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明細書 :関節リウマチ関連マイクロRNA

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5322066号 (P5322066)
登録日 平成25年7月26日(2013.7.26)
発行日 平成25年10月23日(2013.10.23)
発明の名称または考案の名称 関節リウマチ関連マイクロRNA
国際特許分類 C12N  15/113       (2010.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
A61K  31/7105      (2006.01)
A61P  19/02        (2006.01)
A61P  29/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAG
C12Q 1/68 Z
A61K 31/7105
A61P 19/02
A61P 29/00 101
請求項の数または発明の数 8
全頁数 16
出願番号 特願2010-518940 (P2010-518940)
出願日 平成21年2月23日(2009.2.23)
国際出願番号 PCT/JP2009/053157
国際公開番号 WO2010/001632
国際公開日 平成22年1月7日(2010.1.7)
優先権出願番号 2008174072
優先日 平成20年7月3日(2008.7.3)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年8月24日(2011.8.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
発明者または考案者 【氏名】河野 誠司
【氏名】中町 祐司
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査官 【審査官】福澤 洋光
参考文献・文献 国際公開第2008/029790(WO,A1)
国際公開第2006/137941(WO,A2)
国際公開第2005/118806(WO,A2)
米国特許出願公開第2006/0019286(US,A1)
調査した分野 C12N1/00-15/90
C12Q1/00-1/68
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDreamII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
特許請求の範囲 【請求項3】
関節リウマチ特異的に発現抑制が認められるmiR-124aからなる関節リウマチマーカー。
【請求項4】
前記関節リウマチマーカーの塩基配列が、以下から選択される、請求項3に記載の関節リウマチマーカー:
1)UUAAGGCACGCGGUGAAUGCCA(配列番号1);
2)上記1)に記載の塩基配列よりなるオリゴヌクレオチドのうち、1~2個のヌクレオチドが、置換、欠失、付加または挿入されてなる塩基配列。
【請求項5】
請求項3または4に記載の関節リウマチマーカーを指標とする関節リウマチの検査方法。
【請求項6】
以下の工程を含む関節リウマチの検査方法:
1)請求項3または4に記載の関節リウマチマーカーを指標とし、採取した生体検体中の関節リウマチマーカー(A)を定量する工程;
2)上記定量して得た関節リウマチマーカー(A)の定量値を、関節リウマチではない生体検体中の関節リウマチマーカー(B)の定量値と比較する工程。
【請求項7】
前記関節リウマチマーカー(A)および前記関節リウマチマーカー(B)の定量値が、これらのマーカーとしてのオリゴヌクレオチド量である、請求項6に記載の関節リウマチの検査方法。
【請求項8】
前記関節リウマチマーカー(A)の定量値が、前記関節リウマチマーカー(B)の定量値よりも低い場合に、関節リウマチであると判断する、請求項6または7に記載の関節リウマチの検査方法。
【請求項9】
以下より選択される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを有効成分として含有する、関節リウマチの治療剤:
1)UUAAGGCACGCGGUGAAUGCCA(配列番号1);
2)上記1)に記載の塩基配列よりなるオリゴヌクレオチドのうち、1~2個のヌクレオチドが、置換、欠失、付加または挿入されてなる塩基配列。
【請求項10】
miR-124aを構成するオリゴヌクレオチドを有効成分として含有する、関節リウマチの治療剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis; RA)関連のマイクロRNAに関し、更には該マイクロRNAを指標とする関節リウマチの検査方法および該マイクロRNAを有効成分として含む関節リウマチ治療剤に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2008-174072号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
