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明細書 :パンタグラフ接触力推定システムおよび推定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4825110号 (P4825110)
公開番号 特開2008-110694 (P2008-110694A)
登録日 平成23年9月16日(2011.9.16)
発行日 平成23年11月30日(2011.11.30)
公開日 平成20年5月15日(2008.5.15)
発明の名称または考案の名称 パンタグラフ接触力推定システムおよび推定方法
国際特許分類 B60M   1/28        (2006.01)
FI B60M 1/28 R
請求項の数または発明の数 16
全頁数 31
出願番号 特願2006-295481 (P2006-295481)
出願日 平成18年10月31日(2006.10.31)
審査請求日 平成21年1月29日(2009.1.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】臼田 隆之
【氏名】池田 充
【氏名】小山 達弥
個別代理人の代理人 【識別番号】100100413、【弁理士】、【氏名又は名称】渡部 温
審査官 【審査官】奥隅 隆
参考文献・文献 特開2001-309503(JP,A)
特開2001-235310(JP,A)
調査した分野 B60M 1/00-7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する接触力推定システムであって、
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、前記トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間におけるトロリ線の加速度の連続的な分布(∂y/∂t)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置と、
前記ハンガ力、傾斜および前記加速度の連続的な分布を示すデータから、以下の式
【数1】
JP0004825110B2_000029t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度)
に基づいて、接触力f(t)を算出する接触力算出手段と、
を備えたことを特徴とする接触力推定システム。
【請求項2】
パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する接触力推定システムであって、
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、前記トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、前記測定区間におけるトロリ線の加速度の連続的な分布(∂y/∂t)、並びに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置と、
前記ハンガ力、傾斜、加速度の連続的な分布、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【数2】
JP0004825110B2_000030t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて接触力f(t)を算出する接触力算出手段と、
を備えたことを特徴とする接触力推定システム。
【請求項3】
パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する接触力推定システムであって、
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、前記トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:j=1,2,・・・,p)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置と、
前記ハンガ力、傾斜および加速度を示すデータから、以下の式
【数3】
JP0004825110B2_000031t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、w:慣性力補正係数)
に基づいて、接触力f(t)を算出する接触力算出手段と、
を備えたことを特徴とする接触力推定システム。
【請求項4】
パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する接触力推定システムであって、
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、前記トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:j=1,2,・・・,p)、並びに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置と、
前記ハンガ力、傾斜、加速度、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【数4】
JP0004825110B2_000032t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、w:慣性力補正係数、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて接触力f(t)を算出する接触力算出手段と、
を備えたことを特徴とする接触力推定システム。
【請求項5】
パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する接触力推定システムであって、
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、前記トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:i=1,2,・・・,m)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置と、
前記ハンガ力、傾斜および加速度を示すデータから、以下の式
【数5】
JP0004825110B2_000033t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、fine:慣性力を推定する非線形関数)
に基づいて、接触力f(t)を算出する接触力算出手段と、
を備えたことを特徴とする接触力推定システム。
【請求項6】
パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する接触力推定システムであって、
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、前記トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:i=1,2,・・・,m)、並びに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置と、
前記ハンガ力、傾斜、加速度、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【数6】
JP0004825110B2_000034t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、fine:慣性力を推定する非線形関数、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて接触力f(t)を算出する接触力算出手段と、
を備えたことを特徴とする接触力推定システム。
【請求項7】
前記記憶装置が、
学習用の前記加速度のデータと、学習用の慣性力のデータと、ニューラルネットワークのモデルについて、当該ニューラルネットワークを構成する各ニューロン間の結合に関連付けられた重み、および、各ニューロンの閾値を含むニューラルネットワークモデルデータ、および、推定用の加速度のデータを記憶し、
前記接触力算出手段が、
