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明細書 :空力特性向上のための物体の空力特性測定方法、物体形状の最適化方法並びにそれを用いて最適化された物体、及び、空力特性評価実験用形状可変模型

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5250250号 (P5250250)
公開番号 特開2009-145259 (P2009-145259A)
登録日 平成25年4月19日(2013.4.19)
発行日 平成25年7月31日(2013.7.31)
公開日 平成21年7月2日(2009.7.2)
発明の名称または考案の名称 空力特性向上のための物体の空力特性測定方法、物体形状の最適化方法並びにそれを用いて最適化された物体、及び、空力特性評価実験用形状可変模型
国際特許分類 G01M   9/08        (2006.01)
B60L   5/20        (2006.01)
FI G01M 9/08
B60L 5/20 Z
請求項の数または発明の数 10
全頁数 14
出願番号 特願2007-324503 (P2007-324503)
出願日 平成19年12月17日(2007.12.17)
審査請求日 平成22年3月11日(2010.3.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】池田 充
【氏名】光用 剛
【氏名】中村 嘉宏
【氏名】長嶺 太
個別代理人の代理人 【識別番号】100100413、【弁理士】、【氏名又は名称】渡部 温
【識別番号】100123696、【弁理士】、【氏名又は名称】稲田 弘明
審査官 【審査官】▲高▼見 重雄
参考文献・文献 特開昭53-129670(JP,A)
特許第3909314(JP,B2)
特開2005-283496(JP,A)
実開平03-122344(JP,U)
光用剛, 小山達弥, 池田充, 吉田和重,縮尺の異なる風洞模型を用いた集電装置まわりの流速分布の比較,鉄道技術連合シンポジウム講演論文集,日本,2006年12月13日,Vol.13th,Page.113-116
調査した分野 G01M 9/00-9/08
B60L 5/20
特許請求の範囲 【請求項1】
風洞実験に使用される模型であって、
前記模型の断面形状の外郭の主要な点、線又は面を規定する、二次元的に移動可能な複数のフレーム(10)と、
該複数のフレーム(10)に沿って巻かれて、前記模型の外形を形成する膜部材(20)と、
該膜部材(20)の張力を付与する手段(40,43)と、を有し、
前記フレーム(10)の移動機構(30)として、
前記模型の中心付近を、前記フレーム(10)の長さ方向に延びる中心軸(31)と、
該中心軸(31)から放射状に延びて、前記フレーム(10)の両端を各々移動可能に支持する回転アーム(32)と、
該回転アーム上を移動するスライダ(35)と、
を備えることを特徴とする風洞実験用模型。
【請求項2】
前記模型の全体姿勢を可変する機構(51)をさらに備えることを特徴とする請求項記載の風洞実験用模型。
【請求項3】
前記膜部材(20)の両端が、風洞実験装置の両端板(E)の外側に出ていることを特徴とする請求項又は記載の風洞実験用模型。
【請求項4】
前記フレーム(10)が、
前記模型の断面形状の外郭の主要な点を規定する、平面内を移動可能な基本部材(10)と、
該基本部材(10)に取り外し可能に取付けられる、前記断面形状の一部を形成する設定部材(11)とを、有することを特徴とする請求項1,2又は記載の風洞実験模型。
【請求項5】
前記模型がパンタグラフの舟体の模型であることを特徴とする請求項いずれか1項に記載の風洞実験模型。
【請求項6】
流体中の物体が流体から受ける作用に関する物理量を測定する方法において、
前記物体の断面形状を模した請求項1~5いずれか1項記載の模型を流体中に設置し、該模型が流体から受ける作用に関連する物理量を測定することを特徴とする物体の空力特性測定方法
【請求項7】
流体中の物体の空力特性向上を目的として断面形状を最適化する方法において、
前記物体の断面形状を模した請求項1~5いずれか1項記載の模型を使用し、
一定の制約条件下における前記物体の断面形状の初期プロフィルを設定し、
