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明細書 :車体の傾斜角度制御装置、車体の傾斜角度制御方法及び鉄道車両

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5032193号 (P5032193)
公開番号 特開2008-265692 (P2008-265692A)
登録日 平成24年7月6日(2012.7.6)
発行日 平成24年9月26日(2012.9.26)
公開日 平成20年11月6日(2008.11.6)
発明の名称または考案の名称 車体の傾斜角度制御装置、車体の傾斜角度制御方法及び鉄道車両
国際特許分類 B61F   5/22        (2006.01)
B61F   5/24        (2006.01)
FI B61F 5/22 F
B61F 5/24 A
B61F 5/24 Z
請求項の数または発明の数 5
全頁数 22
出願番号 特願2007-115074 (P2007-115074)
出願日 平成19年4月25日(2007.4.25)
審査請求日 平成21年7月22日(2009.7.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】神山 雅子
【氏名】佐々木 君章
【氏名】真木 康隆
【氏名】鴨下 庄吾
【氏名】辻野 昭道
個別代理人の代理人 【識別番号】100083839、【弁理士】、【氏名又は名称】石川 泰男
審査官 【審査官】小岩 智明
参考文献・文献 特開2004-291898(JP,A)
特開2004-286502(JP,A)
特開2001-255242(JP,A)
調査した分野 B61F 5/10, 5/22- 5/24
B60G 99/00
特許請求の範囲 【請求項1】
鉄道車両における車体の傾斜角度制御装置であって、
線路全体の形状に関するデータベースから未走行区間の線路の形状に関する未走行線路データを取得するデータ取得処理と、前記車体の傾斜角度の目標値を決定する演算処理とを行う演算処理部と、
前記演算処理によって決定された前記目標値に合わせて前記車体を傾斜させる動作部とを備え、
前記演算処理は、前記未走行区間の線路上を前記鉄道車両が走行する際の前記車体の乗り物酔いを含めた乗心地の評価指標を推定するための評価関数を、前記未走行区間の線路上における予定走行条件と前記未走行線路データとに基づき、前記車体の傾斜角度の目標値を変数として決定する関数決定処理と、前記評価指標の値が所定の範囲内に含まれるように前記目標値を決定する目標値決定処理とを有し、
前記評価関数は、下記の式(1a)または式(1b)であり、
【数1】
JP0005032193B2_000032t.gif
(ただし、t:時間、F(φ(t)):前記評価関数、α:係数、μ:係数で1以上の実数)
JT(t)は、上記評価関数が上記の式(1a)の場合には下記の式(2)であり、一方で上記評価関数が上記の式(1b)の場合には式(3)であり、
【数2】
JP0005032193B2_000033t.gif
【数3】
JP0005032193B2_000034t.gif
(ただし、a,b,c,d,e:係数、n:正の整数、μ:係数で1以上の実数)
p(t)、yj(t)、θp(t)、θj(t)はそれぞれ、下記式(4)~(7)であり、
【数4】
JP0005032193B2_000035t.gif
【数5】
JP0005032193B2_000036t.gif
【数6】
JP0005032193B2_000037t.gif
【数7】
JP0005032193B2_000038t.gif
(ただし、v:走行速度、R(t):線路の曲率半径、R’(t):曲率半径R(t)の時間変化率、C(t):線路のカント、C’(t):カントの時間変化率、C’’(t):カントの時間変化率の時間変化率、G:線路の軌間、φ(t):前記目標値、φ’(t):前記目標値の時間変化率、φ’’(t):前記目標値の時間変化率の時間変化率、g:重力加速度)
また、yf(t)は、下記の式(8)で表され、yp(t)に対して、0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するフィルタh(t)をかけたものであることを特徴とする車体の傾斜角度制御装置。
【数8】
JP0005032193B2_000039t.gif
(ただし、τ:時間)
【請求項2】
請求項1記載の車体の傾斜角度制御装置において、
前記データベースは、前記未走行線路データを離散的に記憶し、
前記演算処理部は、所定時間T0+T1内に前記鉄道車両が走行するべき区間の線路を前記未走行区間の線路として前記データ取得処理及び前記演算処理を所定時間T0ごとに行
い、複数回の前記演算処理のそれぞれにおいては、前記予定走行条件を一定として前記目標値の時間変化率φ’(i)と、前記目標値の時間変化率の時間変化率φ’’(i)とをそれぞれ下記の式(9)、式(10)として近似して用い、
【数9】
JP0005032193B2_000040t.gif
【数10】
JP0005032193B2_000041t.gif
(ただし、Δti=Δxi/v、Δxi:i-1番目の未走行線路データによって形状が示
される未走行線路の地点とi番目の未走行線路データによって形状が示される未走行線路の地点との間隔、i:正の整数)
前回の前記演算処理の結果に基づいて前記目標値を決定し、
前記動作部は、前記前回の演算処理と今回の前記演算処理とによって前記目標値が重複して決定される時間T1内のうち、少なくともこの時間T1の終了時点を含む所定時間T2
(T2≦T1)内においては、前記前回の演算処理による前記目標値に合わせて前記鉄道車両を傾斜させることを特徴とする車体の傾斜角度制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車体の傾斜角度制御装置において、
前記演算処理部は、前記未走行区間の線路上を前記鉄道車両が走行するよりも前に、前記目標値を決定することを特徴とする車体の傾斜角度制御装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の車体の傾斜角度制御装置によって車体の傾斜角度を制御することを特徴とする車体の傾斜角度制御方法。
【請求項5】
請求項1~3の何れか一項に記載の車体の傾斜角度制御装置を備えることを特徴とする鉄道車両。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両が線路の曲線部を走行する際の車体の傾斜角度を制御する車体の傾斜角度制御装置、車体の傾斜角度制御方法及び鉄道車両に関する。
【0002】
さらに詳しくは、乗り物酔いを考慮した車体の傾斜角度制御装置、車体の傾斜角度制御方法及び鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、振子式の鉄道車両は線路の曲線部を走行する際には乗り心地を悪化させないよう車体を曲線部の内側に傾斜させるようになっており、このような車体の傾斜方式としては自然振子方式と制御付き振子方式とが知られている。自然振子方式は遠心力によって車体を自然に振れさせるものであり、制御付き振子方式は走行速度や線路形状に応じて車体の傾斜角度を制御するものである。これらの方式のうち、制御付き振子方式としては、所定時間経過後に走行するべき未走行区間の線路の形状を予見して車体の傾斜角度の目標値を事前に決定し、この目標値に合わせて車体の傾斜角度を制御する予見制御方式が広く採用されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
このような予見制御方式の鉄道車両は、線路形状に関するデータベースを内部に備えており、未走行区間の線路形状に関する未走行線路データをデータベースから取得し、この未走行線路データに基づいて車体の傾斜角度を制御している。
【0005】
また、近年、乗客による主観的な乗り心地評価を推定するために種々の評価指標が提案されている。これらの評価指標は、乗り心地と相関の高い振動特性の測定結果に基づいて算出されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、これらの評価指標は振動特性の測定結果から乗り心地評価を推定するものであって乗り心地評価を予見可能とするものではないため、このような評価指標を用いて上記予見制御方式の鉄道車両における車体の傾斜角度の制御を行うことはできなかった。そのため、鉄道車両が線路の曲線部を走行した際に乗客が乗り心地の悪さを感じる場合が生じていた。
【0007】
そこで、本願発明者らは、乗り心地を確実に向上させるべく鋭意検討を行ない、乗客の乗り心地指標を基にした評価関数を見出し、当該評価関数を用いて車体の傾斜角度の制御を行うことを想到した(特許文献3)。

