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明細書 :電動機制御装置及び再粘着制御方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4818244号 (P4818244)
公開番号 特開2009-124810 (P2009-124810A)
登録日 平成23年9月9日(2011.9.9)
発行日 平成23年11月16日(2011.11.16)
公開日 平成21年6月4日(2009.6.4)
発明の名称または考案の名称 電動機制御装置及び再粘着制御方法
国際特許分類 B60L   9/24        (2006.01)
FI B60L 9/24 C
請求項の数または発明の数 14
全頁数 21
出願番号 特願2007-293887 (P2007-293887)
出願日 平成19年11月13日(2007.11.13)
審査請求日 平成22年5月19日(2010.5.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】山下 道寛
【氏名】大江 晋太郎
【氏名】小笠 正道
個別代理人の代理人 【識別番号】100124682、【弁理士】、【氏名又は名称】黒田 泰
【識別番号】100104710、【弁理士】、【氏名又は名称】竹腰 昇
【識別番号】100090479、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 一
審査官 【審査官】竹下 晋司
参考文献・文献 特開2002-325307(JP,A)
特開平10-257611(JP,A)
特開平07-131907(JP,A)
特開平03-107306(JP,A)
調査した分野 B60L 1/00 - 15/42
特許請求の範囲 【請求項1】
軌道を走行する電気車の動輪を駆動する電動機を制御し、前記動輪の空転滑走の発生を検出して当該動輪の再粘着制御を行う電動機制御装置であって、
走行地点から軌道の曲線半径を取得可能な軌道情報から現在の走行地点に対応する曲線半径を取得する、或いは、現在の走行地点に対応する曲線半径を所定の曲線半径判定部から入力することで取得する曲線半径取得手段と、
1)前記動輪の周速度と前記電気車の進行速度とを判定対象値とする第1の速度差基準条件、及び/又は、2)前記動輪の周加速度を判定対象値とする第1の周加速度基準条件を少なくとも含む前記再粘着制御の発動条件を満足したことを検出する発動条件合致検出手段と、
前記発動条件合致検出手段の検出に応じて前記再粘着制御を発動させる再粘着制御発動手段と、
を備えるとともに、
前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径に基づいて、前記発動条件を可変する発動条件可変手段を更に備えた電動機制御装置。
【請求項2】
前記発動条件可変手段は、前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径が小さいほど、より空転滑走の進展を許容する条件内容に前記発動条件を変更する請求項1に記載の電動機制御装置。
【請求項3】
前記発動条件には、前記第1の速度差基準条件が少なくとも含まれ、
前記第1の速度差基準条件には、前記動輪の周速度と前記電気車の進行速度との速度差又はすべり率の閾値が条件として定められ、
前記発動条件可変手段は、前記閾値を大小させることで前記発動条件を可変する請求項1又は2に記載の電動機制御装置。
【請求項4】
前記発動条件可変手段は、前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径が小さいほど前記閾値を大きくする請求項3に記載の電動機制御装置。
【請求項5】
前記発動条件には、前記第1の周加速度基準条件が少なくとも含まれ、
前記第1の周加速度基準条件には、前記動輪の周加速度の閾値が条件として定められ、
前記発動条件可変手段は、前記周加速度の閾値を大小させることで前記発動条件を可変する請求項1~4の何れか一項に記載の電動機制御装置。
【請求項6】
前記発動条件可変手段は、前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径が小さいほど、前記周加速度の閾値を大きくする請求項5に記載の電動機制御装置。
【請求項7】
前記動輪の接線力係数相当値を検出する接線力係数相当値検出手段を更に備え、
前記発動条件可変手段は、更に、前記検出された接線力係数相当値に基づいて前記発動条件を可変する請求項1~6の何れか一項に記載の電動機制御装置。
【請求項8】
前記発動条件可変手段は、前記接線力係数相当値検出手段により検出された接線力係数相当値が、空転滑走が進展した場合に上昇する可能性のある値の範囲として予め定められた進展許容範囲内に有る場合に、当該進展許容範囲内に無い場合に比べて、空転滑走の進展を許容する条件内容に前記発動条件を変更するとともに、前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径が小さいほど、より空転滑走の進展を許容する条件内容に前記発動条件を変更する請求項7に記載の電動機制御装置。
【請求項9】
前記発動条件可変手段は、更に、前記電気車の進行速度に基づいて前記発動条件を可変する請求項1~8の何れか一項に記載の電動機制御装置。
【請求項10】
前記動輪の空転滑走の発生を検出する空転滑走検出手段と、
前記空転滑走検出手段による検出から所定時間が経過するまでに前記再粘着制御発動手段による前記再粘着制御の発動がなされていないことを検出する非発動検出手段と、
前記非発動検出手段の検出に応じて前記再粘着制御を強制的に発動させる強制発動手段と、
を更に備えた請求項1~9に記載の電動機制御装置。
【請求項11】
イ)前記動輪の周速度と前記電気車の進行速度とを判定対象値とする第2の速度差基準条件、及び/又は、ロ)前記動輪の周加速度を判定対象値とする第2の周加速度基準条件を少なくとも含む、前記再粘着制御発動手段により発動された再粘着制御の復帰動作を開始するための復帰条件を満足したことを検出する復帰条件合致検出手段と、
前記復帰条件合致検出手段の検出に応じて、前記再粘着制御発動手段により発動された再粘着制御の復帰動作を開始させる再粘着制御復帰手段と、
前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径に基づいて、前記復帰条件を可変する復帰条件可変手段と、
を更に備えた請求項1~10の何れか一項に記載の電動機制御装置。
【請求項12】
前記再粘着制御の制御パラメータであるトルク引き下げ速度を前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径に基づいて可変するトルク引き下げ速度可変手段を更に備えた請求項1~11の何れか一項に記載の電動機制御装置。
【請求項13】
前記再粘着制御の制御パラメータである復帰時間を前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径に基づいて可変する復帰時間可変手段を更に備えた請求項1~12の何れか一項に記載の電動機制御装置。
【請求項14】
軌道を走行する電気車の動輪を駆動する電動機を制御する際に、前記動輪の空転滑走の発生を検出して当該動輪の再粘着制御を行う再粘着制御方法であって、
