TOP > 国内特許検索 > 細胞組織体の製造方法 > 明細書

明細書 :細胞組織体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5850416号 (P5850416)
公開番号 特開2011-019513 (P2011-019513A)
登録日 平成27年12月11日(2015.12.11)
発行日 平成28年2月3日(2016.2.3)
公開日 平成23年2月3日(2011.2.3)
発明の名称または考案の名称 細胞組織体の製造方法
国際特許分類 C12N   5/071       (2010.01)
C12N   5/09        (2010.01)
C12N   5/0797      (2010.01)
C12N   5/0775      (2010.01)
C12N   5/0735      (2010.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N  11/04        (2006.01)
FI C12N 5/00 202A
C12N 5/00 202U
C12N 5/00 202T
C12N 5/00 202H
C12N 5/00 202C
C12N 5/00 102
C12N 11/04
請求項の数または発明の数 7
全頁数 24
出願番号 特願2010-138921 (P2010-138921)
出願日 平成22年6月18日(2010.6.18)
優先権出願番号 2009146588
優先日 平成21年6月19日(2009.6.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年5月23日(2013.5.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】境 慎司
【氏名】伊藤 翔
【氏名】川上 幸衛
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100101373、【弁理士】、【氏名又は名称】竹内 茂雄
【識別番号】100118902、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 修
【識別番号】100128750、【弁理士】、【氏名又は名称】廣瀬 しのぶ
審査官 【審査官】大久保 智之
参考文献・文献 特表2005-532259(JP,A)
特表平06-505961(JP,A)
特表平06-507412(JP,A)
Food Research International,2008年,41,184-193
生物機能の革新的利用のためのナノテクノロジー・材料技術の開発,2008年 2月,459,47-55,http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2039014642.pdf参照
Key Engineering Materials ,2007年,342-343,417-420
Biotechnology and Bioengineering,2005年,92, 1,45-53
化学工学会第41回秋季大会研究発表講演要旨集,2009年 8月16日,57,AE3P31
調査した分野 C12N 5/00
C12N 11/00
A01K 67/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
(1) 組織体形成可能な生細胞を含み、細胞非障害性の第1条件で分解可能な第1材料からなる、直径20~500μmの微粒子ゲルを作製し;
(2) 微粒子ゲルを、第1材料のものとは異なる細胞非障害性の第2条件で分解可能な第2材料で被覆し;
このとき第2材料は、細胞非障害性のゲル化条件でゲル化可能な高分子化合物であり、
(3) 被覆した微粒子ゲルを第1条件で分解して、内部に細胞を含み、第2材料からなる中空カプセルを作製し;
(4) 細胞を、培養上有効な第3条件で、球状組織体形成上有効な期間増殖させて、カプセル内に球状組織体を形成させ;そして
(5) 第2条件でカプセルを分解して、球状組織体を得る工程を含む、球状組織体の製造方法であって、
第1材料が、ゼラチン又はその誘導体であり、
第2材料が、下記から選択される高分子化合物:
・アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン若しくはカラギーナン
・光架橋性官能基で修飾された高分子化合物、又は
・フェノール性水酸基で修飾された高分子化合物;
であり、
前記(1)では、下記から選択される方法:
・生細胞を含む溶解した第1材料を流動させた油相流中に一定速度で押し出し、第一材料がゲル化する条件に置く、
・生細胞を含む、溶解した第1材料を加えた油相を拡散して、油中水滴型エマルジョンを得て、それを第1材料がゲル化する条件に置く、又は
・生細胞を含む溶解した第1材料を球状の容器に注いだ後、その容器を冷却する;
により微粒子ゲルを作製する、
前記球状組織体の製造方法
【請求項2】
細胞が、癌細胞である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
細胞が、動物由来の神経幹細胞、骨髄幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)又は人工多能性幹細胞(iPS細胞)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の製造方法を含む、癌モデル動物(ヒトを除く。)の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の製造方法を含み、細胞が、ES細胞又はiPS細胞であり、得られた球状組織体を初期胚類似構造物として分化誘導刺激を与える工程を含む、胚様体の製造方法。
【請求項6】
(1) 組織体形成可能な生細胞を含み、細胞非障害性の第1条件で分解可能な第1材料からなる、直径20~500μmの微粒子ゲルを作製し;
(2) 微粒子ゲルを、第1材料のものとは異なる細胞非障害性の第2条件で分解可能な第2材料で被覆し;
このとき第2材料は、細胞非障害性のゲル化条件でゲル化可能な高分子化合物であり;
(3) 被覆した微粒子ゲルを第1条件で分解して、内部に細胞を含み、第2材料からなる中空カプセルを作製し;
(4) 細胞を、培養上有効な第3条件で、球状組織体形成上有効な期間増殖させて、カプセル内に球状組織体を形成させる工程を含む、細胞の培養方法であって、
第1材料が、ゼラチン又はその誘導体であり、
第2材料が、下記から選択される高分子化合物:
・アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン若しくはカラギーナン
・光架橋性官能基で修飾された高分子化合物、又は
・フェノール性水酸基で修飾された高分子化合物;
であり、
前記(1)では、下記から選択される方法:
・生細胞を含む溶解した第1材料を流動させた油相流中に一定速度で押し出し、第一材料がゲル化する条件に置く、
・生細胞を含む、溶解した第1材料を加えた油相を拡散して、油中水滴型エマルジョンを得て、それを第1材料がゲル化する条件に置く、又は
・生細胞を含む溶解した第1材料を球状の容器に注いだ後、その容器を冷却する;
により微粒子ゲルを作製する、
前記細胞の培養方法
【請求項7】
(1) 細胞非障害性の第1条件で分解可能な第1材料からなる、直径20~500μmの微粒子ゲルを作製し;
(2) 微粒子ゲルを、第1材料のものとは異なる細胞非障害性の第2条件で分解可能な第2材料で被覆し;
このとき第2材料は、細胞非障害性のゲル化条件でゲル化可能な高分子化合物であり;
(3) 被覆した微粒子ゲルを第1条件で分解して、第2材料からなる中空カプセルを得る工程を含む、球状組織体を作製するための細胞培養用中空カプセルの製造方法であって、
第1材料が、ゼラチン又はその誘導体であり、
第2材料が、下記から選択される高分子化合物:
・アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン若しくはカラギーナン
・光架橋性官能基で修飾された高分子化合物、又は
・フェノール性水酸基で修飾された高分子化合物;
であり、
前記(1)では、下記から選択される方法:
・生細胞を含む溶解した第1材料を流動させた油相流中に一定速度で押し出し、第一材料がゲル化する条件に置く、
・生細胞を含む、溶解した第1材料を加えた油相を拡散して、油中水滴型エマルジョンを得て、それを第1材料がゲル化する条件に置く、又は
・生細胞を含む溶解した第1材料を球状の容器に注いだ後、その容器を冷却する;
により微粒子ゲルを作製する、
前記細胞培養用中空カプセルの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞を培養し、球状組織体を得るための方法に関する。より詳細には、本発明は、二種類のゲル化可能な物質を用いて、細胞の包括されたゲルカプセルを作製し、カプセル内で培養することにより、球状組織体を形成させることに関する。本発明は、特に幹細胞細胞や癌細胞からなる組織体の形成のために有用である。
【背景技術】
【0002】
再生医療分野で重要度が高まっているES細胞やiPS細胞の胚様体、創薬分野で代謝シュミレータ用の用途としての需要のある肝細胞のスフェロイドなど、動物細胞の球状の組織体が注目されてきている。このような細胞組織体を得る方法として、低接着性の培養皿を用いる方法や、ハンギングドロップ法と呼ばれる培養皿のフタに細胞分散溶液を付着させる方法(例えば、特許文献1)が知られている。しかしながら、前者の方法は、実験の再現性を得るためには組織体サイズの均一性は特に重要な要素であるにもかかわらずその程度が低く、また後者の方法は、操作が煩雑で、組織体を大量に調製することが困難である等の問題がある。
【0003】
組織体はまた、肥大化しすぎると、中心部に酸素枯渇による壊死層が存在することとなる(非特許文献1)。球状組織体において中心部にまで良好に酸素を供給するためには、そのサイズは直径約200μm以下と計算される(非特許文献2)。また、ES細胞の分化能、増殖能は200 μm程度のサイズが最も高いことが知られている(非特許文献3)。したがって、細胞組織体のサイズを望ましい程度に制限することができれば、有用である。
【0004】
一方、医療分野では、ガンや糖尿病などの各種疾患に有効な成分を産生する細胞をカプセル内に包括させ、治療に利用することが試みられている。例えば、特許文献2には、このような目的に用いうる微小ゲルとして、フェノール性水酸基により架橋されたカルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸、脱アセチル化キチン又はキトサン等の多糖質からなり、平均粒子径が0.01~5,000μmである微粒子が記載されている。この粒子の調製工程において、架橋剤を添加したフェノール基含有カルボキシメチルセルロース溶液にネコ腎由来細胞(CRFK細胞)を懸濁することにより、1つ当り約1~10個の割合で80%以上の生存率の細胞が封入された微粒子が得られている。
【0005】
また、本発明者らにより、ペルオキシダーゼの酵素反応で架橋するアルギン酸誘導体とアガロースとを用い、内部に直径150μmの中空部分を有する微小粒子が作製されている(非特許文献4)。さらに、ペルオキシダーゼの酵素反応で架橋するカルボキシメチルセルロース誘導体と、ペルオキシダーゼの酵素反応で架橋するアルギン酸誘導体とを用い、同様に中空部分を有する微小粒子も作製されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許公開2008-178367号公報
【特許文献2】特許公開2008-174510号公報
【0007】