前記模型のプロフィルを該初期プロフィルに対応するように設定し、
流体中に該模型を置いて、該模型が流体から受ける作用に関連する物理量を測定し、
その測定値を用いて目的関数を算出し、
該目的関数が最小又は最大となるまで、最適化手法により前記物体の断面形状のプロフィルを変更し、変更されたプロフィルに対応するように前記模型のプロフィルを変化させることを特徴とする物体形状最適化方法。
【請求項8】
前記目的関数に前記測定する複数の物理量を含んでいることを特徴とする請求項記載の物体形状最適化方法。
【請求項9】
流体中に置かれる物体であって、
該物体の断面形状が、以下の物体形状最適化方法により決定されたことを特徴とする物体;
流体中の物体の空力特性が望ましい特性となることを目的として物体の断面形状を最適化する方法において、
前記物体の断面形状を模した請求項1~5いずれか1項記載の模型を使用し、
一定の制約条件下における前記物体の断面形状の初期プロフィルを設定し、
前記模型のプロフィルを該初期プロフィルに対応するように設定し、
流体中に該模型を置いて、該模型が流体から受ける作用に関連する物理量を測定し、
その測定値を用いて目的関数を算出し、
該目的関数が最小又は最大となるまで、最適化手法により前記物体の断面形状のプロフィルを変更し、変更されたプロフィルに対応するように前記模型のプロフィルを変化させる。
【請求項10】
パンタグラフの舟体の空力特性を向上することを目的として行う断面形状の最適化方法であって、
前記舟体の断面形状を模した請求項1~5いずれか1項記載の模型を使用し、
一定の制約条件下における前記舟体の断面形状の初期プロフィルを発生させ、
前記模型のプロフィルを該初期プロフィルに対応するように設定し、
流体中に該模型を置いて、該模型が流体から受ける作用に関連する物理量を測定し、
その測定値を用いた目的関数を評価し、
該評価値が最小又は最大となるまで、最適化手法により前記舟体のプロフィルを変更し、
変更されたプロフィルに対応するように前記模型のプロフィルを変化させることを特徴とするパンタグラフ舟体の断面形状最適化方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の空力特性向上のために物体の模型を使用してその空気力学特性を測定し、物体の断面形状を最適化する方法等に関する。特には、パンタグラフの舟体の断面形状を空気力学的特性が向上するように最適化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パンタグラフは、架線から走行車両へ電気エネルギーを取り入れる部品であり、鉄道車両を構成するために必要な部品である。
図9は、パンタグラフの形状の一例を示す斜視図である。
パンタグラフ70は、車両に設置される台枠71と、台枠71に取付けられて上下方向に伸縮自在な枠組み72を備え、枠組み72の上部に舟体73が舟支えにより支持されている。舟体73は、車両の幅方向に延びる細長い板状のものであり、例えば、耐食性アルミニウム合金で作製される。舟体73の上面には、架線と接触する摺板74が取り付けられている。摺板74も、車両の幅方向に延びる細長い板状のものであり、例えば、銅系又は鉄系の焼結合金で作製される。
【0003】
現在、新幹線の最高時速は300km/hに達し、さらなる高速化も検討されている。このような高速度域においては、パンタグラフの空力特性が集電性能に与える影響は非常に大きい。特に、架線との接触力に影響を与える揚力特性と、騒音に影響を与える空力音特性とは、パンタグラフの性能を左右する重要な特性である。しかし、この2つの特性は、一方の特性が改善されればもう一方の特性が劣化するという相矛盾する性格があり、両者を同時に改善することは困難な作業である。
【0004】
パンタグラフの構成部品のうち、揚力及び空力音のどちらにも寄与が大きい部材は舟体である。そのため、舟体形状の決定は設計段階において非常に重要である。一般に、舟体形状は、風洞実験等を繰り返して実験的に求められているが、多くのコストと時間を要し、問題となっている。
【0005】
