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明細書 :カーボンナノチューブの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5874994号 (P5874994)
公開番号 特開2012-062241 (P2012-062241A)
登録日 平成28年1月29日(2016.1.29)
発行日 平成28年3月2日(2016.3.2)
公開日 平成24年3月29日(2012.3.29)
発明の名称または考案の名称 カーボンナノチューブの製造方法
国際特許分類 C01B  31/02        (2006.01)
FI C01B 31/02 101F
請求項の数または発明の数 9
全頁数 17
出願番号 特願2011-143315 (P2011-143315)
出願日 平成23年6月28日(2011.6.28)
優先権出願番号 2010184067
優先日 平成22年8月19日(2010.8.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年6月23日(2014.6.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】太田 和親
個別代理人の代理人 【識別番号】100090170、【弁理士】、【氏名又は名称】横沢 志郎
【識別番号】100142619、【弁理士】、【氏名又は名称】河合 徹
【識別番号】100153316、【弁理士】、【氏名又は名称】河口 伸子
審査官 【審査官】壷内 信吾
参考文献・文献 国際公開第2010/089860(WO,A1)
国際公開第2006/082829(WO,A1)
米国特許出願公開第2010/0178232(US,A1)
米国特許出願公開第2006/0130609(US,A1)
特開2006-219358(JP,A)
特開2008-273807(JP,A)
特表2004-534715(JP,A)
国際公開第03/008331(WO,A1)
米国特許出願公開第2008/0292530(US,A1)
K. Chen et al.,Graphitic carbon nanostructures via a facile microwave-induced solid-state process,Chemical Communications,2008年 4月 8日,No.24,p.2765-2767
調査した分野 C01B31/00-31/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
不活性ガス雰囲気とした反応容器内に、固形状の炭素含有原料と、担体に担持されていないナノサイズの触媒粒子とをこの順で入れて、前記反応容器内で前記炭素含有原料上に前記触媒粒子を配置し、前記炭素含有原料と前記触媒粒子とを収容した前記反応容器内を加熱して前記炭素含有原料を熱分解させることによりカーボンナノチューブを生成させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記反応容器内を加熱するにあたって、当該反応容器をマイクロ波加熱装置の加熱室に配置し、
前記加熱室は、マイクロ波の照射により発熱する発熱体層が内側に形成された加熱炉の内部に設けられ、
前記加熱炉にマイクロ波を照射して前記加熱室が目的温度に達した後、前記炭素含有原料と前記触媒粒子を収容した前記反応容器を前記加熱室に挿入して所定時間加熱することを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記マイクロ波加熱装置と前記加熱炉には、外部から前記反応容器を挿抜可能な穴が形成されており、
前記反応容器には、不活性ガスを通す通気管が接続されていることを特徴とする請求項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記炭素含有原料は、熱分解性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記熱分解性樹脂はポリスチレンであることを特徴とする請求項4に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
前記反応容器内を加熱する間、当該反応容器内に不活性ガスを通し、当該不活性ガスの気流下でカーボンナノチューブの生成反応を行うことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項7】
前記反応容器内の加熱を行った後、当該反応容器内の残留物に少なくとも酸洗浄を行っ
て前記カーボンナノチューブを回収することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項8】
前記触媒粒子は、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、パラジウム、およびそれらの合金のうちのいずれかの粒子であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項9】
前記触媒粒子は、純粋なニッケル粒子であることを特徴とする請求項8に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、機械的強度、耐熱性、化学的安定性に優れたグラフェンからなる炭素ナノ材料が注目を集めている。かかる炭素ナノ材料の種類は多岐にわたるが、その中でも最も注目されているものの一つがカーボンナノチューブ(以下、「CNT(Carbon Nano Tube)」という。)である。CNTは、熱伝導性、電気伝導性、機械的強度等で従来の物質にない優れた特性を持つことから、次世代半導体としての電子材料、水素等のガス貯蔵材料、複合樹脂材料等幅広い分野への応用が期待されている。
【0003】
従来、CNT合成方法としては、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学的気相成長(CVD)法が提案されている。かかる方法のうち、化学的気相成長法による合成を行う場合には、基体表面の上にニッケル蒸着膜を設け、かかる蒸着膜を約700℃前後の温度に加熱することにより、ニッケル微粒子が基体上に点在した状態を形成する。このニッケル微粒子を触媒として化学的気相成長法によってグラファイト結晶を成長させると、グラファイト結晶はニッケル微粒子の存在した位置に蒸着、成長してカーボンナノチューブが形成される(特許文献1参照)。
【0004】
また、上記の方法以外にも、有機材料とNiとの錯体を不活性ガス気流下で蒸し焼きにしてCNTを合成することも提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開平9-31757号公報
【0006】

