TOP > 国内特許検索 > 抗HIVモノクローナル抗体 > 明細書

明細書 :抗HIVモノクローナル抗体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5526386号 (P5526386)
登録日 平成26年4月25日(2014.4.25)
発行日 平成26年6月18日(2014.6.18)
発明の名称または考案の名称 抗HIVモノクローナル抗体
国際特許分類 C07K  16/10        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N  15/02        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P  31/18        (2006.01)
FI C07K 16/10 ZNA
C12N 5/00 102
C12N 15/00 C
A61K 39/395 S
A61P 31/18
請求項の数または発明の数 5
微生物の受託番号 IPOD FERM BP-11020
IPOD FERM BP-11021
IPOD FERM BP-11022
IPOD FERM BP-11023
IPOD FERM BP-11060
全頁数 24
出願番号 特願2009-542577 (P2009-542577)
出願日 平成20年11月19日(2008.11.19)
国際出願番号 PCT/JP2008/071035
国際公開番号 WO2009/066702
国際公開日 平成21年5月28日(2009.5.28)
優先権出願番号 2007299083
優先日 平成19年11月19日(2007.11.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年11月16日(2011.11.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】松下 修三
【氏名】吉村 和久
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】小倉 梢
参考文献・文献 特表平06-502539(JP,A)
J. Infect. Dis.,1996年,Vol. 173,p. 60-67
アジア・太平洋地域におけるHIV・エイズの流行・対策状況と日本への波及に関する研究 平成18年度 総括・分担研究報告書,2007年 3月,p. 17-26
J. Virol.,2004年,Vol. 78, No. 23,p. 13232-13252
J. Virol.,2006年,Vol. 80, No. 14,p. 7127-7135
J. Virol.,2002年,Vol. 76, No. 18,p. 9035-9045
Res. Virol.,1991年,Vol. 142,p. 247-259
AIDS Res. Hum. Retroviruses,1992年,Vol. 8, No. 4,p. 461-467
調査した分野 C12N 15/00 - 15/90
C07K 16/10
C12P 21/00 - 21/08
A61K 39/395
A61P 31/18
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Thomson Innovation




特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)及び(b)の抗体から選択される、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のV3ループを認識するモノクローナル抗体と、
以下の(c)、(d)及び(e)の抗体から選択される、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のCD4結合部位を認識するモノクローナル抗体との組み合わせからなる抗体セット。
(a) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する抗体;
(b) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号3に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する抗体:
(c) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号5に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する抗体;
(d) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号7に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号8に記載のアミノ酸配列を有する抗体;
(e) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号9に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する抗体:
【請求項2】
受託番号FERM BP-11021、又は受託番号FERMBP-11060を有する細胞が産生する、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のV3ループを認識するモノクローナル抗体またはその断片と、受託番号FERMBP-11020、受託番号FERM BP-11022、又は受託番号FERMBP-11023を有する細胞が産生する、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のCD4結合部位を認識するモノクローナル抗体との組み合わせからなる抗体セット。
【請求項3】
(a)~(e)に記載の抗体が、長期非進行症例のHIV感染患者のB細胞をgp120に対する結合性についてスクリーニングし、gp120結合抗体を産生するB細胞を選択することによって得られる細胞によって製造される、請求項1又は2に記載の抗体セット。
【請求項4】
受託番号FERM BP-11021、又は受託番号FERMBP-11060を有する細胞と、受託番号FERM BP-11020、受託番号FERM BP-11022、又は受託番号FERMBP-11023を有する細胞との組み合わせ。
【請求項5】
請求項1から3に記載の抗体セットを含む、HIV感染症の予防及び/又は治療薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を中和する活性を有するモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
後天性免疫不全症候群(Acquired Immunodeficiency Syndrome; AIDS)は、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency virus; HIV)というレンチウイルスの慢性感染によって引き起こされる病態である。近年、HIVの増殖を阻止する抗ウイルス薬が開発され、AIDS発症の阻止が可能となった。しかし、強力な抗ウイルス薬を用いてもHIVを駆逐することは困難であり、抗ウイルス治療は一生続ける必要がある。一方、抗ウイルス薬の長期使用による薬剤耐性ウイルスの出現や慢性毒性などの問題も明らかとなり、現在の抗ウイルス療法は依然不十分な状態である。また、抗ウイルス薬は高価であり、発展途上国での長期使用は実質上不可能である。これらの事情から、感染阻止ワクチンの開発は世界的課題であり、加えて副作用のない新しい治療薬の開発も求められている。
