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明細書 :熱電変換素子及び熱電変換装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5585314号 (P5585314)
公開番号 特開2011-249746 (P2011-249746A)
登録日 平成26年8月1日(2014.8.1)
発行日 平成26年9月10日(2014.9.10)
公開日 平成23年12月8日(2011.12.8)
発明の名称または考案の名称 熱電変換素子及び熱電変換装置
国際特許分類 H01L  29/82        (2006.01)
H01L  37/00        (2006.01)
FI H01L 29/82 Z
H01L 37/00
請求項の数または発明の数 10
全頁数 16
出願番号 特願2010-195508 (P2010-195508)
出願日 平成22年9月1日(2010.9.1)
優先権出願番号 2010104804
優先日 平成22年4月30日(2010.4.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年8月26日(2013.8.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】齊藤 英治
【氏名】内田 健一
個別代理人の代理人 【識別番号】100105337、【弁理士】、【氏名又は名称】眞鍋 潔
審査官 【審査官】鈴木 和樹
参考文献・文献 国際公開第2009/151000(WO,A1)
国際公開第2009/066631(WO,A1)
調査した分野 H01L 29/82
H01L 37/00
特許請求の範囲 【請求項1】
磁性誘電体からなる熱スピン波スピン流発生部材に逆スピンホール効果部材を設け、前記熱スピン波スピン流発生部材の厚さ方向に温度勾配を設けるとともに、磁場印加手段により前記逆スピンホール効果部材の長手方向と直交する方向且つ前記温度勾配と直交する方向に磁場を印加して前記逆スピンホール効果部材において熱スピン波スピン流を電圧に変換して取り出す熱電変換素子。
【請求項2】
前記磁性誘電体が、フェリ磁性誘電体、強磁性誘電体或いは反強磁性誘電体のいずれかからなる請求項1記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記磁性誘電体がフェリ磁性誘電体或いは強磁性誘電体からなるとともに、前記磁場印加手段が前記磁性誘電体に接してその磁化方向を固定する反強磁性層である請求項1または2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記磁性誘電体が、ガーネットフェライト、スピネルフェライト、或いは、六方晶フェライトのいずれかからなる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記磁性誘電体が、YFe5-xGa12(但し、0≦x<5)からなるガーネットフェライトである請求項4に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
前記磁性誘電体が、MnZn1-xFe(但し、0<x<1)からなるスピネルフェライトである請求項4に記載の熱電変換素子。
【請求項7】
前記逆スピンホール効果部材が、Pt、Au、Pd、Ag、Bi、f軌道或いは3d軌道を有する遷移金属元素、若しくはそれらの合金のいずれか、または、前記各材料とCu、Al、或いは、Siとの合金のいずれかからなる請求項1乃至6のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の熱電変換素子を複数個、磁化方向が互いに反対になるように交互に配置するとともに、熱起電力が直列接続になるように前記逆スピンホール効果部材の端部を互いに接続した熱電変換装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の熱電変換素子を複数個、磁化方向が互いに同じ向きになるように配置するとともに、熱起電力が直列接続になるように前記逆スピンホール効果部材の端部を互いに接続した熱電変換装置。
【請求項10】
