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明細書 :高温性アンモニア酸化細菌およびそれを用いる堆肥の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5557209号 (P5557209)
公開番号 特開2011-223883 (P2011-223883A)
登録日 平成26年6月13日(2014.6.13)
発行日 平成26年7月23日(2014.7.23)
公開日 平成23年11月10日(2011.11.10)
発明の名称または考案の名称 高温性アンモニア酸化細菌およびそれを用いる堆肥の製造方法
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
C05F   3/00        (2006.01)
C12R   1/07        (2006.01)
FI C12N 1/20 ZNAA
C12N 1/20 ZABF
C05F 3/00
C12N 1/20 ZNAA
C12R 1:07
C12N 1/20 ZABF
C12R 1:07
請求項の数または発明の数 5
微生物の受託番号 NPMD NITE P-921
全頁数 12
出願番号 特願2010-093768 (P2010-093768)
出願日 平成22年4月15日(2010.4.15)
審査請求日 平成24年6月19日(2012.6.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】嶋谷 智佳子
【氏名】橋本 知義
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100120905、【弁理士】、【氏名又は名称】深見 伸子
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 特開2002-345453(JP,A)
国際公開第2007/114324(WO,A1)
国際公開第2004/067197(WO,A1)
国際公開第2003/055985(WO,A1)
SHIMAYA,C. AND HASHIMOTO,T.,Improvement of media for thermophilic ammonia-oxidizing bacteria in compost,Soil Sci. Plant Nutr.,2008年,Vol.54, No.4,pp.529-33
SHIMAYA,C. AND HASHIMOTO,T.,Isolation and characterization of novel thermophilic nitrifying Bacillus sp. from compost,Soil Sci. Plant Nutr.,2011年,Vol.57, No.1,pp.150-6
調査した分野 PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Thomson Innovation
特許請求の範囲 【請求項1】
50~55℃の高温下でアンモニア酸化能を有するバチルス・エスピー(Bacillus sp.) T3株(NITE P-921)。
【請求項2】
請求項に記載の微生物を有効成分として含む、アンモニア発生抑制剤。
【請求項3】
請求項に記載の微生物を堆肥材料に混合し、発酵、熟成させることを特徴とする、堆肥の製造方法。
【請求項4】
堆肥材料が家畜糞尿を含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項またはに記載の方法により製造される堆肥。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜糞尿を用いる堆肥化処理においてアンモニア発生を低減することのできる新規な微生物および該微生物を用いる堆肥の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界規模で肥料価格が高騰しており、化学肥料の代替として家畜糞尿の利用が検討されている。しかしながら、家畜糞尿の堆肥化における一次発酵過程では、高濃度のアンモニアが揮散するため、悪臭発生が問題となるとともに窒素肥料成分のロスにもつながっている。
【0003】
堆肥中のアンモニアを、微生物によるアンモニア酸化活性を利用して速やかに低減させ、硝酸・亜硝酸態窒素に変換することができれば、悪臭対策だけでなく、肥料価値の高い堆肥製造が可能となる。これまで幅広く研究されているニトロソモナス・コミュニス(Nitrosomonas communis)、ニトロソモナス・ユーロペア(Nitrosomonas europaea)、ニトロソモナス・ウレアエ(Nitrosomonas ureae)などのアンモニア酸化細菌は、廃水や土壌から分離されており、至適培養温度が20~37℃の中温菌である。しかしながら、このような中温菌は、50℃以上の高温状態が続く堆肥化には利用できない。従って、高温となる家畜糞尿の堆肥化処理にも有効に利用できる高温性アンモニア酸化細菌が望まれるところである。
【0004】
家畜糞尿の堆肥化に利用できる高温性アンモニア酸化細菌は、堆肥中に存在することが予想されるが、これまで堆肥中から高温性アンモニア酸化細菌を分離・同定する手段は確立されていない。
【0005】
廃水や土壌等から分離されている前記のアンモニア酸化細菌の多くは、生育に一切の有機物を必要とせず、二酸化炭素を唯一の炭素源として利用する独立栄養性細菌であるため、その培養には無機栄養培地が広く用いられている(非特許文献1~4など)。一方、近年、ニトロソモナス・ユーロペア(Nitrosomonas europaea)は有機物を資化できることが報告されている(非特許文献5)。また、従属栄養性アンモニア酸化細菌においても、硝化活性は独立栄養性アンモニア酸化細菌より弱いながらも硝化能の存在が報告され、アンモニア酸化細菌の研究に有機物を含んだ培地も使われるようになってきた(非特許文献6~9など)。しかしながら、これらの培地は有機物を含有するものの、アンモニア濃度、C/N比、窒素とリンとカリウムとマグネシウムの比が堆肥成分と異なっているために、堆肥中の高温性アンモニア酸化細菌の生育には適していない。また、従属栄養性アンモニア酸化細菌を50℃以上で培養した研究も報告されるが(非特許文献10)、当該アンモニア酸化細菌は深海熱水噴出孔から発見された菌であり、その培地には海塩などの海洋成分が含まれているため、堆肥中の高温性アンモニア酸化細菌の生育には適していない。
【0006】
本発明者らは、アンモニア濃度、C/N比、窒素とリンとカリウムとマグネシウムの比を堆肥成分に類似させた堆肥型培地を既に開発しているが(非特許文献11)、家畜糞尿の堆肥化に利用できる高温性アンモニア酸化細菌を分離・同定するには至っていない。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Matulewich VA, Strom PF, Finstein MS 1975: Length of incubation for enumerating nitrifying bacteria present in various environments. Appl. Environm. Microbiol. 29, 265-268
