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明細書 :羊スクレイピー由来異常プリオン蛋白質の効率的増幅方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5209711号 (P5209711)
登録日 平成25年3月1日(2013.3.1)
発行日 平成25年6月12日(2013.6.12)
発明の名称または考案の名称 羊スクレイピー由来異常プリオン蛋白質の効率的増幅方法
国際特許分類 C07K  14/47        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
FI C07K 14/47
G01N 33/68
請求項の数または発明の数 2
全頁数 13
出願番号 特願2010-514497 (P2010-514497)
出願日 平成21年5月26日(2009.5.26)
国際出願番号 PCT/JP2009/059617
国際公開番号 WO2009/145194
国際公開日 平成21年12月3日(2009.12.3)
優先権出願番号 2008139280
優先日 平成20年5月28日(2008.5.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年6月17日(2011.6.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】村山 裕一
【氏名】舛甚 賢太郎
【氏名】横山 隆
【氏名】毛利 資郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100083301、【弁理士】、【氏名又は名称】草間 攻
審査官 【審査官】福澤 洋光
参考文献・文献 国際公開第2004/113925(WO,A1)
国際公開第2005/001481(WO,A1)
特開2007-119400(JP,A)
国際公開第2006/113915(WO,A1)
特開2004-292437(JP,A)
MURAYAMA, Y., et al.,Efficient in vitro amplification of a mouse-adapted scrapie prion protein.,Neuroscience letters,2007年,Vol.413,p.270-273
調査した分野 C07K1/00-19/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
正常プリオン蛋白質(PrP)をソースとし、異常プリオン蛋白質(PrPSc)をシードとして用い、両者を混合・培養-超音波処理を繰り返えすことによる羊スクレイピー由来PrPScを増幅させる蛋白質ミスホールディング循環増幅(PMCA:protein misfolding cyclic amplification)法において、PrPとして、マウス又はラットのPrPを使用することを特徴とする羊スクレイピー由来PrPScの効率的増幅方法。
【請求項2】
ソースとして用いるPrPが、PrPを含む脳乳剤であり、シードとして用いる羊スクレイピー由来のPrPScが、羊スクレイピー感染動物由来のPrPScを含む体組織である請求項1に記載の羊スクレイピー由来PrPScの効率的増幅方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、羊スクレイピー由来の異常プリオン蛋白質の効率的な試験管内の増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異常プリオン蛋白質の増殖による疾患として最初に発見されたのが、スクレイピー(Scrapie)という羊にみられる運動機能失調にかかわる疾患であり、脳にスポンジ状の空胞形成が認められるという特徴をもつ。その後、この異常プリオン蛋白質の増殖による疾患として、狂牛病とも称されている牛海綿状脳症(BSE:Bovine Spongiform Encephalopathy)、ヒトにおけるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD:Creutzfeldt Jakob Disease)や、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS:Gerstmann-Straussler-Scheinker Syndrome)などが知られている。
【0003】
