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明細書 :電動機制御方法及び電動機制御装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4903740号 (P4903740)
公開番号 特開2009-240122 (P2009-240122A)
登録日 平成24年1月13日(2012.1.13)
発行日 平成24年3月28日(2012.3.28)
公開日 平成21年10月15日(2009.10.15)
発明の名称または考案の名称 電動機制御方法及び電動機制御装置
国際特許分類 B60L   9/18        (2006.01)
H02P  21/00        (2006.01)
H02P  27/04        (2006.01)
H02P   5/74        (2006.01)
FI B60L 9/18 S
H02P 5/408 A
H02P 7/74 G
H02P 7/74 D
請求項の数または発明の数 13
全頁数 18
出願番号 特願2008-085773 (P2008-085773)
出願日 平成20年3月28日(2008.3.28)
審査請求日 平成22年8月13日(2010.8.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】山下 道寛
【氏名】前橋 栄一
個別代理人の代理人 【識別番号】100124682、【弁理士】、【氏名又は名称】黒田 泰
【識別番号】100104710、【弁理士】、【氏名又は名称】竹腰 昇
【識別番号】100090479、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 一
審査官 【審査官】竹下 晋司
参考文献・文献 特開2004-274845(JP,A)
特開平08-098316(JP,A)
特開平06-197405(JP,A)
特開2002-281606(JP,A)
調査した分野 B60L 1/00 - 15/42
特許請求の範囲 【請求項1】
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御方法であって、
n軸のうちの進行方向最前方の軸を除く何れかの軸を基準軸とし、進行方向最前方の軸を監視軸として、前記基準軸と前記監視軸それぞれの電動機のトルク成分電流を検出することと、
力行時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記基準軸と前記監視軸それぞれのトルク成分電流の差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成し、該生成した連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行うことと、
を含む電動機制御方法。
【請求項2】
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御方法であって、
n軸のうちの進行方向最後方の軸を除く何れかの軸を基準軸とし、進行方向最後方の軸を監視軸として、前記基準軸と前記監視軸それぞれの電動機のトルク成分電流を検出することと、
制動時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記基準軸と前記監視軸それぞれのトルク成分電流の差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成し、該生成した連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行うことと、
を含む電動機制御方法。
【請求項3】
前記監視軸の空転滑走の発生を検出し、該検出時の前記トルク成分電流の差を保持し、該保持したトルク成分電流の差に基づいて当該検出後の前記連れ回り防止引き下げ指令を生成する請求項1又は2に記載の電動機制御方法。
【請求項4】
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御方法であって、
n軸のうちの進行方向最前方の軸を除く何れかの軸を基準軸とし、進行方向最前方の軸を監視軸として、前記基準軸と前記監視軸それぞれの回転速度を検出することと、
力行時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記基準軸と前記監視軸それぞれの回転速度の速度差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成し、該生成した連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行うことと、
を含む電動機制御方法。
【請求項5】
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御方法であって、
n軸のうちの進行方向最後方の軸を除く何れかの軸を基準軸とし、進行方向最後方の軸を監視軸として、前記基準軸と前記監視軸それぞれの回転速度を検出することと、
制動時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記基準軸と前記監視軸それぞれの回転速度の速度差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成し、該生成した連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行うことと、
を含む電動機制御方法。
【請求項6】
前記監視軸の空転滑走の発生を検出し、該検出時の前記速度差を保持し、該保持した速度差に基づいて当該検出後の前記連れ回り防止引き下げ指令を生成する請求項4又は5に記載の電動機制御方法。
【請求項7】
前記基準軸をn軸のうちの進行方向最後方の軸とする請求項1又は4に記載の電動機制御方法。
【請求項8】
前記基準軸をn軸のうちの進行方向最前方の軸とする請求項2又は5に記載の電動機制御方法。
【請求項9】
前記監視軸の再粘着を検出するまでの間、前記空転滑走の発生の前記検出からの経過時間に応じて漸次引き下げ量を大きくしていくように前記連れ回り防止引き下げ指令を可変する請求項3又は6に記載の電動機制御方法。
【請求項10】
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御装置であって、
制御対象のn軸のうちの進行方向最前方の軸以外の軸の中から予め定められた軸である基準軸の電動機のトルク成分電流を検出する基準軸電流検出手段と、
制御対象のn軸のうちの進行方向最前方の軸である監視軸の電動機のトルク成分電流を検出する監視軸電流検出手段と、
力行時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記基準軸電流検出手段により検出されたトルク成分電流と前記監視軸電流検出手段により検出されたトルク成分電流の電流差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成する連れ回り防止引き下げ指令生成手段と、
