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明細書 :粒子プローブを用いた画像化方法およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5519506号 (P5519506)
登録日 平成26年4月11日(2014.4.11)
発行日 平成26年6月11日(2014.6.11)
発明の名称または考案の名称 粒子プローブを用いた画像化方法およびその利用
国際特許分類 G01N  21/65        (2006.01)
G01N  21/47        (2006.01)
FI G01N 21/65
G01N 21/47 Z
請求項の数または発明の数 15
全頁数 43
出願番号 特願2010-523769 (P2010-523769)
出願日 平成21年8月7日(2009.8.7)
国際出願番号 PCT/JP2009/003792
国際公開番号 WO2010/016267
国際公開日 平成22年2月11日(2010.2.11)
優先権出願番号 2008205387
優先日 平成20年8月8日(2008.8.8)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年2月24日(2012.2.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】藤田 克昌
【氏名】井上 康志
【氏名】市村 垂生
【氏名】河田 聡
【氏名】安藤 潤
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】横尾 雅一
参考文献・文献 特開2006-058321(JP,A)
特開2000-258410(JP,A)
特開2005-069768(JP,A)
国際公開第2007/135804(WO,A1)
Kneipp J , et.al.,One- and Two-Photon Excited Optical pH Probing for Cells Using Surface-Enhanced Raman and Hyper-Rama,Nano Letters,2007年 9月,Vol.7, No.9,p.2819-2823
Lee S, et.al.,Biological Imaging of HEK293 Cells Expressing PLCγ1 Using Surface-Enhanced Raman Microscopy,Analytical Chemistry,2007年 2月 1日,Vol.79, No.3,p.916-922
市村垂生、河田聡,高分子科学最近の進歩 DNAを光でどこまで見ることができるか?,高分子,日本,2007年 6月 1日,第56巻、第6号,第441頁-第445頁
Sharonov S , et.al.,Confocal Three-Dimensional Scanning Laser Raman-SERS-Fluorescence Microprobe. Spectral Imaging and H,Journal of Raman Spectroscopy,1994年 7月,Vol.25, No.7&8,p.699-707
調査した分野 G01N 21/00-21/74
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
流動場を備える試料の画像の形成を行う方法であって、
流動場を備える試料の流動場に、自己の流動性を利用して当該試料内を移動する粒子プローブを導入し、
上記試料は生細胞であり、
位置決定手段によって、上記試料の内部における、上記試料内を移動する上記粒子プローブの位置を経時的に決定し、
上記粒子プローブの近傍に存在する物質の、上記粒子プローブの位置決定時と同時の光学応答を経時的に検出することによって、試料における粒子プローブの位置情報を複数取得し、
上記複数取得された粒子プローブの位置情報を重ね合わせて画像化することによって流動場を備える試料の画像を形成することを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
上記粒子プローブは金属粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記金属粒子は、金、銀、銅、白金、アルミニウム、タングステン、イリジウムからなる群から選択される1つ以上の金属、または当該群から選択される1つ以上の金属の合金からなる粒子である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答は、上記粒子プローブの近傍に存在する物質に対する散乱光および蛍光のいずれか1つ以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ラマン散乱検出法、レイリー散乱検出法、ミー散乱検出法および蛍光検出法からなる群から選択される1つ以上の方法により、上記粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を経時的に検出する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
上記ラマン散乱検出法は、表面増強ラマン散乱法である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記流動場を備える試料は、生細胞である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
上記流動場に粒子プローブを導入するとは、生細胞内に粒子プローブを導入することである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
マイクロインジェクション法により生細胞内に粒子プローブを導入する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
流動場に複数の粒子プローブを導入することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
上記粒子プローブは、その表面が修飾されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
上記粒子プローブはナノ粒子プローブである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
上記ナノ粒子プローブは、粒子径が可視光線の波長範囲未満である粒子状物質である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記粒子プローブがナノ粒子プローブであって、生細胞とナノ粒子プローブとを接触させ、生細胞のエンドサイトーシスにより生細胞内にナノ粒子プローブを導入する、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
試料内における粒子プローブの位置を決定する位置決定手段と、
上記位置決定手段によって決定された位置に存在する粒子プローブに、上記位置決定手段による上記粒子プローブの位置決定と同時に光を照射し、上記粒子プローブの近傍に存在する物質から散乱光および蛍光のいずれか1つ以上を発生させる照射手段と、
上記照射手段から照射される光、上記散乱光および蛍光からなる群より選ばれるいずれか1以上の光の光路を変更可能であって、上記粒子プローブの移動速度に対して十分に速い速度で光路を変更する光路変更手段と、
上記散乱光および蛍光のいずれか1つ以上を、上記位置決定手段による上記粒子プローブの位置決定と同時に検出するための検出手段と、
粒子プローブの位置情報を重ね合わせて画像化する手段と、
を備え、
上記粒子プローブは、自己の流動性を利用して当該試料内を移動する粒子プローブであることを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を実施するための装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、試料において粒子プローブ近傍に存在する物質の分布を検出する方法に関する。より具体的には、粒子プローブ(例えば、金などの金属粒子)を試料(例えば、生細胞など)の流動場に導入し、当該流動場内を自らの流動性を利用して移動する粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答(ラマン散乱光、レイリー散乱光、蛍光など)を経時的に検出することによって粒子プローブの位置情報および上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を複数取得し、これら複数の位置情報および物質情報に基づいて、試料において粒子プローブの近傍に存在する物質の分布を検出する方法に関する。
【0002】
また、本発明は、粒子プローブまたはナノ粒子プローブを用いた高分解能の画像化の方法に関する。より具体的には、粒子プローブまたはナノ粒子プローブ(例えば、金などの金属粒子または金属ナノ粒子)を試料(例えば、生細胞など)の流動場に導入し、当該流動場内を自らの流動性を利用して移動する粒子プローブまたはナノ粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答(ラマン散乱光、レイリー散乱光、蛍光など)を経時的に検出することによって粒子プローブまたはナノ粒子プローブの位置情報を複数取得し、これら複数の位置情報を重ね合わせることによって、試料の画像を形成する方法に関する。
【0003】
本発明の方法においては、粒子プローブおよびナノ粒子プローブは、試料内を自ら移動するため、粒子プローブまたはナノ粒子プローブの位置情報を取得するために外的走査する必要がない。また粒子プローブおよびナノ粒子プローブは試料を三次元的に移動し得るために、三次元画像を形成することができる。
【背景技術】
【0004】
17世紀初期ロバート・フックが自作の顕微鏡を用いて細胞を発見して以降、光学顕微鏡はミクロ/ナノスケールでの生体活動を観察するツールとして活躍してきた。生体分子の機能解明が重要視される昨今においても、一分子蛍光イメージング技術や近接場光顕微鏡の発展により、光を用いた新しい分子観察法が発展している。生きたまま細胞内の生体分子を観察できるのは光学顕微鏡のみであり、今後も光学顕微鏡は生命機能の解明において不可欠な手段であると考えられる。
【0005】
光を用いた生体分子の分析法としては、ラマン散乱光を用いたラマン分光法もまた頻繁に用いられてきた。光を分子に照射すると、照射した光の振動数とは異なる振動数の光が散乱される。これをラマン散乱光と呼ぶ。ラマン散乱光は散乱する分子に依存した振動数を有するため、ラマン散乱光を分光して得られるラマンスペクトルを解析することで、光を散乱した分子を同定することができる。1990年に報告されたPuppelsらによるショウジョウバエの染色体の構造解析が、ラマン分光法を用いた最初の生体試料の測定例である(非特許文献1を参照のこと)。これ以降、1995年には同グループによりヒトリンパ球のイメージングが報告され(非特許文献2を参照のこと)、2003年にはUzunbajakavaらがヒト細胞中のタンパク質のイメージングを行った(非特許文献3を参照のこと)。ラマン散乱は分子の振動を検出するため、ラマン分光法を用いれば非侵襲かつ無標識で細胞内分子の構造を解析できる。しかし、ラマン散乱光の散乱断面積は非常に小さいため、ラマン分光法を用いて細胞中の分子情報を得るには、長時間の露光が必要である。このため、ラマン分光法は刻一刻と変化する細胞動態の観察にはあまり適していなかった。
【0006】
上記問題点を解決すべく、表面増強ラマン散乱法(Surface enhanced Raman scattering:以下「SERS」と略記する)が開発された。SERSでは、金属表面に光が入射した際に誘起される表面プラズモンによって、ラマン散乱光の散乱断面積を数~十数桁増強することができる。SERSのin vitroでの生体分子分析への利用については、1990年代初から報告があり、DNAやタンパク質などの分子量の比較的大きな分子からのSERSが観察されている(例えば非特許文献4~8を参照のこと)。またin vivoでのSERS観察としては1990年代初期に初めて報告があり、生細胞内に付加された薬剤のSERS信号が観察されている(例えば非特許文献9~12を参照のこと)。また2002年には、Feldらグループが細胞内から生体分子のSERS信号を取得することに成功した(非特許文献13を参照のこと)。
【0007】
一方、本発明者らは、これまでに、生細胞内に金ナノ粒子を導入し、当該生細胞内のSERS観察を経時的に行った結果を報告した(非特許文献14を参照のこと)。
【0008】
他方、上記ラマン分光法やSERS法の他に、生細胞を高分解能で観察する方法としては、原子間力顕微鏡や近接場光学顕微鏡等の所謂プローブ顕微鏡が知られている。プローブ顕微鏡による観察では、位置制御された探針を用いて生細胞試料を走査しながら観察するため、試料の表面付近しか観察することができないという欠点がある。タンパク質や酵素、イオン、糖など生命活動維持に不可欠な物質は細胞内部にあるため、プローブ顕微鏡を用いた方法では、これらを高空間分解能で観察することは不可能であった。また細胞内の物質の観察において、標的の物質を蛍光色素標識して観察する方法が用いられる場合があるが、この方法では蛍光色素で標識された特定の物質しか観察できないという問題点や、蛍光色素の褪光または消光の問題点があった。
【先行技術文献】
【0009】