これらの疾患はウイルス感染によるものではなく、また既知の病原体は発見されておらず、特異的な蛋白質が共通に存在するところから、これが伝達~感染を引き起こす病原物質と思われ、「蛋白質性感染粒子“プリオン”: proteinaceous infectious particle:prion」が提唱されて、上記した各種の特異的疾患は、プリオン病と称されるようになった。
【0004】
ところで、ヒトのプリオン蛋白質遺伝子は、第20番染色体上に存在し、プリオン蛋白質は、235個のアミノ酸により構成されていることが判明している。感染因子プリオンの主な構成成分はこのプリオン蛋白質と考えられており、感染因子を構成するプリオン蛋白質をスクレイピー型または異常型プリオン蛋白質(PrPSc)と称し、正常型のプリオン蛋白質を正常プリオン蛋白質(PrP)と称している。
ヒトを含む多くの動物種でプリオン病が認知され、一般的にプロテアーゼ抵抗性の異常プリオン蛋白質(PrPSc)の蓄積が感染個体に認められることから、このPrPScが主病原体として関与していると考えられている。
【0005】
プリオン病の伝播は、異種の動物間でも起こりえる。例えば、スクレイピーに感染した羊材料の動物飼料への混入により牛に感染してBSEを発症した可能性があり、さらにBSEに感染した牛材料を含む飼料を食した猫に、猫海綿状脳症(FSE)が発症したと考えられる。したがって、最近の研究では、特にBSEがヒトへ感染する可能性が濃厚となっていると報告されている(非特許文献1)。
【0006】
スクレイピーは、羊、山羊にみられるプリオン病であるが、18世紀にヨーロッパにおいて大流行し、我が国でも1948年以降、散発的であるが発生が認められている。
ところで、スクレイピー感染羊、すなわち、異常プリオン蛋白質(PrPSc)に感染した羊には、他の感染症や代謝病の診断に用いられているような簡便な診断法が応用できず、また潜伏期間が長いことから、スクレイピー感染羊の実用的な生前診断法は確立されていない。さらに、血液などの生体材料に含まれるPrPSc量は極微量であると考えられ、生前診断には、従来法の検出限界をはるかに凌ぐ超高感度な検出技法の開発が必要である。
【0007】
一方、異常プリオン蛋白質(PrPSc)は、通常の滅菌処理では不活性化されないという特徴を有している。PrPScの不活化の確認には、通常、不活性化されたであろうPrPScをマウスなどの実験動物に接種し、発症の有無を確認することで感染性を検出するバイオアッセイ法が用いられる。しかしながら、この方法は実験動物を長期間飼育・観察する必要があり、その結果は数十~数百日後でないと得られず、膨大な経過観察の手間と費用がかかるという問題がある。
したがって、不活化処理後、残存するPrPScを短期間に検出することができる高感度な方法が開発できれば、プリオン不活性化方法の開発、及びその評価において著しい改善をもたらすことになる。
【0008】
これまで行われている異常プリオン蛋白質(PrPSc)の検出方法としては、プリオンに感染した脳乳剤と正常脳乳剤を試験管内で混合し、超音波処理・攪拌培養を繰り返すことによってPrPScを増幅させる方法としてのPMCA(蛋白質ミスホールディング循環増幅:protein misfolding cyclic amplification)法が開発され、極微量のPrPScを検出することが可能となった(非特許文献2、特許文献1)。
【0009】
このPMCA法で用いられたPrPScは、スクレイピー(ハムスターに順化させた263K株)を感染させたハムスターの脳乳剤であり、これを希釈し、それに正常プリオン蛋白質(PrP)として正常なハムスターの脳乳剤を加えて、混合し、試験管内で培養させ、過剰に加えられたPrPがPrPScに構造変換されることによりPrPScを増幅させ、これを超音波処理にかけて、凝集しているPrPScを微細化し、再び過剰のPrPと培養するという、一連の混合・培養-超音波処理のサイクルを繰り返すことによりPrPScの量を増幅させる方法である。
【0010】
このPMCA法は、ハムスタースクレイピー感染モデルのPrPScの増幅には極めて有効なものであり、5サイクルでPrPScの増幅率は平均58であり、10サイクルでは、PrPScサンプルを1万倍以上に希釈しても検出でき、感染ハムスターの血液(非特許文献3)や尿(非特許文献4)といった体液中の極微量のPrPScを検出することが可能であり、潜伏期にある動物の血液細胞からもPrPScを検出することができ(非特許文献5および4)、プリオン病の早期診断法、或いはプリオン不活性化の評価法としての有用性が示されている。
