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明細書 :潤滑剤組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5068572号 (P5068572)
公開番号 特開2008-248080 (P2008-248080A)
登録日 平成24年8月24日(2012.8.24)
発行日 平成24年11月7日(2012.11.7)
公開日 平成20年10月16日(2008.10.16)
発明の名称または考案の名称 潤滑剤組成物
国際特許分類 C10M 173/00        (2006.01)
C10N  20/00        (2006.01)
C10N  30/00        (2006.01)
C10N  30/06        (2006.01)
C10N  40/00        (2006.01)
FI C10M 173/00
C10N 20:00 Z
C10N 30:00 Z
C10N 30:06
C10N 40:00 Z
請求項の数または発明の数 5
全頁数 11
出願番号 特願2007-091070 (P2007-091070)
出願日 平成19年3月30日(2007.3.30)
審査請求日 平成21年7月28日(2009.7.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】陳 樺
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100089037、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邊 隆
審査官 【審査官】品川 陽子
参考文献・文献 特開昭52-069410(JP,A)
特開昭53-139065(JP,A)
特開平06-299183(JP,A)
特開平07-150167(JP,A)
特開2008-111515(JP,A)
特開昭58-187494(JP,A)
特開昭64-031893(JP,A)
特表2001-501994(JP,A)
特開2005-225957(JP,A)
調査した分野 C10M 173/00
C10N 40/00
C10N 30/06
C10N 40/24
特許請求の範囲 【請求項1】
潤滑油基油と、界面活性剤と、潤滑油添加剤と、水を少なくとも含有し、A種1号(JIS K 2241)に相当するエマルションタイプの水溶性切削油剤を希釈した車輪/レールの鉄道部材用の潤滑剤組成物であって、
前記潤滑油基油は0.08~0.20質量%の範囲であり、前記界面活性剤は0.03~0.12質量%の範囲であり、前記潤滑油添加剤は0.016~0.083質量%の範囲であることを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
微小すべり領域において鉄道用部材間の摩擦を低減する性質を有し、巨視すべり領域においてすべり率の増加とともに前記鉄道用部材間の摩擦を大きくする性質を有することを特徴とする請求項1記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
すべり率が2%未満の領域においてトラクション係数が0.1以下であり、すべり率が2%以上20%以下の領域においてトラクション係数が0.1を超えて上昇することを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記潤滑油基油は0.08~0.12質量%の範囲であり、前記界面活性剤は0.03~0.07質量%の範囲であり、前記潤滑油添加剤は0.016~0.05質量%の範囲であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
極圧剤を含有することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪/レールなどの鉄道用部材に用いる潤滑剤組成物に関し、詳しくは、鉄道用部材の物理的な劣化・損傷を防ぐとともに、運転面での安全性の高い潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の急曲線通過時に、各台車の前軸で発生する横圧は、内軌波状摩耗、外軌側摩耗、車輪フランジ摩耗および軋み割れ、表層剥離といった損耗・損傷や、乗り上がり脱線、きしり音、曲線抵抗といった事象の発生因子となっている。横圧を如何に低減するかが車輪/レールなどの鉄道用部材の大きな課題である。
これまで、このような課題に対し、車両側としては操舵台車あるいは一輪台車の開発が進められ、軌道側としてはカントあるいはスラックの適正化が検討されてきた。
【0003】