【非特許文献1】J. Geng, D. Jefferson, B. F. G. Johnson, J. Mater. Chem. 2005, 15, 844.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法は、高価なCVD装置が必要であるとともに、少量の炭素しか触媒(ニッケル微粒子)に供給できない。また、ニッケル微粒子を基体上に点在した状態とするのに多大な手間がかかる。従って、生産性が低いという問題点がある。さらに、また、上記非特許文献1に記載の方法では、有機材料とNiとの錯体を調製するのに多大な手間を必要とするため、生産性が低いという問題点がある。
【0008】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、高価な装置を用いることなく、高い生産性をもってカーボンナノチューブを製造できるカーボンナノチューブの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法では、不活性ガス雰囲気とした反応容器内に、固形状の炭素含有原料と、担体に担持されていないナノサイズの触媒粒子とをこの順で入れて、前記反応容器内で前記炭素含有原料上に前記触媒粒子を配置し、前記炭素含有原料と前記触媒粒子とを収容した前記反応容器内を加熱して前記炭素含有原料を熱分解させることによりカーボンナノチューブを生成させることを特徴とする。
【0010】
本発明における「カーボンナノチューブ」とは、炭素からなる単層あるいは多層の六員環ネットワーク(グラフェンシート)が0.1~500nm、さらには0.5~50nmの直径をもってチューブ状に伸びた物質であり、本発明の「ナノサイズの触媒粒子」における「ナノサイズ」とは、平均粒径が500nm以下、好ましくは200nm以下であることを意味する。
【0011】
本発明では、不活性ガス雰囲気とした反応容器内に、固形状の炭素含有原料と、担体に
担持されていないナノサイズの触媒粒子とをこの順で入れて、前記反応容器内で前記炭素含有原料上に前記触媒粒子を配置し、前記炭素含有原料と前記触媒粒子とを収容した反応容器内を加熱することにより、炭素含有原料を分解させ、ナノサイズの触媒粒子表面でカーボンナノチューブを成長させている。このような方法によれば、不活性ガス雰囲気とした反応容器内に固形状の炭素含有原料と担体に担持されていないナノサイズの触媒粒子とを収容した状態で、反応容器内を加熱するだけでよいので、高価なCVD装置を必要としない。また、固形状の炭素含有原料と担体に担持されていない触媒粒子をそのまま反応容器内に収容するだけでよく、ニッケル微粒子が点在した基体や錯体等を合成する必要もない。また、反応容器内で炭素含有原料を熱分解して炭素を得ることができるため、装置の大型化も容易かつ安価に行うことができる。加えて、炭素含有原料上に触媒粒子を配置しておくことにより、炭素含有原料の熱分解により発生した炭素と触媒粒子との接触が効率よく行われる。従って、ナノサイズの触媒粒子表面からカーボンナノチューブが効率よく成長するので、高い生産性を得ることができ、量産性に優れている。
【0012】
本発明において、前記反応容器内を加熱するにあたって、当該反応容器をマイクロ波加熱装置の加熱室に配置し、前記加熱室は、マイクロ波の照射により発熱する発熱体層が内側に形成された加熱炉の内部に設けられ、前記加熱炉にマイクロ波を照射して前記加熱室が目的温度に達した後、前記炭素含有原料と前記触媒粒子を収容した前記反応容器を前記加熱室に挿入して所定時間加熱することが好ましい。かかる構成によれば、電気炉を用いる場合に比して容易に急速加熱を行うことができる。従って、加熱-冷却を繰り返すときに加熱に要する時間が短くて済むため、高い生産性を得ることができる。
【0013】
本発明において、前記マイクロ波加熱装置と前記加熱炉には、外部から前記反応容器を挿抜可能な穴が形成されており、前記反応容器には、不活性ガスを通す通気管が接続されていることが好ましい。かかる構成によれば、加熱室が目的温度に達した後、炭素含有原料と触媒粒子を収容した反応容器を加熱室に挿入できる。また、反応容器内に不活性ガスを通すことができ、反応に寄与しない水分や二酸化炭素等を反応容器から自動的に排出することができるので、カーボンナノチューブの成長をスムーズに行わせることができる。
【0014】
本発明において、前記炭素含有原料は、熱分解により原子状の炭素を生成可能な原料であればよく、熱分解性樹脂等の各種有機材料や、木炭や石炭等の炭素系材料を用いることができるが、前記炭素含有原料として熱分解性樹脂を用いることが好ましい。熱分解性樹脂を用いた場合には、比較的低い温度での熱分解により多量の炭素を発生させることができる。
【0015】