【0011】
しかしながら、提案されたPMCA法は、ハムスタースクレイピー感染モデルのPrPScの増幅には極めて有効なものであるが、スクレイピー感染羊の異常プリオン蛋白質(PrPSc)の増幅に適用すると、十分な増幅が得られないといった問題があり、羊スクレイピーの生前診断法若しくは早期診断法としてはその応用は十分なものではない。

【特許文献1】特公表2004-503748号公報
【非特許文献1】Nature, 383: p685-690 (1996)
【非特許文献2】Nature, 411: p810-813 (2001)
【非特許文献3】Nat. Med., 11: p982-985 (2005)
【非特許文献4】J. Gen. Virol., 88: p2890-2898 (2007)
【非特許文献5】Science, 313: p92-94 (2006)
【非特許文献6】FEBS Lett., 579: p638-642 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明は、かかる現状に鑑み、羊スクレイピー由来の異常プリオン蛋白質(PrPSc)の効率的な増幅方法を提供することを一義的な課題とし、究極的には、スクレイピーに感染した羊の早期発見によるプリオン病の伝播を根絶すること、また、プリオン不活性化方法の開発及びその早期評価を可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するために、本発明者はこれまで行われているPMCA法を改良することにより、羊スクレイピー由来の異常プリオン蛋白質(PrPSc)を効率に増幅させることが可能となり、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、これまで提案されているハムスタースクレイピー感染モデルのPrPScの増幅を可能にするPMCA法においては、増幅するPrPScと同種の正常動物(ハムスター)のPrPを混合して、PrPScを増幅させている。
これは一般的に、異種動物間で増幅を行うと、同種動物間に比較して増幅効率が低いか、或いは全く増幅できないからである(非特許文献6)。
本発明者はこの点を改良するべく検討を加え、羊スクレイピー由来のPrPScの増幅を行うに当たって、異種動物の正常プリオン蛋白質(PrP)をソースとして使用した結果、驚くべきことに、PrPScの増幅効率が大幅に改善され、従来のPMCA法では検出できなかった極微量の羊スクレイピー由来のPrPScをも検出することが可能となることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
而して本発明は、正常プリオン蛋白質(PrP)をソースとし、異常プリオン蛋白質(PrPSc)をシードとして用い、両者を混合・培養-超音波処理を繰り返えすことによる羊スクレイピー由来PrPScを増幅させる蛋白質ミスホールディング循環増幅(PMCA:protein misfolding cyclic amplification)法において、PrPとして、異種動物のPrPを使用することを特徴とする羊スクレイピー由来PrPScの効率的増幅方法である。
【0016】
具体的には、本発明は、ソースとして用いる異種動物のPrPが、齧歯類のPrPである上記の羊スクレイピー由来PrPScの効率的増幅方法である。
【0017】
より具体的には、本発明は、異種動物である齧歯類として、マウス又はラットを用いる上記の羊スクレイピー由来PrPScの効率的増幅方法である。
【0018】
更に具体的には、本発明は、ソースとして用いるPrPが、PrPを含む脳乳剤であり、シードとして用いる羊スクレイピー由来のPrPScが、羊スクレイピー感染動物由来のPrPScを含む体組織である上記の羊スクレイピー由来PrPScの効率的増幅方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明方法により、羊スクレイピー由来のPrPScについて、極微量のPrPScを検出することが可能となり、本発明方法による羊スクレイピー由来のPrPScの検出感度は、ELISA法などの既存の検出方法と比較して著しく効率的なものであり、増幅反応を適宜繰り返すことにより、バイオアッセイ法を上回る感度が得られる利点を有している。
さらに、従来のバイオアッセイ法によるPrPScの検出には膨大な時間と経費がかかっていたが、これを回避することが可能となり、その実用性、迅速性の面においても優れたものである。
【0020】
