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明細書 :エルロチニブの副作用又は薬効を判定する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5560456号 (P5560456)
公開番号 特開2010-263810 (P2010-263810A)
登録日 平成26年6月20日(2014.6.20)
発行日 平成26年7月30日(2014.7.30)
公開日 平成22年11月25日(2010.11.25)
発明の名称または考案の名称 エルロチニブの副作用又は薬効を判定する方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 2
全頁数 14
出願番号 特願2009-116385 (P2009-116385)
出願日 平成21年5月13日(2009.5.13)
審査請求日 平成24年5月9日(2012.5.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】濱田 哲暢
【氏名】佐々木 治一郎
【氏名】齋藤 秀之
【氏名】興梠 博次
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】中根 知大
参考文献・文献 特開2006-230299(JP,A)
特開2002-223769(JP,A)
国際公開第2004/111231(WO,A1)
Molecular Cancer Therapeutics,2008年,vol.7, no.8,p.2280-2287
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
Science Direct
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の1236番目の塩基におけるC/Tの多型、 ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の2677番目の塩基におけるG/T(A)の多型、及びABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の3435番目の塩基におけるC/Tの多型を検出し、上記3種の塩基が何れもTではない場合には、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用がないと判断し、上記3種の塩基が全てTである場合には、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用があると判断することを含む、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用を判定する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により判定した非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用の情報に基づいてエルロチニブを投与する患者を選別することを含む、エルロチニブを投与する患者の選別方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の遺伝子多型を検出することを含む、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用又は薬効を判定する方法、及び非小細胞肺癌治療薬エルロチニブを投与する患者の選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
進行・再発非小細胞肺癌の治療薬として上皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が開発され、現在実地臨床で使用されている。EGFR-TKIには2つの薬剤があり、日本ではゲフィチニブとエルロチニブ両薬剤が、一方欧米ではエルロチニブが主に用いられている。
【0003】
欧米人対象の大規模臨床試験の結果では、エルロチニブはプラセボと比較して生存期間中央値を2ヶ月間延長させ(エルロチニブ群6.67ヶ月、プラセボ群4.70ヶ月、P <0.01)、延命効果が証明された。また奏効率(腫瘍の最長径が30%以上小さくなった患者の割合)は8.9%、無増悪生存期間は2.2ヶ月で、これらについてもプラセボ群を上回っていた。同試験での多変量解析により、腺癌、非喫煙者、EGFR発現が腫瘍縮小と相関することが報告された。一方、近年の報告ではエルロチニブの副作用である皮膚障害の程度が効果と関連することが報告されており、欧米の研究者の中ではグレード2以上(有害事象共通用語基準Ver3日本語訳)の副作用を呈することが臨床効果を得るのに必要と考えられている。すなわち、実地医療において皮膚障害の程度で効果を予測することが検討されており、副作用を指標にエルロチニブの増量も検討されている。すなわち、皮膚障害であるSkin rashの発現はEGFRを生体内において効率的に阻害している証拠とも考えられるため、本手法は理にかなっていると推定される(Wacker B et al. Clin Cancer Res, 13:3913(2007))。エルロチニブの臨床試験成績より最も懸念される副作用である間質性肺炎はゲフィチニブと同程度と考えられているが、皮膚障害、下痢、食欲不振(消化器症状)、全身倦怠感はゲフィチニブと比較して頻度が高く、特に皮膚障害はより重篤であると言われている。重篤な皮膚障害の発生は投与量の減量あるいは休止をせざるを得ない副作用の一つであるが、前述したような皮膚障害の発生と生存期間延長との関連性に着目すると、この副作用の発生は効果の予測因子であるため、皮膚障害発生時にはステロイド軟膏などを用いた対処療法で対応しつつ、投与を継続することが望ましいとの報告もある。以上を纏めると、エルロチニブ投与における皮膚障害の発生の予測の臨床的意義は、1)投与中止や大幅な減量を避けつつ毒性回避のための最適投与量の推定を行える、2)ハイリスク患者に対して予め最小毒性投与量を調整できる、3)皮膚障害の発生は効果の予測因子でもあるため、エルロチニブの臨床効果を予測できる、の3点に集約できる。
【0005】
皮膚障害と相関する因子として、喫煙、用量、血中濃度が考えられる。喫煙はエルロチニブの不活性酵素であるチトクロームP-450のアイソソームであるCYP1A2を誘導するため血中濃度が低下すると報告されている。欧米では皮膚障害の程度を指標に投与量を倍量の300mgが検討されている。また、血中濃度と皮膚障害の関連も報告されており、最高血中濃度と血中濃度ー時間曲線下面積(AUC)が相関するとの報告もある。
