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明細書 :コラーゲン医薬組成物及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5392674号 (P5392674)
登録日 平成25年10月25日(2013.10.25)
発行日 平成26年1月22日(2014.1.22)
発明の名称または考案の名称 コラーゲン医薬組成物及びその製造方法
国際特許分類 A61K  47/48        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
A61K  47/30        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K   9/06        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  47/34        (2006.01)
FI A61K 47/48
A61K 47/42
A61K 47/30
A61K 45/00
A61K 9/06
A61P 35/00
A61K 47/34
請求項の数または発明の数 6
全頁数 25
出願番号 特願2009-61573 (P2009-61573)
出願日 平成21年3月13日(2009.3.13)
優先権出願番号 2008097138
優先日 平成20年4月3日(2008.4.3)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年2月14日(2012.2.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
発明者または考案者 【氏名】児島 千恵
【氏名】西阪 瑛子
【氏名】末廣 智幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
特許請求の範囲 【請求項1】
薬物と複合した生体適合性高分子化合物と、基材としてのコラーゲンとを含み、前記生体適合性高分子化合物がコラーゲンペプチドで修飾されている、医薬組成物。
【請求項2】
前記生体適合性高分子化合物が、デンドリマー又はポリペプチドである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記薬物が、抗癌剤である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記薬物と複合した生体適合性高分子化合物が、基材としてのコラーゲンに含有される請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ゲルの形態である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
薬物と複合した生体適合性高分子化合物を基材としてのコラーゲンと混合し、得られる混合物をゲル化させることを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物を製造する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物と複合した生体適合性高分子化合物を保持するコラーゲンゲル医薬組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の転移は、癌の治療において大きな問題の1つである。癌の転移は、癌細胞がマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)などのタンパク質分解酵素を分泌して、ラミニン、ゼラチン、フィブロネクチン、プロテオグリカンなどの細胞外マトリクスを分解して浸潤し、血管などの循環経路に浸透することにより進行すると推測されている。
【0003】
癌の治療に関して、送達システムを利用することが、現在までに開発されている。例えば、特開昭61-56134号(特許文献1)には、化学療法薬物を分散させたコラーゲン組成物を、腫瘍部位、その周囲又は腫瘍を除去したあとの組織に注入して、該薬物を含む組成物を組織に付着させて薬物を組織に送達することが記載されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開昭61-56134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、コラーゲンは繊維状タンパク質であり、網目構造を有しているので、薬物を包含する従来の医薬組成物を用いた場合、薬物が網目構造から外れて漏れ出し、正常な細胞に接触してしまう。通常、抗癌剤のような薬物は、正常細胞にとっては毒性が高いので、従来の組成物を用いることにより副作用が発生してしまうという問題が発生する。
【0006】
そこで、本発明者らは、上記の問題点を解決するために研究を重ねた結果、抗癌剤のような薬物と複合した生体適合性高分子化合物をコラーゲン中に保持させることにより、薬物がコラーゲンから漏れ出して正常細胞に影響を及ぼすことを回避できることを見出した。また、このようなコラーゲンは、癌細胞が特異的に分泌するMMPにより分解されるので、癌細胞が存在する部位で特異的に薬物を放出できることも見出して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
よって、本発明は、薬物と複合した生体適合性高分子化合物と、基材としてのコラーゲンとを含む医薬組成物を提供する。
また、本発明は、薬物と複合した生体適合性高分子化合物を基材としてのコラーゲンと混合し、得られる混合物をゲル化させることを含む、上記の医薬組成物を製造する方法も提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の医薬組成物は、正常細胞にとって有害な抗癌剤のような薬物が、癌細胞が存在する部位で特異的に放出され、正常細胞が存在する部位では放出されにくいので、副作用が少ない薬物の送達を可能にする。これは、徐放されてしまう低分子量の薬物が高分子量の生体適合性高分子化合物と複合していることによって達成される。また、生体適合性高分子化合物と薬物との複合を癌細胞の内部で特異的に切断されるものとすれば、より特異的に癌細胞にのみ薬物を送達できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】アドリアマイシン(ADR)と結合したPEG修飾ポリアミドアミンデンドリマーの合成のスキームを示す。
【図2】デンドリマーと結合したADRのデンドリマーからの解離に及ぼすpHの影響を示すグラフである。
【図3】コラーゲンゲルへのADR又はADRと結合したデンドリマーの保持率を示すグラフである。
【図4】(a)MDA-MB-231細胞に対するADR単独(■)及びPEG-PAMAM-N-ADR(◆)の影響、及び(b)MCF-7細胞に対するADR単独(■)及びPEG-PAMAM-N-ADR(◆)の影響を示す。
【図5】(a)ADR単独を含むコラーゲンを用いた場合、及び(b)PEG-PAMAM-N-ADRを含むコラーゲンを用いた場合のMCF-7及びMDA-MB-231細胞の細胞生存率を示す。
【図6】実施例2で得られた化合物の1H-NMRスペクトルを示す。
【図7】実施例2の合成スキームを示す。
【図8】実施例2で製造したコラーゲンペプチド単独、及びコラーゲンペプチド結合デンドリマーにおけるコラーゲンペプチドの3重ヘリックス形成性を示すCDスペクトルを示す。
【図9】実施例2のデンドリマー結合ADRからのADR解離の挙動を示すグラフである。
【図10】(a)MCF-7細胞に対するADR単独(◆)、コラーゲンペプチドを結合させていないADR結合デンドリマー(●)及びAcCP-PAMAM-N-ADR(▲)の影響、並びに(b)MDA-MB-231細胞に対するADR単独(◆)、コラーゲンペプチドを結合させていないADR結合デンドリマー(●)及びAcCP-PAMAM-N-ADR(▲)の影響を示す。
【図11】(a)MCF-7細胞に対するADR単独(◆)、コラーゲンペプチドを結合させていないADR結合デンドリマー(●)及びAcCP-PAMAM-N-ADR(▲)をそれぞれ含むコラーゲンの影響、並びに(b)MDA-MB-231細胞に対するADR単独(◇)、コラーゲンペプチドを結合させていないADR結合デンドリマー(○)、及びAcCP-PAMAM-N-ADR(△)をそれぞれ含むコラーゲンの影響を示す。
【図12】実施例3で得られた化合物の1H-NMRスペクトルを示す。
【図13】実施例3の合成スキームを示す。
【図14】実施例4で得られた化合物の1H-NMRスペクトルを示す。
【図15】実施例4の合成スキームを示す。
【図16】(a)MCF-7細胞に対するADR結合ポリグルタミン酸(■)及びADR結合デンドリマー(▲)の影響、並びに(b)MDA-MB-231細胞に対するADR結合ポリグルタミン酸(■)及びADR結合デンドリマー(▲)の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「複合する」とは、薬物と生体適合性高分子化合物とが1つの物質のように挙動する状態であることを意味し、薬物と生体適合性高分子化合物とが共有結合などの化学結合、又は静電相互作用、疎水性相互作用などによる物理結合により結合している状態である。
上記の化学結合は、薬物中に存在する何らかの官能基と、生体適合性高分子化合物中の官能基との直接又は間接的な結合により達成できる。
上記の物理結合は、生体適合性高分子化合物が樹状構造又は網目構造を有する場合に、その内部の間隙への薬物の包接(encapsulation)により達成できる。
上記の化学結合及び物理結合は、以下に記載するように、特定の条件、例えば温度、pHなどに応じて切断され得るものがより好ましい。