磁性誘電体からなる熱スピン波スピン流発生部材の両面もしくは片面に逆スピンホール効果部材を設けて熱電変換要素を構成し、複数の前記熱電変換要素を非磁性絶縁体を介して積層するとともに、熱起電力が直列接続になるように前記逆スピンホール効果部材の端部を互いに接続し、前記熱電変換要素の積層方向に温度勾配を設けるとともに、磁場印加手段により前記逆スピンホール効果部材の長手方向と直交する方向且つ前記温度勾配と直交する方向に磁場を印加して前記逆スピンホール効果部材において熱スピン波スピン流を電圧に変換して取り出す熱電変換装置。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子及び熱電変換装置に関するものであり、特に、素子の設計自由度を高める構成に特徴のある熱電変換素子及び熱電変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策としてクリーンエネルギーの必要性が叫ばれており、このようなクリーンエネルギー源として熱電効果の応用が期待されている。その一例として、火力発電所や工場或いは自動車の廃熱・排熱をゼーベック効果素子を利用して電力に変換することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、現在のゼーベック効果素子の効率は十分ではなく、クリーンエネルギー源としての実用化に際してはさらなる熱電変換効率の高効率化が必要である。
【0004】
現在のゼーベック係数が互いに異なる2種類の金属による異種金属接合を用いたゼーベック効果素子の熱電変換効率の指標となる性能指数Zは、ゼーベック係数をS、電気伝導度をσ、熱伝導率をκとすると、
Z=S×(σ/κ) ・・・(1)
と表される。また、起電力Vの発生方向は温度勾配▽Tと平行方向になる。
【0005】
この場合、ゼーベック係数S、電気伝導度σ及び熱伝導率κは全て物質固有の値であるので、性能指数Zも物質固有の値となり、高効率の熱電発電を実現するためには性能指数Zの高い熱電変換素子が必要になる。そして、性能指数Zを高めるためには新規な物質の開発が必要であった。
【0006】
一方、現在の半導体装置等のエレクトロニクス分野において利用されている電子の電荷の自由度に代わるものとして、電子が電荷以外に有するスピンという自由度、即ち、スピン角運動量の自由度を利用したスピントロニクスが次世代のエレクトロニクス技術の担い手として注目を集めている。
【0007】
このスピントロニクスでは電子の電荷とスピンの自由度を同時に利用することによって、従来にない機能や特性を得ることを目指しているが、スピントロニクス機能の多くはスピン流によって駆動される。
【0008】
スピン流はエネルギーの散逸が少ないため、効率の良いエネルギー伝達に利用できる可能性が期待されており、スピン流の生成方法や検出方法の確立が急務になっている。
【0009】
なお、スピン流の生成方法としては、スピンポンピングによるスピン流が提案されており(例えば、非特許文献1参照)、スピン流の検出方法についても、本発明者等により逆スピンホール効果(ISHE)によるスピン流の検出方法が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0010】
図12は、逆スピンホール効果の説明図であり、試料中に純スピン流Jを注入すると、逆スピンホール効果により純スピン流Jの方向と垂直方向に電流Jが流れる。この逆スピンホール効果を利用することによって、試料の端部に電位差Vが発生するので、この電位差Vを検出することによって、純スピン流Jの流れの有無の検出が可能になる。
【0011】
しかし、上述のゼーベック効果を利用した熱電変換においては、式(1)からわかるように、電気伝導度σが高い物質を用いると性能指数Zが大きくなる。しかし、金属の場合には、電気伝導度σが高い物質は熱伝導率κも高いため、電気伝導度σ向上による性能指数Z向上の効果は熱伝導率κにより相殺されてしまうという問題がある。
【0012】
そこで、本発明者は、NiFe等の磁性体とPt等のスピン軌道相互作用の大きな金属との接合を利用したスピン-ゼーベック効果素子を提案している(例えば、特許文献2参照)。このスピン-ゼーベック効果素子においてはNiFe等の磁性体において温度勾配により発生した熱スピン流をPtとの界面でスピン交換を行い、交換により発生した純スピン流により純スピン流の方向と垂直方向に流れる電流を磁性体の両端において電圧として出力するものである。
【0013】
これは、磁性体、特に、強磁性体の場合には、外部磁場を印加した状態で温度勾配を与えると、アップスピン流とダウンスピン流に差ができて熱的にスピン流が発生することを見いだした結果を利用したものである。
