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明細書 :免疫組織染色方法および免疫組織染色装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5629850号 (P5629850)
公開番号 特開2012-013598 (P2012-013598A)
登録日 平成26年10月17日(2014.10.17)
発行日 平成26年11月26日(2014.11.26)
公開日 平成24年1月19日(2012.1.19)
発明の名称または考案の名称 免疫組織染色方法および免疫組織染色装置
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/533       (2006.01)
G01N  33/534       (2006.01)
G01N  33/535       (2006.01)
G01N   1/28        (2006.01)
G01N   1/30        (2006.01)
FI G01N 33/53 Y
G01N 33/48 P
G01N 33/533
G01N 33/534
G01N 33/535
G01N 1/28 J
G01N 1/30
請求項の数または発明の数 12
全頁数 15
出願番号 特願2010-151695 (P2010-151695)
出願日 平成22年7月2日(2010.7.2)
審査請求日 平成25年6月21日(2013.6.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
【識別番号】591108178
【氏名又は名称】秋田県
発明者または考案者 【氏名】南谷 佳弘
【氏名】戸田 洋
【氏名】小川 純一
【氏名】赤上 陽一
【氏名】加賀谷 昌美
個別代理人の代理人 【識別番号】100082669、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 賢三
【識別番号】100095337、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 伸一
【識別番号】100095061、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 恭介
審査官 【審査官】赤坂 祐樹
参考文献・文献 特開平08-304388(JP,A)
特開2010-119388(JP,A)
特開2005-114372(JP,A)
調査した分野 G01N 33/48-33/98
G01N 1/28- 1/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
試料載置側電極と対向電極との間に、組織標本に対して一次抗体を滴下した一次試料を載置し、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるようにして変動電界を60~180分印加し、前記一次試料を非接触にて撹拌し、
その後、前記一次試料に対して標識でラベルした二次抗体を滴下した二次試料に、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界を30秒~5分印加して前記二次試料を非接触にて撹拌し
滴下する前記一次抗体の濃度は、0.25~1.0μg/mLである、
ことを特徴とする免疫組織染色方法。
【請求項2】
試料載置側電極と対向電極との間に、組織標本に対して一次抗体を滴下した一次試料を載置し、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるようにして変動電界を1~5分印加し、前記一次試料を非接触にて撹拌し、
その後、前記一次試料に対して標識でラベルした二次抗体を滴下した二次試料に、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界を30秒~5分印加して前記二次試料を非接触にて撹拌し、
滴下する前記一次抗体の濃度は、4.0~6.0μg/mLである、
ことを特徴とする免疫組織染色方法。
【請求項3】
前記変動電界は、矩形波と、10~300Hzの周波数信号とが重畳している、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の免疫組織染色方法。
【請求項4】
印加する前記変動電界の強度は、0.35~2.50kV/mmである、
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1つに記載の免疫組織染色方法。
【請求項5】
前記標識が、酵素標識、蛍光標識、放射性同位元素標識、金コロイド粒子標識のいずれかである、
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1つに記載の免疫組織染色方法。
