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明細書 :コーヒー粕あるいは茶殻を原料とした還元力を備えた水溶性鉄供給剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5804454号 (P5804454)
公開番号 特開2011-211913 (P2011-211913A)
登録日 平成27年9月11日(2015.9.11)
発行日 平成27年11月4日(2015.11.4)
公開日 平成23年10月27日(2011.10.27)
発明の名称または考案の名称 コーヒー粕あるいは茶殻を原料とした還元力を備えた水溶性鉄供給剤
国際特許分類 A01G   7/06        (2006.01)
A01G  31/00        (2006.01)
C05D   9/02        (2006.01)
A23L   1/304       (2006.01)
A23L   1/30        (2006.01)
A61K  47/46        (2006.01)
A61K  33/26        (2006.01)
A61K   9/08        (2006.01)
FI A01G 7/06 A
A01G 31/00 601A
C05D 9/02
A23L 1/304
A23L 1/30 Z
A61K 47/46
A61K 33/26
A61K 9/08
請求項の数または発明の数 8
全頁数 11
出願番号 特願2010-080614 (P2010-080614)
出願日 平成22年3月31日(2010.3.31)
審査請求日 平成25年2月4日(2013.2.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】森川 クラウジオ 健治
【氏名】篠原 信
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】坂田 誠
参考文献・文献 カナダ国特許出願公開第1032823(CA,A1)
中国特許出願公開第101507457(CN,A)
国際公開第2009/140694(WO,A1)
調査した分野 A01G 7/00 - 7/06
A01G 31/00
A23L 1/30
A23L 1/304
A61K 9/08
A61K 33/26
A61K 47/46
C05D 9/02
特許請求の範囲 【請求項1】
コーヒー豆の粉砕焙煎物および/または茶葉を金属イオン可溶化成分の供給原料として用い、当該金属イオン可溶化成分の供給原料と三価の鉄を含む鉄供給原料とを、前記金属イオン可溶化成分の供給原料の乾燥物100重量部に対して、鉄元素が0.1~10重量部含有するように、水存在下で混合し、得られた反応生成物を有効成分として含有してなる二価鉄イオン供給剤。
【請求項2】
前記金属イオン可溶化成分の供給原料がコーヒー粕である、請求項1記載の二価鉄イオン供給剤。
【請求項3】
前記金属イオン可溶化成分の供給原料が茶殻である、請求項1記載の二価鉄イオン供給剤。
【請求項4】
前記鉄供給原料が三価の鉄イオンを生ずる化合物である、請求項1~3のいずれかに記載の二価鉄イオン供給剤。
【請求項5】
前記鉄供給原料が土壌であり、且つ、前記混合が40~200℃で行うものである、請求項1~3のいずれかに記載の二価鉄イオン供給剤。
【請求項6】
前記二価鉄イオン供給剤が植物栽培用である、請求項1~のいずれかに記載の二価鉄イオン供給剤。
【請求項7】
請求項に記載の二価鉄イオン供給剤を、アルカリ土壌に含有させることを特徴とする、植物栽培方法。
【請求項8】
前記二価鉄イオン供給剤が経口摂取用である、請求項1~のいずれかに記載の水溶性鉄供給剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー豆の焙煎粉砕物(特にコーヒー粕)や茶葉(特に茶殻)を金属イオン可溶化成分の供給原料として用い、当該金属イオン可溶化成分の供給原料と三価の鉄を含む鉄供給原料とを、水存在下で混合し、得られた反応生成物を有効成分として含有してなる水溶性鉄供給剤に関する。詳しくは、三価鉄を二価の鉄イオンに還元して維持し、水溶性の鉄イオン(二価鉄イオン)を長期間安定して供給できる水溶性鉄供給剤に関する。
また、本発明は、植物栽培(特に水耕栽培やアルカリ土壌での栽培)において、水溶性の鉄イオンの長期安定供給が可能な植物栽培用鉄供給剤に関する。また、本発明は、食品及び医薬用途において、経口摂取によって水溶性の鉄イオンの供給が可能な鉄供給剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は、植物にとって必須の肥料成分であり、不足すると生育が大幅に悪化する。しかし、世界の陸地の3分の1はアルカリ土壌であり、鉄欠乏が発生しやすくほとんどが耕作不適地となっている。
そこで、これを補う資材として、キレート鉄(鉄イオンを複数の配位で錯体として維持した化合物)を有効成分とする鉄供給剤が開発されている。
例えば、強力な鉄キレート作用を有するEDTAなどを利用した鉄供給剤が知られているが(非特許文献1参照)。しかし、アルカリ条件下では、これらの鉄供給剤は短時日でキレート能を失い、鉄分を安定供給することができない。さらに、これらの物質は、天然物質ではないため、有機農業では使用できない。
また、天然物由来の有機酸であるクエン酸、リンゴ酸、乳酸などのキレート鉄を利用した鉄供給剤も知られている(特許文献1参照)。しかし、これら有機酸のキレート鉄は、キレート能が弱く、アルカリ土壌だと容易にキレート能を失うため鉄が速やかに不溶化してしまい、鉄分を安定供給することができない。
このように、アルカリ土壌におけるアルカリ条件下では、キレート効果が失われ、キレート剤から脱離した鉄イオンが不溶化してしまうことで、作物が吸収しにくい形態となってしまう。
【0003】
このため、アルカリ土壌での有機農業を実現するには、天然物由来であり、低コストで、且つ、アルカリ条件下においても水溶性の鉄イオンを長期安定維持可能な鉄供給剤の開発が必須である。しかし、これまでそのようなものは存在せず、アルカリ土壌では有機農業は断念せざるを得ない状況であった。
【0004】
また、鉄は、植物にとってだけでなく人体においても重要な金属元素である。例えば、鉄分の不足を経口摂取によって補うことにより、鉄欠乏性貧血、異食症などに有効な症状の改善が認められる。
しかし、食品・医薬の分野においては、人体の摂取に安全な原料のみを用いて、可溶化した鉄分(特に二価の鉄イオン)を安定して供給できる鉄供給剤は、高価な製法によるものであり、極めて安価に優れた鉄供給剤を製造する技術が求められていた。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2007-195546号公報
【0006】

