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明細書 :パンタグラフの接触力測定方法及び接触力測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4954733号 (P4954733)
公開番号 特開2008-185458 (P2008-185458A)
登録日 平成24年3月23日(2012.3.23)
発行日 平成24年6月20日(2012.6.20)
公開日 平成20年8月14日(2008.8.14)
発明の名称または考案の名称 パンタグラフの接触力測定方法及び接触力測定装置
国際特許分類 G01L   5/00        (2006.01)
B60L   5/24        (2006.01)
FI G01L 5/00 Z
B60L 5/24 A
請求項の数または発明の数 19
全頁数 17
出願番号 特願2007-019237 (P2007-019237)
出願日 平成19年1月30日(2007.1.30)
審査請求日 平成21年3月18日(2009.3.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】小山 達弥
【氏名】池田 充
個別代理人の代理人 【識別番号】100100413、【弁理士】、【氏名又は名称】渡部 温
【識別番号】100123696、【弁理士】、【氏名又は名称】稲田 弘明
審査官 【審査官】上田 正樹
参考文献・文献 特開2003-156397(JP,A)
特開平11-194059(JP,A)
調査した分野 G01L 5/00
B60L 5/24
特許請求の範囲 【請求項1】
トロリ線に接触する摺動部、該摺動部を車体に対して昇降可能に支持する支持部、該支持部に対して前記摺動部を前記トロリ線方向に付勢する第1のバネ要素、及び、前記車体に対して前記支持部を前記トロリ線方向に付勢する第2のバネ要素を備えるパンタグラフにおいて、前記摺動部の前記トロリ線に対する接触力を測定するパンタグラフの接触力測定方法であって、
前記第1のバネ要素の反力を求め、
前記第1のバネ要素の反力に基いて前記摺動部の前記支持部に対する相対変位を求め、
前記相対変位を二階微分して前記摺動部の前記支持部に対する相対加速度を求め、
前記相対加速度に基いて前記摺動部の慣性力を求め、
前記反力及び前記慣性力を加算して前記接触力を求めること
を特徴とするパンタグラフの接触力測定方法。
【請求項2】
前記摺動部は、舟体及び該舟体に固定されたすり板を含み、
前記支持部は、前記舟体を前記車体に対して昇降可能に支持する枠体を含むこと
を特徴とする請求項1に記載のパンタグラフの接触力測定方法。
【請求項3】
前記支持部は、舟体及び該舟体を前記車体に対して昇降可能に支持する枠体を含み、
前記摺動部は、前記舟体に対して前記第1のバネ要素を介して相対変位可能に支持されたすり板を含むこと
を特徴とする請求項1に記載のパンタグラフの接触力測定方法。
【請求項4】
前記支持部は、舟体及び該舟体を前記車体に対して昇降可能に支持する枠体を含み、
前記摺動部は、前記舟体に対して複数の前記第1のバネ要素を介してそれぞれ相対変位可能に支持された複数のすり板を含み、
複数の前記第1のバネ要素についてそれぞれ求めた前記反力及び前記慣性力を加算して前記摺動部の前記トロリ線への接触力を求めることを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフの接触力測定方法。
【請求項5】
前記車体に対する前記支持部の相対変位を求め、
前記支持部の相対変位を二階微分して前記支持部の前記車体に対する相対加速度を求め、
前記支持部の前記車体に対する相対加速度に基いて、前記摺動部の前記トロリ線への接触力を補正することを特徴とする請求項1乃至4に記載のパンタグラフの接触力測定方法。
【請求項6】
前記車体の加速度を求め、
前記車体の加速度に基いて、前記摺動部の前記トロリ線への接触力を補正すること
を特徴とする請求項5に記載のパンタグラフの接触力測定方法。
【請求項7】
前記第1のバネ要素の反力を前記第1のバネ要素のひずみを測定するひずみゲージによって求めることを特徴とする請求項1乃至6に記載のパンタグラフの接触力測定方法。
【請求項8】
前記ひずみゲージとしてFBG光ファイバセンサを用いることを特徴とする請求項7に記載のパンタグラフの接触力測定方法。
【請求項9】
前記車体に対する前記支持部の相対変位をレーザ変位計などの非接触センサによって求めることを特徴とする請求項5に記載のパンタグラフの接触力測定方法。
【請求項10】
前記摺動部の前記支持部に対する相対変位と前記第1のバネ要素の反力との相関、及び、前記摺動部の前記支持部に対する相対加速度と前記摺動部の慣性力との相関を予めベンチ試験で求めることを特徴とする請求項1乃至9に記載のパンタグラフの接触力測定方法。
【請求項11】