【非特許文献2】S. U. Sarathchandra. 1978: Nitrification activities and the changes in the populations of nitrifying bacteria in soil perfused at two different H-ion concentrations. Plant and Soil. 50. 99-111.
【非特許文献3】Hashimoto T. and Hattori T. 1987: Length of incubation for the estimation of the most probable number of nitrifying bacteria in soil. Soil Sci. Plant Nutr., 33, 507-509
【非特許文献4】Suwa, Y., Sumino, T. and Noto, K. 1997: Phylogenetic relationships of activated sludge isolates of ammonia oxidizers with different sensitivities to ammonium sulfate. J Gen Appl Microbiol. 43, 373-379.
【非特許文献5】Hommes NG., Sayavedra-Soto LA, Arp DJ 2003: Chemolithoorganotrophic growth of Nitrosomonas europaea on fructose. J. Bacteriol. 185, 6809-6814
【非特許文献6】Papen H, Berg RV, Hinkel I, Thoene B, Rennenberg H 1989: Heterotrophic nitrification by Alcaligenes faecalis: NO2-, NO3-, N2O, and NO production in exponentially growing cultures. Appl. Environm. Microbiol. 55, 2068-2072
【非特許文献7】Tanaka, J. 2002. 高度廃水処理用担体に付着する硝化細菌群の解明. 塗料の研究. 139:2-11.
【非特許文献8】Matsuzaka, E., N. Nomura, H. Maseda, H. Otagaki, T. Nakajima-Kambe, T. Nakahara and H. Uchiyama. 2003: Participation of Nitrite Reductase in Conversion of NO2- to NO3 - in a Heterotrophic Nitrifier, Burkholderia cepacia NH-17, with Denitrification Activity. Microbes and Environments, 18, 203-209.
【非特許文献9】Joo HS, Hirai M, Shoda M 2005: Characteristics of ammonium removal by heterotrophic nitrification-aerobic denitrification by Alcaligenes faecalis No. 4. J. Biosci. Bioeng. 100, 184-191.
【非特許文献10】Mevel G, Prieur D 2000: Heterotrophic nitrification by a thermophilic Bacillus species as influenced by different culture conditions. Can. J. Microbiol. 46, 465-473
【非特許文献11】Shimaya C, Hashimoto T 2008: Improvement of Media for Thermophilic Ammonia-Oxidizing Bacteria in Compost. Soil Sci. Plant Nutr. 54, 529-533
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高温となる家畜糞尿の堆肥化においても利用できる高温性アンモニア酸化細菌を堆肥中から分離・同定すること、および該細菌を用いてアンモニアなどの悪臭を発生させることなく、肥料価値の高い堆肥を短期間でかつ安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、堆肥組成に類似した堆肥型培地を開発するとともに、これを用いて家畜糞尿の堆肥化に利用できる高温性アンモニア酸化細菌を堆肥中から分離・同定することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 配列番号1に示す塩基配列と95%以上の相同性を有する塩基配列からなる16S rDNAを有し、かつ、50~55℃の高温下でアンモニア酸化能を有するバチルス属に属する微生物。
(2) バチルス属に属する微生物が、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)T3株(NITE P-921)である、(1)に記載の微生物。
(3) (1)または(2)に記載の微生物を有効成分として含む、アンモニア発生抑制剤。
【0011】
(4) (1)または(2)に記載の微生物を堆肥材料に混合し、発酵、熟成させることを特徴とする、堆肥の製造方法。
(5) 堆肥材料が家畜糞尿を含む、(4)に記載の製造方法。
(6) (4)または(5)に記載の方法により製造される堆肥。
(7) 下記の組成から成るpH8.4の培地を用い、50~55℃で堆肥を培養することにより、堆肥から高温性アンモニア酸化細菌を分離する方法。
【0012】
(NH4)2SO4 37.8 mmol
K2HPO4 17.8 mmol
MgSO4・7H2O 13.6 mmol
CaCl2・2H2O 27.2 μmol
Fe-EDTA 0.2 μmol
CaCO3 79.9 mmol
CH3COONa・3H2O 756.9 mmol
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、50~55℃の高温下でアンモニア酸化能を有する微生物が提供される。従って、本発明の微生物は、一次発酵過程で急激に高温となる家畜糞尿の堆肥化において利用すると、アンモニア臭発生が顕著に低減されるとともに、肥料価値の高い堆肥を短期間で高価な設備を要することなく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明微生物菌株を用いた堆肥化過程における堆肥材料の温度変化を示す。
【図2】本発明微生物菌株を用いた堆肥化過程におけるアンモニア揮散の減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.高温性アンモニア酸化細菌およびその単離・同定
本発明の新規微生物は、配列番号1に示す塩基配列と95%以上の相同性を有する塩基配列からなる16S rDNAを有し、かつ、50~55℃の高温下でアンモニア酸化能を有する微生物である。