この場合、前記熱分解性樹脂はポリスチレンであることが好ましい。ポリスチレンは炭素含有量が多いので、カーボンナノチューブを効率よく生成することができる。また、ポリスチレンは、炭素と水素のみからなり、カーボンナノチューブの生成を妨げる元素を含有していない。よって、熱分解後、反応容器内に残滓が発生しないという利点もある。
【0016】
本発明において、前記反応容器内を加熱する間、当該反応容器内に不活性ガスを通し、当該不活性ガスの気流下でカーボンナノチューブの生成反応を行うことが好ましい。このようにすると、反応に寄与しない水分や二酸化炭素等を反応容器から自動的に排出することができるので、カーボンナノチューブの成長をスムーズに行わせることができるとともに、反応容器内の残留物からカーボンナノチューブを回収するのが容易である。
【0017】
本発明において、前記反応容器内の加熱を行った後、当該反応容器内の残留物に少なくとも酸洗浄を行って前記カーボンナノチューブを回収することが好ましい。かかる構成によれば、カーボンナノチューブの外側に付着していた触媒粒子を容易かつ確実に除去す
ることができる。
【0018】
本発明において、前記触媒粒子として、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、パラジウム、およびそれらの合金のうちのいずれかの粒子を用いることができる。特に、前記触媒粒子は、純粋なニッケル粒子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、不活性ガス雰囲気とした反応容器内に固形状の炭素含有原料とナノサイズの触媒粒子とをこの順で入れて、前記反応容器内で前記炭素含有原料上に前記触媒粒子を配置し、前記炭素含有原料と前記触媒粒子とを収容した反応容器内を加熱することによりカーボンナノチューブを得ることができる。従って、高価なCVD装置を必要としない。また、固形状の炭素含有原料と触媒粒子をそのまま反応容器内に収容するだけでよく、ニッケル微粒子が点在した基体や錯体等を合成する必要もない。また、反応容器内で炭素含有原料を熱分解して炭素を得ることができるため、装置の大型化も容易かつ安価に行うことができる。加えて、炭素含有原料上に触媒粒子を配置しておくことにより、炭素含有原料の熱分解により発生した炭素と触媒粒子との接触が効率よく行われる。従って、ナノサイズの触媒粒子表面からカーボンナノチューブが効率よく成長する。よって、高い生産性を得ることができ、量産性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るCNT(カーボンナノチューブ)の製造方法で使用される加熱装置の一例を示す説明図である。
【図2】本発明を適用したCNTの製造方法において反応温度が600℃の条件で得られた炭素生成物のX線回折パターンを示す説明図である。
【図3】本発明を適用したCNTの製造方法において反応温度が700℃の条件で得られた炭素生成物のX線回折パターンを示す説明図である。
【図4】本発明を適用したCNTの製造方法において反応温度が800℃の条件で得られた炭素生成物のX線回折パターンを示す説明図である。
【図5】本発明を適用したCNTの製造方法において反応温度が900℃の条件で得られた炭素生成物のX線回折パターンを示す説明図である。
【図6】本発明を適用したCNTの製造方法により得られた炭素生成物に関して、Gr/Ni比を反応温度別に反応時間に対してプロットしたグラフである。
【図7】本発明を適用したCNTの製造方法により得られた炭素生成物を透過型電子顕微鏡により観察した結果を示す説明図である。
【図8】本発明を適用したCNTの製造方法において反応温度が600℃の条件で得られた炭素生成物のラマンスペクトルを示す説明図である。
【図9】本発明を適用したCNTの製造方法において反応温度が700℃の条件で得られた炭素生成物のラマンスペクトルを示す説明図である。
【図10】本発明を適用したCNTの製造方法において反応温度が800℃の条件で得られた炭素生成物のラマンスペクトルを示す説明図である。
【図11】本発明を適用したCNTの製造方法において反応温度が900℃の条件で得られた炭素生成物のラマンスペクトルを示す説明図である。
【図12】図8~図11に示すラマンスペクトルにおけるDバンドの強度とGバンドの強度との比(D/G比)を反応温度別に反応時間に対してプロットしたグラフである。
【図13】本発明を適用したCNTの製造方法による炭素含有原料(粒状ポリスチレン)1g当たりのCNT収量を触媒粒子の混合比(Ni重量分率)に対してプロットしたグラフである。
【図14】触媒粒子(Niナノ粒子)1g当たりのCNT収量を触媒粒子の混合比(Ni重量分率)に対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、実施の形態および実施例を説明する前に本発明で使用される加熱装置の一例を説明し、その後、製造方法および実施例を説明する。