トロリ線に接触する摺動部、該摺動部を車体に対して昇降可能に支持する支持部、該支持部に対して前記摺動部を前記トロリ線方向に付勢する第1のバネ要素、及び、前記車体に対して前記支持部を前記トロリ線方向に付勢する第2のバネ要素を備えるパンタグラフにおいて、前記摺動部の前記トロリ線に対する接触力を測定するパンタグラフの接触力測定装置であって、
前記第1のバネ要素の反力を求めるバネ反力検出手段と、
前記第1のバネ要素の反力に基いて前記摺動部の前記支持部に対する相対変位を求める摺動部相対変位算出手段と、
前記相対変位を二階微分して前記摺動部の前記支持部に対する相対加速度を求める摺動部相対加速度算出手段と、
前記相対加速度に基いて前記摺動部の慣性力を求める摺動部慣性力算出手段と、
前記反力及び前記慣性力を加算して前記接触力を求める接触力算出手段と、
を備えることを特徴とするパンタグラフの接触力測定装置。
【請求項12】
前記摺動部は、舟体及び該舟体に固定されたすり板を含み、
前記支持部は、前記舟体を前記車体に対して昇降可能に支持する枠体を含むこと
を特徴とする請求項11に記載のパンタグラフの接触力測定装置。
【請求項13】
前記支持部は、舟体及び該舟体を前記車体に対して昇降可能に支持する枠体を含み、
前記摺動部は、前記舟体に対して前記第1のバネ要素を介して相対変位可能に支持されたすり板を含むこと
を特徴とする請求項11に記載のパンタグラフの接触力測定装置。
【請求項14】
前記支持部は、舟体及び該舟体を前記車体に対して昇降可能に支持する枠体を含み、
前記摺動部は、前記舟体に対して複数の前記第1のバネ要素を介してそれぞれ相対変位可能に支持された複数のすり板を含み、
前記接触力算出手段は、複数の前記第1のバネ要素についてそれぞれ求めた前記反力及び前記慣性力を加算して前記摺動部の前記トロリ線への接触力を求めることを特徴とする請求項11に記載のパンタグラフの接触力測定装置。
【請求項15】
前記車体に対する前記支持部の相対変位を求める支持部相対変位検出手段と、
前記支持部の相対変位を二階微分して前記支持部の前記車体に対する相対加速度を求める支持部相対加速度算出手段と、
前記支持部の前記車体に対する相対加速度に基いて、前記摺動部の前記トロリ線への接触力を補正する接触力補正手段と、
を備えることを特徴とする請求項11乃至14に記載のパンタグラフの接触力測定装置。
【請求項16】
前記車体の加速度を求める車体加速度検出手段を備え、
前記接触力補正手段は、前記車体の加速度に基いて、前記摺動部の前記トロリ線への接触力を補正することを特徴とする請求項15に記載のパンタグラフの接触力測定装置。
【請求項17】
前記バネ反力検出手段は、前記第1のバネ要素のひずみを測定するひずみゲージを有することを特徴とする請求項11乃至16に記載のパンタグラフの接触力測定装置。
【請求項18】
前記ひずみゲージは、FBG光ファイバセンサであることを特徴とする請求項17に記載のパンタグラフの接触力測定装置。
【請求項19】
前記支持部相対変位検出手段はレーザ変位計などの非接触センサを有することを特徴とする請求項15に記載のパンタグラフの接触力測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道におけるトロリ線とパンタグラフのすり板体との間に作用する接触力を測定する方法及び装置に関する。特には、より少ない数のセンサで精度の良い接触力測定を行うことができるパンタグラフの接触力測定方法及び接触力測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現状の営業用の電気鉄道においては、トロリ線からパンタグラフを介して車両に電力を送る方式が一般的である。トロリ線とパンタグラフのすり板体との接触力は、トロリ線の高さ変動や車両・パンタグラフの振動等によって変動する。この接触力の変化が大きすぎると、パンタグラフのすり板体がトロリ線から離れる離線が生じるおそれがある。離線が頻発すると、すり板体とトロリ線との間にスパークが生じてすり板体の損耗が進み問題となる。また、離線に至らない場合でも、パンタグラフの接触力は極力変動の小さいほうがよい。
【0003】
そこで、電車の走行中のトロリ線とパンタグラフとの接触力を測定し、得られた測定結果を離線の抑制対策の参考としたいとの要望がある。あるいは、このような接触力の測定技術は、離線の抑制対策だけではなく、トロリ線-パンタグラフ系の集電性能の評価や、電車線の設備診断方法の1つとして活用することも考えられている。
【0004】
このようなパンタグラフの接触力測定技術として、以下が公知である。
(1)舟体支持バネの伸縮量を測定し、この伸縮量から同バネの押圧力を計算して接触力を求める。舟体支持バネの伸縮量は、舟体と舟体支持パイプの間の寸法を渦電流式や光学式の距離センサを用いて測定する(例えば、特許文献1を参照)。
ところが、この方法では、舟体(すり板を含む)の慣性力が無視されることとなり、接触力の測定誤差が生じ易い。
