes)アシロ科の一種Ohidionmarginatum;
6)タラ目(Gadiformes)のハドック(Melanogrammusaeglefinus);
7)ガマアンコウ目(Batrachoidiformes)のオイスター・トードフィッシュ(Opsanustau);
8)キンメダイ目(Beryciformes)のイットウダイの仲間Sargocentroncornutum;
9)マトウダイ目(Zeiformes)のマトウダイ(Zeusfaber);
10)トゲウオ目(Gasterosteiformes)タツノオトシゴ属Hyppocampus;
11)カサゴ目(Scorpaeniformes)のセミホウボウの一種Dactylopterusvolitans;
12)スズキ目(Perciformes):
スズキ亜目(Percoidei)ハタ科の一種Epinephalusstriatus;
ベラ亜目(Labroidei)カワスズメ科の一種Oreochromismossambica;
ハゼ亜目(Gobioidei;例えば、ハゼ)ドンコ科のドンコ(Odontobutisobscura);
キノボリウオ亜目(Anabantoidei)クローキング・グーラミ(Trichopsis属)
13)フグ目(Tetraodontoidei)モンガラカワハギの仲間Rhinecathusrectangulus。
【0011】
本発明には特に、飼育のために適切な環境が分かっており、繁殖及び飼育が容易で、個体差が少なく、薬物に対する反応が早い魚類が好ましい。また、急性毒性試験に用いられる魚類が好ましく、このような魚類の種として、メダカ(Oryzais latipes)、フナ又は金魚(Carassius auratus)、コイ(Cyprinus carpio)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)、ニジマス(Oncorhynchus mykiss)を挙げることができる。
【0012】
個体差が少なく、薬物に対する反応が早いという観点からは、本発明には特に、ダツ目(Beloniformes)に属する魚類、好ましくはメダカ科に属する魚類、より好ましくはメダカ属(Oryzais)に属する魚類、例えばメダカを好適に用いることができる。
【0013】
同一種においても種々の遺伝的系統があり、系統によって感受性が異なることもあるので、少なくとも2世代にわたって飼育し、生物試験に適した生物であるかのバックグランドデータを収集した純系を用いることが必要な場合がある。
【0014】
メダカは、本発明に用いるのに最も好ましい魚類の一つである。メダカは、学術的に生態が解明されており、急性毒物試験の試験魚として一般的に使用され、種々の化学物質に関する試験データが豊富である。また、比較的小さい生物であるため、モニタリングのための装置を小型化することが可能である。
【0015】
本発明においては、魚類の飼育環境は、用いる魚類の飼育のために適した環境である必要がある。飼育環境は、通常、温度、pH、及び溶存酸素濃度が適切な範囲に保たれた、用いる魚類の個体数に応じた容量をもつ水槽の形態である。飼育環境の形状及び大きさは、当業者であれば適宜設計することができる。飼育環境は、被検水が直接流入することによる魚類への影響を軽減し、また飼育環境内全体に均一に被検水を拡散させる構造とすることができる。
【0016】
飼育環境へ置かれる魚類の個体数は、1又はそれ以上であり、通常、5~20匹)である。例えば、メダカであれば、10匹、15匹又は20匹とすることができる。飼育環境として、適切であれば、同一の系統からの魚類を均等に振り分けた複数の(例えば3連以上の)水槽を準備してもよい。
【0017】
魚類を飼育環境に投入する際には、必要に応じ、飼育環境への馴化(馴致)を、数時間~数日行うとよい。馴化に際しては、被検水の代わりに対照水を、適切な流量で通過させることができる。また飼育環境においては、必要に応じ、魚類への給餌を行う。
【0018】
本発明においては、被検水を含む飼育環境に魚類をおくことで、被検水の水質を評価することができるが、水性環境等の連続監視のためには、飼育環境に、被検水を供給する手段と飼育環境の水を排出する手段とを設け、被検水を通過させるようにするとよい。供給手段及び/又は排出手段にはさらに、魚類を飼育環境に保ち、被検水の供給/排出流路に出入りすることがないように、適切な手段を講じておくとよい。
【0019】
水質モニタリングの対象となる水質環境等からの被検水の供給/排出の流量は、当業者であれば、求める感度、迅速性、ノイズの発生等を考慮し、適宜設定することができる。例えば魚類としてメダカを用いる場合、飼育環境1.5Lに対しては、50ml/minより大きく、かつ200ml/min未満(例えば、100ml/min)とするとよい。50ml/min以下では、飼育環境内の水が被検水と入れ替わるための時間が長くなり、被検水の影響が遅れて検出される懸念があり、また200ml/min以上では、ノイズの発生が無視できないという点からは好ましくないと考えられる。このような速度での被検水の供給/排出は、従来技術の設備を用いて達成することができる。