【0022】
[加熱装置の構成]
図1は、本発明に係るCNT(カーボンナノチューブ)の製造方法で使用される加熱装置の一例を示す説明図である。

【0023】
図1に示す加熱装置1は、マイクロ波加熱装置であり、マイクロ波加熱装置対応の熱電対2と温度コントローラー3とにより温度制御ができるように改造した家庭用の電子レンジ10(マイクロ波発生装置)を備えている。また、電子レンジ10の筐体内には、電子レンジ10からのマイクロ波の照射により発熱する加熱炉20が設置されている。加熱炉20の本体部分はセラミックファイバー製であり、その内側は、発熱体22としての炭化ケイ素層が形成されている。従って、マイクロ波が照射されると、炭化ケイ素層は発熱体22として機能し、加熱炉20の加熱室25内を所定の温度まで加熱する。かかる加熱炉20は、例えば、商品名「アートボックス」等として市販されている。

【0024】
加熱炉20および電子レンジ10の上面には、石英試験管からなる反応容器30を挿抜できる穴が形成されている。電子レンジ10によって加熱炉20の加熱室25内を目的温度まで昇温した後、後述する材料50を収容した反応容器30を挿入し、反応容器30内でカーボンナノチューブの生成反応を行わせる。反応容器30には、通気管35が接続されており、かかる通気管35には、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスが供給される。これにより、反応容器30内を不活性ガス雰囲気とすることができる。また、反応容器30を加熱室25内に挿入して反応容器30内で反応を行わせる間も不活性ガスを供給することができ、不活性ガスの気流下でCNTの生成反応を行うことができる。

【0025】
(CNT(カーボンナノチューブ)の製造方法)
図1を参照して説明した反応容器30と加熱装置1とを用いてCNTを製造するにあたって、本形態では、不活性ガス雰囲気とした反応容器30内に材料50(固形状の炭素含有原料、およびナノサイズの触媒粒子)を収容した状態で、反応容器30内を加熱する。その結果、炭素含有原料が熱分解して原子状の炭素が生成される。かかる原子状の炭素は、触媒粒子の表面で成長し、CNTを生成する。

【0026】
より具体的には、まず、反応容器30内に、固形状の炭素含有原料、およびナノサイズの触媒粒子をこの順に入れた後、反応容器30内に不活性ガスを流して反応容器30内の空気を不活性ガスに置換し、反応容器30内を不活性ガス雰囲気とする。

【0027】
炭素含有原料は、例えば、ポリスチレン等の熱分解性樹脂である。かかる炭素含有原料は、反応容器30内で加熱されると熱分解し、原子状の炭素を生成する。熱分解性樹脂としては、高密度ポリエチレン(熱分解温度471℃)、ポリプロピレン(熱分解温度445℃)、ポリスチレン(熱分解温度406℃)、ポリアセタール(熱分解温度313℃)等を用いることができる。かかる熱分解性樹脂は、熱分解後、残滓が発生しにくいという利点がある。また、熱分解性樹脂は炭素供給源として利用されることから、含有炭素量が多いことが好ましい。ポリスチレンは、含有炭素量が96/104と多いことから、熱分解性樹脂を炭素供給源として用いるのに適している。さらに、ポリスチレンは、発泡スチロール等として広く使用されているため、調達しやすいという利点もある。

【0028】
本形態において、触媒粒子は、遷移金属系粒子であり、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、パラジウム、およびそれらの合金のうちのいずれかの粒子からなる。これらの金属粒子のうち、ナノサイズの粒子の状態で得やすいという観点からすれば、触媒粒子としてニッケル粒子を用いることが好ましい。

【0029】
本形態では、反応容器30内に材料50を収容する際、炭素含有原料と触媒粒子とをこの順に入れる。このようにすると、反応容器30内では炭素含有原料上に触媒粒子が配置された状態となる。

