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明細書 :トロリ線の歪推定システムおよび歪推定プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4394656号 (P4394656)
公開番号 特開2007-261370 (P2007-261370A)
登録日 平成21年10月23日(2009.10.23)
発行日 平成22年1月6日(2010.1.6)
公開日 平成19年10月11日(2007.10.11)
発明の名称または考案の名称 トロリ線の歪推定システムおよび歪推定プログラム
国際特許分類 B60M   1/28        (2006.01)
FI B60M 1/28 R
請求項の数または発明の数 8
全頁数 23
出願番号 特願2006-087752 (P2006-087752)
出願日 平成18年3月28日(2006.3.28)
審査請求日 平成20年7月10日(2008.7.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】臼田 隆之
個別代理人の代理人 【識別番号】100099715、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 聡
審査官 【審査官】東 勝之
参考文献・文献 特開2002-328063(JP,A)
特開平07-134157(JP,A)
特開平06-214972(JP,A)
特開平08-128810(JP,A)
特開平09-322403(JP,A)
調査した分野 B60M 1/00 - 1/36
G06N 3/02 - 3/12
特許請求の範囲 【請求項1】
パンタグラフの舟体に取り付けられたすり板の通過に伴うトロリ線の歪の推定システムであって、
学習用の、第1の所定区間におけるパンタグラフの舟体とトロリ線との間の接触力に関するデータと、当該第1の所定区間における前記パンタグラフの通過に伴うトロリ線の歪に関するデータと、推定用の、第2の所定区間におけるパンタグラフの舟体とトロリ線との間の接触力に関するデータと、ニューラルネットワークのモデルについて、当該ニューラルネットワークを構成する各ニューロン間の結合に関連付けられた重み、および、各ニューロンの閾値を含むニューラルネットワークモデルデータと、を記憶した記憶装置と、
ニューラルネットワークモデルデータに含まれる重みおよび閾値を適切な値にする学習手段であって、
前記記憶装置に記憶された、初期的なニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記学習用の接触力に関するデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返す演算手段と、
前記ニューラルネットワークモデルの出力層に、前記学習用のトロリ線の歪に関するデータを与え、出力層から中間層を経て入力層に向けて、誤差信号を伝搬させて、少なくとも、前記ニューラルネットワークデータにおける前記結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を修正し、前記修正された結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を、修正されたニューラルネットワークデータとして記憶する誤差逆伝搬手段と、を有する学習手段と、
前記記憶装置に記憶された、前記学習手段による学習により修正されたニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記推定用の接触力に関するデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返し、前記出力層からの値を、推定されたトロリ線の歪に関するデータとして、前記記憶装置に記憶する推定手段と、
を備えたことを特徴とする推定システム。
【請求項2】
前記接触力に関するデータが、時刻t(k=1~m)における接触力f(t)について、短時間フーリエ変換を施した接触力の時間・周波数領域データF(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)であり、前記トロリ線の歪に関するデータが、時刻t(k=1~m)における歪h(t)について、短時間フーリエ変換を施した歪の時間・周波数領域データH(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)であり、
前記推定手段により得られたトロリ線の歪に関する時刻t(k=1~m)における推定された歪の時間・周波数領域データH’(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)に、逆短時間フーリエ変換を施して、前記時刻t(k=1~m)における歪データh’(t)(k=1~m)を算出して、歪の推定値データとして、前記記憶装置に記憶する逆短時間フーリエ変換手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記記憶装置に記憶された、時刻tにおける接触力データf(t)(k=1~m)について、短時間フーリエ変換を施して、接触力の時間・周波数領域データF(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)を生成して、記憶装置に記憶するとともに、時刻t(k=1~m)における歪データh(t)について、短時間フーリエ変換を施して、歪の時間・周波数領域データH(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)を生成して、記憶装置に記憶する短時間フーリエ変換手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記接触力に関するデータが、時刻tの前後aの範囲(tk-a~tk+a)の接触力データf(tk—a)~f(tk+a)(k=1~m)であり、前記トロリ線の歪に関するデータが、歪データh(t)(k=1~m)であり、
前記推定手段が、時刻t(k=1~m)における歪の推定値データh’(t)(k=1~m)を算出するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
学習用の、第1の所定区間におけるパンタグラフの舟体とトロリ線との間の接触力に関するデータと、当該第1の所定区間における前記パンタグラフの通過に伴うトロリ線の歪に関するデータと、推定用の、第2の所定区間におけるパンタグラフの舟体とトロリ線との間の接触力に関するデータと、ニューラルネットワークのモデルについて、当該ニューラルネットワークを構成する各ニューロン間の結合に関連付けられた重み、および、各ニューロンの閾値を含むニューラルネットワークモデルデータと、を記憶した記憶装置を備えたコンピュータに、パンタグラフの舟体に取り付けられたすり板の通過に伴うトロリ線の歪を推定させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
