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明細書 :植物用体内水分ストレス表示シート

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4817176号 (P4817176)
公開番号 特開2007-232572 (P2007-232572A)
登録日 平成23年9月9日(2011.9.9)
発行日 平成23年11月16日(2011.11.16)
公開日 平成19年9月13日(2007.9.13)
発明の名称または考案の名称 植物用体内水分ストレス表示シート
国際特許分類 G01N  21/78        (2006.01)
A01G   7/00        (2006.01)
G01N  33/52        (2006.01)
FI G01N 21/78 A
A01G 7/00 603
G01N 33/52 B
請求項の数または発明の数 2
全頁数 9
出願番号 特願2006-054679 (P2006-054679)
出願日 平成18年3月1日(2006.3.1)
審査請求日 平成21年2月23日(2009.2.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
【識別番号】397043190
【氏名又は名称】ライフケア技研株式会社
発明者または考案者 【氏名】森永 邦久
【氏名】星 典宏
【氏名】草塲 新之助
【氏名】横井 秀輔
個別代理人の代理人 【識別番号】100095430、【弁理士】、【氏名又は名称】廣澤 勲
審査官 【審査官】伊藤 裕美
参考文献・文献 特開2004-236794(JP,A)
特開2005-308733(JP,A)
実開昭63-093553(JP,U)
調査した分野 G01N 21/62-21/83
G09F 3/00-3/02
A01G 7/00
G01N 33/52
特許請求の範囲 【請求項1】
粘着剤により葉面に貼付される樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの透明な表示部の粘着剤層の側面に設けられ塩化コバルトを吸着させた保持体と、前記樹脂フィルムの前記保持体近傍に印刷されているとともに、前記塩化コバルトにより前記保持体が呈色する色の色見本が設けられ、
前記保持体は、吸湿性シートであり、前記保持体の前記樹脂フィルムと反対側の面に疎水性の不織布が取り付けられ、
前記樹脂フィルムには、前記粘着剤層に剥離紙が積層されているとともに、この剥離紙の一部は前記樹脂フィルムから剥離不能に固定され、前記剥離紙を植物の前記葉面に対する貼付箇所を表示する表示ラベルとし、
植物の水分不足の程度による異なる水分蒸散量に対応して、前記保持体の塩化コバルトの呈色の度合いが異なるように調整され、前記色見本は葉面からの水分蒸散量に基づいて、植物の水分ストレスの程度を表示することを特徴とする植物用体内水分ストレス表示シート。
【請求項2】
前記保持体は、水分吸着量に対して異なる感度で複数設けられた請求項1記載の植物用体内水分ストレス表示シート。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物への水分供給状態を測定するための植物用体内水分ストレス表示シートに関する。
【背景技術】
【0002】
植物体の水分ストレス状態を把握することは、高品質栽培に極めて重要である。カンキツにおいては、夏場の適度な水分ストレスが糖の蓄積を促し良好な果実生産に寄与するが、夏場の過度な水分ストレスは樹体に影響を及ぼし、秀品率の低下や隔年結果等の諸問題を生じる要因となる。
【0003】
高品質なカンキツ栽培には、夏場から収穫前までの水分ストレスや水分ストレスを是正する灌水間隔や灌水量などによる合理的な管理が不可欠である。しかしながら、一般のカンキツ生産者においては、これら水分ストレスの管理は生産者の目視などによる経験的な判断に拠るとことが大きい。
【0004】
樹体の水分ストレス状態の評価として、葉の巻き具合、葉色や果実の肥大や軟化程度などの外観上の変化を指標としているものが挙げられる。一方、水分ストレスの定量的な計測法として、圧力チャンバー法やサイクロメータ法を用いて葉などの水分ポテンシャル値を指標としているものなどがある。
【0005】
カンキツ樹の糖の蓄積を促す夏場では、樹体の水分ストレス状態を葉の水分ポテンシャルで表した場合、-1.0MPaから-1.5MPa程度で管理することが重要であるとされている。この水分ポテンシャルの値は、樹の水分状態が均質になる日の出前、あるいは日没後の値を用いなければならない。

