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明細書 :熱伝導体とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4783956号 (P4783956)
公開番号 特開2007-277481 (P2007-277481A)
登録日 平成23年7月22日(2011.7.22)
発行日 平成23年9月28日(2011.9.28)
公開日 平成19年10月25日(2007.10.25)
発明の名称または考案の名称 熱伝導体とその製造方法
国際特許分類 C08J   5/00        (2006.01)
C09K   5/00        (2006.01)
FI C08J 5/00 CFJ
C09K 5/00
請求項の数または発明の数 5
全頁数 7
出願番号 特願2006-108711 (P2006-108711)
出願日 平成18年4月11日(2006.4.11)
審査請求日 平成21年4月6日(2009.4.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】玉田 靖
【氏名】平井 伸治
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】一宮 里枝
参考文献・文献 国際公開第2005/090481(WO,A1)
特開平03-211024(JP,A)
調査した分野 C08J 5/00- 5/02
C08J 5/12- 5/22
B29C 43/00- 43/58
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
特許請求の範囲 【請求項1】
絹タンパク質をパルス通電焼結による加熱及び加圧処理に供することを特徴とする、絹タンパク質から成る熱伝導体の製造方法。
【請求項2】
上記絹タンパク質がフィブロインであることを特徴とする、請求項1記載の熱伝導体の製造方法。
【請求項3】
上記加熱及び加圧処理が300℃以下で行われることを特徴とする、請求項1又は2記載の熱伝導体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の熱伝導体の製造方法により製造される絹タンパク質から成る熱伝導体。
【請求項5】
熱伝導率が0.3W/(m・K)以上であることを特徴とする、請求項4記載の熱伝導体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、絹タンパク質を用いた熱伝導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導体とは、一般的に熱を伝え易い物質を意味する。固体に温度勾配が生ずると、高温側では伝導電子、フォノン及びフォトン等の密度が低温側に較べて増加し、これらの量子が高温側から低温側へ向かって流れることにより熱伝導が生じる。高分子やセラミックスでは、伝導電子の密度が非常に低いため、フォノンによる伝導が支配的になる。
【0003】
パソコン、携帯情報端末及び電力用電子デバイス等の小型・高性能化が進み、これに伴い、機器内部で発生した熱を如何にして放散するかという課題が持ち上がる。特に、絶縁を担う基板材料の樹脂部分が熱抵抗の主原因となる問題が発生している。
【0004】
一方、家電やIT機器の急速な進歩により、それらに関する機器のターンオーバー期間が短縮されている。それに伴い膨大な量のプリント基板や半導体が廃棄物として捨てられることとなる。今後、このような廃棄は、大きな環境問題となり得る可能性が高い。
【0005】
このような背景において、熱伝導性に優れ、且つ生分解性を有する熱伝導体が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した実情に鑑み、熱伝導性に優れ、且つ生分解性を有する熱伝導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明者らは、絹タンパク質を出発原料として用いることで熱伝導性に優れ、且つ生分解性を有する熱伝導体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下を包含する。
