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明細書 :sh4遺伝子を含む、植物体の穀粒サイズを増大させた植物体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5610440号 (P5610440)
登録日 平成26年9月12日(2014.9.12)
発行日 平成26年10月22日(2014.10.22)
発明の名称または考案の名称 sh4遺伝子を含む、植物体の穀粒サイズを増大させた植物体
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
C12N 1/15
C12N 1/21
C12N 1/19
C12N 5/00 101
C12N 5/00 103
請求項の数または発明の数 13
全頁数 14
出願番号 特願2010-514547 (P2010-514547)
出願日 平成21年5月29日(2009.5.29)
国際出願番号 PCT/JP2009/059849
国際公開番号 WO2009/145290
国際公開日 平成21年12月3日(2009.12.3)
優先権出願番号 2008141357
優先日 平成20年5月29日(2008.5.29)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年5月18日(2012.5.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】井澤 毅
【氏名】杉田 左江子
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100102118、【弁理士】、【氏名又は名称】春名 雅夫
【識別番号】100160923、【弁理士】、【氏名又は名称】山口 裕孝
【識別番号】100119507、【弁理士】、【氏名又は名称】刑部 俊
【識別番号】100142929、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 隆一
【識別番号】100148699、【弁理士】、【氏名又は名称】佐藤 利光
【識別番号】100128048、【弁理士】、【氏名又は名称】新見 浩一
【識別番号】100129506、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 智彦
【識別番号】100130845、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邉 伸一
【識別番号】100114340、【弁理士】、【氏名又は名称】大関 雅人
【識別番号】100114889、【弁理士】、【氏名又は名称】五十嵐 義弘
【識別番号】100121072、【弁理士】、【氏名又は名称】川本 和弥
審査官 【審査官】上條 肇
参考文献・文献 中国特許出願公開第1817900(CN,A)
Science,2006年,Vol.311,p.1936-1939
調査した分野 C12N 15/29
C12N 15/82 - 15/84
A01H 5/00
A01H 1/00
A01H 5/00
C12N 5/10
C07K 14/415 - 14/43
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを含む、植物体の穀粒の大きさを増大させた植物体。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA
【請求項2】
前記植物体が単子葉植物である、請求項1に記載の植物体。
【請求項3】
植物体がイネ科植物である、請求項1に記載の植物体。
【請求項4】
下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAが発現するように導入されたベクター。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA
【請求項5】
請求項4に記載のベクターが導入された宿主細胞。
【請求項6】
請求項4に記載のベクターが導入された植物細胞。
【請求項7】
請求項6に記載の植物細胞を含む形質転換植物体。
【請求項8】
請求項7に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
【請求項9】
請求項7または8に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
【請求項10】
下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物体の穀粒の大きさを増大させる方法。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA
【請求項11】
前記植物体が単子葉植物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記植物体がイネ科植物である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
交配により、前記DNAを植物体に導入することを特徴とする、請求項10~12のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、sh4遺伝子が発現するように導入された形質転換植物体に関する。また、機能型sh4遺伝子が発現するように交配導入された植物体に関する。また、sh4遺伝子を植物体に導入する工程を含む、植物体の穀粒サイズを増大させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、植物体の穀粒サイズに関していくつかの遺伝子が同定されているが、穀粒サイズを既知の一つの遺伝子の有無で改変することはこれまで容易ではなかった。
Li ら(非特許文献1)や Linら(非特許文献2)の報告によると、すべての栽培イネはsh4遺伝子に欠損を持つことで、脱粒性が比較的難になり、栽培化が進んだとされている。sh4遺伝子は既に単離され、報告されているが、その生物学的機能に関する知見は、脱粒性に関するもののみであった。
【0003】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Li C, Zhou A, Sang T.Rice domestication by reducing shattering.Science. 2006 Mar 31;311(5769):1936-9. Epub 2006 Mar 9. PMID: 16527928
