TOP > 国内特許検索 > イオン化分析方法および装置 > 明細書

明細書 :イオン化分析方法および装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5098079号 (P5098079)
登録日 平成24年10月5日(2012.10.5)
発行日 平成24年12月12日(2012.12.12)
発明の名称または考案の名称 イオン化分析方法および装置
国際特許分類 H01J  49/10        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
H01J  49/26        (2006.01)
FI H01J 49/10
G01N 27/62 G
H01J 49/26
請求項の数または発明の数 19
全頁数 22
出願番号 特願2010-517872 (P2010-517872)
出願日 平成21年6月4日(2009.6.4)
国際出願番号 PCT/JP2009/060653
国際公開番号 WO2009/157312
国際公開日 平成21年12月30日(2009.12.30)
優先権出願番号 2008169679
優先日 平成20年6月27日(2008.6.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年11月8日(2010.11.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
発明者または考案者 【氏名】平岡 賢三
【氏名】チェン・リー チュイン
個別代理人の代理人 【識別番号】100080322、【弁理士】、【氏名又は名称】牛久 健司
【識別番号】100104651、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 正
【識別番号】100114786、【弁理士】、【氏名又は名称】高城 貞晶
審査官 【審査官】桐畑 幸▲廣▼
参考文献・文献 特表平10-503410(JP,A)
特公平08-028197(JP,B2)
米国特許出願公開第2005/0211685(US,A1)
米国特許第06107626(US,A)
特開2004-146219(JP,A)
特開2006-196291(JP,A)
特公昭61-054723(JP,B1)
調査した分野 H01J 49/10
G01N 27/62
H01J 49/26
特許請求の範囲 【請求項1】
誘電体よりなる第1の筒状体,
上記第1の筒状体の先端部付近の外側に設けられた第1の電極,および
上記第1の筒状体内の中心付近に,上記第1の筒状体の内面との間に間隔をあけてかつ上記第1の筒状体の長手方向に沿って配置され,上記第1の電極が設けられた位置を通り,上記第1の筒状体の先端よりも外方に突出している第2の電極を備え,
上記第2の電極が試料ガス供給用または生成したイオン導入用の第2の筒状体であり,先端が開口している,
イオン化装置。
【請求項2】
上記第2の電極が金属製の細管である,請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項3】
上記第2の電極が試料ガス供給のためのキャピラリーであり,その後端から試料ガスが供給される,請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項4】
上記第2の電極がイオン導入用のキャピラリーであり,このキャピラリーが質量分析装置の内部と連通している,請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項5】
上記第2の電極が,絶縁性の内筒体の表面に,少なくとも上記第1の電極の位置から先端までの間に金属部が形成されたものである,請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項6】
上記第2の電極の先端に近接してその先端外方に配置されたメッシュ電極をさらに備えた,請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン化装置と質量分析装置とを備えたイオン化分析装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン化装置を用い,上記第1の電極と第2の電極との間に交流電圧を印加し,
上記第1の筒状体の先端から発生する帯電気流に試料を晒す,
イオン化方法。
【請求項9】
記第2の電極と接地電位との間に直流電圧を印加し,この直流電圧の極性に応じて正イオン・リッチまたは負イオン・リッチな帯電気流を生成する,請求項8に記載のイオン化方法。
【請求項10】
試料の背後に置かれた導体に上記直流電圧と極性が等しく,かつ上記直流電圧の絶対値よりも大きな絶対値の電圧を印加する,請求項9に記載のイオン化方法。
【請求項11】
上記第2の電極の先端に近接してその先端外方に配置されたメッシュ電極に正または負の直流電圧を印加する,請求項8に記載のイオン化方法。
【請求項12】
上記第1の筒状体内の上記第2の電極との間の間隙に放電ガスまたはキャリア・ガスを供給する,請求項8ないし11のいずれか一項に記載のイオン化方法。
【請求項13】
試料に溶媒の微細液滴を吹き付け,試料の脱離を促進する,請求項8ないし11のいずれか一項に記載のイオン化方法。
【請求項14】
試料を加熱することにより試料の脱離を促進する,請求項8ないし11のいずれか一項に記載のイオン化方法。
【請求項15】
試料に超音波振動を加えることにより試料の脱離を促進する,請求項8ないし11のいずれか一項に記載のイオン化方法。
【請求項16】
試料にレーザ光を照射することにより試料の脱離を促進する,請求項8ないし11のいずれか一項に記載のイオン化方法。
【請求項17】
試料表面近傍に光子場を形成して試料の脱離を促進する,請求項8ないし11のいずれか一項に記載のイオン化方法。
【請求項18】
上記放電ガスまたはキャリア・ガスを加熱して試料の脱離を促進する,請求項12に記載のイオン化方法。
【請求項19】
請求項8ないし18のいずれか一項に記載のイオン化方法により生成した試料イオンを分析装置に導く,イオン化分析方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明はバリヤー放電を利用した大気圧下におけるイオン化分析方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バリヤー放電を利用したイオン化分析方法および装置の例が次の文献に記載されている。
