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明細書 :鉄道車両防振装置及び方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4868911号 (P4868911)
公開番号 特開2007-269201 (P2007-269201A)
登録日 平成23年11月25日(2011.11.25)
発行日 平成24年2月1日(2012.2.1)
公開日 平成19年10月18日(2007.10.18)
発明の名称または考案の名称 鉄道車両防振装置及び方法
国際特許分類 B61F   5/12        (2006.01)
B61F   5/10        (2006.01)
B61F   5/24        (2006.01)
B61F   5/30        (2006.01)
FI B61F 5/12
B61F 5/10 D
B61F 5/24 F
B61F 5/24 A
B61F 5/30 C
請求項の数または発明の数 7
全頁数 12
出願番号 特願2006-098152 (P2006-098152)
出願日 平成18年3月31日(2006.3.31)
審査請求日 平成21年2月5日(2009.2.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】菅原 能生
【氏名】瀧上 唯夫
【氏名】小金井 玲子
個別代理人の代理人 【識別番号】100100413、【弁理士】、【氏名又は名称】渡部 温
審査官 【審査官】小岩 智明
参考文献・文献 特開平06-239230(JP,A)
特開平08-166035(JP,A)
特開平10-059179(JP,A)
特開2005-145312(JP,A)
特開2006-306276(JP,A)
調査した分野 B61F 5/10- 5/12, 5/22- 5/24, 5/30
B60G 99/00
特許請求の範囲 【請求項1】
車体、及び、該車体を支える台車を有する鉄道車両用の防振装置であって、
前記台車の上下動及び/又はロール動を減衰するダンパー並びに/又は、前記車体と前記台車間の左右動、上下動及び/又はロール動を減衰するダンパーと、
前記車体及び/又は前記台車の左右動、上下動及び/又はロール動を検出する車両動揺検出手段と、
前記車両動揺検出手段の検出結果に基づき、車両の乗り心地を向上すべく、前記ダンパーの減衰力を制御して前記車体及び/又は前記台車の振動を抑制する乗り心地優先モード制御器と、
前記車両動揺検出手段の検出結果に基づき、車両の脱線を防止すべく、前記ダンパーの減衰力を制御して前記車体及び/又は前記台車の振動を抑制する地震時モード制御器と、
地震の発生を検知する地震検知手段と、
該地震検知手段が地震の発生を検知したときに、前記ダンパーの減衰制御器を、乗り心地優先モード制御器から地震時モード制御器へと切り替える制御器切替手段と、
を備えることを特徴とする鉄道車両防振装置。
【請求項2】
前記台車及び/又は前記車体と前記台車間の上下動及び又はロール動を減衰するダンパーとして、油圧式可変減衰軸ダンパーを用いたことを特徴とする請求項1記載の鉄道車両防振装置。
【請求項3】
前記車体と前記台車間の左右動及び又はロール動を減衰するダンパーとして、油圧式可変減衰左右動ダンパーを用いたことを特徴とする請求項1又は2記載の鉄道車両防振装置。
【請求項4】
前記車体と前記台車間の上下動及び又はロール動を減衰するダンパーとして、空気ばねと、その補助空気室と、この両者間に設けられて流量特性を変化させることが出来る絞り制御弁を用いたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の鉄道車両防振装置。
【請求項5】
前記乗り心地優先モード制御器として、乗り心地レベル(LT)値低減に適した制御器を用いたことを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の鉄道車両防振装置。
【請求項6】
前記地震時モード制御器として、前記車体及び/又は前記台車の剛体モード振動の固有振動低減に適した制御器を用いたことを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の鉄道車両防振装置。
【請求項7】
車体、及び、該車体を支える台車を有し、
前記台車の上下動及び/又はロール動を減衰するダンパー並びに/又は、前記車体と前記台車間の左右動、上下動及び/又はロール動を減衰するダンパーと、