【非特許文献1】G.J. Puppels, F.D. Mul, C.Otto, J. Greve, M. Robert-Nicoud, D.J. Arndt-Jovin,T.M. Jovin, Nature, 347, 301 (1990)
【非特許文献2】G.J. Puppels, T.C. Bakker Schut, N.M. Sijtsema, M.Grond, F. Maraboeuf, C.G.D.Grauw,C.G. Figdor, J. Greve, J. Mol. Struc., 347, 477 (1995)
【非特許文献3】N. Uzunbajakava, A. Lenferink, Y. Kraan, E. Volokhina, G. Vrensen, J. Greve, C.Otto, Biophys. J., 84, 3968 (2003)
【非特許文献4】E. Koglin, J.M. Sequaris, Top. Curr. Chem. 134, 1 (1986)
【非特許文献5】T.M. Cotton, In surface and Interfacial Aspects of Biological Polymers, J.Andrade, eds. 2 (plenum Press, New York, 1985)
【非特許文献6】T.M. Cotton, In Spectroscopy of Surfaces, R.J.H. Clark, R.E. Hester, eds. (Wiley,New York, 1988)
【非特許文献7】T.M. Cotton, J-.H. Kim, G.D. Chumanov, J. Raman Spectrosc., 22, 729 (1991)
【非特許文献8】I.R. Nabiev, R.G. Efremov, G.D. Chumanov, Sov. Phys. Usp., 31, 241 (1988)
【非特許文献9】M. Manfait, H. Morjani, J.M. Millot, V. Debal, J.F. Angiboust, I. Nabiev, Proc.SPIE-Int. Soc. Opt. Eng., 1403, 695 (1990)
【非特許文献10】M. Manfait, H. Morjani, I. Nabiev, J. Cell. Pharmaco., 3,120 (1992)
【非特許文献11】I.R. Nabiev, H.Morjani, M.Manfait, Eur. Biophys. J., 19, 311 (1991)
【非特許文献12】H.Morjani, J.F. Riou, I.R. Nabiev, F. Lavelle, M. Manfait, Cancer Res., 53, 4784(1993)
【非特許文献13】K. Kneipp, A.S. Haka, H. Kneipp, K. Badizadegan, N. Yoshizawa, C. Boone,. K.E.Shafer-Peltier, J.T. Motz, R.R. Dasari and M.S. Feld, Appl. Spectr., 56, 150 (2002)
【非特許文献14】生物物理、Vol.47 SUPPLEMENT 1、2007年11月22日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまで、生細胞内や生体組織内の分子などの試料を対象とし、外的な走査を行うことなく、高感度で高速かつ、高空間分解で生細胞内や生体組織内における分子など試料の分布を検出する方法は知られていなかった。そこで本発明は、外的な走査を行うことなく、生細胞内や生体組織内における、分子などの試料の分布を高感度で高速かつ、高空間分解に検出する方法を提供することを目的とした。
【0011】
また、これまで、生細胞内の分子などの微小な試料を対象とし、外的な走査を行うことなく、高感度で高速かつ、高空間分解で画像(三次元画像)を形成する方法は知られていなかった。そこで本発明は、外的な走査を行うことなく、生細胞内の分子等の微小な試料を高感度で高速かつ、高空間分解に画像(三次元画像)を形成する方法を提供することを目的とした。
【0012】
なお、本明細書における「外的な走査」とは、特に原子間力顕微鏡や近接場光学顕微鏡等の従来公知のプローブ顕微鏡による観察で行われる走査、すなわち位置制御された探針を用いて試料を走査する行為や、試料外部から光照射、電場、磁場等の印加によりプローブを任意の位置に移動させる行為等を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、粒子プローブまたはナノ粒子プローブ(例えば、金などの金属粒子または金属ナノ粒子)を試料(例えば、生細胞など)の流動場に導入し、当該流動場内を自らの流動性を利用して三次元的に移動する粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答(ラマン散乱光、レイリー散乱光、蛍光など)を経時的に検出することによって、粒子プローブの位置情報および上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を複数取得した。そして、上記情報に基づいて、試料において粒子プローブ近傍に存在する物質の分布を三次元的に検出しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
また、本発明者らは、粒子プローブまたはナノ粒子プローブ(例えば、金などの金属粒子または金属ナノ粒子)を試料(例えば、生細胞など)の流動場に導入し、当該流動場内を自らの流動性を利用して三次元的に移動する粒子プローブまたはナノ粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答(ラマン散乱光、レイリー散乱光、蛍光など)を経時的に検出することによって粒子プローブまたはナノ粒子プローブの位置情報を複数取得し、これら複数の位置情報を重ね合わせることによって、外的な走査を行うことなく、高感度で高速かつ、高空間分解で試料の三次元画像を形成し得ることを発見し本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の発明を包含する。
【0015】
本発明にかかる、試料において粒子プローブ近傍に存在する物質の分布を検出する方法は、流動場を備える試料の流動場に粒子プローブを導入し、上記粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を経時的に検出することによって、試料における粒子プローブの位置情報および上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を複数取得することを特徴としている。
【0016】
また、本発明にかかる方法は、流動場を備える試料の画像を形成する方法であって、
当該流動場に粒子プローブを導入し、
上記粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を経時的に検出することによって、試料における粒子プローブの位置情報および上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を複数取得し、
当該複数取得された粒子プローブの位置情報を重ね合わせて画像化することを特徴としている。
【0017】
また本発明の方法において上記粒子プローブは、金属粒子であることが好ましい。
【0018】
また本発明の方法において上記金属粒子は、金、銀、銅、白金、アルミニウム、タングステン、イリジウムからなる群から選択される1つ以上の金属、または当該群から選択される1つ以上の金属の合金からなる粒子であることが好ましい。
【0019】
また本発明の方法において上記粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答は、上記粒子プローブの近傍に存在する物質に対する散乱光および蛍光のいずれか1つ以上であることが好ましい。
【0020】
また本発明の方法においては、ラマン散乱検出法、レイリー散乱検出法、ミー散乱検出法および蛍光検出法からなる群から選択される1つ以上の方法により、上記粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を経時的に検出することが好ましい。
【0021】
また本発明の方法において上記ラマン散乱検出法は、表面増強ラマン散乱法であることが好ましい。
【0022】
また本発明の方法において上記流動場を備える試料は、生細胞であってもよい。
【0023】
また本発明の方法において上記流動場に粒子プローブを導入するとは、生細胞内に粒子プローブを導入することであってもよい。
【0024】
また本発明の方法においては、マイクロインジェクション法により生細胞内に粒子プローブを導入してもよい。
【0025】
また本発明の方法においては、流動場に複数の粒子プローブを導入してもよい。
【0026】
また本発明の方法において、上記粒子プローブは、その表面が修飾されているものであってもよい。
【0027】
本発明の方法では、粒子プローブはナノ粒子プローブであってもよい。
【0028】
また、本発明の方法では、上記ナノ粒子プローブは、粒子径が可視光線の波長範囲未満である粒子状物質であってもよい。
【0029】
また本発明の方法においては、生細胞とナノ粒子プローブとを接触させ、生細胞のエンドサイトーシスにより生細胞内にナノ粒子プローブを導入してもよい。
【0030】
本発明にかかる方法を実施するための装置は、試料内における粒子プローブの位置を決定する位置決定手段と、
上記位置決定手段によって決定された位置に存在する粒子プローブに光を照射し、上記粒子プローブの近傍に存在する物質から散乱光および蛍光のいずれか1つ以上を発生させる照射手段と、
上記照射手段から照射される光、上記散乱光および蛍光からなる群より選ばれるいずれか1以上の光の光路を変更可能な光路変更手段と、
上記散乱光および蛍光のいずれか1つ以上を検出するための検出手段と、を備えることを特徴としている。
【0031】
なお、これまでは、SERSなどの光学的手法が細胞内の分析に適用が可能であるということは知られていた(非特許文献1~14)。また本発明者らは、生細胞内に金ナノ粒子を導入し、当該細胞内のSERSによる分析を経時的に行った結果をこれまでに開示したが(非特許文献14)、これは単に細胞内のSERSによる分析を経時的に行ったという事実を示したに過ぎない。
【0032】
その後、本発明者らは、金ナノ粒子が細胞内を自らの流動性を利用して三次元的に移動している点に着目し、金ナノ粒子のラマン散乱光などの光学応答を経時的に検出することによってナノ粒子プローブの位置情報および上記ナノ粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を複数取得した。そして、それぞれの位置情報に基づいて、試料内におけるナノ粒子プローブの近傍に存在する物質の分布を三次元的に検出することができることを見出した。
【0033】
また、これら複数の位置情報を重ね合わせることによって、外的な走査を行うことなく、生細胞内の分子等の微小な試料を高感度で高速かつ、高空間分解に三次元画像を形成し得るという独自の技術的思想を見出すことによって、本発明を完成させるに至った。つまり金ナノ粒子が細胞内を自らの流動性を利用して三次元的に移動している点に着目し、これを試料において粒子プローブの近傍に存在する物質の分布を検出する方法および三次元画像を形成する方法に結びつけたからこそ本発明が完成されたのであって、この点に気づき得ない当業者は本発明を容易に完成させることはできない。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、生細胞内や生体組織内の分子などについて、外的な走査を行うことなく、高感度で高速かつ、高空間分解で、生細胞内や生体組織内における分布を三次元的に検出することができる。よって、生細胞内や生体組織内において、どの場所に上記分子等が存在しているかを三次元的に検出することができる。
【0035】
本発明によれば、外的な走査を行うことなく、生細胞内の分子等の微小な試料を高感度で高速かつ、高空間分解に画像(三次元画像)を形成することができる。よって、より簡便に高空間分解で画像(三次元画像)を取得することができる。また本発明においては外的な走査が必要ないため、従来公知のプローブ顕微鏡による生細胞の観察のように細胞の表面付近しか観察できないという問題は生じず、細胞内部についても画像(三次元画像)の取得が本発明によって可能となる。
【0036】
また本発明においては、標的の物質を蛍光色素標識して観察する方法において生じる、蛍光色素で標識された特定の物質しか観察できないという問題点や、蛍光色素の褪光や消光の問題点についても解決されている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の画像化工程の一実施形態を説明するための図である。
【図2】実験例1の結果を示す図であり、(a)は金ナノ粒子を導入する前のマクロファージ細胞のみの暗視野像であり、(b)は金ナノ粒子導入後のマクロファージ細胞の暗視野像である。
【図3】実験例1の結果を示す図であり、(a)は金ナノ粒子を導入する前のマクロファージ細胞のTEM像であり、(b)は金ナノ粒子導入後のマクロファージ細胞のTEM像である。
【図4】実験例1の結果を示す図であり、(a)は金ナノ粒子を導入する前のHeLa細胞の暗視野像であり、(b)は金ナノ粒子導入後のHeLa細胞の暗視野像である。
【図5】実験例1の結果を示す図であり、(a)および(b)は金ナノ粒子を培地に添加30分後のHeLa細胞のTEM像である。
【図6】実験例1の結果を示す図であり、(a)は金ナノ粒子導入後の神経細胞様モデル細胞PC12細胞(ラット副腎髄褐色細胞腫由来)の暗視野像であり、(b)は金ナノ粒子導入後のヒト乳がん由来MCF7細胞の暗視野像である。
【図7】マイクロインジェクション法を用いて細胞内へ金ナノ粒子を導入する方法を説明するための図である。
【図8】実験例2の結果を示す図であり、マイクロインジェクション法により金ナノ粒子が導入されたHeLa細胞のLSM像を示す。(a)はHeLa細胞の散乱が可視化できるように像のコントラストを調整したLSM像であり、(b)は金ナノ粒子の散乱が可視化できるように像のコントラストを調整したLSM像であり、(c)は(a)のLSM像と(b)のLSM像とを重ね合わせた像である。
【図9】実験例3に用いられたスリット共焦点ラマン顕微鏡の光学系を模式的に示す図である。
【図10】ラマン散乱観察像の作成原理を説明するための図である。
【図11】実験例3において、生細胞を用いた表面増強ラマンスペクトル解析の方法を説明するための図である。
【図12】実験例3の結果を示す図であり、金ナノ粒子を導入したHeLa細胞から得られたSERS像およびSERSスペクトルを示す。(a)は金ナノ粒子が導入されたHeLa細胞の明視野像を示し、(b)は同細胞のSERS像を示し、(c)は(a)の像と(b)の像とを重ね合わせた像を示し、(d)は各点(A、B、C、D、E)におけるSERSスペクトルを示す。
【図13】実験例3の結果を示す図であり、金ナノ粒子を導入したマクロファージ細胞から得られたSERS像およびSERSスペクトルを示す。(a)は金ナノ粒子が導入されたマクロファージ細胞の明視野像を示し、(b)は同細胞のSERS像を示し、(c)はSERS像の各点(A、B、C、D、E)におけるSERSスペクトルを示す。
【図14】金ナノ粒子が導入されたマクロファージ細胞のSERSスペクトル、および金ナノ粒子が導入されていないマクロファージ細胞のラマンスペクトルである(観察条件:励起光強度10mW/μm2、励起波長785nm、露光時間1秒)。
【図15】金ナノ粒子が導入されたマクロファージ細胞のSERSスペクトル(観察条件:励起光強度10mW/μm2、励起波長785nm、露光時間1秒)、および金ナノ粒子が導入されていないマクロファージ細胞のラマンスペクトルである(観察条件:励起光強度680mW/μm2、励起波長785nm、露光時間60秒)。
【図16】実験例4の結果を示す図であり、(a)は細胞導入に用いられた銀ナノワイヤのSEM像であり、(b)は銀ナノワイヤが導入されたマクロファージ細胞の暗視野像である。
【図17】実験例4の結果を示す図であり、(a)は細胞導入に用いられた1辺が200nmの銀立方体のSEM像であり、(b)は銀立方体が導入されたマクロファージ細胞の暗視野像である。
【図18】実施例1の結果を示す図であり、粒子径が50nmの金ナノ粒子が導入されたマクロファージ細胞を、経時的に暗視野顕微鏡観察を行った結果を示す。
【図19】実施例1の結果を示す図であり、粒子径が50nmの金ナノ粒子が導入されたマクロファージ細胞を、経時的にSERS観察を行った結果を示す。
【図20】実施例1の結果を示す図であり、(a)は金ナノ粒子を培地に添加後32.5分後のSERS像から得られる2点(地点1、および地点2)におけるラマンスペクトルを示し、(b)は金ナノ粒子を培地に添加後47.5分後のSERS像から得られる地点3におけるラマンスペクトルを示し、(c)は金ナノ粒子を培地に添加後52.5分後のSERS像から得られる地点4におけるラマンスペクトルを示す。
【図21】実施例2で用いられた暗視野顕微鏡の模式図である。
【図22】実施例2の結果を示す図であり、銀ナノ粒子(立方体)が導入されたマクロファージ細胞を、経時的に暗視野観察を行った結果を示す。
【図23】実施例2の結果を示す図であり、金ナノ粒子(球状)が導入されたマクロファージ細胞を、経時的に暗視野観察を行った結果を示す。
【図24】実験例5のレイリー分光イメージングに用いられた光学系の模式図である。
【図25】実験例5の結果を示す図であり、(a)は金ナノ粒子を培地に添加し、1時間培養したマクロファージ細胞のレイリー分光イメージであり、(b)は(a)の各点で観察された散乱光スペクトルを示す。
【図26】実施例3の結果を示す図であり、金ナノ粒子(球状)が導入されたマクロファージ細胞について、レイリー分光イメージングを経時的に行った結果を示す。
【図27】実施例1の結果を示す図であり、複数得られたSERS像を重ねてイメージングを行った結果を示す。
【図28】実施例3の結果を示す図であり、レイリー分光イメージングから得られた像を重ねてイメージングを行った結果を示す。
【図29】本発明にかかる装置の一実施形態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「★~☆」と記載されていれば「★以上、☆以下」を示す。