【0020】
本発明においては、飼育環境は、魚類への給餌手段を備えていてもよい。
本発明においては、飼育環境は、魚類の発音を検知して電気信号に変換する手段を備えている。これは、従来のマイクロホンを利用することができる。水中において、魚類の発音に関わる周波数帯で機能可能であれば、構造、動作原理に制限はなく、ムービング・コイル型、リボン型、コンデンサ型、カーボンマイク、圧電(クリスタル)マイク等の種々のものを利用することができる。飼育環境内におけるマイクロホンの位置は、当業者であれば、適宜設計することができる。マイクロホンは、例えば、検出対象である魚類の発音以外の音(ノイズ)の影響をできるだけ排するという観点から、また、魚類の遊泳への干渉をできる限り少なくするという観点から、飼育環境としての水槽の側面に窪みを設け、そこに設置するとよい。
【0021】
パルス音の観測は、魚類としてメダカを用いる場合は、500~3500Hzの周波数帯において行うとよい。
本発明においては、観測された魚類の発音パターンを分析する。より具体的には、検知されたパルス音(一瞬の短い時間内に発する音)を、必要に応じ記録し、2回以上の連続したパルス音からなる発音セットを観測する。発音セットは、例えばメダカを用いる場合は、4~8回程度の連続するパルス音からなる(図4参照)。
【0022】
本発明における「発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔」とは、発音セット内における連続して発せられる複数のパルス音において、あるパルス音が発せられた時からそれに続くパルス音が発せられた時までの間の、時間的な長さを指し、発音セットと発音セットとの間に観察される無音の比較的長い時間は含まない趣旨である。
【0023】
複数の魚類を用いる場合、得られる発音パターンは、複数の魚類の発音の総和のようなものとして理解することができる。本発明者らの検討によると、水槽の10匹メダカの発音を分析した際には、メダカ10匹のうちの同一の個体が連続で発音しているのではなく、複数の個体が発音していると考えられた。また、観測された発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔がほぼ一定であったことから、複数個体の発音を同時に観測してはいないと考えられた。通常、所定の時間内においては、複数のメダカの発音を同時に観測することはなく、得られる発音パターンはメダカ10匹の発音の総和のようなものとして、認識されるものであった。
【0024】
本発明における「所定の時間」は、発音セットが複数回観測される長さであれば適宜とすることができるが、例えば、1~30分、好ましくは3~20分、より好ましくは4~15分(例えば5分又は10分)とすることができる。「所定の時間」とは関係なく、発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔をパラメータとする場合は、モニタリング期間を通じ、パルス音の観測を行うことができる。
【0025】
発音パターンを分析は、モニタリング期間を通じて、常時、又はランダム若しくは決められた時間毎(例えば、15分毎、30分毎、1時間毎、又は4時間毎)に、繰り返し行う。そして、適宜、発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔の変化;所定の時間内のパルス音の回数の変化;及び/又は発音セットの、所定の時間内の頻度の変化を算出する。
【0026】
アルジカルブと同様の作用機序で毒性を発揮する物質による汚染が予測される場合には、発音パターンの分析として、時間間隔の変化を算出することが好ましい。そして、時間間隔(T)と、予め測定しておいた通常の時間間隔(T0)(例えば、馴化の際又は馴化の後であって、被検水の代わりに対照水を適切な流量で通過させた飼育環境における時間間隔)とを比較し、TとT0とに差異が観られたとき、より好ましくは、TがT0よりも有意に長くなったときに、被検水が有害であると判定する。
【0027】
算出及び判定は、適切なコンピュータとソフトウェアとを用いて行うことができる。
本発明においては、判定結果を報知する手段を備えていてもよい。報知手段としては、判定結果を視覚的に報知するモニタ、ランプ等の視覚的報知手段を採用してもよく、聴覚的に報知するブザー等の聴覚的報知手段を採用してもよい。
【0028】
本発明は、河川、湖沼、ダム又は海等の水性環境の水質のモニタリング、水道原水、専用水道又は地下水の水質のモニタリング、工場排水、農業廃水、事業廃水又は生活排水のモニタリング、飲料水のモニタリングに適用することができる。特にメダカを用いる場合、河川又は海の水質のモニタリングに好適である。