【非特許文献1】T.Ando et al., Tissue Engineering 13(10) 2539-2547 (2007)
【非特許文献2】S.K. Kim et al., Biotechnology letters 20(6) 549-552 (1998)
【非特許文献3】Bahram Valamehr et al.,PNAS 105,38 (2008)
【非特許文献4】Biotechnol. Bioeng. 99, 235-243 (2008)
【非特許文献5】XVI International Conference on Bioencapsulation (2008年9月4~6日、ダブリン:アイルランド)でポスター発表、及びXVI International Conference on Bioencapsulation要旨集P02, page 1-4)
【発明の概要】
【0008】
均一サイズの球状組織体が大量に調製可能であれば、iPS細胞やES細胞の胚様体の大量調製も可能であり、また癌や各種薬剤のスクリーニング用の細胞材料提供のための有効な方法となりうる。一方で、これまで本発明者らが開発してきた手法は、主として過酸化水素を消費する酵素反応を利用した方法であり、細胞によっては、生存率が大幅に低下する場合がある。そのため、細胞に対してより障害の少ないプロセスにより、細胞を包括したカプセルを作製すべく鋭意検討した結果、ゼラチンとアルギン酸という2種類の高分子を用いることにより作製され、中空部分に細胞の包括されたゲルビーズから、均一サイズの球状組織体が大量に調製可能であることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、以下を提供する:
[1](1) 組織体形成可能な生細胞を含み、細胞非障害性の第1条件で分解可能な第1材料からなる、直径20~500μm、好ましくは100~250μmの微粒子を作製し;
(2) 微粒子を、第1材料のものとは異なる細胞非障害性の第2条件で分解可能な第2材料で被覆し;
このとき第2材料は、細胞非障害性のゲル化条件でゲル化可能な高分子化合物であり(好ましくは下記から選択される高分子化合物であり:
・アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン若しくはカラギーナン
・光架橋性官能基で修飾された高分子化合物、又は
・フェノール性水酸基で修飾された高分子化合物);
(3) 被覆した微粒子を第1条件で分解して、内部に細胞を含み、第2材料からなる中空カプセルを作製し;
(4) 細胞を、培養上有効な第3条件で、組織体形成上有効な期間増殖させて、カプセル内に組織体を形成させ;そして
(5) 第2条件でカプセルを分解して、組織体を得る
工程を含む、組織体の製造方法。
[2]第1材料が、油相中でゲル化可能な水溶性の高分子、好ましくはゼラチン又はその誘導体であり、微粒子の作製が、細胞を第1材料の水溶液に分散させた相と油相とを用いる、[1]に記載の製造方法。
[3] 第1材料が、硬化液で処理することによりゲル化可能な高分子化合物、好ましくはアルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン又はカラギーナンであり、微粒子の作製が、細胞を第1材料の水溶液に分散させた相と硬化液とを用いる、[1]に記載の製造方法。
[4]第1材料が、第3条件で分解可能なものである、[1]に記載の製造方法。
[5]第2材料が、アルギン酸又はその塩若しくはエステルである、[1]~[4]のいずれか一に記載の製造方法。
[6]細胞が、癌細胞又は癌幹細胞である、[1]~[5]のいずれか一に記載の製造方法。
[7]細胞が、動物由来の神経幹細胞、骨髄幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)又は人工多能性幹細胞(iPS細胞)である、[1]~[5]のいずれか一に記載の製造方法。
[8][6]に記載の製造方法を含む、癌モデル動物(ヒトを除く。)の製造方法。
[9][7]に記載の製造方法を含み、細胞がES細胞又はiPS細胞であり、得られた組織体を初期胚類似構造物として分化誘導刺激を与える工程を含む、胚様体の製造方法。
[10](1) 組織体形成可能な生細胞を含み、細胞非障害性の第1条件で分解可能な第1材料からなる、直径20~500μm、好ましくは100~250μmの微粒子を作製し;
(2) 微粒子を、第1材料のものとは異なる細胞非障害性の第2条件で分解可能な第2材料で被覆し;
このとき第2材料は、細胞非障害性のゲル化条件でゲル化可能な高分子化合物であり(好ましくは下記から選択される高分子化合物であり:
・アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン若しくはカラギーナン
・光架橋性官能基で修飾された高分子化合物、又は
・フェノール性水酸基で修飾された高分子化合物);
(3) 被覆した微粒子を第1条件で分解して、内部に細胞を含み、第2材料からなる中空カプセルを作製し;
(4) 細胞を、培養上有効な第3条件で、組織体形成上有効な期間増殖させて、カプセル内に組織体を形成させる
工程を含む、細胞の培養方法。
[11](1) 細胞非障害性の第1条件で分解可能な第1材料からなる、直径20~500μm、好ましくは100~250μmの微粒子を作製し;
(2) 微粒子を、第1材料のものとは異なる細胞非障害性の第2条件で分解可能な第2材料で被覆し;
このとき第2材料は、細胞非障害性のゲル化条件でゲル化可能な高分子化合物であり(好ましくは下記から選択される高分子化合物であり:
・アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン若しくはカラギーナン
・光架橋性官能基で修飾された高分子化合物、又は
・フェノール性水酸基で修飾された高分子化合物);
(3) 被覆した微粒子を第1条件で分解して、第2材料からなる中空カプセルを得る
工程を含む、細胞培養用中空カプセルの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ゼラチンカプセルの形態観察写真である。bar;200μm
【図2】図2は、ゼラチンカプセルの粒径分布を示したグラフである。
【図3】図3は、生存活性比の経時変化を示したグラフと、中空カプセルの形態観察写真である。bars;200 μm
【図4】図4は、ネコ腎由来細胞CRFKを用いて調製した組織体の写真である。bars;200μm
【図5】図5は、ヒト肝ガン由来細胞HuH-7を用いて調製した、カプセル内組織体の写真である。
【図6】図6は、ミトコンドリア活性の経時変化を示したグラフと、中空カプセルの写真である。
【図7】図7は、マウスES細胞を用いて調製した組織体の写真である。
【図8】図8は、凍結前のマウスES細胞包括カプセルの顕微鏡写真である。
【図9】図9は、解凍後、培養3日目のマウスES細胞包括カプセルの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ステップ1:細胞包括ビーズの作製]
本発明においては、第一のステップとして、組織体形成可能な生細胞を含み、細胞非障害性の第1条件で分解可能な第1材料からなる、直径20~500μm、好ましくは100~250μmの微粒子を作製する。