【請求項6】
試料載置側電極と対向電極との間に、組織標本に対して0.25~1.0μg/mLの濃度の一次抗体を滴下した一次試料を載置する試料室を備え、
この試料室内に、
前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるようにして変動電界を60~180分印加し、前記一次試料を非接触にて撹拌する第1撹拌手段と、
非接触にて撹拌された前記一次試料に対して標識でラベルした二次抗体を滴下した二次試料に、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界を30秒~5分印加して前記二次試料を非接触にて撹拌する第2撹拌手段と、
を設けたことを特徴とする免疫組織染色装置。
【請求項7】
試料載置側電極と対向電極との間に、組織標本に対して4.0~6.0μg/mLの濃度の一次抗体を滴下した一次試料を載置する試料室を備え、
この試料室内に、
前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるようにして変動電界を1~5分印加し、前記一次試料を非接触にて撹拌する第1撹拌手段と、
非接触にて撹拌された前記一次試料に対して標識でラベルした二次抗体を滴下した二次試料に、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界を30秒~5分印加して前記二次試料を非接触にて撹拌する第2撹拌手段と、
を設けたことを特徴とする免疫組織染色装置。
【請求項8】
前記変動電界は、矩形波と、10~300Hzの周波数信号とが重畳している、
ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の免疫組織染色装置。
【請求項9】
印加する前記変動電界の強度は、0.35~2.50kV/mmである、
ことを特徴とする請求項6から請求項8の何れか1つに記載の免疫組織染色装置。
【請求項10】
前記標識が、酵素標識、蛍光標識、放射性同位元素標識、金コロイド粒子標識のいずれかである、
ことを特徴とする請求項6から請求項9の何れか1つに記載の免疫組織染色装置。
【請求項11】
前記第1撹拌手段と、前記第2撹拌手段とは同一のものである、
ことを特徴とする請求項6から請求項10の何れか1つに記載の免疫組織染色装置。
【請求項12】
前記試料室に載置する前記組織標本の直上となる前記対向電極の箇所に凸部を設けた、
ことを特徴とする請求項6から請求項11の何れか1つに記載の免疫組織染色装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織内の特定タンパク質の発現や局在を明らかにするための免疫組織染色方法および免疫組織染色装置に関し、一連の作業の迅速化を可能とし、例えば、手術中の癌特異タンパク質の検出などによる術中迅速病理診断に利用することができるほか、用いる抗体を節約することができ、コストダウンを果たすこと等も可能な免疫組織染色方法および免疫組織染色装置に関する。
【背景技術】
【0002】
手術の際にその方針を決定する方法として、術中迅速病理診断が知られている。この術中迅速病理診断は、手術を一時中止して行われるために時間的な制約が厳しく、従来から生体組織の形態学的特徴に基づいて、その病理を判断することに留まっている。このため、しばしば誤診が起こる原因となって、診断精度の向上が要求されている。
【0003】
例えば、乳ガンや悪性黒色腫等の術中迅速病理診断では、癌病巣からリンパ液が流入する最も近いリンパ節であるセンチネルリンパ節を用いて形態学的に転移の有無を確認し、センチネルリンパ節よりも癌病巣から遠いリンパ節を摘出するか否かの判断に用いられている。このセンチネルリンパ節を用いた術中迅速病理診断では、HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色によって組織形態学的に病理診断しているものの、リンパ節への微小転移が見逃されることが散見されていた。
【0004】
一方、生体組織内の特定タンパク質の発現や局在を明らかにするための手段として、免疫組織染色という手法が知られている。免疫組織染色は、特異性の高い抗体を用いて特定タンパク質を検出するために、非常に高精度な診断を行うことができる。しかし、従来の免疫組織染色法は、例えば、図6に示すように、対象とする組織の抽出から、標本への固定、洗浄、ブロッキング、一次抗体による抗原抗体反応、二次抗体による抗原抗体反応、発色液による発色等の一連の工程に少なくとも二時間以上要するため、時間的な制約が厳しい術中の迅速病理診断に不向きであった。
【0005】
ただし、術中迅速病理診断への免疫組織染色を活用するニーズは高く、例えば、下記特許文献1にて、超音波撹拌技術を利用して免疫組織染色の一連の工程の時間短縮を図る発明が提案されている。
【0006】
