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明細書 :BSE由来異常プリオン蛋白質の効率的増幅方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5209712号 (P5209712)
登録日 平成25年3月1日(2013.3.1)
発行日 平成25年6月12日(2013.6.12)
発明の名称または考案の名称 BSE由来異常プリオン蛋白質の効率的増幅方法
国際特許分類 C07K  14/47        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
FI C07K 14/47
G01N 33/68
請求項の数または発明の数 9
全頁数 15
出願番号 特願2010-514498 (P2010-514498)
出願日 平成21年5月26日(2009.5.26)
国際出願番号 PCT/JP2009/059618
国際公開番号 WO2009/145195
国際公開日 平成21年12月3日(2009.12.3)
優先権出願番号 2008139279
優先日 平成20年5月28日(2008.5.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年6月17日(2011.6.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】村山 裕一
【氏名】吉岡 都
【氏名】舛甚 賢太郎
【氏名】岡田 洋之
【氏名】岩丸 祥史
【氏名】今村 守一
【氏名】松浦 裕一
【氏名】横山 隆
【氏名】毛利 資郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100083301、【弁理士】、【氏名又は名称】草間 攻
審査官 【審査官】福澤 洋光
参考文献・文献 国際公開第2005/001481(WO,A1)
国際公開第2004/113925(WO,A1)
村山裕一, et al.,6.最新の診断及び検査技術に関する研究,食品を介するBSEリスクの解明等に関する研究 平成19年度総括・分担研究報告書(1),2008年 3月,p.31-33
村山裕一, et al.,6.最新の診断及び検査技術に関する研究,食品を介するBSEリスクの解明等に関する研究 平成18年度総括・分担研究報告書,2007年,p.27-29
調査した分野 C07K1/00-19/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
正常プリオン蛋白質(PrP)をソースとし、異常プリオン蛋白質(PrPSc)をシードとして用い、両者を混合・培養-超音波処理を繰り返えすことによる牛海綿状脳症(BSE)由来PrPScを増幅させる蛋白質ミスホールディング循環増幅(PMCA:protein misfolding cyclic amplification)法において、
混合・培養-超音波処理を、硫酸多糖化合物の存在下に行うことを特徴とするBSE由来のPrPScの効率的増幅方法。
【請求項2】
ソースとして用いるPrPが、PrPを含む脳乳剤であり、シードとして用いるBSE由来のPrPScが、BSE感染動物由来のPrPSc、或いはBSEの感染に基づく変異型クロイツフェルト・ヤコブ病由来のPrPScを含む体組織である請求項1に記載のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法。
【請求項3】
硫酸多糖化合物が、溶液中で陰性電荷を持つ硫酸基を含む硫酸多糖化合物である請求項1に記載のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法。
【請求項4】
溶液中で陰性電荷を持つ硫酸基を含む硫酸多糖化合物が、デキストラン硫酸化合物、又はペントサンポリ硫酸化合物である請求項1に記載のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法。
【請求項5】
硫酸多糖化合物が、分子量5~6KDの硫酸多糖化合物である請求項1に記載のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法。
【請求項6】
硫酸多糖化合物が、分子量1.5~1.9KDの硫酸多糖化合物である請求項1に記載のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法。
【請求項7】
添加する硫酸多糖化合物の濃度が、0.005~1%である請求項1に記載のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法。
【請求項8】
硫酸多糖化合物がデキストラン硫酸化合物又はペントサンポリ硫酸である請求項1に記載のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法。
【請求項9】