近年、これらの問題を材料面から軽減できる方策として、車両踏面/レール走行面の潤滑が注目されている。
日本国内では、適用する摩擦調整剤(HPF)や摩擦緩和材などの固体潤滑剤が開発されており、実用化に向けて営業線における確認試験が行なわれている。これらの新しいタイプのレール走行面用潤滑剤の特徴としては、図2に示す通り、微小すべり領域では、摩擦係数が小さく(横圧減少、摩耗防止、きしり音抑制)、巨視すべり領域では、摩擦係数がすべり率増大に伴って大きくなる(滑走・空転防止)ことである。
例えば、特許文献1には、ナフテン系化合物とシリコーン油を含む潤滑剤組成物、及び合成トラクション油と固体潤滑剤とを含む潤滑剤組成物が記載されている。

【特許文献1】特開2006-188617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、固体潤滑剤は高価であるために、実用的に使いにくいという問題があった。また、一般的なグリース系潤滑剤では、巨視すべり領域における摩擦係数も小さく、車輪が大空転したり、大滑走したりするため安全面で問題がある。
さらに、このような潤滑剤では、外界から水分が加わると組成や機能が変化してしまうために、降雨などの影響が大きかった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、車両の横圧減少、摩耗防止、きしり音抑制の効果や、滑走・空転防止の効果が高く、また、降雨などによる外界からの影響を受けにくく、ランニングコストの良好な、鉄道用部材の潤滑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の潤滑剤組成物は、潤滑油基油と、界面活性剤と、潤滑油添加剤と、水を少なくとも含有し、A種1号(JIS K 2241)に相当するエマルションタイプの水溶性切削油剤を希釈した車輪/レールの鉄道部材用の潤滑剤組成物であって、前記潤滑油基油は0.08~0.20質量%の範囲であり、前記界面活性剤は0.03~0.12質量%の範囲であり、前記潤滑油添加剤は0.016~0.083質量%の範囲であることを特徴とする。
また、本発明の潤滑剤組成物は、微小すべり領域において鉄道用部材間の摩擦を低減する性質を有し、巨視すべり領域においてすべり率の増加とともに前記鉄道用部材間の摩擦を大きくする性質を有することとした。
また、すべり率が2%未満の領域においてトラクション係数が0.1以下であり、すべり率が2%以上20%以下の領域においてトラクション係数が0.1を超えて上昇することとした。
また、前記潤滑油基油は0.08~0.12質量%の範囲であり、前記界面活性剤は0.03~0.07質量%の範囲であり、前記潤滑油添加剤は0.016~0.05質量%の範囲であることとした。
また、本発明の潤滑剤組成物は、極圧剤を含有することとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明の潤滑剤組成物によれば、潤滑油基油と、界面活性剤と、潤滑油添加剤と、水を少なくとも含有することで、水溶性のエマルジョンタイプの潤滑剤組成物であるため、降雨などによって鉄道用部材に水分が付着しても潤滑剤成分が変性することなく機能を保持でき、固体潤滑剤のように固体が蓄積することがないため、繰り返し用いる際の利便性が高く、また、安価な原料を用いることができるのでランニングコストを下げることができる。
また、本発明の潤滑剤組成物は、微小すべり領域において鉄道用部材間の摩擦を低減する性質を有し、巨視すべり領域においてすべり率の増加とともに前記間の摩擦を大きくする性質を有することで、車両の横圧減少、摩耗防止、きしり音抑制の効果が高く、かつ滑走・空転防止の効果が高いため、鉄道用部材の物理的な劣化・損傷を防ぐとともに、運転面での安全性も高まる。
また、前記すべり率が2%未満の領域においてトラクション係数が0.1以下であり、前記すべり率が2%以上20%以下の領域においてトラクション係数が0.1を超えて上昇することで、微小すべり領域において鉄道用部材間の摩擦を低減し、巨視すべり領域において、すべり率の増加とともに鉄道用部材間の摩擦を大きくなり、より効果が高まる。
また、前記潤滑油基油は0.08~0.20質量%の範囲であり、前記界面活性剤は0.03~0.12質量%の範囲であり、前記潤滑油添加剤は0.016~0.083質量%の範囲であることで、微小領域における潤滑効果を有するのに十分であり、かつ巨視領域においては摩擦が大きくなるような成分濃度であるため、より効果が高まる。
また、前記潤滑油基油は0.08~0.12質量%の範囲であり、前記界面活性剤は0.03~0.07質量%の範囲であり、前記潤滑油添加剤は0.016~0.05質量%の範囲であることで、微小領域における潤滑効果を有するのに十分であり、かつ巨視領域における摩擦がより大きくなるため、更に本発明の効果が高まる。