【0012】
第1材料:
第一のステップにおいては、第1材料を用いるが、この材料は、組織体を形成可能な生細胞を含んだままゲル化して微粒子を形成することが可能なものであり、かつ細胞非障害性の第1条件で分解可能なものである。

【0013】
本発明において、ある条件が「細胞非障害性」であるというときは、その条件は、その条件に曝される細胞(群)の生存に影響を与えないか、又は影響を与えるとしても回復可能であるか、又は影響が極めて少ないことをいう。細胞非障害性の条件に曝された細胞(群)は組織体の形成に用いるのに十分な機能を維持している。ある条件が「細胞非障害性」であるか否かは、用いる細胞の種類にもよるが、その細胞の通常の培養条件は、本発明でいう「細胞非障害性」の条件であるといえる。ある条件が対象となる細胞にとって「細胞非障害性」であるか否かは、当業者であれば、適宜決定することができる。

【0014】
第1材料としては、組織体を形成可能な生細胞を含んだままゲル化して微粒子を形成することが可能であり、かつ細胞非障害性の第1条件で分解可能であるかぎり、種々の物質を用いることができるが、組織体形成可能な生細胞を含んだ微粒子ゲルの作製が容易であるとの観点からは、油相中でゲル化可能な(例えば、単に温度を低くすることでゲル化することができるような)水溶性の高分子化合物であるか、又は硬化液で処理することによりゲル化可能な高分子化合物であることが好ましい。

【0015】
第1材料の好ましい例は、ゼラチン及びその誘導体、並びにコラーゲンである。

【0016】
ゼラチンとは、動物の骨、皮、腱等に含まれる繊維状タンパク質コラーゲンを、水とともに加熱、酸又はアルカリ処理して可溶化し、精製したものである。ゼラチンは動物性の種々の原料から、種々の精製度で得ることができ、それにより物理科学的性質が異なることがあるが、本発明においては、組織体を形成可能な生細胞を含んだままゲル化して微粒子を形成することが可能なものであり、かつ細胞非障害性の第1条件で分解可能である限り、あらゆる起源及び精製度のゼラチンを用いることができる。

【0017】
本明細書でゼラチンに関し、「誘導体」というときは、ゼラチン分子中に含まれる官能基としてのアミノ基、イミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基を、それらと反応し得る基を有する試薬で処理及び/又は改質したもの、又は他の高分子物質の分子鎖を結合させたグラフトポリマーで置き換えたものをいう。)ゼラチン誘導体の例は、アクリル酸化ゼラチン、アセチル化ゼラチン、フタル酸化ゼラチン、MedGel P15、P19及びE50である。

【0018】
第1材料として、ゼラチン及びその誘導体を選択した場合、ここでのゲル化条件(組織体形成可能な生細胞を含んだまま微粒子を作成することができる条件)は、濃度にもよるが、温度を20℃、好ましくは15℃以下、迅速にゲル化したい場合は4℃以下とすることである。分解条件(第1条件)は、温度を30℃以上、好ましくは35℃以上、さらに好ましくは37℃とすることである。