を備え、力行時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記生成された連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御装置。
【請求項11】
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御装置であって、
制御対象のn軸のうちの進行方向最後方の軸以外の軸の中から予め定められた軸である基準軸の電動機のトルク成分電流を検出する基準軸電流検出手段と、
制御対象のn軸のうちの進行方向最後方の軸である監視軸の電動機のトルク成分電流を検出する監視軸電流検出手段と、
制動時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記基準軸電流検出手段により検出されたトルク成分電流と前記監視軸電流検出手段により検出されたトルク成分電流の電流差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成する連れ回り防止引き下げ指令生成手段と、
を備え、制動時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記生成された連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御装置。
【請求項12】
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御装置であって、
制御対象のn軸のうちの進行方向最前方の軸を除く軸の中から予め定められた軸である基準軸の回転速度を検出する基準軸速度検出手段と、
制御対象のn軸のうちの進行方向最前方の軸である監視軸の回転速度を検出する監視軸速度検出手段と、
力行時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記基準軸速度検出手段により検出された回転速度と前記監視軸速度検出手段により検出された回転速度との速度差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成する連れ回り防止引き下げ指令生成手段と、
を備え、力行時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記生成された連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御装置。
【請求項13】
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御装置であって、
制御対象のn軸のうちの進行方向最後方の軸を除く軸の中から予め定められた軸である基準軸の回転速度を検出する基準軸速度検出手段と、
制御対象のn軸のうちの進行方向最後方の軸である監視軸の回転速度を検出する監視軸速度検出手段と、
制動時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記基準軸速度検出手段により検出された回転速度と前記監視軸速度検出手段により検出された回転速度との速度差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成する連れ回り防止引き下げ指令生成手段と、
を備え、制動時に前記監視軸が空転滑走した場合に、前記生成された連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、給電ラインに並列接続された電気車を駆動するn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車の電動機の制御として、給電ラインに並列接続された複数の電動機を一括してベクトル制御する技術が知られている。複数電動機の一括制御では、各電動機の回転子速度(回転子角周波数でもよい。)やインバータ出力電流のフィードバック値をもとに制御されるのが一般的であった。これは、粘着走行時(平常時)には、各電動機の回転子速度や流入電流はほぼ同じ値を取り、各電動機トルクはほぼ同値となるためである。
【0003】
また、電動機が並列接続された給電ラインの給電電流(インバータ出力電流)は、各電動機の流入電流の合計でなる。従って、粘着走行時(平常時)においては、各電動機の電流は略均等であるが、空転/滑走時には各電動機の負荷がアンバランスになる。具体的に説明する。ベクトル制御においては、インバータ出力電流である給電電流すなわち総電流ベクトルIを制御対象として、振幅(ベクトルIの長さ)、及び磁束成分とトルク成分とが制御される。例えば1C2M制御であれば、2台の電動機に入力される電流ベクトルは、総電流ベクトルIの約1/2ずつであり、磁束成分及びトルク成分の値はそれぞれの電動機間で略同値である。しかし、一方の電動機で空転又は滑走(以下包括的に「空転滑走」という。)が発生すると、その一方の電動機の負荷トルクが減少する。すると、減少した負荷トルク分のトルクを下げるように空転滑走した電動機のトルク成分電流が減少する。このトルク成分電流の減少分は、空転滑走していない電動機の増加分として配分される。総電流ベクトルIが一定に制御されているためである。
【0004】
そして、この現象を放置した場合、空転滑走していない電動機に過度のトルクがかかり、空転滑走が誘発(連れ回りが発生)され得る。即ち、空転滑走した軸の影響により他軸が連れ回り、全軸空転滑走が生じ得る。かかる問題点は例えば特許文献1にも記載されている通りである。

【特許文献1】特開2002-112404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、空転滑走時の連れ回りに対する全く新しい制御方式による解決手法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための第1の発明は、
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御方法であって、
力行時に、n軸のうちの進行方向最前方の軸を除く何れかの軸を基準軸とし、進行方向最前方の軸を監視軸として、前記基準軸と前記監視軸それぞれの電動機のトルク成分電流の差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成し、該生成した連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御方法である。
【0007】
また他の発明として、
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御装置であって、
制御対象のn軸のうちの進行方向最前方の軸以外の軸の中から予め定められた軸である基準軸の電動機のトルク成分電流を検出する基準軸電流検出手段と、
制御対象のn軸のうちの進行方向最前方の軸である監視軸の電動機のトルク成分電流を検出する監視軸電流検出手段と、