前記車体及び/又は前記台車の左右動、上下動及び/又はロール動に基づき、車両の乗り心地を向上すべく、前記ダンパーの減衰力を制御して前記車体及び/又は前記台車の振動を抑制する乗り心地優先モード制御器と、
前記車体及び/又は前記台車の左右動、上下動及び/又はロール動に基づき、車両の脱線を防止すべく、前記ダンパーの減衰力を制御して前記車体及び/又は前記台車の振動を抑制する地震時モード制御器が取り付けられた鉄道車両用の防振方法であって、
地震の発生を検知したときに、前記ダンパーの減衰制御器を、前記乗り心地優先モード制御器から前記地震時モード制御器へと切り替えることを特徴とする鉄道車両防振方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生時に車両脱線等の起こる可能性を低くでき、かつ通常時には車両の乗り心地を向上させることができる鉄道車両防振装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の運行安全性を確保するためには、地震等の運行障害の発生を素早く検知し、列車を安全に制動することが極めて重要である。従来より、地震の発生を速やかに検知し、その危険性を判定して警報を発するシステムとして、例えば特許文献1(特公昭60-14315号公報)に開示された『地震早期検知警報システム』等が知られている。このシステムにおいては、複数の地震検知点の各々に端末装置を配置するとともに、各端末装置のそれぞれを通信線路で中央装置に接続する。各端末装置は、センサ、送信装置を備えている。中央装置は、受信装置、制御処理装置、時刻装置を備えている。中央装置には、各端末装置のセンサで検知された地震情報が通信線路を介して集められる。中央装置の制御処理装置は、センサで検知した地震波初動の振幅値やその周期等に基づいて、数秒以内に地震の危険性を判定する。
【0003】
ここで、センサで検知した地震が多少なりとも危険性有りと判定される場合には、1秒程度の短時間の間にとりあえず制御処理装置に危険信号を送出しておき、その後に地震の実体波の観測により危険性無しと判定された場合には、一旦送出した危険信号を取り消す。そして、ある一定時点までの検知データだけでは地震の危険性が断定できない場合には、その時点後に1分間程度継続して地動の観測を続け、マグニチュードや卓越周期等のデータを解析して地震の加害性の評価を行い、危険性の有無を判定する。
なお、この特許文献1のシステムは、現在、JRの新幹線鉄道用の地震早期検知警報システムである『ユレダス』として実用化されている。
【0004】

【特許文献1】特公昭60-14315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、地震発生時において、車両脱線等の起こる可能性を低くできるより実用的な装置あるいは方法が求められている。
本発明は、このような要求に応えるためになされたものであって、地震発生時には車両脱線等の起こる可能性を低くでき、かつ通常時においては車両の乗り心地を向上できる鉄道車両防振装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の鉄道車両防振装置は、車体、及び、該車体を支える台車を有する鉄道車両用の防振装置であって、前記台車の上下動及び/又はロール動を減衰するダンパー並びに/又は、前記車体と前記台車間の左右動、上下動及び/又はロール動を減衰するダンパーと、前記車体及び/又は前記台車の左右動、上下動及び/又はロール動を検出する車両動揺検出手段と、前記車両動揺検出手段の検出結果に基づき、車両の乗り心地を向上すべく、前記ダンパーの減衰力を制御して前記車体及び/又は前記台車の振動を抑制する乗り心地優先モード制御器と、前記車両動揺検出手段の検出結果に基づき、車両の脱線を防止すべく、前記ダンパーの減衰力を制御して前記車体及び/又は前記台車の振動を抑制する地震時モード制御器と、地震の発生を検知する地震検知手段と、該地震検知手段が地震の発生を検知したときに、前記ダンパーの減衰制御器を、乗り心地優先モード制御器から地震時モード制御器へと切り替える制御器切替手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この発明においては、通常時は車両の乗り心地向上を重視した乗り心地優先モード制御器によって減衰要素(軸ダンパー、左右動ダンパー、空気ばね等)の減衰力を制御し、地震検知手段によって地震が検知されると、制御器を制御器切替手段によって脱線防止を重視した地震時モード制御器に切り替え、地震時モード制御器に従って減衰要素の減衰力を制御する。これにより、通常時は良好な乗り心地が得られ、地震時には車体の振動(特に1[Hz]前後の車体左右動、上下動及び/又はロール動)を小さく出来るので、車両脱線等に至る可能性を小さくできる。