デキストラン硫酸化合物が、デキストラン硫酸ナトリウム又はデキストラン硫酸カリウムである請求項8に記載のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、牛海綿状脳症(BSE:Bovine Spongiform Encephalopathy)由来の異常プリオン蛋白質の効率的な試験管内の増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異常プリオン蛋白質の増殖による疾患として最初に発見されたのが、スクレイピー(Scrapie)という羊にみられる運動機能失調にかかわる疾患であり、脳にスポンジ状の空胞形成が認められるという特徴をもつ。その後、この異常プリオン蛋白質の増殖による疾患として、狂牛病とも称されている牛海綿状脳症(BSE:Bovine Spongiform Encephalopathy)、ヒトにおけるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD:Creutzfeldt Jakob Disease)や、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS:Gerstmann-Straussler-Scheinker Syndrome)などが知られている。
【0003】
これらの疾患はウイルス感染によるものではなく、また既知の病原体は発見されておらず、特異的な蛋白質が共通に存在するところから、これが伝達~感染を引き起こす病原物質と思われ、「蛋白質性感染粒子“プリオン”: proteinaceous infectious particle:prion」が提唱されて、上記した各種の特異的疾患は、プリオン病と称されるようになった。
【0004】
ところで、ヒトのプリオン蛋白質遺伝子は、第20番染色体上に存在し、プリオン蛋白質は、235個のアミノ酸により構成されていることが判明している。感染因子プリオンの主な構成成分はこのプリオン蛋白質と考えられており、感染因子を構成するプリオン蛋白質をスクレイピー型または異常型プリオン蛋白質(PrPSc)と称し、正常型のプリオン蛋白質を正常プリオン蛋白質(PrP)と称している。
ヒトを含む多くの動物種でプリオン病が認知され、一般的にプロテアーゼ抵抗性の異常プリオン蛋白質(PrPSc)の蓄積が感染個体に認められることから、このPrPScが主病原体として関与していると考えられている。
【0005】
プリオン病の伝播は、異種の動物間でも起こりえる。例えば、スクレイピーに感染した羊材料の動物飼料への混入により牛に感染してBSEを発症した可能性があり、さらにBSEに感染した牛材料を含む飼料を食した猫に、猫海綿状脳症(FSE)が発症したと考えられる。したがって、最近の研究では、特にBSEがヒトへ感染する可能性が濃厚となっていると報告されている(非特許文献1)。
【0006】
牛海綿状脳症(BSE)は、1986年に英国ではじめて報告され、我が国でも2001年以降35症例が確認されている。
ところで、異常プリオン蛋白質(PrPSc)に感染した動物には、他の感染症や代謝病の診断に用いられているような簡便な診断法が応用できず、したがって、BSEの実用的な生前診断法は確立されていない。血液などの生体材料に含まれるPrPSc量は極微量であると考えられ、生前診断には、従来法の検出限界をはるかに凌ぐ超高感度な検出技法の開発が必要である。
【0007】
また、異常プリオン蛋白質(PrPSc)は、通常の滅菌処理では不活性化されないという特徴を有している。PrPScの不活化の確認には、通常、不活性化されたであろうPrPScをマウスなどの実験動物に接種し、発症の有無を確認することで感染性を検出するバイオアッセイ法が用いられる。しかしながら、この方法は実験動物を長期間飼育・観察する必要があり、その結果は数十~数百日後でないと得られず、膨大な経過観察の手間と費用がかかるという問題がある。
したがって、不活化処理後、残存するPrPScを短期間に検出することができる高感度な方法が開発できれば、プリオン不活性化方法の開発、及びその評価において著しい改善をもたらすことになる。
【0008】
これまで行われている異常プリオン蛋白質(PrPSc)の検出方法としては、プリオンに感染した脳乳剤と正常脳乳剤を試験管内で混合し、超音波処理・攪拌培養を繰り返すことによってPrPScを増幅させる方法としてのPMCA(蛋白質ミスホールディング循環増幅:protein misfolding cyclic amplification)法が開発され、極微量のPrPScを検出することが可能となった(非特許文献2、特許文献1)。
【0009】
このPMCA法で用いられたPrPScは、スクレイピー(ハムスターに順化させた263K株)を感染させたハムスターの脳乳剤であり、これを希釈し、それに正常プリオン蛋白質(PrP)として正常なハムスターの脳乳剤を加えて、混合し、試験管内で培養させ、過剰に加えられたPrPがPrPScに構造変換されることによりPrPScを増幅させ、これを超音波処理にかけて、凝集しているPrPScを微細化し、再び過剰のPrPと培養するという、一連の混合・培養-超音波処理のサイクルを繰り返すことによりPrPScの量を増幅させる方法である。
【0010】
このPMCA法は、ハムスタースクレイピー感染モデルのPrPScの増幅には極めて有効なものであり、5サイクルでPrPScの増幅率は平均58であり、10サイクルでは、PrPScサンプルを1万倍以上に希釈しても検出でき、感染ハムスターの血液(非特許文献3)や尿(非特許文献4)といった体液中の極微量のPrPScを検出することが可能であり、潜伏期にある動物の血液細胞からもPrPScを検出することができ(非特許文献5および4)、プリオン病の早期診断法、或いはプリオン不活性化の評価法としての有用性が示されている。
【0011】