【非特許文献2】Lin Z, Griffith ME, Li X, Zhu Z, Tan L, Fu Y, Zhang W, Wang X, Xie D, Sun C.Origin of seed shattering in rice (Oryza sativa L.).Planta. 2007 Jun;226(1):11-20. Epub 2007 Jan 10. PMID: 17216230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その課題は、sh4遺伝子を植物体に導入する工程および、野生イネから発見された機能型sh4遺伝子を発現することで、植物体の穀粒サイズを増大させた植物体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、植物体の栽培化に関与する遺伝子に関して鋭意研究を行った。本発明者らは、栽培イネに、野生イネ由来の機能型アリルのsh4遺伝子を形質転換により導入することで、新規機能として籾を大きくし、転流も促進し、結果として穀粒サイズが大きくなることを発見した。T0個体についた種子の測定やT1個体についた穂の観察した結果では、籾が大きくなり、玄米重を約1.5倍に増加できることが明らかとなった(図2、図5)。
また、品種日本晴にsh4遺伝子を導入した系統の自殖T1後代4個体(T0-3後代-1、T0-3後代-2、T0-3後代-3、T0-5後代-1)について、人工気象室にてイネ植物体の栽培を行い、穂ごとのモミ重(mg)(図7)、個体ごとの総籾数(稔実粒、不稔粒)(図8)、及び個体ごとの穂重(図9)を測定した。その結果、これらの個体は、ベクターコントロール及び日本晴に比べて、有意にモミ重及び個体ごとの穂重(収量)が増加していることが明らかとなった(図7~9)。また、個体ごとの総籾数や穂数には差がなかった(図7、図8)。また、稔性を下げる効果はなく、上げる可能性があるが、この点は、更に解析が必要である(図8)。T1個体種子・穂の変化は図6に示すように、写真でも顕著である。稔性に関して、今回は、T0-3後代-1やT0-3-後代-2で有意に高く、個体ごとの収量に相当する穂重は、日本晴やベクターコントロールに比して、約2.5倍を示した。
また、他のイネ品種「にこまる」及び「オオチカラ(大力)」に、sh4遺伝子を導入したところ、これらの品種の形質転換当代T0個体において、稔実粒の平均モ ミ重(mg)が有意に増加することが明らかとなった(図10、図11)。
即ち、本発明者らは機能型アリルのsh4遺伝子を植物体で発現させることにより、植物体の穀粒サイズを増大させることに成功し、個体辺りの収量が増加することを示し、これにより本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、より具体的には以下の(1)~(13)を提供するものである。
(1)下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAを含む、植物体の穀粒の大きさを増大させた植物体。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1又は2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(2)前記植物体が単子葉植物である、(1)に記載の植物体。
(3)植物体がイネ科植物である、(1)に記載の植物体。
(4)下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAが発現するように導入されたベクター。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1又は2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(5)(4)に記載のベクターが導入された宿主細胞。
(6)(4)に記載のベクターが導入された植物細胞。
(7)(6)に記載の植物細胞を含む形質転換植物体。
(8)(7)に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
(9)(7)または(8)に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
(10)下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物体の穀粒の大きさを増大させる方法。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1又は2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(11)前記植物体が単子葉植物である、(10)に記載の方法。
(12)前記植物体がイネ科植物である、(10)に記載の方法。
(13)交配により、前記DNAを植物体に導入することを特徴とする、(10)~(12)のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】導入したゲノム断片の模式図である。
【図2】独立なT0個体に付いた籾の平均重を示す図である。稔実した5粒の平均値。5粒に満たない時は、丸括弧内に粒数を示す。
【図3】T0個体に付いた籾・玄米を示す写真である。
【図4】独立なT0個体に付いた一穂粒数を示す図である。一穂粒数に顕著な差はない。
【図5】T1個体に付いた穂を示す写真である。
【図6】形質転換体のイネの粒〔T2種子〕(A)、穂〔T1個体〕(B)を示す図である。左側が形質転換体を示し、右側が日本晴を示す。
【図7】品種日本晴にsh4遺伝子を導入した系統の自殖T1後代4個体の穂ごとに測定した平均モミ重(mg)を示す図である。左から 、T0-3個体の自殖T1後代3個体、T0-5後代1個体、ベクターコントロール後代3個体、日本晴3個体を示す。山括弧内の数字は、穂の番号、丸括弧内はその穂についた稔実粒数を示す。スペースの関係で、棒グラフ2本に対して、そのうち一本分の品種に関する見出しを表示した。T0-3後代-3はsh4が分離した後代と考えられる。
【図8】品種日本晴にsh4遺伝子を導入した系統の自殖T1後代4個体の個体あたりの総モミ数を示す図である。左から 、T0-3個体の自殖T1後代3個体、T0-5後代1個体、ベクターコントロール後代3個体、日本晴3個体を示す。T0-5後代-1の総籾数が少ない理由は不明である。
【図9】品種日本晴にsh4遺伝子を導入した系統の自殖T1後代10個体の個体あたりの総穂重(g)を示す図である。左から 、T0-3個体の自殖T1後代3個体、T0-5後代1個体、ベクターコントロール後代3個体、日本晴3個体を示す。
【図10】品種にこまるにsh4遺伝子を導入した系統の自殖T1後代個体の個体ごとのモミ重(mg)を示す図である。左から、自殖T1後代18個体、ベクターコントロール後代3個体を示す。丸括弧内はその穂についた稔実粒数を示す。
【図11】品種オオチカラ(大力)にsh4遺伝子を導入した系統の自殖T1後代個体の個体ごとのモミ重(mg)を示す図である。左から、自殖T1後代19個体、ベクターコントロール後代8個体を示す。山括弧内の数字は、穂の番号、丸括弧内はその穂についた稔実粒数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、機能型sh4遺伝子を植物体に導入する、又は野生イネから発見された機能型sh4遺伝子を発現することで、植物体の穀粒サイズを増大させた植物体を提供することにある。