【特許文献1】特開昭61-108053号公報
【特許文献2】特開2001-255242号公報
【特許文献3】特開2004-291898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、鉄道車両において、よりよい顧客満足を提供するために種々の研究が行われており、本願発明者らの研究の結果、車体を積極的に振子運動させる振子車両においては、乗客の列車酔いが問題となっているケースがあることが分かった。
【0009】
つまり、前記特許文献3に記載の制御装置を採用した振子電車にあっては、顧客の乗り心地の評価指標を用いているため、乗り心地の改善は十分に図ることができる。しかしながら、その一方で、顧客の乗り心地の評価指標のみで制御した場合、車両がカーブに入る
前から徐々に車体を傾斜し始め、カーブが終了しても直ぐに水平に戻さずに徐々に車体の傾斜を戻すように制御されるため、乗り心地が良い反面、乗り物に酔いやすい顧客にとっては、車体が傾斜している時間が長く、その結果列車酔いをしてしまう可能性があった。
【0010】
本願発明は、このような状況下においてなされたものであり、前記特許文献3に記載の制御装置をさらに一歩進め、乗り心地に加えて列車酔いの発生を低く抑える車体の傾斜角度制御装置、車体の傾斜角度制御方法、およびこれらを用いた鉄道車両を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本願発明は、鉄道車両における車体の傾斜角度制御装置であって、線路全体の形状に関するデータベースから未走行区間の線路の形状に関する未走行線路データを取得するデータ取得処理と、前記車体の傾斜角度の目標値を決定する演算処理とを行う演算処理部と、前記演算処理によって決定された前記目標値に合わせて前記車体を傾斜させる動作部とを備え、前記演算処理は、前記未走行区間の線路上を前記鉄道車両が走行する際の前記車体の乗り物酔いを含めた乗心地の評価指標を推定するための評価関数を、前記未走行区間の線路上における予定走行条件と前記未走行線路データとに基づき、前記車体の傾斜角度の目標値を変数として決定する関数決定処理と、前記評価指標の値が所定の範囲内に含まれるように前記目標値を決定する目標値決定処理とを有することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、演算処理部は、単なる乗り心地のみならず、乗り物酔いを含めた乗心地の評価指標を推定するための評価関数を、車体の傾斜角度の目標値を変数に有する関数として決定するので、評価関数の値、つまり評価指標の推定値が所定の範囲内に含まれるように車体の傾斜角度の目標値を事前に決定することができる。従って、車体の傾斜角度を事前に制御する場合であっても、従来と異なり、実際に未走行区間の線路を鉄道車両が走行した際の乗り心地を確実に向上させることができるとともに、顧客乗り物酔いを防止することができる。なお、前記所定の範囲とは、一つの値のみからなるものであっても良い。
【0013】
前記発明においては、前記演算処理部は、前記未走行区間の線路上を前記鉄道車両が走行するよりも前に、前記目標値を決定してもよい。
【0014】
この発明によれば、未走行区間の線路上を鉄道車両が走行するよりも前に前記目標値が決定されるので、動作部は、車体が傾斜した状態となる時点を遅らせることなく、線路の形状の変化に合わせて確実に車体を傾斜させ、乗り心地を向上させるとともに乗り物酔いを効果的に防止することができる。
【0015】
前記発明において、前記評価関数は、下記の式(1a)または(1b)であり、
【0016】
【数11】
JP0005032193B2_000002t.gif

【0017】
(ただし、t:時間、F(φ(t)):前記評価関数、α:係数、μ:係数で1以上の実数)
JT(t)は、上記評価関数が上記の式(1a)の場合には下記の式(2)であり、一方で上記評価関数が上記の式(1b)の場合には式(3)であり、
【0018】
【数12】
JP0005032193B2_000003t.gif