【0039】
本発明は、試料において粒子プローブの近傍に存在する物質の分布を検出する方法であって、
(1)流動場を備える試料の流動場に粒子プローブを導入する工程(便宜上「プローブ導入工程」という)、
(2)上記粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を経時的に検出することによって、試料における粒子プローブの位置情報および上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を複数取得する工程(便宜上「光学応答検出工程」という)を含む。なお、上記粒子プローブは、後述するナノ粒子プローブであってもよい。

【0040】
ここで本発明の方法の対象となる試料は、流動場を備える試料であれば特に限定されるものではなく、生細胞、生体組織、臓器をはじめとする生体由来試料や、半導体、金属、ガラス等の微細構造やマイクロ流路をはじめとする非生体試料などが意図される。上記「流動場」とは、後述する粒子プローブまたはナノ粒子プローブが流動することができる環境(場)を意味し、水、水溶液、細胞液、血液等の液体が主に意図される。また、液体等の周囲の物質が移動しない場合でも、ブラウン運動等により粒子プローブまたはナノ粒子プローブの位置が変化する環境や、食道や腸等の蠕動運動により粒子プローブまたはナノ粒子プローブが運搬される環境等も「流動場」に含まれる。なお、粒子プローブまたはナノ粒子プローブが流動し得る環境であれば、上記流動場は気体であってもよい。

【0041】
また「流動場を備える」とは、試料の表面の一部もしくは全部、または内部の一部もしくは全部に適当な流動場が形成されていることを意味し、流動場はその試料が元来有するものであっても、外的に付加されたものであってもよい。例えば、前者の場合は細胞液が生細胞(試料)の流動場に該当する。また後者は半導体などの試料上に噴霧されるなどして形成された液体層が流動場に該当する。次に工程ごとに説明する。

【0042】
<1.プローブ導入工程>
本工程は、試料の流動場に粒子プローブまたはナノ粒子プローブを導入する工程である。ここで「粒子プローブ」とは、特に粒子径が限定されない粒子状物質を意味する。粒子プローブは、粒子径がナノメートルサイズであるナノ粒子プローブであってもよいが、ナノスケールの分解能を必要としない場合は、粒子径は必ずしもナノメートルサイズでなくてもよい。本発明では、粒子のサイズと分解能とがほぼ等しいため、マクロスケールでの測定で足りる場合は、粒子プローブの粒子径はナノメートルサイズに限定されないことになる。よって、粒子プローブの粒子径の上限は特に限定されるものではない。例えば、試料が細胞である場合は、粒子径が1μm未満の粒子プローブを用いることができ、試料が生体組織である場合は、粒子径が1cm以下の粒子プローブを用いることができる。

【0043】
「ナノ粒子プローブ」とは、粒子径がナノメートルサイズ(1μm未満)の粒子状物質を意味する。ここで「粒子径」とは、粒子プローブまたはナノ粒子プローブを顕微鏡によって観察し、その二次元形状に対する最大内接円の直径が意図される。例えば、粒子プローブまたはナノ粒子プローブの二次元形状が実質的に円形状である場合はその円の直径が意図され、実質的に楕円形状である場合はその楕円の短径が意図され、実質的に正方形状である場合はその正方形の辺の長さが意図され、実質的に長方形状である場合はその長方形の短辺の長さが意図される。

【0044】
上記ナノ粒子プローブは、その粒子径が上記の通り、ナノメートルサイズであれば特に限定されないが、特にその粒子径が可視光線の波長範囲未満であることが好ましい。ナノ粒子プローブの粒子径が可視光線の最小波長未満であることで、従来の光学顕微鏡では観察できなかった可視光線の波長範囲未満の領域までナノ粒子プローブがトレースすることができるために、従来の光学顕微鏡では実現できなかった極めて詳細な観察が可能となる。なお可視光線の波長範囲は特に限定されるものではないが、380~800nmであるといわれている。

【0045】
なお、エンドサイトーシスを利用してナノ粒子を生細胞(HeLa細胞)内へ導入する場合は、ナノ粒子の粒子径は大き過ぎても小さ過ぎても導入されにくいことが知られている(「B.D. Chithrani, A.A. Ghazani, W.C.W. Chan, Nano Lett., 6 (4), 662 (2006)」を参照のこと)。Chithraniらの検討を考慮すれば、エンドサイトーシスを利用してナノ粒子プローブを生細胞(例えばHeLa細胞)へ導入する場合、好ましいナノ粒子プローブの粒子径は30~70nm程度が好ましく、50nm程度が最も好ましいといえる。

【0046】
本発明における粒子プローブまたはナノ粒子プローブは、光学応答(ラマン散乱光、レイリー散乱光、蛍光など)を検出され得る材料からなる粒子であれば特に限定されるものではないが、光学応答シグナルをより検出されやすいとの理由から金属粒子が好ましい。上記金属粒子としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム、タングステン、イリジウム、などからなる金属粒子が挙げられる。上記の金属の中でも特に、金からなる金属粒子が好ましい。光学応答のシグナルが得られやすい、および生細胞に導入された場合の生細胞に対する安全性が高いからである。なお上記金属粒子は上記単一の金属からなる金属粒子であってもよいが、1種類以上の金属の合金からなる粒子であってもよい。