また、本発明の潤滑剤組成物は、極圧剤を含有することで、摩擦金属表面と化学反応して被膜を形成し、摩擦面を調整することによって、摩耗や焼き付きを防止する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、詳しく説明する。
本発明の潤滑剤組成物は、潤滑油基油と界面活性剤と潤滑油添加剤と水を少なくとも含有する。潤滑油基油は0.08~0.20質量%の範囲、界面活性剤は0.03~0.12質量%の範囲、潤滑油添加剤は0.016~0.083質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、潤滑油基油は0.08~0.12質量%の範囲、界面活性剤は0.03~0.07質量%の範囲、潤滑油添加剤は0.016~0.05質量%の範囲である。さらに極圧剤を含有することができる。
また、本発明の潤滑剤組成物は、微小領域において、鉄道用部材間の摩擦を低減する性質を有し、巨視領域において、すべり率の増加とともに道用部材間の摩擦を大きくする性質を有することを特徴とする。
なお、上記の潤滑剤組成物を得るためには、潤滑油基油50~60質量%、界面活性剤20~35質量%、潤滑油添加剤10~25質量%を含有する水溶性切削油剤を300~600倍、より好ましくは500~600倍に希釈して使用することができる。その一例として、新日本石油株式会社製のユニソルブルEM-Hなど、硫黄系極圧剤を含有するA種1号(JIS K 2241)の相当するエマルションタイプの水溶性切削油剤を使用することができる。
【0009】
続いて、すべり率とトラクション特性について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る潤滑剤組成物が使用される鉄道用部材の状態を示す平面図である。
レール1は、車輪2を案内する鉄道用部材であり、車輪2を支持する頭頂面(頭部上面)1aと、この頭頂面1aと連続する内側頭頂面(内側頭部側面)1bとを備えている。車輪2は、レール1と回転接触する鉄道用部材であり、レール1の頭頂面1aと接触して摩擦抵抗を受ける踏面2aと、鉄道車両が急曲線を通過するときに外軌側のレール1の内側頭頂面1bと接触して摩擦抵抗を受けるフランジ面2bとを備えている。
内側頭頂面1b及びフランジ面2bには、図1に示すように、鉄道車両が急曲線を通過するときに、粘着力Pと横圧Qが垂直に作用する。その結果、内側頭頂面1b及びフランジ面2bは、激しく高面圧で滑り接触を起こすため摩耗の激しい場所となり、内側頭頂面1bの側摩耗とフランジ面2bのフランジ摩耗が進行し、頭頂面1aの波状摩耗が発生する。このような現象により、安全性や乗り心地が低下するとともに保守コストが増加する。
【0010】
図2は、固体潤滑剤とグリース系潤滑剤のトラクション特性を示す図である。
図2に示すトラクション特性は、トラクション係数とすべり率との関係を表す曲線(参考文献: 伴 巧 他、車輪/レール用潤滑剤の粘着特性評価、鉄道総研報告 2001年12月、第17頁~第20頁)であり、縦軸がトラクション係数であり横軸がすべり率である。
ここで、トラクション係数とは、レール1に作用する車輪円周の接線方向の力(図1に示す粘着力P)を車輪2からレール1に作用する垂直力で除した値(接線力係数)であり、ブレーキ力や駆動力の伝達の大きさを表す。接線力が最大値となる場合の係数を粘着係数という。
また、すべり率とは、周速度U1の回転体と周速度Uの回転体とが回転接触するときに、2つの回転体の周速度の差(U-U)の絶対値をいずれか一方の回転体の周速度U,Uで除した値、または2つの回転体の周速度の差の絶対値を2つの回転体の周速度の平均値(U+U/2)で除した値である。
【0011】
図2に示す曲線Iは、グリース系潤滑剤を使用したときのトラクション特性である。曲線Iでは、急曲線を通過しているときにはトラクション係数が小さくなり、図1に示すレール1と車輪2との間で発生する横圧Qを抑制できる。しかし、車両が加速又は減速してすべり率が大きくなると、トラクション係数がさらに小さくなり空転や滑走が発生してしまう。
曲線IIは、固体潤滑剤のトラクション特性であり、急曲線通過時に生ずるすべり率の範囲ではトラクション係数が小さくなり横圧Qの発生を抑制し、車両の加速又は減速によって空転又は滑走に至る巨視すべりが発生した場合には瞬時に高いトラクション係数に移行している。
【0012】
本発明の潤滑剤組成物は、曲線IIのようなトラクション特性を示すものであって、すべり率が2%未満の領域においてトラクション係数が0.1以下であり、すべり率が2%以上20%以下の領域においてトラクション係数が0.1を超えて上昇することを特徴とし、前述のように潤滑油基油と界面活性剤と潤滑油添加剤と水を含有する水溶性のエマルションタイプの潤滑剤組成物である。