【0011】
上記の薬物は、生体適合性高分子化合物と複合するための官能基を有する薬物が好ましい。薬物として抗癌剤を用いることが好ましく、抗癌剤としては、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、ブレオマイシン、マイトマイシンCのような抗生物質、シスプラチン、オキサリプラチンのような白金化合物、5-フルオロウラシル、シタラビン、ゲムシタビンのような代謝拮抗剤、ビンクリスチン、タキソール(パクリタキセル)、ビンブラスチン、ドセタキセルのような天然物由来抗癌剤などが挙げられる。

【0012】
上記の生体適合性高分子化合物は、生体内での毒性が低く、薬物と複合可能な高分子化合物である。該化合物は、直鎖構造を有する直鎖状高分子化合物、及び分岐構造を有する分岐状高分子化合物のいずれの構造であってもよい。

【0013】
生体適合性高分子化合物は、薬物と複合可能な官能基を1種以上有するものが好ましい。該官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基などが挙げられる。
生体適合性高分子化合物と薬物との複合が、該高分子化合物中の官能基と薬物中に存在する何らかの官能基との結合によるものである場合、高分子化合物中の官能基と薬物中の官能基とは、高分子化合物の官能基と薬物の官能基との間で直接又は適切なリンカーを介在させて結合させることができる。該リンカーは、薬物が、好ましくは特定の条件下で、高分子化合物から切り離されることを可能にする結合を含むものが好ましく、例えば特定のpH条件下で切断されるヒドラゾン結合を含むもの、特定の酵素の存在下で切断される一連のペプチド、加水分解可能なエステル結合を含むものなどが挙げられる。

【0014】
直鎖状高分子化合物としては、ポリリシン、ポリグルタミン酸などのポリペプチドのようなポリアミド、ポリ乳酸などのポリエステル、ポリグリシドールなどのポリエーテル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミンなどが好ましい。なかでも、ポリアミノ酸、特にポリグルタミン酸がより好ましい。
分岐状高分子化合物としては、樹状構造を有するデンドリマー、ポリエチレンイミン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミドなどが好ましい。これらの高分子は、1種又は複数種を用いることができる。

【0015】
上記のデンドリマーとは、一般に、樹状構造を有する3次元的に高度に分枝した化合物であり、ほぼ球状の形状を有することが知られている。本明細書において、「デンドリマー」とは、デンドリマーを構成する部分構造であって、コアの部分の少なくとも1つの官能基が分岐していない構造を有するデンドロンも含む。

【0016】
一般に、デンドリマーは、コアと、いくつかの世代の分岐部分と、末端基とからなる。
デンドリマーのコアは、1つ以上の官能基を有する化合物から誘導されるものである。官能基としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、ヒドロキシ基、カルボン酸基、チオール基、エステル基、アミド基、ケトン基、アルデヒド基などが挙げられ、好ましくは、第1級アミノ基及び第2級アミノ基である。
上記のコアを構成する化合物としては、例えばアンモニア、エチレンジアミンなどが挙げられる。

【0017】
デンドリマーの分岐部分は、3以上の原子価を有する原子を含む分岐構造単位の繰り返しからなる。3以上の原子価を有する原子としては、炭素、窒素、ケイ素、リンなどが挙げられる。
デンドリマーの分岐部分としては、以下に示すような構造が、一般的に知られている。

【0018】
【化1】
JP0005392674B2_000002t.gif
(式中、nは1以上の整数であり、好ましくは60~300の整数である)

【0019】
上記の分岐構造を有する各デンドリマーについては、以下の文献に記載されている。
(A)D.A. Tomaliaら、Polym. J. 17, 117 (1985);D.A. Tomaliaら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 29, 138 (1990)
(B)E.M.M. de Brabander-van den Bergら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32, 1308 (1993);E.M.M. de Brabander-van den Bergら、Macromol. Symp. 77, 51 (1994);J.C. Hummelenら、Chem. Eng. J. 3, 1489 (1997);C. Wanerら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32, 1300 (1993)
(C)Henrik R. Ihreら、Bioconjugate Chem. 13, 443-452 (2002);Andrew P. Goodwinら、J.Am.Chem.Soc., 129, 6994 (2007)

【0020】
デンドリマーの分岐部分は、上記のような繰り返し単位を2種以上含むものであってもよい。

【0021】
デンドリマーの末端基の構造は、所望により適宜選択できる。例えば、末端基は、分岐部分の最後の繰り返し単位の構造を有してもよいし、末端基は、分岐部分とは別の構造を有してもよい。
デンドリマーの末端基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基などが挙げられ、好ましくはアミノ基である。

【0022】
本発明において、デンドリマーは、薬物と結合するか又は薬物をその内部の間隙に収容できる、すなわち包接できるものであれば、特に限定されない。
デンドリマーの世代数は、用いるデンドリマーのコア及び分岐部分の構造に応じて適宜選択できる。現在、第0~第10世代のものの入手が容易である。

【0023】
デンドリマーの製造方法は公知であり、例えば上記の文献に記載されている。また、ポリアミドアミンデンドリマーは、Starburst(登録商標)の商品名で市販されており、入手が容易である。
また、ポリアミドアミンデンドリマーは、例えば原料である第1級アミンに、アクリル酸エステルを反応させるマイケル付加反応と、ジアミノアルカンを用いるエステルアミド交換反応とにより第1世代のアミド化合物を得て、マイケル付加反応及びエステルアミド交換反応を繰り返すことにより製造できる(Tomalia, D.ら、Polym. J. 17、117~132 (1985);Frechet, J. M. J., Tomalia, D. A.編、(2001) Dendrimers and other dendritic polymers, J. Wiley & Sons, West Sussexを参照)。原料となるジアミンは、市販で入手可能である。

【0024】
上記の生体適合性高分子化合物、例えばデンドリマーは、該生体適合性高分子化合物に機能性を付与できる修飾物質で修飾されていてもよい。該修飾物質としては、生体適合性を付与できる物質、温度感受性を付与できる物質(例えばN-イソプロピルアクリルアミド、イソブチル基)、基材としてのコラーゲンとの親和性を付与できる物質、細胞への結合を促進できるリガンドなどが挙げられる。

【0025】
生体適合性を付与できる修飾物質としては、ポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。PEGの分子量は、120~12000が好ましく、より好ましくは350~12000、さらに好ましくは550~5000である。

【0026】
コラーゲンとの親和性を付与できる物質としては、コラーゲンと架橋可能な物質が好ましい。コラーゲンと架橋可能な物質としては、コラーゲンペプチド、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。なかでも、コラーゲンペプチドが好ましい。
なお、生体適合性高分子化合物を、基材としてのコラーゲンと混合する際に縮合剤を添加することによって、コラーゲンと、ジアミン、ジカルボン酸などの架橋剤が有するアミノ基やカルボキシル基との化学反応により、生体適合性高分子化合物をコラーゲンと架橋させることもできる。このような場合、生体適合性高分子化合物が、コラーゲンと架橋可能な物質で修飾されていなくても、生体適合性高分子化合物とコラーゲンとの架橋を行うことができる。