ニューラルネットワークモデルデータに含まれる重みおよび閾値を適切な値にする学習手段であって、
前記記憶装置に記憶された、初期的なニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記学習用の加速度のデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返す演算手段と、
前記ニューラルネットワークモデルの出力層に、前記学習用の慣性力のデータを与え、出力層から中間層を経て入力層に向けて、誤差信号を伝搬させて、少なくとも、前記ニューラルネットワークデータにおける前記結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を修正し、前記修正された結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を、修正されたニューラルネットワークデータとして記憶する誤差逆伝搬手段と、を有する学習手段と、
前記記憶装置に記憶された前記学習手段による学習により修正されたニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記推定用の加速度のデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返し、前記出力層からの値を、推定された慣性力fineとして、前記記憶装置に記憶する推定手段と、
を有することを特徴とする請求項5または6に記載の接触力推定システム。
【請求項8】
前記複数の測定点が前記連結点の間で2箇所あり、前記連結点から±1/4*(連結点の間の距離)(+は列車の進行方向)だけ離間した位置にあることを特徴とする請求項ないし7の何れか一項に記載の接触力推定システム。
【請求項9】
前記複数の測定点が前記連結点の間に2箇所あり、前記連結点から+1/2*(連結点の間の距離)および-1/4*(連結点の間の距離)だけ離間した位置にあることを特徴とする請求項ないし7の何れか一項に記載の接触力推定システム。
【請求項10】
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間におけるトロリ線の加速度の連続的な分布(∂y/∂t)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置を備えた情報処理装置において、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する方法であって、
前記ハンガ力、傾斜および前記加速度の連続的な分布を示すデータから、以下の式
【数7】
JP0004825110B2_000035t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度)
に基づいて、接触力f(t)を算出することを特徴とする接触力推定方法。
【請求項11】
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、前記測定区間におけるトロリ線の加速度の連続的な分布(∂y/∂t)、並びに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置を備えた情報処理装置において、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する方法であって、
前記ハンガ力、傾斜、加速度の連続的な分布、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【数8】
JP0004825110B2_000036t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて、接触力f(t)を算出することを特徴とする接触力推定方法。
【請求項12】
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:j=1,2,・・・,p)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置を備えた情報処理装置において、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する方法であって、
前記ハンガ力、傾斜および加速度を示すデータから、以下の式
【数9】
JP0004825110B2_000037t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度)
に基づいて、接触力f(t)を算出することを特徴とする接触力推定方法。
【請求項13】
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:j=1,2,・・・,p)、並びに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置を備えた情報処理装置において、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する方法であって、
前記ハンガ力、傾斜、加速度、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【数10】
JP0004825110B2_000038t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、w:慣性力補正係数、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて接触力f(t)を算出することを特徴とする接触力推定方法。
【請求項14】
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:i=1,2,・・・,m)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置を備えた情報処理装置において、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する方法であって、
前記ハンガ力、傾斜および加速度を示すデータから、以下の式
【数11】
JP0004825110B2_000039t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、fine:慣性力を推定する非線形関数)
に基づいて、接触力f(t)を算出することを特徴とする接触力推定方法。
【請求項15】
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:i=1,2,・・・,m)、並びに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置を備えた情報処理装置において、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する方法であって、
前記ハンガ力、傾斜、加速度、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【数12】
JP0004825110B2_000040t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、fine:慣性力を推定する非線形関数、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて接触力f(t)を算出することを特徴とする接触力推定方法。
【請求項16】
前記記憶装置が、
学習用の前記加速度のデータと、学習用の慣性力のデータと、ニューラルネットワークのモデルについて、当該ニューラルネットワークを構成する各ニューロン間の結合に関連付けられた重み、および、各ニューロンの閾値を含むニューラルネットワークモデルデータ、および、推定用の加速度のデータを記憶し、
前記接触力を推定する際に、前記慣性力を算出するステップが、
前記記憶装置に記憶された、初期的なニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記学習用の加速度のデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返す演算ステップ、並びに、
