TOP > 国内特許検索 > アンジュレータ磁石列およびアンジュレータ > 明細書

明細書 :アンジュレータ磁石列およびアンジュレータ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5649058号 (P5649058)
公開番号 特開2012-160408 (P2012-160408A)
登録日 平成26年11月21日(2014.11.21)
発行日 平成27年1月7日(2015.1.7)
公開日 平成24年8月23日(2012.8.23)
発明の名称または考案の名称 アンジュレータ磁石列およびアンジュレータ
国際特許分類 H05H  13/04        (2006.01)
FI H05H 13/04 F
請求項の数または発明の数 8
全頁数 17
出願番号 特願2011-021205 (P2011-021205)
出願日 平成23年2月2日(2011.2.2)
審査請求日 平成26年2月3日(2014.2.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】田中 隆次
【氏名】北村 英男
個別代理人の代理人 【識別番号】100075557、【弁理士】、【氏名又は名称】西教 圭一郎
審査官 【審査官】鳥居 祐樹
参考文献・文献 特開平10-125500(JP,A)
特開平06-275399(JP,A)
特開2001-093700(JP,A)
調査した分野 H05H 13/04
H05H 7/04
特許請求の範囲 【請求項1】
互いに対向するように間隙をあけて平行に配置された第1の磁石列および第2の磁石列を有し、第1の磁石列に含まれる磁石の着磁方向および第2の磁石列に含まれる磁石の着磁方向が、第1の磁石列および第2の磁石列を含む面内で、磁石の配列に沿って一定の周期で繰り返し変化するアンジュレータ磁石列であって、
第1の磁石列および第2の磁石列は、磁石の配列方向における相対位置が可変であり、
第1の磁石列および第2の磁石列の着磁の1周期の長さをλとするとき、
第1の磁石列および第2の磁石列は、各周期の前半に含まれる磁石および後半に含まれる磁石それぞれによってλ/2の周期を有する磁場を形成し、かつ、各周期の全体に含まれる磁石によってλの周期を有する磁場を形成するように、着磁されていることを特徴とするアンジュレータ磁石列。
【請求項2】
磁石の配列方向における基準位置からの距離をzとし、磁石の配列方向における第1の磁石列と第2の磁石列との相対位置のずれ量をΔzとし、第1の磁石列および第2の磁石列の各周期の前半に含まれる磁石および後半に含まれる磁石それぞれによって形成されるλ/2の周期を有する磁場をB(z)とし、第1の磁石列および第2の磁石列の各周期の全体に含まれる磁石によって形成されるλの周期を有する磁場をB(z)とするとき、
第1の磁石列および第2の磁石列は全体として、
(z)=B(z)cos(2πΔz/λ
+B(z)cos(πΔz/λ
で表される磁場Bc(z)を形成することを特徴とする請求項1に記載のアンジュレータ磁石列。
【請求項3】
第1の磁石列および第2の磁石列の着磁の1周期に含まれる磁石の数をnで表すとき、
第1の磁石列の各周期において、前半のn/2個の磁石の着磁方向は720゜/nずつ順に変化し、(n-k+1)番目の磁石の着磁方向は、k番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列および第2の磁石列を含む面に垂直で磁石の配列に平行な面に関して、反転した方向であり、
第2の磁石列の各周期のk番目の磁石の着磁方向は、第1の磁石列の各周期のk番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列および第2の磁石列を含む面に垂直で磁石の配列に垂直な面に関して、反転した方向であることを特徴とする請求項2に記載のアンジュレータ磁石列。
【請求項4】
第1の磁石列および第2の磁石列それぞれの着磁の1周期に8個の磁石が含まれ、
第1の磁石列および第2の磁石列の磁石の配列の一方向を第1の方向とし、第1の方向に垂直で、第1の磁石列から第2の磁石列に向かう方向を第2の方向とするとき、
第1の磁石列の各周期において、2番目の磁石および6番目の磁石の着磁方向は第2の方向であり、4番目の磁石および8番目の磁石の着磁方向は第2の方向に対して反対の第3の方向であり、1番目の磁石の着磁方向は第1の方向に対して鋭角かつ第2の方向に対して鈍角の第4の方向であり、3番目の磁石の着磁方向は第4の方向に対して反対の第5の方向であり、5番目の磁石の着磁方向は第1の方向に対して鋭角かつ第2の方向に対して鋭角の第6の方向であり、7番目の磁石の着磁方向は第6の方向に対して反対の第7の方向であり、
第2の磁石列の各周期のk番目の磁石の着磁方向は、第1の磁石列の各周期のk番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列および第2の磁石列を含む面に垂直で磁石の配列に垂直な面に関して、反転した方向であることを特徴とする請求項2に記載のアンジュレータ磁石列。
【請求項5】
第1の磁石列および第2の磁石列の磁石のうち、着磁方向が磁石の配列方向に平行でなく垂直でもない磁石は、着磁方向が磁石の配列方向に平行な磁石と、着磁方向が磁石の配列方向に垂直な磁石との組み合せから成ることを特徴とする請求項3または4に記載のアンジュレータ磁石列。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のアンジュレータ磁石列と、
第1の磁石列および第2の磁石列を保持するとともに、第1の磁石列および/または第2の磁石列を磁石の配列方向に移動させて、磁石の配列方向における第1の磁石列と第2の磁石列との相対位置を変化させる保持部と、
使用者から与えられる指示に応じて、第1の磁石列および/または第2の磁石列を磁石の配列方向に移動させるように、保持部を制御する制御部とを備えることを特徴とするアンジュレータ。
【請求項7】
保持部が第1の磁石列と第2の磁石列との相対位置を変化させる距離は、着磁の1周期の1/2までの範囲内で可変であることを特徴とする請求項6に記載のアンジュレータ。
【請求項8】
保持部は、第1の磁石列と第2の磁石列との間隔を変えることが可能であり、
制御部は、使用者から与えられる指示に応じて、第1の磁石列と第2の磁石列との間隔を変えるように、保持部を制御することを特徴とする請求項6または7に記載のアンジュレータ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、放射光施設において電子ビームから放射光を取り出すために使用されるアンジュレータ、およびアンジュレータに用いられる磁石列に関する。
【背景技術】
【0002】