【0030】
一方、加熱装置1では、電子レンジ10によって加熱炉20にマイクロ波を照射して加熱する。加熱室25内の温度が炭素含有原料を熱分解可能な目的温度に達した後、材料50を収容した反応容器30を加熱炉20の加熱室25内に挿入し、所定時間加熱する。その結果、反応容器30内が加熱され、炭素含有原料が熱分解して原子状の炭素が生成される。かかる炭素が触媒粒子の表面で成長することにより、少量の触媒金属を内包したCNTが生成される。また、生成物にはカーボンナノカプセルも含まれている。カーボンナノカプセルは、長く成長したCNTの未発達形と考えられる。

【0031】
次に、電子レンジ10によるマイクロ波の照射を停止して、反応容器30内を室温まで放冷した後、反応容器30内からCNTを回収する。より具体的には、反応容器30内の残留物に酸洗浄、濾過、水洗等を行ってCNTを回収する。

【0032】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態のCNTの製造方法では、不活性ガス雰囲気とした反応容器30内に固形状の炭素含有原料とナノサイズの触媒粒子とを収容した状態で、反応容器30内を加熱する。これにより、反応容器30内で炭素含有原料が分解し、ナノサイズの触媒粒子表面でCNTが成長する。このような方法によれば、CNTを得るために高価なCVD装置を必要としない。また、炭素含有原料と触媒粒子とをそのまま反応容器30内に収容するだけでよく、反応容器30内で固形状の炭素含有原料を熱分解して炭素を得ることができ、ニッケル微粒子が点在した基体や錯体等を合成する必要もない。従って、容易かつ安価にCNTを製造でき、装置の大型化等も容易である。よって、高い生産性を得ることができ、量産性に優れている。さらに、ナノサイズの触媒粒子の各々からCNTが成長するため、触媒粒子の使用量が少なくても、CNTを効率よく製造することができる。さらにまた、ナノサイズの触媒粒子を用いるため、触媒粒子の単位使用量当たりの表面積が大きい。従って、CNTを効率よく製造することができる。

【0033】
また、反応容器30内に炭素含有原料と触媒粒子とを収容するにあたって、炭素含有原料上に触媒粒子を配置している。このようにすると、炭素含有原料の熱分解により発生した原子状の炭素が上昇するときに触媒粒子に接触し、炭素含有原料の熱分解により発生した炭素と触媒粒子との接触が効率よく行われる。従って、ナノサイズの触媒粒子表面からCNTが効率よく成長する。

【0034】
また、反応容器30内を加熱するにあたって、反応容器30をマイクロ波加熱装置内の加熱室25内に配置している。このため、電気炉を用いる場合に比して容易に急速加熱を行うことができる。従って、加熱-冷却を繰り返すときに加熱に要する時間が短くて済むため、高い生産性を得ることができる。なお、本形態では、加熱装置1としてマイクロ波加熱装置を用いたが、加熱状態を長時間にわたって保持するような場合には、マイクロ波加熱装置に代えて電気炉等を用いてもよい。

【0035】
また、本形態では、炭素含有原料として熱分解性樹脂を用いたため、比較的低い温度で熱分解により原子状の炭素を得ることができると共に、熱分解によって多量の炭素を発生させることができる。特に、熱分解性樹脂としてポリスチレンを用いた場合には、炭素含有量が多いため、CNTを効率よく生成することができる。また、ポリスチレンは、炭素と水素のみからなるため、反応容器30内に残滓が発生しないという利点がある。

【0036】
また、本形態では、反応容器30内を加熱する間、反応容器30内に不活性ガスを通し、不活性ガスの気流下でCNTの生成反応を行う。このようにすると、反応に寄与しない水分や二酸化炭素、未反応の炭素等を反応容器30から自動的に排出することができる。よって、CNTの成長をスムーズに行わせることができるとともに、反応容器30内の残留物からCNTを回収するのが容易である。また、反応容器30内の加熱を行った後、反応容器30内の残留物に対して酸洗浄等の洗浄を行うことにより、CNTを回収することができる。酸洗浄を行うことにより、CNTの外側に付着していた触媒粒子を容易かつ確実に溶解させ、除去することができる。

【0037】
[実施例1]
(合成方法)
石英試験管からなる反応容器30に、炭素含有原料(熱分解性樹脂)としての粒状のポリスチレン(和光純薬社製:重合度約2000)0.97gと、ナノサイズの触媒粒子としてのNiナノ粒子(NTbase社製 NP-N100 平均粒度 100nm)0.030gとをこの順に入れた後、反応容器30内に、不活性ガスとしての窒素ガスを10分間流し、反応容器30内の空気を窒素ガスに置換した。

【0038】
次に、電子レンジ10によって加熱炉20にマイクロ波を照射して加熱し、加熱室25内の温度が目的温度(600, 700, 800, 900℃)に達した後、反応容器30を加熱室25内に挿入し、5, 10, 15, 20分間反応させた。