関節リウマチは、関節痛(関節滑膜炎)を引き起こす、慢性・全身性・進行性の原因不明の自己免疫疾患である。わが国においては、約70万人以上が罹患している。関節リウマチはどの年齢のヒトでも発症するが、30歳代から50歳代で発症するヒトが多くみられる。
【0004】
関節リウマチの発症は遺伝的素因に環境因子が関与していると考えられているが、その病因は不明である。関節リウマチは、リンパ球のなかのCD4+細胞が主体の全身性の疾患であり、関節リウマチの病態は好中球、リンパ球やマクロファージなどの炎症性細胞の関節への浸潤とそれに伴う関節中の滑膜細胞の炎症性異常増殖、その後、軟骨の破壊や骨びらんを生じ、最終的には関節構造が破壊される。
【0005】
関節リウマチの診断には、リウマトイド因子(RF)、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(MMP-3)や、抗環状シトルリン化ペプチド抗体(抗CCP抗体)などがマーカーとして挙げられる。抗CCP抗体は近年開発された関節リウマチの血清診断マーカーであり、それまでの診断方法と比べて優れた関節リウマチの診断方法といわれているが、十分に満足のできるものではない。特に発症早期の関節リウマチを的確に診断することは難しく、発症早期に関節リウマチを診断し、より早期に治療を開始することの重要性が明らかになってきている。
【0006】
関節リウマチは、多発性関節痛を主症状とするが、原因が特定されていない炎症性疾患である。関節リウマチでは滑膜の炎症性浸潤、滑膜細胞の増殖、重層化と血管新生を伴い、病態が進行していく。特に、滑膜細胞の異常増殖、活性化は、リウマチの主病変の一つと考えられており(Harriset et al., 1990, N. Eng. J. Med. 332, 1277-1289)、リウマチ患者の関節を調べると、滑膜絨毛の増殖や滑膜組織細胞の多層化等が認められ、滑膜細胞が異常増殖していることがわかる。しかしながら、関節リウマチの病態形成に重要な役割を果たす滑膜細胞のこのような機能過剰の原因は未だ十分解明されているとはいえず、滑膜細胞の異常増殖を抑制することが関節リウマチの治療において極めて重要であると考えられる。
【0007】
従来からの抗リウマチ薬の治療では関節炎の進行を完全に抑制することができず、無効例も多くみられる。また、近年開発された生物学的製剤(抗TNFα抗体)においても、無効例あるいは効果減弱例が認められることや高額な治療費を必要とすることなど、問題点が多い。これより、関節リウマチの病因を明らかにし、新たな診断法や治療法を開発することは、医学的、社会的に重要なことである。
【0008】
生物の遺伝子情報が解明されるにつれ、高等生物においてタンパク質をコードしていない非コードのDNAの割合が高等生物ほど非常に多いことが判明され、ヒトでは全DNAの98.3%が非コードのDNAであるといわれている。また、ヒトでは全ゲノムの2/3からRNAが転写されると推定されていることから、生物種の複雑さに応じて非コードRNAの種類と量が増加すると推定され、非コードのRNAであるマイクロRNA(以下、「miRNA」という。)が発見された。miRNAは、18~22塩基の非コードRNAの総称で、ヒトの遺伝子の約1/3がmiRNAで制御されていると考えられている。miRNAのプロセシングについては既に各種報告がなされている。このmiRNAは真核生物で発現し、高度に保存されており、ヒトでは約1000種類あるものと推定されている。miRNAに関し、低分子核酸の検出方法が特表2006-510372号公報(特許文献1)に開示されている。
【0009】
miRNAは、遺伝子発現の制御において重要な役割を担っている。miRNAは、核内ではPri-miRNAとしてDNAから転写され、ヘアピン二本鎖RNA(dsRNA)前駆体となる。dsRNAは細胞質内に移行し、Dicerの作用により成熟したmiRNAが生成される。生成したmiRNAはRISC(RNA-induced silencing complex)複合体に取込まれ、遺伝子機能制御に関与する。miRNAは、例えばRNA干渉(RNAi)とよく似た作用を有するが、その作用は不明な点が多い。例えばRNAiは標的RNAを切断することにより翻訳を抑制するが、miRNAの多くは標的RNAを切断せずに翻訳抑制すると考えられている。また、miRNAは、発生、分化、細胞周期や癌疾患などに関与している可能性が報告され、例えば肺癌、結腸癌、胸部癌、前立腺癌、膀胱癌や膵臓癌患者の腫瘍組織では特定のmiRNAからそれぞれの腫瘍タイプと正常サンプルとを識別できることが明らかとなっている(特許文献2)。
【0010】
しかし、miRNAに関し、免疫系や免疫疾患に関する報告はごく僅かであり、関節リウマチに関する報告はまだみられない。

【特許文献1】特表2006-510372号公報