しかしながら、提案されたPMCA法は、ハムスタースクレイピー感染モデルのPrPScの増幅には極めて有効なものであるが、牛海綿状脳症(BSE)の異常プリオン蛋白質(PrPSc)の増幅に適用すると、十分な増幅が得られないといった問題があり、BSEの生前診断法若しくは早期診断法としてはその応用は十分なものではない。

【特許文献1】特公表2004-503748号公報
【非特許文献1】Nature, 383: p685-690 (1996)
【非特許文献2】Nature, 411: p810-813 (2001)
【非特許文献3】Nat. Med., 11: p982-985 (2005)
【非特許文献4】J. Gen. Virol., 88: p2890-2898 (2007)
【非特許文献5】Science, 313: p92-94 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明は、かかる現状に鑑み、異常プリオン蛋白質に感染した牛海綿状脳症(BSE)由来の異常プリオン蛋白質(PrPSc)の効率的な増幅方法を提供することを一義的な課題とし、究極的には、BSEに感染した牛の早期発見によるプリオン病の伝播を根絶すること、また、プリオン不活性化方法の開発及びその早期評価を可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するために、本発明者はこれまで行われているPMCA法を改良することにより、BSE由来の異常プリオン蛋白質(PrPSc)を効率に増幅させることが可能となり、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、これまで提案されているハムスタースクレイピー感染モデルのPrPScの増幅を可能にするPMCA法においては、通常界面活性剤存在下で、PrPScを増幅させている。本発明者はこの点を改良するべく検討を加え、BSE由来のPrPScの増幅を行うに当たって、硫酸多糖化合物を添加してPMCA増幅を行った結果、添加したこの硫酸多糖化合物の作用により、PrPScの増幅効率が大幅に改善され、従来のPMCA法では検出できなかった極微量のBSE由来のPrPScをも検出することが可能となることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
而して本発明は、正常プリオン蛋白質(PrP)をソースとし、異常プリオン蛋白質(PrPSc)をシードとして用い、両者を攪拌混合・培養-超音波処理を繰り返えすことによる牛海綿状脳症(BSE)由来PrPScを増幅させる蛋白質ミスホールディング循環増幅(PMCA:protein misfolding cyclic amplification)法において、
攪拌混合・培養-超音波処理を、硫酸多糖化合物の存在下に行うことを特徴とするBSE由来のPrPScの効率的増幅方法である。
【0016】
具体的には、本発明は、ソースとして用いるPrPが、PrPを含む脳乳剤であり、シードとして用いるBSE由来PrPScが、BSE感染動物の体組織であるBSE由来のPrPScの効率的増幅方法、更には、BSEがヒトに感染したと思われる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病由来のPrPSc等の効率的増幅方法である。
したがって、本発明は、単にBSE感染動物における異常プリオン蛋白質の効率的増幅のみならず、BSEの感染によるプリオン病に罹患したヒトを含む生体組織であるBSE由来のPrPScの効率的増幅方法である。
【0017】
より具体的には、本発明は以下の態様からなる。
(1)硫酸多糖化合物が、溶液中で陰性電荷を持つ硫酸基を含む硫酸多糖化合物である上記のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法;
(2)溶液中で陰性電荷を持つ硫酸基を含む硫酸多糖化合物が、デキストラン硫酸化合物、又はペントサンポリ硫酸化合物である上記のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法;
(3)硫酸多糖化合物が、分子量5~6KDの硫酸多糖化合物である上記のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法;
(4)硫酸多糖化合物が、分子量1.5~1.9KDの硫酸多糖化合物である上記のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法;
(5)添加する硫酸多糖化合物の濃度が、0.005~1%である上記のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法;
(6)硫酸多糖化合物がデキストラン硫酸化合物又はペントサンポリ硫酸である上記のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法;
(7)デキストラン硫酸化合物が、デキストラン硫酸ナトリウム又はデキストラン硫酸カリウムである上記のBSE由来のPrPScの効率的増幅方法;
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明方法により、BSE由来のPrPScについて、極微量のPrPScを検出することが可能となり、本発明方法によるBSE由来のPrPScの検出感度は、ELISA法などの既存の検出方法と比較して著しく効率的なものであり、増幅1回でバイオアッセイ法を上回る感度が得られる利点を有している。