【0019】
第1材料の他の好ましい例は、細胞非障害性の第1条件で分解可能な多糖類である。特に好ましいのは、カルシウムのような多価の陽イオンで容易にゲル化することができる、アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン、カラギーナンである。

【0020】
アルギン酸は、2種類のウロン酸、マンヌロン酸(M)とグルロン酸(G)とが重合した直鎖状の構造を有する。天然物由来のアルギン酸においては、鎖状構造の中で、MとGとは、MとGとがランダムに配列したランダムブロック、M-M結合のみから成るMブロック及びG-G結合のみから成るGブロックを構成する。M/G比は、原料の種類や部位、成育場所や時期によっても異なり、M/G比及び配列は、アルギン酸のゲル化能力とゲル強度に影響を及ぼすが、本発明のこのステップにおいては、組織体を形成可能な生細胞を含んだままゲル化して微粒子を形成することが可能なものであり、かつ細胞非障害性の第1条件で分解可能である限り、あらゆる起源及び構造のアルギン酸、並びにその塩及びエステルを用いることができる。好ましい例として、アルギン酸の水溶性の塩、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムを挙げることができる。

【0021】
アルギン酸エステルには、アルギン酸プロピレングリコールエステルが含まれる。

【0022】
ペクチンは、ガラクツロン酸が α-1,4-結合したポリガラクツロン酸(ホモガラクツロナン)が主な成分である。ガラクツロン酸以外に、ラムノース、アピオースやメトキシ化したグルクロン酸、フコース等を構造中に含む。ガラクツロン酸のカルボキシル基は、メチルエステル化されていることがあり、水酸基はアセチル化されていることがある。エステル化されていないガラクツロン酸のカルボキシル基がカルシウムイオンと結合してゲル化するので、メチルエステル化の頻度が、ゲル強度に影響する。本発明のこのステップにおいては、組織体を形成可能な生細胞を含んだままゲル化して微粒子を形成することが可能なものであり、かつ細胞非障害性の第1条件で分解可能である限り、あらゆる起源及び構造のペクチンを用いることができる。

【0023】
カラギーナンは、D-ガラクトースと硫酸から構成される。天然由来のものは、主として紅藻類からアルカリ抽出により得られる。カラギーナンには次の3つのタイプがある。オオキリンサイ属から得られるκ、キリンサイ属から得られるι、スギノリ属から得られるλがあり、それぞれ性質やゲル強度が異なるが、本発明のこのステップにおいては、組織体を形成可能な生細胞を含んだままゲル化して微粒子を形成することが可能なものであり、かつ細胞非障害性の第1条件で分解可能である限り、あらゆる起源及び構造のカラギー
ナンを用いることができる。

【0024】
第1材料として、アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン又はカラギーナンを用いた場合、ここでのゲル化条件(組織体形成可能な生細胞を含んだまま微粒子を作成することができる条件)は、それらの水溶液を、多価の金属イオン(カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオン等)又はカチオン性高分子を水性溶媒に溶解させた硬化液で処理することによる。第1材料として、アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン、カラギーナンを用いた場合の分解条件は、クエン酸やエチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸等の金属イオンキレート剤を用いることである。
第1材料の他の例としては、フェノール性水酸基により架橋可能な、フェノール性水酸基で修飾された多糖類、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸、脱アセチル化キチン又はキトサン等が挙げられる。

【0025】
第1材料としてフェノール性水酸基で修飾された多糖類を用いる場合、ここでのゲル化条件(組織体形成可能な生細胞を含んだまま微粒子を作成することができる条件)は、フェノール性水酸基を酸化可能な化学的環境に曝すことである。分解条件(第1条件)は、セルラーゼ、アルギン酸リアーゼ等のゲル中の線状構造を分解可能な酵素を作用させることである。

【0026】
一方で、フェノール性水酸基を酸化可能な化学的環境は、通常、過酸化水素のような過酸化物を含むが、過酸化水素は、用いる細胞によっては障害性でありうる。本発明者らの検討によると、複数回の過酸化水素を消費するステップを繰り返す(例えば、第1材料として、ペルオキシダーゼの酵素反応で架橋するカルボキシメチルセルロース誘導体を使用し、後述する第2材料としてペルオキシダーゼの酵素反応で架橋するアルギン酸誘導体を使用するような場合)と、癌細胞では生存率の低下はそれほど顕著ではないが、マウスES細胞を用いた場合には、生存率が50%にまで低下した。したがって、用いる細胞によっては、第1材料及び後述する第2材料が共にフェノール性水酸基で修飾された高分子化合物ではないことが好ましい。また、多くの細胞にとって、細胞に対してより穏和な条件でゲル化可能なゼラチンを用いることが特に適している場合がある。

【0027】
第1材料による微粒子ゲルの作製:
本発明の第一のステップにおいては、組織体形成可能な生細胞を第1材料の溶液に分散させ、これをゲル化することにより、微粒子ゲルを作製する。

【0028】
第1材料として、油相中でゲル化可能な水溶性の高分子を用いる場合、細胞を含む微粒子の作製は、細胞を第1材料の水溶液に分散させた水相と油相とを用いることにより行うことができる。

【0029】
水相には、第1材料を溶解し、細胞を分散させる。水相を構成する溶媒としては、細胞培養の分野で用いられる各種の緩衝液(例えば、Krebs Ringer Hepes緩衝液(KRH, pH7.4))や培地が利用可能である。

【0030】
水相における第1材料の濃度は、ゲル化可能な濃度であれば特に制限はないが、第1材料として通常のゼラチンを用いる場合、1.0%(w/v)以上であり、好ましくは2.0%(w/v)~15%(w/v)であり、より好ましくは3.0%(w/v)~10%(w/v)である。ゼラチンは、加熱により溶解
可能であるが、次いで細胞を分散させる際には、細胞に障害を与えない温度であって、かつゲル化には至らない温度にまで水相を冷却することが通常必要である。多くの場合、室温(25℃)にまで冷却するとよい。

【0031】
調製したゲル化高分子溶液に、細胞を分散させる密度は、当業者であれば、細胞に応じて適宜決定することができる。通常1×106cells/ml~2×108cells/mlとすることができ、好ましくは5×106cells/ml~1×108cells/mlであり、より好ましくは1×107cells/ml~5×107cells/mlである。