本発明者らは、これらとは別に、μLオーダーの微少量液滴での、核酸ハイブリダイゼーション反応、ELISA反応等において、高電圧の交流電界を印加することにより、反応時間を短縮する方法を開発している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開平8-304388号公報
【特許文献2】特開2010-119388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1にて提案される発明では、20~40kHzの超音波によって組織標本を撹拌することによって、キャビテーションによる温度上昇が起こり、温度変化等に敏感なタンパク質の検出には不向きであるという問題がある。また、キャビテーションによって組織標本が散逸し、免疫組織染色自体を実行できないという虞もある。なお、超音波による急激な撹拌によって、分子衝突が突如として高まることによりタンパク質が変性、損傷し、免疫組織染色の精度が低下する虞もあった。このほか、超音波を用いた場合には騒音が発生するという問題もある。したがって、実施上の問題、騒音の問題等により、術中迅速病理診断に利用することが困難となる虞があった。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑み提案されたもので、時間的な制約の厳しい術中迅速病理診断に適用することができ、その診断精度を飛躍的に向上させることができるほか、免疫組織染色に用いる抗体の量を格段に減らすことにより、コストダウンを果たすこと等も可能な免疫組織染色方法および免疫組織染色装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、免疫組織染色法において、高電圧の変動電界を所定の向きに印可し、しかも、1次抗体に加えて2次抗体を用いた免疫組織染色法とすることにより、抗原を迅速に検出することが可能となるだけでなく、使用する抗体の量を格段に減らすことができるという予想外の効果をもたらす方法を見い出し、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る免疫組織染色方法は、試料載置側電極と対向電極との間に、組織標本に対して一次抗体を滴下した一次試料を載置し、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるようにして変動電界を60~180分印加し、前記一次試料を非接触にて撹拌し、その後、前記一次試料に対して標識でラベルした二次抗体を滴下した二次試料に、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界を30秒~5分印加して前記二次試料を非接触にて撹拌し、滴下する前記一次抗体の濃度は、0.25~1.0μg/mLであり、発色液を滴下して前記組織標本を染色することを特徴とする。
また、本発明に係る免疫組織染色方法は、試料載置側電極と対向電極との間に、組織標本に対して一次抗体を滴下した一次試料を載置し、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるようにして変動電界を1~5分印加し、前記一次試料を非接触にて撹拌し、その後、前記一次試料に対して標識でラベルした二次抗体を滴下した二次試料に、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界を30秒~5分印加して前記二次試料を非接触にて撹拌し、滴下する前記一次抗体の濃度は、4.0~6.0μg/mLであり、発色液を滴下して前記組織標本を染色することを特徴とする。
【0011】
特に、上記変動電界は、矩形波と、10~300Hzの周波数信号とが重畳していることが好ましく、印加する変動電界の強度は、0.35~2.50kV/mmであることがさらに好ましい。また、印加する変動電界の上記第1所定時間は60~180分であり、及び/又は、印加する上記変動電界の第2所定時間は30秒~5分であることが好ましく、さらにまた、印加する上記変動電界の上記第1所定時間は1~5分であり、及び/又は、印加する上記変動電界の前記第2所定時間は30秒~5分であってもよい。このほか、滴下する一次抗体の量は、抗体量の節約を図るときは濃度を0.25~1.0μg/mLとし、迅速な反応を促すときは濃度を4.0~6.0μg/mLとすることが望ましい。また、標識としては、酵素標識、蛍光標識、放射性同位元素標識、金コロイド粒子標識のいずれかを使用することが好ましい。
【0012】