【0027】
コラーゲンペプチドは、1000~9000、より好ましくは1000~4000の分子量を有するコラーゲンの加水分解産物である。コラーゲンペプチドとしては、天然のコラーゲンを加水分解酵素処理して得られるもの、又は合成コラーゲンペプチドのいずれを用いることもできる。
コラーゲンペプチドは、水素結合を形成できる官能基を有するアミノ酸を含むものが好ましい。このようなコラーゲンペプチドを用いることにより、コラーゲンペプチドがデンドリマーと結合してデンドリマーの周囲に凝集したときに三重らせん構造を形成しやすく、形成された三重らせんが、基材としてのコラーゲンの三重らせんと架橋点を多く有することができるので、コラーゲンペプチドと基材としてのコラーゲンとの間の親和性を向上させることができる。
水素結合を形成できる官能基を有するアミノ酸としては、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、セリン、スレオニンなどのヒドロキシ基を有するアミノ酸が挙げられる。

【0028】
上記の修飾物質での生体適合性高分子化合物の修飾は、それ自体公知の技術を用いて行うことができる。
例えば、PEGでのデンドリマーの修飾は、Kojima C.ら、Bioconjuge Chem 11: 910~7 (2000)などに記載される方法を用いて行うことができる。具体的には、例えば、PEGの一方の末端のヒドロキシ基を、デンドリマーの末端基と反応性を有する基で誘導体化し、デンドリマーと反応させてPEGをデンドリマーの末端に結合させることができる。デンドリマーの末端基がアミノ基である場合、この末端基とウレタン結合又はアミド結合を形成できる基、例えば4-ニトロフェニルカーボネート基又はカルボキシル基をPEGの末端に形成するようにPEGを誘導体化することができる。また、デンドリマーの末端がヒドロキシ基である場合、この末端基とエステル結合を形成できる基、例えばカルボキシル基をPEGの末端に形成するようにPEGを誘導体化することができる。

【0029】
また、コラーゲンペプチドでのデンドリマーの修飾は、コラーゲンペプチドの一方の末端をデンドリマーの末端基と反応性を有する基で誘導体化し、デンドリマーと反応させてコラーゲンペプチドをデンドリマーの末端に結合させることにより行うことができる。デンドリマーの末端がアミノ基である場合、この末端基とウレタン結合又はアミド結合を形成できる基、例えば4-ニトロフェニルカーボネート基又はカルボキシル基をコラーゲンペプチドの末端に形成するようにコラーゲンペプチドを誘導体化することができる。また、デンドリマーの末端がヒドロキシ基である場合、この末端基とエステル結合を形成できる基、例えばカルボキシル基をコラーゲンペプチドの末端に形成するようにコラーゲンペプチドを誘導体化することができる。

【0030】
生体適合性高分子化合物と薬物との複合は、特定の条件で切断され得る結合によるものが好ましい。特定の条件とは、特定の温度又はpH、特定の酵素の存在下、加水分解条件下などを含む。上記の結合は、より好ましくは、薬物を放出させるべき温度又はpHで特異的に切断される結合である。
薬物として抗癌剤を用いる場合、薬物を放出させるべき温度としては、温熱療法を行う際の患部の温度(40~42℃程度)が挙げられる。また、薬物を放出させるべきpHとしては、エンドソーム、リソソームなどの酸性小胞内のpH(pH5~6)が挙げられる。
このようなpHで切断され得る結合としては、例えばK. Konoら、Biomaterials 29 p.1664-1675 (2008)などに記載されているヒドラゾン結合を用いることができる。

【0031】
上記の生体適合性高分子化合物と、薬物とのヒドラゾン結合は、具体的には、例えば、側鎖に反応性官能基を有するアミノ酸を生体適合性高分子化合物に結合させ、該アミノ酸の側鎖部に薬物を結合させることにより形成できる。この場合、所望により、アミノ酸の主鎖部に上記の修飾物質を結合させることができる。生体適合性高分子化合物の末端基がアミノ基である場合、アミノ基を保護したグルタミン酸-ベンジルエステルを生体適合性高分子化合物の末端アミノ基に反応させて、アミノ基を脱保護し、所望によりアミノ基に修飾物質を反応させた後、ベンジルエステルを除去し、リンカー(ヒドラゾン結合)を介して薬物を結合させることができる。

【0032】
薬物をデンドリマー内部の間隙に包接させる方法は公知であり、例えばKojima C.ら、Bioconjuge Chem 11: 910~7 (2000)などに記載されている。

【0033】
本発明の医薬組成物において、生体適合性高分子化合物と薬物との量比は、生体適合性高分子化合物及び薬物の構造に基づく空間配置により適切に選択できる。

【0034】
本発明の医薬組成物を構成するコラーゲンは、医療用コラーゲンとして通常用いられるものであれば特に限定されず、哺乳動物、特にヒトの腫瘍細胞が分泌するマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)により分解され得るものであればよい。
コラーゲンは、天然のものであってもよいし、変性したものであってもよい。変性したコラーゲンとしては、免疫原性を低減させたアテロコラーゲン、酸可溶化コラーゲン、アルカリ可溶化コラーゲン、アシル化コラーゲン、エステル化コラーゲンなどが挙げられる。市販のコラーゲンを用いることもできる。

【0035】
コラーゲンは、現在、19種類が知られており、これらの1種又は複数種を用いることができる。MMPにより分解されやすい点で、IV型コラーゲンを含むことが好ましい。また、ゲル化しやすい点でI型コラーゲンを含むことが好ましい。より好ましくは、I型コラーゲンとIV型コラーゲンとの混合物である。
I型コラーゲンとIV型コラーゲンとを混合して用いる場合、これらの重量比は特に限定されず、I型コラーゲン:IV型コラーゲン=100~25:0~75の重量比で混合して用いることができる。すなわち、I型コラーゲンを単独で用いることもできる。

【0036】
本発明の医薬組成物は、薬物と複合した生体適合性高分子化合物とコラーゲンとを、薬物と複合した生体適合性高分子化合物:コラーゲン=3:20~200000の重量比で含むことが好ましい。このような重量比でこれらの物質を含むことにより、コラーゲンがMMPにより分解された際に、薬物と複合した生体適合性高分子化合物を効率よく放出することができる。

【0037】
本発明の医薬組成物は、薬物と複合した生体適合性高分子化合物が、基材としてのコラーゲンに含有されることが好ましい。薬物と複合した生体適合性高分子化合物を含むコラーゲンは、ゲル化させことが好ましい。ゲル化させることにより、本発明の医薬組成物を患者へ塗布により投与することが容易になる。また、ゾル溶液を患部に注入して局所でゲル化させることによって、患部にコラーゲンゲルを投与することもできる。

【0038】
本発明の医薬組成物は、上記のようにして得られた薬物と複合した生体適合性高分子化合物をコラーゲンと混合して、得ることができる。
コラーゲンと薬物複合高分子化合物との混合は、コラーゲンがゲル化しない条件下で行うことができる。該条件は、低温、好ましくは0~4℃の温度である。