【0003】
HIVの感染を中和するモノクローナル抗体については様々なものが報告されてきた(Burton, DR. et al., Nat.Immunol. 5, p233-236, 2004; Zolla-Pazner, S. et al., Nat.Rev.Immunol. 4, p199-210, 2004; Eda, Y. et al., J.Virol. 80:5552-5562, 2006)。それらの標的分子を大別すると外被膜蛋白gp120のV1/V2、V3などの可変部位に対する抗体、CD4結合部位(CD4bs)に対する抗体、CD4i(CD4-gp120結合後に出現するエピトープ)に対する抗体があげられる。一方、膜貫通蛋白、gp41のMPR(membrane proximal region)に反応する抗体の中和活性も発表されている。これらの中で、交差反応を示すとされてきたのはV3抗体では447-52DとKD-247、CD4bs抗体ではb12、gp41-MPR抗体では2F5と4E10、抗糖鎖抗体として2G12が挙げられる。V3抗体には交差反応性は認められるものの反応できるウイルス株が限られることが問題であった。一方、gp41-MPR抗体は多くの臨床分離株で交差反応が認められることから、ここ数年注目されてきたが、最近これらが、宿主細胞のリンパ脂質に交差反応することが示され、実際には自己抗体がHIVのgp41に交差反応をしているものであることがわかった。また、b12についてもCD3が18アミノ酸と長く、自己抗原への交差反応性が示唆されている(Haynes, BF et al., Science 308, p1906-1908, 2005)。
【0004】

【非特許文献1】Burton, DR. et al., Nat.Immunol. 5, p233-236, 2004
【非特許文献2】Zolla-Pazner, S. et al., Nat.Rev.Immunol. 4, p199-210, 2004
【非特許文献3】Eda, Y. et al., J.Virol. 80:5552-5562, 2006
【非特許文献4】Haynes, BF et al., Science 308, p1906-1908, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、広範囲のHIV株に対して中和活性を有するモノクローナル抗体を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
HIVに対する感染阻止ワクチンが未だに開発されていない理由のひとつは、有効な中和抗体が明らかにされていない点にある。一方、HIVに感染しながら、長期に亘り進行のみられない長期非進行症例の中には広範囲のウイルス株に対し、中和活性を示し、ウイルスの増殖をコントロールしている症例が存在する。本発明者らは、HIVに感染しながら、長期に亘り進行のみられない長期非進行症例において、どのような中和抗体が有効に働いているかを調べるために、末消血のB細胞をEBウイルスにて不死化し、クローニングによって単クローン抗体産生株を作成した。得られた単クローン抗体はその性質の研究から長期非進行症例における有効な抗ウイルス反応を明らかにできるばかりでなく、ワクチン開発や新たな治療薬の開発に応用することができる。
【0007】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 以下の何れかの抗体から選択される、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のV3ループを認識するモノクローナル抗体。
(a) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する抗体;
(b) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号3に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する抗体:
【0008】
(2) 以下の何れかの抗体から選択される、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のCD4結合部位を認識するモノクローナル抗体。
(a) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号5に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する抗体;
(b) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号7に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号8に記載のアミノ酸配列を有する抗体;
(c) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号9に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する抗体:
【0009】
(3) 受託番号FERM BP-11021、又は受託番号FERM BP-11060を有する細胞が産生する、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のV3ループを認識するモノクローナル抗体またはその断片。
(4) 受託番号FERM BP-11020、受託番号FERM BP-11022、又は受託番号FERM BP-11023を有する細胞が産生する、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のCD4結合部位を認識するモノクローナル抗体。
(5) 長期非進行症例のHIV感染患者のB細胞をgp120に対する結合性についてスクリーニングし、gp120結合抗体を産生するB細胞を選択することによって得られる細胞によって製造される、(1)から(4)の何れかに記載の抗体。
(6) 長期非進行症例のHIV感染患者のB細胞をgp120に対する結合性についてスクリーニングし、gp120結合抗体を産生するB細胞を選択し、選択されたB細胞が産生する抗体を採取することを含む、(1)から(5)の何れかに記載の抗体の製造方法。
【0010】
(7) 受託番号FERM BP-11021、又は受託番号FERM BP-11060を有する、(1)に記載の抗体を産生する細胞。
(8) 受託番号FERM BP-11020、受託番号FERM BP-11022、又は受託番号FERM BP-11023を有する、(2)に記載の抗体を産生する細胞。
(9) (1)から(5)に記載の少なくとも1種類以上のモノクローナル抗体を含む、HIV感染症の予防及び/又は治療薬。
(10) (1)又は(3)に記載のモノクローナル抗体と、(2)又は(4)に記載のモノクローナル抗体とを組み合わせて含む、HIV感染症の予防及び/又は治療薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明のモノクローナル抗体は、AIDS/HIV-1感染症の予防・治療薬として有用である。また、本発明のモノクローナル抗体は、中和抗体誘導型のHIVワクチンの開発における研究試薬としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様及び実施方法について説明する。