さらに、従来のバイオアッセイ法によるPrPScの検出には膨大な時間と経費がかかっていたが、これを回避することが可能となり、その実用性、迅速性の面においても優れたものである。
【0019】
したがって、BSEの生前診断並びに早期診断を可能にし、その上、BSE異常プリオン蛋白質の不活性化の迅速な評価が可能となることから、異常プリオン蛋白質の不活性化方法を確立する一助となる。また、肉骨粉などの飼肥料原材料の安全性評価法、土壌PrPSc等の環境モニタリング等に応用できる利点を有している。
特に、BSEの発生は、日本のみならず、EU圏を中心とした世界中で確認されており、また、未発生国においても今後のBSE発生のリスクは考慮されるべきであるが、本発明方法は生体(動物)輸入に対するBSE防疫対策、更には輸入牛肉に対するBSE予防対策としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の試験例1に従う、各種添加剤を添加した結果を示した図である。
【図2】本発明の試験例2に従う、フコイダン(Fucoidan)の添加検討の結果を示す図である。
【図3】本発明の試験例2に従う、コンドロイチン硫酸ナトリウム(CSS)並びにλ-カラギーナン(Cag)の添加検討の結果を示した図である。
【図4】本発明の試験例2に従う、ヘパラン硫酸ナトリウム(HSS)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、及びポリビニル硫酸ナトリウム(PVSP)の添加検討の結果を示した図である。
【図5】本発明の試験例2に従う、ペントサンポリ硫酸(PPS)の添加検討の結果を示した図である。

【0021】
【図6】本発明の試験例3に従う、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を添加した結果を示した図である。
【図7】本発明の試験例4に従う、デキストラン硫酸カリウム(DSP)の添加量の検討結果を示した図である。
【図8】本発明の試験例4に従う、低濃度のデキストラン硫酸カリウム(DSP)の添加量の検討結果を示した図である。
【図9】本発明の試験例5に従う、培養-超音波処理のサイクルの検討結果を示した図である。
【図10】本発明の試験例6に従う、BSE実験感染牛を用いて、末梢神経組織におけるPrPSc分布を解析した結果を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、上記したように、その基本的な態様は、正常プリオン蛋白質(PrP)をソースとし、異常プリオン蛋白質(PrPSc)をシードとして用い、両者を攪拌混合・培養-超音波処理を繰り返えすことによるBSE由来のPrPScを増幅させるPMCA法において、
攪拌混合・培養-超音波処理を、硫酸多糖化合物の存在下に行うことを特徴とするBSE由来のPrPScの効率的増幅方法である。
【0023】
ここで使用するソースとしての正常プリオン蛋白質(PrP)としては、正常牛の体組織を用いることができ、好ましくは正常牛の脳乳剤が使用される。
この脳乳剤は、正常牛の脳を乳鉢等によりすりつぶしたもの(ホモジネートしたもの)であるが、より具体的には、正常牛の脳を、1%TritonX-100(t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)-4mM EDTA-PBS(プロテアーゼインヒビターを含む)でホモジナイズし、10%(w/v)溶液としたものを用いるのがよい。
【0024】
また、牛PrP遺伝子を導入した異種動物、例えば、牛PrPトランスジェニックマウスの脳乳剤、或いは、この脳乳剤と牛PrPノックアウトマウスの脳乳剤を混合希釈したものを使用することができる。
【0025】
一方、シードとして用いるBSE由来のPrPScとしては、BSE感染牛の体組織が好ましく使用される。そのような体組織としては、BSE感染牛の脳組織、血液組織、尿等、あらゆる体組織を使用することができる。
すなわち、本発明が提供する増幅方法よれば、極微量のPrPScであっても効率的にPrPScを増幅することが可能となる。したがって、この新たなPMCA法を活用することにより、極微量のBSE由来の異常プリオン蛋白質が存在する試料の検出が可能となり、BSE感染牛検出感度が高まるものであることから、シードとして用いるBSE由来のPrPScとしては特に限定されず、BSE感染牛のあらゆる体組織を使用することが可能である。
【0026】
なお、シードして用いるBSE由来のPrPScは上記のものに限定されず、BSEがヒトに感染したと思われる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病由来のPrPSc等を挙げることができる。すなわち、単にBSE感染牛の体組織のみならず、BSEの感染によるプリオン病に罹患したヒトを含む生体組織を使用することができる。
【0027】
ところで従来のハムスタースクレイピー感染モデルのPrPScを増幅させるPMCA法にあっては、増幅を行う場合にあたって、通常、界面活性剤を添加し異常プリオン蛋白質を可溶化した後にPrPとPrPScを混合し、ソースとして用いたPrPをPrPScに構造変換させ、増幅を図っている。
本発明のPMCA法においても界面活性剤の存在下に行われ、そのような界面活性剤としては、非イオン性の界面活性剤であり、好ましくは、t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(Triton X-100)、ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル(NP-40)等が使用されるが、これに限定されるものではない。