【特許文献1】特開平9-28191号公報
【特許文献2】特開2001-272373号公報
【特許文献3】特開2005-308733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの水分ストレスの測定方法は、いずれも生産現場での実用性に乏しく、計測機器が高価であり、生産者が実際に樹のストレス状態の判断などに適用可能な手法とは言い難い。
【0007】
また、樹体、例えばカンキツ類では、過度の水分ストレス状態が継続された場合、生体の防御機能として、葉の巻き、下垂または落葉などの反応を呈し、目視により評価できるが、適度の水分ストレス状態(-1.0MPaから-1.5MPa)にあるか否かの判別は困難である。従って、植物の水分ストレス状態を評価する簡易かつ低廉な方法が求められている。
【0008】
そこで、機械的に水分ストレスを測定する方法として、植物の葉の同位元素の13C(原子量13の炭素の同位元素)と12C(原子量12の炭素の同位元素)とを測定してその比率から水ストレスを測定する方法が特許文献1に開示されている。しかし、これは13C,12Cの測定が野外で簡単に測定することが難しく、野外での測定に手間・時間がかかるという問題点がある。
【0009】
特許文献2には、植物体に第一の非分極性電極を接続し、植物が植生されている土壌に第二の非分極性電極を接続して、この2つの電極間に電位差計を設け、同電位差計によって両端間の起電力を測定して植物体が受けている水ストレスを測定する方法が開示されている。しかし、この方法では、電極の接続する位置、土壌の条件で誤差が大きいという欠点がある。
【0010】
特許文献3には、植物の葉に光を照射しその反射光を分光して、各波長の分光輝度を基準となるものの反射光と比較して、その植物の水分ストレスを測定する方法が開示されている。しかしこの方法も、装置が複雑で高価であり、果樹の生産者が手軽に且つ頻繁に測定できるものではない。
【0011】
一方、植物の葉の水分蒸散量を計測する機器は既存するものの、これらの機器自体が重く、高価で汎用的ではない計測機器である。
【0012】
本発明は、植物の水分ストレス状態を判別する方法であって、植生されている状態を損なわず、容易かつ非破壊的に樹体の水分ストレスを推定することができる植物用体内水分ストレス表示シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、圧力チャンバー法により予め計測した水分ストレス状態が異なる複数の樹体を対象に蒸散量との関係を明らかにし、水分量により発色するインジケータを葉の裏側に貼り付けて、蒸散量を反映させて発色させ、その発色度合いから水分ストレス状態を推定できることに至ったものである。
【0014】
本発明は、粘着剤により葉面に貼付される樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの粘着剤層の面に設けられ塩化コバルトを吸着させた塩化コバルト紙等の保持体と、前記樹脂フィルムの前記保持体近傍に印刷されているとともに、前記塩化コバルトにより前記保持体が呈色する色の色見本が設けられ、植物の水分不足の程度による異なる水分蒸散量に対応して、前記保持体の塩化コバルトの呈色の度合いが異なるように調整され、前記色見本は葉面からの水分蒸散に基づいて、植物の水分ストレスの程度を表示する植物用体内水分ストレス表示シートである。
【0015】
前記保持体は吸湿性シートであり、前記保持体の前記樹脂フィルムと反対側の面に疎水性の不織布が取り付けられたものである。また、前記保持体は、水分吸着量に対して異なる感度で複数設けられたものである。前記保持体近傍の前記樹脂フィルムには、かん水指標が設けられていても良い。
【0016】
前記樹脂フィルムには、前記粘着剤層に剥離紙が積層されているとともに、この剥離紙の一部は前記樹脂フィルムから剥離不能に固定され、前記剥離紙を貼付箇所の表示ラベルとしている。このとき、剥離紙を2枚重ね合わせるようにして、そのうちの1枚を表示ラベルとしても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明の植物用水分ストレス表示シートは、表示シートを葉に貼るだけで、当該樹の水分ストレス状態を簡易かつ低廉に評価することができる。