【0006】
そのことから、血中濃度を予測する方法として体内動態に影響を与える薬物代謝関連酵素の遺伝背景に着目した薬理遺伝学的解析(Pharmacogenetics解析)が行われている。Rudinらは、EGFR,CYP3A4,CYP3A5,CYP3A4-CYP3A5のdiplotypeおよびABCG2について検討をしている(Vol.26, 1119-1127, J Clin Oncol, 2008)。彼らの報告では、ABCG2のpromoter regionに含まれる-15622C/Tと1143C/Tのdeplotypeが重要と報告している。また、EGFRの発現量と相関があるとされるEGFR intron 1 polymorphismの関連も示唆されている。
【0007】
現在、エルロチニブの副作用を予測する因子として体格、エルロチニブ血中濃度、性別、前治療の特性、肝機能、腎機能などが検討されており、本発明である遺伝子解析が実施されているが明確な因子は現在見出されていない。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Wacker B et al. Clin Cancer Res, 13:3913(2007)
【非特許文献2】Rudin et al., J Clin Oncol, Vol.26, 1119-1127, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの薬効又は副作用と関連性のある遺伝子多型を同定し、その遺伝子多型を利用して、エルロチニブの副作用又は薬効を判定する方法を提供することである。本発明の更に別の課題は、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブを投与する患者の選別方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、日本人を対象にエルロチニブ投薬患者の皮膚障害発生に対する、血中濃度および遺伝薬理学的解析を実施し、エルロチニブの血中濃度と皮膚障害に直接関連する遺伝子配列を決定し、その臨床的意義を証明した。即ち、P糖タンパクをコードする遺伝子であるABCB1の1236, 2677, 3435番目の塩基が全てTTを有する場合、全ての症例に1週間以内にgrade 2以上の皮膚障害を発現したが(100%)、その配列に全くT alleleを有さない場合、臨床的に問題となるgrade 2以上の副作用の発現は観察されなかった(0%)。また、その中間の配列を持つ場合、皮膚障害の発現頻度は70%となることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明によれば、ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子に存在する少なくとも一種の遺伝子多型を検出することを含む、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用又は薬効を判定する方法が提供される。
【0012】
好ましくは、下記の(1)から(4)よりなる群から選ばれる少なくとも一種の一塩基多型を検出する。
(1)ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の1236番目の塩基におけるC/Tの多型;
(2)ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の2677番目の塩基におけるG/T(A)の多型;
(3)ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の3435番目の塩基におけるC/Tの多型;
(4)上記(1)から(3)の何れかに記載の多型と連鎖不平衡係数D’が0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型。
【0013】
さらに、上記した本発明の方法により判定した非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用又は薬効の情報に基づいてエルロチニブを投与する患者を選別することを含む、エルロチニブを投与する患者の選別方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
非小細胞肺癌治療薬であるエルロチニブは皮膚障害の発生が臨床上問題であり、治療の中断となる症例が知られている。一方、皮膚障害G2以上の場合、臨床的な治療効果と相関するとの報告があり、皮膚障害の発生予測は副作用のマネージメントのみならず、効果予測因子として期待される。現在、上皮成長因子受容体(EGFR)の阻害薬であるエルロチニブ、ゲフィチニブでは腫瘍細胞より採取されたEGFRの遺伝子変異を評価することが知られているが、本発明は末梢血を用いて判定可能であり、汎用性が高い。
【0015】
従来の報告ではEGFR阻害薬の効果予測においてEGFRのexon19と21の遺伝子変異が知られている。また、欧米の報告ではgrade 2以上の副作用発生が臨床的効果と相関があるとの報告がある。しかしながら、EGFR遺伝子変異解析においてもその臨床的効果を全て説明しうるものでなく、臨床検体を全ての症例で採取できうるものではない。また、grade 2以上の副作用発生が臨床的効果予測可能との報告があるが、副作用を指標とする場合、治療開始後に判断するものであり、予め予測できるものでない。本発明は、臨床検体の採取の容易さ、治療前の判断が可能となるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、エルロチニブ(150mg/日)の投与後のエルロチニブの1日目の血漿濃度を示す。
【図2】図2は、ABCB1の遺伝子型とエルロチニブの血中濃度との相関を示す。
【図3】図3は、ABCB1 1236/2677/3435 ハプロタイプの患者におけるエルロチニブ(150mg/日)の投与後のエルロチニブの1日目の血漿濃度を示す。
【図4】図4は、Kaplan-Meier曲線(エルロチニブの投与後のGrade 2毒性とABCB1 1236/2677/3435ハプロタイプ)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法は、ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子に存在する少なくとも一種の遺伝子多型、特には一塩基多型(SNPs)を検出することによって、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用又は薬効を判定する方法である。