走行地点から軌道の曲線半径を取得可能な軌道情報から現在の走行地点に対応する曲線半径を取得する曲線判定取得ステップと、
1)前記動輪の周速度と前記電気車の進行速度とを判定対象値とする第1の速度差基準条件、及び/又は、2)前記動輪の周加速度を判定対象値とする第1の周加速度基準条件を少なくとも含む前記再粘着制御の発動条件を満足したことを検出する発動条件合致検出ステップと、
前記発動条件合致検出ステップによる検出に応じて前記再粘着制御を発動する再粘着制御発動ステップと、
を含むとともに、
前記曲線半径取得ステップにより取得された曲線半径に基づいて、前記発動条件を可変する発動条件可変ステップを更に含む再粘着制御方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道を走行する電気車の動輪を駆動する電動機を制御し、前記動輪の空転滑走の発生を検出して当該動輪の再粘着制御を行う電動機制御装置及びその再粘着制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道を走行する電気車として電気機関車や電車等が知られているが、以下、その代表例として電車(動力車)について説明する。電車は車輪・レール間の接線力(粘着力ともいう。)によって加減速がなされる。電動機の発生トルクが接線力以下の範囲であれば粘着走行がなされるが、接線力を超えた場合には空転又は滑走(以下、「空転滑走」という。)が生じる。空転滑走が生じた場合には、電動機の発生トルクを引き下げて粘着走行に復帰させる制御、すなわち再粘着制御が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従って、有効な粘着性能を維持し空転滑走を生じさせないトルク制御、或いは空転滑走後の速やか且つ最適な再粘着トルク制御が要求される。

【特許文献1】特開2002-44804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の再粘着制御に関する開発・研究は、空転滑走の発生を速やかに検出する方法や、空転滑走の発生を検出した後の速やかなる再粘着制御の方法に関するものが殆どであった。すなわち、空転滑走が発生した場合には、速やかに再粘着制御を発動することが暗黙の前提となっていた。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、空転滑走の発生の検出と、再粘着制御の発動とを分離した新たな制御方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、
軌道を走行する電気車の動輪を駆動する電動機(例えば、図3の電動機10)を制御し、前記動輪の空転滑走の発生を検出して当該動輪の再粘着制御を行う電動機制御装置(例えば、図3の電動機制御装置40)であって、
走行地点から軌道の曲線半径を取得可能な軌道情報から現在の走行地点に対応する曲線半径を取得する、或いは、現在の走行地点に対応する曲線半径を所定の曲線半径判定部(例えば、図3の曲線半径判定部50)から入力することで取得する曲線半径取得手段と、
1)前記動輪の周速度と前記電気車の進行速度とを判定対象値とする第1の速度差基準条件(例えば、図7の速度差Vs2)、及び/又は、2)前記動輪の周加速度を判定対象値とする第1の周加速度基準条件(例えば、図7の加速度αs2)を少なくとも含む前記再粘着制御の発動条件を満足したことを検出する発動条件合致検出手段(例えば、図5の比較器4243,4244)と、
前記発動条件合致検出手段の検出に応じて前記再粘着制御を発動させる再粘着制御発動手段(例えば、図5の発動指令部424)と、
を備えるとともに、
前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径に基づいて、前記発動条件を可変する発動条件可変手段(例えば、図5のパラメータ切替設定器427)を更に備えた電動機制御装置である。
【0007】
他の発明として、
軌道を走行する電気車の動輪を駆動する電動機を制御する際に、前記動輪の空転滑走の発生を検出して当該動輪の再粘着制御を行う再粘着制御方法であって、
走行地点から軌道の曲線半径を取得可能な軌道情報から現在の走行地点に対応する曲線半径を取得する曲線判定取得ステップと、
1)前記動輪の周速度と前記電気車の進行速度とを判定対象値とする第1の速度差基準条件、及び/又は、2)前記動輪の周加速度を判定対象値とする第1の周加速度基準条件を少なくとも含む前記再粘着制御の発動条件を満足したことを検出する発動条件合致検出ステップと、
前記発動条件合致検出ステップによる検出に応じて前記再粘着制御を発動する再粘着制御発動ステップと、
を含むとともに、
前記曲線半径取得ステップにより取得された曲線半径に基づいて、前記発動条件を可変する発動条件可変ステップを更に含む再粘着制御方法を構成してもよい。
【0008】
この第1の発明等によれば、発動条件を満足したことが検出されると再粘着制御が発動されるが、その発動条件は、現在走行中の軌道の曲線半径に基づいて可変される。
再粘着制御は空転滑走時に発動される。空転滑走は、直線区間や曲線区間等に関わらず発生する。ところが、後述する通り、曲線区間における空転滑走を継続させ、進展させた場合には、接線力係数相当値が上昇し得る。しかして、第1の発明等によれば、現在走行中の軌道の曲線半径に基づいて再粘着制御の発動条件が可変されるため、空転滑走の継続が許容され、接線力係数相当値の上昇が促され、再粘着時の粘着力を大きくさせることが可能となる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明の電動機制御装置であって、
前記発動条件可変手段は、前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径が小さいほど、より空転滑走の進展を許容する条件内容に前記発動条件を変更する電動機制御装置である。
【0010】
この第2の発明によれば、取得された現在走行中の軌道の曲線半径が小さいほど、より空転滑走の進展を許容する内容の発動条件に変更されるため、曲線半径に応じた適確な接線力係数相当値の上昇促進による再粘着時の粘着力の向上が期待できる。
【0011】
なお、発動条件の可変の方法には種々の方法が考えられる。
例えば、第3の発明として、第1又は第2の発明の電動機制御装置であって、
前記発動条件には、前記第1の速度差基準条件が少なくとも含まれ、
前記第1の速度差基準条件には、前記動輪の周速度と前記電気車の進行速度との速度差又はすべり率の閾値が条件として定められ、
前記発動条件可変手段は、前記閾値を大小させることで前記発動条件を可変する電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0012】
この場合には、更に第4の発明として、
前記発動条件可変手段は、前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径が小さいほど前記閾値を大きくする電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0013】
また、第5の発明として、第1~第4の何れかの発明の電動機制御装置であって、
前記発動条件には、前記第1の周加速度基準条件が少なくとも含まれ、
前記第1の周加速度基準条件には、前記動輪の周加速度の閾値が条件として定められ、