これによって、生産者は樹の水分状態を頻繁にきめ細かく把握することができ、樹への灌水等の栽培管理に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1~図4はこの発明の一実施形態を示すもので、この実施形態の植物用水分ストレス表示シート10は、粘着シートとなる樹脂フィルム12が設けられ、その素材は柔軟性を有し透明な樹脂で作られている。例えば、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ナイロン、ウレタン等が使用される。厚さは、20~100ミクロンであり、好ましくは50~75ミクロンである。樹脂フィルム12は、例えば長円形に切断されている。なお、樹脂フィルム12は、少なくとも後述する表示部14が透明であれば良く、適宜の着色またはコーティングを施しても良い。
【0019】
樹脂フィルム12の表面の中央付近には、例えば四角形の透明な表示部14が、2個並べられて設けられ、表示部14以外の部分は任意の色や模様が印刷されている。表示部14は、樹脂フィルム12が透過して視認され、塩化コバルトを吸着させた保持体である塩化コバルト紙16の色を見ることができる。樹脂フィルム12の裏面側には、粘着剤18が全面に塗布されている。そして、表示部14に合わせて、各々感度の異なる塩化コバルト紙16が貼り付けられている。塩化コバルト紙16は、粘着剤18とは反対側に疎水性の不織布20で覆われている。
【0020】
樹脂フィルム12の粘着剤18には、剥離紙21,22が剥離可能に貼り付けられている。2枚の剥離紙21,22のうちの剥離紙22は、表面が剥離処理されていないもので、内側に位置した剥離紙21の表面に剥離処理が施されている。剥離紙21は、樹脂フィルム12の一端部から他端部近傍まで延び、他端部の一部を残すように粘着剤18を覆う。剥離紙22は、剥離紙21により覆われていない部分に接着部22aとして接着され、剥離紙21を覆うように樹脂フィルム12の一端部近傍まで延びている。これにより、剥離紙22は、接着部22aが樹脂フィルム12に付いた状態を維持する。そして、この剥離紙22の表面22b側には、試験のための種々の情報を書き込み可能であり、試験実施時には貼付場所を示す表示ラベルとして機能する。
【0021】
表示部14の側方の樹脂フィルム12には、色見本24が印刷されている。色見本24は、例えば4段階に設けられ、図1の図面上で一番下に位置する区分が塩化コバルトの無水塩に近い青色であり、一番上は塩化コバルトが完全に吸湿したときのピンク色である。
【0022】
なお、塩化コバルト紙16は、感度の異なるものを複数枚設ける。図1に示すように、2枚で測定することによって、より鮮明な反応を異なる水分量で表示させることができ、例えば4~10段階に分類され、測定精度を高くすることができる。
【0023】
本発明の実施形態の表示シート10の使用方法は、図3に示すように、ミカン等の樹30の規定の部位の葉32に対して、ミカンの場合には蒸散が行われる葉の裏面32aに中央の太い葉脈を跨がないように表示シート10を貼り付ける。ここで貼り付ける部位は、図4で示すように、樹30の樹高中心部を表示シート使用部位34とし、南側の十分に日射が得られる葉を選択する。また、粘着剤18を介して接着部22aで接着されている剥離紙22は、そのまま取り外さず、この表示シート10の樹30に対する貼り付け位置の目印とする。その他、剥離紙22の表面22bには、貼付時の温度や湿度、時間等の情報を記載しておくと良い。
【0024】
この実施形態の水分ストレス表示シート10を葉32の裏面32aに貼付したときの塩化コバルト紙16の色変化を図9に示す。図9では、2枚の塩化コバルト紙16を、シートA、Bとして表示し、水分ストレスの強い樹と弱い樹の2種類について、表示シート10を葉32に貼り付けた場合の塩化コバルト紙16の色彩の変化の経時変化を示した。
【0025】
ここで、水分ストレスと蒸散量との関係について、以下に説明する。
【0026】
カンキツ樹(宮川早生、樹齢7年生)を試供し、以下において、水分ストレスは、圧力チャンバー法を用いた水分ポテンシャルを指標とした値とし、蒸散量の測定値は葉面流速抵抗の計測によるポロメータ法を用いた値である。
【0027】
水分ストレスの違い(水分ストレス強:-2.2MPa、水分ストレス中:-1.1MPa、水分ストレス弱:-0.5MPa)による水分の蒸散量の1日の経時変化を、図5に示す。これにより、水分ストレスが強い方が、水分蒸散量が小さいことが分かった。
【0028】
本発明の植物の水分ストレス状態を判別する方法では、葉からの水分蒸散量の多寡から水分ストレス状態を判別するものであり、早朝、あるいは日没後では、水分ストレスに寄与する十分に評価しうる葉の蒸散量が得られない。また、葉の蒸散量は日射等の気象条件にも影響を受ける。そこで樹の水分ストレス状態が葉の蒸散量として顕著に表れる日中の正午から前後1時間程度を蒸散の計測時間に定めると良い。