1.Na Na,Chao Zhang,Mengxia Zhao,Sichun Zhang,Chengdui Yang,Xiang Fang and Xinrong Zhang“Direct detection of explosives on solid surfaces by mass spectrometry with an ambient ion source based on dielectric barrier discharge”J.Mass Spectrom.2007;42:1079-1085
2.Na Na,Mengxia Zhao,Sichun Zhang,Chengdui Yang,and Xinrong Zhang“Development of a Dielectric Barrier Discharge Ion Source for Ambient Mass Spectrometry”J Am Soc Mass Spectrom.2007,18,1859-1862
これらの文献に記載のイオン化分析方法および装置は,板状電極と,板状電極の表面上に配置されたガラス板と,ガラス板(板状電極)の面にほぼ垂直にガラス板から離して配置された針状電極とを備え,板状電極と針状電極との間に交流高電圧を印加し,バリヤー放電を起こすものである。分析対象物である試料をガラス板上に置き,バリヤー放電によって生じるプラズマ・トーチに晒す。これによって試料から原子,分子が脱離しかつイオン化される。イオンは質量分析装置に導かれ,分析される。
上記の文献に記載のイオン化分析方法および装置においては,試料をバリヤー放電により生じるプラズマ・トーチ(非平衡プラズマ)に直接に晒すので,プラズマ中の高エネルギー電子によって試料そのものの分解,試料から脱離してイオン化された分子の分解,分解により生じたフラグメント・イオンの重合等が起こるので,必ずしも正確な分析ができない場合があるという問題がある。
【発明の開示】
【0003】
この発明は,試料の分解やイオンの分解または重合が生じ難く正確な分析が可能となるイオン化方法および装置,イオン化分析方法および装置を提供するものである。
この発明はまた,分析の感度を高めることを目的とする。
この発明はさらに,正イオンまたは負イオンを選択的に生成することができるようにすることを目的とする。
さらにこの発明は,イオン化にあたって分子または原子等の試料粒子の試料からの脱離を促進するものである。
この発明によるイオン化装置は,誘電体よりなる筒状体,上記筒状体の先端部付近の外側に設けられた第1の電極,および上記筒状体内の中心付近に上記筒状体の内面との間に間隔をあけてかつ上記筒状体の長手方向に沿って配置され,上記第1の電極が設けられた位置を通り,上記筒状体の先端よりも外方に突出している第2の電極を備えているものである。
第1の電極と第2の電極との間に,交流電圧が印加されることにより,誘電体(絶縁体)よりなる筒状体がバリヤーとなり,筒状体内にバリヤー放電が起こる。筒状体はバリヤー放電により生起されるプラズマ(非平衡プラズマ)を閉じ込める働きもする。
筒状体内に配置された第2の電極は,筒状体の先端よりも外方に突出しているので,筒状体の先端外方には熱平衡プラズマが生じる。熱平衡プラズマは電子温度が低いので,試料やイオンが分解したり,フラグメント・イオンが重合したりすることがない。したがって,筒状体の先端外方に生起している熱平衡プラズマ(帯電気流)に試料を晒すことにより,試料から脱離した粒子(原子,分子)等がイオン化される。これにより,正確でかつ高感度のイオン化分析が可能となる。
筒状体は,その断面が矩形(正方形を含む),多角形(nが3以上のn角形),楕円形,円形,その他,形状を問わないものである。
第1の電極と第2の電極との間に交流電圧を印加することによって筒状体の内部にバリヤー放電が起こればよいから,第1の電極は必ずしも筒状体の外側面の全周囲にわたっている必要はなく,全周囲の一部について一箇所に,または離散的に二箇所以上に設けられていてもよい。同じように筒状体も全周囲にわたって閉じていなくてもよく,一部に切欠等があり,内部と外部とが連通していてもよい。もちろん,第1の電極は平面でも曲面でもよい。筒状体の外側面に溝または凹部を形成し,この溝または凹部に第1の電極を設けてもよい。すなわち,第1の電極と第2の電極との間に,少なくとも筒状体の一部が存在すればよい。
第2の電極もさまざまな形状をとることができる。代表的には第2の電極は針状か,または細管状(キャピラリー)である。細管状のものについていうと,細管それ自体を金属で形成して第2の電極としてもよいし,絶縁体の筒状体の表面に金属膜を形成して,または金属筒をはめて,これを第2の電極としてもよい。第2の電極が細管状である場合には,第2の電極には電極以外の機能が付与される。たとえば,後述するように第2の電極(細管)をエレクトロスプレーの溶媒を供給する管として用いることができるし,気体試料(イオン化対象)を供給する管として用いることもできる。また,後述する吸い込みタイプの場合に,第2の電極(細管)を質量分析装置に接続し,生成したイオンを質量分析装置に導く導管(イオン導入管)として用いることもできる。
上記第1の電極と第2の電極の間に直流電圧を印加し,この直流電圧の極性に応じて正イオン・リッチまたは負イオン・リッチな帯電気流を生成する。これにより,試料から脱離した粒子(原子,分子)の選択的な正イオン化または負イオン化が可能となる。
試料の背後に置かれた導体に上記直流電圧よりも正または負に高い電圧を印加することにより,上記吸い込みタイプの場合に,生成した正または負イオンを効率よく質量分析装置に導くことができる。
上記第2の電極の先端に近接してその先端外方にメッシュ電極を配置し,このメッシュ電極に正または負の直流電圧を印加することにより,バリヤー放電プラズマで発生したノイズとなるイオンを排除して,所望のイオンを取り出す(分析装置に導く)ことができるようになり,これにより,より正確で高感度のイオン分析が可能となる。
上記筒状体(より厳密には上記筒状体と上記第2の電極との間の間隙)に放電ガスまたはキャリア・ガスを積極的に供給するようにしてもよいし,場合によっては大気中の空気を放電ガスとしてもよい。
試料の脱離を促進する方法には種々ある。たとえば,液滴吹付手段(エレクトロスプレー,マイクロジェット等による液滴噴射,単に溶媒液体をネブライザーガスによって霧吹きする方法等)により試料に溶媒の微細液滴を吹き付ける,試料を加熱する,試料に超音波振動を加える,試料にレーザ光を照射する,試料表面近傍に光子場を形成する等の方法を用いることができる。また,放電ガスを加熱して試料の脱離を促進することもできる。