【0008】
本発明の鉄道車両防振装置においては、前記台車及び/又は前記車体と前記台車間の上下動及び又はロール動を減衰するダンパーとして、油圧式可変減衰軸ダンパーを用いることができる。この場合、油圧式ダンパーはコンパクトで大きな減衰力を発生でき、これに減衰力制御弁を組み込んだ油圧式可変減衰ダンパーを軸ダンパーとして用いることにより、当該箇所に実装しやすいダンパーとすることができる。さらに、既存鉄道車両の軸ダンパーは油圧式ダンパーが用いられているものが多いため、同様の油圧式を用いることにより、取り付け互換性を維持した可変減衰軸ダンパーを製作しやすくなり、その結果、ダンパー交換およびセンサ・制御装置搭載によって既存車両に対しても本発明を適用することができるという効果がある。
【0009】
本発明の鉄道車両防振装置においては、前記車体と前記台車間の左右動及び又はロール動を減衰するダンパーとして、油圧式可変減衰左右動ダンパーを用いることができる。この場合、油圧式ダンパーはコンパクトで大きな減衰力を発生でき、これに減衰力制御弁を組み込んだ油圧式可変減衰ダンパーを左右動ダンパーとして用いることにより、当該箇所に実装しやすいダンパーとすることができる。さらに、既存鉄道車両の左右動ダンパーは油圧式ダンパーが用いられているものが多いため、同様の油圧式を用いることにより、取り付け互換性を維持した可変減衰左右動ダンパーを製作しやすくなり、その結果、ダンパー交換およびセンサ・制御装置搭載によって既存車両に対しても本発明を適用することができるという効果がある。
【0010】
発明の鉄道車両防振装置においては、前記車体と前記台車間の上下動及び又はロール動を減衰するダンパーとして、空気ばねと、その補助空気室と、この両者間に設けられて流量特性を変化させることが出来る絞り制御弁を用いることができる。この場合、空気ばねと補助空気室との間に絞り制御弁を追加実装することにより、鉄道車両に対して新たにダンパーを取り付けることなく、車体の上下/ロール動に対する減衰を制御できるため、低コストで本発明を適用出来る。さらに、絞り制御弁を空気ばねに内蔵することにより、空気ばねを用いている既存車両に対して、空気ばね交換とセンサ・制御装置を、搭載することによって既存車両に対しても本発明を適用することができるという効果がある。
【0011】
本発明の鉄道車両防振装置においては、前記乗り心地優先モード制御器として、乗り心地レベル(LT)値低減に適した制御器を用いることができる。この場合、実験に基づいて算定された規格に従い、人間が体感上敏感に振動を感じる周波数の振動を重視して低減するよう制御を行うため、車両の乗り心地を効果的に向上できるという効果がある。
【0012】
本発明の鉄道車両防振装置においては、前記地震時モード制御器として、前記車体及び/又は前記台車の剛体モード振動の固有振動低減に適した制御器を用いることができる。この場合、車両の脱線防止において重要となる車両の剛体モードの固有振動を重視して低減するような制御を行うため、効果的に脱線防止を行うことができるという効果がある。
【0013】
本発明の鉄道車両防振方法は、車体、及び、該車体を支える台車を有し、前記台車の上下動及び/又はロール動を減衰するダンパー並びに/又は、前記車体と前記台車間の左右動、上下動及び/又はロール動を減衰するダンパーと、前記車体及び/又は前記台車の左右動、上下動及び/又はロール動に基づき、車両の乗り心地を向上すべく、前記ダンパーの減衰力を制御して前記車体及び/又は前記台車の振動を抑制する乗り心地優先モード制御器と、前記車体及び/又は前記台車の左右動、上下動及び/又はロール動に基づき、車両の脱線を防止すべく、前記ダンパーの減衰力を制御して前記車体及び/又は前記台車の振動を抑制する地震時モード制御器が取り付けられた鉄道車両用の防振方法であって、地震の発生を検知したときに、前記ダンパーの減衰制御器を、前記乗り心地優先モード制御器から前記地震時モード制御器へと切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、地震発生時に車両脱線等の起こる可能性を低くでき、かつ通常時においては車両の乗り心地を向上できる鉄道車両防振装置及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る鉄道車両を模式的に示す正面図である。
図2は、本実施の形態に係る空気ばね周りの構成例を示す断面図である。
図3は、本発明に係る鉄道車両用防振装置の構成を示すブロック図である。