【0014】
この場合の性能指数Zは、スピン-ゼーベック効果素子の熱電変換能をS、逆スピンホール部材の電気伝導率をσ、磁性体の熱伝導率をκ とすると、
Z=S×(σ/κ) ・・・(2)
と表される。この場合の性能指数では、従来の性能指数と異なり、分子の電気伝導率と分母の熱伝導率はそれぞれ異なる物質が担うため、素子の材料選択をすることによって性能指数を大幅に変えることができる。
【0015】
但し、この場合には、起電力Vの発生方向は、逆スピンホール効果を利用しているので温度勾配▽Tと垂直方向になる。スピン-ゼーベック効果素子の熱電変換能Sは温度勾配▽Tに垂直な方向の長さに比例するので、従来のゼーベック効果素子に比べて、試料サイズにより性能指数Zを変調することができるという特徴がある。即ち、試料のサイズを温度勾配▽Tに垂直な方向の長さが長くなるように構成することによって、長さに比例した起電力Vを得ることができる。
【0016】
スピン流は物理的な保存量ではないため、このような熱スピン流変換を利用することによって、温度勾配を与えるだけでスピン流を連続して取り出すことができ、したがって、熱起電力も連続して取り出すことができる。
【0017】
しかし、このスピン-ゼーベック効果素子においては、熱スピン流発生部材に熱伝導率κの大きい金属を用いており、したがって、起電力Vを増大させるために試料のサイズを大きくすると均一な温度勾配▽Tを設けることが困難になってしまう。よって、現状では、全金属系スピン-ゼーベック効果素子を用いて工業的に利用可能な熱電変換素子を実現することは困難である。
【0018】
そこで、本発明者は、熱スピン流発生部材として、金属の代わりにYIG等の熱伝導率の小さな磁性誘電体を用いたスピン-ゼーベック効果素子を提案している(例えば、特許文献3参照)。ここで、図13を参照して、磁性誘電体を用いたスピン-ゼーベック効果素子を説明する。
【0019】
図13は、磁性誘電体を用いたスピン-ゼーベック効果素子の概略的斜視図であり、磁性誘電体層51上にストライプ状の非磁性導電体52,53を設ける。この状態で、矢印の方向に外部磁界Hを印加するとともに、均一な温度勾配▽Tを設けることによって、素子の高温側及び低温側に位置する磁性誘電体/非磁性導電体界面にそれぞれ逆符号の純スピン流Jが流れる。常電導体52,53に注入された純スピン流Jは、電子相対論効果によって温度勾配▽Tに直交する方向の電流に変換され、高温側に設けた非磁性導電体52と低温側に設けた非磁性導電体53に互いに逆向きの熱起電力VISHEが発生する。即ち、逆スピン-ホール効果による起電力は、注入された純スピン流Jとスピンの偏極方向(磁性誘電体の磁化方向M)の外積方向に発生する。
【0020】
磁性誘電体51としては、FeやCoを含むものであれば何でも良いが、実用的には、入手が容易で且つスピン角運動量の散逸の小さいYIG(イットリウム鉄ガーネット)やイットリウムガリウム鉄ガーネット、即ち、一般式で表記するとYFe5-xGa12(但し、x<5)を用いる。また、逆スピンホール効果部材となる非磁性導電体52,53としては、Pt、Au、Pd、Ag、Bi、或いは、f軌道を有する元素のいずれかを用いることが望ましい。これらの元素はスピン軌道相互作用が大きいので、磁性誘電体51との界面において、熱スピン波スピン流と純スピン流の交換を高効率で行うことができる。
【0021】
図14は、スピン波スピン流の説明図であり、図14に模式的に示すように、スピン波スピン流とは、スピンが平衡位置の周りで歳差運動し、その位相の変化が波としてスピン系を伝わっていくものであり、熱スピン波スピン流とは位相変化が熱により生起されたものをいう。スピン波スピン流の特徴は、伝導電子型の純スピン流のスピン拡散長が数nm~数百nmであるのに対して、数mm或いは数cm以上の長距離に亘って伝播可能であることであり、これは様々な実験によってすでに確認されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0022】
この熱スピン波スピン流-純スピン流交換においては、磁性誘電体中において温度勾配により発生した熱スピン波スピン流が金属電極中のスピンと交換されて金属電極中に純スピン流が生起され、この純スピン流により電流が生じ、この電流により金属電極の両端に熱起電力VISHEが発生する。
【先行技術文献】
【0023】

【特許文献1】特開2007-165463号公報
【特許文献2】特開2009-130070号公報