本発明に係る免疫組織染色装置は、試料載置側電極と対向電極との間に、組織標本に対して0.25~1.0μg/mLの濃度の一次抗体を滴下した一次試料を載置する試料室を備え、この試料室内に、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるようにして変動電界を60~180分印加し、前記一次試料を非接触にて撹拌する第1撹拌手段と、非接触にて撹拌された前記一次試料に対して標識でラベルした二次抗体を滴下した二次試料に、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界を30秒~5分印加して前記二次試料を非接触にて撹拌する第2撹拌手段とを設けたことを特徴とする。
また、本発明に係る免疫組織染色装置は、試料載置側電極と対向電極との間に、組織標本に対して4.0~6.0μg/mLの濃度の一次抗体を滴下した一次試料を載置する試料室を備え、この試料室内に、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるようにして変動電界を1~5分印加し、前記一次試料を非接触にて撹拌する第1撹拌手段と、非接触にて撹拌された前記一次試料に対して標識でラベルした二次抗体を滴下した二次試料に、前記対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界を30秒~5分印加して前記二次試料を非接触にて撹拌する第2撹拌手段と、を設けたことを特徴とする。
【0013】
特に、上記変動電界は、矩形波と、10~300Hzの周波数信号とが重畳していることが好ましく、印加する変動電界の強度は、0.35~2.50kV/mmであることがさらに好ましい。また、印加する変動電界の上記第1所定時間は60~180分であり、及び/又は、印加する上記変動電界の第2所定時間は30秒~5分であることが好ましく、さらにまた、印加する上記変動電界の上記第1所定時間は1~5分であり、及び/又は、印加する上記変動電界の上記第2所定時間は30秒~5分であってもよい。このほか、滴下する一次抗体の量は、抗体量の節約を図るときは濃度を0.25~1.0μg/mLとし、迅速な反応を促すときは濃度を4.0~6.0μg/mLとすることが望ましい。
【0014】
このほか、本発明に係る免疫組織染色装置は、第1撹拌手段と、第2撹拌手段とは同一のものとすればよく、試料室に載置する組織標本の直上となる対向電極の箇所に凸部を設けることも望ましい構成である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る免疫組織染色方法では、試料載置側電極と対向電極との間に、組織標本に対して一次抗体を滴下した一次試料を載置し、対向電極が試料載置側電極よりもマイナスになるようにして変動電界を第1所定時間印加し、一次試料を非接触にて撹拌し、その後、一次試料に対して標識をラベルした二次抗体を滴下した二次試料に、対向電極が試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界を第2所定時間印加して二次試料を非接触にて撹拌し、発色液を滴下して組織標本を染色する。したがって、非接触による撹拌により、抗原抗体反応を活発にすることができ、時間的な制約の厳しい術中迅速病理診断においても適用することができる。また、接触による撹拌により、抗原抗体反応を活発にすることができるので、免疫組織染色に用いる抗体の量を格段に減らすことができ、一次抗体の価格に依存するといわれる免疫組織染色方法のコストダウンを果たすことが可能となる。
【0016】
特に、上記変動電界は、矩形波と、可聴域以下の周波数信号とが重畳することとすれば、穏やかで効率的な撹拌を行うことができるほか、キャビテーションによる問題を起こすようなこともない。印加する変動電界の強度は、0.35~2.50kV/mmであるので、放電が発生することがなく、かつ、穏やかな撹拌を起こすことができ、免疫組織染色を効率的に実行することができる。また、印加する変動電界の第1所定時間を60~180分とし、及び/又は、印加する変動電界の第2所定時間を30秒~5分とすれば、一次抗体の使用量を格段に少なくした条件にて免疫組織染色を実行することができ、さらにまた、印加する変動電界の第1所定時間を1~5分とし、及び/又は、印加する変動電界の第2所定時間は30秒~5分とすれば、時間的な制約の厳しい術中迅速病理診断においても適用することができる。このほか、滴下する一次抗体の量は、濃度を0.25~1.0μg/mLとすれば、一次抗体の使用量が格段に少なくなるし、コストダウンを図ることができ、また、濃度を4.0~6.0μg/mLとすれば、時間的な制約の厳しい術中迅速病理診断においても適用することができる。
【0017】
本発明に係る免疫組織染色装置は、試料載置側電極と対向電極との間に、組織標本に対して一次抗体を滴下した一次試料を載置する試料室を備え、この試料室内に、対向電極が試料載置側電極よりもマイナスになるようにして変動電界を第1所定時間印加し、一次試料を非接触にて撹拌する第1撹拌手段と、非接触にて撹拌された一次試料に対して標識でラベルした二次抗体を滴下した二次試料に、対向電極が前記試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界を第2所定時間印加して二次試料を非接触にて撹拌する第2撹拌手段と、を設け、非接触にて撹拌された二次試料に対して発色液を滴下する滴下手段を設けて構成されている。したがって、上記免疫組織染色方法における効果を具備する免疫組織染色装置として提供することができる。