(2)舟体に取り付けた2種類のひずみゲージ(変位測定用及び揚力測定用)から舟体のひずみ(曲げモーメント)を測定するとともに、舟体に取り付けた加速度センサから舟体の加速度(慣性力)を推定し、これらの測定値に基いて接触力を求める(例えば、特許文献2参照)。この方法においては、既存のパンタグラフを特別に加工する必要がなく、接触力を連続的に測定できる。

【特許文献1】特開平7-291001号公報
【特許文献2】特開平11-136804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したように、加速度センサを用いて慣性力を求める従来技術においては、ひずみゲージと加速度センサとをそれぞれ設置する必要があることからセンサ数が多くなってその配置が複雑となる。特に、複数のすり板を配列したいわゆる多分割タイプのすり板を有するパンタグラフの場合には、複数のすり板に加速度センサを装着するとともに、これらを支持する複数のバネにもひずみゲージを装着する必要があることから、全体としてセンサ数が多くなって煩雑である。
さらに、すり板や舟体のようにトロリ線を介して高電圧が印加される部分(加圧部分)に加速度センサを装着する場合、加速度センサの出力をテレメータを用いて車体側に伝達する必要がある。このため、テレメータ本体やその電源の設置によって測定装置の構成がより複雑化し、またテレメータの使用に際して、測定実施場所の法規によっては免許の取得等が必要となる。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、より少ない数のセンサで精度の良い接触力測定を行うことができるパンタグラフの接触力測定方法及び接触力測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明のパンタグラフの接触力測定方法は、トロリ線に接触する摺動部、該摺動部を車体に対して昇降可能に支持する支持部、該支持部に対して前記摺動部を前記トロリ線方向に付勢する第1のバネ要素、及び、前記車体に対して前記支持部を前記トロリ線方向に付勢する第2のバネ要素を備えるパンタグラフにおいて、前記摺動部の前記トロリ線に対する接触力を測定するパンタグラフの接触力測定方法であって、前記第1のバネ要素の反力を求め、前記第1のバネ要素の反力に基いて前記摺動部の前記支持部に対する相対変位を求め、前記相対変位を二階微分して前記摺動部の前記支持部に対する相対加速度を求め、前記相対加速度に基いて前記摺動部の慣性力を求め、前記反力及び前記慣性力を加算して前記接触力を求めることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、第1のバネ要素の反力に基いて摺動部の支持部に対する相対変位を求め、これを二階微分して相対加速度を求めることによって、摺動部に加速度センサを設けることなく摺動部の慣性力を求めることができ、より少ない数のセンサで精度の良い接触力測定を行うことができる。
なお、本明細書、請求の範囲等において、「慣性力」とは、摺動部に作用する上下方向の加速度に対応する接触力の成分を指すものとする。
【0009】
本発明のパンタグラフの接触力測定方法においては、典型的には、摺動部は舟体及びこの舟体に固定されたすり板を含み、支持部は舟体を車体に対して昇降可能に支持するリンク機構を有する枠体を含む構成であってもよい。また、摺動部は舟体に対して第1のバネ要素を介して相対変位可能に支持された可動式のすり板体を含み、支持部は舟体と枠体とを含む構成としてもよい。
【0010】
そして、後者の場合においては、前記支持部は、舟体及び該舟体を前記車体に対して昇降可能に支持する枠体を含み、前記摺動部は、前記舟体に対して複数の前記第1のバネ要素を介してそれぞれ相対変位可能に支持された複数のすり板体を含み、複数の前記第1のバネ要素についてそれぞれ求めた前記反力及び前記慣性力を加算して前記摺動部の前記トロリ線への接触力を求める構成とすることができる。
この場合、複数のすり板体にそれぞれ加速度センサを設けることなく各すり板体の慣性力を求めることができるので、センサを大幅に簡素化することができる。
【0011】
本発明のパンタグラフの接触力測定方法においては、前記車体に対する前記支持部の相対変位を求め、前記支持部の相対変位を二階微分して前記支持部の前記車体に対する相対加速度を求め、前記支持部の前記車体に対する相対加速度に基いて、前記摺動部の前記トロリ線への接触力を補正することができる。
この場合、摺動部と支持部との相対加速度と、摺動部の絶対加速度との誤差に起因する慣性力の誤差を補正して、より精度良くパンタグラフの接触力を測定することができる。
【0012】
さらに上述した場合において、前記車体の加速度を求め、前記車体の加速度に基いて、前記摺動部の前記トロリ線への接触力を補正することができる。