力行時に前記基準軸電流検出手段により検出されたトルク成分電流と前記監視軸電流検出手段により検出されたトルク成分電流の電流差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成する連れ回り防止引き下げ指令生成手段と、
を備え、前記生成された連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0008】
この第1の発明等によれば、力行時において、制御対象のn軸のうちの進行方向最前方の軸が監視軸とされ、それ以外の軸の何れかの軸が基準軸とされる。そして、基準軸と監視軸それぞれの電動機のトルク成分電流の差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令が生成されて、トルク成分電流指令から連れ回り防止引き下げ指令分の指令値が引き下げられてベクトル制御が行われる。
【0009】
力行時には車両内及び台車内において軸重移動が生じる。力行時の軸重移動によれば電動車車両内或いは台車内の制御対象のn軸のうち、進行方向最前方の軸重が他の軸に比べて最も少なくなる。従って、トルク成分電流が略同一である電動機間において、力行時には進行方向最前方の軸が最も空転し易い状況にあると言える。そこで、空転の可能性が最も高い進行方向最前方の軸を監視軸とし、残余の軸の何れかの軸を基準軸として、監視軸と基準軸とのトルク成分電流の電流差を基に、連れ回り防止引き下げ指令を生成するのである。勿論、空転が発生していない状況であれば、監視軸と基準軸とのトルク成分電流の電流差が略同一であり、監視軸が空転した状況では監視軸のトルク成分電流が減少するのに対して基準軸のトルク成分電流が増加するため電流差が大きくなる。この特性を利用して連れ回り防止引き下げ指令が生成されるのである。
【0010】
第1の発明等によれば、空転した軸はどの軸なのか、空転していない軸はどの軸なのかといった、各軸の空転是非を検出する必要がない。また、監視軸が空転した場合には基準軸のトルク成分電流が増加して連れ回り(空転誘発)が発生する可能性があるが、その連れ回りを防止するために、基準軸と監視軸それぞれの電動機のトルク成分電流の差から、連れ回り防止引き下げ指令を生成することができ、連れ回りが防止される。従って、簡単な制御によって、連れ回り(空転誘発)を抑制することができる画期的な制御方式を実現することができる。
【0011】
第2の発明は、
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御方法であって、
制動時に、n軸のうちの進行方向最後方の軸を除く何れかの軸を基準軸とし、進行方向最後方の軸を監視軸として、前記基準軸と前記監視軸それぞれの電動機のトルク成分電流の差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成し、該生成した連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御方法である。
【0012】
また、他の発明として、
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御装置であって、
制御対象のn軸のうちの進行方向最後方の軸以外の軸の中から予め定められた軸である基準軸の電動機のトルク成分電流を検出する基準軸電流検出手段と、
制御対象のn軸のうちの進行方向最後方の軸である監視軸の電動機のトルク成分電流を検出する監視軸電流検出手段と、
制動時に前記基準軸電流検出手段により検出されたトルク成分電流と前記監視軸電流検出手段により検出されたトルク成分電流の電流差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成する連れ回り防止引き下げ指令生成手段と、
を備え、前記生成された連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0013】
この第2の発明等によれば、制動時において、制御対象のn軸のうちの進行方向最後方方の軸が監視軸とされ、それ以外の軸の何れかの軸が基準軸とされる。そして、基準軸と監視軸それぞれの電動機のトルク成分電流の差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令が生成されて、トルク成分電流指令から連れ回り防止引き下げ指令分の指令値が引き下げられてベクトル制御が行われる。
【0014】
制動時には車両内及び台車内において軸重移動が生じる。制動時の軸重移動によれば電動車車両内或いは台車内の制御対象のn軸のうち、進行方向最後方の軸重が他の軸に比べて最も少なくなる。従って、トルク成分電流が略同一である電動機間において、制動時には進行方向最後方の軸が最も滑走し易い状況にあると言える。そこで、滑走の可能性が最も高い進行方向最後方の軸を監視軸とし、残余の軸の何れかの軸を基準軸として、監視軸と基準軸とのトルク成分電流の電流差を基に、連れ回り防止引き下げ指令を生成するのである。勿論、滑走が発生していない状況であれば、監視軸と基準軸とのトルク成分電流の電流差が略同一であり、監視軸が滑走した状況では監視軸のトルク成分電流が減少するのに対して基準軸のトルク成分電流が増加するため電流差が大きくなる。この特性を利用して連れ回り防止引き下げ指令が生成されるのである。
【0015】
第2の発明等によれば、滑走した軸はどの軸なのか、滑走していない軸はどの軸なのかといった、各軸の滑走是非を検出する必要がない。また、監視軸が滑走した場合には基準軸のトルク成分電流が増加して連れ回り(空転誘発)が発生する可能性があるが、その連れ回りを防止するために、基準軸と監視軸それぞれの電動機のトルク成分電流の差から、連れ回り防止引き下げ指令を生成することができ、連れ回りが防止される。従って、簡単な制御によって、連れ回り(滑走誘発)を抑制することができる画期的な制御方式を実現することができる。
【0016】
また、第3の発明として、第1又は第2の発明の電動機制御方法であって、
前記監視軸の空転又は滑走の発生を検出し、該検出時の前記トルク成分電流の差に基づいて前記連れ回り防止引き下げ指令を生成する電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0017】
この第3の発明によれば、監視軸の空転又は滑走の発生を検出した時の監視軸と基準軸それぞれのトルク成分電流の差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令が生成される。力行時であれば、軸重移動によって監視軸に比べて基準軸の軸重が大きいため、監視軸が空転した時のトルク成分電流の差に基づく制御を継続したとしても基準軸が空転する可能性が少ない。制動時も同様である。また、トルク成分電流の差は常時変動するが、監視軸が空転又は滑走した時のトルク成分電流の差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成するため、トルク成分電流の差が変動することによる連れ回り防止引き下げ指令の変動を抑え、制御が不安定になる可能性を効果的に抑制できる。
【0018】
第4の発明は、