したがって、羊スクレイピーの生前診断並びに早期診断を可能にし、その上、羊スクレイピー異常プリオン蛋白質の不活性化の迅速な評価が可能となることから、異常プリオン蛋白質の不活性化方法を確立する一助となる。また、肉骨粉などの飼肥料原材料の安全性評価法、土壌PrPSc等の環境モニタリング等に応用できる利点を有している。
特に、羊スクレイピーの発生は、日本のみならず、オーストラリアとニュージーランドを除く多くの羊飼育国で確認されており、また、未発生国においても今後の発生のリスクは考慮されるべきであるが、本発明方法は生体(動物)輸入に対する防疫対策、更には輸入羊肉に対する羊スクレイピーの予防対策としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の試験例1に従う、各異種動物PrPソースを添加した結果を示した図である。
【図2】本発明の試験例1に従う、各異種動物PrPソースを添加した結果を示した図である。
【図3】本発明の試験例2に従う、シードとしてのPrPScの添加濃度を検討した結果を示した図である。
【図4】本発明の試験例2に従う、シードとしてのPrPScの添加濃度を検討した結果を示した図である。
【図5】本発明の試験例3に従う、シードとしてのPrPScの添加濃度を検討した結果を示した図である。
【図6】本発明の試験例4に従う、遺伝子型の異なるスクレイピー感染羊由来のPrPScについて、その増幅を検討した結果を示した図である。
【図7】本発明の試験例4に従う、遺伝子型の異なるスクレイピー感染羊由来のPrPScについて、その増幅を検討した結果を示した図である。
【図8】本発明の試験例5に従う、スクレイピー感染羊における血中PrPScの検出の結果を示した図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、上記したように、その基本的な態様は、正常プリオン蛋白質(PrP)をソースとし、異常プリオン蛋白質(PrPSc)をシードとして用い、両者を攪拌混合・培養-超音波処理を繰り返えすことによる羊スクレイピー由来のPrPScを増幅させるPMCA法において、PrPとして、異種動物のPrPを使用することを特徴とする羊スクレイピー由来PrPScの増幅効率的増幅方法である。
【0023】
ここで使用するソースとしての正常プリオン蛋白質(PrP)は、スクレイピー感染羊のPrPScの増幅を図ることから、羊以外の異種動物のPrPであり、そのような異種動物のPrPとして種々のものを挙げることができるが、具体的には、マウス、ラットなど齧歯類から選択されるPrPを挙げることができる。
そのなかでも、特にマウスのPrPをソースとして用いることにより、PrPScの増幅効率を高めることができる。
なお、異種動物であっても、山羊、牛、ブタ、ハムスター、ニワトリ、リスザル、カニクイザルのPrPをソースとして用いても、PrPScの増幅は認められなかった(後記する試験例を参照)。
【0024】
ソースとして用いる正常プリオン蛋白質(PrP)としては、これらの異種動物の体組織を用いることができ、好ましくは脳乳剤が使用される。
この脳乳剤は、これら異種動物の脳を乳鉢等によりすりつぶしたもの(ホモジネートしたもの)であるが、より具体的には、正常異種動物の脳を、1%Triton X-100(t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)-4mM EDTA-PBS(プロテアーゼインヒビターを含む)でホモジナイズし、10%(w/v)溶液としたものを用いるのがよい。
【0025】
一方、シードとして用いる羊スクレイピー由来のPrPScとしては、スクレイピー感染羊の体組織が好ましく使用される。そのような体組織としては、スクレイピー感染羊の脳組織、血液組織、尿等、あらゆる体組織を使用することができる。
すなわち、本発明が提供する増幅方法よれば、極微量のPrPScであっても効率的にPrPScを増幅することが可能となる。したがって、この新たなPMCA法を活用することにより、極微量の羊スクレイピー由来の異常プリオン蛋白質が存在する試料の検出が可能となり、スクレイピー感染羊検出感度が高まるものであることから、シードとして用いる羊スクレイピー由来のPrPScとしては特に限定されず、スクレイピー感染羊のあらゆる体組織を使用することが可能である。
【0026】
ところで従来のハムスタースクレイピー感染モデルのPrPScを増幅させるPMCA法にあっては、増幅を行う場合にあたって、通常、界面活性剤を添加し異常プリオン蛋白質を可溶化した後にPrPとPrPScを混合し、ソースとして用いたPrPをPrPScに構造変換させ、増幅を図っている。