【0018】
本発明において「遺伝子に存在する少なくとも一種の遺伝子多型(一塩基多型など)を検出する」とは、(i)当該遺伝子多型(遺伝子側多型と称する)を直接検出すること、及び(ii)前記遺伝子の相補配列側に存在する遺伝子多型(相補側多型と称する)を検出し、その検出結果から遺伝子側多型を推定することの双方を指すものとする。ただし、遺伝子側の塩基と相補配列側の塩基とが完全に相補的な関係にあるとは限らないという理由から、遺伝子側多型を直接検出することがより好ましい。

【0019】
なお、本発明において検出対象となる一塩基多型としては、下記の(1)から(4)よりなる群から選ばれる少なくとも一種の一塩基多型が挙げられる。
(1)ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の1236番目の塩基におけるC/Tの多型;
(2)ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の2677番目の塩基におけるG/T(A)の多型;
(3)ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の3435番目の塩基におけるC/Tの多型;
(4)上記(1)から(3)の何れかに記載の多型と連鎖不平衡係数D’が0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型。

【0020】
ヒトABCB1(Homo sapiens ATP-binding cassette, sub-family B (MDR/TAP), member 1)(P-糖蛋白質)遺伝子の塩基配列は公知であり、例えば、The National Center for Biotechnology Information (NCBI)にNM_000927で登録されている。ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子のコード配列の塩基配列を配列番号1に示し、コードされるアミノ酸配列を配列番号2に示す。

【0021】
上記(1)から(3)に記載したABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の1236番目、2677番目の塩基、及び3435番目の塩基は、それぞれ、配列番号1に記載の3843塩基の塩基配列における1236番目、2677番目の塩基、及び3435番目の塩基に対応する。

【0022】
本発明においては、ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の1236番目の塩基におけるC/Tの多型がTである場合、ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の2677番目の塩基におけるG/T(A)の多型がTである場合、そしてABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の3435番目の塩基におけるC/Tの多型がTである場合は、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用又は薬効の程度が高いと判定できる。

【0023】
これに対し、ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の1236番目の塩基におけるC/Tの多型がCである場合、ABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の2677番目の塩基におけるG/T(A)の多型がGである場合、そしてABCB1(P-糖蛋白質)遺伝子の3435番目の塩基におけるC/Tの多型がCである場合は、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用又は薬効の程度が低いと判定できる。

