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明細書 :パンタグラフの接触力変動低減方法及びパンタグラフ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4782597号 (P4782597)
公開番号 特開2007-267442 (P2007-267442A)
登録日 平成23年7月15日(2011.7.15)
発行日 平成23年9月28日(2011.9.28)
公開日 平成19年10月11日(2007.10.11)
発明の名称または考案の名称 パンタグラフの接触力変動低減方法及びパンタグラフ
国際特許分類 B60L   5/24        (2006.01)
FI B60L 5/24 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 7
出願番号 特願2006-085400 (P2006-085400)
出願日 平成18年3月27日(2006.3.27)
審査請求日 平成20年8月6日(2008.8.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】池田 充
【氏名】小山 達弥
【氏名】竹田 真
個別代理人の代理人 【識別番号】100078950、【弁理士】、【氏名又は名称】大塚 忠
審査官 【審査官】東 勝之
参考文献・文献 特開平07-123505(JP,A)
特開平09-252502(JP,A)
特開2000-125403(JP,A)
特開平07-107604(JP,A)
調査した分野 B60L 5/00 - 5/42
特許請求の範囲 【請求項1】
トロリ線に押し当てられるすり板体と、
このすり板体をトロリ線に押し当てるバネと、
このバネに作用する力を測定するセンサと、
すり板体近傍の空気の相対速度を測定する流速センサと、
れらのセンサの測定値に基づいて前記すり板体をトロリ線に押し当てる押上力を制御するアクチュエータとを具備するパンタグラフのトロリ線への接触力の変動を低減する方法であって、
前記センサにより前記バネに作用する力を測定し、
前記流速センサにより電車走行時のすり板体近傍の空気の相対速度を測定し、
この空気の相対速度に対応して予め試験により測定され又は算出されたすり板体の揚力を前記センサの測定値に基づいて測定されたバネ力に加算することにより、トロリ線へのすり板体の接触力を求め、
この接触力を一定にするようにアクチュエータを制御することを特徴とするパンタグラフの接触力変動低減方法。
【請求項2】
前記すり板体近傍の空気の相対速度の2乗に特定の係数を乗算することによりすり板体の揚力を求めることを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフの接触力変動低減方法。
【請求項3】
トロリ線に押し当てられるすり板体と、
このすり板体をトロリ線に押し当てるバネと、
このバネに作用する力を測定するセンサと、
このセンサの測定値に基づいて前記すり板体をトロリ線に押し当てる押上力を制御するアクチュエータとを具備するパンタグラフであって、
前記すり板体近傍の空気の相対速度を測定するように設けられた流速センサと、この空気の相対速度に対応して、予め試験により測定され又は算出されたすり板体の揚力を、前記センサの測定値に基づいて測定されたバネ力に加算することにより、トロリ線へのすり板体の接触力を求め、これに応じて前記アクチュエータを制御する制御手段と、を備えることを特徴とするパンタグラフ。
【請求項4】
前記すり板体の揚力は、すり板体近傍の空気の相対速度の2乗に特定の係数を乗算することにより求めることを特徴とする請求項に記載のパンタグラフ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道におけるトロリ線(架線)とパンタグラフとの間に作用する接触力の変動を低減する方法及び接触力変動の低減が可能なパンタグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
現状の電気鉄道においては、トロリ線(架線)から車体屋根に搭載されたパンタグラフを介して車両に電力を送る方式が一般的である。このようなパンタグラフは、トロリ線に押し当てられるすり板体と、このすり板体をバネにより支持する舟体と、舟体を昇降可能に支持すると共にトロリ線に押し当てる押上力を付与する支持機構とを備えている。また、他のパンタグラフの例として,トロリ線に押し当てられるすり板体と,このすり板体を直接支持する舟体と,この舟体をバネにより支持すると共に舟体を昇降可能に支持する支持機構とを備えたものがある。以下では主として前者の形態のパンタグラフを例に説明を行なう。
トロリ線とパンタグラフのすり板体との接触力は、トロリ線の高さ変動や車両・パンタグラフの振動によって変動する。この接触力の変動が大きすぎると、パンタグラフのすり板体がトロリ線から離線するおそれがある。離線が頻発すると、すり板体とトロリ線との間にスパークが生じて、すり板体やトロリ線の摩耗が進む。また、常に接触力が大きくなる箇所では、トロリ線の局所的な摩耗が進行する可能性もある。以上のように、離線に至らない場合でも、パンタグラフの接触力は極力変動が小さいことが好ましい。
【0003】