【特許文献3】国際公開パンフレット WO 2009/151000
【0024】

【非特許文献1】Phys.Rev.,B19,p.4382,1979
【非特許文献2】Applied Physics Letters Vol.88,p.182509,2006
【非特許文献3】Nature,Vol.464,p.262-266,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかし、上述の磁性誘電体を用いたスピン-ゼーベック効果素子の場合も磁性誘電体層の面内方向に温度勾配▽Tを設けているため、熱源との接触状態が限られ、ボイラーや煙突等に巻きつけるように接触させることができないという問題があり、その結果、現実の適用範囲が狭いという問題がある。
【0026】
したがって、本発明は、温度勾配から電力を取り出す際の設計自由度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するために、本発明は、熱電変換素子であって、磁性誘電体からなる熱スピン波スピン流発生部材に逆スピンホール効果部材を設け、前記熱スピン波スピン流発生部材の厚さ方向に温度勾配を設けるとともに、磁場印加手段により前記逆スピンホール効果部材の長手方向と直交する方向且つ前記温度勾配と直交する方向に磁場を印加して前記逆スピンホール効果部材において熱スピン波スピン流を電圧に変換して取り出す。
【0028】
このように、熱スピン波スピン流発生部材の厚さ方向に温度勾配を設けることによって、熱起電力を温度勾配に垂直な方向に生成することができ、素子設計自由度が大きくなる。
【0029】
また、磁性誘電体としては、フェリ磁性誘電体、強磁性誘電体でも或いは反強磁性誘電体でも良い。磁性誘電体をフェリ磁性誘電体或いは強磁性誘電体とする場合には、磁場印加手段として磁性誘電体に接してその磁化方向を固定する反強磁性層を設けても良い。
【0030】
また、磁性誘電体としては、FeやCoを含むものであれば何でも良いが、ガーネットフェライト、MnZn1-xFe(但し、0<x<1)等のスピネルフェライト、或いは、六方晶フェライトを用いることが望ましい。
【0031】
また、逆スピンホール効果部材としては、Pt、Au、Pd、Ag、Bi、或いは、f軌道或いは3d軌道を有する遷移金属元素、若しくはそれらの合金のいずれかを有する元素のいずれか、或いは、これらの材料とCu、Al、或いは、Siの合金を用いることが望ましい。
【0032】
上述の熱電変換素子を複数個、磁化方向が互いに反対になるように交互に配置するか或いは磁化方向が互いに同じ向きになるように配置し、熱起電力が直列接続になるように前記逆スピンホール効果部材の端部を互いに接続することによって高起電力を出力する熱電変換装置を構成することができる。
【0033】
或いは、磁性誘電体からなる熱スピン波スピン流発生部材の両面に逆スピンホール効果部材を設けて熱電変換要素を構成し、複数の前記熱電変換要素を非磁性絶縁体を介して積層するとともに、熱起電力が直列接続になるように前記逆スピンホール効果部材の端部を互いに接続し、前記熱電変換要素の積層方向に温度勾配を設けるとともに、磁場印加手段により前記逆スピンホール効果部材の長手方向と直交する方向且つ前記温度勾配と直交する方向に磁場を印加して前記逆スピンホール効果部材において熱スピン波スピン流を電圧に変換して取り出すようにしても良い。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、熱スピン波スピン流発生部材の厚さ方向に温度勾配を設けているので、熱起電力を温度勾配に垂直な方向に生成することができ、素子設計自由度が大きくなり、それによって適用可能な熱源が飛躍的に増大する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態の熱電変換素子の概念的構成図である。
【図2】従来例の構成との対比を容易にするために変形した変形図である。
【図3】Pt電極側を高温側とした場合の構成説明図である。
【図4】Pt電極側を低温側とした場合の構成説明図である。
【図5】測定結果の説明図である。
【図6】本発明の実施例2の熱電変換装置の概念的構成図である。
【図7】本発明の実施例3の熱電変換装置の概念的構成図である。
【図8】本発明の実施例4の熱電変換装置の概念的構成図である。
【図9】本発明の実施例5の熱電変換装置の概念的構成図である。
【図10】本発明の実施例6の熱電変換装置の構成説明図である。