なお、以下の説明では、特に断らない限り、車両の進行方向を前後方向、車両の幅方向(前後方向と直角の方向)を左右方向、車両の高さ方向(垂直方向)を上下方向と呼ぶ。前後方向(車両の進行方向)は、図1の表裏面方向である。
【符号の説明】
【0016】
まず、図1を参照して、本実施の形態に係る鉄道車両の構成について説明する。
図1に示す鉄道車両1は、車体10と、この車体10を支える台車20を備えている。台車20は、車体10の前後に一台ずつ設けられている。各台車20は、台車枠21を備えている。台車枠21の下部の前後には、車輪23と車軸24からなる輪軸25が一組ずつ取り付けられている。車輪23は、車軸24の左右両端側に圧入されて固定されている。左右の車輪23の外側において、車軸24の端部にはそれぞれ軸箱27が嵌め込まれている。各軸箱27上面と台車枠21下面との間には、それぞれ軸ばね29が取り付けられている。さらに、各軸箱27と台車枠21との間には、それぞれ軸ダンパー(油圧式ダンパー)31が取り付けられている。軸ばね29及び軸ダンパー31は、車両1の一次ばね系の減衰要素として機能する。
【0017】
車体10下面と台車枠21上面との間には、左右に空気ばね15が介装されている。図2に示すように、各空気ばね15のばね本体は、ゴムベローズ15′と積層ゴム15″で形成されている。左右のばね本体は、各々連通路18を介して左右の補助空気室19に繋がれている。各連通路18において、積層ゴム15″の内側には絞り制御弁16が配置されている。この絞り制御弁16は、連通路18の有効断面積を変化させることができる。絞り制御弁16は、連通路18を通過する空気に抵抗を与え、これによって空気ばね15に減衰効果を付与することができる。また、この連通路18の有効断面積を変化させることによって、空気ばね15に付与する減衰効果の大きさを変化させることができる。
【0018】
なお、図2に示すような空気ばね15は、次に挙げる二つの文献:
菅原能生・風戸昭人共著、『鉄道車両用空気ばねの絞り制御に関する基礎試験』、第11回鉄道技術連合シンポジウム(J-Rail 2004)、513~514ページ、2004年12月
菅原能生・瀧上唯夫・風戸昭人共著、『空気ばねの減衰制御による鉄道車両の車体上下振動低減』、第9回「運動と振動の制御シンポジウム」講演論文集、140~145ページ、2005年8月
に提示されている考察結果に基づき構成することが好ましい。
【0019】
図1に示すように、車体10の下面には、ブラケット11を介して中心ピン13が固定されている(ブラケット11及び中心ピン13は図1では仮想線で描かれている)。中心ピン13は、車体10の下面から垂下している。この中心ピン13は、台車枠21中心部の孔21aに差し込まれている。さらに、車両1の中央部において、車体10下面と台車枠21上面との間には、左右動ダンパー(油圧式ダンパー)17が取り付けられている。空気ばね15及び左右動ダンパー17は、車両1の二次ばね系の減衰要素として機能する。
【0020】
次に、図3を参照して、本実施の形態に係る防振装置の制御系の構成について説明する。
図3に示すように、防振装置は、乗り心地優先モード制御器A1(A11、A12、A13)、地震時モード制御器A2(A21、A22、A23)、制御器切替手段41を備えている。制御器切替手段41には、地震検知手段45からの信号が入力される。
車両動揺検出手段43は、図1に示す車体10及び/又は台車20の左右動、上下動、及び/又はロール動を検出する手段であって、例えば、車体10の床面の振動加速度を検出する加速度センサ等を用いて構成することができる。
【0021】
地震検知手段45は、地震の発生を検知して、地震情報を制御器切替手段41に伝える手段である。この地震検知手段45は、例えば、トロリ線からの給電停止状態を検知する手段や、地上側で検知した地震発生状況を車両へと伝達する通信手段等を用いて構成することができる。なお、前述した特許文献1(特公昭60-14315号公報)を用いた『ユレダス』が導入されている区間においては、地震のS波が到達する前に停電状態となるので、それを検知することで地震の発生を確認することができる。
【0022】
乗り心地優先モード制御器A1および地震時モード制御器A2は、車両動揺検出手段43からの信号が入力されて、図1に示す鉄道車両1の軸ダンパー31、左右動ダンパー17、空気ばね15に対しての、車両の動揺を乗り心地、地震それぞれの目的で小さくするために適する減衰力指令値を計算する。
【0023】