【0019】
【数13】
JP0005032193B2_000004t.gif

【0020】
(ただし、a,b,c,d,e:係数、n:正の整数、μ:係数で1以上の実数
p(t)、yj(t)、θp(t)、θj(t)はそれぞれ、下記式(4)~(7)であり、
【0021】
【数14】
JP0005032193B2_000005t.gif

【0022】
【数15】
JP0005032193B2_000006t.gif

【0023】
【数16】
JP0005032193B2_000007t.gif

【0024】
【数17】
JP0005032193B2_000008t.gif

【0025】
(ただし、v:走行速度、R(t):線路の曲率半径、R’(t):曲率半径R(t)の時間変化率、C(t):線路のカント、C'(t):カントの時間変化率、C''(t):カントの時間変化率の時間変化率、G:線路の軌間、φ(t):前記目標値、φ'(t):前記目標値の時間変化率、φ''(t):前記目標値の時間変化率の時間変化率、g:重力加速度)
また、yf(t)は、下記の式(8)で表され、yp(t)に対して、0.3Hz以下
の入力を強調する特性を有するフィルタh(t)をかけたものであってもよい。
【0026】
【数18】
JP0005032193B2_000009t.gif

【0027】
(ただし、τ:時間)
ここで、未走行線路データ、具体的には未走行区間の線路のカントC(t)と、曲率半径R(t)と、軌間Gとはデータベースから事前に取得可能となっている。また、鉄道車両の予定走行速度v等の未走行区間の線路上での予定走行条件についても事前に取得可能となっている。更に、これら未走行線路データ及び予定走行条件に基づき、カントC(t)の時間変化率C’(t)と、時間変化率C’(t)の時間変化率C’’(t)と、曲率半径R(t)の時間変化率R’(t)等とについても事前に取得可能となっている。
【0028】
この発明によれば、評価関数F(t)における車体の左右加速度y(t)、左右加速度y(t)の時間変化率y(t)、車体のロール角速度θ(t)及び車体のロール角加速度θ(t)はそれぞれ未走行線路データと予定走行条件とからなる近似式から求められるので、乗り心地の評価指標の推定値を車体の傾斜角度の目標値に応じて事前に決定することができる。従って、評価指標の推定値が所定の範囲内に含まれるように車体の傾斜角度の目標値を事前に決定することができる。
【0029】
また、上記式(1)において、y(t)は、y(t)に対して、0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するフィルタをかけたものとなっているため、乗り物酔いの原因となる各種振動の中でも、最も乗り物酔いの原因となっている0.3Hz以下の左右振動に着目し、これを効果的に低減するような制御が可能となる。
【0030】
そして、上記(1)において、(1-α)およびαは、各項の重み付けをするための係数である。乗り心地に重きをおいて制御する場合にはαの値を小さくすればよく、逆に乗り物酔いに重きをおく場合には、αの値を大きくすればよい。
【0031】
また、上記式(2)、式(3)の何れを用いるかは任意に決定可能である。
【0032】
ここで、式(3)を用いる場合においては、nは任意の正の整数であり、有限の値である限りにおいて値の大きいものであるほど好ましい。式(3)を用いた場合、車体の左右加速度y(t)と、その時間変化率y(t)と、車体のロール角速度θ(t)と、車体のロール角加速度θ(t)とからなる振動特性のそれぞれを2n乗した和の値を時点tから時点tまでの時間内で積分することによって評価指標が計算されるので、振動特性のそれぞれの最大値を求める必要がない分、評価関数を決定する処理を簡略化することができる。従って、車体の傾斜角度の目標値をより早く決定することができる。
【0033】
前記発明においては、記データベースは、前記未走行線路データを離散的に記憶し、前記演算処理部は、所定時間T+T内に前記鉄道車両が走行するべき区間の線路を前記未走行区間の線路として前記データ取得処理及び前記演算処理を所定時間Tごとに行い、複数回の前記演算処理のそれぞれにおいては、前記予定走行条件を一定として前記目標値の時間変化率φ’(i)と、前記目標値の時間変化率の時間変化率φ’’(i)とをそれぞれ下記の式(9)、式(10)として近似して用い、
【0034】
【数19】
JP0005032193B2_000010t.gif