【0032】
油相としては、常温で液体であり、かつ水と溶け合わない液体を用いる。この例として、流動パラフィン、植物油(例えば、オリーブ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、なたね油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油)、ミネラルオイルを挙げることができる。

【0033】
細胞を含む微粒子の作製方法は、径ができるだけ均一な細胞包括微粒子が得られる方法であることが好ましい。特に好ましい例として、co-flowing stream法(同一方向に流動させた非溶解溶媒流中での微粒子化法)を挙げることができる。詳細には、層流状態で流動させた油相流中に、第1材料が溶解されかつ細胞を分散させた水相を、少量ずつ、一定速度で押し出すことにより、均一な細胞包括液滴が分散した油相を得る。次いで、それを第1材料がゲル化する条件に置き、第1材料を細胞を包括したままゲル化させることにより、目的の微粒子が得られる。油相層流の速度、水相の押し出し速度は、当業者であれば、目的とする微粒子のサイズ等を勘案して適宜設計可能であるが、具体的な条件として、ゼラチンを用いた本明細書の実施例を参照することができる。

【0034】
径が比較的均一な細胞包括ゼラチン微粒子を得る他の方法は、油相に第1材料が溶解されかつ細胞を分散させた水相を加え、適当な方法で攪拌して油中水滴型エマルションを得て、それを第1材料がゲル化する条件に置き、第1材料を細胞を包括したままゲル化させ、得られた粒子を必要に応じサイズにより選別することによる。

【0035】
他の方法は、油相中に第一のステップで作製された細胞包括微粒子を分散したアルギン酸ナトリウム水溶液の液滴を生成させ、この液滴と、両親媒性分子及び酢酸とを含む別の油相とを合流させてアルギン酸微粒子を生成させ、この微粒子のゲル化を促進することによる。このような手法は、特開2007-186456号公報を参照することができる。

【0036】
また、油相を用いず、微小な球状の容器に細胞を分散させた水相を注いだ後に、その容器を冷却することでも作製することができる。

【0037】
第1材料として、硬化液で処理することによりゲル化可能な高分子化合物を用いる場合、均一サイズの微粒子ゲルを作成するとの観点からは、ゲル化高分子化合物溶液の微小液滴に外部から硬化液が添加されるときの変形と、ゲル化前液滴の融合とを避けるべく、ゲル化高分子化合物水溶液を硬化液に滴下するのがよい。滴下は、正若しくは負電極をゲル化高分子の溶解液を充填したマイクロシリンジに装着した針に接続し、アースを硬化液中に浸漬若しくは硬化液を入れる容器と導線と接続し、高電圧を印可することにより行うことができる。通常、細胞内を電流は通過しないことから、高電圧の印可は細胞にはほとんど影響を与えない。

【0038】
この場合の第1材料の濃度は、ゲル化可能な濃度であれば特に制限はないが、第1材料として通常のアルギン酸ナトリウムを用いる場合、0.3%(w/v)以上であり、好ましくは0.5%(w/v)~15%(w/v)であり、より好ましくは0.7%(w/v)~10%(w/v)である。アルギン酸の水溶
性塩は、加熱しなくても溶解可能である。

【0039】
調製したゲル化高分子溶液に、細胞を分散させる密度は、当業者であれば、細胞に応じて適宜決定することができる。通常、上述した油相中でゲル化可能な水溶性の高分子を用いる場合と同様である。

【0040】
第1材料として、フェノール性水酸基で修飾された多糖類を用いる場合、ゲル化のためのフェノール基が酸化可能な化学的環境は、フェノール性水酸基を有する多糖類に、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、チロシナーゼ、及びラッカーゼ、ヘマチンから選ばれた少なくとも1種を作用させる反応系であることが好ましい。これによれば、比較的温和な条件で架橋が形成されるからである。第1材料として、フェノール性水酸基を用いる手法については、特開2008-174510号公報を参照することができる。

【0041】
このような方法により、様々なサイズの微粒子を得ることができる。微粒子は、続くステップで形成される中空カプセルの中空部分の鋳型となる。ここで微粒子の、形状、サイズ、及び均一性(サイズの分散)をコントロールしておくことは、最終的には希望の形状、サイズであり、かつ均一な組織体を作ることに繋がる。

【0042】
微粒子のサイズは、動物細胞の大きさが10μm~30μm程度であることを勘案すると、直径20μm以上であり得、また軟骨細胞のように酸素の要求性が低く、比較的大きな組織体が形成可能である場合まで勘案すると、500μm程度であり得る。総じて、微粒子サイズは、直径20~500μmとすることができ、かつ好ましく、100~250μmであることがより好ましい。

【0043】
本明細書で、微粒子、ビーズ、カプセル及び組織体のサイズに関して述べるときは、特に記載した場合を除き、顕微鏡下で適当なスケールとの比較により測定した(撮影した顕微鏡写真を用いて測定することも含む。)対象の直径を指す。

【0044】
第一のステップで作製された細胞包括微粒子は、例えば、1000 rpm、1分間の条件で遠心分離することにより、回収することができる。回収は、通常、第1材料が分解しない条件下で行うべきである。

【0045】
[ステップ2:二重ビーズの作製]
本発明においては、第二のステップとして、第一のステップで得られた微粒子を、第1材料のものとは異なる細胞非障害性の第2条件で分解可能な第2材料で被覆する。第2材料は、第1材料のものとは異なる細胞非障害性の第2条件で分解可能なものであるので、本発明においては、第1材料とは異なる材料を、第2材料として用いることとなる。

【0046】
第2材料は、細胞非障害性の第2条件で分解可能であるのみならず、細胞非障害性のゲル化条件でゲル化可能な高分子化合物である。第2材料の好ましい例は、下記から選択される:
・アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン若しくはカラギーナン
・光架橋性官能基(例えば、スチリル基やメタクリル基)で修飾された高分子化合物(例えば、多糖類、より具体的には、カルボキシメチルセルロース又はその塩、アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸、脱アセチル化キチン又はキトサン)、又は
・フェノール性水酸基で修飾された高分子化合物(例えば、多糖類、より具体的には、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸、脱アセチル化キチン又はキトサン)。

【0047】
だたし、第1材料がフェノール性水酸基で修飾された高分子化合物である場合は、用いる細胞によっては、第2材料はフェノール性水酸基で修飾された高分子化合物ではないことが好ましい。