【0029】
本発明の実施形態において、蒸散量測定に用いる葉は、日射の変動を考慮して、おおよそ日射に正対し、十分に日射を受けている葉について蒸散量を計測する部位と規定した。図6に、上記した規定の計測状態で行ったさまざまな水分ストレス状態の樹の葉面流速抵抗の違いを示す。水分ストレスの程度により生体の防御機能による気孔の閉塞が示され、葉面流速抵抗とは正の相関傾向が認められる。
【0030】
さらに、図7にさまざまな水分ストレス状態の樹の蒸散量と葉面流速抵抗との関係を示す。これは、葉面流速抵抗の減少と共に蒸散量の増加傾向を示すものである。
【0031】
以上より、葉30の水分蒸散量を計測することにより、樹の水分ストレス状態を判別することができることが分かる。
【0032】
図8に水分ストレス状態を示す水分ポテンシャルと蒸散量との関係を示す。図8の関係から、樹の水分ストレス状態の判別として、蒸散量3.0μg・cm-2-1を境界とすることが適当と言える。
【0033】
しかしながら、図7に示したように葉面流速抵抗が低い状態、すなわち気孔の開放度が大きい場合では、蒸散量にバラつきがある。図8では水分ストレスが弱い樹でも蒸散量が3.0μg・cm-2-1以下の場合が認められる。
【0034】
そこで、水分ストレスが弱い樹、すなわち閾値以上の蒸散量が得られるとされる樹体に、上記の蒸散量の測定に則して無作為に母集団を形成し、水分ストレスが弱い樹で蒸散量が3.0μg・cm-2-1以下で得られる割合の評価を行った。その結果、統計的に約2%程度(標準偏差1.83)であり、規定の葉について複数の位置について蒸散量測定の試行により水分ストレスの程度の評価は可能である。
【0035】
以上の測定は、夏季の測定として、平均気温30.5℃、平均相対湿度40.4Rh%、平均葉面積温度31.3℃、光量子密度1554±279μmol・m-2-1の状況下で行った。
【0036】
本発明の植物の水分ストレスの状態を判別する方法では、これらを考慮し、樹の水分ストレス状態の判別として、水分ストレス状態か否かの判別を蒸散量3.0μg・cm-2-1を閾値とする。
【0037】
本発明の植物の水分ストレスの状態を判別する方法では、蒸散量を複数の位置で計測して、3.0μg・cm-2-1以上の値が得られなければ、当該樹は水分ストレス状態であると判別できるものである。
【0038】
そこで、水分ストレスの状態か否を判別する閾値である、蒸散量3.0μg・cm-2-1を境界に、水分ストレス弱(-0.6MPa)と水分ストレス強(-2.1MPa)、の水分ストレス状態の2つの試供樹に対してこの発明の表示シート10を葉32に裏面に貼付して色彩変化を見た。その結果を図9に示す。本実施形態では、例えば反応時間を5分、すなわちこの表示シート10を貼り付けた後、5分経過時の呈色変化で評価を行うのが好ましいと言える。
【0039】
この実施形態の植物用体内水分ストレス表示シートによれば、極めて簡易に植物の水分ストレスを測定することができ、コストもかからず、頻繁に水分ストレスの状態を把握することができ、よりきめ細かな水分ストレス管理を行うことができ、果実等の品質向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の一実施形態の植物用体内水分ストレス表示シートの正面図である。
【図2】この発明の一実施形態の表示シートの側面図である。
【図3】この発明の一実施形態の表示シートの使用状態を示す斜視図である。
【図4】この発明の一実施形態の表示シートの樹に対する使用部位を示す斜視図である。
【図5】樹の水分ストレスの違いによる水分の蒸散量の1日の経時変化を示す。
【図6】規定の計測状態で行った水分ストレス状態と葉面流速抵抗を示す。
【図7】樹の葉からの水分蒸散量と葉面流速抵抗との関係を示す。
【図8】水分ストレス状態を示す水分ポテンシャルと蒸散量との関係を示す。
【図9】異なる水分ストレス状態の2つの試供樹に対してこの発明の表示シートを葉の裏面に貼付した状態での塩化コバルト紙の色彩変化を示す。
【符号の説明】
【0041】
10 表示シート
12 樹脂フィルム
14 表示部
16 塩化コバルト紙
18 粘着剤
20 不織布
22 剥離紙
22a 接着部
24 色見本
30 樹
32 葉
34 表示シート使用部位
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8