【0013】
本発明における潤滑油基油は、特に限定されるものではなく、通常潤滑油の基油として使用されているものであれば鉱油系、合成系を問わず使用することができる。
鉱油系潤滑油基油としては、例えば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系などの油が使用できる。
また、合成系潤滑油基油としては、例えば、ポリα-オレフィン(ポリブテン、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマーなど)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ2-エチルヘキシルセパケートなど)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなど)、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテルなどが使用できる。これらの基油は単独でも、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0014】
本発明における界面活性剤は、特に限定されるものではなく、通常界面活性剤として使用されているものであれば、天然由来、合成を問わず使用することができる。例えば、乳化剤・可溶化剤、防錆剤、腐食抑制剤、防腐剤などが挙げられる。好ましくは、水溶性切削油A1種1号(JIS K 2241)に用いられる界面活性剤である。
【0015】
本発明における潤滑油添加剤は、公知の潤滑油添加剤を単独で、または数種類組み合わせた形で使用することができる。これらの添加剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、チアジアゾールなどの金属不活性化剤、メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレートなどの消泡剤などが挙げられる。これらの添加剤の添加量は任意であるが、本発明の潤滑剤組成物全量に対し微量でよい。
【0016】
以上説明した潤滑剤組成物は、車輪/レールなどの鉄道用部材に噴霧して用いることで、車両の横圧減少、摩耗防止、きしり音抑制の効果や、滑走・空転防止の効果を高めることができる。また、本発明の潤滑剤組成物は水溶性であるため、降雨などによる外界からの影響を受けにくく、ランニングコストを下げることができる。
【実施例】
【0017】
以下に、具体的な実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0018】
図1に示されるような車輪/レール間への適用を検討するために、試験機を用いてトラクション特性試験を行なった。
【0019】
<潤滑剤組成物>
潤滑剤組成物として、潤滑油基油と、界面活性剤と、潤滑油添加剤と、硫黄系極圧剤を含有するA種1号(JIS K 2241)の相当するエマルションタイプの水溶性切削油剤(商品名:ユニソルブルEM-H、販売元:新日本石油株式会社)を10~600倍に希釈して供試材となる組成物を作製した。
【0020】
<トラクション特性試験>
作製した供試材に対し、トラクション特性を2円筒転がり接触試験機を用いて評価した。2円筒転がり接触試験機は、種々の車輪/レール接触状態を模擬した試験機であり、車輪ディスク/レールディスク間に発生するトラクション(接線力)を高精度に測定することができる。車輪ディスクの大きさは直径300mm、レールディスクの大きさは直径170mmである。
2円筒転がり接触試験機は、材質が実物と同一である車輪ディスクとレールディスクとを所定の荷重を加えて加圧接触させた状態で車輪ディスクを回転させ、この車輪ディスクに作用するトルクをトルク計によって測定する。
試験条件は、周速度30km/h、荷重3.5kN(730MPa)で実験を行なった。
【0021】
実験はそれぞれの供試材につき4回連続で試行したが、希釈濃度400倍、600倍の供試材は4回連続×2回ずつ、500倍の供試材は4回連続×5回、7回連続×1回の試行で実験を行なった。結果を図3~図11に示す。供試材の希釈濃度は、各図の右上に示す。
なお、各試行の都度、供試材の噴射を行なったが、供試材を噴射していない試行については「噴射なし」と図中に示した。
【0022】
図3~図5に示されるように、希釈濃度が10~200倍の比較例においては、すべり率が2%以上の巨視すべり領域において、トラクション係数は上昇しなかった。そのため、すべり率が10%を超えた付近で測定を中止した。
しかし、図4~図10に示されるように、希釈濃度が400~600倍の実施例では、すべり率が2%未満の微小すべり領域において、トラクション係数がいずれも0.1以下であり、すべり率が2%以上20%以下の巨視すべり領域において、各連続試行の第1回目ではトラクション係数はいずれも0.1を超えて上昇した。