【0018】
特に、上記変動電界は、矩形波と、可聴域以下の周波数信号とが重畳することとすれば、穏やかで効率的な撹拌を行うことができるほか、キャビテーションによる問題を起こすようなこともない。印加する変動電界の強度は、0.35~2.50kV/mmであるので、放電が発生することがなく、かつ、穏やかな撹拌を起こすことができ、免疫組織染色を効率的に実行することができる。また、印加する変動電界の第1所定時間を60~180分とし、及び/又は、印加する変動電界の第2所定時間を30秒~5分とすれば、一次抗体の使用量を格段に少なくした条件にて免疫組織染色を実行することができ、さらにまた、印加する変動電界の第1所定時間を1~5分とし、及び/又は、印加する変動電界の第2所定時間は30秒~5分とすれば、時間的な制約の厳しい術中迅速病理診断においても適用することができる。このほか、滴下する一次抗体の量は、濃度を0.25~1.0μg/mLとすれば、一次抗体の使用量が格段に少なくなるし、コストダウンを図ることができ、また、濃度を4.0~6.0μg/mLとすれば、時間的な制約の厳しい術中迅速病理診断においても適用することができる。尚、抗体量の節約を図りつつ迅速に検出したいときには、抗体の濃度を1.0~4.0μg/mLとすることもできる。
【0019】
このほか、本発明に係る免疫組織染色装置は、第1撹拌手段と、第2撹拌手段とを同一とすれば、装置の小型化、簡略化を達成することができる。対向電極の組織標本の直上となる箇所に凸部を設ければ、印加する変動電界の強度を抑えることができ、放電の発生を確実に防止することができる装置として提供することができる。
【0020】
本発明では、試料載置側電極と対向電極との間に載置した組織標本に対し、対向電極が試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界による印加し、変動電界のクーロン力によって組織標本と各抗体との抗原抗体反応を、非接触に撹拌させた状態で進行ことができる。そうすると、分子の衝突が起こり、ファンデルワールス力が作用しやすい環境になって抗原抗体反応が迅速化される。また、本発明では、回転子や撹拌子を用いないため、コンタミネーションを起こし難く、工程時間の短縮化が図れ、ばらつきが抑制された明瞭な結果が得られる。超音波撹拌に比べて騒音の発生がないという利点もある。装置が単純な構成のため、小型化も容易であるほか、透明電極を用いると、溶液の発色反応の進行度等の観察を同時に進めることができる。なお、温度、湿度、真空状態、ガス雰囲気などの各種の環境下によって、撹拌が制限を受けるものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る免疫組織染色装置について説明する模式図である。
【図2】本発明に係る免疫組織染色装置において変動電界に重畳させる周波数について説明する説明図である。
【図3】本発明に係る免疫組織染色方法のプロトコルを説明するブロック図であって、a)は抗体節約法であり、b)は迅速法である。
【図4】本実施例に係る免疫組織染色方法を用いて行った免疫組織染色された癌組織を説明する説明図である。
【図5】本発明に係る他の免疫組織染色装置について説明する説明図である。
【図6】従来の免疫組織染色方法のプロトコルを説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳述する。

【0023】
本実施形態に係る免疫組織染色装置は、図1に示すように、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)電極である試料載置側電極11と対向電極12との間に、スライドグラスに固定した組織標本tを載置する試料室1を備えている。特に、この試料室1では、対向電極12が試料載置側電極11よりもマイナスになるような変動電界が発生するようにされ、この変動電界が、組織標本tに滴下した一次抗体Ig1、二次抗体Ig2を非接触にて撹拌する第1撹拌手段および第2撹拌手段として機能している。また、試料載置側電極11と対向電極12との間のクリアランスは、本実施形態において6mmである。このほか、対向電極12は、試料室1に載置する組織標本tの直上となる箇所を、組織標本tに向けて突出する凸状とすることが、変動電界の強度を抑え、放電の可能性を最小化する観点から好ましい構成となる。なお、試料室1内は作動中、断熱密閉空間となるものである。また、図示を省略したが、試料室1に載置された組織標本tへ向け、発色液を滴下する滴下手段も設けても、好ましい実施形態となる。

【0024】