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御方法であって、
力行時に、n軸のうちの進行方向最前方の軸を除く何れかの軸を基準軸とし、進行方向最前方の軸を監視軸として、前記基準軸と前記監視軸それぞれの回転速度の速度差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成し、該生成した連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御方法である。
【0019】
また、他の発明として、
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御装置であって、
制御対象のn軸のうちの進行方向最前方の軸を除く軸の中から予め定められた軸である基準軸の回転速度を検出する基準軸速度検出手段と、
制御対象のn軸のうちの進行方向最前方の軸である監視軸の回転速度を検出する監視軸速度検出手段と、
力行時に前記基準軸速度検出手段により検出された回転速度と前記監視軸速度検出手段により検出された回転速度との速度差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成する連れ回り防止引き下げ指令生成手段と、
を備え、前記生成された連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0020】
この第4の発明等によれば、力行時において、制御対象のn軸のうちの進行方向最前方の軸が監視軸とされ、それ以外の軸の何れかの軸が基準軸とされる。そして、基準軸と監視軸それぞれの回転速度の差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令が生成されて、トルク成分電流指令から連れ回り防止引き下げ指令分の指令値が引き下げられてベクトル制御が行われる。
【0021】
力行時には車両内及び台車内において軸重移動が生じる。力行時の軸重移動によれば電動車車両内或いは台車内の制御対象のn軸のうち、進行方向最前方の軸重が他の軸に比べて最も少なくなる。従って、トルク成分電流が略同一である電動機間において、力行時には進行方向最前方の軸が最も空転し易い状況にあると言える。そこで、空転の可能性が最も高い進行方向最前方の軸を監視軸とし、残余の軸の何れかの軸を基準軸として、監視軸と基準軸との回転速度の差を基に、連れ回り防止引き下げ指令を生成するのである。勿論、空転が発生していない状況であれば、監視軸と基準軸との回転速度の差はほぼゼロであり、監視軸が空転した状況では監視軸の回転速度が上昇するのに対して基準軸の回転速度が減少するためその差が大きくなる。この特性を利用して連れ回り防止引き下げ指令が生成されるのである。
【0022】
第4の発明等によれば、空転した軸はどの軸なのか、空転していない軸はどの軸なのかといった、各軸の空転是非を検出する必要がない。また、監視軸が空転した場合には基準軸のトルク成分電流が増加して連れ回り(空転誘発)が発生する可能性があるが、その連れ回りを防止するために、基準軸と監視軸それぞれの回転速度の差から、連れ回り防止引き下げ指令を生成することができ、連れ回りが防止される。従って、簡単な制御によって、連れ回り(空転誘発)を抑制することができる画期的な制御方式を実現することができる。なお、軸の回転速度を角周波数としてもよいことは勿論であり、回転速度と角周波数とは同義に扱うことができる(技術的に均等である)。
【0023】
第5の発明は、
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御方法であって、
制動時に、n軸のうちの進行方向最後方の軸を除く何れかの軸を基準軸とし、進行方向最後方の軸を監視軸として、前記基準軸と前記監視軸それぞれの回転速度の速度差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成し、該生成した連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御方法である。
【0024】
また、他の発明として、
給電ラインに並列接続された電動車車両内或いは台車内のn軸(n≧2)それぞれの電動機をベクトル制御によって一括して制御する電動機制御装置であって、
制御対象のn軸のうちの進行方向最後方の軸を除く軸の中から予め定められた軸である基準軸の回転速度を検出する基準軸速度検出手段と、
制御対象のn軸のうちの進行方向最後方の軸である監視軸の回転速度を検出する監視軸速度検出手段と、
制動時に前記基準軸速度検出手段により検出された回転速度と前記監視軸速度検出手段により検出された回転速度との速度差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令を生成する連れ回り防止引き下げ指令生成手段と、
を備え、前記生成された連れ回り防止引き下げ指令分トルク成分電流指令を引き下げて前記ベクトル制御を行う電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0025】
この第5の発明等によれば、制動時において、制御対象のn軸のうちの進行方向最後方の軸が監視軸とされ、それ以外の軸の何れかの軸が基準軸とされる。そして、基準軸と監視軸それぞれの回転速度の差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令が生成されて、トルク成分電流指令から連れ回り防止引き下げ指令分の指令値が引き下げられてベクトル制御が行われる。
【0026】
制動時には車両内及び台車内において軸重移動が生じる。制動時の軸重移動によれば電動車車両内或いは台車内の制御対象のn軸のうち、進行方向最後方の軸重が他の軸に比べて最も少なくなる。従って、トルク成分電流が略同一である電動機間において、制動時には進行方向最後方の軸が最も滑走し易い状況にあると言える。そこで、滑走の可能性が最も高い進行方向最後方の軸を監視軸とし、残余の軸の何れかの軸を基準軸として、監視軸と基準軸との回転速度の差を基に、連れ回り防止引き下げ指令を生成するのである。勿論、滑走が発生していない状況であれば、監視軸と基準軸との回転速度の差はほぼゼロであり、監視軸が滑走した状況では監視軸の回転速度が上昇するのに対して基準軸の回転速度が減少するためその差が大きくなる。この特性を利用して連れ回り防止引き下げ指令が生成されるのである。
【0027】
第5の発明等によれば、滑走した軸はどの軸なのか、滑走していない軸はどの軸なのかといった、各軸の滑走是非を検出する必要がない。また、監視軸が滑走した場合には基準軸のトルク成分電流が増加して連れ回り(空転誘発)が発生する可能性があるが、その連れ回りを防止するために、基準軸と監視軸それぞれの回転速度の差から、連れ回り防止引き下げ指令を生成することができ、連れ回りが防止される。従って、簡単な制御によって、連れ回り(空転誘発)を抑制することができる画期的な制御方式を実現することができる。なお、軸の回転速度を角周波数としてもよいことは勿論であり、回転速度と角周波数とは同義に扱うことができる(技術的に均等である)。
【0028】