前記ニューラルネットワークモデルの出力層に、前記学習用の慣性力のデータを与え、出力層から中間層を経て入力層に向けて、誤差信号を伝搬させて、少なくとも、前記ニューラルネットワークデータにおける前記結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を修正し、前記修正された結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を、修正されたニューラルネットワークデータとして記憶する誤差逆伝搬ステップを含む学習ステップと、
前記記憶装置に記憶された前記学習ステップにおける学習により修正されたニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記推定用の加速度のデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返し、前記出力層からの値を、推定された慣性力として、前記記憶装置に記憶する推定ステップと、を有することを特徴とする請求項14または15に記載の接触力推定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフのすり板のトロリ線への接触力を推定するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電車線設備は鉄道特有の長尺設備であるため、架線の保守にはコストと時間を要する。検測車によりトロリ線磨耗残存径を測定し、要注意箇所を夜間に作業員が確認し、磨耗が許容値を超えている場合には保守を行っているのが現状である。
【0003】
その一方、近年の研究により測定可能となった架線・パンタグラフ間の接触力(以下、単に「接触力」と称する。)は、集電性能を評価する重要な指標の1つである。近年の動向として検測車などのパンタグラフで接触力を測定し、保守に利用しようとする流れがあり、接触力を利用した波動伝播速度の測定など接触力の活用法についても検討が進められている(非特許文献1)
また、現在の電車線保守においては、トロリ線の磨耗抑制は重要課題の一つであるが、トロリ線磨耗はその形成機構が非常に複雑である。トロリ線の磨耗形成の要因として、主なもので、パンタグラフの特性、パンタグラフの集電電流、すり板の特性、走行速度、架線種別、架線構成、トロリ線表面状態などが挙げられる。
【0004】
上述したように、トロリ線の摩擦形成の要因は多用であるが、接触力とトロリ線の磨耗との因果関係を調べることが有用と考えられている。

【非特許文献1】「架線・パンタグラフ間の接触力測定による電車線診断技法の検討」 第2回評価・診断に関するシンポジウム、第105~110頁、2003年12月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の接触力の測定は、検測車のような特定の車両のパンタグラフの舟体に加速度計や歪ゲージを設けて、パンタグラフの舟体がトロリ線に接触した状態で、車両を走行させることで測定している。したがって、特定の車両の特定のパンタグラフについて、架線・パンタグラフ間の接触力を測定できるにすぎない。実際には、架線には多種多様のパンタグラフを有する車両が走行するため、これらの接触力を得ることが望ましい。
【0006】
本発明は、種々のパンタグラフの接触力を取得することができるパンタグラフ接触力推定システムおよび推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、ある区間を通過する種々のパンタグラフの接触力を得るために、架線に設置したセンサの情報に基づいて当該接触力を推定する。概略的には、本発明において、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する接触力推定システムは、測定区間の間に存在する前記トロリ線と連結されたハンガのハンガ力、測定区間の両端における傾斜、ならびに前記測定区間におけるトロリ線の加速度の分布から、接触力f(t)を算出する
より詳細には、本発明の目的は、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する接触力推定システムであって、
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、前記トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間におけるトロリ線の加速度の連続的な分布(∂y/∂t)をそれぞれ示すデータとを記憶した記憶装置と、
前記ハンガ力、傾斜および前記加速度の連続的な分布を示すデータから、以下の式
【0008】
【数13】
JP0004825110B2_000002t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度)
に基づいて、接触力f(t)を算出する接触力算出手段と、
を備えたことを特徴とする接触力推定システムにより達成される。
【0009】
好ましい実施態様においては、前記記憶装置が、さらに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータ(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)を記憶し、
前記接触力算出手段が、
前記ハンガ力、傾斜、加速度の連続的な分布、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【0010】
【数14】
JP0004825110B2_000003t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて接触力f(t)を算出する。
【0011】
また、本発明の目的は、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する接触力推定システムであって、
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、前記トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:j=1,2,・・・,p)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置と、
前記ハンガ力、傾斜および加速度を示すデータから、以下の式
【0012】
【数15】
JP0004825110B2_000004t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度)
に基づいて、接触力f(t)を算出する接触力算出手段と、
を備えたことを特徴とする接触力推定システムにより達成される。
【0013】
好ましい実施態様においては、前記記憶装置が、さらに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータ(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)を記憶し、
前記接触力算出手段が、前記ハンガ力、傾斜、加速度、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【0014】
【数16】
JP0004825110B2_000005t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、w:慣性力補正係数、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて接触力f(t)を算出する。
【0015】
また、本発明の目的は、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する接触力推定システムであって、
少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、前記トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:i=1,2,・・・,m)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置と、