このため、トロリ線とパンタグラフのすり板体との間に作用する接触力の変動を低減する技術がいくつか提案されており、そのうち、アクティブ方式のパンタグラフとして、特許文献1に記載のものがある。このパンタグラフは、すり板体を支持するバネの変位又は力をセンサで測定し、その変位又は力の変動の低周波数成分をゼロに近づけるようにアクチュエータを制御することによって、トロリ線(架線)に押し当てるすり板体の押上力を調整するものである。
このパンタグラフによれば、すり板体を支持するバネの変位の低周波成分を制御目標量とし、このバネの変位又は力をセンサが測定するものであるため、センサの数が少なくて済み、測定自体も容易となり、簡便に接触力の変動を低減するとされている。

【特許文献1】特開平2005-287209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のパンタグラフにおいては、すり板体支持部に設置したセンサにより接触力を測定し、その測定値が一定になるようにアクチュエータで制御している。このようにセンサにより測定した接触力は、すり板体を支持するバネのバネ力によるものであって、電車走行時の風圧によりすり板体に働く揚力による接触力の増加分を測定することができず、正確な接触力とは異なる値となってしまい、高い精度で接触力の変動を低減することが難しい。特に、高速用のパンタグラフでは空気力の影響を強く受けるため、この傾向が顕著になる。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、すり板体に作用する揚力によるトロリ線への接触力変動も考慮し、高い精度で接触力を常に一定に保つアクティブ制御を行うパンタグラフの接触力変動低減方法及びパンタグラフを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のパンタグラフの接触力変動低減方法は、センサ9によりバネの変位又は力を測定し、また電車走行時のすり板体5近傍の空気の相対流速を測定し、この流速に対応して予め試験により測定され又は算出された揚力Fをセンサ9により測定されたバネ力Fに加算することにより、トロリ線への舟体の接触力Fを求め、この接触力Fを一定にするようにアクチュエータ8を制御する。
【0006】
本発明のパンタグラフは、トロリ線Tに押し当てられるすり板体5と、このすり板体5をトロリ線Tに押し当てるバネ6と、このバネ6の変位又は力を測定するセンサ9と、このセンサ9の測定値に基づいてすり板体5をトロリ線Tに押し当てる押上力Fを制御するアクチュエータ8とでパンタグラフ1を構成する。すり板体5の近傍の流速を測定するようにピトー管10などの流速センサを設け、これにより測定した流速に対応して、予め試験により測定され又は算出された揚力Fをセンサ9により測定されたバネ力Fに加算することにより、トロリ線Tへのすり板体5の接触力Fを求め、これに応じてアクチュエータ8を制御する制御手段12を設けた。
【0007】
すり板体5の揚力Fは、パンタグラフ1に設けたピトー管10などのセンサにより測定されたすり板体5近傍の空気の流速の2乗に特定の係数Cを乗算して求めることとした。
【0008】
ピトー管などのセンサの設置が難しい場合等には,すり板体5近傍の空気の流速を近似的に列車速度から推定することとした。
【0009】
さらに,列車走行路の周辺環境に応じて予め求められた所定の倍率を乗算することにより列車速度を補正して、すり板体5近傍の空気の流速を精度良く推定することとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、センサにより測定したバネ力に、ピトー管などにより測定したすり板体近傍の空気の相対流速に対応する揚力を加えることにより、トロリ線へのパンタグラフの接触力を正確に求めることができ、この接触力に応じてアクチュエータを制御するので、接触力の変動を高い精度で低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の一形態を説明する。図1は本実施例に係るパンタグラフの制御系統ブロック図、図2は原理確認のためのパンタグラフの風洞試験装置の概略図、図3は揚力を考慮した接触力制御を行わない場合の接触力の変化を示すグラフ、図4は揚力を考慮した接触力制御を行った場合の接触力の変化を示すグラフである。
【0012】
図1は、本発明に係るパンタグラフの一実施形態である。パンタグラフ1は、電車の車体屋根2上に搭載される。このパンタグラフ1は、すり板体5を支持する舟体3と、この舟体3を車体屋根2上で昇降可能に支持する支持機構4とを備えている。
【0013】
舟体3は、車体幅方向(左右方向:図2の紙面表裏方向)に沿って延びる箱状体である。この舟体3は、一例でアルミニウム合金等からなる。図1に示す実施形態では,舟体3はバネ6を介してすり板体5を支持する。このすり板体5は、一例で鉄系や銅系の焼結合金製、あるいは、カーボン系材料等からなる。このすり板体5がトロリ線Tに直接接触する。
なお,すり板体5は舟体3にボルト結合し,バネを介して舟体3を支持機構4に支持するように構成してもよい。
【0014】
舟体3は、支持機構4に含まれる上下に伸縮可能な枠体(図示せず)により昇降可能に支持される。この支持機構4には、定常的な押上力を付与する押上バネ7及び制御力を付与するアクチュエータ8を備えている。押上バネ7は、舟体3,すり板体5をトロリ線Tに押し付けるものである。アクチュエータ8は押上バネ7と並行して設けられている。このアクチュエータ8の出力端が舟体3に連結されている。アクチュエータ8は、舟体3,すり板体5をトロリ線Tに押し当てる押上力を制御するもので、例えばエアシリンダを用いる。