前記発動条件可変手段は、前記周加速度の閾値を大小させることで前記発動条件を可変する電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0014】
この場合には、更に第6の発明として、
前記発動条件可変手段は、前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径が小さいほど、前記周加速度の閾値を大きくする電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0015】
第7の発明は、第1~第6の何れかの発明の電動機制御装置であって、
前記動輪の接線力係数相当値を検出する接線力係数相当値検出手段を更に備え、
前記発動条件可変手段は、更に、前記検出された接線力係数相当値に基づいて前記発動条件を可変する電動機制御装置である。
【0016】
ここで、接線力係数相当値とは、接線力係数そのものであることは勿論のこと、接線力や粘着力、電動機の電流値(例えば、トルク電流)等、接線力係数の変動と同様の変動を示す値(接線力係数とほぼリニアリティがある値)であって、接線力係数と等価又は略等価に扱える値のことである。
【0017】
空転滑走は、接線力係数相当値の高低に関わらず、比較的低い場合であっても発生する。空転滑走している動輪の接線力係数相当値が比較的低い場合に再粘着制御を行ってしまうと、再粘着制御によるトルク引き下げによって、再粘着時の接線力係数相当値は、その比較的低い接線力係数相当値より更に低い接線力係数相当値になってしまい、再粘着時の粘着力が小さくなってしまう。
【0018】
ところが、後述する通り、比較的低い接線力係数相当値での空転滑走を継続した場合には、接線力係数相当値が上昇し得る。しかして、第7の発明によれば、更に接線力係数相当値に基づいて再粘着制御の発動条件を可変するため、接線力係数相当値が低い場合に再粘着制御の発動のタイミングをより遅らせることが可能となる。これにより、空転滑走の継続を許容し、接線力係数相当値の上昇を促すことで、再粘着時の粘着力をより大きくさせることができる。
【0019】
第8の発明は、第7の発明の電動機制御装置であって、
前記発動条件可変手段は、前記接線力係数相当値検出手段により検出された接線力係数相当値が、空転滑走が進展した場合に上昇する可能性のある値の範囲として予め定められた進展許容範囲内に有る場合に、当該進展許容範囲内に無い場合に比べて、空転滑走の進展を許容する条件内容に前記発動条件を変更するとともに、前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径が小さいほど、より空転滑走の進展を許容する条件内容に前記発動条件を変更する電動機制御装置である。
【0020】
空転滑走が発生した際の接線力係数相当値が、空転滑走を継続した場合に上昇する可能性のある値の範囲として予め定められた継続許容範囲内で有る場合には、空転滑走の継続による接線力係数相当値の上昇の可能性が高い。従って、この第8の発明によれば、このような空転滑走の発生が検出された際の接線力係数相当値が継続許容範囲内である場合に、空転滑走の継続を許容することが可能となる。
【0021】
第9の発明は、第1~第8の何れかの発明の電動機制御装置であって、
前記発動条件可変手段は、更に、前記電気車の進行速度に基づいて前記発動条件を可変する電動機制御装置である。
【0022】
この第9の発明によれば、更に電気車の進行速度に基づいて発動条件が可変される。このため、電気車の進行速度と走行中の軌道の曲線半径との関係に応じた適切な発動条件の可変を実現することができる。
【0023】
第10の発明は、第1~第9の何れかの発明の電動機制御装置であって、
前記動輪の空転滑走の発生を検出する空転滑走検出手段と、
前記空転滑走検出手段による検出から所定時間が経過するまでに前記再粘着制御発動手段による前記再粘着制御の発動がなされていないことを検出する非発動検出手段と、
前記非発動検出手段の検出に応じて前記再粘着制御を強制的に発動させる強制発動手段と、
を更に備えた電動機制御装置である。
【0024】
空転滑走の検出から所定時間が経過するまでに再粘着制御の発動がなされない場合には、再粘着制御が強制的に発動される。継続的な空転滑走によるレールとの摩擦・摩耗によって車輪の寿命が短命化するおそれもある。しかし、この第10の発明によれば、空転滑走の発生の検出から所定時間が経過するまでに再粘着制御が発動されてない場合には、再粘着制御が強制的に発動されるため、空転滑走の過度の継続を防止することができる。
【0025】
また、上述した各発明の電動機制御装置においては、曲線半径に基づいて再粘着制御の発動を制御することとしたが、発動以外の制御を行うこととしてもよい。
【0026】
例えば、第11の発明として、第1~第10の何れかの発明の電動機制御装置であって、
イ)前記動輪の周速度と前記電気車の進行速度とを判定対象値とする第2の速度差基準条件(例えば、図7の速度差Vr)、及び/又は、ロ)前記動輪の周加速度を判定対象値とする第2の周加速度基準条件(例えば、図7の加速度αr)を少なくとも含む、前記再粘着制御発動手段により発動された再粘着制御の復帰動作を開始するための復帰条件を満足したことを検出する復帰条件合致検出手段(例えば、図5の比較器4251,4252)と、
前記復帰条件合致検出手段の検出に応じて、前記再粘着制御発動手段により発動された再粘着制御の復帰動作を開始させる再粘着制御復帰手段(例えば、図5の復帰指令部425)と、
前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径に基づいて、前記復帰条件を可変する復帰条件可変手段(例えば、図5のパラメータ切替設定器427)と、
を更に備えた電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0027】
この第11の発明によれば、復帰条件を満足したことが検出されると、発動された再粘着制御の復帰動作が開始される。つまり、現在走行中の軌道の曲線半径に基づいて、再粘着制御の発動の制御のみならず、再粘着制御の復帰動作の開始をも制御することができる。
【0028】
また、第12の発明として、第1~第11の何れかの発明の電動機制御装置であって、
前記再粘着制御の制御パラメータであるトルク引き下げ速度を前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径に基づいて可変するトルク引き下げ速度可変手段を更に備えた電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0029】
この第12の発明によれば、現在走行中の軌道の曲線半径に基づいて、再粘着制御の制御パラメータであるトルク引き下げ速度を可変することができる。
【0030】
また、第13の発明として、第1~第12の何れかの発明の電動機制御装置であって、
前記再粘着制御の制御パラメータである復帰時間を前記曲線半径取得手段により取得された曲線半径に基づいて可変する復帰時間可変手段を更に備えた電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0031】
この第13の発明によれば、現在走行中の軌道の曲線半径に基づいて、再粘着制御パラメータである復帰時間を可変することができる、