【0016】
このような微生物の例としては、本発明者らが開発した堆肥組成に類似した下記表1に示す組成の培地を用いて牛糞堆肥から分離したT3(SIID5987)株(以下、T3株という)を挙げることができる。

【0017】
【表1】
JP0005557209B2_000002t.gif

【0018】
(a)菌学的性質
T3株の菌学的性質(形態観察、生理・生化学性状)は下記表2、3に示すとおりである。

【0019】
【表2】
JP0005557209B2_000003t.gif

【0020】
【表3】
JP0005557209B2_000004t.gif
JP0005557209B2_000005t.gif

【0021】
(b)16S rDNA 解析
T3株より抽出したDNAについて細菌16S rDNA増幅のためのプライマーを用いてPCRにて増幅し、16S rDNA塩基配列を決定した(配列表の配列番号1)。このT3株の16S rDNA塩基配列について、BLASTを用いたアポロンDB-BA 3.0および国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)に対する相同性検索の結果、T3株はBacillus halodurans(基準株DSM497株)由来の16S rDNA塩基配列に高い相同性(99.8%)を示した。また、T3株の16S rDNAとアポロンDB-BA 3.0に対する相同性検索上位10株の16S rDNAにBacillusの基準種であるBacillus subtilis LAM12118株の16S rDNA を加えて行った簡易分子系統解析の結果、T3株は、Bacillusの16S rDNAが形成するクラスター内に含まれ、Bacillus haloduransと同一の系統樹を形成した。