【0024】
さらに本発明においては、上記(1)から(3)の何れかに記載の多型と連鎖不平衡係数D’が0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型を用いることもできる。連鎖不平衡とは、2つの対立遺伝子がそれぞれ独立に遺伝する場合よりも大きな頻度で互いに連鎖して遺伝することをいう。SNPsマーカーは、日本人を含むアジア人とヨーロッパ人では平均22kb以内で連鎖不平衡が保たれている。また、アフリカ人では平均11kb以内で連鎖 不平衡が保たれていることが報告されている。さらに、このような連鎖不平衡を示す一群の対立遺伝子のことをハプロタイプと称する。所定の遺伝子座において複数のSNPsがある場合、その多型の組み合わせは個人によって異なる。この組み合わせがいわゆるハプロタイプマーカーであり、個人の多様性を表している。このようなハプロタイプマーカーを利用して被験者の遺伝情報と、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用又は薬効の程度を関連付けることができる。連鎖不平衡係数D'は、2つのSNPについて第一のSNPの各アレルを(A,a)、第二のSNPの各アレルを(B,b)とし、4つのハプロタイプ(AB,Ab,aB,ab)の各頻度をPAB,PAb,PaB,Pabとすると、下記式により得られる。
D'=(PABPab-PAbPaB)/Min[(PAB+PaB)(PaB+Pab),(PAB+PAb)(PAb+Pab)]
[式中、Min[(PAB+PaB)(PaB+Pab),(PAB+PAb)(PAb+Pab)]は、(PAB+PaB)(PaB+Pab)と(PAB+PAb)(PAb+Pab)とのうち、値の小さい方をとることを意味する。]

【0025】
本発明では、好ましくは、連鎖不平衡係数D'が0.8以上、より好ましくは0.95以上、さらに好ましくは0.99以上、最も好ましくは1である多型を用いることができる。

【0026】
(検出対象)
遺伝子多型の検出の対象は、ゲノムDNAが好ましいが、場合によっては(つまり多型部位及びその隣接領域の配列がゲノムと同一または完全相補的になっている場合)cDNA、又はmRNAを使用することもできる。また、上記対象を採取する試料としては、任意の生物学的試料、例えば血液、骨髄液、精液、腹腔液、尿等の体液;肝臓等の組織細胞;毛髪等の体毛等が挙げられる。ゲノムDNA等は、これらの試料より常法に従い抽出、精製し、調製することができる。

【0027】
(増幅)
遺伝子多型を検出するにあたっては、まず遺伝子多型を含む部分を増幅する。増幅は、例えばPCR法によって行われるが、他の公知の増幅方法、例えばNASBA法、LCR法、SDA法、LAMP法等で行ってもよい。
プライマーの選択は、例えば、本明細書中上記した一塩基多型部位を含む連続する少なくとも10塩基以上、好ましくは10~100塩基、より好ましくは10~50塩基の配列、及び/又はその相補配列を増幅するように行う。

【0028】
プライマーは、前記の一塩基多型部位を含む所定塩基数の配列を増幅するためのプライマーとして機能し得る限り、その配列において1又はそれ以上の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。

【0029】
増幅のために用いるプライマーは、試料が一の対立遺伝子型の場合にのみ増幅されるようにフォワードプライマー又はリバースプライマーの一方が一塩基多型部位にハイブリダイズするように選択してもよい。プライマーは必要に応じて蛍光物質や放射性物質等により標識することができる。

【0030】
(遺伝子多型の検出)
遺伝子多型の検出は、一の対立遺伝子型に特異的なプローブとのハイブリダイゼーションにより行うことができる。プローブは、必要に応じて、蛍光物質や放射性物質等の適当な手段により標識してもよい。プローブは、前記の一塩基多型部位を含み、被検試料とハイブリダイズし、採用する検出条件下に検出可能な程度の特異性を与えるものである限り何等限定はない。プローブとしては、前記の一塩基多型部位を含む連続する少なくとも10塩基以上、好ましくは10~100塩基の配列、より好ましくは10~50塩基の配列、又はそれらの相補配列にハイブリダイズすることのできるオリゴヌクレオチドを用いることができる。また、一塩基多型部位がプローブのほぼ中心部に存在するようにオリゴヌクレオチドを選択するのが好ましい。該オリゴヌクレオチドは、プローブとして機能し得る限り、即ち、目的の対立遺伝子型の配列とハイブリダイズするが、他の対立遺伝子型の配列とはハイブリダイズしない条件下でハイブリダイズする限り、その配列において1又はそれ以上の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。また、プローブには、RCA(rolling circle amplification)法による増幅に用いられる一本鎖プローブ(パドロックプローブ)のように、ゲノムDNAとアニールし、環状になることによって上記のブロープの条件を満たすプローブが含まれる。