【0048】
第2材料としてアルギン酸又はその塩若しくはエステルを用いる場合、被覆は、次の例のようにして行うことができる:アルギン酸ナトリウムをゲル化可能な濃度(例えば、1.0%(w/v))となるようにCF-KRHに溶解し、これを回収した第一のステップで作製された細
胞包括微粒子に注ぎ、均一に分散するように攪拌する。この際の体積比は、アルギン酸の濃度及びにもよるが、微粒子:アルギン酸ナトリウム水溶液 = 1 : 1~1 : 50、好ましくは1 : 5~1 : 50、より好ましくは1 : 10~1 : 20である。次いで、この分散液を、アルギン酸をゲル化可能な多価イオンをゲル化上有効な濃度(例えば、100mM)で含む水溶液(例えば、塩化カルシウム水溶液)を入れた溶液に、少量ずつ、適当な速度で滴下する。滴下には、注射針のような細い管を用いてもよく、微小な穴がついた容器を高速で回転させることにより行ってもよい。滴下には、第一のステップの項で述べたように、高電圧を印可する方法が適する場合がある。通常、細胞内を電流は通過しないことから、高電圧の印可は細胞にはほとんど影響を与えないので、第一のステップにおけるゲル化で高電圧印可による微粒子作製を実施した場合であっても、第二のステップで同じ方法により被覆することができる。

【0049】
あるいは、第一のステップで作製された細胞包括微粒子を分散したアルギン酸ナトリウム水溶液を水と溶け合わない溶媒と混合してエマルションとした後に、多価の金属イオンを溶解させた水溶液を添加して攪拌することでゲル化を生じさせ、被覆することもできる。

【0050】
あるいは、水と溶け合わない溶媒中に第一のステップで作製された細胞包括微粒子を分散したアルギン酸ナトリウム水溶液の液滴を生成させ、この液滴と、両親媒性分子及び酢酸とを含む油とを合流させてアルギン酸微粒子を生成させ、この微粒子のゲル化を促進することによっても作製できる。このような手法は、特開2007-186456号公報を参照することができる。

【0051】
アルギン酸又はその塩若しくはエステルを用いる場合、ゲル化に必要なイオンはカルシウムだけに限らない。ストロンチウム、バリウム等の多価イオンでもよい。また、キトサンやポリリジンなどアルギン酸とポリイオンコンプレックスを形成可能なカチオン性高分子を水に溶解させて用いてもよい。ペクチン及びカラギーナンも、アルギン酸又はその塩若しくはエステルと同様に、多価の金属イオン又はカチオン性高分子でゲル化することができる。

【0052】
また、スチリル基やメタクリル基など光架橋性官能基を修飾した高分子を用いる場合は、その水溶液に第一のステップで作製された細胞包括微粒子を分散し、次いで水と溶け合わない溶媒(例えば、第一のステップで説明した油相として使用可能な液体)と混合し、攪拌後、光を照射することで被覆することができる。

【0053】
さらに、フェノール性水酸基で修飾された高分子化合物を用いる場合には、その水溶液に第一のステップで作製された細胞包括微粒子を分散し、次いで分散液を予め過酸化水素を溶解させた水と溶け合わない溶媒(例えば、第一のステップで説明した油相として使用可能な液体)と混合することで、ペルオキシダーゼの酵素反応を利用して被覆することができる。

【0054】
一方で、上述したように、複数回の過酸化水素を消費するステップを繰り返すことは、ある種の細胞を用いる場合に無視できない生存率の低下をもたらすおそれがあることから、用いる細胞によっては、第2材料として、フェノール性水酸基で修飾された高分子化合物を使用することが適切でない場合がある。特に、第1材料として、既に、ペルオキシダーゼの酵素反応で架橋するフェノール性水酸基で修飾された高分子化合物を使用している場合には、留意する必要がある。

【0055】
塩化カルシウムのような多価の陽イオンを含む水溶液に滴下するだけで容易にゲル化できるという観点からは、第2材料の好ましい例は、アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン、カラギーナンである。後述する第五のステップにおいて、皮膜を数分で分解できる分解酵素が利用可能であるとの観点からは、第2材料の特に好ましい例は、アルギン酸又はその塩若しくはエステルである。

【0056】
本発明の第二のステップにより、直径200μm~3mmの二重の細胞包括微粒子を作製することができる。このステップで形成される皮膜は、2mm以内程度の厚さであれば、内部の細胞を培養する上で、特に問題とはならないと考えられる。

【0057】
第二のステップで作製された二重の細胞包括微粒子は、例えば、1000 rpm、1分間の条件で遠心分離することにより、回収することができる。回収は、通常、第2材料が分解しない条件下で行うべきである。

【0058】
[ステップ3:中空ビーズの作製]
本発明においては、第三のステップとして、被覆した微粒子を第1条件で分解して、内部に細胞を含み、第2材料からなる中空カプセルを作製する。

【0059】
第1材料として、ゼラチン及びその誘導体(例えば、MedGel P15、P19及びE50)を用いた場合、ここでの分解条件(第1条件)は、上述したように、温度を30℃以上、好ましくは35℃以上、さらに好ましくは、動物の通常の培養温度である、37℃とすることである。

【0060】
また第1材料として、カルシウムのような多価の陽イオンでゲル化可能な物質(例えば、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、カラギーナン)を用いた場合、ここでの分解条件は、クエン酸やエチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸等の金属イオンキレート剤を用いることである。

【0061】
また第1材料として、フェノール性水酸基により架橋可能な多糖類を用いた場合、分解条件(第1条件)は、上述したように、セルラーゼ、アルギン酸リアーゼ等のゲル中の線状構造を分解可能な酵素を作用させることである。

【0062】
本発明によれば、第三のステップで作製された中空カプセルは、ほぼすべて次の細胞培養工程に進むことができ、ほぼすべてから組織体が形成可能である。

【0063】
[ステップ4:細胞培養(組織体の形成)]
本発明においては、第四のステップとして、細胞を、培養上有効な第3条件で、組織体形成上有効な期間増殖させて、カプセル内に組織体を形成させる。