制御器切替手段41は、地震時には地震検知手段45からの信号が入力されて、地震時モード制御器A2(A21、A22、A23)の減衰力指令値を選択し、それ以外の通常時は乗り心地優先モード制御器A1(A11、A12、A13)の減衰力指令値を選択する。そして、制御器切替手段41は、図1に示す、軸ダンパー31、左右動ダンパー17、空気ばね15に対して指令値を送信する。これによって、通常時には乗り心地を向上するように軸ダンパー31、左右動ダンパー17、空気ばね15の減衰力が制御され、地震時においては車両の脱線を防ぐように、軸ダンパー31、左右動ダンパー17、空気ばね15の減衰力が制御される。
【0024】
各モード状態において、軸ダンパー31、左右動ダンパー17、空気ばね15は、それぞれ個別に制御される。そのため、必要に応じて、例えば左右動ダンパーのみ制御する、左右動ダンパーと空気ばねを制御するなど、各個別に、又は、適宜選択して組み合わせて装置を構成したり、制御したりすることができる。
【0025】
次に、図4、5を参照して、本実施の形態に係る防振装置の乗り心地優先モード制御器A1および地震時モード制御器A2の一例として、空気ばね15を用いた車体10のロール振動低減について説明する。装置の構成を図4に示す。この例では、台車20と車体の半分の荷重を持つ荷重枠10´とを組み合わせて測定を実施した。各制御器の振動制御則には、スカイフック制御則を用いた。
【0026】
JP0004868911B2_000002t.gif【数1】
JP0004868911B2_000003t.gif
【0027】
スカイフック制御則は、
【数2】
JP0004868911B2_000004t.gif
【0028】
この例では、力Fsを発生させるデバイスは空気ばね15であり、空気ばね1個あたりで発生させたい制振力(以下目標発生力という)をFaとすると、本測定で用いている車体10は半車体であるので
【数3】
JP0004868911B2_000005t.gif
となる。目標発生力Faに対応した指令電流を空気ばね15内部に設けられた絞り制御弁16に流すことによって、所定の発生力を得ることができ、車体10の振動低減が可能となる。
【0029】
ここで、「数式2」の目標発生力Faに対応した空気ばね15への指令電流値を計算する際に、空気ばね15の上下伸縮速度を用いている。空気ばね15の上下伸縮速度は、図4に示すように空気ばね15直近に変位センサ51を取り付けて、変位センサ51から空気ばね15の変位を求めた上でフィルタにより微分を行って求めた。なお、目標発生力Faおよび空気ばね15の上下伸縮速度と空気ばね15への指令電流との対応関係を求める具体的方法やその結果については、例えば、以下の文献に記載している方法を用いればよい。
菅原能生・瀧上唯夫・風戸昭人共著、『空気ばねの減衰制御による鉄道車両の車体上下振動低減』、第9回「運動と振動の制御シンポジウム」講演論文集、140~145ページ、2005年8月
【0030】
以下に空気ばね15を用いた車体10のロール振動低減についての測定結果について説明する。なお、この試験は、2個の空気ばね15に車体10として実車体の1/2の質量をもつ荷重枠10´を積載して実施したものである。車両の輪軸部をバンドランダム加振したときの空気ばね15直上の車体10の上下振動加速度パワースペクトル密度(以下PSDと略記)の計算結果を図5に示す。加振はロールモード(右側の車輪23と左側の車輪23が逆相で上下するモード)で行った。ここでグラフの横軸は周波数を、縦軸は車体10の上下振動加速度PSDを表している。図5中(a)のグラフはスカイフック制御なしの場合であり、(b)および (c)のグラフはスカイフック制御器のパラメータである「数式2」におけるスカイフックゲインCsの値を変えて、スカイフック制御を行った場合で、スカイフックゲインCsの値は、それぞれ(b)では3000で、(c)では7000である。
【0031】
この結果から、スカイフック制御なしに対して本実施の形態のスカイフック制御ありの方が0.8[Hz]付近の車体10の上下振動加速度PSDのピーク値が小さくなり、車体10の振動が低減することがわかる。
【0032】
脱線防止という観点では、0.7~2[Hz]の周波数帯に存在する車両動揺の固有振動を小さくすることが有効である。この場合では、0.8[Hz]付近にピークを持つ車体10ロールモードの固有振動を低減することに相当し、今回の条件の中では、(c)のスカイフックゲインCsの値が7000の制御器(以下G7000という)を用いた場合が最もピークが小さく、この制御器が最も脱線防止に有効であると考えられる。
【0033】