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、現在走行中の軌道の曲線半径に基づいて再粘着制御の発動条件が可変されるため、現在走行中の軌道の曲線半径に応じて空転滑走の継続が許容されて、接線力係数相当値の上昇が促されることとなり、再粘着時の粘着力を大きくさせることができるといった、空転滑走の発生の検出と、再粘着制御の発動とを分離した新たな再粘着制御の制御方法が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。尚、以下では、本発明を電気車の一種である電車に適用した場合を説明するが、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0034】
[原理]
電車では、電動機によって駆動される動輪の空転滑走の発生を検出すると、電動機のトルク(電流)を引き下げて当該動輪を軌道に再粘着させた後、トルクを復帰させる再粘着制御が行われる。上述のように、従来の再粘着制御では、空転滑走の発生を検出すると、直ぐに再粘着制御が発動(開始)される。
【0035】
これに対して、本実施形態では、空転滑走の発生を検出した場合に、必ずしも直ぐに再粘着制御を発動するのではなく、軌道条件、より詳細には曲線半径Cr(曲線半径を無限大とした場合が直線であり、本実施形態では直線も曲線の特殊な一例とし、曲線半径Crの対象としている。)に応じて、再粘着制御を発動するタイミングを可変する。すなわち、曲線半径Crに応じて、再粘着制御を発動するタイミングを遅らせてある程度の時間の空転滑走の進展を許容する制御パターンで再粘着制御を実行する。具体的には、曲線半径Crが比較的大きい場合には、早期に再粘着制御を発動させるべく、空転滑走の進展を許容しない発動条件とし、曲線半径Crが比較的小さい場合には、空転滑走の進展を許容する発動条件とする。
【0036】
図1は、曲線半径4000[m]の軌道上、新幹線電車を約310[km/h]で高速試験走行させた際のすべり速度-接線力係数特性の試験結果を示す図である。試験では、新幹線電車の台車の各軸のうち、試験対象の軸について、空転滑走の発生を検出した場合に直ぐに再粘着制御を発動させずに空転滑走を継続させた。図1は、空転滑走の発生中(継続中)におけるすべり速度に対する接線力係数μの特性を示す図である。接線力係数μは、車輪周速度及び電動機のトルク電流成分の測定値から、式(1),(2)を用いて算出した。また、図1には、当該軸について試験走行中に発生した多数の空転滑走のうちの2回分の空転滑走それぞれに対する特性のみを示している。
【0037】
接線力係数μは、式(1)により算出される。
【数1】
JP0004818244B2_000002t.gif
ここで、Fは車輪周引張力[N]、mは回転慣性質量[kg]、αは車輪周加速度[m/s]、Wは静止輪重[N]である。
また、車輪周引張力Fは、式(2)で与えられる。
【数2】
JP0004818244B2_000003t.gif
ここで、Gは歯車比、Rは車輪半径[m]、τは電動機の発生トルク[Nm]である。
【0038】
式(1),(2)において、歯車比G、車輪半径R、回転慣性質量m、及び静止輪重Wは、車両の仕様によって決まる既知の値である。また、車輪周加速度αは車輪周速度を微分することで求まり、発生トルクτは電動機のトルク電流成分Iqから求まる。従って、試験走行時の車輪加速度及びトルク電流成分Iqの測定値と、試験走行車両の諸元から接線力係数μが求まる。
【0039】
図1において、発生した空転滑走を継続させると、時間経過に伴ってすべり速度が徐々に増加して空転滑走が進展する。すべり速度の増加とともに、一時的に接線力係数μがそのまま推移、或いは低下するが、その後すべり速度の増加とともに接線力係数μが上昇する傾向を示している。簡明化のため図1では3回分の空転滑走の特性のみを示したが、実際には相当数の試験結果が得られ、この傾向が示された。つまり、曲線区間走行時において空転滑走が発生した場合には、空転滑走の進展を許容することで発生時よりも大きな粘着力が得られるといえる。
【0040】
このため、本実施形態では、走行中の軌道条件、より詳細には曲線半径Crに応じて再粘着制御の開始タイミングを可変する。すなわち、曲線半径Crの大きさに応じて再粘着制御の発動条件を可変し、曲線半径Crが小さい程、再粘着制御の発動タイミングをより遅らせることができるような発動条件に変更する。
【0041】
図2は、本実施形態の再粘着制御を説明するための図である。図2では、横軸を時間tとして、上側に制御対象の軸の周速度Vを基準速度(目標速度)Vmとともに示し、下側に当該対象軸を駆動する電動機の発生トルクτを示している。同図によれば、空転滑走が発生していない場合、周速度Vは基準速度Vmにほぼ一致し、電動機トルクτはほぼ一定に保たれている。空転滑走が発生すると、周速度Vが上昇して、基準速度Vmとの差分である速度差Vdが増加する。そして、時刻t1において、速度差Vdが予め定められた閾値Vs1に達すると、空転滑走の発生が検出される。続いて、速度差Vdが更に増加し、時刻t2において、予め定められた閾値Vs2に達すると、再粘着制御が発動される。但し、Vs1≦Vs2、である。
【0042】
再粘着制御が発動されると、電動機トルクτの引き下げが開始される。このとき、電動機トルクτの引き下げは、予め定められた引き下げ速度Wtで行われる。また、電動機トルクτの引き下げは、周速度Vの増加がゼロなった時点、すなわち周速度Vを微分して得られる加速度αがゼロとなる時点まで継続される。電動機トルクτの引き下げにより周速度Vが低下し、速度差Vdが予め定められた閾値Vr以下となった時刻t3において再粘着制御の復帰動作が開始される。すなわち、電動機トルクτの引き下げ量を減少させてトルクを復帰させる制御が開始される。そして、電動機トルクτが再粘着制御の開始時点(時刻t1)における値まで復帰した時刻t4において、再粘着制御の終了となる。このとき、電動機トルクτは、予め定められた復帰時間Ttをかけて復帰するように制御される。
【0043】
本実施形態では、再粘着制御の発動タイミングを決定する閾値Vs2、及び再粘着制御の復帰タイミングを決定する閾値Vrを、走行中の軌道の曲線半径Crに応じて可変する。具体的には、曲線半径Crが無限大(すなわち直線)に近い場合には、Vs1=Vs2として空転滑走の発生を検出すると、直ぐに再粘着制御を発動する。そして、曲線半径Crが小さくなるほど、Vs2をVs1よりも大きな値とし、再粘着制御の発動タイミングを遅らせる。
【0044】
更に、本実施形態では、走行中の軌道の曲線半径Crに応じて、再粘着制御の制御パラメータ(再粘着制御パラメータ)である発生トルクの引き下げ速度Wt及び復帰時間Tt等を可変する。
【0045】
[構成]
図3は、電車の主回路の回路ブロックのうち、本実施形態に関係する構成を概略的に示した図であり、一の駆動軸について示している。すなわち、電動機の制御は個別制御(いわゆる1C1M)として以下説明するが、本発明の適用可能な実施形態がこれに限られるものではない。例えば、動輪2軸の台車を2台車分一括して制御する1C4Mに適用することも可能である。図3によれば、本実施形態に関わる電車の主回路としては、電動機10と、速度センサ12と、インバータ20と、電流センサ30と、電動機制御装置40と、曲線半径判定部50とがあり、曲線半径判定部50により判定された曲線判定Crが電動機制御装置40に入力されるよう構成されている。
【0046】