そこで、本発明者らは、過大揚力の抑制と空力音低減を両立させた舟体の形状を数値的に求める手法を提案した(特許文献1参照)。この手法は、迎角変化や摺板摩耗に伴う形状変化に対して安定した揚力特性を有し、なおかつ空力音が小さい舟体形状を求めるためのものである。具体的には、まず、舟体形状の初期値を与え、CFD(Computational Fluid Dynamics)により舟体周りの流れ場を計算して舟体の空力性能を評価する。次に、空力性能を向上させるように舟体形状の修正を行い、再度流れ場を計算して空力性能を評価する。この作業を収束するまで行い、最終的な舟体形状を得る。つまり、舟体形状を設計変数、舟体の空力特性を目的関数とする最適化を行う。
【0006】
一般に、空力特性を目的関数とする流体力学的な最適化問題は多峰性を持つことが多い。そこで、設計変数の最適化手法として、Downhill Simplex法と焼き鈍し法とを組合わせた方法、もしくは進化的アルゴリズムを用いた。この方法は、最適解が局所解に陥らないように考案された手法であり、大局的な最適解を得ることが期待できる。
【0007】
一方、目的関数として、以下に述べるように舟体の空力特性を定義した。二次元非定常非圧縮ナビエ・ストークス方程式を風上差分を用いたMAC法(Maker and Cell method)により解き、これから得られた舟体揚力係数の時間変化によって、揚力特性と空力音特性とを同時に評価することとした。空力音は、物体に生じる変動空気力により、物体まわりの空気に微少な加速度運動が生じ、これが伝搬したものであるから、コンパクト近似が成り立つ二重極音源だけを考えれば揚力変動の小さい物体は空力音が小さいとみなせる。したがって、空力特性の評価と空力音測定の評価を、どちらも揚力波形を用いて行うことが可能である。
【0008】
しかしながら、この方法では、制約条件によっては良好な結果が得られるが、ある制約条件下では、評価結果と実験結果とで大きな差異を生じる場合がある。精度を向上させるには、計算量が多くなってしまう。
【0009】

【特許文献1】特許第3909314号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、実験的に求めた空力的諸量(揚力、空力音など)を用いて物体形状の最適化を実施することにより、必要とされる空力特性を具備した物体形状を得る方法や、空力特性評価実験用の形状可変模型を提供することを目的とする。なお、この模型を使用して、物体の空力特性を測定することも、当然のことながら有意義である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のベースとなる物体の空力特性測定方法は、 流体中の物体が流体から受ける作用に関する物理量を測定する方法において、 前記物体の断面形状を模した模型であって、そのプロフィルが可変な模型を流体中に設置し、該模型が流体から受ける作用に関連する物理量を測定することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、模型のプロフィル(断面形状)が可変であるので、物体のプロフィルが変わったときの流力的物理量(揚力、抗力、空力音など)を比較的簡単に測定することができる。
なお、物体のプロフィル(断面形状)とは、一定方向の流れの流体中に物体を置いたときの、その流体流れ方向に沿った断面形状を示す。また、プロフィル可変とは、物体断面の幾何学的形状を変えることをいい、互いに相似な形状に変化させることも含む。
【0013】
本発明においては、 前記模型が、前記物体の断面形状の外郭の主要な点、線又は面を規定する、二次元的に移動可能な複数のフレームと、 該複数のフレームに沿って巻かれて、前記模型の外形を形成する膜部材と、 該膜部材に張力を付与する手段と、を有することとすれば、フレームを二次元的に移動させることにより、模型のプロフィルを簡単に変化させることができる。また、膜部材に張力を付与する手段を備えているので、プロフィルを変化させて断面の周長が変わった場合にも、膜部材の張力を維持できる。さらに、風洞実験などにおいて膜部材が流体の力を受けても、膜部材を撓まないように維持できる。さらに、膜巻取り装置を備えることによって、膜部際の周長を変化させることが可能となる。
【0014】