放射光施設で電子ビームから放射光を取り出すために使用されるアンジュレータは、周期的な磁場を形成する装置であり、互いに対向するように平行に配置された1対の磁石列を有し、磁石列の間隙を通る光速に近い速度の電子を蛇行運動させることによって、強力な放射光を発生させる。周期磁場を形成するためには永久磁石および電磁石のどちらも利用可能であるが、特にX線領域の波長の短い放射光を得るためには、磁場の周期を数センチメートル程度あるいはそれよりも短くする必要があるため、電磁石では充分な強度の磁場を形成することができない。このため、殆どのアンジュレータで永久磁石が採用されている。
【0003】
従来のアンジュレータで使用されている永久磁石の磁石列の例を図11に示す。図11の(a)に示すアンジュレータ磁石列90においては、第1の磁石列90aと第2の磁石列90bがそれぞれ、1周期λに4個の磁石を含み、個々の磁石は、着磁方向(白抜き矢印で表す)が、第1の磁石列90aと第2の磁石列90bを含む面内で、90゜ずつ変化するように着磁されている(非特許文献1)。個々の磁石の着磁方向は、磁石の配列方向に対して、平行または垂直である。このアンジュレータ磁石列90は、発明者の名をとって、Halbach型磁石列などと呼ばれている。なお、着磁方向とは、磁石の両極(S極およびN極)を結ぶ方向であり、本明細書においては、磁石のS極からN極に向かう方向を着磁方向という。
【0004】
(b)のアンジュレータ磁石列91は、(a)のアンジュレータ磁石列90と同様に、1周期λに4個の磁石を含んでいるが、個々の磁石の着磁方向は、磁石の配列方向に対して45゜の角度を成している(非特許文献2)。また、(c)のアンジュレータ磁石列92は、1周期λに6個の磁石を含み、個々の磁石は、着磁方向が60゜ずつ変化する(非特許文献3)。
【0005】
第1の磁石列90aと第2の磁石列90bとの間隙を通る光速に近い電子(図11の(a)参照)は、第1の磁石列90aと第2の磁石列90bとによって形成される周期磁場の作用によって蛇行運動をして、式1で与えられる波長λの光を放出する。
λ(λ,B,E)=130λ[1+(93.37λB)/2]/E
…(1)
【0006】
ここで、λはナノメートルで表した放射光の波長(基本波長と呼ばれる)、λはメートルで表した磁石列の周期長、Bはテスラで表した磁場振幅、Eはギガ電子ボルトで表した電子のエネルギである。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】K. Halbach, ”Permanent Magnet Unjulators”, J. Physique, C1 (1983) 211
【非特許文献2】T. Tanaka, K. Shirasawa, T. Seike and H. Kitamura, ”Development of the short-period undulator for the X-ray FEL project at SPring-8”, Proc. SRI2003, 227 (2004)
【非特許文献3】G. Rakowsky, B. Bobbs, R. Burke, W. McMullin and G. Swoyer, ”High Performance Pure Permanent-Magnet Undulators”, Nucl. Instrum. Meth. A296, 597 (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
式1に示したように、放射光の波長はλ,B,Eの3パラメータの関数であるが、放射光施設では電子のエネルギEは固定されているため、ある特定の波長を選択するためには、適切な周期長λと磁場振幅Bを選ぶ必要がある。磁場振幅は、ギャップと呼ばれる第1の磁石列と第2の磁石列の間隔の大きさを変化させることによって、ある範囲内で容易に調整することが可能である。この範囲の下限および上限つまり磁場振幅の最小値Bminおよび最大値Bmaxは、設定可能なギャップ範囲と永久磁石の残留磁束密度によって決定される。一方、周期長は、第1の磁石列および第2の磁石列を構成する個々の磁石の寸法で決まる値に固定されるため、ギャップを拡大/縮小することによって調整が可能な磁場振幅とは異なり、容易に調整することはできない。
【0009】
したがって、永久磁石を用いた従来のアンジュレータ磁石列では、ギャップを拡大/縮小する操作のみによって放射光の波長を調節している。このため、波長はλ(λ,Bmin,E)~λ(λ,Bmax,E)の範囲に限定されることになり、放射光の最大の特徴である波長可変性が損なわれている。その結果、放射光を利用する研究、放射光の実用的用途などに制約が生じているのが現状である。
【0010】
本発明の目的は、放射光の波長を大きく変えることが可能なアンジュレータ磁石列、および、そのようなアンジュレータ磁石列を備え、放射光の波長を広い範囲の中から選択することが可能なアンジュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、互いに対向するように間隙をあけて平行に配置された第1の磁石列および第2の磁石列を有し、第1の磁石列に含まれる磁石の着磁方向および第2の磁石列に含まれる磁石の着磁方向が、第1の磁石列および第2の磁石列を含む面内で、磁石の配列に沿って一定の周期で繰り返し変化するアンジュレータ磁石列であって、第1の磁石列および第2の磁石列は、磁石の配列方向における相対位置が可変であり、第1の磁石列および第2の磁石列の着磁の1周期の長さをλとするとき、第1の磁石列および第2の磁石列は、各周期の前半に含まれる磁石および後半に含まれる磁石それぞれによってλ/2の周期を有する磁場を形成し、かつ、各周期の全体に含まれる磁石によってλの周期を有する磁場を形成するように、着磁されているアンジュレータ磁石列である。
【0012】
本発明はまた、磁石の配列方向における基準位置からの距離をzとし、磁石の配列方向における第1の磁石列と第2の磁石列との相対位置のずれ量をΔzとし、第1の磁石列および第2の磁石列の各周期の前半に含まれる磁石および後半に含まれる磁石それぞれによって形成されるλ/2の周期を有する磁場をB(z)とし、第1の磁石列および第2の磁石列の各周期の全体に含まれる磁石によって形成されるλの周期を有する磁場をB(z)とするとき、
第1の磁石列および第2の磁石列は全体として、
(z)=B(z)cos(2πΔz/λ
+B(z)cos(πΔz/λ
で表される磁場Bc(z)を形成することを特徴とする。
【0013】