【0029】
本発明により、種々の有害物質が検出できる。例えば、農薬を含む一般有機化学物質、消毒副生成物、色、味覚、発泡、におい、基礎的性状、無機物質、重金属、病原生物等を検出することができる。農薬の例としては、アルジカルブ、アルジカルブスルホキシド、アルドキシカルブ、エチオフェンカルブ、オキサミル、カルバリル、ピリミカーブ、フェノブカルブ及びベンダイオカルブ、チウラム、シマジン(CAT)、チオベンカルブ、1,3-ジクロロプロペン(D-D)、イソキサチオン、ダイアジノン、フェニトロチオン(MEP)、イソプロチオラン(IPT)、クロロタロニル(TPN)、プロピザミド、ジクロルボス(DDVP)、フェノブカルブ(BPMC)、クロルニトロフェン(CNP)、CNP-アミノ体、イプロベンホス(IBP)、EPN、ベンタゾン、カルボフラン(カルボスルファン代謝物)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、トリクロピル、アセフェート、イソフェンホス、クロルピリホス、トリクロルホン(DEP)、ピリダフェンチオン、イプロジオン、エトリジアゾール(エクロメゾール)、オキシン銅、キャプタン、クロロネブ、トルクロホスメチル、フルトラニル、ペンシクロン、メタラキシル、メプロニル、アシュラム、ジチオピル、テルブカルブ(MBPMC)、ナプロパミド、ピリブチカルブ、ブタミホス、ベンスリド(SAP)、ベンフルラリン(ベスロジン)、ペンディメタリン、メコプロップ(MCPP)、メチルダイムロン、アラクロール、カルバリル(NAC)、エディフェンホス(エジフェンホス、EDDP)、ピロキロン、フサライド、メフェナセット、プレチラクロール、イソプロカルブ(MIPC)、チオファネートメチル、テニルクロール、メチダチオン(DMTP)、カルプロパミド、ブロモブチド、モリネート、プロシミドン、アニロホス、アトラジン、ダラポン、ジクロベニル(DBN)、ジメトエート、ジクワット、ジウロン(DCMU)、エンドスルファン(ベンゾエピン)、エトフェンプロックス、フェンチオン(MPP)、グリホサート、マラソン(マラチオン)、メソミル、ベノミル、ベンフラカルブ、シメトリン、ジメピペレート、フェントエート(PAP)、ブプロフェジン、エチルチオメトン、プロベナゾール、エスプロカルブ、ダイムロン、ビフェノックス、ベンスルフロンメチル、トリシクラゾール、ピペロホス、ジメタメトリン、アゾキシストロビン、イミノクタジン酢酸塩、ホセチル、ポリカーバメート、ハロスルフロンメチル、フラザスルフロン、チオジカルブ、プロピコナゾール、シデュロン、ピリプロキシフェン、トリフルラリン、カフェンストロール、フィプロニルを挙げることができる。また、他の例としては、四塩化炭素、1,4-ジオキサン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ベンゼン、塩素酸、クロロ酢酸、クロロホルム、ジクロロ酢酸、ジブロモクロロメタン、臭素酸、総トリハロメタン、トリクロロ酢酸、ブロモジクロロメタン、ブロモホルム、ホルムアルデヒド、カドミウム及びその化合物、水銀及びその化合物、セレン及びその化合物、鉛及びその化合物、ヒ素及びその化合物、六価クロム化合物、シアン化物イオン及び塩化シアン、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素、フッ素及びその化合物、ホウ素及びその化合物、一般細菌、大腸菌を挙げることができる。
【0030】
なお、本明細書の実施例では、魚類の例としてメダカを用い、かつ検出対象としてカーバメート系殺虫剤であるアルジカルブ(2-Methyl-2-(methylthio)propanal O-[(methylamino)carbonyl]oxime)を用いて実施した結果を示した。カーバメート系殺虫剤は、有機リン系殺虫剤と同様に体内のコリンエステラーゼの活性を阻害し、体内にアセチルコリンの蓄積をもたらす結果として、コリン作動性の症状が現れる。メダカを用いる態様は、少なくともアルジカルブと同様の作用機序で毒性を発揮する物質、例えば他のカーバメート系殺虫剤、及び有機リン酸系殺虫剤の検出に、特に好適に用いうることはいうまでもない。
【0031】
また本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、魚類以外であっても、発音の分析が可能な水棲生物であれば、応用可能であろう。
【0032】
[発明の効果]
本発明により、水の濁度や色度が高い場合であっても、水質のモニタリングを行うことができる。
また本発明により、対照とする水性環境等の汚染を、高感度に検出することができる。
本発明によれば、毒性物質が96時間半数致死濃度(LD50)よりも低い濃度であっても検出することができ、また複数の毒性物質が問題となる場合に、組み合わせによる影響も検出することができる。
【0033】