本発明のベースとなる物体形状の最適化方法は、 流体中の物体の空力特性を向上する方法において、 前記物体の断面形状を模した模型であって、そのプロフィルが可変である模型を使用し、 一定の制約条件下における前記物体の断面形状の初期プロフィルを設定し、 前記模型のプロフィルを該初期プロフィルに対応するように設定し、 流体中に該模型を置いて、該模型が流体から受ける作用に関連する物理量を測定し、 その測定値を用いて目的関数を算出し、 該目的関数が最小又は最大となるまで、最適化手法により前記物体の断面形状のプロフィルを変更し、変更されたプロフィルに対応するように前記模型のプロフィルを変化させることを特徴とする。
【0015】
前記特許文献においては、流体中の物体が流体から受ける作用に関連する物理量を、流れ場のシミュレーションを実行することにより求めている。この方法では、制約条件によっては良好な結果が得られる半面、現在の計算機リソースでは十分に精度の良い計算結果が得られない場合も多い。また、精度の良い解を得られる場合でも非常に長い計算時間を必要とする。本発明では、模型を使用した実験(風洞実験など)で得られた物理量を用いて目的関数を評価しているので、より実用的な結果を得ることができる。なお、模型はプロフィルが可変であるので、最適化手法を適用して得られたプロフィルに対応するように、その都度プロフィルを変化させていけばよい。
なお、最適化手法としては、前記の特許文献に記載の方法(Downhill Simplex法と焼き鈍し法とを組合わせた方法や進化的アルゴリズム)などを適用できる。
【0016】
本発明においては、 前記測定する物理量を複数とし、前記目的関数としてこれら複数の物理量を含む関数を与えることにより、より実用的な最適化を行うことができる。
【0017】
本発明のベースとなる物体は、 流体中に置かれる物体であって、 該物体の断面形状が、以下の物体形状最適化方法により決定されたことを特徴とする物体; 流体中の物体の空力特性を向上するために断面形状を最適化する方法において、 前記物体の断面形状を模した模型であって、そのプロフィルが可変である模型を使用し、 一定の制約条件下における前記物体の断面形状の初期プロフィルを設定し、 前記模型のプロフィルを該初期プロフィルに対応するように設定し、 流体中に該模型を置いて、該模型が流体から受ける作用に関連する物理量を測定し、 その測定値を用いて目的関数を算出し、 該目的関数が最小又は最大となるまで、最適化手法により前記物体の断面形状のプロフィルを変更し、変更されたプロフィルに対応するように前記模型のプロフィルを変化させる。
【0018】
本発明のベースとなる風洞実験用模型は、 風洞実験に使用される模型であって、 前記物体の断面形状の外郭の主要な点、線又は面を規定する、二次元的に移動可能な複数のフレームと、 該複数のフレームに沿って巻かれて、前記模型の外形を形成する膜部材と、 該膜部材の張力を付与する手段と、を有することを特徴とする。
【0019】
この場合、フレームを二次元的に移動させることにより、模型のプロフィルを簡単に変化させることができる。また、膜部材に張力を付与する手段を備えているので、プロフィルを変化させて断面の周長が変わった場合にも、膜部材の張力を維持できる。さらに、風洞実験において膜部材が流体の力を受けても、膜部材を撓まないように維持できる。さらに、膜巻取り装置を備えることによって、膜部材の周長を変化させることが可能となる。
【0020】
本発明においては、 前記模型の全体姿勢を可変する機構をさらに備えることとすれば、模型の迎角を簡単に変化させることができる。
【0021】
本発明においては、 前記膜部材の両端が、風洞実験装置の両端板の外側に出ていることが好ましい。
この模型は、外形が膜部材で形成された内部が中空のものである。このため、膜部材の両端から内部へ流体が侵入しないように、膜部材の両端は風洞実験装置の両端板の外側に出ていることが好ましい。
【0022】
本発明においては、 前記フレームが、 前記物体の断面形状の外郭の主要な点を規定する、平面内を移動可能な基本部材と、 該基本部材に取り外し可能に取付けられる、前記断面形状の一部を形成する設定部材とを、有することとすれば、模型のプロフィルの角部の形状を様々な形状(面取り、丸み)に設計できる。
【0023】
本発明においては、 前記物体がパンタグラフの舟体であることとすれば、舟体のプロフィルを変化させた場合の、舟体の揚力変動や空力音などを簡単に計測できる。