本発明はまた、第1の磁石列および第2の磁石列の着磁の1周期に含まれる磁石の数をnで表すとき、第1の磁石列の各周期において、前半のn/2個の磁石の着磁方向は720゜/nずつ順に変化し、(n-k+1)番目の磁石の着磁方向は、k番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列および第2の磁石列を含む面に垂直で磁石の配列に平行な面に関して、反転した方向であり、第2の磁石列の各周期のk番目の磁石の着磁方向は、第1の磁石列の各周期のk番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列および第2の磁石列を含む面に垂直で磁石の配列に垂直な面に関して、反転した方向であることを特徴とする。
【0014】
本発明はまた、第1の磁石列および第2の磁石列それぞれの着磁の1周期に8個の磁石が含まれ、第1の磁石列および第2の磁石列の磁石の配列の一方向を第1の方向とし、第1の方向に垂直で、第1の磁石列から第2の磁石列に向かう方向を第2の方向とするとき、第1の磁石列の各周期において、2番目の磁石および6番目の磁石の着磁方向は第2の方向であり、4番目の磁石および8番目の磁石の着磁方向は第2の方向に対して反対の第3の方向であり、1番目の磁石の着磁方向は第1の方向に対して鋭角かつ第2の方向に対して鈍角の第4の方向であり、3番目の磁石の着磁方向は第4の方向に対して反対の第5の方向であり、5番目の磁石の着磁方向は第1の方向に対して鋭角かつ第2の方向に対して鋭角の第6の方向であり、7番目の磁石の着磁方向は第6の方向に対して反対の第7の方向であり、第2の磁石列の各周期のk番目の磁石の着磁方向は、第1の磁石列の各周期のk番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列および第2の磁石列を含む面に垂直で磁石の配列に垂直な面に関して、反転した方向であることを特徴とする。
【0015】
本発明はさらに、第1の磁石列および第2の磁石列の磁石のうち、着磁方向が磁石の配列方向に平行でなく垂直でもない磁石は、着磁方向が磁石の配列方向に平行な磁石と、着磁方向が磁石の配列方向に垂直な磁石の組み合せから成ることを特徴とする。
【0016】
本発明は、上記のいずれかのアンジュレータ磁石列と、第1の磁石列および第2の磁石列を保持するとともに、第1の磁石列および/または第2の磁石列を磁石の配列方向に移動させて、磁石の配列方向における第1の磁石列と第2の磁石列との相対位置を変化させる保持部と、使用者から与えられる指示に応じて、第1の磁石列および/または第2の磁石列を磁石の配列方向に移動させるように、保持部を制御する制御部とを備えるアンジュレータである。
【0017】
本発明はまた、保持部が第1の磁石列と第2の磁石列との相対位置を変化させる距離は、着磁の1周期の1/2までの範囲内で可変であることを特徴とする。
【0018】
本発明はさらに、保持部は、第1の磁石列と第2の磁石列との間隔を変えることが可能であり、制御部は、使用者から与えられる指示に応じて、第1の磁石列と第2の磁石列との間隔を変えるように、保持部を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアンジュレータ磁石列によれば、着磁周期λの1/2に相当する波長と着磁周期λに相当する波長を、磁石の配列方向における第1の磁石列と第2の磁石列との相対位置のずれ量Δzを調整することによって切り替えることが可能であり、選択可能な放射光の波長の範囲が広い。
【0020】
また、本発明のアンジュレータによれば、使用者は第1の磁石列と第2の磁石列との相対位置を変化させる指示を制御部に与えるだけで、得られる放射光の波長を容易に変化させることが可能であり、様々な波長の放射光を簡便に利用することが可能である。その結果、放射光の研究あるいは実用への制約が軽減され、大規模な放射光施設をより有効に利用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態のアンジュレータ磁石列を説明するための図であり、(a)は第1の実施形態のアンジュレータ磁石列を模式的に示す図、(b)は第1の実施形態のアンジュレータ磁石列の着磁周期の1/2の周期の磁場を形成する磁石列を示す図、(c)は第1の実施形態のアンジュレータ磁石列の着磁周期と同じ周期の磁場を形成する磁石列を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態のアンジュレータ磁石列によって発生させる放射光の波長を変化させる原理を説明する図である。
【図3】本発明の第2の実施形態のアンジュレータ磁石列を説明するための図であり、(a)は第2の実施形態のアンジュレータ磁石列を模式的に示す図、(b)は第2の実施形態のアンジュレータ磁石列の着磁周期の1/2の周期の磁場を形成する磁石列を示す図、(c)は第2の実施形態のアンジュレータ磁石列の着磁周期と同じ周期の磁場を形成する磁石列を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態のアンジュレータ磁石列が形成する磁場分布の例を示す図である。
【図5】アンジュレータ磁石列によって得られる利用可能な放射光の波長と強度との関係を示す図であり、(a)は従来のアンジュレータ磁石列によって得られる放射光についての図、(b)は本発明の第2の実施形態のアンジュレータ磁石列によって得られる放射光についての図である。
【図6】本発明の第3の実施形態のアンジュレータ磁石列を説明するための図であり、(a)は第3の実施形態のアンジュレータ磁石列を模式的に示す図、(b)は第3の実施形態のアンジュレータ磁石列の着磁周期の1/2の周期の磁場を形成する磁石列を示す図、(c)は第3の実施形態のアンジュレータ磁石列の着磁周期と同じ周期の磁場を形成する磁石列を示す図である。
【図7】本発明の第4の実施形態のアンジュレータ磁石列を模式的に示す図である。
【図8】本発明によるアンジュレータの構成を模式的に示す図である。
【図9】本発明によるアンジュレータにおけるアンジュレータ磁石列を相対位置可変に保持するための構成を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図10】本発明のアンジュレータを採用した放射光施設を模式的に示す平面図である。
【図11】従来のアンジュレータ磁石列を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1の(a)に、本発明の第1の実施形態のアンジュレータ磁石列10を模式的に示す。アンジュレータ磁石列10は、互いに対向して平行に配置された第1の磁石列10aおよび第2の磁石列10bを有する。第1の磁石列10aおよび第2の磁石列10bに含まれる個々の磁石10cは、強力な永久磁石のネオジム磁石であり、すべて同じ寸法を有しており、同じピッチで直線状に配列されている。図示したように、第1の磁石列10aおよび第2の磁石列10bの磁石の配列方向の一方をz方向、z方向に垂直で第1の磁石列10aから第2の磁石列10bに向かう方向をy方向、z方向およびy方向に垂直な方向をx方向とする。