【図11】本発明の実施例6における測定結果の説明図である。
【図12】逆スピンホール効果の説明図である。
【図13】磁性誘電体を用いたスピン-ゼーベック効果素子の概略的斜視図である。
【図14】スピン波スピン流の説明図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
ここで、図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態の熱電変換素子の概念的構成図であり、図1(a)は概念的斜視図であり、また、図1(b)は逆スピンホール効果部材側を高温にした場合の概念的断面図であり、図1(c)は、逆スピンホール効果部材側を低温にした場合の概念的断面図である。なお、図における矢印は熱流の方向を示している。
【0037】
図に示すように、磁性誘電体からなる熱スピン波スピン流発生部材11に逆スピンホール効果部材12を設け、熱スピン波スピン流発生部材11の厚さ方向に温度勾配(図における縦方向)を設けるとともに、磁場印加手段により逆スピンホール効果部材12の長手方向と直交する方向に磁場Hを印加して逆スピンホール効果部材12の両端から熱起電力Vを取り出す。
【0038】
図2は、本発明の構成を図12に示した従来例の構成との対比を容易にするために変形した変形図であり、平板状の熱スピン波スピン流発生部材11の両端に非磁性導電体からなる逆スピンホール効果部材12,12を設け、熱スピン波スピン流発生部材11の長手方向に温度勾配▽Tを設けるとともに、熱スピン波スピン流発生部材11の厚さ方向に外部磁界Hを印加する。
【0039】
この時、熱スピン波スピン流Jは、逆スピンホール効果部材12,12との界面において、熱スピン波スピン流と純スピン流の交換により、逆スピンホール効果部材12,12に純スピン流として注入される。
【0040】
注入された純スピン流は電子相対論的効果によって温度勾配と直交する方向に電流が流れて逆スピンホール効果部材12,12の長手方向に熱起電力VISHEが発生する。この時、両方の逆スピンホール効果部材12,12との界面の熱起電力VISHEの方向は、流れ込むスピン流の方向が同じであるので、熱起電力VISHEは同じ向きになる。
【0041】
この図2に示した素子の熱スピン波スピン流発生部材11を温度勾配方向に極端に短くして厚さと同程度の長さとするとともに、一方の逆スピンホール効果部材12,12を除去し、それを90°回転させると図1に示した熱電変換素子と等価になる。逆スピンホール効果部材12を除去すると、図1(b)と等価になり、逆スピンホール効果部材12を除去すると、図1(c)と等価になる。
【0042】
磁性誘電体としては、FeやCoを含むものであれば何でも良いが、ガーネットフェライト、MnZn1-xFe(但し、0<x<1)等のスピネルフェライト、或いは、六方晶フェライト、特に、実用的には、入手が容易で且つスピン角運動量の散逸の小さいYIG(イットリウム鉄ガーネット)やイットリウムガリウム鉄ガーネット、即ち、一般式で表記するとYFe5-xGa12(但し、0≦x<5)からなるガーネットフェライト、或いは、YIGのYサイトをLa等の原子で置換したガーネットフェライト、例えば、LaYFe12等を用いることが望ましい。これは、YFe5-xGa12は電荷ギャップが大きいので伝導電子が非常に少なく、したがって、伝導電子によるスピン角運動量の散逸が小さいためである。但し、コストの観点からは、通常のフェライトFe等の安価な材料が望ましい。
【0043】
また、反強磁性誘電体を用いる場合には、典型的には酸化ニッケルやFeOが挙げられるが、磁性誘電体の大半は反強磁性誘電体である。また、磁性誘電体層を強磁性誘電体で構成する場合には、磁性誘電体層の磁化方向を固定するために反強磁性層を設けることが望ましい。
【0044】
なお、磁性誘電体の代わりに導電性磁性体を用いた場合には、逆スピンホール効果部材と熱起電力が発生していない導電性磁性体とが接合した構造となり、両者の間で電気的な緩和が起こるので、逆スピンホール効果部材から熱起電力を取り出すことが非常に困難になる。
【0045】
また、磁性誘電体層の成長方法としては、スパッタ法、MOD法(Metal-organic decomposition Method:有機金属塗布熱分解法)、ゾル-ゲル法、液相エピタキシー法、フローティングゾーン法、或いは、エアロゾルデポジッション法(必要ならば、上述の特許文献4参照)のいずれを用いても良い。また、磁性誘電体層の結晶性としては単結晶でも良いし或いは多結晶でも良い。