【特許文献2】特表2008-511678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、関節リウマチの新規マーカーを提供することを課題とし、より詳しくは関節リウマチ特異的に発現が増減しうるマーカーを提供することを課題とする。さらには、関節リウマチの病因として、マーカーであるmiRNAが関与するかを確認し、関与するmiRNAを用いた関節リウマチの検査方法および関節リウマチ治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために関節リウマチの関節中の滑膜細胞(「RA滑膜細胞」ともいう。)中のsmallRNAに着目し、鋭意研究を重ねた結果、miRNA発現プロファイルから、RA滑膜細胞に特異的に発現の増減が認められるmiRNAの存在を初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.関節リウマチ特異的に発現抑制が認められる非コードRNAからなる関節リウマチマーカー。
2.前記非コードRNAが、マイクロRNA(miRNA)である前項1に記載の関節リウマチマーカー。
3.マイクロRNA(miRNA)が、miR-124aである前項2に記載の関節リウマチマーカー。
4.前記関節リウマチマーカーの塩基配列が、以下から選択される、前項1または2に記載の関節リウマチマーカー:
1)UUAAGGCACGCGGUGAAUGCCA(配列番号1);
2)上記1)に記載の塩基配列よりなるオリゴヌクレオチドのうち、1~2個のヌクレオチドが、置換、欠失、付加または挿入されてなる塩基配列。
5.前項1~4のいずれか1に記載の関節リウマチマーカーを指標とする関節リウマチの検査方法。
6.以下の工程を含む関節リウマチの検査方法:
1)前項1~4のいずれか1に記載の関節リウマチマーカーを指標とし、採取した生体検体中の関節リウマチマーカー(A)を定量する工程;
2)上記定量して得た関節リウマチマーカー(A)の定量値を、関節リウマチではない生体検体中の関節リウマチマーカー(B)の定量値と比較する工程。
7.前記関節リウマチマーカー(A)および前記関節リウマチマーカー(B)の定量値が、これらのマーカーとしてのオリゴヌクレオチド量である、前項6に記載の関節リウマチの検査方法。
8.前記関節リウマチマーカー(A)の定量値が、前記関節リウマチマーカー(B)の定量値よりも低い場合に、関節リウマチであると判断する、前項6または7に記載の関節リウマチの検査方法。
9.以下より選択される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを有効成分として含有する、関節リウマチの治療剤:
1)UUAAGGCACGCGGUGAAUGCCA(配列番号1);
2)上記1)に記載の塩基配列よりなるオリゴヌクレオチドのうち、1~2個のヌクレオチドが、置換、欠失、付加または挿入されてなる塩基配列。
10.miR-124aを構成するオリゴヌクレオチドを有効成分として含有する、関節リウマチの治療剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明の関節リウマチマーカーは、関節リウマチ特異的に発現の増減が認められる非コードRNAであり、特に発現抑制が認められるmi-RNA(miR-124a)は、CDK(cyclin-dependent kinase)2、CDK6およびMCP1(MonocyteChemotactic Protein-1)のmRNAに直接作用する。このことから、本発明の関節リウマチマーカーである非コードRNAは、細胞周期および炎症関連タンパク質の発現に関与することが確認された。本発明の関節リウマチマーカーである非コードRNAの発現が抑制されることで、RA滑膜細胞に対してCDK2、CDK6およびMCP1が作用し、関節リウマチの病態に関連するものと考えられる。本発明の非コードRNAを構成するオリゴヌクレオチドは、CDK2、CDK6およびMCP1の発現を制御し、これらのタンパク質に起因するRA滑膜細胞の炎症および増殖を抑制し、関節リウマチ治療の有効成分として作用する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】関節リウマチ由来滑膜細胞(RA-FLS)と変形性関節症由来滑膜細胞(OA-FLS)でのmi-RNAの発現パターンを示す図である。(参考例1)
【図2】RA-FLSにpre-miR-124aまたは対照pre-miRNAをトランスフェクションし、24~96時間培養したときの細胞でのmiR-124aの発現量を示す図である。(実施例1)
【図3】RA-FLS、OA-FLSおよびE11細胞、HeLa細胞にmiR-124aをトランスフェクションしたときの細胞増殖に及ぼす影響を示す図である(XTT法)。(実験例1)
【図4】RA-FLSにmiR-124aをトランスフェクションしたときの細胞増殖に及ぼす影響を示す図である。(実験例1)
【図5】RA-FLSまたはE11細胞にmiR-124aをトランスフェクションしたのち、RA-FLSについては96時間、E11細胞は72時間培養時の培養状況を示す図である。(実験例1)