【非特許文献1】http://www.nagasechemtex.co.jp/products/nousuisankinzokuen.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決し、天然物由来の原料を用いて、鉄イオンが不溶化しやすいアルカリ条件においても水溶性の鉄イオンを長期間安定供給できる鉄供給剤を製造することを課題とする。さらに、本発明は、人体の摂取に安全な原料のみを用いて、水溶性の鉄イオンを供給できる鉄供給剤を製造することを課題とする。
また本発明は、三価の鉄を鉄供給原料に用いて、水溶性の鉄イオン(特に二価の鉄イオン)を供給できる鉄供給剤を製造することを課題とする
また、本発明は、これらの鉄供給剤を極めて安価に製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこのような状況を鑑み、鋭意検討を重ねたところ、コーヒー豆の焙煎粉砕物や茶葉の成分は、三価の鉄を二価の鉄イオンに還元して維持し、水溶性鉄イオンとして長期間安定して供給できることを見出した。
【0009】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
即ち、請求項1に係る本発明は、コーヒー豆の粉砕焙煎物および/または茶葉を金属イオン可溶化成分の供給原料として用い、当該金属イオン可溶化成分の供給原料と三価の鉄を含む鉄供給原料とを、前記金属イオン可溶化成分の供給原料の乾燥物100重量部に対して、鉄元素が0.1~10重量部含有するように、水存在下で混合し、得られた反応生成物を有効成分として含有してなる二価鉄イオン供給剤に関する。
また、請求項2に係る本発明は、前記金属イオン可溶化成分の供給原料がコーヒー粕である、請求項1記載の二価鉄イオン供給剤に関する。
また、請求項3に係る本発明は、前記金属イオン可溶化成分の供給原料が茶殻である、請求項1記載の二価鉄イオン供給剤に関する。
また、請求項4に係る本発明は、前記鉄供給原料が三価の鉄イオンを生ずる化合物である、請求項1~3のいずれかに記載の二価鉄イオン供給剤に関する。
また、請求項5に係る本発明は、前記鉄供給原料が土壌であり、且つ、前記混合が40~200℃で行うものである、請求項1~3のいずれかに記載の二価鉄イオン供給剤に関する。
また、請求項6に係る本発明は、前記二価鉄イオン供給剤が植物栽培用である、請求項1~のいずれかに記載の二価鉄イオン供給剤に関する。
また、請求項に係る本発明は、請求項に記載の二価鉄イオン供給剤を、アルカリ土壌に含有させることを特徴とする、植物栽培方法に関する。
また、請求項に係る本発明は、前記二価鉄イオン供給剤が経口摂取用である、請求項1~のいずれかに記載の水溶性鉄供給剤に関する。