【0035】
【数20】
JP0005032193B2_000011t.gif

【0036】
(ただし、Δt=Δx/v、Δx:i-1番目の未走行線路データによって形状が示される未走行線路の地点とi番目の未走行線路データによって形状が示される未走行線路の地点との間隔、i:正の整数)
【0037】
前回の前記演算処理の結果に基づいて前記目標値を決定し、
前記動作部は、前記前回の演算処理と今回の前記演算処理とによって前記目標値が重複して決定される時間T内のうち、少なくともこの時間Tの終了時点を含む所定時間T(T≦T)内においては、前記前回の演算処理による前記目標値に合わせて前記鉄道車両を傾斜させてもよい。
【0038】
この発明によれば、評価関数には傾斜角度の目標値に関する1階差分と2階差分とが含まれ、各演算処理においては前回の演算処理の結果に基づいて目標値が決定されるため、前回の演算処理と今回の演算処理とによって目標値が重複して決定される時間T内においては、前回の演算処理による目標値と今回の演算処理による目標値とは、異なる値とならずに同一化されることとなる。従って、傾斜角度の目標値を全ての走行区間に渡って連続させることができるため、時間Tのうち少なくともこの時間Tの終了時点を含む所定時間T内において前回の演算処理による目標値に合わせて動作部に車体を傾斜させることにより、例えば複心曲線や反向曲線等の複雑な形状の曲線部を鉄道車両が走行する場合でも、車体の傾斜角度を連続して変化させ、乗り心地を向上させることができる。
【0039】
また、上記課題を解決するための本願発明は、車体の傾斜角度制御方法であって、前述した車体の傾斜角度制御装置によって車体の傾斜角度を制御することを特徴とする。
【0040】
この発明によれば、前述した車両の傾斜角度制御装置の発明と同様の効果を得ることができる。
【0041】
さらに、上記課題を解決するための本願発明は、鉄道車両であって、前述の車両の傾斜角度制御装置を備えることを特徴とする。
【0042】
この発明によれば、前述した車両の傾斜角度制御装置の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0043】
上述したように、本願発明によれば、単なる乗り心地のみならず、乗り物酔いを含めた乗心地の評価指標を推定するための評価関数を、車体の傾斜角度の目標値を変数に有する関数として決定するので、線路の形状の変化に合わせて確実に車体を傾斜させ、かつ乗り心地を向上させるとともに乗り物酔いを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明を適用した振子式の鉄道車両について図面を参照して説明する。
【0045】
〔第一の実施の形態〕
振子式の鉄道車両1は、図1に示すように、線路上を走行する台車2と、台車2によって支持された車体3とからなる。
【0046】
台車2は、複数の車輪20,…と、車輪20同士を連結した複数の車軸21,…と、これら車軸21,…によって支持された台車枠22と、振子梁23等とからなる。この振子梁23と台車枠22に設けられた振子装置24とによって車体3は傾斜可能となっており、台車枠22及び振子梁23には車体3を傾斜させる動作部25が連結されている。
【0047】
動作部25は、振子装置24に対して振子梁23を揺動させることによって、車体3を傾斜させることができるようになっている。このような動作部25としては、作動流体によるアクチュエータや電気モータによるアクチュエータ等が用いられている。
【0048】
この動作部25には傾斜角度制御装置26が接続されている。傾斜角度制御装置26は、線路全体の形状に関するデータベース27と、傾斜角度の目標値を決定する演算処理部28とを備えている。
【0049】
データベース27は、線路の全区間の形状に関するデータとして、線路のカントC(t)と、曲率半径R(t)と、軌間Gとを記憶している。なお、線路のカントC(t)とは、図2に示すように、左右のレールの高低差である。また、軌間Gとは、左右のレール間の長さである。
【0050】
演算処理部28は、データベース27及び動作部25と接続されている。この演算処理部28は、現時点tでの鉄道車両1の地点P及び走行速度vを検出可能となっている。また、演算処理部28は、未走行線路のカントC(t)と、曲率半径R(t)と、軌間Gとからなる未走行線路データη(t)をデータベース27から取得可能であるとともに、未走行線路上での予定走行条件β(t)、本実施の形態においては予定走行速度vを取得可能となっている。ここで、未走行線路とは、現時点t以降の時点tから所定時間T後の時点tまでの時間内に鉄道車両1が走行するべき未走行区間の線路である。
【0051】
また、演算処理部28は、取得した未走行線路データη(t)と予定走行速度vとから、カントC(t)の時間変化率C’(t)と、この時間変化率C’(t)の時間変化率C’’(t)と、曲率半径R(t)の時間変化率R’(t)とを算出可能となっている。
【0052】
また、演算処理部28は、未走行線路上を鉄道車両1が走行する際の車体3の乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数を、車体3の傾斜角度の目標値φ(t)を変数に有する関数F(φ(t))、具体的には式(1a)または式(1b)として決定することができるようになっている。
【0053】
【数21】
JP0005032193B2_000012t.gif

【0054】
ここで、前記式(1a)または式(1b)は、乗り心地に関する評価関数であるfJT(t)の項と、乗り物酔いに関する評価関数であるyf(t)の項とから構成されている。具体的には、車体3の傾斜角度の目標値φ(t)を変数に有する下記の式(11)として決定することができる。
【0055】
【数22】
JP0005032193B2_000013t.gif

【0056】
以下、それぞれの項に分けて説明する。
【0057】
先ずはじめに、fJT(t)の項について説明する。
【0058】
この関数は、車体3の傾斜角度の目標値φ(t)を変数に有する関数F((φ(t)),η(t),β(t))、具体的には式(12)として決定することができるようになっている。
【0059】
【数23】
JP0005032193B2_000014t.gif

【0060】
ここで、tは時間、a,b,c,d,eは係数である。また、y(t),y(t),θ(t),θ(t)は、以下の式で表される振動特性の近似値であり、具体的にはそれぞれ、図2に示すように、車体3の左右加速度[m/s]、左右加速度の時間変化率[m/s]、車体3のロール角速度[°/s]、車体3のロール角加速度[°/s]である。なお、車体3の左右加速度y(t)は、図2に示されるように、車体3が左右方向に並進振動する際の左右方向の加速度である。また、車体3のロール角速度θ(t)は、車体3が垂直面内で回転する際の角度θ(t)[°](図2参照)の時間変化率である。傾斜角度の目標値φ(t)[°]は、動作部25の作用により、台車枠22に対して振子梁23が回転する際の傾斜角(以下、振子傾斜角とする)の目標値である。
【0061】
【数24】
JP0005032193B2_000015t.gif