本発明のPMCA法においても界面活性剤の存在下に行われ、そのような界面活性剤としては、非イオン性の界面活性剤であり、好ましくは、t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(Triton X-100)、ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル(NP-40)等が使用されるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明方法の一般的な操作方法を、以下に説明する。
すなわち、本発明方法にあっては、上記したように、異種動物の正常プリオン蛋白質(PrP)をソースとし、羊スクレイピー由来のPrPScをシードとして用い、両者を攪拌混合・培養するが、その培養(インキュベーション)条件は一概に限定されるものではなく、適宜最適な培養条件を選択することができる。具体的には、例えば、37℃で攪拌しながら1時間程度インキュベートする方法で行うことができる。
【0028】
この攪拌混合・培養により、ソースとして加えられた異種動物のPrの一部がPrPScに構造変換されるが、その構造変換されたPrPScの凝集体を超音波処理により分散させ、再度過剰に存在するPrと攪混合拌・培養させるサイクルを繰り返す。
この超音波処理は、通常のPMCA法で用いられている超音波処理をそのまま適用することができ特に限定されず、例えば、Branson社のDigital Sonifier450D、或いはエレコン社070-GOTを用いて行うことができる。
なお、超音波処理条件としては、用いる装置により一概に限定できないが、例えば、出力を100%に設定し、0.2秒発振-0.1秒停止、或いは3秒発振-1秒休止のサイクルを5回程度行うのがよい。
【0029】
この攪拌混合・培養-超音波処理のサイクルを繰り返すことにより、ソースとして添加したPrPがPrPScに順次構造変換され、その結果、PrPScの増幅が行われることとなる。
本発明方法にあっては、通常上記のサイクルを用い、20~40サイクルを1回の増幅反応として実施するのがよい。
なお、このサイクル回数は、使用するソースとして用いるPrP、並びにシードとして用いるPrPScの濃度によって異なり、限定されるものではない。
【0030】
PrPScの増幅(攪拌培養-超音波処理のサイクルの繰り返し)が完了した後、得られた反応物を、蛋白分解酵素を用いて分解処理する、分解処理工程に付す。
一般に、異常プリオン蛋白質はプロテアーゼに抵抗性を示すので、特異的にこの蛋白質を取り出すためには、正常プリオン蛋白質を分解することが要求される。したがって、この分解処理工程は、プリオン蛋白質以外の蛋白質を分解すると共に、正常プリオン蛋白質を分解する工程である。
蛋白質分解酵素としては、プロティナーゼK(Proteinase K)を挙げることができ、これを用いて分解することが望ましい。
【0031】
なお、増幅されたPrPScの検出は、ウエスタンブロッティング法で検出することができる。具体的には、15%SDS-PAGEで分離・泳動後メンブランに転写し、ブロッキング後、HRP標識抗T2抗体で反応させる。次いで、メンブランを洗浄後、Immobilon Westernで発光反応を検出し、増幅されたPrPScを検出・確認することができる。
【0032】
本発明者の検討によれば、1回の増幅(攪拌培養-超音波処理の40サイクル)反応を5回繰り返すことで、スクレイピー感染羊脳乳剤を10-10に希釈しても検出できることが判明した。
したがって、本発明方法は、実用性、迅速性において極めて優れたものであり、羊スクレイピーの診断法、安全性評価法、防疫法として使用される可能性が高く、その応用性は多大なものである。
【0033】
ところで、羊PrP遺伝子には、種々のアミノ酸置換をもたらす変異が存在することが知られている。したがって、最近では羊スクレイピー抵抗性の固体を高める方向で、育成羊の選定と交配が行われつつある。
本発明者の検討によれば、遺伝子型の異なる羊に由来するPrPScであっても、本発明方法により、効率的にPrPScの増幅が行えることが判明した(後記する試験例を参照)。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を、実施例に代わる試験例により、より詳細に説明していくが、本発明はこれらの試験例により何ら限定されるものではない。
【0035】
試験例1:羊スクレイピー由来PrPScの増幅(ソースの検討)