1.本発明のモノクローナル抗体
本発明のモノクローナル抗体の第一の例は、以下の何れかの抗体から選択される、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のV3ループを認識するモノクローナル抗体である。
(a) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する抗体;
(b) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号3に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する抗体:
【0013】
上記抗体の具体例としては、受託番号FERM BP-11021、又は受託番号FERM BP-11060を有する細胞が産生する、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のV3ループを認識するモノクローナル抗体またはその断片を挙げることができる。
【0014】
本発明のモノクローナル抗体の第二の例は、以下の何れかの抗体から選択される、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のCD4結合部位を認識するモノクローナル抗体である。
(a) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号5に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する抗体;
(b) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号7に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号8に記載のアミノ酸配列を有する抗体;
(c) H鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号9に記載のアミノ酸配列を有し、L鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する抗体:
【0015】
上記抗体の具体例としては、受託番号FERM BP-11020、受託番号FERM BP-11022、又は受託番号FERM BP-11023を有する細胞が産生する、エイズウイルスのエンベロープ糖タンパク質gp120のCD4結合部位を認識するモノクローナル抗体を挙げることができる。
【0016】
本明細書の実施例に記載したモノクローナル抗体3D6(0.5δ)、5G2、42F9、及び49G2を産生する細胞はそれぞれ、受託番号FERM BP-11020、受託番号FERM BP-11021、受託番号FERM BP-11022、及び受託番号FERM BP-11023として、2008年(平成20年)9月17日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6)に寄託されており、本明細書の実施例に記載したモノクローナル抗体1C10(0.5γ)を産生する細胞は、受託番号FERM BP-11060(受領番号FERM ABP-11060)として、2008年(平成20年)11月7日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6)に寄託されている。
【0017】
本明細書で抗体と言う場合、全長の抗体だけではなく抗体の断片も包含する意味で使用される。抗体の断片とは、機能性の断片であることが好ましく、例えば、F(ab’)2、Fab’などが挙げられる。F(ab’)2、Fab’とは、イムノグロブリンを、蛋白分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)で処理することにより製造されるもので、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体断片である。さらに、抗体の断片と言う場合には、該抗体をコードする遺伝子由来の抗原結合部位を含む蛋白質も包含するものとする。
【0018】
例えば、IgG1をパパインで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断されてVL(L鎖可変領域)とCL(L鎖定常領域)からなるL鎖、及びVH(H鎖可変領域)とCHγ1(H鎖定常領域中のγ1領域)とからなるH鎖フラグメントがC末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な2つの抗体フラグメントを製造することができる。これら2つの相同な抗体フラグメントを各々Fab’という。またIgGをペプシンで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の下流で切断されて前記2つのFab’がヒンジ領域でつながったものよりやや大きい抗体フラグメントを製造することができる。この抗体フラグメントをF(ab’)2という。
【0019】
また、本発明のモノクローナル抗体は、固相担体などの不溶性担体上に固定された固定化抗体として使用したり、標識物質で標識した標識抗体として使用することができる。このような固定化抗体や標識抗体は全て本発明の範囲内である。
【0020】
固定化抗体とは、不溶性担体に物理的吸着あるいは化学的結合等によって坦持された状態にある抗体を言う。これらの固定化抗体は、試料(例えば、血漿等の体液試料、培養上清あるいは遠心上清等)中に含まれる抗原を検出、定量、分離または精製するために用いることができる。抗体を固定化するのに使用できる不溶性担体としては、例えば、(1)ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂あるいはナイロン樹脂等からなるプラスチックや、ガラス等に代表されるような水に不溶性の物質からなるプレート、試験管若しくはチューブ等の内容積を有するもの、ビーズ、ボール、フィルター、あるいはメンブレン等、並びに(2)セルロース系担体、アガロース系担体、ポリアクリルアミド系担体、デキストラン系担体、ポリスチレン系担体、ポリビニルアルコール系担体、ポリアミノ酸系担体あるいは多孔性シリカ系担体等のようなアフィニティークロマトグラフィーに用いられる不溶性担体を挙げることができる。
【0021】
標識抗体とは、標識物質で標識された抗体を意味し、これらの標識抗体は、試料(例えば、血漿等の体液試料、培養上清あるいは遠心上清等)中に含まれる抗原を検出または定量するために用いることができる。本発明で用いることができる標識物質は、抗体に物理的結合又は化学的結合等により結合させることによりそれらの存在を検出可能にするものであれば特に限定されない。標識物質の具体例としては、酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジンあるいは放射性同位体等が挙げられ、より具体的には、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ-ス-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、3H、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体、ビオチン、アビジン、または化学発光物質が挙げられる。標識物質と抗体との結合法は、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法又は過ヨウ素酸法等の公知の方法を用いることができる。