【0022】
以上の16S rDNA塩基配列解析結果からは、T3株は、Bacillus haloduransに帰属する菌株と推定できる。一方、T3株の表2、3に示された性状は、16S rDNA塩基配列解析の結果において近縁性が示唆されたBacillus haloduransの性状と一致する点は多いものの、ソルビトールを資化する点、サリシン、メレチトース、および2-ケトグルコネートを資化しない点においてBacillus haloduransの典型性状とは異なる。

【0023】
また、T3株は、Bacillus halodurans の基準株(DSM497株)との間のDNA-DNAハイブリダイゼーションによりDNA-DNA相同値を比較した結果、56%であったことから、70%以上の相同値の菌株同士を同種と定義する基準に鑑み、両菌株は別種と判断される。

【0024】
以上の16S rDNA塩基配列解析、分子系統樹解析、生理・生化学性状、DNA-DNAハイブリダイゼーションから総合的に判断した結果、T3株は、Bacillus haloduransに近縁するバチルス属に属する新種の菌株であると推定された。よって、本菌株をバチルス・スピーシーズT3株(Bacillus sp. T3株)と命名した。本菌株は、2010年3月26日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に受託番号NITE P-921(識別の表示:T3(SIID5987))として寄託された。

【0025】
本発明の微生物には、上記のT3株のほか、この菌株の16SrDNAに対して高い相同性を示す16SrDNAを有する菌株も含まれる。このような菌株は、T3株と近縁の菌株であると考えられ、T3株と同様に50~55℃の高温下でもアンモニア酸化能を有すると考えられる。ここで、「高い相同性」とは、95%以上の相同性、好ましくは97%以上の相同性、更に好ましくは99%%以上の相同性、最も好ましくは100%の相同性をいう。

【0026】
このようなT3株の近縁菌株は、例えば、一般堆肥などのサンプルから、50℃でのアンモニア酸化能と配列番号1に記載の塩基配列を指標として単離することができる。

【0027】
例えば、後記実施例に示すように、一般堆肥などのサンプルを上記表1に示す堆肥型培地に添加して50~55℃、好ましくは50℃で培養し、その培養液を同堆肥型培地に寒天を加えたプレート上で培養し、コロニーを形成させて微生物を単離する。続いて、単離した微生物を同堆肥型培地にて50~55℃、好ましくは50℃で培養した後、アンモニア酸化能が認められた微生物を選択する。この微生物の16S rDNA塩基配列について、NCBIのプログラム BLAST (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)の塩基配列データベースに対して相同性検索を行う。

【0028】
本発明の微生物は、前記表1に示す培地を用いて培養・増殖することができる。培養温度は、本発明の微生物の生育温度の範囲、好ましくは最適生育温度の範囲に設定すればよく、例えば30~50℃、好ましくは30~40℃の範囲が挙げられる。培養時間は、通常、48時間程度行う。また、培養期間中、pHは7~9に保持することが好ましい。培地のpHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。

【0029】
2.本発明の微生物を用いるアンモニア発生抑制剤
以上のようにして得られる本発明の微生物は、アンモニア発生抑制剤として使用することができる。また、アンモニア発生抑制剤として使用する際の微生物の形態は特に限定されず、培養物、菌体、またはそれらの処理物が含まれる。培養物または菌体の処理物とは、培養物または菌体を常法により処理したもの全てを包含する概念であり、例えば、培養物または菌体の希釈物・濃縮物・乾燥物・凍結物をいう。

【0030】
本発明のアンモニア発生抑制剤による処理は、アンモニア発生抑制による悪臭防止を目的とする処理であれば特に制限はなく、家畜糞尿の堆肥化処理、家畜(ペットを含む)動物や動物園の飼育動物の糞尿の廃棄処理、生ゴミ処理などが挙げられるが、好適には家畜糞尿の堆肥化処理である。処理の具体的な方法や手順は処理の目的によって相違するが、例えば、本発明のアンモニア発生抑制剤を糞尿や生ゴミ等の悪臭発生源に直接散布する、畜舎の周辺に散布する等が挙げられ、当業者であれば、処理の目的に応じて適切に本発明のアンモニア発生抑制剤を使用することができる。