上記のイオン化方法により生成した試料イオンを分析装置に導くことによりイオン化分析が行なわれる。
この発明はあらゆる試料に直接に適用可能である。試料(物質)の存在状態の観点からいえば,この発明は,液体試料,固体試料,気体(蒸気を含む)試料のすべてのイオン化(したがってそれらの分析)に有効である。試料(物質)の種類の観点からいえば,生体試料(生の生体試料,生体組織,細胞,細菌,血液,尿,汗など),無機材料一般(金属,半導体,その他の無機物,無機化合物),有機材料一般(繊維,高分子)等,あらゆる種類の試料にこの発明を適用することができる。これらの試料中の揮発性成分はもちろんのこと,難揮発成分,無極性化合物の脱離とイオン化が可能である。用途,応用等の観点からいえば,薬物の検出が可能になるから,犯罪捜査(血中または尿中の薬物検出など),生体試料への適用が可能であるからテロ対策(生物兵器の検出)にも有効であり,高分子中の可塑剤や環境ホルモン剤の検出,高精細プリント基板の汚れの検出等も可能であるから,材料分析,環境対策,生産管理等に応用できる。このように,この発明は,万能のイオン化法である上に,超高感度能を持つので,ナノイメージング(脱離する試料の量が極微量でも十分なイオン強度を与えるので)に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
第1図は,この発明によるイオン化の原理を示すとともに,この発明の第1実施例によるイオン化装置およびイオン化分析装置の構成を示す。
第2図は,この発明によるソフトなイオン化の原理を明確にする目的で,対比のために,針状電極が円筒体内に引っ込んでいる構成を示す。
第3図は,第1実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置の変形例を示す。
第4図は,第1実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置の他の変形例を示す。
第5図は,第1実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第6A図は,爆発物の一例としてトリニトロトルエン(TNT)の分析結果を示すもので,この発明の第1実施例のイオン化分析装置を用いて得られたグラフ,第6B図は文献1に掲載されているトリニトロトルエン(TNT)の分析結果を示すグラフである。
第7A図は,この発明の第1実施例の装置を用いた爆発物の他の例の分析結果を示すもので,RDXの分析結果を示すグラフ,第7B図は同装置を用いたさらに他の爆発物DNTの分析結果を示すグラフである。
第8図は,薬物錠剤試料の例としてビタミンB錠剤を第1実施例の装置により分析して得られたグラフを示す。
第9図は,破壊しやすい物質の例としてステアリン酸メチルを第1実施例の装置により分析して得られたグラフを示す。
第10図は,第1実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第11図は,この発明の第2実施例によるイオン化装置およびイオン化分析装置の構成を示す。
第12図は,第2実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置の変形例を示す。
第13図は,第2実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置の他の変形例を示す。
第14図は,第2実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第15図は,第2実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第16図は,第2実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第17図は,第2実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第18図は,第2実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第19図は,第3実施例によるイオン化装置およびイオン化分析装置の構成を示す。
第20図は,第3実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置の変形例を示す。
第21図は,第3実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置の他の変形例を示す。
第22図は,第3実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第23図は,第3実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第24図は,第3実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第25図は,第3実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第26図は,第3実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第27図は,第3実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
第28図は,可搬型の分析装置本体とヘッドの例を示す。
第29A図は,無極性化合物の例としてヘキサンの分析結果を示すグラフであり,第29B図は,同じくシクロヘキサンの分析結果を示すグラフである。
第30図は,第3実施例のイオン化装置およびイオン化分析装置のさらに他の変形例を示す。
【実施例1】
【0006】
第1図はこの発明によるイオン化の原理を示すとともに,この発明の第1実施例によるイオン化装置およびイオン化分析装置の構成を示すものである。
この発明によるイオン化方法および装置によりイオン化された試料イオン(試料から脱離した原子,分子等の粒子のイオン)は,質量分析装置に導かれて分析される。主に,試料イオンを,質量分析装置に導く原理の違いにより実施例の装置(方法)は,吹き付けタイプ(または送風型)と吸い込みタイプに大別される。いずれのタイプにおいてもイオン化の原理は同じである。第1実施例は吹き付けタイプのものである。