【0022】
ここで、放射性同位体及び蛍光物質は単独で検出可能なシグナルをもたらすことができるが、酵素、化学発光物質、ビオチン及びアビジンは、単独では検出可能なシグナルをもたらすことができないため、さらに1種以上の他の物質と反応することにより検出可能なシグナルを生じる。例えば、酵素の場合には少なくとも基質が必要であり、酵素活性を測定する方法(比色法、蛍光法、生物発光法あるいは化学発光法等)に依存して種々の基質が用いられる。また、ビオチンの場合には少なくともアビジンあるいは酵素修飾アビジンを反応させるのが一般的である。必要に応じてさらに該基質に依存する種々の発色物質が用いられる。
【0023】
2.本発明のモノクローナル抗体を産生する細胞
本発明は、上記した本発明のモノクローナル抗体を産生する細胞にも関する。本発明のモノクローナル抗体は当該細胞を用いて製造することができる。以下、本発明のモノクローナル抗体を産生する細胞の取得方法を説明する。
【0024】
HIV患者の末梢血液から、通常の比重遠心法等によりBリンパ球を含むリンパ球を回収し、このリンパ球の中から安定的に抗体を産生し、かつ無制限に増殖を続ける細胞株を得るためEBV による形質転換を行う。EBV はヒト正常Bリンパ球を増殖型の細胞株に形質転換させるウイルスである(Nature,Vol.269,P.410(1973))。EBV 含有材料としては、マーモセット細胞B95-8株(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,Vol.87,P.3333~3337(1990))を用いることができる。先ず、広範なHIV株に対して中和活性を持つ長期非進行症例の患者より、末梢血をヘパリン含有採血管に採血し、比重遠心分離法などで末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)分画を採取する。得られたPBMCからダイナビーズ、イムノマグネットにてCD8陽性細胞を除去する。CD8-depleted PBMCを、EBウイルス産生株B95-8(ATCC)の培養上清50%を含む培地(15%fetal calf serum;FCS 含有RPMI1640)に浮遊し、24well culture dish (Linbro,ICN) に移し、37℃、5%CO2含有インキュベーターにて12~18時間程度培養する。この間に末梢血中のB細胞にEBウイルスが感染し、その104に1株の割合で不死化細胞を得ることができる。増殖する細胞の培養上清を回収し、 gp120-capture assayにてスクリーニングし、スクリーニングで繰り返し陽性と判断されるクローンに関しては。正常人のPBMCにX線照射した細胞をフィーダーとして、限界希釈法にてクローニングし、抗gp120活性をもつ抗体産生細胞を分離することができる。必要であればクローニングの手順を繰り返す。
【0025】
上記で得られたEBV 形質転換細胞株を培養することによって、目的とする本発明のモノクローナル抗体を産生させることができる。培養液中の抗体の精製は、例えば、DEAE陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法、エタノール分画法ななどの公知の手法を必要に応じて適宜組み合わせることによって行うことができる。
【0026】
3.本発明の抗体の遺伝子
本発明の抗体をコードする遺伝子は、上記した本発明のモノクローナル抗体を産生するEBV 形質転換ヒト細胞に由来するmRNAを用いてcDNAライブラリーを作製し、その中から本発明のモノクローナル抗体をコードするcDNAを含むプラスミドを単離することによって取得することができる。mRNAは、EBV 形質転換細胞を培養し、グアニジニウムイソチオシアネート溶液で細胞を溶解させた後に抽出することによって調整することができる。得られたmRNAを鋳型としてcDNAを作製し、これをベクターに組み込むことでcDNAライブラリーを作製する。このcDNAライブラリーを用いて、本発明のモノクローナル抗体をコードする遺伝子を取得することができる。
【0027】
また、本発明の抗体の遺伝子は、それらの塩基配列及びアミノ酸配列が、以下の実施例により明らかにされたので、当業者に公知の遺伝子の化学合成法によって製造することもできる。例えば、配列番号1及び2で表わされるアミノ酸配列をコードする適当な塩基配列並びにそれに相補的な基配列をそれぞれ含む遺伝子は、それらの遺伝子を幾つかのオリゴヌクレオチドに分けて化学合成し、ブロックごとに順次適切に連結することによっても作製できる。
【0028】
本発明のモノクローナル抗体をコードする遺伝子は、発現ベクターに挿入して、組み換え発現ベクターを構築することができる。発現ベクターは一般的には、翻訳開始コドン(ATG)の上流にプロモーター領域を有し、翻訳終止コドン(TAA、TGA又はTAG)の下流にポリAシグナル領域を有する。組み換え発現ベクターは、公知の方法により宿主細胞に導入し、この形質転換された宿主細胞を培養することにより、本発明のモノクローナル抗体を発現させることができる。宿主細胞としては大腸菌、酵母、あるいは動物細胞などを用いることができる。形質転換された宿主細胞を培養することにより、本発明のモノクローナル抗体を培養物中に産生させることができる。
【0029】
4.本発明のモノクローナル抗体を用いた医薬
本発明のモノクローナル抗体は、必要に応じて、薬学的に許容される適当な担体、賦形剤、希釈剤などを用いて、HIV感染症の予防及び/又は治療薬として用いることができる。HIV感染症の予防及び/又は治療薬としては例えば注射剤として製剤することができる。HIV感染症の予防及び/又は治療薬の投与量は、患者の症状の程度、年令及び体重、投与方法などに依存し、有効成分である抗体の重量としては通常、約10ng~約100mg/kg体重の範囲である。
【0030】
5.本発明のモノクローナル抗体を用いたHIVウイルスのエピトープの検出
本発明では、本発明のモノクローナル抗体またはその断片を用いて免疫アッセイを行うことによって、HIVウイルスを検出することもできる。この方法では、好ましくは、少なくとも下記(a)及び(b)の工程を含む。
(a)本発明のモノクローナル抗体またはその断片と試料とを反応させる工程;及び
(b)工程(a)で形成した抗原抗体複合体と、検出のための標識抗体とを反応させる工程;
【0031】
本発明の検出及び/又は定量法は、抗体を用いるアッセイ、即ち免疫アッセイであれば、いずれの方法でもよく、例えば、酵素免疫測定法(ELISA)、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫比濁法、ラテックス凝集反応、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応、粒子凝集反応又はウエスタンブロット法等が挙げられる。
【0032】
本発明の検出法を酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法又は発光免疫測定法等の標識抗体を用いた免疫測定法により実施する場合には、サンドイッチ法又は競合法により行うこともでき、サンドイッチ法の場合には固相化抗体及び標識抗体のうち少なくとも1種が本発明のモノクローナル抗体であればよい。
