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明細書 :腎臓・泌尿器疾患の診断方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5481662号 (P5481662)
登録日 平成26年2月28日(2014.2.28)
発行日 平成26年4月23日(2014.4.23)
発明の名称または考案の名称 腎臓・泌尿器疾患の診断方法
国際特許分類 C12Q   1/37        (2006.01)
FI C12Q 1/37
請求項の数または発明の数 8
全頁数 10
出願番号 特願2008-522619 (P2008-522619)
出願日 平成19年6月28日(2007.6.28)
国際出願番号 PCT/JP2007/062982
国際公開番号 WO2008/001840
国際公開日 平成20年1月3日(2008.1.3)
優先権出願番号 2006177730
優先日 平成18年6月28日(2006.6.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年6月25日(2010.6.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】今村 隆寿
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】池上 文緒
参考文献・文献 特開平05-168497(JP,A)
特開平09-281110(JP,A)
特開昭61-017956(JP,A)
特表2004-528814(JP,A)
Kidney Int., 1998, vol.54, no.5, p.1767-1768
Eur. J. Biochem., 1988, vol.172, no.1, p.17-25
調査した分野 C12Q 1/25-3/00
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
アセチル-Phe-Arg-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも低下しており、アセチル-Phe-Lys-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも上昇しており、かつアセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-His-Ala-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合と同等であることを指標として急速進行性糸球体腎炎であると判定する(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)、急速進行性糸球体腎炎の検出を補助する方法。
【請求項2】
アセチル-Phe-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する尿プロテアーゼ活性の測定において、Phe-Argでは103以下、Phe-Lysでは12以上の場合(単位はcpu/mg creatinine)に、急速進行性糸球体腎炎であると判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アセチル-Phe-Arg-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも低下しており、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも上昇しており、かつアセチル-Asn-Phe-MCA及びアセチル-His-Ala-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合と同等であることを指標としてネフローゼ症候群であると判定する(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)、ネフローゼ症候群の検出を補助する方法。
【請求項4】
アセチル-Phe-Arg-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する尿プロテアーゼ活性の測定において、Phe-Argでは103以下、Phe-Lysでは12以上、Tyr-Argでは8.6以上の場合(単位はcpu/mg creatinine)に、ネフローゼ症候群であると判定する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アセチル-Asn-Phe-MCA及びアセチル-Phe-Arg-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも低下しており、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも上昇しており、かつアセチル-His-Ala-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合と同等であることを指標としてIgA腎症であると判定する(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)、IgA腎症の検出を補助する方法。
【請求項6】
アセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Phe-Arg-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する尿プロテアーゼ活性の測定において、Asn-Pheでは86以下、Phe-Argでは103以下、Phe-Lysでは12以上、Tyr-Argでは8.6以上の場合(単位はcpu/mg creatinine)に、IgA腎症であると判定する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アセチル-Asn-Phe-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも低下しており、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも上昇しており、かつアセチル-Phe-Arg-MCA及びアセチル-His-Ala-MCAに対する採取尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合と同等であることを指標として慢性糸球体腎炎であると判定する(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)、慢性糸球体腎炎の検出を補助する方法。
【請求項8】
アセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する尿プロテアーゼ活性の測定において、Asn-Pheでは86以下、Phe-Lysでは12以上、Tyr-Argでは8.6以上の場合(単位はcpu/mg creatinine)に、慢性糸球体腎炎であると判定する、請求項7に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、腎臓・泌尿器疾患の診断方法及び診断キットに関する。より詳細には、本発明は、尿中のプロテアーゼ活性を測定することによって腎臓・泌尿器疾患を診断する方法、及び上記方法を行うための診断キットに関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は一日に約1700リットルの血液を濾過し尿1リットルを産生する。これにより老廃物排泄、水と塩分濃度調節、血漿の適切なpHの維持行い、さらにエリスロポエチンなどの生理的に必要な物質を産生して生体維持のために供給している。腎臓は沈黙の臓器といわれ、肝臓と同様に病気がかなり進行し予備能力を越えて機能低下が起こって初めて症状が出現するので、症状が出現した時点では腎臓の状態は相当重篤化している。腎臓の状態は尿成分にかなり反映されるので、腎疾患のスクリーニングとして尿蛋白質量、尿クレアチニン濃度、血尿などの検査が施行されているが、いずれも疾患との特異性は低く病気の初期段階を検出するには充分ではない。糸球体腎炎の最終診断は腎生検による腎臓組織の形態変化によって行われるが、これによる診断は原因と必ずしも一致したものではなく初期では確定診断が困難であり、しかも患者に与える侵襲が大きい。また、尿路系癌(特に膀胱癌)は尿路に露出している場合が多く、尿にはこれらの癌情報も含んでいることが充分期待されるが、尿によるこれらの癌診断の試みは未だなされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、腎臓・泌尿器疾患との特異性が高く、かつ患者に与える侵襲が少ないことを特徴とする腎臓・泌尿器疾患の診断方法及び診断キットを提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
腎臓・泌尿器疾患の病因に直結し、かつ病気の初期でも検出されるリアルタイムマーカーを発見することができれば、腎臓・泌尿器疾患との特異性が高く、かつ患者に与える侵襲が少ないことを特徴とする腎臓・泌尿器疾患の診断方法及び診断キットを提供することが可能になる。蛋白質分解酵素であるプロテアーゼは、細胞内で蛋白質代謝等に関わるとともに分泌されて細胞外で様々な機能を果たしている。本発明者らは、腎臓や尿路に炎症や腫瘍が発生すると、刺激を受けた臓器細胞からのプロテアーゼ分泌変化や白血球、さらには腫瘍細胞から分泌、また自壊あるいは傷害された細胞から漏出するプロテアーゼによって、尿中のプロテアーゼ活性は変化する可能性があることを推定した。プロテアーゼは基質となるアミノ酸配列を変えることにより種々の活性が測定でき、さらに基質に蛍光物質を組み入れることにより高感度検出が可能である。そこで、本発明者らは、検体採取において患者への侵襲が全くない尿に出現する種々の蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)活性に注目し、多種の基質を使って網羅的に検出し、これらの活性と、各種の腎臓・泌尿器疾患との関係を調べた。その結果、本発明者らは、尿中のプロテアーゼ活性を測定することによって腎臓・泌尿器疾患を診断できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0005】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 尿中のプロテアーゼ活性を複数の基質を用いて測定し、当該基質に対するプロテアーゼ活性のパターンを分析することを含む、腎臓・泌尿器疾患の診断方法。
【0006】
(2) アセチル-X1-X2-Y(式中、X1及びX2は、各々独立にアミノ酸残基を示し、Yは、X2との結合が切断されると蛍光を発する化合物になる官能基を示す)で示される基質に対するプロテアーゼ活性を測定することにより、尿中のプロテアーゼ活性を測定する、(1)に記載の方法。
【0007】