【0009】
(1)絹タンパク質を成形に供することを特徴とする、熱伝導体の製造方法。
(2)上記絹タンパク質がフィブロインであることを特徴とする、(1)記載の熱伝導体の製造方法。
(3)上記成形が加圧処理工程を含むことを特徴とする、(1)記載の熱伝導体の製造方法。
(4)上記加圧処理工程が300℃以下で行われることを特徴とする、(3)記載の熱伝導体の製造方法。
(5)絹タンパク質を構成成分とすることを特徴とする熱伝導体。
(6)上記絹タンパク質がフィブロインであることを特徴とする、(5)記載の熱伝導体。
(7)熱伝導率が0.3W/(m・K)以上であることを特徴とする、(5)記載の熱伝導体。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る熱伝導体の製造方法によれば、各種分野で有用な熱伝導性に優れた熱伝導体を効率よく生産することができる。また、本発明に係る熱伝導体は、絹タンパク質から製造されるので生分解性を有する。
【0011】
さらに、本発明に係る熱伝導体は、誘電特性に優れた誘電体でもあり(国際出願PCT/JP2006/306063号(日本国特許出願2005-088222号を優先権の基礎とする)参照)、優れた熱伝導性と誘電特性とを兼ね備えた材料として各種分野で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る熱伝導体の製造方法により、絹タンパク質から熱伝導性に優れた熱伝導体を製造することができる。ここで、熱伝導体とは、熱を伝え易い物質を意味する。
【0013】
本発明に係る熱伝導体の製造方法において使用する絹タンパク質としては、例えば家蚕、野蚕、天蚕等の蚕が生産するいずれの絹タンパク質であってもよい。絹は、2種の絹タンパク質(フィブロイン及びセリシン)から構成されている。フィブロインは繊維を形成しているタンパク質である。一方、セリシンは、絹糸を構成しているタンパク質であって、絹においてフィブロインが形成する繊維の外側を層状に覆っているゼラチン様の物性を有するタンパク質である。本発明においては、生産性の点から、フィブロインを絹タンパク質として使用することが好ましい。
【0014】
絹タンパク質は、蚕が生産する繭からの抽出や精製によって調製することができる。また、蚕の絹糸腺から絹タンパク質を抽出することができる。特に、製造工程の簡便性から家蚕の繭から絹タンパク質を調製することが好ましい。例えば、繭や絹糸腺から抽出溶媒を用いた溶媒抽出を行うことで、絹タンパク質抽出物を抽出することができる。また、上述した絹タンパク質抽出物を、濃縮処理することもできる。さらに、絹タンパク質抽出物を、ろ過、遠心分離、透析又は精製処理等に供することで、当該抽出物から不溶物及び抽出溶媒等を除去したものを用いることができる。なお、本発明において、絹タンパク質抽出物とは、上記抽出方法で得られた絹タンパク質水溶液等の各種溶媒抽出液、その希釈液又はその濃縮液等を意味する。
【0015】
本発明に係る熱伝導体の製造方法においては、絹タンパク質として、上述した絹タンパク質抽出物に加えて、例えば、既知の種々の方法を用いて調製した絹タンパク質を含む繊維、粉末、フィルム、スポンジ、ゲル、溶液等の形態のものを使用することができる。例えば、市販されている絹粉末のシルクパウダーIM(カネボウシルク技術開発センター製)を絹タンパク質として用いることができる。
【0016】
また、本発明においては、絹タンパク質を化学加工やグラフト重合により化学的に修飾した絹タンパク質を使用することもできる。さらに、トランスジェニック・カイコ等が生産する改変された絹タンパク質を用いることもできる。加えて、化学的、あるいは酵素的に分解した絹タンパク質を用いることもできる。また、これらの改変された絹タンパク質の混合物や各種蚕が生産する絹タンパク質の混合物を使用してもよい。
【0017】
本発明に係る熱伝導体の製造方法では、また、絹タンパク質に各種水性溶媒又は水溶性高分子を添加したものを使用することができる。絹タンパク質に添加することができる水性溶媒としては、例えば、水、グリセロールなどが挙げられる。また、水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシメタクリレートなどが挙げられる。絹タンパク質に添加する水性溶媒又は水溶性高分子の添加量は、絹タンパク質に対する重量%で、0~50%、特に0~40%が好ましい。添加量が50%を超えると、製造した熱伝導体本来の熱伝導率が発現しなくなる可能性がある。