【0023】
第1の磁石列10aおよび第2の磁石列10bの個々の磁石10cの着磁方向(S極からN極に向う方向)を、白抜き矢印で磁石10c内に示す。各磁石列10a,10bの磁石の着磁方向は、第1の磁石列10aおよび第2の磁石列10bを含む面(y-z平面)内で、一定の周期λで繰り返し変化する。第1の磁石列10aおよび第2の磁石列10bの1周期λには、それぞれ8個の磁石が含まれている。第1の磁石列10aおよび第2の磁石列10bの各周期に含まれる磁石の数をnとすると(本実施形態ではn=8)、各磁石列10a,10bにおいて、1周期の前半および後半それぞれに含まれるn/2個の磁石の着磁方向は、720゜/nつまり90゜ずつ変化している。1周期に含まれる8個の磁石の着磁方向はいずれも、z方向およびy方向に対して傾斜している。

【0024】
第1の磁石列10aにおいて、各周期の(n-k+1)番目の磁石の着磁方向は、k番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列10aおよび第2の磁石列10bを含む面に垂直で磁石の配列に平行な面(つまり、x-z平面)に関して反転した方向である。たとえば、着磁周期内の末尾(図中右端)の磁石の着磁方向は、着磁周期内の先頭(図中左端)の磁石の着磁方向を、x-z平面に関して反転した方向である。第2の磁石列10bにおいても、各周期の(n-k+1)番目の磁石の着磁方向は、k番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列10aおよび第2の磁石列10bを含む面に垂直で磁石の配列に平行な面(つまり、x-z平面)に関して、反転した方向である。

【0025】
また、第2の磁石列10bの各周期のk番目の磁石の着磁方向は、第1の磁石列10aの各周期のk番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列10aおよび第2の磁石列10bを含む面に垂直で磁石の配列に垂直な面(つまり、x-y平面)に関して、反転した方向である。たとえば、第2の磁石列10bの着磁周期内の先頭(図中左端)の磁石の着磁方向は、第1の磁石列10aの着磁周期内の先頭(図中左端)の磁石の着磁方向を、x-y平面に関して反転した方向である。

【0026】
図1において、(b)および(c)は、(a)に示した第1の実施形態のアンジュレータ磁石列10が形成する周期磁場を説明するための磁石列を表している。(b)の磁石列13a,13bは、図11の(b)に示した従来の磁石列91のものと同じであり、アンジュレータ磁石列10の1周期λの1/2の周期λを有し、その1周期λに4個の磁石を含んでいる。したがって、(b)の磁石列13a,13bが形成する磁場の周期は、アンジュレータ磁石列10が形成する磁場の周期の1/2である。