第1図において,イオン化装置10は,誘電体(または絶縁体)(たとえば,セラミック,ガラス等)よりなる円筒体13と,この円筒体13のやや先端(第1図において右端)に近い箇所の外周面に接して設けられた円環状(円筒状)の第1の電極11と,円筒体13の内部の中心軸線上に,円筒体13の内周面とは間隔をおいて配置されかつ支持部材(図示略)により支持された第2の電極すなわち針状電極12とを備えている。円筒体13の末端部にはガス供給管(チューブ)19が接続され,放電ガス供給装置(放電ガス・ボンベなど)(図示略)により,放電ガス(キャリア・ガスとしても働く)が円筒体13内をその末端部から先端部に向う方向に流れるように供給される。放電ガスは,たとえばヘリウム(He)等の希ガス,窒素(N),空気(大気)などである(他の後述する実施例においても同じ)。
針状電極12の先端部(符号12aで示す)は,円筒体13の先端よりも外方に突出している。
第1の電極11と第2の電極12との間に,交流高電圧電源装置14により交流高電圧(たとえば電圧は数百Vないし数十kV,周波数は数kHzないし数十kHz)が印加される。これらの電極11と12との間には誘電体(絶縁体)(円筒体13)が存在するので,これらの電極11と12との間にバリヤー放電が起こる。電極11は円筒体13の外周面に接しており,電極12と円筒体13の内周面との間には間隙があるから,この間隙(円筒体13の内部)にバリヤー放電BDによる非平衡プラズマが発生する。この非平衡プラズマでは電子温度が数万度と高く,この高エネルギーの電子が放電ガス中の原子や分子を励起するので発光する(光って見える)(この発光を第1図ではグレーで示す)。
第2の電極12の先端部12aは円筒体13の先端外方に突出しているので,円筒体13の先端開口付近およびそれよりも外方では,放電ガスの気流によって流れてきた高エネルギーの電子が第2の電極12(先端部12a)の存在により消滅し,電子のエネルギー(電子温度)が下り(100℃程度),熱平衡プラズマPになる(熱平衡プラズマPは光っていないので,目では見えない。この熱平衡プラズマPを小さな黒点で示す。また,熱平衡プラズマによってイオン化された試料Sの粒子(分子または原子)のイオンも,図では小さな黒点で示されている。)。
第1図に示すイオン化装置の特徴を対比により明確にするために第2図を参照する。第2図において第1図に示すものと同一物(配置を除く)については同一符号を付す。第1図に示す構成と第2図に示す構成との相違点は,第1図の構成では上述のように第2の電極(針状電極)12の先端部12aが円筒体13の先端から外方に延びているのに対して,第2図に示す構成では,第2の電極(針状電極)12の先端は円筒体13内に引っ込んでいることである。第2図に示す構成では,2つの電極11と12との間に交流高電圧を印加すると,円筒体13内にバリヤー放電が起こり,このバリヤー放電により生起されるプラズマ・ジェットPJが円筒体13の先端から外方にまで延びる。プラズマ・ジェットPJは高エネルギーの電子を含み発光する。このプラズマ・ジェットPJに試料を晒したとすると,プラズマ・ジェットPJ中の高エネルギーの電子によって試料そのものの分解,試料から脱離してイオン化された分子の分解,分解により生じたフラグメント・イオンの重合等が起こり,上述した従来技術(文献1,2)と同じ結果となる。
この実施例(発明)によると,第1図に示すように,第2の電極(針状電極)12の先端部12aが円筒体13の先端から外方に延びているので,円筒体13の先端よりも外方では熱平衡プラズマPが生成され,試料をこの熱平衡プラズマPに晒した場合には,従来技術のような試料や分子の分解,フラグメント・イオンの重合等が起こることが殆どなく,試料のイオン化が行なわれる(これをソフトなイオン化という)。
熱平衡プラズマPには放電ガスから生じた準安定励起種,熱化した電子(熱電子),イオン種等が存在する。この熱平衡プラズマP内に試料Sを置くと,試料Sから蒸発等により脱離した試料粒子(原子,分子など)が準安定励起種,イオン種等によりイオン化(ペニングイオン化,反応イオン化)される。電子親和力が正の分子においては,熱電子が分子に付着して,負イオンが効率よく生成する。このようにして,イオン化された試料イオンは,放電ガスの流れにより,その下流に配置された質量分析装置50のイオン・サンプリング・オリフィス(またはスキマー)51から質量分析装置50内に導入される。質量分析装置50としては飛行時間型質量分析計,イオントラップ型質量分析計,四重極質量分析計などイオンを大気圧から真空へ導入するタイプのあらゆる質量分析計を用いることができる。
第3図は変形例を示すものであり,第2の電極12が接地されている。このような構成では,質量分析装置50のオリフィス51の電位を接地電位よりも低くすれば(負にすれば)正イオンの質量分析装置50への導入が容易となり,逆にオリフィス51の電位を正にすれば負イオンの導入が容易となる。
第4図は他の変形例を示している。直流電源15により第2の電極12に接地電位に対して正の電位(たとえば100V~数100V程度)が与えられる。直流電源15は電圧可変のものであることが好ましい。
第4図に示す構成では,円筒体13内の第2の電極(針状電極)12に,接地電位に対して正の電位が与えられるので,熱平衡プラズマ中の電子や負イオンが第2の電極12に捕捉され,正イオンをより多く含む(電子や負イオンよりも正イオンを多く含む)帯電気流が生成される(これを正イオン・リッチな帯電気流Ppという)。
正イオン・リッチな帯電気流Pp中に試料Sを配置すると,試料Sから脱離した粒子の多くは正イオン化される。したがって,負イオンよりもむしろ正イオンが質量分析装置50に導かれることになる。第4図に示すイオン化装置(イオン化分析装置)は,特に正イオン化されやすい試料の分析に適している(正イオン測定モード)。このモードにおいては,オリフィス51よりも第2の電極12の方が電位が高い方が正イオンが質量分析装置50に導入しやすくなる。
第5図はさらに他の変形例を示し,この構成では,直流電源15によって第2の電極12が接地電位に対して負となるように直流電圧が印加されている。
この構成では,円筒体13内の第2の電極(針状電極)12に,接地電位に対して負の電位が与えられるので,熱平衡プラズマ中の正イオンが第2の電極12に捕捉され,電子や負イオンをより多く含む(正イオンよりも電子や負イオンを多く含む)帯電気流が生成される(これを負イオン・リッチな帯電気流Pnという)。このモードにおいては,オリフィス51よりも第2の電極12の方が電位が低い(負側に大きい)方が負イオンが質量分析装置50に導入しやすくなる。
負イオン・リッチな帯電気流Pn中に試料Sを配置すると,試料Sから脱離した粒子の多くは負イオン化される。したがって,正イオンよりもむしろ負イオンが質量分析装置50に導かれることになる。第5図に示すイオン化装置(イオン化分析装置)は,特に負イオン化されやすい試料の分析に適している(負イオン測定モード)。