しかしながら、BSE由来のPrPScに関しては、この段階で界面活性剤のみの添加では、PrPScの効率的な増幅反応は得られないものであった。
【0028】
本発明が提供する方法にあっては、界面活性剤に加えて、更に硫酸多糖化合物を添加することにより、PrPScの効率的な増幅反応が得られることとなった。
その理論的根拠は定かではないが、硫酸多糖化合物が有する蛋白質の表面を覆っている水和水を強力に奪う作用により、プリオン蛋白質同士(正常プリオン蛋白質-異常プリオン蛋白質)の分子結合が強化されるのが一因であると考えられる。また、硫酸多糖化合物がプリオン蛋白質と結合し、増幅に適した蛋白質構造が誘導されるとも考えられる。
したがって、本発明による改良PMCA法は、BSE由来のPrPScを、PrPと混合し、攪拌培養することによりPrをPrPScに構造変換させるのであるが、この構造変換過程において硫酸多糖化合物が効果的に作用するものと考えられる。
【0029】
このような添加される硫酸多糖化合物の例としては、溶液中で陰性電荷を持つ硫酸基を含む硫酸多糖化合物である。
本発明者の検討によれば、陽性電荷をもつDEAE(ジメチルアミノエチル)-デキストラン化合物、或いは電荷のないデキストラン自体には、その効果はほとんど認められないものであった(後記する試験例を参照)。
そのような溶液中で陰性電荷を持つ硫酸基を含む硫酸多糖化合物としては、デキストラン硫酸化合物或いはペントサンポリ硫酸化合物を挙げることができ、なかでもデキストラン硫酸ナトリウム、デキストラン硫酸カリウム等のデキストラン硫酸化合物を挙げることができる。
【0030】
本発明が提供する方法において、PrPScの増幅効果は、添加する硫酸多糖化合物の分子量とも関係していることが判明した。
例えば、硫酸多糖化合物としてデキストラン硫酸化合物を用いた場合には、分子量900~2,000KDの高分子量のデキストラン硫酸ナトリウムよりも、分子量5~6KDのデキストラン硫酸ナトリウム、または分子量1.5~1.9KDのデキストラン硫酸カリウムといった低分子量のデキストラン硫酸化合物の方が増幅率は高いものであった(後記する試験例を参照)。
【0031】
また、界面活性剤と共に添加する硫酸多糖化合物の添加濃度も増幅効率に影響を与え、例えば、デキストラン硫酸化合物を用いる場合には、その添加濃度は、0.005~1%程度が適量であり、それ以下であっても、それ以上であっても増幅効率は低下することが判明した(後記する試験例を参照)。
【0032】
なお、デキストラン硫酸化合物と類する、グルコースが重合したデキストラン硫酸以外の硫酸多糖体、例えば、フコイダン、λ-カラギーナン、或いは生体内硫酸化グリコサミノグリカン、例えばコンドロイチン硫酸ナトリウム、ヘパラン硫酸ナトリウム、ヘパラン硫酸プロテオグリカン等は、その増幅効果はデキストラン硫酸化合物に比べて低いものであった。
一方、アニオン性高分子であるポリビニル硫酸ナトリウムにも効果は認められないものであった(後記する試験例を参照)。
その点で、本発明方法で使用する硫酸多糖化合物の添加は、BSE由来のPrPScの増幅に対して極めて効果的なものであるといえる。
【0033】
本発明方法の一般的な操作方法を、以下に説明する。
すなわち、本発明方法にあっては、上記したPrPをソースとし、BSE由来のPrPScをシードとして用い、両者を攪拌混合・培養するが、その培養(インキュベーション)条件は一概に限定されるものではなく、適宜最適な培養条件を選択することができる。具体的には、例えば、37℃で攪拌しながら1時間程度インキュベートする方法で行うことができる。
【0034】
この攪拌混合・培養によりソースとして加えられたPrの一部がPrPScに構造変換されるが、その構造変換されたPrPScの凝集体を超音波処理により分散させ、再度過剰に存在するPrと攪混合拌・培養させるサイクルを繰り返す。
この超音波処理は、通常のPMCA法で用いられている超音波処理をそのまま適用することができ特に限定されず、例えば、Branson社のDigital Sonifier450D、或いはエレコン社070-GOTを用いて行うことができる。
なお、超音波処理条件としては、用いる装置により一概に限定できないが、例えば、出力を100%に設定し、0.2秒発振-0.1秒停止、或いは3秒発振-1秒休止のサイクルを5回程度行うのがよい。
【0035】
この攪拌混合・培養-超音波処理のサイクルを繰り返すことにより、ソースとして添加したPrPがPrPScに順次構造変換され、その結果、PrPScの増幅が行われることとなる。
本発明方法にあっては、通常1回の増幅のために、上記のサイクルを、20~40サイクルを1回の増幅処理として実施するのがよい。
なお、このサイクル回数は、使用するソースとして用いるPrP、並びにシードとして用いるPrPScの濃度によって異なり、限定されるものではない。
【0036】
PrPScの増幅(攪拌培養-超音波処理のサイクルの繰り返し)が完了した後、得られた反応物を、蛋白分解酵素を用いて分解処理する、分解処理工程に付す。
一般に、異常プリオン蛋白質はプロテアーゼに抵抗性を示すので、特異的にこの蛋白質を取り出すためには、正常プリオン蛋白質を分解することが要求される。したがって、この分解処理工程は、プリオン蛋白質以外の蛋白質を分解すると共に、正常プリオン蛋白質を分解する工程である。