【図6】RA-FLSまたはE11細胞の細胞周期に及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例2)
【図7】RA-FLSの細胞周期に及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例2)
【図8】RA-FLSのアポトーシスに及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例3)
【図9】RA-FLSのアポトーシスに及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例3)
【図10】E11細胞のアポトーシスに及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例3)
【図11】各種RA-FLSとOA-FLSのCDK2発現に及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例4)
【図12】各種RA-FLSとOA-FLSのCDK2発現に及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例4)
【図13】各種RA-FLSのCDK2発現に及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例5)
【図14】CDK2のmRNA非コード3’領域に及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例6)
【図15】各種RA-FLSのMCP1発現に及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例7)
【図16】MCP1のmRNA非コード3’領域に及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例8)
【図17】RA-FLS RA20細胞およびE11細胞でのCDK6発現に及ぼすmiR-124aの影響を示す図である。(実験例9)

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、関節リウマチ(以下単に「RA」という場合もある。)とは、日本リウマチ学会総会および厚生労働省において定義される疾患をいう。関節の内部を覆っている結合組織として最も関節側にあるものを滑膜といい、関節内に生じたゴミを除去したり、関節液を分泌したりする役割を有する。関節リウマチの場合は、この滑膜に炎症が引き起こされ、初期には表層細胞の増殖がみられる。
【0017】
本発明では、関節リウマチ(RA)および変形性関節症(osteoarthritis, degenerativejoint disease; OA、以下単に「OA」という場合もある。)の滑膜細胞中のsmallRNAに着目し、両者により発現量の異なるRNAをさらに解析することで、本発明の非コードRNAからなる関節リウマチマーカーを得た。前記関節リウマチマーカーは、関節リウマチ特異的に発現抑制が認められるsmallRNAからなり、該smallRNAは、塩基数が18~200のオリゴヌクレオチドであり、好ましくは塩基数が18~50であり、より好ましくは塩基数が18~22の非コードのRNAである。このようなオリゴヌクレオチドとして、miRNAが挙げられ、より具体的にはmiR-124a(配列番号1)またはmiR-124が挙げられる。具体的には、以下の塩基配列よりなるオリゴヌクレオチドが挙げられ、miR-124は、配列番号1に記載のオリゴヌクレオチドのうち、1番目と22番目のヌクレオチド(塩基U、A)が欠失したものである。
1)UUAAGGCACGCGGUGAAUGCCA(配列番号1)
2)上記1)に記載の塩基配列よりなるオリゴヌクレオチドのうち、1~2個のヌクレオチドが、置換、欠失、付加または挿入されてなる塩基配列。
【0018】
本発明は、上記関節リウマチマーカーを指標とする関節リウマチの検査方法にも及ぶ。具体的には、被験者の滑膜細胞から上述した本発明の関節リウマチマーカーとしてのオリゴヌクレオチド量を定量することにより検査することができる。例えば、関節リウマチではないヒトの滑膜細胞中のマーカー量に対して、発現が抑制された本発明の関節リウマチマーカー、例えばmiR-124aを検出することで、関節リウマチを検査することができる。発現抑制の程度は、特に限定されないが、関節リウマチを発現していない場合と比較して、例えば1/2以下に発現が抑制されている場合をいう。
【0019】
関節リウマチの検査方法としては、以下の工程を含む検査方法が挙げられる:
1)上記関節リウマチマーカーを指標とし、採取した生体検体中の関節リウマチマーカー(A)を定量する工程;
2)上記定量して得た関節リウマチマーカー(A)の定量値を、関節リウマチではない生体検体中の関節リウマチマーカー(B)の定量値と比較する工程。