前記ハンガ力、傾斜および加速度を示すデータから、以下の式
【0016】
【数17】
JP0004825110B2_000006t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、fine:慣性力を推定する非線形関数)
に基づいて、接触力f(t)を算出する接触力算出手段と、
を備えたことを特徴とする接触力推定システムにより達成される。
【0017】
好ましい実施態様においては、前記記憶装置が、さらに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータ(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)を記憶し、
前記接触力算出手段が、前記ハンガ力、傾斜、加速度、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【0018】
【数18】
JP0004825110B2_000007t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、fine:慣性力を推定する非線形関数、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて接触力f(t)を算出する。 また、好ましい実施態様においては、前記記憶装置が、学習用の前記加速度のデータと、学習用の慣性力のデータと、ニューラルネットワークのモデルについて、当該ニューラルネットワークを構成する各ニューロン間の結合に関連付けられた重み、および、各ニューロンの閾値を含むニューラルネットワークモデルデータ、および、推定用の加速度のデータを記憶し、
前記接触力算出手段が、ニューラルネットワークモデルデータに含まれる重みおよび閾値を適切な値にする学習手段であって、
前記記憶装置に記憶された、初期的なニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記学習用の加速度のデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返す演算手段と、
前記ニューラルネットワークモデルの出力層に、前記学習用の慣性力のデータを与え、出力層から中間層を経て入力層に向けて、誤差信号を伝搬させて、少なくとも、前記ニューラルネットワークデータにおける前記結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を修正し、前記修正された結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を、修正されたニューラルネットワークデータとして記憶する誤差逆伝搬手段と、を有する学習手段と、
前記記憶装置に記憶された前記学習手段による学習により修正されたニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記推定用の加速度のデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返し、前記出力層からの値を、推定された慣性力fineとして、前記記憶装置に記憶する推定手段と、を有する。
【0019】
ある実施態様においては、たとえば、前記複数の測定点が前記連結点の間で2箇所あり、前記連結点からほぼ±1/4*(連結点の間の距離)(+は列車の進行方向)だけ離間した位置にある。
【0020】
別の実施態様においては、前記複数の測定点が前記連結点の間に2箇所あり、前記連結点からほぼ+1/2*(連結点の間の距離)およびほぼ-1/4*(連結点の間の距離)だけ離間した位置にある。
【0021】
また、本発明の目的は、少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間におけるトロリ線の加速度の連続的な分布(∂y/∂t)をそれぞれ示すデータとを記憶した記憶装置を備えた情報処理装置において、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する方法であって、
前記ハンガ力、傾斜および前記加速度の連続的な分布を示すデータから、以下の式
【0022】
【数19】
JP0004825110B2_000008t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度)
に基づいて、接触力f(t)を算出することを特徴とする接触力推定方法により達成される。
【0023】
好ましい実施態様においては、前記記憶装置が、さらに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータ(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)を記憶し、
前記ハンガ力、傾斜、加速度の連続的な分布、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【0024】
【数20】
JP0004825110B2_000009t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて、接触力f(t)を算出する。
【0025】
さらに、本発明の目的は、少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:j=1,2,・・・,p)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置を備えた情報処理装置において、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する方法であって、
前記ハンガ力、傾斜および加速度を示すデータから、以下の式
【0026】
【数21】
JP0004825110B2_000010t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度)
に基づいて、接触力f(t)を算出することを特徴とする接触力推定方法により達成される。
【0027】
好ましい実施態様においては、前記記憶装置が、さらに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータ(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)を記憶し、
前記ハンガ力、傾斜、加速度、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【0028】
【数22】
JP0004825110B2_000011t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、w:慣性力補正係数、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて接触力f(t)を算出する。
【0029】
また、本発明の目的は、少なくとも、測定区間(-ε<x<ε)の間に存在する、トロリ線と連結されたハンガのハンガ力h(i=1,2,・・・,n)、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)、並びに、前記測定区間においてトロリ線上、前記ハンガとの連結点から所定の距離だけ離間した複数の測定点の加速度(∂/∂t:i=1,2,・・・,m)をそれぞれ示すデータを記憶した記憶装置を備えた情報処理装置において、パンタグラフの舟体のすり板とトロリ線との接触力を推定する方法であって、
前記ハンガ力、傾斜および加速度を示すデータから、以下の式
【0030】
【数23】
JP0004825110B2_000012t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、fine:慣性力を推定する非線形関数)
に基づいて、接触力f(t)を算出することを特徴とする接触力推定方法により達成される。
【0031】
好ましい実施態様において、前記記憶装置が、さらに、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータ(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)を記憶し、