【0062】
【数25】
JP0005032193B2_000016t.gif

【0063】
【数26】
JP0005032193B2_000017t.gif

【0064】
【数27】
JP0005032193B2_000018t.gif

【0065】
ただし、gは重力加速度[m/s]である。
【0066】
この評価関数によれば、例えば上記特許文献2に開示のように係数a~eの値を設定することにより、乗客による乗り心地の評価を複数段階の尺度で推定することができる。具体的には、例えば評価関数の値が0~1,1~2,2~3,3~4の範囲内であれば、乗客による乗り心地の評価をそれぞれ「全く問題ない」、「やや気になる程度」、「不快であるが許容範囲内にある」、「不快であり許容できない」と推定することができる。
【0067】
次に、y(t)の項について説明する。
【0068】
このy(t)の項は、本願発明の特徴である「乗り物酔い」を防止するための関数であり、具体的には上記式(4)で表されるy(t)に対して、0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するフィルタをかけたものである。
【0069】
ここで、0.3Hz以下の入力を強調する理由は、当該周波数領域の左右振動が最も乗り物酔いの原因となると考えられるからである。
【0070】
図3は、低周波振動と乗り物酔い発生率(MR)との関係を示す図である。
【0071】
この図からも0.3Hz以下の左右振動が乗り物酔いの原因となることが分かる。
【0072】
ここで、本願発明においては、0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するフィルタについては限定することはなく、種々のフィルタを用いることができ、例えば図4に示す列車酔い評価用の左右振動補正フィルタを利用しても良い。ただし、曲線通過時に車両に対して左右方向へ定常的に作用する遠心力は図2の0.3Hz以下の直流成分に近い帯域の周波数に属し、この帯域の車体左右振動加速度信号を減衰させてしまうと、遠心力が考慮されなくなる。すなわち振子車両の本来の目的である定常的な左右振動加速度を打ち消すという本来の目的を達することができなくなる。これを解決するためには、例えば図5に示すような0.3Hz近辺をカットオフ周波数とするローパスフィルタを用いてもよい。
【0073】
前記図5に示すローパスフィルタをh(t)とすると、f(t)は以下の式(8)を挙げることができる。
【0074】
【数28】
JP0005032193B2_000019t.gif

【0075】
本願発明の評価関数F(φ(t))は、上記で説明した乗り心地に関する評価関数であるfJT(t)の項と、乗り物酔いに関する評価関数であるy(t)の項のそれぞれに、当該各項に対する重み付けをするための(1-α)、およびαを乗じた上で、各項を足し合わせることに構成されている。具体的には、前記式(11)として、次式(13)を用いている。
【0076】
【数29】
JP0005032193B2_000020t.gif

【0077】
当該重み付けをするために必要な係数αの値については0以上1以下の値であれば任意に設定可能である。αの値を小さくすれば、乗り心地に関数評価関数fJT(t)の項が車体の傾斜角度制御に大きく反映され、一方でαの値を大きくすれば、乗り物酔いに関する評価関数であるy(t)の項が車体の傾斜角度制御に大きく反映されることとなる。
【0078】
図6は、前記特許文献3の制御装置を用いた列車における緩和曲線内での左右振動加速度の発生傾向を示す図である。前記特許文献3の制御装置とはつまり、評価関数が乗り心地に関する評価関数であるfJT(t)のみで構成されている制御装置を指し、本願発明の評価関数で表せば、前記重み付けのための係数α=0とした場合を意味する。つまり、図6は、乗り物酔いに関し全く考慮していない制御をした場合の左右振動加速度の発生傾向を示している。
【0079】
図6からも分かるように、乗客の乗り心地のみを考慮して車体の傾斜角度を制御した場合、緩和曲線の入口側および出口側において左右振動加速度が発生しており、この加速度が乗り物酔いの原因となる可能性がある。本願発明は、乗り心地に関する評価関数に加え、乗り物酔いに関する評価関数を考慮することにより、例えば図6に示される左右振動加速度を低減することを目的としていると言える。
【0080】
ここで、演算処理部28は、次の式(14)に示すように、上記本願発明の評価関数F(φ(t))を一定区間で積分した評価指標を計算し、この値が所定の範囲内、例えば最小値となる場合における振子傾斜角の目標値φ(t)をφm(t)として決定することができるようになっている。
【0081】
【数30】
JP0005032193B2_000021t.gif

【0082】
なお、本実施の形態においては、上記式(14)として具体的には次の式(15)を用いている。
【0083】
【数31】
JP0005032193B2_000022t.gif