【0010】
本発明のsh4遺伝子は、複数の論文発表によると、すべての栽培イネが機能欠損を起こしている遺伝子である。イネの栽培化の初期過程で、栽培しやすくするために、脱粒性を軽減することを目的に、機能欠損型を古代の人類が選抜したことで栽培イネが確立されたと考えられ、栽培イネに機能型アリルを持つものは存在しないと考えられる。今回、機能型アリルのsh4遺伝子が、植物体の穀粒の大きさを増大させる作用を有していることから、該タンパク質をコードするDNAで植物を形質転換することにより、穀粒の大きさが増大した植物体の育成が可能である。また、単純な考察から、交配により、野生イネから機能型アリルのsh4遺伝子を導入した準同質置換系統でも、同様な効果が期待できる。

【0011】
本発明において、sh4遺伝子が導入される植物は特に限定されるものではないが、好ましくは単子葉植物であり、より好ましくはイネ科植物であり、最も好ましくは栽培イネである。本発明において、イネ科植物の品種は特に限定されるものではないが、好ましくは「日本晴」「にこまる」又は「オオチカラ(大力)」等を挙げることが出来る。

【0012】
本発明において、「植物体の穀粒の大きさを増大させる」とは、本発明のsh4遺伝子を植物内で発現させることにより、収穫時の穀粒の体積や重量を増大させることをいう。また、籾の大きさを増大させる効果や転流を促進する効果も「植物体の穀粒の大きさを増大させる」ことに相当する。
穀粒の大きさの増大効果は、植物の穀粒の発生過程のみに発現する効果であってもよい。
また、全ての穀粒において増大効果がみられるものであってもよいし、ある特定の穀粒にのみ増大効果がみられるものであってもよい。
本発明において、「植物体の穀粒の大きさが増大したかいなか」については、穂ごとのモミ重(mg)又は個体ごとの穂重(g)を測定することにより確認することができる。

【0013】
本発明に用いられる機能型sh4遺伝子のゲノムDNAの塩基配列を配列番号:1に、該遺伝子のORF領域の塩基配列を配列番号:2に、及び該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:3に示す。又、機能欠失型sh4タンパク質のアミノ酸配列を配列番号:4に示す。

【0014】
本発明に用いられるDNAには、交配により移される染色体断片中のゲノムDNA、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、本発明のsh4遺伝子を有するイネ品種からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、本発明のsh4タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:2)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、本発明のsh4タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:2)に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRをおこなうことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、本発明のsh4遺伝子を有するイネ品種から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。

【0015】
本発明に用いられるDNAは、配列番号:3に記載の機能型sh4タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを包含する。ここで「sh4タンパク質と同等の機能を有する」とは、対象となるタンパク質が植物体の穀粒の大きさを増大させる機能を有することを指す。このようなDNAは、好ましくは単子葉植物由来であり、より好ましくはイネ科植物由来であり、最も好ましくは現在の野生イネ由来である。

【0016】
このようなDNAには、例えば、配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログが含まれる。

【0017】
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAを調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、site-directed mutagenesis法が挙げられる。また、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。このように天然機能型のsh4タンパク質をコードするアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであっても、天然機能型のsh4タンパク質(配列番号:3)と同等の機能を有するタンパク質をコードする限り、本発明のDNAに含まれる。また、たとえ、塩基配列が変異した場合でも、それがタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)もあり、このような縮重変異体も本発明のDNAに含まれる。