第6A図および第6B図は爆発物の一例として,トリニトロトルエン(TNT)を分析した結果を示すものである。第6A図はイオン化分析装置として第5図に示す構成のものを用いて,3ppm TNT アセトニトリル溶液10μLを綿棒に滴下し,これを円筒体13から噴出する熱平衡プラズマP(負イオン・リッチな帯電気流Pn)内に置きその蒸気を分析して得られた分析結果を示す。TNTのラジカル・アニオンのみが高感度に検出されていることが分る。第6B図は対比のために,文献1にFig.3として掲載された分析結果を示すもので,試料がプラズマ・トーチに晒されることによって多くのフラグメント・イオンが現われている。
第7A図および第7B図も第5図に示すイオン化分析装置を用いて得られた爆発物についての分析結果を示すものである。第7A図はアール・ディー・エックス(R.D.X.)(トリメチレントリニトロアミン)(3ppm RDX アセトニトリル溶液)の分析結果を示すグラフ,第7B図はジニトロトルエン(DNT)(12ppm DNT アセトニトリル溶液)の分析結果を示すグラフである。いずれも分析方法はTNTの場合と同じである。このように,第1実施例のイオン化分析装置によると種々の爆発物を高感度に検出できることが分る。
第8図は薬物錠剤試料の分析の例として,ビタミンB錠剤の分析結果を示す。これはビタミンB錠剤を第4図に示す装置の円筒体13から噴出する熱平衡プラズマP(正イオン・リッチな帯電気流Pp)内に配置することにより得られるグラフであり,ビタミンBの正イオンが高感度に検出されていることが分る。
第9図はイオン化においてフラグメンテーションを起こしやすい物質の例としてステアリン酸メチルの分析結果を示している。フラグメント・イオンが殆ど現れていない。質量電荷比(m/z)が50~150のところに現れているピーク群は不純物に由来するもので,フラグメント・イオンではない。
第10図は第1実施例のさらに他の変形例を示すものであり,近接場光を利用するものである。近接場光によって対象試料がきわめて効率よく脱離することは知られているが,脱離した中性種を効率よくイオン化することが困難であった。この変形例は,近接場光によって試料から脱離した中性種を,バリヤー放電によって生じる準安定励起種,イオン種等によりイオン化(ペニングイオン化,反応イオン化)を図ろうとするものである。
試料Sは試料台16上に置かれる。試料台16はXYZステージ17上に固定され,X,Y,Z方向に移動可能である(たとえば試料台16の表面をXY平面,これに垂直な方向をZ方向とする)。
金属製近接場プローブ18は上下動可能に支持されており(支持機構は図示略),好ましくは試料台16の表面に垂直に配置し,その先端を試料Sに接近させる。プローブ18の先端の径は好ましくは1~数nmであり,プローブ18の先端の試料表面からの距離は,一例として数ないし数10nmである。プローブ18の先端付近に可視光レーザまたは紫外レーザ光を側方から照射する(試料表面にほぼ平行な方向)。照射されたプローブの表面に誘起された表面プラズモンがプローブ先端に伝播し,先端に強力な光子場を形成する(表面プラズモン励起)。または,オプティカル・ファイバ等を通してプローブ先端にレーザ光を送り,先端に強光子場を発生させる。レーザ光によって近接場プローブ先端に発生した強い光子場によって,プローブ近傍の試料がアブレーションを起こして試料表面から脱離する。
イオン化装置10を,上記の脱離した試料がイオン化装置10から発生する熱平衡プラズマに晒される位置に,配置しておく。試料から脱離した原子(無機材料の場合)や分子(有機材料,生体試料等の場合)を,バリヤー放電(Heガスなどの希ガス放電により生成)で生成した準安定励起種(Heなど)でイオン化する(ペニングイオン化:He+M→M+He+e)。生成したイオンはイオン・サンプリング・キャピラリー52を通して質量分析装置50(たとえばイオントラップ質量分析計)に導入され,検出される。アブレーションされる試料Sの領域は,概略,直径約200nm,深さ50nm程度である。
試料を乗せたステージ17をX,Y,Z方向に走査して,イオン計測することにより,各イオンに関する材料表面の局所領域のイメージング像(イメージング・スペクトル)を得ることができる。このように簡易な大気圧下での操作で,対象試料の原子または分子の質量分析による組成分析イメージングが可能となる。
この変形例の技術は,イオンビームを用いないので表面汚染がない,強光子場により表面のみがアブレーションを起こし,試料内部の損傷がない,近接場プローブで試料を脱離させる技術とこれを効率よくイオン化できるバリヤー放電と組み合わせて,大気圧下でのイメージングが可能となる,試料の調製は必要ない,という点に特徴がある。空間分解能は,~200nm程度である。
バリヤー放電イオン化法では,フェムトモルオーダー以下の痕跡成分の分析が可能であるが,近接場プローブでアブレーションされる物質の量は数100フェムトモルに及び,それをバリヤー放電でイオン化して質量分析し,高感度計測することができる。痕跡成分であれば,フェムトモルオーダー,主成分の検出であれば,アットモルオーダーの検出が可能である。1個の細胞計測にも応用可能と考えられる。
【実施例2】
【0007】
第11図は第2実施例によるイオン化装置およびイオン化分析装置の構成を示すもので,この装置も吹き付けタイプのものである。装置の基本的構成およびイオン化の原理は第1実施例において説明したものと同じであるから以下では異なる点について述べる。
イオン化装置(イオン化分析装置)20において,誘電体製円筒体23は前半部23Aと後半部23Bとから構成され,これらの部分23A,23Bが嵌め合い,ねじ嵌め,その他の結合方法により結合されている。円筒体23(前半部23A)の先端部はやや肉厚に形成され,そこにやや小さな中心孔23aがあけられている。円筒体23(前半部23A)の肉厚に形成された先端部の外周面には環状溝が形成され,この環状溝に第1の電極(環状電極)21が嵌め入れられている。円筒体23の後半部23Bの後端面は壁によって閉鎖されている。
円筒体23の中心軸線上に沿ってエレクトロスプレー用金属キャピラリー兼第2の電極として働く金属製キャピラリー22が配置され,円筒体23(前半部23A)内に設けられた支持部材28および円筒体23(後半部23B)の後端壁を通り,これらによって支持されている。支持部材28には放電ガスが通る複数の孔があけられている。キャピラリー22の先端部分は円筒体23の先端部の孔23a内を通り,円筒体23の先端よりも外方に突出している(突出している部分を符号22aで示し,これを突出先端部という)。円筒体23の先端部の内周面とキャピラリー22との間には間隙がある。