電動機10は、インバータ20から電力が供給されることで車軸を回転駆動する主電動機(メインモータ)であり、例えば3相誘導電動機で実現される。速度センサ12は、電動機10の回転速度(周速度)Vを検出する。電流センサ30は、電動機10の入力端に設けられ、電動機10に流入するU相及びV相の電流Iu,Ivを検出する。インバータ20には、パンタグラフ及びコンバータを介して架線の電力が供給される。そして、ベクトル演算制御装置43から入力されるU相、V相及びW相それぞれの電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいて出力電圧を調整し、電動機10に給電する。
【0047】
電動機制御装置40は、電動機10をベクトル制御する。この電動機制御装置40は、CPUやROM、RAM等から構成されるコンピュータ等によって実現され、例えば制御ボードとして電動機の制御装置の一部として実装されたり、或いはインバータ20を含めて一体的にインバータ装置として構成される。また、電動機制御装置40は、再粘着制御装置42と、ベクトル演算制御装置43とを備えている。
【0048】
再粘着制御装置42は、曲線判定部50により判定された現在走行中の軌道の曲線半径Cr、速度センサ12により検出された周速度V、及び入力された基準速度Vmに基づき、電動機10の発生トルクを制御して再粘着制御を実行させるためのトルク引き下げ指令信号を生成する。ここで、基準速度Vmは電車の進行速度であり、例えば運転台から得られる速度信号や、T車の従軸の周速度から得ることとしてもよいし、車両内の各軸の周速度のうち、力行時であれば最小値、ブレーキ時であれば最大値等として決定してもよい。
【0049】
ベクトル演算制御装置43は、電流センサ30により検出されたIv,Iuをd-q座標変換することで得られるd軸成分である励磁電流成分Id及びq軸成分であるトルク電流成分(電動機トルク分電流)Iqや、速度センサ12により検出された周速度V、不図示の電流指令生成装置から入力される電流指令値Id,Iq、再粘着制御装置42から入力されるトルク引き下げ指令信号に基づいて、インバータ20に対する電圧指令値Vu,Vv,Vwを生成する。具体的には、トルク引き下げ指令信号が入力されない間は、電流指令値Id,Iq等に基づく通常の演算処理を行って電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出し、トルク引き下げ指令信号が入力されると、該信号に応じた分だけ電動機10の発生トルクを引き下げるように電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出する。ここで、電流指令値Id,Iq等に基づき電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出する演算処理は、公知の演算処理であるため、詳細な説明は省略する。また、速度センサ12を用いて車軸の回転速度を直接検出するのではなく、いわゆる速度センサレスベクトル制御で用いられる推定方法(例えば、誘導電動機の電機子電圧や電機子電流を基に回転速度を推定する方法)によって周速度Vを得ることとして、速度センサ12を不要としても良いことは勿論である。
【0050】
曲線半径判定部50は、例えば運伝台等に設置され、現在の走行位置から現在走行中の軌道条件を判定する装置でなる。具体的には、曲線半径判定部50は、図4に示すキロ程と当該キロ程における軌道の曲線半径とが対応づけられた軌道情報52を有する。キロ程等の地点情報の取得方法は公知であるが、例えばATS(Automatic Train Stop)システムの通信信号や所定の地上子から現在走行中のキロ程等の地点情報を得ることが可能である。曲線半径判定部50は、軌道情報52を参照することで現在走行中のキロ程から現在走行中の軌道の曲線半径Crを取得して、再粘着制御装置42に出力する。なお、曲線半径判定部50を電動機制御装置40に組み込んで電動機制御装置40を構成するとしてもよいのは勿論である。その場合には、現在走行中のキロ程等の地点情報を外部から入力して、電動機制御装置40内で曲線半径Crを算出することとなる。
【0051】
図5は、再粘着制御装置42の回路構成を示すブロック図である。同図によれば、再粘着制御装置42は、加算器421と、微分器422と、空転検出部423と、発動指令部424と、復帰指令部425と、パラメータ切替設定器427と、再粘着制御器428と、リセット信号生成器429とを有して構成される。
【0052】
加算器421は、周速度Vから、入力された基準速度Vmを減算演算して速度差Vdを算出する。微分器422は、入力された周速度Vを微分演算して加速度αを算出する。
【0053】
空転検出部423は、空転検出閾値テーブルTBL1を有しており、加算器421から入力された速度差Vdが、空転検出閾値テーブルTBL1に設定されている閾値Vs1を超えたか否かを比較判定し、超えたと判定すると空転滑走が発生したと判定して空転検出信号S1を出力する。また、微分器422から入力された加速度αが、空転検出閾値テーブルTBL1に設定されている閾値αs1を超えたか否かを比較判定し、超えたと判定した場合にも空転滑走が発生したと判定して空転検出信号S1を出力する。すなわち、空転検出部423は、速度差Vdが閾値Vs1を超えた場合、或いは加速度αが閾値αs1を超えた場合に、空転検出信号S1を出力する。
【0054】
図6に、空転検出閾値テーブルTBL1の一例を示す。図6によれば、空転検出閾値テーブルTBL1には、速度差Vsの空転検出閾値が「1」に、加速度αs1の空転検出閾値が「5」に設定されている。
【0055】
発動指令部424は、タイマ4241と、比較器4242,4243,4244と、ORゲート4245とを有し、制御対象の動輪に対する再粘着制御の発動を指示(指令)する。タイマ4241は、空転検出部423から空転検出信号S1が入力されたタイミングで計時をリセットして開始する。即ち、タイマ4241による計時時間Tは、空転が検出された時点からの経過時間である。比較器4242は、タイマ4241の計時時間Tが、設定されている閾値Tsを超えたか否かを比較判定し、超えたと判定すると判定信号を出力する。比較器4243は、加算器421から入力された速度差Vdが、設定されている閾値Vs2を超えたか否かを比較判定し、超えたと判定すると判定信号を出力する。比較器4244は、微分器422から入力された加速度αが、設定されている閾値αs2を超えたか否かを比較判定し、超えたと判定すると判定信号を出力する。
【0056】
ORゲート4245は、比較器4242,4243,4244それぞれから入力される判定信号の論理和を演算する。このORゲート4245からの出力信号が、発動指令信号S2となる。すなわち、比較器4242,4243,4244の少なくとも1つから判定信号が入力された場合、発動指令信号S2が出力される。つまり、発動指令部424は、速度差Vdが閾値Vs2を超えた場合、加速度αが閾値αs2を超えた場合、或いは空転滑走の検出からの経過時間が閾値Tsに達した場合に、再粘着制御の発動(開始)を指示する発動指令信号S2を出力する。ここで、「速度差Vdが閾値Vs2を超える、或いは加速度αが閾値αs2を超える」ことが、再粘着制御の発動条件である。また、「空転滑走の検出からの経過時間が閾値Tsに達する」ことが、再粘着制御を強制的に発動するための条件である。
【0057】