この場合、支持部と車体との相対加速度と、支持部の絶対加速度との誤差に起因する慣性力の誤差を補正して、よりいっそう精度良くパンタグラフの接触力を測定することができる。
【0013】
本発明においては、前記第1のバネ要素の反力を前記第1のバネ要素のひずみを測定するひずみゲージによって求めることができる。
そして、前記ひずみゲージとしてFBG光ファイバセンサを用いることができる。この場合、光ファイバは絶縁性を有するため、ひずみゲージを加圧部分に設けてその出力処理手段を車体側に設ける場合であっても、絶縁処理が容易である。
【0014】
また、本発明においては、車体に対する前記支持部の相対変位をレーザ変位計によって求めることができる。
【0015】
さらに、本発明においては、前記第1のバネ要素の反力と前記摺動部の前記支持部に対する相対変位との相関、及び、前記摺動部の前記支持部に対する相対加速度と前記摺動部の慣性力との相関を予めベンチ試験で求めることができる。
【0016】
また、本発明のパンタグラフの接触力測定装置は、トロリ線に接触する摺動部、前記摺動部を車体に対して昇降可能に支持する支持部、前記支持部に対して前記摺動部を前記トロリ線方向に付勢する第1のバネ要素、及び、前記車体に対して前記支持部を前記トロリ線方向に付勢する第2のバネ要素を備えるパンタグラフにおいて、前記摺動部の前記トロリ線に対する接触力を測定するパンタグラフの接触力測定装置であって、前記第1のバネ要素の反力を求めるバネ反力検出手段と、前記第1のバネ要素の反力に基いて前記摺動部の前記支持部に対する相対変位を求める摺動部相対変位算出手段と、前記相対変位を二階微分して前記摺動部の前記支持部に対する相対加速度を求める摺動部相対加速度算出手段と、前記相対加速度に基いて前記摺動部の慣性力を求める摺動部慣性力算出手段と、前記反力及び前記慣性力を加算して前記接触力を求める接触力算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、前記支持部は、舟体及び該舟体を前記車体に対して昇降可能に支持する枠体を含み、前記摺動部は、前記舟体に対して複数の前記第1のバネ要素を介してそれぞれ相対変位可能に支持された複数のすり板体を含み、前記接触力算出手段は、複数の前記第1のバネ要素についてそれぞれ求めた前記反力及び前記慣性力を加算して前記摺動部の前記トロリ線への接触力を求める構成とすることができる。
【0018】
本発明のパンタグラフの接触力測定装置においては、典型的には、摺動部は舟体及びこの舟体に固定されたすり板を含み、支持部は舟体を車体に対して昇降可能に支持するリンク機構を有する枠体を含む構成であってもよい。また、摺動部は舟体に対して第1のバネ要素を介して相対変位可能に支持された可動式のすり板体を含み、支持部は舟体と枠体とを含む構成としてもよい。
後者の場合においては、前記車体に対する前記支持部の相対変位を求める支持部相対変位検出手段と、前記支持部の相対変位を二階微分して前記支持部の前記車体に対する相対加速度を求める支持部相対加速度算出手段と、前記支持部の前記車体に対する相対加速度に基いて、前記摺動部の前記トロリ線への接触力を補正する接触力補正手段と、を備える構成とすることができる。
この場合には、前記支持部相対変位検出手段はレーザ変位計などの非接触センサを有する構成とすることができる。
【0019】
さらに、本発明においては、前記車体の加速度を求める車体加速度検出手段を備え、前記接触力補正手段は、前記車体の加速度に基いて、前記摺動部の前記トロリ線への接触力を補正する構成とすることができる。
【0020】
また、本発明においては、前記バネ反力検出手段は、前記第1のバネ要素のひずみを測定するひずみゲージを有する構成とすることができる。
この場合において、前記ひずみゲージは、FBG光ファイバセンサを用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、第1のバネ要素の反力に基いて摺動部の支持部に対する相対加速度を求めることができることから、摺動部に加速度センサを装着しなくても摺動部の慣性力を求めることができ、より少ない数のセンサで精度のよい接触力測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、通常の鉄道車両の技術におけるのと同様に、レールの長手方向(車両の進行方向)を前後方向、軌道面におけるレール長手方向と直角をなす方向を左右方向(車幅方向)、軌道面に垂直な方向を上下方向と呼ぶ。
【0023】
図1は、接触力の測定対象となるパンタグラフの周辺を前方側から見た状態を示す模式的立面図である。
図2は、パンタグラフ系の集中質量・バネモデルを示す図である。
車体屋根1に搭載されたパンタグラフ100は、図1の上から下に向かって、すり板体110、舟体120、枠体130、台枠140等を備えて構成されている。
【0024】