1.方法
PMCA(protein misfolding cyclic amplification)法を用いて、羊スクレイピー由来の異常プリオン蛋白質(PrPSc)を増幅した。
正常プリオン蛋白質(PrP)ソースは、同種動物として正常羊、異種動物として山羊、マウス、リスザル、牛、ブタ、ニワトリ、ハムスター、ラット及びカニクイザルの10%脳乳剤を用いた。
一方、PrPScシードは、英国由来のスクレイピー感染羊10%脳乳剤を10-1に希釈して用いた。
PMCA増幅後、サンプルをプロティナーゼKで消化し、ウエスタンブロッティング法でプロテアーゼ抵抗性PrP(PrPRES)のシグナルを検出した。
【0036】
2.結果
その結果を図1及び図2に示した。図1にはPrPのソースとして羊、山羊、マウス、リスザル及び牛の結果を、また図2にはブタ、ニワトリ、ハムスター、ラット及びカニクイザルの結果を示した。
これらの結果から判明するように、ソースとして用いるPrPにあっては、同種動物(羊)のPrPでは殆ど増幅が認められないのに対して、異種動物のマウスのPrPを使用した場合には、効果的なPrPScの増幅が認められた。
なお、異種動物のラットのPrPを使用した場合には、シード無添加コントロールに比べて強いシグナルが認められ、マウスに比べると効率は低いものの、増幅が認められた。一方、山羊、牛、ニワトリ、ハムスターのPrPをソースとして用いた場合、全くシグナルが認められず、リスザル、ブタ、カニクイザルのPrPを使用した場合、シード無添加コントロールのシグナル強度が、感染羊脳乳剤を添加して増幅したサンプルのシグナル強度よりも強く、これら異種動物のPrPを使用した場合、特異的なPrPScの増幅は認められなかった。
【0037】
試験例2:羊スクレイピー由来PrPScの増幅(感受性の検討の1)
試験例1の結果から、ソースとして異種動物の中でもマウスPrPを使用した場合には、PrPScの増幅が極めて効果的なものであることが判明した。そこで、シードとして用いる羊スクレイピーのPrPScの濃度と増幅反応の回数が、どの様にPrPScの増幅に影響を与えるものであるかを検討した。
【0038】
[その1]
1.方法
試験例1と同様に、PMCA法を用いて、スクレイピー感染羊由来のPrPScを増幅した。
PrPScとして、スクレイピー感染羊の脳乳剤を10-1~10-3に希釈して使用した。
ソースとしてのPrPは、異種動物のICR系マウスPrPを使用し、比較対照として同種動物の羊PrPを用いた。
なお、無添加コントロールとして、シード無添加の対照をおいた。
【0039】
2.結果
図3にその結果を示した。図中に示した結果からも判明するように、スクレイピー感染羊の脳乳剤は、10-3に希釈した場合であっても、40サイクル/1回の増幅反応を2回行うことで効果的にPrPScの増幅が認められた。
これに対して、同種動物である羊のPrPをソースとした場合には、2回の増幅反応でも殆ど増幅が認められないものであった。
【0040】
[その2]
1.方法
上記の1と同様に、PMCA法を用いて、スクレイピー感染羊由来のPrPScを増幅した。
PrPScとして、スクレイピー感染羊の10%脳乳剤を10-1~10-8に希釈して使用した。
ソースとしてのPrPは、異種動物のICR系マウスPrPを使用し、無添加コントロールとして、シード無添加の対照をおいた。
【0041】
2.結果
図4にその結果を示した。図中に示した結果からも判明するように、スクレイピー感染羊の脳乳剤は、10-8に希釈した場合であっても、増幅反応を4回繰り返せば、PrPScの増幅が良好に行えるものであることが判明し、本発明の特殊性がよく理解される。
【0042】
試験例3:羊スクレイピー由来PrPScの増幅(感受性の検討の2)
上記した試験例2で、マウスPrPをソースとして使用し、スクレイピー感染羊の脳乳剤をPrPScとして使用した場合には、脳乳剤をかなり希釈した場合であっても、増幅反応を繰り返すことによりPrPScの効率的は増幅が認められた。
そこで、更に希釈した場合におけるPrPScの増幅を検討した。
【0043】
1.方法
試験例2のその2と同様にして、スクレイピー感染羊の10%脳乳剤を10-2~10-14までに希釈して使用した。
ソースとしてのPrPは、異種動物のICR系マウスPrPを使用し、無添加コントロールとして、ソース無添加の対照をおいた。増幅はduplicateで行った。
【0044】