また、第6の発明として、第4又は第5の発明の電動機制御方法であって、
前記監視軸の空転又は滑走の発生を検出し、該検出時の前記速度差に基づいて前記連れ回り防止引き下げ指令を生成する電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0029】
この第6の発明によれば、監視軸の空転又は滑走の発生を検出した時の監視軸と基準軸それぞれの回転速度の差に基づいて連れ回り防止引き下げ指令が生成される。力行時であれば、軸重移動によって監視軸に比べて基準軸の軸重が大きくなるため、監視軸が空転した時のトルク成分電流の差に基づく制御を継続したとしても基準軸が空転する可能性が少ない。制動時も同様である。
【0030】
また、第7の発明として、第1又は第4の発明の電動機制御方法であって、
前記基準軸をn軸のうちの進行方向最後方の軸とする電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0031】
この第7の発明によれば、基準軸は進行方向最後方の軸とされる。力行時の軸重移動によれば電動車車両内或いは台車内の制御対象のn軸のうち、進行方向最後方の軸重が他の軸に比べて最も大きい軸であると言える。従って、軸重が最も少ない軸が監視軸とされ、軸重が最も大きい軸が基準軸とされる結果、空転時の監視軸と基準軸のトルク成分電流の差及び回転速度の差が明確に現れることとなり、制御の基準値の分解能が上がってより適確な制御を実現することが可能となる。
【0032】
また、第8の発明として、第2又は第5の発明の電動機制御方法であって、
前記基準軸をn軸のうちの進行方向最前方の軸とする電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0033】
この第8の発明によれば、基準軸は進行方向最前方の軸とされる。制動時の軸重移動によれば電動車車両内或いは台車内の制御対象のn軸のうち、進行方向最前方の軸重が他の軸に比べて最も大きい軸であると言える。従って、軸重が最も少ない軸が監視軸とされ、軸重が最も大きい軸が基準軸とされる結果、滑走時の監視軸と基準軸のトルク成分電流の差及び回転速度の差が明確に現れることとなり、制御の基準値の分解能が上がってより適確な制御を実現することが可能となる。
【0034】
また、第9の発明として、第3又は第6の発明の電動機制御方法であって、
前記監視軸の再粘着を検出するまでの間、前記空転又は滑走の発生の前記検出からの経過時間に応じて前記連れ回り防止引き下げ指令を可変する電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0035】
この第9の発明によれば、監視軸の再粘着が検出されるまでの間、空転又は滑走の発生の検出からの経過時間に応じて連れ回り防止引き下げ指令が可変されることとなる。従って、例えば、経過時間に応じて連れ回り防止引き下げ指令の指令値を増加させることにより、再粘着させ易くすることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、連れ回り(空転誘発・滑走誘発)を抑制するための画期的な制御方式を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明するが、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
本実施形態では、動輪2軸の台車を2台車備える電動車の電動機制御装置に本発明を適用した場合の実施形態について説明する。また、台車内の2軸分の電動機を1台の制御装置で制御するいわゆる1C2Mとし、各電動機を誘導機としてベクトル制御により制御することとして説明する。また、数式における変数及び係数の添え字の数字は、軸の番号(1~2)を示し、軸の番号は進行方向側より1,2とする。
【0038】
[第1実施形態]
図1は、電車の主回路の回路ブロックのうち、第1実施形態に関わる構成を概略的に示した図であり、台車内の2軸の電動機と、その2軸の電動機を制御する電動機制御装置を中心に示した図である。
図1によれば、本実施形態に関わる電車の主回路としては、電動機制御装置1と、誘導機である電動機IM_1,IM_2と、インバータ70と、電流センサ81,82,85と、速度センサ91,92とを備えて構成されている。
【0039】
電動機IM_1,IM_2は、インバータ70から電力が供給されることで車軸を回転駆動する主電動機(メインモータ)であり、本実施形態では3相誘導機でなる。速度センサ91,92は、それぞれ電動機IM_1,IM_2の回転速度(角周波数)ωr_1r_2を検出して出力する。電流センサ85は、インバータ70のU相及びV相の出力電流Iu,Ivを検出し、電流センサ81,82は、それぞれ電動機IM_1,IM_2のU相及びV相の流入電流Iu_1,Iv_1,Iu_2,Iv_2を検出して出力する。
【0040】
インバータ70には、パンタグラフ及びコンバータを介して架線の電力が供給される。そして、ベクトル制御演算装置20から入力されるU相、V相及びW相それぞれの電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいて出力電圧を調整し、電動機IM_1,IM_2に給電する。
【0041】
ベクトル制御演算装置20を含む電動機制御装置1は、電動機IM_1,IM_2をベクトル制御する。この電動機制御装置1は、CPUやROM、RAM等から構成されるコンピュータ等によって実現され、例えば制御ボードとして各種の制御装置の一部として実装されたり、或いはインバータ70を含めて一体的にインバータ装置として構成される。また、電動機制御装置1は、ベクトル制御演算装置20の他に、連れ回り防止引き下げ指令生成部10と、再粘着制御装置30と、加減算部51,53とを備えて構成されている。
【0042】
再粘着制御装置30は、公知の再粘着制御装置であり、ベクトル制御演算装置20がインバータ角周波数ωを積算して算出している回転磁界位置θ(磁束位相)を用いて電流センサ81,82で検出された電動機流入電流のU相、V相の電流をd-q軸座標に変換する座標変換部と、座標変換部により変換された電動機IM_1と電動機IM_2それぞれのトルク成分電流の差異に基づいて空転滑走を検知する空転滑走検知部と、空転滑走の検知に応じて、ベクトル制御演算装置20に入力されるトルク成分電流指令値Iqを引き下げて再粘着させる引き下げ指令Iq_Sを生成する指令部とを有して構成される。この再粘着制御装置30の構成は、例えば特開2002-281606号公報に開示されている構成で実現可能である。
【0043】
なお、再粘着制御装置30の構成として、各電動機IM_1,IM_2のトルク成分電流に基づいて空転滑走の検知及び引き下げ指令を生成するのではなく、速度センサ91,92により検出された各電動機IM_1,IM_2の回転速度ωr_1r_2を基準速度(目標速度)ωと比較し、基準速度ωを所定値(例えば時速0.2km相当値)以上超えた場合に空転滑走が発生したと検知して、引き下げ指令Iq_Sを生成する構成としてもよい。
【0044】