【0033】
抗体を固相担体に感作させて用いる場合には、固相担体としては、ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル類ポリマー、ラテックス、ゼラチン、リポソーム、マイクロカプセル、赤血球、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、金属化合物、金属、セラミックス又は磁性体等の材質よりなる粒子を使用することができる。
【0034】
この感作の方法としては、物理的吸着法、化学的結合法又はこれらの方法の併用等の公知の方法を使うことができる。測定の操作法は公知の方法により行うことができるが、例えば、光学的方法により測定する場合には、試料と抗体、又は試料と固相担体に感作させた抗体を反応させ、エンドポイント法又はレート法により、透過光や散乱光を測定する。
【0035】
また、目視的に測定する場合には、プレートやマイクロタイタープレート等の容器中で、試料と固相担体に感作させた抗体を反応させ、凝集の状態を目視的に判定する。なお、目視的に測定する代わりにマイクロプレートリーダー等の機器を用いて測定を行ってもよい。
【0036】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
実施例1:中和単クローン抗体の作製
末梢血B細胞にEBウイルスを感染させ、クローニングを繰り返し、抗gp120活性をもつ抗体産生細胞を分離する。作成方法は、基本的に我々が以前ヒトT 細胞白血病ウイルス1型(Human T-cell leukemia virus type 1; HTLV-1)感染症例について行った方法を応用したものである(Matsushita S., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 83:3672-3676, 1986)。広範なウイルス株に対して、中和活性を持つ一人の長期非進行症例より、末梢血をヘパリン含有採血管に採血し(20~30ml)、ファイコールハイパックによる比重遠心分離法にて、末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)分画を採取する。得られたPBMCからダイナビーズ、イムノマグネットにてCD8陽性細胞を除去する。具体的には、PBMCをダイナビーズCD8と1時間4℃でインキュベートし、磁気ビーズを磁気器具にて除去し、CD8除去PBMC(CD8-depleted PBMC)を得る。CD8-depleted PBMC1~10x106に対し、EBウイルス産生株B95-8(ATCC)の培養上清 50%を含む培地(15%fetal calf serum;FCS 含有RPMI1640)2~5mlに浮遊し、24well culture dish (Linbro,ICN) に移し、37℃、5%CO2含有インキュベーターにて12~18時間培養する。この間に末梢血中のB細胞にEBウイルスが感染し、その104に1株の割合で不死化細胞が得られると考えられる。培養した細胞を集め遠心して古い培地を捨てて、新しい培地にCD8-depleted PBMC として1 wellあたり1X104以下となるように、96well flat bottom culture plate (Falcon ) に分注し、さらに37℃、5%CO2インキュベーターにて培養する、7日から10日ごとに培地を半分新しいものに交換しながら、B細胞株の増殖を待つ。増殖してきた細胞は、48well,または24wellのculture dish (Linbro,ICN)にExpandし、増殖する細胞の培養上清を回収し、後述の“gp120-capture assay”にてスクリーニングする。スクリーニングで繰り返し陽性と判断されるクローンに関しては。正常人のPBMCにX線照射した細胞をフィーダーとして、限界希釈法にてクローニングし、抗gp120活性をもつ抗体産生細胞を分離する。必要であればクローニングの手順を繰り返す。
【0038】
実施例2:gp120-capture ELISA
抗gp120活性をもつ抗体産生細胞のスクリーニングには“gp120-capture ELISA”をもちいた(J.P.Moore et al., J.Virol.67,p6136-6151,1993)。すなわち、実験前日、96well polypropyren plate (Falcon)にCCbuffer (Carbonate-bicarbonate buffer, pH 9.6)で13.3μg/mlに調整した抗gp120-C5 sheep抗体(D7324, Aalto Bioreagents, Dublin, Ireland) を50μl加え、4℃で一晩静置する。上清を取り除いた後、blocking buffer (2% ウシ血清アルブミン;BSA、0.1% Azide、PBS、pH7.2) 175μlを加え、室温で30分間静置する。ELISA wash buffer (0.15% Tween20、PBS pH7.2)で3回ウェルを洗浄後、単量体gp120(gp120-SF2;Austral Biologicals、San Ramon, California)を50μlずつ加える。2時間室温に静置した後、ELISA wash bufferで3回洗浄し、"gp120-captured plate"を作成する。このplateにB細胞培養上清を加えて室温で2時間反応させる。ELISA wash bufferで3回洗浄し、ELISA bufferで1000倍希釈した抗ヒトIgG-ALP100μlを加えて室温で1時間静置する。ELISA wash bufferで3回洗浄し、Substrate buffer (Diethanol amine buffer pH9.85)にPhospatase substrate (SIGMA)を溶かし各100μlをウェルに加えて室温で10~30分静置後マイクロプレートリーダーにて吸光度(405nm)を測定する。このようにしてgp120結合抗体を産生するB細胞クローン20種類が得られた(表1)。
【0039】
【表1】
JP0005526386B2_000002t.gif

【0040】
実施例3:単クローン抗体の分類
gp120に反応する抗体は反応エピトープによって次の4種類に分類される。すなわち、CD4結合部位(CD4binding site;CD4bs)、CD4誘導エピトープ(CD4induced epitope;CD4i)、 第3可変部位(V3loop;V3L)及びこれらに分類できないもの(other epitopes)である。V3Lに結合する抗体かどうかはV3Lのアミノ酸配列を持つ合成ペプチドを用いたELISA(V3-peptide ELISA)で判定する。今回は抗体の由来する症例のウイルスのV3配列に最も近いJR-FL株のV3配列(NNT20; NNTRISIHIGPGRAFVTIGK)を用いた。すなわち、実験の前日にPBSで5μg/mlに希釈したペプチド(NNT20)を96well polypropyren plateの各wellに100μlを加え、4℃で一晩静置する。上清を取り除いた後、blocking buffer 175μlを加え、室温で30分間静置する。ELISA wash bufferで3回洗浄後、B細胞培養上清を加えて室温で2時間反応させる。ELISA wash bufferで3回洗浄し、抗ヒトIgG-ALP100μlを1時間反応させ、洗浄後にALP-Substrateを用いて発色させ、吸光度(405nm)を測定した。得られた20種類の抗体に関してV3-peptide ELISAをおこなったところ、6種類がV3に反応する抗体であった。