【0047】
試料の流動場に粒子プローブまたはナノ粒子プローブを導入する際の具体的方法については、試料に備えられた流動場中で粒子プローブまたはナノ粒子プローブが流動し得るように導入される方法であれば、その具体的方法は特に限定されるものではない。なお、粒子プローブまたはナノ粒子プローブがより流動しやすいという理由から、粒子プローブまたはナノ粒子プローブは流動場の最上面に対して浮上した状態ではなく、流動場の最上面より下に沈んだ状態で存在することが好ましい。上記のようにすべく、粒子プローブまたはナノ粒子プローブと流動場を構成する物質との組み合わせを検討してもよいし、また流動場を構成する物質に対する親和性の高い基で粒子プローブまたはナノ粒子プローブの表面を修飾してもよい。例えば、流動場が水である場合、水酸基などの親水性基を粒子プローブまたはナノ粒子プローブの表面に導入してもよい。

【0048】
試料として生細胞を用いる場合は、生細胞が外部からの物質を自ら取り込む機構(エンドサイトーシス)を利用してナノ粒子プローブを生細胞内に取り込ませてもよい。この場合、生細胞とナノ粒子プローブとを懸濁し、一定時間放置するだけでナノ粒子プローブの試料への導入が完了するために極めて簡単な操作で本工程を完結させることができる。また、生細胞が自ら有する機構を用いているため、導入されたナノ粒子プローブが細胞内で襲撃されることが少ないというメリットもある。

【0049】
上記したエンドサイトーシス以外の方法としては、マイクロインジェクション法が適用可能である。マイクロインジェクション法は、卵細胞や体細胞に微量のDNA、mRNAや化学物質を、微細なガラス針で注入する手法である。この手法を本工程に利用すればよい。かかるマイクロインジェクション法によれば、導入する粒子プローブまたはナノ粒子プローブの数を所望の数に調整することが可能であるというメリットを享受することができる。また粒子プローブまたはナノ粒子プローブが小胞内に封じ込められることがないため、細胞内のあらゆる場所を観察することができる。

【0050】
さらに、遺伝子の導入方法として公知であるパーティクルガンを用いて生細胞内に粒子プローブまたはナノ粒子プローブを導入することも可能である。

【0051】
本工程によって導入される粒子プローブまたはナノ粒子プローブの数は、流動場内で粒子プローブまたはナノ粒子プローブが均一に分散し得る数が導入されていればよく、その具体的な数は粒子プローブまたはナノ粒子プローブの粒子径、流動場の体積等によって決定されるため、特に限定されるものではない。粒子プローブまたはナノ粒子プローブが均一に分散しない場合、光学応答のシグナルがどの粒子プローブまたはナノ粒子プローブに由来するのかが特定できなくなってしまう。上記の意味から流動場に導入される粒子プローブまたはナノ粒子の数は1個であることが好ましいといえる。ただしこの場合、単位時間当たりに得られる粒子プローブまたはナノ粒子プローブの位置情報が少ないために、試料において粒子プローブの近傍に存在する物質の分布を検出するために、または三次元画像を得るためにある程度の時間を要する。しかし複数の粒子プローブまたはナノ粒子であっても十分濃度が低い場合には、複数の箇所を同時に計測できるため、複数の粒子を試料に導入して、検出速度または撮像速度を向上することができる。

【0052】
なお粒子プローブまたはナノ粒子プローブは光学応答のシグナル感度の向上や観察部位、物質を特定するため、表面修飾されていてもよい。例えば、カチオン性分子(陽性に帯電した分子)や、特定のタンパク質で表面修飾されていてもよい。それにより、観察対象となる物質や部位を制限することが可能となる。

【0053】
本発明に適用可能な生細胞としては特に限定されるものではなくあらゆる細胞に適用可能である。例えば、マクロファージ細胞、HeLa細胞などの癌細胞などに適用可能である。

【0054】
また、本発明に適用可能な生体組織としては特に限定されるものではなく、あらゆる生体組織を適用可能である。例えば、上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織等の組織、胃、食道、腸等の臓器を適用可能である。

【0055】
<2.光学応答検出工程>
本工程は、粒子プローブまたはナノ粒子プローブ(以下、両者をまとめて単に「粒子プローブ」ともいう)の近傍に存在する物質の光学応答を経時的に検出することによって、試料における粒子プローブの位置情報および上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を複数取得する工程である。

【0056】
「粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答」とは、上記粒子プローブの近傍に存在する物質に入射された光(電磁波)の散乱光および蛍光のいずれか1つ以上を意味する。なお、上記光学応答は、粒子プローブの光学応答であってもよい。すなわち、粒子プローブに入射された光(電磁波)の散乱光および蛍光のいずれか1つ以上であってもよい。

【0057】
粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を特異的に検出することで、ある時点における試料中の粒子プローブの位置を点として表現することができるとともに、上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を取得することができる。また、粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を経時的に検出することで、点による粒子プローブの位置情報および上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を複数個取得することができる。

【0058】
なお、本明細書において、粒子プローブの「近傍」とは、粒子プローブの表面から数十nmまでの距離、より具体的には0nm~20nmの距離にある範囲をいい、粒子プローブの位置も含む。この範囲では、粒子プローブに励起光を照射すると、粒子プローブから生じる表面プラズモンによって上記粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答が増強される。

【0059】
また、本明細書において、上記「粒子プローブの近傍に存在する物質」とは、特に限定されるものではなく、生体由来試料または非生体試料を構成する物質であれば構わない。例えば、生体分子、基板材料等を挙げることができる。

【0060】
さらに、本明細書において、上記「粒子プローブの近傍に存在する物質の情報」とは、上記粒子プローブの近傍に存在する物質に入射された光(電磁波)の散乱光および蛍光のいずれか1つ以上の強度またはスペクトルのことをいう。粒子プローブに励起光を照射すると、粒子プローブから生じる表面プラズモンによって、粒子プローブの近傍に存在する物質に入射された光(電磁波)の散乱光および蛍光のいずれか1つ以上が増強される。そこで、増強された上記強度またはスペクトルを解析することにより、上記粒子プローブの近傍にどのような物質が存在するかということを明らかにすることができる。すなわち、試料において粒子プローブ近傍に存在する物質の分布を検出することができる。

【0061】
粒子プローブは、原理的には自己の流動性(ブラウン運動、細胞内輸送、原形質流動等)を利用して試料内を移動するため、粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を検出するために試料の全体もしくは一部の外的な走査をしなくても、プローブ自体が試料内を走査してくれる。それゆえ、例えば粒子プローブの位置情報および上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を経時的に取得して、時間、位置および光学応答の関係をグラフ化すること等によって、試料における上記物質の三次元的な分布を知ることができる。また、後述する画像化工程において、粒子プローブの位置を示すこれらの点の情報(粒子プローブの位置情報)を重ね合わせることによって、試料の全体もしくは一部を画像化することができる。

【0062】
より高精度で画像化を行うためには、上記粒子プローブの位置情報はできるだけ多いことが好ましい。したがって、光学応答のシグナルの検出は、断続的ではなく連続的に行うことが好ましいといえる。ただし、本発明は必ずしも連続的に光学応答のシグナル検出を行う必要はなく、断続的に光学応答のシグナルを検出してもよい。この場合、高精度で画像化を行うためは、できるだけ短時間間隔で検出を行い、できるだけ多くの粒子プローブの位置情報を得ることが肝要である。

【0063】
粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を検出するための具体的方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ラマン散乱検出法、レイリー散乱検出法、ミー散乱検出法および蛍光検出法からなる群から選択される1つ以上の方法が本工程において採用され得る。すなわち本工程における上記粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を検出する方法は、1種類に限定されず複数の方法を組み合わせであってもよい。複数種類の方法を組み合わせることによって、粒子プローブの位置情報を1つの方法では検出できなくとも、他の方法で補完することができるため、より高精度で試料観察を行うことができる。

【0064】
なお上記ラマン散乱検出法には、通常のラマン散乱検出法のみならず、表面増強ラマン散乱法(SERS)、共鳴ラマン散乱検出法、コヒーレントアンチストークスラマン散乱検出法、ハイパーラマン散乱検出法等の改変法も含まれる。また上記レイリー散乱検出法には、通常のレイリー散乱検出法のみならず、ハイパーレイリー散乱検出法等の改変法も含まれる。なお本工程においては、特にSERSが好ましく採用され得る。SERSによれば粒子プローブに光が入射した際に誘起される表面プラズモンによって、ラマン散乱光の散乱断面積を数~十数桁増強することができるため、通常のラマン散乱検出法より高感度に検出を行うことが可能である。よって、SERSを採用した場合、露光時間が比較的短時間で足りる。

【0065】
本工程を行う方法(ラマン散乱検出法、レイリー散乱検出法、ミー散乱検出法、蛍光検出法等)における好ましい条件は、試料の種類、粒子プローブの種類等に応じて異なるため、特に限定されるものではない。よって、好適な条件を適宜検討の上、採用すればよい。

【0066】
本発明者らの検討によれば、試料として生細胞、ナノ粒子プローブとして金ナノ粒子(粒子径50nm)、光学応答の検出方法としてSERSを用いた場合、波長785nmの光で励起を行うことが好ましいということが判明した。なお本発明はこれに限定されるものではないことは言うまでもない。

【0067】
また試料として生細胞、ナノ粒子プローブとして金ナノ粒子(粒子径50nm)、光学応答の検出方法としてSERSを用いた場合の好ましい励起光強度は、1~30mW/μmの範囲が好ましく、1~10mW/μmの範囲がさらに好ましい。上記好ましい範囲未満の強度であると高感度検出が困難な場合があり、また上記好ましい範囲を超えると生細胞に対して悪影響をおよぼす場合がある。なお本発明はこれに限定されるものではない。

【0068】
また試料として生細胞、ナノ粒子プローブとして金ナノ粒子(粒子径50nm)、光学応答の検出方法としてSERSを用いた場合の好ましい露光時間は、特に限定されるものではないが、1分以下が好ましく、1秒以下がさらに好ましい。上記好ましい範囲未満であると検出されるシグナルの強度が弱い場合があり、また上記好ましい範囲を超えると生細胞に対して悪影響をおよぼす場合がある。なお本発明はこれに限定されるものではない。

【0069】
<3.画像化工程>
本工程は、上記光学応答検出工程において取得された複数の粒子プローブまたはナノ粒子プローブの位置情報を重ね合わせて画像化する工程である。換言すれば本工程は、光学応答検出工程によって得られた粒子プローブまたはナノ粒子プローブの位置を示す複数の点の情報を重ね合わせることによって、試料の画像を形成する工程である。