【発明の効果】
【0010】
本発明は、鉄供給原料に三価の鉄を用いて、鉄イオンが不溶化しやすいアルカリ条件においても水溶性鉄イオン(具体的には二価の鉄イオン)を長期間安定維持できる水溶性鉄供給剤を製造することを可能とする。
また、本発明は、鉄供給原料として、天然に豊富に存在する三価の鉄(特に土壌に由来するもの)を用いることによって、安価に水溶性鉄供給剤を製造することを可能とする。
さらに、本発明は、金属イオン可溶化成分の供給原料として、コーヒー粕や茶殻を用いることによって、さらに安価に水溶性鉄供給剤を製造することを可能とする。
なお、コーヒーや茶殻は世界的に愛飲されている嗜好品であり、その廃棄物であるコーヒー粕、茶殻は世界中で毎日のように大量に産出されているが、その使途は堆肥や消臭剤などに限定されており、新たな有効利用法の模索が続いている。従って、本発明により、これら食品廃棄物の新規利用用途を創出し、有効利用に貢献することが期待される。
【0011】
これにより本発明は、植物栽培用の鉄供給剤を提供することを可能とし、アルカリ土壌や養液栽培における鉄欠乏症を改善することを可能とする。また、天然物由来の原料のみで製造することもできるため、環境に極めて安全なものであり、アルカリ土壌における有機農業を可能とする技術になることが期待される。
【0012】
また、本発明は、食品や医薬用途として、人体に極めて安全な経口摂取用の鉄供給剤を提供することも可能とし、鉄分の不足により引き起こされる様々な症状の改善に貢献することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1において、コーヒー粕由来の成分によって土壌中の三価鉄から還元され可溶化された二価鉄イオンを、ジピリジルによって検出した写真像図である。
【図2】実施例2において、コーヒー粕と鉄の反応生成物がアルカリ土壌における植物栽培に与えた影響を示す写真像図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、特定の金属イオン可溶化成分の供給原料と、三価の鉄を含む鉄供給原料とを水存在下で混合し、得られた反応生成物を有効成分として含有してなる水溶性鉄供給剤に関する。

【0015】
〔金属イオン可溶化成分供給原料〕
本発明のおける金属イオン可溶化成分の供給原料としては、コーヒー豆の焙煎粉砕物や茶葉を用いることができる。また、両者を混合して用いることもできる。
また、当該金属イオン可溶化成分の供給原料としては、当該コーヒー豆の焙煎粉砕物や茶葉(特にはコーヒー粕や茶殻)を水浸漬して得られる抽出成分(いわゆる淹れたコーヒーや茶の可溶性成分、あるいはコーヒー粕や茶殻の可溶性成分)、あるいは不溶性成分のみ(いわゆるコーヒー粕や茶殻)のいずれでも用いることができる。なお、これらの成分はそれぞれ乾燥粉末化して用いることもできる。
当該成分は、非常に多くの分子種のフェノール類やポリフェノールを含む組成物であり、三価の鉄を二価の鉄イオンに還元する作用と、二価の鉄イオンを長期間維持できる作用の両方を有するものである。
なお、三価鉄は、鉄供給原料の種類や条件(特にアルカリ条件)によって不溶化した状態になりやすいが、三価から二価に還元された鉄イオンは、水に溶けやすく、動植物に吸収されやすい状態となる。