【0039】
本発明の医薬組成物は、上記の混合物をゲル化して得られるものが好ましい。ゲル化は、上記の混合物を20~40℃の温度で5~30分間インキュベートすることにより行うことができる。このようにゲル化した組成物は、例えば、患者の腫瘍部位を外科手術により切除した後に、処置された組織部分に塗布することができる。
【実施例】
【0040】
本発明を、以下の実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
実施例1 ポリエチレングリコール(PEG)で修飾されたデンドリマーと複合したアドリアマイシンを含むコラーゲンゲル医薬組成物
(1)薬物と複合したPEG修飾デンドリマーの製造
本実施例では、薬物として抗癌剤であるアドリアマイシン(ADR)を用い、生体適合性高分子化合物としてのデンドリマーとして市販のポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーに、修飾物質としてのポリエチレングリコール(PEG)を付加した化合物を用いた。
(1-1)メトキシポリエチレングリコール-4-ニトロフェニルカーボネートの合成
平均分子量が2000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル (PEG(2000)、Aldrich Chemical) (5.0mmol, 10g) を、蒸留したテトラヒドロフラン(THF、キシダ化学)(50ml) に溶解し、蒸留したTHF (25ml) に溶解したクロロギ酸-4-ニトロフェニル (15.0mmol, 3.02g、SIGMA-ALDRICH) とトリエチルアミン(TEA、ナカライテスク) (22.5mmol, 3.19ml) を加え、室温で4日間撹拌し、反応溶媒(THF)を減圧留去した。残渣をクロロホルムに溶解し、飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムを加えて脱水した。その後、クロロホルムを減圧留去して粗生成物を得た。さらにこれをジエチルエーテル500mlに滴下し、再沈殿することによって精製した。収率は78.5%であった。NMRによって同定した結果を以下に示す。
1H NMR (300MHz, CDCl3) ; δ3.38 (s,OCH3), 3.65 (m, CH2CH2O), 4.43 (m, OCOOCH2), 7.40 (d, aromatic), 8.28 (d, aromatic).
【0041】
(1-2)Bocグルタミン酸結合PAMAMデンドリマーの合成
t-ブトキシカルボニルグルタミン酸-γ-ベンジルエステル(Boc-Glu(OBzl)、和光純薬工業) (1.35mmol, 455.7mg)、N-ヒドロキシスクシンイミド(HONSu、東京化成工業) (1.62mmol, 186.4mg)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、東京化成工業) (2.03mmol, 417.8mg)及びTEA (3.97mmol, 287μl) を、蒸留したN,N-ジメチルホルムアミド(DMF、キシダ化学)(3ml) に溶解し、氷冷下で4時間反応させた。この溶液を室温に戻した後、メタノールを除去し、ジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業)(2ml) に溶解した第4世代(以下、「G4」という)のStarburst(登録商標)ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー(14.07μmol、Aldrich Chemical)を加え、4日間反応させた。
沈殿物を除去したのち、Sephadex LH-20カラム (溶離液:メタノール)によって分離及び精製し、真空乾燥によってBoc-Glu(OBzl)結合PAMAMデンドリマーを得た。収率は75.1%であった。NMRによって同定した結果を以下に示す。
1H NMR (300MHz, DMSO) ; Boc-Glu(OBzl)-PAMAM: δ 1.34 (s, Boc), 2.17 (br, Hc), 2.36 (br, He), 2.63 (br, Hd), 3.09 (br, Ha, Hb, Hf), 6.86, 7.78, 7.87 and 7.92 (br, NHCO), 3.90 (br, Hg), 1.76, 1.91 (br, Hh), 2.50 (br, Hi), 5.06 (s, Hj), 7.33 (s, Hk).
【0042】
(1-3)グルタミン酸結合PAMAMデンドリマーの合成
(1-2)で合成したBoc-Glu(OBzl)-PAMAMデンドリマー(10.6μmol, 366.3mg) にTFA 2mlを加え、氷冷下で撹拌した。4時間後、トリフルオロ酢酸(TFA、ナカライテスク)を減圧留去し、さらに蒸留水を30ml加えて、減圧留去した。この操作を3回繰り返して、Glu(OBzl)結合PAMAMデンドリマーを得た。収率は100%であった。
【0043】
(1-4)PEG-グルタミン酸結合PAMAMデンドリマーの合成
(1-3)で合成したGlu(OBzl)-PAMAMデンドリマー(10.6μmol, 365mg) をDMSO (17.9ml)に溶解し、(1-1)で合成したメトキシPEG(2000)-4-ニトロフェニルカーボネート(1.37mmol)を加え、さらにTEA (2.08mmol, 1503μl) を加えて、室温で5日間反応させた。反応溶液に蒸留水(3ml)を加えて、蒸留水中で2日間透析した後、SephadexG-75カラム (溶離液:0.1M Na2SO4水溶液) により精製し、さらに蒸留水中で1日透析し、凍結乾燥によってPEG-Glu(OBzl)-PAMAMデンドリマーを得た。収率は56.0%であった。1H NMRによって同定した結果を以下に示す。
1H NMR (400MHz, D2O+NaOD) ; PEG-Glu(OBzl)-G4: δ 2.19 (br, Hc), 2.39 (br, He),
2.58 (br, Hd), 3.06 (br, Ha, Hb, Hf), 3.99 (br, Hg), 1.63, 1.84 (br, Hh), 1.98 (br, Hi), 4.41 (s, Hj), 7.20 (s, Hk), 3.16 (s,OCH3), 3.45 (m, CH2CH2O).
【0044】
(1-1)~(1-4)の反応のスキームを、図1(a)に示す。
【0045】
(1-5)ヒドラジド基を有するPEG-グルタミン酸結合PAMAMデンドリマーの合成
(1-4)で合成したPEG-Glu(OBzl)-PAMAMデンドリマー(158μmol, 259.5mg)を、蒸留したDMF (1.5ml) に溶解し、ヒドラジン1水和物 (5.03mmol, 244.2μl、和光純薬工業) を加え、N2雰囲気下35℃で4日間反応させた。その後、反応混合物にメタノール(2ml)を加え、Sephadex LH-20カラム(溶離液:メタノール)により精製し、真空乾燥して、ヒドラジド基を有するPEG-Glu(NH-NH2)-PAMAMデンドリマーを得た。
1H NMR (400MHz, D2O) ; PEG-Glu(NH-NH2)-PAMAM: δ 2.32 (br, Hc), 2.59 (br, He),
2.76 (br, Hd), 3.18 (br, Ha, Hb, Hf), 4.06 (br, Hg), 1.74, 1.94 (br, Hh), 2.16 (br, Hi), 3.22 (s,OCH3), 3.55 (m, CH2CH2O).