【0024】
本発明のベースとなるパンタグラフ舟体の断面形状最適化方法は、 パンタグラフの舟体の空力特性を向上することを目的として行う断面形状の最適化方法であって、 前記舟体の断面形状を模した模型であって、そのプロフィルが可変である模型を使用し、 一定の制約条件下における前記舟体の断面形状の初期プロフィルを発生させ、 前記模型のプロフィルを該初期プロフィルに対応するように設定し、 流体中に該模型を置いて、該模型が流体から受ける作用に関連する物理量を測定し、 その測定値を用いた目的関数を評価し、 該評価値が最小又は最大となるまで、最適化手法により前記舟体のプロフィルを変更し、変更されたプロフィルに対応するように前記模型のプロフィルを変化させることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、例えば揚力変動と空力音とを最小化させるような目的関数を設定すれば、安定した揚力特性を有するとともに、空力音を小さくできる舟体の断面形状を得ることができる。
また、模型の、摺板に対応する部分のプロフィルを変化させると、摺板が摩耗した場合の空力特性をシミュレートできる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、模型を使用して実験的に求めた空力的諸量(揚力、空力音など)を最適化するので、目的関数の誤差が小さく、より適切な最適化を行うことができる。また、模型の形状を変えて行った実験結果に基づいて目的関数を評価しているので、CFDに基づいて目的関数を評価する方法に比べてより合理的な最適化を行うことができる。
したがって、物体、特にはパンタグラフの舟体の断面形状を、精度よく最適化できる方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本発明の実施の形態に係る風洞実験用模型について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る風洞実験用模型の全体の構造を説明する側面図である。
図2は、図1の模型の平面図である。
図3は、図1の模型のプロフィル可変時の断面形状の一例を示す横断面図である。
図4は、図1の模型のフレーム移動機構を説明する斜視図である。
図5は、図4のフレーム移動機構の一部を説明する図であり、図5(A)は横断面図、図5(B)は縦断面図である。
図6は、図1の模型のフレームの変形例の一部を拡大した横断面図である。
この例では、物体としてパンタグラフの舟体を例にとって説明する。
【符号の説明】
【0028】
模型1は、図1、図2や図4に示すように、複数(この例では4本)のフレーム10A、10B、10C、10Dと、複数のフレーム10に沿って巻かれて、模型の外形を形成する膜部材20と、膜部材20に張力を付与する手段などで構成され、場合によっては膜巻取り装置が設けられ、全体として中空の筒状のものである。
【0029】
フレーム10は、図2に示すように、平面視にて、舟体の断面形状の外郭の主要な角となる位置に互いに平行に配置されている。図2において、図の左右方向が舟体の前後(幅)方向であり、車両は図の左方向へ進行する(風は図の左から右方向へ流れる)。また、図の上下方向が舟体の高さ(厚さ)方向である。つまり、断面形状は、図3(A)に示すように、進行方向の前方に凸の台形状の四角形となる。フレームは、例えばステンレス製の丸棒やパイプで作製される。各フレーム10は、図4に示すフレーム移動機構30により二次元的に移動可能に支持されている。
【0030】
図4、図5を参照してフレーム移動機構を説明する。
フレーム移動機構30は、模型1の中心付近を、フレーム10の長さ方向に延びる中心軸31と、中心軸31から放射状に延びて、フレーム10A、10B、10C、10Dの両端を各々移動可能に支持するアーム32A、32B、32C、32Dと、各アームを中心軸31を中心に回転させるモータ33A、33B、33C、33Dとを有する。図4では、模型の下部のみを示すが、上部も同様の構造を有する。以下、下部の構造を説明する。
【0031】