【0070】
図1を用い本工程をより具体的に説明する。なお本発明は説明の容易のために二次元的に存在するサンプルを用い二次元の画像を形成する場合を示しているが、本発明は三次元的に存在するサンプルに採用すれば、三次元の画像を形成することができる。図1の1は試料を示し、2は粒子プローブまたはナノ粒子プローブの光学応答のシグナルを示す(同図において同様のものを示す場合は部材番号を省略する)。図1(a)における複数のシート(3)は光学応答検出工程における、ある時点の試料における粒子プローブまたはナノ粒子プローブの位置を示す点の情報である。各シート上にシート番号を表記する(1、2、3、4、・・・n)。図1(b)は1からn番目のシートを重ね合わせて得られた試料(1)の画像を示す(1+2+3+4+・・・+n)。粒子プローブまたはナノ粒子プローブの位置を示す複数の点の情報を重ね合わせることによって、試料を画像化することを図1は示している。

【0071】
本工程において粒子プローブまたはナノ粒子プローブの位置情報を重ね合わせる手段としては、特に限定されるものではなく、市販や無料の画像処理ソフト(例えば、Adobe社製Photoshop、米NIH製ImageJが利用可能である。また上記の目的を達成し得るソフトウェアを自己で作成して、それを本工程において利用してもよい。

【0072】
<4.本発明にかかる方法を実施するための装置>
本発明にかかる、試料において粒子プローブの近傍に存在する物質の分布を検出する方法を実施するための装置は、試料内における粒子プローブの位置を決定する位置決定手段と、上記位置決定手段によって位置を決定された粒子プローブに光を照射し、上記粒子プローブの近傍に存在する物質から散乱光および蛍光のいずれか1つ以上を発生させる照射手段と、上記照射手段から照射される光、上記散乱光および蛍光からなる群より選ばれるいずれか1以上の光の光路を変更可能な光路変更手段と、上記散乱光および蛍光のいずれか1つ以上を検出するための検出手段と、を備えている。

【0073】
上記位置決定手段としては、試料の流動場に導入された粒子プローブの位置を経時的に観察できる手段であれば、特に限定されるものではない。例えば、暗視野顕微鏡、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡等の従来公知の顕微鏡を用いることができる。中でも、可視光の波長よりも小さな物体の存在を高いコントラストで観察可能であるため、暗視野顕微鏡を用いることが好ましい。

【0074】
また、粒子の散乱光や蛍光を分割ディテクターで検出する方法である、粒子トラッキング法や、粒子の加熱による試料の屈折率変化を利用したトラッキング法、などの方法を実施できる装置(本明細書において「粒子追跡装置」と称する)を用いることも可能である。上記方法では、カメラで観察像を取得することなく粒子プローブの位置を測定することができる。そのため、粒子追跡装置を用いる場合は、顕微鏡を用いる場合のような画像処理を行わずに粒子プローブの位置を測定することができる。

【0075】
上記照射手段は、粒子プローブに照射することによって、上記粒子プローブの近傍に存在する物質から散乱光および蛍光のいずれか1つ以上を発生させることができるような励起光を照射できるものであればよく、従来公知の光源、例えばレーザー光源や水銀灯等を用いることができる。上記粒子プローブに励起光が照射されることによって、上記粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答が生じる。このとき、粒子プローブから表面プラズモンが生じ、上記物質の光学応答が増強される。

【0076】
レーザーを用いる場合、レーザーの種類は特に限定されるものではなく、固体レーザー、気体レーザー、色素レーザー、半導体レーザーなどを用いることができ、照射したい光波の種類によって、連続波レーザー、パルスレーザー、同調可能レーザー、モードロックレーザー等を適宜選択することができる。

【0077】
光学応答検出工程の項で述べたように、本発明にかかる方法では、粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を検出するための具体的方法は特に限定されるものではなく、試料、用いる粒子プローブの種類、光学応答の検出方法等の条件に応じて異なる。そのため、該条件に応じて適切な照射手段を適宜選択すればよい。

【0078】
例えば、上述のように、試料として生細胞、ナノ粒子プローブとして金ナノ粒子(粒子径50nm)、光学応答の検出方法としてSERSを用いた場合は、波長785nmの光で励起を行うことが好ましく、励起光強度は、1~30mW/μmの範囲が好ましく、1~10mW/μmの範囲がさらに好ましいため、このような波長、励起光強度を持つ光を照射可能な照射手段を選択すればよい。

【0079】
光路変更手段は、上記照射手段から照射される光、上記散乱光および蛍光からなる群より選ばれるいずれか1以上の光の光路を変更するためのものである。本発明の方法では、粒子プローブは流動場を移動する性質を有するため、粒子プローブが位置決定手段によって決定された位置に存在する間に、当該粒子プローブに光を照射できるようにする必要がある。

【0080】
光路変更手段は、照射手段からの光を、位置決定手段によって決定された上記位置に照射できるよう、照射手段からの光の光路を適宜変更できるように構成されている。そのような光路変更手段としては、例えばガルバノミラー、音響光学偏光器などを用いることができる。ガルバノミラーは、軸に固定された自由に回転可能なミラーであり、光路を連続的に変化させることができる。

【0081】
そこで、位置決定手段によって決定された位置の情報を上記光路変更手段に常にフィードバックしておき、粒子プローブの移動速度に対して十分に速い速度で光路を変更させ、上記位置決定手段によって決定された位置に存在する粒子プローブに光を照射する。これにより、上記位置に存在する粒子プローブの近傍に存在する物質から散乱光および蛍光のいずれか1つ以上を発生させることができる。よって、位置決定手段による粒子プローブの位置決定と、照射手段による粒子プローブへの光の照射を同時に行うことができる。なお、上記フィードバックおよび光路の変更は、例えば、位置決定手段からの位置情報に基づき、コンピュータ等によって光路変更手段の位置を粒子プローブに光を照射可能な位置に制御することによって実現することができる。

【0082】
上記光路変更手段は、照射手段から照射される光だけではなく、上記粒子プローブの近傍に存在する物質から発生した上記散乱光の光路および蛍光の光路をも変更しうる。これにより、粒子プローブの位置に関わらず、上記散乱光および蛍光を、後述する検出手段に確実に導くことができる。

【0083】
検出手段は、上記散乱光および蛍光のいずれか1つ以上を検出するためのものである。検出手段により、上記散乱光および蛍光のいずれか1つ以上の強度もしくはスペクトルが測定され、当該強度もしくはスペクトルが、試料において粒子プローブの近傍に存在する物質の情報となる。上述のように、本装置では、位置決定手段による粒子プローブの位置決定と、照射手段による粒子プローブへの光の照射とを同時に行うことができるため、位置決定手段による粒子プローブの位置決定と、上記散乱光および蛍光のいずれか1つ以上の検出とを同時に行うことができる。

【0084】
上記散乱光および蛍光のいずれか1つ以上を検出するための具体的方法は、光学応答検出工程の項で述べたように、特に限定されるものではない。そのため、上記検出手段は、上記具体的方法に応じて、従来公知の検出手段を適宜選択して用いることができる。例えば、上記具体的方法がラマン分光法である場合は、検出手段として分光器およびCCDカメラを用いることができる。この場合、上記粒子プローブの近傍に存在する物質から発せられた散乱光が分光器によって分光され、ラマン散乱光がCCDカメラによって測定される。

【0085】
以下に、本発明にかかる装置の一実施形態を、図29に基づき説明する。ただし、図29に示す構成はあくまで一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。図29において、100は本発明にかかる方法を実施するための装置、4は暗視野顕微鏡(位置決定手段)、5はレーザー光源(照射手段)、6はガルバノミラー(光路変更手段)、7は検出手段、8は分光器、9はCCDカメラ、10はハロゲンランプ、11は暗視野コンデンサー、12は対物レンズ、13はダイクロイックミラー、14は結像レンズ、15はアイリス、16はエッジフィルター、17はリレーレンズ、18はコンピュータ、19は市販のミラーである。コンピュータ18は、暗視野顕微鏡(位置決定手段)4、レーザー光源(照射手段)5、ガルバノミラー(光路変更手段)6、検出手段7、の各手段と接続されており、これらの各手段からの情報を入力できると共に、これらの各手段を制御可能なように接続されている。

【0086】
暗視野顕微鏡(位置決定手段)4は、ハロゲンランプ10から、暗視野コンデンサー11を介して試料1に光を照射し、対物レンズ12、ダイクロイックミラー13、結像レンズ14を透過した光を市販のミラー19で反射してリレーレンズ17およびアイリス15に導いた後、CCDカメラ9で撮像し、暗視野像を得る。当該暗視野像を観察することにより、粒子プローブの位置を決定することができる。なお、ダイクロイックミラー13としては、特に限定されるものではないが、例えば、レーザー光源(照射手段)5として波長675nmのレーザー光を照射可能な光源を利用して試料1からのラマン散乱光を計測する場合、400nm~610nmにおいて透過率が90%以上、675nm~930nmにおいて反射率が95%以上のダイクロイックミラーを好適に用いることができる。

【0087】
次に、暗視野像の観察により決定された粒子プローブの位置にレーザー光を照射できるように、コンピュータ18からの指令によりガルバノミラー(光路変更手段)6を回動させる。レーザー光源(照射手段)5から照射され、ガルバノミラー(光路変更手段)6によって反射されたレーザー光は、リレーレンズ17を透過し、市販のミラー19によって反射される。さらにリレーレンズ17によって透過された後、エッジフィルター16およびガルバノミラー(光路変更手段)6によって反射され、リレーレンズ17および結像レンズ14を透過後、ダイクロイックミラー13によってさらに反射され、対物レンズ12を透過して、試料1における上記粒子プローブの位置に照射される。

【0088】
この際、暗視野顕微鏡(位置決定手段)4によって決定された粒子プローブの位置についての情報を、コンピュータ18を介して上記ガルバノミラー(光路変更手段)6に常にフィードバックしておく。そして、コンピュータ18からの指令によって粒子プローブの移動速度に対して十分に速い速度でガルバノミラー(光路変更手段)6を回動させ、上記暗視野顕微鏡(位置決定手段)4によって決定された位置に存在する粒子プローブに光を照射する。これにより、暗視野顕微鏡(位置決定手段)4による粒子プローブの位置決定と、レーザー光源(照射手段)5による粒子プローブの位置への光の照射とを同時に行うことができる。