【0018】
あるDNAが植物体の穀粒の大きさを増大させる機能を有するタンパク質をコードするか否かは以下のようにして評価することができる。最も一般的な方法としては、該DNAが導入された植物体の穀粒の大きさを調べる手法である。植物体の穀粒の大きさが増大した場合には、導入したDNAが植物体の穀粒の大きさを増大させる機能を有するタンパク質をコードしていることが分かる。

【0019】
配列番号:3に記載のsh4タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、sh4遺伝子の塩基配列(配列番号:1又は2)もしくはその一部をプローブとして、またsh4遺伝子(配列番号:1又は2)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネや他の植物からsh4遺伝子と高い相同性を有するDNAを単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうるsh4タンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。

【0020】
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、 0.4%SDS、0.5×SSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1×SSCの条件を用いることにより、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、sh4タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:3)と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。

【0021】
本発明は、野生イネと栽培イネの交配後代から、sh4遺伝子座が野生イネの機能型アリルをもつ個体を選抜し、穀粒サイズが母本より大きい植物体、その後代、固定系統、品種等を提供できる。野生アリルの遺伝子の導入は、穀粒サイズの増加と、野生イネsh4アリルを持つことを両方満たすということで、特許性を確認することができる。野生イネアリルを持っているかどうかは、報告のある機能欠損アミノ酸部位が機能型アミノ酸に変化していることを、特定ゲノム部位をPCR等で増幅し、DNA配列のシークエンス既存の技術で確認する等で、確認可能である。

【0022】
また、本発明のDNAを利用して植物体の穀粒の大きさを増大した形質転換植物体も提供できる。この形質転換植物体を作製する場合には、本発明のタンパク質をコードするDNA(制御領域を含んでもいい)を適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。本発明者等により単離されたsh4遺伝子は、植物体の穀粒の大きさを増大させる作用を有するが、このsh4遺伝子を任意の品種に導入し過剰に発現させることによりそれらの系統の穀粒の大きさを増大させることが可能である。この形質転換に要する期間は、従来のような交配による遺伝子移入に比較して極めて短期間であり、また、他の形質の変化を伴わない点で有利である。

【0023】
また、本発明は、上記本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターとしては、形質転換植物体作製のために植物細胞内で本発明のDNAを発現させるためのベクターを挙げることができる。このようなベクターとしては、植物細胞で転写可能なプロモーター配列と転写産物の安定化に必要なポリアデニレーション部位を含むターミネーター配列を含んでいれば特に制限されず、例えば、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」(いずれもClontech社製)などが挙げられる。植物細胞の形質転換に用いられるベクターとしては、該細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。ここでいう「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。

【0024】
本発明のベクターは、sh4遺伝子本来のプロモーターはもちろん、本発明のタンパク質を恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有しうる。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター、イネのアクチンプロモーター、トウモロコシのユビキチンプロモーターなどが挙げられる。

【0025】
また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーターやタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター、高温によって誘導されるイネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、「rab16」は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。

【0026】
また、本発明は、本発明のベクターが導入された形質転換細胞を提供する。本発明のベクターが導入される細胞には、形質転換植物体作製のための植物細胞が含まれる。植物細胞としては特に制限はなく、例えば、イネ、シロイヌナズナ、トウモロコシ、ジャガイモ、タバコなどの細胞が挙げられる。本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法、およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。

【0027】
形質転換された植物細胞は、再分化させることにより植物体を再生させることが可能である。再分化の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))が挙げられ、ジャガイモであればVisserら(Theor.Appl.Genet 78:594 (1989))の方法が挙げられ、タバコであればNagataとTakebe(Planta 99:12(1971))の方法が挙げられ、シロイヌナズナであればAkamaら(Plant Cell Reports12:7-11 (1992))の方法が挙げられ、ユーカリであれば土肥ら(特開平8-89113号公報)の方法が挙げられる。