すり板体110は、トロリ線(給電線)Tに接触し、車両の走行時にはトロリ線Tと摺動して導通を確保するプレート状の部材であって、例えば鉄系や銅系の焼結合金製、あるいは、カーボン系材料からなる。トロリ線Tは、ほぼ車両の進行方向に沿って延びているが、すり板体110の局所的な磨耗を防止するため、すり板体110の有効幅内において蛇行して配置されている。
本実施の形態において、すり板体110は舟体120に対して相対変位可能に支持された可動式すり板であって、また、車幅方向に配列された複数のすり板体要素(コマ)111からなる多分割すり板となっている。
【0025】
個々のすり板体要素111は、すり板体付勢バネ(第1のバネ要素)112を介して舟体120に支持されている。すり板体付勢バネ112は、各すり板体要素111の車幅方向における両端部にそれぞれ設けられている。また、一対のすり板体要素111が隣接する箇所においては、これらの中間に配置された一つのすり板体付勢バネ112を双方のすり板体要素111で共有する。
【0026】
また、すり板体付勢バネ112には、その伸縮に伴うひずみを検出するひずみゲージ150が装着されている。このひずみゲージ150としては、例えば、ファイバ・ブラッグ・グレーティング(FBG)光ファイバセンサが用いられる。ひずみゲージ150は、すり板体付勢バネ112に直接貼り付けてもよく、またすり板体付勢バネ112の上面もしくは下面に小さな梁をわたして、ここに貼り付けてもよい。
【0027】
FBG光ファイバセンサは、例えばGeがドープされた光ファイバのコアに回折格子を加工すると、そのグレーティング部が波長フィルタとして機能し、特定の波長の光だけを反射する特性を利用したものである。この反射波長はグレーティング部の伸びに応じて比例的にシフトするため、グレーティング部を測定対象部に添付して反射波長を検出すると、測定対象部のひずみ量を検出できる。一端部にすり板体付勢バネ112に添付されたグレーティング部を有する光ファイバは、他端部が車体屋根1に設けられた図示しない碍子を介して車体内に引き込まれ、車室内に配置された光源及び反射光検出部と接続される。
【0028】
また、すり板体要素111は、隣接する他のすり板体要素111と、例えば銅製薄板等の弾性連結部材によって接続され、例えば1つのすり板体要素111が変位した場合には、近隣の他のすり板体要素111も連動して変位する。
【0029】
舟体120は、車幅方向に延びる梁状の部材であって、上述したすり板体110を支持する。上述したすり板体110を構成する個々のすり板体要素111は、すり板体付勢バネ112の伸縮に応じて舟体120に対して上下方向に相対変位する。
【0030】
枠体130は、舟体120を車体に対して上下方向に変位可能に支持する。同枠体130は、リンク機構を備えており、すり板体110がトロリ線Tに接した上昇状態と、パンタグラフ100の不使用時にすり板体110がトロリ線Tから離間した下降状態とをとることができる。
また、枠体130は、舟体120をトロリ線方向(上方)に押し上げる方向に付勢する枠体付勢バネ(第2のバネ要素)を備えている。枠体付勢バネは、例えば、エアシリンダやコイルバネを備えている。
【0031】
台枠140は、車体屋根1に固定され、枠体130の下端部を支持するパンタグラフ100の基部である。また、台枠140と車体屋根1との間には、絶縁用の碍子141が設けられている。
【0032】
さらに、本実施形態においては、台枠140に対する舟体120の上下方向変位を検出するレーザ変位計160、及び、車体の上下方向加速度を検出する図示しない加速度センサが設けられている。
【0033】
次に、本実施の形態のパンタグラフの接触力測定方法について説明する。
まず、集中質量とバネを用いたモデルを用いた数値計算によって多分割すり板の復元力及び慣性力を求める方法について説明する。
ここで、図2に示すように、すり板体110(すり板体要素111)の質量をm、舟体120及び枠130の質量をm、すり板体付勢バネ112のバネ定数をk、すり板体110、舟体120、台枠140(車体)の変位をそれぞれx,x,xとする。
なお、実際にはすり板体付勢バネ112、枠体付勢バネのそれぞれに対応する減衰要素が存在するが、これらはともに影響が微小であり接触力に対する寄与が小さいことから無視しても差支えない。
【0034】
図2に示したモデルの運動方程式は、質点mに加振力F(t)が加わるとすると、
【数1】
JP0004954733B2_000002t.gif
となる。
【0035】
式1をラプラス変換し、ベクトル
【数2】
JP0004954733B2_000003t.gif
で整理すると、
【数3】
JP0004954733B2_000004t.gif
となる。ただし、初期値を0としているのは、平衡点からの変化分に注目しているためである。
【0036】
式2の左辺の行列の逆行列をAとし、式2の両辺にかけると、
【数4】
JP0004954733B2_000005t.gif
となる。ところで、xは実際の車両では台枠の変位、つまり車両の上下変位に相当する。車両の上下変位が非常に小さいと仮定すると、式3は、