【0046】
MOD法を用いる場合には、例えば、{100}面を主面とするGGG(GdGa12)単結晶基板上に、例えば、YFeGaO12組成のMOD溶液をスピンコート法で塗布する。この場合のスピンコート条件としては、まず、500rpmで5秒間回転させたのち、3000~4000rpmで30秒間回転させてMOD溶液を焼成後の膜厚が100nmになるように均一に塗布する。なお、MOD溶液としては、例えば、(株)高純度化学研究所製のMOD溶液を用いる。
【0047】
次いで、例えば、150℃に加熱したホットプレート上で5分間乾燥させて、MOD溶液に含まれる余分な有機溶媒を蒸発させる。次いで、電気炉中において、例えば、550℃で5分間加熱する仮焼成によって酸化物層とする。
【0048】
次いで、電気炉中において、750℃で1~2時間加熱する本焼成において酸化物層の結晶化を進めてYIG層とする。最後に、YIG層を所定のサイズに切り出したのち、マスクスパッタ法を用いてYIG層上に、Pt電極等の逆スピンホール効果部材を設けることにより熱電変換素子が得られる。
【0049】
また、エアロゾルデポジション法を用いる場合には、例えば、平均粒径が1μmのFe、NiO,ZnOそれぞれ、50mol%、27mol%、23mol%のエアロゾル用粉体を用い、例えば、開口が0.4mm×10mmのノズルを用いてキャリガスとなるArガスを1000sccm流して基板上に噴射させて堆積させれば良い。
【0050】
また、逆スピンホール効果部材としては、Pt、Au、Pd、Ag、Bi、或いは、f軌道或いは3d軌道を有する遷移金属元素、若しくはそれらの合金のいずれかを有する元素のいずれか、或いは、これらの材料とCu、Al、或いは、Siの合金を用いることが望ましい。前者の元素はスピン軌道相互作用が大きいので、磁性誘電体との界面において、熱スピン波スピン流と純スピン流の交換を高効率で行うことができる。但し、コストの観点からは、前者の材料とCu、Al、或いは、Siの合金が望ましい。

【実施例1】
【0051】
ここで、図3乃至図5を参照して、本発明の実施例1の熱電変換装置を説明する。図3は、逆スピンホール効果部材であるPt電極側を高温側とした場合の構成説明図であり、図3(a)は概略的正面図であり、図3(b)は概略的側面図であり、図3(c)は、熱電変換素子近傍の要部上面図である。
【0052】
Cuブロック41上に単結晶のYIG板21とPt電極22とからなる熱電変換素子20を固着し、熱源に接触するCuブロック42との間を真鍮製のコ字状の熱伝搬部材43で熱的に接続する。従って、温度勾配▽Tは上向きとなる。ここで、外部磁場HをPt電極の長手方向と垂直方向で且つ温度勾配▽Tと垂直方向(図において左向き)に印加する。
【0053】
なお、YIG板21のサイズは、厚さ1mm×幅2mm×長さ6mmであり、Pt電極22のサイズは、厚さ15nm、幅0.5mm、長さ6mmである。この時、温度差ΔTを熱電対44で測定するとともに、Pt電極22の長手方向で発生する熱起電力を電圧計45で測定する。
【0054】
図4は逆スピンホール効果部材であるPt電極側を低温側とした場合の構成説明図であり、図4(a)は概略的正面図であり、図4(b)は概略的側面図であり、図4(c)は、熱電変換素子近傍の要部上面図である。
【0055】
熱源に接触するCuブロック42上に単結晶のYIG板21とPt電極22とからなる熱電変換素子20を固着し、Cuブロック41との間を真鍮製のコ字状の熱伝搬部材43で熱的に接続する。従って、温度勾配▽Tは下向きとなる。ここで、図3の場合と同様に、外部磁場HをPt電極の長手方向と垂直方向で且つ温度勾配▽Tと垂直方向(図において左向き)に印加し、温度差ΔTを熱電対44で測定するとともに、Pt電極22の長手方向で発生する熱起電力を電圧計45で測定する。
【0056】
図5は、測定結果の説明図であり、図5(a)は図3の構成の測定結果であり、図5(b)は図4の構成の測定結果である。図5に示すように、いずれの場合にも、H=1000〔Oe〕とした条件で、温度差ΔT=20℃で、約15μVの起電力が得られた。なお、外部磁場HをPt電極22の長手方向に印加した場合、即ち、θ=0°の場合には、起電力はPt電極22の幅方向に発生するので、図に示した構成では起電力は取り出すことができない。
【実施例2】
【0057】