【0084】
また、振子傾斜角の目標値φm(t)が実現不可能な値となることを防ぐべく、φm(t)は、以下の条件式を満たすように決定されている。
g(φm(t))≦0
このようなg(φm(t))としては、例えばg(φm(t))=|φm(t)|-γ(γは実数)等を挙げることができる。この条件式によれば、振子傾斜角がγ[°]以上の実現不可能な角度になることを防ぐことができる。
【0085】
また、演算処理部28は、式(15)によって決定された目標値φm(t)と振子傾斜角とが等しくなるように、動作部25を制御することができるようになっている。なお、演算処理部28には、実際の振子傾斜角がフィードバックされるようになっている。
【0086】
次に、上記の傾斜角度制御装置26が振子傾斜角を制御する手順について説明する。
まず、図7に示すように、演算処理部28が現時点tでの鉄道車両1の地点Pを検出する。また、演算処理部28は、鉄道車両1が時点t,tにおいて到達する地点P,Pを、それぞれP=P+v×T、P=P+v×Tから計算する。なお時間Tは、演算処理部28における演算時間と動作部25における応答遅れ時間との合計時間よりも長くなっている。
【0087】
次に、演算処理部28は、地点Pから地点Pまでの間の未走行線路の形状に関する未走行線路データη(t)をデータベース27から取得するとともに、この未走行線路上における予定走行条件β(t)を取得する(データ取得処理)。なお、この場合における予定走行条件β(t)とは、現時点tにおける走行速度vである。
【0088】
次に、演算処理部28は、データ取得処理の結果に基づいて振子傾斜角の目標値φm(t)を決定する(演算処理)。なお、演算処理は、以下の関数決定処理と目標値決定処理とからなるものである。
【0089】
具体的には、まず、演算処理部28が未走行線路データη(t)と予定走行条件β(t)とを上記式(4)~(7)に代入し、各振動特性を振子傾斜角の目標値φ(t)の関数として決定する。次に、演算処理部28は車体3の左右加速度y(t)と、その時間変化率y(t)と、車体3のロール角速度θ(t)と、車体3のロール角加速度θ(t)とのそれぞれの推定式および式(12)、さらに前記左右加速度y(t)に0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するフィルタをかけて得られる乗り物酔いに関する関数y(t)の推定式を式(13)に代入し、評価関数Fを振子傾斜角の目標値φ(t)の関数として決定する(関数決定処理)。
【0090】
次に、演算処理部28は所定時間T内での評価関数Fの値を積分し、この値が最小値となる場合における振子傾斜角の目標値φ(t)を式(15)に基づきφm(t)として決定する(目標値決定処理)。
【0091】
以降、傾斜角度制御装置26が上記データ取得処理から演算処理までを時間Tごとに
繰り返すことにより、各時点での目標値φm(t)からなる目標値パターンが、図7に示すように決定される。なお、各関数決定処理における予定走行条件β(t)は、それぞれ一定の条件として設定されている。
【0092】
そして、決定された目標値φm(t)に合わせて動作部25が車体3を傾斜させる(傾斜処理)。なお動作部25を駆動させる信号は、鉄道車両1が地点Pに到達する時点tよりも時間Tだけ前から動作部25に入力されている。
【0093】
以上のような鉄道車両1によれば、乗り物酔いを含む乗り心地の評価指標を推定するための評価関数Fを、振子傾斜角の目標値φ(t)を変数に有する関数として決定するので、評価関数Fの積分値、つまり評価指標の推定値が所定の範囲内に含まれるように振子傾斜角の目標値φm(t)を事前に決定することができる。従って、振子傾斜角を事前に制御する場合であっても、従来と異なり、実際に未走行区間の線路を鉄道車両1が走行した際の乗り心地を確実に向上させることができるとともに、乗客の乗り物酔いの発生を効果的に防止することができる。
【0094】
また、未走行区間の線路上を鉄道車両1が走行するよりも前に振子傾斜角の目標値φm(t)が決定されるので、車体3が傾斜した状態となる時点を遅らせることなく、線路の形状の変化に合わせて確実に車体3を傾斜させ、乗り心地を向上させることができる。
【0095】
また、評価関数Fにおける車体3の左右加速度y(t)、左右加速度y(t)の時間変化率y(t)、車体3のロール角速度θ(t)及び車体3のロール角加速度θ(t)をそれぞれ未走行線路データη(t)と予定走行条件β(t)とからなる近似式として用いるので、乗り心地の評価指標の推定値を振子傾斜角の目標値φm(t)に応じて事前に決定することができる。従って、評価指標の推定値が所定の範囲内に含まれるように振子傾斜角の目標値φm(t)を事前に決定することができる。
【0096】
なお、上記第一の実施の形態においては、時間T内に鉄道車両1が走行するべき区間の線路を未走行区間の線路として演算処理を時間Tごとに行うこととして説明したが、これに限らず、例えば図8に示すように、時間T+T内に鉄道車両1が走行するべき区間の線路を未走行区間の線路として演算処理を所定時間Tごとに行うこととしても良い。なお、この場合には、前回の演算処理と今回の演算処理とによって目標値φm(t)が重複して決定される時間T内においては前回の演算処理による目標値φm(t)に合わせて車体3を傾斜させることが好ましい。
【0097】
〔第一の実施の形態の変形例〕
次に、上記第一の実施の形態の変形例について説明する。なお、上記第一の実施の形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0098】
本変形例における鉄道車両1Aは、振子傾斜角の目標値φm(t)を決定する際に上記式(13),(15)の代わりに次の式(16),(17)を用いる点において上記第一の実施の形態における鉄道車両1と異なる。
【0099】
【数32】
JP0005032193B2_000023t.gif

【0100】
【数33】
JP0005032193B2_000024t.gif

【0101】
ここで、nは正の整数であり、nの値は大きいものほど好ましい。また、μは係数であり、1以上の実数である。
【0102】
このような鉄道車両1Aによれば、車体3の左右加速度y(t)と、その時間変化率y(t)と、車体3のロール角速度θ(t)と、車体3のロール角加速度θ(t)とからなる振動特性のそれぞれを2n乗した和の値を時点tから時点tまでの時間内で積分することによって評価指標が計算される。従って、上記第一の実施の形態と異なり、振動特性のそれぞれの最大値を求める必要がない分、評価関数Fを決定する処理を簡略化することができる。従って、振子傾斜角の目標値をより早く決定することができる。
【0103】
〔第二の実施の形態〕
次に、本発明に係る鉄道車両の第二の実施の形態について説明する。なお、上記第一の実施の形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0104】
本第二の実施の形態における鉄道車両1Bは、上記傾斜角度制御装置26の代わりに傾斜角度制御装置26Bを備える点において上記第一の実施の形態における鉄道車両1と異なる。以下、この点について詳しく説明する。
【0105】
傾斜角度制御装置26Bは、データベース27Bと演算処理部28Bとを備えている。
【0106】
データベース27Bは、線路の形状に関するデータを離散的に記憶しており、より詳細には、予定走行速度vで時間T+T内に鉄道車両1Bが走行する距離[m]ごとの地点に対応する未走行線路データを順番に記憶している。
【0107】
演算処理部28Bは、振子傾斜角の目標値φm(t)を決定する際に上記式(13)の代わりに上記式(16)を、上記式(15)の代わりに次の式(18)を用いる点等において上記演算処理部28と異なっている。
【0108】
【数34】
JP0005032193B2_000025t.gif