連れ回り防止引き下げ指令生成部10は、座標変換部110と、加減算部121,123と、切替部130と、保持部140と、空転滑走検知部150と、再粘着検知部160と、K設定部170と、乗算部180とを備えて構成される。
【0045】
ここで、本実施形態の原理の理解のために連れ回り防止引き下げ指令生成部10の概略的な動作を説明する。先ず、力行時には、制御対象2軸のうち、進行方向最後方の第2軸の電動機IM_2のトルク成分電流から、進行方向最前方の第1軸の電動機IM_1のトルク成分電流を減算した電流差ΔIq_rを用いた制御を行う。具体的には、空転滑走(より正確には力行時であるため空転)の発生を検知した場合に、その検知時の電流差ΔIq_rを保持し、これに所定の係数Kを乗じた値を連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rとして、トルク成分電流指令値Iqからの引き下げ指令とする。
【0046】
力行時には車両内及び台車内において軸重移動が生じる。力行時の軸重移動によれば電動車車両内或いは台車内の制御対象のn軸のうち、進行方向最前方の軸重が他の軸に比べて最も少なくなる。本実施形態では、台車内の2軸が制御対象であるため、前方側の第1軸の軸重が、後方側の第2軸に比べて少なくなる。粘着走行時には電動機IM_1,IM_2のトルク成分電流は略同一であるため、力行時においては進行方向最前方の軸である第1軸が最も空転し易い状況にあると言える。そこで、空転の可能性が高い第1軸を監視軸とし、後方側の第2軸を基準軸として、基準軸のトルク成分電流から監視軸のトルク成分電流を減算して電流差を求めるのである。監視軸よりも基準軸の軸重が大きいため、電流差は必ず正の値となる。勿論、空転滑走が発生していない状況であれば、監視軸と基準軸とのトルク成分電流の電流差は略同一であるため、電流差は無い状態にある。そして、空転滑走が検知された際の電流差を用いて、連れ回り防止引き下げ指令を生成する。この結果、第1軸が空転滑走した場合に、第1軸と第2軸とのトルク成分電流の配分がアンバランスとなって第2軸の空転滑走が誘発される現象を抑制する作用が働く。
【0047】
制動時には、力行時と逆の動作となる。すなわち、制動時には、制御対象2軸のうち、進行方向最前方の第1軸の電動機IM_1のトルク成分電流から、進行方向最後方の第2軸の電動機IM_1のトルク成分電流を減算した電流差ΔIq_sを用いた制御を行う。具体的には、空転滑走(より正確には制動時であるため滑走)の発生を検知した場合に、その検知時の電流差ΔIq_sを保持し、これに所定の係数Kを乗じた値を連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rとして、トルク成分電流指令値Iqからの引き下げ指令とする。制動時の軸重移動は電動車車両内或いは台車内の制御対象のn軸のうち、進行方向最後方の軸重が他の軸に比べて最も少なくなるからである。
【0048】
連れ回り防止引き下げ指令生成部10の各構成部の動作について説明する。座標変換部110は、ベクトル制御演算装置20がインバータ角周波数ωを積算して算出している回転磁界位置θ(磁束位相)を用いて電流センサ81,82によって検出されている電動機流入電流のU相、V相の電流をd-q軸座標に変換し、変換したトルク成分電流を随時出力する座標変換部であり、電動機IM_1のU相電流Iu_1、V相電流Iv_1からトルク成分電流Iq_1を算出して出力する。また、電動機IM_2のU相電流Iu_2、V相電流Iv_2からトルク成分電流Iq_2を算出して出力する。このd-q軸座標への変換は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0049】
加減算部121は、座標変換部110から出力されるトルク成分電流Iq_2からトルク成分電流Iq_1を減算してトルク成分電流Iq_2とトルク成分電流Iq_1との電流差ΔIq_rを算出して出力する。加減算部123は、座標変換部110から出力されるトルク成分電流Iq_1からトルク成分電流Iq_2を減算してトルク成分電流Iq_1とトルク成分電流Iq_2との電流差ΔIq_sを算出して出力する。
【0050】
切替部130は、連れ回り防止引き下げ指令生成Iq_Rの生成に用いる電流差を、加減算部121で算出された電流差ΔIq_rとするか、加減算部123で算出された電流差ΔIq_sとするかを切り替える切替器である。具体的には、運転台等の制御指令であるノッチ指令及び制動指令を入力して、現在の駆動状態が力行状態であるか制動状態であるか、或いはそれ以外(例えば惰行状態)であるかを判別して、力行状態である場合には加減算部121で算出された電流差ΔIq_rを出力する電流差ΔIとして切り替え、制動状態である場合には加減算部123で算出された電流差ΔIq_sを出力する電流差ΔIとして切り替える。
【0051】
保持部140は、空転滑走検知部150から空転滑走の検知信号Sが入力される度に、その入力された時点で切替部130から入力されている電流差ΔIを保持し直し、保持している電流差ΔIを出力する。
【0052】
空転滑走検知部150は、速度センサ91,92により検出された各電動機IM_1,IM_2の回転速度ωr_1r_2を基準速度(目標速度)ωと比較する。そして、基準速度ωを所定値(例えば時速0.2km相当値)以上超えたことをもって空転滑走が発生したと検知し、検知信号Sを出力する。基準速度ωは電車の進行速度であり、例えば運転台から得られる速度信号や、T車の従軸の周速度から得ることとしてもよいし、車両内の各軸の周速度のうち、力行時であれば最小値、制動時であれば最大値等として決定してもよい。
【0053】
再粘着検知部160は、速度センサ91,92により検出された各電動機IM_1,IM_2の回転速度ωr_1r_2を基準速度(目標速度)ωと比較する。そして、空転滑走検知部150から検知信号Sを入力して後、基準速度ωから所定値(例えば時速0.1km相当値)上回る閾値以下にまで回転速度が低下したことをもって再粘着したと検知し、検知信号Sを出力する。
【0054】
設定部170は、保持部140で保持されている電流差ΔIに乗じて連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを生成するための係数Kを設定する。具体的には、空転滑走検知部150から検知信号Sが入力された後であって、再粘着検知部160から検知信号Sが入力される前の期間に係数Kを所定値に設定し、当該期間以外は係数Kに“0”を設定する。空転滑走が生じていなければ、そもそも連れ回りが発生し得ないため、係数Kを“0”として、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを無くすためである。
【0055】