次に、図6を参照して、本発明の実施例2の熱電変換装置を説明する。図6は本発明の実施例2の熱電変換装置の概念的構成図であり、図6(a)は概念的平面図であり、図6(b)は図6(a)におけるA-A′を結ぶ一点鎖線に沿った概念的断面図である。上述のYIG板21とPt電極22からなる熱電変換素子20のYIG板21の裏面に磁化方向を付与したIrMn反強磁性体板23を貼りつける。この時、IrMn反強磁性体板23の磁化方向MがPt電極22の長手方向と直交するように磁化方向を付与しておく。
【0058】
この熱電変換素子20を磁化方向Mが互いに反対になるように交互にPETシート等の可撓性シート24上に配置して固着し、それぞれ隣接する熱電変換素子20のPt電極22を隣の熱電変換素子20のPt電極22とCu接続導体25を用いて順次接続する。
【0059】
可撓性シート24を熱源に密着させ、Pt電極22側を空冷或いは水冷により冷却することによって、熱起電力を取り出すことができる。この時の熱起電力Vtotは、熱電変換素子20の数をn、一個の熱電変換素子20の熱起電力をVとすると、
tot=n×V
となる。
【実施例3】
【0060】
次に、図7を参照して、本発明の実施例3の熱電変換装置を説明する。図7は本発明の実施例2の熱電変換装置の概念的構成図であり、図7(a)は概念的平面図であり、図7(b)は図7(a)におけるA-A′を結ぶ一点鎖線に沿った概念的断面図である。
【0061】
耐熱性ガラス繊維シート等の耐熱性可撓性シート31上にマスクスパッタ法を用いてIrMn反強磁性体層32をラインアンドスペース状に堆積する。この時、外部磁場を印加しておき、IrMn反強磁性体層32を外部磁場の方向に磁化する。
【0062】
次いで、IrMn反強磁性体層32上に、エアロゾルデポジション法を用いてFeを選択的に堆積させて磁性誘電体層33を形成する。次いで、マスク蒸着法を用いて磁性誘電体層33上にPt電極34を形成することによって熱電変換素子30とする。
【0063】
次いで、それぞれ隣接する熱電変換素子30のPt電極34の一方の端部を隣の熱電変換素子30のPt電極34の反対側の端部とCu接続導体35を用いて順次接続する。耐熱性可撓性シート31を熱源に密着させ、Pt電極34側を空冷或いは水冷により冷却することによって、熱起電力を取り出すことができる。この時の熱起電力Vtotも、熱電変換素子30の数をn、一個の熱電変換素子30の熱起電力をVとすると、
tot=n×V
となる。この場合、各熱電変換素子30における磁性誘電体層33は一様な方向に磁化しているため、IrMn反強磁性体層32を用いず、外部磁場によって磁性誘電体層33を磁化させても良い。
【実施例4】
【0064】
次に、図8を参照して、本発明の実施例4の熱電変換装置を説明する。図8は本発明の実施例4の熱電変換装置の概念的構成図であり、図8(a)は概念的側面図であり、図8(b)は図8(a)におけるA-A′を結ぶ一点鎖線に沿った概念的断面図である。上述のYIG板21の対向する一対の主面にPt電極22,22をマスク蒸着して熱電変換要素26を形成する。
【0065】
この熱電変換要素26をSiOや絶縁性樹脂等の非磁性絶縁体27を介して積層し、Pt電極22の一方の端部とその上に位置するPt電極22の他方の端部をCu接続導体28により順次接続することによって熱電変換装置を作製する。
【0066】
この熱電変換装置の積層方向に温度勾配▽Tを設けるとともに、外部磁界HをPt電極22,22の長手方向と温度勾配▽Tに対して直交するように印加すると一つのYIG板21と両側のPt電極22,22との界面から2つのPt電極22,22に図において矢印で示す方向に純スピン電流Jが注入され、Pt電極22,22中の逆スピンホール効果によって起電力に変換される。
【0067】
したがって、熱電変換要素一個当たり発生する熱起電力は、図1の熱起変換素子の熱起電力の2倍になるので、熱起電力Vtotは、熱電変換要素26の数をnとすると、
tot=n×(2×V)
となる。
【実施例5】
【0068】
次に、図9を参照して、本発明の実施例5の熱電変換装置を説明する。図9は本発明の実施例5の熱電変換装置の概念的構成図である。Pt電極22とCu等のスピン軌道相互作用の小さな常磁性導体29とでYIG板21を挟持した積層体をSiOや絶縁性樹脂等の非磁性絶縁体27を介して積層し、Pt電極22の端部をその上に位置する常磁性導体29の端部とをCu接続導体28により順次接続することによって熱電変換装置を作製する。
【0069】