アーム32は、1本のフレーム10の下端を支持するものであり、中心軸31の下端付近から放射状に延びるように設けられている。アーム32は、例えば、マグネット内蔵のリニアガイドである。フレーム10A、10B、10C、10Dの下端にはリニアモータを備えたスライダ35A、35B、35C、35Dが固定されており、同スライダ35がアーム32に移動可能に支持されている。つまり、スライダ35をアーム32上で移動させると、フレーム10の中心軸31からの距離が変わる。1本のフレーム10を支持する2個のスライダ35は、同方向に同速度で動くように制御される。
【0032】
モータ33は、例えばステッピングモータを使用でき、図5に示すように、中心軸31と同軸上に設けられたステータ33aと、同ステータ33aの周囲に配置されたロータ33bとを有する。ロータ33bには、各アーム32の基端が固定されている。モータ33が駆動されてロータ33bが回転すると、アーム32の中心軸31に対する角度が変わる。1本のフレーム10を支持する2本のアーム32が固定されたモータ33は、2本のアーム32が同方向に同速度で回転するように制御される。
なお、フレーム10は複数本であるため、フレーム毎に設けられたモータ33は、図4、図5(B)に示すように、中心軸31の両端付近に長さ方向に並んで配置されている(図には一部のみ図示)。
【0033】
以上説明したように、スライダ35をリニアガイド(アーム)32に沿って移動させること、及び、アーム32を中心軸31を中心にしてモータ33で回転させることにより、各フレーム10を二次元的に移動させることができる。各フレーム10の位置は座標上で管理されており、各フレーム10が適宜な位置に移動できるように、スライダ35の移動距離やモータ33の回転角度が制御される。例えば、摺板が摩耗した状態に模型のプロフィルを設定する場合は、図3(A)に示すように、フレーム10Dと10Cとを図の高さ方向(Y方向)に所定の分(摩耗量)だけ移動させるように、アーム32の回転角度やスライダ35の移動距離を設定して、模型1の高さ(厚さ)を変更する。なお、このようなフレーム10の移動に伴い膜部材20の周長が変化するが、この変化は後述する膜部材巻き取り装置で調整する。
【0034】
膜部材20は、例えば、ポリエチレン(膜厚0.07mm)などで作製された帯状のものであり、全フレーム10を囲むように巻かれている。図4に示すように、膜部材20の両端は、膜固定装置40を介して、中心軸31の軸上に配置された膜巻き取り装置に固定されている。膜固定装置40は、隣接する2本のフレーム10B、10Cの間に配置されており、膜部材20を両側から挟む2本の部材41a、41bで構成される。この膜固定装置40は、フレームが移動しても、常に前述の隣接する2本のフレーム10B、10Cを結ぶ直線上に位置するように移動可能となっている。つまり、この膜固定装置40も、フレーム移動機構と同様に、両端にスライダ35Eが固定され、同スライダ35Eがアーム32Eに移動可能に支持されている。アーム32Eは、中心軸と同軸上に配置されたモータ33Eにより、中心軸31周りに回転可能となっている。
【0035】
膜部材20の両端は膜固定装置40の2本の部材41a、41bで挟まれた後、中心軸31方向に延びて、膜巻き取り装置に巻き取られる。巻き取り装置は、例えば、中心軸31と同軸上に設けられて、膜部材20の両端が固定されたロータ43と、同ロータ43を回転させるモータ(図示されず)とから構成することができる。前述のように各フレーム10が移動すると、膜部材20の周長が変化する。すると、膜部材20が引っ張られたり撓んだりすることがあるので、膜巻き取り装置は、膜部材20が常にフレーム間に張力を持って張られるように周長を調整する。例えば、周長が長くなるようにフレーム10が移動すると、膜巻き取り装置は膜部材20を繰り出すように回転し、逆に、周長が短くなるようにフレーム10が移動すると、同装置は膜部材20を巻き取るように回転する。また、風洞実験中に膜部材20が撓まないように張力を与える。
【0036】
図1に示すように、中心軸31は、両端が各々支持プレート50に固定されている。各支持プレート50は、回転テーブル51に固定されている。回転テーブル51を回転させることにより、図3(B)に示すように、模型1の迎角を変化させることができる。また、各支持プレート50には力センサ52が取付けられており、同プレート50に係る力、すなわち、模型1に係る力を計測できる。