【0041】
一方、CD4bs抗体とCD4i抗体はgp120-capture ELISAにおける可溶性CD4{soluble CD4 (sCD4):R&D Systems, Inc. Minneapolis, MN}の影響が正反対である。すなわち、CD4bs抗体はsCD4存在下に反応が抑制される。逆にCD4i抗体のgp120に対する反応性はsCD4存在下に増強される。この性質を利用して、単クローン抗体の分類を行った。上述のgp120-capture ELISA の手順と同じ手順で“gp120-captured plate”を作成し、段階希釈した単クローン抗体を0.5μg/mlのsCD4存在もしくは非存在下に2時間反応させ後、ELISA wash bufferで3回洗浄し、抗ヒトIgG-ALP100μlを1時間反応させ、洗浄後にALP-Substrateを用いて発色させ、吸光度(405nm)を測定した。図1に示すようにV3抗体はコントロールとして用いたKD-247を含めてsCD4の影響を受けない。sCD4存在下に結合活性が抑制されるクローンが0.5δ(3D6),42F9,49G2,4E3,7B5の5種類あった(b12をコントロールとして用いた)。また、逆にsCD4で反応が増強される抗体が、4C11,4E9B,5D6S及び7F11の4種類あった(コントロールとして17bを用いた)。V3-peptide ELIAで反応が見られず、しかもsCD4の影響も見られないものが5種類あり、これらはepitope特異性を確認できなかった(other epitopes)。
【0042】
実施例4:機能的エンベロープへの結合活性
HIV-1はウイルス粒子上および慢性感染細胞表面に標的細胞に膜融合をおこす機能的エンベロープを持つことが知られている。作成した抗体がこの機能的エンベロープを認識できるかどうか検討するため、HIV-1JR-FL株慢性感染細胞(PM1/JR-FL)の細胞表面に対する抗体の結合活性をフローサイトメーターにて調べた。また、この反応性に関してsCD4の影響が見られるかどうか検討した。2x105のPM1/JR-FLを試験管にとり、1μg/ml にFACS buffer(2%BSA, 0.02% Azide in PBS; pH 7.23)で希釈調整したsCD4またはFACS bufferのみを50μl加えた。15分反応させ、FACS buffer にて1~3μg/mlに希釈した単クローン抗体を50μl加え室温で45分反応させた。FACS bufferにて2回洗浄後、FACS buffer で1:200倍に希釈したFITC結合抗ヒトIgG抗体(Sigma)50μl加えて4℃、暗所にて30分間保温した。その後、FACS bufferにて2回洗浄し、0.5mlの固定液{2%(w/v) paraformaldehyde in PBS}で固定した。固定したサンプルは、FACSCalibur(Beckton-Dickinson)にて解析した。取り込んだデータはCell Quest(Beckton-Dickinson)にて解析した。図2に示すようにV3L抗体は5種類とも感染細胞表面への明らかな結合活性が認められた。しかも、この活性はsCD4存在下に増強された。sCD4非存在下では1D9,2F8,3E4,3G8の4クローンに比べ、1C10(0.5γ)及び5G2では強い反応が認められた。CD4bsに分類される抗体のうち3D6(0.5δ),42F9,49G2では感染細胞表面への結合活性が認められたが、4E3と7B5では認められなかった。 gp120単量体での反応と異なり、3量体から成る機能的エンベロープではsCD4によるCD4bs抗体の結合阻害は認められなかった。一方、CD4i抗体に関しては、4種類の抗体ともsCD4非存在下では弱い反応しか認めないが、sCD4存在下にはV3抗体に匹敵するほどの反応性の増強を認めた。Epitopeが同定できなかった5種類の抗体に関してはどれも感染細胞表面への結合活性を認めなかった。
【0043】
実施例5:中和抗体の精製及び中和活性の検討
20種類の抗体のうち細胞表面への結合活性及び抗体産生の量などを勘案して15種類に関して細胞を増やし、培養上清を集めてフィルターし、プロテインAカラムまたはプロテインGカラム(GE Healthcare)にて単クローン抗体を精製した。精製した単クローン抗体を用いて、実験室でよく用いられている4種類のHIV-1株のenvelopeを用いたシュードタイプに対する中和活性を抗体濃度10μg/ml及び2μg/mlで検討した(図3)。シュードウイルスの作製については293T細胞をトランスフェクション前日に100mmコラーゲンコートプレート(IWAKI)に4×106になるように蒔き、37℃で一晩培養した後、5μgのpNL4-3-Luc-E-R-または5μgのpSG3ΔEnv(Li M. et.al,J.Virol.79,p10108-10125,2005)、4.5μgのエンベロープ発現ベクターおよび0.5μgのpRSV-REVベクターをEffectene (QIAGEN)にて導入し、37℃、5%CO2にて培養した。24時間後に上清を回収し、0.2μmフィルターに通し、分注して-80℃にて保存した。得られたシュードウイルスはp24 Antigen ELISA kit (ZeptoMetrix Co.)でp24の抗原量を測定した。シュードウイルスを用いたSingle-round中和実験は以下のようにおこなった。実験前日にGHOST-hi5細胞またはTZM-bl細胞を平底96ウェル細胞培養用プレート(Falcon)に200μlあたり2×104になるように蒔いた。コンフルエントの70%程度まで増殖したら、200-500TCID50のpseudotyped virusと各濃度の抗体とを10%ウシ胎児血清(FCS)、0.1mg/ml G418、0.05mg/ml Hygromycin-B、5μg/ml Puromycin、20μg/ml Polybrane(GHOST-hi5の場合)または10%FCS、10μg/ml DEAE-dextran(Pharmacia Biotech, TZM-blの場合)を含むDMEMを混合し、15分間氷上で静置した。培養液を除去した標的細胞に100μlの抗体/ウイルス混合溶液を加えて37℃、5%CO2で2時間インキュベートし、ウイルスを標的細胞に吸着させた。その後さらに100μlの上記の抗生物質等を含むDMEMを加え、37℃、5%CO2にて2日間培養した。上清を除去し、PBS(pH 7.4)にて3回洗い、PBSで5倍希釈した30μlのLysing buffer(Luc PGC50; 東洋インキ、GHOST-hi5の場合)またはLysing solution (Applied Biosystems、TZM-blの場合)を加え15分間振盪した。そのうち20μlを発光測定用のプレート(Coster 3912)へ移し、luciferase基質(ピッカジーン、東洋インキ)を100μl加え、10秒後にTR477 microplate luminometer(Applied Biosystems)にて蛍光強度を測定した (GHOST-hi5の場合)。TZM-bl細胞の場合は、発光測定用のプレートに移したあと、Reaction buffer diluentで50倍希釈したGalacto-Star (Applied Biosystems)を100μl加え、1時間暗所にて静置した。その後、TR477 microplate luminometerにてβ-galactosidase活性を測定した。中和活性は、{1-(t-c)/(n-c)}×100(t; サンプルの蛍光強度、c; 細胞のみのバックグラウンド蛍光強度、n; 抗体無しサンプルの蛍光強度)で計算した。同じ抗体濃度で3ウェルにて実験を行い、独立した実験を2-3回ずつ行った。