なお、発動指令信号S2は、発動指令保持部4246によって一時的に保持・出力される。すなわち、発動指令保持部4246には、ORゲート4245によって、比較器4242,4243,4244のうちの少なくとも一つから判定信号が出力されるとパルス状の発動指令信号S2が入力されるが、このパルス状の発動指令信号S2が一旦入力されると、パルスの信号レベルが元のレベルに戻った場合であっても信号レベルを保持し、オン信号として発動指令信号S2を保持・出力し続ける。そして、リセット信号生成器429からリセット信号が入力されると、保持している信号レベルをリセットして発動指令信号S2の出力を中止する。
【0058】
復帰指令部425は、比較器4251,4252と、ANDゲート4253とを有し、発動した再粘着制御の復帰動作を指示(指令)する。比較器4251は、加算器421から入力された速度差Vdが、設定されている閾値Vrを下回ったか否かを比較判定し、下回ったと判定すると判定信号を出力する。比較器4252は、微分器422から入力された加速度αが、設定されている閾値αrを下回ったか否かを比較判定し、下回ったと判定すると判定信号を出力する。
【0059】
ANDゲート4253は、比較器4251,4252それぞれから入力される判定信号の論理績を演算する。このANDゲート4253からの出力信号が、復帰指令信号S3となる。すなわち、比較器4251,4252の両方から判定信号が入力された場合、復帰指令信号S3が出力される。つまり、復帰指令部425は、加速度αが閾値αrを下回り、且つ速度差Vdが閾値Vrを下回った場合に、電動機10の発生トルクの復帰を指示する復帰指令信号S3を出力する。ここで、「加速度αが閾値αrを下回り、且つ速度差Vdが閾値Vrを下回る」ことが、再粘着制御の復帰動作を開始するための復帰条件である。
【0060】
なお、復帰指令信号S3は、復帰指令保持部4254によって一時的に保持・出力される。この保持・出力動作は発動指令保持部4246と同様である。すなわち、復帰指令保持部4254には、ANDゲート4253によって、比較器4251,4252の両方から判定信号が出力されるとパルス状の復帰指令信号S3が入力されるが、このパルス状の復帰指令信号S3が一旦入力されると、パルスの信号レベルが元のレベルに戻った場合であっても信号レベルを保持し、オン信号として復帰指令信号S3を保持・出力し続ける。そして、リセット信号生成器429からリセット信号が入力されると、保持している信号レベルをリセットして復帰指令信号S3の出力を中止する。
【0061】
再粘着制御器428は、発動指令部424から入力される発動指令信号S2、復帰指令部425から入力される復帰指令信号S3、及び設定されている再粘着制御パラメータに基づき、電動機10の発生トルクを制御して再粘着を実現するためのトルク引き下げ指令信号を生成して出力する。具体的には、発動指令部424から発動指令信号S2が入力されると、電動機10の発生トルクを、設定されているトルク引き下げ速度Wtで引き下げる(低下させる)ようにトルク引き下げ指令信号を生成し、空転滑走した車輪を軌道に再粘着させる。その後、復帰指令部425から復帰指令信号S3が入力されると、引き下げた発生トルクを設定されている復帰時間Ttで復帰させるようにトルク引き下げ指令信号を生成する。
【0062】
リセット信号生成器429は、再粘着制御器428から入力されるトルク引き下げ指令信号を基に、リセット信号を生成して出力する。具体的には、再粘着制御が終了した時点、すなわち、トルク引下げ量がゼロを示す指令信号(図2における再粘着制御の終了時点である時刻t4の状態)をもって、リセット信号を生成して出力する。
【0063】
パラメータ切替設定器427は、曲線半径判定部50から入力される曲線半径Crを基に、発動指令部424の比較器4242,4243,4244それぞれに設定される閾値Ts,Vs2,αs2(以下、「発動指令閾値」という)、復帰指令部425の比較器4251,4252それぞれに設定される閾値αr,Vr(以下、「復帰指令閾値」という)、及び再粘着制御器428に設定されるトルク引き下げ速度Wt及び復帰時間Tt(以下、「再粘着制御パラメータ」という)を切り替える。具体的には、パラメータテーブルTBL2に従って、入力された曲線半径Crに対応する発動指令閾値を算出して発動指令部424の比較器4242,4243,4244それぞれに設定するとともに、復帰指令閾値を算出して復帰指令部425の比較器4251,4252それぞれに設定し、再粘着制御パラメータそれぞれを算出して再粘着制御器428に設定する。
【0064】
すなわち、発動指令部424の比較器4242,4243,4244それぞれに設定されている発動指令閾値、復帰指令部425の比較器4251,4252それぞれに設定されている復帰指令閾値、及び再粘着制御器428に設定されている再粘着制御パラメータは、現在走行中の軌道の曲線半径Crに応じた値となっている。
【0065】
図7に、パラメータテーブルTBL2の一例を示す。パラメータテーブルTBL2には、発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータそれぞれの値が、曲線半径Crとして取り得る最大値(無限大。すなわち直線)~最小値までの各値に応じて設定されている。発動指令閾値は、発動指令部424の比較器4243に閾値として設定される速度差Vs2、比較器4244に閾値として設定される加速度αs2、及び比較器4242に閾値として設定される強制発動時間Tsである。また、復帰指令閾値は、復帰指令部425の比較器4251に閾値として設定される速度差Vr、及び比較器4252に閾値として設定される加速度αrである。また、再粘着制御パラメータは、電動機10の発生トルクτの引き下げ速度Wt及び復帰時間Ttである。
【0066】
パラメータテーブルTBL2によれば、曲線半径Crが取り得る最大値である無限大(直線)である場合には、発動指令閾値の速度差Vs2及び加速度αs2は、それぞれ空転検出閾値テーブルTBL1(図6参照)の速度差Vs1及び加速度αs1と同じ値である。このため、曲線半径Crが無限大である、すなわち直線区間を走行中は、空転滑走の発生が検出されると即時に再粘着制御が開始(発動)されることとなる。
なお、強制発動時間Tsも「0」に設定されているため、同様の作用効果を奏する。すなわち、空転検出部423によって空転滑走の発生の検出がなされた場合には、比較器4242が即時に判定信号を出力して、ORゲート4245から発動指令信号S2が出力されることとなり、即時に再粘着制御が開始されることとなる。
【0067】
また、曲線半径Crが取り得る最小値であるほど、発動指令閾値の速度差Vs2、加速度αs2及び強制発動時間Tsが漸次大きな値に設定される。この結果、現在走行中の軌道の曲線半径Crが小さいほど、空転滑走の発生の検出後の空転滑走の進展が一層許容されることとなる。空転滑走の進展が許容されることによって、接線力係数μの上昇が期待できる。
【0068】
なお、空転滑走の進展を許容するとはいえ、一定時間以上の空転滑走の継続は車輪やレールに大きな損耗を与えるため、空転滑走の発生の検出時点からの経過時間が強制発動時間Tsに達した場合には、再粘着制御が強制的に開始されることとなる。
【0069】
復帰指令においては、曲線半径Crが小さいほど、復帰指令閾値(図7では速度差Vrのみ設定されている)が大きな値に設定されている。復帰指令閾値が大きいほど、より早期にトルク復帰動作を開始させる作用効果を奏する(図2参照)。このため、曲線半径Crが小さいほど、早期にトルク復帰動作を開始させることが可能となる。