【0064】
培養条件は、当業者であれば、通常の細胞培養皿を用いた場合に準じて、適宜設定できる。

【0065】
本発明において、中空部分の鋳型となる細胞包括ビーズの作製の際に、サイズをコントロールしておくことで、意図したサイズの組織体を形成させることができることができるが、組織体が適切なサイズとなった時期に培養を終了し、次のカプセルの分解工程に進むことによっても、組織体のサイズをコントロールすることができる。カプセル内での細胞の増殖状態(対数増殖期や静止期)については、細胞の酸素消費に関わるミトコンドリア内脱水素酵素活性を測定する(細胞数と相関することが知られている)によって推定することができる。本発明においては、通常、カプセル中空部分を満たすまで、細胞は旺盛に増殖する。

【0066】
[ステップ5:カプセルの分解(組織体の回収)]
本発明においては、第五のステップとして、第2条件でカプセルを分解して、組織体を得る。

【0067】
第2材料として、アルギン酸又はその塩若しくは誘導体、ペクチン若しくはカラギーナンを用いた場合には、ここでの分解条件として、クエン酸やエチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸等の金属イオンキレート剤を用いることができ、またセルラーゼ、アルギン酸リアーゼ、ペクチナーゼ、キチナーゼ等のゲル中の線状構造を分解可能な酵素を作用させてもよい。

【0068】
また第2材料として、光架橋性官能基又はフェノール性水酸基で修飾された高分子化合物を用いた場合には、ここでの分解条件は、セルラーゼ、アルギン酸リアーゼ、ペクチナーゼ、キチナーゼ等のゲル中の線状構造を分解可能な酵素を作用させることである。

【0069】
得られる組織体に含まれる細胞数及び細胞の形態は、細胞種によって細胞自体の大きさが異なる場合もあることから、細胞種によると考えられる。しかしながら、本発明においては、組織体のサイズ及び形態は、は、中空部分が鋳型となるので、いずれの細胞を用いた場合も中空部分のサイズとほぼ同じ球状となり得る。

【0070】
[適用可能な細胞、用途等]
本発明の組織体の製造方法は、癌細胞、癌幹細胞、動物(特に脊椎動物、好ましくは哺乳類、例えば、マウス、ラット、サル、ヒト)由来の神経幹細胞、骨髄幹細胞、多能性細胞(種々の体細胞へ分化する能力をもった未分化な細胞。例えば、胚性幹細胞(ES細胞)又は人工多能性幹細胞(iPS細胞))に適用可能である。

【0071】
また、癌細胞や癌幹細胞を使用して本発明により得られた組織体を用いて、癌モデル動物を製造することができる。

【0072】
さらに、動物由来の胚性幹細胞(ES細胞)又は人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使用して本発明により得られた組織体を、初期胚類似構造物として用いることができる。初期胚類似構造物は、分化誘導刺激を与え、胚様体とすることができる。

【0073】
本発明はまた、上述した組織体の製造工程と同様の工程を含む、細胞の培養方法としても利用できる。

【0074】
さらに本発明は、細胞を使用せず、細胞培養用中空カプセルの製造方法としても利用できる。このような中空カプセルの製造方法は、下記の工程を含む:
(1) 細胞非障害性の第1条件で分解可能な第1材料からなる、直径20~500μm、好ましくは100~250μmの微粒子を作製し;
(2) 微粒子を、第1材料のものとは異なる細胞非障害性の第2条件で分解可能な第2材料で被覆し;
このとき第2材料は、細胞非障害性のゲル化条件でゲル化可能な高分子化合物であり(好ましくは下記から選択される高分子化合物であり:
・アルギン酸又はその塩若しくはエステル、ペクチン若しくはカラギーナン
・光架橋性官能基で修飾された高分子化合物、又は
・フェノール性水酸基で修飾された高分子化合物);
(3) 被覆した微粒子を第1条件で分解して、第2材料からなる中空カプセルを得る
工程を含む、細胞培養用中空カプセルの製造方法。

【0075】
本発明のステップ3により作製される、内部に細胞を含む中空ビーズは、カプセル壁の存在により、攪拌による剪断応力から内部の細胞を保護することができることから、攪拌培養への適用が期待できる。攪拌培養は、大量培養の手段として適している。