前記接触力算出手段が、前記ハンガ力、傾斜、加速度、および、測定区間の両端におけるトロリ線の曲げ剛性による力の項のデータから、以下の式
【0032】
【数24】
JP0004825110B2_000013t.gif
(T:トロリ線の張力、ρ:トロリ線の線密度、fine:慣性力を推定する非線形関数、EI:トロリ線の曲げ剛性)
に基づいて接触力f(t)を算出する。
【0033】
好ましい実施態様において、前記記憶装置は、学習用の前記加速度のデータと、学習用の慣性力のデータと、ニューラルネットワークのモデルについて、当該ニューラルネットワークを構成する各ニューロン間の結合に関連付けられた重み、および、各ニューロンの閾値を含むニューラルネットワークモデルデータ、および、推定用の加速度のデータを記憶し、
前記接触力を推定する際に、前記慣性力fineを算出するステップは、
前記記憶装置に記憶された、初期的なニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記学習用の加速度のデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返す演算ステップ、並びに、
前記ニューラルネットワークモデルの出力層に、前記学習用の慣性力のデータを与え、出力層から中間層を経て入力層に向けて、誤差信号を伝搬させて、少なくとも、前記ニューラルネットワークデータにおける前記結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を修正し、前記修正された結合に関連付けられた重みおよび前記ニューロンに関する閾値を、修正されたニューラルネットワークデータとして記憶する誤差逆伝搬ステップを含む学習ステップと、
前記記憶装置に記憶された前記学習ステップにおける学習により修正されたニューラルネットワークモデルデータを読み出して、前記ニューラルネットワークモデルの入力層に、前記推定用の加速度のデータを与え、入力層から中間層を経て出力層に向けて、順次、前記ニューラルネットワークモデルデータにおけるニューロンの結合にしたがって、入力層により近い側のニューロンからの信号と当該結合に関連付けられた重みとの乗算結果の総和から閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力値を算出し、当該出力値を出力層の側に結合されたニューロンに出力することを繰り返し、前記出力層からの値を、推定された慣性力fineとして、前記記憶装置に記憶する推定ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、種々のパンタグラフの接触力を取得することができるパンタグラフ接触力推定システムおよび推定方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、架線の構造の一例を概略的に示す図である。図1に示すように、架線1のトロリ線10に、パンタグラフ2の舟体3が接触する。図1の例では、パンタグラフ2を備えた車両(図示せず)は、矢印の方向に進行する。
【0036】
図1に示すように、架線を支える支柱(図示せず)の支持点11、12の間に、吊架線13が張設される。また、吊架線13から等間隔でハンガ(たとえば、符号14、15参照)が垂下している。ハンガの下端は、トロリ線10に連結される。
【0037】
本実施の形態では、支持点11、12間の距離は50mであり、その間に5m間隔で10個のハンガが設けられる。本実施の形態においては、支持点の間を測定区間とし、測定区間内のトロリ線10上の所定の位置にセンサが配置される。たとえば、測定区間の両端、つまり、トロリ線10上、支持点11、12にそれぞれ整列する位置が第1の測定点101、102となる。第1の測定点のそれぞれにおいては、所定の間隔、たとえば、0.1m離間して2つの加速度計が配置される。また、図1の例では、トロリ線10とハンガとの連結点のそれぞれの両側の所定の位置が第2の測定点となる(符号111、112)。第2の測定点のそれぞれにも、加速度計が配置される。
本実施の形態においては、測定区間の両端の第1の測定点のそれぞれに、2つのセンサ(「第1のセンサ」とも称する。)を配置することは、全ての例で同様であるが、第2の測定点の他のセンサ(トロリ線上、ハンガ間、或いは、ハンガとの連結点に配置されるセンサ:「第2のセンサ」とも称する。)の配置については、種々の態様がある。
【0038】
図2(a)~(c)は、第2のセンサの配置の態様を示す図である。これら第2のセンサの配置位置が、加速度の測定点となる。図2(a)に示すように第1の態様では、ハンガ201、202の間で、等間隔で5つの加速度計211~215が配置される。この態様では、ハンガ201から第2のセンサ211までの距離は+0.5m、隣接する第2のセンサ間の距離は+1m、ハンガ202から第2のセンサ215までの距離は-0.5mである。
【0039】
図2(b)に示すように、第2の態様では、ハンガとの連結点の両側±1.3mの位置に第2のセンサが設けられている(符号221、222参照)。また、図2(c)に示すように、第3の態様では、ハンガとの連結点の+2.5mおよび-1.3mの位置に第2のセンサが設けられている(符号231、232参照)。図1における第2のセンサの位置は、図2(b)に示す第2の態様のものに相当する。
【0040】
また、図1において示していないが、各ハンガには歪ゲージが配置され、ハンガ力(図1のh、h、・・・、h10)を測定できるようになっている。
【0041】
以下、本発明にかかる接触力の推定の原理を説明する。図1において、パンタグラフ2の接触力fは、1箇所に作用しており、n箇所のハンガ力h(i=1,2,・・・,n)で支持されている無限長の弦として運動方程式の定式化を行う。ρをトロリ線の線密度、Tをトロリ線の張力、xiをi番目のハンガ点のx座標、vを列車速度とすると、数10Hz以下の低周波数では、トロリ線のy方向の挙動y(x,t)を、(1)式のように近似的に表すことができる。
【0042】
【数25】
JP0004825110B2_000014t.gif
測定区間を「-ε<x<ε」の範囲とし、測定区間にパンタグラフがあると仮定する。この仮定の下で、(1)式を積分すると、次の(2)式を得ることが出来る。
【0043】
【数26】
JP0004825110B2_000015t.gif
(2)式において右辺第1項はハンガ力であり、各ハンガに設けられた歪ゲージにより測定されたハンガの伸縮から得ることができる。或いは、ハンガにロードセルを取り付けることにより、ハンガ力を直接測定することも可能である。
【0044】
また、(2)式において右辺第2項は、トロリ線張力による鉛直成分(y方向の成分)である。また、∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-εは、それぞれ、測定区間の端部における傾斜である。右辺第2項は、トロリ線上、測定区間の両端に配置された傾斜計(第1のセンサ)を測定することにより得ることができる。(2)式の右辺第3項は、トロリ線の慣性力である。実際には、トロリ線上下加速度の連続した分布から求められる。
【0045】
(2)式の右辺第3項は、連続的な加速度分布を取得する必要があり、その測定は容易ではない。そこで、右辺第3項を、有限箇所(p箇所)の加速度で代表させた近似式を(3)式に示す。このp箇所の有限箇所は、図1、図2に示す第2のセンサの配置位置に相当し、加速度は、第2のセンサにより測定されたものを利用する。
【0046】
【数27】
JP0004825110B2_000016t.gif
なお、ここで、wは、j点目の加速度に対する慣性力補正係数である。この慣性力補正係数wについても、複数の態様が含まれる。たとえば、第1の態様においては、慣性補正係数wは、以下のような値とした。
【0047】
=ρL/p ・・・(4)
(p:測定点の個数、L:測定区間の長さ)
(4)式を用いた場合を、「均一等価質量条件」と称する。
【0048】
また、推定結果とシミュレーション結果とが合致するようにwを同定することも考えた。このwの同定については後に詳述する。同定されたwを用いた場合を「等価質量同定条件」と称する。
【0049】