【0070】
また、曲線半径Crが小さいほど、トルク引下げ速度Wtが小さく、また復帰時間Ttが大きく設定されている。この結果、曲線半径Crが小さいほど電動機トルクτの引き下げ量の減少速度を低下させて徐々にトルクを復帰させる制御がなされる。
【0071】
図7のパラメータテーブルTBL2においては、曲線半径Crが取り得る最大値(無限大。すなわち直線)と最小値とについて具体的な数値を記載していないが、好適には、最大値については無限大とみなせる曲線半径の値及びその値以上という一定の範囲を曲線半径Crの最大値とし、最小値については急カーブとみなせる一定の曲線半径の値及びその値以下という一定の範囲を曲線半径Crの最小値とするとよい。
【0072】
また、図7には、曲線半径Crの最大値と最小値との間における発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータそれぞれの値が示されていないが、この間の値は、線形(連続的)に漸次変化する値が設定されればよく、例えば図8にその一例を示す。図8において(1)が速度差Vs2、(2)が加速度αs2、(3)が強制発動時間Ts、(4)が速度差Vr、(5)がトルク引き下げ速度Wt、(6)が復帰時間Ttを示す。何れも曲線半径Crが最大値付近及び最小値付近の一定範囲である場合には一定に設定され、最大値付近と最小値付近との間においては曲線半径Crに応じて比例して変化するように設定されている。
【0073】
[変形例]
尚、本発明の適用は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0074】
(A)更に走行速度に応じて発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータを可変する。
上述の実施形態では、発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータを、曲線半径Crに応じて可変することとして説明したが、さらに走行速度を加味して可変することとしてもよい。
【0075】
具体的には、図9に示すようにパラメータテーブルTBL2を、高速域、中速域、低速域といった速度域毎に設定しておき、パラメータ切替設定器427が基準速度Vmを入力して、基準速度Vmが含まれる速度域に対応するパラメータテーブルを選択し、その選択したパラメータテーブルを用いて発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータの各値を設定する。これにより、曲線区間を走行する際の速度をも加味したより適切な再粘着制御の実現を図ることができる。
【0076】
(B)更に接線力係数に応じて発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータを可変する。
上述の実施形態では、発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータを、曲線半径Crに応じて可変することとして説明したが、接線力係数及び曲線半径Crに基づいて可変することとしてもよい。
図10は、新幹線電車を約340[km/h]で高速試験走行させた際の試験結果を示す図である。試験では、新幹線電車の台車の各軸のうち、試験対象の軸について、空転滑走の発生を検出した場合に直ぐに再粘着制御を発動させずに空転滑走を継続させた。図10は、空転滑走の発生中(継続中)におけるすべり速度に対する接線力係数μの特性を示す図である。接線力係数μは、電動機のトルク電流成分の測定値から、式(1),(2)を用いて算出した。また、当該軸について、試験走行中に発生した多数の空転滑走のうちの7回分の空転滑走それぞれに対する特性(1)~(7)のみを示している。
【0077】
発生した空転滑走を継続させると、時間経過に伴ってすべり速度が徐々に増加する。大部分の空転滑走では、すべり速度の増加とともに、接線力係数μがそのまま推移、或いは低下する(図10の(1)~(6)が該当する)。しかし、空転滑走の発生時の接線力係数μが小さい場合には、すべり速度の増加とともに接線力係数μが上昇している(図10の(7)が該当する)。尚、図10では7回分の空転滑走の特性のみを示したが、実際には相当数の試験結果が得られ、この傾向が示されている。つまり、空転滑走の発生時の接線力係数μが比較的小さい場合には、空転滑走の継続を許容することで、発生時よりも大きな粘着力が得られるといえる。
【0078】
そこで、空転発生の検出時の接線力係数μを更に加味して再粘着制御の開始タイミングを可変する。すなわち、接線力係数μが比較的に大きい(具体的には、所定値を超える)場合には、早期に再粘着制御を発動し、接線力係数μが小さい(具体的には、所定値以下)場合には、再粘着制御の発動タイミングを遅らせ、空転滑走の継続を許容した後、再粘着制御を発動するような制御方法とする。
【0079】
具体的に説明する。図11は、本変形例における電車の主回路の回路ブロックを示す図である。図11において、図3の回路ブロックと同一の構成要素については同符号を付している。図3に示した主回路に比べて、電動機制御装置40A内にμ算出装置41が具備された点が異なる。μ算出装置41は、電流センサ30により検出された電流Iv,Iuや、速度センサ12により検出された周速度Vに基づき、式(1)に従って制御対象の動輪の接線力係数μを算出して再粘着制御装置42Aに出力する。なお、車軸の回転速度を直接検出するのではなく、いわゆる速度センサレスベクトル制御で用いられる推定方法(例えば、誘導電動機の電機子電圧や電機子電流を基に回転速度を推定する方法)によって周速度Vを得ることとして、速度センサ12を不要としても良いことは上述した実施形態と同様である。
【0080】
図12は、本変形例の再粘着制御装置42Aの回路構成を示すブロック図である。但し、図12において、図5の再粘着制御装置42と同一の構成要素については同符号を付している。図12によれば、再粘着制御装置42Aは、図5に示した再粘着制御装置42に保持回路426を加えた構成となっている。
【0081】
保持回路426は、入力される基準速度Vm及び接線力係数μを、空転検出部423から空転検出信号S1が入力されるタイミングで保持する。すなわち、保持回路426は、
最新(今回)の空転滑走が検出された時点での基準速度Vm及び接線力係数μを保持する。そして、保持している基準速度Vm及び接線力係数μをパラメータ切替設定器427Aに出力する。
【0082】
パラメータ切替設定器427Aは、保持回路426から入力される基準速度Vm及び接線力係数μを基に、発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータの基礎パラメータ値を切り替える。具体的には、先ず基準速度Vmを基に速度域を判断する。次いで、判断した速度域のパラメータ基礎テーブルTBL3に従って、接線力係数μに該当する発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータの基礎パラメータ値を決定する。また、曲線半径係数テーブルTBL4を参照して、曲線半径判定部50から入力された現在走行中の軌道の曲線半径Crに対応する発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータの係数を決定する。そして、決定した基礎パラメータ値に決定した係数を乗算することで、発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータの各値を決定・設定する。