この熱電変換装置の積層方向に温度勾配▽Tを設けるとともに、外部磁界HをPt電極22の長手方向と温度勾配▽Tに対して直交するように印加すると一つのYIG板21とPt電極22との界面から図において矢印で示す方向に純スピン電流Jが注入され、Pt電極22,22中の逆スピンホール効果によって起電力に変換される。常磁性導体29にはスピン軌道相互作用の小さな物質を用いているので、常磁性導体29中には逆スピンホール効果による熱起電力は発生しない。
【0070】
したがって、熱電変換要素一個当たり発生する熱起電力は、図1の熱起変換素子の熱起電力と同じになるので、熱起電力Vtotは、積層体の数をnとすると、
tot=n×V
となる。この場合、上述の実施例4と比較すると熱起電力は半分になるものの、積層体の電気的相互接続が容易になる。
【実施例6】
【0071】
次に、図10及び図11を参照して、本発明の実施例6の熱電変換装置を説明する。図10は、本発明の実施例6の熱電変換装置の構成説明図であり、図10(a)は概略的正面図であり、図10(b)は概略的側面図であり、図10(c)は、熱電変換素子近傍の要部上面図である。ここでは、図4と同様に逆スピンホール効果部材であるPt電極側を低温側とした場合を説明しているが、図3と同様に、逆スピンホール効果部材であるPt電極側を高温側としても良い。
【0072】
熱源に接触するCuブロック42上に焼結体からなるMn0.75Zn0.25Fe板61とPt電極62とからなる熱電変換素子60を固着し、Cuブロック41との間を真鍮製のコ字状の熱伝搬部材43によりAl板63を介して熱的に接続する。従って、温度勾配▽Tは下向きとなる。
【0073】
ここで、図4の場合と同様に、外部磁場HをPt電極62の長手方向と垂直方向で且つ温度勾配▽Tと垂直方向(図において左向き)に印加し、温度差ΔTを熱電対44で測定するとともに、Pt電極62の長手方向で発生する熱起電力を電圧計45で測定する。
【0074】
なお、Mn0.75Zn0.25Fe板61のサイズは、厚さ1mm×幅2mm×長さ6mmであり、Pt電極62のサイズは、厚さ15nm×幅0.5mm×長さ6mmである。また、Al板63のサイズは、厚さ0.5mm×幅5mm×長さ5mmであり、起電力測定時に熱電変換素子60を熱伝搬部材43から電気的に絶縁するために介在させており、熱伝導率の高い絶縁体であれば、Alでなくても良い。
【0075】
図11は、測定結果の説明図であり、図11(a)は熱起電力Vと温度差ΔTの相関図であり、ここでも、H=1000〔Oe〕とした条件で、温度差ΔT=15℃で、約2μVの起電力が得られた。なお、外部磁場HをPt電極62の長手方向に印加した場合、即ち、θ=0°の場合には、起電力はPt電極22の幅方向に発生するので、図に示した構成では起電力は取り出すことができない。
【0076】
図11(b)は、外部磁場を掃引した場合の熱起電力の温度差依存性の説明図であり、下側の線は外部磁場をマイナスからプラスに掃引した場合の特性曲線であり、下側の線は外部磁場をプラスからマイナスにした場合の特性曲線である。
【0077】
図から明らかなように、いずれの温度差ΔTにおいても明瞭なヒステリシスループが表れているので、観測された起電力がMn0.75Zn0.25Fe板61の磁化反転に由来して反転すること、即ち、逆スピンホール効果の対称性に整合することがわかる。
【0078】
なお、この実施例6のMn0.75Zn0.25Fe板は、YIGに比べて熱起電力が小さいが、これは、焼結体、即ち、微結晶界面でマグノンが散乱されるとともに、磁気損失(緩和定数α)がYIGよりはるかに大きいためと考えられる。なお、実施例6においては、Mn:Zn=3:1の組成比の(MnZn)Feを用いているが、組成比は任意である。
【符号の説明】
【0079】
11 熱スピン波スピン流発生部材
12,12,12 逆スピンホール効果部材
20,60 熱電変換素子
21 YIG板
22,22,22 ,62 Pt電極
23 IrMn反強磁性体板
24 可撓性シート
25,28 Cu接続導体
26 熱電変換要素
27 非磁性絶縁体
29 常磁性導体
30 熱電変換素子
31 耐熱性可撓性シート
32 IrMn反強磁性体層
33 磁性誘電体層
34 Pt電極
35 Cu接続導体
41,42 Cuブロック
43 熱伝搬部材
44 熱電対
45 電圧計
51 磁性誘電体層
52,53 非磁性導電体
61 Mn0.75Zn0.25Fe
63 Al
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13