【0031】
本発明に用いるハイブリダイゼーション条件は、対立遺伝子型を区別するのに十分な条件である。例えば、試料が一の対立遺伝子型の場合にはハイブリダイズするが、他の対立遺伝子型の場合にはハイブリダイズしないような条件、例えばストリンジェントな条件である。ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えば、例えば、モレキュラークローニング・ア・ラボラトリーマニュアル第2版(Sambrook et al., 1989)に記載の条件等が挙げられる。具体的には、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mlニシン精子DNAを含む溶液中プローブとともに65℃で一晩保温するという条件等が挙げられる。

【0032】
プローブは、一端を基板に固定してDNAチップとして用いることもできる。この場合、DNAチップには、一の対立遺伝子型に対応するプローブのみが固定されていても、両方の対立遺伝子型に対応するプローブが固定されていてもよい。

【0033】
遺伝子多型の検出は、制限酵素断片長多型分析法(RFLP:Restriction fragment length polymorphism)により行うこともできる。この方法では、一塩基多型部位がいずれの遺伝子型をとるかによって制限酵素により切断されるか否かが異なってくる制限酵素で試料核酸を消化し、消化物の断片の大きさを調べることにより、該制限酵素で試料核酸が切断されたか否かを調べ、それによって試料の多型を分析する。

【0034】
遺伝子多型の検出は、増幅産物を直接配列決定することによって行ってもよい(ダイレクトシークエンシング法)。配列決定は、例えばジデオキシ法、Maxam-Gilbert法等の公知の方法により行うことができる。

【0035】
遺伝子多型の検出は、インベーダーアッセイにより行ってもよい。この方法では、SNPがあるかどうかテストするDNAターゲットフラグメントに対して相補的配列を持つインベーダーオリゴと5’のフラップ構造を持ち、SNPを検出するための相補的オリゴ(シグナルプローブ)を使用する。まずターゲットDNAに対してインベーダーオリゴとシグナルプローブをハイブリダイズさせる。この時、インベーダーオリゴとプローブは1塩基がオーバーラップする構造(invasive structure)を持つ。この部分にCleavase(Archaeoglobus fulgidusから分離されたフラップ・エンドヌクレアーゼ)が作用し、SNP部位のシグナルプローブの塩基とターゲットの塩基が相補的(SNPなし)の場合にはシグナルプローブの5'フリップが切断される。切断された5’フリップはFRET Probe (Fluorescence resonance energy transfer probe)にハイブリダイズする。FRET プローブ上には蛍光色素とクエンチャー(Quencher)が近接しており、蛍光が抑制されるが、5’フリップDNAが結合することによりCleavaseによって蛍光色素の部分が切断され、蛍光シグナルが検出できる。

【0036】
遺伝子多型の検出はまた、変性勾配ゲル電気泳動法(DGGE:denaturing gradient gel electrophoresis)、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP:single strand conformation polymorphism)、対立遺伝子特異的PCR(allele- specific PCR)、ASO(allele-specific oligonucleotide)によるハイブリダイゼーション法、ミスマッチ部位の化学的切断(CCM:chemical cleavage of mismatches)、HET(heteroduplex method)法、PEX(primer extension)法、RCA(rolling circle amplification)法等を用いることができる。

【0037】
前記のプライマー又はプローブとしてのオリゴヌクレオチドは、非小細胞肺癌治療薬エルロチニブの副作用又は薬効を判定するためのキットとして提供できる、キットは、上記遺伝子多型の分析法に使用される制限酵素、ポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸、標識、緩衝液等を含んでいてもよい。