一般に鉄道車両の乗り心地の評価に使われる指標として、「乗り心地レベル(LT)」と呼ばれるスカラー量があり、値が小さいほど乗り心地がよいことを示す。スカイフック制御をした場合の(b)、(c)それぞれの条件に対してLTを計算すると、(b)と(c)のスカイフックゲインCsの値のそれぞれの制御器を用いた場合のLT値は、(b)ではLT=74.4093[dB]、(c)ではLT=75.0168[dB]である。スカイフック制御をしない(a)のLT値は74.6345[dB]であるが、(b)の条件の制御器を用いた場合が最もLT値が小さく乗り心地がよいことがわかる。従って、乗り心地を向上させるためには(b)のスカイフックゲインCsの値が3000の制御器(以下G3000という)が適している。
【0034】
G7000とG3000の振動加速度PSDを比較すると、車体10のロールモードに対応する
0.8[Hz]付近のピークではG7000の制振性能が優れているが、2[Hz]以上の周波数領域ではG3000と比較して振動が増加している。一般にピークにおける振動低減効果と、高周波の振動絶縁効果にはトレードオフが存在し、両立することは難しい。またこの測定では、車体10として等価的な質量をもつ剛体を用いており車体の上下曲げ振動が発生していないが、曲げ振動の固有振動数は10[Hz]付近に存在し、実走行条件では乗り心地に影響を与えることが多い。よって、乗り心地の向上には、車体の剛体振動に対応するピーク低減だけでなく、2[Hz] 以上の周波数領域の振動低減効果も考慮することが望ましい。よって、G3000とG7000の制御器を用いた場合のLT値の差異は、実走行時には今回の測定結果よりさらに大きくなり、G3000が乗り心地上有利になると予想される。
このように、一般に乗り心地向上に適している制御器と、脱線防止に適している制御器は一致していない場合が多い。従って、例えばG3000の制御器を乗り心地優先モード制御器A1とし、G7000の制御器を地震時モード制御器A2とし、この両者を地震発生を検知して切り替えることによって、通常はG3000の制御器によって乗り心地向上に適した制御を行い、地震発生時にはG7000の制御器によって脱線防止に適した制御を行うことにより、それぞれの場合に効果的な制御を行うことが出来る。
【0035】
なお、ここに示した例は、乗り心地優先モード制御器A1と地震時モード制御器A2について、制御則が同じで制御パラメータのみが異なっている場合を示しているが、この両者の制御器の制御則そのものが異なっている組み合わせも可能である。例えば、前者に対してH∞制御則を用い、後者に対してスカイフック制御則を用いるなどということもできる。
【0036】
また、地震時制御器A2及び/又は乗り心地優先モード制御器A1は、動的に軸ダンパー、左右動ダンパー、空気ばね等の減衰力を変更するものだけではなく、単にダンパーの特性を高減衰/低減衰に切り替えるものでもよい。
【0037】
さらに、ここでは空気ばね15をロール振動低減に用いた場合についてのみ説明したが、そのほかの軸ダンパー31、左右動ダンパー17等のデバイスも必要に応じて使用することができ、また、制御対象とする振動モードも必要にあわせて選択することが出来る。例えば、空気ばね15と左右動ダンパー17を用いて、車体10の上下動、ロール動、左右動を制御する、などといったことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鉄道車両を模式的に示す正面図である。
【図2】本実施の形態に係る空気ばね周りの構成例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る鉄道車両用防振装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の形態に係る車体のロール振動低減について説明する鉄道車両を模式的に示す正面図である。
【図5】本発明に係る車体の上下振動加速度PSDを示すグラフである。
【0039】
1 鉄道車両
10 車体 10´半車体荷重枠
11 ブラケット 13 中心ピン
15 空気ばね 16 絞り制御弁
17 左右動ダンパー 18 連通路
19 補助空気室 20 台車
21 台車枠 23 車輪
24 車軸 25 輪軸
27 軸箱 29 軸ばね
31 軸ダンパー
41 制御器切替手段
43 車両動揺検出手段(加速度センサー) 45 地震検知手段
51 変位センサ A1 乗り心地優先モード制御器
A2 地震時モード制御器
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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