ここで、関節リウマチマーカー(A)に係る採取した生体検体とは、被験者から採取した検体が挙げられ、具体的には前記の例では関節リウマチの診断を所望する被験者の滑膜細胞を生体検体とすることができる。滑膜細胞は、自体公知の取得方法により得ることができる。関節リウマチマーカー(B)に係る関節リウマチではない生体検体とは、明らかに関節リウマチではないと判断されるものから得た生体検体であり、具体的には例えば変形性関節症患者から得た滑膜細胞が挙げられる。
【0020】
前記関節リウマチマーカー(A)および前記関節リウマチマーカー(B)の定量値は、これらのマーカーとしてのオリゴヌクレオチド量を定量することにより、得ることができる。具体的には、リアルタイムRT-PCR法やstem-loop RT-PCR法を用いて、本発明の関節リウマチマーカーが一定量に増幅されるまでのサイクル数を計測し、△Ct法により計測することができる。
【0021】
関節リウマチの検査に際しては、前記の例では前記関節リウマチマーカー(A)の定量値が、前記関節リウマチマーカー(B)の定量値よりも低い場合に、被験者が関節リウマチであると判断することができる。
【0022】
本発明は、さらに以下の塩基配列よりなるオリゴヌクレオチドを有効成分として含む、関節リウマチ治療剤にも及ぶ。具体的には、本発明の関節リウマチマーカーと実質的に同等の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを有効成分として含む。その配列はmiR-124aを構成するオリゴヌクレオチド(配列番号1)と実質的に同等であり、より具体的には以下の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。下記塩基配列のオリゴヌクレオチドを含むのであれば、これらのオリゴヌクレオチドの前駆体を構成するオリゴヌクレオチドであっても良い。具体的には、例えばpre-miR-124aまたはpre-miR-124を構成するオリゴヌクレオチドであってもよい。
1)UUAAGGCACGCGGUGAAUGCCA(配列番号1)
2)上記1)に記載の塩基配列よりなるオリゴヌクレオチドのうち、1~2個のヌクレオチドが、置換、欠失、付加または挿入されてなる塩基配列。
【0023】
上述のオリゴヌクレオチドは、細胞周期および炎症関連タンパク質の発現に関与する。本発明の関節リウマチマーカーとしての非コードRNAであるオリゴヌクレオチドの発現が抑制されることで、RA滑膜細胞に対して、炎症関連タンパク質であるMCP1、および細胞周期のG1期からS期にわたって機能するCDK2やCDK6が作用し、関節リウマチの病態に関連するものと考えられる。上述のオリゴヌクレオチドは、CDK2、CDK6およびMCP1の発現を制御し、これらのタンパク質に起因するRA滑膜細胞の炎症および増殖を抑制し、関節リウマチ治療のための有効成分として作用する。
【0024】
本発明の関節リウマチ治療剤は、有効成分としてのオリゴヌクレオチドを薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、安定化剤等とともに製剤化し、患者に投与することができる。この目的で用いる製剤用の助剤は、当業者に周知のものを利用することができる。本発明の関節リウマチ治療剤は、靜脈内投与、経口投与等、好ましい投与経路を設定して、望ましい治療効果を達成することが期待できる。また、本発明の関節リウマチ治療剤に用いられるオリゴヌクレオチドを治療遺伝子として、前述の治療用にデザインされた担体と併せて遺伝子治療用組成物を調製することができる。さらに、遺伝子治療用には、例えばアデノウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いる方法など、自体公知の方法を利用することができる。
【実施例】
【0025】
本発明の理解を助けるために、以下に本発明を完成するに至る参考例を示し、さらに実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は本実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0026】
(参考例1)RA滑膜細胞中のmiRNAの発現プロファイル
米国リウマチ学会の基準により診断されたRAおよび、対照としての変形性関節症(OA)の患者からインフォームドコンセントおよび倫理委員会を経て滑膜細胞を取得した(RA滑膜細胞(RA-FLS)およびOA滑膜細胞(OA-FLS))。各細胞は、10%FCSおよび4mMのL-グルタミンを含むRPMI培地で培養し、維持した。上記細胞から200塩基以下のsmallRNAを抽出し(mirVanaTMmiRNA Bioarrays, Ambion社製)、miRNA発現解析を行った。smallRNAの抽出は自体公知の方法に従った。抽出した156種類のmiRNAについてリアルタイムRT-PCR(TaqMan(R) MicroRNA Assays, Applied Biosystems社製)で△Ct法により定量を行った。
【0027】