空転滑走検知部150から検知信号Sが入力された後は、検知信号Sが入力された時点からの経過時間に応じて設定値を変化させる。図2に、経過時間に対する係数Kの設定値の一例を示す。図2によれば、空転滑走が発生して後、経過時間Tが経過するまでは係数Kを値Ya(>0)とし、経過時間T経過後は値Yb(>Ya)とし、更に経過時間T経過後は値Yc(>Yb)とする。空転滑走が発生している状態では、各電動機の負荷がアンバランスになるため、トルク成分電流が大きく変動し得る。特に空転滑走が発生した時点からの初期の段階においては、経過時間に応じて変動量が大きくなることが顕著である。この初期段階の時点でトルク指令Iを適切に引き下げることができれば、連れ回りを効果的に抑えることができる。そこで、空転滑走発生時点からの経過時間に応じて係数Kを増加させることにより、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rの指令値を大きくし、トルク引き下げ指令Iqを引き下げるよう作用させる。
【0056】
乗算部180は、保持部140で保持されている電流差ΔIにK設定部170で設定された係数Kを乗ずることにより連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを生成する。
【0057】
そして、加減算部51が、トルク指令Iから、連れ回り防止引き下げ指令生成部10で生成された連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによる指令値分を減算し、更に加減算部53が、再粘着制御装置30で生成された引き下げ指令Iq_Sによる指令値分を減算した指令がベクトル制御演算装置20に入力される。
【0058】
次に、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによる作用効果について行った力行時の空転に対するシミュレーション結果について説明する。
図3、図4は、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを用いたトルク指令Iの引き下げを行う前後の各軸速度、各軸電流、各軸トルクの様子を示す図である。図3、図4ともに、(a)が各軸速度を、(b)が各軸電流を、(c)が各軸トルクを示しており、何れも“2秒”時点で第1軸が空転開始し、“6秒”時点から連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによるトルク指令Iの引き下げを行った。また、図3が係数K=0.25として連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを生成した場合の図であり、図4が係数K=0.5として連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを生成した場合の図である。なお、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによる作用効果を明らかにするために、再粘着制御装置30によるトルク指令の引き下げを行っていない。また、軸重移動の要素は考慮せずにシミュレーションを行った。
【0059】
図3(a)、図4(a)から分かる通り、第1軸が空転開始した“2秒”以降も第2軸は粘着走行している状態にある。“6秒”時点から第1軸の回転速度が第2軸と同等の速度に低下しているのは、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによるトルク指令Iの引き下げによって、第1軸を再粘着させる作用が生じたためである。
【0060】
図3(b)(c)と、図4(b)(c)とをそれぞれ比較すると、“6秒”時点からの連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによるトルク指令Iの引き下げによって、第2軸のトルク成分電流及びトルクが低下していることが分かる。この低下速度は係数K=0.25よりも係数K=0.5の方が速く、また低下量も係数K=0.25よりも係数K=0.5の方が大きい。この結果、係数Kを大きくすることにより、連れ回りを一層確実に防止できると言える。しかし、図4(c)の係数K=0.5としたシミュレーション結果では、粘着走行している第2軸のトルクが、第1軸が空転開始した“2秒”より前の値よりも低下しており、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによるトルク指令Iの引き下げがいわば効き過ぎの状態にあるとも考えられる。
【0061】
但し、図3,図4の結果はシミュレーション結果の一例である。現実の制御に係数Kを適用する場合には、図3,図4に示されるような本実施形態の連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによる作用効果を参酌して、車両や台車の型式等に応じた適当な値に設計することとなる。
【0062】
またここで、係数Kについて簡単に説明する。係数Kは、各軸のトルク成分電流の差Iq_2-Iq_1に相当する。従って、以下の数式が近似的に成り立つ。
-K・ΔI=I-0.5・ΔI
ここで、ΔIは第1軸と第2軸のトルク成分電流の差である。トルク成分電流の差に「0.5」を乗じているのは、「0.5」の時に、トルク成分電流の引き下げ量がトルク成分電流差の1/2(粘着軸のトルク成分電流の増加分)に相当するためである。
【0063】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、電流差ΔIの代わりに、速度差Δωを用いて連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを生成する点で第1実施形態と異なる。以下説明において、第1実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。なお、速度センサ91,92による検出結果を回転速度ωr_1,ωr_2として説明するが、回転子角周波数としてもよいことは勿論であり、回転速度と回転子角周波数とは同義に扱うことができる(技術的に均等である)。その場合には、以下の説明において「回転速度」を「回転子角周波数」とし、「速度差Δω」を「角周波数差Δω」と変更すればよい。
【0064】
図5に第2実施形態にかかる主回路構成を示す。構成的には第2実施形態の電動機制御装置2は、座標変換部110を具備せず、加減算部121,123の代わりに加減算部122,124を、切替部130の代わりに切替部131を、保持部140の代わりに保持部141を、K設定部170の代わりにK設定部171を備えた点で、第1実施形態の電動機制御装置1と異なる。
【0065】
加減算部122は、速度センサ92によって検出された第2軸の電動機IM_2の回転速度ωr_2から速度センサ91によって検出された第1軸の電動機IM_1の回転速度ωr_1を減算して速度差Δω_rを算出して出力する。加減算部124は、速度センサ91によって検出された第1軸の電動機IM_1の回転速度ωr_1から速度センサ92によって検出された第2軸の電動機IM_2の回転速度ωr_2を減算して速度差Δω_Sを算出して出力する。
【0066】
切替部131は、ノッチ指令及び制動指令を入力して、現在の駆動状態が力行状態であるか制動状態であるか、或いはそれ以外(例えば惰行状態)であるかを判別して、力行状態である場合には加減算部122で算出された速度差Δω_rを出力する速度差Δωとして切り替え、制動状態である場合には加減算部124で算出された速度差Δω_sを出力する速度差Δωとして切り替える。