【0089】
粒子プローブの位置における試料からは、レーザー光の照射によって、粒子プローブにより増強された散乱光および蛍光のいずれか1つ以上が散乱される。散乱光および蛍光のいずれか1つ以上は、ダイクロイックミラー13によって反射され、結像レンズ14およびリレーレンズ17を透過後ガルバノミラー(光路変更手段)6によって反射され、エッジフィルター16によってレイリー散乱光が除去された後、分光器8によって分光され、CCDカメラ9によって測定される。

【0090】
このように、本発明にかかる装置100は、暗視野顕微鏡(位置決定手段)4、レーザー光源(照射手段)5および検出手段7を備えるため、粒子プローブの位置を計測するための観察と試料の物質情報を取得するための光学応答の観察とを同時に行うことができる。その結果、粒子プローブの位置情報の取得と、その位置における、上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報の取得とを同時に行うことができる。また、粒子プローブの近傍に存在する物質の光学応答を経時的に検出することで、点による粒子プローブの位置情報および上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を複数個取得することができる。なお、粒子プローブの位置情報を重ね合わせて画像化することが必要な場合は、上述の市販や無料の画像処理ソフトを利用すればよい。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0092】
〔実験例1:各種細胞へのエンドサイトーシスによる金ナノ粒子の導入の検討〕
本実験例では試料として、マウス由来のマクロファージ細胞、神経細胞様モデル細胞PC12細胞(ラット副腎髄褐色細胞腫由来)、ヒト乳がん由来MCF7細胞、HeLa細胞(非食細胞)を用い、それぞれの細胞へエンドサイトーシスによる金ナノ粒子の導入を行った。
【実施例】
【0093】
<方法>
石英ガラス製のガラスボトムディッシュに、各種細胞をそれぞれ播種し、細胞がディッシュの基板に接着するまでインキュベータ中で培養した。細胞の基板上への接着を確認後、50nmの粒子径の金ナノ粒子を4.5×1011個/mlの密度で含有する金コロイド溶液を200μl、培地中に添加し1日間培養を行った。
【実施例】
【0094】
<結果>
金ナノ粒子の導入を試みた細胞を、暗視野顕微鏡を用いて観察した。図2は金ナノ粒子とともに1日間培養したマクロファージ細胞の暗視野像である。図2(a)は金ナノ粒子を導入する前のマクロファージ細胞のみの暗視野像であり、図2(b)は金ナノ粒子導入後のマクロファージ細胞の暗視野像である。
【実施例】
【0095】
図2において金ナノ粒子は明るい粒子として表される(カラー画像においては金ナノ粒子は赤色の粒子として観察される)。図2(b)によれば、細胞内に金ナノ粒子が多数導入されたことが確認された。なお金ナノ粒子は400~500nmの波長に吸収を有するため、それ以外の波長の光を散乱し、金ナノ粒子が暗視野観察で赤色に観察される。
【実施例】
【0096】
さらに、金ナノ粒子が導入されたマクロファージ細胞の透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope:TEM)観察を行った。その結果を図3に示す。図3(a)は金ナノ粒子を導入する前のマクロファージ細胞のTEM像であり、(b)は金ナノ粒子導入後のマクロファージ細胞のTEM像である。なお切片の厚さは100nmである。TEM像においてもマクロファージ細胞内に導入された金ナノ粒子が確認できた(図3(b)中の丸印および矢印部を参照のこと)。図3(c)には細胞内に観察された金ナノ粒子の拡大図を示した。
【実施例】
【0097】
図4にHeLa細胞の結果を示す。図4(a)は金ナノ粒子を導入する前のHeLa細胞の暗視野像であり、図4(b)は金ナノ粒子導入後のHeLa細胞の暗視野像である。図4(b)によれば、細胞内に金ナノ粒子が導入されたことが確認された。
【実施例】
【0098】
また、金ナノ粒子が導入されたHeLa細胞の透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope:TEM)観察を行った。その結果を図5に示す。図5(a)および(b)は金ナノ粒子を培地に添加30分後のHeLa細胞のTEM像である。なお切片の厚さは100nmである。図5によれば金ナノ粒子添加30分後にはすでに、細胞内に金ナノ粒子が導入されていることが分かった(図5中の丸印を参照のこと)。また、図5中矢印で示す箇所では、エンドサイトーシスにより金ナノ粒子がHeLa細胞に取り込まれる瞬間の様子が観察された。
【実施例】
【0099】
その他の細胞について金ナノ粒子の導入後の暗視野顕微鏡像を図6に示す。図6(a)は神経細胞様モデル細胞PC12細胞(ラット副腎髄褐色細胞腫由来)の結果であり、(b)はヒト乳がん由来MCF7細胞の結果である。PC12細胞およびMCF7細胞はともに非食細胞である。図6によれば両細胞ともに、金ナノ粒子が細胞内にエンドサイトーシスにより導入されていることがわかった。
【実施例】
【0100】
〔実験例2:マイクロインジェクション法を用いたHeLa細胞への金ナノ粒子の導入の検討〕
マイクロインジェクション法を用いて、HeLa細胞へ金ナノ粒子を導入することを検討した。マイクロガラスピペットを細胞膜表面に密着させ、ピペット内に吸引力を与えることで細胞膜の一部を破壊し、ピペット内部と細胞膜が一体化したホールセルと呼ばれる状態を作る。この時、マイクロガラスピペット中は金コロイドで満たしておく。このホールセル状態では、金コロイドが自然と細胞内溶液中と混ざり合い、金ナノ粒子が細胞内に導入される。マイクロガラスピペットをはずすと、破れてピペット内に張り付いていた細胞膜は再び繋がり元のように復元されるため、細胞はすぐには細胞死には至らない。
【実施例】
【0101】
<方法>
(マイクロインジェクション)
パッチクランプの装置を用い、マイクロガラスピペットによって導入を行った。石英製ガラスボトムディッシュにHeLa細胞を播種し、ディッシュの基板上に細胞が接着するまで培養を行った。細胞の基板上への接着を確認後、50nmの粒子径の金ナノ粒子を4.5×1011個/mlの密度で含有する金コロイド溶液で満たしたマイクロガラスピペットを用いてホールセル状態をつくり、3分間保持した後にピペットをとりはずした(図7を参照のこと)。
【実施例】
【0102】
(細胞内への金ナノ粒子導入の確認)
走査型レーザー顕微鏡(Laser Scan Microscope:LSM)を用いてHeLa細胞への金ナノ粒子の導入確認を行った。LSMはレーザー光を光源とする顕微鏡である。試料面をレーザーで走査してその焦点面の蛍光や反射光の空間分布を記録し、コンピュータを通してその切片画像を再現することにより画像が得られる。
【実施例】
【0103】
<結果>
図8にマイクロインジェクション法により金ナノ粒子が導入されたHeLa細胞のLSM像を示す。図8(a)はHeLa細胞の散乱が可視化できるように像のコントラストを調整したLSM像であり、(b)は金ナノ粒子の散乱が可視化できるように像のコントラストを調整したLSM像であり、(c)は(a)のLSM像と(b)のLSM像とを重ね合わせた像である。
【実施例】
【0104】
図8によれば、マイクロインジェクションが行われたHeLa細胞(図8(a)中、矢印で示す)のみに金ナノ粒子の分布が確認され(図8(c)中、色の濃い部分)、マイクロインジェクション法によって金ナノ粒子が、HeLa細胞に導入されたことが確認できた。
【実施例】
【0105】
〔実験例3:生細胞を用いた表面増強ラマンスペクトル解析〕
本実験例では、金ナノ粒子が導入された生細胞を、ラマン顕微鏡を用いて観察し、SERSスペクトルの測定を試みた。生細胞の観察であるため、できるだけ短時間での信号取得が望ましい。そのため、観察する顕微鏡として点照射によるラマン観察に比べより高速な測定が可能なスリット共焦点ラマン顕微鏡を用いた。スリット共焦点ラマン顕微鏡は、点照射によるラマン顕微鏡に比べ、より高速な測定が可能である。また得られたSERSスペクトルから、細胞内分子のラマン散乱光の増強と空間分解能についても考察した。
【実施例】
【0106】
<スリット共焦点ラマン顕微鏡>
スリット共焦点ラマン顕微鏡とは、試料の走査をライン照明で行う共焦点ラマン顕微鏡のことである。ライン照明で走査することで点照射の場合よりも短い時間で試料を走査することができる。ライン照明では1ラインあたり積算時間を1秒とすると、64pixel×64pixelの画像を取得するのに約60秒でよいのに対し、点照明では一点あたりの積算時間を1秒としても約1時間必要である。
【実施例】
【0107】
図9に本実験例に用いられたスリット共焦点ラマン顕微鏡の光学系を示す。シリンドリカルレンズによりライン照明を作り、ガルバノミラーを回動させることにより試料をライン走査する。レーザーはエッジフィルターで反射され、水浸対物レンズ(100倍、N.A.1.0)に入射し試料に集光される。試料から散乱されたラマン散乱光はガルバノミラーによりデスキャンされ、エッジフィルターによりレイリー散乱光を取り除かれた後、分光器手前のレンズによってスリットに結像され、分光器に入る。ラマン散乱光は分光器によって分光され、冷却CCDによって測定される。試料の各ラインで測定したラマン散乱光強度からイメージングを行う。レーザー光源は波長785nmのTi:sapphireレーザー(Tsunami:Spectra-Physics社)、検出器として冷却CCDカメラ(PIXIS400:Princeton Instrument社)、および分光器(MK-300:分光計器社)を用いた。
【実施例】
【0108】
なお、図9に示すスリット共焦点ラマン顕微鏡のみを用いても、粒子プローブの移動速度が遅い場合には、上述の本発明にかかる方法を実施するための装置と同様に、粒子プローブの位置情報および上記粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を同時に得ることは可能である。その場合に得られる粒子プローブの位置決定精度および空間分解能は、(撮像時間)×(粒子プローブの移動速度)で与えられる。
【実施例】
【0109】
ラマン散乱観察像の作成原理を図10に示す。x軸方向にライン照明による空間情報があり、波長方向にラマンスペクトル情報があるとする。このときy軸方向に試料上をライン走査した位置情報が与えられる。ある波長を選択してラマン散乱観察像を作成すると、試料のx-y平面でのラマン散乱光の強度分布が得られる。ラマン散乱観察像の各点は、異なるラマンスペクトル情報を有している。