(3) アセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Phe-Arg-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA、アセチル-Phe-Lys-MCA、又はアセチル-His-Ala-MCA(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)に対するプロテアーゼ活性を測定することにより、尿中のプロテアーゼ活性を測定する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) アセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Phe-Arg-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA、アセチル-Phe-Lys-MCA、及びアセチル-His-Ala-MCA(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)に対する尿プロテアーゼ活性の測定において、Asn-Pheでは86以下、Phe-Argでは103以下、Phe-Lysでは12以上、Tyr-Argでは8.6以上、His-Alaでは7.4以上の場合(単位はcpu/mg creatinine)は異常値であると判断する、(1)から(3)の何れかに記載の方法。
【0008】
(5) 腎臓・泌尿器疾患が、急速進行性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、IgA腎症、慢性糸球体腎炎、慢性腎不全、前立腺癌、又は膀胱癌である、(1)から(4)の何れかに記載の方法。
【0009】
(6) アセチル-Phe-Arg-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも低下しており、アセチル-Phe-Lys-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも上昇しており、かつアセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-His-Ala-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合と同等であることを指標として急速進行性糸球体腎炎であると判定する(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)、急速進行性糸球体腎炎の診断方法。
【0010】
(7) アセチル-Phe-Arg-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも低下しており、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも上昇しており、かつアセチル-Asn-Phe-MCA及びアセチル-His-Ala-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合と同等であることを指標としてネフローゼ症候群であると判定する(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)、ネフローゼ症候群の診断方法。
【0011】
(8) アセチル-Asn-Phe-MCA及びアセチル-Phe-Arg-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも低下しており、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも上昇しており、かつアセチル-His-Ala-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合と同等であることを指標としてIgA腎症であると判定する(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)、IgA腎症の診断方法。
【0012】
(9) アセチル-Asn-Phe-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも低下しており、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも上昇しており、かつアセチル-Phe-Arg-MCA及びアセチル-His-Ala-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合と同等であることを指標として慢性糸球体腎炎であると判定する(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)、慢性糸球体腎炎の診断方法。
【0013】
(10) アセチル-Phe-Arg-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも低下しており、アセチル-His-Ala-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも上昇しており、かつアセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合と同等であることを指標として慢性腎不全であると判定する(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)、慢性腎不全の診断方法。
【0014】