【0015】
すり板体5を支持するバネ6には力センサ9が臨む。力センサ9には例えば光ファイバ式の歪みゲージが用いられる。力センサ9は、バネ6のひずみもしくは変位からバネ力を計測する。
【0016】
舟体3には、空気の相対流速を測定する流速センサであるピトー管10が設けられている。ピトー管10は電車走行時の舟体3近傍の空気の動圧を測定して相対流速を求めるものである。すり板体5に働く揚力は相対流速と一定の関係にあるので、流速に対応する揚力を求めるための係数を風洞試験により予め求めておき、ピトー管10により測定された動圧(流速の2乗)に係数を乗算することにより揚力Fを算出することができる。ピトー管10により測定された動圧にはコントローラ11によって係数が乗算されることにより揚力が算出される。この揚力はトロリ線Tへのすり板体5の接触力の増加分となる。
なお、ピトー管10に代えて,アネモマスター,ドップラー流速計,熱線流速計などを適用してもよい。
【0017】
また、ピトー管などの流速センサの設置が難しい場合には,すり板体5近傍の空気の流速を近似的に列車速度から推定してもよい。
【0018】
さらに、列車走行路の周辺環境の情報、例えばトンネルの有無等流速の変化要因に応じて列車速度に対する補正を加えることにより、すり板体5近傍の空気の流速をより高い精度で推定するようにしてもよい。例えばトンネル区間においては、すり板体5近傍の空気の流速をトンネル外の列車速度に所定の倍率(例えば1.2倍)を乗じた値としたり、その倍率も列車種別により異なるものとするなどの補正を加えるものである。これらの空気の流速の変化要因に対応する上記倍率は予め試験等により求められている。
【0019】
上記風洞試験は、図2に示すように、舟体3と台枠15の上下端部を試験用バネ13及びロードセル14で結合し、水平方向から風を送り、試験用バネ13の収縮力に抗して発生する揚力をロードセル14で測定する。この試験では、トロリ線への接触力が常に60Nとなるようにアクチュエータ8を制御した。なお、風速は150,220,270,300,350km/hと段階的に変化させた。
この結果、図3,図4に示すように、風速を増加させることによりすり板体5に加わる揚力は増大し、この揚力のために、舟体3内部に設置した力センサ9により測定したバネ力から推定される押上力は、ロードセル14により測定した接触力より小さい値となる。従って、接触力に揚力を考慮しない場合には、図3に示すように、風速が増加するにつれて目標値との偏差が増加し、その偏差分だけ過大な制御を行うことになってしまう。一方、本発明の方法を適用して接触力に揚力を考慮した場合には、図4に示すように、風速が増加しても目標値に近い範囲でほぼ一定し、正確な制御となっている。このように、本発明を適用することにより、揚力による影響を考慮した接触力制御を行うことが可能であるといえる。
【0020】
本実施形態に係るパンタグラフ1の制御動作について説明する。
舟体3は支持機構4により上昇してトロリ線Tに接触した後、バネ6の付勢力によりすり板体5がトロリ線Tに押し当てられる。力センサ9は、バネ6のひずみによりそこに作用するバネ6のバネ力を測定する。トロリ線Tへのすり板体5の接触力をF、力センサ9によるバネ力をF、ピトー管10により測定したすり板体5の動圧(相対流速の2乗に比例)に上記係数Cを乗算した揚力をFとすれば、
=F+F として正確な接触力を求めることができる。
【0021】
比例積分微分(PID:Proportional-Integral-Differential)制御器12は、比例動作に積分動作と微分動作を加えた制御を行い、残留偏差をなくすように前述のアクチュエータ8の出力を制御する。このPID制御器12には、すり板体5からトロリ線Tに加わるすり板体5の接触力F=F+Fと、制御目標量Fとが入力されて両者の差が演算され、アクチュエータ8に対する操作量Fconstが出力される。このようなアルゴリズムによって、制御目標量Fの変動をゼロに近づけるようなアクチュエータ8の出力が与えられる。
【0022】
なお、パンタグラフの他の実施形態として,図示しないが、先の実施形態におけるすり板体5が舟体3により直接支持され,この舟体3を車体屋根2上で昇降可能に支持すると共にバネにより舟体3をトロリ線Tに押し当てる押上力を付与する支持機構4を備えたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、電気鉄道におけるトロリ線とパンタグラフとの間に作用する接触力の変動を低減するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施例に係るパンタグラフの接触力変動低減方法の制御系統ブロック図である。
【図2】本実施例に係るパンタグラフの風洞試験装置の概略図である。
【図3】揚力を考慮しない制御の場合の接触力の変化を示すグラフである。
【図4】揚力を考慮した制御の場合の接触力の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 パンタグラフ
2 車体屋根
3 舟体
4 支持機構
5 すり板体
6 バネ
7 押上バネ
8 アクチュエータ
9 力センサ
10 ピトー管
11 コントローラ
12 比例積分微分制御器
13 試験用バネ
14 ロードセル
15 台枠
T トロリ線
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3