図5にその結果を示した。図中に示した結果からも判明するように、本発明方法により、極微量のPrPScであっても、増幅反応を5回繰り返すことにより、10-10に希釈した感染脳乳剤からもPrPScの増幅が認められることが理解される。6~7回の増幅によるハムスターPrPScの検出限界は10-12程度である。ウェスタンブロット解析により、感染羊脳乳剤に存在するPrPSc量は、実験感染ハムスター脳乳剤に含まれるPrPSc量の1/100~1/1000程度と推定され、その点を考慮するとハムスターPrPScの検出限界と同程度の検出感度が本法により得られたことになる。
【0045】
試験例4:羊スクレイピー由来PrPScの増幅(遺伝子型の異なるPrPScの増幅)
羊PrP遺伝子には、種々のアミノ酸置換をもたらす変異が存在することが知られている。特に136番目(A,V)、154番目(R,H)および171番目(R,Q,H)の3箇所のアミノ酸の組み合わせはスクレイピーに対する感受性もしくは抵抗性と関連している。そこで、遺伝子型の異なるスクレイピー感染羊由来のPrPScについて、その増幅を検討した。
【0046】
1.方法
使用した遺伝型の異なるスクレイピー感染羊として、英国由来のARQホモ、V/ARQヘテロ、AR/HQヘテロ、AHQホモ羊の4種類を用いた。
それぞれの脳乳剤をマウス正常脳乳剤で1/1、1/5、1/25及び1/125に希釈し、増幅を行った。
【0047】
2.結果
図6及び図7にその結果を示した。
図中に示した結果からも判明するように、検討した4種の遺伝子型異なる羊に由来するPrPScであっても、本発明方法により増幅が可能であることが判明した。V/ARQヘテロ以外では1回の増幅でシグナルが認められたが、V/ARQ型ではシグナルの確認に3回の増幅を要した。各遺伝子型の脳乳剤中のPrPSc量は不明であり、V/ARQ型の脳乳剤中のPrPSc量が他に比べて少なかったか、V/ARQ型のPrPScの増幅効率が他に比べて低い可能性が考えられた。
【0048】
試験例5:スクレイピー感染羊における血中PrPScの検出
本発明により、極微量の羊スクレイピー由来PrPScでも検出でき、感染羊におけるPrPScの体内動態を、従来よりも詳細に解析することが可能になった。
そこで、スクレイピー実験感染羊を用いて、血液からのPrPSc増幅について解析した。
【0049】
1.方法
上記の試験例1と同様にして、PMCA法を用いて、スクレイピー実験感染羊由来のPrPScを増幅した。発症期にある感染羊2頭から採血を行い、遠心分離して白血球分画を得た。2%サルコシルを含むリン酸緩衝液中で、白血球分画を可溶化し、PrPScシードとして用いた。ソースとしてのPrPは、異種動物のIRC系マウスのPrPを使用し、無添加コントロールとして、シード無添加の対照をおいた。
【0050】
2.結果
図8にその結果を示した。
感染羊#2の白血球分画からは、4回目の増幅でPrPRESシグナルが明瞭に確認された。感染羊#1の白血球分画からは5回目の増幅でPrPRESシグナルが明瞭になった。
なお、図中、Nはシードを含まない無添加コントロールを示し、ntは、試験をしなかったことを示す。
本試験例の結果から、本発明による羊スクレイピー由来PrPSc増幅法は、血液サンプルにおいても有効であることが判明し、スクレイピーの生前診断に応用可能であることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上説明してきたように、本発明が提供する方法により、羊スクレイピー由来のPrPScについて、効果的にその増幅を行うことができ、極微量のPrPScを検出することが可能となった。
本発明方法による羊スクレイピー由来のPrPScの検出感度は、ELISA法などの既存の検出方法と比較して著しく効率的なものであり、増幅反応の繰り返しによりバイオアッセイ法を上回る感度が得られるであろう利点を有しており、その実用性、迅速性の面においても優れたものである。
【0052】
したがって、羊スクレイピーの生前診断、早期診断を可能にし、その上、羊スクレイピー異常プリオン蛋白質の不活性化の迅速な評価が可能となることから、異常プリオン蛋白質の不活性化方法を確立する一助となる。また、肉骨粉などの飼肥料原材料の安全性評価法、土壌PrPSc等の環境モニタリング等、更には、生体(動物)輸入に対する羊スクレイピー防疫対策、更には輸入羊肉に対する予防対策に応用でき、その有用性は極めて多大なものである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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