【0044】
得られた結果を図3に示す。中和感受性が高い株として知られているSF162株に関してはテストした単クローン抗体のほとんどのものに中和活性を認めた。一方、比較的中和抵抗性である89.6及びJR-FLに関してはV3抗体{特に0.5γ(IC10)と5G2}には中和活性を認めたもののCD4bs抗体、CD4i抗体に関してみると、弱い中和活性のみを認めた。一方、V3-tipのアミノ酸配列が他のウイルスと異なるIIIBに関しては、V3抗体は有効ではなかったが、CD4bs抗体とCD4i抗体の一部に中和活性を認めた。これらのデータはこれらの抗体を持つ症例においてHIV-1の様々な株に対する交叉中和活性が主にV3抗体とCD4bs抗体の相補的な中和によっていることを示唆する。これらの単クローン抗体の中でも、V3抗体の0.5γ(IC10)と5G2、CD4bsの0.5δ (3D6), 49G2, 42F9に強い中和活性を認め、さらに中和実験を進めた。
【0045】
実施例6:臨床分離株を含む17種類のウイルス株に対する中和活性の検討
臨床分離株を含む17種のウイルス株に対する中和活性を検討した(表2)。中和実験は以下のようなMTT assayを用いた。方法は96well round-bottom micro culture plateにて、各濃度の抗体存在下で100 TCID50のウイルスを2x103のPM1/CCR5に感染させ、37℃で7日間培養した。それぞれのwellから100μlの培養液を取り除き、phosphate-buffered saline (PBS)に溶かしたMTT (3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide) 溶液 (7.5mg/ml) 10μlを加え、37℃で3時間インキュベートした。4% Triton X-100 (vol/vol)を含んだacidified isopropanol 100μlを各wellへ加えてformazan crystalを遊離させた。マイクロプレートリーダーにて吸光度(570nm)を測定して、細胞の生存率を算出した。実験は2-3回繰り返した。50%のウイルス感染を阻止する抗体濃度(IC50)を算出し、IC50にあたる抗体濃度を色分けして示した。
【0046】
臨床分離株を含む様々なHIV-1株に対する中和抗体活性を表2に示す。クローン5G2は従来の技術であるKD-247抗体と同等であるが、抗V3抗体の0.5γ(1C10)及びCD4bs抗体の 0.5δ(3D6), 49G2はsubtype B(欧米型)のHIV-1に対し、広汎で強力な中和活性を示した。注目すべきはV3抗体の0.5γ(IC10)が中和しない株はCD4bs 抗体の0.5δ(3D6)や49G2が中和するという相補的な中和を示したことである。
【0047】
【表2】
JP0005526386B2_000003t.gif

【0048】
実施例7:CD4bs抗体0.5δによるV3抗体の反応性の増強
gp120はCD4分子と結合後に立体構造変化を起こすことが知られている。一方、CD4bs抗体が立体構造変化を起こすかどうかに関しての研究はほとんどなかった。我々は、CD4bs抗体がgp120に結合後にgp120に立体構造変化を起こし他の抗体の反応性を変化させる可能性を考えた。前述のgp120-captureELISAの方法で“gp120-captured plate"を作成し、CD4bs抗体のひとつである0.5δ(3D6)またはコントロールの抗体(8D11)を5μg/mlの濃度で15分反応させ、これにBiotin(Pierce, Rockford IL)を結合させた抗体、1C10,3E4,3D6,4C11を各濃度で2時間反応させた。ELISA wash buffer で洗浄後Avidin-ALP(Zymed)を1時間反応させ基質を加えて発色させる。結果を図4に示す。ビオチン化した0.5γ(1C10)や3E4のV3抗体は0.5δ存在下にgp120に対する反応性が著名に増加した。一方、ビオチン化した0.5δ(3D6)や4C11の反応性は0.5δ存在下に抑制された。このように、CD4bs抗体の0.5δは単独でgp120に立体構造変化を起こしV3抗体(特に0.5γ)の反応性を飛躍的に拡大させることがわかった。
【0049】
実施例8:0.5δと0.5γの併用による相乗的中和効果
前述のように0.5δは0.5γの反応性を増加させることから、0.5δと0.5γの中和活性におけるcombination効果を検討した。各濃度の0.5δと0.5γの組み合わせを用いてJR-FL株に対する中和活性をMTT assay を用いて検討した。図5に示すように二つの抗体の併用で中和活性の相乗的増強が観察された。相乗効果の解析はChow/Talaleyらの分析法と3-Dimensional分析法を用いた。これらのin vitroの観察は、in vivoではV3抗体とCD4bs抗体が相互作用して、さらに強力な中和反応を起こしているのではないかと推測させる。これらのデータから広範囲で強力な中和抗体反応には広範囲の株に反応するV3抗体とCD4bs抗体の両者が必要と考えられた。
【0050】
実施例9:国際標準ウイルスパネルに対する中和活性
国際的にAIDSワクチン開発のデータを評価するため、標準となるウイルスが米国の機関(NIAID ARRP)から供給されている。12種類のシュードウイルスからなるsubtype (clade) B ウイルスのパネル(Standard Virus Panels B;SVPB)を用いた中和データを表3に示す。表3に示すように0.5γ(IC10)は50μg/mlで7/12 、150μg/mlまでの濃度で10/12のウイルスの増殖を50%以上抑制できた。一方、従来技術の抗体であるb12は8/12、 2G12は6/12、447-52Dでは1/12、KD247は3/12という結果であった。従来技術であるb12、2G12 、447-52D(447D)のデータは論文からの引用である(Li M. et.al,J.Virol.79,p10108-10125,2005)。b12と2G12 は50μg/mlまでのデータであり、447-52D(447D)は25μg/mlまでのデータしかないので必ずしも比較できないが、これらの従来技術とは明らかに異なり、0.5γ(1C10)は幅広い中和活性を示していることがわかる。CD4bs抗体であるb12も広汎な中和活性を持つが、自己抗体によく見られるheavy chain CDR3が18アミノ酸と長い特殊な抗体である(Saphire EO.et al., Science239,p1155-1159)。一方、0.5γ(1C10)のCDR3は11アミノ酸からなる。
【0051】
【表3】
JP0005526386B2_000004t.gif

【0052】
実施例10:単クローン抗体の抗原結合部位の遺伝子配列の決定