【0067】
すなわち、力行時においては、空転の可能性が高い第1軸を監視軸とし、後方側の第2軸を基準軸として、基準軸の回転速度から監視軸の回転速度を減算した速度差を用いて、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを生成する。制動時においては、滑走の可能性が高い第2軸を監視軸とし、前方側の第1軸を基準軸として、基準軸の回転速度から監視軸の回転速度を減算した速度差を用いて、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを生成する。
【0068】
保持部141は、保持部140と同様、空転滑走検知部150からの検知信号Sを入力する度に、その入力された時点で切替部131から入力されている速度差Δωを保持し直し、保持している速度差Δωを出力する。
【0069】
設定部171は、K設定部170と同様、保持部141で保持されている電流差ΔIに乗じて連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを生成するための係数Kを設定する。但し、空転滑走検知部150から検知信号Sが入力された後であって、再粘着検知部160から検知信号Sが入力される前の期間に係数Kを所定値に設定し、当該期間以外は係数Kに“0”を設定する。空転滑走が生じていなければ、そもそも連れ回りが発生し得ないため、係数Kを“0”として、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを無くすためである。係数Kの設定の一例を図6に示す。
【0070】
第2実施形態に係る構成について、第1実施形態と同様、力行時の空転に対するシミュレーションを行った。以下その結果について説明する。
図7、図8は、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを用いたトルク指令Iの引き下げを行う前後の各軸速度、各軸電流、各軸トルクの様子を示す図である。図7、図8ともに、(a)が各軸速度を、(b)が各軸電流を、(c)が各軸トルクを示しており、何れも“2秒”時点で第1軸が空転開始した。また、図7(a)、(b)、(c)、図8(a)については、“6秒”時点から連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによるトルク指令Iの引き下げを行った結果を示しており、図8(b)、(c)については“4秒”時点から連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによるトルク指令Iの引き下げを行った結果を示している。また、図7が係数K=25として連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを生成した場合の図であり、図8が係数K=50として連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rを生成した場合の図である。なお、再粘着制御装置30によるトルク指令の引き下げを行っておらず、軸重移動の要素は考慮せずにシミュレーションを行った。
【0071】
図7(a)、図8(a)から分かる通り、第1軸の空転開始以降も第2軸は粘着走行している状態にある。連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによるトルク指令Iの引き下げ後は、その引き下げによって第1軸の回転速度が第2軸と同等の速度に低下している。
【0072】
図7(b)(c)と、図8(b)(c)とをそれぞれ比較すると、連れ回り防止引き下げ指令Iq_Rによるトルク指令Iの引き下げによって、第2軸のトルク成分電流及びトルクが低下していることが分かる。この低下速度は係数K=25よりも係数K=50の方が速く、また低下量も係数K=25よりも係数K=50の方が大きい。この結果、係数Kを大きくすることにより、連れ回りを一層確実に防止できると言える。
【0073】
ここで、係数Kについて簡単に説明する。係数Kは、単位速度当たりの粘着軸のトルク成分電流増加量に相当する。トルク成分電流増加量は、力行時であれば、電動機流入電流から求まる実際のトルク成分電流Iからトルク成分電流目標値(指令値相当)Iqrefを減算することで算出される。従って、以下の数式が近似的に成り立つ。
-K・Δω=I-(Iqref_2/ωS_2)・Δω
ここで、Iqref_2は力行時における粘着軸である第2軸のトルク成分電流目標値であり、ωS_2は第2軸のすべり周波数であり、Δωは第1軸と第2軸のすべり周波数の差である。
【0074】
[変形例]
以上、2つの実施形態について説明したが、本発明が適用可能な形態は上述した実施形態に限られるものではない。例えば、1車両分の2台車の各軸を制御する1C4M制御に適用してもよい。
【0075】
この場合、力行時においては、進行方向最前方の第1軸を監視軸、第2軸~第4軸の何れかの軸を基準軸とし、制動時においては、進行方向最後方の第4軸を監視軸、第1軸~第3軸の何れかの軸を基準軸として上述した実施形態と同様の制御を行うと良い。軸重移動により、力行時であれば第1軸~第4軸のうちの進行方向最前方の第1軸の軸重が他の軸に比べて最小になり、制動時であれば進行方向最後方の第4軸の軸重が他の軸に比べて最小になるからである。但し、力行時であれば第4軸の軸重が他の軸に比べて最大となり、制動時であれば第1軸の軸重が他の軸に比べて最大となるため、これらの軸を基準軸とするとより好適である。尚、複数電動機を一括して制御する方式であれば、3台車以上の台車を備える車両に対して本実施形態を適用することとしてもよい。
【0076】
また、上述した実施形態では、連れ回り防止引き下げ指令生成部10,11に、空転滑走検知部150及び再粘着検知部160を具備する構成として説明したが、同様の回路部を再粘着制御装置30が有しているため、再粘着制御装置30から空転滑走の検知信号Sと、再粘着の検知信号Sとを入力して利用する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】第1実施形態における電車の主回路の回路ブロック図。
【図2】係数Kの設定値の一例を示す図。
【図3】第1実施形態に係るシミュレーション結果を示す図。
【図4】第1実施形態に係るシミュレーション結果を示す図。
【図5】第2実施形態における電車の主回路の回路ブロック図。
【図6】係数Kの設定値の一例を示す図。
【図7】第2実施形態に係るシミュレーション結果を示す図。
【図8】第2実施形態に係るシミュレーション結果を示す図。
【符号の説明】
【0078】
1,2 電動機制御装置
10,11 連れ回り防止引き下げ指令生成部
110 座標変換部
121,123 加減算部
130,131 切替部
140,141 保持部
150 空転滑走検知部
160 再粘着検知部
170 K設定部
171 K設定部
20 ベクトル制御演算装置
70 インバータ
IM_1,2 電動機
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7