ニューラルネットワークモデルデータに含まれる重みおよび閾値を適切な値にする学習ステップであって、
前記記憶装置に記憶された、初期的なニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記学習用の接触力に関するデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返す演算ステップ、並びに、
前記ニューラルネットワークモデルの出力層に、前記学習用のトロリ線の歪に関するデータを与え、出力層から中間層を経て入力層に向けて、誤差信号を伝搬させて、少なくとも、前記ニューラルネットワークデータにおける前記結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を修正し、前記修正された結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を、修正されたニューラルネットワークデータとして記憶する誤差逆伝搬ステップを有する、学習ステップと、
前記記憶装置に記憶された、前記学習手段による学習により修正されたニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記推定用の接触力に関するデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返し、前記出力層からの値を、推定されたトロリ線の歪に関するデータとして、前記記憶装置に記憶する推定ステップと、を実行させることを特徴とする推定プログラム。
【請求項6】
前記接触力に関するデータが、時刻t(k=1~m)における接触力f(t)について、短時間フーリエ変換を施した接触力の時間・周波数領域データF(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)であり、前記トロリ線の歪に関するデータが、時刻t(k=1~m)における歪h(t)について、短時間フーリエ変換を施した歪の時間・周波数領域データH(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)であり、
前記コンピュータに、
前記推定ステップにより得られたトロリ線の歪に関する時刻t(k=1~m)における推定された歪の時間・周波数領域データH’(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)に、逆短時間フーリエ変換を施して、前記時刻t(k=1~m)における歪データh’(t)(k=1~m)を算出して、歪の推定値データとして、前記記憶装置に記憶する逆短時間フーリエ変換ステップを実行させることを特徴とする請求項5に記載のプログラム。
【請求項7】
前記コンピュータに、
前記記憶装置に記憶された、時刻tにおける接触力データf(t)(k=1~m)について、短時間フーリエ変換を施して、接触力の時間・周波数領域データF(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)を生成して、記憶装置に記憶するとともに、時刻t(k=1~m)における歪データh(t)について、短時間フーリエ変換を施して、歪の時間・周波数領域データH(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)を生成して、記憶装置に記憶する短時間フーリエ変換ステップを実行させることを特徴とする請求項6に記載のプログラム。
【請求項8】
前記接触力に関するデータが、時刻tの前後aの範囲(tk-a~tk+a)の接触力データf(tk—a)~f(tk+a)(k=1~m)であり、前記トロリ線の歪に関するデータが、歪データh(t)(k=1~m)であり、
前記推定ステップにおいて、前記コンピュータに、
時刻t(k=1~m)における歪の推定値データh’(t)(k=1~m)を算出するステップを実行させることを特徴とする請求項5に記載のプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はパンタグラフのすり板の通過に伴うトロリ線の歪を推定するシステムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
パンタグラフのトロリ線に対する接触力は、集電性能を評価する重要な指標の一つである。近年の動向として、検測車などで接触力を測定し、保守などに活用しようという流れがある。従来、パンタグラフの舟体に加速度計や歪ゲージを取り付けて、トロリ線に接触した状態で、車両を走行させることにより、接触力を実測している。
【0003】
その一方、パンタグラフの舟体が接触するトロリ線は、パンタグラフが接触しつつ移動することにより応力をうける。繰り返し応力を受けることにより、トロリ線が破断する可能性もあるため、トロリ線の疲労を把握することは非常に重要となっている。従来、トロリ線の応力は、トロリ線上の幾つかの測定点に歪ゲージを取り付けて、列車の通過(パンタグラフの通過)に伴う歪の時間的変化を実測していた。しかしながら、従来の手法では、歪ゲージが取り付けられた場所だけしか、歪が測定できないという問題点、つまり、歪は離散点でしか測定できないという問題点があった。
【0004】
非特許文献1に示すように、架線、パンタグラフ系をモデルに置き換え、その運動方程式をコンピュータにより解いて、架線やパンタグラフの運動を定量的に表したデータを取得するシミュレーションも行われている。たとえば、シミュレーションにおいては、架線を多数の質点で表して、各質点について運動方程式をたてる。また、パンタグラフについても、同様に、パンタグラフのモデルを幾つかの質点、ばねおよび押上げ力で表して、各質点について運動方程式をたてる。さらに、トロリ線に対するパンタグラフの接触力を移動しつつ加えることにより、架線の振動を計算することができ、架線の振動からその応力(歪)を求めることも可能である。

【非特許文献1】「電車線とパンタグラフの特性」、研友社、平成5年10月10日発行、pp64-69、217-220