【0031】
本発明の微生物の菌体またはその培養物、それらの処理物はそれ自体単独でアンモニア発生抑制剤として使用できるが、他の任意成分と組み合わせて通常の微生物製剤と同様の形態(例えば粉剤、水和剤、乳剤、液剤、フロアブル剤、塗布剤等の形態)に製剤化してもよい。組み合わせて使用される任意成分としては例えば固体担体、補助剤が挙げられる。

【0032】
3.本発明の微生物を用いる堆肥の製造
本発明の微生物は、堆肥の製造に使用することができる。本発明において「堆肥」とは有機資材を原料として用いられるものをいい、特に限定はされないが、好適には、家畜糞尿を主原料とする「きゅう肥」や、これに水分調整を目的として植物資源を混合したものをいう。植物資源としては、糠(米糠、麦糠、小麦ふすまなど)、植物油粕(菜種、大豆、綿実、ゴマ、落花生などの油粕、脱脂米糠など)、もみ殻、おがくず、稲わら、枯葉・枯草の体積物などが挙げられる。家畜糞尿の種類も特に限定はされず、牛糞、豚糞、鶏糞のいずれか一種、またはこれらの2種以上の混合物であってよい。家畜糞尿に対する植物資源の割合も特に限定はされないが、家畜糞尿に対して植物資源が5~10%程度が適当である。また、上記の家畜糞尿と植物資源の混合物の含水率は、特に制限はされないが、60~70%程度が発酵に適している。

【0033】
堆肥の製造は、上記の堆肥材料に本発明の微生物を混合し、発酵、熟成させることにより行う。種堆肥の調製、および堆肥化の工程は、使用する堆肥材料に応じて適宜変更すれば良い。微生物の堆肥材料への混合量については、堆肥化処理においてアンモニア発生を効果的に抑制できる量であれば特に制限はされないが、例えば、上記の家畜糞尿と植物資源の混合物からなる堆肥材料の全重量(乾燥重量)に対し、10~10CFU/gの濃度となるように設定するのが適当である。なお、「CFU」という単位は、コロニー形成単位(colony formation unit)を意味し、対象となる菌株が生育し得る条件下で該菌株の培養を行ったときに形成するコロニーの数を表す。

【0034】
上記堆肥化処理の期間は、家畜糞尿が十分に堆肥化される期間であればよく、処理する家畜糞尿の量、他の添加物の種類、処理の形態等によっても異なるため、特に制限されない。また、このような期間中、必要であれば、堆肥化処理混合物に含まれる菌株の家畜糞尿への作用効率を上げるために、適当な時期に切り返しを行って混合してもよい。

【0035】
本発明の微生物を用いた家畜糞尿の堆肥化の方法として、牛糞を例に挙げてより具体的に説明する。

【0036】
まず、本発明の微生物の培養液を乾燥した牛糞に加えて約50℃で2~3日培養して培養種を調製する。次いで、生牛糞におがくず、米糠等の副資材を混合して調製した種堆肥培地に、上記培養種を添加し、1日に1~3回程度切り返しを行いつつ2週間程度かけて種堆肥を調製する。種堆肥調製期間の1週間目くらいで半乾燥牛糞と米糠の混合物を加える。この場合、米糠の配合割合は、半乾燥牛糞に対し20~30%程度でよい。

【0037】
このようにして得られた種堆肥を、牛糞を主とする堆肥材料に混合し、2~3日に1回切り返しを行って約15~30日間堆積発酵させる。種堆肥の使用量は、牛糞を主とする堆肥材料当たり、5~30%程度が好ましい。堆積発酵は、コンポストを麻袋等で覆い、通気量約0.05~0.2VVMで通気しながら行う。種堆肥を牛糞に添加すると1~3日で急速に70℃くらいまで温度が上昇すると共に急速にアンモニアの発生が見られるが、その後急速にアンモニアが消失し、pHが低下して、堆肥化が急速に進行する。本発明においては、従来の堆肥方法に比べてアンモニア発生量を30~40%程度低減させることができ、アンモニア臭が極めて効果的に抑えられ、また、堆肥化の一次発酵が短時間で完了する。