【0109】
ただし、上記式(18)におけるf(i)は、h(i)を0.3Hz以下の信号を強調する(2n+1)次のFIRフィルタとすると、下記の式(19)で表される。
【0110】
【数35】
JP0005032193B2_000026t.gif

【0111】
(ただし、n:自然数)
なお、本第二の実施の形態においてはn=1とし、かつ前記関数gをφ(i)の線形関数とした場合には、式(16)は線形2次計画問題となるため、振子傾斜角の目標値φm(t)を容易に解くことができる。
【0112】
ここで、φ’(t),φ’’(t)はそれぞれ以下の式(20),(21)で近似されている。これにより、評価関数には振子傾斜角の目標値φm(t)に関する1階差分と2階差分とが含まれた状態となっている。
【0113】
【数36】
JP0005032193B2_000027t.gif

【0114】
【数37】
JP0005032193B2_000028t.gif

【0115】
但し、Δt=Δx/vであり、Δxは、i-1番目の未走行線路データによって形状が示される未走行線路の地点とi番目の未走行線路データによって形状が示される未走行線路の地点との間隔[m]である。また、iは正の整数である。
【0116】
また、R’(t),C’(t)及びC’’(t)は、それぞれ以下の式(22)~(24)で近似されている。
【0117】
【数38】
JP0005032193B2_000029t.gif

【0118】
【数39】
JP0005032193B2_000030t.gif

【0119】
【数40】
JP0005032193B2_000031t.gif

【0120】
次に、傾斜角度制御装置26Bが振子傾斜角を制御する手順について説明する。なお、本第2の実施の形態においては、鉄道車両1Bは、例えば図9(a),(b)に示すような形状の未走行線路上を走行するものとする。
【0121】
まず、演算処理部28Bは、時間T+T内に走行予定の未走行線路の形状に関する未走行線路データη(t)をデータベース27Bから取得するとともに、この未走行線路上における予定走行条件β(t)を取得する(データ取得処理)。なお、この場合における予定走行条件β(t)とは、現時点における走行速度である。また、本第2の実施の形態においては、時間Tは3[秒]、時間Tは1[秒]となっている。
【0122】
次に、演算処理部28Bは、データ取得処理の結果に基づいて振子傾斜角の目標値φm(t)を決定する(演算処理)。なお、この演算処理は、以下の関数決定処理と目標値決定処理とからなるものである。
【0123】
具体的には、まず、演算処理部28Bは未走行線路データη(t)と予定走行条件β(t)とを上記式(4)~(7)に代入し、各振動特性を振子傾斜角の目標値φ(t)の関数として決定する。このとき、φ’(t),φ’’(t),R’(t),C’(t)及びC’’(t)の値に関しては上記式(20)~(24)による近似値を用いる。
【0124】
次に、演算処理部28Bは車体3の左右加速度y(t)と、その時間変化率y(t)と、車体3のロール角速度θ(t)と、車体3のロール角加速度θ(t)とのそれぞれの推定式、および前記左右加速度y(t)に0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するフィルタをかけて得られる乗り物酔いに関する関数y(t)の推定式を式(16)に代入し、評価関数Fを振子傾斜角の目標値φ(t)の関数として決定する(関数決定処理)。
【0125】
次に、演算処理部28Bは所定時間T内での評価関数Fの値を積分し、この値が最小値となる場合における振子傾斜角の目標値φ(t)を式(17)に基づきφm(t)として決定する(目標値決定処理)。これにより、各時点での目標値φm(t)からなる目標値パターンが決定される。
【0126】
以降、図9(c)~(g)に示すように、傾斜角度制御装置26Bが上記データ取得処理から演算処理までを時間Tごとに繰り返し、前回の演算処理と今回の演算処理とによって時間T内で振子傾斜角の目標値φm(t)を重複して決定する。なお、各関数決定処理における予定走行条件β(t)は、それぞれ一定の条件として設定されている。ここで、傾斜角度制御装置26Bは複数回の演算処理のそれぞれにおいては前回の演算処理の結果に基づいて目標値を決定しており、かつ評価関数には振子傾斜角の目標値φm(t)に関する1階差分と2階差分とが含まれるため、目標値φm(t)が重複して決定される時間T内においては、前回の演算処理による目標値と今回の演算処理による目標値とは、異なる値とならずに同一化されることとなる。これにより、図10(a)に示すように、各時点での目標値φm(t)からなる目標値パターンが、全ての走行区間に渡って連続して決定されることとなる。
【0127】
そして、決定された目標値φm(t)に合わせて動作部25が車体3を傾斜させる(傾斜処理)。なお、目標値φm(t)が重複して決定される時間T1内においては、動作部25は前回の演算処理による目標値φm(t)に合わせて鉄道車両1Bを傾斜させる。
【0128】
以上のような鉄道車両1Bによれば、全ての走行区間に渡って目標値パターンが連続して決定されるので、前記時間T1内において、前回の演算処理による目標値φm(t)に合わせて動作部25に車体3を傾斜させることにより、例えば複心曲線や反向曲線等の複雑な形状の曲線部を鉄道車両1Bが走行する場合でも、振子傾斜角を連続して変化させ、図10(b)に示すように乗り心地を向上させることができる。なお、図10(b)は、図10(a)の目標値パターンの通りに車体3を傾斜させて鉄道車両1Bが走行する場合の乗り心地評価指標と、車体3を傾斜させずに鉄道車両1Bが走行する場合の乗り心地評価指標とを示す図である。