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記シミュレーションによって、実際にパンタグラフや架線に歪ゲージを取り付けて実測することなく、パンタグラフのトロリ線に対する接触力やトロリ線の歪を得ることができる。しかしながら、シミュレーションは、上述したように、トロリ線やトロリ線を支える複数の要素(たとえば、支柱および支持点、吊架線、ドロッパ、補助吊架線、ハンガ)の具体的な材質、線の径、長さ、構造に基づいてモデルを作成し、モデルにおいて各質点の運動方程式を作る必要がある。パンタグラフについても同様に、その要素(舟体、舟支え、復元バネ、昇降機構など)の具体的な材質や構造に基づいてモデルを作成し、各質点の運動方程式を作る必要がある。したがって、架線の歪をシミュレーションにより得るためには、場所によって異なる架線の正確な情報が必要である。
【0006】
本発明は、正確な架線の情報を要することなく、パンタグラフの接触力を得られれば、トロリ線の歪を推定することができるシステムおよびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、パンタグラフの舟体に取り付けられたすり板の通過に伴うトロリ線の歪の推定システムであって、
学習用の、第1の所定区間におけるパンタグラフの舟体とトロリ線との間の接触力に関するデータと、当該第1の所定区間における前記パンタグラフの通過に伴うトロリ線の歪に関するデータと、推定用の、第2の所定区間におけるパンタグラフの舟体とトロリ線との間の接触力に関するデータと、ニューラルネットワークのモデルについて、当該ニューラルネットワークを構成する各ニューロン間の結合に関連付けられた重み、および、各ニューロンの閾値を含むニューラルネットワークモデルデータと、を記憶した記憶装置と、
ニューラルネットワークモデルデータに含まれる重みおよび閾値を適切な値にする学習手段であって、
前記記憶装置に記憶された、初期的なニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記学習用の接触力に関するデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返す演算手段と、
前記ニューラルネットワークモデルの出力層に、前記学習用のトロリ線の歪に関するデータを与え、出力層から中間層を経て入力層に向けて、誤差信号を伝搬させて、少なくとも、前記ニューラルネットワークデータにおける前記結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を修正し、前記修正された結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を、修正されたニューラルネットワークデータとして記憶する誤差逆伝搬手段と、を有する学習手段と、
前記記憶装置に記憶された、前記学習手段による学習により修正されたニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記推定用の接触力に関するデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返し、前記出力層からの値を、推定されたトロリ線の歪に関するデータとして、前記記憶装置に記憶する推定手段と、
を備えたことを特徴とする推定システムにより達成される。
【0008】
好ましい実施態様においては、前記接触力に関するデータが、時刻t(k=1~m)における接触力f(t)について、短時間フーリエ変換を施した接触力の時間・周波数領域データF(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)であり、前記トロリ線の歪に関するデータが、時刻t(k=1~m)における歪h(t)について、短時間フーリエ変換を施した歪の時間・周波数領域データH(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)であり、
前記推定手段により得られたトロリ線の歪に関する時刻t(k=1~m)における推定された歪の時間・周波数領域データH’(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)に、逆短時間フーリエ変換を施して、前記時刻t(k=1~m)における歪データh’(t)(k=1~m)を算出して、歪の推定値データとして、前記記憶装置に記憶する逆短時間フーリエ変換手段を備える。
【0009】
より好ましい実施態様においては、前記記憶装置に記憶された、時刻tにおける接触力データf(t)(k=1~m)について、短時間フーリエ変換を施して、接触力の時間・周波数領域データF(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)を生成して、記憶装置に記憶するとともに、時刻t(k=1~m)における歪データh(t)について、短時間フーリエ変換を施して、歪の時間・周波数領域データH(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)を生成して、記憶装置に記憶する短時間フーリエ変換手段を備える。
【0010】
別の好ましい実施態様においては、前記接触力に関するデータが、時刻tの前後aの範囲(tk-a~tk+a)の接触力データf(tk—a)~f(tk+a)(k=1~m)であり、前記トロリ線の歪に関するデータが、歪データh(t)(k=1~m)であり、
前記推定手段が、時刻t(k=1~m)における歪の推定値データh’(t)(k=1~m)を算出するように構成されている。
【0011】
また、本発明の目的は、学習用の、第1の所定区間におけるパンタグラフの舟体とトロリ線との間の接触力に関するデータと、当該第1の所定区間における前記パンタグラフの通過に伴うトロリ線の歪に関するデータと、推定用の、第2の所定区間におけるパンタグラフの舟体とトロリ線との間の接触力に関するデータと、ニューラルネットワークのモデルについて、当該ニューラルネットワークを構成する各ニューロン間の結合に関連付けられた重み、および、各ニューロンの閾値を含むニューラルネットワークモデルデータと、を記憶した記憶装置を備えたコンピュータに、パンタグラフの舟体に取り付けられたすり板の通過に伴うトロリ線の歪を推定させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
ニューラルネットワークモデルデータに含まれる重みおよび閾値を適切な値にする学習ステップであって、
前記記憶装置に記憶された、初期的なニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記学習用の接触力に関するデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返す演算ステップ、並びに、
前記ニューラルネットワークモデルの出力層に、前記学習用のトロリ線の歪に関するデータを与え、出力層から中間層を経て入力層に向けて、誤差信号を伝搬させて、少なくとも、前記ニューラルネットワークデータにおける前記結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を修正し、前記修正された結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を、修正されたニューラルネットワークデータとして記憶する誤差逆伝搬ステップを有する、学習ステップと、