蛋白質分解酵素としては、プロティナーゼK(Proteinase K)を挙げることができ、これを用いて分解することが望ましい。
【0037】
なお、増幅されたPrPScの検出は、ウエスタンブロッティング法で検出することができる。具体的には、15%SDS-PAGEで分離・泳動後メンブランに転写し、ブロッキング後、HRP標識抗T2抗体で反応させる。次いで、メンブランを洗浄後、Immobilon Westernで発光反応を検出し、増幅されたPrPScを検出・確認することができる。
【0038】
本発明者の検討によれば、1回の増幅(攪拌培養-超音波処理の40サイクル)で、バイオアッセイ法を上回る感度が得られることが判明した。
したがって、本発明方法は、実用性、迅速性において極めて優れたものであり、BSEの診断法、安全性評価法、防疫法として使用される可能性が高く、その応用性は多大なものである。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を、実施例に代わる試験例により、より詳細に説明していくが、本発明はこれらの試験例により何ら限定されるものではない。
【0040】
試験例1:BSE由来PrPScの増幅(添加剤の検討:その1)
1.方法
PMCA(protein misfolding cyclic amplification)法を用いて、BSE由来の異常プリオン蛋白質(PrPSc)を増幅した。
正常プリオン蛋白質(PrP)ソースは、牛プリオン遺伝子を導入したトランスジェニックマウス(TgBoマウス)の脳乳剤を、プリオン遺伝子ノックアウトマウスの脳乳剤で8倍に希釈し、最終濃度0.5%の各種添加剤を加えて調整した。
一方、PrPScシードは、英国由来のBSE感染脳乳剤(感染価:106.7 LD50/g;Jpn. J. Infect. Dis., 60: p317-320 (2007))を10-2から10-10に希釈して用いた。
PMCA増幅後、サンプルをプロティナーゼKで消化し、ウエスタンブロッティング法でプロテアーゼ抵抗性PrP(PrPRES)のシグナルを検出した。
【0041】
添加剤としては、分子量900~2,000KDのデキストラン硫酸ナトリウム(DSS 900-2,000KD)、分子量5~6KDのデキストラン硫酸ナトリウム(DSSII 5-6KD)、分子量1.5~1.9KDのデキストラン硫酸カリウム(DSP 1.6-1.9KD)、分子量50KDのDEAE-デキストラン(DEAE-Dextran 50KD)、及び各種の分子量(15~230KD)を有するデキストラン(Dextran)を使用した。
なお、対照として添加剤を添加しない比較増幅例を置いた。
【0042】
2.結果
その結果を図1に示した。図1に示した結果から判明するように、添加剤として溶液中で陰性電荷を持つ硫酸基を含む硫酸多糖化合物であるデキストラン硫酸ナトリウム、或いはデキストラン硫酸カリウムを添加した場合には、良好にPrPScの増幅が認められるのが判明する。
これに対して、添加剤を全く添加しない対照、或いは陽性荷電を持ったDEAE-デキストラン、あるいは荷電のない各種分子量を有するデキストランを添加剤として用いた場合には、PrPScの増幅がほとんど認められず、本発明の有効性がよく理解される。
また、増幅効果が認められるデキストラン硫酸化合物にあっても、分子量900~2,000KDの高分子量のデキストラン硫酸ナトリウムよりも、分子量5~6KDのデキストラン硫酸ナトリウム、または分子量1.5~1.9KDのデキストラン硫酸カリウム(DSP 1.6-1.9KD)である低分子量のデキストラン硫酸化合物の方が増幅率は高いことが判明した。
【0043】
試験例2:BSE由来PrPScの増幅(添加剤の検討:その2)
試験例1の結果から、デキストラン硫酸化合物の添加がPrPScの増幅に極めて効果的なものであることが判明したが、硫酸基を有する他の化合物について、その添加がPrPScの増幅に効果的なものであるかを検討した。
【0044】
1.方法
試験例1と同様に、PMCA法を用いて、BSE由来のPrPScを増幅した。
添加剤としては、硫酸多糖化合物としてデキストラン硫酸カリウム(DSP)及びペントサンポリ硫酸(PPS)の他に、硫酸多糖体であるフコイダン(Fucoidan)、コンドロイチン硫酸ナトリウム(CSS)、λ-カラギーナン(Cag)、ヘパラン硫酸ナトリウム(HSS)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、及びアニオン性高分子であるポリビニル硫酸ナトリウム(PVSP)を使用した。
【0045】
[A]フコイダン(Fucoidan)の添加検討
フコイダン(Fucoidan)の添加の場合には、PrPScシードとして、BSE感染脳乳剤の10-4希釈を使用し、最終濃度0.5%のデキストラン硫酸カリウム(DSP)並びに最終濃度0.1%、0.5%及び1.0%のフコイダン(Fucoidan)を加えて調製し、シード無添加、並びに添加剤無添加の比較対照例を置いた。
【0046】
[B]コンドロイチン硫酸ナトリウム(CSS)、並びにλ-カラギーナン(Cag)の添加検討
PrPScシードとして、BSE感染脳乳剤の10-4希釈を使用し、最終濃度0.05%及び0.5%のデキストラン硫酸カリウム(DSP)、並びに最終濃度0.05%及び0.5%のコンドロイチン硫酸ナトリウム(CSS)並びにλ-カラギーナン(Cag)を加えて調製し、添加剤無添加の比較対照を置いた。
【0047】