本実施形態に係る免疫組織染色装置において、組織標本tに対して印加する変動電界は、電界の波に変化をもたせた(=バースト波形を構成させた)態様にて生成される。具体的には、湿度60±10%の環境下において、印加電圧の主電圧としてプラス側に0.35~2.5kV/mmだけ偏った振幅を有する方形波に、オフセット電圧0.2~2.25kV/mmを加え、さらに、外部から0.1~800Hzの周波数を2~40本束ねて重畳させて生成される。なお、印加電界強度(kV/mm)は、プラス側に2.5kV/mmより大きく偏ると放電が起こる可能性があるので、方形波の振幅と、加えるオフセット電圧との和が、プラス側に2.5kV/mmより大きく偏らないように調整される。また、印加電界強度(kV/mm)は、プラス側に0.35kV/mmより小さい偏りとなれば、撹拌が生じない虞があるので、方形波の振幅と加えるオフセット電圧との和が、プラス側に0.35kV/mmより小さい偏りにならないように調整される。

【0025】
なお、図2に示すように、非接触にて撹拌を生じさせるための周波数は、変動電界の方形波に、外部から2~40本束ねて重畳させる周波数が0.1~800Hz、好ましくは、10~400Hzとすればよい。また、一般の免疫組織染色に用いる試料サイズ、試薬量、印加電界を考慮すれば、10~300Hzとすることが望ましい。さらにまた、液滴の量(一次抗体を含む溶液、二次抗体を含む溶液)により、重畳させる周波数の振動数を上記の範囲内で適宜調整してもよい。また、変動電界をプラス側に偏らせたのは、電界にて液滴吸引することが可能となり、効率的な撹拌が実行されるからである。さらに、このような変動電界を約2~20サイクル程度、ひとまとめに束ねてON/OFFすれば、液滴の波面に緩やかな振動を供給することができるので、液滴内の内容物がよりよく撹拌運動を示すようになるので好ましい実施形態となる。

【0026】
本発明で用いる生体試料は、例えば、生検検体である腫瘍組織、細胞、臓器などが好適に用いられ、切片等にしてそのまま用いることもできるが、必要に応じ固定化することもできる。組織の固定化には、パラホルムアルデヒド、ホルマリンなどを用いることができる。また、パラフィンなどで包埋した上で切片にすることもできる。凍結切片を作成する場合には、必要により凍結包埋剤に埋め込んだ後、液体窒素などで急速凍結し、クリオスタッドなどで切片を作成することができる。
本発明で用いる二次抗体をラベルする標識としては、例えば、酵素標識、蛍光標識、放射性同位元素標識、金コロイド粒子標識などを用いることができるが、検出感度等の点から、酵素標識を用いることが好ましい。
酵素標識としては、例えば、パーオキシターゼ、ホースラディッシュパーオキシターゼ、アルカリホスファターゼ等を用いることができる。酵素標識を用いる場合には、基質となる発色液を滴下する。蛍光標識としては、例えば、フルオレセインイソシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート等、放射性同位元素としては、131I、125Iなどのヨウ素性放射性同位体等を用いることができる。

【0027】
以下、本実施形態に係る免疫組織染色装置を用いて行う免疫組織染色方法を、図3を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、周囲温度を25±2℃とし、湿潤下60±10%で行っている。

【0028】
まず、マイクロオーダーの厚さに薄切りした組織標本tを、スライドグラスに貼り付け、室温でアセトン中に2分間浸し、組織標本tをスライドグラスに固定する。次に、スライドグラスに固定した組織標本tを、適宜の濃度に調製したリン酸緩衝生理食塩水(以下、「PBS」という。)にて約30秒前後洗浄する。

【0029】
次に、免疫組織染色装置の試料室1の試料載置側電極11と対向電極12との間に、スライドグラスに固定した組織標本tを載置し、続いて、この組織標本tに対して一次抗体Ig1を滴下し、スライドグラスに固定した一次試料s1とし、対向電極11が試料載置側電極12よりもマイナスになるようにして変動電界を、迅速な免疫組織染色を実施したい場合には1~5分、一次抗体Ig1を節約した免疫組織染色を実施したい場合には60分~180分、それぞれ印加し、一次試料s1を非接触にて撹拌する。滴下する一次抗体Ig1の濃度は、迅速な免疫組織染色を実施したい場合には4.0~6.0μg/mL、一次抗体Ig1を節約した免疫組織染色を実施したい場合には0.25~1.0μg/mLとする。また、一次抗体Ig1は、例えば、上皮性組織のサイトケラチン上の特定アミノ酸配列を抗原とした抗サイトケラチン抗体(AE1/AE3)を例示することができる。

【0030】
また、本発明に係る免疫組織染色装置の実施で想定される一次抗体Ig1は、抗サイトケラチン抗体(AE1/AE3)のほか、HER-2上の特定アミノ酸配列、CEA上の特定アミノ酸配列、p53上の特定アミノ酸配列、α-フェトプロテイン上の特定アミノ酸配列を抗原とする一次抗体等が特に有効であると見込める。