前記記憶装置に記憶された、前記学習手段による学習により修正されたニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記推定用の接触力に関するデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返し、前記出力層からの値を、推定されたトロリ線の歪に関するデータとして、前記記憶装置に記憶する推定ステップと、を実行させることを特徴とする推定プログラムにより達成される。
【0012】
好ましい実施態様においては、前記接触力に関するデータが、時刻t(k=1~m)における接触力f(t)について、短時間フーリエ変換を施した接触力の時間・周波数領域データF(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)であり、前記トロリ線の歪に関するデータが、時刻t(k=1~m)における歪h(t)について、短時間フーリエ変換を施した歪の時間・周波数領域データH(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)であり、
前記コンピュータに、
前記推定ステップにより得られたトロリ線の歪に関する時刻t(k=1~m)における推定された歪の時間・周波数領域データH’(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)に、逆短時間フーリエ変換を施して、前記時刻t(k=1~m)における歪データh’(t)(k=1~m)を算出して、歪の推定値データとして、前記記憶装置に記憶する逆短時間フーリエ変換ステップを実行させる。
【0013】
より好ましい実施態様においては、前記コンピュータに、
前記記憶装置に記憶された、時刻tにおける接触力データf(t)(k=1~m)について、短時間フーリエ変換を施して、接触力の時間・周波数領域データF(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)を生成して、記憶装置に記憶するとともに、時刻t(k=1~m)における歪データh(t)について、短時間フーリエ変換を施して、歪の時間・周波数領域データH(t,f)(fは周波数、k=1~m、i=1~n)を生成して、記憶装置に記憶する短時間フーリエ変換ステップを実行させる。
【0014】
別の好ましい実施態様においては、前記接触力に関するデータが、時刻tの前後aの範囲(tk-a~tk+a)の接触力データf(tk—a)~f(tk+a)(k=1~m)であり、前記トロリ線の歪に関するデータが、歪データh(t)(k=1~m)であり、
前記推定ステップにおいて、前記コンピュータに、
時刻t(k=1~m)における歪の推定値データh’(t)(k=1~m)を算出するステップを実行させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、正確な架線の情報を要することなく、パンタグラフの接触力を得られれば、トロリ線の歪を推定することができるシステムおよびプログラムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。まず、パンタグラフの構造および架線の構造について簡単に説明する。図1は、本実施の形態において、トロリ線の歪を推定するためにトロリ線と接触しつつ移動するパングラフの構造を示す機構図である。このパンタグラフ1は、舟体が単独のタイプである。図1に示すように、パンタグラフ1は、台座2に固定される。台座2は、碍子3を介して、鉄道車両の屋根4に固定される。なお、図1においては、上下は、車両の高さ方向に対応し、前後は、鉄道車両の走行するレールの長手方向に対応する。また、図示しないが、左右は、レールの長手方向に垂直な方向に対応する。
【0017】
パンタグラフ1は、シングルアーム式であり、左右方向に沿って延びる舟体12が設けられている。たとえば、舟体12は、アルミニウム合金製であり、その上表面には、トロリ線5と直接接触する摺り板12aが貼り付けられている。摺り板12aは、たとえば、鉄系や銅系の焼結合金或いはカーボン系材料からなる。
【0018】
舟体12は、復元バネ14により弾性支持される。復元バネ14は、たとえば、ベローバネからなり、その上端が、舟体12の下面に連結されるとともに、その下端が、舟支え16に連結されている。
【0019】
舟支え16は、昇降運動を行う4節リンクを備えた昇降機構18に連結されている。舟体12は、昇降機構18が上昇した後には、トロリ線5に押し付けられる。昇降機構18のリンクは、前後方向に伸びる上枠20を備えている。上枠20の上端は、連結部24を介して舟支え16に連結され、下端側は、「く」の字状に屈曲された形状となっている。上枠20の下端の「く」の字状の屈曲部には、第一節26を介して下枠28の上端が連結されている。
【0020】
舟支え16の下端側と、下枠28の上端とは、上枠20の下方に配置された舟支えリンク30で繋がれている。舟支えリンク30は、舟支え16およびその上に位置する舟体12を正規の姿勢に保つ役割を果たす。上枠20の下端には、第三節32を介して釣り合い棒34の上端が連結されている。釣り合い棒34の下端は、第四節36を介して、台枠2に固定された取付フランジ38に連結されている。下枠28の下端は、主軸(第二節)40に連結されている。主軸40は、台枠2に固定された取付フランジ44に回動可能に支持されているとともに、台枠2に配置された主バネ42に連結されている。主バネ42は、パンタグラフ1に上昇力を与える。
【0021】
舟体12を上昇させるためには、解除機構(図示せず)を解除して主バネ42を縮める。これにより、主バネ42の付勢力を受けて、下枠28が主軸40を支点として、図1のU方向に起き上がり、下枠28の動きが第一節26を介して上枠20に伝達される。このときに、上枠20は、第一節26を支点として図1のU’方向に起き上がり、上端側が連結部24を介して舟支え16を持ち上げる。これにより、舟体12は上昇し、その上面に貼り付けられた摺り板12aがトロリ線5に押し当てられる。
【0022】
その一方、舟体12を下降させるためには、折り畳み用シリンダ(図示せず)により下枠28を図1のD方向に下げる。これにより、上枠20が図1のD’方向に回転し、これに伴って舟体12が下降する。パンタグラフ1の折り畳み状態では、主バネ42が伸びた状態となる。この状態で、カギ装置(図示せず)で舟支え16をロックすることで、パンタグラフ1を折り畳み状態で保持することができる。
【0023】