【0016】
本発明で用いる‘コーヒー豆の焙煎粉砕物’としては、通常の方法に従って、コーヒー豆を焙煎し粉砕したものであれば如何なるものも指すものである。いわゆる挽いたコーヒー豆の状態もここに含まれる。また、コーヒー豆を粉砕したものを焙煎したものであってもよい。
ここでコーヒー豆としては、コーヒーノキであるCoffea arabica(アラビカ種)、C.canephora(ロブスタ種)、C.liberica(リベリカ種)の種子であれば如何なるものを用いることができる。なお、生のコーヒー豆であってもよい、通常用いられるように乾燥保存されたものでもよい。
また、原料コストの観点を踏まえると、工業的には、規格外のコーヒー豆を用いることが好ましい。特には、コーヒー抽出後に大量に廃棄される‘コーヒー粕’を用いることが最も好適である。

【0017】
なお、ここで焙煎としては、通常行われる如何なる方法を挙げることができ、例えば、直火焙煎、熱風焙煎、遠赤外線焙煎、マイクロ波焙煎、加熱水蒸気焙煎、低温焙煎などを挙げることができる。
また、粉砕としては、コーヒーミル、グラインダー、石臼などによって通常のコーヒー豆が挽かれた状態にすればよく、粗挽きから粉末化状態のものまで幅広く含むものである。なお、破砕、粉砕、粉末化などの処理も含むものである。好ましくは、鉄との反応効率の観点から、粒子径の小さい粉末化したものが好適である。

【0018】
本発明で用いる‘茶葉’としては、チャノキであるCamellia sinensisの茎葉を摘んだものであれば如何なるものも用いることができる。また摘み方は如何なる方法でもよいが、コストの観点を踏まえると、特に機械摘みが好適である。
なお、摘んだ茶葉は細胞の内容物が混ざり合って酸化発酵が起こるが、ここでは如何なる発酵段階の茶葉であっても用いることができる。例えば、加熱して酸化発酵を抑えた緑茶(煎茶、番茶、茎茶、ほうじ茶など)、;ある程度発酵させた青茶(ウーロン茶など)、;完全に発酵させた紅茶、;酸化発酵後にさらに麹菌発酵させた黒茶(プーアル茶など)、;などを用いることができる。好ましくは、緑茶、紅茶、ウーロン茶を挙げることができる。
なお、原料コストの観点を踏まえると、工業的には、規格外の茶葉を用いることが好ましい。特には、茶の抽出後に大量に廃棄される‘茶殻’を用いることが最も好適である。

【0019】
〔鉄供給原料〕
本発明では、三価の鉄を含む鉄供給原料のいずれも用いることができる。
例えば、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)などの水溶性の鉄化合物、;酸化鉄(III)、硝酸鉄(III)、水酸化鉄(III)などの不溶性の鉄化合物、;土壌(特に赤玉土、鹿沼土、ロームなどアロフェン質の鉄分を多く含む土壌、非結晶質の鉱物〔特にゲータイト〕を含む土壌)、ヘム鉄、貝殻などの天然物、;を挙げることができる。またこの他にも、鉄鉱石(黄鉄鉱、白鉄鉱、菱鉄鉱、磁鉄鉱、針鉄鉱など天然の鉄鉱石)や鉄材(金属鉄)、赤土(ラテライトなど酸化鉄(III)を多く含む土)を酸で溶解したものを挙げることができる。その他、錆びも原料として用いることができる。また、水溶性の鉄化合物が溶解した三価の鉄イオンを含む水溶液を用いることもできる。
これらのうち、食品及び医薬などの分野で利用する場合は、原料コストや品質保証の観点から、安価な鉄化合物(塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)など三価鉄の化合物)を用いることが好適である。
また、有機農業で利用する場合は、原料を天然物に限る必要があることと原料コストや安定供給の観点から、天然物である土壌(特に赤玉土、鹿沼土、ローム)を鉄供給原料として用いることが好適である。

【0020】
〔混合処理〕
本発明では、前記金属イオン可溶化成分供給原料(もしくは当該原料由来の前記成分)と前記鉄供給原料(もしくは三価の鉄イオン)を、水存在下で混合することによって、水溶性鉄イオン(二価の鉄イオン)を長期安定供給可能な反応生成物を得ることができる。