その結果、RA-FLSとOA-FLSにおいて発現量が2倍以上異なるmiRNAが6種類検出され、内5種類はRA-FLSで発現が亢進しており、1種類は発現が低下していることが確認された(表1、図1)。これらのうち、RA-FLSで低下しているmiRNAは、miR-124aであった。
【0028】
【表1】
JP0005322066B2_000002t.gif

【0029】
(実施例1)RA-FLSでのmiRNAの発現
300pmolのpre-miR-124aまたは対照のpre-miRNA(Ambion社)を10μLのRNAiMAX(Invitrogen社)とともに1mLのOptiMEM培地(Invitrogen社)に加えた。その後混合物を径60mmのプレートに加え、室温にて20分間保温した。その後、RPMI培地中のRA-FLS細胞浮遊液(1×10個/ml)をプレートに5ml播種し、その混合物をCOインキュベーター内で24~96時間培養した。miR-124a特異的なリアルタイムRT-PCR(TaqMan(R) MicroRNA Assays, Applied Biosystems社製)で、△Ct法により定量を行った。
【0030】
その結果、同量のpre-miRNAを加えた結果、対照のmiRNAの発現量に比べて、miR-124aの発現量は各培養時間において高いことが確認された(図2)。
【0031】
(実験例1)各種細胞増殖に及ぼすmiR-124aの影響
miR-124aの各種細胞の増殖に及ぼす影響を調べた。
実施例1と同様に300pmolのpre-miR-124aまたは対照のpre-miRNA(Ambion社)を、OA-FLS(n=2)、RA-FLS(n=4)、E11細胞およびHeLa細胞の各細胞にトランスフェクションし、COインキュベーター内で24~96時間培養したときの細胞増殖に及ぼす影響を調べた。
【0032】
Cell Proliferation Kit II (Roche Applied Science社製)を用いたXTT法による細胞増殖度の測定結果は、RA-FLS、OA-FLS、E11およびHeLa細胞において、pre-miR-124aをトランスフェクションしたときのほうが、明らかに抑制されることが確認された(図3)。
【0033】
トリパンブルー法により細胞数を計測した場合も、図4に示すように、RA-FLS細胞においてpre-miR-124aをトランスフェクションしたときのほうが、明らかに細胞増殖の抑制が認められた。
【0034】
また、培養96時間後のRA-FLS細胞および培養72時間後のE11細胞の各細胞の増殖度を顕微鏡で観察したときの写真を図5に示した。この結果からも、各細胞についてpre-miR-124aをトランスフェクションしたときのほうが、明らかに細胞の増殖が抑制され、特にE11(付着性細胞)では剥離しつつあることが確認された。
【0035】
(実験例2)各種細胞の細胞周期に及ぼすmiR-124aの影響
miR-124aの各細胞周期に及ぼす影響を調べた。
実施例1と同様に300pmolのpre-miR-124aまたは対照のpre-miRNA(Ambion社)を、RA-FLSおよびE11細胞にトランスフェクションし、COインキュベーター内で72時間培養したときの細胞周期に及ぼす影響を調べた。細胞周期(G1期、S期、およびG2期)は、PI/RNase染色(ベクトン・ディキンソン社)を用いて染色し、Modifitソフトウェア(ベクトン・ディキンソン社)を用いて解析した。
【0036】
その結果、72時間培養後において、RA-FLSおよびE11細胞ともに、pre-miR-124aをトランスフェクションしたときは、G1期の細胞が多く認められ、G2期/S期の細胞が少ないことが確認された(図6、図7)。
【0037】
(実験例3)細胞のアポトーシスに及ぼすmiR-124aの影響
miR-124aのRA-FLSのアポトーシスに及ぼす影響を調べた。
実験例2において、RA-FLSについて、アネキシンVおよびPI染色によりアポトーシスを確認した。アネキシンV陽性、PI陰性を初期アポトーシスと判定した。アネキシンV染色は、MEBCYTOアポトーシス・キット(MBL,医学生物学研究所製)を用いて行った。
【0038】
その結果、RA-FLSでは、pre-miR-124aをトランスフェクションしたときのアポトーシスの程度は、対照と比べて有意差を認めなかったが(図8、図9)、E11細胞ではアポトーシスを誘導することが確認された(図10)。
【0039】
(実験例4)細胞のCDK2の発現に及ぼすmiR-124aの影響(1)
miR-124aが細胞中のどのタンパク質に影響を与え、細胞周期をG1期で停止させ、細胞増殖を抑制しているかを検討した。そこで、G1期からS期にわたって機能するCDK2タンパク質に着目して検討を行った。RA-FLS(5種)とOA-FLS(4種に)ついて、CDK2タンパク質の発現をウエスタンブロッティング法により解析した。マウス型抗ヒトCDK2抗体クローンは、サンタクルーズ・バイオテクノロジー社製を用いた。タンパク質の発現を確認するためのハウスキーピングタンパク質として、アクチンについても発現量を確認した。各細胞について、miR-124aの発現をリアルタイムRT-PCR法により測定し、△Ct法により定量を行った。