さらに本発明のパルス音の時間間隔の変化をパラメータとする態様では、対照とする水性環境等の汚染を迅速に検出できる。
【実施例】
【0034】
材料及び方法:
メダカ(Oryzais latipes)の発する音が確実に録音できる試験条件を設定するために予備試験を行った。水中マイク(YN02,(株)CTIサイエンスシステム,東京)を設置した流水の水槽(容量1.5L、流量100ml/min、水温22±1℃)にメダカ10尾を入れ、録音器(PCM-D1,ソニー株式会社、東京、日本)を用いてランダムに5分間10回録音した。この予備試験を6回繰り返した(図1)。
【0035】
その結果、試験中においてメダカはほぼ常時、周波数が500~3500Hzのパルス音を出していることが確認できた。また、この条件でメダカの発音が録音できることが分かった。
毒性試験では、予備試験と同じ条件を設定し、メダカ10尾の音を録音した(図2)。試験前日の夜から12時間馴致した後、試験物質を曝露し、その間にメダカが発した音の変化を調べた。
【0036】
試験物質は殺虫剤であるアルジカルブ(純度99%以上、和光純薬工業株式会社、大阪、日本)を用い、0 (コントロール), 0.25, 0.5, 1 mg/L(ppm)の試験区を設けた。暴露方法は流水式で、流量は100 ml/min、水温は22±1℃に設定した。暴露試験は8時間行い、録音は曝露開始直前の10分間を1回、暴露開始後は50分おきに10分間を8回、計9回の録音を行った(図3)。試験終了後、録音した音声データをコンピュータ(OPTIPLEX 740,Dell社,米国)に取り込み、録音した10分間におけるパルス音の回数及び2回以上のパルス音を1セットとしたときの1セットの頻度、並びに発音の間隔の変化をソフトウェア(Adobe Audition 3、アドビシステム株式会社、日本)を用いてそれぞれ算出した(図4)。
【0037】
結果及び考察:
音声解析の結果、音の周波数帯はコントロール区、暴露区ともに500~3500Hzの間に分布していた。また、暴露区におけるパルス音の回数や1セットの頻度はコントロール区に比べて減少した(図5及び6)。しかし、この暴露区における2つのパラメータ、パルス音の回数及び1セットの頻度に関しては、暴露開始前にコントロール区に比べて減少しており、暴露後の回数及び頻度の低下が農薬による影響か否かを判断することは難しいといえる。
【0038】
メダカ発音の間隔に関しては、コントロール区及び暴露区とも曝露開始前の時間帯において約0.2秒とほぼ同じ値を示した。しかしながら、8時間の試験期間中、コントロール区では、ほぼ一定の約0.2秒であったのに対し、すべての暴露区における発音の間隔は、暴露を開始し、時間が経過するにつれて長くなった(図7)。
【0039】
すべての試験区において、暴露開始50~60分の間に、発音の間隔が有意に長くなっており、暴露5時間後の測定では、0.25ppmから1ppmまでの各試験区で、対象区の発音間隔に比べて、約2倍の長さになっていた。
【0040】
特に最高濃度区(1ppm)においては、暴露開始1時間後、その平均発音間隔は0.3秒を超え、暴露8時間後は0.5秒以上であった。そして、0.25ppm区及び0.5ppm区においては、暴露2時間経過後より、メダカの発音の間隔は0.3秒以上になり、暴露8時間後では、0.4秒以上になった。
【0041】
本試験で用いた試験物質、アルジカルブのメダカに対する96時間半数致死濃度は0.5ppmであり、メダカ発音間隔の異常は0.25ppmに50分暴露された後に確認された。これらのことから、発音間隔を評価パラメータとして用いることにより、化学物質等による水質異常を従来の方法より早期に、かつ確実に検出できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、予備試験の概略図である。
【図2】図2は、暴露試験を行った装置の写真である。矢印は被検水の流れる方向を表す。
【図3】図3は、暴露試験の概略図である。
【図4】図4は、メダカの発音パターンの分析を示す。2回以上のパルス音を1セットとしたときの、(1)所定の時間内のパルス音の回数、(2)2回以上の連続したパルス音を含む発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔、(3)所定の時間内の発音セットの頻度の変化をパラメータとした。
【図5】図5は、所定の時間内のパルス音の回数(平均)を表したグラフである。
【図6】図6は、所定の時間内の発音セットの頻度(平均)を表したグラフである。
【図7】図7は、2回以上の連続したパルス音を含む発音セットにおける、一のパルス音から次のパルス音までの時間間隔(平均)を表したグラフである。*は、2元配置分散分析により、有意差が認められたことを表す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6