さらに、上記(3)式を、(5)式のように変形し、慣性力を推定する非線形関数fineをニューラルネットワーク(NN)により同定することも考えた。後述するように、NNにおいては、NNの入力は各点の加速度とし、教師信号には慣性力を与え、各時刻について誤差逆伝搬法を用いて学習を行った。ただし、NNの中間層の出力関数はシグモイド関数とし、その他は線形関数とした。
【0050】
【数28】
JP0004825110B2_000017t.gif
上述した接触力fを推定するための具体的なシステム構成についてより詳細に説明する。図3は、本発明の第1ないし第3の実施の形態にかかる接触力推定システムの構成を示すブロックダイヤグラムである。図3に示すように、本実施の形態にかかる接触力推定システム20は、種々のデータを記憶する記憶装置22、インタフェース24、補正係数を同定するための補正係数同定処理部26、および、記憶装置22に記憶されたデータおよび補正係数を用いて、接触力を演算する接触力演算部28を備えている。
【0051】
また、接触力推定システム20は、入力装置30、表示装置32、CD-ROM、CD-R/W、DVD-RAMなどの可搬記憶媒体35を読み書きするための記憶媒体読み書き装置34を有し、インタフェース24との間でデータを授受する。
【0052】
記憶装置22には、ハンガ力データファイル36、トロリ線張力による鉛直成分のデータのデータファイル(以下、「トロリ線張力データファイル」と称する。)38、加速度データファイル40が記憶される。また、接触力演算部28による演算結果である演算結果ファイル42も、処理の後に、記憶装置22に格納される。また、記憶装置22には、図示しないが演算過程で生じた種々のデータが記憶される。
【0053】
第1の実施の形態においては、測定点の加速度データではなく、架線のほぼ連続的な加速度分布を示すデータを利用する。
【0054】
第2の実施の形態においては、均一等価質量条件の慣性力補正係数を使用するため、補正係数同定処理部26は、(4)式に従った補正係数wを計算するだけである。その一方、第3の実施の形態においては、等価質量同定条件の慣性補正係数を使用するため、補正係数同定処理部26は後に詳述する演算を実行する。
【0055】
ハンガ力データファイル36には、測定区間におけるハンガ力h(i=1,2,・・・,n)が格納される。また、トロリ線張力データファイル38には、たとえば、測定区間の両端の測定点にそれぞれ2つずつ配置された加速度計による加速度から算出された傾斜に基づくトロリ線張力による鉛直成分データ((2)式右辺第2項)が格納される。或いは、トロリ張力データファイル38には、測定区間の両端に、それぞれ2つずつ配置された第1のセンサにて取得された、当該両端のそれぞれにおける傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)のデータが格納されていても良い。また、加速度データファイルには、第2のセンサ(加速度計)による測定点の加速度データが格納される。
【0056】
本実施の形態において、センサから取得した値を直接演算に利用できる場合には、センサから取得した値が、それぞれのファイルのデータとして記憶装置22に格納される。その一方、センサから取得した値に一定の処理を施した後に演算に利用する場合には、データファイル生成部44が、センサから取得した値に必要な演算を施して、ファイルのデータを生成して記憶装置22に格納する。
【0057】
たとえば、ハンガに配置されたロードセルからデータを取得した場合には、そのデータは、そのままハンガ力として利用できるため、ハンガ力データファイル36として記憶装置22に格納される。その一方、ハンガに配置された歪ゲージからデータを取得した場合には、データファイル生成部44は、歪ゲージの出力を力に変換したデータを含むハンガ力データファイル36を生成して、記憶装置22に格納する。
【0058】
トロリ線張力データファイル38のデータ(トロリ線による鉛直成分データ)は、データファイル生成部44により以下のように生成され、記憶装置22に格納される。
【0059】
(2)式や(4)式の右辺第2項において、∂y/∂xx=+εは、次の(6)式のように表すことができる。
【0060】
【数29】
JP0004825110B2_000018t.gif
(6)式において、y(ε+Δx/2,t)は、測定区間の一方端におけるy方向の変位、y(ε+Δx/2,t)は、測定区間の他端におけるy方向の変位である。本実施の形態においては、測定区間の両端に第1のセンサ(加速度計)が配置されている。両端にそれぞれ2つずつ配置された加速度計、および、測定区間の距離Δxから、上記y(ε+Δx/2,t)およびy(ε+Δx/2,t)を求めることができる。同様に、∂y/∂xx=-εを求めることもできる。これらに基づいて、データファイル生成部44は、トロリ線張力による鉛直成分データを含むトロリ線張力データファイル38を生成して、記憶装置22に格納する。
【0061】
第1の実施の形態においては、測定点の加速度データではなく、データファイル生成部44が、架線の画像データを利用に基づいて架線のほぼ連続的な加速度分布を示すデータを生成して、これを加速度データファイル40として記憶装置22に格納しておく。
【0062】
接触力演算部28は、ハンガ力データファイル36からハンガ力hを取得し、また、トロリ線張力データファイル38から、トロリ線張力による鉛直成分のデータを取得する。或いは、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)を取り出して、これらに基づいて、トロリ線張力による鉛直成分を算出しても良い。
【0063】
また、接触力演算部28は、加速度データファイル40から、ほぼ連続的な加速度分布を取り出す。これらに基づいて、接触力演算部28は、(2)式にしたがって、各時間tの接触力f(t)を求める。求められたf(t)を含む演算結果ファイル42が、記憶装置22に格納される。
【0064】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態においては(3)式にしたがって接触力を算出し、かつ、慣性力補正係数は均一等価質量条件にしたがった値を採用している。第2の実施の形態では、加速度データファイル40には、第1の態様にしたがった、トロリ線上、ハンガとの連結点の間にそれぞれ5つずつ設けられた加速度計のデータ、或いは、第2の態様、第3の態様にしたがって、ハンガとの連結点の間にそれぞれ2箇所ずつ設けられた加速度計のデータが格納される。補正係数同定処理部26は、(4)式にしたがったwを算出する。
【0065】
接触力演算部28は、ハンガ力データファイル36からハンガ力hを取得し、また、トロリ線張力データファイル38から、トロリ線張力による鉛直成分のデータを取得する。或いは、測定区間の両端における傾斜(∂y/∂xx=+ε、∂y/∂xx=-ε)を取り出して、これらに基づいて、トロリ線張力による鉛直成分を算出しても良い。
【0066】
また、接触力演算部28は、加速度データファイル40から加速度計のデータを取得し、これら取得したデータに基づいて、(3)式にしたがって、各時間tの接触力f(t)を求める。求められたf(t)を含む演算結果ファイル42は、記憶装置22に格納される。
【0067】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。第2の実施の形態においては(3)式にしたがって接触力を算出し、かつ、慣性力補正係数は等価質量同定条件にしたがった値を採用している。第3の実施の形態において、記憶装置22の種々のファイルのデータは、第2の実施の形態と同様である。以下、慣性力補正係数の算出について説明する。
【0068】
以下、(7)式~(14)式においては、時間領域と周波数領域との区別のため、時間領域の接触力は小文字の「f」で表し、フーリエ変換後の周波数領域の接触力については大文字の「F」で表す。これにより、接触力f(t)は、以下の(7)式で表される。
【0069】
【数30】
JP0004825110B2_000019t.gif
なお、この(7)式と(2)式は同じである。
【0070】
ここで、測定点jにおけるトロリ線のy方向の加速度∂(t)/∂tをα(t)とおき、かつ、右辺第1項および右辺第2項を、それぞれ、(8)式および(9)式に示すように表すと、上記(7)式は、(10)式に示すようになる。