円筒体23(後半部23B)の周面の後端付近には穴があけられ,この穴に放電ガス供給管29が接続されている。放電ガス供給装置(図示略)からガス供給管29を通って円筒体23内に放電ガスが供給される。
第1の電極21には交流高電圧電源装置24によって,接地電位との間に交流高電圧が印加される。他方,キャピラリー(第2の電極)22には,直流電源装置25によって接地電位との間に正の(エレクトロスプレー用)直流高電圧(たとえば数kV)がインダクタンス(コイル)L1を介して印加される(正イオン測定モード)。またキャピラリー22と接地(大地)との間にはコンデンサC1が接続される。
キャピラリー22にはその末端からエレクトロスプレー用溶液(たとえば,メタノール,水,アセトニトリル,酢酸,またはこれらの混合溶媒など)が供給される。
第1の電極21と第2の電極(キャピラリー)22との間に交流高電圧が印加されることによってバリヤー放電BDが起こり,円筒体23の先端部の孔23a内には非平衡プラズマが生起される。第2の電極(キャピラリー)22には正の直流電圧が印加されているから円筒体23の先端からは正イオン・リッチの帯電気流Ppがその前方に配置された試料Sに向けて噴射される。また,キャピラリー(第2の電極)22の先端からはエレクトロスプレー用溶媒の微細な液滴が噴射し試料Sに吹き付けられる。エレクトロスプレー用溶媒が試料Sに吹き付けられると試料Sの一部が溶け,溶媒の気化と同時に試料も気化(脱離)していく。脱離した試料は正イオン・リッチの帯電気流Ppによって正イオン化される。試料の正イオンは,その近傍に配置された質量分析装置50のイオン・サンプリング・キャピラリー52から質量分析装置50内に取込まれ,分析の対象となる。
インダクタンスL1およびコンデンサC1は交流電圧印加によるキャピラリー22の電圧変動を抑制するためのものであるが,必ずしも設けなくてもよい。
上記の説明においては,エレクトロスプレーによって試料の脱離を促進しているが,脱離の促進にはさまざまな方法がある。たとえば,試料Sを載せた試料台(または基板)55を加熱し,ライデンフロースト(Leidenfrost)現象により固体試料を気化させる,試料台(基板)55を超音波振動させる,上記のように近接場光を利用する,第3実施例において後述するようにレーザ光を照射するなどである。
第12図はキャピラリー(第2の電極)22に直流電圧発生装置25によって負の直流電圧を印加する負イオン測定モードの構成を示している。円筒体23の先端からは負イオン・リッチな帯電気流Pnが噴射され,試料Sから脱離した粒子が主に負イオンにイオン化され,質量分析装置50に導入される。
正イオン測定モードと負イオン測定モードは第2の電極22に印加する直流電圧の極性を切り換えれば実現するので,以下の説明では両モードを特に分けずに説明することとする。また,正イオン・リッチ帯電気流Pp,負イオン・リッチ帯電気流Pnも,特に必要がない限り,図示しない。
第13図は第2実施例の変形例を示すものである。
キャピラリー22にはガスクロマトグラフから出力される気体が導入される。この気体はキャピラリー22の先端から流出する。キャピラリー22に直流電源装置25により正の直流電圧が印加されれば,円筒体23の先端外方には正イオン・リッチな帯電気流が(正イオン測定モード),負の直流電圧が印加されれば円筒体23の先端外方には負イオン(および電子)リッチな帯電気流が(負イオン測定モード)それぞれ生成されるので,キャピラリー22先端から流出するガスクロマトグラフからの気体は上記モードに応じて正イオン化または負イオン化され,イオン・サンプリング・キャピラリー52を通って質量分析装置50に導入される。
第14図は第13図に示す構成のさらに変形例を示すものである。円筒体23の外周に加熱ヒータ(加熱装置)26が設けられ,円筒体23内を通る放電ガスが加熱される(たとえば100℃~300℃)。これにより,分析対象の試料(この実施例ではガスクロマトグラフから導入される気体)を加熱し,気化しやすくする。特に,試料が難揮発性の物質である場合に有効である。
第15図はさらに変形例を示すものである。
第2の電極22はキャピラリーではなく,針状電極である。イオン化装置20(円筒体23)とイオン・サンプリング・キャピラリー52との間に分析対象の試料Sが配置される。拭き取り検査用の試料などを円筒体23から噴出する帯電気流に晒して試料Sからの蒸気をイオン化し,分析するのに好適な配置構成である。第15図に示すこの変形例および第16図に示す変形例では,針状電極22に必ずしも直流電圧を印加しなくてもよい。
第16図はさらに他の変形例を示すものである。
第15図に示す変形例と同じように円筒体23内に配置される第2の電極22は針状電極である。この円筒体23とは別にエレクトロスプレー装置27を設ける。エレクトロスプレー装置27は二重管構造であり,内側の管にはエレクトロスプレー用溶媒が導入され,外側の管27B(内側の管と外側の管との間の空間)には,エレクトロスプレーされた微細液滴を試料Sに向けて運ぶアシストガス(キャリア・ガス)(たとえば窒素)を導入する。これらの内管27Aと外管27Bのいずれか一方または両方には,正または負の高電圧が直流電圧発生装置28によって印加される。
エレクトロスプレー装置27は試料Sからの脱離を促進するものである。脱離の促進には,上述したように,試料Sの基板(または試料台)55の超音波振動,加熱,試料Sへのレーザ光照射,近接場光の利用などがある。
質量分析装置50のキャピラリー52は,試料Sから脱離し,円筒体23から噴出する帯電気流によってイオン化された試料イオンをサンプリングしやすい位置に配置されるのはいうまでもない。
第17図はさらに他の変形例を示すものである。この変形例は基本的には第13図に示す変形例と同じように気体の試料のイオン化と質量分析に適したものである。誘電体(絶縁体)製円筒体23および質量分析装置50のイオン・サンプリング・オリフィス51の形状が上述した変形例のものとやや異なっている。円筒体(外筒または外管)(以下,外筒体という)23の先端部に肉厚部は形成されていない。第1の電極21は外筒体23の先端部の外周に環状に形成されている。外筒体23の後端部に設けられたガス供給管29から放電ガス(たとえばHeガス)が供給され,放電ガスは外筒体23内を(厳密には外筒体23と次に述べる内筒体22との間の間隙を)前方に向って流れていく。