【0129】
また、上記式(18)で表される非線型最適化問題を解くことにより振子傾斜角の目標値φm(t)を決定することができる。従って、線路の形状に関するデータが連続せずに離散化されてデータベース27Bに記憶されている場合であっても鉄道車両1Bの乗り心地を確実に向上させることができる。
【0130】
なお、上記第一及び第二の実施の形態においては、台車2は図1に示すものとして説明したが、車体を傾斜させる機構があれば良く、例えばリンク式や空気ばね伸縮式などであっても良い。
【0131】
また、演算処理部28は、式(1)の値の積分値が最小値となるように振子傾斜角の目標値φm(t)を決定することとして説明したが、例えば0~1等、所定の範囲内に含まれるように決定することとしても良い。
【0132】
更に、評価関数Fとしては、他の評価関数を用いることとしても良い。
【0133】
図11は、本願発明の車体の傾斜角度の制御方法の手順をより分かりやすく説明するためのフロー図である。
【0134】
図示するように、本願発明の制御方法にあっては、未走行線路の曲率やカントのデータや走行速度情報に基づき曲率、カントの時間変化率を算出する。
【0135】
次いで、これらの算出結果から、左右加速度y(t)、左右加速度y(t)の時間変化率y(t)、車体のロール角速度θ(t)及び車体3のロール角加速度θ(t)をそれぞれ算出し、この値に基づいて乗り心地に関する評価関数fJTを算出するとともに、前記左右加速度y(t)に0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するフィルタをかけて得られる乗り物酔いに関する関数y(t)を算出する。
【0136】
次いで、乗り心地に関する評価関数fJTおよび乗り物酔いに関する関数y(t)に重み付けをする係数(1-α)およびαを掛け合わせて、これらを足し合わせることにより本願発明の評価関数であるF(φ(t))を求め、これが最小となるような目標値φm(t)を決定する。
【0137】
また、本願発明の制御方法においては、生成された目標値は、次回の目標値生成にあたり前回値として使用される。
【0138】
次に、本願発明の一実施例を示す。
【0139】
図12は、本願発明の制御方法を用いて算出した車両の傾斜角度の目標値を示す図である。
【0140】
具体的には、図12(a)はある線路の曲率を示す図であり、図12(b)は、当該線路のカントを示す図である。図12(c)(d)は、それぞれ、当該曲率およびカントを有する線路を車両が通過する際の車両の傾斜角度目標値を示すものである。
【0141】
図12(c)は、本願発明の評価関数を用い、かつ、乗り物酔いに関する関数y(t)の重み付け係数αを0.9に設定した場合の傾斜角度目標値を示している。また、比較のため、当該重み付け係数αが0の場合(つまり、乗り物酔いに関する関数を使わない制御により算出した場合)も併せて示している。
【0142】
同様に、図12(d)は、本願発明の制御方法(評価関数)を用い、かつ、乗り物酔いに関する関数y(t)の重み付け係数αを0.99に設定した場合の傾斜角度目標値を示している。また、比較のため、当該重み付け係数αが0の場合(つまり、乗り物酔いに関する関数を使わない制御により算出した場合=乗り心地に関する評価関数のみの場合)も併せて示している。
【0143】
これらの図からも明らかなように、本願発明の制御方法(評価関数)を用いると、曲率が0となると同時に、つまりカーブの入口と出口において、車体の傾斜角度がほぼ0になっており、従来の評価関数を用いた制御(乗り心地に関する評価関数のみの場合)に比べて、カーブの入口および出口付近での左右振動加速度の発生を防止していることが分かる。従って、従来に比べて乗り物酔いの発生を低減できるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】振子式の鉄道車両の主要部の構成を示す概略図である。
【図2】線路の形状、車体の傾斜角度及び鉄道車両の振動特性を説明するための図である。
【図3】低周波振動と乗り物酔い発生率(MR)との関係を示す図である。
【図4】列車酔い評価用の左右振動補正フィルタの一例を示す図である。
【図5】0.3Hz近辺をカットオフ周波数とするローパスフィルタの一例を示す図である。
【図6】特許文献3の制御装置を用いた列車における緩和曲線内での左右振動加速度の発生傾向を示す図である
【図7】走行線路データと走行条件から傾斜角度の目標値を決定することを説明するための図である。
【図8】重複して決定された傾斜角度の目標値を示す図である。
【図9】線路形状に合わせて傾斜角度の目標値パターンを形成する手順を示す図であり、(a)は線路の曲率を示す図であり、(b)は線路のカントを示す図であり、(c)~(g)は逐次決定される目標値パターンを示す図である。
【図10】(a)は決定された傾斜角度の目標値パターンを示す図であり、(b)は目標値パターンに合わせて車体を傾斜させた場合の乗り心地評価指標の推定値を示す図である。
【図11】本願発明の車体の傾斜目標角度の制御方法の手順を説明するためのフロー図である。
【図12】本願発明の制御方法を用いて算出した車両の傾斜角度の目標値を示す図である。具体的には、(a)はある線路の曲率を示す図であり、(b)は、当該線路のカントを示す図である。(c)、(d)は、それぞれ、当該曲率およびカントを有する線路を車両が通過する際の車両の傾斜角度目標値を示すものである。
【符号の説明】
【0145】
1,1A,1B…鉄道車両
3…車体
25…動作部
26,26B…傾斜角度制御装置
27,27B…データベース
28,28B…演算処理部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11