【0037】
図1の模型では、フレームとして断面形状が円形の棒状のものを用いたが、図5に示すように、フレーム10の外側(膜部材20が巻かれる側)に、形状再現用の副フレーム11を取り付けることが好ましい。副フレーム11は、図6(A)に示すように断面形状が鋭角のものや、図6(B)に示すような断面形状が半円形のものを使用できる。このような副フレーム11を設けることにより、模型のプロフィルの角部に様々な丸み(アール)を与えるように設計できる。
上記のほか、模型のプロフィルの角部に面取り形状を与えるため、副フレーム11として台形断面のものを用いることなどにより、可変する必要のない細かな形状を模型に与えることが可能である。
【0038】
なお、この例ではフレーム10は自動で移動可能であるが、手動で移動させるようにしてもよい。あるいは、両者を併用してもよい。
【0039】
以上に説明した模型1は中空のものであるが、舟体を含め実際の物体は中実のものが多い。このような中空模型と中実模型では空力特性が異なることも考えられるので、中空模型と中実模型との風洞実験による空力特性を比較した。
【0040】
図7は、中空模型と中実模型との空力特性を示すグラフである。縦軸は抗力係数、横軸は風速を表す。
グラフに示すように、風速が10m/sから40m/sにおいて、図の◇で示す中空模型と図の■で示す中実模型の両方の抗力係数は約1.2であり、両者の差は見られなかった。つまり、中空模型は中実模型とほぼ同じ空力特性を示すことが確認された。
【0041】
次に、この風洞実験用模型を使用して、舟体に望ましい空力特性を付与する目的で行う断面形状最適化方法を説明する。
図8は、本発明の実施の形態に係る物体に望ましい空力特性を付与するための断面形状最適化方法を説明するフローチャートである。
まず、最初に、ステップS1で、制約条件を設定する。制約条件は、例えば、舟体の強度等を考慮して必然的に決定される舟体の幅と最小厚さ等である。次に、この制約条件を踏まえて、ステップS2で模型1の初期プロフィルを決定し、前述の方法で模型1の各フレーム10を該プロフィルに対応するように移動させる。
【0042】
以下の例では、舟体の揚力変動及び空力音の低減をともに最小化する最適化について説明する。
その後、ステップS3で、後述する所定の設定条件に対応するように模型1のプロフィルを変化させて風洞実験を行い、力センサ52で、各設定条件における模型1に作用する揚力の時間変化を計測し、揚力係数を求める。風洞実験を実施する際には、図1に示すように模型1の両開口端(膜部材20の側縁)が、風洞実験装置Wの端板Eの外側となるように模型1を設置する。模型1は、外形が膜部材20で形成された内部が中空のものであるため、膜部材20の両側縁から内部へ流体が侵入すると、模型に作用する空気力を正確に評価することができない。そこで、膜部材20の両端を風洞実験装置Wの両端板Eの外側に位置させて、流体が内部へ侵入しないようにする。
なお、揚力の他に、空力音や圧力分布、流速分布などを計測することもできる。空力音を計測する場合は、模型から所定の距離の位置にマイクなどの集音装置を設置して音を計測する。
【0043】
設定条件とは、後述する目的関数の算出に必要とされる値を得るための条件であり、今回は、特許第3909314号と同様に以下のように規定する。
設定条件1:摺板;摩耗していない状態、迎角;+3度、
設定条件2:摺板;摩耗していない状態、迎角;-3度、
設定条件3:摺板;摩耗した状態(摩耗量6mm)、迎角;+3度、
設定条件4:摺板;摩耗した状態(摩耗量6mm)、迎角;-3度。
【0044】
摺板が摩耗した状態に模型のプロフィルを設定する場合は、図3(A)に示したように、模型の高さを摩耗量だけ低くするように、フレーム10B、10Cのアームを回転させるとともに、アーム上でスライドさせる。フレーム10の移動に伴う膜部材20の周長の変化は、膜部材巻き取り装置で調整する。
模型の迎角を調整する場合は、図3(B)に示したように、回転テーブル51を所定の角度だけ回転させる。
【0045】
次に、ステップS4で、上記の設定条件下で求められた揚力係数の値を用いて、その空力特性(揚力変動と空力音)を評価する。評価方法は、前述の特許文献1と同じ、以下の目的関数1(数1)、2(数2)を用いて行う。いずれの場合も、目的関数の最小化を目指す。