【0039】
次に、反応容器30を室温まで放冷後、この反応容器30の中に濃塩酸20mlを入れ超音波(SHARP社製 超音波洗浄機 UT-105S)を5分間印加し、酸洗浄を行った。次に、反応容器30内の材料を三角フラスコに移し、一晩放置した。次に、三角フラスコに多量の水を入れて自然濾過し、ろ液が中性になるまでろ物を水で洗浄した。その後、黒色のろ物をサンプル瓶に移し、穴を開けたアルミニウム箔で蓋をして、乾燥機で水分を除去した後に、二時間真空乾燥させて、黒色の炭素生成物(CNT)を得た。かかる炭素生成物(CNT)の収量は、以下の通りであった。

【0040】
温度600℃
反応時間 収量
5分 0.048g
10分 0.035g
15分 0.036g
20分 0.034g
温度700℃
反応時間 収量
5分 0.012g
10分 0.042g
15分 0.054g
20分 0.062g
温度800℃
反応時間 収量
5分 0.065g
10分 0.072g
15分 0.084g
20分 0.067g
温度900℃
反応時間 収量
5分 0.048g
10分 0.035g
15分 0.044g
20分 0.032g

【0041】
次に、合成した炭素生成物(CNT)を、広角X線回折系(Rigaku-Rad)、透過型電子顕微鏡(JEOL 2010 Fas TEM microscope)、ラマン分光光度計(HoloLab5000)を用いて観察、評価した。その結果を以下に説明する。

【0042】
(X線回折による観察結果)
図2~図5は、本発明を適用したCNTの製造方法において反応温度が600, 700, 800, 900℃の条件で得られた炭素生成物のX線回折パターンを示す説明図である。

【0043】
図2を見て分かるように、反応温度が600℃では、他の反応温度(700, 800, 900℃)と違い、Ni(111)の反射ピークがGraphite(002)の反射ピークに比べて非常に小さかった。これは、600℃では、Ni含有炭素生成物があまり出来ていない事を示している。X線測定をした際のNiの反射ピークは、炭素生成物に内包されているNiに由来するものである。これに対して、炭素生成物に内包されていないNiは、精製の際に濃塩酸処理で完全に除去される。従って、600℃では、Ni含有炭素生成物があまり出来ていないと考えられる。

【0044】
ここで、Ni(111)反射強度に対するGraphite(002)反射強度の比(Gr/Ni比)は、グラフェンの成長率を見積もる指標となる。そこで、Gr/Ni比と温度との関係を検討した。

【0045】
図6は、本発明を適用したCNTの製造方法により得られた炭素生成物に関して、Gr/Ni比を反応温度別に反応時間に対してプロットしたグラフである。なお、図6において、実線L11は反応温度が700℃での結果を示し、点線L12は反応温度が800℃での結果を示し、一点鎖線L13は反応温度が900℃での結果を示している。

【0046】
図6を見てわかるように、反応温度が700℃では15分、反応温度が800℃では10分、反応温度が900℃では5分のときに、最も高いGr/Ni比となった。これより、CNT合成(=グラフェン合成)の最適条件は、反応温度が上がるにつれ、加熱時間が短くてよい事がわかった。

【0047】
(透過型電子顕微鏡による観察結果)
図7は、本発明を適用したCNTの製造方法により得られた炭素生成物を透過型電子顕微鏡により観察した結果を示す説明図である。なお、図7(a)、(b)、(c)、(d)に示すTEM画像は、反応温度が600, 700, 800, 900℃で、反応時間が10分の場合の炭素生成物のTEM画像であり、CNT中に写る粒状の黒い影は、CNTに内包された触媒粒子(Ni粒子)である。また、図7(a)、(b)においてスケールバーは0.1μmを示しており、図7(c)、(d)においてスケールバーは50nmを示している。

【0048】
図7を見てわかるように、反応温度が700℃および800℃のときには、反応時間が10分でもCNTが十分成長しており、Ni金属を内包する長いCNTが多く生成されている。これに対して、反応温度が600℃、反応時間が10分では未発達のものが多い。また、反応温度が900℃ではCNTは生成されていたが、あまり多くはなかった。その理由は、反応温度が900℃の場合、反応時間10分では長すぎて、生成途中のCNTの一部が熱により再び炭素の気体として消失したためと考えられる。これらの観察結果は、X線回折の結果やGr/Ni比の関係と一致している。