【数5】
JP0004954733B2_000006t.gif
と変換できる。
【0037】
ところで、図2でバネ定数kをもつすり板体付勢バネ112による復元力Feは、すり板体110と舟体120との相対変位により決定するので、
【数6】
JP0004954733B2_000007t.gif
となる。
【0038】
また、慣性力Fiは、すり板質量とすり板加速度により決定するので、
【数7】
JP0004954733B2_000008t.gif
となる。
【0039】
ここで、s領域における接触力に対する慣性力Fと復元力Fの比をそれぞれR(s),R(s)とすると、
【数8】
JP0004954733B2_000009t.gif
となる。
【0040】
これを周波数領域で考えると、
【数9】
JP0004954733B2_000010t.gif
となり、周波数ごとの寄与度がわかる。
但し、A11,jω,A21,jωは、それぞれA11,A21を周波数領域に置き換えたものである。式8では複素数のままであるので、その絶対値をとった値を用いて結果を表示する。
【0041】
次に、上述した計算を行うための各定数の設定について説明する。
本実施形態において、上記計算に用いるmは、0.7kgとする。
また、mは、16.6kgとする。
また、バネ定数kは、約14000N/mとする。
【0042】
図3は、式8と上記定数から数値演算によって算出した慣性力、復元力及びこれらの合算の周波数特性を示すグラフである。図3(a)、図3(b)、図3(c)は、それぞれ接触力全体を1としたときの慣性力F、復元力F、これらを合算した力F+Fの寄与を示している。
【0043】
図3に示すように、10.3Hzまでは慣性力の寄与は低く接触力全体に占める割合が2割以下となり、復元力の寄与が大きいことがわかる。一方、11Hz以上では接触力全体に占める慣性力の寄与が2割以上となり、20Hz以上では慣性力が接触力全体を占めるようになる。
なお、実際には慣性力及び復元力のほかに、減衰力及び空気力が接触力に影響する。しかし、減衰力の寄与は小さく実質的に無視できる場合が多い。また、空気力の寄与も小さいが、必要であれば風洞試験等によってパンタグラフ100の揚力係数Cを測定し、これと車両の走行速度から空気力を求め、接触力を補正してもよい。
【0044】
トロリ線Tを支持するハンガ間の周期が5mである場合、車両が360km/hで走行すると、ハンガ由来の加振力の周波数は20Hzとなるので、接触力測定においては30Hz程度の周波数帯まで精度を確保することが求められる。図3より、慣性力を考慮しない場合には接触力測定の精度が保証される周波数は10Hz程度となってしまうので、この要求を満たすことができない。
【0045】
そこで、本実施の形態では、復元力(すり板体支持バネの反力)から加速度を求めている。つまり、すり板体付勢バネ112に添付されたひずみゲージ150によってひずみεを測定し、復元力Fe=f(ε)を求める。復元力はFe=k(x-x)で表せるので、ひずみを測定していれば、xとxの相対変位x-xが測定でき、x-x=g(ε)として表すことができる。このとき、x-xの時間の二階微分をとると、
【数10】
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となる。
【0046】
そして、すり板体要素111の加速度を、
【数11】
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で代用すると、
【数12】
JP0004954733B2_000013t.gif
となる。
【0047】
そこで、
【数13】
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の寄与が低ければ、バネのひずみを測定することによって慣性力を推定し、接触力を測定することができる。
【0048】
図4は、本実施の形態のパンタグラフの接触力測定方法によって求めた慣性力、復元力、舟体加速度とすり板体質量とを積算した力、及び、慣性力と復元力の合算の周波数特性を示すグラフである。図4(a)乃至図4(d)は、それぞれ接触力全体を1としたときのこれらの力の寄与を示している。
【0049】
ここで、舟体120の加速度とすり板体要素111の質量とを積算した力である
【数14】
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を測定できないとき、共振点付近では13%程度の力を測定できなくなり誤差となる。ところが、
【数15】
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は舟体の変位、つまり車体(台枠)に対する枠の上下運動を観測することで測定することができる。ここで、この値は車体の上下方向変位が小さい場合には
【数16】
JP0004954733B2_000017t.gif