【0046】
(1-6)ヒドラゾン結合を介して薬物(アドリアマイシン)と結合したPEG修飾PAMAMデンドリマーの合成
(1-5)で合成したPEG-Glu(NH-NH2)-PAMAMデンドリマー(0.487μmol, 80.0mg)をメタノール(9.67ml)に溶解し、アドリアマイシン塩酸塩(ADR・HCl、協和発酵工業)(97.4μmol, 56.5mg)及びCH3COOH(884μl)を加え、N2雰囲気下に室温で3日間反応させた。その後、反応混合物にメタノール(5ml)を加え、Sephadex LH-20カラム(溶離液:メタノール)により精製し、さらに、蒸留水を0.01M NaOH水溶液でpH8.0に調整した水溶液中で6時間透析して、凍結乾燥して、ADRと結合したPAMAMデンドリマー(PEG-PAMAM-N-ADR)を得た。デンドリマー:ADRのモル比は、1:200であった。収量は117.9mgであった。
【0047】
また、この合成は、PEG-Glu(NH-NH2)-PAMAMデンドリマーに対するADR・HClのモル比を変動させて行った。上記以外のモル比としてはPEG-Glu(NH-NH2)-PAMAMデンドリマー(0.606μmol, 99.4mg)に対して、ADR・HCl (24.2μmol, 14.05mg)、又はPEG-Glu(NH-NH2)-PAMAMデンドリマー(1.032μmol, 169.4mg)に対して、ADR・HCl (0.103μmol, 60.9mg)で行った。すなわち、デンドリマー:ADRのモル比は、1:40及び1:100であった。収量は、それぞれ86.4mg、165.9mgであった。
【0048】
(1-5)及び(1-6)の反応のスキームを、図1(b)に示す。
【0049】
(2)ADRと結合したPEG修飾PAMAMデンドリマーを保持するコラーゲン組成物の製造
塩化カルシウム二水和物(26.8mg)、塩化マグネシウム六水和物(23.5mg)、塩化カリウム(40.43mg)、塩化ナトリウム(639.70mg)、リン酸二水素ナトリウム二水和物(14.05mg)を、蒸留水(10ml)に溶解し、10倍濃度の媒体を調製した。炭酸水素ナトリウム(219.7mg)、HEPES(477.12mg)を、0.05Nに調整したNaOH溶液10mlに溶解して、再構成液を調製した。氷冷下で、エッペンドルフチューブにI型コラーゲン(200μl、Cellmatrix Type I-A、新田ゼラチン)、IV型コラーゲン(200μl、Cellmatrix Type IV、新田ゼラチン)、10倍濃度媒体(50μl)、再構成液(50μl)をこの順に加え、10mMに調製したADR溶液(対照)、又はデンドリマー:ADRのモル比1:200で反応させて(1-6)で合成した第4世代のPEG修飾PAMAMデンドリマー(PEG-PAMAM-N-ADR) (10μl) を混合したのち、37℃で10分間静置した。このようにして、PEG-PAMAM-N-ADRを保持するコラーゲンをゲルの形で得た。
【0050】
(3)特徴決定
(3-1-1)デンドリマー当たりに結合したADR数の評価
3種類のデンドリマー:ADR比で(1-6)で合成したPEG-PAMAM-N-ADRに蒸留水を加えて溶解し、488nmの吸光度をV-520型 紫外・可視分光光度計(日本分光)を用いて測定することによって、デンドリマーあたりに結合したADRの量を評価した。488nmにおけるADRのモル吸光係数εを、1.14×104lmol-1cm-1(λ=488nm,蒸留水)とした。
【0051】
また、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によっても、デンドリマーあたりに結合したADR量を評価した。μ-Bondasphere, SMC4300カラム、PU-2089 plus Quanternary Gradient Pump(JASCO)、UV-2075 plus lntelligent UV/VIS Detector(JASCO)を用い、流速1.0ml/分で1%酢酸水溶液を溶離液として、グラジエントをアセトニトリル15%~85%で30分、又は15%~100%で50分かけて行った。
生成物をpH7.4のリン酸緩衝液、pH1.0のHCl水溶液に溶解し、FP-6200型蛍光光度計(日本分光)を用いて、励起波長471nmにおける蛍光スペクトルと、その極大波長における蛍光強度の経時変化を測定した。
【0052】
(3-1-2)結果
吸光度測定により、デンドリマー:ADRのモル比が1:40、1:100及び1:200の場合に、デンドリマー当たりに結合したADR分子の数は、それぞれ19.6、37.7及び33.2であった。
デンドリマー当たりの末端アミノ基の数は、64であるので、デンドリマー:ADRの比を1:100及び1:200として反応させた場合は、デンドリマーの末端基の約半数以上にADRを結合できたことがわかる。
この結果は、HPLCによる結果とも一致した。
【0053】
(3-2-1)ADRと結合したデンドリマーからのADRの放出
デンドリマー:ADRのモル比1:200で反応させて(1-6)で合成したPEG-PAMAM-N-ADR又はADRを、塩化ナトリウム150mMを含む10mM リン酸水素二ナトリウム緩衝液中でpH 7.4又は5.5で、37℃にて透析を行った。なお、pH 5.5は、薬物が取り込まれる細胞のエンドソーム内のpHとほぼ同じであると考えられている。
【0054】
(3-2-2)結果
結果を、図2に示す。この条件において、ADR単独では、速やかに透析膜内部から膜の外に放出された。一方、ヒドラゾン結合によってデンドリマーに結合したADRは、pH 7.4では20%以下しか透析膜の外に放出されなかったが、pH 5.5では24時間後において80%以上のADRが外相に放出された。このことから、pH 7.4ではADRはデンドリマーに安定に結合しているため、放出は起こらないが、pH 5.5ではヒドラゾン結合が解裂してデンドリマーと分離したADRが透析膜を通過して膜の外に放出されたと考えられる。
【0055】
(3-3-1)コラーゲンへのADRの保持量
I型コラーゲンとIV型コラーゲンとの量比を種々変更して(2)に記載するようにして得られたPEG-PAMAM-N-ADRを埋包するコラーゲン又は対照のADR保持コラーゲンゲルを、150mM 塩化ナトリウムを含む10mM リン酸水素二ナトリウム緩衝液(pH 7.4) 500μlで洗浄した。さらに、700μlのリン酸水素二ナトリウム緩衝液を加え、37℃で静置した。溶液を60μl採取し、そこにHCl溶液(pH1.0)を240μl加えて1時間放置し、溶液中のADRの量(すなわち、放出されたADRの量)を、FP6200型蛍光光度計(日本分光)を用いて、励起波長471nm及び蛍光波長 554nmでADRの蛍光強度を測定することにより、測定した。最初にコラーゲン中に導入したADRの量を100%として、コラーゲン中に保持されたままのADRの割合を算出した。
【0056】
(3-3-2)結果
結果を図3に示す。この結果から、IV型コラーゲンの量を調節して、コラーゲンゲルからのPEG-PAMAM-N-ADRの放出を抑えることができることがわかる。
【0057】
(3-4-1)デンドリマーに結合したADRのMDA-MB-231細胞、MCF-7細胞に対する細胞毒性