【0027】
(c)の磁石列15a,15bは、(b)の磁石列13a,13bの着磁方向を変化させたものである。具体的には、磁石列13aの奇数周期の4個の磁石の着磁方向を紙面上反時計回りに90゜回転し、偶数周期の4個の磁石の着磁方向を時計回りに90゜回転して、磁石列15aとし、磁石列13bの奇数周期の4個の磁石の着磁方向を時計回りに90゜回転し、偶数周期の4個の磁石の着磁方向を反時計回りに90゜回転して、磁石列15bとしている。図1の(c)の磁石列15a,15bは、(a)のアンジュレータ磁石列10の1周期λに等しい周期を有し、その1周期λに8個の磁石を含んでいる。

【0028】
アンジュレータ磁石列10に含まれる第1の磁石列10aおよび第2の磁石列10bは、(c)の磁石列15a,15bと同様に、(b)の磁石列13aの奇数周期の4個の磁石の着磁方向を反時計回りに、偶数周期の4個の磁石の着磁方向を時計回りに回転し、また、磁石列13bの奇数周期の4個の磁石の着磁方向を時計回りに、偶数周期の4個の磁石の着磁方向を反時計回りに回転したものである。ただし、その回転角θは、(c)の磁石列15a,15とは異なり90゜ではなく、0゜超かつ90゜未満の値である。図1の(a)は、θ=20゜の場合を示している。

【0029】
アンジュレータ10が形成する磁場は、図1の(b)の磁石列13a,13bが形成する周期λで変化する磁場Bと、図1の(c)の磁石列15a,15bが形成する周期λで変化する磁場Bとを合成したものとなり、任意の基準位置からのz方向の距離がzである位置における磁場B(z)は、式2で表される。
(z)=B(z)cosθ+B(z)sinθ …(2)

【0030】
式2は、周期λの磁場Bと周期λの磁場Bの合成の割合が、回転角θに依存することを意味している。これは、回転角θによって、合成磁場Bに含まれる磁場B,Bの最大振幅の比を定めることが可能であることを表す。

【0031】
アンジュレータ磁石列10によって形成する放射光の波長を変化させる原理を、図2に示す。第1の磁石列10aと第2の磁石列10bとの相対位置は、ギャップgを拡大または縮小する方向(y方向およびその逆方向)のみならず、磁石の配列方向(z方向およびその逆方向)にも可変である。磁石の配列方向における第1の磁石列と第2の磁石列との相対位置のずれ量をΔz(着磁周期と同じくメートル単位で表す)とすると、磁場B,Bの周期性から、上記式2より式3が導かれる。
=B(z)cosθcos(πΔz/λ
+B(z)sinθcos(πΔz/λ) …(3)

【0032】
式3におけるB(z)cosθおよびB(z)sinθをそれぞれB(z)およびB(z)で表し、λ=λ/2を代入すると、アンジュレータ磁石列10が形成する磁場は、式4で表される。
(z)=B(z)cos(2πΔz/λ
+B(z)cos(πΔz/λ) …(4)

【0033】
ここで、B(z)は、相対位置のずれ量Δzが0のときに、磁石列10a,10bの着磁の1周期の前半のn/2個(本実施形態では4個)の磁石および後半のn/2個の磁石がそれぞれ形成する周期λ/2(=λ)の磁場に相当し、B(z)は、相対位置のずれ量Δzが0のときに、磁石の1周期全体のn個の磁石(本実施形態では8個)が形成する周期λの磁場に相当する。

【0034】
なお、アンジュレータ磁石列10においては、相対位置のずれ量Δzが1周期λの1/2までの範囲内で可変である。したがって、アンジュレータ磁石列10は、Δz=λ/2として、周期λの磁場のみを形成することも、Δz=λ/4として、周期λの磁場のみを形成することも、可能である。

【0035】
図3の(a)に、第2の実施形態のアンジュレータ磁石列20を示す。このアンジュレータ磁石列20は、互いに対向して平行に配置された第1の磁石列20aおよび第2の磁石列20bを有する。第1の磁石列20aおよび第2の磁石列20bに含まれる個々の磁石20cは、ネオジム磁石であり、すべて同じ寸法を有しており、同じピッチで直線状に配列されている。

【0036】
第1の磁石列20aおよび第2の磁石列20bの磁石の着磁方向は、第1の磁石列20aおよび第2の磁石列20bを含む面(y-z平面)内で、一定の周期λで繰り返し変化する。第1の磁石列20aおよび第2の磁石列20bの1周期λには、それぞれ12個の磁石が含まれている。前述のように、第1の磁石列20aおよび第2の磁石列20bの各周期に含まれる磁石の数をnとすると(本実施形態ではn=12)、各磁石列20a,20bにおいて、1周期の前半および後半それぞれに含まれるn/2個の磁石の着磁方向は、720゜/nつまり60゜ずつ変化している。

【0037】
第1の磁石列20aにおいて、各周期の(n-k+1)番目の磁石の着磁方向は、k番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列20aおよび第2の磁石列20bを含む面に垂直で磁石の配列に平行な面(つまり、x-z平面)に関して反転した方向である。第2の磁石列20bにおいても、各周期の(n-k+1)番目の磁石の着磁方向は、k番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列20aおよび第2の磁石列20bを含む面に垂直で磁石の配列に平行な面(つまり、x-z平面)に関して、反転した方向である。また、第2の磁石列20bの各周期のk番目の磁石の着磁方向は、第1の磁石列20aの各周期のk番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列20aおよび第2の磁石列20bを含む面に垂直で磁石の配列に垂直な面(つまり、x-y平面)に関して、反転した方向である。