【0046】
【数1】
JP0005250250B2_000002t.gif
【0047】
【数2】
JP0005250250B2_000003t.gif
【0048】
上記の式において、a、bは係数、Clは揚力係数、newは摺板が摩耗していない状態、oldは摺板が摩耗している状態、aveは平均値、rmsは実効値、αは迎角(度)を示す。前述の設定条件下の風洞実験で得られた揚力係数を目的関数1(数1)、目的関数2(数2)に代入する。
【0049】
目的関数1は、上述の設定条件の全てのケースにおける揚力係数の最大値と最小値との差を表している。
目的関数2は、上述の設定条件の全てのケースのうちの、平均値が最大のものと平均値が最小のものとの差と、実効値が最大のものとの、それぞれに重み付けした和を示している。
【0050】
本実施の形態においては、迎角の変化に関する目的関数を最小化することにより、最適な形状を求めている。ここで、空力音は、物体から受ける力の変動により物体の周りの空気に生じた微妙な加速度運動の伝搬と考えられるため、周波数空間を無視すれば、揚力変動の小さい物体は空力音が小さいとみなせる。特に、「目的関数2」については、数2における係数「a」を乗じる部分を最小にすることが、揚力変動が最小化することに関連し、かつ、係数「b」を乗じる部分を最小にすることが、実効値が加速度運動を生じる原因と考えることができるため、騒音を最小にすることに関連する。
【0051】
次に、ステップS5で、目的関数が収束したかどうかを判定する。収束していないと判定されればステップS6に進んで最適化演算を行う。最適化演算とは、制約条件を満たすものの中で、目的関数を最小(あるいは最大)にするように変数の値を決定するものであり、ここでも、前述の特許文献と同様の、Downhill Simplex法と焼き鈍し法との組合わせを用いることができる。この方法については前述の特許第3909314号に述べられているので説明を省略する。
【0052】
ステップS6では、目的関数の値に基づいて、次に設定すべきプロフィル(二次プロフィル、各フレームの位置座標)を決定する。そして、ステップS7で、模型1のプロフィルが、設定された二次プロフィルに対応するように、各フレーム10を移動させる。そして、ステップに進んで、同様に風洞実験を行い、最適化を行う。これをステップで目的関数が収束するまで繰り返す。
【0053】
以上に説明した方法では、4本のフレーム10を有する模型を使用したが、フレーム10の本数は物体の形状によって適宜変更できる。また、最終的な物体の断面形状を得るには、フレームで設定した角部の位置を所定の関数で近似した形状とする。
また、この模型1は、単に空力特性(揚力や空力音など)を計測することにのみ使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態に係る風洞実験用模型の全体の構造を説明する側面図である。
【図2】図1の模型の平面図である。
【図3】図1の模型のプロフィル可変時の断面形状の一例を示す横断面図である。
【図4】図1の模型のフレーム移動機構を説明する斜視図である。
【図5】図4のフレーム移動機構の一部を説明する図であり、図5(A)は横断面図、図5(B)は縦断面図である。
【図6】図1の模型のフレームの変形例の一部を拡大した横断面図である。
【図7】中空模型と中実模型との空力特性を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態に係る物体に望ましい空力特性を付与するための断面形状最適化方法を説明するフローチャートである。
【図9】パンタグラフの形状の一例を示す斜視図である。
【0055】
1 模型 10 フレーム
20 膜部材
30 フレーム移動機構 31 中心軸
32 アーム 33 モータ
35 スライダ
40 膜固定装置 41 部材
43 ロータ
50 支持プレート 51 回転テーブル
52 力センサ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
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【図8】
7
【図9】
8