【0049】
(ラマン分光分析結果)
図8~図11は、本発明を適用したCNTの製造方法において反応温度を600, 700, 800, 900℃としたときに得られた炭素生成物のラマンスペクトルを示す説明図であり、(a)、(b)、(c)、(d)は各々、反応時間が5分、10分、15分、20分のラマンスペクトルを示す説明図である。図12は、図8~図11に示すラマンスペクトルにおけるDバンドの強度とGバンドの強度との比(D/G比)を反応温度別に反応時間に対してプロットしたグラフである。なお、図12において、点線L21は反応温度が600℃での結果を示し、一点鎖線L22は反応温度が700℃での結果を示し、実線L23は反応温度が800℃での結果を示し、二点鎖線L24は反応温度が900℃での結果を示している。

【0050】
図8~図11を見てわかるように、反応温度が600, 700, 800, 900℃のいずれの場合でも、グラフェン骨格が示す1590cm-1付近のGバンドと、その欠陥に起因する1350cm-1付近のDバンドとが観測された。これらの図を見てわかるように、今回合成したCNTではDバンドは比較的に大きく観測されており、欠陥が多く存在する。かかる欠陥は、sp3混成軌道がある部分であるため、本形態で得られたCNTは、COOH基やSO3H基を導入する官能基化に非常に適している。

【0051】
(実施例1の効果)
以上説明したように、実施例1では、ポリスチレン粒子とNiナノ粒子を材料として使用するため、煩雑な事前準備をする必要がない。また、実施例1では、電子レンジ10(マイクロ波発生装置)を利用するため、きわめて安価かつ短時間でCNTを合成することができる。それ故、実施例1に係る製造方法は、低廉なCNTの合成方法である。また、実施例1によれば、ポリスチレン粒子とNiナノ粒子を材料として使用した場合、反応温度が700℃では反応時間が15分、反応温度が800℃では反応時間が10分、反応温度が900℃では反応時間が5分の条件が各々、各反応温度での最適条件である事がわかった。

【0052】
[実施例2]
石英試験管からなる反応容器30に、炭素含有原料(熱分解性樹脂)としての粒状のポリスチレン(和光純薬社製:重合度約2000)0.70gと、ナノサイズの触媒粒子としてのNiナノ粒子(NTbase社製 NP-N100 平均粒度 100nm)0.30gとをこの順に入れ、反応容器30内に、不活性ガスとしての窒素ガスを10分間流して、反応容器30内の空気を窒素ガスに置換した。

【0053】
その後、電子レンジ10によって加熱炉20にマイクロ波を照射して加熱し、加熱室25内の温度を、前記の実施例における最適条件である800℃(反応温度)に設定した後、反応容器30を加熱室25内に挿入し、10分間反応させた。

【0054】
次に、反応容器30を室温まで放冷後、この反応容器30の中に濃塩酸20mlを入れ超音波(SHARP社製 超音波洗浄機 UT-105S)を5分間印加し、酸洗浄を行った。同様に、超音波を2時間印加した条件でも酸洗浄を行った。

【0055】
次に、反応容器30内の材料を三角フラスコに移し、一晩放置した。次に、三角フラスコに多量の水を入れて自然濾過し、ろ液が中性になるまでろ物を水で洗浄した。その後、黒色のろ物をサンプル瓶に移し、穴を開けたアルミニウム箔で蓋をして、乾燥機で水分を除去した後に、二時間真空乾燥させて、黒色の炭素生成物(カーボンナノファイバー)を得た。

【0056】
かかる炭素生成物(カーボンナノファイバー)の収量は、超音波の照射時間が5分の場合、0.16gであり、超音波の照射時間が2時間の場合、0.17gであった。

【0057】
[実施例3]
(最適触媒量の探索)
実施例1の結果を総合すると、CNT生成に最適な反応温度は800℃、最適な反応時間は10分であると判断できる。また、実施例2では、実施例1と比べて炭素含有原料を減らし、触媒粒子を増やした結果、CNTの収量が増大している。そこで、反応温度および反応時間を最適条件(800℃、10分)に固定し、炭素含有原料と触媒粒子の混合比を変えて、本発明を適用したCNTの製造方法を実施し、CNTの収量を比較した。

【0058】
具体的には、炭素含有原料(粒状ポリスチレン)と触媒粒子(Niナノ粒子)の総重量を実施例1、2と同様に1.00gとし、総重量に対する触媒粒子の比率(混合比/重量分率)を10%、20%、30%、40%として4回の合成を行った。