【実施例】
【0110】
<方法>
石英ガラスのガラスボトムディッシュにマクロファージ細胞、およびHeLa細胞をそれぞれ播種し、ガラスボトムディッシュ基板上への細胞接着を確認後、50nmの粒子径の金ナノ粒子を4.5×1011個/mlの密度で含有する金コロイド溶液200μlを、2mlの培地中に添加し、1日間培養を行った。金ナノ粒子が添加された培地を取り除き、タイロード液(Tyrode’s solution:塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウムの混合液にブドウ糖を加えた生理溶液)で細胞表面を2回以上洗い流し、タイロード液でガラスボトムディッシュを満たした(図11を参照のこと)。金ナノ粒子を洗い流すのは、溶液中、および細胞膜表面に付着した金ナノ粒子からのSERSシグナルを除外するためである。培養液は細胞のラマン散乱光と同じ波数に散乱光や蛍光が観察され細胞のラマン観察には適さないため、異なる波数にラマン散乱光が観察されるタイロード溶液を用いた。基板からのラマン散乱光により細胞のSERS観察に影響がないよう、細胞のラマン散乱光とは異なる波数にラマン散乱光が観察される石英ガラス基板を選択した。
【実施例】
【0111】
<結果>
図12に、金ナノ粒子が導入されたHeLa細胞から得られたSERS像およびSERSスペクトルを示した。図12(a)は金ナノ粒子が導入されたHeLa細胞の明視野像を示し、(b)は同細胞のSERS像を示し、(c)は(a)の像と(b)の像とを重ね合わせた像を示し、(d)は各点(A、B、C、D、E)におけるSERSスペクトルを示す。観察条件は、励起光強度6.5mW/μm2、励起波長785nm、露光時間5分/イメージである。
【実施例】
【0112】
図12(b)は1130cm-1の波数におけるSERS光の強度分布を示しており、金ナノ粒子の存在する部位から強いSERS光が得られている(図12(d))。また図12(c)により、HeLa細胞における金ナノ粒子の分布が観察できる。
【実施例】
【0113】
また、図13に、金ナノ粒子が導入されたマクロファージ細胞から得られたSERS像およびSERSスペクトルを示した。図13(a)は金ナノ粒子が導入されたマクロファージ細胞の明視野像を示し、(b)は同細胞のSERS像を示し、(c)はSERS像の各点(A、B、C、D、E)におけるSERSスペクトルを示す。観察条件は、励起光強度7mW/μm2、励起波長785nm、露光時間1分/イメージである。なおHeLa細胞とマクロファージ細胞との観察における露光時間の違いは、金ナノ粒子がマクロファージ細胞により多く導入されているため、短時間でのSERS観察が可能であったことに因る。
【実施例】
【0114】
図13(b)はSERS光の強度分布を示しており、金ナノ粒子の存在する部位(図13(b)のA、B、C、D)から強いSERS光が得られている(図13(c))。一方、金ナノ粒子の存在しない部位(図13(b)のE)では、ラマン散乱光はほとんど得られていない(図13(c))。図13(c)には、640cm-1にチロシン由来のC-Cひねりを示すピークが見られ、1100cm-1にDNA由来のPO2-伸縮/脂質由来のC-C伸縮を示すピークが見られ、1530cm-1にグアニン/アデニンを示すピークが見られる。また図13(b)のAおよびCにおいて、1100cm-1の強度が高いため、DNAや脂質が多く分布していることがわかる(図13(c))。また図13(b)のBではチロシンが多く、Dではグアニン/アデニンが多く観察されている(図13(c))。このように、金ナノ粒子の周辺に存在する種々の分子を、SERSを用いることで検出できる。
【実施例】
【0115】
次に、金ナノ粒子が導入されたマクロファージ細胞のSERSスペクトルの強度と、金ナノ粒子が導入されていないマクロファージ細胞のラマンスペクトルの強度とを比較した。観察条件は、励起光強度10mW/μm2、励起波長785nm、露光時間1秒とした。試料は、金ナノ粒子を培地に添加して1時間培養を行った細胞と、金ナノ粒子を添加せずに1時間培養を行った細胞とが用いられた。
【実施例】
【0116】
図14にその結果を示す。金ナノ粒子が導入されていない細胞のラマンスペクトルではラマンピークが全く観察されなかった。これに対して、金ナノ粒子が導入された細胞から得られたSERSスペクトルでは、強いラマンピークが観察できた。この結果から、金ナノ粒子の導入によりラマン散乱光の大幅な増強が確認された。よってSERSは通常のラマン散乱検出法に比べ、より感度の高い検出ができるといえる。
【実施例】
【0117】
さらに、金ナノ粒子が導入されたマクロファージ細胞のSERSスペクトルの形状と、金ナノ粒子が導入されていないマクロファージ細胞のラマンスペクトルの形状とを比較した。観察条件は、金ナノ粒子が導入されていない細胞のラマン観察では励起光強度680mW/μm2、励起波長785nm、露光時間60秒とし、金ナノ粒子が導入されたラマン観察では励起光強度10mW/μm2、励起波長785nm、露光時間1秒で行われた。試料は、金ナノ粒子を培地に添加して1時間培養を行った細胞と、金ナノ粒子を添加せずに1時間培養を行った細胞とが用いられた。なお金ナノ粒子が導入されていない細胞の場合、ラマン散乱光が弱いためSERSの場合よりも大幅に強い励起光強度で長時間露光によりスペクトルを取得した。
【実施例】
【0118】
図15にその結果を示す。金ナノ粒子が導入されていない細胞の場合のラマンスペクトルでは、フェニルアラニンやアミドIIIなどのタンパク質由来のピーク、ウラシルやシトシンやチミンなどのDNA由来のピーク、PO2-伸縮などの脂質由来のピーク等、多数の分子のシグナルが観察された。これに対して、金ナノ粒子が導入された細胞のSERS観察では、脂質由来のC=H屈曲、C-C伸縮、C-N伸縮、C-H変角のピーク、並びにDNA由来のグアニンおよびアデニンのピークのみが観察されており、非常に少ない数の分子のみが検出された。これは、SERS観察によれば、観察されている分子種が少なく、金ナノ粒子近傍の分子のみを空間分解能高く検出できたことを示している。局在電場の減衰距離はR=0.49r(rは金属粒子の半径)で表されるため、本SERS観察の場合、金ナノ粒子表面からおよそ12nmの範囲に存在する分子のみを検出していると考えられる。
【実施例】
【0119】
〔実験例4:生細胞を用いたSERS観察の最適条件検討〕
<方法>
生細胞を用いた場合のSERS観察の最適条件を検討すべく、種々パラメータを変更してSERS観察を行った。異なる大きさまたは形状の金、および銀ナノ粒子(球状:粒子径10nm~50nmの金粒子および粒子径60nmの銀粒子、立方体:1辺が50nm、または200nmの銀粒子、長さ1μmの銀ナノワイヤ)をそれぞれマクロファージ細胞に導入し、785nm、または532nmの励起波長を用いてSERS観察を行った。このとき、ラマン増強度、細胞内導入率、細胞への光毒性について評価した。細胞内導入率については暗視野観察によって確認し、細胞への光毒性はSERS観察後(レーザー照射後)の明視野像において細胞膜の破裂や細胞の膨張等について確認して評価した。
【実施例】
【0120】
<結果>
この結果を表1にまとめた。
【実施例】
【0121】
【表1】
JP0005519506B2_000002t.gif
【実施例】
【0122】
細胞内への導入は、いずれの粒子においても確認できた。図16(a)に導入に用いられた銀ナノワイヤのSEM像を示し、(b)に銀ナノワイヤが導入されたマクロファージ細胞の暗視野像を示す。また図17(a)に導入に用いられた1辺が200nmの銀立方体のSEM像を示し、(b)に銀立方体が導入されたマクロファージ細胞の暗視野像を示した。本実験例で検討した粒子の中で、特に50nm付近の粒子径を有する金ナノ粒子(球状)が最もよく細胞内に導入されていた。
【実施例】
【0123】
またSERS観察において最も頻度よく、最も高感度に且つ短時間でSERSスペクトルが観察されたのは、粒子径50nmの金ナノ粒子が導入された細胞を、785nmの励起光で観察した場合であった。これは、粒子の導入率にも関係しているが、粒子径50nmの金ナノ粒子のプラスズモン共鳴が785nmの励起波長と合致したことに因ると推察される。一方、532nmの励起波長におけるSERS観察では、細胞または粒子からの自家蛍光が強く観察されたために、SERSシグナルを覆い隠してしまい、ラマンピークを観察できなかった。これに対して、785nmの励起光を用いた場合では、細胞または粒子の吸収が少ないため、自家蛍光はほとんど観察されなかった。よって、上述のとおり、粒子径50nm金ナノ粒子と、785nm励起波長との組み合わせが、SERS観察に適しているといえる。また、この組み合わせの場合、細胞へのダメージは明視野観察においてほとんど見られなかった。このため、上記の組み合わせは細胞への光毒性の点でも適しているといえる。
【実施例】
【0124】
〔実施例1:SERSの経時観察によるイメージング〕
粒子径が50nmの金ナノ粒子を、エンドサイトーシスを利用してマクロファージ細胞に導入し、SERS観察を経時的に行った。そして得られた金ナノ粒子のSERSシグナルをもとに、試料の画像化(イメージング)を行った。
【実施例】
【0125】
<方法>
マクロファージ細胞を石英ガラスボトムディッシュに播種し、ガラスボトムディッシュの基板への細胞接着を確認後、培地を取り除き、タイロード溶液(Tyrode’s solution:塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウムの混合液にブドウ糖を加えた生理溶液)で2回以上洗浄した。粒子径50nmの金ナノ粒子を4.5×1011個/mlの密度で含有する金コロイド溶液200μlが添加されたタイロード溶液でガラスボトムディッシュを満たし、タイロード溶液中の細胞のSERS像を、2.5分毎に1時間取得した。観察条件は、励起光強度15mW/μm2、励起波長785nm、露光時間2分/イメージである。SERS像は、600cm-1~1700cm-1のラマンスペクトルの平均強度を用いて作成された。
【実施例】
【0126】
<結果>
SERS観察と同時に暗視野顕微鏡観察を行った結果を図18に示した。図中の「Min」は金ナノ粒子添加後の時間(分)を示す。例えば「Min0」は金ナノ粒子添加後0分のSERS像であることを示し、「Min2.5」は金ナノ粒子添加後2.5分のSERS像であることを示す(以下、同様に解釈される)。図18によって、金ナノ粒子の細胞内導入が確認できた。
【実施例】
【0127】