【0028】
一旦、ゲノム内に本発明のDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。

【0029】
このようにして作出された穀粒の大きさが増大した植物体は、野生型植物体と比較して、穀物の収穫量が上がるものと考えられる。本発明の手法を用いれば、農作物の生産性向上に繋がるものと考えられる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕
Aゲノムを持つ野生イネOryza nivaraからゲノムDNAを抽出し、BACライブラリーを作成した。そのライブラリーから、sh4遺伝子領域のゲノム断片を持つBACクローンをPCRでsh4領域だけを増やす特異的なプライマーを設計し、PCRでの増幅の有無で、sh4遺伝子領域を持つBACクローンを単離、その後、pUC18ベクターにBACクローンDNAを数kbpに短く断片化したDNAをサブクローニングした上で、個々のサブクローンの端読みDNA配列を決定し、アセンブルすることで、O.nivaraのsh4遺伝子ゲノム領域のDNA配列を決定した。得られたsh4領域のゲノム断片配列情報から、既知のsh4遺伝子産物の情報から、プロモーター領域等を予想し、KpnIとBamHI制限酵素による消化反応で、sh4遺伝子領域、約8.8kbp長を切り出し、pPZP2H-lacベクターにそのゲノム断片を導入し、形質転換用のコンストラクトを作成した。そして、単離した機能型アリルのsh4遺伝子のコード領域および制御領域を含む約8.8kbのゲノム断片(図1、配列番号:1)を2つのイネ系統、日本晴、NIL(qSH1) (Konishi et al. 2006)に、イネの形質転換法で、単子葉植物の超迅速形質転換法(日本国特許3141084号)を用いて、遺伝子導入した。形質転換の選抜には、抗生物質であるハイグロマイシンを利用した。それぞれ独立な形質転換系統を10系統前後作成し、籾重、脱粒性等、各種形質を測定した。
【実施例】
【0031】
〔実施例2〕
完熟したイネ種子を収穫し、各形質転換系統から、稔実粒を5個ずつ、個体ごとに選び、その質量を測定した。ポジション効果によると推定される形質変化に幅はあるもののベクターコントロールと比較した際に、有意な籾重の増加が確認でき、系統によっては、約1.5倍に増加した(図2)。外観上も籾のサイズの増加、玄米サイズの増加が確認できた(図3)。また、一穂粒数への影響は、ベクターコントロールの触れと同じで、sh4系統での変化はほとんど確認できなかった(図4)。
【実施例】
【0032】
〔実施例3〕
機能型sh4を導入した系統で、玄米サイズの増加が顕著な個体の自殖後代T1系統に付いた穂を観察した。T0と同等な籾サイズの増加が確認できた(図5)。
【実施例】
【0033】
〔実施例4〕
実施例1に記載の方法により、品種日本晴にsh4遺伝子を導入した系統の自殖T1後代4個体について、人工気象室にてイネ植物体の栽培を行い、穂ごとのモミ重(mg)を測定した。
その結果、ベクターコントロール(ベクターのみを日本晴に導入した系統)及び日本晴と比較して、モミ重が有意に増加していることが明らかとなった(図7)。
また、これらの個体について、個体ごとの総籾数(稔実粒、不稔粒)(図8)、及び個体ごとの穂重(図9)を測定し、ベクターコントロール及び日本晴と比較した。
その結果、TO-3の後代は、ベクターコントロール及び日本晴と比較して、2倍強の収量性を示すことが明らかとなった(図8、図9)。一方、TO-5の後代は個体の稔実粒数・総籾数が少なく収量への効果はないことが明らかとなった(図8、図9)。
【実施例】
【0034】
〔実施例5〕
実施例1と同様の方法により、転流が良いという特徴を有する品種「にこまる」、及びイネの粒が大粒であるという特徴を有する品種「オオチカラ(大力)」に、sh4遺伝子を導入した。そして、これらの品種の形質転換当代T0個体についた稔実粒の平均モ ミ重(mg)を測定した。
その結果、「にこまる」においてもsh4遺伝子を導入することによって、日本晴と同様にイネの粒が重くなることが確認された(図10)。また、オオチカラはもともと大粒であり一粒の重量が30mgであったが、sh4遺伝子を導入することによってその重量が40mgを超える形質転換系統を得られることが明らかとなった(図11)。
【産業上の利用可能性】
【0035】
現在の世界の人口増加率と、穀物の生産量の伸びから推定すると、10年後には深刻な穀物不足が国際的に起こると考えられる。また、バイオエネルギー生産による食料とエネルギー生産の競争激化により、穀物不足は早まる可能性がある。そこで、主要穀物であるイネの収量性を改善する本発明は、産業上大きな効果を示すものと考えられる。現在の世界人口の約半分、つまり、30億人がコメを主食にしており、単純計算で、1%の増収は3000万人の主食の確保に相当する。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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