【0038】
図3において、(b)および(c)は、(a)に示した第2の実施形態のアンジュレータ磁石列20が形成する周期磁場を説明するための磁石列を表している。(b)の磁石列23a,23bは、図11の(c)に示した従来のアンジュレータ磁石列92のものと同じであり、アンジュレータ磁石列20の1周期λの半分の周期λを有し、その1周期λに6個の磁石を含んでいる。したがって、(b)の磁石列23a,23bが形成する磁場の周期は、アンジュレータ磁石列20が形成する磁場の周期の1/2である。

【0039】
(c)の磁石列25a,25bは、(b)の磁石列23a,23bの着磁方向を変化させたものである。具体的には、磁石列23aの奇数周期の6個の磁石の着磁方向を紙面上反時計回りに90゜回転し、偶数周期の6個の磁石の着磁方向を時計回りに90゜回転して、磁石列25aとし、磁石列23bの奇数周期の6個の磁石の着磁方向を時計回りに90゜回転し、偶数周期の6個の磁石の着磁方向を反時計回りに90゜回転して、磁石列25bとしている。図3の(c)の磁石列25a,25bは、(a)のアンジュレータ磁石列20の1周期λに等しい周期を有し、1周期λに12個の磁石を含んでいる。

【0040】
アンジュレータ磁石列20に含まれる第1の磁石列20aおよび第2の磁石列20bは、(c)の磁石列25a,25bと同様に、(b)の磁石列23aの奇数周期の6個の磁石の着磁方向を反時計回りに、偶数周期の6個の磁石の着磁方向を時計回りに回転し、また、磁石列23bの奇数周期の6個の磁石の着磁方向を時計回りに、偶数周期の6個の磁石の着磁方向を反時計回りに回転したものである。ただし、その回転角θは、(c)の磁石列25a,25とは異なり90゜ではなく、0゜超かつ90゜未満の値である。

【0041】
アンジュレータ20が形成する磁場は、図3の(b)の磁石列が形成する周期λで変化する磁場Bと、図3の(c)の磁石列が形成する周期λで変化する磁場Bとを合成したものとなり、任意の基準位置からのz方向の距離がzである位置における磁場B(z)は、前述の式2で表される。

【0042】
本実施形態のアンジュレータ磁石列20においても、第1の実施形態において図2を参照して説明したように、第1の磁石列20aと第2の磁石列20bとの相対位置を、磁石の配列方向に沿って変化させることで、形成する磁場を変化させることが可能である。アンジュレータ磁石列20が形成する磁場Bは、前述の式3で表され、さらに前述の式4で表される。アンジュレータ磁石列20においても、相対位置のずれ量Δzは、1周期λの1/2まで可変である。

【0043】
本実施形態のアンジュレータ20が形成する磁場分布の例を図4に示す。これは、着磁周期λを40mm、磁石列の全長を4.5m、永久磁石の残留磁束密度を1.25T、ギャップgを6mm、前述の回転角θ(式3参照)を20゜として、磁場計算を行って得られた結果である。図4において、aの曲線は、磁石列20a,20bの着磁の周期λの1/2の周期λの磁場B(z)のみを形成するモード(半周期モードという)の磁場を表し、bの曲線は、磁石列20a,20bの着磁の1周期λの磁場B(z)のみを形成するモード(全周期モードという)の磁場を表し、cの曲線は、Δz=0として、半周期モードと全周期モードを合成したモード(合成モードという)の磁場を表している。

【0044】
半周期モードでは、周期20mm、振幅0.875Tが得られ、全周期モードでは、周期40mm、振幅0.25Tが得られ、また、合成モード(Δz=0)では、周期40mmで、正負非対称な特殊な磁場分布が得られることが判る。なお、図11の(c)に示した従来のアンジュレータ磁石列92について同様の条件で計算したところ、周期は20mm、最大振幅は0.926Tであった。

【0045】
これらの結果を用いて計算した、放射光の波長範囲と各波長における輝度(放射光の品質を表す物理量であり、高いほど優れている)の関係を図5に示す。図5において、(a)は従来のアンジュレータ磁石列92で得られる放射光の特性を表し、(b)はアンジュレータ磁石列20で得られる放射光の特性を表す。従来のアンジュレータ磁石列92で得られる放射光は波長範囲が0.04nm~0.1nmに限られているのに対し、本実施形態のアンジュレータ磁石列20で得られる放射光の波長範囲は、0.04nm~0.25nmにまで大きく拡大している。具体的には、アンジュレータ磁石列20では、半周期モードでの波長0.04nm~0.1nmに、全周期モードでの波長0,08nm~0.12nmと、合成モードでの波長0.12nm~0.25nmが加わっている。

【0046】
図6の(a)に、第3の実施形態のアンジュレータ磁石列30を示す。このアンジュレータ磁石列30は、互いに対向して平行に配置された第1の磁石列30aおよび第2の磁石列30bを有する。第1の磁石列30aおよび第2の磁石列30bに含まれる個々の磁石30cは、ネオジム磁石であり、すべて同じ寸法を有しており、同じピッチで直線状に配列されている。

【0047】
第1の磁石列30aおよび第2の磁石列30bの磁石の着磁方向は、第1の磁石列30aおよび第2の磁石列30bを含む面(y-z平面)内で、一定の周期λで繰り返し変化する。第1の磁石列30aおよび第2の磁石列30bの1周期λには、第1の実施形態のアンジュレータ磁石列10と同様に、それぞれ8個の磁石が含まれている。