【0018】
本発明に係る熱伝導体の製造方法では、絹タンパク質を成形に供することで、成形体を製造する。本発明においては、当該成形体が熱伝導体となる。成形方法としては、例えば、絹タンパク質(絹タンパク質抽出物や絹タンパク質溶液等)のキャスト・乾燥処理による製膜化、基板上へのコーティング処理によるフィルム化、あるいは加圧処理による成形加工手法等が挙げられる。加圧処理方法としては、例えばパルス通電焼結法やホットプレス法を用いることができる。また、成形体の形状としては、特に限定されないが、例えば、フィルム、平板、丸棒、円板、角棒、ロッド等が挙げられる。
【0019】
キャスト・乾燥処理による製膜化では、特に濃度は限定されないが、例えば、0.05%~20%程度の絹タンパク質抽出物又は絹タンパク質溶液をプラスチックシャーレ等の表面にキャストし、乾燥処理することで成形体を成形できる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば4℃~300℃の範囲内が好ましい。また、製膜後に加圧処理や有機溶媒処理等の後処理を加えてもよい。加圧処理の圧力は、特に限定されないが、例えば、0.1~100MPaが好ましい。
【0020】
一方、基板上へのコーティング処理によるフィルム化では、特に濃度は限定されないが、例えば、0.05%~20%程度の絹タンパク質抽出物又は絹タンパク質溶液をプラスチックや金属、あるいはセラミックス基板上へコーティングすることで成形体を成形できる。コーティング後に、乾燥や加圧処理を加えてもよい。乾燥処理の温度や加圧処理の圧力は特に限定されないが、乾燥処理の温度は4~300℃、加圧処理の圧力は0.1~100MPaが好ましい。
【0021】
また、加圧処理による成形加工手法では、例えば、絹タンパク質を所望の形状のセル中に入れ、所定時間、加圧処理を行う。加圧処理は、300℃を超えると、成形体の炭化が進む可能性があるため、300℃以下、好ましくは250℃以下、特に好ましくは200℃以下で行われる。一方、加圧処理が室温(例えば23℃)未満で行われると、均一な成形体が成形されない可能性がある。そこで、加圧処理は、例えば室温以上、好ましくは60℃以上、特に好ましくは80℃以上の温度で効率よく行うことができる。さらに、加圧処理は、圧力5MPa以上で行われる。圧力5MPa未満では、均一な成形体が成形されない可能性がある。また、圧力が100MPaを超えると、成形体が脆くなる可能性がある。そこで、加圧処理は、例えば5MPa~100MPa、好ましくは10MPa~50MPaで効率よく行うことができる。なお、加圧処理に加えて加熱処理を行う場合には、同時に、又は別個に順次行うことができる。加圧処理時間は、成形体の成形可能な時間に応じて適宜選択することができるが、10~120分間とすることが好ましい。加圧処理時間が10分未満であると均一な成形体が成形できない可能性がある。また120分間を超えると、成形体が脆くなる可能性がある。次いで、加圧処理によって得られた成形体をセルから取り出し、冷却することによって、所定の形状を有する成形体(すなわち、熱伝導体)を得ることができる。
【0022】
このように得られた成形体は、そのまま使用することも、あるいは機械的加工によって更に所望の形状とした後に使用することができる。
【0023】
以上に説明した本発明に係る製造方法によれば、熱伝導性に優れた熱伝導体を得ることができる。ここで、熱伝導性としては、例えば、熱伝導率が挙げられる。
【0024】
熱伝導率とは、熱流束密度(x方向に単位時間に単位面積を通過する)と、この方向における温度勾配との比をいう。熱流束密度をJ、温度をT、温度勾配をdT/dxとすると、熱伝導率κとの関係は次のように表される。
【0025】
【数1】
JP0004783956B2_000002t.gif

【0026】