ヒト乳ガン由来の転移能を有する細胞であるMDA-MB-231細胞、及び転移能を有さない細胞であるMCF-7細胞を、24穴ディッシュに1穴当たり1.0×104個播種し、10%胎児ウシ血清(FBS)含有ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地(500μl)中、37℃で24時間培養した。所定の濃度のデンドリマーに結合したADR又はADRを含む10%FBS含有DMEM培地を、1ウェルあたり300μl細胞に加え、72時間インキュベーションした。その後、PBSで2回洗浄し、新しい10%FBS含有DMEM培地(200μl)を加え、それぞれのウェルにMTT溶液 (10mg/ml PBS)を30μlずつ加え、3時間インキュベーションした。次に、DMEMを除去して、0.1M HClを含むイソプロパノール(500μl)を加えた。Wallac 1420 ARVOsx マルチプレートリーダー(パーキンエルマーライフサイエンス)を用いて、吸収波長490nmにおける吸光度を測定することにより、細胞の生存率を求めた。ここで、ADRやデンドリマーを加えずに細胞を培養した時の細胞数を100%とし、吸光度測定の直前に細胞にMTT溶液を加え、0.1M HClを含むイソプロパノールを加えたものをブランクとした。
【0058】
(3-4-2)結果
結果を、図4に示す。図4では、(a)MDA-MB-231細胞に対するADR単独(■)及びPEG-PAMAM-N-ADR(◆)の影響、及び(b)MCF-7細胞に対するADR単独(■)及びPEG-PAMAM-N-ADR(◆)の影響を示す。
これらの結果に基づいて、細胞の成長を50%阻害する物質の濃度であるIC50を求めた。ADR単独では、MDA-MB-231細胞及びMCF-7細胞に対してIC50がそれぞれ0.2μM及び0.2μMであるのに対して、デンドリマーに結合したADRでは、上記の各細胞に対してそれぞれ1.0μM及び1.0μMであった。よって、デンドリマーに結合することにより、ADRの細胞毒性が低下したことがわかる。
また、これらの薬物による細胞毒性は、細胞の転移性の違いには関係しないこともわかる。
【0059】
(3-5-1)3次元培養条件におけるPEG-PAMAM-N-ADRを保持するコラーゲンの細胞毒性
氷冷下において、48穴ディッシュ(Nunc社製)にI型コラーゲン(60μl)、IV型コラーゲン(60μl)、10倍濃度のDMEM(15μl)、(2)で調製した再構成液(15μl) をこの順で混合し、さらに所定の濃度となるようにADR単独(対照)、又は(1-6)で合成したPEG-PAMAM-N-ADRを混合した。この溶液に、MDA-MB-231細胞又はMCF-7細胞を加えて攪拌し、細胞が1穴あたり2.0×104個となるように、混合した溶液150μlを48穴ディッシュの各ウェルに加えて、37℃で1時間静置した。その後、DMEM 100μlを加え、24時間培養した。その後、新しい10%FBS含有DMEM培地(35μl)を加え、それぞれのウェルに3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウムブロミド (MTT、和光純薬工業)溶液(10mg/ml PBS)を15μlずつ加えて、3時間インキュベーションした。次に、DMEMを除去して、最終濃度が0.02%となるようにコラゲナーゼS-1(新田ゼラチン)を加え、1時間振とう機で振とうし、ゲルを溶解した。
その後、0.1M HClを含むイソプロパノールを加え、Wallac 1420 ARVOsx マルチプレートリーダー(パーキンエルマーライフサイエンス)を用いて、吸収波長490nmにおける吸光度を測定することにより、細胞の生存率を求めた。
ここで、ADRやPEG-PAMAM-N-ADRを加えずに上記の手順に従って測定した細胞数を100%とした。また、細胞を播種しない状態でゲルを作製し、最終濃度が0.02%となるようにコラゲナーゼS-1を加えて1時間振とう機で振とうし、ゲルを溶解した後、0.1M HClを含むイソプロパノールを加えたものをブランクとした。
【0060】
(3-5-2)結果
結果を、図5に示す。図5では、(a)ADR単独を含むコラーゲンを用いた場合、及び(b)PEG-PAMAM-N-ADRを含むコラーゲンを用いた場合の細胞生存率を示す。
ADRを単独で含むコラーゲンを用いた場合、ADR濃度の増加に伴いMDA-MB-231細胞の生存率が低下したが、MCF-7細胞の生存率も同様に低下する傾向がみられた。
一方、デンドリマーと結合したADRを含むコラーゲンを用いた場合、MDA-MB-231細胞の生存率は、ADR濃度の増加に伴い低下したが、MCF-7細胞の生存率は大きくは低下しなかった。
これらの結果から、転移能を有する細胞が転移する際に分泌するMMPによりコラーゲンが分解され、PEG-PAMAM-N-ADRが放出されて、転移能を有する細胞に対して細胞毒性を示したと考えられる。
また、ADRを単独で含むコラーゲンは、ADR濃度の増加に伴って、転移能を持たないMCF-7細胞への毒性も高まった。これは、ADRが低分子であることから、コラーゲンゲルからのADRの拡散が生じたことが示唆される。一方、ADR結合デンドリマーを含むコラーゲンは、転移能を持たないMCF-7細胞への毒性をあまり示さなかったことから、ADRを高分子量のデンドリマーに結合させることにより、コラーゲンゲルからの拡散が抑制されたと考えられる。
【0061】
実施例2 コラーゲンペプチドで修飾されたデンドリマーと複合したアドリアマイシンを含むコラーゲンゲル医薬組成物
本実施例では、薬物としてADRを用い、生体適合性高分子化合物としてのデンドリマーとして、実施例1で用いたのと同じ市販のPAMAMデンドリマーに修飾物質としてのコラーゲンペプチドを付加した化合物を用いた。
(1-1)コラーゲンペプチドのアセチル化(AcCP)
コラーゲンを酵素で分解して得られたコラーゲンペプチド(和光純薬製、カタログ番号035-15801、平均分子量2000)1.0050g(0.503mmol)を蒸留水5mlに溶解させた。氷冷下で1N NaOH水溶液を0.5ml加えてアルカリ性にした後、1N NaOH水溶液と無水酢酸4.75mlを同時に加えた。その後、1N NaOH水溶液を加えて溶液をアルカリ性にした後に、溶液を12時間攪拌した。反応溶液に4N H2SO4を加えてpHを3にした後に、蒸留水を溶離液としてSephadex LH-20(GEヘルスケアバイオサイエンス社製、溶離液、水)を用いて精製した。
精製後の溶液を凍結乾燥して、アセチル化されたコラーゲンペプチド(AcCP)を得た。
フルオレスカミンを用いたアミンの定量により、アセチル化が完全に進行していることを確認した。収量:0.7794g、収率:76.1%
【0062】
(1-2)グルタミン酸結合PAMAMデンドリマーの合成
実施例1の(1-2)と同様にして、Bocグルタミン酸結合PAMAMデンドリマー(Boc-Glu(OBzl)結合PAMAMデンドリマー)を合成した。
さらに、実施例1の(1-3)と同様にして、グルタミン酸結合PAMAMデンドリマー(Glu(OBzl)結合PAMAMデンドリマー)を得た。
【0063】
(1-3)グルタミン酸結合デンドリマーへのコラーゲンペプチドの結合
(1-2)で製造したGlu(OBzl)結合PAMAMデンドリマー0.212g(5.97μmol)を、蒸留水3mlに溶解した。そこに、(1-1)で製造したAcCP 0.8796g(0.431mmol)、及び4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM) 0.140g(0.382mmol)を順に加え、40℃のオイルバス中で3日攪拌した。反応溶液を回収し、蒸留水に対して透析(MWCO:2000)を1日行い、凍結乾燥して、コラーゲンペプチドが結合したグルタミン酸結合PAMAMデンドリマー(以下、「AcCP-Glu(OBzl)-PAMAMデンドリマー」という)を得た。