【0038】
上記のようにして得られた堆肥は、穀物類、野菜類、根菜類、果実類、花卉類などの栽培に元肥、追肥として使用できる。

【0039】
本発明の堆肥化処理によるアンモニア発生抑制効果は、当業者に公知の方法を用いて、堆肥から生じる気体に含まれるアンモニア濃度を測定することにより評価することができる。例えば、小型堆肥化装置「かぐやひめ」(富士平工業)を用いて、排気経路にガス検知管、例えば北川式ガス検知管(ガステック社製)を挿入してポンプで吸引することにより、排気中のアンモニア濃度の経時変化を測定することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1) 高温性アンモニア酸化細菌の単離と同定
(1) 高温性アンモニア酸化細菌の単離
前記表1に示す組成の堆肥型培地を有効容量300 mLの坂口フラスコに200mL入れ、牛糞堆肥を添加した後、50℃の振とう恒温槽で培養を48時間行った。
【実施例】
【0041】
その培養液を同堆肥型培地に寒天を加えたプレートに塗抹し、50℃で静置培養したところ、10日前後で0.5~1.0 mm程度のコロニーが形成された。堆肥型培地の寒天プレートから1900コロニーを単離した。各コロニーを再び同堆肥型培地に植菌し、50℃で培養後、グリース・イロスベイ試薬を用いて、亜硝酸生成の有無を調べた。その結果、22株から亜硝酸生成反応が見られた。その22株について、さらに亜硝酸生成能を詳しく調べるため、オートアナライザー(ブランルーベAACSII)を用いて、培地中の亜硝酸濃度を測定し、亜硝酸生成能が最も高かった1株(T3株)を分離した。T3株は、2010年3月26日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に受託番号NITE P-921として寄託されている。
【実施例】
【0042】
(2) T3株の同定
T3株の16S rDNA塩基配列による相同性検索を以下のようにして行った。ゲノムの抽出には、InstraGene Matrix(BIO RAD, CA, USA)を使用し、操作はBIO RAD社のプロトコールに従った。抽出したゲノムDNAを鋳型とし、プライマー9F, 339F, 785F, 1099F, 536R, 802R, 1242R, 1510Rを用いて、PCR(PrimStar HS DNA Polymerase:タカラバイオ, 滋賀)により16S ribosomal RNA遺伝子(16S rDNA)の全塩基配列の領域を増幅した。その後、増幅された16S rDNAをシーケンシングし(ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer System:Applied Biosystems, CA, USAを使用)、16S rDNAの塩基配列を決定した。決定した塩基配列を配列番号1に示す。得られた16S rDNAの塩基配列を用いて相同性検索を行った。相同性検索を行う際のデータベースとして、アポロンDB-BA 3.0および国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)を使用した。その結果、Bacillus haloduransの基準株(DSM497株)由来の16S rDNA塩基配列と99.8%の相同性を示した。
【実施例】
【0043】
また、この16S rDNA塩基配列解析に加え、生理・生化学性状試験(前記表2、3)結果、ならびにDNA-DNAハイブリッド形成試験で既存菌に対し70%以下の値を示したことから総合的に判断した結果、T3株はBacillus haloduransに近縁するバチルス属に属する新種の菌株であると推定した。
【実施例】
【0044】
(実施例2)分離株を用いた堆肥化
実施例1で取得したT3株を牛糞とおがくずの混合物に109 CFU/乾燥重量(DM)となるように添加して堆肥化を行ったところ、堆肥化温度は1週目に70℃程度まで上昇した(図1)。アンモニアの揮散量は、1週目で無添加区は4042.0 ppmであったのに対し、菌添加区は2591.7 ppmであり、無添加区に比べて35.9%減少していた(図2)。また、2週目では無添加区は1780.0 ppm、菌添加区は1300.0 ppmであり、無添加区に比べて27.0%減少していた。全期間では、分離株を添加することにより30%のアンモニア揮散低減効果があった。
【受託番号】
【0045】
NITE P-921
図面
【図1】
0
【図2】
1