【0031】
次に、非接触撹拌した一次試料s1をPBSにて約1~60秒前後洗浄し、この一次試料s1に対して二次抗体Ig2を滴下して、スライドグラスに固定した二次試料s2とし、対向電極11が試料載置側電極12よりもマイナスになるようにして変動電界を2分印加し、二次試料s2を非接触にて撹拌する。滴下する二次抗体Ig2は、一次抗体Ig1との組み合わせを考慮しつつ、適宜市販のものを選択すればよい。本実施形態では、例えば、EnVision(DOKO社)を用いている。

【0032】
次に、非接触撹拌した二次試料s2をPBSにて約1~60秒前後洗浄し、この二次試料s2に対して発色液を滴下して染色する。発色液についても、二次抗体Ig2との組み合わせを考慮しつつ適宜市販のものを選択すればよい。本実施形態では、例えば、二次抗体Ig2として用いたEnVision(DOKO社)がパーオキシダーゼを多数結合させたものであるので、ジアミノベンチジン溶液であるDAB液を用いている。発色時間は約1~5分である。

【0033】
最後に、発色させた二次試料s2をスライドグラスに固定させたまま、顕微鏡にて発色状況を観察、確認すればよい。
【実施例】
【0034】
以下、本実施形態に係る免疫組織染色装置を用いて行った免疫組織染色方法の実施例を、2つ例示して説明する(図3参照)。
【実施例】
【0035】
1)抗体節約法
【実施例】
【0036】
まず、動物又はヒトの上皮性細胞組織を、凍結組織包埋剤(OCTコンパウンド)に凍結包埋するとともに、適宜の切片化器械、例えば、クリオスタットで厚さ5~10μmの薄切り切片とし、この切片をスライドグラスに貼り付け、室温でアセトン中に2分間浸してスライドグラスに固定した。次に、スライドグラスに固定した切片を、PBSにて30秒洗浄し、OCTコンパウンドを除去した。なお、切片の周囲には、一次抗体、二次抗体を滴下したとき、これらの表面張力を保つためにダコペン(DOKOpen)でマークした。
【実施例】
【0037】
一次抗体には、抗サイトケラチン抗体(AE1/AE3)を用い、1%牛血清アルブミン添加PBSに、後述する濃度で溶解した。
【実施例】
【0038】
次に、免疫組織染色装置の試料室1の試料載置側電極11と対向電極12との間に、スライドグラスに固定した切片を載置し、続いて、この切片に対してサイトケラチン抗体(AE1/AE3)を滴下し、対向電極11が試料載置側電極12よりもマイナスになるようにして変動電界を印加し、非接触にて撹拌した。なお、このときの抗体濃度は、1.0~0.25μg/mLであり、150~200μL滴下した。また、変動電界を印加した時間は、60~180分間である。電界条件は、電圧3.4kV(3.0~3.8)、オフセット2.4kV(2.0~2.8)、周波数18Hz(±2)、電界間距離6mm、電界強度0.533kV/mm、バースト15サイクル(15~30)、波形矩形波である。
【実施例】
【0039】
次に、サイトケラチン抗体と非接触撹拌により抗原抗体反応させた切片をPBSにて10秒間洗浄し、サイトケラチン抗体(AE1/AE3)を除去し、続いて、二次抗体としてのEnVisionを200μL滴下し、対向電極11が試料載置側電極12よりもマイナスになるようにして変動電界を2分印加し、非接触にて撹拌した。なお、このときの抗体濃度は、EnVision(DOKO社)キットに示されたとおりである。また、電界条件は、一次抗体を滴下したときと同一条件とした。
【実施例】
【0040】
次に、EnVisionと非接触撹拌により抗原抗体反応させた切片をPBSにて10秒間洗浄し、発色液のDAB液によりEnVisionを発色させた。そして、発色させた切片をスライドグラスに固定させたまま、顕微鏡にて発色状況を観察した。
【実施例】
【0041】
観察結果は、図4に示した。
【実施例】
【0042】
2)迅速法
【実施例】
【0043】
2)迅速法では、免疫組織染色装置の試料室1の試料載置側電極11と対向電極12との間に、スライドグラスに固定した切片を載置し、続いて、この切片に対してサイトケラチン抗体(AE1/AE3)を滴下するまで、上記1)抗体節約法と同様な工程を経た。
【実施例】
【0044】
そして、対向電極11が試料載置側電極12よりもマイナスになるようにして変動電界を印加し、非接触にて撹拌した。なお、このときの抗体濃度は、5.0μg/mLであり、150~200μL滴下した。また、変動電界を印加した時間は、2分間である。電界条件は、上記1)抗体節約法と同様である。
【実施例】
【0045】
その後の工程は、上記1)抗体節約法と同様である。観察結果は図4に示した。
【実施例】
【0046】
コントロールとして、一次抗体濃度5.0μg/mL、一次抗体による抗原抗体反応を静置で60分行い、EnVisionによる抗原抗体反応を静置で30分行った従来法を実施し、観察結果を図4に併せて示している。