(11) アセチル-Tyr-Arg-MCA及びアセチル-His-Ala-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも上昇しており、かつアセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Phe-Arg-MCA及びアセチル-Phe-Lys-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合と同等であることを指標として前立腺癌であると判定する(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)、前立腺癌の診断方法。
【0015】
(12) アセチル-Tyr-Arg-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合よりも上昇しており、かつアセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Phe-Arg-MCA、アセチル-Phe-Lys-MCA及びアセチル-His-Ala-MCAに対する尿中のプロテアーゼ活性が健常者の場合と同等であることを指標として膀胱癌であると判定する(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)、膀胱癌の診断方法。
【0016】
(13) アセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Phe-Arg-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA、アセチル-Phe-Lys-MCA、及びアセチル-His-Ala-MCA(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)を含む、腎臓・泌尿器疾患の診断キット。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、腎臓・泌尿器疾患を高い特異性で診断することが可能である。また、本発明の診断方法は、患者に対する侵襲が全くなく、迅速に腎臓・泌尿器疾患を診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明する。
本発明による腎臓・泌尿器疾患の診断方法は、尿中のプロテアーゼ活性を測定することを特徴とする方法である。具体的には、尿中のプロテアーゼ活性を複数の基質を用いて測定し、当該基質に対するプロテアーゼ活性のパターンを分析することによって、腎臓・泌尿器疾患の診断を行う。プロテアーゼ活性は、2アミノ酸から構成されるペプチド基質に対するプロテアーゼ活性(加水分解活性)を測定することによって測定することができる。本発明では、例えば、アセチル-X1-X2-Y(式中、X1及びX2は、各々独立にアミノ酸残基を示し、Yは、X2との結合が切断されると蛍光を発する化合物になる官能基を示す)で示される基質に対するプロテアーゼ活性を測定することにより、尿中のプロテアーゼ活性を測定することができる。
【0019】
1が示すアミノ酸残基としては、GlyからTrpの19種類のアミノ酸残基(Cys以外のアミノ酸残基)を挙げることができる。また、X2が示すアミノ酸残基の具体例としては、Lys、Phe、Val、Ala又はArgの5種類のアミノ酸残基を挙げることができる。
【0020】
Yは、X2との結合が切断されると蛍光を発する化合物になる官能基を示す。このような官能基としては、MCA(4-methylcoumaryl-7-amide)基,CMCA(4-chloromethylcoumaryl-7-amide)基、FMCA(4-trifluoromethylcoumaryl-7-amide)基、ローダミン110基、又はFITC基などを挙げることができる。
【0021】
本発明において好ましくは、アセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Phe-Arg-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA、アセチル-Phe-Lys-MCA、又はアセチル-His-Ala-MCA(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)に対するプロテアーゼ活性を測定することにより、尿中のプロテアーゼ活性を測定する。上記した5種類の基質に対する尿中のプロテアーゼ活性を測定することによって、急速進行性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、IgA腎症、慢性糸球体腎炎、慢性腎不全、前立腺癌、又は膀胱癌などの腎臓・泌尿器疾患を特異的に診断することができる。
【0022】
アセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Phe-Arg-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA、アセチル-Phe-Lys-MCA、又はアセチル-His-Ala-MCAに対する尿プロテアーゼ活性の測定は、例えば、以下の通り行うことができる。上記5種類の基質をジメチルスルホキシドに溶解し、さらに0.1M Tris-HCl, pH7.6, 150 mM NaClで希釈した溶液(1 mM)を96穴プレートに入れる。これに尿を加えて37℃で反応させ、蛍光強度の増加を約1分毎に蛍光測定器で経時的に検出する。例えば、10点のうち連続5点の増加率が最も高い値を各基質に対するプロテアーゼ活性とすることができる。プロテアーゼ活性は尿の濃度に影響されるので、クレアチニン100mg/dlに対する活性として表することができる。被験者の尿中の各基質に対するプロテアーゼ活性を、コントロール値(即ち、健常者におけるプロテアーゼ活性)と比較することにより、腎臓・泌尿器疾患が、急速進行性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、IgA腎症、慢性糸球体腎炎、慢性腎不全、前立腺癌、又は膀胱癌などの腎臓・泌尿器疾患を診断することができる。診断の指標は、本明細書中に上記した記載した通りであり、また図7にも示す通りである。具体的には、アセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Phe-Arg-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA、アセチル-Phe-Lys-MCA、及びアセチル-His-Ala-MCAに対する尿プロテアーゼ活性の測定において、例えば、Asn-Pheでは86以下、Phe-Argでは103以下、Phe-Lysでは12以上、Tyr-Argでは8.6以上、His-Alaでは7.4以上の場合(単位はcpu/mg creatinine)は異常値であると判断することができる。
【0023】
さらに本発明によれば、アセチル-Asn-Phe-MCA、アセチル-Phe-Arg-MCA、アセチル-Tyr-Arg-MCA、アセチル-Phe-Lys-MCA、及びアセチル-His-Ala-MCA(式中、MCA は、4-メチルクマリル-7-アミド基を示す)を含む、腎臓・泌尿器疾患の診断キットが提供される。なお、本発明の診断キットには、上記5種類の基質に加えて、さらに溶媒、緩衝液、測定プレートなどを適宜含めてもよい。
【0024】
以下の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
(1)実験方法
尿は健常者、腎炎患者および泌尿器系癌患者のものを本人の承諾を得て、前回の排尿から約2時間後の尿を用いた。急速進行性糸球体腎炎9名、ネフローゼ症候群10名、IgA腎症26名、慢性糸球体腎炎12名、慢性腎不全22名、前立腺癌21名、膀胱癌8名、健常者10名の尿を測定した。
【0026】
Acetyl(あるいはsuccinyl)-X1-X2-MCA(4-methylcoumaryl-7-amide)を合成し、X2-MCA間をプロテアーゼが加水分解することによってMCAがAMC(7-amino-4-methylcoumarin)になり蛍光を発するので、これを励起波長355nm、検出波長450nmで測定した。X2にはLys、Phe、Val、Ala、Argの5種類のアミノ酸を選定し、X1にはGlyからTrpの19種類のアミノ酸を配置した計95種類の基質をdimethylsulfoxideに溶解し、さらに0.1M Tris-HCl, pH7.6, 150 mM NaClで希釈した50μl(1 mM)を96穴プレートに入れた。これに尿50μlを加えて37℃で反応させ、蛍光強度の増加を約1分毎に蛍光測定器Arvoで経時的に検出した。10点のうち連続5点の増加率が最も高い値を各基質に対する活性とした。活性は尿の濃度に影響されるので、クレアチニン100mg/dlに対する活性として表した。検出されたMCA基質加水分解活性の中から、充分かつ高頻度で加水分解がみられる数種の基質を選び、患者と健常者との比較を行った。Unpaired t-testを行い、P <0.05を有意とした。また、これらの活性をパターン解析し、これによる分類と臨床診断との関連性を検討した。
【0027】
(2)結果
(2-1)尿中に存在すると推定される代表的なプロテアーゼの活性パターン
ヒトトロンビン(1 IU/ml)はPR > AR > NF = PK = GAの順に活性を示し、従来よりBoc-V-P-R-MCAが特異的な基質として使われている事実によく一致していた。ヒトウロキナーゼ(10 nM)はAR > GK >AR = HR = PR = MR = QRの順に活性があり、ArgやLysを好むその性質に合致していた。ヒトカテプシンB(20 nM)活性はNF > GAが主であった。しかし、NFとGAは3者共に、PK、ARとPRはトロンビンとウロキナーゼとで加水分解されていることから、1つの基質に対する活性は必ずしも1つのプロテアーゼに由来しないものと認められる。
【0028】
(2-2)健常者尿中に検出されるMCA基質加水分解活性の概要
異常を知るためには健常者の活性が標準となるので、健常者10名のプロテアーゼ活性を測定した。-X-Arg-MCA系に最も多種の活性が認められ、AR、LR、MR、HR、FR、YR、WR、PR等への活性が検出された。なかでも、FR活性が高かった。次は、-X-Lys-MCA系でHK、FK、WK、YKへの活性がみられたが、FK活性が最も高かった。あとは-X-Phe-MCA系でLF、NFに活性があり、特にカテプシンBが最も強い活性を示したNFに対しては全基質のなかで最も高い活性があった。残りの-X-Val-MCA、-X-Ala-MCA系の基質に対しては全く活性の検出されないものが多かったものの、VV、IV、GA、HAへの弱い活性が認められた。
【0029】
(2-3)腎臓・泌尿器疾患患者と健常者における尿プロテアーゼ活性の比較
(2-3-1)Acetyl-Asn-Phe-MCA加水分解活性(図2)