パンタグラフは上記構造により、舟体12が上昇した状態では、復元バネ14、および、4節リンクの昇降機構の主バネ42の付勢力により、ある接触力にてトロリ線に接触する。
【0024】
次に、架線の構造について説明する。図2は、架線の構造の一例を概略的に示す図である。図2に示すように、架線を支える支柱(図示せず)の支持点50、52の間に、吊架線54が張設される。また、吊架線54から等間隔で、ドロッパ(たとえば、符号56、58)が垂下している。ドロッパの下端は、横方向に延びる補助吊架線60の連結されている。さらに、補助吊架線60からは、上記ドロッパの間隔とは異なる間隔で、ハンガ(たとえば、符号62、64)が垂下している。ハンガの下端には、補助吊架線60と並行に延びるトロリ線5が連結されている。他の例では、補助吊架線が省略される。この場合には、吊架線とトロリ線とが、ハンガにより連結される。このような構造の架線において、パンタグラフ1が、たとえば、図2の矢印方向に移動する。図1を参照して説明したように、パンタグラフ1は上昇力により上向きに付勢され、ある接触力でトロリ線5に接触するため、トロリ線に応力が作用する。トロリ線5に作用する応力によってトロリ線5には歪が生じる。前述したように、従来は、トロリ線5の所定の位置に、直接、歪ゲージを貼り付けて、その波形を記録していた。したがって、歪ゲージが貼り付けられた位置でだけ、波形の時間的変化を記録できていたが、それ以外の場所の歪を知ることができなかった。本実施の形態では、後述するように、パンタグラフ1がトロリ線5に接触しつつ移動するときのそれぞれの時刻tにおける歪を推定することが可能となる。すなわち、本実施の形態においては、パンタグラフ1の舟体12がトロリ線5と接触して移動した状態において、それぞれの時刻における当該パンタグラフ1の舟体12が接触した位置の接触力に基づいて、当該時刻におけるトロリ線の歪を推定するため、トロリ線において連続した歪の推定値を得ることが可能となる。
【0025】
図3は、本実施の形態にかかるトロリ線の歪推定システムの構成を示すブロックダイヤグラムである。図3に示すように、歪推定システム100は、キーボードやマウスを含む入力装置102、表示装置104、入出力インタフェース(I/F)106、および、記憶装置108を備える、入出力I/F106は、図示しない外部ネットワークとのデータ通信を制御することもできる。また、歪推定システム100は、ニューラルネットワークモデル(NNモデル)を学習させる学習処理部110と、学習されたNNモデルに基づいて推定値を算出する推定値算出処理部112と、記憶装置に記憶された接触力や歪の時間軸のデータに、短時間フーリエ変換(STFT)を施して、ある時間帯ごとの周波数成分(複素データ)を算出するとともに、周波数成分(周波数軸のデータ)に逆短時間フーリエ変換を施して、時間軸のデータを算出するフーリエ変換・逆変換処理部124とを備えている。
【0026】
歪推定システム100は、コンピュータに、歪推定プログラムをインストールすることにより実現され、コンピュータが、学習処理部110、推定値算出処理部112およびフーリエ変換・逆変換処理部124として機能する。
【0027】
図3に示すように、記憶装置108には、NNモデルをシステム上で構築するためのデータであるNNモデルデータ114が含まれる。図4は、ニューラルネットワークを構成するニューロンモデルの例を示す図である。図4に示すように、ニューラルネットワークにおいては、ニューロン400は、入力側で1以上の他のニューロンと結合される。ニューロン間の結合のそれぞれには重みが割り当てられ、入力が通る結合に対応する重みとの積(たとえば、「入力1×重み1」、「入力2×重み2」、「入力3×重み3」)が、ニューロン400に与えられる。ニューロン400においては、入力と対応する重みとの積の総和を算出して、閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力する。したがって、NNモデルデータ114には、ニューロン間の結合の情報、結合に関連付けられた重み、ニューロンの閾値が含まれる。結合に関連付けられた重みおよびニューロンの閾値は、後述する学習の間に随時更新されていく。
【0028】
また、図3に示すように、記憶装置108には、学習用の接触力実測値データ群116と、学習用の歪実測値データ118群が格納される。これは、NNモデルの学習の際に利用される。
【0029】
接触力実測値データ群116は、接触力実測値データと、後述するように、接触力実測値データにSTFTを施して算出した接触力実測値の時間・周波数領域データとを有する。たとえば、接触力実測値データは、パンタグラフ1の舟体16に加速度計と歪ゲージを取り付けて、パンタグラフ1の舟体16がトロリ線5に接触した状態で列車を走行させて測定したデータであっても良い。或いは、実際の架線の状態およびパンタグラフをモデルに置き換えてその運動方程式を作成して、それを解くこと、つまり、シミュレーションによって接触力実測値データを取得し、これを記憶装置108に格納しても良い。なお、本明細書において、実測値とは、シミュレーションにより得られた値、或いは、実際にパンタグラフやトロリ線に器具を取り付けて測定した値を含む。これは、学習後のNNモデルの出力層から出力される推定値と区別するために実測値と称している。学習用の接触力実測値データは、ある区間におけるパンタグラフの接触力に関するデータであり、学習用の歪実測値データは、当該区間におけるトロリ線の歪に関するデータである。また、推定用の接触力実測値データは、通常は他の区間におけるパンタグラフの接触力に関するデータであるが、得られた歪推定値データを検証するために、推定用の接触力実測値データとして、学習用の接触力実測値データを使用しても良い。
【0030】
学習用の歪実測値データ群118も、歪実測値データと、歪実測値データにSTFTを施して算出した歪実測値の時間・周波数領域データとを有する。前述したようにトロリ線の歪の実測値を連続して得るのは困難である。そこで、トロリ線の歪も同様にシミュレーションにより算出し、歪実測値データ118として記憶装置108に記憶する。
【0031】
なお、本実施の形態では、シミュレーションにより車両を270kmで走行させたサンプリング周波数1875Hzとして5316個の学習サンプルを用意した。
【0032】
記憶装置108には、学習後のNNモデルを用いて、歪の推定値を得るために利用される、推定用の接触力実測値データ群が格納される。推定用の接触力実測値データ群も、接触力実測値データと、接触力実測値データに短時間フーリエ変換を施して算出した時間・周波数領域データとを有する。推定用の接触力実測値データも、パンタグラフ1の舟体16に加速度計と歪ゲージを取り付けて走行した結果得られたものであっても良いし、シミュレーションにより得られたものであっても良い。
【0033】