【0083】
図13は、パラメータ切替設定器427Aが有するパラメータ基礎テーブルTBL3の一例を示す図である。パラメータ基礎テーブルTBL3は、「高速域」、「中速域」及び「低速域」の3種類の速度域毎に用意されている。図13(a)は、「高速域」のパラメータ基礎テーブルTBL3であり、図13(b)は、「中速域」のパラメータ基礎テーブルTBL3であり、図13(c)は、「低速域」のパラメータ基礎テーブルTBL3である。パラメータ基礎テーブルTBL3には、発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータそれぞれの基礎値が、接線力係数μ毎に設定されている。発動指令閾値の基礎値としては、比較器4243に閾値として設定される速度差Vs2の基礎速度差Svs2、比較器4244に閾値として設定される加速度αs2の基礎加速度Sαs2、及び比較器4242に閾値として設定される強制発動時間Tsの基礎強制発動時間STsがある。また、復帰指令閾値の基礎値としては、比較器4251に閾値として設定される速度差Vrの基礎速度差SVr、及び比較器4252に閾値として設定される加速度αrの基礎加速度Sαrがある。また、再粘着制御パラメータの基礎値としては、電動機10の発生トルクτeの引き下げ速度Wtの基礎引き下げ速度SWt、及び復帰時間Ttの基礎復帰時間STtがある。
【0084】
パラメータ基礎テーブルTBL3によれば、接線力係数μが0.1以上である場合には、何れの速度域においても基礎強制発動時間STsが「0」に設定されている。このため、空転検出部423によって空転滑走の発生の検出がなされた場合には、基礎強制発動時間Tsに乗算する強制発動時間係数KTsが何れの値になろうとも、比較器4242に設定される強制発動時間Tsは必ず「0」となる。この結果、比較器4242が即時に判定信号を出力して、ORゲート4245から発動指令信号S2が再粘着制御器428に出力され、即時に再粘着制御が開始されることとなる。
【0085】
一方、接線力係数μが0.1未満である場合には、基礎強制発動時間STsに「0」より大きい値が設定されているとともに、発動指令閾値の基礎値であると基礎速度差SVs2や基礎加速度Sαs2して、図6に示した空転検出閾値の速度差Vs1及び加速度αs1それぞれよりも大きい値が設定される。この結果、空転滑走の発生の検出がなされた際の接線力係数μの値が比較的小さい値であった場合には、曲線半径Crに応じて決定される係数にも依存するが、空転滑走の発生後直ぐに再粘着制御を開始するのではなく、空転滑走の進展が一時的に許容されることとなる。空転滑走の進展を許容することによって、接線力係数μの上昇が期待できる。
【0086】
また、空転滑走の発生時点での接線力係数μが低い程、空転滑走の継続に伴う上昇が期待できることから、空転滑走の発生時点での接線力係数μが小さいほど、発動指令閾値の基礎値が高い値に設定されている。また、速度域が高速である程、車輪の周速度や加速度の単位時間に対する変化量が大きくなることから、より高速な速度域ほど、発動指令閾値の基礎値が高い値に設定されている。
【0087】
復帰指令においては、接線力係数μが低いほど、復帰指令閾値の基礎値(図13では基礎速度差SVrのみ設定されている)が大きく、また、速度域が高速であるほど、大きな値に設定されている。復帰指令閾値が大きいほど、より早期にトルク復帰動作を開始させる作用効果を奏する(図2参照)。このため、曲線半径Crに応じて決定される係数にも依存するが、接線力係数μが低い、或いはより高速域であるほど、早期にトルク復帰動作を開始させることが可能となる。
【0088】
また、接線力係数μが0.1未満であるか否かによって、基礎トルク引下げ速度SWt及び基礎復帰時間STtが可変される。具体的には、接線力係数μが、空転滑走の継続による上昇が期待される値(0.1未満)である場合には、基礎トルク引下げ速度SWtが小さな値に、基礎復帰時間STtが大きな値に切り替えられる。
【0089】
図14は、パラメータ切替設定器427Aが有する曲線半径係数テーブルTBL4の一例を示す図である。曲線半径係数テーブルTBL4は、曲線半径判定部50によって判定された曲線半径Crに応じて、発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータのそれぞれの基礎値に乗算する係数が定められたテーブルである。なお発動指令閾値、復帰指令閾値及び再粘着制御パラメータの各値は、例えば、発動指令閾値の速度差Vs2であれば、基礎速度差SVs2と速度差係数Kvs2との乗算によって求められた値が設定される。
【0090】
図14によれば、各係数の値は、曲線半径が直線とみなせる最大値にあっては、何れも「1」である。また、曲線半径が小さくなる程、速度差係数KVs2、加速度係数Kαs2、強制発動時間係数KTs、速度差係数KVr、加速度係数Kαr、及び復帰時間係数KTtが徐々に高い値に設定され、トルク引き下げ速度係数KWtが徐々に低い値に設定されている。この結果、直線とみなせる軌道上を走行中は、接線力係数μに従って決定された基礎値に従った再粘着制御が行われ、曲線係数Crがより小さいほど、空転滑走の進展をより許容する再粘着制御がなされることが分かる。
【0091】
なお、本変形例において接線力係数μそのものを用いることとしたが、接線力係数の変動と同様の変動を示す値(接線力係数とほぼリニアリティがある値)であって、接線力係数μと等価又は略等価に扱える値であれば、代替して用いてよいことは勿論である。
【0092】
(C)電動機制御の形態
また、上述の実施形態では、1つの電動機制御装置40によって1つの電動機10を制御する、いわゆる1C1Mとしたが、他の制御方法、例えば1つの電動機制御装置によって4つの電動機を制御する1C4Mの場合であっても同様に適用可能である。
【0093】
(D)速度差の代わりにすべり率を利用する
また、上述の実施形態では、発動指令閾値や復帰指令閾値として速度差を用いたが、これをすべり率としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】試験結果の一例。
【図2】再粘着制御の説明図。
【図3】電車の主回路構成図。
【図4】軌道情報の一例。
【図5】再粘着制御装置の回路構成図。
【図6】空転検出閾値テーブルの一例。
【図7】パラメータテーブルの一例。
【図8】パラメータの設定の一例。
【図9】パラメータテーブルの他の例。
【図10】他の試験結果の例。
【図11】変形例における電車の主回路構成図。
【図12】変形例における再粘着制御装置の回路構成図。
【図13】変形例におけるパラメータ基礎テーブルの一例。
【図14】変形例における曲線半径係数テーブルの一例。
【符号の説明】
【0095】
10 主電動機
20 インバータ
40 電動機制御装置
42 再粘着制御装置
423 空転検出部
424 発動指令部
425 復帰指令部
428 再粘着制御器
429 リセット信号生成器
43 ベクトル演算制御装置
50 曲線半径判定部
S1 空転検出信号、S2 発動指令信号、S3 復帰指令信号
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13