【0076】
また、本発明の各ステップから得られる微粒子、ビーズ、カプセル及び組織体は、適切な手段により、凍結することができよう。凍結により、保存及び輸送が容易になる。
【実施例1】
【0077】
[一重ビーズの作製]
ゼラチン(豚皮由来)粉末を5%(w/v)となるようにKrebs Ringer Hepes緩衝液(KRH, pH7.4)に分散させた後にゼラチンが溶解する程度まで加熱した。このゼラチン溶液を室温まで冷却した後に、細胞培養ディッシュからトリプシンを用いて剥離したネコ腎由来細胞(CRFK JCRB9035)を.1.5×107cells/mlで分散させた。26gaugeの注射針を装着した5 mlガラスシリンジに充填し、層流状態で流動させた流動パラフィン流中に0.1 ml/minの流速で押し出すことで、直径約150 μmの細胞包括液滴が分散した流動パラフィンを50mLプラスチックチューブに得た。この流動パラフィンを含むプラスチックチューブを氷水中で冷却することによって、ゼラチンをゲル化させた。得られたゼラチンビーズの形態観察写真を図1に示した。
【実施例1】
【0078】
得られたビーズを顕微鏡付属のデジタルカメラで撮影し、その画像から100個以上のビーズについてサイズを計測した。ゼラチンビーズの粒径分布を、図2に示した。また、ゼラチンビーズの平均粒径は、168±10μmであった。トリパンブルー染色により、包括直後の細胞の生存率を確認したところ、97.8%であった。
【実施例1】
【0079】
得られたビーズの直径を168μmとして、0.1ml/minで押し出した場合について計算すると、1時間に6mlに相当する量、すなわち約240万個/hの速度でビーズが製造可能である。
【実施例1】
【0080】
[二重ビーズの作製]
冷却したカルシウムを含まないKRH(CF-KRH)緩衝液を、上述のゼラチンビーズを形成させた50mLプラスチックチューブに注いだ後、1000 rpm、1分間の条件で遠心分離機を適用することによって、下層に溜まるCF-KRH緩衝液層に細胞包括ゼラチンビーズを回収した。あらたな冷却されたCF-KRH緩衝液を加えた後、再度1000 rpm、1分間の条件で遠心分離機を適用することによって、ゼラチンビーズを沈降させた後に、上澄みを吸い取った。
【実施例1】
【0081】
アルギン酸ナトリウム(キミカ製, I-1G)を1.0%(w/v)となるようにCF-KRHに溶解させた。これを回収したゼラチンビーズに注ぎ、均一に分散するように攪拌した。この際の体積比はゼラチンビーズ:アルギン酸ナトリウム水溶液 = 1 : 15とした。
【実施例1】
【0082】
26gaugeの注射針を装着した5 mlガラスシリンジに分散液を充填した後、シリンジポンプにセットし、直流高圧電源装置の正極をシリンジの先端につないだ。針の先端から約10cmの距離の部分に100mM塩化カルシウム水溶液を入れたステンレス容器を置き、これをアースと接続した。直流高圧電源装置で10kVの電圧を印可することによって、ゼラチンビーズ分散アルギン酸ナトリウム水溶液を塩化カルシウム水溶液中に0.1 ml/minの流速で滴下した。滴下後、10分間静置して、ゲル化を進行させた。得られたゼラチン含有アルギン酸ゲルビーズの直径は約500 μmであった(デジタルカメラ画像からの計測値に基づく)。また、包括直後の生存率は、93.8%であった。
【実施例1】
【0083】
中空カプセル製造においては、1 : 15の体積比でアルギン酸ナトリウム溶液と混合していることを勘案すると、1時間に6mlに相当する量、すなわち約240万/16=約15万個/hの速度でビーズが製造可能であると計算できる。
【実施例1】
【0084】
[中空ビーズの作製、細胞培養]
細胞を培養するための10%の濃度で牛胎児血清を含むDulbecco’s modified Eagle’s 培地 (DME培地, Sigma社製)でビーズを2度洗浄後、2000個/mlとなるようにビーズを同培地に分散させたものを細胞培養φ10 cmディッシュに10mlずつ分注し、37℃、5%CO2の細胞培養用インキュベーターに静置することで、細胞の培養を開始すると共に内部のゼラチンゲルを液化させた。培地の交換を2日に1回行い、約2週間でゼラチンゲルがあった空洞部分を増殖した細胞が埋め尽くした。
【実施例1】
【0085】
培養期間中のカプセル一つあたりに含まれる細胞の、細胞中ミトコンドリア内脱水素酵素(Cell-counting kit 8; 同仁化学研究所製)の経時変化、及び培養中の細胞形態の顕微鏡写真を図3に示した。
【実施例1】
【0086】
[組織体の回収]
培養21日後のカプセルを0.2mg/mlの濃度でアルギン酸リアーゼを含む培地に分散したところ、1分以内にアルギン酸ゲルは消失し、直径約150μmの球状の組織体を回収することができた。
【実施例1】
【0087】
なお、培養21日目のビーズ中の組織体をCalcein-AMならびにPropidium Iodideで染色し、蛍光顕微鏡写真を撮影したところ、中心部も生細胞から形成されていることが確認された。
【実施例1】
【0088】
組織体の写真を図4に示した。
【実施例2】
【0089】
[ヒト肝ガン由来細胞組織体の作製]
ヒト肝ガン由来細胞(HuH-7細胞)を用い、ゼラチン溶液中に3.0×107 cells/mlで分散させた以外は実施例1と同様の方法で、組織体を作製した。
【実施例2】
【0090】
約2週間でゼラチンゲルがあった空洞部分を細胞が埋め尽くした。培養21日後のアルギン酸ゲルより、直径約150μmの球状の組織体を回収することができた。
【実施例3】
【0091】
[ES細胞由来細胞組織体の作製]
マウスES細胞(H-1株, 理化学研究所バイオリソースセンターより入手)を用い、また培地は、Advanced DMEM(GIBCO社製)に10 vol%となるようにKnockOut Serum Replacement(Invitrogen社製)を添加したものを使用し、実施例1と同様にして細胞組織体を作製した。二重ビーズに包括直後の細胞の生存率は、90.4%であった。培地の交換を2日に1回行い、約5日でゼラチンゲルがあった空洞部分を増殖した細胞が埋め尽くした。
培養期間中のカプセル一つあたりのミトコンドリア活性の経時変化、及び培養中の細胞形態の顕微鏡写真を図6に示した。
【実施例3】
【0092】
[組織体の回収]
培養11日後のカプセルを0.2mg/mlの濃度でアルギン酸リアーゼを含む培地に分散したところ、1分以内にアルギン酸ゲルは消失し、直径約200μmの球状の組織体を回収することができた。
【実施例3】
【0093】
培養11日目のビーズ中の組織体を、ヘマトキシリン・エオシンで染色(H&E染色)し、顕微鏡写真を撮影した。他の細胞で行った場合と同じく、組織体中心部の細胞も生存していることが確かめられ、酸素が組織体の中心部の細胞にまで良好に供給されていることが示唆された。組織体の写真を図7に示した。
【実施例4】
【0094】
マウスES細胞(H-1株, 理化学研究所バイオリソースセンターより入手)を用い、実施例1と同様にして細胞組織体を作製した。
【実施例4】
【0095】
二重ビーズに包括直後の細胞の生存率は、90.4%であった。このカプセルを培養培地(Advanced DMEM(GIBCO社製)に、10 vol%となるようにKnockOut Serum Replacement(Invitrogen社製)を添加した。)に、さらに10 vol%となるようにジメチルスルホキシドを添加したものに分散させた後、細胞凍結保存用チューブに入れた。これを動物細胞凍結処理容器(バイセル/BICELL、日本フリーザー株式会社製)に入れた後、-80°Cの冷凍庫にて一晩静置した。続いて、細胞凍結保存用チューブを液体窒素に入れて保存した。3日後に解凍し、上記培地中で37℃、5%CO2環境下で、3日間の培養を行った。アルギン酸ゲルを溶解させて解凍直後の細胞の生存率を調べたところ35%であった。解凍後、通常の培養を行うことにより、実施例3と同様の形態の組織体を形成させることができた。凍結前のマウスES細胞包括カプセル、及び解凍後の培養3日目のマウスES細胞包括カプセルの顕微鏡写真を、それぞれ図8及び9に示した。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、ES細胞/iPS細胞から各種臓器・組織細胞を分化する際に広く用いられる胚様体の大量製造のために利用可能である。
【0097】
本発明はまた、二次元培養よりもより生体内に近い薬物応答挙動を示すことが知られている肝細胞の球状組織体の製造のために利用可能である。
【0098】
本発明はまた、二次元培養よりも生体内に近い薬物応答挙動を示すことが知られているがん細胞を利用した抗ガン剤のスクリーニング用の組織体の製造のために利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8