【0038】
本発明を下記の実施例により説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
実験条件:
対象:非小細胞肺癌患者
エルロチニブ投与量:150 mg/m2
薬物動態解析:1日目、8日目、定常状態(安定期, 7日目以降)
【実施例】
【0040】
HPLC法によるエルロチニブの測定;
カラム:C18-ODS
液体-液体抽出
検出限界:0.15μg/ml
【実施例】
【0041】
薬理遺伝学:
全血から生殖系列DNAをMagNaPure (Roche)を用いて抽出した。
解析した遺伝子型は以下の通り。
ABCB1 C1236T, C3435T
SLCO1B3 334T/G
ABCB1 G2677(T/A)
EGFR (CA)n repeat
【実施例】
【0042】
遺伝子解析方法:
ABCB1のSNPs解析方法は既に数多く報告されており、direct sequencing法、PCR-RFLP法などが考えられる(Hoffmeyer S, PNAS, Vol.96, 3473-3478, 2000、及びKim RB, Clin Pharmcol Ther, Vol. 70, 189-199, 2001)。
【実施例】
【0043】
本実施例ではアプライドバイオシステムズのABI Prism 7900を用いてTaq Man アッセイ法で実施した。必要なプローブはアプライドのホームページで検索可能である。Assay IDを以下に示す。測定条件は、本機種のカタログに従って測定を行った。
ABCB1 1236C>T:C___7586662_10
ABCB1 3435C>T:C___7586657_20
【実施例】
【0044】
また、ABCB1 2677G>T/AはTaqMan assayでキット化されていないため、direct sequencing法で実施した。primer情報は以下に示す。ABCB1 2677G>T/A SNPのmRNAでの位置で、3095番目(下記の下線)に相当する。
aagaactaga aggttctggg aagatcgcta(配列番号3)
【実施例】
【0045】
以下にシーケンスのためのプライマー設計図を記載する(配列番号4)。(T)がターゲットである。
cccagatatatttgaatattattaatgacaaacgttaggcttaaattacaaataataatatacctaacattggaaatttccatcattcctagtttgtcagactcctttatcttgctaatttgcagatattgctttagtaatgttgccgtgattaatgaaggttttcttggtattaaaagatccaaagagataggaatatgtaattgaactctagattgttgatattctactttcagcattctgaagtcatggaaattcttactgtagaaactcaataaacttacaagtagacctttactttttagttcattactgataaaataatgaatatagtctcatgaaggtgagttttcagaaaatagaagcatgagttgtgaagataatatttttaaaatttctctaatttgttttgttttgcagGCTATAGGTTCCAGGCTTGCTGTAATTACCCAGAATATAGCAAATCTTGGGACAGGAATAATTATATCCTTCATCTATGGTTGGCAACTAACACTGTTACTCTTAGCAATTGTACCCATCATTGCAATAGCAGGAGTTGTTGAAATGAAAATGTTGTCTGGACAAGCACTGAAAGATAAGAAAGAACTAGAAGGT(T)CTGGGAAGgtgagtcaaactaaatatgattgattaattaagtagagtaaagtattctaatcagtgttattttgttactccctactgcttactatgctctaagaatgtgtttataaccattcctcaaagcaatctttttcatgcttattcagtaaattagaaacttacagaaagtagcaaagccagttcttggactcaaaaactgataattaactttaacagactttttcagttttcaggccattgtcttcacactgttcttccttcctccccactttcctccttcccttagttattttcttctttctt
【実施例】
【0046】
シークエンスプライマー
F1:TCTTAGCAATTGTACCCATCATTG (配列番号5)
R1:gtccaagaactggctttgct (配列番号6)
F2:TGTTGTCTGGACAAGCACTGA (配列番号7)
R2:aaaagattgctttgaggaatgg (配列番号8)
【実施例】
【0047】
具体的には、定法で分取したゲノムDNAをF1及びR1プライマーで増幅後シーケンサーを用いて直接配列を読み取る。あるいは、F1及びR1プライマーで増幅後、さらにF2及びR2プライマーで更に増幅する。その後シーケンサーを用いて直接配列を読み取る。