[C]ヘパラン硫酸ナトリウム(HSS)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、及びポリビニル硫酸ナトリウム(PVSP)の添加検討
PrPScシードとして、BSE感染脳乳剤の10-4希釈を使用し、それぞれ最終濃度0.5%のデキストラン硫酸カリウム(DSP)、ヘパラン硫酸ナトリウム(HSS)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、並びにポリビニル硫酸ナトリウム(PVSP)を加えて調製した。
なお、シード無添加、並びに添加剤無添加の比較対照を置いた。
【0048】
[D]ペントサンポリ硫酸(PPS)の添加検討
PrPScシードとして、BSE感染脳乳剤の2×10-4希釈を使用し、デキストラン硫酸カリウム(DSP)の50μg/mL及び500μg/mL、並びにペントサンポリ硫酸(PPS)の0.5μg/mL、5μg/mL、50μg/mL及び500μg/mLを加えて調製した。
なお、シード無添加、並びに添加剤無添加の比較対照を置いた。
【0049】
2.結果
図2にフコイダン(Fucoidan)の添加検討の結果を、図3にコンドロイチン硫酸ナトリウム(CSS)並びにλ-カラギーナン(Cag)の添加検討の結果を、図4にヘパラン硫酸ナトリウム(HSS)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、及びポリビニル硫酸ナトリウム(PVSP)の添加検討の結果を、また図5にペントサンポリ硫酸(PPS)の添加検討結果を示した。
図2~図5に示した結果からも判明するように、硫酸多糖化合物であるデキストラン硫酸カリウム並びにペントサンポリ硫酸の添加では、有意なPrPScの増幅が認められていた。
なお、硫酸基を有する化合物であっても、フコイダン(Fucoidan)、コンドロイチン硫酸ナトリウム(CSS)、λ-カラギーナン(Cag)、ヘパラン硫酸ナトリウム(HSS)並びにヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)にあっては、増幅効果はデキストラン硫酸化合物、ペントサンポリ硫酸と比べて低かった。
【0050】
試験例3:BSE由来PrPScの増幅(添加剤濃度の検討:その1)
試験例1及び2の結果から、硫酸多糖化合物としてのデキストラン硫酸化合物の添加がBSE由来のPrPScの増幅に極めて効果的なものであることが判明した。そこで、次にその添加剤の添加濃度がPrPScの増幅にどの様な影響を与えるか検討した。
1.方法
上記した試験例と同様に、PMCA法を用いて、BSE由来のPrPScを増幅した。
正常プリオン蛋白質(PrP)ソースとして、牛プリオン遺伝子を導入したトランスジェニックマウス(TgBoマウス)の脳乳剤を、プリオン遺伝子ノックアウトマウスの脳乳剤で8倍に希釈し、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を最終濃度0%、0.25%、0.5%、0.75%及び1.0%となるよう加えて調製した。
PrPSCシードは、試験例1と同様の、英国由来のBSE感染脳乳剤(感染価:106.7 LD50/g)を10-2及び10-3に希釈して用いた。
なお、PrPScシード無添加の例を比較対照として置いた。
PMCA増幅後、サンプルをプロティナーゼKで消化し、ウエスタンブロッティング法でプロテアーゼ抵抗性PrP(PrPRES)のシグナルを検出した。
【0051】
2.結果
その結果を図6に示した。図中の結果からも判明するように、デキストラン硫酸ナトリウムを添加しない場合には、PrPScの増幅は低いものであるが、デキストラン硫酸ナトリウムの添加により、劇的にPrPScの増幅効率が改善されることが理解される。
その添加濃度として、0.25%~1%程度で十分に増幅効果が得られるものであることが判明した。
【0052】
試験例4:BSE由来PrPScの増幅(添加剤濃度の検討:その2)
試験例3の結果から、添加剤としての硫酸多糖化合物であるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)は、その添加濃度として0.25%~1%程度の添加でPrPScの増幅効率を改善するものであった。
次いで、硫酸多糖化合物として、デキストラン硫酸カリウム(DSP)を添加剤として使用し、その至適濃度を検討した。
【0053】
1.方法
試験例3と同様に行った。
デキストラン硫酸カリウム(DSP)の添加量としては、最初に0.5%、1.0%及び2.0%の添加量で検討し、その結果0.5%以下でも十分に増幅効果が得られる点を踏まえて、0.05%、0.005%、0.0005%及び0.00005%の添加量で検討を行った。
なお、比較対照としてPrPScシード無添加、並びに添加剤無添加の例を置いた。
【0054】
2.結果
図7及び図8にその結果を示した。
図7は、デキストラン硫酸カリウム(DSP)の添加量として0.5%、1.0%及び2.0%の添加量で検討した結果を示すが、2%以上の添加量ではかえってPrPScの増幅が低下することが判明した。
図8は、デキストラン硫酸カリウム(DSP)の添加量として、0.5%以下の濃度の添加に基づく検討結果であるが、0.005%の低濃度であっても十分にPrPScの増幅が認められたが、それ以下の濃度では増幅効果は認められなかった。
以上の結果から、本発明にあっては、添加する硫酸多糖化合物の添加濃度は、0.005~1%程度が至適適量であり、それ以下であっても、また、それ以上であっても増幅効率は低下することが理解される。