【0071】
【数31】
JP0004825110B2_000020t.gif
ここで、(10)式についてフーリエ変換を施して、周波数領域での議論とすると、(10)式は、(11)式に示すようなものとなる。
【0072】
【数32】
JP0004825110B2_000021t.gif
式(11)の両辺をF(ω)で割ると、式(12)に示すようになる。
【0073】
【数33】
JP0004825110B2_000022t.gif
ここで、推定が正しくなる条件は、(13)式および(14)式に示すように、実部が「1」、かつ、虚部が「0」である場合、つまり、接触力測定精度のゲインが1.0倍で、かつ、位相遅れがない場合である。本実施の形態にかかる補正係数同定処理部26は、(13)式および(14)式をもっとも満足するようなwを最小二乗法により求めている。
【0074】
【数34】
JP0004825110B2_000023t.gif
接触力演算部28は、補正係数同定処理部26で求めたw以外は、第2の実施の形態と同様に、記憶装置22のデータファイルからデータを取得して演算を実行して、各時間tの接触力f(t)を算出し、接触力f(t)を含む演算結果ファイル42を記憶装置22に格納する。
【0075】
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。第4の実施の形態においては、ニューラルネットワークを用いて、慣性力を推定する非線形関数fineを同定している。図4に示すように、第4の実施の形態にかかる接触力推定システムは、上記非線形関数をニューラルネットワークを用いて同定するためのニューラルネットワーク演算部46を備えている。また、記憶装置22には、ニューラルネットワーク演算で使用するデータや演算過程で生じたデータ群(NN演算用データ群)48が記憶されるようになっている。
【0076】
図5は、ニューラルネットワーク演算部46の構成をより詳細に示すブロックダイヤグラムである。図5に示すように、ニューラルネットワーク演算部46は、ニューラルネットワークモデル(NNモデル)を学習させる学習処理部50と、学習されたNNモデルに基づいて慣性力の推定値を算出する推定値算出処理部52とを有する。
【0077】
また、記憶装置22に記憶されたNN演算用データ群48には、NNモデルデータ54、学習用の加速度実測値データ群56、慣性力実測値データ群58、推定用の加速度実測値データ群60が含まれる。また、推定値算出処理部52により算出された慣性力推定値データ60も、記憶装置22に記憶される。たとえば、加速度実測値データ群を構成する加速度データは、シミュレーションから求めたものを利用することができる。また、慣性力実測値データは、接触力、ハンガ力、トロリ線張力による鉛直成分から求めることができる。つまり、(2)式にいう左辺、右辺第1項および右辺第2項のそれぞれの実測値から求めることができる。
【0078】
なお、ここにいう実測値はシミュレーションにより求めるものも含まれるが、無論、実際に測定した値、たとえば、接触力測定用パンタグラフにより測定された接触力(架線加振試験を行った場合には加振力)、実際に測定されたハンガ軸力、トロリ線傾斜の実測の加速度なども含まれる。
【0079】
ニューラルネットワークにおいては、ニューロンは、入力側で1以上の他のニューロンと結合される。ニューロン間の結合のそれぞれには重みが割り当てられ、入力が通る結合に対応する重みとの積が、ニューロンに与えられる。ニューロンにおいては、入力と対応する重みとの積の総和を算出して、閾値を減じた値に基づく出力関数により、出力する。したがって、NNモデルデータ54には、ニューロン間の結合の情報、結合に関連付けられた重み、ニューロンの閾値が含まれる。結合に関連付けられた重みおよびニューロンの閾値は、後述する学習の間に随時更新されていく。
【0080】
図6は、学習時のNNモデルの構造を模式的に示す図である。図6に示すように、ある時間tにおける加速度実測値データ(y”(t))(j=1、2、・・・、p)が、それぞれ入力層のニューロンに入力され、入力成分は中間層のニューロンを伝搬して出力層のニューロンに達する。その一方、教師信号として、時間tiにおける慣性力fine(y”,y”,・・・,y”,t)が出力層のニューロンに与えられ、誤差伝搬法(BP(Back Propagation)法)により誤差成分が中間層のニューロンを出力層から入力層に向かって逆向きに伝搬し、ニューロン間の結合に関連付けられた重みなどが修正される。なお、y”(t)は、トロリ線高さyのtによる2階微分であり、∂y/∂tと同一である。
【0081】
図7は、学習時の処理を概略的に示すフローチャートである。図7に示すように、学習処理部50は、記憶装置22からNNモデルデータ54を読み出し(ステップ701)、まず、各ニューロン間の結合に関連付けられた重みの初期値として、乱数を用いた小さい値を付与する(ステップ702)。次いで、学習処理部50は、時間tを特定するパラメータiを初期化し(ステップ703)、入力層に、加速度実測値データy”(t)(j=1,2,・・・,p)を与える形で演算を実行する(ステップ704)。
【0082】
演算においては、学習処理部50は、入力信号が出力層に向けて伝搬されるように、順次、入力信号と結合の重みとの積を算出し、各ニューロンについて積の総和を算出して、閾値を超えたか否かを判断する。あるニューロンについて閾値を超えていると判断された場合には、ニューロンを発火させて、所定の値の信号を結合されたニューロンに対して出力する。
【0083】
また、学習処理部50は、出力層に、慣性力実測値データfine(y”,y”,・・・,y”,t)を与える形で、誤差逆伝搬法により、各ニューロン間の結合に関連付けられた重みを学習させ(ステップ705)、各ニューロン間の結合に関連付けられた重み、および、各ニューロンの閾値を更新し、更新された重みおよび閾値を、記憶装置22に記憶する(ステップ706)。ステップ703~705の処理を、全てのtについて実行する(ステップ707、708参照)。
【0084】
図7に示す処理を、種々の加速度実測値データおよび慣性力実測値データを使って繰り返すことにより、NNモデルにおいて入力信号と教師信号との間の関係が学習され、各ニューロン間の結合に関連付けられた重みや各ニューロンの閾値が適切な値となる。
【0085】
学習により、各ニューロン間の結合に関連付けられた重みや各ニューロンの閾値が適切なものなり、これら値が記憶装置22にNNモデルデータ54として格納される。この状態で、推定値算出処理部52は、NNモデルデータ54および推定用の加速度実測値データ60に基づいて、慣性力推定値データを算出する。
【0086】
図8は、推定処理を概略的に示すフローチャートである。図8に示すように、推定値算出処理部52は、記憶装置22からNNモデルデータ54を読み出し(ステップ801)、時間tを特定するパラメータiを初期化する(ステップ802)。次いで、推定値算出処理部52は、入力層に、推定用の加速度実測値データy”(t)(j=1,2,・・・,p)を与える形で、演算を実行する(ステップ803)。演算においては、推定値算出処理部52は、入力信号が出力層に向けて伝搬されるように、順次、入力信号と結合の重みとの積を算出し、各ニューロンについて積の総和を算出して、閾値を超えたか否かを判断する。あるニューロンについて閾値を超えていると判断された場合には、ニューロンを発火させて、所定の値の信号を出力する。入力層から出力層に向けて、順次、信号の重み付け、ニューロンにおける総和の算出、閾値との比較および信号の出力を繰り返すことにより、出力層から、慣性力推定値データfine(y”,y”,・・・,y”,t)が出力される。この慣性力推定値データは、記憶装置22に記憶される(ステップ804)。推定値算出処理部52は、ステップ803および804の処理を、全てのtについて実行する(ステップ805、806参照)。
【0087】
接触力演算部28は、上述したようにして求めた慣性力推定値データを、(3)式の右辺第3項として利用し、接触力f(t)を算出する。なお、右辺第2項の慣性力補正係数wとして、均一等価質量条件にしたがった値を利用しても良いし、等価質量同定条件にしたがった値を利用しても良い。
【0088】