【0048】
第1の磁石列30aおよび第2の磁石列30bの磁石の配列の一方向(z方向)を第1の方向とし、第1の方向に垂直で、第1の磁石列30aから第2の磁石列30bに向かう方向(y方向)を第2の方向とするとき、第1の磁石列30aの各周期において、2番目の磁石および6番目の磁石の着磁方向は第2の方向であり、4番目の磁石および8番目の磁石の着磁方向は第2の方向に対して反対の第3の方向であり、1番目の磁石の着磁方向は第1の方向に対して鋭角かつ第2の方向に対して鈍角の第4の方向であり、3番目の磁石の着磁方向は第4の方向に対して反対の第5の方向であり、5番目の磁石の着磁方向は第1の方向に対して鋭角かつ第2の方向に対して鋭角の第6の方向であり、7番目の磁石の着磁方向は第6の方向に対して反対の第7の方向である。

【0049】
また、第2の磁石列30bの各周期のk番目の磁石の着磁方向は、第1の磁石列30aの各周期のk番目の磁石の着磁方向を、第1の磁石列30aおよび第2の磁石列30bを含む面に垂直で磁石の配列に垂直な面(つまり、x-y平面)に関して、反転した方向である。

【0050】
図6において、(b)および(c)は、(a)に示した第3の実施形態のアンジュレータ磁石列30が形成する周期磁場を説明するための磁石列を表している。(b)の磁石列33a,33bは、アンジュレータ磁石列30の1周期λの半分の周期λを有し、その1周期λに4個の磁石を含んでいる。したがって、(a)の磁石列33a,33bが形成する磁場の周期は、アンジュレータ磁石列30が形成する磁場の周期の1/2である。磁石列33a,33bの磁石の着磁方向は90゜ずつ変化し、磁石の配列に平行または垂直である。

【0051】
(c)の磁石列35a,35bは、磁石列33a,33bの各周期の偶数番目の磁石に対応する磁石を含んでおらず、磁石列33a,33bの各周期の奇数番目の磁石に対応する磁石の着磁方向は磁石の配列に垂直である。また、磁石列35a,35bは、アンジュレータ磁石列30と同じ周期λを有している。

【0052】
アンジュレータ30が形成する磁場は、図6の(b)の磁石列33a,33bが形成する周期λで変化する磁場Bと、図6の(c)の磁石列35a,35bが形成する周期λで変化する磁場Bとを合成したものとなり、任意の基準位置からのz方向の距離がzである位置における磁場B(z)は、前述の式2、式3および式4で表される。

【0053】
本実施形態のアンジュレータ磁石列30においても、第1の磁石列30aと第2の磁石列30bとの相対位置を、磁石の配列方向に沿って変化させることで、形成する磁場を変化させることが可能である。相対位置のずれ量Δzは、1周期λの1/2まで可変である。

【0054】
図7に、第4の実施形態のアンジュレータ磁石列40を示す。このアンジュレータ磁石列40は、第3の実施形態のアンジュレータ磁石列30を部分的に変更したもので、アンジュレータ磁石列30の着磁方向が磁石の配列に平行(z方向およびその逆方向)でなく、垂直(y方向およびその逆方向)でもない磁石を、着磁方向が磁石の配列に平行な磁石40dと、着磁方向が磁石の配列に垂直な磁石40eとを組み合せて、構成したものである。したがって、各周期の奇数番目の磁石は、複数(3個)の磁石から成る磁石ブロックとなっている。アンジュレータ磁石列を永久磁石で構成する場合、このように着磁方向の異なる磁石を組み合せた磁石ブロックを使用することで、着磁方向の設定が正確かつ容易になる。

【0055】
アンジュレータ磁石列10,20,30,40を比較すると、形成される磁場の強度は、アンジュレータ磁石列20が最も強く、次いでアンジュレータ磁石列10、アンジュレータ磁石列30、アンジュレータ磁石列40の順になる。しかし、製造の容易さは、逆に、アンジュレータ磁石列40、アンジュレータ磁石列30、アンジュレータ磁石列10、アンジュレータ磁石列20の順である。なお、第1および第2の実施形態のアンジュレータ磁石列10,20においても、着磁方向が磁石の配列方向に対して平行でも垂直でもない磁石は、着磁方向が磁石の配列に平行な磁石と垂直な磁石とを組み合せて構成することが可能である。

【0056】
本発明の第5の実施形態であるアンジュレータ5の構成を図8に模式的に示す。アンジュレータ5は、前述の第1~第4の実施形態のアンジュレータ磁石列10,20,30,40のいずれかであるアンジュレータ磁石列50と、アンジュレータ磁石列50の第1の磁石列50aおよび第2の磁石列50bを移動可能に保持する保持部60と、保持部60を制御する制御部70を有する。

【0057】
保持部60は、第1の磁石列50aおよび第2の磁石列50bを、磁石の配列に垂直な方向(y方向)またはその逆方向に、対称的に同時に移動させて、ギャップgを拡大および縮小することが可能である。第1の磁石列50aおよび第2の磁石列50bを対称的に移動させることで、電子は常にギャップgの中央付近を通過することができる。