【0021】
ここで水存在下とは、前記金属イオン可溶化成分供給原料に含まれる還元力を示す成分と鉄が、水を媒質として反応できる条件であればよい。
例えば、用いる水の量としては、混合操作によって前記原料が湿潤する程度の水の量があれば十分であるが、前記原料の合計1質量部に対して、例えば、0.5質量部以上、好ましくは2質量部以上用いることが望ましい。なお、上限としては、混合操作が可能な量であればよいが、例えば、100質量部以下、好ましくは10質量部以下を挙げることができる。
なお、水としては、通常の如何なる水でもよく、井戸水、河川・湖沼水、海水、水道水、脱イオン水、蒸留水、などを挙げることができるが、pH緩衝剤、塩(NaCl, KClなど)、アルコール(エタノール等)、糖類、酸、アルカリなどを含むものであっても、当該反応が起こる条件のものであればよい。

【0022】
原料の混合比率としては、前記金属イオン可溶化成分の供給原料の乾燥物100重量部に対して、前記鉄供給原料を鉄元素の重量として0.1重量部以上、好ましくは4重量部以上含有するように混合すればよい。鉄の割合が少なすぎる場合、前記金属イオン可溶化成分の供給原料に鉄が吸着してしまい好ましくない。
また、上限としては、10重量部以下、好ましくは、5重量部以下であればよい。鉄の割合が多すぎる場合、還元しきれなかった三価の鉄が残存し好ましくない。

【0023】
ここで、混合操作としては、単純な攪拌混合を行えばよいが、ミキサー、大型攪拌槽、ボルテックス、シェーカーなどによっても行うことができる。
ここで水の温度としては、水が液体状態である温度であればよいが(例えば1~100℃)、室温程度(例えば10~40℃)で特に加熱を要することなく行うことができる。
なお、鉄供給原料として特定の天然物(具体的には土壌)を用いた場合や、不溶性の鉄化合物が主体である場合、当該混合時の水を40℃以上、好ましくは50℃以上で行うことによって、鉄と金属イオン可溶化成分が反応しやすくする処理が必要となる。なお上限としては200℃(加圧加熱の場合)を挙げることができるが、製造コストの観点から、通常加熱での水の沸点である100℃以下、さらに好ましくは70℃以下で行うことが望ましい。なお、100℃以上の反応条件において、金属イオン可溶化成分の熱分解を抑制するには、密閉容器内で行う方が効果的である。

【0024】
混合時間としては、金属イオン可溶化成分と鉄が十分に接触するまで、おおよそ10秒以上行えばよいが、均一性を向上させるためには、好ましくは3分以上の混合処理を行うことが望ましい。
また、上限としては、微生物の繁殖による腐敗を防止するため、240時間以下で行うことが望ましい。ただし滅菌処理を伴う場合は特に上限はない。

【0025】
〔水溶性鉄供給剤〕
上記工程によって得られた反応生成物(混合処理後のコーヒー焙煎粉砕物や茶葉)は、前記鉄供給原料由来の三価鉄が還元された二価鉄イオン(水溶性鉄イオン)を、長期安定維持して、供給できる性質を有するものである。また、当該水溶性鉄イオン供給能は、アルカリ条件下においても安定して発揮されるものである。
従って、当該反応生成物は、‘水溶性鉄供給剤’の有効成分として優れた性質を有するものである。

【0026】
上記工程によって得られた反応生成物は、そのまま(液体や含水状態のまま)、あるいは乾燥(例えば、自然乾燥、焙煎など)させることで、水溶性鉄供給剤の有効成分とすることができる。また、この乾燥物を水に溶いた上清や懸濁物についても、当該有効成分として用いることもできる。
なお、得られた反応生成物から上清のみを回収した液体(もしくはその乾燥物)についても、当該有効成分として用いることもできる。

【0027】
〔植物栽培用途〕
本発明の水溶性鉄供給剤は、植物栽培用の水溶性鉄イオン供給剤として用いることができる。また、天然物由来の原料のみで製造することもできるため、環境に極めて安全なものである。なお、当該水溶性鉄供給剤が供給可能な水溶性鉄イオンは、二価の鉄イオンであるため、植物の吸収に好適である。