【0023】
なお、実施例において連続試行の回数を重ねると、巨視すべり領域におけるトラクション係数が低下する傾向があるが、希釈濃度500倍の実施例における図8の(a)に示す3回目の試行や、図9の(a)に示す5~7回目の試行、図9の(b)に示す2~4回目の試行のように、初回ではない試行の前に供試材の噴射を行なわないと、微小すべり領域においてトラクション係数が0.1を超えて大きくなりすぎ、微小すべり領域における潤滑効果がみられない。
【0024】
図11の(a)に示されるように、希釈濃度20~200倍の比較例と400、500倍の実施例を比較すると、500倍の実施例が最も理想的なトラクション特性を示し、400倍の実施例も効果的なトラクション特性を示すことがわかる。
また、図11の(b)に示されるように、希釈濃度400~600倍の実施例で比較すると、いずれも効果的なトラクション特性を示すことがわかり、500~600倍の実施例ではトラクション特性がより理想的な曲線に近いといえる。
【0025】
以上の結果から、潤滑油基油0.08~0.20質量%の範囲、界面活性剤0.03~0.12質量%の範囲、潤滑油添加剤0.016~0.083質量%の範囲である潤滑剤組成物を用いることで、すべり率が2%未満の領域においてトラクション係数が0.1以下であり、すべり率が2%以上20%以下の領域においてトラクション係数が0.1を超えて上昇することが示された。
そのため、本発明の潤滑剤組成物を用いることで、微小領域において鉄道用部材間の摩擦を低減し、巨視領域においてすべり率の増加とともに前記間の摩擦を大きくできるため、車両の横圧減少、摩耗防止、きしり音抑制の効果が高く、かつ滑走・空転防止の効果が高いため、鉄道用部材の物理的な劣化・損傷を防ぐとともに、運転面での安全性も高まる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の潤滑剤組成物を車両の車輪/レールなどの鉄道用部材に用いることで、車両の急曲線通過時に、各台車の前軸で発生する横圧を軽減することができ、内軌波状摩耗、外軌側摩耗、車輪フランジ摩耗および軋み割れ、表層剥離といった損耗・損傷や、乗り上がり脱線、きしり音、曲線抵抗といった事象を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る潤滑剤組成物が使用される鉄道用部材の状態を示す平面図である。
【図2】固体潤滑剤とグリース系潤滑剤のトラクション特性を示す図である。
【図3】比較例において、すべり率とトランクション係数の関係を示す図であり、(a)は希釈濃度10倍、(b)は希釈濃度20倍の比較例の結果を示す図である。
【図4】比較例において、すべり率とトランクション係数の関係を示す図であり、(a)は希釈濃度40倍、(b)は希釈濃度56倍の比較例の結果を示す図である。
【図5】比較例において、すべり率とトランクション係数の関係を示す図であり、(a)は希釈濃度100倍、(b)は希釈濃度200倍の比較例の結果を示す図である。
【図6】希釈濃度400倍の実施例において、すべり率とトランクション係数の関係を示す図であり、(a)第1回目の実験結果、(b)は第2回目の実験結果を示す図である。
【図7】希釈濃度500倍の実施例において、すべり率とトランクション係数の関係を示す図であり、(a)第1回目の実験結果、(b)は第2回目の実験結果を示す図である。
【図8】希釈濃度500倍の実施例において、すべり率とトランクション係数の関係を示す図であり、(a)第3回目の実験結果、(b)は第4回目の実験結果を示す図である。
【図9】希釈濃度500倍の実施例において、すべり率とトランクション係数の関係を示す図であり、(a)第5回目の実験結果、(b)は第6回目の実験結果を示す図である。
【図10】希釈濃度600倍の実施例において、すべり率とトランクション係数の関係を示す図であり、(a)第1回目の実験結果、(b)は第2回目の実験結果を示す図である。
【図11】実施例と比較例において、初回試行におけるすべり率とトランクション係数の関係を示す図であり、(a)は希釈濃度20~200倍の比較例、及び400、500倍の実施例の比較、(b)は希釈濃度400~600倍の実施例の比較を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1・・・レール(鉄道用部材)
1a・・・頭頂面
1b・・・内側頭頂面(接触面)
2・・・車輪(鉄道用部材)
2a・・・踏面
2b・・・フランジ面(被接触面)


図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10