外筒体23内には,外筒体23よりも径の小さい内筒体(内筒または内管)22が同軸状に配置され,外筒体23の内周面との間に間隔を保って外筒体23の後端壁と支持部材(支持部材28のようなもの)(図示略)により支持されている。内筒体22は,絶縁性の筒体22Aとこの外周面全面に形成された金属製の筒状電極(金属膜でもよい)(第2の電極)22Bとから構成されている。内筒体22の先端部は外筒体23の先端部よりも前方外方に突出している(少なくとも筒状電極22Bの部分(符号22aで示す)が突出していればよい)。内筒体22の先端部22aに若干の間隔をおいて質量分析装置50のイオン・サンプリング・オリフィス51の開口が臨むように配置されている。内筒体22の後端部は外筒体23の後端壁を通って後方外方に突出している。内筒体22の後部から試料ガスが内筒体22内に導入される。試料ガスはガスクロマトグラフからの気体に限られることはない。内筒体22を第13図に示すキャピラリー22と同じようにキャピラリーと呼んでもよい。細いかどうかは相対的な概念であるからである。
この変形例では第2の電極22Bが接地され,かつ第1の電極21と第2の電極22Bとの間にバリヤー放電のための高周波高電圧が電源24によって印加される。第1の電極21の内側の位置において外筒体23と内筒体22(第2の電極22B)との間にバリヤー放電BDが起こり,上述の通り熱平衡プラズマが放電ガスの流れによって内筒体22の先端外方に生じる。内筒体22を通して試料ガスが内筒体22の先端外方まで供給されるので,試料ガスは熱平衡プラズマ中の準安定励起種等によりイオン化される。このイオンはオリフィス51を通して質量分析装置50内に吸い込まれ,分析の対象となる。
第18図は第17図に示すイオン化装置およびイオン化分析装置を改良したものである。メッシュ電極17が内筒体22先端とイオン・サンプリング・オリフィス51との間であって,内筒体22(第2の電極22B)の先端部22aに接近して(わずかの間隙を離して)配置されている。第18図は正イオン測定モードの構成を示し,メッシュ電極17には直流電源18により正の電位が与えられている。負イオン測定モードの構成においてはメッシュ電極17に負の電位が印加される。サンプリング・オリフィス51は接地されている。
バリヤー放電プラズマBDからは,さまざまなイオンが生成しやすく,これらが質量分析装置50内に導入されてしまうと測定スペクトラム中にバックグランド・イオンとして現れ,試料由来のシグナルとの区別がつきにくくなる場合がある。プラズマBDで生成されたイオンだけを選択的に除去することが望ましい。メッシュ電極17はこれを可能にするものである。
バリヤー放電プラズマBDで生成した正イオンは正の電位にあるメッシュ電極17によって跳ね返されて,イオン・サンプリング・オリフィス方向に流れだすことなく,系外に除去される。
バリヤー放電プラズマBDにより生成した準安定励起種(たとえばHe)によるペニングイオン化等はメッシュ電極17とオリフィス51との間の空間で起こり,これにより生成した試料のイオンM(He+M→He+M+e)は,メッシュ電極17によって形成される電場によってイオン・サンプリング方向に押し出されて,効率よくイオン・サンプリング・オリフィス51方向に移動し,分析装置50内に導入される。これが分析装置50におけるイオン強度の増大につながる。メッシュ電極17は,バリヤー放電プラズマBDによって発生したイオンを除去できるのみならず,ペニングイオン化で生成した試料由来のイオンを質量分析装置のイオン・サンプリング・オリフィスに押し出す役目も果たすものである。メッシュ電極はこの明細書におけるすべての実施例,変形例に適用することができる。メッシュ電極の用語は格子状のもの(多数の平行導線が間隔をおいて平行に配置されたもの,またはこれらに交叉する導線を加えたもの)や,導体の板状体に多数の孔をあけたものなどを含む。メッシュ電極は一種のグリッドである。
【実施例3】
【0008】
第19図は第3実施例におけるイオン化装置またはイオン化分析装置の基本的な構成を示すものである。第3実施例は,質量分析装置の真空系を利用してイオン化された試料イオンを質量分析装置に吸い込むタイプのものである。
イオン化装置(イオン化分析装置)30において,第2の電極32が質量分析装置50のイオン・サンプリング用キャピラリーと兼用されている。キャピラリー32は当然,金属製(または導電体製)である。キャピラリー32の周囲には間隔を置いて誘電体製円筒体33が配置され,かつキャピラリー32に支持されている。この円筒体33の末端部には放電ガス供給管39が接続されており,放電ガスが円筒体33に供給される。また円筒体33の先端部付近の外周面には円環状の第1の電極31が設けられている。第1の電極31と第2の電極32との間に交流高電圧電源装置34によって交流高電圧が印加される。第2の電極,すなわちキャピラリー32の先端部32aは円筒体33の先端よりも外方に突出している。
上述したように円筒体33の先端部から熱平衡プラズマが噴出され,試料Sに吹き付けられる。試料Sから脱離した粒子(原子,分子等)はこの熱平衡プラズマ内の準安定励起種,イオン種等によりイオン化される。生成した試料イオンは,質量分析装置50内が負圧(真空)になっているので,この負圧によりキャピラリー32を通って質量分析装置50内に導入され,分析される。
第20図は変形例を示すものである。
円筒体33の周囲に加熱装置36が設けられ,円筒体33内を流れる放電ガスが加熱される。これによって上述したように試料Sの脱離を促す。
第21図は他の変形例を示している。
第19図,第20図の構成では第1,第2の電極31,32,試料台55とも浮いた電位になっているが,第21図に示す変形例では,基板または試料台55が接地されている(試料台は導体により形成されることが好ましい)(第19図,第20図に示すように浮いていてもよい)。また,第2の電極32と交流電源装置34との間に直流電圧電源装置35が接続され(両電源装置34と35の接続点が接地されている),印加する直流電圧の正,負の切換えにより,正イオン測定モードまたは負イオン測定モードの設定または切換えが可能となっている。
第22図に示す変形例では,試料台(または基板)55は導体で形成され,直流電源装置37により,直流電源装置35よりも高い正の電圧が印加される。たとえば,直流電源37により試料台55に印加される電圧は+300V,直流電源35により第2の電極32に印加される電圧は+100Vである。