【0028】
当該水溶性鉄供給剤は、農業、園芸における通常の如何なる植物栽培に用いることができるが、特に、鉄欠乏の起こりやすい水耕栽培(養液栽培)やアルカリ土壌での栽培において有効に用いることができる。なお、農作物の向上目的などの有用性を鑑みると、アルカリ土壌において用いることが最も有効な使用用途である。
ここで、アルカリ土壌としては、pH7~10程度のアルカリ性条件にある土壌を指し、石灰質アルカリ性土壌などを挙げることができるが、本発明はpH9以上の強いアルカリ性の土壌にも用いることができる。なお、これらの条件下では、従来の一般的なキレート剤(EDTA鉄やクエン酸鉄など)等の鉄供給剤は全く使用できない。

【0029】
剤の形態としては、例えば、固体、液体の形態を挙げることができる。粉末、顆粒、シート状、ボード状、キューブ状、スポンジ状、あるいは濃縮液、液体アンプルなどの形態を挙げることができる。また、粉末状の形態、賦型剤等と混ぜて固形にした形態、カプセルに充填する形態、ゲルなども挙げることができる。
剤の使用形態としては、液体の場合はそのままもしくは希釈して、固形の場合は水等に溶いて、用いることができる。
具体的には、本発明の水溶性鉄供給剤を、栽培土壌中に埋め込む、;栽培土壌中に添加する、;栽培土壌に液状散布する、;栽培土壌に含有させた混合土壌を調製する、;水耕栽培の養液に添加する、;植物に葉面散布する、;植物に注入する、;などによって、用いることができる。
水溶性鉄供給剤の使用量としては、例えば、有効成分である前記反応生成物を、土壌に含有させる場合は0.01~50g/L(土壌体積あたりの含量)、水耕栽培の養液に含有させる場合は0.01~50g/L(養液あたりの濃度)、含むように使用すればよい。

【0030】
〔医薬・食品用途〕
また、本発明の水溶性鉄供給剤は、食品及び医薬用途において、経口摂取用の水溶性鉄イオン供給剤として用いることができる。また、天然物由来の原料を用いて製造できるため、人体に極めて安全なものである。なお、当該水溶性鉄供給剤が供給可能な水溶性鉄イオンは、二価の鉄イオンであるため、人体の吸収に好適である。

【0031】
当該水溶性鉄供給剤は、医薬として用いることができ、鉄分の不足により引き起こされる様々な症状の改善することができる。例えば、鉄欠乏性貧血、異食症などの症状を有効に改善することができる。
なお、当該水溶性鉄供給剤は、飲食品に含有させて機能性飲食品として用いることもできる。

【0032】
剤の形態としては、例えば、固体、液体の形態を挙げることができる。粉末、顆粒、懸濁液、抽出液、あるいは濃縮液、液体アンプルなどの形態を挙げることができる。また、粉末状の形態、賦型剤等と混ぜて固形にした形態、カプセルに充填する形態、ゲルに混合する形態なども挙げることができる。
また、当該剤を含有させることができる機能性飲食品としては、種々の食品原料と混合して、例えば、錠剤(チュアブル錠〔サプリメント等〕など)、ビスケット、スナック菓子、キャンディ、ゼリー、アイスクリーム、ふりかけ、清涼飲料水、ドリンクなど、に添加して使用してもよい。

【0033】
有効摂取量としては、有効成分である前記反応生成物を、体重60kgの成人1日あたり、10mg以上、好ましくは200mg以上経口摂取することにより、水溶性鉄イオンを十分に供給することができる。従って、この必要量を確保できる形態や摂取方法(回数、量)で、当該水溶性鉄供給剤を摂取することができる。
ただし、対象の年齢、体重、症状、摂取スケジュール、製剤形態などにより、適宜決定することが望ましい。