【0059】
本実施例3では、上記実施例1、2と同様に、石英試験管からなる反応容器30に、炭素含有原料(熱分解性樹脂)としての粒状のポリスチレン(和光純薬社製:重合度約2000)と、ナノサイズの触媒粒子としてのNiナノ粒子(NTbase社製 NP-N100 平均粒度 100nm)とを上記の混合比(重量分率)となるようにこの順に入れた後、反応容器30内に、不活性ガスとしての窒素ガスを10分間流し、反応容器30内の空気を窒素ガスに置換した。

【0060】
次に、電子レンジ10によって加熱炉20にマイクロ波を照射して加熱し、加熱室25内の温度が目的温度(800℃)に達した後、反応容器30を加熱室25内に挿入し、10分間反応させた。

【0061】
次に、反応容器30を室温まで放冷後、この反応容器30の中に濃塩酸10mlを入れ超音波(SHARP社製 超音波洗浄機 UT-105S)を1時間印加し、酸洗浄を行った。次に、反応容器30内の材料を三角フラスコに移し、一晩放置した。次に、三角フラスコに多量の水を入れて自然濾過し、ろ液が中性になるまでろ物を水で洗浄した。その後、黒色のろ物をサンプル瓶に移し、穴を開けたアルミニウム箔で蓋をして、乾燥機(140℃)で水分を除去した後に、二時間真空乾燥させて、黒色の炭素生成物(CNT)を得た。かかる炭素生成物(CNT)の収量は、以下の通りであった。

【0062】
反応温度800℃、反応時間10分
粒状ポリスチレン ナノNi粒子(重量分率) 収量
0.90g 0.10g(10%) 0.070g
0.80g 0.20g(20%) 0.077g
0.70g 0.30g(30%) 0.110g
0.60g 0.40g(40%) 0.150g

【0063】
図13は、本発明を適用したCNTの製造方法による炭素含有原料(粒状ポリスチレン)1g当たりのCNT収量を触媒粒子の混合比(Ni重量分率)に対してプロットしたグラフであり、図14は触媒粒子(Niナノ粒子)1g当たりのCNT収量を触媒粒子の混合比(Ni重量分率)に対してプロットしたグラフである。なお、図13、14において、Ni重量分率が最も小さいデータ点は実施例1における温度800℃、10分の条件(粒状ポリスチレン0.97g、Niナノ粒子0.030g)でのデータであり、他のデータ点は実施例3におけるデータである。

【0064】
図13を見てわかるように、Niナノ粒子の混合比を多くするにつれてCNT収量が増加しており、特に、Ni重量分率が0.20を超えるとCNT収量が急増することがわかった。その一方、図14を見てわかるように、Niナノ粒子の触媒の能力(単位量あたりのCNTの生成量)は、Ni重量分率が0.20を超えるとほぼ一定になることがわかった。

【0065】
[実施例4]
(大量合成)
実施例3の結果を考慮して、触媒粒子の混合比(Ni重量分率)を30%に設定し、CNTの大量合成を試みた。実施例3と同一の方法、条件(温度800℃、10分)で、炭素含有原料(粒状ポリスチレン)と触媒粒子(Niナノ粒子)の総重量を2.00g、5.00gとして2回の合成を行った。その結果、得られたCNTの収量は以下の通りであった。

【0066】
反応温度800℃、反応時間10分
総重量 粒状ポリスチレン ナノNi粒子(重量分率) 収量
2.00g 1.40g 0.60g(30%) 0.280g
5.00g 3.50g 1.50g(30%) 1.200g

【0067】
このように、総重量が1.00gのときのCNT収量が0.110g(実施例3参照)であったのに対し、総重量がその2倍、5倍になるとCNT収量がそれぞれ2.5倍、10.9倍となって急激に増加している。このようなCNT収量の急激な増加は、反応容器である石英試験管の中の空間の隙間が少ない方が、Niナノ粒子に多くの原子状の炭素が吸収されるためだと考えられる。

【0068】
以上のように、実施例4では、実験室レベルの装置においてCNTをグラム単位で容易に合成できることを確認できた。従って、反応装置を大型化することにより、CNTの量産が可能と考えられる。
【符号の説明】
【0069】
1 加熱装置
10 電子レンジ
20 加熱炉
22 発熱体
25 加熱室
30 反応容器
50 材料
図面
【図1】
0
【図6】
1
【図8】
2
【図9】
3
【図10】
4
【図11】
5
【図12】
6
【図13】
7
【図14】
8
【図2】
9
【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
13