以下、本実施の形態にて使用するパラメータを以下のように表す。
【0034】
f(t)(k=1~m):時刻tにおける接触力実測値データ
F(t,f)(k=1~m、i=1~n):時刻tにおける接触力実測値の時間・周波数領域データの周波数f成分(複素数)
h(t)(k=1~m):時刻tにおける学習用の歪実測値データ
H(t,f)(k=1~m、i=1~n):時刻tにおける学習用の歪実測値の時間・周波数領域データの周波数f成分(複素数)
H’(t,f)(k=1~m、i=1~n):時刻tにおける歪推定値の時間・周波数領域データの周波数f成分(複素数)
h’(t)(k=1~m):時刻tにおける歪推定値データ
フーリエ変換・逆変換処理部124は、記憶装置108から、接触力実測値データ群116中の接触力実測値データを読み出して、これにSTFTを施して、接触力実測値の時間・周波数領域データを算出し、算出された接触力実測値の時間・周波数領域データを記憶装置108に格納する。より詳細には、図5に示すように、フーリエ変換・逆変換処理部124は、記憶装置108の学習用の接触力実測値データから、ある時刻tおよびその前後所定時間のデータf(tk-j)~f(tk+j)を取得し(ステップ501)、これら値に窓関数をかける(ステップ502)。窓関数として、たとえば、ガウシアンウィンドウを利用することができる。次いで、フーリエ変換・逆変換処理部124は、上述した窓関数が掛けられた値をフーリエ変換する(ステップ503)。これにより、複素数の接触力実測値の時間・周波数領域データF(t,f)が算出され、記憶装置108に記憶される(ステップ504)。その後、kをインクリメントして新たなtについて、同様の演算(窓関数を掛けた後にフーリエ変換)を繰り返す(ステップ505~506)。
【0035】
学習用の歪実測値データについても、フーリエ変換・逆変換処理部124が、図5と同様の処理を実行して、歪実測値の時間・周波数領域データH(t,f)(k=1~m、i=1~n)を生成し、記憶装置108に記憶する。推定用の接触力実測値データについても、フーリエ変換・逆変換処理部124が、図5と同様の処理を実行して、接触力実測値の時間・周波数領域データF(t,f)(k=1~m、i=1~n)を生成し、記憶装置108に記憶する。
【0036】
このようにして得られた学習用の接触力実測値の時間・周波数領域データF(t,f)(k=1~m、i=1~n)、および、学習用の歪実測値の時間・周波数領域データH(t,f)(k=1~m、i=1~n)を利用して、NNモデルを学習させて、ニューロン間の結合に関連付けられた重みを適したものにする。
【0037】
図6は、学習時のNNモデルの構造を模式的に示す図である。図6に示すように、接触力実測値の時間・周波数領域データF(t,f)(k=1~m、i=1~n)が、それぞれ入力層のニューロンに入力され、入力成分は中間層のニューロンを伝搬して出力層のニューロンに達する。その一方、教師信号として、歪実測値の時間・周波数領域データH(t,f)(k=1~m、i=1~n)が出力層のニューロンに与えられ、複素誤差伝搬法(複素BP(Back Propagation)法)により誤差成分が中間層のニューロンを出力層から入力層に向かって逆向きに伝搬し、ニューロン間の結合に関連付けられた重みなどが修正される。
【0038】
複素BP法は、たとえば、「高次元ニューラルネットワーク関連研究の現状」(新田徹、田中勝著、電子技術総合研究所調査報告第228号 1999年4月16日)、「高次元化されたパラメータを持つ階層型ニューラルネットワークの研究」(電子技術総合研究所研究報告、1995年11月)にその詳細が記載されている。
【0039】
上述したように、本実施の形態において、接触力実測値の時間・周波数領域データから歪推定値の時間・周波数領域データを推定するために、ニューラルネットとして、複素BPネットワークが使用される。以下、複素BPネットワークについて簡単に説明する。
【0040】
複素BPネットワークにおいては、以下の変数が使用される。なお、以下の変数の添え字は、複素BPネットワークの説明の限りのものでえる。
【0041】
:中間複素ニューロンjの内部ポテンシャル
:出力複素ニューロンkの内部ポテンシャル
:入力複素ニューロンiの出力値
:中間複素ニューロンjの出力値
:出力複素ニューロンkの出力値
ji:入力複素ニューロンiと中間複素ニューロンj間の結合の重み
kj:中間複素ニューロンjと出力複素ニューロンk間の結合の重み
θ:中間複素ニューロンjがもつ閾値
γ:出力複素ニューロンkがもつ閾値
:出力複素ニューロンkに対する教師パターン
δ:出力複素ニューロンkの誤差
:複素パターンpに対する二乗誤差
ニューロンの入力信号zに対して、出力信号f(z)は以下の(1)式のように定義される。
【0042】
(z)=f(x)+if(y) z=x+iy
・・・・(1)
ただし、f(u)=1/(1+e-u)である。
【0043】
簡単のために、3層のニューラルネットワークを考えると、中間層および出力層のニューロンの内部ポテンシャルは、それぞれ、(2)式、(3)式とおける。
【0044】
【数1】
JP0004394656B2_000002t.gif
また、中間層および出力層のニューロンの出力値は、それぞれ、(4)式、(5)式とおける。
【0045】
=f(U) ・・・・(4)
=f(S) ・・・・(5)
ここで、出力複素ニューロンkに対する教師パターンTと、出力複素ニューロンkの出力値Oとの差は、(6)式に示すものとなる。
【0046】
δ=T-O ・・・・(6)
複素パターンpに対する二乗誤差を、(7)式のように定義する。
【0047】
このニューラルネットワークの学習の際の重みと閾値の修正アルゴリズムにおいて、学習率εを十分小さくとると、各重みと閾値の修正量は、(8)式~(11)式に示すようになる。
【0048】
【数2】
JP0004394656B2_000003t.gif
本実施の形態においても、上記原理に基づいて、結合に関連付けられた重みや閾値が修正される。
【0049】
図7は、学習時に歪推定システムにより実行される処理を概略的に示すフローチャートである。図7に示すように、学習処理部110は、記憶装置108からNNモデルデータを読み出し(ステップ701)、まず、各ニューロン間の結合に関連付けられた重みの初期値として、乱数を用いた小さい値を付与する(ステップ702)。次いで、パラメータkを初期化して(ステップ703)、入力層に、接触力実測値の時間・周波数領域データF(t,f)を与える形で、演算を実行する(ステップ704)。演算においては、学習処理部110は、入力信号が出力層に向けて伝搬されるように、順次、入力信号と結合の重みとの積を算出し、各ニューロンについて積の総和を算出して、閾値を超えたか否かを判断する。あるニューロンについて閾値を超えていると判断された場合には、ニューロンを発火させて、所定の値の信号を結合されたニューロンに対して出力する。