【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
〔実施例1〕 コーヒー粕成分の鉄還元能および鉄可溶化能の検証
コーヒー粕を用いて、赤玉土に含まれる三価鉄を二価鉄イオンに還元して可溶化する実験を行った。
1200gの赤玉土を800gのコーヒー粕と混合し、その倍の重量の水を添加混合し、60℃で一晩静置することで反応させた。反応後、風乾して乾燥させた。そして、そのうち2gを1Lの蒸留水に加えて懸濁した(試料1-1:コーヒー粕・赤玉土懸濁溶液)。なお、対照として、1.2gの赤玉土のみを1Lの水に懸濁した溶液を調製した(試料1-2:赤玉土懸濁溶液)。これらの溶液は、室温で44日間静置した。
また、比較試料として、コーヒー粕に代えて同重量のクエン酸を用いたこと以外は、上記と同様にして溶液を調製した(試料1-3:クエン酸・赤玉土懸濁溶液)。なお、当該比較試料については、長期の室温静置を行わなかった。
得られた3つの溶液3mlに、0.2%ジピリジル(ジピリジル2g、酢酸100g/L)を0.1ml添加し、発色を見ることで二価鉄イオンの検出を試みた。結果を図1に示す。なお、ジピリジルは、二価鉄イオンと反応した時に赤色に呈色する物質であり、二価鉄イオンの検出に用いられる。三価鉄(もしくは三価鉄イオン)とは反応せず、無色のままである。
【実施例】
【0036】
その結果、試料1-1(コーヒー粕・赤玉土懸濁溶液)からは二価の鉄イオンが検出され、コーヒー粕の成分は赤玉土に含まれる三価の鉄を二価の鉄イオンに還元し、水に可溶な状態で長期間(44日間)安定して維持できることが示された。
これに対して、試料1-3(クエン酸・赤玉土懸濁溶液)からは二価の鉄イオンは検出されず、クエン酸(二価鉄イオンのキレート作用がある)は赤玉土中の三価の鉄を二価の鉄イオンに還元、水溶化することが(同様の製造方法をとった直後であっても)できないことが示された。また、対照である試料1-2(赤玉土懸濁溶液)からも、二価の鉄イオンは検出されなかった。
このことから、コーヒー粕を用いることで、従来のキレート剤であるクエン酸では利用できなかった赤玉土中の三価の鉄に対しても二価の鉄イオンに還元して可溶化できることが示され、植物が吸収しやすい二価鉄イオンを安定供給できることが示唆された。
なお、コーヒーに含まれるクロロゲン酸、タンニン酸、カフェイン酸には、鉄のキレート作用があることは従来知られているが、これらの化合物には三価鉄を二価に還元する能力については知られていなかった。
このことから、当該コーヒー粕由来の成分には、三価鉄から二価の鉄イオンへの還元作用があることが初めて明らかになった。なお、その還元作用成分は、フェノール類やポリフェノール類であると推測される。

【実施例】
【0037】
〔実施例2〕 アルカリ土壌での水溶性鉄イオン鉄供給効果
まず、実施例1と同様にして、コーヒー粕と赤玉土を水存在下で反応させ、風乾させて乾燥物(コーヒー粕と鉄の反応生成物)を得た。
そして、アルカリ土壌(pH9.2)を充填したポットに、当該乾燥物を1g/kg含むように添加し、イチゴを栽培した。また、対照として、当該乾燥物を添加せずにアルカリ土壌を充填したポットを用いて栽培した。結果を図2に示す。
【実施例】
【0038】
その結果、アルカリ土壌のみで栽培したポット(図2左:対照)では鉄欠乏症状が強く表れたが、コーヒー粕と鉄の反応生成物を添加したポット(図2右:本発明)ではイチゴは健全に生育することが示された。
このことから、鉄が不溶化しやすいアルカリ土壌でも、コーヒー粕と鉄の反応生成物を用いることによって、植物が吸収しやすい鉄イオンの安定供給が可能であることが示された。

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、環境に極めて安全な植物栽培用の鉄供給剤として、農業の分野での応用(アルカリ土壌や養液栽培における鉄欠乏症の改善)が期待される。特にアルカリ土壌の土壌改良に利用することにより、世界各国の食料増産に貢献することも期待される。
また、人体に極めて安全な経口摂取用の鉄供給剤として、食品・医薬分野における応用が期待される。特に鉄分の不足により引き起こされる様々な症状の改善に貢献することが期待される。
さらに、コーヒー粕や茶殻などの食品廃棄物の新規利用用途を創出し、有効利用に貢献することも期待される。
図面
【図1】
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【図2】
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