このイオン化装置(イオン化分析装置)30は正イオン測定モードで動作するものである。円筒体33から噴出される正イオン・リッチな帯電気流によって試料Sから脱離した粒子は正イオンにイオン化される(ペニングイオン化によっても正イオンが生成することは言うまでもない)。試料台55(すなわち試料S)の電位をイオン・サンプリング用キャピラリー(第2の電極)32よりも正に高い電位とすることにより,生成された正イオンは試料台55のより高い正の電位による反発力を受けて,キャピラリー32の内部に導入されやすくなる。すなわち,正イオンの捕集効率が高められる。
第23図に示す変形例では,上述とは逆に直流電源装置37により,直流電源装置35よりも高い負の電圧が印加される。たとえば,直流電源37により試料台55に印加される電圧は-300V,直流電源35により第2の電極32に印加される電圧は-100Vである。
このイオン化装置(イオン化分析装置)30は負イオン測定モードで動作するものである。円筒体33から噴出される負イオン(電子を含む)リッチな帯電気流によって試料Sから脱離した粒子は負イオンにイオン化される。試料台55(すなわち試料S)の電位をイオン・サンプリング用キャピラリー(第2の電極)32よりも負方向に高い電位とすることにより,生成された負イオンは試料台55のより高い負の電位による反発力を受けて,キャピラリー32の内部に導入されやすくなる。すなわち,負イオンの捕集効率が高められる。
第24図はさらに他の変形例を示すもので,第23図に示す負イオン測定モードの装置において,試料Sの脱離を促進するために,ナノエレクトロスプレー44を用いて試料Sに溶媒の微細液滴を吹き付けるものである。溶媒の吹き付けは,たとえばマイクロジェットノズルなどを用いることもできる。
試料台55はマニピレータ等によりX,Y,Zの互いに直交する三方向に移動自在とすることが好ましい(たとえばイオン・サンプリング用キャピラリー32の長手方向をZ方向とし,これに直交する二方向をX,Y方向とする)。溶媒を微小領域に吹き付け,その吹き付け領域を変位させることにより試料の分析部位を順次変え,イメージング(ナノイメージング)が可能となる。試料台55を移動することに代えてエレクトロスプレー装置44による吹き付け箇所を変えるようにすることもできる。溶媒の吹き付けは特に難揮発性の試料の場合に好適である。
第25図に示す変形例は,第22図に示す正イオン測定モードの装置において,試料の脱離を促進するためにレーザ光を用いるものである。
レーザ装置45から出射するレーザ光はレンズ系46により集光され,試料S表面上の微細な領域(点)に照射される。レーザ光による加熱により試料Sの表面からの脱離(蒸発,昇華)が促進される。レーザ光としては赤外線(たとえば10.6μm,2.9μm),可視光(532nm),紫外光(337nm,355nm)など試料に応じてさまざまな波長の光を用いることができる。
レーザ光の照射箇所を移動させる,または試料台55を変位させることによりナノイメージングも可能となる。
第26図は同じように正イオン測定モードにおいて,レーザ光により脱離を促進する他の例を示している。プリズム48の一面上に試料が塗布または載置される。プリズム48の他の面からレーザ光を,上記一面上の試料に向けてプリズム48の内部を通して照射する。これにより,エバネッセント波(近接場光)による試料の脱離促進が図られる。脱離した試料の原子または分子は,熱平衡プラズマP内の準安定励起種,イオン種等によりイオン化される。この変形例においてもナノイメージングが可能である。
第27図はさらに他の変形例を示すものである。
イオン化装置30を質量分析装置50とは分離した構成を示している。イオン化装置30を構成する円筒体33,第1の電極31および第2の電極(キャピラリー)32がヘッド61を構成する。このヘッド61はたとえば第28図に示すように,一つのまとまりとして,ハウジング(ケース)(第28図ではこのハウジングも符号61で示す)内に収められる。キャピラリー32は可撓性(フレキシブル)チューブ62とカップリング(継手)64,65により,質量分析装置50のイオン・サンプリング・キャピラリー52に接続される。ガス供給管39も同じようにフレキシブル・チューブ63,カップリング66により,ガス供給装置(図示略)に接続される。
電源装置34,35,質量分析装置50および放電ガス供給装置は,第28図に示す可搬型装置本体60に収められる。このようにして,試料から得られるイオンを任意の場所で分析することができるようになる。
第29A図および第29B図は第27図に示すヘッドを用いて測定した分析結果例を示すものである。第29A図はヘキサンの分析結果を示すグラフ,第29B図はシクロヘキサンの分析結果を示すグラフである。一般に無極性化合物のイオン化は困難であるが,第3実施例のイオン化装置を用いると容易にイオン化できることが分る。
第30図は呼気,大気,その他の気体を収集して分析するのに適した構成を示しており,気体吸引用のチューブ49を用いて所望の気体を,イオン化装置30の円筒体33の先端部まで導入する例を示すものである。
上記実施例においては円筒体13,23,33の断面は円形であるが,断面が矩形(正方形を含む),多角形(nが3以上のn角形),楕円形,円形,その他,任意の形状の筒状体を用いることができるのはいうまでもない。針状電極12,キャピラリー22,32(内筒体22)の断面も任意である。第1の電極と第2の電極との間に交流電圧を印加することによって筒状体の内部にバリヤー放電が起こればよいから,第1の電極は必ずしも筒状体の外側面の全周囲にわたっている必要はなく,全周囲の一部について一箇所に,または離散的に二箇所以上に設けられていてもよい。同じように筒状体も全周囲にわたって閉じていなくてもよく,一部に切欠等があり,内部と外部とが連通していてもよい。試料の蒸気圧が高い場合には容易に脱離するので,脱離を促進する手段(レーザ照射,加熱,溶媒液滴の吹き付け,超音波振動,近接場光等)は必ずしも設けなくてもよい。また,大気中で空気を放電ガスとしてもバリヤー放電は生起するので,放電ガスを必ずしも積極的に供給しなくてもよい場合もある。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6A】
5
【図6B】
6
【図7A】
7
【図7B】
8
【図8】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図11】
12
【図12】
13
【図13】
14
【図14】
15
【図15】
16
【図16】
17
【図17】
18
【図18】
19
【図19】
20
【図20】
21
【図21】
22
【図22】
23
【図23】
24
【図24】
25
【図25】
26
【図26】
27
【図27】
28
【図28】
29
【図29A】
30
【図29B】
31
【図30】
32