【0050】
また、学習処理部110は、出力層に、歪実測値の時間・周波数領域データH(t,f)(k=1~m、i=1~n)を与える形で、誤差逆伝搬法により、各ニューロン間の結合に関連付けられた重みを学習させ(ステップ705)、各ニューロン間の結合に関連付けられた重み、および、各ニューロンの閾値を更新し、更新された重みおよび閾値を、記憶装置108に一時的に記憶する(ステップ706)。ステップ703~705の処理を、全てのtについて実行する(ステップ707、708参照)。本実施の形態においては、さらに、ステップ703~ステップ708を、所定の回数だけ繰り返す(ステップ709参照)。このような繰り返しにより、NNモデルにおいて入力信号と教師信号との間の関係が学習され、各ニューロン間の結合に関連付けられた重みや各ニューロンの閾値が適切な値となる。
【0051】
学習により、各ニューロン間の結合に関連付けられた重みや各ニューロンの閾値が適切なものなり、これら値が記憶装置108にNNモデルデータ114として格納される。この状態で、推定値算出処理部112は、NNモデルデータ114および推定用の接触力実測値の時間・周波数領域データに基づいて、歪推定値の時間・周波数領域データを算出する。図8は、推定時のNNモデルの構造を模式的に示す図である。図8に示すように、接触力実測値の時間・周波数領域データF(t,f)(k=1~m、i=1~n)が、それぞれ入力層のニューロンに入力され、入力成分は中間層のニューロンを伝搬して出力層のニューロンに達する。出力層からは、歪推定値の時間・周波数領域データH’(t,f)(k=1~m、i=1~n)が出力される。
【0052】
図9は、推定時に歪推定システムにより実行される処理を概略的に示すフローチャートである。図9に示すように、推定値算出処理部112は、記憶装置108からNNモデルデータを読み出し(ステップ901)、処理に使用するパラメータkを初期化する(ステップ902)。次いで、推定値算出処理部112は、入力層に、接触力実測値の時間・周波数領域データF(t,f)を与える形で、演算を実行する(ステップ903)。演算においては、学習処理部110は、入力信号が出力層に向けて伝搬されるように、順次、入力信号と結合の重みとの積を算出し、各ニューロンについて積の総和を算出して、閾値を超えたか否かを判断する。あるニューロンについて閾値を超えていると判断された場合には、ニューロンを発火させて、所定の値の信号を出力する。入力層から出力層に向けて、順次、信号の重み付け、ニューロンにおける総和の算出、閾値との比較および信号の出力を繰り返すことにより、出力層から、歪推定値の時間・周波数領域データH(t,f)が出力される。この歪推定値の時間・周波数領域データH(t,f)は、歪推定値データ群122の部分として記憶装置108に記憶される(ステップ904)。推定値算出処理部112は、ステップ903および904の処理を、全てのtについて実行する(ステップ905、906参照)。
【0053】
このようにして、歪推定値の時間・周波数領域データH’(t,f)(k=1~m、i=1~n)が得られ、これらデータが記憶装置108に記憶される。歪推定値の時間・周波数領域データは、周波数成分(周波数軸のデータ)に分解された状態であるため、これに逆短時間フーリエ変換を施すことで、歪推定値データh’(t)を求めることができる。図9に示すように、フーリエ変換・逆変換処理部124は、記憶装置108から、歪推定値データ群122中、歪推定値フーリエ変換データを読み出し(ステップ907)、処理に使用するパラメータkを初期化する(ステップ908)。
【0054】
次いで、フーリエ変換・逆変換処理部124は、歪推定値フーリエ変換データH’(t,f)に、逆短時間フーリエ変換を施して(ステップ909)、逆短時間フーリエ変換により得られた歪推定値データh’(t)を、歪推定値データ群122の部分として記憶装置108に記憶する(ステップ910)。フーリエ変換・逆変換処理部124は、ステップ909、910の処理を、全てのtについて実行する(ステップ911、912参照)。これにより、時間軸のデータである歪推定値データを記憶装置108中に記憶することができる。
【0055】
図10は、シミュレーションにより車両を270kmで走行させたサンプリング周波数1875Hzとして5316個の学習サンプル(接触力実測値データおよび歪実測値データ)を用意し、これらを用いて学習を行った後、同じサンプル(接触力実測値データ)を用いて、歪推定値データを得た例を示す。上段に示す歪(歪推定値データ)において、シミュレーションにより得られた教師信号と、学習後に行った歪推定値データ(推定結果)とを比較すると、教師信号と推定結果は、ほぼ一致していることがわかる。
【0056】
図11は、図10に示すような学習を経たNNモデルを用いて、他の条件の下でシミュレーションにより得られた接触力実測値データを用いて、歪推定値データを得た例を示す。なお、比較のため、上記他の条件の下でのシミュレーションにより得られた歪実測値データを理論値として示した。図11の例では、図10に示す例で学習したNNモデルを適用しているが、理論値と、歪推定値データ(推定結果)とが非常によく一致していることがわかる。通常、歪は、最大値が問題となるため、正確な最大値が得られれば、極小値の誤差は問題にならない。図11の例によれば、接触力が著大な値を示している部分についても、トロリ線歪は適切な値で推定されており、本手法の有効性を裏付けている。
【0057】
上述したように、本実施の形態によれば、ある区間におけるパンタグラフの接触力実測値データおよび同じ区間における歪実測値データに基づいて、NNモデルを学習させ、適切な、NNモデルにおける各ニューロン間の結合に関連付けられた重みおよび各ニューロンの閾値を記憶装置に記憶しておけば、他の区間におけるパンタグラフの接触力実測値データをNNモデルの入力層に与えることで、当該区間における適切な歪推定値データを取得することが可能となる。
【0058】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0059】
前記実施の形態においては、
F(t,f)(k=1~m、i=1~n):時刻tにおける接触力実測値の時間・周波数領域データの周波数f成分(複素数)
H(t,f)(k=1~m、i=1~n):時刻tにおける学習用の歪実測値の時間・周波数領域データの周波数f成分(複素数)
を利用してNNモデルを学習させ、推定の際には、
F(t,f)(k=1~m、i=1~n):時刻tにおける接触力実測値の時間・周波数領域データの周波数f成分(複素数)
を入力層に与え、出力層から、
H’(t,f)(k=1~m、i=1~n):時刻tにおける歪推定値の時間・周波数領域データの周波数f成分(複素数)
が出力されるように構成した。しかしながら上述した構成に限定されるものではない。