本発明に係る熱伝導体の熱伝導率は、一般的な定常法の他、レーザーフラッシュ法により求めた熱拡散率(cm2/s)、熱容量(J/(g・K))及び密度(g/cm3)の積により計算することができる。定常法や上記方法により測定された熱拡散率、熱容量及び密度に基づく熱伝導率が、0.3W/(m・K)以上、好ましくは0.35W/(m・K)以上、より好ましくは0.45W/(m・K)以上、特に好ましくは0.55W/(m・K)以上である場合に、本発明に係る熱伝導体の熱伝導率が良好であると判断することができる。
【0027】
本発明に係る熱伝導体の製造方法によれば、絹タンパク質を構成成分とする熱伝導性に優れた熱伝導体を得ることができる。また、得られる熱伝導体は、絹タンパク質を構成成分とし、生分解性を有することから、当該熱伝導体の製造及び廃棄において環境に対する負荷が低減されている。
【0028】
また、本発明に係る熱伝導体は、高周波数領域において比誘電率が低く、且つ誘電正接が低いという誘電特性に優れた誘電体としても使用できる(国際出願PCT/JP2006/306063号(日本国特許出願2005-088222号を優先権の基礎とする)参照)。従って、本発明に係る熱伝導体(成形体)は、高周波数領域における低い比誘電率及び低い誘電正接並びに高い熱伝導性及び生分解性を兼ね備えていることから、環境調和型の高熱伝導プリント基板材料、半導体、ICカード及びICタグ用パッケージ材料などに幅広く適用できる。
【0029】
さらに、近年、分子内で秩序性高く自己配列させた構造を有する液晶エポキシ樹脂が高い熱伝導性を有することが報告されている(竹澤 由高、永井 晃及び山田 真治、日立評論、2004年、86[7]、p.521)。従って、本発明に係る熱伝導体においても結晶の配向によっては、さらに高い熱伝導性が期待される。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
本発明に係る熱伝導体の製造及びその熱伝導体の熱伝導性
絹微粉末をパルス通電焼結装置を用いて加熱・加圧処理し、「べっ甲」に近い色彩を有する成形体(本発明に係る熱伝導体)を生成した。なお、絹粉末はシルクパウダーIM(カネボウシルク技術開発センター製)を用いた。
【0032】
先ず、この絹粉末(シルクパウダーIM)に、重量比で20%の蒸留水を添加したものを、内径10mmの黒鉛製ジグに充填し、4.0Pa以下の真空中でパルス通電焼結装置を用いて、加熱・加圧処理することで、成形体(熱伝導体)を成形した。
【0033】
成形では、圧力50MPaを加えながら、20K/分の昇温速度で200℃まで昇温した後、直ちに30K/分の冷却速度で冷却した。続いて、100℃の大気雰囲気中で3日間乾燥したものを、次の熱伝導率測定用試料として用いた。乾燥後に得られた成形体の写真を図1に示す。
【0034】
得られた成形体試料を用いて、レーザーフラッシュ法により熱拡散率を測定した。また、この成形体試料を用いて、DSCにより熱容量と密度を測定した。
【0035】
上記測定の結果、成形体試料の熱拡散率は0.0018cm2/sであり、熱容量が2.020J/(g・K)、密度が1.19g/cm3であった。従って、得られた成形体の熱伝導率は、0.44W/(m・K)であった。この熱伝導率の値は、φ50mmの試料を用い、試料に一定のジュール熱を与え、その時の熱流量と温度勾配とから直接に熱伝導率を求める定常法で測定した値と同じであった。
【0036】
日立評論, 2004年, 86[7](竹澤 由高、永井 晃及び山田 真治)の第521頁には、HDPE(高密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、POM(ポリオキシメチレン)、PA(ポリアミド)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)及びPVC(ポリ塩化ビニル)等の熱可塑性樹脂の熱伝導率についてのグラフが開示されている。
【0037】
当該グラフを参照すれば、本実施例で得られた成形体は、一般的なプラスチックの中で最高レベルの熱伝導率(0.38W/(m・K)~0.60W/(m・K))を有する高密度ポリエチレン樹脂に匹敵する高い熱伝導率を有することが判った。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、実施例で製造した成形体の写真を示す。
図面
【図1】
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