フルオレスカミンによるアミンの定量により、AcCPの反応率を求めたところ、デンドリマー1分子当たり53.2個の末端にAcCPが結合したことがわかった。
収量:1.05g 収率:96.2%
【0064】
(1-4)残存アミノ基のアセチル化
AcCP-Glu(OBzl)-PAMAMデンドリマー1.05g(7.66μmol)を蒸留水5mlに溶解させ、無水酢酸4.48mlを加え、40℃のオイルバス中で12時間攪拌した。その後、蒸留水に対して透析(MWCO:2000)を1日行い、凍結乾燥して、AcCP-Glu(OBzl)-PAMAMデンドリマーのデンドリマー部分のAcCPと結合していないアミノ基をアセチル化した。収量:816.7mg, 収率:77.8%
フルオレスカミンによるアミンの定量により、AcCP-Glu(OBzl)-PAMAMデンドリマーに残存する1級アミノ基がないことを確認した。
【0065】
(1-5)ヒドラジド基を有するAcCP結合PAMAMデンドリマーの合成
(1-4)で処理したAcCP-Glu(OBzl)-PAMAMデンドリマーを、実施例1(1-5)と同様の手順でヒドラジンと反応させて、ヒドラジド基を有するコラーゲンペプチド結合PAMAMデンドリマー(AcCP-Glu(NHNH2)-PAMAMデンドリマー)を得た。
【0066】
(1-6)ヒドラゾン結合を介して薬物(アドリアマイシン)と結合したコラーゲンペプチド結合PAMAMデンドリマーの合成
(1-5)で得られたAcCP-Glu(NHNH2)-PAMAMデンドリマーを、実施例1(1-6)と同様の手順で処理して、アドリアマイシンと結合したPAMAMデンドリマー(AcCP-PAMAM-N-ADR)を得た。反応させたデンドリマー:ADRのモル比は、1:50であった。
【0067】
上記の(1-1)、(1-3)、(1-4)及び(1-5)で得られた各物質の1H-NMRスペクトル(溶媒:D2O、400MHz)を、それぞれ図6の(a)、(b)、(c)及び(d)に示す。
また、(1-1)~(1-6)のスキームを、図7に示す。
【0068】
(2)ADRと結合したAcCP修飾PAMAMデンドリマーを保持するコラーゲン組成物の製造
実施例1(2)と同様の手順に従って、AcCP-PAMAM-N-ADRを保持するコラーゲンをゲルの形で得た。
【0069】
(3)特徴決定
(3-1)デンドリマーあたりに結合したADR数の評価
実施例1(3-1-1)と同様の手順に従って、(1-6)で合成したAcCP-PAMAM-N-ADRのデンドリマーあたりに結合したADR分子の数を調べたところ、26であった。
【0070】
(3-2)コラーゲンペプチドの三重ヘリックス形成性
円偏光二色性(CD)スペクトル測定により、(1-1)で製造したAcCP及び(1-5)で製造したAcCP-Glu(NHNH2)-PAMAMデンドリマーのコラーゲンペプチドの三重ヘリックス形成性を調べた。
<測定条件>
サンプル濃度:0.04mg/ml-H2O
測定装置:JASCO V-820 Spectropolarimeter
測定温度:20℃
得られたスペクトルを、図8に示す。
【0071】
(3-3)ADRと結合したデンドリマーからのADRの放出
実施例1(3-2-1)と同様の手順に従って、(1-6)で合成したAcCP-PAMAM-N-ADRの、pH 7.4又は5.5でのADRの放出について調べた。
結果を、図9に示す。
この結果から、AcCP-PAMAM-N-ADRも、pH 7.4の条件に比較して、細胞のエンドソーム内のpHとほぼ等しいpH 5.5において、ADRを放出しやすいことがわかる。
【0072】
(3-4)デンドリマーに結合したADRのMDA-MB-231細胞、MCF-7細胞に対する細胞毒性
24穴ディッシュの1穴あたりに播種した細胞数を20,000細胞とし、所定の濃度のデンドリマーに結合したADR又はADRを含む10%FBS含有DMEM培地を、1ウェルあたり300μl細胞に加えた後に24時間インキュベーションした以外は、実施例1(3-4-1)と同様の手順に従って、MDA-MB-231細胞、MCF-7細胞に対する細胞毒性を調べた。
結果を、図10に示す。
図10では、(a)MCF-7細胞に対するADR単独(◆)、コラーゲンペプチドを結合させていないADR結合デンドリマー(以下の実施例3を参照されたい)(●)及びAcCP-PAMAM-N-ADR(▲)の影響、並びに(b)MDA-MB-231細胞に対するADR単独(◆)、コラーゲンペプチドを結合させていないADR結合デンドリマー(●)及びAcCP-PAMAM-N-ADR(▲)の影響を示す。
【0073】
図10の結果から、細胞の成長を50%阻害する物質の濃度であるIC50を求めた。ADR単独では、MDA-MB-231細胞及びMCF-7細胞に対してIC50がそれぞれ3μM及び30μMであるのに対して、AcCP-PAMAM-N-ADRでは、上記の各細胞に対してそれぞれ3μM及び3μM、コラーゲンペプチドが結合させていないADR結合デンドリマーでは、それぞれ100μM及び100μMであった。
【0074】
すなわち、コラーゲンペプチドを持たないADR結合デンドリマーではADRの細胞毒性が低下した。これはデンドリマー表面に疎水性の高いADRが集積し、水への溶解性が著しく低下したためであると考えられる。
一方、コラーゲンペプチドを有するデンドリマーに結合した場合は、ADR単独と同程度か又はADRよりも高い細胞毒性が見られた。これは、高分子表面のコラーゲンペプチドによって、ADRの細胞との親和性が向上したためと考えられる。また、これらの薬物結合デンドリマーによる細胞毒性は、細胞の転移性の違いには関係しないこともわかる。
一方、今回の条件ではADR単独の細胞毒性は細胞種の違いによって異なり、転移能が低いMCF-7細胞の細胞毒性の方が、転移能の高いMDA-MB-231細胞よりも低いことがわかった。これは薬剤耐性能が細胞間で異なったためと考えられる。
【0075】
(3-5)AcCP-PAMAM-N-ADRを保持するコラーゲンの細胞毒性
実施例(3-5-1)と同様の手順に従って、AcCP-PAMAM-N-ADRを保持するコラーゲン組成物の細胞毒性を調べた。
氷冷下において、実施例1(2)と同様のI型コラーゲン/IV型コラーゲン/10倍濃度のDMEM/再構成液を、2/2/0.5/0.5の体積比で混合してコラーゲン溶液を作製した。ここに、ADR濃度が0.01μM、1μM、又は100μMとなるように、ADR単独(対照)、コラーゲンペプチドを結合させていないADR結合デンドリマー(以下の実施例3を参照されたい)、又は(1-6)で合成したAcCP-PAMAM-N-ADRを混合した。この溶液を、100μl/ウェルとなるように48穴ディッシュに加え、37℃、5%CO2で1時間インキュベートしてゲル化させた。
その後、作製したゲル上に、20,000細胞/ウェルとなるように細胞のDMEM溶液を合計100μl加えた。
24時間インキュベートした後に、各ウェルに15μl MTT溶液(10mg/ml PBS)を15μlずつ加えて、3時間インキュベーションした。次に、DMEMを除去して、最終濃度が0.02%となるようにコラゲナーゼS-1(新田ゼラチン)を加え、1時間350rpmで振とうし、ゲルを溶解した。