【0060】
たとえば、入力層として、
f(tk-a)~f(k+a)(k=1~m):時刻tk-a~tk+aにおける接触力実測値データを使用し、出力層として、
h(t):時刻tにおける歪推定値データが出力されるように構成しても良い。つまり、この例では、ある時刻tを中心とする一定範囲の(複数の)接触力実測値から、入力信号を、NNモデルのニューロンを伝搬させることで、ある時刻tにおける(単一の)歪推定値が得られる。
【0061】
図12は、本発明の他の実施の形態にかかる学習時のNNモデルの構造を模式的に示す図である。図12に示すように、時刻tの前後aの範囲(tk-a~tk+a)の接触力実測値データf(tk—a)~f(tk+a)(k=1~m)が、それぞれ入力層のニューロンに入力され、入力成分は中間層のニューロンを伝搬して出力層のニューロンに達する。その一方、教師信号として、歪実測値データh(t)(k=1~m)を出力層のニューロンに与え、誤差伝搬法(BP(Back Propagation)法)により誤差成分が中間層のニューロンを出力層から入力層に向かって逆向きに伝搬し、ニューロン間の結合に関連付けられた重みおよびニューロンの閾値が修正される。
【0062】
図13は、本発明の他の実施の形態にかかる推定時のNNモデルの構造を模式的に示す図である。図8に示すように、時刻tの前後aの範囲(tk-a~tk+a)の接触力実測値データf(tk—a)~f(tk+a)(k=1~m)が、それぞれ入力層のニューロンに入力され、入力成分は中間層のニューロンを伝搬して出力層のニューロンに達する。出力層からは、歪推定値データh’(t)(k=1~m)が出力される。
【0063】
上記他の実施の形態では、STFTを施したスペクトルの情報(周波数成分)の代わりに、実測値データそのものが利用されるため、短時間フーリエ変換処理(図5)および出力層の推定値に対する逆短時間フーリエ変換処理(図9のステップ907以降)は行われない。他の実施の形態においても、学習処理において、学習処理部110が、NNモデルデータ中、ニューロン間の結語に関連付けられた重みを初期化する(ステップ702)。その後、学習処理部110は、それぞれのt(k=1~m)について、入力層に、時間tの前後aの範囲の、学習用の接触力実測値データf(tk—a)~f(tk+a)を与える形で、演算を実行する(ステップ704)。演算においては、学習処理部110は、入力信号が出力層に向けて伝搬されるように、順次、入力信号と結合の重みとの積を算出し、各ニューロンについて積の総和を算出して、閾値を超えたか否かを判断する。あるニューロンについて閾値を超えていると判断された場合には、ニューロンを発火させて、所定の値の信号を出力する。また、学習処理部110は、出力層に、歪実測値データh(t)を与える形で、誤差逆伝搬法により、各ニューロン間の結合に関連付けられた重みを学習させ(ステップ705)、各ニューロン間の結合に関連付けられた重み、および、各ニューロンの閾値を更新し、更新された重みおよび閾値を、記憶装置108に一時的に記憶する(ステップ706)。また、上述した処理ステップ(ステップ703~709)を所定回数(たとえば6000回)繰り返すことも、先に説明した実施の形態と同様である。
【0064】
推定の際にも、推定値算出処理部112は、記憶装置108からNNモデルデータを読み出す(ステップ901)。また、それぞれのt(k=1~m)について、推定値算出処理部112は、時間tの前後aの範囲の、推定用の接触力実測値データf(tk—a)~f(tk+a)を与える形で、演算を実行する(ステップ903)。演算においては、学習処理部110は、入力信号が出力層に向けて伝搬されるように、順次、入力信号と結合の重みとの積を算出し、各ニューロンについて積の総和を算出して、閾値を超えたか否かを判断する。あるニューロンについて閾値を超えていると判断された場合には、ニューロンを発火させて、所定の値の信号を出力する。入力層から出力層に向けて、順次、信号の重み付け、ニューロンにおける総和の算出、閾値との比較および信号の出力を繰り返すことにより、出力層から、歪推定値データh(t)が出力される。この歪推定値データh(t)は、歪推定値データ群122として記憶装置108に記憶される(ステップ904)。
【0065】
他の実施の形態では、短時間フーリエ変換および逆短時間フーリエ変換を要しないため処理を単純化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、本実施の形態において、トロリ線の歪を推定するためにトロリ線と接触しつつ移動するパングラフの構造を示す機構図である。
【図2】図2は、架線の構造の一例を概略的に示す図である。
【図3】図3は、本実施の形態にかかるトロリ線の歪推定システムの構成を示すブロックダイヤグラムである。
【図4】図4は、ニューラルネットワークを構成するニューロンモデルの例を示す図である。
【図5】図5は、短時間フーリエ変換の処理例を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本実施の形態における学習時のNNモデルの構造を模式的に示す図である。
【図7】図7は、本実施の形態において学習時に歪推定システムにより実行される処理を概略的に示すフローチャートである。
【図8】図8は、本実施の形態における推定時のNNモデルの構造を模式的に示す図である。
【図9】図9は、本実施の形態において推定時に歪推定システムにより実行される処理を概略的に示すフローチャートである。
【図10】図10は、学習サンプル(接触力実測値データおよび歪実測値データ)を用意し、これらを用いて学習を行った後、同じサンプル(接触力実測値データ)を用いて、歪推定値データを得た例を示すグラフである。
【図11】図11は、図10に示すような学習を経たNNモデルを用いて、他の条件の下でシミュレーションにより得られた接触力実測値データを用いて、歪推定値データを得た例を示すグラフである。
【図12】図12は、本発明の他の実施の形態における学習時のNNモデルの構造を模式的に示す図である。
【図13】図13は、本発明の他の実施の形態における推定時のNNモデルの構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 パンタグラフ
5 トロリ線
100 歪推定システム
108 記憶装置
110 学習処理部
112 推定値算出処理部
114 NNモデルデータ
116 学習用の接触力実測値データ群
118 歪実測値データ群
120 推定用の接触力実測値データ群
122 歪推定値データ群
124 フーリエ変換・逆変換処理部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図12】
9
【図13】
10
【図10】
11
【図11】
12