次に取得されたSERS像を図19に示す。図中の「Min」は金ナノ粒子添加後の時間(分)を示す。例えば「Min0」は金ナノ粒子添加後0分のSERSイメージであることを示し、「Min2.5」は金ナノ粒子添加後2.5分のSERSイメージであることを示す(以下、同様に解釈される)。
【実施例】
【0128】
図19において金ナノ粒子は、白色で観察される。各SERSイメージは、それぞれ異なった位置に金ナノ粒子が観察され、金ナノ粒子が細胞内を自己の流動性を利用して移動していることが確認された。
【実施例】
【0129】
図20に、金ナノ粒子を添加後32.5分後、47.5分後、および52.5分後のSERS像から得られるそれぞれのラマンスペクトルを示す。図20(a)は金ナノ粒子を添加後32.5分後のSERS像から得られる2点(地点1、および地点2)におけるラマンスペクトルを示し、(b)は金ナノ粒子を添加後47.5分後のSERS像から得られる地点3におけるラマンスペクトルを示し、(c)は金ナノ粒子を添加後52.5分後のSERS像から得られる地点4におけるラマンスペクトルを示す。
【実施例】
【0130】
図20(a)によれば、金ナノ粒子を添加32.5分後のSERS像の地点1において脂質由来のC-H変角を示すピークが見られ、地点2においてヌクレオチドを示すピークが見られた。よって地点1における脂質の分布、地点2におけるヌクレオチドの分布が確認された。
【実施例】
【0131】
また図20(b)によれば金ナノ粒子を添加32.5分後のSERS像の地点3において脂質リン酸塩を示すピーク、およびタンパク質のアミドIIIを示すピークが見られた。よって地点3における脂質リン酸塩、およびタンパク質の分布が確認された。
【実施例】
【0132】
また図20(c)によれば金ナノ粒子を添加52.5分後のSERS像の地点4においてプロリンを示すピーク、およびグアニンを示すピークが見られた。よって地点3におけるタンパク質由来のプロリン、およびDNA由来のグアニンの分布が確認された。
【実施例】
【0133】
複数得られたSERS像を重ねてイメージングを行った結果を図27に示した。図27によれば、外的な走査を行うことなく、生細胞を高感度かつ、高空間分解に画像化ずることができるということがわかった。
【実施例】
【0134】
〔実施例2:暗視野経時観察によるイメージング〕
明視野観察や位相差顕微鏡による観察では、細胞内に導入された金属ナノ粒子は観察されにくい。これは、金属ナノ粒子が顕微鏡の分解能よりも小さいからである。また、金ナノ粒子をはじめとする金属ナノ粒子は光をよく散乱するため、明視野観察や位相差顕微鏡では金属ナノ粒子はコントラストをつけて観察できないことにも因る。
【実施例】
【0135】
ここで金属ナノ粒子の散乱光と細胞の散乱光とを分離するには、金属ナノ粒子の散乱光と細胞の散乱光との違いを利用すれば良い。金属ナノ粒子の散乱光と細胞の散乱光との違いは、(1)金属ナノ粒子の散乱は細胞の散乱に比べて非常に強いこと(細胞の組成はほぼ水で、金属の散乱効率と比べれば非常に弱い。)、(2)細胞の散乱光がブロードであるのに対し、金属ナノ粒子には共鳴波長があり散乱光はピークを持つことの二つが挙げられる。(1)を利用した金属ナノ粒子の散乱光と細胞の散乱光との分離方法は暗視野観察である。暗視野顕微鏡では暗視野コンデンサーを用い、レイリー散乱光を観察する方法である。本実施例ではこれを説明する。他方(2)を利用した金属ナノ粒子と細胞の分離方法はレイリー分光イメージングである。これは暗視野観察で得られるレイリー散乱光を分光して、そのスペクトル情報を利用して観察を行う方法である。これについては、実施例3において説明する。
【実施例】
【0136】
<暗視野経時観察>
金属ナノ粒子のレイリー散乱光と細胞のレイリー散乱光とでは、散乱効率の差から金属ナノ粒子からの方が強い散乱光が観察できる。これを利用してレイリー散乱光を観察すれば、細胞内の金属ナノ粒子を区別して観察することができる。レイリー散乱光は暗視野顕微鏡を用いて観察した。暗視野顕微鏡は、特殊なコンデンサーを使用し、対物レンズには直接光をいれず試料からの散乱光のみが観察できるようにした顕微鏡である。図21に暗視野顕微鏡の模式図を示す。暗視野照射の原理は以下のとおりである。コンデンサーからの光(図21中、実線で示す)は試料がなければ対物レンズに入らないような構造になっているので、目で見たときには真っ暗となる。ところが試料がある場合には、試料によって散乱される光(図21中、点線で示す)が対物レンズに回り込んできて、試料がきらきらと光って見える。夜空の星がはっきりと見えるように、実際には顕微鏡の分解能よりも小さいものまで確認できる。
【実施例】
【0137】
<方法>
暗視野顕微鏡を用いて、1辺の長さが200nmの銀ナノ粒子(立方体)または粒子径50nmの金ナノ粒子(球状)をマクロファージ細胞に導入し、経時的観察を行った。各粒子の細胞への導入方法は、既述した方法と同様である。
【実施例】
【0138】
<結果>
図22に銀ナノ粒子(立方体)を細胞内に導入した場合の暗視野経時観察の結果を示した。図22は銀ナノ粒子(立方体)を培地に添加した直後から2時間の暗視観察像である。銀ナノ粒子添加直後から55分後までは銀ナノ粒子(立方体)は観察できなかったが、55.4分後(図22中、「Min.55.4」で示す)において、培地中において銀ナノ粒子(立方体)が観察できた。そして60分後(図22中、「Min.60」で示す)に銀ナノ粒子(立方体)が細胞膜に接着しているのが観察でき、65分後「Min.65」において、別の銀ナノ粒子(立方体)が細胞膜に接着している様子が観察された。その後、細胞膜に接着した銀ナノ粒子(立方体)が細胞内に取り込まれていく様子が観察された。その後、導入された銀ナノ粒子(立方体)が細胞内を自己の流動性を利用して移動している様子が観察された。
【実施例】
【0139】
また、図23に金ナノ粒子(球状)を細胞内に導入した場合の暗視野経時観察の結果を示した。図23は金ナノ粒子(球状)を培地に添加した直後から2時間の暗視観察像である。図23によれば金ナノ粒子(球状)が細胞内に導入されている様子、および導入された金ナノ粒子(球状)が細胞内を自己の流動性を利用して移動している様子が観察された。
【実施例】
【0140】
〔実験例5:レイリー分光イメージング〕
<方法>
マクロファージ細胞に粒子径50nmの金ナノ粒子を導入し、レイリー散乱スペクトルを取得した。この実験に用いた光学系を図24に示す。暗視野コンデンサーによって試料を照明し、散乱光のみを水浸対物レンズ(100倍、N.A.1.0)を用いて集光する。スリットと共役な位置のスペクトルの一次元方向の空間分布を観察できる。ガルバノミラーによって観察位置を走査し、散乱光は分光器によって分光され、冷却CCDによって測定される。試料の各ラインで測定した散乱光強度からイメージングを行う。検出器として冷却CCDカメラ(PIXIS400:Princeton Instrument社)、および分光器(MK-300:分光計器社)を用いた。
【実施例】
【0141】
<結果>
金ナノ粒子を培地に添加し、1時間培養したマクロファージ細胞のレイリー分光イメージを図25(a)に示す。細胞に導入された金ナノ粒子は、図25(a)中で明るい灰色の粒子状の部分で表され、細胞は金ナノ粒子より暗い灰色で表されている。なお細胞のイメージは632nmの散乱光強度により作成された。図25(a)からマクロファージ内に導入された金ナノ粒子を検出することができるということがわかった。図25(b)は、同図(a)の各点で観察された散乱光スペクトルを示す。細胞の散乱光スペクトルがブロードであるのに対し、金ナノ粒子の散乱光スペクトルには共鳴ピークがあった。
【実施例】
【0142】
〔実施例3:経時レイリー分光イメージング〕
<方法>
金ナノ粒子を培地に添加した直後のマクロファージ細胞について、1時間に渡って経時的にレイリー分光イメージングを行った。細胞を経時的に観察した以外は、実験例5と同様にした。
【実施例】
【0143】
<結果>
図26に、金ナノ粒子の導入が行われたマクロファージ細胞についてレイリー分光イメージングを経時的に観察を行った結果を示す。図26によれば金ナノ粒子(球状)が細胞内に導入されている様子、および導入された金ナノ粒子(球状)が細胞内を自己の流動性を利用して移動している様子が観察された(図中の明るい粒子状の部分が金ナノ粒子を示す)。
【実施例】
【0144】
上記で得られたレイリー分光イメージングから得られた像を重ねてイメージングを行った結果を図28に示した。図28によれば、生細胞を高感度かつ、高空間分解に画像化ずることができるということがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0145】
上記のように本発明によれば、外的な走査を行うことなく、生細胞内の分子等の微小な試料を高感度で高速かつ、高空間分解に画像(三次元画像)を形成する方法を提供することができる。
【0146】
また本発明の方法によれば、試料の画像化を行うことができると同時に、ナノ粒子プローブの近傍に存在する物質の情報を検出することができる。ナノメートルサイズのプローブを用いているため、当該プローブを用いない場合に比してラマン散乱光等の光学応答によって観察される分子種が少ないために、高精度で物質の情報を把握することができる。例えば、タンパク質、酵素をはじめとする各種物質の細胞内分布を細胞の画像化と同時に調べることができる。
【0147】
さらに細胞内での動向を調べたい薬剤などの物質を、ナノ粒子プローブの表面に標識しておくことで、細胞内における当該物質の動向を調べることができる。また当該薬物等の物質が細胞内で運搬される経路の状態を高空間分解能で観察することも可能となる。
【0148】
それゆえ、本発明は試料の画像化に関する産業のみならず、各種分析に関する産業、製薬に関する産業等、種々広範な産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0149】
1 試料
2 粒子プローブまたはナノ粒子プローブの光学応答のシグナル
3 シート
4 暗視野顕微鏡(位置決定手段)
5 レーザー光源(照射手段)
6 ガルバノミラー(光路変更手段)
7 検出手段
8 分光器
9 CCDカメラ
18 コンピュータ
100 本発明にかかる方法を実施するための装置
図面
【図1】
0
【図9】
1
【図10】
2
【図11】
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【図21】
4
【図29】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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