【0058】
保持部60は、また、第1の磁石列50aおよび第2の磁石列50bを、磁石の配列方向(z方向)またはその逆方向に、対称的に同時に移動させて、第1の磁石列50aと第2の磁石列50bの相対位置に、磁石の配列に沿うずれを生じさせることが可能である。そのずれ量Δzは、アンジュレータ磁石列50の着磁の1周期λの1/2までの範囲内で、任意に設定することができる。

【0059】
図示しないが、保持部60は、第1の磁石列50aと第2の磁石列50bを移動させるための、アクチュエータを含んでいる。なお、保持部60が、第1の磁石列50aおよび第2の磁石列50bのいずれか一方のみを、磁石の配列方向に移動させるようにしてもよい。ただし、第1の磁石列50aおよび第2の磁石列50bの双方を可動にして、両者を対称的に移動させる方が、放射光の発生位置を一定に保つことができて、好ましい。

【0060】
制御部70は、保持部60による磁石列50a,50bの移動を制御する。制御部70は、演算装置、記憶装置、表示装置および入力装置を含むコンピュータシステムであり、入力装置を介して与えられる使用者からの指示に応じて、磁石列50a,50bを移動させて、ギャップgおよびずれ量Δzを設定する。

【0061】
磁石列50a,50bを可動に保持するための保持部60の構成を図9に示す。図9において、(a)は側面図、(b)は正面図である。保持部60は、断面コの字状の架台61と、架台61の上部と下部との間に立設された1対のボールねじ62a,62bと、ボールねじ62a,62bによって支持される第1のリニアガイド63a,63b,63c,63dと、第1のリニアガイド63a,63c;63b,63dにそれぞれ取り付けられた第2のリニアガイド64a,64bと、第2のリニアガイド64a,64bにそれぞれ取り付けられ、それぞれ磁石列50a,50bを保持する保持ブロック65a,65bを有する。

【0062】
第1のリニアガイド63a,63b,63c,63dは、ボールねじ62a,62bと螺合するナットをそれぞれ有しており、矢印Aで示したようにボールねじ62a,62bが回転することによって、リニアガイド63a,63cとリニアガイド63b,63dとが互いに逆方向に上下方向に移動する。第1のリニアガイド63a,63c;63b,63dの互いに逆方向への移動によって、第1の磁石列50aと第2の磁石列と50bの間のギャップgが変化する。なお、第1のリニアガイド63a,63b,63c,63dを移動させるためにボールねじ62a,62bを回転させるアクチュエータは、架台61に設けられている(不図示)。

【0063】
第2のリニアガイド64a,64bは、それぞれ水平方向のボールねじ64c,64dを有しており、保持ブロック65a,65bはそれぞれボールねじ64c,64dと螺合するナットを有している。ボールねじ64c,64dが回転することによって、保持ブロック65a,65bは、磁石の配列方向に個別に移動する。保持ブロック65a,65bの互いに逆方向への移動によって、磁石の配列方向における第1の磁石列50aと第2の磁石列と50bの相対位置のずれ量Δzが変化する。保持ブロック65a,65bを移動させるためにボールねじ64c,64dを回転させるアクチュエータは、第2のリニアガイド64a,64bに設けられている(不図示)。

【0064】
なお、ここでは、第1の磁石列50aと第2の磁石列50bが鉛直方向に並ぶようにアンジュレータ5を配設しているが、第1の磁石列50aと第2の磁石列50bが水平方向に並ぶように、アンジュレータ5を配設することも可能である。

【0065】
上記のアンジュレータ5が設置される放射光施設100の平面図を図10に模式的に示す。放射光施設100は、電子銃101、線形加速器102、シンクロトロン103、蓄積リング104、および、1以上のビームライン105を有する。アンジュレータ5は、蓄積リング104におけるビームライン105の基部付近に配置される。

【0066】
電子銃101から発射された電子eは、線形加速器102によって加速されて1GeV程度のエネルギの速度になり、次いでシンクロトロン103によって高周波を用いてさらに加速されて、8GeV程度のエネルギの光速に近い速度になって、蓄積リング104に入る。電子はそのエネルギを維持したまま蓄積リング104内を高速で回り、蓄積リング104内に配置されているアンジュレータ磁石列の形成する周期磁場によって蛇行させられて、放射光Rを放出する。放射光Rはビームライン105に入り、ビームライン105内で種々の研究および実用的用途に利用される。

【0067】
前述のように、アンジュレータ5は、広い波長範囲の中から選択される波長の放射光Rを提供することができるので、ビームライン105において行い得る研究および実用的用途の種類は従来以上に多くなる。したがって、大規模な放射光施設100を従来以上に有効に利用することが可能になる。
【符号の説明】
【0068】
10,20,30,40,50,90,91,92 アンジュレータ磁石列
10a,20a,30a,40a,50a,90a 第1の磁石列
10b,20b,30b,40b,50b,90b 第2の磁石列
10c,20c,30c,40c 磁石
40d,40e 磁石
13a,13b,15a,15b 磁石列
23a,23b,25a,25b 磁石列
33a,33b,35a,35b 磁石列
5 アンジュレータ
60 保持部
61 架台
62a,62b ボールねじ
63a,63b,63c,63d 第1のリニアガイド
64a,64b 第2のリニアガイド
64c,64d ボールねじ
65a,65b保持ブロック
70 制御部
100 放射光施設
101 電子銃
102 線形加速器
103 シンクロトロン
104 蓄積リング
105 ビームライン
B 磁場振幅
g ギャップ
Δz ずれ量
λ,λ,λ 着磁周期
e 電子
R 放射光
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10