Acetyl-Asn-Phe-MCAは、図1で示した様に、カテプシンBが最もよく加水分解した基質であり、健常者尿中の活性で最も高かった。この活性は、IgA腎症(P < 0.034)と慢性糸球体腎炎(P < 0.034)で有意の低下が認められた。これらの疾患では、この活性に関わるプロテアーゼの産生低下あるいは消費・分解が亢進している可能性が考えられる。
【0030】
(2-3-2)Acetyl-Phe-Arg-MCA加水分解活性(図3)
この活性は、慢性糸球体腎炎(P < 0.08)以外の腎疾患である急速進行性糸球体腎炎(P < 0.008)、ネフローゼ症候群(P < 0.023)、IgA腎症(P < 0.045)、慢性腎不全(P < 0.005)では有意に低かったが、癌では有意な差はみとめられなかった。これらの疾患では、本活性に関わるプロテアーゼの産生低下あるいは消費・分解が亢進している可能性が考えられる。
【0031】
(2-3-3)Acetyl-Tyr-Arg-MCA加水分解活性(図4)
急速進行性糸球体腎炎(P < 0.15)と慢性腎不全(P < 0.18)以外である、ネフローゼ症候群(P < 0.034)、IgA腎症(P < 0.0011)、慢性糸球体腎炎(P < 0.007)、前立腺癌(P < 0.042)、膀胱癌(P < 0.047)といった癌を含めたすべての疾患においてこの活性は有意に高かった。これらの疾患では、この活性に関わるプロテアーゼの産生亢進あるいは消費・分解が遅延している可能性が考えられる。Acetyl-Tyr-Arg-MCA活性は、前述のAcetyl-Asn-Phe-MCAやAcetyl-Phe-Arg-MCAの様に健常者に比較して疾患では低下する活性とは対照的に、疾患で増加する活性であり、しかも癌でも増加することから、極めて診断的価値が高い。また、acetyl-Phe-Arg-MCAと構造的に極めて類似しているにもかかわらず、疾患では対照的な変動を示すこともこの活性の特記すべき点である。
【0032】
(2-3-4)Acetyl-Phe-Lys-MCA加水分解活性(図5)
慢性腎不全(P < 0.055)以外の腎疾患である急速進行性糸球体腎炎(P < 0.019)、ネフローゼ症候群(P < 0.013)、IgA腎症(P < 0.044)、慢性糸球体腎炎(P < 0.023)において有意に高かったが、癌での有意差は認められなかった。慢性腎不全を除く多種の腎疾患で高値を示し、癌では上昇しない活性であることから、腎疾患に特異的でかつ応用も範囲も広く、診断的有用性の高い活性として興味深い。
【0033】
(2-3-5)Acetyl-His-Ala-MCA加水分解活性(図6)
慢性腎不全(P < 0.014)と前立腺癌(P < 0.022)で有意に高かった。疾患で高値を示す活性として興味深いだけでなく、Acetyl-Phe-Lys-MCAとは対照的に腎不全のみで上昇し、かつ前立腺癌でのみ有意に上昇することから、この活性はAcetyl-Phe-Lys-MCA活性との組み合わせにより、さらに高い診断的有用性が期待できる。
【0034】
(3)まとめ
上記で使用した5種類の基質に対するプロテアーゼ活性は患者と健常者とで比較すると、疾患によって低下する活性と上昇する活性に分けられ、前者はAcetyl-Asn-Phe-MCAとAcetyl-Phe-Arg-MCA加水分解活性であり、後者はAcetyl-Tyr-Arg-MCA、Acetyl-Phe-Lys-MCA、およびAcetyl-His-Ala-MCA加水分解活性である。これらの活性を図7に示す通り、健常者活性に対して低い、差なし、高いに分け各疾患で比較したところ、腎炎と2つの癌を含めた7種疾患において、お互いに異なったパターンをとることが明らかとなった。この結果は、尿中の上記5種類の基質に対する活性を健常者と患者で比較することにより、これらの疾患の鑑別診断が可能となりうることを示している。
【0035】
特に、今回注目した5つの腎疾患では、Acetyl-His-Ala-MCAを除く4種の基質に対する活性で鑑別でき、かつ上記の2つの癌も除外できる。また、上記2つの癌に関しては、Acetyl-Phe-Arg-MCA、Acetyl-Phe-Lys-MCA、Acetyl-His-Ala-MCAの3種の基質に対する活性によって鑑別され、かつ腎疾患も除外できる可能性が示された。従って、これらの5種類の基質に対する活性をレポーターとして尿中活性を測定し健常者との比較によるパターン解析を行うことにより、無侵襲性でかつ迅速に、腎炎や尿路系癌などの腎臓・泌尿器疾患を診断することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、ヒトトロンビン、ヒトウロキナーゼ及びヒトカテプシンBの活性パターンを示す。
【図2】図2は、腎臓・泌尿器疾患患者及び健常者の尿におけるアセチル-Asn-Phe-MCAに対するプロテアーゼ活性を示す。
【図3】図3は、腎臓・泌尿器疾患患者及び健常者の尿におけるアセチル-Phe-Arg-MCAに対するプロテアーゼ活性を示す。
【図4】図4は、腎臓・泌尿器疾患患者及び健常者の尿におけるアセチル-Tyr-Arg-MCAに対するプロテアーゼ活性を示す。
【図5】図5は、腎臓・泌尿器疾患患者及び健常者の尿におけるアセチル-Phe-Lys-MCAに対するプロテアーゼ活性を示す。
【図6】図6は、腎臓・泌尿器疾患患者及び健常者の尿におけるアセチル-His-Ala-MCAに対するプロテアーゼ活性を示す。
【図7】図7は、5種類の基質に対するプロテアーゼ活性を腎臓・泌尿器疾患患者と健常者とで比較した結果を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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