とほぼ一致するから、レーザ変位計160によって台枠140に対する舟体120の上下方向変位を測定し、これを二階微分した値によって接触力を補正し、測定精度を向上することができる。
【0050】
また、車体の上下方向加速度が無視できない程度に大きい場合においては、式1においてx-x=x12,x-x=x23とすると、
【数17】
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となる。
【0051】
ここで、
【数18】
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は、車体に設けられた加速度センサによって測定することができる。
従って、加速度センサの出力を用いて接触力の補正を行うことによって、さらに測定精度を向上することができる。
【0052】
図5は、本実施の形態のパンタグラフの接触力測定方法を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:すり板体付勢バネひずみ測定>
すり板体付勢バネ112のひずみを、ひずみゲージ150を用いて測定する。
<ステップS02:ひずみに基く変位の算出>
ステップS01において測定されたすり板体付勢バネ112のひずみに基いて、すり板体付勢バネ112の伸縮量を算出する。この伸縮量は、舟体120に対するすり板体要素111の相対変位となる。
<ステップS03:変位に基く加速度の算出>
ステップS02において算出されたすり板体要素111の変位を二階微分し、舟体120に対するすり板体要素111の相対加速度を算出する。
<ステップS04:加速度に基く慣性力の算出>
ステップS03において算出されたすり板体要素111の相対加速度に基いて、上述した式6によってすり板体要素111に作用する慣性力Fを算出する。
【0053】
<ステップS05:ひずみに基くバネ反力の算出>
ステップS01において測定されたすり板体付勢バネ112のひずみと、上述したベンチ試験によって求めたすり板体付勢バネ112のバネ定数kとに基いて、すり板体付勢バネ112の反力(復元力)Fを算出する。
<ステップS06:慣性力と反力の合算による接触力の算出>
ステップS04において算出された慣性力Fと、ステップS05において算出された反力Fとを合算し、パンタグラフ100の接触力Fを算出する。
ここで、測定対象となるパンタグラフが複数のすり板体要素111とすり板体付勢バネ112とを有する多分割すり板を備えたものであるときは、個々のすり板体付勢バネ112のひずみからそれぞれ算出した接触力Fを、全てのすり板体付勢バネ112について合算することによってパンタグラフ100の接触力を求めることができる。
【0054】
次に、上述した本実施の形態の効果を、以下説明する本発明の比較例と対比して説明する。なお、比較例の説明において、上述した本実施の形態と共通する箇所については同じ符号を付して説明を省略する。
図6は、比較例におけるパンタグラフの接触力測定における集中質量・バネモデルとセンサの配置を示す模式図である。
比較例においては、すり板体110を構成するすり板体要素111に、その加速度を検出する加速度センサ170を装着している。ここで、すり板体要素111は、トロリ線Tから供給される高電圧が印加された加圧部であることから、加速度センサ170の出力は、図示しないテレメータ装置を用いて車体側に伝送される。
【0055】
図7は、比較例のパンタグラフの接触力測定方法を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS11:すり板体加速度測定>
加速度センサ170を用いてすり板体要素111に作用する加速度を測定する。
<ステップS12:加速度に基く慣性力の算出>
ステップS11において算出されたすり板体要素111の加速度に基いて、すり板体要素111に作用する慣性力を算出する。
<ステップS13:すり板体付勢バネひずみ測定>
すり板体付勢バネ112のひずみを、ひずみゲージ150を用いて測定する。
<ステップS14:ひずみに基くバネ反力の算出>
ステップS13において測定されたすり板体付勢バネ112のひずみと、上述したベンチ試験によって求めたすり板体付勢バネ112のバネ定数とに基いて、すり板体付勢バネ112の反力(復元力)を算出する。
<ステップS15:慣性力と反力の合算による接触力の算出>
ステップS12において算出された慣性力と、ステップS14において算出された反力とを合算し、パンタグラフ100の接触力を算出する。
【0056】
比較例においては、加速度センサ170からの出力
【数19】
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とひずみゲージ150からの出力εから接触力Fを求めている。この場合、ひずみから直接バネ反力Fは測定できないため、予めベンチ試験によって関数F=f(ε)を用意し、得られたひずみから反力を求めている。また、加速度からも直接的に慣性力Fが得られるわけではないので、ベンチ試験によって