我々はそれぞれの代表的中和単クローン抗体、抗V3:0.5γ(1C10),5G2, CD4bs: 0.5δ(3D6), 42F9, 49G2について抗原結合部位の遺伝子配列を決定した。結果を図6から図10、及び配列表の配列番号1から20に示す。方法はそれぞれの細胞株からRNAを抽出しMarksらの方法に従ってVH及びVLをPCRで増幅し同定した(Marks, J. D.et.al., J. Mol. Biol., 222: 581-597, 1991)。
【0053】
配列番号1:0.5γ(1C10)のH鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列
配列番号2:0.5γ(1C10)のL鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列
配列番号3:5G2のH鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列
配列番号4:5G2のL鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列
配列番号5:0.5δ(3D6)のH鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列
配列番号6:0.5δ(3D6)のL鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列
配列番号7:42F9のH鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列
配列番号8:42F9のL鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列
配列番号9:49G2のH鎖の可変領域(VH)のアミノ酸配列
配列番号10:49G2のL鎖の可変領域(VL)のアミノ酸配列
【0054】
配列番号11:0.5γ(1C10)のH鎖の可変領域(VH)の塩基配列
配列番号12:0.5γ(1C10)のL鎖の可変領域(VL)の塩基配列
配列番号13:5G2のH鎖の可変領域(VH)の塩基配列
配列番号14:5G2のL鎖の可変領域(VL)の塩基配列
配列番号15:0.5δ(3D6)のH鎖の可変領域(VH)の塩基配列
配列番号16:0.5δ(3D6)のL鎖の可変領域(VL)の塩基配列
配列番号17:42F9のH鎖の可変領域(VH)の塩基配列
配列番号18:42F9のL鎖の可変領域(VL)の塩基配列
配列番号19:49G2のH鎖の可変領域(VH)の塩基配列
配列番号20:49G2のL鎖の可変領域(VL)の塩基配列
【0055】
(考察)
これらの新規単クローン抗体はクレイドBのウイルスに対して広範で強力な中和活性を示した。特に、0.5γ(IC10)は現在使用しうる抗体の最高水準にあると考えられる。これらの抗体はワクチン開発に重要な役割を果たすだけでなく、抗体そのものまたはその断片、もしくはその遺伝子をもとに作製される分子はAIDS/HIV感染の予防・治療に用いられる可能性がある。
【0056】
実施例11:各種ウイルス株に対する中和活性の検討
Subtype (clade) B ウイルスのパネル(SVPB)と同様に, subtype Cウイルスのパネルも供給されている。図11に示すようにsubtype Cパネルの中の2つ (SVPC13とSVPC15)のウイルスに対して、CD4bs抗体の0.5δ(3D6)と49G2と42F9はコントロール抗体に比べ明らかに中和活性が認められた。また、subtype AEウイルスである93TH976.17と93TH966.8に対してもこれらのCD4bs抗体は中和活性を示していた。これら3つのCD4bs抗体は、subtype B以外のウイルスにも中和が見られることから、抗体によるcross-clade 中和の研究の上でも重要であると考えられる。
【0057】
結果を図11に示す。本発明の抗体0.5δ(3D6)、49G2及び42F9は、調べたSVPC13、SVPC15、93TH976.17、及び93TH966.8に対して阻害活性を示した。
【0058】
実施例12:CCR5阻害剤との本発明の抗体との併用
gp120がCD4に結合した後に、V3はcoreceptor (CCR5またはCXCR4)に結合し、ウイルスは細胞内に侵入する。0.5γや5G2のエピトープであるV3と結合のカウンターパートであるCCR5に対する阻害剤(maraviroc、MVC)は臨床応用の面からも重要な組み合わせと考えられる。そこでV3抗体とCCR5阻害剤(MVC)の組み合わせでJR-FL株に対する中和活性をMTT assayを用いて検討した。図12に示すようにV3抗体とMVCの併用で中和活性の相乗的増強が観察された。相乗効果の解析は3-Dimensional分析法を用いた。これらのin vitroの観察は、V3抗体とCCR5阻害剤が相互作用して、さらに強力なウイルス抑制効果を起こしていると推測させる。これらのデータから臨床での投与においてV3抗体とCCR5阻害剤との併用は、治療効果を増強させうるのではないかと考えられる。
【0059】
結果を図12に示す。本発明の抗体0.5γ(1C10)又は5G2とCCR5阻害剤とを併用することにより、HIV-1JRFLに対する相乗的な阻害効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
現在のHIVの治療法(即ち、抗ウイルス薬の多剤併用療法;HAART療法)では、ウイルスの増殖を抑制できるが、完全に治癒することはなく、いったん治療を開始すると、HAARTの継続が不可欠である。抗ウイルス薬は化学物質であるため、長期継続の過程で様々な長期毒性が出現し、これによって治療中断を余儀なくされている症例が増加している。これに対し、本発明の抗体は、副作用のない新たな治療法(併用療法)の一つの柱になり得るものである。また、本発明の抗体は、針刺し事故時の抗血清として使用することも可能であり、さらに有効なワクチン開発に必要な試薬として使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、gp120-capture ELISA による単クローン抗体の反応性の解析を示す。
【図2】図2は、HIV-1JR-FL慢性感染細胞(PM1/JR-FL)表面への結合活性のFACS解析を示す。
【図3】図3は、4種類のエンベロープシュウドウイルスに対する中和単クローン抗体の交叉中和活性を示す。
【図4】図4は、0.5d(3D6)によるgp120に対するV3抗体反応性の著名な増強を示す。
【図5】図5は、HIV-1JR-FLの抑制に対する0.5g(1C10)と0.5d(3D6)の組み合わせの相乗効果を示す。
【図6】図6は、本発明のモノクローナル抗体0.5γ(1C10)の抗原結合部位の塩基配列及び予想されるアミノ酸配列を示す。
【図7】図7は、本発明のモノクローナル抗体5G2の抗原結合部位の塩基配列及び予想されるアミノ酸配列を示す。
【図8】図8は、本発明のモノクローナル抗体0.5δ(3D6)の抗原結合部位の塩基配列及び予想されるアミノ酸配列を示す。
【図9】図9は、本発明のモノクローナル抗体42F9の抗原結合部位の塩基配列及び予想されるアミノ酸配列を示す。
【図10】図10は、本発明のモノクローナル抗体49G2の抗原結合部位の塩基配列及び予想されるアミノ酸配列を示す。
【図11】図11は、本発明の抗体による各種ウイルス株に対する中和活性を示す。
【図12】図12は、CCR5阻害剤との本発明の抗体とを併用した場合の相乗的な阻害効果を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10】
8
【図11】
9
【図5】
10
【図12】
11