以下、第2の実施の形態~第4の実施の形態にかかる演算により得られた接触力の推定値について説明する。接触力の実測値を直接的に計測するのは容易ではないため、シミュレーションにより求めた接触力を、接触力の実測値とする。シミュレーションにおいてトロリ線および吊架線の張力は、それぞれ9810Nとし、トロリ線および吊架線の線密度は、それぞれ0.99kg/m、1.09kg/mとした。また、トロリ線を接触しつつ移動するパンタグラフは在来線用パンタグラフとし、静押上力は54Nとした。また車両の走行速度は130km/hとした。
【0089】
図1に示すように、1径間を測定区間としている。また、第2のセンサの配置については、第1の態様(ハンガ間に1メートル間隔で5つずつセンサを配置)、第2の態様(ハンガの連結点の両側±1.3mの位置にセンサを配置)、第3の態様(ハンガの連結点の+2.5mおよび-1.3mの位置にセンサを配置)のそれぞれについて考えた。
【0090】
図9は、接触力推定結果の時刻歴応答を示すグラフである。図9において、縦軸は接触力(N)、横軸は時間(秒)である。図中のグラフ(1)~(5)は以下の通りの条件のものである。
(1)シミュレーションにより求めた接触力(接触力の実測値)
(2)第1の態様によるセンサ配置で、第2の実施の形態にしたがって(wを均一等価質量条件にしたがって求めて)算出した接触力
(3)第2の態様によるセンサ配置で、第2の実施の形態にしたがって(wを均一等価質量条件にしたがって求めて)算出した接触力
(4)第2の態様によるセンサ配置で、第3の実施の形態にしたがって(wを等価質量同定条件にしたがって求めて)算出した接触力
(5)第3の態様によるセンサ配置で、第3の実施の形態にしたがって(wを等価質量同定条件にしたがって求めて)算出した接触力
図10は、上記(1)~(5)の接触力推定結果のパワースペクトルを示すグラフである。図10において縦軸はPSD(パワースペクトル密度)、横軸は周波数(Hz)である。
【0091】
図11は、上記(1)の接触力、および、第3の態様によるセンサ配置で、第4の実施の形態(NNを用いて慣性力を推定)にしたがって算出した接触力を示すグラフである。
【0092】
これらの結果から、必要な周波数範囲に応じて十分な個数或いは所定の位置に加速度計を配置することにより、接触力の推定が可能であることが確認できた。また、ニューラルネットワークを使用することで、少ない加速度計でも良好な結果が得られることがわかった。
【0093】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0094】
たとえば、第2のセンサ(加速度計)は、第2の態様では、トロリ線とハンガとの連結点の間で2箇所配置され、その配置位置は、連結点からほぼ±1/4*(連結点の間の距離)(+は列車の進行方向)だけ離間した位置である。また、第3の態様では、トロリ線とハンガとの連結点の間で2箇所配置され、その配置位置は、連結点からほぼ+1/2*(連結点の間の距離)、および、ほぼ-1/4*(連結点の間の距離)だけ離間した位置である。これは、連結点の間の距離を半波長とする波動や、連結点の距離の1/2を半波長とする波動を考慮している。しかしながら、センサの配置位置(測定点の位置)は、これらに限定されるものではない。
【0095】
また、前記実施の形態においては、測定区間を、架線の支持点の間として設定しているが、測定区間はこれに限定されるものではない。
【0096】
さらに、前記実施の形態においては、(1)式に示すようなトロリ線の波動方程式に基づいていたが、これに限定されるものではない。
【0097】
元の波動方程式を(15)式のように考え、(16)式のように曲げ剛性EIの項を残して近似しても良い。
【0098】
【数35】
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この場合に、測定範囲を「-ε<x<ε」として、(16)式を積分すると、ハンガ力を加味した(17)式を得ることができる。
【0099】
【数36】
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(17)式は、(2)式に類似し、(17)式の右辺第1項、第2項および第4項が、それぞれ、(2)式の右辺第1項、第2項および第3項に相当する。(17)式において、右辺第3項中の(∂y/∂xx=+εおよび(∂y/∂xx=-εは、それぞれ、測定区間の終点および始点のトロリ線の高さの3階空間微分である。したがって、測定区間の両端にそれぞれ4点ずつ加速度計を配置し、これら加速度計の値に基づいて、(∂y/∂xx=+εおよび(∂y/∂xx=-εは、それぞれ、以下の(18)式および(19)式により算出することができる。
【0100】
【数37】
JP0004825110B2_000026t.gif
したがって、本発明の第1の実施の形態の変形例として、第1の実施の形態のデータと、測定区間の終点および始点のトロリ線の高さのデータとに基づいて、(17)式に基づいて、f(t)を算出することもできる。
【0101】
さらに、(17)式の右辺第4項を、有限箇所(p箇所)の加速度で代表させることにより、(20)式を得ることができる。
【0102】
【数38】
JP0004825110B2_000027t.gif
(20)式は、(3)式に類似し、(20)式の右辺第1項、第2項および第4項が、それぞれ、(3)式の右辺第1項、第2項および第3項に相当する。したがって、第2の実施の形態或いは第3の実施の形態の変形例として、第2の実施の形態或いは第3の実施の形態のデータと、測定区間の終点および始点のトロリ線の高さのデータとに基づいて、(20)式に基づいて、f(t)を算出することも可能である。
【0103】
また、(20)式を(21)式のように変形して、慣性力を推定する非線形関数fineをニューラルネットワーク(NN)により同定することもできる。
【0104】
【数39】
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(21)式は、(5)式に類似し、(21)式の右辺第1項、第2項および第4項が、それぞれ、(5)式の右辺第1項、第2項および第3項に相当する。したがって、第5の実施の形態の変形例として、第5の実施の形態のデータと、測定区間の終点および始点のトロリ線の高さのデータとに基づいて、(20)式に基づいて、f(t)を算出することも可能である。
【0105】
なお、上記第4の実施の形態の変形例において、NNのモデルの出力層に用いる慣性力実測値データは、接触力、ハンガ力、トロリ線張力による鉛直成分、および、曲げ剛性EIおよびトロリ線の曲げ剛性による力の項に基づいて求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、架線の構造の一例を概略的に示す図である。
【図2】図2(a)~(c)は、それぞれ本実施の形態にかかる第2のセンサの配置の態様を示す図である。
【図3】図3は、本発明の第1~第3の実施の形態にかかる接触力推定システムの構成を示すブロックダイヤグラムである。
【図4】図4は、本発明の第4の実施の形態にかかる接触力推定システムの構成を示すブロックダイヤグラムである。
【図5】図5は、ニューラルネットワーク演算部の構成をより詳細に示すブロックダイヤグラムである。
【図6】図6は、学習時のNNモデルの構造を模式的に示す図である。
【図7】図7は、第4の実施の形態にかかる学習時の処理を概略的に示すフローチャートである。
【図8】図8は、第4の実施の形態にかかる推定処理を概略的に示すフローチャートである。
【図9】図9は、接触力推定結果の時刻歴応答を示すグラフである。
【図10】図10は、触力推定結果のパワースペクトルをそれぞれ示すグラフである。
【図11】図11は、上記(1)の接触力、および、第3の態様によるセンサ配置で、第4の実施の形態(NNを用いて慣性力を推定)にしたがって算出した接触力を示すグラフである。
【符号の説明】
【0107】
1 架線
2 パンタグラフ
10 トロリ線
20 接触力推定システム
22 記憶装置
26 補正係数同定処理部
28 接触力演算部
36 ハンガ力データファイル
38 トロリ線張力データファイル
40 加速度データファイル
42 演算結果ファイル
44 データファイル生成部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10