【数20】
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を用意し、得られた加速度から慣性力を求めている。そして、慣性力Fと反力Fを合算してパンタグラフの接触力を求めている。
【0057】
比較例においては、パンタグラフの接触力測定に際し、加速度センサ170をすり板体要素の各コマに装着するとともに、ひずみゲージ150を個々のすり板体付勢バネ112に装着する必要があることから、センサ数が多くなり、測定装置の構成やセンサの設置作業が煩雑となる。また、加速度センサ170の出力はテレメータを用いて車体側に伝送する必要があるから、テレメータ装置の設置、電源の確保も煩雑であり、さらにテレメータの使用に際して法規等に応じて免許の取得等が必要な場合もある。
【0058】
これに対し、本実施の形態によれば、反力F=f(ε)の他に、変位X=h(ε)をベンチ試験で用意することによって、ひずみゲージ150が検出したひずみεから変位x-xを求めることができる。この変位を時間で二階微分することによって、
【数21】
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を求め、同様にベンチ試験で得た慣性力の式
【数22】
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から慣性力を求める。
【0059】
ただし、上述した式では
【数23】
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の項が余分に含まれてしまい誤差になり得るが、すり板体の質量が軽い場合にはこの項による影響は無視し得る程度まで小さくなるため、高い精度でパンタグラフの接触力を測定することができる。
また、すり板体の質量が比較的大きい場合であっても、上述したようにレーザ変位計160の出力から求めた車体に対する舟体の相対加速度、及び、車体に設けた加速度センサによって求めた車体の絶対加速度を用いて、すり板体の加速度を補正することによって、測定精度を確保することができる。
【0060】
また、本実施の形態によれば、比較例のようにすり板体に加速度センサを設ける必要がないため、センサ数を低減し、さらにテレメータ装置及びその電源等も不要となり、測定準備作業や測定装置の構成を簡素化することができる。
【0061】
(他の実施の形態)
なお、本発明は上記した実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
(1)上述した実施の形態では摺動部を付勢するバネ要素の反力をFBG光ファイバセンサによって求めているが、本発明はこれに限らず、他の種類のひずみゲージや荷重センサを用いてバネのひずみを測定し、その反力を求めてもよい。また、バネ要素の伸縮量を距離センサ等によって測定し、伸縮量に基いて反力を求めてもよい。
(2)上述した実施の形態は、舟体に対して変位可能な多分割すり板を備えたパンタグラフに係るものであったが、本発明はこれに限らず、分割されていない一体型の可動式すり板を備えたパンタグラフにも適用することができる。また、すり板体が舟体に対して一定的に固定されたパンタグラフにも適用することができる。この場合、上述した集中質量・バネモデルにおいて、すり板体と舟体の質量の合計をmとし、枠体の質量をmとするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電気鉄道のパンタグラフ周辺を示す模式的立面図である。
【図2】本実施の形態のパンタグラフの集中質量・バネモデルを示す図である。
【図3】本実施の形態の各定数から数値演算によって算出した慣性力、復元力及びこれらの合算の周波数特性を示すグラフである。
【図4】本実施の形態のパンタグラフの接触力測定方法によって求めた慣性力、復元力、舟体加速度とすり板体質量とを積算した力、及び、慣性力と復元力の合算の周波数特性を示すグラフである。
【図5】本実施の形態に係るパンタグラフの測定方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の比較例におけるパンタグラフの接触力測定における集中質量・バネモデルとセンサの配置を示す模式図である。
【図7】本発明の比較例であるパンタグラフの測定方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0063】
1 車体屋根
100 パンタグラフ
110 すり板体
111 すり板体要素(コマ)
112 すり板体付勢バネ
113 弾性結合部材
120 舟体
130 枠体
140 台枠
141 碍子
150 ひずみゲージ
160 レーザ変位計
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6