【0055】
試験例5:BSE由来PrPScの増幅(培養-超音波処理サイクルの検討)
本発明のPMCA法における培養-超音波処理のサイクルを繰り返すが、40サイクルにより1回のPrPSCの増幅が完了する。
そこで、このサイクル数によるPrPScの増幅効果の相違を検討した。
【0056】
1.方法
上記試験例1と同様に、PMCA法を用いて、BSE由来のPrPScを増幅した。
正常プリオン蛋白質(PrP)ソースは、牛プリオン遺伝子を導入したトランスジェニックマウス(TgBoマウス)の脳乳剤を、プリオン遺伝子ノックアウトマウスの脳乳剤で8倍に希釈し、最終濃度0.5%のデキストラン硫酸カリウムを加えて調製した。
一方、PrPScシードは、英国由来のBSE感染脳乳剤(感染価:106.7 LD50/g;Jpn. J. Infect. Dis., 60: p317-320 (2007))を10-2から10-10に希釈して用いた。
PMCA増幅後、サンプルをプロティナーゼKで消化し、ウエスタンブロッティング法でプロテアーゼ抵抗性PrP(PrPRES)のシグナルを検出した。
【0057】
2.結果
その結果を図9に示した。
図中に示し結果からも判明するように、1回の増幅(40サイクル)後、10-6に希釈したduplicateのサンプルからPrPRESのシグナルを認めた。
PMCA増幅に用いた感染脳乳剤の感染性は10-4まで認められているが、1回の増幅によりバイオアッセイ法よりも100倍近い感度が得られたことになる。
さらに、PMCA産物をPrPソースで1/5に希釈し2回目の増幅(80サイクル)を行うと、10-9ではduplicateの両サンプルとも、10-10では片方のサンプルからPrPRESシグナルを認めた。
従来のPMCA法によるハムスタースクレイピー感染モデルのPrPScの検出限界は10-12程度であるが、6~7回の増幅を繰り返す必要がある。この試験例で用いたBES感染脳乳剤の感染価は、実験モデル感染ハムスター脳乳剤の1/100程度であり、この点を考慮すると、わずか2回の増幅により、ハムスタースクレイピー感染モデルのPrPScの検出限界と同程度の検出感度が得られていることになる。
【0058】
試験例6:BSE実験感染牛末梢組織におけるPrPSc検出
本発明により、極微量のBSE由来のPrPScでも検出でき、感染牛におけるPrPScの体内動態を従来よりも詳細に解析することが可能になった。そこで、BSE実験感染牛を用いて、末梢神経組織におけるPrPSc分布を解析した。
【0059】
1.方法
上記の試験例1と同様に、PMCA法を用いて、BSE実験感染牛由来のPrPScを増幅した。正常プリオン蛋白質(PrP)ソースは、牛プリオン遺伝子を導入したトランスジェニックマウス(TgBoマウス)の10%脳乳剤を、プリオン遺伝子ノックアウトマウスの10%脳乳剤で5倍に希釈し、最終濃度0.5%のデキストラン硫酸カリウムを加えて調整した。一方、PrPScシードは末梢神経組織から20%乳剤を作製し、PrPソースで1/20に希釈して用いた。PMCA増幅後、サンプルをプロティナーゼKで消化し、ウエスタンブロッティング法でプロテアーゼ抵抗性PrP(PrPRES)のシグナルを検出した。組織毎に4つのサンプルを用いて増幅を行った。
【0060】
2.結果
その結果を図10に示した。
本実験に用いたBSE感染牛は、経口接種後36ヶ月目に解剖し、各組織を採取した。解剖時にはBSEを発症しておらず、通常のウエスタンブロティング法では末梢組織からPrPScを検出しなかった。
図中に示した結果から判明するように、2回の増幅を行うと、迷走神経、交感神経および星状神経節からシグナルが検出されるようになった。さらに、3回目の増幅ですべてのサンプルにおいてPrPScシグナルが増強され、PrPScの存在が明確となった。
なお、結果は、各末梢神経組織(4つ組)における増幅結果を示したものであり、図中のNsはシードを含まない無添加コントロールを示した。
【0061】
本実験例の結果から、本発明によるBSE由来PrPSc増幅法は、末梢組織由来サンプルにおいても有効であり、未発症牛からもPrPScを検出できたことから、BSE感染牛の早期摘発に応用できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明してきたように、本発明が提供する方法により、BSE由来のPrPScについて、効果的にその増幅を行うことができ、極微量のPrPScを検出することが可能となった。
本発明方法によるBSE由来のPrPScの検出感度は、ELISA法などの既存の検出方法と比較して著しく効率的なものであり、増幅1回でバイオアッセイ法を上回る感度が得られる利点を有しており、その実用性、迅速性の面においても優れたものである。
【0063】
したがって、BSEの生前診断、早期診断を可能にし、その上、BSE異常プリオン蛋白質の不活性化の迅速な評価が可能となることから、異常プリオン蛋白質の不活性化方法を確立する一助となる。
また、肉骨粉などの飼肥料原材料の安全性評価法、土壌PrPSc等の環境モニタリング等、更には、生体(動物)輸入に対するBSE防疫対策、更には輸入牛肉に対するBSE予防対策に応用でき、その有用性は極めて多大なものである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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