【実施例】
【0048】
実施例1:エルロチニブ(150mg/日)の投与後のエルロチニブの1日目の血漿濃度(図1)
本研究に登録され150mgのエルロチニブ錠を経口投与されたday1のエルロチニブ血中濃度推移を示す(図1)。血中濃度はHPLCにて測定した。青のラインはグレード0および1,黄色はグレード2,3の副作用を投与後に発生した患者の血中濃度である。ポイントは平均±標準誤差であり、注目すべきは赤字で示された最も血中濃度が高い患者がILD急性肺障害を引き起こした点である。
【実施例】
【0049】
実施例2:ABCB1の遺伝子型とエルロチニブの血中濃度との相関(図2)
エルロチニブ投与後2週間以降で血中濃度が定常状態に達したと考えられるため、その時のトラフ濃度(最低血中濃度)をABCB1の1236C>T, 2677G>T/A, 3435C>Tの遺伝多型の結果に分けてプロットした(図2)。血中濃度測定は前述したようにHPLCにて実施した。遺伝子解析はTaqMan assayおよびdirect sequence法で実施した。
この結果により単独でSNPを評価した場合においてもTT allele群の濃度が高い傾向が認められた。
【実施例】
【0050】
実施例3:ABCB1 1236/2677/3435 ハプロタイプの患者におけるエルロチニブ(150mg/日)の投与後のエルロチニブの1日目の血漿濃度(図3)
本研究に登録され150mgのエルロチニブ錠を経口投与されたday1のエルロチニブ血中濃度推移をABCB1の1236/2677/3435の haplotypeであるTTTとその他のグループに分けた結果をしめす(図3)。TTT haplotypeではエルロチニブの血中濃度が上昇する傾向が認められた。
【実施例】
【0051】
実施例4:Kaplan-Meier曲線(エルロチニブの投与後のGrade 2毒性とABCB1 1236/2677/3435ハプロタイプ)(図4)
グレード2,3以上の副作用(皮膚障害)が発生するまでの日数をABCB1の1236 2677 3435のhaplotypeに分けて示す(図4)。赤で示したTTT群は5例中5例副作用が発生し、その50%発生日数は4日であった。青で示したT allele を持たない症例は3例であるが、観察期間においても副作用の発生は認められなかった。黄色で示したT alleleを少なくとも一つ含む症例は18例有り、13例が副作用を発生した。その50%発生日数は10日であった。遺伝子解析方法は前述した。
【実施例】
【0052】
(実施例のまとめ)
血中濃度と毒性の関係を評価すると確かに急性肺障害(ILD)を発生した症例では非常に高いため、毒性の予測も可能と推定されるが、皮膚障害であるskin rashを予測するには差が小さく、最高血中濃度で有意差が認められている。しかしながら、最高血中濃度を測定するには頻回の採血が必須であり、実地医療では困難と推定される。また、トラフ(24時間後)の血中濃度は投与開始初日においてほぼ同程度であり、副作用の予測は困難と考えられる。一方、遺伝子解析は1回の採血で必要な情報が把握できるだけでなく、治療開始前に診断が可能であり、臨床的に有用性が高いと考えられる。
ABCB1のSNPsのハプロタイプである1236-2677-3435は強力に関連すると言われている。特に、それぞれの対立遺伝子alleleに全てTTが入る場合が最も血中濃度が高くなる(図3を参照)。
【実施例】
【0053】
また、それぞれのABCB1のgenotypeに従った定常状態(投与開始2週以降)のトラフ値との関連を 図2に示すが、トラフ値を見る限りTT群の方に血中濃度が高いことが示されている。この結果はTTを持つ場合ABCB1の機能が低下すると考えられるため、消化管および肝臓のABCB1遺伝子、すなわちP-glycoproteinの機能が低下するため、消化管からのエルロチニブの吸収が増大し、血中濃度の上昇と副作用の皮膚障害が発生したものと推定される。この結果は、 図4に示すように、TT群(患者比率20%)が明らかに副作用の発生がハイリスク(投与開始後1週間以内に全例グレード2以上発生)であり、T alleleを全く含まない患者群(wild type、患者比率10%)では副作用は投与後1ヶ月以内に発生が認められず、観察期間でも認められなかった。一方その中間である少なくとも一つT alleleが含まれる場合(患者比率70%)、それらの中間でありグレード2以上の副作用発生率も70%であった。
【実施例】
【0054】
上記結果から、発明された点は、AGCB1 1236C>T, 2677C>T/A, 3435C>Tの遺伝多型はエルロチニブの血中濃度と毒性をダイレクトに予測する指標であり、毒性と効果が関連するといわれているため、臨床的な効果を予測する可能性がある。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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