【実施例】
【0047】
図4中、アルファベット(A-F)を付した写真の説明は、下記[表1]に示した。
【実施例】
【0048】
【表1】
JP0005629850B2_000002t.gif
【実施例】
【0049】
観察結果について述べると、図4とこれに対応する[表1]に示すように、一次抗体濃度5.0μg/mL、一次抗体による抗原抗体反応を静置下で60分行い、EnVisionによる抗原抗体反応を静置下で30分行った従来法では、癌細胞が染色された(写真A)。上記2)迅速法のネガティブコントロールとした一次抗体濃度5.0μg/mL、一次抗体による抗原抗体反応を静置下で2分行い、EnVisionによる抗原抗体反応を静置下で2分行った方法では、癌細胞が染色されなかった(写真B)。上記2)迅速法のように、一次抗体濃度5.0μg/mL、一次抗体による抗原抗体反応を電界下で2分行い、EnVisionによる抗原抗体反応を電界下で2分行った方法では、癌細胞が染色された(写真C)。上記1)抗体節約法では、一次抗体による抗原抗体反応を電界下で60~180分、EnVisionによる抗原抗体反応を電界下で2分行いつつ、一次抗体濃度を1μg/mLから0.25μg/mLまで濃度を振って行うと、DAB発色は徐々に薄くなるものの、陽性と判定可能なレベルまで癌が染色された(写真D~F)。
【実施例】
【0050】
また、上記2)迅速法で行った免疫組織染色は、一連の作業時間が30分以内、特に21分以内で済み、術中迅速病理診断における時間的制約を十分にクリアするものであることが分かった。
【実施例】
【0051】
したがって、本発明に係る免疫組織染色装置および免疫組織染色方法では、試料載置側電極と対向電極との間に載置した組織標本に対し、対向電極が試料載置側電極よりもマイナスになるように変動電界による印加し、変動電界のクーロン力によって組織標本と一次抗体、二次抗体との抗原抗体反応を非接触に撹拌させた状態で進行することができる。そうすると、撹拌によって分子の衝突が起こり、上記2)迅速法のように、抗原抗体反応を迅速化することができ、術中迅速病理診断に適用することができる。また、変動電界のクーロン力によって組織標本と一次抗体、二次抗体との抗原抗体反応を非接触に撹拌させた状態で進行することができ、上記1)抗体節約法のように、一次抗体の使用量を従来に比べ10分の1以上減らしても、免疫組織染色を良好に実施することができる。また、上記1)抗体節約法により、実施後の廃液処理量も軽減することから、環境への配慮という付加価値を得ることもできる。
【実施例】
【0052】
ここで、図5に示すように、本発明に係る免疫組織染色装置では、試料室に、例えば、5枚のスライドグラスを載置することができる構成とし、1回の作動によって複数の試料標本を同時に処理することができる構成とすることも可能である。具体的には、一組の電極の間に複数枚のスライドグラスを並べて配置する構成として変動電界を印加すれば、複数の試料標本を同時に処理することができる。また、試料室内を複数に区画してそれぞれに電極を備えさせ、各区画にスライドグラスを一枚ずつ配置する構成として変動電界を印加してもよい。図5からは、5枚のスライドグラス上の試料のすべてで発色が確認されていることが理解される。したがって、術中病理診断の細胞診において求められる、いわゆる多数枚処理に対応することができ、臨床現場の要求に応える免疫組織染色装置として提供することができる。
【実施例】
【0053】
以上、本発明に係る各種の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。そして、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことができる。また、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱しなければ、本発明を構成する要素(例えば、装置を構成する部品、実施に必要な備品等)は、公知又は周知のもの若しくはこれらを改良したものが使用可能である。
【実施例】
【0054】
また、本発明は、術中迅速病理診断に用いる場合、上記実施例のように、リンパ節の微小がん検出に係るものに限定されず、肝癌、乳癌、大腸癌、食道癌などの消化器系の癌等の術中迅速病理診断に利用できることはいうまでもない。さらに、抗体節約法として活用する場合には、一般に医歯薬学分野や生物学分野の研究開発で行われている免疫組織染色に、ほぼ例外なく適用することができるものである。
【符号の説明】
【0055】
1・・・試料室
11・・載置側電極
12・・対向電極
Ig1・一次抗体
Ig2・二次抗体
s1・・一次試料
s2・・二次試料
t・・・組織標本
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図6】
3
【図4】
4
【図5】
5