【0040】
その結果、CDK2の発現をウエスタンブロッティング法により解析したところ、RA-FLSの方がOA-FLSに比べて濃いバンドが検出され、RA-FLSの方がCDK2の発現量が多いことが確認された(図11)。また、各細胞についてmiR-124aの発現レベルを確認したところ、RA-FLSの方がOA-FLSに比べて低い発現であり、miR-124aの発現のレベルが低いほど、CDK2タンパク質の発現量が多い傾向が認められた(図12)。このことから、miR-124aはCDK2の発現に影響を及ぼし、RA-FLSではCDK2がOA-FLSに比べて多いことからRA-FLSは滑膜細胞の増殖が盛んに行われていることが示唆された。
【0041】
(実験例5)細胞のCDK2の発現に及ぼすmiR-124aの影響(2)
RA-FLS細胞およびE11細胞に、実施例1および実験例1と同様にpre-miR-124aをトランスフェクションし、COインキュベーター内で72時間培養したときのCDK2タンパク質の発現に及ぼす影響をウエスタンブロッティング法により調べた。
【0042】
その結果、pre-miR-124aをトランスフェクションした場合に、各細胞において対照に比べてCDK2の発現が抑制されることが確認された(図13)。このことからも、miR-124aが、CDK2の発現に関与することが示唆された。
【0043】
(実験例6)CDK2の発現に及ぼすmiR-124aの影響(3)
CDK2のmRNAの3’非翻訳領域(3’UTR)にmiR-124aが直接作用してCDK2タンパク質の発現量を減少させるかどうかを検討した。CDK2のDNAの3’UTRをルシフェラーゼ発現ベクター(psiCHECK(TM) ベクター(Promega社))に組み込み、それをE11細胞に導入して検討した。各種pre-miRNAをトランスフェクションした系について、ルシフェラーゼの発現をルシフェラーゼ活性で測定した。対照として、CDK2のDNAの3’UTRの一部の遺伝子を改変させた系(変異型)、pre-miRNAを添加しない系、実施例1と同様に、対照のpre-miRNAと、他のpre-miRNA(pre-miR-146)を添加した系で、各々のルシフェラーゼ活性を測定した。
【0044】
CDK2のDNAは、GenBank accession No. AF512553に示すとおりであり、CDK2天然型DNAの3’UTR部分(5281-6439位)は、以下の配列番号に示す配列のプライマーを用いてPCR法により増幅させた。
CDK2-F-XhoI:CTCGAGccctttcttccaggatgtga(5232-5251に基づく)(配列番号2)
CDK2-R-NotI:GCGGCCGCtgttcaccgtcagcactagc(6592-6573に基づく)(配列番号3)
CDK2変異型DNAの3’UTR部分は、以下の配列のプライマーを用いてPCR法により作製した。
CDK2-3'UTR-mut-F:tgaacttCGcttaaacactcaccttct(配列番号4)
CDK2-3'UTR-mut-R:tttaagCGaagttcagagggcccacc(配列番号5)
【0045】
ベクターに組み込まれている対照用のルシフェラーゼ活性を1として、各条件での測定結果を相対比で示した(図14)。CDK2天然型DNAの3’UTRを含む系にpre-miR-124aをトランスフェクションした場合に、顕著にルシフェラーゼ活性が抑制されることが確認された。このことから、CDK2の発現に際し、miR-124aが直接mRNAの3’UTRの発現抑制に関与することが確認された。
【0046】
(実験例7)RA-FLS細胞での炎症性タンパク質の発現に及ぼすmiR-124aの影響
実施例1および実験例1と同様にpre-miR-124aをトランスフェクションした系および対照のpre-miRNAをトランスフェクションした系で、IL-8、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)、血管新生因子であるアンジオジェニン(angiogenin)、およびMCP1(Monocyte ChemotacticProtein-1)の発現に及ぼす作用を確認した。各因子の量は、ELISAの系を用いて測定した。
【0047】
その結果、pre-miR-124aをトランスフェクションした系ではIL-8では発現に有意差を認めなかったが、VEGFの発現は増加傾向を示し、アンジオジェニンおよびMCP-1は、発現の減少傾向を示した(図15)。
【0048】
(実験例8)MCP1の発現に及ぼすmiR-124aの影響
実験例5と同手法により、E11細胞でのMCP1タンパク質の発現に関し、mRNAの3’非翻訳領域(3’UTR)に及ぼすmiR-124aの作用をルシフェラーゼアッセイにより確認した。MCP1のDNAの3’UTRをルシフェラーゼ発現ベクター(psiCHECK(TM) ベクター(Promega社))に組み込み、それをE11細胞に導入して検討した。3’UTRの対照として、MCP1のDNAの3’UTRの一部の遺伝子を変化させたものを用いた(変異型)。MCP1天然型DNAの3’UTRを結合させた系と、MCP1変異型DNAの3’UTRを結合させた系のものをE11細胞に導入し、各種pre-miRNAをトランスフェクションした系について、ルシフェラーゼ活性で調べた。対照として、pre-miRNAを添加しない系、実施例1と同様に、対照のpre-miRNAを添加した系で、各々のルシフェラーゼ活性を調べた。