その後、0.1NHCl含有イソプロパノールを500μl/ウェルとなるように加え、マルチプレートリーダーで490nmにおける吸光度を測定することにより、細胞の生存率を求めた。
【0076】
結果を、図11に示す。図11では、(a)MCF-7細胞に対するADR単独(◆)、コラーゲンペプチドを結合させていないADR結合デンドリマー(●)及びAcCP-PAMAM-N-ADR(▲)をそれぞれ含むコラーゲンの影響、並びに(b)MDA-MB-231細胞に対するADR単独(◇)、コラーゲンペプチドを結合させていないADR結合デンドリマー(○)、及びAcCP-PAMAM-N-ADR(△)をそれぞれ含むコラーゲンの影響を示す。
【0077】
図11の結果から、ADR単独を用いた場合は、ADRの濃度が上昇するにつれ、転移能を有さないMCF-7細胞及び転移能を有するMDA-MB-231細胞のいずれに対しても、細胞毒性を示したが、コラーゲンペプチドを結合させたデンドリマーと結合したADRを保持するコラーゲンゲルを用いた場合、転移能を有する細胞に対してより特異的に細胞毒性の効果が及ぼされたことがわかる。
コラーゲンペプチドを結合させていないADR結合デンドリマーを用いた場合、いずれの細胞に対しても、コラーゲンペプチドを結合させたデンドリマーと結合したADRを用いた場合に比較して細胞毒性の効果が低くなっているが、これは、コラーゲンペプチドが結合していないADR結合デンドリマーでは、ADRがデンドリマー表面に露出し、水溶性が低下したために、培養液中で凝集したことが原因ではないかと推測される。
【0078】
なお、コラーゲンペプチドを結合させていないADR結合デンドリマーは、以下の実施例3に記載するようにして合成した。
実施例3 ADR結合デンドリマーの製造
(1-1)グルタミン酸結合PAMAMデンドリマーの合成
実施例1の(1-2)と同様にして、Bocグルタミン酸結合PAMAMデンドリマー(Boc-Glu(OBzl)結合PAMAMデンドリマー)を合成した。
さらに、実施例1の(1-3)と同様にして、グルタミン酸結合PAMAMデンドリマー(Glu(OBzl)結合PAMAMデンドリマー)を得た。
【0079】
(1-2)末端アミノ基のアセチル化
グルタミン酸結合PAMAMデンドリマー(Glu(OBzl)結合PAMAMデンドリマー)0.503g(14.1μmol)を蒸留水5ml、無水酢酸8.48mlに溶解した。40℃オイルバス中で一晩攪拌し、蒸留水に対して透析(MWCO:2000)を1日行った。その後、凍結乾燥して、PAMAMデンドリマーの末端アミノ基をアセチル化した。収量:328.6mg 収率:60.8%
【0080】
(1-3)ヒドラジド基を有するPAMAMデンドリマーの合成
(1-2)で処理した末端がアセチル化されたGlu(OBzl)結合PAMAMデンドリマーを、実施例1(1-5)と同様の手順でヒドラジンと反応させて、ヒドラジド基を有するPAMAMデンドリマー(Glu(NHNH2)-PAMAMデンドリマー)を得た。
【0081】
(1-4)ヒドラゾン結合を介して薬物(アドリアマイシン)と結合したPAMAMデンドリマーの合成
(1-3)で得られたGlu(NHNH2)-PAMAMデンドリマーを、実施例(1-6)と同様の手順で処理して、アドリアマイシンと結合したPAMAMデンドリマー(PAMAM-N-ADR)を得た。反応させたデンドリマー:ADRのモル比は、1:40であった。
【0082】
上記の(1-1)、(1-2)及び(1-3)で得られた各物質の1H-NMRスペクトルを、それぞれ図12の(a)、(b)及び(c)に示す。1H-NMRの条件は、(a) 溶媒:D2O、400MHz、(b) 溶媒:CD3OD、400MHz、(c) 溶媒:DMSO、400MHzであった。
また、(1-1)~(1-4)のスキームを、図13に示す。
実施例1(3-1-1)と同様の手順に従って、(1-4)で合成したPAMAM-N-ADRのデンドリマーあたりに結合したADR分子の数を調べたところ、14であった。
【0083】
実施例4 ポリグルタミン酸と複合したアドリアマイシンを含むコラーゲンゲル医薬組成物
本実施例では、薬物としてADRを用いて、生体適合性高分子化合物としてポリグルタミン酸を用いた。
(1-1)Boc-NHNH2結合ポリグルタミン酸の合成
50分子のグルタミン酸が重合したポリ(L-グルタミン酸ナトリウム塩) 30mg (4.0μmol, Mw=7500、Alamanda Polymer)を蒸留水1mlに溶解し、カルバジン酸tert-ブチル39.65mg (0.3mmol, 75e.q.、Sigma-Aldrich)、DMT-MM 80.68mg (0.22mmol, 55e.q.)を加えて1晩撹拌した。その後、メタノールを溶離液としてSephadex LH-20カラムを用いて精製した。
精製後の溶液を凍結乾燥して、Boc-NHNH2結合ポリグルタミン酸(PGlu-NHNHBoc)を得た。収量:35.1mg、収率:72.1%
【0084】
(1-2)Boc-NHNH2結合ポリグルタミン酸からの脱Boc基反応
(1-2)で合成したPGlu-NHNHBoc 35mg (2.88μmol) にトリフルオロ酢酸(TFA)700μLを加え、氷冷下で4時間撹拌した。その後、減圧留去してTFAを除去し、さらに蒸留水を加えて減圧留去した。これを3回繰り返して、NHNH2基が結合したポリグルタミン酸(PGlu-NHNH2)を得た。収量:28.3mg、収率:80.7%
【0085】
(1-3)ヒドラゾン結合を介してADRと結合したポリグルタミン酸の合成
(1-2)で得られたPGlu-NHNH2を、実施例1(1-6)と同様の手順で処理して、アドリアマイシンと結合したポリグルタミン酸(PGlu-ADR)を得た。反応させたポリグルタミン酸:ADRのモル比は、1:40であった。
【0086】
上記の(1-1)及び(1-2)で得られた各物質の1H-NMRスペクトル(溶媒:D2O、400MHz)を、図14に示す。
また、(1-1)~(1-3)のスキームを、図15に示す。
【0087】
(2)ADRと結合したポリグルタミン酸を保持する組成物の製造
実施例1(2)と同様の手順に従って、PGlu-ADRを保持するコラーゲンをゲルの形で得た。
【0088】
(3)特徴決定
(3-1)ポリグルタミン酸1分子あたりに結合したADR数の評価
ポリグルタミン酸1分子あたりに結合したADRの数を、実施例1(3-1-1)と同様の手順に従って調べたところ、5.3個であった。
【0089】
(3-2)ポリグルタミン酸に結合したADRのMDA-MB-231細胞、MCF-7細胞に対する細胞毒性
所定の濃度のPGlu-ADR又は実施例1で製造したPEG-PAMAM-N-ADRを用いた以外は、実施例2(3-4)と同様の手順に従って、MDA-MB-231細胞、MCF-7細胞に対する細胞毒性を調べた。
結果を、図16に示す。
図16では、(a)MCF-7細胞に対するPGlu-ADR(■)及びPEG-PAMAM-N-ADR(▲)の影響、並びに(b)MDA-MB-231細胞に対するPGlu-ADR(■)及びPEG-PAMAM-N-ADR(▲)の影響を示す。
【0090】
図16の結果から、抗癌剤をポリグルタミン酸と結合させても、抗癌剤にPEG結合デンドリマーを結合させた場合と同様の癌細胞に対する細胞毒性を示すことがわかる。
図面
【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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