【0049】
MCP1のDNAは、GenBank accession No. AF519531に示すとおりであり、MCP1天然型DNAの3’UTR(5596-5981位)の一部分を、以下の配列番号に示す配列のプライマーを用いてPCR法により増幅させた。
MCP1-F-XhoI:CTCGAGtccccagacaccctgtttta (5648-5667位)(配列番号6)
MCP1-R-Not I:GCGGCCGCcaaaacatcccaggggtaga (5846-5827位)(配列番号7)
MCP1変異型DNAの3’UTR部分は、以下の配列のプライマーを用いてPCR法により作製した。
MCP1-3'UTR-mut-F :acattatCGcttaagtaatgttaattc(配列番号8)
MCP1-3'UTR-mut-R :cttaagCGataatgtttcacatcaac (配列番号9)
【0050】
ベクターに組み込まれている対照用のルシフェラーゼ活性を1として、各条件での測定結果を相対比で示した(図16)。その結果、MCP1天然型DNAの3’UTRの系にpre-miR-124aをトランスフェクションした場合に、顕著なルシフェラーゼ活性の抑制がされることが確認された。このことから、miR-124aが、MCP1の発現に際し、直接mRNAの3’UTRの発現抑制に関与することが確認された。
【0051】
(実験例9)細胞のCDK6の発現に及ぼすmiR-124aの影響(1)
miR-124aが細胞中のどのタンパク質に影響を与え、細胞周期をG1期で停止させ、細胞増殖を抑制しているかを検討した。そこで、G1期からS期にわたって機能するCDK6タンパク質に着目して検討を行った。
【0052】
RA-FLS(RA20)細胞およびE11細胞に、実施例1および実験例1と同様にpre-miR-124aをトランスフェクションし、COインキュベーター内で72時間培養したときのCDK6タンパク質の発現に及ぼす影響をウエスタンブロッティング法により調べた。マウス型抗ヒトCDK6抗体クローンは、セルシグナリングテクノロジー社(Cell Signaling Technology)製を用いた。タンパク質の発現を確認するためのハウスキーピングタンパク質として、アクチンについても発現量を確認した。
【0053】
その結果、pre-miR-124aをトランスフェクションした場合に、各細胞において対照に比べてCDK6の発現が抑制されることが確認された(図17)。以上の結果および実験例4~6の結果より、哺乳動物のG1期進行とS期開始に関係する、CDK6およびCDK2と呼ばれるサイクリン依存性キナーゼの発現が、miR-124aの存在により抑制されることが確認でき、miR-124aは、滑膜細胞の細胞周期を制御し、滑膜細胞の増殖を抑制しうることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上詳述したように、本発明の関節リウマチマーカーは、関節リウマチ特異的に発現の増減が認められる非コードRNAである。特に関節リウマチ特異的に発現抑制が認められるmi-RNA(miR-124a)は、有効なマーカーとなりえる。関節リウマチ関連細胞では、miR-124aの発現が低下していることから、miR-124aを指標とする検査方法を提供することができる。
【0055】
さらに、本発明のマーカーとして機能しうるmi-RNAであるmiR-124aが減少することで、関節リウマチの病態に関連するものと考えられる。そこで、miR-124aを含むオリゴヌクレオチドは、CDK2、CDK6およびMCP1を抑制して、これらのタンパク質に起因するRA滑膜細胞の炎症および増殖を抑制し、関節リウマチ治療の有効成分として作用しうる。このことから、miR-124aを有効成分とし、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、安定化剤等とともに製剤化したものは、関節リウマチの治療剤として利用することができる。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
6
【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図11】
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【図13】
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【図17】
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